シナリオ詳細
<大願成就>お祭の商店街で
オープニング
●鎮魂の宴
絶望の青を巡る戦いは終わった。
多くの者が、癒え切らぬ傷と共に帰り……。
また多くの者が、帰ることなく海へと消えた。
喜びと、悲しみと。
二つの感情をその身に宿し、海洋と言う国家は、次のステージへと歩み出す。
そのためにも――宴は必要だった。
生き残った喜びと……。
帰れなかった者への鎮魂のために。
今はただ、喪に服す為に騒ぐことが、残されし者たちの義務であると信じて。
賑やかな宴が、国家全体を包み込んでいた。
●商店街の祭
「わーっはっはっは!」
「乾杯だ乾杯! 飲め飲め!」
商店街の居酒屋で、男たちがグラスをぶつけあっている。
海洋、とある街の商店街は、街をあげての戦勝記念の宴に酔いしれていた。
そんなわけだから、陽気に騒ぐ人々の姿が、商店街のあちこちに見受けられる。例えば酒場で、食堂で、あるいは雑貨店で――各店、出血覚悟の大サービスを展開するものだから、ただでさえごった返す街は、今や平時のそれを上回る人出だ。
そんな酒場の一角で、顔を青ざめる者もいた。中世的な外見の少年――リーベ・ズィーマンは、肩を並べて酒を酌み交わす男たちを見やりながら、思わず声をあげた。
「い、良いのか……いや、でありますか?」
その隣にいたいかつい外見の、船乗り然とした男が「あ?」と声をあげた。
「何がだよ」
「その、一緒にお酒を呑んでる相手……であります! あれはギャング団『ワダツミ』の奴らじゃあ……?」
今この酒場には、二つの勢力がの人間が、一緒に酒を飲んでいた。
片や、リーベの所属する海洋海軍。方や、ギャング団『ワダツミ』のメンバーたちである。
本来であれば、取り締まる側とされる側。呉越同舟の間柄であったはずだが、今は仲良く酒を酌み交わしているわけだ。
男――リーベの所属する海軍船団、そのキャプテンが、はぁ、とため息をついた。
「あのなぁ、今は良いんだよ。今は」
「でも」
「今日は特別な日なんだよ――全てを喜び、全てを悼む、特別な日だ。そんな日に、海洋に住む者ならばな、悪さしようなんて考えるはずがねぇ。だから、良いんだ」
「そうそう、おっちゃんもね、今日は楽しくお酒飲んでるだけだからねぇ?」
グラス片手に声をかけてきたのは、『ワダツミ』の頭目である『禍黒の将』アズマであった。
「こんな日に、わざわざ水を差そうなんて気はないさ……皆、多くを得、多くを失ったわけだ。騒がなければ、やってられない……俺は悪人だが、それを邪魔するほど、仁義の分からん男でもないよ」
ふと、遠くを見る――酒場の窓からのぞく景色。
多くの人々が笑っている。
何かを失った人たちもいるだろう。
でも今日は――笑っている。
それが、失ったものへの鎮魂であると信じて。
アズマはふと、リーベへと視線を落とすと、にへら、と緊張感を崩した笑みを浮かべた。
「だからさぁ、お嬢ちゃん、おっちゃんにお酌とかしてくんないぃ?」
「なっ! だ、誰が! それにおれは、男だぞ!」
アズマはニタニタと笑った。
「おや、そりゃぁ悪かったなぁ。おっちゃん、気づかなかったわぁ」
「ぜ、ぜってーワザとだろ、おっちゃんっ!」
「はっはっは! お前の負けだ、リーベ! 酌ぐらいしてやれ!」
「そんな……キャプテンまでぇ」
そんなリーベの様子に、一同、笑い声が巻き起こる――。
そんな酒場の外を、1人の少女が歩いていた。窓からのぞけば、多くの人々が酒盛りをしている。
「うん、楽しそう」
街が賑やかで、笑顔が溢れていて――少女も、チェルシー=コールドストーンもまた、自然と笑顔になってしまう。
「やっぱりすごいなぁ、ローレット……イレギュラーズ」
かつて出会った青年の事を思い出す。失恋の、甘くて苦い、ママレードのような記憶。
あの青年もまた、絶望の青を巡る戦いに参加していたのだろうか。
だとすれば少し心配で、誇らしい。やっぱり彼は、勇者だった。
「いつか、もっと彼の力になれるように……私も頑張らないと」
決意を胸に。でも、今日は。
「いろんなお店がセール中なんだよね……うん、今日はお休み! せっかくのお祭だからね!」
