シナリオ詳細
<Stahl Eroberung>もうひとつの魔王と、あたらしい勇者伝説
オープニング
●ふるきおおいなるものども
古代遺物の眠る国、ゼシュテル鉄帝国のはるか上空に姿を見せた浮遊島アーカーシュの、そのまた更に上空に小さな浮島が存在していた。
島の名はウェッジ・ガーデンといい、そこには植物学者垂涎の花々が咲き乱れている。
例えばアイビーに似た新種アイルスローン。赤いアルディンやリーオルージュ、白いアルバフロッケや雪冠草、紫のマナガルム。中には食虫植物のクリエポットソウや全体的に青みのあるゼフィランサス・レイメイニア。薬草としての効果をもつフォティーナの微笑み。夜になれば月片花やビリビリニャンニャンシャイニングタイガー草が淡く光り、風に揺れるセララリボン草や嘘吐き草やラフタリ草がまた違った色を見せるだろう。
そんな天然の庭園には、ひとりの精霊が住んでいた。ごく最近に精霊種のカタチを得たという高位の精霊アイル=リーシュだ。
この浮島に咲いたひとひらのアイビーから精霊へと至った彼女は、その類い希なる力と知性と引き替えにするかのようにこの島から出られないという宿命を負っていた。
「けれど孤独だと感じたことはありません。ひとりであることが当たり前でしたから」
アイルは花咲く草原に腰を下ろし、花冠を編みながら苦笑した。
「ですがどうでしょう……明日からは少し自信がありませんね。こんなに賑やかになってしまいましたから」
できあがった花冠をジェック・アーロン(p3p004755)へとかぶせ、今度はころころと少女のように笑った。
「そう、だね」
振り返ると、同じ花冠をのせられた『黒冠』セレンディがそわそわとした様子でそれに触れている。
落としてしまわないか、あるいは壊してしまわないか心配なのだろうか。
けれど、その気持ちは少しわかる。
ジェックだって、生まれて初めて花の冠を編んで貰ったとき、そんな気持ちになったから。
「セレンディ……」
彼女もまた、アイルとは別の意味でこの島に縛られていた精霊である。
ブーク・カドゥールという球体型をした何かの古代装置の中より現れた彼女は、その力をもってして大量の低位精霊を凶暴化、更には無数のブーク・ゴーレムなる存在を作り出しアースマーンを一時混乱に陥れた。
その理由は、正気を取り戻したあとに聞いてみれば単純なものだったのだ。
――『あれは、この空域に仕掛けられた防衛装置(セキュリティシステム)だったと思います。わたしが目覚めて、いくつかの機能がダウンしていることが発動のトリガーになったのでしょう』
と、セレンディのおずおずと、そして途切れ途切れの発言を要約するとこうなる。
長らく複数のシステムがダウンしていたアーカーシュという巨大な『機械』は、それによって出続けたエラー要求を受けていくつものシステムが混乱、暴走状態にあったという。アースマーンが一時乱流に飲まれ、風の精霊たちが暴走していたのもその一環だろう。それはセレンディとて例外ではなく、目覚めた彼女は訳も分からぬままイレギュラーズやハイペリオンたちを『外敵』として排除しようとしたのだった。
だがそれも過去の話。暴走した精霊は一度倒してしまえば意識が回復し、正常な状態へと『再起動』できるのだ。
言ってしまえばアーカーシュはコンピューターのハードであり、精霊たちはソフトだ。ハードの故障がソフトを混乱させ、ソフトの再起動によって復旧が行われたのである。惜しむらくは、ハード自体を修復する技術力が今の人類にないという所だろうか。
そういうときは、せめてもの手探りとしてソフト側にエラー診断をさせるのが妥当。
元の言い方に戻すなら、こんな問いかけになるだろうか。
「今回の精霊暴走事件。そのトリガーはなんだったと思いますか?」
アイルがそう述べると、セレンディは頭をおさえたままうーんと唸った。
「『ラン・カドゥール』……神の矢にして『紅冠』ラトラナジュ。あの子を、誰かが起動しようとしたんだと、思います。それに失敗したんだと……」
「そ、っか……」
ジェックは、この話は皆に共有したほうが良さそうだと頭の中で考えながら……続きを述べようともじもじするラトラナジュに『続けて?』と促した。
聞き取りはまた随分と長くなるのだが、その出だしはこうである。
「この時点で、魔王城……『エピトゥシ城』のセキュリティが一緒に起動していたら、大変なことになっちゃい……ます」
●エピトゥシ城上空にて
「ここが、エピトゥシ城。魔王イルドゼギアによる『後詰めの城』でして」
空にホバリングをかけながら呟くルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)。
あのあとジェックたちと一緒になってセレンディへの聞き取りを行っていた彼女は、エピトゥシ城に無数のクローン体が作られるであろう事を知った。
「上位古代獣(アークエルディア)、ネピリム。その能力は他者のコピー……かつて世界中で猛威を振るい、勇者アイオーンによって倒された魔王イルドゼギアが残した異物」
セレンディの話と世界の歴史をあわせて要約すれば、こうだ。
この城は魔王が最後に使おうとしていた古代の要塞であり、これを用いる前に勇者によって倒された。
つまりは人類未踏破の『隠しダンジョン』であり、それゆえのトラップやモンスターが仕掛けられているということだ。
中でも警戒すべきは――。
と考えたところで、城丈夫に突き出た無数の筒状物体から卵形のなにかが大量に放出された。
それらはたちまち四肢を展開し、背よりジェット噴射を行うと飛行を開始。こちらに向け熱光線を発射してきた。
「わっ――!?」
「あれは、黒いハイ・アームズ?」
ルクト・ナード(p3p007354)が素早く回避行動をとりながら呟く。
以前アースマーンへ飛び立った無数の戦闘用ゴーレム『ハイ・アームズ』たちと戦ったが、あのときの機体と比べるとカラーリングが異なる。よく見れば武装もやや派手になっているように見えた。
後詰めの城に備え付けるだけの強さをもったゴーレムということである。
「こちらの動きに対応して出撃させたという所か……放っておくと厄介だな」
エピトゥシ城と同時にショコラ・ドングリス遺跡深部を攻略する大攻勢作戦『Stahl Eroberung』。
この作戦の魔王城攻略部分は、主に『城内に突入してから』が本番である。もし突入前にこのハイアームズたちによって部隊を瓦解させられた場合、計画は大きく狂うだろう。
だが、今ある空中戦闘戦力だけで彼らを迎撃できるだろうか?
ルシアとルクトはそれぞれの武装を握り、覚悟を決める。
「これは所謂……『露払い』か?」
「『縁の下の力持ち』でして」
「いいえ――」
スピーカーによって拡大された声がして、振り返る。
空にかかった雲よりズズズと姿を現したのは武装飛空艇ハンドレッド号。
声は、ジュリエット・ラヴェニュー(p3p009195)のものだった。
飛空艇内。マイクを握り、身を乗り出すジュリエット。
「私達こそが『一番槍』――未踏破の魔王城を攻略するという伝説に、真っ先に名を刻むのよ!」
後ろでは操縦桿を握る改造屋ハンドレッド。彼はなんとも楽しそうに舵をきっている。
「いやあ、浮遊島へ乗り付けるだけの船を作れと軍から言われた時は気乗りしなかったけど、まっさかまさかこの船でドンパチできる機会がめぐってくるとはねえ! じゃ、満を侍して言わせていただこうか――『こんなこともあろうかと』!」
パチンと指をならすハンドレッド。そのまた後ろで微妙な顔をしていた武器商人ファイが壁際のレバーをガチャンと上げた。
するとどうだろうか。武装飛空艇ハンドレッド号から特殊弾頭を備えた機銃が複数露出し、ハイアームズたちめがけて援護射撃を開始。
更に鳥であれば卵を産むような部分のハッチが開き、卵形の物体が放出される。
ハイ・アームズのそれに似ているが、カラーリングは紅蓮の赤。
その一つに、いつの間にかジュリエットは騎乗していた。
「『ウィッシュステラ』! 『ヒンメル・ゴーレム・アイン&ツヴァイ』! 気張りなさい、初お披露目よ!」
空を飛ぶゴーレムが激しい撃ち合いをするなか、更なる勢力が姿を見せる。
船についてくるかたちで、飛行媒体を用いて飛んでくるユーフォニー(p3p010323)とマリエッタ・エーレイン(p3p010534)。
そして、気象精霊のポポッカ&フラペペである。
「お待たせしました! この戦い、私達も手伝います!」「ムシャア!」
ユーフォニーの頭上からお花がぴょこんと顔を出し、マリエッタはくすくすと笑う。
「私達だけではありませんよ」
「「そういうこと!」です!」
ポポッカ&フラペペが続けて叫ぶと、ピッとハイアームズたちを指さすように構えた。
ぽぽんっと音を立てて雪ダルマ型の低位精霊や火の玉型の低位精霊たちが大量に出現。ハイアームズめがけて襲いかかっていく。
「はるか古代より精霊達を縛り兵器としていた魔王の城よ――グリーザハートの夢焔をもって、一切を焼き払わん!」
ムエン・∞・ゲペラー(p3p010372)が精霊達と共に突撃を開始する。
その中にはオデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)の姿もあった。
「味方の精霊がこんなにいっぱい……。これなら勝てるかも!」
太陽の香りがする羽根をはばたかせ、ピッと空に指でサインを描く。プリズムカラーで描かれたサインは太陽の輝きをもたらし、光線となってハイアームズたちへと降り注いだ。
熱気精霊たちは『太陽だー!』とばかりにテンションを爆上げしている。
「これだけいれば、大丈夫だね」
まだガスマスクをつけていないジェックが、ハイペリオンの背の上で言った。
「はい。魔王城へ突入する皆さんのことは、私が援護します。勇者ジェック、あなたはどうしますか?」
「うーん……」
振り向けば、『ハイペリオンの加護』を受けた仲間達が次々と降下してくる。
自らの飛行能力の高さを活かして早速戦っているカイト・シャルラハ(p3p000684)や、加護によって空をサーフィンのように走り抜ける咲々宮 幻介(p3p001387)。
ミスト(p3p007442)やリュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)も魔王状周辺に浮かぶ直径5m前後の小さな浮遊岩石群へと次々に着地、城へ行こうかこのまま戦おうかという選択を始めているようだ。
「元々空中戦闘が得意なら、このままここで戦うのもアリだな」
「といっても、ハイペリオン様の加護があるから。媒体飛行程度でも充分戦えるでござるよ」
