シナリオ詳細
<Scheinen Nacht2020>金貨のきらめき
オープニング
●『俗物シスター』シスター・テレジア(p3n000102)、聖教国ネメシスの街アウリアにて
「まあ! あんなところに金貨が落ちておりますわ!」
「ゲットォ……あーっ!? 巨大なザルが落ちてきましたわ!?」
ガッシャーン!
- <Scheinen Nacht2020>金貨のきらめき完了
- GM名るう
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2021年01月05日 22時25分
- 参加人数60/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 60 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(60人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●金貨の輝き
せめて今夜くらいは温かいものを食べられるように。
この祭りがそういった喜捨の精神から成ったものだとすれば、乗ってみたくなるくらいにいい話だと信じるチャロロ・コレシピ・アシタ。
衣食足りて礼節を知る、だっけ? 昔からやってみたかったことを試してみようと、彼が意気揚々と向かっていった街を眺めて、ラダ・ジグリの頭にはふと傭兵流の考えがよぎってしまう。
(金貨をばらまくのであれば、やはり対価を求めてしまうな)
そんな思索をまるで見透かしたかのように、カイロ・コールドが訳知り顔で嘯いてみせた。
「世の中、やっぱりお金ですよ。この光景を見れば誰だって理解しますって」
いやいやラダだって別に実際に支払いに見合う対価を寄越せと言うわけじゃなくて、せめて形だけでもって話をしてるのであって……
「さあ。本当のお金の使い方というものを見せてあげましょう!」
あっおいカイロ! そんなに大量の金貨を抱えて、貴様一体何をしでかすつもりだ……!?
●答え:お祭りだ!
そして彼は街の中心に乗り込むと、狂ったように全てをばら撒き始めた。
「ほら皆さん、お金ですよ! ああ生きている実感が湧きますね~……群がる蟻を眺めるようなこの瞬間こそ!」
明日の自分の命など知らぬ。記念硬貨よ、聖なる黄金よ、輝くがいい。最高の贅沢とは高級品を買うことでなく、無益に浪費できることなのだから……すると!
「べねっとにーちゃん、あーやってせーなる? バラマキをすればいいなー?」
エシャメル・コッコはそれがトレンディなのだと理解して、魔法で空へと舞い上がってゆく。
わっしょいわっしょいばら撒いてやる。キラキラ魔法の幻を添えたなら、輝く金貨が降り注いでいった。
「ふーりゅーするな! ふーりゅーするな! ところで……ふーりゅーするのがお金をバラマキするときのさほーって聞いたけど……ところでふーりゅーってなんなー?」
……誰だ魔法少女に前田慶次なんて教え込んだやつ。
ともあれ、風流とは華美な趣向のことであり、今日のアウリア市にはどこかそういった部分が色濃かったことだろう。
「ならば……ふふふ、つまりは聖なる夜のお祭りじゃ!!」
周囲に無数の炎を舞わせ、金貨を鷲掴んでみせたアカツキ・アマギ。こちらも空を舞いながら、金貨に火の粉――今日は全てを焼き尽くす業火ではなく、温かみを帯びた光の粒だ――を纏わせる。
「皆、今年も一年お疲れさまの金貨、受け取るが良い! どうじゃ、妾必殺のファイヤー金貨投げは幻想的じゃろう!」
高らかに告げた技名は幻想さもへったくれもないながら、アカツキはこの上なくご満悦。さて、後で誘ってくれたベネディクト=レベンディス=マナガルムにも、幸せの金貨をお裾分けしなくては。
だが当のベネディクトからすれば、お裾分けは彼のほうこそしたかったに違いなかった。至るところで金貨が撒かれ、それに対して本気の争いがほとんど見られない夜なんて、これほど多くの仲間が応じてくれたのでなければきっと見られなかったから。
だから……その感謝を威風堂々とした佇まいに篭めて。人々集まる広場にて、皆に空から呼びかける。
「今年もよく耐え過ごした──これなる金貨は今年一年、皆が耐え忍んだその行為に支払われる物である。受け取ってくれ!」
かつてこの国を救いしローレットの高名は、無論、アウリアの人々も誰もが知っていただろう。こうして撒かれる金貨がそのローレットの特異運命座標からもたらされたものならば、人々は一層沸き上がる。それこそ、ラグラ=V=ブルーデンのローテンション顔さえ聖女の祈りに見えるほどに。
「素晴らしい心の清らかさですわ。貧ぼ……貧しい人々のために施し、それだけに留まらず悪い方々の心まで救うだなんて逸話があるだけありますわ」
あっ、薫・アイラが何か失礼なことを言いかけた。しかも、なんか今日の風習を知ってたことで彼女、テレジアのことをますます聖女として尊敬してしまっているらしい……え? テレジアならそこで小躍りして金貨拾いまくってますけど?
だが薫はそんなのには気付かない。
「さあお集まりの貧b……皆様。ご所望のものを差し上げますわ」
優雅かつエレガントかつ失礼に、お嬢様金貨が広場に降り注ぐ!
どどーん!!!
雨あられと降りまくる金貨の一体どこがどう神聖なのか、ルチア・アフラニアには皆目見当がつかぬ。
だとしても彼女は確信している……主がひとつであるならば、我と彼らの信仰もまたひとつであるはずと。
「いと貴き主の御名において、あまねき世の人に福音があらんことを――」
真摯に祈って見渡したなら、富める者が施すことも、歌曲により主を称えることも変わらぬではないか。掴んでは投げる金貨に加え、暖かな衣類や薪も配れば、誰もがほっとしたような顔を浮かべることも。
願いが同じであるならば、信仰の容は人の数だけあっていい。だとすれば……。
「オーホッホッ! では、未来のアイドルである獅子神 伊織様が未来のファンの皆様にプレゼントをあげますわ!」
聞き慣れたはずのシャイネンナハトの賛美歌は、伊織が『レグルス』の弦を叩いた瞬間、湧き上がるようなエレクトリックサウンドへと姿を変貌させる。跳ねるリズム。踊るビート。力強い獅子の心は魂から絞り出すような歌声を産み、型を超えた新たな型を群衆へと提示する。Rock!