チェルシーはにっこりと笑うと、商店街を駆けだした。
その姿は、ごった返す人の群れの中に隠れてしまって、すぐに見えなくなった。
- <大願成就>お祭の商店街で完了
- GM名洗井落雲
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2020年07月04日 22時05分
- 参加人数34/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 34 人
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参加者一覧(34人)
リプレイ
●大騒ぎ~食べる編~
セレマは思う――有象無象の羨望の視線を浴びて、酒気に耽る……いいね。
手にしたのは血のように赤いワイン。色白のその肌と、対照的な生の色を持つ赤のコントラストが、美と言う物をより映えさせる。
セレマはグラスを差し出した。静かにグラスを鳴らすために。
「では! 生還を祝して! カンパーイ!」
「乾杯!」
がちん、とグラスとグラスがぶつかる。こぼれる麦酒が、赤ワインのグラスに入り込んで、その色を汚した――。
「居酒屋じゃねーか!」
セレマが叫ぶのへ、百合子とブレンダは一瞬、顔を見合わせてから、何事もなかったかのように手をあげて店員を呼んだ。
「たこわさ! 塩辛! 焼鳥盛り合わせ! あ、あと麦酒ピッチャー……いや、樽でよいか。樽でくれ!」
「私はチーズと……面倒だ。メニューのここからここまで全部持ってきてくれ」
「聞けよ! 後注文が雑ッ!!」
百合子とブレンダは再び顔を見合わせる。セレマにしてみれば、少しお値段高めのバーで静かに……と言う気持ちであったのだが、二人に連れられてきてみれば、そこは見事な大衆居酒屋である。ふむ、と首を傾げたのは百合子である。
「なんだなんだ、道場ではどぶろくとか一気しておったであろう! 景気が足らぬぞ!」
「いや、してたよ!? 一気! 濁酒大好きだけどさ! こってりと脂の乗った塩鮭にワサビを軽く載せて流し込むと最高だけどさ! 今そんな話してねえだろうが! バーカ! お前らバーカ! 行き遅れろ!」
ブレンダが無言で突き出した拳が、美少年を捉えた。めこり、と顔面がへこんだかと思った次の瞬間には、何事もなかったかのように美少年が居た。
「ああ、すまん。なんか、つい……いや、しかし百合子殿の言う通りだぞ? セレマ殿。折角の祝いの席なのだからな。景気よくいこうではないか」
店員が次々と料理を並べていく。テーブルの上に並んでいる料理は、耽美とは程遠い。はぁ、とため息を一つ。
「しょうがない、今日の所は我慢してやるよ……その代わり飲み代は持てよ」
「クハッ! そこは任せるがよかろう。今日は吾の奢りぞ!」
再び、グラスを突き合わせる三人。生還できた喜びと。生還できなかった者たちへの追悼を胸に。
「あ、唐揚げにレモンかけといたよ」
そうセレマが言った瞬間、百合子の無言の拳がその顔面を捉えた――。
さて、前述のテーブルだけではなく、今日の居酒屋には客が満員、大盛り上がりだ。何せ今日は、戦勝記念の宴。海洋全てをあげたお祭り騒ぎの日なのだから。
「ま、今日くらいは俺が奢るぜ――乾杯と行こう」
エイヴァンは各テーブルに酒を奢ると、グラスを掲げた。乾杯! 喜びに、あるいは追悼に。グラスの中身はあっという間に空になって、その酔いが次の酒を加速させる。
「よう、あんたが俺達みたいなゴロツキに酒を奢ってくれるとはな」
ケタケタと笑いながら声をかける男へ、エイヴァンは笑う。
「おう。これはリクルートも兼ねてるんだ」
「へぇ、俺らに海軍にはいれって? それともローレットでお手伝いか?」
「どっちでも。ま、俺としては、堅苦しい軍に、死ぬほど忙しいローレット……どっちもおすすめはしないけどな」
歓声と笑い声が響く――エイヴァンの言を、冗談と受け取ったのだろう。
だが、エイヴァンにとって、その言葉は重い。
重要なのは――自分で一歩を踏み出すことだ。果たして、今奢られた酒の価値を理解できるものは、如何ほどいるのだろうか?
