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シナリオ詳細

<総軍鏖殺>凍れる時のように

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 フードを目深に被り、物陰へ身を潜める。
(問題はよ、あいつがここで何やってんのかってことだぜ)
 ヴェガルド・オルセン(p3n000191)は街の中心にある当局庁舎を睨んだ。
 西部の駅と港とを結ぶ路面汽車は動いておらず、家々は窓をまるで嵐でも避けたいかのように目張りで覆っている。市場にも人気はなく、露店は分厚い布に覆われたまま。
 そんな様子では、きっと街灯を付ける者も居ないだろう。
 人々はどこで息を潜めているのだろうか。

 ここ不凍港ベデクトは、鉄帝国が有する貴重な港街である。
 海洋王国や、シレンツィオに勝ち得た租界との通商、流通の要だ。
 魔種――冠位憤怒が新皇帝となってから、連絡がとれなくなっていた地域でもある。
 活気あるはずの市街地は閑散としているため、人の気配はひどく目立つ。だが普通の生活を営む当たり前の人々にとって、日常の調達などには移動という行為が必要だ。ヴェガルドが観察したところ住人は他人との接触やトラブルを避けるように、こうしてフードなどを被りこそこそと行動しているようだ。
 新皇帝による希代の悪法『総軍鏖殺』は、弱肉強食の令である。強い者は弱い者に、文字通り『何をしても構わない』。つまり欲しいものがあれば金を払うのではなく殴って奪い、気に入らない相手なら殺しても構わない。更には犯罪者にも全て恩赦が出されている。完全な無法地帯なのだ。多くの良識ある人々は新法に眉をひそめこそすれ、同時にそれを歓迎する者が居ることも知っている。新法を支持するのは何も無頼漢だけではなく、世の中に鬱屈した想いを抱いていた人すら、何をしでかすかわからない。
 さきほど貴重な小麦粉の袋を抱えていた細身の少年は、いかにも『弱そう』で『貧しそう』だ。これまでの鉄帝国では仕事を得るのが難しかったかもしれない。けれどこれからは違う。働かなくとも――少年の衣類には返り血があった――刺し殺せば食品が手に入る。それが合法なのだ。
 少年の行いが気に入らないのであれば、やはり暴力で止めるしかない。
 復讐を恐れるなら殺したほうが良いだろう。あの少年も『あんなこと』を続けていれば、いずれ――
 つまるところ、そういう世の中になっていた。

 そんな街へ現れたヴェガルドは、少々複雑な経歴の持ち主だった。
 かつてはノーザンキングスに所属するノルダインの戦士であり、小さな村の長だ。イレギュラーズとの交戦後にノーザンキングスを見限った。
 村民を引き連れて帝都へ移住し、ラド・バウ闘士として生計を立てている。経緯はさておき、それからヴェガルドはたびたびイレギュラーズへの協力姿勢を見せている。そんな人物だ。
 村民もまた皆勇敢であり、帝国軍人になった者も多い。ヴェガルドが探しているエイリーク・ラーシェンもその一人であり、彼が子供の頃から世話をしていた経緯があり、謂わば血がつながらない甥っ子のような存在なのである。
(あいつは良い子ちゃんだからなあ)
 エイリークは軍務に携わっており、ここベデクトに居るはずだ。真面目で礼儀正しく思慮深い、おまけにかなりの善人でもある。けれど上官の立ち振る舞い次第で、どの派閥に居てもおかしくはない。
 たしか諜報屋を経験した後、特殊部隊に居るという話だったが、今は何をしているやら。
 ヴェガルドとしてはどうにか連れ帰るか、あるいはイレギュラーズが協力している反皇帝派の派閥に取り込みたい所であるのだが。
(しかし参ったな、忍び込むみてえなのは、苦手だからよ)


 浮遊島アーカーシュは、鉄帝国とギルド・ローレットによって踏破された古代遺跡である。
 空中を移動出来る『空飛ぶ高原』は、ある種の軍事基地とも言える状態だ。
 帝国がいくつもの派閥に分断された中で、独立島アーカーシュを名乗っていた。
 人材自体は粒ぞろいだが指揮官を欠く所があり、方針の決定にもイレギュラーズを頼っている。
 そこでイレギュラーズは『不凍港ベデクトの調査』選んだ。
 どうにか様子を探り、新皇帝派の影響をそぎ落とし、こちら側――つまり反新皇帝派の派閥のいずれか、出来ればアーカーシュ陣営に取り込みたいというのが狙いである。
 不凍港を得ることは全ての派閥の利益となり、なおかつ他勢力は正面に敵を抱えているため、アーカーシュであれば軍事力を拠出しやすいというのがマルク・シリング(p3p001309)の提案だった。
 それにイレギュラーズはアーカーシュにワープポータルを持っており、ベデクトへの移動が容易になるということもある。
「見えてきたね」
 そんなマルクが見下ろす先に、ベデクトの街が姿を現した。
 あそこが新皇帝派の手にあるならば、今後は軍事作戦も必要になる。
 そうでないなら、どうにかアプローチをかけることになる。
 いずれにせよ、まずは少数での調査が望ましいだろう。
「街の外で私達が見張りをするわ。イレギュラーズの皆は街の中で調査して頂戴」
 軽騎兵隊を率いるリーヌシュカ(p3n000124)がそう言った。
 アーカーシュでは唯一に等しい『統率のとれた軍隊』だ。
 彼女等は、この作戦にあたりイレギュラーズがアーカーシュと地上を移動するワイヴァーンを、こっそり守ってくれるということだ。いざというときにはイレギュラーズはここへ逃げてくることになる。