自らが目指す『ポップでキュートなアイドル』さえ超えた伊織だけのロック魂にて捧げる信仰は、もはや方向性からして迷子。でも、それでこそ彼女らしいに違いない……だとすればその様子は聖なる金貨の配り方なんてものはさっぱり解らぬルカ・ガンビーノにとっても、自分ができることをやればいいのだろうという確信を後押しするものになる。
(いつもと違う風情ってのは、楽しいもんだ)
それは広がる異国の街並みのせいか。それとも稼ぎはしても恵んでもらおうとなんて思ったことのなかった金を、人々の間に投げ込むという真新しい試みのせいか。
「聖なる夜の星屑だ! 受け取れ!」
金が勿体ないなんて野暮な文句は言わない。むしろ、盗賊役が取りやすい場所にだって投げ込んでやる。
「パクる奴がいたっていいじゃねえか。こんな夜は神様だってお目溢ししてくれるだろ」
きっと、そうに違いない。けれどもこんな夜だからこそ、皆、つまらない罪なんて犯したくはない。
でも、これだけの金貨を前に本当に罪を犯さずにおくなんて、なかなかできない、素敵なことだろう。そう思うからポテト=アークライトは夫とともに、この街をもっと笑顔で満たしたいと願うのだ。
「さあみんな、これを街の隅々まで届けてあげて」
そうポテトが囁いたなら、光と風を纏った精霊たちは、思い思いにポテトの手から小さな袋を受け取っていった。
結び目に、わざわざ育てた季節外れの花を添えた金貨の袋。きらめく精霊たちがふんわり運ぶ様子は、広場や大通りから外れた家々に対しても今日の余韻を届けてくれる。
Nemesis Auria's Elemental parade dreamlights.... そんな光景を彩るものは、伏見 行人の囁きだ。街の中央で金貨を撒く皆の、空を練り歩くベネディクトらの許をしばし辞し、この街に住まい、この街に集い、この街を想う精霊たちに呼び掛ける。
君たちもいつも見ていたんだろう? 今日は金貨を撒く日でね。一緒にパレードを作ろうじゃないか。
光と風だけでは飽き足らず、雪も、夜も、何もかも……おっと。火の精霊は火事に、ご注意を。
●星降る夜に
妻たちが静かに広げてゆく愛の輪を、リゲル=アークライトは心穏やかに眺めていた。
(天義にも、随分と活気が戻ってきたようだ)
優しさは、心のゆとりから生まれるという。ならばこの街に思い遣りが満ちるのは、幸せが満ちている証拠に違いない。
だから……人々に幸せを、より多く、より遠くまで届けるために。
ありったけ用意した金貨をひとつひとつ風船に結びつけ、それらに温かみを帯びた光を授け、それを空を散歩しながら、ゆっくりと、ふわりふわりと地へと落とすのだ……この一夜が、皆の心に残ってくれるよう。
「輝かんばかりの、この夜に!」
今やアウリアの空は、特異運命座標の舞いで満ちている。リースリット・エウリア・ファーレルもそのひとりであって、風の精霊たちと囁き合いながら全身を空へと委ねてやっている。
「今この時に空を見上げる人々に、幸あらんことを」
言葉を選んで使うのならば、独特な風習だけれども、それでこの街が上手く回るのであればそれでいいだろう。
だとすれば、リースリットもコインを一枚一枚風に乗せ。
魔法を受けて花びらのように、重みで誰も傷つけぬように落ちてゆく金貨を見送りながら、聖夜の祝福あれと目を閉じた。
一方で……正直ミニュイ・ラ・シュエットには、天義という国に祝福したくなるような思い出はない。赦しと慈愛? この国はそんな伝承がある国だったっけ?
でも、この街にはあると言うのなら、他の街よりもずっと居心地がいい。
……そんなことを考えていたら、レジーナ・カームバンクルの囁きが彼女を現実へと引き戻した。
「ミニュ、エスコートお願いね」
「もちろん。だから金貨のほうはレナに任せた」
エスコート。それは、つまり飛べないレジーナを抱えて――というか脚で掴んで――空を舞うということ。力強く屋根の上から羽ばたけば、脚の中のパートナーはふふふと楽しげに笑む。
「さぁ金よ! 恵みの幸よ! 煌めく黄金の輝きに感謝を!」
民に幸あれと金貨をばら撒くレジーナは、実に気持ちよさそうに眼下に呼びかける。すると「神のご加護を!」と口々に返す声があり、彼女は大きく翼を広げるミニュイを仰ぎ見た。
「ふふふ、思った以上に楽しいわ! ミニュはどう? 楽しいかしら?」
答えは……きっと、はいに違いない。だってあれだけ嫌っていた天義の上空で、彼女は空に聖印を描くように飛んでやろうかとも思うんだもの。それをやってレジーナの三半規管がどうなるのかだけが心配だけど。
そんな我が物顔の遊覧飛行が、カイト・シャルラハの魂に火をつけた。
「こっちも負けてはられないぜ! 空は俺の領分でもあるからな!」
しかもきらきらが舞っている。その中でただ金貨を降らす? それで満足すると思ったら大間違いだ!