「酒かぁ、俺も成人したらなぁ」
カイトは未だ未成年であったから、酒は飲めない。とはいえ、幾ら酒が飲めずとも、今日この場に参加するための資格は、誰もが持ち合わせている。だから、誰もカイトを拒むことは無かったし、
「おう、いくつで成人だ――あと四か月か! もう少しじゃねぇか、いいぜぇ、酒は! なぁ、皆!」
そんな彼の事も、一人前の男として、酒場の客も、店主も、扱ってくれる。
「おう、オメェさん、酒が飲めねぇなら、飯を食ってけよ!」
と、厨房から、カイトへと声がかかる――顔をのぞかせてみれば、ゴリョウの姿があった。
「ゴリョウ? アンタ、厨房に回ったのか?」
「ぶははははっ、上手くノせられちまってな! 今はこうして料理係よ! しかし、海洋の料理ってのも興味深いな! 試したくてウズウズしてんのよ!」
ぶはは、と豪快に笑うゴリョウ……カウンター越しの厨房で、ゴリョウは手際よく料理を作り上げていく。海鮮と、自慢の米を使った海鮮米料理と言うべきそれらは、出来立ての煙を立ち上げながら、カウンターの上へと並んでいった。
「これ……食べ物? かいせん……ってのは、初めてで」
そんな料理を眺めながら、声をあげたのはアーマデルだ。
「なんだ、海の幸は初めてか? コイツはエビを使った焼き飯だ! エビは香ばしくてな、身はぷりぷりしててたまらんぜ!」
ゴリョウの言葉に、アーマデルは頷く。
「エビ……」
しっぽをつまみ上げ、赤く焼きあがった身をしばし見つめてから、口に放り込む――口中に広がる美味に、アーマデルは顔をほころばせた。
「うん……美味い」
「おう、よかったら沢山食ってくれよ! まだまだ作るからよ!」
「アンタ、一緒に食おうぜ! そこのテーブルが開いたからさ!」
カイトがアーマデルに着席を促す。アーマデルは少しだけ悩んだ後、頷いて、焼き飯の皿を抱えながら、テーブルへと向かった。
そのテーブルから視線を店舗の奥に映すと、――ギャング団『ワダツミ』の頭目、アズマの姿があった。アズマは一人、壁を背にして酒を飲んでいたが、ふとその前に人影が差したのをみて、へらりと笑った。
人影――縁は、相変わらずの様だ、と苦笑する。
「……よう、この間は世話になったな」
「ホントだよ。おっちゃん、おかげで身体が痛くてねぇ」
ゆったりとしたその言動が、アズマの本性でないことは、縁も知っている。今ここで、その本性を晒す気はないのだろう。同じ海洋に生きるものだ、今日この限りにおいては。
いや、祭の日でなくとも――アズマが、縁に本心を晒すことは、無いのかもしれない。
そんな緊張感が、肌をひりつかせる。
「借りはさぁ、いつか返してもらうからねぇ。ま、いつでもいいけど、約束破りだけは厳禁よ?」
先手を打たれたような気がした。
――あんたがいつかボスになったら、俺はその右腕になって支えてやるよ。
あの時の誓い。破る事となってしまった約束。
そのことについて、釘を刺されたような気もした。
けれど、それを表に出すことは無いほどに、縁も大人であるつもりだった。嫌になるくらいに。
「了解だ。ま、今日は飲みに来ただけさ。付き合えよ」
表面上は、強気に笑って。
二人は酒を酌み交わす。
いつか、お互いがちゃんと向き合う日が来るのだろう。
その時の事を、心の片隅に浮かびつつ。
静かに――酒で喉を湿らせた。
さて、この酒場であるが今日に限って言えば、持ち込みもOKだ。そんなわけだから、外の屋台で食べ物を買い込んで、お酒はこのお店で……と言う客も多く見受けられる。此処にも、そんなグループが一つ。
「ソースの香り……いい香りね。お好み焼きか、タコ焼きか……」
「正解、タコ焼きですよ。他にも、イカ焼き、焼き鳥、焼きそば、フランクフルトに……」
