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シナリオ詳細

<総軍鏖殺>グスタフ・ドーラ

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 『トリグラフ作戦』
 それはザーバ派や帝政派が計画している鉄道網奪還計画だ。
 鉄帝各地に伸びている鉄道――並びにそのルートを確保すれば、勢力圏が広がる。
 故にザーバ派は帝都方面へと延びる中で、攻撃目標を定めた……

 それが鉄道施設ゲヴィド・ウェスタン。

 南部方面においての一大鉄道施設であり、多くの車両や物資が集っている地である――
「――いやそれだけではない。
 他言無用にしてほしいが……ゲヴィド・ウェスタンにはな、列車砲も存在している」
「……列車砲!!?」
 言うはザーバ派の長であるザーバ・ザンザである――彼の発言に解・憂炎(p3p010784)は驚きの表情を見せるものだ。列車砲。それは文字通り、砲撃能力を宿した軍自車両の事である。
 ゲヴィド・ウェスタンはソレらを保管した軍事施設でもある、と言う事か……ならばかの地を確保できれば周辺領域を制圧出来るだけでなく軍事力の更なる上昇も見込める。
 ザーバ派は優れた軍事力を宿してはいるが背面に幻想国という敵国を常に抱えている以上、より強大な軍事力を確保し続ける事には大きな意義がある――動かせる戦力が増えれば今後、より幅のある作戦行動も可能になるかもしれないのだ。
 とは言え。いきなり軍勢を動かして制圧と言う訳にもいかない。
 目下の所、政変による混乱でゲヴィド・ウェスタンが如何なる状況にあるのか不明だからだ。新皇帝派に賛同する輩によって荒らされているかもしれないし魔物が跋扈しているかもしれない。だからこそまずは……
「偵察だ。ゲルツと共に、ゲヴィド・ウェスタンへと出向いて欲しい。
 大人数で行動して新皇帝派などに気取られる訳にはいかないからな……
 少数でゲヴィド・ウェスタンへと潜入。
 街の様子や、物資が残っているか、そして何より列車砲が無事か――偵察してくれ」
「と、言う訳でな。俺も同行する。よろしく頼むぞ、イレギュラーズ」
 同時。ザーバが視線を向けた先にはゲルツ・ゲブラーがいた。
 彼は諜報部の者ではないが、しかし危険地域への潜入には戦闘力を宿している者がいた方がいいという計算からだろうか――彼がイレギュラーズの同行者として選ばれた様だ。ゲルツはそのままザーバの説明を引き継ぐ形で言を紡ぐ。
「ゲヴィド・ウェスタンの状況は繰り返すが不明だ――
 しかし推測できる事は既にある。まず、街には確実に新皇帝派の者達がいる事だろう。
 それが徒党を組んでいるか、それとも少数が散発的に行動しているかは分からんが。
 ただ――現地には列車砲が在る様に、つまり『軍事施設』があるからな。
 無事であり、新皇帝派に今も対抗しているのであれば……現地には対抗勢力も存在している筈だ。そういった連中とは協力体制を取れる筈だ。『軍事施設』には軍人が『市街地』には自警団の様な者達がいるかもしれない。必要に応じて接触してもいいだろう」
「確認したい。偵察における具体的な作戦行動はこっちで定めて良い、と?」
「勿論だ。先述した『列車砲の無事の確認』を最優先であれば、後はイレギュラーズが動きやすいように作戦を決めてもらって構わない」
 さすればエッダ・フロールリジ(p3p006270)は顎に手を当てながら思案を巡らせるもの。
 ゲヴィド・ウェスタンは聞くところによると、それなりに大きな街でもあるらしい。
 連絡が取れなくなっているという状況である以上、平時の様に安定した状況ではないだろうが……しかし少なくとも崩壊している程酷い状況ではないと目されている。
 現地にはゲルツの言うように、此方に協力してくれる戦力もきっといる事だろう。
 その者達と接触し、いずれ来る本格的な制圧作戦の際の協力を求めてもいいし。
 現地の状況がどうなっているのか情報提供を求める事も出来るかもしれない。
 勿論、ザーバ派にとっての重要物である列車砲に関しては直接見に行かなければならないだろう……と、考えてみれば。
「これはもしかすると、手分けした方がいいかもしれないよね」
「あちこちの状況を一丸となって探っていくのもいいけど……日が暮れるかも。それだけならまだしも――鉄帝には『アラクラン』なんて組織も蔓延ってるみたいだし」
 更にヒィロ=エヒト(p3p002503)や美咲・マクスウェル(p3p005192)が思い至るのは、近頃あちこちで暗躍している『アラクラン』などの組織だ。彼女ら二人もかつて、その組織の一員とらしき者に出会った事がある……
 目的地であるゲヴィド・ウェスタンにも連中の手が伸びているかもしれぬとなれば、あまり時間をかけてじっくりと調べていく、というのは危険かもしれないと思うものだ。
 ゲヴィド・ウェスタンの状況は繰り返すが、不明だ。敵対的な戦力がどれほどいるかも分からない――あまりに調査時間が長期となれば疲弊もするだろう。幾つかの隊に別れ、各地を一斉に調査するのも一手かもしれない。小人数であればこそ、敵に発見される可能性も低くなる事だろう。
 調査できる場所に関しては概ね三つに別けられる。

 列車砲や軍人の残存勢力がいるとされる――『軍事施設』領域。
 街の中心部に存在し多くの汽車が集まる――『鉄道駅』領域。
 そして鉄道駅の周辺に存在し、多くの住民も残留しているだろう――『市街地』領域。

 さてどこにどう動いていくものか……
「調査がうまく進めば、次のステージは本格的な制圧作戦だ。
 いよいよ勢力として大きな動きを示す事になるだろう。
 ……やれやれ。ヴェルスの奴もまだ生死不明。
 いざと言う時には帝都への進軍も――やはり視野に入れるべきなのだろうかな」
 当時。ザーバは微かに言葉を零すものだ。
 恐らくザーバ派以外の各勢力も、いよいよ大きな動きを示す頃合いだろう。
 冬を目前にこの国がどうなっていく事か――未来に思いを馳せながら。


