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シナリオ詳細

<総軍鏖殺>ブランデン=グラードの遺路

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ラド・バウは帝都に存在する鉄帝国の象徴である。
 故に、敵対勢力とされる新皇帝派は目と鼻の先であり、他派閥と比べ周辺の危険度が突出しているのも確かなのだろう。
 それでも現状を保てるのは闘士達が顔を揃えているからである。
 ランク戦を勝ち抜いてきたイレギュラーズ――そして、ガイウス・ガジェルドを始めとした鉄帝国が誇るファイター達。
 日常の象徴として日々、ランクマッチや団体戦を行ない恐怖に打ち勝つべくラド・バウはラド・バウたる存在を帝都の民に知らしめる。

「ああ、もう。アッチの箱って何が入ってた? 仮設住居の足しになるかしら!」
 帝都に存在する以上、民の受け入れは必須である。
 腕自慢は自警団として。その他は炊き出しや仮設住宅の設置、子供の世話を。分担し独立都市が如く生活基盤を整える。
 ハゲたネイルに少し傾いた睫。化粧もヨレて来たビッツ・ビネガーの叫び声がラド・バウ内に木霊する。
「あれはダンベル」
「テントを抑えるのにでも使って頂戴」
 せっせと荷物を運ぶパルス・パッションにビッツは指差し指示をする。何だかんだで世話焼きな性格が此処に役立っているのだろう。
「イレギュラーズが運んできた木材で何か作ろう」
「あら、スースラ。アンタそんなことも出来るの?」
「為せばなる」
「その不器用な手先で出来たなら教えて頂戴な」
 刺々しい口調で言い放つビッツにおおらかに頷いたのはスースラ・スークラ。ビッツ・ビネガーその人の同期でデビューしたファイターであり怪我で引退してからはラド・バウの整備担当者である。
「アタシはイレギュラーズ達の『鉄道』の相談に乗ってこなくっちゃならないから此処は任せるわよ?」
「ふぁーい」
「何食べてんのよ!」
 差し入れを頬張りながら返事をするパルスに「はしたない!」と声を荒げるビッツ。彼はイレギュラーズが拠点であるラド・バウに物資を搬入する為に鉄道拠点の確保を目標にしている事を耳にして攻略の為の『作戦会議』の場を用意したのだという。
「ビッツ。鉄道と言えば、帝都付近は新皇帝派閥の動きも見られるだろう? 危険も付き纏う」
「そうね、そうだわ。けど、『どこまで』彼方がアラしているかは分からないもの。確認するのは悪くは無い筈よ」
「……そうだな。為せばなる」
「そのポジティブな口癖、素晴らしい言葉だと思うわよ。アンタが釘を10本ムダにしてなけりゃね」


「それで、ラド・バウが使用できそうな駅は何処に当たる」
 議場となったのはラド・バウの使用されていない給湯室であった。湯を沸かし薬草を煎じて作った茶を用意しているビッツの背中に郷田 貴道(p3p000401)は静かに問い掛ける。
「幾つかあるわ。『レブンディン』『シュノー・フールミ』……どちらもアタシとパルスが確認しに行ったけどボロボロね。
 後は……『ブランデン=グラード』。此の辺りじゃ一番大きな駅ね。
 そちらはまだ調査できてないわ。
 此の辺りの鉄道網を確保してるのは『アラクラン』って連中のようだけれど、早期に抑えておこうと考えるのは敵ながら天晴れね」
「……敵を褒め称えている暇がないのは確かだが、何処から調査を始めるか」
 渋い表情を見せる三鬼 昴(p3p010722)に仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は頷いた。
 ビッツの言が確かであれば駅に向かえば無数の魔種達と相対する可能性もある。ビッツやパルスが『様子見』だけを行なったのは彼等の実力を持ってしても戦闘に移行する事に不安を覚えたからだろう。
「魔種相手に少数での調査は不安が残る。かと言って、徒党を組んで攻めこめば――」
「次に狙われるのは『本拠地(ラド・バウ)』だろう」
 冬越 弾正(p3p007105)に「詰んでるじゃないですか」とルトヴィリア・シュルフツ(p3p010843)はげんなりとした表情を浮かべた。
「ミー達が駅を掌握するためには調査から始めるべきであるのは確かだ。
 一朝一夕で手に入るモンじゃないだろう? なら少数で叩ける場所を狙うしかない」
「少し脚を伸ばすとなっても駅が魔種に占拠されてるなら物資を運んできたら横取りされるんじゃ?」
 ルトヴィリアに「そうだろうな」と貴道は頷く。議場に冷たい沈黙が落ちたが――