小夜の言葉に、鶫は抱えていた屋台料理を次々とテーブルに並べていった。大量の料理に、目を輝かせたのはゼファーだ。
「良いわね! お祭と言ったらジャンクな食べ物のオンパレード。こうでなくちゃ! あ、私タコ焼きたべたぁい! ネギ多めでよろしく!」
「食べ物もいいけれど、お酒もよぉ」
まずはビールで。アーリアが持ってきたジョッキを並べて、準備は万端。
「さて、物は揃いました。始めましょう!」
『かんぱーい!』
かちん、とグラスをぶつける音がなり、女子会が幕をあげる。
「んー、タコ焼き美味しぃ!」
ゼファーが至福の表情でタコ焼きをほおばる。
「ちょっぴりカロリー的なアレそれが気になるけれど、皆で食べれば、それも抑えられるものね!」
「カロリーと言えばよぉ、何でみんなそんなに細いのよぉー! ゼファーちゃんに小夜ちゃんって前衛組は運動!?」
きょとん、とゼファーと小夜が小首をかしげた。鶫は、ふむ、と深く頷くと、
「ああ、そういえば細いですよね、小夜さんとゼファーさん。戦士たるもの、エネルギー源となる脂肪はもう少し蓄えても良いと思うのですが!」
「何で。っても。私は朝の鍛錬は基本欠かしませんし、ねえ」
ゼファーが苦笑する。
「もうちょっと肉付きがよくなってもって言うのは分からないでも……だけど」
小夜も微笑んでから、頷く。
「確かにもう少しお肉は欲しいと思っているんだけれど、毎日刀を振ってるし、あちこち歩き回ってるから自然と、ね」
「うう、それって、若さって奴なのかしらぁ……私なんて、そんなに食べまくってないのに……」
アーリアが、くぴ、とジョッキのビールを飲み干す。間髪入れず次の酒を注文しつつ、うなだれた。ゼファーはそんな様子を眺めながら、
「うーん。アーリアはお酒をちょっと減らし……」
「お酒やめるくらいなら死ぬわぁ!」
どん、とジョッキをテーブルに叩きつけるアーリア。その意志は固い様で、ゼファーも苦笑するしかない。
「うう、鶫ちゃん、飲むわよぉー!! 」
アーリアが新しいジョッキを高々と掲げるのへ、鶫は、
「アーリアさん……ええ、今夜はとことん付き合いますよ! 飲みましょう、乾杯! 」
グラスを掲げる。二人のグラスがかちん、と鳴った――。
さて、居酒屋を離れて屋台の並びへ。そこには洸汰とリーベの姿があった。リーベと言えば海軍船団の団員たちと別行動をとっていいのかと言う懸念もあったが、そこは特別な日という事で、別行動も許されたらしい。
「……これ以上ここにいると、またお酌とか要求されちゃうぞー、多分」
洸汰の発言も、別行動をとる背中を押したのは言うまでもないが。
「洸汰兄ちゃん、ありがとな」
そう言って笑うリーベへ、洸汰もまた屈託のない笑みを返した。
屋台を食べ歩きながら、二人は道を歩いた。
先の戦いの傷が未だ癒えぬ洸汰であったが、そのことはおくびにも出さない。リーベを心配させたくはなかった。
「ところでリーベ! 皆の活躍見てた!? マジもう、ホンットすごかったんだからなー!」
その痛みを隠すように、洸汰は言葉を紡ぐ。
「リヴァイアサンが出てきたんだろ? すごいよなぁ、洸汰兄ちゃん達。なぁ、竜ってやっぱり、とんでもない奴だったのか?」
尋ねるリーベへ、洸汰が頷く。
「じゃあ、詳しく話してやるよ!」
洸汰は紡ぐ。戦いの軌跡を。
帰ってきたもの、来なかったもの。その人の分まで、沢山の事を伝えられるように。
「……?」
ふと、シンロンは後ろを振り返る。人込みでごった返す屋台通り。そこに、誰かの視線を感じた気がしたのだ。
咥えたソーセージをパクリと齧り、首をかしげる――気のせいだったのかもしれない。あるいはたまたま――人目をひたのだろう。
「気のせい、ですかネ」
うむ、と頷き、屋台通りに視線を巡らせる――その遠く後ろを。
(気づかれては……いませんねー?)