 ――同時刻。ゲヴィド・ウェスタン市街地。
 いつもであれば帝都程ではないが賑わいを見せるかの街は、しかし静まり返っていた。
 表の道には柄の悪い連中が度々出現しているから、である。
 ……つまりは新皇帝の勅令に歓喜している無法者だ。
 やはりこの街にも溢れているらしい――家に押し入り財産を奪わんとする輩は絶えない。
「チッ。この辺りにはもう誰も残っちゃいねーな」
「どっかに隠れてやがんのさ。地下壕でもあんのか……?
 手当たり次第に探していくぞ。冬が来る前に飯は確保しとかねぇとな」
 が、だからこそだろうか。住民はどこかに避難しているようであった。
 無法者たちが舌打ちする程に、どこの家を見てもほとんど人の姿が見えない。街の外に大規模に避難した様な動きは見えなかった為……恐らく街のどこかに避難所の様なモノでも点在しているのだろうか。
 その辺りまで行くと、もしかすれば自警団の様な連中がいて抵抗してくるかもしれないが――しかし無法を是とする彼らにとって急ぐ事態も存在していた。
 冬だ。もうすぐ、本格的な冬がやってくる。
 鉄帝の冬は混沌の中でも有数の寒さがあるのだ。
 ……それこそ、下手をすれば耐えきれぬ者が出る程に。
 故にその前に物資を略奪し備えておかねばならぬのだから――と。
 その時。
「おっ……? んだ、女がいるじゃねぇか。へへ今日は戦利品無しかと思いきや――」
「はぁ……またこういう輩かぁ。どうして拙の下には、こーいうのしか縁がないんだろう」
 大通りを我が物顔で往く無法者たちは、見た。
 路地裏から出てきた一人の少女を。
 まだ住人が残っていたか、と無法者らが歓喜したのも刹那の間だけ。
 ――風が吹いた。
 否。それは刀の一閃であった。
 瞬きする暇もない瞬時の内に――無法者が斬って捨てられれ、ば。
 血飛沫舞う。声を出す暇もなく。
「おとっつぁんから『これから寒くなるから行くなら南だぞ南!』って勧められたから汽車ぽっぽに乗って来てみたけど……ここも別にそこまで暖かくもないし、ガラの悪い人達ばっかりだし、つまらないなぁ。お買い物とかしてみたかったんだけどなぁ」
 そして、彼女は再び歩を進める。
 とめどないままに。確たる目的などないかのように。
 ――いや。その時、響いた一つの音色が彼女に目的を与えた。
「……あっ。お腹空いてきたなぁ。はぁ、どこかでご飯食べたいなぁ……
 どうしてお店、空いてないんだろ?」
 それは腹の虫。空腹の音色。
 いついかなる時でも、コレは顔を出してくるものだ。
 まるで寂れた様な街の状況を今一つ理解してない様な彼女は、周囲に視線を巡らせながら――どこかに人がいないかと街を闊歩するものであった。

GMコメント

●依頼達成条件
・鉄道施設『ゲヴィド・ウェスタン』に存在する『列車砲』の状態の確認
・その他、街自体の調査(努力目標)

●フィールド・調査について
 鉄道施設『ゲヴィド・ウェスタン』はザーバ派の拠点、城塞バーデンドルフ・ラインより北上した地点に存在する大規模な駅、並びにその周辺の街の事を指します。概ね、以下の様な調査ポイントがある事でしょう。

・『軍事施設』
 ザーバから位置の情報は貰っており、街の北東部に存在している模様です。施設周辺は大きな壁によって街とは隔たりがあります、が。現時点での状況は不明です。施設が無事であれば列車砲、その他物資などが存在していると思われます。
 また、これも無事であればですが、現地の軍人が立て籠もりなどを続けている可能性もあります。接触できれば味方となってくれるかもしれません。

・『鉄道駅』
 街の中心部に存在しているとされる駅です。
 平時であれば多くの汽車が行き交う地なのですが、現在の状態は不明です。
 恐らく新皇帝派の者などがたむろしているのではないでしょうか……

・『市街地』
 駅周辺における市街地です。
 商店街、学校、住宅街などなど様々な施設が揃っていますが、住民の様子は不明です。
 どうにも気配が希薄です。どこかに避難しているのでしょうか……?

●調査について
 街の各ポイントを調査出来ますが、敵対的な戦力がどれほど潜んでいるかは未知数です。
 調査の時間が長期になれば疲弊もしてくる事でしょう。
 幾つかのグループに別れ、街のあちこちを一斉に調査するというのも一つの手です。
 確実にすべき事は『軍事施設』にある『列車砲』の状態調査ですが、将来的にはこの街の制圧作戦が行われるのは確実ですので、軍事施設以外の調査も行っていると、その時に役立つ内容などが判明するかもしれません。

●敵戦力
・新皇帝派×??
 新皇帝の勅令に賛同する無法者などが存在しているのは間違いないでしょう。
 具体的な数は不明です。排除してもいいですが、キリがない可能性があります。
 また、未確認ですが『アラクラン』という新皇帝派の組織の者が街に紛れ込んでいる可能性があります。

・その他、不明
 予期せぬ敵戦力がいる可能性があります。ご注意ください。

●味方戦力
・ゲルツ・ゲブラー
 皆さんと行動を共にします。
 遠距離射撃を得意とする飛行種です。
 特に何かしてほしい事が無ければ皆さんと共に『軍事施設』方面へと向かう事でしょう。

・現地戦力、不明
 その他、現地には新皇帝派に対抗する自警団や、軍人らが存在してる可能性があります。
 接触できれば味方となってくれるかもしれませんが詳細は不明です。

●アウレオナ・アリーアル
 謎の少女です。
 優れた剣技を操り『市街地』や『鉄道駅』で目撃されています。
 新皇帝派の様に略奪はしていない様に見られますが、反皇帝派の様にも見えません。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい。

  • <総軍鏖殺>グスタフ・ドーラ完了
  • GM名茶零四
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年11月07日 23時00分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
オニキス・ハート(p3p008639)
八十八式重火砲型機動魔法少女
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
ガイアドニス(p3p010327)
小さな命に大きな愛
シェンリー・アリーアル(p3p010784)
戦勝の指し手

