PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<総軍鏖殺>fool and Poison<革命流血>

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●「 」
 静かな静かな、村の倉庫。冬に備えて大量に収穫され積み上げられた麦袋のそばに、ネズミが一匹。きょろきょろと薄暗い倉庫の中を見回していたが、ぴたりと扉のほうに目をやったまま固まった。
 ドン、ドン。音がする。
 そして三度目の音と共に、扉が斧によって破壊された。
 倉庫へと踏み込んだのは赤と白で塗装された鎧を纏った僧兵風の誰か。
「なんだよ、あるじゃねえか。食料がたんまりとよ」
 フルフェイスヘルムの下から下卑た笑いを浮かべる男の足元に、老婆ががしりとしがみついた。
「お願いです、やめてください。この食料がなければ冬を越えられないのです。おねがいです。皆死んでしまいます」
 男は強引に足を外すと、麦袋の側へ寄ってひとつを手に取る。
「おい、運び出せ」
「おやめください! あなたは――クラースナヤ・ズヴェズダーの、革命派の方々ですよね!? なぜこんなことを!」
 再びすがりつこうとする老婆を、今度は男が強く蹴り飛ばした。
 血を吐いて転がる老婆をに駆け寄り抱きかかえ、若い男性が叫ぶ。
「どうして! どうしてこんなことを――」
 右を見れば、彼の家は炎をあげ燃えていた。
 左を見れば、女や子供が並べられ剣によって斬り殺されていた。
 虐殺だ。略奪だ。
 彼らの纏う鎧や僧服には、見覚えがあった。
 クラースナヤ・ズヴェズダーの、僧服である。

 ――クラースナヤ・ズヴェズダー。
 彼らは『弱者救済』の理念のもと、鉄帝国に生まれた多くの弱者たちに救いの手を差し伸べた。
 ここオースヴィーヴル領の民も、鉄帝国の侵略に降伏した際、物資を引き渡し飢える寸前であったところを助けられた過去がある。
 このあたりの人々はみな、クラースナヤ・ズヴェズダーを知っていたし、なにより深く感謝していた。
「なんで、なんで貴方がたがこんなことを」
「『なんで』だぁ?」
 鎧の男が振り返り、ゆっくりと歩み寄る。
「我等が司教、革命派が筆頭、アミナ様の命令に決まっているだろう。
 かつて貴様等にめぐんでやったものを、今返して貰っているんだよ。
 我等崇高なる教団の糧となり、光栄のなかで死ぬがよい」
 振りかざされる斧。
 咄嗟に、老婆が立ち上がり男の前に飛び出した。身体を斧が深く食い込み、絶望的なまでに破壊していく。
「母さん!」
 叫ぶ男。老婆は消え入るような声で『いきなさい』とだけ言った。

●疑わしき略奪
 革命派に良いニュースがあった。
 鉄帝北東部にあるオースヴィーブル領が、革命派との会談に応じてくれるというのだ。
「オースヴィーヴル卿、どんな方なのでしょうか。楽しみです。がんばりましょうね!」
 司祭アミナは揺れる馬車の中でニコニコと笑っている。

 オースヴィーヴル領は鉄帝国領内に存在する土地であり、いわゆる旧ヴィーザル領である。
 かつては鉄帝国軍による猛攻を受け壊滅寸前となったオースヴィーヴル領は、領主による降伏という形で鉄帝国へ併合。領民の命は助かったが、そのために多くの資源を引き渡す事となってしまった。
 その際に救いの手を差し伸べたのがクラースナヤ・ズヴェズダーである。
 『弱者救済』の理念のもとに、飢えて倒れる寸前であったオースヴィーヴル領内の人々に食料を配り、その他様々な支援を行ったことで無事彼らは復興を成し遂げたのである。

「オースヴィーヴル卿とのお話し合いが上手くいけば、協力しあうことができるでしょう。今は私達革命派も高い軍事力を獲得していますし、いざとなれば守ってあげることだってできるはずです。
 これも、皆さんのおかげですね。同志ヴァレーリヤ!」
「こんな時代にも、やはり人の心はあるのですわね」
 ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は祈るように手を合わせると、馬車から外を見た。
 それは、オースヴィーヴル領ののどかな風景である。冬を前にうっすらと雪が積もり始めており、今頃は収穫した麦を備蓄していることだろう。雪解けの、澄んだ香りがした。
 同じ馬車にはエッダ・フロールリジ(p3p006270)と日車・迅(p3p007500)。
「全くでありますな。情けは人のためならず」
「オースヴィーヴル領が鉄帝国に降伏したという過去は聞いたことがありましたが、こうして復興した様子を見ると、人の偉大さを感じますね」
 彼らはオースヴィーヴル領からの物資受け渡しを手伝うためにやってきていた。先に革命派のスタッフが現地の人々と話し合いを済ませていると聞いていたので、合流しようとしているのだが……。
「おや、あれは?」
 ヴァレーリヤが遠くにあがる煙に顔をしかめた。
 そしてすぐに、エッダがその目に険しい光を宿す。
「まずい。二人とも、急ぐぞ」

