シナリオ詳細
<Phantom Night2022>革命に、光を灯して<総軍鏖殺>
オープニング
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歯車大聖堂(ギアバジリカ)――
鉄帝国では観光名所として識られるようになったその場所は、元はと言えばある宗教団体と鉄帝国軍部が絡み合った未曾有の事件によって作り出されたものである。
宗教団体クラースナヤ・ズヴェズダーの聖女アナスタシアは『スキャンダル』により団体の結束に亀裂を走らせ、その後、その身を深き闇へと堕とした。
反転と呼ばれる事象。アナスタシアが酷く絶望していた事が察せられる。
正しく磔の聖女となった彼女はギアバジリカの動力部に取り込まれ、帝都へと進軍せんと迫ったのだ。
故、救済を。
故、革命を。
あの真白の恐怖がやってくる前に。全てを救わねばならないと『ドルイド』ブリギット・トール・ウォンブラングは云う。
クラースナヤ・ズヴェズダーは現在の主流を『革命派』と呼ばれる急進的な革命を押し進めんとする者達である。
穏健派と呼ばれ、帝政派と手を取り合い現状の改革を促す事を求めた者達はヴァルフォロメイ (p3n000289)を中心としているが発言力は弱い。
現状のクラースナヤ・ズヴェズダーが革命派と名乗り、一つの派閥として名を連ねられているのは『アラクラン』と呼ばれる軍人達の力添えあっての事だ。
「本当は皆で手を取り合いたいのです。アラクランの皆さんが力を貸してくれて……この恐ろしい現状を打破できれば。
けれど、理想の遂行は、悲願への邁進は――きっと誰かを侵すのでしょうね。
誰かが苦しみ、私達は救おうとした誰かにさえナイフを突きつけられる。切っ先が血に汚れる事は……避けられないのでしょう」
憂う『司祭』アミナは協力体制を整えようと考えたオースヴィーヴル領の地を思い憂いた。
「ううん、いけない。アミナ。皆さんが折角機運を高めようとイベントを提案してくれたのだから。
……あっ、こんにちは。ギュルヴィ。よくぞ来てくれました。今日は一緒に楽しみましょうね?」
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――時刻は遡る。
アルコールでギアバジリカを爆破しかけている『ある意味最も元気すぎて危険因子』な革命派で『祈りの先』 ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ (p3p001837)は告げる。
「避難して来て疲れているでしょうから、元気の出るイベントがあっても良いかも知れませんわね。
収穫祭でパッと楽しく騒ぐのでも良いし、皆で聖歌を歌ったりして気持ちを落ち着かせるのでも良いし、
笑ってしまったらどこからともなくバットを持った人が湧き出てきて、思いっきりお尻にフルスイングしていくお祭りでも、何でも良いと思いましてよ!」
天才か、と慄いたのは『夢幻の如く』ウルズ・ウィムフォクシー (p3p009291)。お尻にフルスイングしていく祭が万人に歓迎されるかはさておいて『蒼穹の魔女』 アレクシア・アトリー・アバークロンビー (p3p004630)は「ファントムナイトだね!」と頷いた。
「少しは気分も上向くかもしれないね」
「催し自体は歓迎なのです。倫理面と安全面さえクリアすれば、の条件は付けたいですけどね」
爆発駄目だと頷いたのは『善行の囚人』 イロン=マ=イデン (p3p008964)。そう、爆発は禁止なのである。
花火を上げて華やかに。
そうして人々の憂いを取り払うような宴を催せば、革命の一歩もきっと進むはずである。
特に、腹の内に毒を含むこの場所だ。ヴァレーリヤはエールを並々注いだグラスを高々と掲げる。
「違う地域出身だったり、元々の暮らしぶりが違ったりする人達もいると思うけれど、皆で楽しく騒げば、きっと打ち解けられましてよ!」
「良さげですよ! 楽しそうですよ!」
同志ヴァレーリヤがこの際、何杯目のアルコールを蓄えて肝臓を虐めているかはさておいて。『航空司令官』ブランシュ=エルフレーム=リアルト (p3p010222)は頷いた。
こういう時だからこそ盛り上がっていきたいと告げる『離れぬ意思』夢見 ルル家 (p3p000016)に「線香花火とかいいわよね」と目を細めたのは『慈悪の天秤』 コルネリア=フライフォーゲル (p3p009315)。
コルネリアをおばあちゃんだと揶揄っていた一同の様子を微笑ましそうに眺めていたのは『魔種』である『ドルイド』ブリギット・トール・ウォンブラング (p3n000291)であった。
『アラクラン』と呼ばれた新皇帝派軍人組織でありながら革命派の協力者である彼女はイレギュラーズ達と活動を共にしていた。
――故に、『竜剣』 シラス (p3p004421)がヴァルフォロメイに提案したのである。
「おばあちゃんとギュルヴィを交えて、ギアバシリカの難民やクラースナヤ・ズヴェズダーの人達と親睦を深めるようなことやりたいな。
きっとこれから大変なことがあるだろうから、俺達だけじゃなくて難民同士の一体感も大事になってくると思うんだ。汝の隣人を愛せよってやつだな。
……形式はお任せしたいけれど、案をあげるなら、夜に炊き出しもかねたキャンプファイヤーはどうだろう?
本来なら収穫祭の季節だったろうし、火を囲んで踊っちゃったりしてさ」
その提案に基づいて、ギア・バジリカでも収穫祭イベントが行なわれることになったのである。
- <Phantom Night2022>革命に、光を灯して<総軍鏖殺>完了
- GM名夏あかね
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2022年11月18日 22時10分
- 参加人数57/57人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 57 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(57人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
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ギア・バジリカでのファントムナイト。避難民達は、イレギュラーズの計画に不思議そうに身を寄せ合った。
その様子をまじまじと見詰め緊張し続けて居るのは司祭アミナである。その背中をぱん、と叩いたのはヴァレーリヤ。
「アーミナっ、なーにを辛気臭い顔をしていますの!
折角のお祭りなのだから、いっぱい飲んでいっぱい騒いで、そしていっぱい飲まないと! ね?」
「同志ヴァレーリヤ、飲酒しましたか」
うう、と呻いたアミナにヴァレーリヤは赤ら顔でにんまりと微笑んだ。
「…真面目なのは貴女の良いところだけれど、偶には息抜きしないと壊れてしまいますわ。
大司教様もムラトも心配していましたわよ。アミナは何でも背負い込み過ぎてしまうから、無理にでも休ませてやってくれって。
……でも二人とも、私の事は全然心配してくれないのですわよね。どうしてかしら?」
「……」
黙ったアミナとヴァレーリヤの様子を眺めながらマリアはにんまりと微笑んでいた。普段は見ない彼女を見られて幸せなのだ。
「鉄帝でファントムナイトですよ! 実はブランシュはファントムナイトは初めてですよ。
同志ヴァレーリヤがもう何杯飲んだかは目を反らすとしてこの時を楽しむですよ!