金貨の輝きを隠してしまわないように、薄布で作った袋に包み。中にはトレードマークの赤羽根を封じたものを山ほど抱えたら、シャンシャンと鈴を鳴らして天空を翔ける!
「派手に行こうぜシャンシャンナハト! 来年もまた夢を持ってもらうためにもな!」
鈴の音に導かれて見上げた者たちは、時には不思議な人物を空に見つけることもあったかだろう。
「らぶあんどぴーす」
そんな言葉をまるで呪文のように唱えつつ、光背を背負って空中を進んでゆく誰か。低すぎず高すぎない高度に浮かぶその人影をよく見れば、それが少女――正確には少女の形をとったモノ――であることが見て取れたに違いない。
(神々しい恰好などはいまいち思いつかないが)
思索する少女――恋屍・愛無の姿は見方を変えれば厳かにも見えて、それがあまり金貨の降らぬ路地を好んで金貨を降らすともなれば、聖女の奇跡と見紛う者が出たとしておかしくはないだろう。
聖なる夜にしんしんと降り来たる、聖人聖女らの金貨の輝き。それらは“聖人聖女”らの正体をよく知るハンナ・シャロンにさえも思わず息を呑ませるほどなのだから、何も知らぬ人々ならどうか? うっとりと空を眺めていたハンナが我に返ったならば、願うのはやはり、もっと多くの人たちにこの光景を届けたいという想い。空から、金貨の薄い区画を探す。そのために地上にじっと目を凝らしていると……。
「あれは、もしやシャハルでは……?」
見ればつい先程までハンナがしていたように、一体のペンギンが空を眺めて佇んでいた。もっとも、ペンギン、といっても着ぐるみだ。シャハル――今は亡き友、ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズの名を名乗るハンナの兄は、やはりハンナがしていたように自身の仕事を思い出し、可愛らしい着ぐるみに興味を持って近付いてくる街の人たちに金貨を手渡して祝福を分け与えている……彼自身も少し前までは空を飛ぼうかと思っていたのは確かだが、それではできなかっただろう触れ合いだ。
「輝かんばかりのこの夜に。1年を善く生きた皆に。祝福を!」
……ちょっぴり、これだけ金貨が降ってくるなら、そりゃシスター・テレジアも目が金色になるだろうなとは考えた。
「……ところでさ。金貨をばら撒くのもいいけど、別のものをばら撒いてもいいんだよね?」
だったら……笹木 花丸ちゃんと言ったらご飯っ! 持ってけドロボーと盛大に投げ込んだのは、菓子パンやらドーナツやらを始めとした柔らかいものだ。
「これなら誰かにぶつかっても大丈夫っ! 怪我させないのはもちろんのこと、食べ物自身も割れたりしないっ! 花丸ちゃんからのシャイネンナハトのプレゼントだーっ!」
……おっと。慈愛に満ちた人々は節制の心も持ち合わせていたためだろう。ちょっぴり贅沢なそれらの品は、人気が出てすぐに品切れになってしまった。仕方なく素直に金貨撒きに加わる彼女に代わるのは、金貨とともに金平糖の粒を袋に封じてやって来たマギー・クレスト。
それは些細な星ではあったが、聖夜に降るには相応しい星だ。小さな子供たちはもちろんのこと、大人たちさえ童心に返って喜んでいるのが見えた。求めれば、決して買えぬものではないだろう……でも、そんな贅沢をするくらいなら、その分を次の聖夜に向けた資金に回してしまうのがアウリアの人。だから大人たちもひとしきり喜んだ後、すぐに近くの子供たちに金平糖を分けてあげている様子が街角という街角にある。
でもまさか、自分までそんな慈愛に満ちた光景に加わることになるとは、クリム・T・マスクヴェールにはさっぱり思いも寄らなかった。なのに今こうしている理由は……きっと、天之空・ミーナがいたからこそだろう。
ミーナは金貨を探す子供たちに混ざって、時折お菓子をばら撒いている。すると、特に金貨が高価な宝物だとは知っていても使い道を解っていない小さな子たちは、金貨集めなんて忘れてお菓子集めに精を出すようになる。アウリアの子供たちの精神は、きっと健やかに育ってくれているに違いない。
けれどもそれが……少し大きな子供にもなると、中には金貨を拾ったまま逃げ出す者たちもいた。
「私の名はヴァイスドラッヘ! 祭りに潜んだ盗賊よ覚悟しろ!」
高らかなレイリ―=シュタインの宣告が響き、彼女の手足が大きく割れる。するとその割れ目からは竜角のランスと竜翼の大盾が現れて、瞬時に彼女は騎士と化す!
「うわーっ!?」
慌てて金貨を投げ出して、その場で赦しを乞うた少年によると、彼は毎年子供たちのうち幾人かに割り当てられる盗賊役を、今年初めて務めることになっていたらしい。つまり――彼らは盗みを働く役割をさせられることにより、罪を犯して追われる恐怖を、どうしても罪を犯さねばならなくなった時、人々はどんな慈悲を与えてくれるのかを学ばされるというわけだ。
「そうそう。どうしても必要なものが手に入らないのなら、誰かにお願いしてみるのが一番ってことね」
それから、それでも困ったなら私に相談すれば助けてあげるわ、ヒーローは悪を倒すだけでなく人を信じるものだから、とレイリー。他にも、街のあちこちを見れば、同じ役割の子供たちが幾人かいる。いずれも……きっと大人になったとしても、悪いことをしようとは思わないだろう。あちらでは天使――ミーナが血のように赤い翼を広げて追いかけてくるし、こちらを追うのは竜の翼と吸血鬼の瞳を持ったクリムだ。一生盗みなんて犯さないと心に誓うくらいには怖い……ひとたび捕まってしまった後はお菓子を貰って、どちらも本当は優しかったことに気付くわけだけど。
そう……悪いことは悪いことだと理解したご褒美のお菓子。
それを見て思わず私も欲しいなと、アイリス・アニェラ・クラリッサは思ってしまった。いいや、流石に子供たち用のお菓子には手は出さないよ? 我慢、我慢……だから存分に悪人役を追いかけて、お祭りを盛り上げて、後で気兼ねなくお菓子を楽しもう――おっと?
