シナリオ詳細
大好きなあなた達に、ようこそ竜宮への言葉を!
オープニング
●めでたし、めでたし
「みんなー! シャンパンは持ったー!?」
マール・ディーネー(p3n000281)がマイク片手に声をあげる。ふわんふわんと響くのは、スピーカーで増幅されたマールの声だ。
それは、その日、竜宮のいたるところに通信されて、響いていた。
例えば――『中央通り』。ここには『ドラゴンズ・ドリーム』のような大型カジノや『海底に輝く満月(ディープシー・フルムーン)』、『真珠と珊瑚(パール・コーラル)』と言った『紳士淑女の社交場』が立ち並ぶメインストリートだ。
通りのあちこちには、様々な放送のためのスピーカーが設置されているわけだが、多くの店で、竜宮嬢や竜宮男子たちがグラスを片手に、スピーカーを見上げている。
マールと、そしてあなた達がいるのは、『CLUB RYUGU』。その店舗からの特別中継が、前述したとおりに街のあちこちに届いている。あなたも、きっとグラスを片手にしているだろう。それが本当にシャンパンか、或いは炭酸飲料なのかは、あなたの年齢や嗜好に合わせたまま。
「えっと、乾杯の音頭は、メーアからしてもらいます!」
そう言って、マールがにこにこと笑って、マイクをメーア・ディーネー(p3n000282)へと渡した。
何を言うべきだろうか、と一瞬、メーアは逡巡する。迷惑をかけたことを謝るべきか。戦いの労いだろうか。いや、でもその前に。妹として、一番言いたいことが、彼女にはあった。
「おねえちゃんを助けてくれて……本当にありがとうございます!」
「ええっ!?」
マールが目を丸くして、頬を染める。
「予定と違うよ、こう、かっこいい事をいうんだよ! 戦いありがとう~とか、そういうの!」
「ふふ、もう、皆もわかってると思いますよ」
メーアが笑うのへ、あなたも微笑んで見せた。マールだけが、きょとんとしている。
「マールちゃん、無事に帰ってきてよかった~~!!」
ペルルがそう言った。
「そうそう、後から知ったんだよねぇ。思い出を代償に~、とか、そんなシリアスなこと!」
キュールが少しだけ不機嫌そうに声をあげる。
「気づいていないのはオマエだけだろうな」
ふふ、とジェラルドが笑う。
「もう、マールって、たまに察しが悪いのよねぇ」
フリュがため息を吐いた。
「マールちゃん、鈍感って奴だ!」
ロロミアがくすくすと笑う。
「これは――『おねえちゃん、無事に戻ってこれてよかったね&ローレットの皆さんありがとう会』なんですよ」
メーアがそういうのへ、マールがまた、目をまん丸にした。
「えぇ!? 聞いてない!!」
「そりゃ言ってないからな」
ポーリィがけらけらと笑った。
「ま、アタシたちも大変だったけど、マールに比べたらねぇ」
くすくすと真那伽が笑った。
「労ってあげないと、という事だよ」
アルマダが微笑む。
「それでは、皆さん。乾杯ですよ~!」
メーアが笑った。マールだけが、きょろきょろと、あわあわと、慌てている。
「おねえちゃんと、ローレットの皆さんに!」
『乾杯!』
かちん、とグラスが鳴る音がする。町中から。あちこちから。
『ケルネ通り』と『裏通り』――ここは飲食店や商店、バッティングセンターやゲーセンなんかがある――では、様々な飲食店で酒と料理が飛び交っている。テルノのごはんやは、今日も大繁盛だろう。
『マイスター通り』――少しばかりマニアックなお店が立ち並び、どちらかと言えば中央通りよりおとなしめこの辺りのエリアも、今は喝采に沸いている。
『遠野儀寺』――竜宮の魂の弔いの場所は今も静かであったけど、アリカはくすりと微笑んで、スピーカーから流れる歓声に身を任せた。
「それと、今日はスペシャルゲストのお二人もいらっしゃってますよ~!
豊穣の双子巫女・つづりさんとそそぎさんです~!」
メーアがそういうと、ぺんてんとめんてんにつれられて、つづりとそそぎがおずおずとした様子でやってきた。大勢の人々の視線を向けられて、二人ともおっかなびっくりと言った様子だ。
「ご存じの通り、わたし不在の間、竜宮の結界をはってくださって……今は、わたしの力も合わさって、より強固な結界を築くことができました。
きっと、これから先……乙姫の役割が消えたとしても、この街をこの姿のまま残してくれる。そんな素敵な結末をもたらしてくれたお二人に、どうか拍手を!」
メーアの言葉に、拍手喝さい、口笛すら響き渡る。つづりとそそぎはあわあわとした様子で、皆の喝采を受け取っていた。
「えっとえっと! 今日は竜宮全体、貸し切りだからね!」
ようやく復活したマールが声をあげる。
「どこに行っても、何をしても自由――食べて飲んで騒いで遊んで! 今日は楽しく過ごそう!」
マールの言葉に、わぁ、と歓声が響き渡った。
深海の都市に、今日はひときわ輝く明かりがともっていた。
深海に輝く光は、夜空の星々にも、月にも負けないくらいに、明るく、明るく、深海という夜空を照らしている。
今宵――英雄たちを迎える竜宮は、史上最高の笑顔であふれているのであった――。
- 大好きなあなた達に、ようこそ竜宮への言葉を!完了
- GM名洗井落雲
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2022年11月24日 22時25分
- 参加人数46/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 46 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(46人)
サポートNPC一覧(4人)
リプレイ
●竜宮のメイン・ストリート
さて、いつも賑やかな竜宮の都だが、今日は特にそれが顕著だ。メインストリートである『中央通り』や、少しマニアックなお店のある『マイスター通り』などはいつも以上に盛り上がっている。
メイン会場となっていたのは『CLUB RYUGU』だ。いわゆる大人の社交場風の店内には、シャンパングラスで作られたタワーとか、たくさんのお酒、そして食べ物が所狭しと並んでいる。そこには竜宮嬢や竜宮男子、イレギュラーズ達を始めとする外からのお客さん達も居て、ともに今回の戦いが無事終わったことの喜びを告げていた。
「力になれてよかった」
そう言ってサイズが、ふかふかの椅子に腰かけている。並べた工具類は、突貫工事で街のあちこちを『直した』証だ。もちろん、竜宮も先の戦いに巻き込まれたから、多少の損害は出ていた。そんな損害か所を治す一団に、サイズは力を貸していたのだ。
「うん! サイズさんのおかげですっごく早く直ったみたい!」
マールがにこにこと笑いながら、サイズに飲み物を注いであげた。まずはよく冷えたノンアルコールドリンクからだ。
「ありがとう……なんか俺、戦いがあるごとに復興作業している気がするなぁ」
苦笑するが、それも一つの戦いであるのかもしれない。近くでは、ノアがお客さんをもてなしている。イレギュラーズ達は本来はもてなされる側ではあるのだが、それはそれとして、手伝ってくれるのなら大助かり。というか、一緒にお仕事をするのは、竜宮の皆にとっても楽しいものだ。
「あっ、そこのお兄さん、一緒に一杯いかが……?」
そう言って、豊満なバストをさりげなく押し付けてみる。基本戦術である。お兄さんはメロメロになって、こくこくと頷いている。シレンツィオからの観光客だろうか?