リプレイ


 冷たい風が頬を撫でた気がした。
 いずれ、もう少し時期が進めば雪も降ってくるだろうか――? 今はまだ白くならない吐息を天へと零しながら『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)は思考するものだ。眼前には大きな街――ゲヴィド・ウェスタンが存在していて。
「……話には聞いてたけれど、此処が鉄道駅だね。気合い入れて調査していくよ……!」
「出来るだけ有意義な情報を持ち帰らねばな。
 いずれ来たる制圧作戦の折に備えても……さて。やれるだけやってみよう」
 さすれば『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)などと共に足を踏み入れるものだ。ゲヴィド・ウェスタンは広い……故にこそ手分けして情報を収集せんとイレギュラーズ達は幾つかに手分けして街を巡らんとする。
 アリアやエーレンは鉄道駅周辺を目標として、だ。
 本来ならば駅を利用するであろう者達で溢れている――が、今は人の気配がほとんどない。政変に伴った混乱で鉄道が機能していなければ当然とも言えるか……来ない汽車を待つ者などおるまい。人の気配が薄くなるのも当然だ。
「でも、此処も将来的には南部戦線派の拠点になるならさ――今の内調べておかないとね!」
「そうね。鉄道の管理方面を調べておきましょう、現在の利用状況を知れれば、もしかしたらまだ稼働している駅とかも分かるかもしれないし……ね。戦は準備が8割。今の内に色々と調べておきましょう……気分はなんだか、怪盗の下見だけど」
 が、それでも――いやだからこそ今の内にと『瑠璃の刃』ヒィロ=エヒト(p3p002503)や『玻璃の瞳』美咲・マクスウェル(p3p005192)も鉄道駅を目指して動くものだ。途上、線路が美咲の視界の端に映れば……コレは、いざと言う時列車砲が通る道でもあるのだろうかと。
(……国内に向ける気、なかったでしょうにね)
 列車砲と言えば美咲の認識においては航空戦がない時代の防衛兵器――という印象が強い。混沌世界においては戦闘機などの航空技術が兵科レベルで発展している訳でなければ……現状『活きる』兵器であろうか。
 しかしずっとずっと『南』にだけ向けられる事だけが考えられていた兵器。
 それがもしかすれば『北』に向くかもしれぬと思えば――些か思う所もあるものだ。
 ……ともあれ列車砲自体は軍事施設に向かう者達に任せようと思考していれ、ば。
 同時に市街地の方でも動く影があった。
「こーいうのは無暗にコソコソと動けば逆に目立つモノ。
 まぁ派手に動けばいい、という訳でもないですが。
 適度に『立場』を悟られぬ程度の動きで参りましょう」
「むしろ『新皇帝派』の別グループとでも思ってもらえりゃ上々だな――
 ま、とにかく現地の住民と連絡が取れりゃ一番いいんだが、探してみるかね」
 それは『離れぬ意思』夢見 ルル家(p3p000016)や『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)らの姿である。ルル家は優れた耳を使って周囲の状況を確認しつつ、ゴリョウもどこぞに人の気配がないかと捜索を続けるものだ。
 地図や連絡網、緊急時の避難先の情報を書いた回覧板などなど……そういったモノから情報が残されていないかと、ゴリョウは次々と目を通していく。はたして誰も彼もどこへ行ったのか。人気があまりにもなさすぎる――と。
「……どうにもそれなりの期間、戻ってきてない様にも見えるね。
 だけど大規模に街の者が外に移動したなら情報が入ってきている筈……
 何処に行ったんだ、彼らは」
 感じているのは、ゴリョウらと行動を共にする『ザーバ派南部戦線』解・憂炎(p3p010784)もであった。街に残る痕跡……生活の跡や、散り積もった埃などから彼は逆算せんとしているのである。
 どこかに一斉に避難した、というのが三者共に思い浮かべる所だが。
 しかし街の外にまで出でた跡がないのなら――どこへと。
 探す。街の各所へと、新皇帝派の者に見つからぬ様にしながら……そして。

「――見えた、ゲヴィド・ウェスタン基地だ。此処から見える限りでは静かだが……さて」

 『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)は見据える。ザーバ将軍らから聞いていた軍事施設を――だ。幾つかの建物や倉庫が遠目からでも見えれば、今の所は何か戦闘が起こっている様な気配がないのは確認。上手く現地戦力と合流出来ればよいが……
「ん、列車砲。砲撃型の機動魔法少女としては気になるところ。
 念のため確認しておきたいけれど……この先にあるのは、間違いないんだよね?」
「ああ。無事だったら、という前提は付けるがな」
「うんうん! こっそり、そーと、しんちょーに進んでいきましょ!」
 ともあれエッダと共に慎重に歩みを進めていくのは『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)に、同行しているゲルツ。そして『超合金おねーさん』ガイアドニス(p3p010327)である――いずれも軍事施設への侵入を目指す者達。
 気配を殺す様に歩む。どこぞに何が潜むかもしれぬのだから……特にオニキスは周囲を俯瞰する様な視点と共に、索敵を怠らぬ。ザーバ将軍から頼まれた任務において最重要なのは、とにもかくにも列車砲の確認であればこそ仕損じる事は許されない。
 それにしても『列車砲』かと、エッダは思考を巡らせるものだ。
 基礎設計と思想は見た事がある。が、あまりにも巨大。あまりにも技術が必要そうで、馬鹿馬鹿しい代物とも言えて――故にこそ試作もされずに終わったものだと思っていたが。
「……現存するならば、早急に確保せねば。もしも敵の手に渡れば脅威となるに違いない」
「うん。現地に残ってる軍の人たちのことも気になる。協力出来ればいいけれど」
 故に、エッダの指揮を中心にオニキスらは一塊となって往くものだ。
 誰が上とか言う話ではない。全員が目となり手となり足となり――任務を遂行する。
「場末のチンピラには真似の出来ぬ、鉄帝軍人の正統を見せてやろう」
 呟くエッダ。思考の端には、この先にあるであろう列車砲の事を思い浮かべているか。
 列車砲。それは巨大なる武の象徴。
 はたしてかくなる兵器は無事か否か――