 一行がレリッカ村や帝国軍橋頭堡で出立の準備を整えている頃。
 ジェック・アーロン(p3p004755)は、ふとヘザー・サウセイルという女性が気になった。
「……」
 あの人は何をしているのだろう、と。
 先ほどまでレリッカに居たはずだが、今は姿を消している。単独行動が目立つ不思議な人物だ。
 まさかベデクトへ用があるのだろうか。
 他にも気になることがある。情報屋はほとんど情報を持ち帰ることが出来なかったが、『人食い虎が出る』という噂があるようだった。
「――?」
 皆が一斉にソア(p3p007025)を見たが、彼女は首を傾げた。
 そういえばソアの妹が帝国軍人になっており、東部へ赴任しているはずだが。ベデクト方面だった気がしなくもない。今頃どうしているだろう。国内がこんな状況ならば連絡をとってもよい所だ。

 とにもかくにも。
 実際のところ、街はどうなっているか、ほとんど分かっていない。
 仮に新皇帝派の手に堕ちていなかったとしても、帝国全土がそうなっているように新皇帝派自体は存在しているはずだ。彼等は(残念ながら合法だが)秩序を乱し、普通の住民は萎縮することになる。
 他にはノーザンキングスにも近い立地から、彼等が何らかの行動に出ている可能性もある。
 不凍港を手に入れれば、ノーザンキングスの力が一気に増大するのは間違いないからだ。彼等は新皇帝派と反皇帝諸派閥との争いに対して漁夫の利を狙っている。そうでなくともノルダインのヴァイキング達にとっては、人々が秋の収穫を終えて冬に備えた今は『稼ぎ時』でもある。何をしでかしてもおかしくはない。
 そんなノーザンキングスと対峙する派閥、ポラリス・ユニオン(北辰連合)もベデクトへアプローチをはじめた。目的はかち合うことになるが、彼等は広義の味方であり、そもそもイレギュラーズが所属している。
 折り合いを付けて上手くやりたいところだ。
「それでは参りますわ」
 ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)がベデクトを指さした。
 ええと。この人、革命派だよね。
 いや仲間(イレギュラーズ)だから、よいのだけれど。

 余談はともかく、時さえ凍ったように思える街の情報を暴きあげよう。

GMコメント

 pipiです。不凍港の調査に行きましょう。
 もみじSDの『<総軍鏖殺>静寂の箱』と連動しています。
 どちらか一つにしか参加出来ません。

●やること
 不凍港ベデクトの調査。
 一言に調査といっても困ると思いますので、項目を列挙します。

・派閥の様子
 現在の鉄帝国は様々な派閥に分断されています。
 大抵は広義の味方と言えるのですが、『新皇帝派』だけは明確な敵です。
 新皇帝派は弱者を力でねじ伏せ、好き放題に振る舞っています。彼等が街にどの程度の影響を与えているかが気になる所です。これは歩き回れば確認出来るはずです。
 おそらくは残念ながら、かなり幅を利かせていると推測出来ます。
 国土全体がそんな調子だからです。

 またここはノーザンキングスに比較的近い地域でもあります。
 彼等は新皇帝派とそれ以外の派閥の抗争に対して漁夫の利を狙っています。
 そのためベデクトにも何らかのアプローチをかけている可能性があります。

・街の様子
 そもそも暮らしている人々が、どんな状況に置かれているのか分かりません。
 推測ですが通常の生活は破綻し、横暴に振る舞う新皇帝派から逃れるように身を寄せ合ったり、あるいは彼等に嫌々従っているのではないかと思われます。

・進撃経路の確認
 今後もしも大規模な戦闘を行うのであれば、どのように行うのが良いか考えなければなりません。
 そのためには地図などを入手出来るのが一番です。
 おおざっぱな地図はすでにありますが、詳細なほど良いでしょう。
 詳細なものは当局庁舎にはあると思われますが……。

・港の様子
 鉄帝国はこれから厳しい冬を迎えます。
 ここは物流の要の一つであり、物資の状況は気になるところです。
 そもそもまともに利用出来る状態にあるのかも、知りたいところです。

●フィールド
 鉄帝国東部にある、不凍港ベデクトと呼ばれる港町です。
 その名の通り、漁船、交易船、軍艦など様々な船が出入りする港を持ちます。
 いずれえの場所でも、場合によっては新皇帝派とのいざこざなどの危険もあるでしょう。
 今のところの時刻は昼前です。潜入開始時間や滞在時間は皆さんに任せます。夜のほうが目立ちにくい反面、危険は大きくなるでしょう。
 長時間を行動する場合、食料や飲料の摂取、休憩などをしないと効率が下がります。
 また最大でも二十四時間で帰還して下さい。

『当局庁舎』
 街の中心にある行政と軍事の要です。
 どのような状況であるかは、確認しておきたい所です。
 時計塔があります。

『市街地』
 どうやら閑散としているようです。
 東側は港方面、西側には駅があります。中心部には繁華街や歓楽街、官庁関係などがあるでしょう。
 住宅地などもこちら。

『郊外』
 教会、墓地、学校などがあるはずです。

『軍港』
 軍が利用しているはずの港です。
 鋼鉄艦のドックなどもあるはずです。
 そもそも利用可能か否か、状態などを確認したいところです。

『民間港』
 漁船や交易船などが出入りする港です。
 近くには工場や大型の倉庫街などもあります。
 そもそも利用可能か否か、物資の状況などを確認しておきたい所です。

●注意点
 街は広く、全員一緒に行動するならば全ての箇所を調査しきれない可能性があります。
 何人で行動するかは、皆さんの自由です。

・1パーティーの人数が多い場合
 メリット:戦闘では安全性が増します。
 デメリット:目立つことです。

・1パーティーの人数が少ない場合
 メリット:あちこち見ることが出来ます。
 デメリット:危険です。

●敵
 完全に不明です。
 新皇帝派といっても、人は人。
 出会えば即座に戦闘という訳でもありませんし……。

●人物
『氷剣』ヴェガルド・オルセン(p3n000191)
 ラド・バウ闘士であり、イレギュラーズと何かと縁がある男です。
 味方です。

『霧刃』エイリーク・ラーシェン
 ヴェガルドが世話をしていた若者で、今は鉄帝国の軍人です。
 おそらくここベデクトに赴任していると思われます。
 生真面目ですが、悩み深い所がある性格です。
 現在の派閥は不明です。
 ヴェガルドへの提案関係者であり、提案したヴァレーリヤさんの関係者でもあります。
 エイリークと面識があるかどうかは、ヴァレーリヤさん次第です。エイリークは、一時期ギアバジリカに居た時があるためです。