「ふふふ、じゃあ、こっちの席へどうぞ?
それとも……個室、あいてるけど。どうする? いっぱい、出しちゃう?」
そういわれれば、なんだか個室に行ってしまうのは男のサガであろうか。まぁ、個室って言うかただのカラオケルームなのだが。いっぱい出すのは声なのだが。
「うう、というか、みんなすごいよぉ……」
リリーも流石に苦笑顔だ。というのも、愛しい人への『誘惑のしかた』なんかを学ぼうと、竜宮嬢に教えを乞うたわけだが、しかしリリーにとっては彼女たちの『誘惑』はレベルが高すぎる……というか、リリーへの距離感もバグってるので、妙にドキドキしてしまう。
「ふふ、そんなことないわよぉ? ほらほら、あーんして、ね?」
などとバニーのお姉さんに、可愛がられるリリー。
「……なんか、逆にリリーが誘惑されてるような……気のせい?
まぁいっか……頑張ったしたまには息抜きもいいよね……?
うん、良い事にしよっか!」
と、ぱくっ、とおつまみをいただくリリー。果たして勉強になったかは不明だが、楽しめたようである。
誘惑されていると言えば、虚もそうだ。両側にバニーさん達を侍らせて、膝の上にも座らせて、幸せそうに微笑んでいる。
「虚さんもお疲れ様~♪ ほらほら、ゆっくり休んでね♡」
と、両サイドからぎゅーっと、柔らかいものを押し付けられては、さすがに健全な男子はドキドキしないわけがあるまい。
「あ、あ、ありがとうございます……!」
なんか思わずお礼を言ってしまう虚に、ぽんぽんとバニーさんが膝を叩いた。
「あ、膝枕してあげよっか~?」
にこにこと笑うバニーさんに、虚はぶんぶんと頷いた。倒れ込んだ。すやすやと寝た――。
「ああ……一仕事終えた甲斐があるというものですね……」
バルガルが深く息を吐いた。わずかに呼気にアルコールの香りがする。泥酔したわけではないが、ほどほどの『酔い』が、バルガルの気持ちをさらに高めていた。
それ以前に! 周りがバニーさんだらけなのだ! バルガルにとってみればもう天国のようなものである! 誰にとっても天国だな!
「どうですか、竜宮では普段はどのような楽しみがあるのです?」
バルガルが尋ねるのへ、バニーさんは頷いた。
「んー、そうね。やっぱ裏通りの方とかで皆遊んでるかなー。バルガルさんも一緒に行く? バッティングセンターとか得意そう!」
「おや、アフターに誘って抱けるとは。嬉しいものですね」
ふふ、とバルガルは思わず微笑む。竜宮の人々は距離間の詰め方は独特だが、それは、心から仲良くなりたいと思ってくれていることの証左でもあるのだろう、と思う。
さて、バニーさんと言えば、エルシアとルシアもバニーさんの格好をしていた。隣には、ルシアの友達でもあるロロミアの姿もある。
「ルシアさん……確かに私は『遊ぶのに適した服がない』とは申しました……でもそれってほら、社交辞令的な断り方で……ほんとに服をプレゼントする方がいますか? しかも、バニーさんの格好って! しかもなぜか接客に回っていますし!」
「よ、よく似合ってるのでして!
これなら、そう! ここで遊んでいても違和感の無い服装じゃないのですよー?」
つんつん、とルシアがロロミアを肘でつついた。
「まずいのですよ! 何というかすっごい燃えてるのでして!」
「ほ、ほら……選んだのはキミだからさ、アタシは無関係ですしー?」
「過去の反省用のから選ぼうって言ったのはそっちでして!」
「でもいいねって言いながら真っ先に一番危ないの選んだのは――」
「ふっ……まぁ、いいでしょう」
エルシアが頷いた。
「成る程、恋愛に臆病になる位なら最初からお嫁に行けない格好をして未練を断ち切っておけと仰いたい訳ですね!」
なら私も腹を括って、出来得る限りお客様を誘惑して接客して愉しませて差し上げます!」
「な、なんか勝手に納得してる!」
「あ、ある意味好都合でして! で、でも危なくなったらずどーんで止めましてー!」
まぁ、なんだかんだ楽しそうなようである――。
さて、そんな店内では、双子巫女の つづり と そそぎ が、少しだけ気恥ずかしそうにジュースを手にしていた。そんな二人をもてなすのは、バニーさんと、
「つづり! そそぎ! お勤めご苦労さま!」
風牙だ。
『あ、ありがとう……』
おずおずと二人が異口同音にそういうのへ、風牙は満足げにうんうんと頷いた。
「結界の強化、立派に務めたな! 大したもんだ! すごい! えらい! 素敵!
つづりは災難だったな。でも無事でよかった! お前には何の落ち度もない。あんま気にすんなよ!
そそぎは今回のMVPだ! つづり不在の穴を、しっかり埋めて仕事を全うしたな。立派だった! な、つづりもそう思うよな!
お前ら二人の立派な姿を見れて、オレは、オレは……うっ、 うぅぅぅぅぅっ」
一息でそういう風牙。百面相のように表情を変えて告げる風牙に、双子巫女も思わず嬉しいような、困ったような、そんな表情をした。気持ちは受け取っているのだ……でも、ちょっと大げさな気もする……?
「あ、風牙さん、焼肉屋さんの予約取れてるから、行ってらっしゃいね~」
バニーさんがそういうのへ、風牙は「おっ、ありがとう!」と声をかける。
「じゃあ、少し休んだら、焼肉食べに行こう! こないだ一緒に街を見回ったときに見つけた焼肉の店だ!