 曇天たる天気の下で、誰も彼もが動いていた。


 さて。それぞれ一斉に街の調査を始めている。
 その中でも鉄道駅方面へと向かう面々は敵との遭遇を可能な限り避ける事に成功していた――それは。
「三人とも、幸運を祈る。後でまた合流しよう」
 エーレンが独自に行動をとり、鉄道駅周辺をうろついていた事も起因するかもしれない。
 つまり彼の姿は――少なくとも隠密を重視する者達よりも目立っていたのだ。ならば必然、街を闊歩する新皇帝派の者などの目には彼の姿が先に映る。敵の注意は彼に集中し……更にエーレン自身、ガラが悪い様に変装も行っておくもの。
 髪を逆立て、目にクマを作り、困窮している浮浪者の様に薄汚れさせるのだ。
 これだけしておけばまさかイレギュラーズとは思うまい――『喰い詰めた流れ者のサムライくずれが、何か飯のタネはないかと鉄道駅周辺をうろついている』それが、彼が己に課した演技の為の設定。
「オイ。そこの不審者……んな所で何をしてやがる?」
「ひ、ひぃ!!? ま、まままままさか、て、鉄帝の将校様!?
 お、俺ぁただなんか将校様がたの役に立てるこたぁねぇかと探してただけで……
 怪しい事はぁ、何も、なにもねーんで許してくだせぇ!!」
「あからさまに怪しい奴だな、ちょっとこっちに来い――抵抗するか? あぁん?」
 然らば早速に『釣れる』ものだ。引きつった笑みでわざと情けなく振舞え、ば。
 恐らくは新皇帝派の連中。いや、もしくは只の粗暴な賊程度か。
 まぁどっちでもいい――連中が接近している事は既に、俯瞰する様な視点で初めから承知の上だったのだ。連行されるとなればそのままフリを続け、人目のない所に誘われた瞬間に。
「――碌に警戒すらしないとは、舐め過ぎだな」
 声すらあげさせずに、一閃するものだ。
 首筋一閃。教習するが如き一撃は、刹那に意識すら奪い取ろう――
 後はついでに身ぐるみ剥いでおこう。何か情報があるかもしれない、とすれば。
 一方でアリア達は引き続き鉄道駅内部へと歩を進めんとしていた。
 アリアは周囲に助けを求める様な声が無いか、探知の術を張り巡らせつつ――同時に列車や線路の現状を確認せんとしていく。覗き込んだ限り、目立った破損は今の所見当たらない様だが……
「でも、やっぱり完全に動いてないみたいだね――それもそっか。
 あちこちで賊が暴れてる状況で、今まで通り運航なんて出来ないもんね……
 あっ。この線路、ちょっと壊れかけてるかな。メモしておこう!」
 少しでも気になる所があれば、地図に印をつけて要チェック、だ。
 無事にゲヴィド・ウェスタンが制圧出来たとして――その折に修理用の人員と設備を砦から回しやすいように報告書として纏めておこう。後は備蓄している物資などがあれば、その状況も確認したい所だが、さて……それは倉庫でも見てみようか……?
「ふぅん……運航予定、完全に停止してるわね、これは。
 特に記録を見る限り、帝都に近い方からの汽車が段々と来なくなったみたい。でも周辺で汽車とかが破壊された――とかの報告はないみたいだし、安全さえ確保できれば、この駅は再稼働させる事は可能かしら」
 同時。美咲はヒィロと別に行動し、鉄道内の状況を探っていく――
 駅の管理者側であるとの偽造身分と共に、耳を立ててどこかで話し声が聞こえないか確認。同時に上手く駅内部へと侵入出来れば、かの地に乱雑に置かれている資料や報告書に次々と目を通していこう――優れた記憶力と共に精査は後でとして。
「後は……不審物がないかも確認、ね。
 今の所はなさそうだけど……爆薬なんてあったりしたら大変だわ。
 線路修理には時間がかかるんだから……」
 更に美咲は調査を続ける。通常の駅になさそうな不審なモノがないかと――
 線路の修理は大変なのだと、彼女は以前の依頼で知っている。もう既に破壊されてなどいれば仕方ないが、もしもまだ防げるならば……と警戒するものだ。勿論敵には見つからぬ様に。いざとなれば壁を透過して逃げる一手を打つとしようか――
「うーん、それにしても……駅員さんとかも何処に行ったのか分かればなー避難してるんだろうけど、全然姿が見えないよ。仕方ないから駅の構造の把握に努めておこっかな」
 更にヒィロは誰ぞに見つかっても問題ない様に、お上りさんを装って行動中。
 列車や線路の状況、駅の構造、時刻表、警備状況等……可能な限り得られるモノがないかと探っていく。その仕草たるや歴戦の怪盗の如く――迅速足り得る彼女の一挙手一投足が鉄道各地へと伸びていく。
 しかしどうにも探った結果、鉄道駅自体が放棄されている様にも感じる。時折確認できる人影は、如何にも賊らしき馬鹿共。彼らがたむろする様になって駅員は避難しているのだろうか……むむむっ。
「でも、まぁ。やっぱり歓迎はされてないよね――新皇帝派は」
 街に蔓延る気配は彼らの拒絶、だ。
 いやそもそも彼らが歓迎されているのであれば、これほど人気が薄い地とはなっていないか――いずれにせよ市民に歓迎されていないのならば、それは弱点となりそうだと、彼女は一度美咲らと合流しようと踵を返す。
「お待たせ! そっちはどうだった? 何か手がかりとかあった?」
「鉄道駅内部の様子はまぁ、色々とね。
 後は今の内に、拠点となりそうな場所でも作っておきましょうか――手伝ってくれる?」
「勿論!」
 そして続けざま行なわんとするのは美咲による拠点構築である。
 秘密の隠れ家を駅の近くに美咲は所有しているのだ。この地を後日も使える様に防御や隠蔽の仕込みをしておけば役に立てるだろうと――故にヒィロを連れて現地へと赴く。正に駅近物件。徒歩数分。やったね! いざとなれば狙撃も出来るかも!
 ヒィロも、陣地の構築はお任せあれと力一杯手伝うものだ。
 扉を破られる様に強化し、窓からは覗き込まれぬ様に隠蔽を施して……と。

