シナリオ詳細
練達からの流し雛
オープニング
●
流し雛。或いは雛流し。
異世界は日本、或いはその文化に限りなく近い多数の世界が発祥の文化である。
ひな祭りと呼ばれる、女の子の成長を祈願し、ひな人形と呼ばれる人形を飾って供えるお祭りがあるのだが、流し雛とは、そのひな祭りの起源となった行事であるという。
身の穢れ等を人形に移し、無病息災を祈り、人形を川に流し、その穢れを清める。
そう言った行事であるという。
さて、この混沌においても、その手の行事が行われることは少なくはない。
異世界からやってきた、旅人が、故郷を懐かしんで行なったり。
あるいは、その行事を知った現地の者が、村おこしに利用したり。
様々な形で、この世界においても、ひな祭りは行われているのである。
●また練達の仕業です。
「HINAが流れてきたのです……」
顔を真っ青にし、汗びっしょりになりながら、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は言いました。
曰く。練達により製造されたHINA人形が、はるばる流し雛の行事によって、幻想にまでやってきたのだという。
このHINA人形であるが、ゴニンバヤシ・サウンドブラスターや、サンニンカンジョ・自律小型砲台システムなどの超テクノロジー武器をはじめとした強力な火器を搭載。一機で戦局を変えることも可能な、戦略兵器だとかそうでもないとか。いや、何でそんなものを流し雛したのか。
「このままでは、HINAが流れてきた港町が、ぺんぺん草一本も残らぬ廃墟にされてしまうのです……! そこで、皆さんの出番です! 今すぐHINAを撃退して欲しいのです!」
うわぁ、無茶振りだァ。
「そうそう、HINAには弱点があって、それをつけば的確なダメージを与えられるはずなのです! それでは、皆さん、頑張ってくてください!」
そう言って、ユリーカは頭を下げた。
- 練達からの流し雛完了
- GM名洗井落雲
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2018年03月30日 23時50分
- 参加人数122/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 122 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(122人)
リプレイ
●練達から一言
これらは『練達から流れてきた』ものであります。
『練達が流した』ものではございません。
そこの所をご理解いただきたく存じます。
●いろいろなHINA、いろいろな戦い。
まぁ、そう言いたくなるのも無理はないだろう。幻想のとある港町に流れついたのは、様々な外見、性能、仕様のHINA達である。それらには統一感はなく、あらゆる世界から・あるいはあらゆる人物の手によって・流れついたのではないか。そう考えられもする。まぁ、否定はしていたものの、多分練達の人間も何個か廃棄する感覚で流したのかもしれない。イレギュラーズの皆は不法投棄とかしちゃだめだゾ!
さて、港町は早速戦場と化していた。飛び交う光線。宙を舞うよくわからない物体。響く音波砲。イレギュラーズ達は時にこれらを勇敢に撃退し、時にこれらに吹っ飛ばされながら、必死にHINAの処理をしていた。
「粒子砲はやめろ焦げて焼き豚になっちまうぶはぁッ!」
最前線でシールドを掲げ、文字通りの盾をやっていたゴリョウであるが、流石にこの量の攻撃を完全にさばき切る事は難しい。
「ええい、ほんとうに れんたつは ろくなことしないな!」
「まったくだ! ホントろくなことしねぇなあの引きこもりども!」
同様に前線を盾として駆け回っていた黒羽が同意する。
「すまない。練達がこんなんですまない……」
と、思わず謝ってしまうのはウィリアムである。
「しかし、全てが練達の製品と言うわけではないようだ。見た覚えのないものもちらほら混じっている」
「そう、アレはHigh-Invasive Networked Army(高侵略性ネットワークアーミー)……HINAシリーズ。……完成していたのね……」
「知っているのか暁蕾!?」
知っているのか暁蕾!?
「アレはOBINAとMEBINAと言う個体が全体の指揮と支援を行うタイプよ。逆に言えばそれが弱点ね」
と、当然のように解説を行う暁蕾だ。
「と言うか、HINAって何なんじゃ。Hyper Intelligence Nemesis Arm、直訳で超知能天罰兵器、略してHINAとかそんな感じのアレか? いやアカンじゃろ」
思わずセルフツッコミをかましているのは、ルアである。
「あら、詳しいのね」
暁蕾が言うのへ、
「え、ほんとにあるの?」
と、ルアは思わず声をあげるのだった。
「また練達かぁ、壊れるなぁ」
利香がどこか遠い目をしながら言った。この世界どうなってるんだと考えてる、魔界生まれ魔界育ちである。
「よーし、一番槍は頂きー!」
と、小盾構えてHINAへと突撃。弱点は、まとめて叩き潰せばいいだろう。そう言うノリである。
とはいえ、それはそれで正しい。わかんない時はおおざっぱにやっちゃうに限るよね! 首尾よくHINAを破壊し、ドヤ顔する利香である。
「HINA……聞いたことがあるわぁ。確かみかんくらいの大きさの人形で、かなりの数で攻めてくるのよねぇ」
その言葉通り、大量に流れついてくるみかんくらいの大きさのHINA。琴音はそれを箸でつまんでは放り投げていく。
「あっ……あの雛は……まさか。三賢女・セイショウナゴン……! 完成していたというのか!?」
驚愕の表情で言い放つのは、ジークだ。いや、セイショウナゴンってひな人形だったっけ?
「コイツの弱点はエネルギー不足で装甲不足。トンカチで叩けばどんどん割れるぞ!」
さぁ、どんどん割ろう。次々と流れてくるHINAを片っ端からトンカチで戦うだけの簡単なお仕事だ。
「ほお、HINAであるか。もうそんな季節であるのであるな」
ある種の貫禄すら見せつつ、これも風物詩、と言った様子で言うのは、マスターデコイである。
「狙うのは指揮個体であるオーダイリであるな。タンゴのSEKKUのコイ・ライジングに比べれば、まだまだ楽な相手である」
タンゴのSEKKU……そんな恐ろしい行事もあるらしい……え、いや、5月は変なイベシナは出しませんよ……?