 馬車を急がせた先に見たのは、荒れ果てた村だった。
 物資の引き渡しが予定されていた村で、倉庫の中は空になっている。
 革命派へと受け渡される物資はおろか、この村を冬の間維持するための物資すら持ち出されてしまったのだろう。
 そして、それらを食べるはずだった村民たちは……。
「あ、ああ……?」
 迅は、無残に殺された子供や女性の死体が山のように積み上げられているのを見た。
 一方でエッダは注意深く周りを観察し……物陰に隠れている男性を発見した。
 素早く近づき、恐怖を与えぬよう注意しながら『何があった』と問いかける。
 男は震えた声で、こう言った。
「クラースナヤ・ズヴェズダーが、裏切った」
 振り返る。
 その声が、聞こえていたのだろう。
 アミナの表情が、堅く凍り付いている。
「そんな……そんな筈がありません! だって、だって……!」

GMコメント

●シチュエーション
 革命派(クラースナヤ・ズヴェズダー)はオースヴィーヴル領との協力関係を結び、冬越えのための物資の一部を譲って貰う約束をとりつけました。
 しかし現地についてみると、物資は提供分も含め根こそぎ持ち出され村人たちは虐殺されていました。
 そして驚くべき事に、その虐殺を行ったのはクラースナヤ・ズヴェズダーの僧兵たちだというのです。更には、それが司祭アミナの命令であると。
 唯一生き残った男性の証言から、西へと去ったその一団を追跡することになりました。
 彼らの無念を晴らすため。彼らの物資を取り返すため。
 そしてなにより、この驚くべき異常事態の真相を確かめるために。

●馬車とその一団
 西へと向かった『自称革命軍』を馬車等で追いかけます。
 色々荷物とかを放り出して全速力で追いつくので、物資を大量に抱えた彼らに追いつくのは余裕でしょう。
 彼らはおそらくPCたちに対して攻撃をしかけてくる筈です。戦闘の準備をお忘れ無く。

・革命軍×複数
 クラースナヤ・ズヴェズダーと同様の鎧と僧服を装備した僧兵たちです。
 彼らは魔法の籠もった剣や斧を武器とし、馬車をひかせるためにアンチ・ヘブンを使役しています。

・ロックミノス×複数
 全身が岩の装甲で覆われた大きなバイソン型のモンスターです。
 突進攻撃によってこちらを吹き飛ばしたり防御を突き崩したりといった戦い方をします。

●補足説明
・司祭アミナ
 革命派の筆頭の少女であり、純粋で優しい心をもった頑張り屋さんです。
 見た目通り非常に善良で、とてもではないが彼女が略奪や虐殺を命令するとは思えません。勿論、彼女もそんな命令をした覚えはありません。
 皆さんと一緒に軍を追いかけ、真相を確かめようとするでしょう。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

  • <総軍鏖殺>fool and Poison<革命流血>完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年11月07日 23時00分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)
真打
ティスル ティル(p3p006151)
銀すずめ
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
日車・迅(p3p007500)
疾風迅狼
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
ガイアドニス(p3p010327)
小さな命に大きな愛

リプレイ

●人は必ず罪を犯す。ただし、全ての罪に罰があるわけではない。
 うっすらと雪の広がる地に、白い華が咲いている。その真横を車輪が通り抜け、花を大きく風で煽った。
 冬を前にした鉄帝国。旧ヴィーザル、オースヴィーヴル領。
 車輪の行く先は、西。
 怒りと、不安と、あるいは少しばかりの焦りを乗せて。