「失礼、ビッツはいるだろうか」

 顔を出したのはスースラであった。彼は歪んだネクタイを気にとめずボロボロになった布を小脇に抱えている。
「仕方が無い話しではあるのだが、ビッツのブランケットを洗濯しようとしたら転んで穴を開けてしまった」
「良いわよ。アンタは転ぶと思ったから予備の予備を渡したんだから。今はそんな話をしてる場合じゃないのよ」
 帰った帰ったと掌をひらひらと振って彼の帰還を促すビッツ。これ以上の議論は難しいかと誰もが考えたとき、スースラは問うた。
「すまない。一つだけ良いだろうか。
 ビッツ、『ブランデン=グラード』はどうだ。
 確かに、レブンディンもシュノー・フールミも最寄りではあるがそちらよりも中央駅の方が制圧するに適している気がする」
「嗚呼、確かにそうね。……けど、帝都の物資搬入にも使用されている駅だわ。新皇帝派も流石に……」
 スースラは頷く。流石に其方にも目を付けているはずだ。だが、其方を手に入れることが出来れば帝都に搬入された物資を得ることが出来る可能性さえある。
 寧ろ、『ブランデン=グラード』は帝都各地の路線が集結する中央の駅である。
 そちらを手に入れておけば、今後は物資を入手する際の拠点としても使用できるはずだ。
「少数精鋭で調査に赴き必要な戦力規模を推察するしか有るまい」
 汰磨羈は言う。まだ調査も手付かずなブランデン=グラードの現状を急ぎ把握しておくことも必要だろう。
「あと、これは噂なのだが……」
「噂でも良いですよ。何かの助けになるかもしれませんし」
 ボロボロのブランケットを眺めていたルトヴィリアにスースラは頷いた。
 これはラド・バウへの避難民達の話しだ。彼等の中には炭鉱夫であった父や祖父を持つ者も居る。
 今は海洋に友好の証として貸与されているバラミタ鉱山で働いていたという彼等は遠い先祖と呼ぶべき存在や曾祖父が帝都の鉄道開拓に協力していたことがあるのだという。
「その為に地質調査の為に古代兵器が埋まっていないかを確認する穴を掘った事があるらしい。
 丁度、その始点がブランデン=グラードだったという。調査に協力する鉱山夫達がその当時は帝都の民であったからだろう。
 鉄帝国の土の下には古代兵器が多く埋まっている事から危険性がないかを調べたのだろうな」
 余談ではあるが然うして幅広く国土内の調査をしてバラミタやヴィーザルに行き着いた可能性もある。帝都の地下に歴史あり。
 避難民達はラド・バウ派として活動し保護をし続けたイレギュラーズの力になりたいと噂話程度でも話しを寄せてくれたのだろう。
「地下通路」と目を光らせたのは貴道。昴は「何処に繋がっているのだろうな」と顎に手を当て悩ましげに呟く。
「……その地下通路を利用して物資を運べるとしたら?」
 弾正の問い掛けに「それだ!」と汰磨羈が手を打った。
「駅の現状把握。そして、調査通路の場所や使用意図を把握しよう。何かの役に立つはずだ」

GMコメント

 ラド・バウの方針決定『鉄道調査』を受けてのシナリオとなります。

●目的
 ブランデン=グラードの調査

●ブランデン=グラード
 このシナリオはあくまでも調査段階です。当シナリオだけで制圧が完了するのは難しいでしょう。
 非常に広く、各地に存在する路線はこの場所に集結するという帝都の中央駅。
 帝都に存在することでラド・バウから見て最も近い巨大な駅がこの中央駅『ブランデン=グラード』となります。

 通常時には物資搬入にも使用されていました。それ故に、新皇帝派閥(アラクランなど)が入り込んでいることは想定されます。
 少数精鋭で内部を調査し、制圧する為の現状把握を行ないましょう。
 例えば、駅構内の構造、割り当てられている戦力把握などなど。
 班を分けても、全員でも。自由に探索してみましょう。
 また、皆さんの活躍で『保護された避難民』が何かの足しになればと古い話を教えてくれました。