「超兵器にはこちらも超兵器で対抗するべきだ。私は超天空戦艦KOINBOREを発注しておいた」
ラルフが言うKOINOBOREとは、なんでも戦艦MAGOI、空母HIGOI、艦載機KIGOIからなる打撃飛行艦隊であるらしい。うむ、そういうのもあるのだろう。言った物勝ち。
「間もなく戦線に投入できるはず……む、なんだ。え? 速達? 工廠から? なになに? 『すみません、KOINOBOREは5月からなんですよ』……ふっ。なるほど。そうか!」
すみません、それ5月からなんですよ。
「まったく、この世界の流し雛って随分と物騒なのね」
結が数体目のHINAを斬り捨て、嘆息した。いや、この世界の流し雛も本当はまともな行事である。来年はまともなイベシナが出るに違いありません。
「結、少し飛ばし過ぎだな。燃費良くいけ」
ズィーガーがアドバイスをするのへ、
「了解。一体たりとも逃しはしないわ!」
と、頷く結であった。
「アドリ! 今何体倒した!?」
シオンがヨダカに尋ねる。ではダイスをふります。ころころ。お見事、68体!
「数えてみたら結構倒したみたいだねェ! これはデザートは頂きかな?」
2人はデザートをかけた討伐数での勝負の真っ最中。まぁ、ヨダカは楽しければいいので、勝っても負けても、デザートはシオンにあげるつもりなのだけれど。
「何でこんな兵器を流したのかな? 兵器を流すのって、なんか間違ってるよね~」
セシリアがユウの傷を癒しながら尋ねる。
「何でって……何でかしら。何かメリットがあるの……?」
正直な話、面白いから流した。
「はい、傷の手当は終わり。無理しないで、頑張ってね!」
セシリアの笑顔。ユウは頷いて、再びHINAの群れへと立ち向かっていくのだ。
「ハロルドさーんちゃんとカウントしてる? 僕もう333体は倒せたかなぁ?」
笑いながら、ルチアーノ。凄まじい数のHINAを倒し、その身体のあちこちに傷を負いながらも、その余裕の笑みは崩れない。
「ハッ! 言ってくれるじゃねぇか! なら334体目は――テメェだッ!」
ハロルドは言いながら、ルチアーノへ向けて剣を振り下ろした。いや、厳密には違う。狙ったのは、その背後にいたHINAだ。
「おっと、また同数かな」
ルチアーノが笑う。ルチアーノが構えた銃から立ち上る硝煙。それは、ハロルドの背後にいたHINAを狙い撃っていたのだ。
「うおおお! フランスパンを食らえ!」
零が叫び、フランスパンをHINAにねじ込む。それだけでHINAは沈黙した。間髪入れず、次のHINAへ。そのまた次のHINAへ。フランスパンを次々ねじ込んでいく。
「いやぁ、まさかフランスパンが効くとはね。これもフランスパン神の導きか」
と、笑いながらランドウェラ。効くといえば効くのである。信じろ。そして実行せよ。
「その調子でどんどん頼むよ。頑張れフランs……零!」
「今オレの事フランスパンって言おうとしたろ!?」
いいぞ、頑張れ、フランスパン!
「な、な、なんで人形を流す祭りがこんな大災害みたいになるんですか!」
と、ひきつった笑みを浮かべながらエマ。分からない。どうしてこうなったのか、誰にもわからない。
「こんなものを作って喜ぶか、練達共め!」
何やらテンション高めで、Svipul。まだまだ色々と言いたいセリフがたくさんありそうである。気持ちはわかる。名言多いですからね。
「さて、嫌だ嫌だと言っていても仕事は終わらないのである。とりあえず、手ごろな奴を片っ端からやっていくのが良いであろうな」
「ひひ……。やだなぁ……」
心底嫌そうな表情でエマ。残念だが、耐えてほしい。
HINAのサウンドブラスターをよけきったスウェンは、そのまま一気に肉薄した。情報が確かであれば、このタイプのHINAは、サウンドブラスターに欠陥があり、発射後は内部機構がむき出しになるはずである。
果たして、情報は正解だった。さらけ出された内蔵へ、必殺の一撃。HINAは沈黙した。
「よーし、どんどんいくッスよ!」
そして再び、スウェンは駆けだす。
「HINAの弱点はお腹の光ってる所なの!」
鳴が言うや、魔弾を撃ち放つ。直撃したHINAが次々と爆散していく。
「わーい、的当てなの!」
お仕事ではあるが、楽しげに。鳴の的当てはまだまだ始まったばかりである。
「ああ、もう! この間のヤッキーと言い、練達に人形を作らせるのやめさるべきなのでは!?」
光線攻撃に翻弄されつつ、ラダが悲鳴をあげた。違うよ。ヤッキーは悪くありませんよ。それでは聞いてください。ヤッキーの幸せなお話し。
「まったく、外交問題に発展するんじゃないのか、これは……」
そこは上手く回っているのが混沌世界である。安心して欲しい。
シャルレィスは、その時、確かに声を聴いた。シャルレィスを呼ぶ声を。力を貸すというその声を。
「いくよ、HINA!」
シャルレィスは、離反したHINAのコクピットに乗り込み、操縦かんを握った。適当に動かすと、なんかカッコいい決めポーズをとる。
シャルレィスに続き、多くの離反したHINA、そしてそれに乗り込んだ仲間たちが、戦場へと向かっていく。
そう、シャルレィスは、1人ではない。仲間がいる。そして、それはイレギュラーズだけではなく、HINAもまた、友と呼べるのだ……。
友。そう、友と言えば、ルチアもまた、友と呼べる存在と出会っていた。
筋肉デュエリスト型HINA。拳と拳、肉体と肉体のぶつかり合い。それ故に生まれる相互理解。そしてほのかな友情。
だが哀しいかな。二人は殺し合う敵同士。ハッピーエンドは訪れない。
「お前もまた友だった……」
静かに涙を流しながら、ルチアは動かなくなったHINAが生まれ変わり、ローレットの門をくぐる事を期待せずにはいられないのであった。
ライハは空を飛んでいた。飛行能力で飛んでいるわけではない。ビームで吹っ飛ばされたのである。
「ハハハ。やっぱり適当に考えた弱点じゃダメだな!」
そのすぐ近くで、同様に吹っ飛ばされながら、ライハの策に乗った者たちが、非難の声をあげている。
いや、適当に考えた弱点でも問題ないのである。大切なのは信じるココロ。リッスン。信じるココロ。オーケー?