『セイバーマギエル』リーヌシュカ(p3n000124)
 アーカーシュとの中継点で隠れて待機しています。
 ホームポイントみたいなものです。困ったらここまで逃げてきましょう。
 アーカーシュに戻れます。

『魔女』ヘザー・サウセイル
 アーカーシュの新顔で、他人を距離を置いています。
 ハイエスタ風の名をした、自称『旅人(ウォーカー)』。
 単身ベデクトへ向かった可能性がありますが、何を考えているのか分かりません。
 ジェックさんの関係者ですが、ジェックさんにも分からないと思います。

『月虎』ウル
 ソアさんの姉妹です。
 帝国軍人ですが、現在の状況は不明です。
 人食い虎が出るという噂と関係があるのかどうかは分かりません。
 昔は喧嘩ならソア、狩りならウルのほうが腕は上でした。今は全て不明。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はD-です。
 基本的に多くの部分が不完全で信用出来ない情報と考えて下さい。
 不測の事態は恐らく起きるでしょう。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。

  • <総軍鏖殺>凍れる時のように完了
  • GM名pipi
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年11月07日 23時00分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
すずな(p3p005307)
信ず刄
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
アルヤン 不連続面(p3p009220)
未来を結ぶ

リプレイ


 暗く雲が覆った曇天。
 足元には霧が立ちこめている。
 街は静かだが、どこか必死に息を潜めたような異様な気配を漂わせていた。

(……まるで廃屋みたいだね)
 フードを目深にかぶった『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は使い魔のネズミを走らせ、壁に背を合わせた。積み上がった廃材が上手く姿を隠してくれている。この先は大通りで、覗いてみれば時折横切る人々も皆フードに身を隠している。
 路面汽車の線路上にも所々瓦礫が落ちており、現状は利用出来ていないことがうかがい知れる。
 そういえば向こう側の通りには知人が営む雑貨商があったはずだ。ちょっとしたコネクションだが、街の様子を尋ねるにはちょうど良いだろう。

 ここは不凍港ベデクトは、本来ならば鉄帝国の希望とも呼べる街だ。
 ゼフィラの後方、道を挟んだ向こう側で様子をうかがっている『天空の勇者』ジェック・アーロン(p3p004755)は思う。食料生産に期待のかかるアーカーシュ、そして海洋進出を可能としたベデクト――
 一行は手分けして、この街の様子を探っていた。
 まず全く以て、この街の状況が分からなかったからだ。元々は(今で言うところの)帝政派、つまり前皇帝や鉄宰相バイル・バイオンの息がかかった街であるはずだが、連絡が途絶していた。
 故に機動力のある独立島アーカーシュ、並びに現地と近いポラリス・ユニオンの二派閥が調査の意思を見せていた。ベデクトに対する他派閥の動向は不透明だが、向こうは向こうで帝国内の鉄道網にアプローチしているようだった。
 鉄帝国は国土が非常に広く、各派閥は物理的距離によって分断されてしまっている。それに国中のどこに現皇帝派、つまり冠位憤怒に与する者が居るか分からない状況であり、あちこちに暴徒や魔物が出現する危険な状態なのだ。だから空中神殿を経由して自由に移動出来るイレギュラーズは派閥の垣根を跨いで、鉄帝国全体に力を貸している訳だ。こうした状況においてベデクトは、地理的にも政治的にも、そして求心力的にも抑える意義が大きい。
 ふと何かに気付いたジェックは、それとなく歩き出す。
 遠巻きに尾行する相手は、多くの食料らしきバックパックを抱えた男だった。

 そんな街の重要さは、『忠犬』すずな(p3p005307)にも良く分かる。
 慎重に街を歩くすずなもまた、耳や尾などを隠していた。帝国内には鉄騎種が多く、旅人だが獣種に近しい特徴を持つ彼女としては、悪目立ちを避けたいところだった。
 ともあれ歩いてみれば、これは暴動の後だろうか。この通りには材木が散乱しており、近隣の家々は窓に木を打ち付けている。中の様子はうかがい知れない。この家には人が居るのか、どうなのかすらも。

 ストリートを幾本も隔てた先は、郊外となっている。
 霧はやや薄く、建物の間隔も広い。市街地中心部と比較すれば、だいぶ広々と感じられる。『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は背の低い木々の脇を通り抜ける。
「……失敗は出来ないね」
「ええ、そうですわね」
 ヴァレーリヤは『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)に相槌一つ。
 まずは特徴的な地形など、地理的な把握をしておきたいと考えていた。
 それにこの日はポラリス・ユニオンも同様の調査しているらしく、どうやらそこに所属するヴェガルド・オルセン(p3n000191)も来ているようだった。彼は広義で『仲間』の内だが、イレギュラーズではない。つまりヴァレーリヤやマリア達と違い地上を移動する他にない訳だから、顔を合わせる機会は自然と限られる。目的や情報を共有するチャンスは出来るだけ生かしたい。ついでに上手く合流出来れば良いのだが。
 はてさて。