「足場も沢山あるし、飛ばずに戦うのもできそう」
「わっふー! ゴーレムも精霊さんもいっぱいだー!」
ある者はそのままハイアームズとの戦いに入り、ある者は魔王城へ突入していく。
このままここで戦ってもいい。
だが、気になることもある。
「セレンディが言うには、魔王城には確か……『アレ』がいるんだよね」
ジェックの言葉に、澄恋(p3p009412)と耀 英司(p3p009524)がムムっと唸った。
「セレンディに傾けただけの戦力を、あれらにはあてるべきかもしれませんね」
「復活怪人は負けるさだめだが……侮ると死ぬってのも常識だからな」
●陰謀は地下にありて
魔王城内部への突入作戦を描く――前に。ある地下遺跡について語ろう。
「やはりオーリー・バイエルンが地下遺跡の占拠に乗り出したか」
物資を詰め込んでいるであろう大きな木箱の列に身を隠し、エッダ・フロールリジ(p3p006270)は世にも冷たい表情をした。
木箱の向こうに広がっている光景を、端的に示すとこうだ。
――巨大な扉。
――倒され拘束されたシカ型の古代獣。
――展開した軍の部隊。
ここはアーカーシュに存在する地下遺跡のひとつ、フロイライン・フォルスト『ジーク・エーデルガルト』。名前はなんだかものすごいが、『樹の角と顔』と呼ばれる古代獣が守っていた『影の森』の奥に存在した遺跡地帯である。名前は……なんだかフロールリジ騎士団のメンバーが大演説をかまして決めたらしい。
佐藤 美咲(p3p009818)が手鏡を使って箱の向こうを覗き込むと、丸眼鏡で痩せ型の軍人が指揮をとりつつ、巨大な門にドリルをぶちあてていた。なんとか破壊して向こう側へ行こうとしているらしい。
「あの門って、『鮫参道返之扉』じゃないスか?」
美咲は以前、謎の縦穴やゴーレムが守る水路を突破しあの門を発見したことがあった。
われはいわゆる抜け道というやつだったんじゃないだろうか……と、今なら思う。
なぜなら、『影の森』周辺に展開していたオーリー部隊の警戒を掻い潜ったのも、その抜け道を使ったからなのだ。
「ダクトや下水道を通って侵入するのって、古代遺跡でもセオリーだったんスね」
「え、なになに? どういうこと?」
セレナ・シャヴィー曹長がちょこんと木箱の壁から頭を出し、それを美咲とレイリー=シュタイン(p3p007270)が一緒になって引っ張り下ろした。
「頭を出さないでっ」
「死にたいんスかっ」
「えー、だって……突撃していけば大抵のことは解決しそうじゃない?」
頭を使わないタイプの軍人はこれだから……と思った美咲だが、一方のレイリーは何かピンときたようで手を合わせていた。
「確かに、このまま手をこまねいているよりは、突っ込んでいったほうが相手の狙いも知りやすいわね」
「本気?」
「ボクは賛成です!」
リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)が元気よく手を上げよう――として、顔の横にピッと掲げるに留めた。
「あそこに捕まってるの、『樹の角と顔』さんデスよね」
リュカシスが指をさしたのは、展開した軍に倒され拘束されたシカ型の古代獣だった。
いくつにも分岐した木の枝のようなツノをはやし、まるで南国部族の祖霊を現す仮面めいた顔をした、大きなシカだ。これをさしてリュカシスは『樹の角と顔』というすんごい名前をつけたのだが、浅くない付き合いもまたあるのだ。
一度目は『入れば殺す』という警告だけで引き返すことを許され、二度目はほんとうに殺し合いになったにも関わらず倒して話し合いを求めると『時が来ればここへ来て良い』とまで言われた。
オーリーはどうやらあの古代獣の生け捕りを狙っていたようで、当時は『取り逃した』という報告をしたのだが……。
どうやら自分達の手で捕まえるに至ったようだ。
「しかし、これまでの動き方に対して行動があまりにも過激ですね」
「そう思うか」
それまで様子をうかがっていた只野・黒子(p3p008597)が声を出し、エッダがそれに頷いた。
「話に聞くオーリー・バイエルン……その性格からすれば、あの扉を開いた後に部隊を送り込むでしょう。何か、彼らにとって急がなければならない自体が起きたということかもしれませんね」
「パトリック・アネル特務大佐の『おかしな動き』に関係が?」
レイリーがそう言うと、それまで黙って話を聞いていた天之空・ミーナ(p3p005003)とイーリン・ジョーンズ(p3p000854)が反応をみせた。
「面白そうな話をしてるじゃない。あなたたちがこっそり『政治のチェスゲーム』をしてる気はしてたけど……」
「自分を駒にしてこそのチェスでありますから」
エッダの飄々とした言い方に、レイリーが苦笑する。
「とにかく、特務大佐の動きがあやしいっていうのは賛成。オーリー・バイエルンが焦った原因も、きっとそれがらみよね。だってあのひと、ズブズブに特務派だもの」
「まあ、つまり……」
ミーナがこきりと首をならす。
「あそこに突っ込んでいって全員ぶちのめせば、色々とスッキリするってことだな?」
あまりにも分かりやすい要約に、リュカシスが『それです!』と手を叩いた。
●魔王イルドゼギア・クローン
――満を侍して。
多くのトラップを乗り越え、いくつも現れる『四天王のクローン』を倒し、エピトゥシ城の最深部までたどり着いたイレギュラーズたち。
そんな彼らを待ち構えていたのは、世にも荘厳な『玉座の間』であった。
大きな両開きの扉のさきには血のよに赤い絨毯がまっすぐに伸び、数段の階段のさきに石の玉座があがる。
そこに腰掛けているのは、『魔王』と言われて真っ先に想像できるような、いかにも悪魔めいた存在だった。
屈強な肉体は硬い鱗に覆われ、竜のごとき翼を背から、血に濡れたような角を頭からはやし、かたわらには禍々しい剣が立てかけてある。
誰かが何かを言う前に、剣を手に取った魔王はガツン――と地面をその切っ先で叩いた。
「我こそは、魔王イルドゼギアである」
それは威厳に満ちあふれた、一挙一動が生まれながらの覇者であると感じさせるような振る舞いであった。
骸骨のような顔面の奥では、ギラリと禍々しい光が灯り、それがこちらを睥睨しているのがわかる。
ビリビリと伝わるプレッシャーは、物語に聞く魔王のそれを実感というかたちで遥かに上回った。
あれが、セレンディの言っていた『たいへんなこと』だ。
魔王が自らの後詰めとして作ったこの城には、自らのクローン体が存在していたのである。それは当然、セキュリティシステムが働いたことで動き出し、いまここにいる。
もし彼が城から出て、たとえば鉄帝国にでも降臨しようものなら民草にいったいどれだけの被害が出るかわかったものではない。
いや、警戒すべきはこの魔王だけではない。玉座の横に並ぶ四体の怪物。
「我輩は四天王が一柱、獣王ル=アディンである。怯え、竦めよ、さすれば血肉も臓腑も美味くなる。喰らうてくれよう、その魂の一欠片さえ!」
「喜べ蒙昧、余へひれ伏す光栄をくれてやる。余こそイルドゼギアが後継、四天王ヴェルギュラぞ。魔王が奴めを討ち滅ぼし、真なる魔王と君臨すべき者だ。蒙昧よ、その素首、余へ奉るを赦してやろう」
「某めはダルギーズと申す。栄えある四天王が末席を許されし一つの剣士――その慣れ果てにござる。死してなお主命をお守りせんがため、何人たりともここを通す訳には参らぬ。勇者よ、いざ尋常にお覚悟を」
「――呵々。運命は私に、かくも鮮やかな魂共が散りゆく色彩を看取る愉悦を与えたもうたか。これは愉快千万。さて、あなたが天へ昇り逝く色彩は何か。生の輝きを晒したまえ」
禍々しい気配をさらけ出した『四天王』。彼らもまたクローンなのだろうが……一対一で戦って勝てるような相手には見えない。それぞれがかなりの強者だろう。
しかし、ここで退くわけにはいかないのだ。
たとえクローンといえど、『魔王の再来』などという事態を引き起こすわけにはいかないのだ!
- <Stahl Eroberung>もうひとつの魔王と、あたらしい勇者伝説完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別長編
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年07月24日 22時05分
- 参加人数40/40人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 40 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(40人)
リプレイ
●天空闘騎ハイ・アームズ
両腕を広げ、天空を鳥のように飛ぶゴーレムの群れがあった。
城からはえた砲台のような穴から次々と放たれたゴーレムが飛行状態をとり、広く展開していく。
城に至るための道は限られ、そして防御も楽ではない。囲まれ集中砲火を浴びせられれば味方の精鋭部隊はひとたまりもないだろう。
「ならば、道を切り開く――グリーザハート!」
剣にフェニックスの焔を纏わせた時、『焔王祈』ムエン・∞・ゲペラー(p3p010372)の背より炎の翼が広がった。
大きく羽ばたく夢焔ノ翼。そこに太陽の輝きが宿る。
途端。ムエンめがけてハイアームズの熱光線が放たれた。一発のそれをリフレクター・オーブを展開した結界によって弾き、そして突っ込む。
翼を鋭く構え加速したムエンの斬撃は、すれ違いざまにハイアームズの腕を切り落とした。
「あれだけの数のハイ・アームズを作るのに何体の精霊を犠牲にしているのだろうな。
いや、ブーク・カドゥールで見たあの大精霊と似た『元々そう在るように作られた』存在なのか?」
ムエンは想像した。産まれて間もない精霊が核に閉じ込められ、戦うための部品として消費されていくさまを。
「解放しよう。精霊たちも、仲間も、どちらも守ってみせる!」
振り返ったハイアームズが剣に高熱を持たせ斬りかかってくる。
それを剣で受け止め、ムエンは決意に瞳を燃やした。
剣の炎が、まばゆく激しく燃え上がる。
直後。直上。急降下する影あり。
「破ァ!」
ムエンの剣が炎を高め相手の剣を振り払ったその瞬間、真上より一直線に降下した『青の疾風譚』ライオリット・ベンダバール(p3p010380)が両手の剣を思い切りハイアームズへと叩きつけていた。
彼の巨体もあいまって、片手剣とは思えないサイズの巨大な鉄の塊がダブルで叩きつけられれば、いかに頑強なハイアームズとてその装甲を割るだけのことはおきる。
「この状況でこんなこと言うのも変な話っスけど……なんかこう、わくわくするするっスよね!