「弱点か……酒とか飲ませとけばいいんじゃね」
そう言いつつ、適当なHINAをとっ捕まえて、文字通りに酒を浴びせているのはシビュレだ。
「お……おお……なんかバチバチ言っておる……酒に弱い、正解じゃな……」
なんでもやってみるもんだ!
「やーいやーい、嫁き遅れ」
ウィルフレドがサンニンカンジョを挑発しつつ、次々とHINAの乗った船を狙撃。穴をあけていく。穴の開いた船は、当然沈む。沈む。どんどん沈んでいく。
挑発も功を奏した。何故か妙な焦りを見せたサンニンカンジョが、次々と武装をしまいだしたのである。こうなればこちらの物だ。後は狙撃して行けばよい。
義弘も、土台を狙い、攻撃を仕掛けていた。土台さえなくなれば、後は沈没して行くのみ。果敢に接近しながら、次々と土台を破壊して行く。
「ふっふー。ボクは図書館でHINAの弱点をちゃんと調べてきたよ!」
得意げな笑顔でセララが言う。HINAとは本来飾られるもの。このHINA段にセットした時、HINAは動作を停止するのだ。なるほど理にかなっている!
「よーし、そうと決まればHINAを捕まえて……あっ、こら! 逃げちゃダメだってば!」
逃げ惑うHINAを追いかけて、セララがわたわたと走り回っていた。
「あー、雛人形って首とかポロっと行きやすいんだなぁ……ガキの頃に女友達の家で何度かやらかしたっけか」
呟きながら、貴道が殴り掛かると、HINAのくびがぽろり、と落ちた。
ううむ、凄く気分は悪い。そんな所まで再現しなくてもいいのに。
とは言え、次々とHINAは襲い来る。であれば、次々首を落とすしかない。これは試練の時であった。
「我等『物語』の肉を抉る、狂乱的な雛の群れ。ならば為すべき事柄は一。支援兼肉壁の所業を晒すべきだ。我等『物語』は道化。我等『物語』は偶像。皆の笑顔と恐怖の種を、此処で嗤って魅せましょう」
オラボナは笑う。吹き飛ばされても、撃たれても、笑い、嗤い、笑う、嗤う。
喚起するのは恐怖の感情。それこそが、HINAの弱点である。それを知っているがゆえに。
オラボナの笑い声は、戦場に高らかと響き渡るのだ。
「我は静寂望む蒼の牙ブローディア、我が繰り手は万難を排す盾となら……って、どうしたサラ。え。綺麗? アレがか? そ、そうか? む、いや、お前の考えを否定したわけではないぞ。うむ。よく見れば愛嬌のある……うむ、そういう形状をしている。え? 欲しい? いや、マズいであろう、それは。いや、落ち着け。サラ。サラ! サラァ!」
珍しく自己主張などをしつつ。『ブローディアの繰り手』は、綺麗な物を手に入れるために、戦場へと躍り出るのであった。
「雛を何故流す? そもそもの起源は何だったか……?」
戦いながら、アレクシアは自問自答する。何故HINAは流れてきたのか。それを考えれば、この戦い、有利となる一手を生み出せる。
「……えーと、そう、穢れを雛に移して、無病息災を願い、その雛の穢れを清めるために川に流す……つまり流されてる状態の雛は穢れを清められていってるということで……そうか! 穢れがなくなればHINAは止まる!」
つまり!
「何もせずに放っておけば勝手にとまる!」
その言葉を皮切りに、HINA達が次々と爆発していった。かしこい。放っておけばいいとは盲点だった。
「傍迷惑な兵器だな……と言うか、この行事の為にこの戦略兵器を作ったのか?」
Morguxが、HINAを殴り飛ばしながら言った。別にこの行事のためにこんなものを作ったわけではないだろう。たぶん。きっと。
「練達って暇なのかねぇ……」
それ以上はいけない。
シルヴェイドは、次々とHINAに殴り掛かって行く。撃破した際の爆風すらものともせずに。ある種の高揚感すら覚えながら、一体、また一体と、HINAを殴り飛ばしていった。
「弱点って言われたって、あるかどうかはわからない! なら、真っ正面から突っ込んで、ひたすら拳を打ち続けるのみだよ!」
爆風を背景に笑顔を浮かべ、シルヴェイドは次の獲物をと向かっていく。
「……『不在証明』は仕事をすべきだと思います」
ふぅ、とため息を一つつきつつ、アイリスが言った。そう言われると辛い。いや、もしかしたら、これすら凌駕するような生き物が、実は混沌には存在するのかもしれない。そう考えると恐ろしい事です。
アイリスは、仲間の援護、救援をメインに活動していた。負傷者の回復と脱出支援。敵は多いのだから、こちらも継続戦闘能力を高めておくべきだ。
「はいはーい! HINAは外ー、パンドラは内ーっす!」
同様の思想からかどうかは定かではないが、仲間たちの回復支援を買って出たものたちも多い。例えば、ジルもそうだ。
「皆さん、怪我したら下がって下さいっす!」
戦場を走り回り、次々とけが人を癒していく。
「と、そこなものよ。怪我をしているではないか。ほれほれ、治療を受けていくが良い」
ルクスもまた、後方援護を行っているイレギュラーズだ。
「代金など取らんので有るよ。気になるならHINAとの戦いの一つでも語ってくれると嬉しいがの?」
ふふん、と笑いつつ、ルクスはそう言った。
「はいはいヒーラーはこちらですよーっと」
リンネが声を張り上げて、けが人たちを誘導する。
「死にたくない奴は寄っておいでー。死んだ奴も寄っておいでー。どちらも丁重にご対応するよー」
リンネにとっては、どちらも手厚く取り扱うべき相手なのだ。
「はい、手当完了だよ!」
スティアはけが人の手当を終えつつ、頷いた。
「うーん、正直危ない所に関わりたくないから後方支援をやってたけど……このままいけば、戦場の聖女とか言われちゃうかもしれないね! なーんて、えへへ、流石に恥ずかしいなぁ」
当初の動機はどうであれ、やっていることは立派である。当初の動機はどうであれ。