 そして。市街地方面ではルル家達が引き続き動いていた。特にルル家の耳は、家の室内から聞こえないか……どこか、隠れ家や隠し部屋などがあるのではと推察しているのである。同時にゴリョウは家に残された食材の放置具合を視んとすれ、ば。
「ふむ……食材の類が妙にねぇな。これはクセェぜ。
 やっぱりどこか近くに立て籠もりを続けている――と見るのが自然だろうなぁ」
「シェルターのようなモノがある、と?」
「あぁ。片っ端から食材を其処に持ち込んだんだろ」
 気付くものだ。食材の類があまりにも残っていない、と。
 調味料すら残っていない――ゴリョウの得手たる料理の知識があれば、賞味期限や消費量からどのくらいの時期に彼らがいなくなったのか逆算出来るかと思ったのだが、ほとんど残っていないのだ。全て消費してから出ていった、と言う風でもない。ゴミ箱も調べてみたのだが、そう言った残骸すら残っていないだから。
 しかし日持ちしないモノすら持ち出している、と言う事は……やはりあまり遠くには行ってないだろうという確信には繋がる。例えば安全を重視しどこか遠くへ避難するのであれば、移動する際の荷物は可能な限り減らしておきたい筈だ。
 そうしていない。荷物を可能な限り持ち出している。
 移動よりも食料の量を優先している。
 そこから推察出来るのはやはり、例えばシェルターの様な――近場の存在だ。
 いるぞ、と思えばこそより綿密に調査を続行しよう。
 耳を澄ませ、移動の痕跡がないか調べ、手がかりを掴むのだと……
 あちらの家へ、こちらの家へ――と調べていれ、ば。
「――近い。感情の色が見える……きっとこの近くだ」
 憂炎が、救いを求めんとする声を、術が探知した。
 市街地の一角。バイカリスク教会――という札が立てかけられた建物の前に、至る。
 そこでルル家が再度耳を済ませれば……人の声が聞こえてくるものだ。
 故に内部を探索。ゆっくりと扉を開けて、中を見てみれ、ば。
「オイ、見ろよ。隠し扉だぜ……地下への階段だ」
「ゆっくりと進もうか――敵意ある者だと思われたら、後が大変だからね」
 ゴリョウに憂炎が見つけた。パッと見では分からないが、地下へと続く古い階段があったのだ――故に少しずつ、少しずつ進んでいく。避難民たちがいるのならば刺激せぬ様に……と。さすれば。
「むっ――!? お主らは、なんじゃ! 賊か!?」
「――落ち着いて下さい。拙者達はイレギュラーズです。貴方方に敵意はありません」
「そうだ。こちらは南部戦線の者だ。君たちを解放しに来た――安心してほしい」
「おぉ……南部戦線……ザーバ将軍か……!!」
 其処には、多くの者達がいた。
 推測していた通り街の住民達か――かなりの人数がいる様だ、が。
 それ以上に驚いたのは『その地下自体』であった。

「オイオイなんだこりゃあ……こりゃ地下室じゃねぇ。
 地下道……いや、線路があるぞ。まさか『地下鉄』なのか……?」

 ゴリョウが見据えた先――そこには『地下鉄』の様なモノが存在していた。
 古い。かなり、古くに建設された雰囲気が窺える。
 が、埃被っている様子を見るに普段は使用されていないのだろうか……
「これは……こんな場所が以前から存在していたというのですか?」
「あぁ。じゃが、ワシらも知ったのはつい最近じゃ……新皇帝の勅令が発布されてから皆不安での。どこかに避難できる場所はないかと探していたら見つけたんじゃよ――ひとまず地上の家にいるよりは、隠れていれば新皇帝派の連中に襲われにくそうじゃったしの」
 それで周囲の住民は賊が押し寄せてくる前に此処に避難したのだそうだ。
 ルル家が線路へと降りて様子を窺ってみる――どこまでも続くかのように錯覚するほどに、広い。成程このスペースを利用すれば大規模な人数でも収容できそうだ……ただ。
「ここはなんなんだ? まさか――古代文明の名残、なのか?」
「恐らくはそうじゃろうと思う、が。詳しくは分からん。この道を使えばもしかすれば別の地上に繋がっていたりするかもしれんが……何が潜んでいるかも分からん。もしかすれば魔物がいたりするかもしれんからの。ワシらは此処に留まる程度にしておる」
「ふむ……これはザーバ将軍に報告しておく必要がありそうですね」
 憂炎やルル家がこの地の事に思考を巡らせる――ザーバ将軍やゲルツから『地下道』なる存在の情報が齎されていなかった事を考えると、彼らも把握はしていなかったのかもしれない。観察しうる限り普段は使用されていない様であるし、今回初めてこんなモノが街の地下にあると分かったのだろう。
 この路線が果たしてどこに繋がっている事か。
 もしかすれば他の派閥の近くの街などに繋がっていたりするか――?
 非常に気になる所ではある……が。今はひとまず。
「……皆さん、どうか聞いて頂きたいのですが、後々この地に対する解放作戦が実施される予定です。ザーバ将軍達だけでも解放は出来るでしょう――ですが、その時に協力頂ければこの街への被害を少なく取り戻す事が出来ます! どうかご協力下さい!」
「あぁ無論じゃ。戦える若者も、数は多くないがいるからの――
 ザーバ将軍が来て下さるのならば歓迎じゃ! 我らもその時には協力しようぞ!」
「助かる。それまで、此処を護る様に頼むぞ――新皇帝派に荒らされぬ様に、今少し耐えてくれ」
 ルル家に憂炎は後々の予定を伝えるとともに、現地住民との協力体制を取り付けるものだ。この地下鉄に関しては、ゲヴィド・ウェスタンを制圧出来ればじっくりと調査する事が出来るだろう。その時を楽しみにするとして……