●潜入
 潜入タイミングは指定できます。ただし、1日以内での帰還を心掛けて下さい。探索時に持ち込める荷物には限りが有ります。
 非戦闘スキルなども駆使して自由に活動を行ないましょう。
 何処に重点を置くのかを決定し、調査を行なって下さい。取捨選択は必須でしょう。
 全般に幅広く調査を行なう場合は調査時間が少なくなり、得られる成果に影響を及ぼす可能性があります。
 また、明確な敵は『新皇帝派』です。魔種や魔物などが該当します。

 ・調査用地下通路
 ブランデン=グラードより調査を行なったとされる地下通路です。あくまでも「ひいじいちゃんから聞いた」程度の話しです。
 何処にあるかは解らず、この通路がある事を信頼するならば探索を行なう必要があります。
 炭鉱夫達が地質調査や出土する古代兵器の危険性を鉄道を引く前に調査したという話しが残されているそうです。
 それは鉄帝国の開拓時代での話しではありますが、何らかの役に立つ可能性もあります。

 ・駅構内
 内部の確認などを行って見て下さい。魔種や魔物が多く入り込んでいる可能性もあります。
 物資なども残されているかは確認することが出来るでしょう。状況次第では絶望的かもしれませんが……。
 戦闘を避けながら現況を把握する事をお勧め致します。敵の領域である可能性が非常に高いです。

 ・駅周辺地域
 スチールグラードの中央市街付近です。此方ももれなく新皇帝派の領域です。
 目立った行動は控えながらも歩き回ってみても良いかもしれません。
 取り残されている民がいる可能性があります。彼等を保護することもまた重要な仕事かもしれませんね。
 
●同行NPC
 ・ビッツ・ビネガー
 ・スースラ・スークラ
 ラド・バウS級闘士であるビッツと彼の同期で元ファイターのスースラです。
 基本的には『本当に危険になった際』の逃走支援(殿)を務めるつもりのようです。
 ビッツとスースラがタッグを組んで二人で戦っても駅制圧は厳しいと彼等は認識しています。
 現状では、余り目立った行動をするのも吉ではないからです。
 ※ビッツは変装(男装)をしています。スースラは何時も通りです。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●情報精度
 このシナリオの情報精度はD-です。
 基本的に多くの部分が不完全で信用出来ない情報と考えて下さい。
 不測の事態は恐らく起きるでしょう。

  • <総軍鏖殺>ブランデン=グラードの遺路完了
  • GM名夏あかね
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年11月07日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
冬越 弾正(p3p007105)
終音
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
セレナ・夜月(p3p010688)
夜守の魔女
三鬼 昴(p3p010722)
修羅の如く
ルトヴィリア・シュルフツ(p3p010843)
瀉血する灼血の魔女