アミナ様、ヴァルフォロメイ様。あの人の酒の勘定はブランシュにつけといてくださいですよ。せめてもの慈悲ですよ」
ブランシュの言葉にアミナは「同志ヴァレーリヤは凄いのですね」と温厚に微笑んでいる。彼女のその笑みを見るだけでブランシュの胸は温かくなった。
このために様々な準備を熟してきた。歌詞カードも用意して、難民の為にと準備をしてきたのだ。パルスの歌やオリジナルソングを皆で歌うと決めてからの裏方準備は早かった。
「皆で頑張りましょうですよ!」
その言葉を聞きながら炊き出しスタッフをしながら周辺警戒を行って居たのは美咲と舞である。
妖精の姿をしていた舞は『設定でメスガキ』キャラクターを担っていたが美咲の普段と変わらぬ様子に諦観を見出し嘆息していた。
(美咲センパイ、姿変わらなかったんですね。……将来の展望というものが無いんでしょうか。『今のまま、何者にもなれず死んでいく』そんな諦観を時々感じます)
ついつい、と美咲は舞の頬を突いた。炊き出しの配膳を行ないながらも『仕事』は熟さねばならない。
「舞氏はなんというか、頭お花畑なのがモロ見えでスねー。
ほら、気を抜いているとメスガキが抜けてますよ。もっとこう高圧的に配膳してください」
「って、高圧的に炊き出ししたらガチの嫌な子じゃないですか。やらなきゃ駄目ですか……?
それじゃあ……へぇー。お兄さんせっかくご飯がもらえるのに、ご飯より舞のことが気になるんだー」
にこりと笑った舞の背後で美咲は目を伏せた。何処かに『将軍』の手のものが潜んでいる可能性がある――その時は。
その視線の先にブリギットが立っていた。彼女は魔種を公言している。傍へと走り寄った『緑』ずきんセチアは穏やかに微笑む。
クェイスと呼ばれた精霊にも似たその姿。少女は「こんにちは、ブリギットさん」と声を掛ける。
恐ろしい印象が強いが、彼女が必死になっている理由が分かればそれ程恐れる空いてでは無いのかも知れないとさえ、感じられる。
「初めまして! 私はセチアよ! 貴女のお話が聞きたくてきたの!」
「ご機嫌よう。セチア。私はドルイド。おばあちゃんとでもお呼び下さいね」
朗らかにも見えるブリギット。だが、その背後には『アラクラン』が存在している事を祝音は知っていた。
仄暗い事情を抱えてる者が多い革命派でも事を荒立てるつもりは祝音にはない。
「シュネーバル、僕のギフトでたまに出てくるものだから今増やそうと思えば増やせるよ、やってみよう。
雪玉ばっかり出てくる……困った、お菓子をあげられない……みゃー……」
冷たい雪だと笑う子供達にこれもこれでいいだろうかと祝音はくびをこてりと傾いだ。アイドルライブだって見に行こう。
小さな子供達と手を取って、今の幸せが続くようにと祝いながら。
「トリック・アンド・トリート! お菓子をくれてもイタズラしちゃうぞっ♪」
声を弾ませたマリカ。いつもと変わらない日であるようにマリカは感じているが『お友達』は喜んでいるようである。
「ファントムナイトの間はね、魔法でなりたいものになれるんだって。
キミはならないのかって?やだなぁ、マリカちゃんはとっくに魔法にかかってるよ。
今日もハロウィン、明日もハロウィン。その先もずっとず~っとハロウィン。ず~っとなりたい自分であり続けているんだから」
だから、代わり映えしない日常に乾杯を!
「ギアバジリカ……現実のに来るのは初めてかも」
思う事は色々とある。それでもヨゾラは卿を楽しみたかった。ギュルヴィは信用できないがブリギットは心配だ。
彼女は魔種でありながら、どうにも不安な存在なのだ。
「お兄さん、なにかくれるの?」
「あ、うん。ファントムナイトの差し入れだよー。少しでも収穫祭が盛り上がると良いな」
微笑むヨゾラのクッキーを囓った子供達が喜びながら走って行く。アイドルライブもあるのだと声が掛けられる。
皆で配る唄の歌詞カードは配られた。一緒に歌えば、心も一つになれるのだろうか。そんなあたたかい未来を期待せずには居られない。
唄は人の心を勇気づけ、希望の火を灯す。マルクは其れも素晴らしいことだと感じていた。
「とても良い試みだと思うな。
それに、独立島アーカーシュからもジェックさんと正純さんが出演すると聞いているからね。これは応援に行かないと」
――正純は「しません」と首を振ってマルクに歌詞カードを押し付けたことだろう。ペンライトを手に振り続ける者達は楽しげだ。
見様見真似でもなんとかなりそうだと彼はライブの『リハーサル』を慣れた様子で行なうパルスのコールに合わせるために会場へと向かう。
子供達に囲まれながら、麗華は温かなスープを配る。弱者救済を掲げるクラースナヤ・ズヴェズダーの炊き出しも合わさり豪華なディナーを楽しんで貰えることだろう。
普段と一風変わっているのはファントムナイトであるということだ。
凜とした彼女も魅惑的なサキュバスの衣装で今宵を楽しんでいるかのようであった。
ロボチャロロはシチューや豚汁などの簡単な料理を用意して炊き出しを準備していた。肉は持ち込めば良い。野菜もそろそろ育ち始めただろうか。
「あったかいものでみんな温まっていこうよ!」
今年は全身機械の体でもヒトの魂は消えない。自分の心はやはり其の儘なのだと実感してチャロロは微笑んだ。
「何処のお祭りも変わらないわねぇ……こういう根っこは同じなのに」
――ヒトはどうしてか結局争ってしまう。イーリンは嘆息した。ヒトは分かり合えるという幻想を懐いてしまうのだ。
何れ分かり合えなくて、別れ、争いに発展しようともどうしようもなく一つになって分かち合った時間が、喜びが。
(どうか本物でありますように。どうか、その幻想を抱き続けられますように)
願わずには、居られないのだから。
「来年の収穫の効率化に! デスワー印のコンバインのご予約はいかがですの〜!」
販促を行ないながらやってきたのは網タイツコンバインことフロラである。謎の力で米以外も収穫できると告げる彼女に「蓄えがあればなあ」と民達が肩を竦める。難民達は大いなる格差で購入も戸惑って仕舞うのだろう。
「ふうむ……それなら、お手伝いだけできますわ。ほら、あっち――あっち?
