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シナリオ詳細

帰らずの森ピュニシオン

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 嘗て、この地には巨竜が棲まうていた。
 その名をフリアノン。
 巨竜は眷属を慈しみ、それらと幸せに過ごしていた。
 だが、ある日、強大なる闇が訪れた。其れは全てを呑み喰らう暗澹である。
 暗き帳、深き穴。欲望という波濤。
 フリアノンは其れを目にしてから云った。

 ――本当に腹が減って堪らず、我慢も効かなくなったのならば、わたしを喰らいなさい。
 我が身全てを喰らうたならば、我が骨に眷属を棲まわせてやればいい。
 我が魂が愛しき我が眷属達を守り抜くであろう。お前は其れだけ私達に尽くしてきたのだから。

 強大なる闇は、フリアノンのその言葉に感銘を受けた。
 それはどうしたって最期は全てを喰らうてしまう。何れだけ愛おしく思うとも全ては崩れ去っていく。
 何を喰らおうとも。
 何を求めようとも。
 それでも、唯一無二の愛しい人を、愛しい人達を手に入れたならば守り抜こうと誓ったのだという。

「素敵な御伽噺ね、まるで『あなたさま』が紳士のよう」
「……紳士であったつもりですけれどなあ」
「ふふ、『あなたさま』って何時だって優しいもの。けれど、白堊も私だってそう。
『あなたさま』が優しかったから、私は勘違いをしてしまったのだと思う。役目なんて捨てていいって」
 柔らかなフォスフォフィライトを思わせる髪を揺らがせながら娘は告げた。
 彼女の通り名はフォス。使い捨ての一族とも揶揄される『帰らずの森』の守人であった志遠の一族の娘。
 本来の名を、志・礼良(ゆき・れいら)であった事など誰も知らぬであろう。
 ……いや、唯一、『礼良』が産まれたときに『フォス』の名を与えてくれたフリアノンの里長の直系夫婦なら知っていたのだろうか。
「ねえ、『あなたさま』。珠珀と琉維は元気?」
「……嫌ですな、フォス。珠珀も琉維も疾うの昔に――」
 フォスは酷く傷付いたような顔をした。里に立ち入ることはなく人の訪れぬ森の入り口に立ち続けていた娘は時の流れが緩慢だ。
 体は成熟すれど、心は未だ幼い少女の儘だった。
 嘗てのフリアノンの里長であった珱・珠珀が――『現』里長の珱・琉珂の父が妻と共に亡くなった事は忘れてしまっていた。
「……私を識っている人は、誰も居なくなってしまったのね。
 それがとても、苦しいわ。この地は、とても恐ろしいことばかり。
 ピュニシオンの森は『帰らず』の地、二度とは戻らぬ人ばかりを見送る事には慣れていたはずなのに」
 フォスは目を伏せた。草臥れてしまった。
 亜竜種の『まま』、一人で森を抜けきることなど不可能であった彼女は此処に居る。
 フリアノンから、竜種に亜竜種が潜むあの悍ましき森を抜け、たった一人で彼の傍にやって来た。
「ねえ、『あなたさま』
 さっき、勘違いをしてしまったと云ったけれど、訂正しても良い?」
「……おや、何と?」
「『あなたさま』は優しいから、寂しい人は甘えてしまうのよ。
 勘違いでもないわ、屹度、これは盲目というのね。寂しい人だもの、私達ってどちらも。
 ……いつか、『あなたさま』に喰らわれても良いと思える程に、何処までも優しい人だから」
 フォスが微笑めば、目の前の男は――『冠位暴食』ベルゼー・グラトニオスは妙な顔をした。