「はぁ。鉄帝も幻想みたいになって来て面倒というか、ホント……」
 『抗う者』サンディ・カルタ(p3p000438)は揺れる馬車の中で仲間のサポートを行いながら、同じく荷台にのるアミナの様子を観察した。
「大丈夫か?」
「……はい、大丈夫、だと思います」
 答え方が不明瞭だ。だが答えてはいる。錯乱し前後不覚に陥るほどになるかと心配したが、どうやらそれほどでもないらしい。
 かつての悲劇の象徴、聖女アナスタシアの姿がアミナに重なり、サンディは小さく首を振る。
 その考え方は早計すぎるし、乱暴すぎる。
 同じようなことを考えたのだろうか。『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)がじっと前を見据えている。
「どうしてこんなにも儚い命達を愛せないのかしら? 不思議ね。不思議なのだわ」
 気持ちを遮るように、馬車の御者席に座っていた『超合金おねーさん』ガイアドニス(p3p010327)が呟いた。
 牽引力に優れたドレイクを用いた馬車は、何人もを乗せてもその速度を緩めない。乗り心地はとてもよいとはいえないが、アミナの使徒を騙る不届き者を追いかけるにはもってこいだ。
「お願いね、ドレイクくん。馬より強いってところ、見せてあげて」
 ガイアドニスがそう呼びかけると、ドレイクがグオウと吠えた。
 一方馬車内では、アミナが膝を抱えるようにして目を閉じている。
「……私が、悪かったんでしょうか?」
「?」
 ヴァレーリヤが振り返ると、アミナはごまかすように微笑んだ。知っている人の、もういないあの人の笑みに似ている気がしてヴァレーリヤの胸がぞくりと冷える。
「もし、本当にいま追いかけている人達が、革命派の……私の同志であったのならと考えていました」
「そんなはずはありませんわ。あなたもそう言っていたじゃありませんか」
「ええ、ですけれど……」
 人はどんなときにでも、何かしら罪を犯す。
 何気ない日常の中で。意図せぬ何かで。気付けば誰かの罪のトリガーをひいている時がある。
 そのすべてに責任を負うことなどできるはずがないし、するべきではない。個人が負うには社会とはあまりにも大きすぎるのだ。
「考えてしまうのです。これまで訴えかけてきた、民のため……明日のため、弱者のため。活動し、戦い、勝ち取るべきであるという主張は、本当に正しかったのでしょうか。
 勝ち取るとは誰から? 打倒した相手の背後に弱者がいたなら? 悪と信じて倒した相手に、幼く無垢な娘がいないとなぜ言えるのでしょう」
「考えすぎですわ。仮にそんな連鎖があるとして、あなたの何気ない発言を曲解し虐殺が起きるなんてことは、それこそありえませんわ。もしそうだとしても、あなたのせいではありません」
「そういうこと」
 『紫閃一刃』紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)は腕組みをして荷台の端に背を預けた。
「確かにね。革命派の政府転覆っていう思想はテロっぽいけど、無辜の民を虐殺するような落ちぶれかたはしてねぇよ。そんなのは内側から見てればわかるし、ハタから見たってわかる。
 アミナに罪をおっ被せたのが指揮の行き届かない末端か、それとも新皇帝派の騙りか、変装したただの賊か、はたまた他勢力の偽装兵かは知らん。
 けれど、そいつらにケジメをつけさせれば済むことだ」
 紫電は自らのかたわらに立てかけていた刀をとり、柄に手をかけた。
 それは彼女にとってあまりにも自然な行為で、たとえば前髪をいじるくらいに普通に行われた。殺意なく柄を握れるが、それだけに彼女は斬ることを恐れない。
 アミナの使徒を騙る人間を斬るイメージを、既に彼女は頭の中で完成させていた。
 今更ではあるが、馬車の中は満員であった。牽引力に優れているとはいえこれだけ乗ったら充分で、旅の荷物などは既に放り出してきている。
 『幻耀双撃』ティスル ティル(p3p006151)はそんな荷物があった場所から退いて、幌の上へとよじ登った。
(……よし。落ち着け、私。
 ここで立ち止まっていたら何も始まらないんだから。
 まずは追いついて倒す。で、何が起きているか調べる。
 悲しむのは、それから)
 目に焼き付いているのは、虐殺の風景。
 山と積まれた死体は、それが人間であったことを一瞬忘れさせるほどの無慈悲さで、かつそのことを突きつけるような凶悪さがあった。
 『クラースナヤ・ズヴェズダーが、裏切った』
 一人だけ生き残った男はそう言っていた。それが革命派を偽る者たちの仕業であったとしても、殺される人々はどんな気持ちだったのだろう。残されたあの男性は、どんな。
 彼は、今後も革命派を信じることができるのだろうか。
 ティスルにはそれが、取り返しのつかないほど深い傷であるように思えた。
 もしティスルに強い心がなかったら、両手で顔を覆って泣きじゃくりそのまま動けなかったかもしれない。
「そうだ。今は、前を見なくちゃ」