なんか向こうの方でアイドルライブ?みたいなのやってるみたいですわね。楽しそうだからわたくしも参加しますわ!
歌って踊れる美少女フロラちゃんですわ〜!」
避難民の青年は「コンバインが?」と声を上げた。コンバインであった事を忘れていたフロラ。もはや此処では『奇行を極める』しかないのかもしれない――「どうにかなれですわ!!」
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「か弱い避難民さん達を元気づけるイベント、素敵ね!
おねーさんもアイドルライブの手伝い、頑張るのだわ!」
にんまりと微笑んだガイアドニス。主役はアイドルに任せて演奏役を担うのだ。どんな曲だって弾きこなせる演奏技術。
流行ソングや皆の持ち歌は瞬間記憶でバッチリだ。音楽知識と絶対音感を活かせばトレンドにだって乗れていけるはずなのだから。
「みんなで歌を作るならおねーさんに任せてね♪」
革命派ではないが誘われてやって来たゲルツの傍ではマイケルが転がっている。周囲の偵察を兼ねて構わないとの事であったが――さて。
「なんだアレは――ライブ――? ……イレギュラーズによる鼓舞なのか。
成程。どこか、胸が熱くなる歌声だな――彼女らは歌い手としての才もあるのか。
帝都はもう少し陰鬱としているのかと思ったが、どうにも……彼女らの様な存在がいれば希望の光は満ちていそうだな」
後方彼氏面をしているゲルツの傍でウォロクは「仮装しないの?」と問うた。
「ああ、そうだな。今年はなにか頼んでおけばよかったな。そう、噂に聞くサマー・レッドーネの仮装でも」
「結婚式、するの?」
「違う」
「素敵な思い出がたくさんありあそうですね。私もかつては大陸を飛び回りましたが、こうして来るのも一苦労でした。
新時代の勇者の鼓舞する歌声ですか? 皆さん、お歌を歌われるのですね。
なんだか懐かしい気持ちにさせてくれる、よい歌ですね。私もつい口ずさんでしまいそうです」
可愛らしい顔をして羽休めをしているハイペリオンにマイケルが足元にころころと転がってアピールする。
「ライブがあるなら、是非見たいですね。今回はサイリウムもばっちり持ってきましたよ」
以前はパルスのバックダンサーを務めていた雨紅。たまには観客になりたいと周りのファン達の興奮に寄り添った。
「こう、一緒のことをするというのは、仲良くするのに必要なもののひとつでしょう?」
良ければどうぞ、とサイリウムを配る雨紅はファン達との交流も親睦を深める大事な時間であると認識していた。
「さぁ皆! 第一回VDMフェス(今適当に付けた)の始まりよ!」
堂々と宣言したリアは『リーナ』ことリーヌシュカと謎のウォンバットを舞台へと引っ張り上げた。
ごろんと転がったウォンバットの傍でリーナは「ちょっと、立ちなさいよマイケル!」と叫ぶ。
「鉄帝国流ライブバトルよ!
歌で皆に笑顔を! 心に希望の灯火を! 殺戮の唄も、破滅の祈りもあたし達には届かない! 鉄帝は、ここからまた一つになるのよ!」
リアの宣言にアミナの眸がきらりと輝いた。
「『イレギュラーズ有志』がライブをするって聞いたからな。これは責任者として仕上がりを見に来なきゃ嘘だろう?」
関係者に招待状が出ていた古都を思いだしレオンは張り切っているリアの背中を見詰めた。理由があれば頑張れる、とは彼女らしい。
「……さて、肝心要のヤツは何処かな。逃げてないかな? 最前列で応援してやらないと師匠としては間違いだよな」
――と、意地悪く見上げたレオンに気付いたのだろう。ドラマは「レオン君ッ!?」と目を剥いていた。
いつもは何故か記憶を無くしているリアが乗り気だったのだ。ドラマは高みの見物で「ジェックさん、正純さん、スティアさんはご愁傷様です」と微笑んでいたはずだったのだ。
「師匠が見ているのにか?」
「何でわざわざ鉄帝くんだりまで出向いて居るのですかッ!? ……し、師匠命令?いえいえいえこれは修行でも何でもな……」
うぐ、と息を呑んだドラマを見上げるレオンは「やらないの?」と視線で訴え掛ける。
「……はい。やりますよ! やれば良いのでしょう!!
鉄帝各派閥の交友も兼ねているようですからね。乗り気でない方を積極的に引き込んでいきましょう!」
「ヘイレオン様! ドラマちゃんうちわ!! うわっ後方彼氏ヅラムーヴでありますペッ」
さっとうちわを差し出したエッダは「ジェック嬢が歌うと聞いてやってきましたであります!!」と勢いづいた。
「ええ……」
ぐったりとした顔をしているのはジェックその人だ。横断幕を掲げ法被を着用しペンライトを振るフロールリジ大佐の輝きを見よ。
「他出演者の名前の入ったうちわもあるでありますよ!! ヘイヘイ恥ずかしいがってんじゃねえでありますFooo!!」
Tシャツや缶バッチの販売をしてやろうと考えて準備をしていたエッダの肩をぽん、と叩いたのは『司祭』だった。
「お? なんだ? 商売するなって? うるせーなんだやる気でありますか?!
自分を誰だと思ってるでありますか! イレギュラーズのエッダ・フロールリジでありますよ!
イレギュラーズの! ねえレオン様!! ルックミー!! イアアアアア!?」
「……あれ、いいの?」
指差すレオンにさあと首を振ったのは紫電であった。今日の紫電はオタ芸を始め各種ダンスでありとあらゆる技術で盛り上げるダンサーの役目であった。
「パッルスチャーンとかシュカちゃんとか(╹V╹*)様とか、あとしれっとレオンとか、各方面いろんなのが革命派の祭りに。
……これは楽しい祭りになりそうだ、な、秋奈! じゃあ、行こうか、秋奈。ちゃんとエスコートするからさ!」
「じぇっくにリアさんにほむちゃんにドラマちゃんに正純まま! とんでもねぇメンバーだ……震えが止まらねぇぜ……こざかなくんも歌うのどう?」
震える秋奈は紫電の手を取って――
「マジみんな盛り上がってきてんね!ノッてんね!うんうんよきよき!アゲてこーぜ!うぇーい!