 肝心の港は、街の東部に位置していた。
 分厚い雲の下で港を見下ろすようにシギが飛んでいる。
(……兵士が居るか)
 しばし黙考した『浮遊島の大使』マルク・シリング(p3p001309)は、港へのアプローチを考えていた。
 街の大雑把な様子はこのシギ――使い魔の視覚を元に、地図に起こして仲間達と共有している。後は個々に対する詳細な把握が必要だった。
 戒厳的な街の様子からすると、なんらかの脅威が存在するのは明白。
 仮に街を手中にしているのが新皇帝派とするならば、最悪の場合『攻め落とす』必要すらある。
 地の利は相手にある以上、『制圧すべき施設』『制圧目標への進軍ルート』『予想される防衛網』を具体的にピックアップしておきたかった。マルク達が所属する派閥、独立島アーカーシュ最大の武器は『ラトラナジュの火』という古代の超兵器であり、街を消し飛ばすほどの威力を誇る。仮にそれさえ必要とするほどの脅威があるならば、それも知っておきたい。
 経路については後ろに続く『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)がメモに書き起こしていた。
 どこにでも居そうな『誰か』に扮して街に溶け込む姿は、誰からも不審を抱かれまい。
 目下、気になるのは港の警備、そこに居る兵士達についてだ。もう少し言えば、指揮系統。具体的にはどの派閥に属しているのかである。
 新皇帝派であれば敵となり、他の派閥であれば広義の味方だ。とは言えどの派閥もこのベデクトと連絡がとれていない以上、総軍鏖殺による国土分断から初のアプローチとなる。ここは慎重に行きたい。
 ヨゾラとしては、もう一つ気になることがある。アーカーシュに身を寄せ、昨日姿を消したヘザー・サウセイルという女性についてだ。ベデクトに用があるのだととすれば、その目的は何か。

 しかし少なくとも暴動と略奪が発生したであろう街を眺め(なんだろう『気』で把握したのかな)、『逆式風水』アルヤン 不連続面(p3p009220)は思う。暴力というのはルールがあるから燃えるのであり、無法は法(ルール)ではない。責任のない自由など、ごめん被るというわけだ。
 そんなアルヤンは旅人の中でもとりわけ目立ちやすい。故にかなり警戒していた。同行する仲間達からも距離を置いていた。今日ばかりはガラクタ(オンボロ扇風機)に扮し、港の倉庫街へ向けて使い魔のネズミを走らせる。警備の兵士達が居る以上は、まず先行調査が必要そうだ。
 後はいざとなった場合の、少数で戦いやすい地形なども把握しておきたい。マクロな視点では既にある程度把握出来ているから、ここからはミクロに、より具体的に調べていく。これは後々にも役立つはずだ。
 マルクによれば上空からはルカ・ガンビーノ(p3p007268)やマグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)の姿も見えたということで、こちら側からすればちょうど上手い具合に手分け出来ているとも言える。

 一方で、『自在の名手』リリー・シャルラハ(p3p000955)も港の調査をしていた。
 リリーはポラリス・ユニオン側に所属しているが、当然ながら仲間である。アーカーシュ側とは(少なくとも彼女個人は)連携しており、ポラリス側の仲間にも話を通している。派閥は違えど、互いに密に連携していきたい所だ。使い魔――今日は海鳥三羽から情報を得るリリーは倉庫の屋根に一羽を止まらせる。
 警備の兵士の話を、具体的に聞いておきたかったからだ。
 耳を側立てた限り兵士達は無駄口が多い。
 度々「そばの実が入ってこない」など食べ物の話題を出してしまった時など、仲間達から露骨に睨まれているようだ。空腹を紛らわせるように、しょうもない話を続けているのだろう。
 腹の減る話などしたくもないに違いない。

 時刻は――太陽の位置がまるで分からない状態だが――把握は出来ている。
 かなり肌寒いが最も温かな時間、午後三時頃のはずだ。
 来たるべき夜に向けて、街を歩く『雷虎』ソア(p3p007025)は、とても気になることがあった。
 それは『人食い虎が出る』という、不思議な噂である。
 人を食う虎というのは確かに居るのかもしれないが、帝国中に跋扈する魔物と比べれば可愛いもの。
 ならばなぜ『噂』になどなるのだろう。
 必然的に『普通の虎ではない』可能性が高い。
 ソアは難しい事に頭を巡らせるのは、得意ではないと思う。
 だからこの噂を追ってみたい。
 これだってローレットが誇る情報屋がくれた重要な情報には違いないのだから。
(……そういえば、軍人さんになったのだっけ)
 そんな中で、ふと思い出されるのは姉妹(建前上妹分)であるウルのことだ。
 精霊種となってから銀の森を出たソアがイレギュラーズとなったように、ウルは鉄帝国の軍人になった。
 こんなご時世だ、忙しくしているだろうか。
 無事だと良いが、森で別れたきり顔も合わせていない。
 とても仲が良かったが、きっと『人間の暮らし』が楽しくて、ソアの事など忘れてしまったのだ。
 これは、仕方がない。
(ボクも今とても幸せだから分かるよ)
 けれど――

 ――あの子と話したい。

 互いに人間から学んだ楽しいことを分け合うのだ。
 二人は写し身。
 きっとまた素敵な姉妹になれるだろうから。

 ソアもまた一件の商店に目をつけた。
 たびたび一般市民であろうごく普通の人達が立ち寄り、小さな荷物(きっとライ麦粉か何か)を抱えて出てくる場所だ。情報を集めてみよう。それにいきなり軍港や何やらの話をするよりも、噂話となっている人食い虎についての話題のほうが、怪しくないと思える。