色んな土産話を、豊穣に持って帰ろうな!」
そういう風牙に、双子巫女は笑顔で頷いて返した――。
「マール殿が無事だった事を祝して! かんぱーい!
めでたい事は何度乾杯してもヨシ!
みんな無事でいっぱいよかった! かんぱーい!」
マールを肩車して、百合子がそう言って笑う。肩の上では、マールが楽し気に笑いながら、皆に手を振っていた。
「百合子さんも、無事でよかった。ちょっと思い詰めてたみたいだから」
マールがぴょん、と飛び降りて、そう言って笑う。百合子は頷いて、少しだけ声を小さくした。
「マール殿。
ほんとはあの戦いの中、マール殿の苦しみを一緒に背負うならどうしたらいいかなって考えて居たのだ。
でも本当に必要なのはマール殿とどうやったら幸せになれるかって事で……。
似てるようで全然違うし、マール殿の願いをきちんと背負えてなかった。
だからごめん!」
「そ、そんな! ほら、あたしだって、皆に心配かけちゃったみたいだし! それこそごめんね、だよ!」
ぺこぺこと、お互いに頭を下げ合う様子は、本人たちは真剣でも、どこか微笑ましい。
「吾はこれからもっともっと欲張りになる!
大好きな人と不幸になるよりも、幸せになった方がずっといいってマール殿が見せてくれたから!」
「うん! 百合子さんが幸せだと、あたしも嬉しいからね!」
そう言って、二人は笑った。お互いの約束の通りに。
「おっと、割り込むようですまないが、俺もいいか?」
そう言って、トキノエがホタロウと共に声をかける。
「本当に、無事に戻ってきて何よりだ……アンタも、アンタの妹もな。
乾杯の前の挨拶もよかったぜ? こいつなんかマールの嬢ちゃんの声聞いてちょっと泣いてたし」
そう言ってホタロウを指さしてみれば、まだ涙ぐんでいる彼の姿があった。
「いやぁ、だってですよ、トキノエのアニキ! 確かに、忘れられても推し続けるって気持ちは本当でさぁ。
そうは言ったって、辛くはないってのも嘘なんです……それが全部無事に、元に戻ったってならぁ……うおおおお……」
ぐい、と涙をふくホタロウに、マールは、
「うう、ホタロウさんもごめんね……」
「いいんです! マールちゃんは! 終わりよければ全部よし!」
「そうそう! マールも無事でよかった!」
ペルルがブレンダの腕を組んでやってくる。
「ねね、マール! ブレンダ連れてきたよ! ほらほら~」
ブレンダはわずかに気恥ずかしそうにしながら、
「おかえり、マール殿。貴女にまた逢えて私は嬉しい」
「えへへ、あたしも! ブレンダさんのこと、ペルルからちょっと聞いてたんだよね~。あの時は……ちょっと慌ててて、ちゃんとお話しできなくてごめんだったけど。あの時、すっごくかっこよかったよ!」
「でしょでしょ! ブレンダ超カッコいいの! まじやばじゃない!?」
「わかる~!」
女の子二人がきゃいきゃいと言っているのに、ブレンダは気恥ずかし気に困ったような顔をして見せた。ペルルもマールも、あの時は戦いのさなかにいて、今のような姿を見せてはくれなかったが。今のような無邪気な姿が、本来のそれなのだと思えば、自分もこの楽し気な笑顔を守った一人なのだが、ブレンダも喜ばしい気持ちになる。
「えー! マールマール、私のアルテミアも見てよ~!」
と、冗談めかして言うのはメルルだ。その隣には、竜宮嬢……じゃない、アルテミアがいて、アルテミアもバニー姿を披露している。メルルに着せられたのだ。
「あ、メルル! アルテミアさん!」
マールが笑う。
「もしかして、またアルテミアさんに衣装着せたの?」
「そそ! で、また新しいの着てもらう予定!」
「え、そんなの聞いてないんだけど……?」
アルテミアは困惑しつつ、咳払い。
「それよりメーアさん、マールさん! 二人が無事で本当に良かったわ!
片割れを喪う悲しみはとても辛いからね……。
これから竜宮の復興や事後処理で大変かもしれないけれど、また何か助力が必要なら遠慮なく言ってね?」
「ありがとうございます」
メーアがゆっくりと頭を下げた。
「でも、今度は友達として……竜宮で楽しめるような、そんなときに遊びに来てもらいたいです」
メーアが微笑む。アルテミアも頷いた。きっと、交流の時はまだまだ続くだろう。その時には。
「で、アルテミアさん、新しい衣装きてくれないの?」
上目遣いで、うるうるとマールが言う。メルルもおもしろがって、同じポーズをして見せた。
「わ、分かったわよっ!
メルルさん、カード! カードで負けたら着るから!」
ちょろかった。多分負けるだろう。
「色々とありましたが、またマール様が皆様と一緒に笑いあえるようになって、本当に良かったです」
雨紅がそういうのへ、マールは笑って頷いた。
「うん! えへへ、皆が楽しそうで、ほんとよかった!」
雨紅が頷いた。やっぱり、マールには笑顔が似合うな、と、そう思った。
「……さて、私のそういうのはここまでにしまして。せっかく宴を開催してくださったのですから、私も盛り上げるために一肌脱ぎますね!」
雨紅が微笑む。すでにバニーな衣装に身を包んでいた雨紅が、お店の中央、ステージにゆっくりとあがってみせた。軽快なBGMが鳴り響くと同時に、雨紅がポールを使って踊りを披露する。しなやかな体を駆使したダンス。普段の雨紅の舞とは違う踊りは、しかし見る者を魅了する力を存分に持っていた。
「願わくば、皆が笑顔でありますよう」
そう呟く。その願いは、間違いなくこの瞬間にかなっていただろう。
「マールさん、メーアさん、良かったら、接客を教えてほしいのだけれど……」
ココロがそういうのへ、
「良いですよ。と言っても、そういうのはマールの方が得意ですよね?」
メーアが微笑む。マールは不思議そうな顔をしながら、
「んー、仲良くしよ~! って思って、そうすると良いよ?」
「ああ、これは天才の発想なのね……」
ココロは思わず苦笑する。
「うーん、じゃあ、一緒に皆の所にいこっか! 一緒にお話したら、きっと分かるよ!」
そう言って、マールはココロの手を握った。
「そうですね。実践あるのみです」
メーアも、ココロの手を握った。
『行こう!』
二人はそう言って、ココロを引っ張る。ココロは少しだけびっくりしてから、微笑んだ。
「で、しーちゃん。性癖って何だったの?」
そう言ってくすくすと笑う。大通りを歩きながら、睦月と史之が歩いていた。マールとメーアに挨拶を済ませて、話題になったのは、『マールにバレたという性癖』の話。
「いや、それは……その。
秘密」
わずかに頬を染めながらそういうのへ、睦月が笑う。
「え、聞いちゃダメなの、しーちゃん。なんで?」
「もう! 分かってて聞いてる!?」
史之がそういうのへ、睦月が、ふふ、と微笑んで見せた。
「さぁ~? 分からないよ~?