勇者と魔王とかこう、正直、御伽噺とか言い伝えレベルでしか聞いたことがなかったっスから。
そんな話の一端に自分が足を踏み入れていると考えたら。
興奮するなって方が無理な話っス!」
どこか無邪気な笑みをリザードマン系の顔に浮かべ、牙を見せて笑うライオリット。
ダメージを受けたハイアームズが頭の単眼をチカチカと点滅させると、周囲のハイアームズたちが反転。ライオリットへと目を向ける。
味方への救援要請だったのだろうか。複数のハイアームズたちから一斉に熱光線が浴びせられる――かに見えたそのとき、ライオリットは青き残像となってその場から動いた。
残像だけを光線が貫き、逃した敵を追って首を振るハイアームズの背後に、彼は再び現れる。
「オレはオレのできる事をこなしていくっス。突入組が安全に進めるように全力を尽くすっス!」
交差した剣をハイアームズの首に押し当てた。ハッとしたように首を180度回転させてライオリットを見るが、もはや遅い。ライオリットの剣が断ち切り鋏のごとくハイアームズの首を切り落とした。
「状況は優勢……のようですね。人手も足りているようです」
「なら、この状態をなんとか維持するのがお仕事ですね」
ハイペリオンは翼をぱたぱたとやりながらホバリングし、ほわほわと温かい光を放っている。
まるでお日様にほしたお布団のような香りがして、『誰かと手をつなぐための温度』ユーフォニー(p3p010323)はつい深呼吸をした。
荒れ狂う嵐の領域を越えたときのようにドラネコさんのクッションに跨がったユーフォニー。彼女の頭からムシャアといって精霊雑草ムシャムシャくんが顔(?)を出した。
「あっ、今は出てきたらだめですよ! 危ないですから!」
ぺちんと頭をおさえて引っ込めさせると、空から俯瞰した視点をエイミアのホログラムディスプレイに映し始める。
「お城の中へ向かったみなさんも頑張ってます。外は私たちが……!」
「その通りです。――ポポッカさん、フラペペさん! 行きますよ!」
『輝奪のヘリオドール』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は小さな浮島の一つからぴょんと飛ぶと、足元に赤い円盤状の物体を出現させた。その上にすとんと立つと、そのまま空へと浮きあがっていく。
常にクルクルと流れるそれは水のようで、血のようで、あるいは……。
「精霊たちはなんとか戦ってくれてるわ。けど……」
「敵のゴーレムのほうが明らかに強いです。低位精霊たちじゃ時間稼ぎにしかなりませんよ」
「分かっています」
マリエッタは意識を集中させた。ほんのりと鉄の香りがする。
「ユーフォニーさん。砲撃を。低位精霊さんたちはハイアームズに一撃ずつ与えて即後退。相手に回避ペナルティを与えるんです」
マリエッタが魔力の籠もった赤い液体をピッと飛ばすと、ユーフォニーの手首に腕輪のように張り付いた。流れ込む魔力がユーフォニーを満たし、いくら撃っても尽きないように思えた。
「ありがとうございます! それじゃあ行きますよ今井さん!」
「いつでも」
ユーフォニーは今井さんと共に魔法の砲撃を開始。無数の文房具や名刺が飛び、更にはユーフォニーの周囲に飛び出したドラネコたちが口を開いてドラネコブレスを一斉放射した。
「わぁっ、豪華!」
「その調子です」
マリエッタは微笑むと、戦線をあげるべくポポッカたちと共に前進を始めた。
というより、勢いのついた仲間達にあわせての前進である。
「ああ、もう突っ込むんですね。わかってます。だからこそ……」
マリエッタは先ほどユーフォニーに与えたような血の腕輪を自らの両手に突如生み出すと、目を細めた。
目の色は金に近づき、長い髪は半分以上白くなった。
腕から広がった血はまるで長い袖のようにかわり、全身を覆い始める。
赤と黒で染まった服は、まるで魔女のそれであった。
「なんだかあなた、魔王より魔王っぽくない?」
「ンンッ!」
ポポッカの言葉にマリエッタは咳払いをし、そして片手を掲げた。
「今は、そう。皆さんを導くためですから!」
ビッと前方のハイアームズを指さすと、大量の血のナイフが飛び突き刺さっていく。
それは攻撃であり、同時に集中攻撃対象の決定でもあった。
「おんやまあ、まさか魔王と戦う事になるとは思いもしなかったでありんすなあ?
で、ごぜーますが、わっちの今回の戦場はここ。
魔王との戦いも興味はごぜーますが、それは勇者達の役目。
わっちの役目ではごぜーませんゆえ」
『Enigma』エマ・ウィートラント(p3p005065)が加護をうけた身体で飛び、ハイアームズを攻撃射程圏内に捕らえるやいなや『シムーンケイジ』の魔術を発動。
ハイアームズはボロボロになった装甲でなんとか耐えた――かに見えたが、エマの放つ『シャロウグレイヴ』による追撃を受けて内側から破裂。墜落していった。
おんやまあと細目で笑うようにして呟くエマ。
その一方で、『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)と『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は城のすぐそばに展開していたハイアームズ部隊へと突撃を仕掛けていた。
「精霊たちと一緒に空を舞って戦えるなんてなんだか故郷に戻ったみたい!
さすがに施設の管理をしている精霊たちはいなさそうだけどテンション上がっちゃうわ」
オデットの周囲にぽぽぽんっと音を立てて低位の熱気精霊たちが出現。お供するよとばかりにオデットと足並みを揃える。
どうやらオデットの放つ太陽のぬくもりが心地よいらしい。
「みんな! テンション、上げてくわよー!」
「「おー!」」
木漏れ日の妖精と、熱気の精霊たち。そして更に太陽の翼ハイペリオンの加護をうけ、オデットのテンションはマックスに達していた。輝く翼で加速するオデット。
「サイズ、よかったら付き合ってよね!」
「当然、付き合うさ」
横について飛ぶ『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)。
(空中戦か。落とされないように気を付けないとな……。
いくら空中戦の適性が上がる加護があっても、いつもの地面から浮遊した感じの低空飛行での戦いと勝手が違う以上、気を付けないと、足下を救われかねないからな……)
いつものように色々なことを考えながら、サイズは『鎖血界』の魔方陣を展開。自分とオデット、そして低位精霊たちの防御を固めるため赤い鎖を呼び出すと、防衛のために光線を放ってくるハイアームズたちにむけて鎖を放った。
空中で鎖と光線が次々に相殺されていく。
そうしながらも、サイズは『広域俯瞰』の能力を使って後方に回り込もうとするハイアームズたちの姿をとらえていた。
「右側から二機、左から一機。空中の浮島に身を隠しながら後ろに回り込もうとしてるぞ」
「だったら、左は任せていい?」
オデットの問いかけに、サイズは是非もないとばかりにハンドサインを返す。
「妖精武器として、妖精のオデットさんを狙う敵がいるなら優先排除だ、妖精は守らなければ」
サイズは鎌に謎のユニットを取り付け大砲のように構えると、魔力のビーム砲を発射。
対するハイアームズも光線を放ってくるが、サイズの鎌と相手のコアにそれぞれ命中。爆発を起こす。
対するオデットは右手をグーにするとキラキラのエフェクトを纏わせた。
「精霊たちがたくさん来てるんだもの、私もいいところ見せちゃうわよ!」
ギュンと残光を残しながらカーブをかけると、二機のハイアームズめがけて突進。
至近距離まで飛び込みオデットパンチ(光の塊となって相手を貫くオデットの必殺技である)を繰り出した。
爆発し墜落するハイアームズ。もう一機がオデットをとらえようと手を伸ばした――その腕にサイズの赤い鎖が巻き付く。とめられたのは一瞬だが。一瞬あればなんでもできる。周囲の低位精霊たちが一斉に飛びつき、ぽぽんと爆発し始めた。
空中で起きた爆発。迸る光。
浮島を次々と跳躍してわたっていた『怪人暗黒騎士』耀 英司(p3p009524)は前ボタンを外したジャケットとネクタイを風に靡かせながら仮面にはしる横一文字の視界確保部分を内側からキラリと光らせた。
何者にも見えぬ彼の素顔は、常人ではとてもではないが活動できないような細いスリット越しに外界を覗き見ている。
「さぁて、仕上げの露払いといこうぜ。エスコートは任せてもらえるか? ――澄恋!」
跳躍。宙返り。後方より飛んできたワイバーンへととびのって騎乗状態となると、並行して飛んできた存在へ振り返った。
ハイペリオン目が合った。
「え?」
「え?」
やや身体を傾けるハイペリオン。
おなかんところに両手両足をガシイッてやってしがみつく『花嫁キャノン』澄恋(p3p009412)がいた。
「あ、時間ですか!? ハイペリオニウムを接種していたら時の流れを忘れてしまってあはは」
明後日の方向をみながら顔を赤くしごまかすように笑う澄恋。
背面飛び状態になったハイペリオンのおなかからトゥッていいながら跳躍すると、回転をかけながら太陽を背に身構えた。どういう理屈か構えた一瞬で回転が止まる。その両手にはしっかりと薙刀が握られていた。
「元気なのは良いことですが、魔王様の手下とあらばブーク・ゴーレムより強いのは確実! 死なないように本気で参りましょう!」
停止をやめた澄恋は再び高速回転をかけると単眼を光らせ両腕をガトリングガンに変えたハイアームズたちの一斉射撃を無理矢理突破し一体を左右真っ二つに切断した。
「――わたし、か弱く脆い乙女ですので」
「ヒュゥ」
英司が『nice kayowai』て言いながらサムズアップ。
そして立てた親指を逆さに返し、自らのベルトバックル前に翳した。
「目覚めてばっかのベイビーたち。悪いがもう――寝かしつけてやるよ」
ベルトバックルを中心に渦を巻くようにあふれ出した黒き雷。一瞬で英司を包むと次の一瞬には彼を全身鎧の暗黒騎士へと変えていた。短縮版変身である。
「双月――暗黒斬!」
黒い一撃が距離を超えて走り、並んだハイアームズたちを一度に貫く。更にワイバーンの加速によって距離を詰めた英司の剣が交差したかと思うと、先頭の一体を黄金の稲妻を纏った暗黒エネルギーで切り裂いた。
ザッと浮島に着地し、ブレーキをかけ見栄をきる英司。
背後で起こる大爆発。
――の中から両目と口を全開にかっぴらいて飛び出す澄恋。
「か弱い(ワイルド)・乙女(キング)・ストリーム!」
「マジか」
高く掲げた手には爪。振り下ろした腕は浮島へとぶつかり、『ボッ』という爆音と共に浮島もろとも全てを吹き飛ばした。いっそ英司ごと。
「『蒼空』ルクト、作戦行動開始。……突貫するぞ、援護を寄越せ!」
「言われずとも!」
飛空艇ハンドレッド号から全方位に向けて乱射される特殊弾頭。
『蒼空』ルクト・ナード(p3p007354)はその中を掻い潜るように飛びながら、器用にターンをかけてハイアームズの後方をとった。
反転し機関銃を向けようとするハイアームズだが、それよりもルクトのアサルトライフルとミサイルポッドが火を噴くほうが早かった。
振り返ったハイアームズが爆発に包まれ、螺旋状の煙をふきながら墜落していく。
あらためて周囲を観察すると、ハイアームズたちはルクトたち(厳密にはハンドレッド号)の周りへと集まってきている。
魔王城へ突入する仲間達への攻撃はもはや諦めたといったところだろう。
「ならば、あとは連中を撃墜するだけ……か」
今日の鉄帝にはゴーレムが降るな。などと微笑以下の笑みを浮かべ、ルクトは魔王城をかするように飛ぶ。
「さぁ、来い……貴様らが私達を墜とすのが先か! 私達が貴様らを全て墜とすのが先か!」
後方に二体のハイアームズ。
背にミサイルポッドを背負った彼らが一斉射撃を繰り出す――が、ルクトは追尾する全てのミサイルを引き離す速度で飛行。
反転してアサルトライフルを乱射することで全て破壊すると、空中でおきた爆発の向こうにハイアームズたちの影を見た。
いや、厳密には――。
「後ろを守らなくて良いのか? ハイアームズ」
ルクトの後ろから翼を広げて現れる、『にじいろ一番星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)。
彼女のアンチマテリアルマジックライフルの銃口には魔法の光が溢れ……。
ドウッという空気を穿つ音と共にハイアームズとその後方にあった城の一部が破壊された。ゴーレムを射出していた射出口だ。先ほどまでのように次々と増援を放つことはできなくなったことだろう。
「ルシアたちが『一番槍』でして?