 と、その時。

「ん――? 何か聞こえねぇか? 地上の方から……こいつぁ、戦闘の気配か!?」
 ゴリョウが気付いた。近くで何か戦闘の気配がする――と。
 故に迅速に地上へと駆けあがり、地下への入り口を再び隠す。そして教会の外へと出てみれ、ば。
「あーもうしつこいなー! 拙はお腹空いてるだけなんだから、構わないでよー!」
 其処には――一人の少女が、新皇帝派の賊らしき者に襲われていた。
 五対一。数の暴力で押し込まんとする男達がいるものだ。
 ……が、少女の剣筋、只者ではない様子を窺わせる。超速の一閃は数を撃退する勢い。もしかすればこのまま彼女一人で薙いでしまうかもしれない――が。
「よぉ嬢ちゃん、手助けさせてもらうぜ!」
「君みたいな子がどうしてこんな大通りに――いや、今はとにかく連中を倒すか!」
「ん? 拙を助けてくれるの――? ありがと!」
 見過ごせようか。一人の少女が暴漢に襲われるを!
 即座に介入するゴリョウや憂炎が、賊らの横っ面を殴りつける様に往く。
 直後にはルル家が速度を武器に攻め立てもしようか――さすれば。
「あっ、いた! 目撃例のある子、だね……! こっち! こっちに避難して!」
「やれやれ――何事かと思えば、一人の少女を複数人で襲うなど、下劣極まる事だ」
 調査に目途をつけ、少女を探さんとしていたアリアもまた合流し、一撃放つもの。気配を押し殺しながら移動していた彼女の一撃は奇襲気味に賊へと襲い掛かり、その陣形を攪乱しようか。そして乱れた隙があらば――エーレンの斬撃が敵を一閃。
 さすれば賊如きに、イレギュラーズの攻勢を耐えれようものか。
 あっという間に追い詰めて粉砕すれば――少女の安全は確保され、て。
「ふぅ……助かったよ、ありがとうね。ええと……親切な人達!」
「はは。私達はね、イレギュラーズなんだ。ちょっとした――用事があってね、この街に来てたんだけど……貴方はどうしてここに? あ、名前はなんていうの?」
「ん。拙はね、アウレオナって言うんだよ。えーと……その前に、いいかな。
 あのねあのね……ご飯、持ってない?」
 ぐぅ。腹の虫が鳴るアウレオナ――なんともお腹が空いているようだと、語り掛けていたアリアにみもすぐさま分かるものだ。不審者の情報や位置など、彼女から聞きたい事は色々ありもする……ならば良し、と定めて。
「美咲さん達が隠れ家を作ってるから――そこに一回行こうか。
 そこだったら落ち着いて話せるだろうし、ご飯も食べれるかも」
「あぁ。とりあえず立ち話よりは良さそうだね――行こうか。
 こっちも情報を共有しておきたい事があるし、ね」
 アリアは、ヒィロ達が作り上げんとしている隠れ家へと案内するものだ。憂炎らも同意し、まずはこの場を離れんとする――先程の地下へと赴いてもいいのだが、作戦の時までなるべく人の出入りはない方がいいだろうと判断。
 そして辿り着けば扉をノック。独特な感覚による符丁とすれ、ば。
「あら、いらっしゃい――尾行とかされてないわよね?」
 美咲が扉を開けるものだ。周囲を警戒し、折角の隠れ家がバレていないかと……
 ともあれなんの気配もなさそうであれば早速にゴリョウが自慢の腕を振るいて。
「ぶはははッ! 出来たぜ! さぁさぁゴリョウ飯、たっぷり食ってくんな!」
「わぁ美味しそうだね!! ゴリョウは凄いなぁ!!」
 然らば眼を輝かせるアウレオナ――余程お腹が空いていたのだろうか、がっつくように食べるものだ。あまり行儀が宜しいとは言えないが、空腹の前に細かい事は言うまいよ! ともあれ。
「アウレオナ殿は鉄帝の方でもなさそうですが、何故こちらへ?」
「ん? いやぁ拙はね、一応、多分、きっと鉄帝の生まれだよ。まぁ、なんていうかな……おとっつぁんがね『今は良い修行場だろうから山から下りてみろ』って言うからさ。あちこち巡ってたんだよね。あ、南に来たのは南が今の時期はまだ暖かいからっていう理由かな」
「ははぁ、父御殿と共に。父御殿はどちらへ参られたのでしょうか?」
 ルル家は問う。なんとも『雰囲気』が異なる少女――アウレオナへと。
 ……彼女に嘘をついている様子はない。しかし、なんとも和風な服装であるが故に鉄帝生まれでないのでは――と推測しているのだが、アウレオナの認識では生まれは……少なくとも育ちは鉄帝の様だ。言葉が濁っているが故に、自身もハッキリとは分かっていなさそうだが。
 ともあれ彼女はゴリョウ飯を元気よく食べながら語りて。
「おとっつぁん? うーん、分かんない。
 多分もっと南の方には行ったと思うんだけど……ってソレなに?」
「ん、これですか? これは糒……乾燥米飯の一種ですよ。水や湯に浸せば、ほらご覧の通り」
「それだけじゃねぇぜ。コイツをこうして……おおっと卵がねぇな。こういう時はマヨネーズだ! マヨネーズはなんにでも使いやすくてな、コイツを混ぜれば――そら! パラパラの炒飯の出来上がりだ!」
「わぁ凄い! チャーハンだー! 初めて見る!!」
 と、ルル家の持っていた糒に興味津々だ――どうもアウレオナは本当に山育ちが長いからか知らない事が多いらしい。ゴリョウが料理の腕を振舞えば目を輝かせる事輝かせる事……
 しかし……父御殿はもっと南へ?
 妙だな。これより先は国境線に大分近付く筈だが――何をしているのだろうか?
「さて……ご飯も大分腹に溜まってきたかな。君の剣の実力、先程少し見せてもらったが――どうも剣を少しかじった程度じゃないようだ。どうだろう。率直に言う。南部戦線の客将になってくれないか? あぁ勿論南部戦線には僕から話をしてみるよ」
「客将? うーん……まぁ今の所何処に行こうって目標もないし、とりあえずでいい?」
「ああ構わない。衣食住の保証はされるだろうし。
 気に入ればもっと滞在してくれて構わないだろうさ」
 そして憂炎が続けざまに語る。南部戦線側に来ないか、と。
 彼女はどうにもイレギュラーズではない様だが、敵意も感じない。ゲルツなどに話を通せば彼女の在籍も許可してもらえるのでは――と彼は思考を巡らせるものだ。今は戦力が欲しい所であるし……それに、彼女自体が何者なのかも気になる。
 話をする為にも近くにいてもらった方がいいと――さすれば。
「そっか。なら、いいよ!
 拙の修行にもなれば、おとっつあんも反対しないだろうしね。
 行ってみよっか! うんうん、南部方面に行くのは初めてなんだよねー楽しみだなぁ!」
「おぅおぅ! それならゴリョウ亭のショップカードをもらってくんない!
 友好の証だぜ――いつでも食いに来てくれよ!」
「わぁ~! ありがとうね、ゴリョウって優しいね!」
 ゴリョウの腹に抱きついて親愛の証を示すアウレオナ。
 彼女が何者なのか。それはまぁ――これからゆっくり考えていくとしようか。