リプレイ


「Sランクであっても不安を覚えるとはな。半ば、魔窟と化してないか?」
 ラド・バウの敷地外――詰まりは帝都スチールグラードへと踏み出した『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)の言葉に、機械化した金色の眸の焦点をきゅるりと合わせて『Sクラスの番人』ビッツ・ビネガー (p3n000095)は笑った。
「いやね。『倒すだけ』なら出来るでしょうよ。何れだけ闘技場で強くったって実践は違うわ。
 相手はアタシ以上にセコい手を使うし、アタシの事情なんて知らないでしょ。アタシはラド・バウの現時点での責任者よ」
 ガイウスに押し付けられた役目でも、自身が柱であることをビッツは理解しているのだろう。
 目を細めて笑った彼に汰磨羈は「怪我を負う危険性があると認識しているワケか」と頷いた。
「ええ。怪我なんてしたらいざって時に困るからね。だからアンタ達の出番なのよたぬきちゃん」
「汰磨羈、だ……まぁ、虎穴に入らずんば虎子を得ずだ。慎重に、そして確実に成果を得ようじゃないか」
 ラド・バウ派は敵陣真っ只中に存在している。針の筵ではあるがラド・バウが有する闘士達の実力のお陰で日々を穏やかに過ごすことが出来て居るのだ。
 S級闘士として其れなりの名が売れている事と、この惨事で司令官になることは別だ。ビッツの性格上は望んでのことではないのだろうが、この惨状ともなれば憂き身を窶す必要性を感じていたのだろう。
「チカラで解決できないのは面倒だが、そいつは後の楽しみに取っておくぜ。
 何も雲を掴もうって話じゃねえ、是が非でも見つけときたいところだ」
 辿り着くのはブランデン=グラード。鉄帝国帝都中央駅の名で有る。『喰鋭の拳』郷田 貴道(p3p000401)は拳を打ち付け、腰に下げた刀を所在なさげに見詰めていたスースラ・スークラを振り返る。
「ミー達は手分けして駅周辺の付近を捜索後、二班に分れることにする。ビッツは駅の構内を、スースラは地下通路……ミーと一緒だ。OK?」
「ああ。宜しく頼む」
 頷いたスースラに貴道は「頼りにしてるぜ」とその肩を叩いた。ビッツとスースラは同期で互いに鎬を削る相手であったと言う。不慮の怪我で闘士を退いたと聞いているが実力はある意味でお墨付きなのだろう。
「武に訴えられないのはこの先に何があるか分からないから……か。
 すぐに奪取出来ればそれに越したことはないのだろうが、下手を打ってラド・バウが攻められては本末転倒だな。今回は情報収集をメインにして次に繋げるとしよう」
 案外、その次は早く来そうだと『優穏の聲』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)は駅周辺に住民の影などが残っていないかと見回した。
 出来うることならば全員を避難させたいが、誘導に手を取られる他、目立ってしまえば逆効果となる。今回は聞き込みだけに止めるのが最善か。
「……」
 相変わらず所在なさげなスースラに『残秋』冬越 弾正(p3p007105)は「ティッシュは持ったか? ちり紙は? あと鼻紙も必要だな?」と世話を焼く。
「紙か。紙は――ぶわぁっくしゅん」
「ほら! 言ったこと!」
 指差すビッツに「少しは静かになさい」と『雨宿りの雨宮利香』リカ・サキュバス(p3p001254)が肘で小突く。幾らラド・バウ闘士と言えどもビッツが言う通り『実践と試合』には大きな違いがありそうだ。特に、潜入作戦となれば――今から不安が胸に過って頭痛がしてきそうである。
「ハンカチも持たせた方がいいんじゃないか?」
「ああ、そうだな。スースラ殿。ハンカチとちり紙はきちんとポケットに入れておいてくれ」
 弾正と『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)に世話を焼かれながらもスースラは耳を緩やかに動かした。
 出発前のことだ。弾正は人命救助を出来うる限り行ないたいと考えていた。ゲオルグが危惧する逆効果にならない程度に対応しておきたいのである。
 聞き込みを行なうともなれば周辺の状況は分かる。アーマデルは難民やうらぶれた格好の者達が多く居ることに気付き、彼等と似通った格好を行なうと決めていた。後は『聞きたいことは死者に聞け』である。死人に口なしとは言うが、霊魂が存在するならば言葉を交す程度、信仰者たるアーマデルには容易なのだ。
「興行施設ならばアクセスの良い公共交通手段はある筈……。
 読みが当たった事を喜ぶべきか、魔種に誘われた事実を憂慮すべきか……。ま、兎に角、救援を求める声があれば対応しましょうね」
 黒衣に身を包み一般人を偽装するリカはいざとなれば装備を取り出せるようにと留意していた。
 助けを求める声は各地から聞こえてくる。リカは「山ほどありますねえ」と頭を悩ませ――「リカ」とビッツに呼びかけられた。
「何です?」
「囚人が釈放されたでしょ。軽微な犯罪を犯した馬鹿なコ達も救援信号を上げてるわ。誰を救うかはアンタに任せるけど、見極めて頂戴ね」
 ビッツをまじまじと見遣った後「分かりましたよ」とリカは肩を竦めた。己の瘴気(フェロモン)を調光し難民に手渡すことでマーキングしていく。
 今は無理でも後に助けに来ると言う約束は残り香としてリカと難民を繋ぐかのように。