 ともあれ、こうしてまずは第一歩、不凍港ベデクトの調査が始まった。


 辺りを確認したゼフィラは、鍵のかかった厚い木扉をノックする。
 小窓の向こうから感じた視線は微かに驚いた様子を見せ、それからゆっくりと扉が開いた。
 ゼフィラはそのまま身を滑らせるように雑貨店へ入り、フードを降ろす。
「いや驚いたよ、どうしたんだい」
「ちょっと色々と調べ物にね」
「おやまあ、上がってっておくれよ。何もないけどさ」
 ともかく情報収集だ。ゼフィラにとって、胸躍る様々な未知を発見させてくれたアーカーシュには、個人的な思い入れもある。少しでも貢献しておきたい所だった。
「せめてもと思って」
「こりゃありがとう、さっそくいれようか」
「気をつかわなくて大丈夫だよ」
「そんなこと言わずにさ」
 この雑貨店の店主タチアナは、ゼフィラのちょっとした知り合いだった。
 タチアナは鉄帝国に点在する遺跡から発見される様々な品物のうち、調度品を取り扱っている。未知を探求する気質のゼフィラとも気が合い、時折連絡を取り合う仲だった。タチアナが扱う商品は生活必需品とは言いがたく、街がこんな状態では、商売あがったりだろう。大変そうだ。
 だから手渡したのは小麦の袋と少々の保存食に調味料、それから帝国人が好む紅茶だった。
 タチアナの為であったが、お茶ぐらいはということで、頂いてしまっている。こういうのは断るのも、なんか違うものだから。
 話を聞くに、どうやら街の行政機関は停止してしまっているようだ。
 予想通りというかなんというか。街では新皇帝派が幅を利かせ、暴力で物資を占有しているらしい。
 食品はそこからの横流し品を買い求める他になく、市場の一角はさながら闇市となっているとのことだ。

 そんな市場の片隅で、ジェックは商人らしき人物に目をつけていた。
 後を付けてみた限りには、どうも彼等が港の倉庫と、当局庁舎、そして闇市と化した市場の一角の流通を牛耳っているらしかった。やり取りには符丁を使い、特定ルートに大男を立たせて警備させている。
(……ビンゴ、これは覚えておこう)
 あとはこうした場所をもういくつか把握しておきたい所だ。
 多少顔を見られたとしても、勿忘草が香る頃には忘れている。
 すずなもまた街を歩いている限り、新皇帝派の数そのものは、あまり多いとは言えない気がしていた。
(覚えておきましょう)
 よくよく小さな揉め事はあちこちで起っており、口論などからそれぞれの主張も見えてくる。
 人々の立場はそれぞれ、ばらばらなようだ。
 そもそも新皇帝が発布した総軍鏖殺なる悪法を元に行動している人、その恩恵にあずかることが出来る者は限られる。一つは強く、暴力に躊躇がないタイプ。もう一つはこれまでの不遇を犯罪的行為でひっくり返したい弱者だ。彼等とて新皇帝を信奉する者も居れば、単に状況を利用しているだけの者も居る。
 他の普通の人々は単に、現状を余儀なくされているに過ぎない。
 限られた流通を牛耳る商人とて、新皇帝派と言える者も居れば、そうしなければ生きていけないというだけの人も居るのだろう。
 新皇帝派とみられる粗暴な男に従いながらも、その背に向ける憎悪の視線を隠さない者すら居る。
 逆に言えば新皇帝派に従う者も、全く以て一枚岩ではないということだ。
 それはこの街に限った話か、それとも帝国全土がそうなのかは分からないが。少なくとも現状の観測範囲においては、新皇帝派に大きな隙はあると判断出来る。
 そんな事を考えながらも、すずなが苛立っているのは、見たくない光景を目の当たりにしたことに起因している。学童とおぼしき小さな子供が数名、大男の後ろで荷運びをさせられていたのだ。表情は暗く、何より足首から鉄の塊を引き摺っている。逃げ出してもすぐに捕まえるためだ。まるで奴隷扱いである。
(……今は我慢の時)
 言い聞かせるように場を離れた。ここで騒ぎを起こす訳にはいかない。
 今後につながるよう、今は全力で調べあげるのだ。

 港方面でも、あちらこちらへ慎重に足を運ぶヨゾラは、かなり詳細な様子を掴むことが出来ていた。
 警備はやはり、軍港や倉庫を中心としているようだ。
 船の出入りはなく、停泊している船舶に人の出入りはない。
 つまり港は健在だが機能していない状況を示している。食料や物資が限られてしまうことを意味する。
 シレンツィオに帝国籍の船が入ってこなくなっていた事からも推測していたのだが、実際に目の当たりにすると、現実はなおさらに重い。
 行政は一体何をやっているというのか。
 仮にこの地を支配しているのが新皇帝派だとしても、貿易を止めては元も子もないだろうに。
 ライフラインを絶つなど、愚の骨頂ではないか。


「あんたも居たのか。するってえと、他の連中もだな」
「ええ、協力出来るはずでしてよ」
「そいつぁありがてえ」
 物陰へ隠れたのは、ヴェガルドとヴァレーリヤだ。
 まさかこんな場所で見知った顔を見かけるとは。
 ポラリス・ユニオンに所属するヴェガルドも知りたいことがあるのだろう。
 向こうも今頃、この街を調査しているはずだ。
「ヴァリューシャ、あの先は大丈夫みたいだよ。おやヴェガルド君じゃないかい」
「おう、あんたらがいりゃ百人力だ。俺もツいてるもんだぜ」
 ちょうど上空を偵察していたマリアが戻ってきた。
「あちこちを警備してるってよりも、要所要所だけって感じだね」
「なるほどねえ、とにもかくにも冬備えはメシの確保ってこった」
「どこも違いありませんわね」
 空というのも見つかる危険はあるが、この分厚い雲と霧ならばかえって安全とも言える。
 郊外は所々が荒れ地になっており、地上ではふいに姿が目立ってしまうこともあるから、先んじてルートを選定する必要があった。
「そういえば街にノルダイン風の人が居たけど、知り合いだったりするかい?」
 ノルダインの民は長髪が多く、特徴的に編み込んだ髭からもすぐに分かることが多い。
「いや、心当たりはねえな、なあんか企んでやがんのかもな」
 ベデクトはヴィーザルにも近く、居ること自体はおかしくはない。
 ないのだが、どうもヴェガルドはその動向を全く把握出来ていないようだった。
 ともあれいくばくか進むと丘の教会と、いくつかの農家が見えてくる。
「……こんなこと、いえ。どうにかしなくては」
 ヴァレーリヤが胸を痛めたのは、これみよがしに開け放たれた貯蔵蔵を見たからだ。
 この時期であれば暗所で南瓜あたりを貯蔵しているはずであるが、まるで見当たらない。
 冬の貴重な食料であるはずなのに。
 そして『からっぽ』であることを、わざわざ見せびらかす理由なんて知れている。
 何かあると思われれば襲われ、襲った挙げ句に何もなければ憂さ晴らしされるに決まっているからだ。
「ヴェガルドも何か分かると良いですわね」
「そうさな」
 ヴェガルドはどうやら、同じ村出身のエイリークという青年を探しているらしかった。
 村長のような役をしていたヴェガルドにとっては、血のつながらない甥っ子のような存在らしい。
 村ごとスチールグラードに引っ越した後で、帝国軍に入ったようだ。そして今はこのあたりに赴任しているはずだった。目的は安全を確かめることのほかに、出来れば『こちら側』に取り込みたい思惑もある。
「そろそろ戻ろうか」
「そうですわね」