 地図をとん、と指差した珱・琉珂は「ここが『フリアノン』」と言った。
 ラサから地下通路を経由して到達した覇竜領域内。亜竜(ワイバーン)などの襲来もあるが、ラサ寄りの地はある程度の探索を行なう事も出来ただろう。
 フリアノンの里長会議でもイレギュラーズ達に各地の管理を任せてはどうかという話も出ている。
 今までの亜竜種達は外での探索を控えていたが、活動範囲が広がったならば人の住まえる場所が増えたという事でもある。危険を承知でも開拓し、管理を行ってくれる者が居るならば任せたいというのが里長代行と琉珂の考えだ。
「此の辺りは結構調査が進んだのよね」
 フリアノンからラサ寄りに調査は進んでいた。例えば、ドラネコ達との出会いや玉髄の路とは別の開拓ルートの構築、拠点設営など多岐に亘る活動が行なわれてきた。
 それでも『踏み入ってはならない場所』は未だ存在していた。
 それが――
「ここ、『ピュニシオンの森』」
 帰らずの森とも呼ばれる場所である。
 フリアノンでは代々、『志遠の一族』と呼ばれた家系にその管理を任せていた。関所を用意し、不用意に立ち入る者を阻むのだ。
 志遠の一族については琉珂は良く知らない。亡き父、珱・珠珀は「悪しき風習だが、必要なのだ」と言って居た。
 ピュニシオンの森には竜種が潜む。亜竜も山ほど存在し、森は危険そのものだ。生きたまま返る保証もない。
 そんな場所にある関所だ。当然のことながら守人とて無残な姿で発見されることも多かった。故に、孤児や孤独な者が志遠一族に寄せ集められ、関所の管理にあたっていたのだという。名を捨て宝石や植物の名を与える事で『仮初めの名で死を遠ざける』という願掛けを為された彼等は本来の名を呼ぶ者さえ居なくなり、忘れられていくのだ。
「『ピュニシオンの森』の関所には志遠(しおん)の一族と呼ばれる関所守がいるの。
 直系の志(ゆき)家の娘さんが管理者として居る筈だったのだけれど……最近定期連絡が無くて……」
 琉珂は心配なのだと眉を寄せた。ピュニシオンの森に変化が訪れれば志遠の一族の直系、志・礼良から連絡が届くはずだった。
 まだ年若い琉珂は礼良と関わることはなかったが、幼少期に父・珠珀がその連絡を受けていたことは目にしている。
「……心配で、見に行きたいの。里長代行達には止められてしまったのだけれど……
 条件付きで見に行く許可を貰ったわ。それがアナタ達と一緒になら良いって。何だかアナタ達が認められたみたいで誇らしい」
 琉珂は嬉しそうに微笑んでから地図をくるくると指差した。
「あと、もう一つ個人的な事情があるの」
 ピュニシオンの森は帰らずの森。
 イレギュラーズ達が活動する上でも決して踏み入れないように、と再三注意が促されてきた場所だ。
 勿論の事ながら、琉珂自身もピュニシオンの森には必要以上は立ち入らないようにしている。
 この先にどの様な光景が広がっているのかは『覇竜観測所』側からの風景はR.O.Oでも観測した者も居るだろう。
 だが、其方ではなく、ラスト・ラストの方向へと広がってゆく広大な場所。
 リーベル・タースから見遣ってもそれは伺い知ることが出来なかった。
「……そちらに、オジサマが居るかもしれないと思って」
 彼が姿を隠すならば其方だろう。『オジサマ』――ベルゼー・グラトニオスは何時もそちら側からやって来ていた。
 まるで人目を忍ぶように。隠れるようにして彼は時折其方に帰っていくのだ。
「何か、あの人の足取りを掴めたら、って思ったの。
 も、勿論、オジサマが冠位魔種? で、倒さなくっちゃいけなくって、敵だって分かって居るわ。
 けれどね……『私達』に優しくしてくれた理由が聞きたい。あの人が、私達にくれた愛情は本物だと思いたかったから」
 そこまで告げてから琉珂は「なーんちゃって」と笑った。
「とりあえず、森を見に行きましょうよ。ごめんなさい、私って森には詳しくないから。
 危険でも大丈夫だよって人だけ、一緒に行きましょう。……森の様子を知れば、今後の予定も立てやすくなるはずだから」

GMコメント

●目的
 ・『ピュニシオンの森』関所へと到達すること
 +出来うる限りの調査を行ないフリアノンに持ち帰ること

●ピュニシオンの森
 帰らずの森と呼ばれている覇竜領域に存在する危険地帯です。
 鬱蒼と茂った森で上空からの視界も宜しくなく、竜種や亜竜の住処である為に踏み込めば帰り着くことはないと言われています。
 情報は非常に少なく――R.O.Oを参照しましょう。

 R.O.Oの観測情報
 ・当地域には森という地形を利用して複数のモンスターが潜んでいる。その強弱は差が大きく弱い個体も存在するようだ。
 ・上空を覆い隠した草木により暗く鬱蒼とした印象を与えるが上空からの奇襲はそれ故に少ないだろう。
 ・カプロスやステュムパリデスなど、無数のモンスターや虫等が多く生息している。
 ・ハイドラと呼ばれる竜種が住んでいることが推測される、が『そこまでは今回は向かわない』

 ★関所
 目的地です。ピュニシオンの森から幾許は進んだ場所です。
 其処までお口ではありませんが、危険である事に変わり在りません。
 関所付近には柵が存在し、小さな家屋が3つ程度存在しています。治療所と事務所(寝所)のようですね。
 この地に『フォス』――志・礼良がいるはずですが……?

●フォス
 本名を志・礼良。ピュニシオンの森の『志遠の一族』の直系の娘です。
 フリアノンの前里長(琉珂の父親)とは連絡を取り合っていましたが、其れが長らく途絶えています。
 関所に彼女がいるのか、それとも、居ないのか……。其れさえ不明です。
 志遠の一族は死を遠ざけるために偽名を使用します。植物の名前や、鉱物の名前を使用するようです。

●珱・琉珂
 同行NPC『珱・琉珂 (p3n000246)』
 竜覇(火)、覇竜領域出身、フリアノン里長。まだ年若いために代行を幾人か立てて世界を回っています。
 オジサマが冠位暴食であった事への心の傷はかなり深め。とても信頼していましたし、珠珀の死後は父代りでした。
 其れなりに戦えます。近接攻撃が中心です。
 今回は『ピュニシオンの森』の奥にオジサマこと『冠位暴食』ベルゼーがいるとも考えて居るようですが……。

●参考:冠位暴食『ベルゼー』
 覇竜領域の世話役でもあった冠位魔種です。七罪(オールド・セブン)の一人。
 非常に穏やかな気質をしており、覇竜領域を自身が侵略したくはないと深緑にも姿を現していました。

 参考:(珱・珠珀&珱・琉維)
 琉珂の両親です。ベルゼーとも親交のあった二人ですが、不慮の事故で死亡したそうです。
 琉珂の持っている巨大な鋏は母の琉維の形見です。琉珂はとても母に似ており母も猪突猛進系ガールでした。
 琉珂の父である珠珀は落ち着き払った青年でした。彼もベルゼーを心から信頼していたようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はEです。
 無いよりはマシな情報です。グッドラック。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • 帰らずの森ピュニシオンLv:50以上、名声:覇竜50以上完了
  • GM名夏あかね
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年03月07日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
死神の足音
ガイアドニス(p3p010327)
小さな命に大きな愛
秦・鈴花(p3p010358)
未来を背負う者
月瑠(p3p010361)
未来を背負う者
煉・朱華(p3p010458)
未来を背負う者
劉・紫琳(p3p010462)
未来を背負う者