「科学とは時として暴走してしまうもの。これも人の業ですね」
コーヒーなどをすすりつつ、後方支援と言う名目で戦いの観戦をしている者もいる。四音である。
「いやいや、ただ見ているだけではありません。しっかりと仕事はこなしていますよ。ええ。ふふふふ」
楽しげに笑いながら、四音の『観賞』は続くのであった。
「うぉー! しーぬー!! 俺の知ってるお雛様と違う! 何なのアレ、練達ではアレがトレンドなの!?」
威降が叫び、ビームと弾丸の雨の中を走る。HINAに関しては、別にこれが練達のスタンダード・ひな祭りと言うわけではない……と思う。
悲鳴をあげつつも、威降は逃げない。立ち向かう事をやめない。威降は、そういう人間だからだ。
ボロボロになりながらも、HINAの核を貫き、破壊する。満身創痍だ。だが、歩みは止めない。次のHINAへ向けて、威降は行く。
「随分と物騒な物が流れ着いたな。被害が出る前にとっとと破壊するか」
レオンハルトもまた、HINAへ突撃を敢行した。本能的・経験に裏打ちされた勘も合わせ、的確、かつスピーディに動き、次々とHINAを討伐して行く。
「はっはー! 練達ってのは「頭の良いバカ」の多い国みたいだな。頭のネジがブッ飛んでるぜ」
楽しげに笑いつつ、ロクスレイが言った。だが、次の瞬間、
「……では、任務を遂行する」
そう言うや、その顔から一切の表情が消えた。仕事は事務的に。そして的確に。それが流儀だ。
「はいはいはい視聴者様方よってらっしゃい見てらっしゃい狩ってらっしゃい。ご覧の通り、川を埋め尽くすHINAの群れ。まるで迫りくるマンターゲットのようなのです。さあさあ皆様お撃ちなさい、お切りなさい。思う存分狩って狩って狩りまくるのです! スコアはないけど自分で数えて、お友達と競って競って狩るのです! 御代は狩ってのお帰りなのです!」
楽しげにアジるアジテーター。いつも通りに煽って煽る。どこにいても、どんな時でも、気象衛星 ひまわり 30XXのスタンスは変わらないのだ。
「人形は正面からこそ見るもの。それに、雛人形はできるだけ早く片付けなきゃいけないって聞いたことがあるわ。そうしないとその家の女の子がお嫁に行きそびれちゃうんだって……でも、どうしても忙しくって片付けられない時はくるりと回して背中を向けるそうなの。つまり、そういう側面がもし受け継がれてるとす れば、背中を向けられた雛人形はその役割を抑制されるはず! つまり! 弱点は、背中!」
エスラの放つ攻撃は、HINAの背部にヒット。次々とHINAが爆散して行く。
「練達連中は本当に碌な物作らないわね!?」
HINAの頭を破壊しながら、竜胆が言う。申し訳ない。本当に申し訳ない。
「もう、ちゃんと本物のひな人形を知ってる人だっているでしょうに、なんでこうなるわけ!?」
ごもっともである……どうしてこうなってしまったのだ。本当にわからない。混沌とは不思議だ。
「この手のハイテクは『いいからお前は絶対触るな』と元の世界でよく禁止されたなー」
どこか懐かし気にネストが言う。HINAに近づけば、HINAのシステムが勝手にダウンした。あー、いるいる、なんか致命的なまでに機械と相性の悪い人。
「当時は都度謝って乗り切ってきたわけだが……今はこの力が役に立つなんて……」
感慨深げに、ネストが言った。マイナスがプラスになった瞬間である。
「戦略兵器を流すお祭り……どんな世界なんだろう? きっと、毎日戦争に明け暮れる戦闘民族がいっぱいいる所なんだろうなあ」
ニゲラが言う。しまった、異世界の住人にとんでもない偽知識を植え付けてしまった。これは現代日本、あるいはそれに近い文化の存在する世界より来た旅人も頭を抱えているだろう。とんでもない風評被害である。さて、とりあえずHINAを殴り飛ばして回っているニゲラであったが、ある一体のHINA相手には非常にてこずっていた。と言うのも、
「この障壁!? ⅩⅡ-H.I.T.O.Eシステム!?」
なる凄いシステムが搭載されていたからだ。だが、このシステムを突破すれば、このHINAの撃破は容易なはずである。ニゲラの、本日最大の戦いが始まろうとしていた。
フラストレーションが溜まっていた。
右も左も解らない世界に喚ばれたまでは良い。
魔力は大いに減衰するわ、魔術は組みなおしだわ、ストレス要因が多すぎた。
金属の塊を見つけたのは偶然。
『機械に魔術組み込んだらどうなるか』
「なんて悪い病気が出てきてしまってね」
と、言うルーキスの視線の先には、ルーキスが改造したというHINAの姿があった。当然のごとく、大暴れしている。
「……え? これ、ルーキスが改造した奴だって?」
ルナールが尋ねる。
「まぁ、そうなるね。いや、まさか反逆して暴れ出すとは。困った困った。はっはっは」
「……あー、うん。まぁ、解体っていうか壊せって言うなら俺でも出来るから、いいんだけど」
「何故、店番の筈の私まで駆り出されているのでしょう? 理解不能です、理不尽です、待遇の改善を要求します」
と、マリス・テラ。
「まぁ、仕事の報酬はちゃんと支払うから。お願いするよ。さぁ、頑張ろうか!」
ルーキスの言葉に、ジト目で視線を送るマリス・テラであるが、ほどなくして諦めたのか、ため息ひとつ、頷いた。
「燃料もとい、仕事の支払いは。何時ものお菓子でお願いします」
と、マリス・テラは言うのであった。
「数、多すぎ」
セティアが言った。もう何体片づけただろう。それでもなお、HINAの数が減ったようには感じない。
「うおーー! コル家の養女ココルなのです! 成敗してくれるのです!」
ココルが名乗りを上げ、HINAの群れに突っ込む。
「ああ、ほらほら、それじゃ囲まれちゃうよ! 周りを意識して」