 ――同時刻。軍事施設内でも動きが見えていた。
 隠密行動を基本として彼女らは進んでいく――
 さすれば、エッダの瞳には幾つか戦闘が発生した様な跡が見え得るものだ。
「……見ろ、銃撃の跡だ。何度か、戦闘があったようだな」
「ん。状況から考えて、軍の人は立て籠もりを続けてる筈……
 もしも施設内を出歩いている人がいたら、ほぼ敵と思っていいかな」
「今の所敵意は感じないけれど――油断は出来ないわね!」
 床に落ちていた銃弾をエッダが拾い上げ、まじまじと観察。同時にオニキスは周囲に敵が潜んでいないか慎重に探りて、ガイアドニスも移動の気配を押し殺しながら――施設を進んでいく。敵がいて交戦するならば容赦するつもりはないが……無駄な戦闘は避けるが吉であるが故に。
「……それにしても。随分と正確に情報を入手したものだ」
「んっ? 今何か言ったか?」
「いや、なんでもない」
 と、その時。エッダは独り言ちに呟こうか。
 想いを巡らせているは――ある諜報機関の活躍について、か。
 『クネヒト・ループレヒト』
 諜報機関、この混沌の時こそ情報が力を持つが故に、エッダは協力を仰いだ。
 旧知の間柄へと。さすれば街の概要などの情報を手に入れる事に成功したのだ。勿論、諜報機関と言えど分からぬ事はあり街の方で判明した地下鉄の事などは記していないだろうが……しかし。例えばこの施設の概要などが彼女の手に渡っている。
 あぁ相も変らぬ手腕だ――ヴィクトーリヤ。