んじゃ、今日はラストまで私ちゃんらでカマしていこーぜっ! 最強で最高なライブ、スタートでよろー!!!」
叫んだ後にぐるんと振り返った。
「あっ……ギュルヴィさんもくるよね?( 'ω' )」
「私がアイドルですか?」
「ギュルヴィさんもくるよね?( 'ᾥ' )」
「私が……アイドルですか……?」
傍らのブリギットは「わたくしが歌いましょう」と何故かギュルヴィを押し退けたのだった。
「いいの? ブリギットさん!」
「ええ。教えて下さるそうですから」
ブリギットを誘っていたのはスティア。難民達が笑顔になれるようにと願いながらやって来たのだ。
「んー、今回は皆でパルスちゃんの歌を歌うでいいのかなってブリギットさんと練習したんだよね」
「はい。振り付けも覚えました」
頷くブリギットは自信満々だ。一先ずはスティアはパルスについていけばなんとかなるとブリギットに提案していたのだった。
ブリギットが堂々と舞台に上がっていく姿を眺めているギュルヴィに視線を送る。
(――あの人は、今は味方だって聞いた。あの時に守れなかった人と戦うのは心苦しいけど、誰かを傷つけるというのなら止めないといけないよね。
それがせめてもの償い、償いなんだ。
今度はちゃんと守りきるためにも強くなりたいな……だけど今だけはそんな気持ちを忘れて楽しめれば良いな。
うらはらだよね。これは、後悔なのかな? 何も気にせずにこんな未来が来る可能性があった、はずだから)
スティアは唇を噛み締めた。ブリギットは、あの時救えなかった人であったから――
「ライブもするんだ~楽しみ……って、えぇー!?
ハイペリオン!? どうしてここに!!!?? 夢じゃないよね……ほんものならふわふわもふもふのはず……ふわふわ……」
激推ししているハイペリオンに気付いてからリュコスはもふもふとその羽毛を堪能していた。エッダが配っていたペンライトを握り「Uh……」と光を灯す。
「おうえんする時はこの光る棒をふって…うちわもあるね。こうすると声で歌をじゃませずに気持ちを送れるんだ!」
「はい」
ハイペリオンも歌おうと瞳を輝かす。リュコスの視線に頷いてハイペリオンは「教えて下さいね」と頷いたのだった。
自身のために教えて呉れようとするリュコスがハイペリオンにとっては喜ばしい気遣いであったから。
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「『なりたいもの』になれる魔法……う~ん、まぁ私は今の状態が『なりたいもの』だからね! 皆を守るシスターさん!」
収穫祭のライブに参加していたンクルスは裏方を行ないながらにんまりと微笑んだ。
鉄帝と言えばパルスだ。だからこそ、パルスの曲やオリジナルソングで心を一つにしたいと考えていた。
「鉄帝の皆が知ってるパルスちゃんの曲とか…後は革命派のオリジナルソング!
鉄帝の皆で歌えるようなオリジナルな曲が欲しくてアミナさんにお願いして革命派の皆と相談しながら作ったんだよ!
そういうのを皆で歌って交流と結束を深めていけたらなぁって思う!」
ぴょんぴょんと跳ねながら宣言するンクルスにアミナは「わ、私はそれほど」と慌てた様に頬を赤らめる。
「ううん、アミナさんが手伝ってくれたからだよ!」
彼女も沢山の問題事を抱えているだろうがその気持ちが少しでも安らげばと願わずには居られないのだ。
ふと、ンクルスは舞台上で楽しげに歌うブリギットの姿に気付く。「おばあちゃん」と呼べば彼女は応じてくれるのだろう。
恐ろしき真冬。越冬に対する危機感を少しでも拭い、護ってあげられれば――あの、冬が全てを覆い隠してしまう前に。
楽しげな歌が流れる中「ぎにゃああああ」と叫び声が聞こえてぱちりと瞬いたのはパルスを始め、避難民達だった。
「リアちゃんとドラマちゃんとジェックちゃんと正純ちゃんのライブが見られるって聞いたから遊びに来たよ!
皆の分も可愛いステージ用の衣装を持ってきたよ、パルスちゃんの振り付けも任せて! 完璧だよ!」
「うんうん」
「パパパッパパパパパパッパパパパ、パルスちゃん!?!?!?!?!?!?!?!?!? どどど、どうしてここに!?」
「遊びに来たんだ。焔ちゃんもこっちにおいで!」
「えっ、またパルスちゃんと一緒に歌うの!? いや違うの! イヤとかじゃなくてむしろ嬉しすぎてボクがもたないっていうかそのっ!」
混乱し続ける焔にパルスはくすくすと笑い続けていた。
パルスが指をぱちりと鳴らせば「ひゃっはーー!」とワモンは叫んだ。ライブを盛り上げるための花火が打ち上げられていく。
「正直なとこ鉄帝に対しちゃわだかまりもあるけどよー、祭りの時にそんなことを考えるのは無粋ってもんだよな!