「革命だ何だは好きにすれば良い。
 奪うの奪わないのも、勝手だ。
 秩序の番人を気取る気はない」
 『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)はまだ遠くにいるであろう、そして今まさに追いつきつつある『偽の革命派』たちに呟いた。
 直接言葉を投げかけるつもりは、今回はない。なぜならそれは暴力によって成され、理解を求めるつもりなどないのだ。黙って殴りつけ、相手が死ぬまでそれを続ける。そうすべき時に、言葉はいっそ無粋だ。
 エッダの、そんな冷徹な感情を目の当たりにした『疾風迅狼』日車・迅(p3p007500)は無意識に肩をふるわせたが、さすがというべきか『それだけ』だった。
「国が乱れる中、久しぶりの良い話に喜んでいたのですが……こうなりますか」
 オースヴィーヴル領との良好な関係が結べる。そう聞いた迅ははじめ喜んだものだ。
 『祖国』にも、食糧難によって多くの隣人が餓え、家にわいた虫を追いかけ回して焼いて食ったなんていう話も聞いたことがある。家の壁を崩して食ったとも聞いた。
 助け合うことで、手を取り合うことで変えられる未来があることを、迅は経験で知っている。『祖国』が周辺部族と共同する道を歩み始めたことで。
 けれどそれを、ぶち壊そうとしている人間がいる。迅にとって、非常に許しがたいことだ。
 その一方で、『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)と『純白の矜持』楊枝 茄子子(p3p008356)はどこか冷静に見えた。
(まったく、面白そうなことになってきましたね。罪の存在しない無法の地でこんなものを拝めるとは、革命派に入った甲斐があったというものです。
 後学のためにも、最後までしっかり見届けさせてもらいますよ。ふふ)
 表情はおだやかな、いっそ微笑んですらいる茄子子は内心でそんなふうに呟いた。
 茄子子はもともと、革命派に『後ろ暗いことは何もない』なんて思っていない。
 今のような影響力をもった背景にはつい最近になって急激に拡大した軍事力があり、その軍事力の背景にはニコライやギュルヴィやハイエナといったいかにも怪しい人間達がある。新皇帝派軍アラクランの一員であるところのブリギットが革命派の同志として加わっていることも、対外的にみれば怪しいだろう。
 内々では良いと、あるいは常識だと思っていることが外から見れば外道であるなんてことは世の中にはゴロゴロあって、茄子子もそれが普通だと思っている。特に宗教とはえてして、『世界へのごまかし』になりえるのだから。
「せっかく、明るい報せが訪れたと思ったのに。余計なことをしてくれたものだな」
 ルブラットのほうはというと、冷静に見えるのは仮面越しゆえなのだろうか。実際これを外したところで表情ひとつ変えていないような口ぶりなのだが、姿勢はどこか堅く、遠くを見るように顎をあげている。
「そろそろファミリアーを上げよう。変に横やりを入れられても困るからね」
 そう言うとルブラットは使役していた小鳥を馬車から外に飛ばした。最初からずっと飛ばしていなかったのは、馬車の速度についてこれない可能性を考えてだ。基本的にこの世界は、飛ぶものと地を走るものとでは前者が圧倒的に遅いと決まっているらしいから。
「所で、『彼女』はもう潜入を終えただろうか?」