その時、少し離れたところで、何かががっしゃーんと音を立てるのが聞こえた。何事かといち早くアイリスがそちらに向かうと、そこには落ちてきた網の檻の中に山ほどの金貨があるのと、その周囲で何やらおろおろとする、水でできた人の塊が見える。
「コイン……スのコイン……」
聞くからにしょんぼりとした様子の水の塊、スは、変形して網目から檻の中の金貨を自身の体で包んでは、それを外に引っ張り出そうとして網目に濾し取られ、を幾度か繰り返してばかりいた。きっとキラキラに惹かれて溜め込んだはいいものの、この祭りがどういったものなのかも理解しておらず、突然金貨を奪われて困惑していたのだろう――。
「――そーなんだ? コイン、スのじゃなかった……」
アイリスらの説明を聞いてしょんぼりしていたスだったけれど、すぐにコインの代わりのお菓子を貰って、再びご機嫌を取り戻したようだ。このまま、本物の悪人が全く出ずに祭りが終わればいいのだけれど――誰もがそう思ったその時のこと!
もこもことしてはいるものの全てが黒いサンタ服に身を包み、屋根から屋根へと大跳躍しながら辺りを散策していたアリシア・アンジェ・ネイリヴォームの周囲から、コインと一緒に撒いていた白い羽根型の魔力が消えた。すると彼女の装いはすっかり夜へと溶け込んでしまい、アリシアの全てが闇と化す。
くすり。もしこの場に彼女の姿を捉えられる者がいたならば、満面の、しかし凄惨な笑みが顔に張り付いているのを見て取ったろう……その祭りの参加者としては本気すぎる、危険な表情が示したものは――。
●ギャングスターズ
「ふふ、錚々たる面々が集まってるわねぇ……これだけの特異運命座標を集めた人徳、いつか聖ベネディクト卿なんて呼ばれちゃわないかしら?」
気持ちの良いほろ酔い加減で冗談を飛ばし、箒に跨るアーリア・スピリッツ。金貨に軽く口付けしてから、祝福の言葉とともにそれを投げ入れる。時にはもう眠ってしまった子供たちの部屋に。あるいは窓辺から眺めるばかりの老人の許に。
自然、口を衝くのは懐かしい賛美歌だった。どれだけの苦しみを重ねても、結局はこの国のものが染み付いている……だから、今日は思いっきりシャンパンの雨よぉ、なんてしなくてよかった……そんなことしても喜ばせるのは、彼女とか彼女とかしかいないから。
ところで、その“彼女とか彼女とか”は……。
「ヴァレーリヤ様!? まさかわたくしを見捨てるんですの!?」
「とんでもないですわテレジア……貴女のことは忘れなくってよ! だって貴女には生命保険金を掛けておいたんですもの!」
脱兎のごとく逃げてゆくヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤを求めて、テレジアの懇願が虚しく響き渡った。
(これ、本当に引っかかる人いるんだ……)
テレジアをすっぽり覆うザルの上にどっかり座り込み、さっきまでそれを支えていたつっかえ棒をしみじみと眺めるチャロロ。
「駄目だよ? これは貧しい人たちのための金貨だからね?」
「わたくしも借金漬けですことよ!?」
諭すもテレジアが聞かぬのはいつものことか。うん……温かいスープくらいは出してあげるけどさ。……すると。
ガッシャーンその2。
勝利を確信していたヴァレーリヤが急に方向転換し、新たな杜撰な罠に引っかかっていた。冷たい地面に座り込み、手には酒瓶を握り締め、やっぱり罠だったのかと悔し涙を流しつつ。
エッダ・フロールリジが浅はかな人間でも見るかのように、無言で彼女を見下ろしていた。
「ちょっと、見ていないでお助けなさい!?」
「そうでありますな……では、救出料としてその酒を差し出すであります」
「嫌でございますわ? 誰が最初にこれを手にしたと思っていますの!?」
「……うるさい寄越せっ! それは自分の酒であります!!」
力任せに巨大ザルを持ち上げて、ヴァレーリヤへと迫ってくるエッダ! そのままザルを支えていたのも忘れ、両手でヴァレーリヤへと組み付くと……。
ガッシャーンその3。
……そうだよね。もちろんザルはふたりともを閉じ込めるよね。
「た、助けてほしいでありますー!?」
エッダの悲鳴はアウリアの路地へと虚しく響き、その悲鳴を掻き消すかのように――。
――ずどんという凄まじい爆発が、酒クズ3人を纏めて懲らしめた。
「悪を掃う愛と正義の鐘の音! 魔法少女インフィニティハート、ここに見参! 喜捨により悪人を改心させるなどという素晴らしい伝承に私の愛の心と力が加われば、決して耐えられる悪人などいないというもの。純粋威力だけでなく、日々進化を続ける魔砲の数々は、攻撃から回復まで、相手に合わせた愛を心と体に染み込ませます!」
無限乃 愛の慈愛すなわちピンク色の魔砲の威力が、悪人どもにお金の尊さを刻み込む。けれどもそれでは彼女は満足しない。この世に悪のある限り!