「これが混沌の底だ! 人類未踏! 鉄帝国世界最大の地底大通路探検!
 その真相を調査すべく、我々は鉄帝の巨大駅ブランデン=グラードに向かったのであった! ……あれ、なんだ今の?」
 堂々と言い放った『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)にビッツは「ここでCMね」と練達で得た知識の儘、秋奈のノリについて行く。夜も更け出す頃に、駅周辺を『下見』して調査を行う事が秋奈達に降されたオーダーなのだ。
「これがブランデン=グラード。大きな駅なのね……周辺をぐるりと回るだけでも結構な時間がかかりそう。
 それに、この下に昔の遺跡があるだなんて。遺跡の調査なんて、普通ならわくわくするものだけど。そうも言ってられないわね。
 鬼が出るか蛇が出るか……出来れば何事も無いと良いんだけど」
 状況の打破に繋がるか。それとも――『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)が不安げに呟けば、『青薔薇見習いの赫血』ルトヴィリア・シュルフツ(p3p010843)は正しく「鬼が出るか『魔』が出るか」と言い換える。
「どうでしょう」
「ええ、目眩ましは出来そうね」
 付け焼き刃ですけれど、と肩を竦めるルトヴィリアはラド・バウの避難民達の様子を観察し、似通った衣服を着用していた。この時勢だ。怪我もしていないのは可笑しいだろうと腕や頭には包帯を着用済みだ。
「調査か。そうしたものは苦手だが……ビッツ直々の指名ならば出来る限りの事はしよう」
『筋肉こそ至高』三鬼 昴(p3p010722)は状況を精査する。駅周辺地域では逃げ遅れた一般人がいるかの調査を行なう事が目的だ。
 スースラが「どうして調査を?」と問い掛けたが、その理由も簡単だ。今回はあくまでも偵察である。昴や貴道のような武力を持ち味とするイレギュラーズにとっての本番は『次』だ。
 もしも、周辺に逃げ遅れた者が居るならば戦闘に巻込みかねない。彼等の保護も次回の『駅奪取』時の必要事項になるだろう。班を分けて調査することにしたのは駅構内の新皇帝派閥の戦力分析と設備の現状確認だ。中央駅さえ奪取できれば各地に散らばった――特に、帝政派と南部戦線が此処では『有り得る協力相手』だ――他の派閥との連携も取りやすくなる。もう一方は地下通路の有無を確認し実在した場合の使用可能かの確認だ。
「一般人を発見できれば、彼等も地下通路に関する噂や駅構内に関しての情報を有している可能性もある。
 実地調査の手がかりを得られるはずだ。だが、リカに印を配って貰うことしか出来ないのが心苦しいな……」
「そうですねえ……」
 弾正が見付けた一般人へと香水を手渡すリカは「イレギュラーズですよー、大丈夫です。何も奪ったりしませんからね」と優しく声を掛ける。
 ほっと一安心した彼等には数日間耐えて欲しいと謝罪しなくてはならないのだ。駅の内部には軍人が歩き回っており、内部へ逃げることが出来ないと荒ら屋の影で泣き濡れる男や、子供を抱き締めながら「子供だけでも今すぐに」と乞うてくる母親を見るだけでも忍びない。
「怪我の治療なら今できますから。必ず来ます。落ち着いて下さいね」
 蝙蝠に周辺探索をさせながら、ルトヴィリアは難民達へと声を掛けた。その傷も避難を行なう際に負ったものだという。せめて、雨風を凌ぐ場所が欲しいと駅に飛び込んだ者達は未だ帰らず、荒ら屋や塵の吹きだまりなどの傍で何とか露命を繋いでいる状況なのだという。
 現状に難民となった者達は不満ばかりである。だからといってのし上がるための力がない以上は身を隠して過ごすしかないだろう。
「地下通路について知らないか?」
 問うた貴道に彼等は首を振る。スースラが得ていた情報も炭鉱夫達を祖先に持つ者達が思い出話として聞かされていたものであった。
「穴を掘った理由が理由だ。立ち入り禁止区域として、現地の人達に周知されていた可能性はある。
 ……その辺りの話を聞ければ、ある程度の位置を推測できるかもしれん、が。如何せん元の情報が鉄道開拓に関わっていた者の子孫だからな」
 知っている者も限られるだろうかと汰磨羈は首を捻った。あまり時間をかけ過ぎては内部探索も難しくなる。
「情報を聞き出せれば喜ばしかったが、中々得るものは無さそうだな。
 だが、火の無い所に煙は立たない。何らかの情報を持っている物が――」
 悩ましげに呟いたゲオルグの服をつんつんと引っ張ったのはリカに怪我を手当てして貰っていた少年であった。
 栗色の瞳の少年は「地下道?」と首を捻った。少年の傍に膝をついてアーマデルは「何か知っているか?」と問うた。
「ぼく、おじいちゃんが『せいじか』さんなんだ。それでね、『地下鉄』って言ってたことがあったよ」
「地下鉄……?」
 アーマデルとセレナが顔を見合わせる。ルトヴィリアは「成程」と合点が言ったように頷いた。
「鉄道レールを敷く為に地下の調査を行なって、その穴を地下鉄に利用しようとしたというならば合理的ですね。本当なら」
「……本当かも、しれないな」
 アーマデルは街中の霊達の中でも『地下鉄計画』について話す者が居たのだと改めて仲間へと周知する。
 昔、調査用通路を広げ、地下から鉄帝国各地に道を繋げようとした『鉄道計画』。其れが頓挫したのは地下には様々な古代兵器が存在しているからなのだそうだ。
「地下鉄ってのがあるんなら、その調査と確保ができりゃ他派閥と合流できるんじゃね? じゃね?」
「……ああ、確かにそうだ。その可能性は高い」
 にんまりと笑って「やっぱりかー!」と手を叩いた秋奈に昴は「問題は、」と口を開いた。
 そう問題は――『その通路の現状がどうなっているか』である。