 一台のトラックが停車している。
 荷物を山のように積載した馬車はそれを見て、馬をとめた。
 運転席では、『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)がハンドルを指でトントンと叩きながらじっとその様子をうかがっている。
 馬車に乗っていた人間達は何かをひそひそと話し合った様子で、馬車からまず一人。加えて数人が下りてくる。
 彼らは手にしたライフルのセーフティーを解除し、いつでも撃てる状態にしていることが美咲の目からも分かった。
 着ているのは、確かに革命派とおぼしき僧服だ。実際の革命派の司祭から奪ったのだろうか。それともどこかのタイミングで複製したのだろうか。自分だったらクリーニング業者でも装って潜入しこっそりコピーを作るところだ、と美咲は脳内で動きを逆算していく。
 まず思ったのは、彼らがあの服を着慣れていないだろうということ。少々動きにくそうにしているし、肩凝りでも気にするような動きをたびたびしていて、サイズが合っていないのが皺からもわかる。
「おーい、村の方はもう終わったのかー?」
 窓を開いて美咲が呼びかけてみると、彼らはまたひそひそと話し合う様子が見えた。
「……あー」
 後方の人間が指をクイッと動かし、それにあわせて周囲の全員が一斉にトラックへ銃を向ける。
 美咲はそれを察していたかのように運転席の扉をけりあけると車体の向こう側へと転がるように飛び出した。
 銃弾がトラックへ大量に撃ち込まれ、タンクにでも穴があいたのかドッと激しい炎をあげる。
「『嘘吐きは相手を疑う』。尻尾が出たっスねえ、はやくも」
 美咲の見立てでは、彼らは『革命派ではない』。たとえばアミナの発言を曲解した過激派でもないし、命令伝達がおかしくなった結果起こした作戦でもない。
 革命派に罪を着せるための虐殺であること、オースヴィーヴル領との協力関係を邪魔することが目的のひとつであることが推察できる。
「これで二十人くらい浚って別々に拷問したら確実なコトわかるんスけどねえ。さすがに無理かな」
 足音が聞こえる。トラックを両サイドから回り込んで美咲を囲み捕らえようという判断だろう。いや、あの銃撃の激しさからしてさっさと殺すつもりだろうか。
「ま、出だしは上々ってとこっスかね」
 慎重に回り込もうとしてくれたなら、それでいい。
 こちらを『その程度の人数』だと侮ってくれたのだから。