……ふふ、いじめるのはこれくらいにしとくね。
さ、どこに行こうか? 色々あるみたいだし、楽しめそうだね」
こほん、と史之は咳払い。
「そうだね。カジノなんかいいんじゃないかな……?」
そう言って視線を向ける。カジノ、ドラゴンズ・ドリームには、ヨゾラとポーリィの姿があった。
「そういや、外には猫ってたくさんいるのか?」
ポーリィが尋ねるのへ、ヨゾラは猫のリュッツを抱きしめながら、頷いて見せた。
「うん! そう言えば、交流も始めたんだよね。シレンツィオに行ってみたら?」
「あ、それいいと思うよ~」
ヨゾラに誘われて、顔を出したマールとメーア。マールがそういう。
「あたしも、今回の事件で初めて外に出てみたけど、すっごいの! えーと、竜宮もにぎやかだけど、それ以上って感じ!」
「竜宮の使命も、もう終わりですから。ポーリィさんも、御休みの時などは外に出てもいいと思いますよ」
メーアが言うのへ、ポーリィは頷いた。
「そっか。じゃ、リュッツと一緒に、リュッツの友達になれそうな子を探すのもいいかもな。
ヨゾラ、手伝ってくれるだろ?」
その言葉に、ヨゾラは頷いた。
「その時は、皆で行きたい……けど、どうかな?」
「いいよ~! 皆で遊びに行こうね!」
マールがそう言って、笑いかけてくれた。
「で、めでたしめでたし、か」
マイスター通り、『ジャルムピース』で、キドーはそう言った。
「なーんか、長いような短いような。怒涛の時期だった気がするっす。まさかこんな大事になるとは」
サラバンドが苦笑する。
「お前さんはそうだろうさ。ってか、俺だってびっくりだよ! 起業したすぐに会社どころか本拠地も派遣先も消滅の危機だ!」
大げさに肩をすくめてみせるキドーに、サラバンドは笑ってみせた。
「ま、でもおかげで諸々ハッピーエンド、って奴っすよ。これからもあーしらをごひいきに、っす。キドーさん?」
「そいつぁもちろんだ。今日からここは派遣会社ルンペルシュティルツキン御用達だ!
この広さじゃあスタッフ全員は収まりきらねェだろうからな。何度でも何人でもしつこく連れて来てやるよ。
でも今日は俺ひとりだ
注文はいつもの水割り。俺好みの濃さで」
「はいはい、お任せっす」
サラバンドは笑って返して見せた。
そんな竜宮の街を、人々を、多次元世界 観測端末は観測する。頭に土産物屋で売っていた、レプリカのうさ耳をつけて。
人が笑っている。多くの人々が。あの事件で失われるかもしれなかった笑顔は、未だ此処に在る。
「ソコニイカナ結末ガアロウトモ、当端末ハダダ観測スルノミデアル」
だが、その観測すべき未来を守ったのは……間違いなく、ローレットの仲間達であるのだった。
●戻ってきた日常
さて、『ケルネ通り』と『裏通り』。竜宮でも生活感の溢れたこの通りも、今日はお祭り騒ぎの様相を呈していた。
例えば……此処、『テルノのごはんや』と名付けられた大衆食堂も、今日はひっきりなしにお客さんがやってくる。リディアも、その一人だ。
「あ! リディアさん! お久しぶりです!」
ウェイトレスバニーのクエンタが言う。
「おひさしぶりです。今日はテルノさんの手料理を食べさせてもらおうと思って来ちゃいました。それと……」
おずおずと、リディアが言う。
「えっと、竜宮チャーハンの作り方を、教えて欲しくて……。
作ってあげたい人がいるんです。私の作った料理を食べて喜んでもらいたいから。胃袋掴んでその人に振り向いてもらいたいから。不純な動機かもしれないけど……」
「あはは、料理って言うのは、人の心を動かすものだもの、そういう気持でもいいと思うわ!」
テルノが言った。
「少し待っててね? クエンタ、休憩の看板出してきて? 恋する乙女の特訓だもの、何よりも優先されなきゃ!」
「はーい、任せてください! リディアさん、テルノさんはああ見えてスパルタだから、頑張ってくださいね~?」
くすくすと笑うクエンタに、リディアは顔を赤らめて、頷いた。
そんな店の外の通りには、多くの屋台が並んでいた。そこに目を向けてみれば、ニルが瞳をキラキラさせて、屋台を覗いている姿を見ることができただろう。
「これは、お魚さん、なのですか?」
「そうだよ~。やっぱり竜宮に来たなら、深海の魚を食べて欲しいね~。
見た目はちょっと怖いけど、味は美味しいよ~」
そういう屋台のお姉さんに促されて、串焼きのお肉をぱくりとたべてみる。
ニルには、おいしい、という気持ちはわからない。けど、屋台のお姉さんも、その串焼きを買って食べているお客さんたちも、嬉しそうににこにこ笑っている。
だから、きっとこれは、おいしいなんだ、と、わかった気がした。
「うん……おいしい、のです」
皆がにこにこして、暖かな場所。それがニルにとっての、『おいしい』なのだ。
「ふんふん、良い匂いが漂っておるなぁ」
ニャンタルもまた、そんな通りを行く。あちこちの屋台と、定食屋。他の通りとは違う、下町のような雰囲気のそこ。
「こういう場所こそ、その地ならではのものが食べられたりするものじゃな~!
