PandoraPartyProject

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Kalter Wind

 幻想王国で、一人の令嬢を巡る物語が最終章を迎えんとしている頃。
 鉄帝では――肌寒い季節となり始めていた。
 日が沈めば一気に冷える。体温の全てが、持っていかれるかのように。
 ……冬の訪れを感じ始める者が多い鉄帝において、新皇帝に反発する勢力は動きを見せていた。不凍港ベデクトの調査と、鉄道網の復旧の為の動きである。
 不凍港はその名の通り、凍らぬ港だ。
 これから冬を迎えんとする鉄帝にとってあの地が稼働しているか否かは重要である。海のルートが引かれればそこから物資を搬入する事も可能だからだ。そして同様に鉄道網も、本来の鉄帝の地上補給を支えていた要の一つ……
 どちらも近場の勢力にとっては無視出来ぬ要員であった――故に。


「どうにも……不凍港の当局代表役員は殺されていた、との事です。
 それが故に混乱の末、新皇帝派によって街は牛耳られている様です――
 ただし、幸いにして港の機能自体は破壊されていませんでした」
「……そうですか。となると、不凍港を再開させる事は不可能ではなさそうですね」
「はい。それに、街の人達は新皇帝派に嫌々従っている様で……
 上手く解放できれば、此方に協力的になってくれると思います」
 不凍港の調査に出向いた勢力の一つ、独立島アーカーシュではすずな(p3p005307)エフィム・ネストロヴィチ・ベルヴェノフ(p3n000290)へと、かの地で生じていた事態を共有していた――
 単純に言えば街は新皇帝派によって制圧されている。
 当局庁舎と港を主に警備している様で、そこにはそれなりの戦力がいる様だ……しかし重要視していた港自体は無事であった。船自体は出ておらず、港として機能は停止中だが上手く解放できれば――きっとすぐにでも不凍港ベデクトは復活するだろう。
「不凍港ベデクトを奪還する事は不可能ではなさそうですね。港も生きていれば取る価値もあります」
「今すぐ動きますか?」
「……いえ、まずは皆さんと情報を共有し――それからにしましょう」


 同様にベデクトを調査していたのはポラリス・ユニオン(北辰連合)もである。
「なんとか地図を入手することが出来ました。
 これがあればベデクトへと向かう時、便利になりそうですね」
「あぁ……これを入手出来たのは大きかった。ただ『彼』をどうするかな」
 向かった人員の一人であるリースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)ギルバート・フォーサイス(p3n000195)と会話していた。机の上に広げられているのは、調査の末に発見したベデクトの地図である。
 が。ギルバートの心中には一つの懸念があった。
 それがベデクト調査中に発見した――トビアスという人物である。
 トビアスはヴィーザル地方ノルダインの村サヴィルウスの戦士だ。つまりはノーザンキングス側に属する者である……いやそればかりか彼は盟主たるシグバルドの『孫』だ。只者ではない――が。諸事情により負傷していた彼はギルバート達に『保護』された。
 ……尤も。ギルバートはノーザンキングスと只ならぬ『因縁』がある。
 故に保護には些か複雑な心境もあるものだ。
 しかしこの時期に見捨てれば死が待ち受けており――やむなく保護の形を取ったのである。
「あの傷では森を越えてサヴィルウスへ戻るのは無理だっただろうからね。
 ……しかし、これでノーザンキングスもどう動くか」
「保護して引き渡せば『貸し』……に、なりますかね?」
「……さて」
 いずれにせよ今はベデクトの調査により判明したことを皆に共有すべきだと。
 ギルバートは己の胸に渦巻く、言語にし難い感情を顔に出さぬ様に――頭を振るのであった。