 穴だらけになったトラックが燃えている。
 『偽革命派』のチームを指揮していたマルコフという男はスカーフで鼻から下を覆ったまま、周囲の部下に攻撃の命令を下すべくサインを――送ろうとして、ハッと後方からの気配に振り返った。
 音を立てて急接近するドレイクチャリオッツ。
 こんな目新しいものを導入するのは世界広しといえどローレットくらいだ。
「まだ居たか。後方警戒。さっきの女はジョンウーとヘインズの二人であたれ! 残りはあの馬車もどきを潰す!」
 素早く反転し銃を構えるマルコフ。
 一斉に行われた銃撃に対して、御者席からあえて立ち上がったガイアドニスは両腕を交差させるように構えた。的になる面積を広げる愚かな行為だとマルコフは思ったが……真実はそうではない。
「かよわい皆に、こんなものを通すわけにはいかないのよ」
 どういう理屈か強固に形を保つ肉体が銃弾を弾き、その高い身長から見せる威圧感がマルコフたちの銃撃を鈍らせた。
「見つけたわ、襲撃犯!」
 ガイアドニスはついに御者席から飛び、ドレイクたちの前へと出る。
「その僧服、クラースナヤ・ズヴェズダー!? アミナ様が!? それは本当にアミナ様なの!?」
 困惑したかのように叫ぶガイアドニス。
 マルコフはその『いかにも』な様子に疑心を抱いたが、部下達は違ったようだ。軽薄そうに口元をゆるめ。「さあどうだろうな」と言いながら射撃を続ける。
 彼らがつい口を滑らせるのも時間の問題だと考えたマルコフは、馬車を引かせていたロックミノスの縄を解いた。
「いけ! ああいうヤツは得意だろう」
 命令を受けたロックミノスはガイアドニスを突き飛ばしにかかる。
 が、彼女はむしろその一撃を誘っていたというべきなのかもしれない。
 とまった馬車から展開したサンディたちはそれぞれ攻撃直後のロックミノスに狙いを定めた。
「人間は残せ。モンスターからやるぞ」
 サンディは短剣を逆手に握ると、ロックミノスへ急速に距離を詰めその背に突き立てた。それ以上逃がすまいと引っ張り、体勢を固定。
 そこへ二つの斬撃が交差し、ロックミノスの頑強な装甲を削っていく。
 紫電がロックミノスの周りを駆け回りながら連続で斬り付け、同時にティスルがその頭上を高速で飛び回りながら連続で斬り付けていく。
 紫電は刀を両手で握りしめた状態で振り抜き、ティスルは両手に流体金属の太刀を握った状態のままきりもみ回転。ザッと地をけずるような勢いで着地する。
 二人が背を向けたロックミノスは、装甲を『削りきられる』形で血を吹き上げ、その場に崩れ落ちるのだった。
「人間のほううはあとで尋問だ。
 それ以外は生きてようが死んでようが知ったことか、生きていれば同じ尋問はするがな。用が済んだら、始末するのだから」
 冷たく呟く紫電。
 一方で、複数のロックミノスがこちらの馬車を潰すべく突進をしかけていた。
 足を潰して逃走を助ける狙いか、それとも馬車にアミナが隠れていることを見破ってか。
 いずれにせよ自由にさせるわけにはいかない。
 ヴァレーリヤとエッダ、そして迅が間に立ち塞がる。
「フォローを頼みます!」
 迅が後方の茄子子に呼びかけると、彼女たちは頷いて防御陣形をとった。
 まあ、ファランクス隊じゃああるましいそんなにキッチリとした陣形があるわけではない。せいぜい前衛から大きく距離をとって比較的攻撃されづらい位置取りをする程度のことなのだが。
「相手の連中、戦い慣れているね?」
 茄子子は迅たちに治癒の魔法を施しながら、ロックミノスを一人一体の割合で抑える様子を見てどこか嫌そうな声を出した。
 表情はまだにこにこしているままなので真意がさっぱりわからないが、それは仮面のルブラットも似たようなものなので深くは問わない。問うべきは……。
「戦い慣れている、とは?」
 ルブラットはどのロックミノスに追撃をしかけるべきか考えながら、取り出した短剣めいた道具を指でくるりと回し、しっかりとした刺突の構えで握りしめる。
「武器をもっただけの集団なら、最初に突っ込んできた相手を集中攻撃してしまいがちなんだ。特にガイアドニスくんは目立つから。攻撃対象を『選ぶ』ようなことをしないんだ。統率されていない限りはね」
「指揮官が優秀だと?」
「ううん、それに従う部下とセットでちゃんとした訓練がなされてるってこと。普通バラバラになっちゃうんだよ、こういうときは。なのにむしろ、こっちをバラバラにしようとあえて分散した攻撃を――それもされたら困る所を狙って打ってきてる。
 集団の意志がひとつに統一されてるのって、ふつうに怖くない? こういうのって、『軍』の統率プログラムだよね?」
「ふむ……」
 ルブラットは狙いをひとつに定めたのか、端のロックミノスへと迫りその眼球めがけ短剣(もといミゼリコルディア)を差し込んだ。
 丁度迅が押さえ込んでいた個体だ。迅は両手でロックミノスの角をがしりと掴んで力比べ状態に入っていたが、ルブラットの刺突によって暴れたロックミノスから一度距離を取った。
 とはいっても数十センチ。彼にとって間合いというのは『手の届く範囲』である。剣よりも槍よりもずっと短く、そして非常に小刻みだ。
「鉄拳鳳墜!」
 そしてシンプルに、迅の拳がロックミノスの頭部へと炸裂する。
 一方で、ヴァレーリヤはロックミノスの攻撃を真っ向からうけつつも、こちらの反撃を思い切り叩き込む戦術に出ていた。
 具体的には、ロックミノスによって派手に天空に跳ね上げられつつも聖句を唱え、メイスに太陽のごとき光を宿すのだ。
 なんだかちょっぴり懐かしい気もする。イレギュラーズとしてかけだしだった頃、鉄帝のイベントかなにかでこんなことをした記憶が蘇り、ヴァレーリヤはすこしだけ頬をゆるめた。
 当時と今では、あまりにも色々なものが違うが……特筆すべきことがあるなら、その『威力』。
「『主よ、天の王よ。この炎をもて彼らの罪を許し、その魂に安息を。どうか我らを憐れみ給え』」
 振り下ろしたメイスから放たれた炎は、ロックミノスをたちまちのうちに焼き焦がす。
 その一方で、エッダはロックミノスの突進に自らもまた突進することで応えていた。
 鋼の拳を豪快に繰り出し、ロックミノスの頭部へと叩きつける。
 ロックミノスもまた、そんなエッダの拳を粉砕しようと岩のように堅い頭を叩きつける。
 突進の威力だけで言うなら、相手が優勢。
 しかし最終的な破壊力という意味では……。
「――『獅子戦陣』」
 黄金の雷を身に纏うエッダの拳は鋭くロックミノスの身体を突き抜ける。突進による威力は完全に殺され、逆にエッダの拳の威力だけがロックミノスの臓腑を揺らした。
「さて、そろそろか」
 そこからはこちらの得意を押しつけるだけだ。
 エッダとガイアドニスがひたすら敵を引きつけ、倒せずに苦心する彼らをヴァレーリヤたちが横から素早く処理していく。ハマってしまえば、こうも楽な勝負もない。