そのわだかまりもぶっ飛ばせるくらいにどーんと花火上げまくってすっきりしちゃうんだぜー!」
ワモンにとってはグレイス・ヌレ海戦という蟠りがある。それでも、それを忘れ去れるほどの素晴らしい花火を打ち上げられれば『最高』なのだ。
「ふふ、自分のなりたい姿になれるなんてとっても素敵だわ。
久しぶりね私の脚。あの剣靴の義足もお気に入りだけれどずっと一緒だったあなたはやっぱり忘れられないの」
優しく脚を撫でたヴィリス――いや、リリアーヌはライブに飛び込んだ。『何も無かった彼女』を知る者は此処には居ないから。
「一日限りのリリアーヌというプリマ。覚えていってね!」
プリマは躍る。『ヴィリス』である事を気付いてもどうか秘密にしていてね。
「こほん、改めて革命派の方々のお祭り、派閥こそ違えど同じ鉄帝を憂うものとして協力させて頂きましょう」
カードを配りながら歌わないと強調する正純。派手な衣装でステージに上がりそうになっていた正純に手を差し伸べたのはあろう事かブリギットであった。
――わたくしが衣装を着ましょう。
堂々と言ってのける『おばあちゃん』にジェックもホッと胸を撫で下ろしていたのだった。
「ライ……ブ? ちょっと知らない言葉みたい。皆で歌った方がきっと楽しめるよ、ね!」と視線を逸らしたジェックは正純と一緒に歌詞カードを配る。
派閥こそ違えども、卿は楽しみ飲んで騒いで。それだけで良いのだ。いつか大きな亀裂が走れども、今は一つの目標がある筈なのだ。
「……今よりは少しくらいマシな国に、世界になるのではないでしょうか。こうして、共にあれれば」
「そうだね。随分、大変な世界になってしまったよね。
でも、ここにいる誰も諦めてない――かつての日常を、今と違う未来を」
憂う民に二人は微笑むのだ。
「だからさ。灯そうよ。歌に、花火に託して。アタシ達の願いを、希望を――一緒に、ね?」
「なんて真面目に話をしましたが、こんな光景が、この国の当たり前の姿になるといいですね。……花火、綺麗」
そうやって、『今』が幸せなのだと分かち合えることを願わずには居られないからだ。
――一方で。
「……なんだ、あの連中は。新皇帝派などなぜ引き入れた。貴様も知っての通り革命派の状況は極めて悪い。
派閥の目的である人身と人心の保護が、意図不明のなりすまし行為によって信頼を失いかねない状況だ。そしてそれを行ったのも新皇帝派の者だ。
孤立すれば、集団の先鋭化は更に進み……まさか。それが奴らの狙いか?」
エッダは自身を連れて行ったニコライと話していた。叛乱の首謀者は未だ息を潜めているだろうか。
「そもそも彼等がいなければクラースナヤ・ズヴェズダーは派閥に名乗り上げることも難しかったのですよ。
ただの少女がなまくらを握りしめているだけで、何の役に立ちましょう。必要なのは急進的な武力でしか無かった……そうでしょう」
「そうか、それもそうかもしれないな」
民の救済という意味合いでは必要であったと『さも、当たり前のように告げた』彼の真意が何処にあるかはまだ、分からない。
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「やあ、……会いたかったよ、ギュルヴィ君。ありがとうと、感謝の言葉を伝えたかったんだ」
「……何への感謝でしょう?」
ルブラットを一瞥するギュルヴィの眸は疑いを孕んでいる。嫌疑を掛けられる事はあれど、感謝されることは久しかったのだろう。
「勿論貴方が後ろ暗い何かを行っているとは知っている。だが、血塗られた手で善行を為してはならないという決まりは、この世にあるまい。
アミナ君の言うように、革命派の為に動いているのだろう? 私は貴方たちを信じたいと思っているよ。共に励んでゆこう……」
「……そうですか」
ギュルヴィはそれ以上は何も云うまい。ルブラットはフランクに笑い、『ファントムナイトだからといって普段着けてる仮面を仮装扱いされると苛つかないか』と話したかったがと付け加えた。
「私にも医師の仕事があるから……これで失礼するよ。せっかくだから、私の分まで焼きマシュマロを食べておいてくれたまえ」
彼を包む視線は多種多様なのだ。ギュルヴィに見送られながら友好が続くことを切に願った。
「『初めまして、ギュルヴィ参謀』――という事で良いのかしら」
「初めまして、『お嬢さん』」
放たれた蠍の花火を眺めながら舞花は見せ付けているのかと苦笑する。ああ、それでも『彼がそうして生きている理由』が『彼』の為なのだと感じずには居られない。
ノーザンキングスに潜んでいた時期もある。新皇帝の制御下にあるわけではないのだろう。彼の狙いは屹度――
「蠍の王。実際大した人物ですね。あの赤犬が、凶が、レナヴィスカが仕留められなかったのも頷けます」
「貴女も偉大な彼をご存じですか!」
「ええ。本当なら、あの戦いでも彼はまんまと逃げおおせていたのでしょうね。
当時、言ってしまえばルーキーも良い所である私達の実力では、何も無ければ討ち果たす事は叶わなかったでしょう」
何故、『彼』は討ち取られたのか。それを知っているのだろうか。舞花の『言い掛けた言葉の先』をギュルヴィは知っているだろうか。
「蠍の王は、戦場に乱入した一人の男により重傷を負わされ、それ故に退く事叶わなかった」
男は黙した儘、舞花を見ていた。
「その男は自らをバルナバス・スティージレッドと名乗りったそうです。……そう、『憤怒』の冠位魔種。即ち新皇帝」
「――ええ、そうでしょうね」
己だってあの日『彼を見た』のだ。あの焔を。あの憤怒を。己が反転したのは紛れもなく――
「怖い顔してるな、ギュルヴィ」
声を掛けたシラスにギュルヴィは振り返った。
「蠍の花火? 確かにみんな星になって消えたなよなあ、ギュルヴィ。アンタは独り地べたに残って何をするつもりだい?」
「革命、といえば?」
シラスの傍に立っていたアレクシアは唇を噛み締める。
「それからギュルヴィ……何を企んでいるの?
……もしこれ以上、誰かを傷つけるつもりなら、私は絶対に許さない。今度こそ止めてみせる」
「……ええ、今回ばかりは信念を比べるだけ、でしょうけれどね」
彼は、悪人だと認識していた。それでも、だ。舞花の話を聞いていた彼の姿は寂しげで。
(――亡くした人の面影を追っているのは、)
悪人だと言い切っても良いのかとアレクシアは俯いた。
「ギュルヴィ、いじめたのですか?」
「……とんでもない」
肩を竦めるギュルヴィにブリギットは首を捻った。シラスはフランクに「おばあちゃん」と呼びかける。
「お菓子をおくれよ、おばあちゃん。お歌を教えてやるからさ。もう冬になるね、革命は進んでるの?」
「ええ、『革命』はこの方と一緒に」
その言葉にアレクシアは引っかかりを感じながらぎこちなく微笑んだ。魔法を教えて、と。
怒りの雷。天の神鳴り。その術に身を委ねていた女は「喜んで」と頷くだけだ。
「特異運命座標だけでなく、色々な人が来ているな。直近よく見た顔も……ギュルヴィ貴様ァア!!
どのツラを下げて俺達の前に……いや、ペストマスクで顔が隠れているのだったか」
突然スンッとなった弾正は「この場でバチバチと火花を散らすのは花火だけで充分。俺と線香花火で勝負だ!」と指差した。
「……其れで、良いのですか」
「ああ!」
「……そうですか」
ギュルヴィは早速と腕まくりをした。異様な空気が漂っている。
「俺はラド・バウ闘士の味方だが、なるべく『アラクラン』の者達とも敵対せずに過ごしたいものだ。
戦う事は好きだが殺し合いは苦手なんだ。他のイーゼラー教徒には秘密だぞ」
「ええ。貴方の秘密は誰にも言いませんよ」
アイドルライブを眺めながら、美味しい酒と食事を楽しみたいと瑠璃は考えていた。祝いの品だと馬車で持ち込んだ食料も今宵の宴には十分だ。
「――というわけで持ち込みの材料を提供する代わりにいろいろ料理を作って頂きたいと思っております。
行きつけの料理屋さんも、今回の混乱でお店を閉めたり営業できなくなったりしている所が大半ですから」
「任せて下さい」
頷いたのは10歳位の少年だ。ハーフエルフ寄りの愛らしい彼――ゴリョウは然り気無く聖職者っぽい服装で料理をしていた。
手や身長の小ささで普段通りとまでは行かないが、根菜を米と炊いて雑炊にし、皮も余りなくきんぴらにする。
「ボクが居る以上、食材を無駄にはさせませんよー? さてさて、ボクは誰でしょーねー?」
「かみさま!」
幼い子供の言葉にゴリョウは微笑んだ。
彼の作った酒のつまみを手にゲオルグは異様なほどに多い酒類に目を瞠っていた。
「……度数の強い酒を飲むことで体を温めて寒さに備えるという事なのだろう
つまりは、思う存分お酒を飲んでもOKという事なのだ! そう、これは寒さに打ち勝つ為だから、即ち生きる為なのだ!」
誰も飲むことを咎めることは出来まいとグラスを用意する。勿論未成年飲酒だけは分別をつけての宴である。
「タダ酒が飲めると聞いて!やって来たよ!派閥とか忘れて今日はヨロシクね!