サポートNPC一覧(1人)

珱・琉珂(p3n000246)
里長

リプレイ


 亜竜集落フリアノンは巨竜フリアノンの骨で出来て居る。フリアノンの体を包み込んだ岩山が今の亜竜種達の里を作ったとされていた。
 そのフリアノンと心を通わせた一族の名が珱――つまりは『亜竜姫』珱・琉珂 (p3n000246)の血統だ。
 と、言えども直系の珱家の娘は琉珂だけとなり、傍系の珱家では若すぎる跡取り娘を不安視する声も上がっている。
 故に珱家はフリアノンを混乱に陥れぬ為にと里長代行を用意したのだ。それは琉珂にとっても良い機会である。
 折角、イレギュラーズ達によって亜竜種の活動の幅が広がったのだ。若い頃に見聞を広げ、里長として統治を行なうべく学ぶ機を得たのである。
「それじゃあ、行ってきます」
「気をつけて……琉珂、お前は跡取りなのだから無理はせず」
 瓏家夫妻はその筆頭だ。琉珂は瓏家当主の雨轟とその妻である麗依にフリアノンを任せて此度の調査に赴くことにした。
 それは琉珂が里長代行が集まる会議で強く主張した事から始まった一大調査である。

 ――志遠(しおん)の一族からの定期連絡が途絶えているわ。
   志家は必ず使命を果たす。なのに連絡が無い時点で可笑しい。

 勿論、雨轟も麗依もそれならばイレギュラーズにその調査を依頼し、琉珂はこの場で待っているべきだと進言した。
 琉珂はと言えば「ピュニシオンの森は危険だからこそ、土地勘が多少ある者が行くべきだ」と反論したのだという。
 琉珂は幼い頃から父に付いて回っていた。珱・珠珀は『里おじさま』と共にピュニシオンの森の外周部は見て回ったことがあるのだ。
「それに、イレギュラーズの皆は私の友達よ。友達を危険な眼には合わせたくないもの!」

 ――と、言うことで。
「行こうと思う」
「凄く反対されていた気がするけど?」
 フリアノンの秦家の娘、『秦の倉庫守』秦・鈴花(p3p010358)は眉を顰めた。フリアノンで『森』についての事前情報を共有していた琉珂に表情を曇らせたのは『煉獄の剣』朱華(p3p010458)も同じである。
「危険よ、いいの?」
「朱華や鈴花が行くのに私が黙ってると思う?」
「思わない」
「まあ、琉珂だものね」
 首を振った二人に琉珂は自慢げな表情をした。どちらかと言えば『置いていかないで』と騒ぎそうだと言う方面での同意だが、二人は笑顔だけで濁した。
「ピュニシオンの森。小さい頃から近付いてはならぬと話に聞くばかりでしたが……」
 書架の管理者を務めている一族の娘、『劉の書架守』劉・紫琳(p3p010462)は不安げに地図を撫でる。地図、と言えどもイレギュラーズが活動を始めてから里長代行達がせっせと近郊集落の図を書いただけで正確なモノではない。
 黒塗りになって居るのがピュニシオンの森だ。亜竜集落に生まれた者達は誰もが近付くべからずと忠告を受けてきた。森に近付くのは変わり者の自殺志願者だけ、とも言われている。
「でも、ね、リュカがそんな顔して行きたいって言うなら、アタシもゆえも朱華も止めるわけないじゃない」
『彼』の足取りも其方にあるのかもしれない――
 そんな言葉を濁して告げたときの彼女の表情は暗いモノだった。彼女の隣に居たからこそ分かる。
 琉珂はベルゼーを追っている。亜竜種達は誰もが何となく理解することだろう。珱・琉珂という娘はベルゼーへの期待を未だ捨て切れていないのだ。
「ええ、琉珂様のお気持ちが分かるからこそ、止めませんよ。関所守の方からの連絡がないのは心配ですし。
 それにベルゼー様の手掛かりも探さなくては……琉珂様の言葉を、想いを、直接届けるためにも」
「紫琳……」
 にこりと微笑んだ紫琳は『ベルゼー様』と口にした事を後悔していない。己も琉珂と同じだ。
 それに気付いて仕舞うからこそ紫琳は渋い表情を見せる。彼女だって悪い冗談だと思いたかった。あの人の亜竜種に向けた愛情が本物であったから。
 ――魔種であったって、あの人は、確かに亜竜種を愛していた。
「いつもの思い付きとか料理なら止めるけど!」
「うぐ……」
「それに、ずっと止められてきた森に入れるの、結構アタシ的にも楽しみなの。オジサマをぶん殴る為の手がかりも見つけないとだもの!」
 ぶんぶんと腕を回す鈴花を真似て『宝食姫』ユウェル・ベルク(p3p010361)もぐるんぐるんと腕を回した。
「ピュニシオンの森……聞いたことあるよーなないよーな。
 さとちょーがそこへ行きたいっていうんならもちろんついていくよ。りんりんと朱華、それに他の頼れるせんぱいたちと一緒にね!」
「朱華も行くわ。だって、知らない場所だからって止められたって、あの森に詳しいモノなんて殆ど居ないでしょ。
 ……それこそ関所守の一族か、森からやって来てたって言う『オジサマ』位じゃないかしら?」
「『止められた』?」
 ユウェルの問い掛けに朱華は唇を尖らせた。朱華の母である煉・真朱は娘が一度言い出せば止まらないことが分かって居たのだろう。言葉だけでの忠告を終えてから娘を手放したらしい。
「こほんっ、何れにせよ管理者からの定期連絡がないって事なら放置出来ないわね。異常を見過ごす事で何かがあれば後悔してもしきれないもの」
 それもコレも、関所に付いてからだと進む朱華の背中を追掛けながら、ユウェルは集落アンペロスの里長である義母『仙月』から聞いた事を思い出す。