 息を潜め、出来うる限りの戦闘を避けるべく先行するアーマデルはブランデン=グラード駅構内へと入り込んだ。
 周囲の霊魂の怯えを感じ取れば内部の『凶悪な気配』は察知できる。其れ等を避けなくてはならないとなれば自ずと活動範囲は狭まってくる。
「色仕掛けが通じる魔種なら良いのですが……憤怒相手に期待はしないでおきますか……」
 唇を尖らしたリカにビッツは「アタシなら、魅力が分からないなんて趣味が悪いわねってひっぱたくわよ」と踏ん反り返る。
「え、ビッツさんも色仕掛け予定でした?」
「アタシ、綺麗でしょ」
 ノーコメント。リカは踏ん反り返っていたビッツから目線を逸らした。物資の運搬に利用される駅だというならば、そうした物資を得ておきたいのも本音だが、底までは望まない。
 内部に存在して居るであろう魔物は先行するアーマデルが一瞥した限りでも天衝種が多く居る。ならば、其れを帯同させる新皇帝派の魔種が存在するのも確かである。
「力が正義の新皇帝派ならば、上に立つものは余程の狂人か魔に呑まれた存在であるはず。司令官の名前だけでも知ることが出来れば……」
 もしも、存在する魔物が肉腫の類いであればそれは更なるリスクを齎す事は分かりきっている。焦燥を感じながらもリカは息を潜めた。
 今回の作戦ではあくまでも逃走重視だ。情報というものは持ち帰らねば意味がないのだから。
「見た限りは線路は生きているようだな。駅構内の施設自体も……どうやら触るまでなく動いているようだ」
 顔を上げた昴へとアーマデルは頷いた。先程から駅構内は平時と変わりなく施設稼働をさせているようにも思える。明かりが灯り、管制の類いは魔種に掌握されている為か見回り等の情報共有に利用されている。
 自身が調査を行なう段階でない場合は昴は護衛役を担っていた。アーマデルと高度な連携を取る弾正は、通じ合う想いにより連携を容易にしていたのだろう。
 暗器遣いであるビッツに「隠密の経験はあるのか?」と弾正は問い掛ける。ビッツは「喧嘩程度ならね。こんなのは慣れちゃいないけど」と肩を竦める。
「そうか。……何か見付けたら教えてくれ」
「了解よ。アンタとアンタの恋人も深追いしないようにしなさいよ!」
 慎重を期すビッツに弾正は頷き高所からの奇襲記述を駆使しての死角へと入り込む。我楽多も多く見られるが、それらは駅を魔種が制圧する際に暴れた結果なのだろう。
「それでも施設としては何時でも利用できるように準備されているようだな」
「……利用する気なのだろうな」
 ゲオルグが周囲を見回し、アーマデルは肩を竦めた。駅員であっただろう霊魂は『鉄帝国が未曾有の危機に陥って直ぐに』斯うして中央駅の制圧が行なわれたと告げていた。
 駅構内の構造をよく知って居るであろう駅員は「駅長室が敵の司令官が居る場所です」とアーマデルへと告げた。人よりも警戒され難いであろう霊魂でも、それ以上は不安であったのだろう。アーマデルは礼を伝え、彼が征くべき所へ逝けるようにと祈りを捧げる。
 広々とした駅構内の中を出来うる限りの偵察を行なう。駅構内図はアテになりそうだ。地下通路を探していた面々の内、汰磨羈が駅構内図を持ち帰ると決めて行き先を分かった。秋奈曰く「たぬきちダウジング」の最中――突然振った拳骨には「ぎにゃあ」と秋奈も叫び声を上げていた。
 だが、その声を覆い隠したのは汽笛だ。列車の運行を行なうべく準備でもしているのだろう。魔種達の活動は目に見えて明らかだ。
 ――それでも、駅という拠点を奪取しても線路全てを直ぐに利用できるわけではないだろう。何分、障害は山ほど存在しているのだから。