「ゲハハハハ!」
その悪の大権現とでも言うかのような哄笑が、街並みの一角にて響き渡った。
「オイオイ~水臭えじゃねえか。この山賊たるグドルフ・ボイデル様を差し置いて、楽しい楽しいイベントをおっ始めるとはよ」
一見するとサンタにも見えるヒゲのおっさんは、背負った袋にしかし金貨をたんまり集め、ちょうどオサラバする段階だ。罠? どれも子供騙しだ。気付かれた? じゃあこいつでどうだ!
「そいじゃ……あばよっ!」
ブリンクスターでかっ飛んでいったグドルフは……アイリスの11とかいう超機動力を知らぬ。
「マジか。これでもすぐに追いつかれるのかよ。ま、タイマンなら負けはしねえがな!」
そうやってアイリスの目がグドルフに向いたのは……極楽院 ことほぎからすれば幸運だ。
捕縛役が彼へと引きつけられた今、人の集まる広場は彼女の格好の隠れ蓑。色香と魔眼で適当な男を誑かし、金貨をすっかり奪ってしまう。さあて、後は逃げ果せるだけではあるが――。
「――おっと。狼の嗅覚からは逃れられねえぜ」
ジェイク・夜乃の投網弾が、ことほぎをその場に繋ぎ止めていた。
「オレの誕生日は12月なんだがね」
「そうかい。そいつはしきたりに従って、お目溢しをしなくちゃならねえ……それはそうと」
実際には11月28日。“ほぼ”12月なだけ――そんなことほぎの嘘をジェイクは信じ込んでしまったように見え、けれども彼の二丁は咆哮す!
「……俺にも“狩り”を楽しませちゃくれねえか?」
BLAM! BLAM!
放たれた弾丸を浴びつつも、宙返りして投網から逃れたことほぎは風のように広場を駆け抜ける。だがその先にはジェイクの祭り用の罠。さらなる銃弾がその支え紐を撃ち抜くが……ことほぎのほうも煙草を別の紐に押し当てて焼き、あっという間に逃れてしまう。
「いいね。それでこそ捕まえ甲斐がある」
「そうかい。負け惜しみも大概にしな!」
激しい睨み合いが続いていたのは刹那ばかりの出来事。次の瞬間に身を翻すのは魔女。ことほぎは聖夜に高らかに笑う!
そうした一幕が繰り広げられていた中で、実は、この街に特異運命座標でも何でもない本物の盗賊も紛れ込んでいたことに、皆様はお気付きになられただろうか?
結論から言えば……彼らのうちひとりは心に深い傷を負い、二度と罪など犯さぬと決意した。だって、クッションの用意されたラグジュアリーな休憩室で待ち構えていた、谷間に金貨の挟まったたわわなお胸に飛び込んでみたらそのお胸が金枝 繁茂(♂)のハニートラップだっただなんて、いくら盗人が相手でも人道にもとるというものだろう!
……流石にちょっと言い過ぎちゃったかも。ゴメンねハンモちゃん! 謝るからそんな悲しそうな顔を向けないで……君のふくよかな顔は幸せそうにしてるのが一番なんだから!
でもまさか、こちらの盗賊はまだ幸せなほうだっただなんて……。
――その裏路地は、ギリギリまだ男であれている者たちの呻き声で満ちていた。
多くの怨嗟が渦巻く中で、路地に佇む姿はたったのひとつ。他は、全てが口から泡を吹き地に伏せている。
「他者の金を盗んだ者は、やはり“金”で贖うものじゃ」
唯一立っていた巨漢、キンタ・マーニ・ギニーギは、手指をわきわきと動かしながら厳かに説いた。彼の危魔法『握る』をクリーンヒットされ、立ち続けていられた男はいない。
……おいちょっと待て。幾ら何でもやりすぎではあるまいか。可哀想に、路地の地獄絵図をひとりの少女が覗き込んでしまい……。
「ふーん」
……あろうことかその一言でしれっと終わらせた。
「だってわたしには関係ない話でしょ? わたしは自分が可愛いだけで悪事を働きたいわけじゃないから今日は無理して残虐行為をする気はないってだけで、別に助けてあげる義理もないもの」
そう嘯くメリー・フローラ・アベルは今日ばかりはいい子のフリをして、周囲のギャラリーに向けて「相手を無傷で捕らえようと思っても、普通はああして傷つけてしまうもの」なんて訳知り顔の演説をしてみせる。
「だから慈愛を形にしたければ、日頃から相手を無力化する技術を磨く必要があるわ。例えば……こんな感じにね!」
「なんで私!?」
バニーさん姿の司馬・再遊戯が悲鳴を上げた。何故だか突然発現するようになったギフトのせいで、彼女は何もしてないうちから自縄自縛。そんな状態で罠に突っ込んでさらにぐるぐる巻きにされたというのに、その上で抵抗するための力も、気持ちの良い脱力の術で奪われてしまう!
時代はきっと拘束バニー……いや、流石に禁欲的な天義の人たちにとってそれは目に毒じゃありませんかね?
そんなわけで君には残念ながら、天義の悪名がついてしまった。でも、これに懲りずに健全な範囲で挿絵にしてほしい。
周囲にいた子供たちの目を逸らすかのように、タイムが籠いっぱいの金貨型チョコレートをお気に入りの箒の先端から提げて、子供たちに配り歩いていた。
「みんな見て! これは甘くてとっても美味しいの、最近のお気に入り!」
本物の金貨かと思って近付いた後、残念そうな顔をする子供。本物の金貨のように見えるのに、甘いからもっと素晴らしいお宝に違いないと目を輝かせる子供。時に彼らは別のお菓子も持っていて、交換会をしたりして、彼女の夜は更けてゆく……ふふ美味しい。今、配るぶんをひとつ食べちゃったのは秘密にね!