 ――ユウェル、分かってるね。ピュニシオンは本当に竜種に出会う可能性がある。危なくなったら逃げな。


 鬱蒼と茂る森はまだ入り口に近い場所に関所が存在しているという。ピュニシオンの森は広大な場所である。
 岩場の多い覇竜領域の中で、森と言えばこの場所だ。地上でモンスター達が身を隠すに適している場所。沼や湿地も存在し実り豊かな森は草食系モンスター達にとってのライフラインであり、そうしたモンスターの捕食者達の良き狩場なのだ。
「何であれ、まずはここを突破しなければならない訳だが……。
 帰らずの森と呼ばれるだけあって、中々に凄いな。これは手強そうだ」
 四方八方、何方を見ても木々だ。方向感覚をも失わせるような森の様子に『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は肩を落とした。
 周辺確認の為にと様々な視点で周辺を警戒できるようにと『眼』を主軸に置く汰磨羈の傍では「本当だね……っ」と『自在の名手』リリー・シャルラハ(p3p000955)が困ったような表情を見せた。
「帰らずの森……響きが怖いけど、誰かが行かないと始まらない、よねっ。
 とにかくリリーなら見える景色も、あるかもしれない。できるだけ探索しなきゃ……! ――と、思ったんだけど……」
 リリーが放った先遣用ファミリアーは何物かに喰われてしまった。それだけ危険地帯だという事なのだろう。複数のファミリアーでの偵察で、リリーが特に危険であると認識したのは上空にはなったものである。
 木々が鬱蒼と茂っているお陰で岩場では上から飛来する可能性のあるワイバーン達に出会う確率は少ない。だが、その分、上に上がってきた存在を逃すまいと上空から飛亜竜達が狙いを済ませてくるのだ。
「どこもかしこもモンスターだらけ……だねっ」
「うん。『ルージュ』がここを抜ける時には随分と苦労したよ。
 あの時は死に戻れたから気が楽だったけど、今度はそうはいかないんだよね」
 R.O.Oでこの地にトライをした『妹(ルージュ)』の事を思い浮かべて『赤い頭巾の魔砲狼』Я・E・D(p3p009532)は首を捻った。
 当時の記憶はある。関所周辺が度穂程度同じかは不明ではあるが、索敵に関しては大凡が同じだ。
 木々で見えにくいために上空への警戒はそれ程必要は無いが地上で擬態する敵や森に紛れて分かり難い動きをするモンスターの方が厄介だ。
 自然知識やモンスター知識を駆使しЯ・E・Dはその記憶を補強した。汰磨羈が目で視るならばЯ・E・Dは五感を駆使する。
(……けれど、草木に関しては覇竜領域の植生は特殊だし、琉珂さんに確認しておいた方が良いかな……)
 落ちている草を見て「あれって食べれるのよ」と朗らかに笑う里長はある程度の植物知識をベルゼーに仕込まれているのだろう。
「……ベルゼー・グラトニオスか……。琉珂にとっては父代わりだったか」
 とてとてと歩く茶太郎と共に『騎士の矜持』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)はピュニシオンの森を進んでいた。
 周辺の記憶を行ない精密模写を行なえば関所までの道のりは仲間達に共有することが出来るだろう。ファミリアーの小鳥は不安げな動きをしていた。
「ええ、オジサマはお父さんが亡くなってもずっと私を一人前にするべく色々な知識をくれたわ。
 その草が食べられること、あの茸を食べてはいけないこと、森の歩き方もそう。色んな家の歴史も、伝統も、戦い方も……」
「そうか。……彼ならば、琉珂が自分の事を探しに来るという事は解っているのかも知れない。
 全てを知る事が琉珂にとって必要な事だというなら俺も手伝うさ。それが、この領域(くに)の為にもなるならば」
 ベネディクトは任せておけ、と胸を張った。頷く琉珂が探すのは関所守の『志遠(しおん)』と呼ばれた直系の娘だ。
 代々、この地に迷い混む物を無事に里へと戻す為に、同時に、森乃様子を定期連絡し集落の安全を守る役割を担っていた。
 その彼女がいるのが関所だ。定期連絡が途切れた理由とは何か。ベネディクトもそれは気に掛かると呟いて。
「まあまずは軽く調査。関所に到着しないと意味ありませんものね。
 ひっさびさに……航空猟兵として飛びますか! わっ――!?」
 上空より調査を行って居た『後光の乙女』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)がバランスを崩して大地へと下りる。
 木々が深すぎて太陽を背に戦う事も難しい。少しでも森から頭を出しただけで簡単にワイバーン達が餌だと認識して襲い来るのだ。
「ブランシュさん、地上の方が良いわ! この森は上空での単独行動はとっても危険だから!」
 琉珂の呼び掛けにブランシュはやや高度を下げた。琉珂の声が聞こえる範囲での飛行を心掛け、出来るだけ地上とは離れすぎないように注意をする。
「航空戦鉄則その7! 『敵領土上空を飛行する際は、離脱ルートを頭に叩き込んでおけ』――そのまま急降下し、地上へと一旦救援を求めるです。
 此処の場合はどこもかしこも敵領土ですね。関所の周辺を上空から見ようにも森が深すぎて分かりません、が、沼等がありましたね」
「ああ、ハイドラが居たな」
「強敵の気配ですか」
 渋い表情をしたブランシュにベネディクトは頷いた。出来れば、其れ等とは相対したくないところである。
「んー、便りがないのは元気な証拠とは言うけれど!
 心配よね! 心配なのだわ! よーっし、志遠の、志 礼良ちゃんに会いに行きましょう!
それに、ええ。ベルゼーくんの手がかりも!
 会いたいにヒトにはね。会える内に会っておきなさいな。じゃないといつか。どんなに望んでも、会えなくなってしまうのだわ」
 お任せあれと胸をどん、と叩いた『超合金おねーさん』ガイアドニス(p3p010327)はR.O.Oの事は参考程度にある程度資料を探してきたと告げた。
 森内部をまるっとお見通しをし、出来る限りの索敵に気を配る。体力の温存のためには陣地の構築や罠の設営もお任せあれだと彼女は告げた。
「関所の位置は琉珂ちゃんが知っているでしょう?」
「ええ、フォス――いえ、礼良には一度会ったことがあるから。その場所をオジサマが連れて行ってくれたことがあるの。
 里長は就任したときに関所に自信がフリアノンの主だと宣言しに行くのだそうよ。志遠の一族はある意味で里長の目だから」
「ふふ、なら琉珂ちゃんは大切な部下さんから連絡が無くなったのね。定時連絡が義務だったのなら、お手紙を送れない理由があるのかも」
 心配だもの、と歩くガイアドニスに琉珂はこくりと頷いた。
 フォス。フォスフォライトから取られたとの通り名は志遠の一族による願掛け。魔除けの一種なのだという。
 死を遠ざけるという意味合いで本来の名を捨て、鉱物や植物の名を名乗ることが通例なのだ。
「しかし鉱物の名前、ね……いやちょっと、昔を思い出しまして。姉も同じだったなあって」
「ブランシュさんのお姉さん?」
「はい。ブランシュ達は『秘宝種』ですから」
 その体には宝玉を思わすコアがある。それを指しているのだろうか。琉珂はぱちくりと瞬いてから「フォスに教えてあげましょう」と朗らかに微笑んでいた。