茉莉は物陰に隠れて、ほっと胸をなでおろした。まさか練達上位式の気配を察知させられるとは思わなかった……流石シンロン君。
茉莉はシンロンの後を、ゆっくりと尾行していく。害意があるわけではない。単なる『おっかけ』の活動だ。
「シンロン君が立ち寄ったお店、あとでチェックしなくちゃ……!」
貸衣装屋で借りた大陸風の衣装で、シンロン君とおそろいに……なんてことを想いつつ、「おっかけ」を続ける茉莉。これはこれで、有意義な休日の楽しみ方に、違いは無いだろう。
●大騒ぎ~買い物編~
さて、食べ物関係のエリアから少し離れ、此方は主に商店が並ぶエリア。
出血覚悟の大セールの呼び声があちこちの商店や屋台から響いて、これまた人でごった返している。
「よっしゃー! 勝ったぞー!」
そんな海辺の路地で、海に向って叫ぶ一人の姿。それは風牙だ。風牙は笑顔で欄干から道に向って飛び降りると、よし、と頷く。すると、その視線の先に、見知った顔を見つけたのである。
「あれ、グッディじゃん。どした? こんな所で」
と、声をかけてみれば、そこに居たのはグッドクルーザーとSpiegelⅡだ。
「戦士、風牙ですか」
グッドクルーザーが手をあげる。
「実は、シュピたち、買い物について思考している所なんだ」
真面目な表情で言うSpiegelⅡ。風牙は顔をしかめつつ、
「なんだよ思考、って?」
「シュピたち、いつも資材の運搬を依頼されるもので、自発的になにかすることはないですゆえ、ゆえ」
「当機も、ショッピング……となると、経験がないもので」
「経験、って……そう言うモノじゃない……つってもわかんないのか」
風牙は腕を組み、ううん、と唸る。それから、うん、と頷くと、
「オッケー! これも何かの縁、オレがお前達に買い物ってやつを教えてやるよ!」
「本当ですか!?」
「助かるよ。取り敢えずお酒とお魚を買っていけば間違いはないと友人は言っておりましたな……?」
「あながち間違っていないよう気もするけど……ま、まずは欲しいものだ。お店を見ながら、良いな、と思ったものを買うんだよ。さ、行こうぜ!」
風牙が先頭に立って、二人を引っ張っていった。此処に特別ミッション、ショッピングを楽しむ、の幕が上がるのであった。
「戦果という果実は追撃によって摘み取るもの。今この時を逃す手は無いのではなくて? リーヌシュカ隊長、ご指示を下さいまし!」
ヴァレーリヤが声をあげる――ぴし、と敬礼などをして。その目の前にはリーヌシュカが居て、どこか気恥ずかしげに笑っていた。
「ヴァレーリヤ君は元気だね! ふふ! 速さなら私も負けないよ? リーヌシュカ隊長! ご命令を!」
マリアもまた、敬礼などをするものだから、
「あ! 敬礼格好良い! 私も私も! 一度やってみたかったんだー♪ と、いう訳でリーヌシュカ隊長! 私にも指示を!」
シャルレィスもまた、びし、と姿勢を正して綺麗な敬礼のポーズを決める。皆にそんなポーズを取られたリーヌシュカも負けじと姿勢を正した。きっ、とした声を張り上げる。
「鉄帝国軽騎兵のモットーは、いつだって電光石火! いくわよ!」
リーヌシュカの号令に、皆もまた、姿勢を正す。了解! そんな声が響いて、くすり、と笑いあう。それから皆、一斉に走り出した。電光石火、よいものを手に入れるにはスピードだ。
「リーヌシュカ君か。元気そうでよかった」
愛無がリーヌシュカに声をかける。リーヌシュカは笑って片手をあげた。
「それが鉄帝の人間と言う物よ! ふふ、あなたも元気そうで何より」
愛無が笑う……それから、こう告げた。
「戦勝祝いに、何か買ってあげよう」
「あら、今日は高いわよ?」
「それは大丈夫……だろう、多分……」
肩をすくめる愛無へ、リーヌシュカは笑った。
「ねね、リーヌシュカ! この欠片を集めると1つになるアクセサリーなんて如何でして? 皆で一緒に戦った証に……どうかしら」
ヴァレーリヤが手にしていたのは、数個に分割された花弁のアクセサリーだ。これを一つに集めることで、大きな花が咲く……と言う物だ。
「記念に皆でアクセサリーかい? いいね! 素敵だと思う!」