 一方で――鉄道網の調査を進めていたのは帝政派であった。
「むぅ……よもや、な。新皇帝派の軍によって完全に制圧されている、か」
「うん――でも、スラムを中心に旧軍の反バルナバス派みたいな人達がいるみたい。接触には成功したから、ボーデクトンを奪還しようって言う動きがあったら協力してくれる約束を取り付けたよ」
「よくやってくれた! 線路自体は使えそうであったか?」
「うん。それも大丈夫そう。
 解放できればサングロウブルク行きの汽車は解放できそうだね」
 巨大鉄道都市ボーデクトン。かの地に対する報告をバイル・バイオン(p3n000237)スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)から受け取っていた。どうにも街は敵の兵士によって完全に制圧されており、住民たちは息を潜めて暮らしているようだ――が。
 反抗する勢力もいる様で、彼らがいざと言う時は協力してくれるらしい。
 内部からも蜂起すれば十分に攻める手立てはあるだろうか。帝政派も、日々の活動によって求心力は日に日に高まっており味方してくれる民や軍人は増加傾向にある――やはり一気にボーデクトンを奪還すべきだろう、とバイルは思考するものだ。
「敵は中央の市庁舎と軍事施設に戦力を集めている、か。
 ……よし大規模攻撃を計画じゃ。至急、皆を集めよ!」
 よって、鉄帝国宰相バイルはイレギュラーズ達の報により攻め時と決断。
 サングロウブルクの戦力を――ボーデクトンへ向けんとしていた。


 同時刻。南部戦線……ザーバ派は南部の一大拠点ゲヴィド・ウェスタンの調査を行った。
 かの地もボーデクトンと同様に鉄道駅の一種である。
 が。ゲヴィド・ウェスタンには他の鉄道駅にはない重要な要素があったのだ。それは。
「そうか。列車砲は、無事だったか」
「ええ。ええ! おねーさん、確かに見たわ! 列車砲は無事だったわよ!
 妙な細工をされてる、とかもなかったから確保できればすぐに使えそうね!」
 ガイアドニス(p3p010327)ザーバ・ザンザへと語っている――列車砲だ。
 軍部が管理していた巨大なる兵器の一つ。アレを入手出来ればザーバ派は軍事力を更に誇示する事が可能であり……今後、どういった作戦を展開にするせよ、強大な秘密兵器になるだろうという目算があった。
 故にイレギュラーズ達に、制圧作戦の前に状態確認の調査を依頼したのである、が。
「よし。では至急、ゲヴィド・ウェスタン制圧作戦の準備を進めるぞ。
 ……が。それはそれとして『地下道』もあった、と聞くが」
「はい。ゴリョウルル家などが確認した様です。
 あの街には地下道……いえ、地下鉄があった、と」
 報告するのはゲルツ・ゲブラーだ。街の住民達の気配が妙に薄いと、イレギュラーズが調査した所――ゲヴィド・ウェスタンには知られていなかった『地下鉄』の様な地があったらしい。
 鉄帝国は把握しておらず、恐らくは古代文明の名残とされている、が。とにかく住民の多くは現在、その地下空間を利用して避難しているらしい。地上にいて新皇帝派の賊に見つかるよりはマシだろう、と。
 ……その地下鉄の様な道が、どこまで繋がっているかはゲヴィド・ウェスタンを制圧してからでなければ調べようがないが、もしかすればその地下道を使えば……『他』の地上部へと繋がるかもしれない。
 もしかすればサングロウブルグ近くへと。もしかすれば――帝都近くへと。
「あ。それはそうと、アウレオナちゃんっていう子を保護したみたいよ!」
「あぁ。街で新皇帝派と対抗していた少女らしいな。まぁ……本当に敵でないかは注意しておく必要がありそうだが、来る民を拒む理由はない」
「はい。それとなく監視だけはしておきましょう」
 と。別件で保護した少女の名をガイアドニスはザーバやゲルツへと告げるものだ。
 優れた剣技を持つ人物で戦力にもなるかもしれないと……憂炎らが誘った結果である。どうにも普通の少女かは分からぬが、敵意はなさそうであった。さて……彼女が何者であるかは、後々探っていくとしようか……まぁ、敵でなければ良いのだが、と。