●配るもの、いろいろ
白亜造りの教会の壁を背に佇みながら、今年は実りある年だったとアイラ・ディアグレイスは回顧した。そうだろう、そのかんばせに笑みを浮かべて、お菓子にはしゃぐ子供たち。そんな可愛らしい光景で終える一年が、幸せでなかったはずがない。
幸あれかし。幸あれかし。あなたにどうか、幸あれかし。
では自分からお裾分けできる幸せは何だろうと考えたなら、祈りは蝶の姿を取って、皆の胸へと吸い込まれてゆく。
この街を一緒に訪れたのはみんな、仲間で、友達で、守りたい人で。
濃紺のベルベッド。星屑のジュエル。
美しきこの夜が、みんなに等しく、素敵な思い出で彩られますように。
でも、一年の中でも長い冬の夜は特異運命座標たちへと、まだまだアウリアでの素敵な思い出作りの時間を許してくれる。
「ぶははっ! 次は俺からの喜捨も受け取ってくれ!」
両腕に山ほどの俵を担いで、オークが豪快に現れた。ゴリョウ・クートンが勢いよく俵を開けると……中からは小分けにされた袋の中に、ぎっしりと詰まった米粒と、調理法レシピの書き付けが収められている。
「それじゃあ俺は、米の良さってもんを少しでもこの街に広めてくらあ!」
ひとつひとつの家々を回り、次々に窓から放り込んでゆく米農家。定着するかどうかこそ神のみぞ知れど、天義にも米を浸透させようという大願は金貨にも負けぬ輝きを帯びているじゃあないか。
これは負けてはいられない。
「ふふ。目立つというか。キラキラすることにかけて私の右に出る人はいませんよ!」
九重 縁が愛機ルナ・ヴァイオレットの名を呼べば、異界金属による大型ロボットが招来される。その全身が駆動し変形すると、そこにはきらめくライブステージが現れる!
「皆さん、輝かんばかりのこの夜に!」
マイクを握って歌声を届ければ、まばゆい光で辺りが満ちる。ステージの下にまだ残されていたルナ・ヴァイオレットの腕が駆動して、無数の金貨を、それを乗せた皿ごと空へと跳ね上げたからだ!
星空が天から落ちてくるような光景に、ジェック・アーロンはどこか羨むような眼差しを向けた。
(折角ならアタシもアタシに縁のあるものを見せたいけれど、ガスマスク……は大きすぎるし弾丸や銃を配るわけにはゆかないな……)
だから……自分はこれにしよう。魔除けとも言われる銀の弾丸を、変な誤解を招かないようそっと地面に転がしてやる。薬莢がついてるわけじゃないから危険はないし、何より、小粒ではあるがそれなりの価値ある銀粒だ。
何人かが金貨に混ざるそれらを見つけ、珍しそうに天へと翳してみせた。どことなく浮かれた様子の彼らの足取りを眺めていると、彼らをもっと喜ばせてやりたいとマリア・レイシスは思う。
「まかせたまえ! 金貨もそうだけれど、教養を得られる書籍や袋詰めした清潔な衣類なんかも投げるとしよう!」
しかもマリアは雷の虎。古来より、雷とは神の怒りであり力の象徴である……マリアの紅雷がそれらの品に宿ったならば、さぞかし誰もが神々しさを――
「大変だ! ヴァリューシャが捕まったんだって!? あわわ! ど、どうすれば……ごめんねみんな! 私はヴァリューシャを助けにいかなくちゃ!」
何もかもをほっぽり出してすっ飛んでいってしまったマリアのせいで、真新しい服を期待していた人々は心なしかしょんぼりしてしまったようにも見えた。
そんな中、自信満々に進み出たのは浜地・庸介。
「投げ銭という文化は俺の国にもあった。親近感を持っているが故、俺がこの場は何とかしよう。だが確か……こちらの世界では違うものを通貨としているのだったな? ならば、きっとこれも喜ばれるだろう!」
ばばーん、と盛大に撒き散らしたものは大量のぱんつ! なおじじいのステテコや盗賊王のぱんつ、おっさんのぱんつなんかも普通に混ざる。
「俺にはどんな価値があるのかは判らんが、今日は随分と良いことができたものだなあ!」
しばらくお待ち下さい――。
●聖夜の喧騒はまだ続き
――すっかり空になってしまった貯金箱への未練が残らず思い出へと昇華した頃、マルク・シリングは改めて、金貨の降る夜空を独り見上げた。
いいや……決して独りなんかじゃありえない。ちょうどこの瞬間は皆が広く散ってしまったところだったというだけで、マルクの心は今も皆とともにある。
なるべく小さく崩した金貨は、もう一度この街を彩るだけの数がある。握ればそれらの表面を通じて、夜更けの冷たさが指へと染みる。
「もう一度、皆で盛大に撒こう。『輝かんばかりの、この夜に』――それがいつまでも続くようにね」
楽しげに微笑みまずはバルコニーまでよじ登ってみれば、そこには飛べない自分はどのように仕事をするのがいいかとしばし考え続けた末、やはり素直に屋根に登るのがいいだろうと結論付けたばかりの夜式・十七号の姿があった。
「折角だ。せーので一緒に撒いてみるのはどうだい?」
「願ってもない。身体能力には自信があるから、金貨を上まで運ぶのは任せてほしい」
彼女が片身を預けていたものは、金貨がいっぱいに詰まった木箱。空を眺めたままそう答え、立ち上がると同時に箱を再び担いだ十七号は、ひょいひょいとさらに上へ上へと進む。
「さて……この辺でいいのだろうか?」
皆がそうしていたように、自ず聖歌を口ずさんだ彼女。そして、約束どおり「せーの」で一斉に……。
「はっはっは! メリークリスマスだ! 拾え拾えい!」
……横から突如現れたブレンダ・スカーレット・アレクサンデルの金貨のばら撒き方が妙に悪役じみているのは、はたしてどういったことだろう? 例えるなら時代劇にたまに出てくるような、カネさえばら撒けば愚衆は自分の悪事などすっかり忘れてくれると信じてる悪代官。こういった祭りは楽しんだもの勝ちだ……それは決して間違ってない。でも、その台詞で金貨袋を背負っていると、どう見てもどこかから盗ってきたものじゃござんせん? おい待った、騎士が「奪い合えー!」とか言ってんじゃないよ!
