PandoraPartyProject
『帰らずの森』
「はあ、めっきり寒くなりましたなァ……」
ぼやいた紳士はコートを手繰り寄せても尚足りないとでも言う様に襤褸になった毛布を羽織った。
寒さを気にする仕草もない『フォス』は「鉄帝国の方では冬が暴れ回っていると聞き及びましたよ」と持ち込んでいた茶器に湯を流し込む。
「あなた様のお兄様が鮮やかな太陽を地にでも落とせば雪は融けますでしょうか」
「いやはや雪どころか大地が抉れそうですなあ」
からからと笑った紳士――ベルゼー・グラトニオスにフォスは「まあ」とわざとらしく驚いて見せた。
「……ベルゼー様、将星種『レグルス』は追い払ってきた。
天帝種『バシレウス』の気配があるだけで退いてくれたから、よかった」
「ああ、持っていったのは何れですかな? おや……これはフェザークレスのパンツですかな。
破れていたが、未だ履けるだろうと縫ってやろうと思っていたんですけれどなあ、ああ、将星種に噛まれてしまったのか」
これでは履けないと嘆息するベルゼーに白髪の娘――白堊はまじまじと手にしていた布を見詰めてから「お労しい」と眼を伏せった。
「琉珂が来ましたかな」
「はい。友人を連れてフォスを探しに……」
まあ、とフォスが口元を覆って驚いた仕草を見せた。
「里長には、悪い事をしましたね」
フォスは関所守だ。亜竜種達がその先に立ち入らぬように、その場所を護ってきた一族の娘である。
『ピュニシオンの森』――それは恐ろしい場所であった。
鬱蒼と茂り空も見えぬ程の木々には亜竜達が潜んでいる。時に、竜種が根城にすることもあるとされて居るのだ。
上空からは頭を出せば直ぐに狩り取ってやると虎視眈眈と狙うワイバーン達が宙で目を光らせ、其れ等を避けながら過ごすモンスター達は木陰に潜み続けて居る。
それ故に亜竜集落に生まれた者達は入ってはならず、近寄ることさえも赦されなかった。
恐ろしき地に、フォスは居た。志遠の一族と呼ばれた『使い捨ての命』を持った関所守として。訪れる者を受け入れ、時には里へと帰すために。
その孤独を癒やしてくれたのが目の前の『冠位』――『煉獄篇第六冠暴食』のベルゼーだったのだ。
優しいその人が憂う様子にフォスは苦しげに目を細める。
「そうか、琉珂が……」
呟いてからベルゼーは頭を抱えた。竜種について分類のメモを残したのは『ここから先は危険だ』と示したつもりだ。
だが、それを知ってでも尚も、彼女はイレギュラーズ達とこの地を目指して遣ってくるだろう。
ベルゼー・グラトニオスは亜竜種が好きだ。
竜種に迄も厭われる命。人間とは違う産まれ方をした男は、これまで人間との共生の道を探し続けて来た。
亜竜種達と過ごした時間は短く、彼等は簡単に土に還ってしまうが、其れ等の子を慈しみ『亜竜集落フリアノン』で過ごせるように丁寧に、丁寧に育て上げた。
『腹が減って堪らない』時は身を隠すこともあったが、彼の存在を亜竜種達も受け入れてくれていたのだ。
――ベルゼー。父祖よ。我は形あるものは、いずれ全て滅ぶことを知っている。
人も獣も、竜さえも例外ではない。ならば世界とてその範疇に違いない、ならば、ならばだ。
生ある全てが終焉する、とこしえの果てに、何もかもが消え去るまで、待つことはできんか。
あの日、雛鳥が巣立つ時に問うた言葉が頭の中を支配している。
無理なのだ。恐ろしい怪物だと言った愛おしい雛鳥、アウラスカルト。お前の言う通りだ。
この身は『暴食』。何れだけ愛していようと、何れだけ大切であろうと、何れだけ慈しんでいようと、腹が減ってしまうのだ。
琉珂。琉珂。大切な珠珀と琉維の娘。愛おしい小さな命。
おまえが傍に来て仕舞えば、この牙はひと思いにお前を噛み砕いてしまうだろうに。
おまえだけではない。亜竜種の誰もが大切だ。いや、一度でも茶を飲んでしまえばイレギュラーズも――おまえの事だって大切になってしまうだろう。
それではならないのだ。
『冠位魔種』に産まれたからには――愛する『覇竜領域』を護る為には何処かの国を蹂躙し、己が手の内に収めなくては。
――ならなかったのに。
「ああ、この心が兄のように弱き者など何も気にせぬものであったのならば良かったのに」
「貴方様……?」
フォスが気遣うに声を掛けた。ベルゼーは礼を言ってから嘆息する。
「あの娘は、友達が好きでしてなあ。自由奔放で、琉維に――母に似たんでしょう。
何処へだって猪突猛進で歯止めが掛からないときがある。一生懸命なのが良い所ですが、直情過ぎるのも悪いところでしてな。
屹度、友人達が戦うならば臆さず凍て付く氷にまでも挑むでしょうな」
琉珂という娘はそう言う子供なのだとベルゼーは愛おしそうに語る。
フォスと白堊は静かに聞いていた。彼は本当に亜竜種を――同胞(かれら)を愛しているのだ。
「兄は……バルナバスは情けも容赦でもしないでしょうなあ。あれは強大な力だ。
眩く眼をやく太陽をこの目は視ることを恐れてしまう。ですが、ああ……『彼にもしも』があったならば――」
その時は己がこの場所を。
そこまで考えてからベルゼーは兄の勝利を祈っている自分の他に、己と縁のあったイレギュラーズの誰もが傷付かぬ未来を求めている自分が居る事に気付いて嘆息した。
ああ、どうして。
己は『冠位』魔種などに生れ落ちてしまったのか。
実に、実に――儘ならない。
※ピュニシオンの森の探索が行なわれ、竜種の分類が判明しました。
※ラサでは『月の王国』への作戦行動が遂行されています!
※イレギュラーズの手に入れている切り札が大いなる力を纏っています!
※スチールグラード帝都決戦が始まりました!!
※リミテッドクエスト『帝都決戦:Battle of Stahl Grad』が始まりました!!
※領地RAIDイベント『アグニの息吹』が始まりました!!
※帝政派、ザーバ派は連合軍を結成している為、勢力アイテムが『帝国軍徽章』へと変更されました!
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