マリアが笑うのへ、
「わ、すごいすごい! こんなアクセサリーもあるんだねー! すっごく良いと思う! っていうか欲しい!!」
シャルレィスが花弁を一つつまみ、リーヌシュカの胸元に当てる。リーヌシュカは顔を赤らめて、
「も、もちろん買うわ……」
照れくさそうに言う。でも、本当に喜んでいることを、皆は分っていた。
皆が会計を済ませているうちに、マリアはヴァレーリヤの袖を、くい、とひっぱって、言う。
「ヴァレーリヤ君。その、これさっき露天で見つけたんだ……。君の瞳と同じ色の石を使っていたからつい買っちゃて……良かったら貰って欲しいな。いつもお世話になってるし!」
それは、緑の石をあしらった、シンプルながらも綺麗なネックレスだ。ヴァレーリヤは嬉し気にそれを受け取ると、
「ありがとうマリア、大切に致しますわっ!」
そう言って、微笑むのであった。
「アレクシアちゃん、あそこ! 古い本とかいっぱいあるよ!」
焔が声をあげる。その先にあったのは商店街の古書店で、古い歴史上の資料なども扱っている、なかなかの老舗だ。
「あっ、ほんとだ! ちょっと見てみようよ!」
アレクシアと共に、古書店に入る。鼻孔をくすぐる、古書の香りが心地よい。
二人が古書店を巡っているのは、海賊ドレイクや、水神様に関する物語を探していたからだ。
「本人に会ったり、一緒に戦ったりしたけれど、どんなお話があるかは知らなかったからね」
焔は言う。だから、知っておきたい。彼らにどのような物語があったのか。どのような伝承があったのか。
「それが、残されたものの務め……だよね」
アレクシアが笑い、数冊をピックアップする。
「ねぇねぇ、それとは別に、何かオススメのとかあるかな? 同じ本を読んで、感想を言い合ったら楽しいでしょ?」
焔の言葉に、アレクシアは頷いた。
「それじゃあ、焔君もせっかくだから何か選ぼうよ! そしたら感想を話す楽しみも2倍になるでしょう?」
「えっ、ボクも? ……うん、いいよ!」
二人は同時に本棚に視線を移して、同時に――直感で、本を選んだ。
アレクシアは、少し埃を被った、古い本を。
焔は、表紙の綺麗な本を。
対照的な二つの本を、二人は交換する。
「読むのも楽しみだけど、その後も楽しみになってきちゃった!」
二人は微笑み合うと、レジへと向かうのであった――。
商店街には、様々な店が並んでいる。其れこそ、服飾から雑貨の店まで。
その多くが、活気に満ち溢れている――。
「お祭ですね。祝勝会……みたいなものでしょうか」
そのお祭り騒ぎの真中で、Lumiliaは歩く。
「こういった海辺の街には、多種多様なものが集まるものです。武器や防具や、魔道具……はないかもですが、それでも、色々なものを眺めるのは楽しいものですね」
ふと、ウィンドウの中に飾られたドレスを見つける。キラキラと輝くそれは、今宵の皆の喜びを、その身をもって表しているかのように、Lumiliaには思えた。それを眺めているだけでも、自然と、楽しくなってくるものだ。
その服屋の中では、コレットが一着の洋服を前に、むむむ、と唸っている。
デザインは、良い。かなり好みだ。
だが、服のサイズがどうしても合わない。
「うーん……」
さらに深く、むむむ、と唸ってしまう。欲しい。どうしても。
「サイズ……うーん、ダメもとで、聞いてみようか……」
コレットは店員を見つけると、声をかけた。
「すみません。このデザインの服を買いたいのですが……サイズのオーダーお願いできますか?」
店員は笑顔を見せると、構いませんよ、と笑った。
「サイズを測りますので、奥までどうぞ。仕上がりは数日かかりますが……」
「大丈夫ですよ。……よかった。本当に、気に入ったデザインだったんです」
店員と共に、店の奥へと入っていくコレット――同じ店内には、恭介の姿が見えた。
「悪くないデザインね。インスピレーションが湧くわ!」
ふふ、と頷きながら、店舗を出る。目指すのは、裁縫店だ。糸や布を仕入れて、戦闘用の衣装を作ろうと、ふと思い立ったのだ。
「戦いの後に待っているのが笑顔なら……戦った人たちも、きっと浮かばれるわよね」