何でこんなに酒が豊富なのかは分からないけれど、やあ! ステキなイベントだね!
ちなみに善意の第三者ってことでこの酒が盗品だったとしてもオレは何もシラナイからいくら飲んでも無罪だからね! やったね!」
グラスを掲げたイグナートはあくまでも新皇帝派を打倒するという意味合いならば派閥の垣根などないとクラースナヤ・ズヴェズダーの聖職者達に酒を飲ませ続けて居る。
「アミナって飲めるんだっけ? あ、ダメ? ヴァルフォロメイは? 酒がムリならジュースでカンパイしようよ! カンパイ!」
「ジュースでいいですか」
アミナは笑みを浮かべてイグナートへと走り寄った。『乾杯』をして貰える事の一つだけでも嬉しく堪らないのだ。
(一人で静かに飲む酒、誰かと賑やかに飲む酒。誰かが楽しそうに酒を飲む様を眺めながら飲む酒。そのどれもが、趣が違って楽しいというものだ)
頷くゲオルグも乾杯と声を掛ける。アミナの笑顔が、綻んで。彼女に在り来たりな幸せを与えるだけでも喜ばしいのである。
「お酒お酒お酒ェ!!! はい! はい! あたしお酒売るっす!
カップ酒の売り子をやりながらお酒が好きそうな人に絡み酒するっす!!!」
にんまりと笑ったウルズ。最早売るのもどうでも良くなってきて――酒を呷った。
「うま」
ついつい呟いてからグラスを掲げる。
「酒のんで見るライブは最高っすねぇ、知ってる顔が歌って踊ってるような気がするけど酔ってるからよくわかんねーっす。
ノリで周りに合わせて歌お……政治はわっかんねーっすけど歌って呑んで騒ぐのは得意っすよ。任せてほしい」
「そうですか」
「あれっ!? ギュルヴィもおばあちゃんも飲むっす、あたしの酒が呑めねえってか〜???
いいもんヴァレーリヤ先輩と一緒にのむもんね、あれ……これ壁かな?」
ブリギットがどうしましょうとウルズを見詰めながら――ローズルへと視線を送った。彼は肩を竦めるだけである。
「ローズルさん。貴方も収穫祭に来ていたんだね」
仕事の絡みで顔を合わせたことのある彼。ハリエットはゆっくりと話すのは初めてだとローズルの横顔を眺めた。
「ええ。仕事の絡みでして。貴女もいらしていたのですね」
「ああそうだ。今日はお菓子をあげる日なんだよね。これあげるよ……仕事が忙しい人には甘いものがいいって聞いたことあるし」
驚いたように目を丸くしたローズルは「有り難うございます」と頷いた。ハリエットは彼に問うてみたいことがある。
現状の鉄帝国を彼はどう見ているのだろう。外へと働きかけてきた彼は今、どの様に考えているのだろうか――と。
難民キャンプ内で一嘉が用意したのは足跡や怠惰。おでん『もどき』と名付けているが温かな食事に誰もが喜ぶ。
情報収集を行ないたいと考えていた彼にキャンプに住まう者達は越冬を恐れているとも告げて居た。
些細なことでも良い、と変化について問い掛けるが急転直下に周辺環境が変わってしまった民にとっては何が普通であるかも分からないのだろう。
一嘉はヴァルフォロメイに面会が叶った際にメモを手渡すことを考えていた。
――モリブデンの一件を考え、密偵対策に貴方とアミナさん、そしてイレギュラーズだけが内密にやり取りできる、連絡手段を構築したい。
視線の先では朗らかに笑う司祭アミナ。その傍らでは少女を支える魔種ブリギットの姿が見える。この場の『お飾りのリーダー』はどの様に動くのだろうか。
●
――今日は焔の精だから氷の精である君に触れてしまったら溶けてしまうだろうか。
氷の精霊の姿は彼が褒めてくれたから。ジュリエットは喜ばしいと衣装を身に纏う。
ギルバートは彼女が溶けてしまうと悲しいからと少しばかりの距離を取った。
(……何故でしょう?」
何時もよりも距離を置かれているような気がするが――それもそれ。氷の精霊だからと気を遣わせてしまってしまっただろかと一抹の寂しさが過る。
花火の音に顔を上げたジュリエットは「綺麗ですね」と呟いた。様々な色彩が降り注いで、美しい。
その光を反射して、煌めいて見えた彼女の頬を撫でかけて、溶けてしまうかも知れないと慌ててギルバートは指先を引っ込めた。
「ギルバートさん?」
「いや」
少しだけ、遠くから。大切な彼女を観察するのは案外楽しくて。何時もと違って少し拗ねた顔も愛らしい。
魔法が解けたら君の手を取り攫ってしまおうか、そんな考えを見透かすように「魔法が溶けたら抱き締め、下さいますか」と囁きが響いた。
グレイシアの手を引いて、花火にも気を取られるルアナは「おじさま、こっち!」と微笑んだ。
「鉄帝での収穫祭と聞いたが……存外賑やかなものだな」
情勢的なことを不安視していたグレイシアだが、ルアナが「お祭りの日だもん」と快活に笑えば其れにも納得する程の賑わいに溢れている。
歌声に花火の音。朗らかな笑い声。酒も入れば陽気な越も聞こえるようで。グレイシアの手をくいと引っ張ったルアナはおねだりをするように殻を見上げた。
「花火あるなら、そっちいきたい! 温かい飲み物買って花火見に行こ?」
「そうだな…花火の種類も多く、楽しめそうだ。あれは……ふむ、何かの図形のようだが……蠍……か?」
「さそり?」
首を傾いだルアナはグレイシアの表情が曇ったことに気付く。嘗て、かれは『フギン=ムニン』と相対した経験があった。
「アレは……まさか……?」
ギュルヴィと彼と話していたブリギットに気付いてからグレイシアはルアナを庇った。
(この場にあの二人が居ても問題は無い……のだろうか?)