というわけで、今回は竜宮チャーハンを食べに来た! 喫茶店でコーヒーを飲んで、少し休憩。丁度よいチャーハン腹になった!」
がらり、とお店に入ってみれば、そこはいわゆる中華料理屋のお店だ。竜宮チャーハンと、竜宮ラーメン。名物らしい。外に書いてあった。
「ラーメンとチャーハンを頼むぞ~!」
元気よくそう言えば、店主の竜宮男子がさわやかに頷いてくれる。カウンター席に座ると、もうとっても良い香りがあちこちから漂ってきて、ニャンタルは満面の笑みを浮かべた。
「これは待ちきれんな~! 歌でも歌ってしまいそうじゃ!」
一方、通りに戻ってみれば、屋台でタピオカミルクティーを買っている、マールとメーア、そして蜜葉の姿があった。
「えっと……これ、タピオカミルクティー、だよね?」
尋ねる蜜葉に、マールは頷いた。
「うんうん! なんか、伝説の飲み物なんだって。竜宮に、今の文化を伝えてくれたウォーカーの人が教えてくれたんだって」
「旅人さんの文化ですから、蜜葉さんの世界にもあるかもしれませんけれど……」
メーアがそういうのへ、蜜葉は頷いて見せた。奇妙なことに、元の世界で飲んだことのある、ミルクティーの味がした。
「……異世界で日本の流行に出会うのも、不思議だなぁ」
「そうなんだ。なんか親近感がわくね。蜜葉さんとちゃんとお話したことなかったから、今日はゆっくり話そ!」
「そうですね。よかったら、にほん、という所のことも教えてくださいね」
そういう二人へ、蜜葉は頷いた。
「もちろん。あ、それから、改めて。
"初めまして"、問夜・蜜葉だよ。よろしくね」
そんな通りには、祝音と銀路の姿がある。
「凄いな……海の底に、こんな場所があったのか」
銀路がそういうのへ、祝音は頷いた。
「うん……不思議な場所、だよね」
空を見上げてみれば、深い深海の色があって、ここが海の底なのだという事を改めて感じさせる。結界によって外とそん色なく暮らせるわけだが、それでも、不思議だ。
「ところで……タコ焼きとか、たべてみたい。みゃー。
屋台に、ないかなぁ……?」
「タコ、か。ここ、なんか日本っぽいんだよな。探してみようぜ。きっとあるはずだ」
銀路がそう言って笑うのへ、祝音は頷いた。探してみればあるもので、持ち帰りのタコ焼き屋台はすんなりと見つかった。買ってみて、近くのベンチでほおばる。
「海の底で食べるタコ焼きってのも、変な感じだ」
銀路がそう言って苦笑するのへ、祝音もくすくすと笑ってみせた。
「そうだ、お土産も、買って行こう?
あっちに、小物の屋台があったよ。ペンダントがあって……似合うと思う。みゃー」
そういうのへ、
「そうだな。じゃ、食べ終わったら行くか」
銀路は頷いて、タコ焼きをほおばった。
さて、通りに視線を戻すと、
「マールさん!」
という声を、鏡禍が上げていた。その声にマールが振り向く。
「あ、鏡禍さんだ! やっほー! このあいだぶり!」
そういって、マールが笑ってみせる。
「その様子だと、本当に記憶が戻ったんですね……。
最初は忘れてしまったと聞いて、お会いしたのがお会いした内容だったので、ある意味良かったのかなって思ってしまったんですけど。
でも、やっぱり語られる妖怪の性質なのでしょうね、忘れられて苦しかったんです。
だから思い出してくれてよかった」
「うん。ほんとに、あの時はごめんね……ところで、そっちの子、なんだけど」
そう言って、マールの視線の先には、どこかむすっとしているルチアの姿があった。
「えっと、ルチアさん?」
「そう。紹介したいっていうのは……そういう仲の良さを見せつけたい、ということ?」
明確に不機嫌になるルチアに、鏡禍が頭を振る。
「いえ、そういうわけじゃなくて!」
「あ、そっか! 勘違いだよ! あたし、鏡禍さんとはこれっぽっちもそういう奴じゃなくて!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねるマールに、鏡禍は少し困ったような顔で、
「いや、なんかそこまで徹底的に否定されるのも、それはそれでなんか嫌ですね……!?」
「ふーん、そうなんだ……」
ルチアが頬を膨らませるのへ、鏡禍はわたわたと慌てた様子で、
「いいえ、私はぜんぜん、ちっとも気にしていないわよ。スタイルの良い女の子と貴方が仲良くしていても、ね?」
「ち、違うんですってば! 僕はルチアさんが一番なんですよ?」
「そうだよ! だってこの間の本」
マールが余計な事を言おうとしたので、
「それは秘密です!!」
鏡禍が慌てて止めるのを、ルチアはさらに頬を膨らませた。
「秘密。ふーん、仲いいのね」
「だから、そうじゃなくてぇ~!」
誤解を解くのに少々時間がかかったのは言うまでもない。
さておき、裏通りに行ってみれば、そこにはイルミナの姿がある。どこか再現性東京を思わせる町並みには、カラオケやバッティングセンターなどが設定されている。竜宮の人間たちの日常の憩いの場である。
「この辺、なんだか希望ヶ浜っぽい感じがするッスね……!
うわ、ファイナルファイター5!? ファイナルファイターの続編つくってるんッスか!?」
ゲーセンを覗いてみれば、希望ヶ浜ではシリーズが止まってしまったゲームの新作が出ていた。再現したのは旅人だというのだから、おそらくは希望ヶ浜のものと起源は同じかもしれない。が、ところ変われば生き残るゲームも変わるらしい。
「うわぁ、キャッチャーの景品も違う感じのものが多いッスね……これ知らないゲームッスよ!
うう、ゲーセンも気になるッスけど、ご飯の方も気になる……身体が三つは欲しい……!」
人類共通の悩みをシンギュラリティしつつ、イルミナは幸せな悲鳴を上げている。
一方、そんな裏通りを進むのは、シルトと詩織だ。
「僕は、記憶がないのと、覇竜に関する知識しかないので、ここの文化はとても新鮮に映ります」
そういうシルトが、あちらこちらに視線を移す。
「食べ物もそうでしたが、文化も……からおけ? 桶……のお店なのでしょうか?」
「私もわかりません……どうして、桶を売っているのでしょうね?