ライセルが言う。集団戦の訓練としては、丁度良い機会だ。そう考えたライセルたちは、セティアとココル、2人の為の訓練を開始した。
「にゃん。猫真似斬り」
「てやんでいです! こんな所で負けないのです! 反撃なのです!」
「次、来るよ。さぁ、頑張って!」
心を鬼にし、ライセルは教官役を担当した。とは言え、本当に危ない時にはいつでも飛び出せるよう、準備は怠らないライセルであった。
ラクリマが、戦場でBloodを見つけた時、Bloodは、二体のHINAに首を絞められていた。Bloodは、抵抗しない。なすが儘になっている。
「なにを――?」
疑問と同時に、身体が動いた。放った魔弾が、Bloodの首を絞めていたHINAの頭部を破壊。HINAが力なく倒れた。
「――何をしているのです、死にたいのですか!!」
慌てて駆け寄る。ぼうっと呆けているBloodの頭を、軽くたたいた。それを合図にしたかのように、Bloodの瞳がラクリマを捕える。
「死ぬ気だったのかもしれませんが、置いて行かれる側の立場を貴方は――」
「あれ、は……お、父……さん……と……お、母……さん……だ、った……から……」
ラクリマの言葉を遮る様に、Bloodが言う。Bloodが、あのHINAに何を見たのか。それは、当人にしかわからない事だった。
「流し雛、というのは東方の風流な催し物と聞いておりましたが……。こういうものなのでしょうか……、私には判断しかねます」
投げナイフでHINAを狙い撃ちにしながら、アンジェリーナが言う。違う、違うんです……とんでもない風評被害を生み出してしまった……。
「所で……このHINAを倒した後は、持ち帰ってもいいのでしょうか?」
ダメです……勘弁してください……。
「あ、あれ……? もしか、して……」
戦闘中、何かに気付いたメイメイが、マジックロープをHINAに放つ。HINAは最たる抵抗もせず、あっさりと縛り上げられた。
「や、やっぱり……」
メイメイが気づいたこと。それは、どうも、HINAの中にはBS耐性がない(むしろカモン、と言うレベル)の個体が存在する、と言うものだ。
「こ、これ、なら……」
もっと役にたてる。少しだけ嬉しそうに、メイメイはマジックロープを投擲しはじめた。
「うおおお、HINAがなんだ! こっちは大砲だ!!」
フユカが叫び、大砲をぶっ放した。目には目を。兵器には兵器を、である。
「くそ、どこにいても背水の陣かよ! ええい、だったらまとめてぶっ飛ばしてやる! 覚悟しろよHINA!」
フユカの大砲が連射され、新たな爆風を生み出した。
「なんだコレ……俺の知ってるひな祭りじゃない……」
クロバの呟きは、爆風に消えて誰にも届かない。とは言え、クロバの同行者は、
「ハハ、なんかよくわかんないけど練達が面白い物作ってるのは分かったわ! イイじゃないひな祭り!」
ノリノリでHINAを倒すルーミニスと、
「気を付けろ。不用意に倒すと、穢れが流出しtうぼぁー!?」
HINAのビームの光に飲まれ消えゆく汰磨羈なので、呟いてもそもそも聞いてないというか。あ、汰磨羈さんは大丈夫です。生きてます。
「あの台を壊して沈めるんだ。沈めると鎮めるのダブルミーニング。流し雛は儀式だからな、その手の言葉遊びが効くはずだ!」
御覧の通りお元気です。汰磨羈が言うのへ、
「くそっ、なんか上手い事言ったつもりか!」
クロバが思わずツッコみ、
「いよっしゃー! 首級、もらったわー!!」
と、容赦なく首を狩るルーミニスへ、
「いや、台狙えよ!」
と、クロバがツッコむ。
クロバの疲労度が凄いことになりそうであった。
「我が陣営の団結の力を思い知るがいい!」
リゲルがそう言って、HINA達の前で名乗りをあげた。攻撃がリゲルに集中するが、リゲルはそれを防御、或いは回避し、全てをいなして見せた。
「女の子の成長を祈願する祭りだと聞いていたが……このHINAを倒す祭りなのか……」
ポテトが若干困惑したように呟く。しかしすぐ思い直すや、
「良し。ノーラ、思いっきり倒して元気に成長するように頑張れ」
ぽん、とノーラの背中を叩いた。
「HINAをいっぱい壊せばいいんだな! 頑張る!」
と、元気よく返事をするノーラである。このままでは誤った文化が定着してしまう……。
「HINA人形とはかくも恐ろシキものだったノカ……」
モルテがHINAへと応戦しつつ、感心したように頷く。
「いや……違う……絶対違う……っていうか、なにこれ……」
アランが言った。なんだろうね、これ。よくわからない……。困惑しつつも、動きのキレは流石の一言である。HINAをばったばったと切り捨てていく。
「暗黒騎士の力見るがいい……漆黒に包まれろ! 暗黒剣!」
ユーリエと、
「ランケヴァーレ流槍術、クィニー・ザルファー! ランケヴァーレ流槍術奥義、喰らえぇえっ!!」
クィニーが、お互いの最大奥義を以て、HINAを粉砕。撃滅する。
「なるほど、皆、流石だ」
空海が言うのへ、
「……僕たちも、負けてられない……ね」
グレイルが答えた。空海はうなづき、
「そうだとも。さぁ、行くぞ。主の力も見せてくれ!」
その言葉に、グレイルは力強く頷いたのだった。
「やつらは高度な科学を使われ起動する兵器だ。だが、高度すぎるがゆえに、その思考回路は数値演算できない感情や行動に弱く、思考ルーチンがループに入り暴走し、自壊するはずさ。つまり、これは、もう、るいるいの愛の力で敵を倒すしか……」
「愛ですかー……愛……いや、私にも難易度高いんですけど」
竜也の言葉に、塁が答えた。二人とも、今日であったばかり、初対面の間柄なのだが、妙に息が合っているのは相性が良かったのか。
「そして、俺がやれる事……それは、るいるい、君の盾になる事だ。これも愛だよね……」