 さすればラド・バウ独立区の調査でも同様の『地下』が発見されていた。
「お疲れ様。駅には魔種が多かったわね――」
「あぁだが、確かに期待した地下鉄の存在も確認出来たな。
 モンスター共の気配がうようよしたから、すぐに使うって訳にはいかなさそうだが」
 語るはビッツ・ビネガー(p3n000095)郷田 貴道(p3p000401)だ。
 帝都中央駅ブランデン=グラード。その地へと赴いたイレギュラーズは幾つかの困難を発見した……まず、情報にあった『地下鉄』らしき施設は確かに存在していたのである。しかし、かの駅には幾つか魔種の姿が見受けられた――
 その一人には、イレギュラーズとも因縁のあるフギンの姿もあったとか。
「しかも地下の存在は魔種共も把握してるらしい。全貌まで把握してるかは知らねーけどな」
「随分と広い場所みたいだし、ね。
 ま、どっちにしても駅自体を確保しなきゃどうしようもないわね」
「あぁ。なるべく早い内に動いた方がいいと思うぜ」
 そうねぇ、とビッツは貴道と言を交わすものだ。
 地下の広さはまだ知れたものではない。ただ『とにかく広そうだ』という気配はする。
 上手く使えば地上を通らずに各所に行き来する事が叶うかもしれない……
「やるなら冬が来る前かしら、ね」
「そうだね――ビッツさん、早く動いた方がいい。今年はなんだか寒くなるのが早いよ」
 吐息零すビッツに、パルス・パッションも告げるものだ。
 鉄帝の冬は厳しい。特に今年はなんだか『例年にない』程の寒さが来そうだ、と。
 ……何をするにせよ、その前が一番いいかもしれない。


 そして――革命派では別の事件が起こっていた。
 革命派『らしき』者達が、無辜なる民を虐殺せしめんとしていたのである。
 ……いや、既に犠牲になってしまった者も幾人かいるか。
 オースヴィーヴル領なる地と協力関係を結ばんとした矢先になんたる事をしてくれたのか――いや。
「これは……クラースナヤ・ズヴェズダーの司祭服を着ているだけで、全く別の者達ですね」
「虐殺を実行しているのは、新皇帝派の軍人……か。
 どうにもグロース将軍の差し金でおきた虐殺のようだな。
 このことを公表するというのはどうかね?」
 語るは楊枝 茄子子(p3p008356)ルブラット・メルクライン(p3p009557)だ。
 単純に言えば『偽革命派』だったという訳である。そのチームを指揮していたマルコフという男を捕らえ、情報を入手する事が出来た――
 参謀本部のグロース・フォン・マントイフェル将軍の命令で動いた工作員、との事だ。
 彼らはどうも革命派に不和を起こさんとしているらしい。
 この虐殺はその一環だろう……虐殺を行う派閥と誰が組みたがる事か。
 無論、我々は無実であると訴える事は出来るが――本当に革命派が悪でないと証明する手段は、難しい。
 彼らが着ていた服自体は、本物の司祭から奪われたモノであるからだ。
「……グロース将軍。本当にいやらしい手を打ってきますわね」
「それでも、憎しみに囚われてはいけません。同志ヴァレーリヤ。
 だってそうでしょう。人は理由なく他者を傷つけたりしない。
 相手にだって、理由があるなずなのです。もしかしたら、解り合うことだってできるかもしれません」
「……ええ、そうですわね。今は祈りましょう。この犠牲になってしまった人々の冥福を」
 然らばクラースナヤ・ズヴェズダーに属する『本物』たる者達……
 ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)アミナ(p3n000296)は祈りを捧げるものだ。
 このままグロース将軍の思惑通りに進ませるつもりはないが――今だけは、犠牲者に祈りを、と。

 ……かくして各勢力共に、調査の報告が成される。

 その結果を受けての動きは――きっと、そう遠くない内に訪れるであろう。

※不凍港ベデクト、鉄道網の調査の報告書が届いています――!
※アーベントロート動乱『Paladise Lost』が最終章を迎えています!

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