「おじさま?」
問うたルアナの脳内で、警戒の聲が聞こえる。気をつけなさいと『もうひとり』が囁く通りグレイシアは警戒心を剥き出しにしていた。
「何故、此処に居るのだ?」
「おや」
ギュルヴィがグレイシアを見詰める。剣呑な空気に耐えきれなくなったとルアナはへらりと笑った。
「えっとあの。皆で楽しく花火上げてるんだよね。わたしもお手伝いするよ?」
「いいえ、危ないのでどうぞ後ろで。可愛らしい『お嬢さん』」
呼びかけにグレイシアはルアナを庇いながら「そうさせて貰おうか」と視線を逸らした。
「これは見事なものですね。まさか打ち上げ花火まで見れるとは。あ、おばあちゃん、あの人は?」
――と言いつつもルル家は『特徴的すぎる羽を隠す気もない』彼に「うーん! まぁ気付かなかった事にいたしましょう」と頷いた。
「ギュルヴィです。好きなものは蠍だそうです」
「ご機嫌よう、レディ。蠍はお好きですか」
ルル家はにっこりと微笑んでから「ギュルヴィ殿は英雄譚がお好みなのですね!」と気付かないふりをして置いた。
「キングはバルナバスに殴られて弱ったから負けたみたいなところもありますからね。思うところがあるのは理解出来ます。
流石に1人でバルナバスをどうにかするのは無理ですから、それまでは協力するのも良いでしょう」
「素晴らしい推察です」
それに『利用されている』事は否めないが――さて。
「ところで右目大丈夫です? いやー大変ですよね目がなくなると。わかりますよ。拙者も経験者ですから」
「そうですね。延々と血潮が涙のように流れ落ちるものですから、不便しています。おや……目を失った経験が。詳しく、お聞きしても?」
ブリギットは傍らで「ギュルヴィ、彼女の目を剔ってはなりませんよ」と囁いていた。
二人の姿を遠巻きに見詰めていたシラスは準備も終えたし、とアレクシアに向き直る。
南瓜の料理と菓子を揃え、飾り付けを行なった。子供達に南瓜ランタンを渡したのは一寸した遊び心だ。
子供達に楽しんで欲しいと考えていたのはシラスもアレクシアも同じだった。
「こういうの久しぶりだよね」
「……そうだね」
喧噪に身を寄せて、戦なんて関係ないように過ごすのだ。それだけでも、とても楽しい。
笑ったシラスはそっと恭しく手を差し伸べた。まるで、騎士のように『魔女』の彼女に視線を合わせるようにやや腰を折って。
「一曲お相手願えませんか?」
「ええ、拙い足取りでもよければ!」
ダンスの練習は『一昨年』に。あの時とは目線が少し違うけれど――彼女を見て、シラスは口を噤んだ。
懐かしいね、とは言えなかった。『そうだね』なんて返したけれど。うっすらとしか覚えていない。『久しぶりだった』気がした。
朧気なステップ。久しぶりにリズムに乗って。楽しいと笑った彼女の笑顔に、シラスは微笑んだ。
キミの『なりたい』天使の翼がこそばゆい。果たして何になりたいのか結論は見えないけれど。
多分、屹度――『君の心に残り続けられれば』というのは確かなことなのだろうから。
「花火なんて久しぶりー! うひょー、二人とも見て見てー!」
手を空へと掲げるように花火を火花を散らせるユウェルに鈴花がくすりと笑う。琉珂は「綺麗!」と声を上げ、楽しげな時間が過ぎて行く。
三人で過ごした収穫祭ももうそろそろ終わりだ。
「んもーゆえ! 花火をこっちに向けるんじゃないの!」
「えへへ。りんりん、さとちょー、次は線香花火しようよ!
線香花火はおかーさんが好きなんだよね。外に行くって言ったら色んな物を見てきなって言ってたおかーさん。ちゃーんとおべんきょーしてるからね」
にんまりと線香花火に語りかけるユウェルに琉珂は「線香花火っってユウェルのお母さんだったの!?」と突飛なことを言い出す。
「何言ってんのよ、リュカ。……それにしても不思議よね。まさか3人でこうして里の外に出て海に行ったり、花火をしているなんて」
「ほんとだよねえ。それに初めて外に出て3人であちこち行っていろいろやって楽しかったよね!」
にへらと笑ったユウェルと鈴花を見詰めてから琉珂は「そうでしょう?」と嬉しそうに微笑んだ。誰に何を云われたって里を開いたのは間違いじゃ無かったから。
「……外なんて下品で野蛮で、最低な世界だって思ってたけど。最近は悪くないわって、思うのよね。
アタシ達の里も皆と手を取れるようになったんだし……この国も、そうやって手を取れるといいわよね」
「わたしも好きだよ。里も外も。この国もきっとだいじょーぶ! せんぱいたちもわたしたちも頑張ってるしなんとかなるよ!」
「そうよね」
にこりと笑った琉珂が勢い良く立ち上がり、ぽたりと火の玉が落ちる。「あ」と声を上げた琉珂に鈴花が視線を向けた刹那――フゥーとユウェルは息を吹きかけた。
「……ってあー! 火の玉落ちたわ!」
「どうだ琉珂。鉄帝の祭りは楽しめたか?」
飲み食いを楽しんで、ライブを見て、花火を見て。ルカは優しく琉珂へと声を掛けた。
覇竜は未知に溢れている。それでも、彼女にはちっぽけすぎる。世界中をもっと自由に楽しんで欲しいとルカは感じていた。
「ええ。とっても! 不思議ね、歌うと心が躍るのだもの。ルカさんも楽しかった?」
「勿論。またあちこちに出かけに行こうぜ。お前さんが酒を飲めるようになったらまた別の楽しみも出来るしな」
「それは、『お姉さん』になったときの特権ね?」
にんまりと微笑んだ琉珂にルカは頷いた。『るか』と『りゅか』。名が似ているからか理由は分からないが妹のように感じている。
太陽のように笑った彼女の笑顔を見れば嬉しくなるのだ。
(アイツとは大違いだな……)
ふと、過った『違う誰か』。ルカをまじまじと見詰めていた琉珂は「ルカさん?」と首を傾いだ。
「何もねえよ」
首を振りながらもどうしても――拭えなかった、あの人の姿だ。
屹度彼は、あの人を求めていたから。だから、こうなったのかも知れない。
空中庭園に独りぼっちのあの人。『あたし』は鳴りたいわけじゃなくて――ただ、その目線の先に居たかった。
フランは膝を抱えて毛布を被ってギアバジリカの隅で喧噪を眺めていた。
こんな姿、誰にも見られたくなかった。『こんなのに』なりたくなんて、と言い掛けて口を噤んだ。
羨ましい。嫉妬だ。醜いかも知れない。
それでも、『恋をするあたし』だから。
フランは空を見上げてべえと舌を見せた。ちょっとだけ、むかついた。ほんのちょっとだけ――!