「愛……ですかねー……?」
首をかしげる塁である。竜也はこの後滅茶苦茶盾になった。
「さて、高さは十分稼げましたね。スペルヴィアも準備は大丈夫ですか?」
空を飛びながら言うのは、イリュティムである。その腕には、スペルヴィアが抱かれており、
「流石、いい軌道ね……雛壇ごと粉砕して差し上げましょう」
スぺルヴィアはそう言って笑う。
イリュティムたちは、HINAの直上、上空にいた。ここからスぺルヴィアを投下し、その勢いで以て敵を殲滅する寸法である。
『速度も十分だ。それでは、射出予定地点まで5……4……3……2……1……リリース!』
アーラが言うや、イリュティムはスぺルヴィア達を投下した。軽く親指を立てて挨拶すると、そのままの勢いでHINAへと降下していく。
一方、地上では、ブラキウム、アワリティアが攻撃目標のHINAへ、攻撃を仕掛けている。
「音響装置は振動部か音を反射させてるあたりが狙い目かねぇ?」
『精密機械は下手に複製すれば壊れる可能性はあるな……』
そう言いつつ、的確に武装部分を破壊していく二人の目の前に、スぺルヴィア達が『着弾』した。
「……イリュティムが……なるほど……空挺作戦……」
『空挺というよりも爆撃と呼ぶべきだと思うがな』
コル、メランコリアが、その様子を遠くから観戦していた。メランコリアたちは、援護、および観戦を担当するチームらしい。
「……えぇ……!? ……な、なっに……を!?」
『ほぉ~、アワリティアは直接殴りに向かったようだぞ?』
カウダとインヴィディアのコンビも、同様のチームである。
「……しかし、流し雛も幾重にも間違っていますよね?」
『他の祭りごとと同じく歪んで伝わったのだろうな』
オルクスとアケディアが、HINAの群れを眺めながら、嘆息した。
「映像装置に残らない特性でHINAにも認識されないとは悲しいです」
『高度な機械であれば別かもしれないが今回は……まぁ、運がよかったな?』
と、何処かのんびりした様子でストマクスとグラ。そのスキルから、「映像に残らない」ため、機械の目を持つHINAにも認識されないのだろうか。
「ひとまず、アゲディア達が巻き込まれないようにするのが先決。始めましょう」
『では、誘導を始めるか……3時の方向が人気がないぞ』
コルヌとイーラが言いつつ、仲間たちを安全な方向へと誘導する。
「何か違いますけどこういうのも楽しいですねぇ」
『………』
「気にしたら負けですよぉ、きっとぉ」
ルクセリアは楽しげに笑いながら、レーグラへ話しかけつつ、誘導に従い、移動するのであった。
「つまり、身の穢れを移された人形が、練達のチカラを借りて復讐……お礼参りに来たんだね?」
と、言う陽花である。すみません、違うんです。もっといい加減な奴なんです……。
「違うのかな? まぁ、いいけど。しかし、流石に厭きてきたよ……もう何体いるんだろう」
確かに、倒しても倒してもきりがない。一体どれだけ流されてきたのやら。
「相変わらず、この世界は面妖な事が起きる場所だな」
アレフが嘆息する。どうしてこうなってしまうのか。正直よくわからない。
「あらゆる可能性を内包し、起き得ぬ事が無い世界か……。もしもこの世界を作り出した者が居るのであれば、さぞかし見応えのある世界なのだろうか」
ああ、世界を作りし偉大なる存在よ。あなたは楽しんでおられますか。存外、なんだこれはと頭を抱えているのか、苦笑しているのかもしれません。
「……今のは10点」
シーヴァは銃を構えて呟いた。硝煙立ち上る銃から放たれた弾丸が突き刺さったのは、HINAの関節部である。
「練達は面白いモノを流すのね。ふふ、焦土にしてしまえば穢れるものも消え、結果的に清めにもなろうかしら? いずれにしても、銃の調整の的にはちょうどいいわね」
薄く笑いながら、新たなる標的に向けて、シーヴァは再び銃を構えた。
「一体どういう事なんだ……」
流石の雪も、困惑した表情を見せた。謎の兵器群の襲来。言われてみればわけがわからない。PPPとはそういう話ではないはずだ。
「まるでわけがわからないが、やるしかないようだ。さぁ、私(我)に続け」
味方の士気をあげるべく、声をあげた。そうして、雪はHINAの群れへ突撃するのだった。
「知り合いから聞いた話じゃあ、ヒナ祭りは子供の成長を祈るだとか聞いていたんだけど」
シェンシーが言う。はい。全くその通りです。
「……どこからおかしいと思えばいいんだ? ヒナだかHINAだか知らないけど、何をどうしたら兵器なんて生み出すんだ」
はい、全くその通りです。
「まったく……分けは分からないが、放っておくわけにも行かないか」
シェンシーはそう言って、HINAに肉薄すべく駆け出した。
「雛は流れるもの……同じく、絵の受理は流れるもの……故に、貰うことができた時の喜びがあるのです。えぇ、えぇ……ですから、私も流れます。こう……ぷかーっと」
樹里が流れていく……樹里が、樹里が流れていく……。
「あんなの倒せるわけないじゃないですかー。前線に出た瞬間これですよ……」
ああ、流れていく……オーガストが流れていく……。
大丈夫ですか、お二人とも……。
「アワワワワ、とんでもない数なのである! しかも! なんだかこわい顔! むっちゃん殿盾になって!!!」
「うん! 僕らが耐えているうちにきっと誰かが倒してくれるはずだよー!」
ボルカノとムスティスラーフは、2人、HINAからの攻撃に耐え続けた。
だが、遅い。遅いって何がと言えば、援軍がだ!
「あっ、いたっ、ひえええ、ストップ攻撃! 平和主義で! その攻撃ノーカンであるからーーー!!!」
「おかしいな……HINAがいつまでたっても倒されてないよ?」
それはそうだ。今この戦場には、この2人しかいないからである!