 陽光は見えないが、日も暮れてくる時間帯だった。
 辺りは徐々に暗くなってきている。足元にもやつく霧も、やや濃くなってきた。
 すっかり長話に付き合わされてしまったゼフィラだったが、タチアナの気が少しでも紛れてくれたなら幸いだ。こんなご時世では、心が休まることなどないだろうから。
「あんたらも大変だろうけど、また来とくれよ」
「もちろん」
 とはいえだいぶ現地の住民の、生の声を聞くことが出来た。
 情報を共有しておこう。

 一行は市街地中心部の裏方に、セーフハウスを準備していた。
 手配したのはマルクだ。そろそろ集合する時間となっている。
 布にがらくた――もといアルヤンをかついだマルクが、そっと中へと入る。
 仲間達もまた時間をずらし、道を変え、何食わぬ顔で一件の家へと入っていった。
 大丈夫だ――ゼフィラが振り返る。後はつけられていない。
 先程、あらかじめポラリス・ユニオン側と連絡をとったリリーは、当局庁舎に潜入する時刻、その際の陽動などについてマルクや、あちら側のベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)達と調整することが出来ていた。上手く連携したいところだ。それからリリーは兵士達が新皇帝派の指揮系統にあったことなどを告げ、一同はやはりといった表情で神妙に頷いた。
 新皇帝派の影響は、やはり大きいというのが、すずな等一行の共通見解だった。
 続けてソアが告げたのは、人食い虎の噂についてだった。やはり魔物とは違う。そして――じくりとソアの胸の奥に何かが爪痕を立てる――その虎は『白い』らしいのだと。
 誰かがマリアをちらりと見たが、白虎やとらぁ君はありえない。
 これが人食いでなく『やたら人懐こく付いてきた』とか『プロレス技を仕掛けた』などであればまるで話は違ってくるのだが、当然トラチェックするまでもなく、そんな訳はなかった。
「軍港はかなり警備が厳しかったっすね」
「民間の港のほうも同じだったよ」
 アルヤンにマルクも頷く。
 港への潜入は余りに危険と思えた。だがアルヤンがどうにか中を見た限り、軍艦も失われてはいない。
 ということは、船は動いていなかったが港の機能そのものは失われていないとみるのが妥当だ。
 この街を奪い返す希望と、同時にその必要性が見えてきたことになる。
「ノーザンキングスっぽい人達が居たよ」
「ああ、ありゃ間違いねえな」
 リリーの言葉に、いつの間にかしれっと混じっているヴェガルドも応じた。
 どちらもヴィーザルを睨むポラリス・ユニオンの人員だ。いろいろな意味で、情報は共有しておきたい。
 漁夫の利を狙う第三勢力であるノーザンキングスとしても、国内がこんな情勢となっているならば、不凍港を奪いたいのかもしれない。最悪の場合、三つ巴の戦いになる可能性があるということだ。
「あ、そうだ。居たって言えば。見たよヘザー。ヘザー・サウセイル」
 ジェックがぽつりと零す。
 アーカーシュから姿を消した『新入り』は、やはりこの街に居るようだった。
 あちこちを調べていたジェックは偶然にもヘザーを見つけ、少し付けてみたのだ。
 するとヘザーは当局庁舎へ入っていったということだ。ごく自然に、堂々と、真正面から。
 一行の推測では、庁舎自体は新皇帝派の手に渡っていると考えられている。
 ならば少なくともヘザーは、関わりがあるということだ。
 ひょっとしたらアーカーシュ内部にも、なんらかの繋がりが出来てしまっているかもしれない。
 歯車卿やリチャードなど、信用出来る者と話をつけておいたほうがいいだろう。
 それからヨゾラが港方面の地図を広げる。一行は各々の地図を照らし合わせ、地理や重点的に知りたいポイントなどを共有していった。
 後は当局庁舎から詳細なものを入手出来れば良いが。
 そんなこんなで、小一時間の休憩を挟む。
 温かな飲み物で喉を潤し、少し目を閉じる。
 夜は長いのだ。万全な状態で挑みたい。


 休憩を終えたなら、いよいよ本丸の調査だ。
 市街地は何やら騒然としているよう――間違いなくポラリス・ユニオンチームの陽動だ――で、庁舎からも人員が飛び出していった。好機だ。それに今すれ違ったのはリースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)のようにも思えた。あちらもあちらで潜入するのであれば敵も分散せざるを得ない。安全性が増すということになる。ならば、善は急げ。

 辺りはガス灯が消えたままで、所々に篝火のようにドラム缶で火を焚いている。
 都市のインフラが悉く崩壊してしまっているのだろう。
「何だお前は」
 裏口から建物に侵入した所で、職員に呼び止められた。
「ごめんごめん、ちょっと忘れ物を取りに来て」
「なんだ、早く済ませろ。市街地で騒乱の気配があるから注意しろよ」
「ありがとう」
 瞳を不思議な色彩で輝かせたマルクに、職員は突如態度を軟化させた。