いや――あるいは盗賊は盗賊であっても、金持ちから奪って民へと配る、義賊の類かもしれないとマカライト・ヴェンデッタ・カロメロスは思い直そうとした。
(確か……鼠小僧だったか? こっちではどっちかと言うとお偉いさんが配ってるのを、盗賊が盗もうとして痛い目見たって感じだが)
まあ、どうあれマカライトのやることは変わるまい。喚んだ相棒『ティンダロス』に跨って、路地から路地へ、時には跳躍して屋根へと移る。そして……もちろん撒くものは撒く!
「冬空は寒いからな、どんどん行くぞティンダロス! 鼠小僧ならぬ狼小僧になってやろうじゃないか」
「おうよ。だったらローレットの鼠小僧の称号は俺が貰っておくぜ」
マカライトとすれ違いざまに拳をぶつけ合い、唐草模様の手拭いを頭上で振ると、伊達 千尋はあっと言う間にそれをほっかむりに変えた。共に疾走(はし)るのは愛しい女(バイク)。夜闇にエキゾーストノートを響かせて、勢いよく両腕を跳ね上げて金貨を放り出す!
「いいかァ? よく見とけお前等……このカネの雨の輝きを見る度に俺を思い出すことになるぜ!」
コイツはカネが繋いだ縁かも知れねえ。でも、決してカネで買ったわけじゃねえ。
「あばよ今年! ようこそ来年! この縁を大事にしてやれば、きっと必ずご利益があるぜ!」
「ご利益、かぁ……。げへへ、この金貨をたくさん集めておむねを大きく……」
「あ! そうか! これ持って帰ってお菓子を買う以外にも、そうお願いすればよかったんだ!」
ほっかむりして企み顔のフラン・ヴィラネルと純粋に目を輝かせるルアナ・テルフォードの頭をこつんと叩くと、炎堂 焔はさあ逃げるよと促した。
「はっあぶない、これは追いかけっこして捕まる遊びだったんだ!」
「そ、そうそう! とと、とにかく逃げないと!」
口々に反省の弁を述べ、それから息を合わせてダッシュする。そう、最後は捕まらなくちゃいけないけれど、すぐに捕まったら盛り上がらない!
「善意につけ込む悪党たち! 神妙にお縄につきなさい!」
追いかける側のルビー・アールオースもノリノリだったから、3人はキャアキャア言いながら辺りを逃げ惑ってみせた。それをあらかじめ逃走経路と想定して罠を設置していた路地へと向けて、どんどん追い込んでゆくルビー。
「あそこの金貨を取ろうとしたら、きっとカゴとかが落ちてくるよ!」
ルアナが目聡くルビーの罠を見つけて方向転換すれば、フランも自分で這わせておいた蔦の結び目を飛び越え、身軽な怪盗っぷりを披露する。もちろんそんな無駄な動きをすれば、ルビーとの距離はどんどん縮まってゆき……。
「今だよっ! 聖なる金ダライの天罰!」
「甘いっ! これぞ同志の絆で結ばれたチームワーク!」
ルビーがトドメの罠へと3人を追い詰めたなら、焔が華麗な宙返りを決めて、前方の壁を蹴るとフランとルアナを後方へと押し戻してやった。間一髪、落下してくるタライを回避した3人……おむねがあとちょっとでも大きかったら、きっと急制動も間に合わずタライに触れていた。
けれどもその後すぐにもんどり打って倒れてしまうから、結局はあまり変わらないのだけれど。
「うう、もうだめだー!」
「諦めないでフランちゃん! 捕まりそうになったらルアナが守るから!」
「こうなったら……最後まで皆で一緒だよ! 追っ手も罠に巻き込んじゃおう……あう、これトリモチの罠だった……ぺたぺたくっつくよぉ!」
2人だけでなくルビーまで纏めて罠の方向へと押し込んでやった焔が悲鳴を上げたが、もちろんそれはルアナやフランと仲良くだった。
「最後これなの? ふぎゃぁぁぁ!! べたべたするー取ってぇぇぇ!!!」
「おむねがぺったんなだけにとりもちでぺったん……余計なお世話じゃむきゃー!!!」
なんだかお祭りらしい楽しい結末になれたし……まあ、ルビーとしてもこれはこれで良かったのかな。
●暮れゆく年
そんな喧騒もいつしかなりを潜めて。すっかり凍えてしまった夜風に晒されながら、ロゼット=テイはこれまでの半生を振り返っていた。
確かに、お金にはこだわった。だけど何か高価なものが欲しかったわけでもないし、財産の量で評価されたいと思ったのでもない。ただ、『お金』という無機的な指標なしでは、社会と繋がる方法が判らなかっただけだ。
でも……逆に言えばお金という存在が、自分と社会を繋いでくれた。それなしで俯いて独りで蹲っていたならば、きっとここにはいなかったのだから。
ふと見つけた、独りで帰路についていただけの男へと、気付けば満面の笑みで金貨を放り投げている。
「貴方の願いが叶いますよう!」
それはきっと彼女に許された、最高の贅沢に違いないから。
そうだ。彼は、帰路だった。あれだけ賑やかだったアウリアの街も、とっくに寝静まる時間に差し掛かっていた。
街中の明かりもほとんど消えてしまった。これなら本来は星の望むままにだけ放たれるべき矢を射たのだとしても、それを見咎める者は少ないだろう。
(天狼星。今宵ばかりは私情で放つことをどうかお許しください)