ばってぃんぐせんたー……バッティングというのは、どうも打ち出された球を、棒で打つ遊びのようです。
豊穣にも、似たような遊戯はありましたが……練習場なのでしょうか?」
詩織が不思議そうにそういうのへ、シルトもくすりと笑った。
「分からない事ばかりですね……僕たちは。
でも、それがとても楽しいと思います」
「ふふ、私もです。
そろそろ、お茶にしませんか? お金を入れると、ジュースが出てくるからくりがあるのです。
そこで買いましょう」
詩織の言葉に、シルトは頷いた。バッティングセンターの自販機でお茶をかって、ベンチに座る。かきーん、とボールが打ち飛ばされる音が響いて、なんだか不思議な音だな、と楽しい気分になる二人だった。
「というわけで、ここからは二次会だー!」
と、瑞希が声をあげると、皆が「おーっ!」と声をあげた。キッチン付きのレンタルルームには、イレギュラーズ達主催の二次会がひらかれていた。
「マールさん、メーアさん!
二人共、無事に帰ってきて良かった!
ボクは玖・瑞希。瑞希って呼んでくれると嬉しいな。
改めて、初めましての自己紹介。それから、今度こそ、ボクと友達になってくれると嬉しい!」
そう言って笑う瑞希に、マールはうんうんと元気よく頷いて、メーアはゆっくりと頷いて。
「もちろん! よろしくね!」
「よろしくおねがいしますね」
そう言って笑う。
「よーし、二人ともよろしく!!」
にっこり笑うと、瑞希は二人の手を握って、ぶんぶんと握手した。二人は楽しそうに、その手を振って返してくれた。
「よーし! スナズリウオのいいとこを回してもらったんでな! 唐揚げ、鍋、串焼き……何でも言ってくれよな!」
ゴリョウがぶははっ、と笑いながら、キッチンから顔を出す。
「やった! ゴリョウさんの料理だ! メーア、ゴリョウさん、お料理すっごく上手なの! テルノさんもびっくりのやつだよ!」
「えっ、そんなにおいしいんですか……?」
メーアが目をキラキラと輝かせる。ちょっと食いしん坊な所があったらしい。いや、或いはこれも、乙姫として抑えていた欲望なのかもしれない。
「おう! たくさんあるから、我慢せず食ってくれよな!」
「貴様! 彼の姫にはホイップクリームを提供すると約束した!」
オラボナが声をあげる。
「準備を怠ってはいまいな!?」
「お、おうよ! やってやらぁ! お前のホイップクリームはデザートだ!
肉アイスってのがあるんだ、そいつを楽しみにな!」
「ほいっぷくりーむ?」
メーアが小首をかしげた。
「うん。なんかよくわかんないけど、おいしいんだって!」
マールがにこにこ笑うのへ、オラボナが笑う。
「この約束だけは絶対に守らねばならない!
貴様が我々を、我々が貴様を護ったが如く!
Nyahahahahahaha!!!」
「おっけー! にゃははははー!」
マールも笑って返して見せた。
「ふふ、久しぶりだな、マールさん」
モカが笑う。
「マールさんが私のことを忘れてた時は寂しかったぞ。あなたが最初に会ったイレギュラーズのひとりなのに。
私の親友よ、もう二度と私のことを忘れさせないからな」
「うう、その節はほんとにごめんねだよー!!」
マールがモカに抱き着く。モカがマールの頭をぽんぽんと撫でた。
「あなたが、お姉ちゃんを最初に助けてくれた方のお一人なのですね」
メーアがそういう。
「メーア・ディーネーです。乙姫として……いいえ、妹として、お礼を申し上げます。お礼が遅くなり……」
「いや、堅苦しいのは抜きにしよう。はじめまして、モカ・ビアンキーニだ。改めてよろしく」
モカが手を差し出すのへ、メーアも手を握った。
「あ、僕もはじめまして! 山本 雄斗って言います!」
雄斗がそういうのへ、マールとメーアが頷いた。
「あ、決戦の時にいてくれたよね! えへへ、頼もしかったよ!」
「あの時は本当にごめんなさい……」
メーアが申し訳なさそうに言うのへ、
「だ、大丈夫だよ! うん。二人が無事でほんとに良かった!
それより、ゴリョウさんの料理食べよう!」
雰囲気を変えるように、雄斗はそういう。
「そうっすね。それに、マールさんもメーアさんも踏ん張ってくれたから、なんとかなったんすよ」
慧がそういうのへ、メーアは頭を振った。
「……でも、わたしが踏みとどまれたのは、あの時、色々な人に声をかけてもらえたから。インス島で、皆さんを裏切る形になってしまった時も……あの時、皆さんがいなければ、違う形で、わたしは決戦の場にいたかもしれません」
「でも、すんだことっす。
それから。急には難しいでしょうけどね。少しずつでも自分のやりたいことやっていくといいっすよ。俺らが手を貸すっすから」
慧がそういうのへ、真那伽も笑って頷いた。
「なんにせよ、こうやって騒げるようになってよかったわ!
あ、慧はそのうち『アレ』、ちゃんと果たしてよ?」
「……そのうち、ね!」
慧が目をそらした。
「え、なになに? 何の話?」
マールが楽しそうに尋ねるのへ、真那伽がけらけらと笑ってみせる。
「あ、ほら! Meerさんの歌が!」
そう言って慧が指さしてみれば、小さなステージの上で、Meerがその歌声を披露しているのが見えた。今回の料理は、ゴリョウの他に、Meerの隠れ宿のシェフの料理を運んでもらって提供してもらっている。
「はっはっは! あぁかぁしゅの宴でゴリョウ殿飯を食べて以来虜なのじゃが……ううん、ますます腕が上がっておるようじゃなぁ。それに、Meer殿の用意してくれた食事もたまらん!」
つづらがそういうのへ、ルトヴィリアが頷く。
「ええ、どちらも甲乙つけがたい……え、ほんとおいしい……どうなってるんですかこれ……」
一口ごとに瞳を輝かせる。ゴリョウの料理と、Meerの用意した料理。どちらも皆を存分に虜にしている様だ。
「そうじゃ、宴という事は、舞の一つも披露せねばな! ルトヴィリア殿も、ほれ、踊らんか! タダメシはよくないぞ!」
ぴょんぴょんと兎のように跳ねて踊る。
「ええ、あ、あたしもですかぁ……?」
場の雰囲気には逆らえず、ルトヴィリアも恥ずかしげにぴょんぴょんと飛んでみせた。
「メーアちゃん。これは答えづらかったら、いいのだけれど」
Meerが歌い終えて、こっそりと告げる。
「メーアちゃん達はまだ乙姫なのかな?
