PandoraPartyProject

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巨樹の『竜域』

「良く来てくれましたなあ。ジャバーウォックは怪我をして痛ましいですがな、皆さんはどうですかな?」
 大樹ファルカウの上層部にて、穏やかに微笑んだ紳士は揃った顔ぶれを眺めやってから微笑んだ。
「唐突に呼び立てやしましたが、これも覇竜領域(くに)の為でしてな。
 力を貸して欲しいのですよ。付き合わせる事は悪く思いますが……偶には顔を突き合せるのもよくありませんかな?」
「その割には、冬にも逢ったような気がするけど」
 唇を尖らせた白い翼の少年は腰を擦る。時が回復を促してくれたがあの日を思い出すだけでどうしても腰痛を覚える気がしたのだ。
 呼びかけに応じたのは彼だけではない。その傍では黒衣の娘が目を伏せて何事かを思い浮かべているようでもある。
「……フェザークレスは今回は『パス』ですか?」
「痛かったもん。酷い目に遭ったし……お陰で逆鱗(よわいところ)もボロボロだし」
「そうですね。傷を癒やす事も大事です。お留守番でも構わないかと。
 此度は『本気』というわけではないのでしょう?」
 思い出しては涙を浮かべた少年――『フェザークレス』にザビーネと名乗る淑女は彼を慮るように椅子を勧めた。
「ザビアボロス。クレスも直接腰掛ければ、痛みに響くのではありませんかな?
 いやなに……私も歳でしてな。クッションを使用する事をカロンに勧められたのですよ」
「その様な話をしに来たのか?」
 苛立った様子で声を荒げたのは暗褐色の肌をした女であった。眉を吊り上げてのんびりとした様子のベルゼーを責め立てるかのようでもある。
 クワルバルツ、と呼びかけたベルゼーは「そう怒りなさんな」と肩を叩いた。
「クレスを除けば女性体を取る竜ばかりが呼びかけに応じてくれたとならば、この老い耄れも喜ばしいことですなあ」
「馬鹿を言え。クリスタラードは領域(クニ)で忙しなく動いているだけだろう。
 それにメテオスラークも後々に顔を出す。奴は気紛れだからな。御そうなどと思っていないだろう?」
「勿論ですとも。ジャバーウォック程に御しやすい竜は少ないですからなあ。来てくれただけで有り難く考えておりますとも」
 彼女達を自身の手駒ではなく、対等、もしくはそれ以上の存在として接するベルゼーに「世渡り上手」と呟いたのは蜂蜜を溶かしたような柔らかな髪をした乙女であった。
 黄金色の小さな竜はふんわりとした可愛らしいワンピースに身を包み、ベルゼー達の様子を伺っている。
「ああ。アウラスカルト」
「呼びかけに応じた」
「いやいや、貴女も来てくれるとなると嬉しいばかりですなあ。
 簡単に説明しましょう。我らはこの『大樹ファルカウ』へと迫り来る来訪者にお帰り頂かねばなりません。
 理由は単純ですな。私は『領域を攻め入りたくはない』。この地を得たい者に与した訳です」
「領域を攻めないのは『竜』が障害だから?」
「其れもありましょう。アウラスカルト」
「違いますでしょう。ちっぽけな同胞(かれ)達に情けを掛けているから」
「……そうとも言いましょう。ザビアボロス」
 ベルゼーは己の考えの内は長い時間を共に過ごした『彼女達』には露見しているのだと肩を竦めた。
「なら、成果を上げないと行けない?」
「いいえ、フェザークレス。『私』は其処まで本腰を入れて戦う事はしませんよ。
 何、……この地を失えばいつかは順番は巡り来るもの。そもそも、此処で命を賭す理由はありません」
「ふん。勝とうが負けようが、お前が退く時に此方も退く」
「構いませんぞ、クワルバルツ。深追い等しなくて良い」
 穏やかに微笑んだベルゼーは果たして此度の戦況はどう揺れ動くかと考えた。
 もしも『本当に本気』を出さなくとも大してこの地の戦況には変わりは無い筈だ。
 自身はそう言う存在であることをベルゼーは自覚している。人の子など簡単捻じ伏せることの出来る飽くなき暴食が身の内でのたうち回り暴れ回っているからだ。
 腹を空かせたが故に食事は必要だ。だが、『僅かに手を抜く』理由は『守りたいと願ったあの子達』がこの地に参じる可能性があるからだ。
 ……どうにも、人生というのは上手くいかぬ。亜竜種は領域(クニ)でのんびりとした生を送ってくれていれば良かったのだ。
 妬ましくも思う。彼らに冒険という未知を与え、希望という光を捧げた特異運命座標なる者達を。
 狂おしくも思う。同胞であるからと守ろうと願った全ての亜竜種がその特異運命座標となりこの地を目指している事が。
「ベルゼー」
「さ、腹を空かせた子等よ。宜しいですかな。……『食事』と参りましょう。
 テーブルマナーは気には止めやしません。素晴らしき『前菜』を頂く権利を貰ったのですから」
 ハンカチーフで口許を拭いた紳士の傍でフェザークレスは手を振った。
 眼前の女達。その姿は人の子。
 されど、仮初めでしかあるまい。
 それらは本来は強大なる竜の姿をし――イレギュラーズと相対した経験のある者達。
「竜の暴威(しょくよく)は恐ろしいものですからなあ」
 其れ等が潜むのはアルティオ=エルムの『象徴』たる中心地――『大樹ファルカウ』

 ※魔法使いマナセの秘宝、茨咎の呪いを打ち破る『タレイアの祝福』をイレギュラーズが確保しました!
 ※ラサで見られた竜種の影はファルカウに集結しているようです……。
 ※鉄帝国の方では祝賀会が開催されることとなりました。


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