目を閉じ祈り、再び見開いて。小金井・正純は星々により鍛えられたというその神弓を、真っ直ぐに天へと向けて射る。
宵越しの銭は持たぬとも言うだろう。今宵の金貨はきっとそのようなもの。彼女の仕える社とて、決して寄進に溢れるわけではないけれど。この金貨は矢に結わえつけ、皆様のために放ちましょう。
輝かんばかりのこの夜に、星の祝福のあらんことを。
一条の矢は流星のごとく弧を描き、アウリアの空を彩った。
その時、部屋の中でうつらうつらとしていた老婦は、こつりと窓が音を立てたような気がして目が覚めた。
「おや、何かしら……あら、流れ星が綺麗」
ゆっくりと窓辺へと近付いて、ほんの少しだけ戸を開ける。
矢の流星をもっと見ようとし、その時気付く、何かの包み。
「まあ。どなたかがこんなところまで届けて下さったのね」
香ばしいクッキーの匂いやカラフルな飴玉の色を楽しんで、祈りを捧げてから部屋へと戻った老婦。
彼女はそれを届けた人物を知らぬ――それが窓から窓へと跳躍する人馬、ラダからの幸運だということを。
今宵は、誰もが幸運であることができる。
今宵は、誰もが期待を抱くことができる。
グリム・クロウ・ルインズを動かすものが、ただひとつの希望であるように、誰もがささやかな未来を信じることができる。
……ならば、もし。
ベルナルド=ヴァレンティーノが手にした奇跡を――ひとたび断罪され筆を折った一介の宗教画家が、今年、国王にして教皇たるフェネスト六世陛下の肖像画を描くという夢を叶えることができたというこの上ない光栄を、誰かに伝えることができたなら。
そんな想いを胸に大切な肖像画を抱いて教会の屋根に立ち、誰もいない礼拝堂の机にそっと寝かせた後に、彼は再び教会の屋根から、どこか遠い場所に向かって姿を消した。
いつか、彼を鳥籠に閉じ籠め損なった彼女とも、こうした祭りを楽しめるようになりたいという願望を抱いて。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
すごい量の金貨がばら撒かれてしまった……。正直、皆様の懐が少々心配な今日ですが、きっとアウリアの善良な人たちは今回の祭りを盛り上げて下さった皆様に、祭りで拾った金貨の一部をボーナスを出してくれていたりもするのではないかと思います。
……それはそうとごく一部、なんでこんなにガチなバトルをしてるんだろうか。
何故だかパンドラが減ってる人がいたり、悪名と引き換えに金貨を手に入れてたりする人がいたりと妙なことが起こってますが仕方ないね……。
GMコメント
慈愛に溢れた天義の街アウリアには、シャイネンナハトの夜には貧しい人々のため皆で金貨を降らすという風習がありました。
しかし、善意とは悪人につけこまれるもの……この街では貧民でさえ今年得た金貨を来年降らすために取っておくというのに、ある時盗賊たちがアウリアの風習を知って、その金貨を根こそぎ奪おうとしたと言います。
いかに善良な人々といえども、見過ごすことはできませんでした。彼らは街じゅうに罠を仕掛けて盗賊たちを捕らえ……その後彼らが困窮の末に悪事に手を出したのだと知ると、今度は本当に金貨を恵んでみせることで彼らを改心させたと伝えられます。
今ではその逸話は祭りとなって、喜捨役・盗賊役・捕縛役に別れて追いかけっこを楽しみます。
プレイングの1行目に以下の番号を、2行目にグループ名や同行者のIDをお書き下さい。
【1】喜捨役
金貨に限らず、貧民のための財貨を建物の窓や屋根などから降らせます(下の人に当てないように)。人々に聖なる降らせ方をしたと感じさせることができれば、得られる名声が増える場合もあるでしょう。
実際にシステム的にアイテムを消費する必要はありませんが、気になるようなら教皇シェアキム・R・V・フェネスト(p3n000135)宛にご送付ください。GMは確認しませんが……。
【2】盗賊役
必死に金貨を追いかけて、盛大に罠にかかりましょう!
罠は(捕縛役がしでかさない限り)巨大なザルにつっかえ棒したやつとかトリモチとかの安全であからさまなものばかりですが、それを承知で大人しく捕まるのがお約束です。
……が。
どうしてもお金に目が眩んだら、悪名と引き換えにガチ逃走を目論んでみてもいいかもしれません。どこぞのシスター・テレジア(p3n000102)みたいに。
誕生日が12月の方の場合、多少のことは誕生日プレゼントとしてお目溢ししてくれるかもしれません。
【3】捕縛役
罠を作ったり盗賊役を追いかけたりします。盗賊役を捕らえた際のパフォーマンスとして、悪人にも慈愛の心を向ける大切さを説いて人々を感動させれば、得られる名声が増えるかもしれません。
盗賊役にはアウリアの貧民たちもいるので、殺傷力のある罠の設置や攻撃を行なった場合は不幸な事故が起こる恐れがあります。悪名を得たり、特に重大な問題が発生した場合には監視状態となる可能性もあるのでお気をつけて……。
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