 森に棲まう精霊達は『レグルスの個体が奥に居るよ』と繰返す。リリーは様々な技能を駆使しながら情報収集を行って居たがいまいち分からぬ言葉があった。
 コレも覇竜を知る重要な一歩には違いない。聞き逃さぬように耳を欹てていたリリーはその言葉が気になったが見当が付かない。
「れぐ……『レグルス』ってなんだろう?」
「何かのモンスターの名称だろうか」
 首を傾げるリリーへと汰磨羈は琉珂に何か知っているかと問うた。だが、琉珂は首を振るだけだ。
「レグ……何か記述があったような気もしますが……劉の書架も外からの書物ばかりを蒐集していたことも有り古い亜竜の言葉については記載が無いのです」
 困り切ったような表情を見せた紫琳に「どうして覇竜の言葉だと思ったの?」と朱華が問い掛ける。
「ええ、ここまで訪れる外の人間は早々居ませんし、古くからの言葉が残っていても可笑しくはありません」
「確かにそうよね。でも亜竜集落では聞かない言葉だから別の者なのかしら」
 朱華はううんと首を捻った。劉家も煉家も、どちらもフリアノンには古くから存在する家系ではあるが、その娘達が知らず、里長である珱家の娘も知らないというならば亜竜種達には関わり合いのない言葉である事が推測される。
「例えば、竜種の言葉とか?」
 あっけらかんと言ったユウェルに「有り得なくはないな」とベネディクトは頷いた。
「アウラスカルト達は俺達と話す事が出来た。知性もある。ならば彼女達が呼ぶ『レグルス』という何らかの存在が居ても可笑しくはない」
「成程……って、ベネディクト、真面目そうな顔をすると顔が反則ね!」
 揶揄うように笑った鈴花にユウェルが「顔が反則ってゲームに勝てないね」と笑う。明るい二人を見ていれば心も落ち着くと言うものだ。
「この先に行くことになるかしら」
「なるかも知れないわね。念のためちょっとは調査して置きましょうか」
 朱華はファミリアーを放ち出来る限りを進めるようにと調査だけを行なった。関所の向こう側、その奥に行く可能性は十分にあるのだ。
「ブランシュがさっき上空から見てくれたけど沼や開けた場所が気になるわね。
 迷子になりそうだから念のために適当に木の幹に数字を掘ったりはしたけれど、人の手が及んでいないからランドマークになりそうな物も少ないみたい」
 唇を尖らせる朱華はそれでも関所までの道はある程度整っていたことに気付いた。時折、小さなオブジェのように石を掘りドラゴンを模した者が点在していた。それは森乃入り口付近から関所までを安全に進むことが出来る目印という事なのだろう。
「この不細工なドラゴンがなかったら本当に迷子になって終いそうね」
 そんなことを話している頃合いだ。
「そろそろ来ると思った」
 リリーは呟いた。叩きつけたのは堕天の輝きを帯びた弾丸だった。狼の刻印の入った魔導銃は小さな彼女の手のひらに良く馴染む。
 魔力を装填する際には呪いを詰めた。無数に迫り来たのは四足で移動している蜥蜴を思わせる亜竜。
 獰猛なそれは餌場を奪われると認識しているのだろう。執拗さならば負けやしないと小さな少女はスカートをひらりと揺らす。
 降り注ぐ弾丸、続き、蜥蜴を受け止めるように体を滑り込ませたのはガイアドニス。永遠の愛こそが必要不可欠。
 大きなガイアドニスの背を越えて一気に飛び込んだのはブランシュであった。飛べ、星をも越えて――『ヘルメスの鳥』。
 The bird of Hermes is my name,eating my wings to make me tame.
 ブランシュの唇が揺れ動く。鋭くも研ぎ澄ませた一撃が蜥蜴の腕を切り落とした。
 ぐん、と身を捻り上げる。ブランシュが跳ねたのと同時に鈴花が直死の一撃を放った。
「リュカも加勢頼むわよ、モヤモヤだって運動すれば気にならない!」
「分かったわ! 邪魔しないでどいてー!」
 琉珂が勢い良く飛び込んでいく様子を見てユウェルが愉快そうに笑った。
 戦う事は得意分野だとユウェルは力尽くで蜥蜴を振り払う。リリーとブランシュ、ガイアドニスの支援を受けながらも周辺の索敵役を欠かさずに、戦闘を続けて行く。
 アメイズ・グラヴィティ・ヴァレット――紫林の特殊弾頭が着弾し、蜥蜴の体が吹き飛ばされる。
「隙ありよ!」
 朱華は勢い良く剣を振り上げた。それは灼熱を纏い、彼女を象徴するように燃え盛る。
「よっし! ばいばい!」
 手を振ったユウェルは倒れた蜥蜴の亡骸を飛び越えて、関所へと向かった。目を皿にして探す彼女は朱華や鈴花と協力して簡易的な地図を作っていた。
 その地図の位置関係を確認してから汰磨羈は「そろそろ関所に向かおうか」と提案した。余りに遅くなることは望まれない。
 森の中を休憩も兼ねてやって来ていたが、安全なルートを模索するだけでも骨が折れたのだから。
 ベネディクトは何かを探しているЯ・E・Dに気付き「どうかしたのか」と問うた。
「ラスト・ラスト側にも、同じように人が歩いた痕跡が残っていれば。それはベルゼーへと続く道かもしれない。
 R.O.Oだと『ルージュ』達は観測所から入ってきた。それは地図に照らし合わせればラスト・ラストとは別方向だよ」
「ああ。……しかし、ラスト・ラスト側ではなくとも人が歩いた痕跡があればベルゼーかも知れないな」
「どうしてそう思う?」
 Я・E・Dの問い掛けに汰磨羈は「奴が人を巻込みたくないと考えて居たら」と前置きをした。
「ああ、そうだな。ベルゼー・グラトニオスが誰も巻込みたくないならば必要以上にラスト・ラストは刺激しない。
 ならば、誰もいない場所に――そして『恐らく此方を避けなくてはならない事情』がある以上、遠く離れた場所に行くはずだ」
 それがこの森を越えた先の話なのだろうとベネディクトは推測してから「こっちよー!」と呼ぶ琉珂に合図を送った。
 話せば話すほどに『冠位暴食』は人となりが随分と穏やかな紳士である。
 琉珂の懐き方や紫琳達が信じる『里おじさま』の話しを見る限り、彼は人間に対して好意的な存在だ。
(冠位暴食。他の冠位と比べて、かなり毛色が違う存在に思えるのだが……果たして、その心中に秘めているものは何か。
 琉珂がソレを聞きたいという気持ちは理解できるさ。故に、その為の助力は惜しまないつもりだ)
 汰磨羈が関所を目指す琉珂の背中を眺めた。彼女は、ベルゼーに逢ったならば何と声を掛けるのだろうか。