あのお城に突っ込んで、伝説の幕開け担当になる、のですよ……。
それって何だか面白そうでして! やれるだけのことはやってやるのです!」
更なるチャージ。その暇を与えるものかと周囲のハイアームズが集まるが、ルシアの魔力量であれば二十秒かかるチャージも数秒ですむ。
「『一番槍』が通るのです! 道を開けるのですよーー!!」
ルシアはルクトと背をあわせると、互いに背をあわせたまま回転。フルオープンアタックと破式魔砲をまとめて周囲のハイアームズたちにぶちまけてやった。
ここまでの火力をぶつけられて無事でいられるハイアームズはいない。次々と墜落するその光景の向こうに、こちらに手を振る仲間達の姿が見える。魔王城の正面ゲートを潜り突入する部隊だ。
「魔王城踏破、いってらっしゃいですよーー!!
全部終わるまでにはお空は綺麗にしておくのでしてーー!!
だからみなさんも生きて帰って、武勇伝を聞かせてほしいのですよーー!!」
ルシアは笑顔で手を振り、彼らを見送ったのだった。
ハイアームズの放つ熱光線を紙一重でかわし、『紅蓮の魔女』ジュリエット・ラヴェニュー(p3p009195)の長く赤い髪が切れた。
『ウィッシュステラ』にまたがった脚に力を込め、背部のバーを片手で掴むと鬱陶しそうにうしろ髪に指を絡めた。それだけでパチンと紐状のエネルギー体が生まれ彼女の髪をコンパクトに結ぶ。
すると、ジュリエットはニッと歯を見せて笑った。
今までになく、愉快で仕方ないという笑みだ。
「良いわね、まさに大舞台! 名乗りを上げるにはもってこいじゃない!
こんなに楽しい日は元の世界でも滅多になかったわ、この空に私の作品達の活躍を刻んでやるわよ!」
『ウィッシュステラ』は右腕を翳すと、オプションとして備え付けた杭打ち機をスタンバイ。先ほど光線をかわしたハイアームズの顔面に手のひらをドンと押しつけると、右腕側面に空いたコネクタに左腕にオプションした回転具を押し込んだ。螺旋の回転構造をもったバンカーが鋼の杭を打ち出し、ハイアームズのボディを見事に貫通。爆発を起こす姿を背景にして魔王城へと突っ込んでいく。
そんなジュリエットを阻もうと、両腕をガトリングガンにかえたハイアームズが三体同時に並んだ。単眼より熱光線を発射――するが。
「アイン!」
回り込むように前へ出たヒンメル・ゴーレム・アインが両腕と両肩に畳んでいた展開式増加装甲を起動。巨大な盾となったそれで集中熱光線を防御した。
「ツヴァイ!」
絶妙なコンビネーションで飛び出したもう一機。ヒンメル・ゴーレム・ツヴァイが腕部に格納していた突撃槍を展開。高熱を纏ったそれはハイアームズの胸へと突き刺さり、装甲を破壊して内部のコアをも破壊した。
その戦い方には、どこか人の温かさが……あるいは願いがあった。
「ゴーレムとはすなわち、魂の偽造……。
であるなら、なんの魂を摸したかによって意味が変わる」
きっと、もしかしたら。ゴーレムとは誰かの願いの形だったのかもしれない。
いつまでもいつまでも、どこまでもどこまでも、この願いが続きますようにと紡がれたシステムなのかもしれない。
なにせ今目の前で戦うヒンメル・ゴーレムには、同じ空の下離れていても共に戦う彼女の祈りが籠もっているのだから。
「折角この子を預かってきたからには、初陣を最高の活躍で飾ってあげようじゃないの。さあ、暴れるわよ!」
●大体エーデルガルト騎士団のせい
現代の勇者たちが魔王城へと突入していく、その一方。
地下遺跡の中でも特に侵入に手間取った遺跡『ジーク・エーデルガルト』では特務派もといパトリック派であることを隠しもしなくなった鉄帝軍人オーリー・バイエルンがフロアを占拠。入り口の『影の森』やこのフロアに兵を配置し、巨大な扉をなんとかこじ開けようとドリルやバールをねじこみまくっていた。
「なにがあそこまでさせる。扉ひとつ明ける程度なら、私とて秘密裏に動いておいたほうが楽だとわかるぞ。扉である以上、時が来れば開くのだからな」
『導きの戦乙女』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)が大きな木箱の後ろに身を隠しつつ、手鏡でオーリーたちの様子をうかがう。兵らは扉のほうをぼうっと眺め、小銃の口は下におろしてしまっている。
「油断大敵、ってことを教えてあげないとね!」
セレナが鼻息荒く言うと、『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)が『そーですそーですー』と空気のように相づちをうった。
集団のなかで誰が発言したのかわかんなかったけどなんとなく勢いがつく、ということがたまにあるが、美咲はそれを意図的におこすセンスがあった。
「じゃ、あとはエーデルガルト大佐殿にセレナのおもりを丸投げするということで」
「いうことで、じゃない」
『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)は低いトーンで返すと、ジュラルミンケースから取り出した鋼鉄のグローブを腕にはめ込んだ。指を内部の革グローブに通し、小指から順に波打たせるようにしてなじませる。そして『パキキキキ……』と静かに甲側の鉄板を鳴らした。
「私に弓を引くか、オーリー・バイエルン。よもや立場を対等であると思い違ったか? 貴様如きが、随分己に高い値をつけたものだな」
その一方で、『拵え鋼』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)は革の鞄を開いていた。姉が『観光も済んだから帰るわね。友達と遊園地に行く約束があるの』とかいって帰る際に置いていったものだ。
中には手紙と、なんだかごてごてとした機械のかたまり。
手紙にはホランドの字で内容の説明が。機械にはジェイビーの字で『kick A』――ぶちかませという意味の鉄帝スラングがペイントされている。
「負ける気がしません。いきましょう!」
あえて声を張り、ぴょんと木箱に立ち上がる。
それはブランダ、エッダ、セレナ、そして『ショッケンが倒せなかった女』レイリー=シュタイン(p3p007270)も同じだった。
「こんなところで会うとは奇遇ねオーリー! お散歩かしら!?」
大声を出すレイリーに、思わず振り返った兵たちとオーリー。
「どこから入っ……いや、撃て!」
慌てた様子で叫ぶオーリーに応じて、兵士達がアサルトライフルの乱射を開始。
が、レイリーは翳した両腕に格納していた白い盾をダブルで展開。
変形・合体させ自らを覆えるほどの巨大な盾に変えると集中した銃撃を盾で受け止めた。
「私の名はレイリー=シュタイン! ショッケンが倒せなかった私を、貴方達は倒せるかしら?」
挑発的に言いながら木箱から跳躍。剣を抜いて突進してくる兵士めがけてシールドバッシュを叩き込む。
「こんなので私を倒せると? 思っているのかしら―!」
相手を押しつぶした状態で盾の半分を騎士槍に変形させると、遅れて突進してきたもう一人の剣を払う。払ったそばから、相手の腹に突き刺した。
脚部を展開。スラスターを露出させ、強引に突っ込むと相手の腹を刺した状態のまま積み上げた土嚢へと激突した。
咄嗟に相手の兵士が腰から拳銃を抜き至近距離で打ちまくるが、レイリーはむしろ不敵な笑みでそれにこたえる。
「四人とも、今よ!」
「ありがとレイリー!」
オーリーめがけてまっすぐ走り出すセレナ。腕に装着した大砲を、狙いもつけずにぶっ放しながらまっすぐに突進するさまは相手からすれば脅威だろう。足が遅くて的がでかいくらいしか欠点のない兵士が今まさにまっすぐこちらに向かってくるのだ。
兵士の一人がロケットランチャーを取り出し、発射。セレナに直撃し爆発がおこる。すぐそばの土嚢が爆ぜて砂が舞い上がる――が、その中からリュカシスが飛び出した。
「早速使わせてもらうよ、ホリー!」
リュカシスが持っていたのは、有り体にいうと鞄だ。持ち手が金属のバーになった四角い鞄。しかし親指でスイッチをいれることで鞄の前方が展開しチェーンソーの刃が飛び出した。もうひとつの持ち手を握り、エンジンをかけて激しく唸らせながら突進する。
対抗したのはライオットシールドを持った重装歩兵だ。
が、シールドに思い切り押しつけたチェーンソーはそのままシールドを切断。相手の装甲をがりがり削ってそのまま突き破った。相手が悲鳴をあげるのを無視して、リュカシスはすごい力で相手をぽいっと放り投げた。
「えへへ……」
両目を大きく開き、笑みすら浮かべる。
彼が学校で特にやべーやつだと思われている時の顔だ。
「またお会いしましたね、バイエルン殿。……強引だなあ。こんなことなら『樹の角と顔』は死んでしまってもういないって伝えた方が良かったですかね」
「ッ――」
リュカシスの迫力に気圧されかけたのか、オーリーが口をむすぶ。
かわりに、ライオットシールドをもった重装歩兵たちが並びシールドの穴に対応した拳銃をがちゃんとはめ込んだ。
要は盾の裏から撃ちまくるための装備だ。
ドカドカと結構な威力で放たれる銃弾――を。
「説得は任せたぞ、エッダ。私はちょっと行ってくる」
ブレンダは夜道をひとりあるくかのような気軽い足取りで進んでいった。
「ほらほらどうした? 貴様らも鉄帝軍人ならば剣を振るえ、銃を構えろ。私はここにいるぞ? さぁ、当ててみろ!」
笑みすら浮かべるブレンダに、銃弾は……当たってはいた。
当たってはいたが、当たるそばからブレンダの剣によって次々に弾き飛ばされるのだ。まるで目に見えない結界があるかのごとく、両手にもった二つの剣を(長さからして両手剣っぽいのに)縦横無尽に振り回し銃弾という銃弾をはねのける。
もはやブレンダは『歩く壁』だ。
そのプレッシャーに、いかに鉄帝軍人といえど気圧される。
相手の盾をむんずと掴み、ひっぺがすブレンダ。
その間に迫ったエッダが鋼のグローブで歩兵を殴り飛ばした。
「敢えて名乗るが、エーデルガルト・フロールリジだ。
伝令が遅れ申し訳ないが、現在の貴官らの働きは、軍令に背いている。