ふと思う。自分たちの戦いの後に、待っているのが平和ならば。
その戦いには、きっと意味があるのだと。
「自分探しなんて笑っちゃうけど。そろそろ、自分のやらなきゃいけない事、探さないとね」
その商店街には、ずっと遠くまで道が続いていて、雑貨が多く並ぶ屋台には、ルフナが品物を物色している。
「海洋の名物か……確かに、森の中では見たことがなかったな」
長らく森の外へ出た事の無かったルフナにとって、海洋の名産の品物はすべてが新鮮な刺激をもたらしてくれる。
「いつか帰る勇気ができた時のために……土産を買って行こう」
手に取る。貝殻は、ありきたりだろうか。大漁旗……なんて、いらないな。干した狂王種……。
「んっ!?」
思わず、目を見開いた。
「ああ、買い過ぎた……」
その隣では、両手いっぱいに袋と品物を抱えたトゥリトスの姿がある。貝殻をモチーフとしたアクセサリーがお気に入りで、気づけば次々と目を引き付けられていた。お祭となれば財布のひもが緩むのも仕方なくて、いろんなものを買い込んでは、その両手がふさがっていく。
その結果。
「うう、お財布が悲しい事に……あ、あのアクセ、かわいいっ!」
好きなものを見つけては、財布の中身の事なんてすぐに忘れてしまう。
それもいいはずだ。だって今日は、お祭の日なのだから。
「この海を守って散っていった奴らがいる。医者としては、素直に喜べないのが正直な所だが……悲しい顔ばっかしてちゃダメだよな。残された者として、この平和を楽しむか」
「だからって、その格好か?」
千尋が思わずツッこむ、聖霊の格好は、ハイビスカスとサングラスのバカンスバージョンだ。
「あ? 傾国の美青年のハイビスカスだぞ喜べよ!」
聖霊が笑う――千尋は思わずため息をついた。
「ま、そんな顔するなって。メノウもな。せっかくだから買い物を楽しもう。ほら、このアクセなんか似合うんじゃないか? お揃いで買っとけよ」
聖霊が差し出すそれを、1人と一匹はまじまじと見つめるのであった――。
「チェルシー、チェルシーじゃないか! この街に来てたんだね」
そう声をかけられて、チェルシーは振り向く。
そこには、あの青年の姿が……リゲルの姿があった。
「リゲル! あなたもこの街に?」
思わず飛びつきたくなるのを、我慢して踏みとどまった。喜びと、少しだけの苦い感覚。まだ、心に傷は残っている。
「先の戦いでは、情報をまとめてくれて助かったよ。君ももう、立派な情報屋だな」
「そんな……でも、私だってきっとまだまだで……」
そう謙遜はするものの、思わず頬が緩んでしまう。リゲルは笑って、頭を撫でてくれた。
「今日は買い物かい? よかったら、荷物持ちを志願するよ」
そう言って、二人でお祭りの商店街を行く。話題はいつしか仕事の話になって、その最中、リゲルは少しだけ、悲しい顔をした。
「――友達が居たんだ。大切な、友達だった」
リゲルは言う。その人とは、もう会えなくなってしまったのだと。
先の戦いでも、失われてしまった命がある。いや、戦いなどなくても、人の命は……希望は、簡単に断たれてしまうものなのかもしれない。人の運命は、先の事は……誰にもわからない。
「なんか、空気が落ち込んじゃったな」
リゲルは苦笑すると、頭を振った。
「なぁ、これ。さっきのお店で買ったんだ」
と、リゲルはチェルシーへ、ラピスラズリが施された羅針盤のネックレスをを手渡した。
「これ……くれるの?」
チェルシーが瞳を輝かせるのへ、リゲルは頷く。
「この石には魔を跳ね除け、幸運を呼び込む力があるらしい。良かったらお守り代わりに持っていて欲しい」
「うん! うれしいよ! ありがとね、リゲル!」
喜ぶチェルシーを見てその内心を悟られぬように。
どうか、彼女に、災いのない事を。
気休めだとしても――リゲルは、祈らずにはいられないのだった。
リゲルと分かれたチェルシーが買い物袋を手に帰路へとつこうとすると、とん、とだれかとぶつかった。
「いたた、ごめんな! あたりをきょろきょろしてて……」
「ううん、こっちこそ、ごめんね。貴方はどうしたの? お買い物?」