「お邪魔しまーすっ! あら? 留守かしら?」
 きょとんとしたガイアドニスが周辺を見回した。
 関所に辿り着いたリリーは「何か資料とかないかなあ」と呟いた。
 伽藍堂としていた関所の中には資料が仕舞われている木製のラックと誰かが腰掛けて此処で過ごしていたのであろうスツールがぽつねんと存在していた。
 小さなリリーはきょろりと周囲を見回すが埃被っていたその場所には余り生活感は感じられない。
 寧ろ、立ち去る前にある程度の清掃を澄ませたが、人の気配がないことで徐々に忘却のように白く降り積もったかのようでもある。
「何だかとっても汚れているのね」
 ぱちくりと瞬くガイアドニスにブランシュが頷いた。もう一度、声を掛けるべきだろうか。ブランシュは「すみません、どなたかいらっしゃいますかー?」と穏やかな声を掛ける。
「我々はフリアノンの里長の護衛です。定期連絡が無いと里長が心配してらっしゃいました。
 どなたか、警戒しないでくださいね。私は秘宝種『ガーネット』と言います。良ければ顔を見せては下さいませんかー?」
 しん、と静まり返っている。ブランシュは唇を尖らせた。少しだけ懐かしく感じた名前を敢て名乗ったが、どうやら無人のようである。
 志遠の一族が『オジサマ』と内通している可能性も考えたが、自体はそれよりも進んでいるようでもある。
「どうなってんですよ?」
「まあ、本当に誰も居ないわ?」
 ぱちくりと瞬くガイアドニスにブランシュも困り切ったような表情を見せた。
 鈴花は連絡が途絶えたと聞いている以上はフォスが居る可能性はないと考えて居た。がっくりとした琉珂を励ますユウェルは「探そうよ」と周囲を見回す。
「琉珂様の推測通りベルゼー様が此方側から来ていたのだとすればフォスさんは何度も会っていることになりますね。
 呼び声を受けているとは考えたくはありませんが……。ともかく、何か手掛かりを探しましょう」
 首を傾いだ紫琳は救急箱や食料を確認してくると一度席を外した。
 鈴花はと言えば不慮の事故に遭ったのだとしたら、劣化はあれど生活感が残っているはずだと考えた。
 食事の支度、洗濯物、日常の欠片。そうしたものは残されていない。まるで望んで此処を出て言ったかのようだ。
(まさかオジサマが連れて行っちゃった……なんて)
 そんな予感を感じて顔を上げた鈴花に朱華は同じ事を考えて居たというように小さく頷いた。
「フォスは確かに此処に居たんだろう?」
 汰磨羈の問い掛けに琉珂は「そのはず」と呆然と呟いた。綺麗さっぱり、人の気配がなくなっている。
 他の志遠の一族の者は遣いに出されて皆、里に居たという。此処に残っているはずなのはフォスだけなのに。
「……何かしら、フォスが居た痕跡は見つからないか」
 ベルゼーと逢わなくては覇竜という国の未来は決まらない。フォスの姿がないことだって、Я・E・Dは気に掛かっていた。
「ねぇ、琉珂さんは……ベルゼーさんと会えたら何を話したいの?」
「……なんだか、まだ、分からないのだけれど」
 ぼそりと呟いたЯ・E・Dはそうだろうとも考えて居た。
 ベルゼーも琉珂も争いたくはない。互いに互いが大切で、それは大多数の亜竜種にも同じように共有された気持ちであろう。
(けれど、理性では無く本能で争う時が必ず来る。……ベルゼーもそれがイヤで色々と先延ばししたい、できる限り会いたくないだろうとは思う。
 ただ、琉珂さんも覇竜の未来も、それじゃ何も進まなくて。
 決裂する未来があったとしても、それでも、会って、本心を話し合わないと――それがどんなに困難でも。
 それを、琉珂さんも分かって居るんだね。だから、何を聞きたいのかと問われたら困るんだ)
 どうして、と問いたいことばかりなのだろう。Я・E・Dは「会えると良いね」と穏やかに声を掛けた。