「……とても正規の職員には見えなかったね」
 通路を曲がり資料室に侵入したマルクが呟く。
「ええ、酒臭かったですわね」
 ヴァレーリヤの述べた通り、明らかに暴漢上がりだ。新皇帝派の手合いだろう。
「なんだか探検みたいだね」
「ふふ、意外と楽しいものですわね」
 マリアに頷き、ヴァレーリヤは目星を付けた木箱をこじあける。
「地図だね」
「ええ、ひとまず目的は果たせましたわ」
 あとはどうやって戻るか。
 庁舎の内部は荒れており、そこかしこに酒瓶が転がっており、少々饐えた臭いがする。
 食べ物を包んでいたであろう新聞紙の山の中では、鶏肉の骨のまわりにネズミが集まっていた。
 相当粗雑に扱われているに違いない。
「ったくよう。不潔ったらねえぜ」
「貴方も相当ですわよ」
「俺はほらよ、この通りきれい好きだぜ」
 耳をほじっていたヴェガルドが、指を壁になすりつけた。
 そんな時――
「そこに居るのは誰だ!」
「――!?」
「おま、エイリークじゃねえか!」
「ヴェガルドさん、それにヴァレーリヤ司祭様……」
「お久しぶり、貴方の婚礼で司式をして以来ですわね」
「ここで何をしているのですか」
「ええ、観光ついでにお土産を探しに……なんて。察しての通りでしてよ」
「……ならば見逃す訳にはいかない」
 エイリークが剣を抜き放つ。
「おまえ、テメエのやってること分かってんのか?」
 ヴェガルドもまた剣を抜き、一歩前へ出る。
 同時に一行も油断なく得物を構えた。

「侵入者発見、直ちに援護を求む!」
 言うや否や、エイリークが踏み込んだ。
 鋭い斬撃を避け、マリアが拳を叩き込む。
「軽く浅い!」
 第二撃――けれど。
「ぐ、これは……なるほど長期戦は不利になると」
「察しがいいね」
 現状は四対一、さしものエイリークと言えど数も力量もイレギュラーズが上回る。
 だが向こうに援軍が来れば話は違ってくるだろう。
「理由を伺ってもよろしいですか?」
 マルクが述べた。
 理知的そうなエイリークが、新皇帝派に与するのはなぜか、そこが気になる。
「軍人というものは、指揮系統あってこそなんですよ、例えそれが……こんなものでも!」
「そう思えるならば新皇帝派の治世が正しいとは、貴方も思っていないのでしょう?」
 ヴァレーリヤの問いに、エイリークは苦い表情をした。
「誰かが橋渡しをせねば街の人々は生きていけない」
 エイリークの言う通り、街の物資は新皇帝派に牛耳られている。誰かがそれを闇市へ流す手伝いをしてやらなければ、生活は立ちゆかない。
 エイリークは今日も浪費されたであろう残飯を革靴の底で憎々しげに踏み潰した。
 新皇帝派の暴漢達は、ずいぶんたらふく食っているのだろう。
 この先――冬のことなど何も考えずに。
「……このまま退いて頂けませんか」
「ええ、それは――」

「何をしているの? はやく殺しなさい」
 エイリークの背後、暗闇から女の声がした。
「ヘザー・サウセイル……」
「あら、まあ。嫌な顔合わせですね。もうあそこには戻れなくなってしまったではないですか」
 姿を見せたのは、兵士達を引き連れたヘザーではないか。
「やはりそちら側」
「仕方ねえ、ずらかるか。おいエイリーク! 気が変わったらいつでも来いや」
「……」
「特務派や、ギア・バジリカにいる村の皆のこれからが、この調査に掛かっていますの」
 それだけは、伝えておかねばならなかった。
 四人は踵を返し、脱兎のようにその場を後にする。
「追いなさい!」
 そしてヘザーは兵士達へ振り返った。
「人食い虎を使うのです」
「は! しかし味方にも被害が生じる恐れが」
「聞こえませんでした?」
「は! ただちに!」

 そしてゆっくりとした足取りで庁舎を後にしたヘザーは一人、暗い曇天を見上げる。

 ――エイリークの処分を検討しなければなりませんね。

 それに憎きノルダインの血など、遅かれ早かれすべて絶やすまで。
 ヘザーにとっては早いか遅いかの違いでしかないのだから。
「ですよね、ターリャ」
「帝国も同じでしょ。全部殺し尽くしてあげるから」
 薄桃色の髪をした少女が闇から浮かび上がり、微笑んだ。


 騒然とした市街地の一角では、屋台に人集りが出来ていた。
 今駆け抜けていったのは、レイア・マルガレーテ・シビック(p3p010786)とジルーシャ・グレイ(p3p002246)に見えた。あちらも上手くやっているらしい。
 屋台では、すずなが木のカップに注がれた酒に、口をつけている。
 何も遊んでいる訳ではない。酔った人の口は軽くなるものだから、こうして溶け込めば情報が聞き出せるはずだ。たとえばこんな風に。
「でよ、ほんとクソなんだぜ。あの連中」
 眼前の男が大げさな身振りで怒りを表す。
 すずなに話し込んでいるのは、鉄騎種の大男だった。語られるのは新皇帝派の横暴なやり口だ。
 なんでも友人の子が奴隷にように使役されているとかで、おそらく昼に見た子供達だろう。
 男は気に入らないといった様子で、机代わりの木樽を殴りつけた。
 商工会に顔が利く人物で、新皇帝派への嫌悪が見てとれる。
「それにあの野郎共、殺しやがったんだ。政務官をよ、やりたい放題だぜ」
「……」
 この男なら大丈夫だろう。
「まだ具体的な時期までは確定していませんが、新皇帝派を追い出す計画を画策しています」
 すずなは思い切って打ち明けてみた。表向きには、あくまで声は抑えて、まるで世間話のように。
「よろしければその際は協力頂けませんか」
「そいつはありがてえ。分かった、こっちもどうにかしてえと思っててよ」
 男は何人もの『反皇帝派』と密会しているらしい。
「けどよ、話しずれえったらねえよな」
 だがどこに新皇帝派が居るか分からず、互いに疑心暗鬼となっている状態だという。
 安易にぺらぺらと吹聴されるよりは、よほどマシとも言えるが。
 ともあれこの分であれば、協力者となりそうな人物は数多く居そうだ。
 こうした市井の『本音』が聞けたとなれば十分な収穫だろう。
 同じく市街で人の集まる場所を重点的に調査していたジェックと、視線が合った。
 すずなとジェックは互いに目配せし、歩き出した。
 遠くに見えるあの後ろ姿は、ヘザー・サウセイルではないか。
 それになぜ兵士達を引き連れているように見えるのか。
「あれって」
「ええ、当局庁舎班です」
 さらにその遠くに見えた仲間の姿を確認し、二人は頷きあう。