チェルシーが尋ねるのへ、その人物――ノーラは頷いた。
「うん! あのな、教えてほしいことあるんだ! もうすぐパパのお誕生日で、パパとママの結婚記念日なんだ。こっそりプレゼント買いに来たんだけど、良いお店知らないか? プレゼントはペアの何か贈りたいんだ」
ノーラの言葉に、チェルシーは小首をかしげる。
「うーん、そうだなぁ……内緒って事は、お小遣いで、って事だろうし……あんまり高いのは難しいよね。じゃあ、雑貨屋さんがいいかな?」
「いいお店があるのか?」
「うん。よかったら、案内するよ!」
人懐っこい笑みを浮かべるチェルシー。ノーラは「ありがとう、だぞ!」と礼を言うと、チェルシーの案内に従ってついていく。
道中で自己紹介を済ませて、雑貨屋へ。色々な品物に、ノーラは目を輝かせる――その中で、ノーラは一組のカップを見つけた。
「青と緑でパパとママの色! お値段……お菓子我慢すればぎりぎり大丈夫」
財布の中を確認するノーラに、
「青、か。なんだか知ってる人を思い出しちゃうな」
チェルシーは笑う。
会計を済ませ、別れようとするチェルシー……だが、ノーラは少しもじもじとして、
「あの……ローレットの場所教えてくれないか? 一人で来るの初めてで、迷子なんだ…… 」
そう言うので、チェルシーは微笑んだ。
「いいよ、じゃあ、一緒に行こうか!」
そう言って手を繋いで、二人は歩き出した。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
大願成就の夜は、賑やかに過ぎていきます。
イレギュラーズの皆さんも、今はゆっくりと、祭の喧騒の中で、身体をお休めください。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
大規模作戦の完了、お疲れさまでした。
今はその勝利にしばし酔いしれ、その疲れを癒してください。
●成功条件
めいっぱいたのしむ!
●状況
海洋の街では、此度の戦勝を祝う大規模な宴が催されています。
この商店街も同じ。街をあげての祭が催され、多くの人々が宴に酔いしれています。
イレギュラーズの皆様も、是非この商店街に訪れ、楽しんで行ってください。
●行き先
【1】商店街:食べ物系を楽しむ
商店街の中でも、屋台や食堂、酒場などを楽しむコースです。
今はお祭状態ですので、格安で沢山の食事を楽しむことができるでしょう。
酒場には、『禍黒の将』アズマやリーベ・ズィーマンが居ます。
【2】商店街:買い物を楽しむ
商店街の中でも、商店や雑貨屋、露店などを巡るコースです。
今はどのお店もセール中。ショッピングを楽しむことができるでしょう。
なお、チェルシー=コールドストーンも、ちょっとしたショッピングの最中のようです。
●プレイングの書式
一行目:【行き先の数字】
二行目:【一緒に参加する仲間の名前とID】、あるいは【グループタグ】
三行目:本文
の形式での記入をお願いいたします。
書式が崩れていたり、グループタグ等が記入されていなかった場合、希望の個所に参加できなかったり、迷子などが発生する可能性があります。
プレイング記入例
【1】
【ファーリナさんとゆかいな仲間達】
ご飯をたくさん食べる!
●諸注意
基本的には、アドリブや、複数人セットでの描写が多めになります。アドリブNGと言う方や、完全に単独での描写を希望の方は、その旨をプレイングにご記入いただけますよう、ご協力お願いいたします。
過度な暴力行為、性的な行為、未成年の飲酒喫煙、その他公序良俗に反する行為は、描写できかねる可能性がございます。
可能な限りリプレイ内への登場、描写を行いますが、プレイングの不備(白紙など)などにより、出来かねる場合がございます。予めご了承ください。
以上となります。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
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