即時に作戦を停止し、私の指揮下に入り、次の指示を待て」
鋭く、重く言うエッダに兵士たちは一瞬だけ顔を見合わせるが……オーリーの声がそこへ挟まった。
「嘘だ! エーデルガルト大佐はローレットに与するため軍紀違反を犯している! 粛正すべきはヤツのほうだ!」
「水掛け論のつもりかオーリー。鉄帝式の水掛け論がしたいのかオーリー?」
鉄帝式水掛け論。要するに、喋れなくなったほうが負けの殴り合いである。
「彼の名を語るのね、レイリー」
小柄な身をかがめ、這うように進む『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)。
後ろに続いていた『天駆ける神算鬼謀』天之空・ミーナ(p3p005003)が(レイリーの名前が出たからだろうか)声をかけてきた。
「何の話だ?」
「今回の勇者は彼女だって話よ」
ある意味イーリンにしか分からないようなことを言って、いつものように『神がそれを望まれる』と唱えた。こうなってしまうともうスイッチが入ったようなもの。
あまりにも派手に鉄帝の部隊とぶつかり合うレイリーたちを囮にする形で、彼女たちは古代獣『樹の角と顔』の捕らえられている場所へと回り込んでいた。
ある程度近づいたところでイーリンが手をかざした。止まれの合図である。
「あの古代獣。ただロープでぐるぐる巻きにしただけではなさそうよ。強化ワイヤーだろうし……切断するにはかなり手間がかかりそうね。ロープみたいに結べないのが欠点だけど」
「じゃあどうやって固定してるんだ」
「先端を輪っか状にして専用の固定具とつなぎ合わせるんでスよ」
先を、美咲が続けた。
「個性的な南京錠ってとこっスね。ヘアピンじゃ開かなさそうでス」
「ヘアピンよりマシなツールくらい持ってるんだろ? 貸してくれ」
ミーナが手を出すと、イーリンと美咲が顔をみあわせた。
お先にどうぞといったジェスチャーをイーリンがすると、美咲はどこからともなくピッキングツールを出してくる。
「そんな急に言われても、ピッキングツールしか出せませんよ」
「最適のやつ出てんじゃねえか」
苦笑して受け取るミーナ。美咲は『じゃあそういうことで』と言うと、スッと普通に立ち上がった。
本当に普通に立ち上がったのでミーナたちも気付くのが遅れたくらいだ。それは、敵にとっても同じだったらしい。
「ぅぉ疲れさまでぇす」
ちょっとダルそうに、それも低い男性の声で言う美咲。
古代獣のそばで(古代獣そのものに)警戒するために配置されていた兵士が『ああ』と振り返らずに答える。
「命令です。あっちのタワーディフェンスの重課金ステージみたいな連中を相手しろと」
「マジかようそだろ。今更兵隊一人足したくらいで一瞬で溶かされ――」
うんざりした様子で振り返った兵士の首にサクッとボールペンのようなものを刺す美咲。
「すみません嘘です」
「「――!?」」
いつの間にか見張りに敵が混じっていた。そんな状況に驚いた兵士たちは一斉に銃を構え――たが、飛び出したイーリンが黒剣でもって銃をまるごとはねあげ、ぐるんと勢いよく一回転したかと思うと兵士の腹を切りつけながら通り抜けた。
「よう、バカ共が迷惑かけたな。今助ける……と言いたいんだが」
ミーナも同じよううに飛び出し、魔力を込めた剣で兵士を一発で吹きとばす。
そして、ちらりと古代獣『樹の角と顔』へ目をやった。
「彼らの仲間、か……」
どこかの民族がかぶる仮面のような顔が動いた。表情は分からないが、リュカシスのほうを見たのはわかった。
「外に出る為にもちっとばかり協力してくんねーかな?」
「人間のために人間殺しを手伝えと? さもなくば見殺――」
カチンッ、と『樹の角と顔』を拘束していたロックがはずれ、ロープがゆるんだ。
今度の表情はミーナにもわかる。困惑だ。
「……助けられたのは、三度目になったな」
「?」
一度目は話に聞いているが、二度目はなんだ? ミーナが小首をかしげると、『樹の角と顔』がオーリーのほうを見た。
「戦闘には加わらぬ。だが、『その後のこと』なら手伝おう」
「それは――ああ」
イーリンは拳銃をむけてきた兵士の顔面を掴んで魔力掌底で強制的に転倒させると、ひらめきが走ったらしく上を向いた。
「あなたをここに連れてきた。それも拘束した理由はそれね? あなたに『扉を開けさせたかった』」
「けれど悠長に交渉してる時間が無くなった、と。理由はなんとなーく分かるっスねえ」
察しのいい二人がはやくも納得しているなかで、ミーナは別の兵士の顔面に魔力掌底をあびせ首から上を消し飛ばしつつ唸った。
「どういうことだ。そろそろ私にも説明しろ」
古代獣『樹の角と顔』の救出が済んだ頃には、もはや勝利は確定したも同然だった。
「ミーナ、そっちは!?」
「終わった。そっちもか」
厄介な敵をほぼ片付け、ついにはオーリーを追い詰めるに至っていたレイリーたち。
「結論から言いましょう。特務大佐は魔種となりました」
美咲はそう呼びかけると、オーリーに写真を見せつけた。
ゆっくりと首を振り、『ちがう』と呟くオーリー。
丸眼鏡に反射した光のせいで表情が隠れた。
「ねつ造です。そんなはずが……」
「ローレットへ意図的に敵対した鉄帝軍人が過去どれだけいた?」
エッダがちらりと古代獣のほうを見る。リュカシスが掛けより、話しかけているようだ。
逆に、イーリンがこちらへと歩いてくる。
「ショッケン・ハイドリヒとその部下。彼らが鉄帝国に弓を引いた理由はなんだったかしら」
ブレンダやミーナはなりゆきを見守るつもりのようで、武器は抜いてこそいるが黙っている。
対してオーリーは苦しげな表情をしたあと、吐き出すように言った。
「彼は、反転しなかった」
「……パトリック大佐は残念でした」
美咲は眼鏡に指をやり、今度はこちらが表情を反射で隠した。
オーリーはがくりと膝をつき、うなだれる。
「信じるものがあると人間は生きていけるが。それが壊れるとつらいものだな」
ブレンダがそう呟き、そして扉の前に立つ。
「古代獣――確か」
「分かっている」
『樹の角と顔』は扉の前に立つと、仮面のような顔の額をチカチカと光らせた。
ズズ――という音と共に動き始める扉。
開いた先には、奇妙なものがおさめられていた。
ピンク色の水晶でできた巨大な杭のような物体。
透明なケースにおさめられたそれには、古代の文字でこう書かれていた。
『紅冠の矢』。
●魔王城の四天王
禍々しい剣をさげ、翳した手から闇の魔法を乱射する『闇の申し子』ヴェルギュラ・クローン。
一発一発がこちらを容易にノックダウンしうる衝撃をもつにも関わらず、その手数は激しい。
『青眼の灰狼』シュロット(p3p009930)は大きな柱の裏へと飛び込み背をつけると、ヴェルギュラの魔法を柱によって防いだ。
「天空の島にそびえる魔王城、そしてそこに待ち受ける四天王に魔王。荒唐無稽という言葉がピッタリな鉄帝だけど、ここまでくるといっそ大したものだな……浪漫さえ感じるほどだ」
こんな場合だというにどこか笑えてくるのが不思議だ。だが……。
「笑ってる場合じゃない。四天王を抑えきれなければ魔王と戦うメンバーが挟み撃ちに遭う。ここは、気合いの入れ所……だな」
シュロットは弓をかまえ、チラリと柱から顔を出す。
が、すぐさま顔を引っ込めた。先ほど顔があった場所を闇の魔法が貫き、柱をわずかに削ってむこうの壁に命中。壁面を砕いたらしくぱらぱらと音をたてた。
「こそこそと逃げ回るだけか? 案ずるな人間よ。余へひれ伏すならば奴隷として生かしてやろう。次なる魔王の奴隷となる栄光をくれてやる」
「自分たちはそんな力には屈しないであります!」
反対側から飛び出してきたのは『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)。
光に包まれたかと思うと白いコンバットスーツを纏ってレーザーソードを抜く。
シェームの焔が反応し、光の刀身に炎が燃え上がった。
「天王ヴェルギュラッ! 宇宙保安官が相手になるであります! この世界を貴様等のような悪に、好きにはさせない!!」
脚部からも炎を発し、斬りかかるムサシ。
ヴェルギュラはシュロットに魔法を放ちながらも半身をムサシへ向け、彼の剣を自らの禍々しい剣で受け止めた。
「なかなかの太刀筋だ。勇者アイオーンのそれに匹敵するだろう」
「何ッ!? 勇者のことを知っているのでありますか!」
「…………いや、知らないが、言ってみたかった」
「何ッ!?」
かつて世界の脅威となった魔王軍。その幹部ヴェルギュラ。当人はさぞかし凶悪だったのだろうが、いま戦っている彼はクローン。高純度の破壊衝動ゆえにムサシたちを殺しにかかるが、クローンゆえのブレもあるようだ。
もっとも、実力は当時のそれと互角なのかもしれないが……。
「魔王の後継者を名乗るだけあって、威圧感と実力は本物でありますね……!」
何度か剣をぶつけ合ってからシュロットのほうに飛び退いてくるムサシ。彼に後衛を任せるつもりなのだろう。剣を構え魔法の射線をきっていた。
「先ほどの会話からして本気で名乗っていなさそうだが……確かに実力は本物だ」
ヴェルギュラの手数の多さは脅威だ。時間がかかればかかるほどこちらは追い詰められることになるだろう。
であれば……。
「強力な一発に賭けるしかない。ムサシ、やれるか?」
「それならば、とっておきが」
二人は頷き合うと、あえてヴェルギュラから距離をとった。
わざわざ追いかける必要のないヴェルギュラは魔法の射撃体勢をとると闇の力を燃え上がらせ――。
「宇宙保安官が、その野望を打ち砕くであります! ゼタシウム……ストリィィィィィムッ!!!!」
両腕にエネルギーを高め、交差させる動きによって強力な光線を発射するムサシ。
シュロットはそれにあわせ、鋭さの魔法をこめた矢をヴェルギュラへ構えた。
「闇の申し子ヴェルギュラ。お前が魔王になる日など来ない。お前はここで魔王や他の四天王共々僕らに倒され、闇は打ち払われるんだ」
光線と矢が同時に放たれる。
交差する闇の魔法。しかし、撃ち合いの威力ならば――!