「琉珂」
 汰磨羈に呼ばれてから琉珂はくるりと振り向いた。台帳だ。それはやむを得ず関所より向こうに踏み込むことになる者が名を連ねる為のものである。
 即ち、誰が立ち入ったのかを管理し、帰らぬ場合は弔うために使われていたのである。
 その最後のページには丁寧な字で『志 礼良』と書かれている。フォスの最早呼ばれることのなかった彼女の本来の名前である。
「フォ――ス……?」
 彼女が此処に名を書いたのならば、この森の奥に向かったのだろうか。琉珂の唇が震え、真白く色を失っていく。
「琉珂、どうかしたのか」
 ベネディクトが気遣う様に琉珂に問い掛け、そして『礼良』の名を呼んだ。
「これは……フォスの本来の名ではなかったか」
「う、うん。この本は『ここから先に立ち入った者』の名前が記載されるもの、なの」
 紫林は「恐らく、フォスさんは」と唇を震わせた。屹度、彼について言ったのだ。
 人の往来を見る限り大して少なくはないが治療所の薬品や包帯のは数が足りていない。記録自体も『礼良』の名の後は何も存在して居ないことから彼女がこの場を自ら立ち去ってから人が訪れていないことが分かる。
「……礼良が名前を書いたのは、ベルゼー様と私達が戦った後、ですね」
「……琉珂がお墓参りに行った後、だから、つい最近だわ」
 鈴花は琉珂の背を撫でた。彼は近くに来ていたというのに顔をも出さずに、何処かに立ち去ってしまった。
 フォスが付いていったとするならば向かうのは亜竜種ではなく、この森を越えた先――だろう。
(此処で、ひとりでいたんだ……フォスは、わたし達みたいに自由なんて亡くて、ずっとここに居たんだね……。
 だったら、『オジサマ』がとっても素敵な人にみえるよね。きっと、わたし達がおもうより、大切な人になってしまったのかも)
 志遠の一族のこと御思えばユウェルは何とも居心地が悪かった。
 ユウェル自身も孤児だ。孤児を集め、後腐れのないもの達がこの地で守り手となる。関守となったからには、死したと同然だ。
「わたしがおかーさんに拾ってもらったのは運がよかったんだね。
 わたしもユウェルじゃなくて別の誰かになっていたかも。拾ってももらってわたしは幸せだったけどここにいた人たちはどうだったのかな」
「ゆえ……」
「……そういう人たちに守ってもらうのわたしは嫌だな。
 大事な場所ならきちんと自分たちで守りたいよ。せんぱいたちを見てわたしはそう思ったんだ。
 知らない誰かの犠牲の上に成り立つ平和なんてわたしはいらないよ……フォスも、そうだったのかな」
 鈴花は切なげにユウェルを見た。何時も通りのぱあと明るい表情を見せたユウェルは「フォスを探そう」と言う。
「私も、いやよ。誰かの犠牲が必要な事だって。
 何のために戦う力があるんだろうって苦しくもなるもの。だから、フォスを探して謝りたいわ」
 これからのフリアノンのためだと琉珂は力強く言った。
「茶太郎……?」
 何か分かったのか、と主人に問われてから茶太郎は尾を揺らがせた。何か箱を見付けたのだろう。鼻先を押し付けてふすふすと自慢げだ。
『茶太郎コレ見付けたよ!』とでも言っているかのようである。リリーは「可愛い箱だね?」と茶太郎の傍にしゃがみ混んだ。
「琉珂」
 朱華は琉珂に持っているようにと促した。箱を抱き締めた琉珂が「中身を見ましょう」と仲間達に振り向いた時、
「待て、何か来る」
 身構えた汰磨羈にガイアドニスが「大変、とっても大きな子の気配がするわ!」と声を上げた。
 関所から抜けだし出来るだけ早く身を隠すべきだろう。此処は人の気配が強すぎる。もしも相手が人を餌だと認識しているなら――
 ぞう、と背筋に嫌な気配が走る。鈴花が「逃げるわよ」と琉珂の手を引いた。