●真実がナイフだとすれば、事実はその砥石にあたる
「大人しくしてろっ!」
 サンディは縄によって拘束した『偽革命派』の男マルコフを蹴りつけ、破壊した馬車の残骸へとぶつけた。
 低く呻いたマルコフはしかし、口の端で笑っている。
 サンディはその様子から、『暴力で解決できないもの』と直感した。
 極端な話、堅いもので殴り続けたら解決するタスクと、そうでないタスクがある。
 サンディはその生まれから『暴力』の実行力と実用性を強く抱いているが、反面それでも絶対に手に入らないものも強く認識していた。ありていにいうと、愛とかがそうだ。
 経験上、マルコフが重要な、それも問題の解決にあたって直接的な真実を知っているという可能性は低い。
 スラムのチンピラがそれを影から支配する貴族たちの思惑を知りもしないのと同じこと。
 直感が働いたのは、もしかしたらそんな類似性ゆえかもしれない。
「再確認する。今回の虐殺は本当にアミナが命令したのか?」
「ああ、本当さ。アミナ様のご命令だよ」
 こちらを挑発するような、心の一切籠もっていない口調でマルコフは言う。
 馬車からおそるおそる出てきたアミナを見ても、マルコフは鼻で笑っているのだ。
 嘘をついていることは明らかだし、リーディングスキルを発動していたガイアドニスも『嘘』のサインを送ってきている。
 最も厄介なケースだ……と、カメラで状況を記録していた美咲は顔をしかめた。
 情報工作のスキルの中に、『疑心を広める』というものがある。
 その場では明らかに嘘とわかる証言を声高に主張することで強い反発をあおり、あとから記録を見た者に対して間接的な疑念を抱かせるというものだ。
 『この記録は改竄されたものではないか?』『真実が隠蔽されたのでは?』『自分達は危機にさらされていて、それを隣人は隠しているのでは』。
 そんな作戦にハマって内部崩壊した集団を、美咲はいくつも知っている。
「アミナ氏。ここからは……」
「大丈夫です」
 心理的なダメージを案じて美咲は声をかけてみたが、アミナは思ったよりも気丈にしていた。
「この人が嘘をついているなら、どんな嘘をつこうとしているのか知る必要があります。そして……『嘘をつかされている』なら、この人を救えるかもしれません」
「……」
 ノーコメント、という顔で振り返る美咲。
 ガイアドニスは『どういうことかしら?』という目で見ている。
 その一方で、紫電は尋問を続けていた。
「その僧服はどこで手に入れた?
 ギュルヴィ。ペストマスクを被った、革命派の男。そいつを知っているか?」
「アミナ様から頂いたものだ。決まってるだろう? 同志ギュルヴィのことも勿論しってるさ。革命派にいるなら誰でも知ってるんじゃないか?」
 そろそろラチがあかないと思ったらしく、ティスルがマルコフの頭を掴む。頭髪を握るような強引さで頭の位置を固定すると、魔眼を発動させ相手の目をにらみ付けた。
「これからは嘘をつかないこと。あと、しっかり説明すること。できるよね?」
「くっ……」
「抵抗しないで」
 ティスルはすかさずマルコフの鼻っ面に膝蹴りを二度ほど入れ、もう一度にらみ付けた。
「もういい」
 エッダが低い声で言い、マルコフへと近づいていく。
 彼女の目は冷たく、ナイフのように狂暴だった。
「話さないなら、もういい。私は私の満足の為に、貴様らの苦痛を以て死者への手向けとする。それが、今の、貴様らの望んだゼシュテルなのだろう?」
 拳を振り上げるエッダ、その手を、迅が素早く止めた。
「殺すのは早いです。こいつ、尋問に対する訓練を受けてる」
「……ネタばらしが早い」
 エッダは肩をすくめて腕から力を抜くと、どういうことかという顔でこちらを見ている茄子子やルブラットたちに振り返った。
「大丈夫だ。殺したりはしない。冷静だよ、私は」
 とても冷静とは思えない低いトーンでの発言に、迅がことさら心配そうな目をする。
「そんな目で見るな。別に憂さ晴らしがしたいわけではないんだ」
「エッダ殿」
「……わかった、今のは嘘だ。憂さ晴らしはしたいさ。ただしそれは軍人の職分ではない」
「さっきから、口調がずっと『エーデルガルト殿』ですよ」
「――」
 エッダは口元に手を当て。『ふむ』と顔を背ける。
「このことに怒りを燃やすのは、おそらく敵の思うつぼです。だって、これは挑発なのでしょう?」
 これがいわゆる『暴力で解決できないこと』である。
 挑発に対して平常心を保つというのは、あくまで自制であり、暴力をふるい発散することはその逆にある。
 『虐殺の実行犯を捕まえて残虐に処刑した』なんて事実ができあがれば、それこそ敵側の思うつぼなのである。
 虐殺が嘘だとしても、『革命派は残虐な行為をする』という事実を与えるようなものなのだから。
「それにしても迅殿、思いのほか冷静でありますね? こういうとき、一番怒り狂いそうなものですが」
 口調を『エッダ』に戻して問いかけると、迅はあははと笑った。
「彼らを良い肥料にしてやろうとは思っていますよ。けど……『憎しみをあおり合って戦争をさせる』なんて事件が、また起きて欲しくはないので」
 すこしばかり昔のことを思い出しているのだろうか。迅は遠い目をして言った。