酔いの回ってきたヴァレーリヤはアミナと共に歌い始める。戸惑うアミナに「大丈夫ですわぁ~」と最早、呂律も回りやしない。
「歌えますわねぇ!?」
「……は、はい!」
楽しげに歌うヴァレーリヤは「マリィー!」と叫ぶ。「アミナも、歌いますわよ!」と手をぶんぶんと振るヴァレーリヤにマリアも同じように手を振り返す。
「わ! アミナ君こんにちは! ふふ! いいよ! 歌おう! 流石はヴァリューシャ! 歌詞カードも用意して完璧だね!
お酒と食べ物も持って来てるから後で皆で食べようよ! あ、ヴァリューシャは無理しないでね」
「まだまだ飲めましてよ~~~」
飲めなさそうだとアミナは首を振る。酔って眠たくなってきたヴァレーリヤを支えるマリアは「エスコートしようか」と声を掛ける。
彼女も随分と無理していたのだろう。そう感じ彼女を支えたマリアは「心配しないでね」とアミナへと微笑みかけた。
宴もたけなわ。ライブも盛り上がり、食事に楽しむ者の姿が花火に照らされ浮かび上がる。
ステージの上に引っ張り上げて貰ったアミナは笑顔のまま、リアを振り返った。
「皆が笑顔でとても良い景色よね、アミナ。あのね、貴女に謝らないといけない事が一つあって……。
実はあたしの独断で他派閥の人を呼んでいるのよ。でも、何処からも敵意は感じないでしょ?」
「はい」
「鉄帝はきっとまたひとつになれる。貴女の進む道はひとつしかないと、貴女に言う人も居るかもしれない。
でも、あたし達は無限の可能性を貴女と一緒に探せる。独りで、悩まないでね」
アミナの唇が、震えた。それでも、私は。
――君に幸あれと、ただ願っていた。ただ、ただ、救済だけが願いだった。
笑うアミナの旋律に一抹の不安を、そして『綺麗すぎないノイズ』にリアは違和感を覚えて。
祭の裏方に回っているロロンはぷるんと跳ねながら酔っぱらい達の快方をしていた。
撤収の準備を行って居るアミナを見付けてマリオンは微笑みかけた。
「アミナは皆の事を想って考えて願って、がんばってて偉いね!
……でもマリオンさんは皆の為だけじゃなく、自分の我儘の為にもがんばって欲しいと思います!」
そんな、と瞬いたアミナは驚いたようにマリオンを見遣った。買って来たロケットは彼女『だけ』へのテミア偈だ。
「おはぎをまた、アルテロ茶と一緒に食べたい、とかそんなので良いから!
アミナ自身の為だけの我儘な願い、それをこの中に隠して持っておくと良いとマリオンさんは思います!」
「……我儘、ですか?」
献身的であれ。そう意味づけられているかのようにも感じられた少女の華奢な肩。折れてしまいそうな背骨を支えた柱は『聖女の姿』であっただろう。
彼女が彼女であれば。
ただ、それだけが――屹度、背負うべき十字架からも解放してくれるはずだと信じずには居られなかった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ハッピーファントムナイト!
皆さんにとっての思い出になりますように。
GMコメント
夏あかねです。革命派のイベントシナリオですが、どちら様でもご参加いただけます。
●ハロウィンナイト
ファントムナイト(混沌世界のハロウィン)は10/31-11/3まで続く不思議なお祭りです。
フェアリーテイルと同じく住民達は11/4 0:00まで不思議な魔法に掛けられてその姿を『なりたいもの』に変貌させることが出来るのです!
勿論『魔法にかからない』者も居るでしょうが……よければ、魔法に掛けられてみませんか?
「私は誰よ」と言わなければ、ひょっとすれば気付かぬ者も無数居るかも?
SDイラストを参照することも可能です。
●行動
※一行目:行動は冒頭に【1】【2】でお知らせください。
※二行目:お洋服指定があれば(SDイラスト指定でも可能)
※三行目:同行者(ID指定又はグループタグ)
例:
【1】
2022/SD
【リリファルゴン】
【1】ギアバリジカで収穫祭
ギアバジリカの難民やクラースナヤ・ズヴェズダーの人々との親睦を深める収穫祭です。
飾り付けなどは皆さんにお任せ致します。食物などの持ち込みも大歓迎です。
ギアバジリカの内部でのイベントになりますので危険はありません。アラクランが出入りしていますが戦闘は起りません。
どうやら『アイドルライブ(?)』らしきものも可能なようですね。革命派には素敵なアイドルがいると聞きました。
ブリギットは「お歌を教えて下さいね」、アミナは「わあ、楽しそうですね!」と反応しています。
また、ギアバジリカ近郊で花火を上げたり炊き出しを兼ねたキャンプファイヤーを行う事が可能です。
酒類の持ち込みはできますが、爆発させないで下さい。絶対だぞ!
何故か異様に酒の種類が多いほか、家庭菜園が開始されている事もあり資源はそれなりに潤沢です。
線香花火もして良いと思います。ギュルヴィはローズルと名乗る青年に頼んで蠍を模した打ち上げ花火を用意したようですね。
基本は何でも持ち込み可能です。
【2】その他
当てはまらないけど此れがやりたいという方へ……。
ご希望にお応えできなかった場合は申し訳ありません。
●NPC
・『アラクラン』ギュルヴィ
・『アラクラン』ドルイド(ブリギット・トール・ウォンブラングおばあちゃん)
・『アラクラン』ローズル(関係者)
・『クラースナヤ・ズヴェズダー』司祭アミナ
・『クラースナヤ・ズヴェズダー』ヴァルフォロメイ
……この他のクラースナヤ・ズヴェズダーの構成員やアラクランの構成員もおります。
その他、月原・亮 (p3n000006)、フランツェル・ロア・ヘクセンハウス (p3n000115)、珱・琉珂 (p3n000246)は何処へでもふらふらやってきますので良ければお声かけ下さい。
●特殊ドロップ『闘争の誉れ』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争の誉れ』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
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