 ――嫌な予感がする。
 ソアもまた、どこか騒然とした市街地を探索していた。
 毛が逆立ち、胸がざわめく。
 今頃は仲間達が庁舎へ潜入している頃だが、果たして。
「ソアちゃん?」
 ふいに、声がした。
 フードを降ろし、駆け寄ってきたのは――
「ウルだ!」
「会いたかった!」
 軍装に身を包んだ少女が、ソアの胸へ飛び込んできた。
 くるくると舞うように、互いにぎゅっと抱きしめ合う。
「無事だったんだね」
 くりくりと首元を擦り付けてくるウルと体温を分かち合った。
「うん、ソアちゃんも無事でよかったよ」
 けれど心の奥底に、冷えた楔が打ち込まれたようにも感じられる。
「安全なところがあるんだけど、一緒に居ない?」
「安全なところ? もちろん、ずっとずっと一緒に居よ」
 その瞬間、視界の端でウルの牙が煌めいた。
「……どうして」
 思わず両手で突き放したソアの眼前で、ウルがうつむく。
「ソアちゃん……本当に人間らしい行為って、何だか知ってる?」
「……」
「一番人間らしい行いはね……戦争(ともぐい)だよ」
 ソアを見つめる熱っぽい瞳は、狂気さえ帯び――
 その時、マルク達が走ってくるのが見えた。
 多数の兵士達がその後を追っている。
「逃げるよ!」
 騒ぎが大きくなりはじめている。致し方ない。
「絶対に迎えにくるよ」
 後ろ髪を引かれる思いでソアは背を向けた。
「……うん一つになろうね、ソアちゃん」
 ほっぺも、おむねも、おめめも、爪も、お腹の中も――

 ――全部たべてあげるから。

 現れたリリーの先導でソア達は市街地に背を向ける。
「殿は任せるっす」
 アルヤンが放つ突風に、兵士達が転げた。
「こっちだよ」
 地図を把握しているヨゾラが手招きして、通路を指さす。
 街の外ではリーヌシュカが待機しているはずで、そこまで逃げることが出来ればゴールだ。
 混沌の波動を放ち兵士を足止めしたヨゾラもまた、一目散に駆けだした。
 あとは脱出だけだ。収穫できた情報はかなり多い。
 街は新皇帝派に牛耳られていること。
 港のは破壊されていないが、封鎖状態であること。
 軍艦は無事そうなこと。
 街には物資が入ってきておらず、不足しはじめていること。
 暴動などの争いの形跡(おそらく新皇帝派との抗争の痕も含まれる)があること。
 街の人々自体は、おそらくおおむねイレギュラーズに好意的であること。
 警備は主に港と庁舎とに分かれていること。
 ヘザーは新皇帝派に与する存在であること。
 アーカーシュに現れヘザーと接触していた者も疑わしいかもしれないこと。
 貴重な食料が新皇帝派に浪費されつつあること。
 おそらく噂の『人食い虎』は、ウルであること……。
 新皇帝派の中にも、エイリークのように嫌々従っているだけで新皇帝を嫌う者が居るであろうこと。
 それから――帝政派、つまりヴェルスやバイル派の代表的役人が殺害されたこと。
 奪還作戦はポラリス・ユニオンとの合同となるだろう。話を詰めなければなるまい。

 夜の街を一行は走る。
 東西、街の門から港までを一直線に貫く止まったままの路面汽車の路線を踏み越え、南部の小さな門から外へ飛び出した。
「こっちよ!」
 ワイバーンを駆るリーヌシュカが現れた。
 その後ろから、イレギュラーズを乗せてきたワイバーン達が急降下を始めた。
「収穫はあった?」
「もちろん、沢山ね」
 風を切り地面すれすれを滑空した一体にマルクが飛び乗った。
「おいおいおいおいおい、空はよしてくれおいおい!」
「四の五の言わずにお乗りなさい、それでも戦士ですか」
「ふざけんなよ坊さん!」
 ワイバーンの背に乗り、大空に舞い上がるヴェガルドが悲鳴を上げた。
(ヴァリューシャ、あまりにも可愛い)
 マリアのワイバーンもまた、翼をはためかせる。

 眼下では数名の兵士達が、悔しげに腕を振る。
 まずは一路、アーカーシュへ戻ろう。
 すべてはそれからだ。

成否

成功

MVP

すずな(p3p005307)
信ず刄

状態異常

なし

あとがき

 依頼お疲れ様でした。

 MVPは面白いアプローチで情報を掴んだ方へ。
 連動シナリオ<総軍鏖殺>静寂の箱とは、時系列を合わせています。
 あちら側の人達も、ちらっと登場していたり。参加排他シナリオならではですね。

 それではまた、皆さんとのご縁を願って。pipiでした。

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