 マルコフから裏を取ることは、結果としてできた。
「この男の所属は革命派ではありません。新皇帝派の軍部、参謀本部のグロース・フォン・マントイフェル将軍の命令で動いた工作員でした」
 仲間たちの引き出した情報を読み上げる茄子子。
「僧服は? 確か鑑定結果としては本物だったんだよな?」
「以前クラースナヤ・ズヴェズダーの司祭が襲撃されるという事件があって、その際に奪われたものだと思われます」
「グロース将軍の差し金でおきた虐殺……か。このことを公表するというのはどうかね?」
 ルブラットが提案してみると、茄子子はなんともいえない顔をした。
「情報は政治力と求心力によって拡散、増幅します。新皇帝派と革命派では……どうでしょうね。やや革命派が有利と言ったところでしょうか。けれど局所的な印象は、先に手を付けた方が有利です」
「つまり?」
「オースヴィーヴル領からの印象は最悪だってこと」
 茄子子は『悪魔の証明』という話を持ち出して説明してくれた。
「本当に革命派が悪でないと証明する手段がありません」
「一方的なのは好かんな……」
 ルブラットが顎に手を当てると、茄子子はご安心くださいと手を振った。
「別に対抗策がないわけじゃありませんよ。こちらの信用を破壊しようとしているなら、こちらもまた信用してくれる人間を増やせばいいのです。
 『放火された火を消す』のですよ」
 茄子子はそう呟いて周りを見回す。
 そこは虐殺の行われた廃村だった。
 ヴァレーリヤとアミナが墓を建て、弔いの祈りを捧げている。
 唯一の生存者であった男はルブラットたちに手当され、彼の証言から虐殺の間隠れていた子供が二名ほどいたことが判明。彼らにも治療が施された。
 奪われた物資はこの村へ返却されたものの、家々に放火が行われたことで村としての機能は失われたに等しい。
 このまま冬を待てば、生き残りも飢えて死ぬとも限らない。
「助けてくれたこと……感謝する。それと、すまない。
 クラースナヤ・ズヴェズダーが私達を裏切ったのだとばかり……」
「いいのです。疑うのも無理はありませんわ。あんな状況でしたから」
 申し訳なさそうに頭をさげる男に、ヴァレーリヤは優しく声をかけた。
 男には今、選択肢がある。
 ひとつはこの村に残り領内の他の集落に対して今回の真実を説いて回ること。
 もうひとつは、クラースナヤ・ズヴェズダーの難民キャンプへ身を寄せて冬に備えることだ。
 男は深く迷ったあとで、難民キャンプに身を寄せることを決断した。同じく救出された子供達の安否を気遣ってのものだろう。
「しかし……グロース将軍。本当にいやらしい手を打ってきますわね」
 ヴァレーリヤが悲しげに、祈るように手を合わせると、アミナは小さく首を振った。
「それでも、憎しみに囚われてはいけません。同志ヴァレーリヤ。
 だってそうでしょう。人は理由なく他者を傷つけたりしない。
 相手にだって、理由があるなずなのです。もしかしたら、解り合うことだってできるかもしれません」
 言われて、ヴァレーリヤは苦笑した。
 もし敵の狙いがアミナを自暴自棄にさせることなのだとしたら、それは失敗したと言えるだろう。
 彼女には私達がついている。
「今は祈りましょう。この犠牲になってしまった人々の冥福を」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 調査の結果、以下のことが判明しました

・虐殺実行犯の正体は新皇帝派の軍人である
・参謀本部のグロース・フォン・マントイフェル将軍の命令を受けている
・革命派を名乗ることでオースヴィーヴル領主と不和を起こし、協力関係を決裂させるのが目的である
・僧服や鎧は革命派を襲って奪ったものである。

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