 ――奥に見えたのは、巨大な。

「あれ、は」
 ぞう、と背筋に嫌な気配が走った。ベネディクトは唇を震わせた紫琳に「退くぞ」と声を掛ける。
「竜、だろう」
 汰磨羈は確かにそう言った。艶やかな鱗を有していたその姿は練達の上空で見た『竜』に似ている。
 それが纏う恐怖。暴力的な気配だけで亜竜ではないことが良く分かる。
「まだアッチは気付いて居ない? 大丈夫かしら」
 ガイアドニスは琉珂を朱華に任せ退くように促した。最短ルートでの撤退を目指すブランシュとリリーは撤退ルートの構築に脳をフル回転させていた。
「こっちだよ! 無事に帰らなくっちゃ。それだけが一番大事なことだから……ねっ!」
 逃げなくては。琉珂が唇を震わせる。幼い頃に、オジサマが、何か言っていたような――

 琉珂は、まだ、知らなくても良いさ。
 うんと大きくなって森に立ち入るときにオジサマが教えてやろう。

 酷いわ、オジサマ。結局何も教えてくれなかったじゃない。
 琉珂は脚を縺れさせながらも「ユウェル、鈴花、逃げましょう!」と呼んだ。
「何よあれ!」
「おかーさんが危ない者と逢ったら逃げろって」
 走る二人に続き乍らЯ・E・Dははっと息を呑む。あの暴力的な気配が、動いた。動いて、此方を――
「逃げなさい」
 誰かの声が聞こえ、Я・E・Dがはっとしたように振り向いた。
「あれは将星種(レグルス)だから事前準備もなく襲われたなら一溜まりもないでしょう。
 わたくしが気を惹いて差し上げましょう。……だから、あの娘を――琉珂を護ってあげてくださいませ、旅の人」
 銀と紅梅。美しい瞳を有する亜竜種であろうか。長い尾と尖った角の娘はだらりと垂らした袖を揺らす。
「貴女は……?」
 Я・E・Dの問い掛けに白磁の肌を有した娘は何も口にはしなかった。首を振り「琉珂をお願い申します」と静かに頭を下げる。
 遠く響いた咆哮から遁れるようにイレギュラーズ達は関所を後にした。
 琉珂が大切に抱きかかえていた箱の中身は彼女にとっての見慣れた字の手紙である。
「……リュカ、それ」
 鈴花はその字に見覚えがあった。ユウェルは「あ、これって!」と指差して鈴花に同意を求める。
「琉珂、その字はベルゼーの物なのか?」
「……ええ、ベネディクトさん。これはね、オジサマの字で、此処に書かれているのは竜種の分類。
 オジサマは竜種と関わりが深い――いいえ、『竜種の中でも強大な存在を従えて居た』から知り得た情報なのでしょうね」
 たった一つの紙切れなのに、その人の優しさが滲んでいて、嫌になる。

 ピュニシオンの森は危険だ、これ以上踏み込むことは辞めなさい。
 おまえたちを傷付けたくはないのだ。もう二度とは会うことは無いように、固く思い出には鍵をなさい。
 それでも、追ってくると言うならば体に気をつけ、戦うべき敵を選びなさい。
 明星種(アリオス)ならばおまえたちでも何とか対処位は事はできましょう。ただし、将星種(レグルス)に逢ったならば逃げるように。
 竜は血統によりその力も変化することがある。
 お前達が出会った六竜達は天帝種(バシレウス)と呼ばれて居る優れた血統の者達だ。
 それより血が劣れど、竜種である事には相違はない。だからこそ、気をつけなさい。
 くれぐれも――そう、くれぐれも。

「私達が追うことを位、分かって居るくせに」
 姿を隠して、何をしているのか。屹度、亜竜種を巻込みたくはないなんて何時ものような優しさを振り撒いているつもりなのだ。
 あの人はそう言う人なのだ。
 ――けれど、タイムリミットは近い。彼が、この領域(クニ)に手を掛けなければ、またも何処かの国が犠牲になる。
(愛の理由かぁ。暴食のベルゼーくんも、無食のおねーさんも。……遺される側なのだわ。
 だから、何も言えやしないのよ。沢山のことを話しすぎれば心が崩れてしまうものね。弱き者を突き放すのだって、必要なのだわ)
 冠位母移植という立場から見れば自身達なんてとても弱々しい存在だ。だからこそ、引き離されたのだとすれば、合理的だとガイアドニスは感じていた。
 かよわい人を愛してしまったからこそ、己達が離れるしか対処をする事が出来なかったとしても。
 琉珂だって、気付いて居るのだ。気付いて居るけれど。
「……私はあの人を止めなくちゃならない。私達は、護られてばかりでは居られないもの。
 それに、誰かを傷付けることが嫌いな人なのだから力ずくで止めて、莫迦だって叱ってやらなくっちゃ。それが――『子供』の出来る事でしょう?」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。
 竜種には種類があるのですね。
 そして、其れ等が待ち受けるこの森を越えることが……必要になりそうです。

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