「合体技! にゃんこけあさるとーー!」
シュリエが叫び、
「コケーーーーッ!!」
トリーネが叫んだ。そして飛んだ。飛んだというか、投げられた。シュリエに。
「よーし、そのまま弱点を突っついてくるにゃ! ファイト、にわとり!」
「こけぇぇぇっ! 私も滅びそうよぉぉぉ!」
トリーネの悲鳴がこだまする……。
シキとティミは、2人で次々とHINAを撃退し続けた。息の合ったコンビネーション。2人の通った後には、切り裂かれたHINAの残骸が広がっている。
「まだ、戦えますよね?」
シキの背中を優しく押しながら、ティミが言う。
「……もちろん。僕達は、キミの刀だから」
その言葉に頷いて、
「ありがとう、私の刀(シキ)」
ティミとシキは、再びHINAの群れへと突撃した。
「わあ、雛人形だ! 私、知ってます。これを雛壇に飾って見ながらお菓子を食べるんですよね?」
絵里が言う。その通り、やっていることは正しい。飾っている人形が全く違うのだが。
「飾った雛壇喜んでくれるかなー……あれ? 誰に見せるんだっけ。あ、私の友達だね。うん、友達友達、そう友達、私にはたくさんの友達が居るの。死んだら皆、友達なの。そうなの、だって皆居るもの。ずっと傍に居るもの。ね?」
果たして絵里には何が見えているのだろうか。友達。絵里にしか見えないモノ。その正体は、誰にもわからない。
「HINA……どういう意味で作られたかはおおよそ理解出来る。が……その機能は不要なものだ。なぜ付いている、不明だ。理解が及ばない」
リジアが言う。全く、どうして武装などさせたのだろうか。本当にわからない。作った人は何を考えているんだ。
「要は、武装を破壊し、ひな人形に戻せばいいのだろう? 無益な破壊は好まない。故に、私は彼女たちを本来の姿に戻す」
言うや、リジアの武器がきらめく。一瞬の後に、多くのHINAが武装を破壊され、ただのHINAへと戻っていく。
「ああ、もう! 全く歯が立たない! 何か弱点があれば……!」
グレイが杖を振り回し、HINAを殴りつつ言った。
「弱点……弱点……まぁいいや! 勘でいこう! この辺かな?」
適当に殴りつけると、良い感じにスコーン、と音をたてて、HINAが吹き飛んでいった。ホームラン。
「日本……私が元いた世界にあった小さな島国でありました。まさか遠い異国の地の行事がこの地でも行われていたとは感慨です。私もその風流というものに触れてみたいものです……」
クロウディアが呟くや、一体のHINAがクロウディアへと襲い掛かる。HINAの持つボンボリ・スマッシャーが輝き、クロウディアへと迫るが。
「ハッ!」
気合の声と共に、クロウディアのブレードにより、HINAは真っ二つとなる。
「かかって来るのであります! 女子の成長とぺんぺん草は守って見せるのであります!」
ブレードを振り回し、クロウディアがHINAの群れへ対峙する。風流とは。
「くそっ、最高じゃねぇか! 練達産のパーツが……宝の山だぜ!」
修理業で生計を立てているという鴇である。その観点から見れば、まさにカモがネギ背負って、と言う状態であろう。
「あーっ! アンタ、そのパーツ高いんだぞ! 避けて戦えよ! おおっ、新鮮な残骸じゃん! 使えるパーツは、っと……!」
本来の目的とかけ離れているのだが、まぁ、本人が得をすればよいのだ。
「HINAですよ、HINA。元来の雛は水辺で身を清めることから始まり、流し雛は人形に厄を移すことで健やかであるよう祈るものだと母様から聞きました。つまり厄。厄い物体ですよ」
と、狐耶は言うや、
「つまり、最適な解決方法はこうです。厄には厄をぶつけんだよ」
大丈夫なのだろうか、厄に厄をかけあわせたら凄い厄にならないだろうか。
「呪術こそが唯一無二の正解なのです。呪われろー。違う、祓われろー。食らえ私の自慢の秘術」
片っ端から呪いをかけていく狐耶。さらに厄い存在が生まれないことを祈ろう。
「焼きそばを作ろうとしていたのだが、HINA達に追いつかれてしまったようだな」
ケントが言う。なぜ今焼きそばを作ろうと思ったのか。
「しかし、逆に考えるんだ。良い調理器具が来たって考えるんだ。拡散ヒナ粒子砲! これを鉄板で受け加熱! その熱で焼きそばを作る! 完璧! いざいざいざ!」
と、鉄板持って突っ込んでいくケントである。
そして焼きそばが宙を舞った。
「私は思うのです。何故武装したHINAを川に流すのか。武装しているという事は、何かを守ろうとしているという事。なれば、HINAの内にこそ、この事件の本質はある」
ヘイゼルが言う。なるほど、逆転の発想である。近場には、程よく破壊されたHINAの残骸が。これから、この内部を改めるというつもりのようだ。
「さて、何を隠しているのか……」
緊張の一瞬。HINAの内部が暴かれる。
そこにあったのは、ひな壇だった。ひな壇の上には、ひな人形が一セット揃って乗せられている。立派なひな壇である。
「えっ」
信じられない様なものを見た顔で、ヘイゼルが絶句した。流し雛だからね。ひな人形が入ってる事もあるよね。
「ふむ。HINAとな。どこぞの世界で女の子の祭りの日に飾るプリンセス人形のことだと聞いたことがあるが……」
と、首をかしげるのはパンである。目の前で暴れているのは、およそプリンセスとは程遠い異形の機械群である。なんだこれは。
「どうせ焼かれるなら、ついでにHINAの放火でマシュマロを焼いて食べよう。さあ皆、少し休憩と行こうじゃないか」
パンの手によって、マシュマロが焼かれ、温かい紅茶が入れられる。戦場において、その周囲だけはどこか和やかな雰囲気であった。
その後、HINAの銃が暴発、辺りが大爆発した。パンがこっそり、HINAの銃身にマシュマロを詰めていたせいである。
「そこら中で戦いやがって……! くだらねぇ……! くだらねぇんだよ!! お前らァ!!! 殺し合いなんかやめて俺の歌を聴けぇっ!! パンドラパーティ!!!