まだ乙姫じゃなきゃいけないのかな?」
その問いに、メーアは頭を振った。
「竜宮の結界も、つづりさんとそそぎさんの力でより強固になりましたから……乙姫という役目は、もうなくなると思います」
「そうか。本当に、色々おわったんだな」
ゴリョウがそう言った。
「なぁ、マールもメーアも頑張ったからこそ今がある。この結果を導き出せた。
俺らに感謝するのも良いが、自分自身もちゃんと、褒めてやんなよ?
ま、それに今後も世話になるし世話する気だしな! 今後ともよろしく頼むぜ!」
その言葉に、メーアはとても嬉しそうに、笑って返した。
「マールさん、メーアさん、写真、とりましょう?」
ユーフォニーがそういうので、マールが頷いた。
「うん! ほら、メーア、これ! aPhoneって言うんだって。すまほ? っていうんだよ! 写真がとれるの!」
マールがにこにこというのへ、メーアは不思議そうな顔をした。
「ふぇ……これで写真が……?」
「はい! 本当はこれ、電話……通信機なんです。でも、写真を撮る機能がついてるんです。
ほんとは、通信機にそんな機能、いらないですよね。
でも……こういう他愛ない時間もかけがえのない思い出。心に焼き付けた思い出を、より鮮明に蘇らせて彩るのが写真なのかなって。
そういう時のために、きっと、皆が持ってる通信機に、写真を撮る機能がついてるんだと思います」
「……素敵、ですね」
メーアがそう言って笑う。
「あ、ムサシさん! ムサシさんも一緒に写真撮ろ!」
マールがムサシを呼び出す。
「えっ、自分もでありますか!?」
「そうだよ~! いう事聞かないと、またルナリアさんと色々探しちゃうよ~?」
「それは勘弁してくださいッ!!」
ムサシが飛び込んでくる。マールはこそっと言った。
「ムサシさん、ありがとね……ユーフォニーさんも。でも、無茶しちゃだめだよ?」
「……ある人にその意志を貫け、と言ってもらえたから。
命を賭ける覚悟を決めた人が自分一人じゃないから。
何より……貴女が大事なものを賭けてでも頑張ることを選んだから、自分も……いや。自分達は貴女に強く答えようと戦えたんであります。
だから、これはみんなで勝ち取った、皆のプーロ・デセオなんでありますよ。
……というか! せっかくですから、皆でとりましょう!」
ムサシがそう言った。皆が、集まるのへ、ユーフォニーはオートシャッターを設定して、スマホをテーブルの上に置いた。ぱしゃり、とシャッターの下りる音がする――。
●静かな場所で
竜宮の外れ。静かなる庭園にも、イレギュラーズ達の姿はあった。
――この海では、フリーパレットみたいに未練を残して消えていった人達がいたのですよね。リコもそう……敵対したものも。私達の勝利は、すなわち敵の敗北でもあります。だからこそ、祈りましょう。敵の屍を糧に勝利したからこそ、喪われたものもあるはずだと思うから。
フルールは、深海の空を見上げながら、胸中で静かに祈った。すれ違った願い。相克の願い。或いはそれは、これからも続くものなのかもしれない……。
――願わくば、争いのない世界になってほしい。私はそうしたい。誰かがそれを否だと言っても、悲しいことが続くよりは良いと思うから。
それならば、いつか世界の敵になっても私は構わないでしょうね。
その想いを、今は誰も聞いていない。
寺の鐘の音が響く。その鐘の音を、縁はわずかに聞き入っていた。
思い出すのは、忘れるのが怖いと泣いていた、マールの顔。何度も。何度も。
数え切れないほどの縁に恵まれるように。そう願ってつけられた己の名。
とんだ名前負けだと持っていたけれど、気づけば多くの縁が、繋がっている。
「……そうだな。俺も、忘れちまうのが怖いぜ、――」
そう呟いた名が誰だったのかを、縁しか知らない。
レインは静かにたたずむ。それから魚肉を、ちぎって放ってみせた。不思議なもので、まるで海の中のように、その欠片は宙に漂っている。やがて、空にあがって、海の中に入るのだろうか。
「……体が残ってたら……底に沈めて、他の子達に弔って貰えるんだろうけど……。
命を落とした子が居たら……その子達の体の代わり……」
静かに呟く。空に昇っていく欠片は、命が昇天するようにも見えた。
「未来などないと貴方は言った。けど、それはどうしてそんな結末に至ったのですよ?
諦めた幸せを解とする程に……」
ブランシュが呟く。青の深海で邂逅した、姉妹に向けて。
「……ブランシュは博士が間違っていたとか、そういう風には思えません。データ上でしか知らない「前の事」を含めても、私達は魔種殲滅兵器。きっと誰かがやらねばならない物です。そう作られたんだから」
胸がざわざわとするような気持がする。その答えがわからない。何もわからない。まだ、今は。
それでも、それでも、伸ばした手に、何かが触れた気がした。
他の姉妹もまた、幸せを……人の在り方を見つけたのだろうか。人ならざるものとして生まれた身で。だが皮肉にも、エルフレームシリーズは世界に『人類』として認定されたともいえる……。
「……皆、幸せを見つけました。
ブランシュも幸せを、少しだけですが解を得ました。
他者の為に尽くし、平和に手を取り合える事こそが幸せの一歩。
その平和への道が血に染まろうとも、やらねばなりません。そう決めたから。
……地獄でまた会いましょう。我が姉妹」
沈んでいった姉妹の事を思い出した。もう本当に、二度と会えないけれど。忘れてはならないと思った。
一方、豊穣風の庭園に設置されていた椅子に座って、クロバとマールは静かに「海」を見上げていた。
「手紙で話した件、忘れてくれたか?」
そう言って、すぐにクロバは頭を振って、
「冗談だ」
「いじわる」
マールが口を尖らせた。
「でも……うーん、あたしも悪かったよね。それはほんとに……ああするしかなかったんだけど、でも」
「でもちょっと怒ってるからな。そうするしかなかった、とは言え実は気が気じゃなかったんだ。
……忘れられる事じゃない。君は忘れたとしても気丈にまた振る舞おうとするだろ。そうさせるのが嫌だったんだ」
そういうのへ、マールは困った顔をした。
「……気づかれないとか、黙ってそうできてればよかったのにね。やっぱりあたし、ダメダメだよね……」
「そんなことはないさ。言っただろ? 誰だって怖いんだ」
クロバがそういう。
「俺だって……ホントはかなり不安だったよ。
仲間を信頼していなかったとは言わないけど、本当にマールの大事なものを守れるのかって。
こんな弱気なのが勇者サマと呼ばれてるんだぜ?