 ……謀らずも、私達、いや、貴女たちの天下となりましたね。
 ヴィクトーリヤ――或いは、貴女はこれを見通していたのですか?
 貴女は私より賢いですから。

「……立場は変わったが、やる事はいつも通りだな。
 ゲルツ、念のため確認しておきたいのだが――此処には門などないのか?
 或いは周囲の様子を監視する様な機能も、だ」
「ふむ……門はともかく監視機能は無かったはずだ。
 目視による索敵と警戒ぐらいが主だろう――敵意を向けられる事の心配か?」
「然り。同胞と無為に撃を交わす意味などなかろう」
「賊ではない、と分かってもらうしかないな。
 名声高いエッダがいれば、まぁ顔は通じるだろうから問題はないと思うが……」
 であればとエッダはゲルツに施設の確認を行うものだ。賊との交戦は先述の通りだが、恐らく立て籠もりを続けているであろう軍人達と誤って戦闘状態に移行する事がない様に気を付けておきたいが故に。
 そも、彼らはどこで防衛陣地を組んでいるだろうか……
 やはり列車砲が無事ならば、かの兵器を護る動きを見せるのが軍人としての動き。
 その地であろうか――と思考と推察を巡らせたオニキスは、見た。
 施設内を走っている線路を、だ。
「見て。向こうの方に――大きな倉庫。いや、格納庫が見える。
 もしかしたらあっちにあるんじゃないかな? 列車砲は」
「ありえそうね――っと、待った。ここを見て。多分軍人さんが仕掛けたんでしょうね……罠が沢山あるわ。ううん。護りの為に備えてるなら放っておいた方がいいんでしょうけれど、あんまりにも危なそーなのは、おねーさんが解除するからちょっと待ってね!」
 何処に保管されているにせよ、列車砲を運び出す為には線路が必要。ならば施設を横断するように走っているその先に、かの兵器がある筈だとオニキスは推察し――しかしガイアドニスが皆を制した。
 足元。見えづらい様に隠蔽されているが、ガイアドニスの瞳は捉えた。
 罠がある――と。
 細い糸が巡らされており、うっかりと足を踏み入れれば……おぉ手榴弾が爆発する仕様か。
「でもでも。こんなものが仕掛けられてるって事は……やっぱりこっちの道が本命ね!」
「ああ。間違いないだろう――ガイアドニス、解除を頼む。
 オニキスとゲルツ、私はその間に周辺の警戒だ」
「了解だ。敵の接近時は任せろ、俺が銃で先制する。敵が気付かなければそれが一番だがな」
 次々と罠を索敵し、どうしても解除する必要がある所は解除していくガイアドニス。彼女がいなくば幾点か罠に引っかかっていたかもしれない……危ない所だった。一個でも爆発すれば軍人――に気付かれるのはまだしも、新皇帝派の賊も近寄ってきていたかもしれない。
 だが結果としてその心配は杞憂に終わり、慎重に施設内を歩んでいける。
 少しずつ、少しずつ歩みを進め――そして。
「――あった。見て、列車砲だよ。こんなに大きいんだね」
 格納庫の扉へと手を掛けたオニキスは、遂にソレを視界に捉えた。
 目標である列車砲だ。
 巨大なるソレは格納庫内に鎮座していても威風堂々としている――
 大口径の砲塔。ソレを維持・運搬を可能とする為の大車輪。
 見る限り損傷は一切ない様だ。軍人らが必死にこれだけはと守りを固めたからだろう。
 と、その時。
「止まれ、貴様ら! ここまで隠密に侵入するとは何奴――!」
「――此方は南方方面軍大佐、エーデルガルト・フロールリジだ。大任御苦労。よく耐えた」
「!! お、おぉ! 南方方面軍……! 間違いないフロールリジ大佐だ、敬礼!」
 瞬時に取り囲まれる。立て籠もりを続けていた軍人達、か。銃口をイレギュラーズへと向ける――が。エッダの姿を見たと同時に、警戒を解くものだ。名声高いが故にこそ顔の知れ渡っている彼女がいれば話も早いものだ。ゲルツだけならこうはいかなかっただろう。
「早速だが状況を確認、共有したい。現状は?」
「ハッ。軍施設内に侵入した暴徒が多数いたために、やむなく施設の大部分は放棄して我々は此処の守護に務めています。なんとか列車砲だけは守っていたのですが……帝都からの補給が完全に無い為にかなり限界に近い状態です。負傷者も多数の状態で……」
「そうか。やはりな……疲労困憊の所で残念な報せだが、貴様らが知っての通りここを放棄するわけにはいかない。撤退命令は下せない。が、まもなくこの地の奪還作戦が決行される予定だ――もう少しだけ、この地を死守してくれ。必ず帰ってくる。ザーバ閣下と共に」
「了解しました!」
 互いに敬礼。役目を果たすべく死力を尽くすのだと――瞳は物語っていれば。
「列車砲は全然傷ついてない、かしらね? 念のため確認だけしておこうかしら!
 ふふん。おねーさんだってね、職業軍人ではないけれど職人経験ならあるのだわ!」
「私は今の内に、此処までの資料を纏めておこうかな……あっ戦力は全部ここに集まってるのかな? 奪還作戦が始まる時の為の、連携の為の連絡経路とかを確認しておきたい。いざと言う時に合流が早急に行えるのが、重要」
「成程。それでしたら、この地点は意図的に罠を少なくしていますので――」
 ガイアドニスは念のためにと、列車砲の点検に回るものだ。もしかしたら気付かぬうちに何者かに細工されていないかと思案巡らせ職人としての誇りと共に。そしてオニキスは資料に纏める。列車砲までの突入経路、付近の身を隠せる場所を確認。
 後に行われる奪還作戦の助けになる様に、地図に記すのだ。
 とにかく万全足らねばならぬのだから。
「いずれにしても、列車砲は無事な様だな。
 ガイアドニスのチェックも入れば、列車砲が使える状態であるのは間違いあるまい……
 これはザーバ将軍に早急に連絡し、作戦の実行を行うべきだな」
「奪還の為の道筋は建ちそうだね。後は、実際に制圧できるか、かな……」
「――新皇帝派の動きが気になる所だな。此度は大きな接触はなかったが……な」
 そして。一通り確認と連絡が終われば――ゲルツが帰還の意思を示すものだ。
 ひとまず最重要である列車砲の無事は確認できた。
 後は実際に大規模な作戦を実施するのみだと――
 が。オニキスの言に次いで紡いだエッダの一言に関しては未だ懸念はある。
 新皇帝派、だ。連中が座してこちらの動きを眺めているとは思えない。
 この街の調査ではそこまで激しい妨害はなかった……それは可能な限り戦闘を避けようとしたイレギュラーズ達の隠密行動が大きな要因を占めているのは間違いない。だが組織だって妨害する様な動きが見られなかったのは――気になるものだ。
 敵勢力がどれだけいるか、またその規模がどれぐらいであるかの調査を行った場合、また違った成果があっただろうか?
(……ふむ。接触しえたのは、軍人などとは異なる無法者ばかりだった。此処には組織だった連中はいない、と言う事か……? 断定は出来ないが、しかし。もしも群を成す数がいる場合、とうの昔に列車砲は連中に確保なり破壊されている筈……考えすぎだろうか?)
 同じ頃。街中で思考するのはエーレンだ。
 幾人か無法者を斬り捨てた彼は、接触した敵共の姿を想起するものである……どうにも歯ごたえがない、と。難敵が潜んでいるよりは、まぁ良いのだろうが。しかし。
 どうにも。時折、どこかから『視線』を感じる、気もする。
 ……こちらを観察されていた? 否。そんなモノに気付かぬイレギュラーズ達であろうか。それに、見つからぬ様に徹底して気配を殺しながら各地で行動していたのだ。新皇帝派の偵察が仮にこの街にあろうとも尾行されている筈はない。
「だけど、どっちにしろ急いでおく必要はあるとおねーさん思うわ。
 街に来た事自体は――もしかしたらバレてるかもしれなしね!」
「そうだな。其れに関しては同感だ」
 ともあれ、ガイアドニスは警戒しておこうかと言えば――ゲルツも同意。
 故に、ガイアドニス達も一端施設から離れるものだ。
 市街地と鉄道駅周辺の探索に赴いていた者達と合流しよう――
 情報を共有し、ザーバ将軍に報告に戻るのだ。
「現地の人達とも協力体制を築けたし……後はなるべく早く保護してあげたい所だね」
「ええ――あ。アウレオナ殿、もしも帝都側に来ることがあればギア・バジリカにも是非お越しください。暖房があるのでこれから温かいですし、大浴場やレストランもありますので是非!」
「うん、ありがとうね! 拙、山育ちでこの辺りの土地勘ないから……
 その時はルル家達を頼りにさせてもらうね!」
「はい! 遊びに来るだけでも大歓迎です!」
 そして。脱出する前にアリアは一度街の方を振り返るものだ。
 あの後、ゴリョウ達から聞いた地下へと一度赴き、現地民と言を交わせた……イレギュラーズだと、仲間だと信じてもらえたのであれば、制圧作戦を成功させ必ず保護してみせようと心に刻むものであり。アウレオナとルル家は友好の言を交わす。
 彼女の言う『おとっつぁん』が何者かは知らぬが、彼女に悪意はなさそうであれば。
 是非とも、ギア・バシリカにも招待してみたいものであるから。
 そして、ヒィロは思考を巡らせるものだ。
 ――ボク達は大変なものを盗んでいきました。

「列車砲とこの街の、来るべき時の主導権です! ぶい!」

 まるで華麗に仕事を成し終えた怪盗の様に。
 彼女はVサインの笑みと共に――在るものだ。

成否

成功

MVP

ガイアドニス(p3p010327)
小さな命に大きな愛

状態異常

なし

あとがき

 依頼お疲れ様でしたイレギュラーズ。
 列車砲は現地の軍人達の必死の抵抗により無事の様です――
 また、街の方では『地下道』がある事も判明し、更に現地にいたアウレオナなる少女の協力も得ることが出来ました。
 ゲヴィド・ウェスタンの価値は様々に高まっていると言えるでしょう。
 今回の結果を受けた作戦は、近い内に。ありがとうございました。

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