「この力! なるほど、貴様達が現代の勇者というわけか……!」
ヴェルギュラは光に包まれ、笑いながら消えていった。
「――あなたが天へ昇り逝く色彩は何か。生の輝きを晒したまえ」
心に滑り込むような声で囁く『魂の監視者』セァハ・クローン。
ありもしない眼鏡の位置を直すかのように中指を額のあたりにもっていくと、そこにあった赤い結晶から禍々しい波紋を広げた。
「私の後ろに!」
『挫けぬ笑顔』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)は魔法の杖を垂直に立てると勇気の魔法を展開した。
その様子に、セァハは『ほう』と感心したように声を出す。
「恐怖の波紋をうけて立っていられるとは……なかなかの勇気。実に愉快千万。あなたの魂が如何なる色をしているか、興味深い」
「散りゆく色彩を見届けるのは、私達のほう! ここは一歩も通さないよ!」
セァハは『ならばこれならどうです?』と手をかざし、空中に無数の髑髏めいた幻影を作り出した。
それらは複雑怪奇な軌道をえがきフォルトゥナリアへと殺到。
しかしヴェルーリアは迫る恐怖にむしろ笑顔を見せた。
空中で髑髏が次々と破裂し、消滅していく。
「負けないよ。私だってこれでも、勇者パーティーの一人だったんだから」
「異界の勇者パーティー……か。ふむ」
そうしている間に、フォルトゥナリアと『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)はセァハとの距離を詰め始めた。
「魔王の復活……こんな時になんですが、高揚してるんです。私が魔王の四天王と戦う事ができるなんて、夢にも思いませんでしたから!」
『フルーレ・ド・ノアールネージュ』。漆黒の刀身を持つ剣を抜き、シフォリィはセァハへと斬りかかった。
青白い髑髏の幻影が間にはさまりシフォリィの剣を受け止めるが、シフォリィはその状態から――。
「――『オプスキュリテ・グラッセ』!」
凍てつくような波動を纏い、そのまま剣を押し込んでいく。
「まだ力が上がるというのですか……!? なんですか、この魂の波動……わたしの魂が、恐れている!?」
「これがかつて勇者と共に戦った『私』ではない私の戦いです!」
シフォリィの魂の影に『誰か』を見たのだろうか。セァハは思わず後じさりした。
その隙を、『頂点捕食者』ロロン・ラプス(p3p007992)が見逃すはずはない。
「手伝うよ。二人ともー」
自らのボディをまあるいスライムフォームに変えると、その中央からポポポンッと小さなスライムボールを発射。
それらを浴びたセァハは振り払おうと骸骨の幻影を作り出す……も、それらが身体にはりついたスライム体に食われるかのように吸い込まれていった。
「しまった!」
「いくよー。ぷるるーんぶらすたー」
ロロンは謎の推進力で自らを『発射』させると、セァハに思い切り激突。かと思うとトプンとセァハを自らのなかへと包み込んだ。
外へ出ようと腕をふるセァハ。しかしそれはロロンの内側につくられら不思議な障壁によって閉ざされ。まるで水槽に閉じ込められたかのように必死に壁を叩く。
が、それも数秒のことだ。
ボッという音がしたかと思うと、ロロンの内側でセァハは爆発し、消滅してしまった。
しゅるしゅると縮み、人間型のフォームをとるロロン。
「ふう、あぶなかったー。二人が弱らせてなかったら抑え込めなかったかも」
おなかのあたりをさするロロン。
随分力を使ってしまったからだろう。身体の奥から取り出した『ハーフ・アムリタ』の瓶を割り、自らに取り込んでいく。
「ううん。助けに来てくれてよかった。私だけじゃ決定的な火力に欠けてたから」
そう言うフォルトゥナリアは元気そうだ。セァハによる精神汚染をかなり受けたはずだが、まるでノーダメージといった様子である。勇気を与える力をもつという彼女だが、自分自身にはその力は適用されないはず。
「本当の勇者……ですか」
ぽつりと呟いたシフォリィの言葉が聞こえなかったのだろうか。フォルトゥナリアは小首をかしげる。
「とにかく、二人とも無事でなによりだね。さ、他のところを手伝いにいこう」
ロロンはそう言ってジャンプすると、スライムフォームになってぽよんぽよんと弾んだのだった。
魔王城の長い長い通路を走り抜ける鋼の人形、ルナ・ヴァイオレット。
屋内とは思えないほど長く続く螺旋状の石畳を、骸骨の馬に乗った『骸騎将』ダルギーズ・クローンが並走した。
「勇者よ、この先へは通さぬ!」
繰り出された剣をルナ・ヴァイオレットは大きく身をひねることで回避した。
殆ど着ぐるみのようなコックピットから、『月下美人の花言葉は』九重 縁(p3p008706)がフウと息をつく。
かつて魔王軍を指揮していたであろうダルギーズ将軍のなれはて。クローンといえどその剣の鋭さはルナ・ヴァイオレットの腕を容易に切り落とせるほどである。
あたればタダではすむまい。
「本当にこんなのと戦うんですね。でも、覚悟できました。
『いつものことを、いつも通り』。勝ちます。……絶対に!」
そして大きく息を吸うと、装着していたマイクつきヘッドギアの調子を確かめる。
感度良好。
「さあ聞きなさい、戦場の歌を!」
ルナ・ヴァイオレットがウサギのみみめいたスピーカーを立てると、広域にむけて縁の歌を放送する。
それを阻もうとダルギーズが剣を繰り出すが、ルナ・ヴァイオレットのマイク型魔力増幅ロッドでそれを撃ち弾いた。
弾いたのは一発だけ。だが、一発弾ければ充分なのだ。
「待たせたな」
通路が十字路にさしかかった途端、鎖のようなものが放たれ骸骨の馬へと絡みつく。
「何ッ!?」
落馬――はせずに器用に地面を転がり受け身を取ったダルギーズが振り返ると、通路の脇から『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が姿を現した。
転倒してしまった骸骨の馬めがけ、『蛇銃剣アルファルド』を向ける。トリガーを握り込むとコイン状の散弾が発射され、骸骨のボディに半分以上食い込む勢いで突き刺さり、そしてついには破砕してしまった。
そしてもう一方の手に握っていた柄を引き、からみついていた鎖剣を引き戻す。
『蛇鞭剣ダナブトゥバン』である。ソードモードへと切り替えたそれを、アーマデルはダルギーズへ向けてゆっくりと構えた。
「勝負だ」
「……よかろう、勇者よ」
立ち上がったダルギーズは剣と盾をそれぞれ構え、アーマデルへと向き直る。
うまく立ち回ったなら縁にも攻撃を加えることができたのだろうが……ダルギーズはそれをしなかった。
不意打ちを食らったとはいえそれ以上の追撃をせず、正面から勝負を挑んできたアーマデルのそれを受けたのだ。
「魔王軍というからもっと性悪なやつを想像していたんだがな」
「悪だけでは成せぬこともあるのだ、勇者よ。だが案ずるな。我が魂に刻まれし破壊衝動は、必ずや貴様を――そしてこの世界人類を抹殺し尽くすだろう」
「なら、ここで止めなければ、な」
アーマデルとダルギーズ。動き出したのはほぼ同時だった。アルファルドによる射撃に『蛇巫女の後悔』の呪力がのり、それをダルギーズは盾で防御。そのまま突っ込んでくるそれをなぎ払うようにダナブトゥバンをチェーンモードに切り替え横薙ぎに払う。
取った――かに見えたが、ダルギーズは翳した剣に鎖剣を巻き付けるようにして受け止めた。
初見で避けるのは非情に困難なそれを、である。
だが。
「チェックメイトだ」
アーマデルは鎖剣越しに『英霊残響:逡巡』を流した。
ダルギーズの剣を通して直接響いた未練の音色が、ガハッという声だけを漏らしダルギーズをけいれんさせる。
「見事なり」
そして、彼はバラバラの骨となって崩れ落ちたのだった。
魔王城の床を突き破り飛ぶ『獣王』ル=アディン・クローン。
それを追って、『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)は崩れた柱や壁をけり進んでいく。
「天空の島で眠っていた魔王の復活、ってか。ほんと、笑えるくらい古典的だな。
けど、やらかそうとしてることは笑えねえ。人類文明を滅ぼす? ふざけんなっての。
――『人の世に仇為す『魔』を討ち、平穏な世を拓く』。
お前らを、ここで討つ!」
構えた槍で、ふってくる石を払う風牙。
「よく動く。その魂すらも喰らうてくれよう!」
反転し額の目を光らせるル=アディン。
放たれた魔法が突如爆発を起こし、風牙の周囲は爆発に包まれた。
素早く槍を回転させ爆風とエネルギーを弾き飛ばす風牙だが、それでもル=アディンは魔法を連射。火力で押し切るつもりだろうか。
……だが、そんなル=アディンの背後より『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)が現れた。
(クローンとは言え流石魔王直属の配下、物凄い威圧感だ。
オリジナルの記憶や知識を完全に受け継いでいるワケではないだけマシと思うべきだね。
気を引き締めてかからないと)
覚悟をきめ、ル=アディンの脇腹へと触れる。魔力によって生まれた剣が、ル=アディンの堅い外皮を貫いて刺さり激しく鮮血を吹き上げさせた。
「ぬう――伏兵か! 小癪な」
振り返ることなく、大蛇のような尾を踊らせて雲雀をなぎ払う。
直撃を受けた雲雀は吹き飛び、崩壊した通路から転落する――が、直前で足場の端をつかみ落下を阻止。風牙によってその手首を掴んでひっぱりあげられた。
「仲間達からは充分に離れた。ヤツの範囲攻撃も、せいぜい二人巻き込むのがやっとだぜ」
ニッと笑う風牙に、雲雀は頷きを返した。
「ここなら、思う存分戦えるね」
雲雀は身構えると、ル=アディンの放つ魔法を――防御しなかった。
己の身が吹き飛ばされるまでの一秒たらず。その間に練り上げた魔法をル=アディンめがけて発射。
するとル=アディンの魔法はまるで嘘だったかのようにかき消え、フッと生ぬるい風だけが吹き抜けた。
「運命の魔法――」
「それだけじゃないよ」
雲雀の魔法が消し去ったのはル=アディンの攻撃魔法だけではない。
ル=アディンが纏っていた魔術障壁や再生能力すらも消し去ってしまったのだ。
「――!?」
それに気付いたル=アディンだが、対処する時間は与えない。
それが風牙であり。風牙の戦い方だ。気付いたところで、もう遅いのだ。
跳躍し、崩れた柱を蹴ってル=アディンの眼前まで迫ると、風牙は槍と自らを一体のものとした。
「『天凌拝』!」
気の爆発が推進力となり、風牙は一発の弾丸となる。障壁すら失ったル=アディンの顔面を穿ち、そのまま体内を抜け、反対側から飛び出したのだ。
身体に大穴のあいたル=アディン。
「現代の勇者……つ、強い……」
最後に呟くと、ズドンと音をたてて墜落したのだった。
●もうひとつの魔王
死があった。
骸骨のような頭部の内側。眼窩の奥より灯る赤黒い光が、どこかつまらないような様子で細まった。
「消えよ。ここに弱者は要らぬ」
かざした手。それだけで、共に突入していた鉄帝国軍の歩兵たちが吹き飛ぶだけの衝撃が走った。
これによって魔王へ挑む部隊は壊滅……したかに見えた。
「ほう」
眼窩の光りが広がる。驚きに、あるいは強い興味によって。
翳した両腕で衝撃をガードしていた『正義の味方』皿倉 咲良(p3p009816)が最初に。
そして魔法の籠もったカードを手にした『華奢なる原石』フローラ・フローライト(p3p009875)。更に魔法のワンドを握った『不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)が左右につく。
「汝等が、我に挑むことのできる強者……いや、『勇者』ということかな」
面白い。そう呟くと、魔王イルドゼギア・クローンは玉座より立ち上がった。
「よかろう。我が眼前に立つことを許そう。そして……絶望の中で死ぬがよい」
再び翳される手。
同じ衝撃が来るとすぐに分かったのか、『華奢なる原石』フローラ・フローライト(p3p009875)はカードのひとつを宙に放って聖なる結界を展開した。
(物語に伝わる魔王と、同等の存在……。
いま、私は伝説の中にいるのやも。
私で力及ぶか、果たしてわかりませんけれど……。
それでも逃げずに立ち向かえたら……勇者のように、なれるでしょうか)
よぎる不安。首をもたげる恐怖。勇者のまねごとなんか辞めて家に帰るべきだと弱い心が主張する。けれど、フローラは首を振った。
「いえ……きっと、なるんです……!」
勇者は魔王を倒したから勇者なのではない。勇敢に立ち向かったからこそ、勇者なのだ。
今このとき、フローラは勇者となったのである。
聖域が破壊され、フローラの身体が吹き飛ばされる。
が、充分過ぎるだけの時間は稼いだ。その間にヨゾラと咲良は一気に距離を詰めたのだから。
(不完全な状態でもこのプレッシャー! その強さが羨まし……がってる場合か、僕の悩みは後回し!)