と、ギターをかき鳴らし乱入してきたのは、ヨハンである。
「あら、セッションですか。良いですよ」
と、剣の英雄のバラッドを演奏していたはうなづき、ヨハンに合わせる。
「わーい、アトスも歌うよー!」
アトスも現れ、突如としてバンドが結成された。戦場に歌が響く。癒し、勇気づけ、煽り、鎮める。様々な効果をもたらす奇跡の合作。
「ローレットのギルドマスターはスケベWoW WoW ユリーカが最後におねしょしたのはイェーイ」
おねしょなんてしてないのです!
「流し雛って、もっそ質素な物を流した気がするんだけどなー。……スゴイね、あれ」
コリーヌが言う。まったくもってその通りである。一体なぜこんなものを流しているのか。
「技術者として、色々と疼く所だけど! んー、被害が出ちゃうなら仕方ないねー。どんどん壊しちゃおう!」
技術知識を最大限に駆使すれば、HINAの分解など朝飯前。コリーヌは次々と、HINAを無力化していった。ついでにパーツをちょっともらって行った。
「ふふふ……HINAにはHINAで対抗する……。見てください……鹵獲したHINAを改造した私流・HINAです……!」
愛莉が得意げな顔で、とんでもないものを披露する。いや、でも前に改造していた人もいたし、言ったもん勝ちだからね!
「HIMEARARE小型爆弾射出装置を搭載しました……カラフルでしょう……? さあ、行くのです、HINA改……!」
カラフルな小型爆弾を投下しながら、HINAがHINAと戦う。もうこれよくわかんない!
一方、ミディーセラは、HINAを纏めて爆破していく。次々と連鎖的に爆発していくHINA達。
「思った通り。全部蒸発させてしまえば弱点が分からなくても問題ありませんし、爆発は綺麗な花火のようです」
くすりと笑いながら、ミディーセラ。こうしている間にも、次々とHINAが爆発していった。
「きっと来年のHINA人形さんは弱点を克服して、とても強くなって帰ってきますわ。その時も頑張りませんとね」
えっ、これ来年もやるの?
「わぁ……こっちの世界のお雛様って凄いのね。こんなに大きいと家の中には入らないから、外で飾るものかしら?」
小首をかしげる焔珠。しかし、恐らくこれは飾るものではない。
「壊すのもったいないけど……迷惑になるしね。ちゃんとトドメはさしてあげるわ!」
獲物を携え、HINAと対峙する焔珠であった。
「俺の知ってる流し雛と違うんだが?」
勇司が言う。大丈夫、こんな流し雛誰も知らない。
「HINAの弱点か。知ってる知ってる。肩のうしろの2本のツノの……そんな奴はいないって? いや、探せばきっといるって。とにかく行ってみよう」
と、獲物を片手に、HINAの群れに突撃する勇司。勇司が目当てのHINAと遭遇できたかは、不明である。
「これは厄払いの儀式と聞きました。ならばその厄を切り捨てて終わらせるのも、広義で言えば、私めの職務なのかもしれません。さすがに強引すぎますかね、この理屈は」
パティが言う。いやいや、そもそもHINAの存在が強引すぎるのである。これに比べれば、ほとんどの理屈は理にかなっている。
パティは一体一体、丹念にHINAを破壊していく。粛々と。次々と。反撃されながら。ビームとか撃たれながら。
「誰ですか、こんなもの作ったの。段々腹が立ってきました。……いえ、だめですね。冷静に。心を落ち着けて粛々と。一つ、二つ、三つ。断ち切りましょう」
こほん、と咳払い一つ。パティは作業を再開するのであった。
「『自己再生・自己増殖・自己進化』を搭載したデビルHINAは余りにも強力だった。イレギュラーズの行動に適応し弱点も生態も進化する奴らにこのまま付き合えば確実に意・味・不・明」
何やらナレーションめいた独白を行うのは、オクトだ。
「残された手段は練達の科学者から託されたこの自爆スイッチ。しかし、コレを使えば、地平線を埋めるHINAが全て爆発してしまう! しかし世界のためにはやむを得ない! 磯野! 爆発開始の宣言をしろ!」
磯野って誰だろう。しかし、どうやら磯野氏は存在したらしい。どこからともなく爆破を宣言する声が聞こえるや、瞬く間に大量のHINAが。
全部。
また爆破落ちかぁ……。
END。
●
END。そしてスタッフロールが流れ始めると、観客たちはまばらに劇場を去って行った。
「いやぁ、実に迫力満点の映画じゃったのう」
世界樹が言う。いや、ちょっと待って、これ映画だったの?
「いかにも。言ったもん勝ち、じゃな」
それは些か反則な気もするが、仕方ない。
とは言え、今回の出来事がただの映画だったのか、それとも本当に起きた出来事だったのか。それは、この依頼に参加したイレギュラーズ達にはよくわかっているはずだ。分からないかもしれない。考えずに、感じてほしい。
ただ、確かに言えることが一つある。
今日も世界は、平和だという事だ。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
来年は普通のひな祭りシナリオになります。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
遅くなって申し訳ありません、ごく普通のひな祭りイベントシナリオです☆
●成功条件
HINAを倒す
●やれること
基本的にはHINAと戦うことになります。
HINAのサウンドブラスターで吹き飛ばされたり、HINAの自律小型砲台システムに翻弄されたり、HINAの拡散ヒナ粒子砲で程よく焼かれたりできます。
戦う、と書いてありますが、これはベリーイージーのイベントシナリオです。深く考えたら負けです。
また、本編において「弱点がある」とユリーカは言っていますが、何処が弱点かは明確に決められてはいません。また、そもそもどんな外見なのかも特に決めていません。
皆さんの言ったもん勝ちです。と言うか、何体流れてきていて、何体倒さなければいけないのかも、皆さんの言ったもん勝ちです。
大丈夫です。これはベリーイージーのイベントシナリオです。
●諸注意
お友達、或いはグループでの参加を希望の方は、プレイングに「【相手の名前とID】」或いは「【グループ名】」の記載をお願い致します。
お友達との参加の場合、両方に【相手の名前とID】が記載されていない場合、セットでの描写が出来かねる場合がありますので、ご了承ください。
基本的には、アドリブや、複数人セットでの描写が多めになりますので、アドリブNGと言う方や、完全に単独での描写を希望の方は、その旨をプレイングに記載してくださると助かります。
以上となります。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
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