まったく過ぎた称号だよ俺には……」
クロバはそう苦笑した。でも、マールは笑わなかったから、クロバは続けた。
「でも、願いは背負うものだと知ったからな。
君がヒーローと呼んでくれるのなら、俺はそれも背負う。
これも約束だ、しかも永年保証付きの」
そうやって、力強く頷いて見せた。
「ねぇ、あたしはヒーローにはなれない。あなたの背負ったものをあたしにも背負わせて、なんてかっこいい事言えない」
マールは言った。それは、先の戦いで突きつけられた、自分の限界ともいえた。
「でも……あたしはこの世界を生きていく。皆と……クロバさんと一緒に!
うん。それでね、自慢するんだから! あたしはヒーローのお友達なんだってね。
だから、上手く言えないんだけど……うー、こういう時に言葉が出ない! あたしもちゃんと本とか読んどけばよかったかな~!
とにかく、約束。また遊びに来て。また一緒に話して、ね?」
多分それが、つたないなりの、精一杯の彼女の言葉なのだろう。ただ、死なないでね、という言葉と、また会おうね、という約束の、それだけは確実に伝わった。だから、クロバは微笑んでいった。
「約束するさ。
そうそう、一つ言い忘れてた。
――よく頑張ったな、マール」
深海の空(うみ)は、暗くて重い。でも、竜宮には光と愛と、安らぎがあった。
ここは暖かくて、明るい。深海の、人々の住まう街。
皆の護った、皆の街だった。
●終幕
すっかり祭の熱が冷めて、でも、人々がどこかその余韻を心地よく体に感じている。そんな時間帯の頃――。
「はっ。世はすべてことも無しってか。俺も身体をはったんだから、その世ってのに感謝されてぇもんだ」
雄は酒瓶を煽って、路地裏でぶっ倒れた。竜宮の気温は心地よい。酒のほてりも眠気を加速する。
別に阻害されているわけではない。単に、性分なだけだ。働いた。報いた。だから酒をかっ喰らって、適当に独りで寝る。そんなもんだ、人生は。世はすべてことも無し。
「いたーーっ!」
きん、とした声が響いた。子供の声だ。
「げぇっ、がきんちょ!」
雄がめんどくさそうに声をあげる。路地裏に向かって声をあげていたのは、小さな少女、メーリュ。雄の奇妙な知人である。
「やっぱり! 今日はお祭りだからこうなるとおもった! 道で寝ちゃ、めーっ、って言ったでしょ!?」
「うっせーな、どこで寝ようと俺の勝ってだろうが~」
「めーっ! もう! ほら、お兄さん、たって! 公民館で寝るの~!」
「引っ張んなって! あーもう、わかったよ、うるせぇなぁ、もう……」
そう言って、少女に引っ張られながら、雄は路地を歩いていく。
世はすべてことも無し。
今日も世界は、あなたの活躍によって、平和なのだ。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
全員描写してあります。万が一抜けがありましたらご一報ください。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
決戦お疲れさまでした!
祝勝会は竜宮でお過ごしください!
●成功条件
竜宮を目いっぱい楽しみましょう
●プレイング書式
一行目:【向かう場所】(数字でご指定下さい)
二行目:【グループタグ】or同行者(ID) ※なしの場合は空行
三行目:自由記入
例:
【1】
【井さんぐるぐる回る】
ここが天国ですか。
●竜宮とは?
豊穣とシレンツィオ・リゾートの間、豊穣よりの海底に存在する、海種たちの隠れ里です。はるか昔に現れたあるウォーカーによって文化の礎が作られたことで非情に独特な価値観をもちます。
暗い海底でもよく見えるようにとネオンのような魔法灯が主に用いられ、民は接客を初めとするサービス業に非情に高い適性をもち、特に優れた女性たちは『竜宮嬢』と呼ばれ尊敬の対象となっています。
詳しくはこちらをどうぞ!
特設:https://rev1.reversion.jp/page/sirenzio#006
●登場NPCについて
マール・ディーネー(p3n000281)
メーア・ディーネー(p3n000282)
つづり(p3n000177)
そそぎ(p3n000178)
以上のNPCは滞在中です。
また、特例として、『竜宮に縁のある関係者』はすべて登場しても良い事とします。
●いける場所
【1】『中央通り』と『マイスター通り』
竜宮でも一番大きな通りの『中央通り』と、中央から外れた『マイスター通り』を舞台とできます。
中央通りは、例えば、新宿歌舞伎町のような『夜の街』を想像してみてください。ネオンサインの看板が輝き、多くのバニーガールさんやバニーボーイたちが、ひと時の『交流』を提供してくれます――ああ、勿論、全部健全です。
カジノである『ドラゴンズ・ドリーム』や、紳士の社交場『CLUB RYUGU』などが存在します。
マイスター通りは、中央通りよりは少しだけおとなしいですが、此方も賑やかなエリアです。ここでは少しばかりマニアックな――例えばメイド喫茶とか、地雷女子のコンカフェみたいな――お店が多く立ち並ぶエリアです。
カジノで遊んだり、バニーガールやバニーボーイさんと楽しくおしゃべりしたり。そう言ったことができるでしょう。二つの通りは、性質的に似通っているため、一つの舞台として扱っています。
【2】『ケルネ通り』と『裏通り』
竜宮でも、生活感にあふれたエリアです。下町商店街的な『ケルネ通り』と、バッティングセンターやゲーセン、カラオケなどがある『裏通り』を舞台に遊ぶことができます。
下町商店街であるケルネ通りでは、竜宮チャーハンなどの名物が楽しめる気軽な定食屋や喫茶店、ちょっとした買い食いができる屋台などが並んでいます。裏通りには、(何故か)バッティングセンターやゲーセン、カラオケなど、妙に近代的な遊び場があります。普段は私生活のバニーさん達が遊んでいる場所ですが、ここで過ごしてみるの良いでしょう。
【3】『遠野儀寺』
本来は、竜宮の、亡くなった人々を弔うための霊園とお寺、庭園の存在するエリアです。
ここは竜宮でも『静かな』場所で、落ち着いた場所になります。
お寺や、豊穣風の(和風)庭園が存在します。青い青い海(そら)のもと、お友達と静かに勝利の余韻に浸りたい……などという時にお勧めです。
以上となります。
それじゃあみなさん、かんぱーい!
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