心の声を振り切って、ヨゾラは『スターブラスター』――またの名を『夜の星の破撃(ナハトスターブラスター)』の発射姿勢をとり、飛びかかる。
「イルドゼギア・クローン……恨みはないけど、今対処しないとだから。僕の全力でぶん殴らせてもらう!」
限界まで集中させた奇跡論的破壊エネルギーを零距離から叩き込むこの魔法は、ヨゾラ自身すらも流星の如く輝かせ、固めた拳はまさに流星そのものだ。
「――ッ!」
魔王イルドゼギアとて、これだけの攻撃を放たれて余裕をもってはいられない。翳した剣を盾のように平たく構え、ヨゾラの拳を刀身で受け止める。
ガキィンという硬質な音が残響する。堅く重い金属をぶつけたようなその音は、ヨゾラの魔法とイルドゼギアの魔術結界が激突した音だ。
そして、今もその結界を破壊せんとヨゾラの拳はめりめりと結界にめり込みつつある。それも、1㎜ずつという非情に小さく、しかし決定的な傾きとして。
耐えきることは難しい。魔王イルドゼギアはすぐさま方針を変更。結界の種類を変え、ヨゾラめがけ剣ごしに手をかざした。
衝撃が走りヨゾラが吹き飛ばされる――のと、魔王イルドゼギアの魔術結界がガラスに石をぶつけたかのように砕け散ったのはほぼ同時だった。
起き上がり、すかさず新たなカードを引き抜くフローラ。
扇状に開いたカードは四枚。できることは数あれど……彼女が選んだのは最も攻撃的な一枚であり、最も攻撃的な手段だった。
「咲良さん……今!」
フローラは走り出していた。
手にはカード。ソーダ水に沈んだガラス玉のような瞳は決意の光をもって魔王イルドゼギアをまっすぐに見つめている。
彼女が次にやるであろうことは、ことこうなれば誰にも察しがついた。
カードを投擲。魔法の力に包まれたカードは回転しながらホーミングし、魔王の剣を回り込むようにしてその身体へと突き刺さる。
その時である。
勢いよく飛びかかった咲良の拳が、魔王イルドゼギアの顔面へと見事にヒットした。
カードの魔法によって抵抗力の弱まった魔王イルドゼギアにとって、咲良のパンチは常人であれば膝から崩れ落ちるくらいに響いたはずだ。そして実際、魔王イルドゼギアはぐらりと身体がゆらいだ。
「もう一発!」
トドメだとばかりに繰り出した右ストレート。
――が、しかし。それは魔王イルドゼギアの手のひらによって受け止められた。
「見事だ、勇者よ。だがこれで――」
「そっちは残像っす」
背後で声がした。
ハッとして振り返る魔王イルドゼギア。
背後にはなんと。
「うぃーんうぃーん」
床置き型扇風機がいた。
地面からいいかんじに浮いて、丁度魔王イルドゼギアの顔の位置にプロペラの中央があった。
「ガッガッ」
首をふりきりすぎたのかなんかカタカタしていた。
今更だが『逆式風水』アルヤン 不連続面(p3p009220)である。
「残像では……ない」
「うん」
ついツッコミを入れてしまった魔王。そして肩越しに覗き込む咲良。
「くらえ、逆式風水吉兆返し!」
「グワァ!?」
とはいえ相手に気付かれずに背後に回り込み零距離をとるというアルヤン。扇風機の放った風圧が魔王イルドゼギアの顔面に炸裂する。
さしもの魔王とて玉座前から吹き飛ばされ、三段ほどあるゆるやかな階段を転げ落ちた。
「アルヤン不連続面、推して参るっす」
ギュオーンと風圧を増したアルヤンはそのまま魔王イルドゼギアへ急接近。具体的にはこう自分の身体を逆向きにくるってしてから強度ダイヤルを弱→中→強→ギャランドゥと自主的にねじってとんでもねえ速度で風をぶっぱなすとそれを推進力にしてみずからのボディを魔王に突っ込ませた。
「グワー!?」
またも顔面にくらう魔王イルドゼギア。
さっきまでのいかにも魔王っぽい振る舞いはなんだったんだろうってくらいくらっていた。
「魔王、破れたりぃ~~~~。
おぬしの敗因は三つじゃ。
一つ、軍勢による圧をかけず、麿たちをここまで招いてしまったこと。
一つ、麿たちがおぬしを打倒しうる、想定戦力の倍の人数を揃えたこと。
一つ、混沌勇者である一条夢心地がこの場にいること。
理解したかの? したなら大人しく滅べいっ!!」
刀を抜いて、なんか玉座のうしろんとこにある壁をぐるーんってして出現した『殿』一条 夢心地(p3p008344)。
顔を押さえて起き上がる魔王イルドゼギア。
「な、なんだその仕掛けは!?」
「えっ知らなかったの?」
「麿たちは勇者アイオンの伝説を知っておるが、そなたは知らぬ。極論すれば、魔王の倒し方は全人類が知っておるのじゃ! そう、それがそなたの敗因!」
カッと後ろの壁を発行させ独特のポーズをとる夢心地。
「四つ目じゃ!」
「だからなんなんださっきからその仕掛けは」
ひたすら顔面にアルヤンが風当ててくるせいで声が『あ゛ー』てなってた魔王は、いいかげんうざくなったのかアルヤンをぺいって手で払った。
「麿の時代、アイオンが魔王を倒した際の伝説やその道具は広く伝わっておらぬ。なんか『たおしました』とだけ伝わっておるのじゃ」
「いや、絵本とかじゃそうだけど……色々やったんじゃないの?」
後ろからさっきの仕掛けでくるーんって出てきた『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)が中途半端に壁の裏から顔を出す。
「あと、裏の部屋にマッサージチェアとかウォーキングマシンとかあるんだけど、なんで?」
「それは我も識らぬ」
おおかたシュナルヒェンあたりの私物であろう、と小声で続ける魔王イルドゼギア。
こんなテンションだが、ヴェルグリーズは彼とその武具が凄まじく強力なものだということが直感でわかった。
(古の勇者が戦ったという魔王、か。武具の端くれとして心躍る相手だね。
俺は勇者なんて大層なものではないけれど、魔王が人々に危害を及ぼそうというなら必ずここで止めてみせるよ……)
実際、魔王の力は強大だ。本来ならかなり綿密な攻略法を用いなければならない相手のはず。
「ヴェルグリーズ。疑問には拙者が答えるでござるよ」
「幻介……」
同じ通路からバナナを手に表れる『刀身不屈』咲々宮 幻介(p3p001387)。
「冷蔵庫にバナナとプロテイン缶があったでござる。おそらくダイエット目的のウォーキングマシンだと――」
「違うそっちじゃない」
あと冷蔵庫に粉を保管すると湿気で固まるからやめたほうがいいよ、と言ってヴェルグリーズはぱたんと壁の仕掛けを閉じた。
うむと頷く幻介。
「考えてみるでござる。勇者王伝説は世界各地にあるで御座るが、どの伝説も初めから『勇者』として描かれている。現地の民も彼を勇者だと知っている状態でござる。積極的に宣伝していない限り、そうなる理由があったということ。
結論を言うと――勇者はかなーり序盤に魔王を倒して『勇者』として有名になっているのでござる!」
「えっ」
ピクッと顔をあげる魔王イルドゼギア。
「……序盤」
「序盤でござる」
その感じから逆算するに……アイオンが魔王を倒したのは今の幻介たちと同じくらいのレベル帯だと推測できた。
「もっと言うと、『後詰めの城とクローン』なんてものを用意しておきながら使われなかったということは……脱出の暇すらなく結構なハメ殺しをされたと見えるでござる」
(えぇ……)
真顔(?)のままスッと立ち上がる魔王イルドゼギア。
「ならば、証明するしかあるまい」
剣を手に取り、眼窩の光を熱くする。
「同感でござる。――行くぞ、ヴェルグリーズ」
「ああ」
跳躍し、剣状態となり回転するヴェルグリーズ。その柄を握り、幻介は走り出した。
魔王イルドゼギアの剣とヴェルグリーズの刀身が激突。背後へ回り込んだ夢心地が斬撃を繰り出し、ぐらついた所に幻介は突如として高速移動を開始。五人に分裂したかと思うと、その全てが魔王に様々な斬撃を繰り出した。
最後の一撃をヴェルグリーズの刀身を突き出すように繰り出し、魔王イルドゼギアの腹を貫いた。
鮮血が吹き上がるかのごとく、禍々しい闇のエネルギーが噴出する。開いた口からもエネルギー体をたらし、魔王イルドゼギアは自らの腹を見た。
「現代の勇者よ。ならば、こんな伝説はのこっているか?」
「?」
完全に『とった』と確信できた彼らがどう反応したのだろうか。
彼らの反応をまつことなく、魔王イルドゼギアは顔をあげる。
「魔王には第二形態があるものだ、とな」
途端、闇のエネルギーが爆発し周囲の風景がまるごと飲み込まれた。
夢心地たちは吹き飛ばされ、そして……。
「やれやれ、クローンとは言えただの歴史学者に手に余る相手だね」
咄嗟の判断でごく限られたフィールドを聖域化していた『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)が頬に汗を流す。
「これほどの力とは……」
彼女の前に現れたのは、巨大な顔であった。
魔王イルドゼギアの顔にそれは似ていたが、角が巨大化し骸骨の顔の奥からは禍々しい炎が溢れている。顔だけがそこにあり、こちらを睨んでいる。常人であればそのプレッシャーだけで戦意を喪失していただろう。
が、ゼフィラは『常人』ではなかった。
「私としてはこの大陸の調査が行えればそれで良かったのだけれど……放っておくのも気が引ける。
だがまあ、幸いにして肩を並べる仲間たちは皆頼りになる勇者たちさ。
差し当たっては、手早くこの局面を攻略してから、この城をじっくりと調査させてもらおうか」
彼女に守られていて無事だったメンバーは、およそ四人。
「イルドゼギア……うわ、噛みそうな名前。イルドくんでいい?」
――『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
「ハイペリニウムを事前に接種してきたオレに隙は無い。真の意味で加護を受けた、この翼を見せてやる。何が魔王だ、こちとら鳥種の勇者だぜ」
――『太陽の翼』カイト・シャルラハ(p3p000684)
「魔王を止めたらハイペリオンは褒めてくれるかな……喜んでくれるかな?」
――『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
「うん。きっとね」
――『神翼の勇者』ジェック・アーロン(p3p004755)
ジェックはライフルを構え直し、魔王イルドゼギアへと向けた。
「なるほどね、確かにこれは『大変なこと』だ。けどだからこそ……アタシ達しか成し得ない。
ハイペリオン、キミがアタシを勇者と呼ぶんだ。
ならばアタシはそれに応えよう。
魔王はアタシ達が──キミの勇者が、ここで倒すよ」
「ハイ……ペリ、オン……?」
第二形態となった魔王イルドゼギアはジェックを睨みつつ、繰り返すように呟く。
そして。
「はは、ははははははは!」
世界ごと揺れるのではというほどの声で笑い始めた。
「なるほど。つまりは、貴様等こそが本当に勇者であったのか!」
フッ――と闇から巨大な右手が飛び出してくる。手首からさきしかないが、こちらを殺すのに充分な大きさと力をもっていた。
「あぶねえ!」
カイトが素早く跳躍し、右手に自らの槍を叩きつけて勢いを相殺する。
そこへ魔王の顔面から放たれた炎が浴びせられるが、直線状にのびる炎を螺旋のうごきでかわしながら魔王イルドゼギアの顔面へと突っ込んでいく。
「だから言ってるだろ。俺たちが勇者だ、ってな!」
いつからだろう。ローレット・イレギュラーズは本当に『世界の勇者』になっていた。あるいはノリだったのかもしれないが、王フォルデルマン三世が彼らを正式に現代の勇者と認めたのは、なにも間違って等いなかったのである。
あとは、その力を証明するのみ。
「魔王らしく終わらせてやるぜ!」
槍の突撃が、闇の障壁によって阻まれる。
が、それで充分だ。
右手を足場にして跳躍したシキが空中でくるんと回転し、上から魔王イルドゼギアの顔面を切りつけた。
『ガンブレード・レインメーカー』のトリガーをひき込められた魔術を発動。
『車輪蓮咲』という、黄泉津の守護神から教授された術式である。
「君には恨みも縁もゆかりもないんだけどさ。私は勇者って柄でもないし。
でも力を付けて誰かを傷つけようってんなら話は別さね
穏便に話し合いで解決、なんてそもそも性にも鉄帝の流儀にも合わないし?」
叩きつけた衝撃で魔王イルドゼギアの顔面に大きくノイズがかかった。
途端、闇からフッと巨大な左手が出現。カイトとシキをまとめて掴むと地面へと叩きつける。
だがそれでこちらの猛攻が終わったわけではない。リュコスはそんな左手を飛び越えると、魔力を込めたキックを浴びせる。
(言葉が通じないどころか記憶も何もない。
悪い人でも考えはあるし変わることもあるって見て来たけどこの魔王にはもう変わる機会がないんだ。
立ちはだかって倒されるか生き残るだけ)
リュコスは胸のなかから沸いた思いを、口にのせてみた。
「可愛そう、だな」
ぎろり、と魔王イルドゼギアの目が向いた。敵意と破壊衝動に溢れていたが、しかし……なぜだかリュコスはこの一瞬魔王と心が通じたような気がした。
使命と、願い。それが正面からぶつかり合って、だからこそ互いがわかったのだろうか。
譲れはしないけれど。他人よりもずっと近い。
振り払う魔王イルドゼギアによってはねとばされたが、リュコスはくるくると回転してから着地した。
「ひとつ、質問をいいかな」
ジェックが射撃を浴びせながら問いかける。
右手でそれを防御する魔王イルドゼギア。
「魔王のクローンは、キミだけ? 四天王のクローンみたいに、一杯いるんじゃないかな」
「それは、ありえん」
珍しく魔王はそう断言した。
「これだけの力のある存在をいくつも創造することは難しい。そして、できたとしてもやろうとは思わぬ。己と同格の存在が二人以上いては、な……」
本物一人と、偽物二人。力は同格。それだけでもどんなトラブルが起こるかわかってものではない。
「ならよかった。後顧の憂いが、ひとつ消えたよ」
ジェックは素早くリロード。
はじかれた空薬莢が回転しながら飛ぶその間にもうリロードを完了させると、魔王めがけてもう一発――発砲した。
同じように右手で防御――しようとしたその指の隙間二センチの空間を弾丸が抜ける。
「何ッ――!」
驚きに大きくした眼窩の炎。そこへ、弾丸が入り込む。
ドッ――という音と共に爆発がおき。
気付けば、そこは玉座の間だった。
うつ伏せに倒れた魔王が、泥のように溶けていく。所詮は偽物であったということなのだろうか。
「終わった……ね」
ジェックがそう呟くと。
「皆さん!」
聞き覚えのある声がした。振り向けばすぐにわかる。ハイペリオンだ。
ぱたぱたと小刻みに翼をはばたかせてやってきたハイペリオンが慌てた様子で呼びかける。
「アーカーシュのコントロールが奪われます! 早く、この場を拠点化しなくては!」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
皆さんは魔王城を攻略し、四天王クローン及び城内のシュナルヒェンも倒しきりました。(僅かなシュナルヒェンは城外に逃走したようです)
魔王城は(大体シュナルヒェンのせいで)居住性がかなり高く、十全に機能していなかっただけで潜在的な防衛能力も高そうです。
更に言えばローレット用の転送ポータルも設置できそうです。
拠点とするには非常に良物件となるでしょう。
ということで、ローレット魔王城支部が爆誕しました。
GMコメント
※このシナリオは長編シナリオです。前回までの内容はこちら。
第一回:<Celeste et>ハイペリオンの帰還(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/7731)
第二回:<チェチェロの夢へ>泡沫ブーク・カドゥール(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/7906)
第三回 ←イマココ
●あらすじ
アースマーンの異常を解決したイレギュラーズたちにもたらされたのは、『魔王イルドゼギア・クローン』の存在であった。
勇者王時代にて勇者アイオーンに倒されたというかの魔王イルドゼギア。アーカーシュはそんな魔王にとって、そして勇者にとってすら前人未踏かつ未攻略の城である。
そんな城からクローンとはいえ魔王が動き出せば鉄帝国の民草にどんな被害が出るかわからない。
魔王が目覚めて間もないこのうちに、城へと突入し一気に攻撃を仕掛けるのだ!
■■■プレイング書式■■■
迷子防止のため、プレイングには以下の書式を守るようにしてください。
・一行目:パートタグ
・二行目:グループタグ(または空白行)
大きなグループの中で更に小グループを作りたいなら二つタグを作ってください。
・三行目:実際のプレイング内容
■■■パートタグ■■■
以下のいずれかのパートタグを一つだけ【】ごとコピペし、プレイング冒頭一行目に記載してください。
パートタグごとに指定された『最低人数』を越えてさえいれば多少人数が偏っても問題はありません。行きたいところに行ってみてください。
※各パートには『優先参加』の項目がありますが、別のパートを選択しても構いません。また、優先参加指定のないメンバーはすべてのパートを選択することができます。
【天空】
エピトゥシ城の上空に無数のハイアームズが展開し、突入作戦部隊への飽和攻撃を仕掛けようとしています。
本来ならば空中戦闘のエキスパートでないと難しい場面ですが、ハイペリオンにより『神翼獣の加護』をうけているためこれに対抗することができます。
・最低人数:10名
・優先参加:ルクト、ジュリエット、マリエッタ、ユーフォニー、ムエン、オデット、ルシア
・味方NPC:ハンドレッド&ファイ。武装飛空艇ハンドレッド号から特殊弾を使った援護射撃を行い敵にランダムなBSをばらまいてくれます。
・味方NPC:ジュリエット製ゴーレム『ウィッシュステラ』『ヒンメル・ゴーレム・アイン&ツヴァイ』
ジュリエットの製造した三機のゴーレムが試験的に実戦投入されました。ハイアームズより若干劣るものの飛行能力があり、癖を最も理解しているジュリエットはこれに騎乗状態になることで『飛行』スキルを活性化した扱いになります。
・『神翼獣の加護①』
このシナリオ内では、ハイペリオン様の加護が働いているため『全ての飛行手段』で空中戦闘が可能です。
ジェットパックでの簡易飛行や箒などでの媒体飛行、普段ちょっと浮いてる程度の人でもそのまま戦闘飛行状態をとることができるようになります。
今回はどの飛行手段を用いるかをプレイングに書くことで加護を受けて下さい。
(※特に飛行手段のない方は軍からレンタルしたジェットパックやレンタルワイバーンに加護をつけてもらえます)
・『神翼獣の加護②』
今回はハイペリオン様の加護を受けているため、空中戦闘時のペナルティが大幅に軽減されています。
【四天王】
玉座の間にて出現した四天王クローンたちと戦います。
彼らが魔王の戦いに加わると非常に厄介なことになるので、かれらを足止めしつつ倒しましょう。
この四天王は古代獣の中でも最上位の極位古代獣(アークエルディア)にあたります。
城内にはこの四天王クローンが沢山おり、そのうちの一体ずつがここに揃っている状態です。
また、仲間が調査した所によると彼らは四天王を真似て作られたクローンにすぎないので、記憶や経験を持っていません。また、魔王の破壊衝動から生まれた存在であるため明確な敵となっています。
いずれも強者であるため、最低でも一体に対して二人以上であたりましょう。
・最低人数:8名
・『獣王』ル=アディン・クローン
額に目のある四足獣めいた外見の怪物です。全てのステータスが高く、特にEXFが極めて高いです。殺傷力の高い物理連続攻撃の他、火炎系BSの乗った神秘範囲魔術も行使します。再生を持ち、飛行しています。
・『闇の申し子』ヴェルギュラ・クローン
剣と魔術の達人であり、全てのステータスが高く、特にEXAが優れています。致命、防無の近接物理攻撃の他、魔眼の神秘攻撃で重圧と麻痺系のBSを多数、呪いや呪殺と同時に範囲に対して放ってきます。また再生を持ち、飛行しています。
・『骸騎将』ダルギーズ・クローン
バランスの良い堅実な戦い方をする剣士です。反を持ち、近範なぎ払い攻撃、ブレイク単体攻撃、必殺単体攻撃、不吉系BS麻痺系BSの神秘超遠貫攻撃を保有しています。
底力系のステータス向上パッシヴ能力を持ち、復讐付きの斬撃は、追い詰められるほど冴え渡ります。
・『魂の監視者』セァハ・クローン
搦め手が得意であり、遠近両用、範囲を含む変幻や災厄属性を持つ神秘攻撃使いです。神秘攻撃力が極めて高く、他のステータスも決して侮れません。保有するBSが幅広く『毒系』『凍結系』『不吉系』『麻痺系』『感電系』を多数同時に付与し、『呪殺』してきます。飛行しています。
【魔王】
魔王イルドゼギア・クローンと戦います。
戦闘能力は未知数で、四天王各個体より優れていることは確かです。
四天王同様記憶や経験をもたず、話し合いの通じない絶対的な敵であり、いわば『魔王が生み出したもうひとつの魔王』です。
弱点があるとしたら、魔王が本来持っていたであろう高度な文明力や軍勢を率いていない今だからこそ直接ぶつかり倒すチャンスがあるということです。
そしてここが『後詰めの城』である以上、この魔王クローンは本物のイルドゼギアと同等かそれに代わるだけの強さを持っているはずです。
これが力を付けてしまう前に、必ずここで倒してください。
・最低人数:6名
【エーデルガルト】
隠し地下遺跡『ジーク・エーデルガルト』を占領してしまったオーリー・バイエルン率いる特務派の部隊を倒し、彼らの狙いをくじきましょう。
現状として、広い遺跡内に無数の荷物が運び込まれ、兵隊たちが『まさかまだ敵が入ってきてなんていないだろー』という様子でゆるく警戒しています。
一部の兵とオーリーは扉をこじ開けることに躍起になっており、そのそばには『樹の角と顔』という一度はイレギュラーズたちを認めてくれた古代獣が拘束されています。
正面から突っ込んでいってもいいですし、物陰に隠れながらステルスキルを狙ってもいいでしょう。
武装の潤沢さもあって戦力的には相手がかなり上ですが、戦術次第でひっくりかえせそうな状況です。
・最低人数:7名
・優先参加:エッダ、美咲、レイリー、黒子、リュカシス、ミーナ、イーリン
・味方NPC:セレナ・シャヴィー曹長
高い防御で突っ込んで大砲を撃ちまくる重戦車型アタッカー。軍務派にゆるく属する軍人で、細かいことを考えるのが苦手。
・敵NPC:オーリー・バイエルン
特務派の幹部であり、パトリック特務大佐の息がもっとも深くかかった人物です。
パトリックと同じく政治力でのし上がったタイプだがここ最近めきめきと戦闘能力も上げてきています。
彼の部隊は軍務派と対抗するために組織されているだけあってかなり強力な武装を備えています。
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