「おや」
 びくりと肩を竦めたアーマデルを庇うように弾正が立ちはだかった。
 どうやら、イレギュラーズ達の潜入に気付いた男が此方の様子をうかがいに来たのだ。
 弾正は無茶をする。目の前でだって、いつだって。そう考えていたアーマデルは「弾正」と彼の名を呼ぶ。
「……誰だ」
 睨め付ける弾正に眼前の男――紫苑の髪を束ねターバンを巻いていた青年は考え倦ねてから「ああ」と合点が言ったように頷いた。
「ラド・バウ派ですか」
「此方の事ではない。『お前は何だ』」
 ぎろりと睨め付けたのは昴だ。中央駅の施設自体は彼等に掌握されているのだろう。線路が破壊されていない辺り、新皇帝派も鉄道の利権を得ようと考えていたか。
「……魔種か」
「だとすればどうしますか」
 穏やかな声音だ。青年の声は澄んだ気配さえも感じさせる。落ち着き払った男は『憤怒の魔種』であるかも昴には分からない。
 だが、只ならぬ気配がしているのは確かである。ペストマスクが印象的な青年は「そう怯えないで下さいよ」とせせら笑うようにイレギュラーズを眺めている。
「紫の髪に、ターバン、それから目立つペストマスク。……『革命派』にそんな男がいるって聞いたことがあるんですよねえ」
 リカは警戒を露わにし、その男を真っ直ぐに見据える。ラド・バウを嗅ぎ回っていた男の姿とも合致しているからだ。
「そうですね。私は『革命派』に所属していますから。ラド・バウの偵察にも訪れましたよ。少し、仕事でね」
「仕事で? ……派閥間の不和を産むことが仕事か?」
「いやいや。此れでも『軍人』をしておりましてね。いやあ、誰かの使いっ走りは何時ものことですが骨が折れる。
 お陰で貴方方に斯うして疑われてしまう可能性まで与えるのですからね。只の様子見でしかありませんよ」
 問うたゲオルグに男は笑うだけだった。男は「そう警戒しないで下さいよ」と肩を竦め、フランクな態度で『ギュルヴィ』を名乗る。
 そう名乗っているときは出来うる限り穏やかで、気易い青年を演出しているのだろうか。
 例えば、地下に向かった秋奈が『彼』と相対すれば「そんな態度じゃなかったでしょ」と唇を尖らす可能性もある。彼女はこの男と、鉄帝国の動乱よりも前に出会っている――そう、『ウォンブラング』の村で。
 その噂は聞いたことがあるのだとリカは警戒を露わにする。目の前の男のことだ、幾人かが地下通路に向かったこと位は把握しているだろう。
「気持ち悪いわね、何だか信用して貰えるようにナヨナヨしてるみたいじゃない?」
「表現が抽象的だが、良く分かる」
 昴は頷いた。どうにも食えない相手なのだ。その気色の悪さに警戒心を和らげることは出来ない。

「ギュルヴィ」

 声が掛かる。その気配にぞわりと膚が粟立ったのは昴だけではない。衣服のスキマから暗器を取り出すビッツに構えを作った弾正。
 アーマデルは周囲の霊魂が叫びだしそうなほどに悲痛に怯えたことに気付いた。
 振り向いたギュルヴィの頭上を走って行くのは獣だ。白と黒、二匹の狼――否、これは天衝種か――は大口を開いてイレギュラーズへと飛び込んだ。
「侵入者ならば声を掛けろ」
「私はあくまでも視察ですから、誰が侵入者か分かりませ――おや、怒らないで下さい」
 しらばっくれるように手を振るギュルヴィに男はぎろりとイレギュラーズを睨め付ける。
 大口を開いた狼はその巨躯を物ともせずに俊敏に地を駆ける。此処で大々的に戦闘を行なうべきではない。其れが作戦の根幹であるからだ。
「走れ!」
 昴の号令が響いた。練り上げた破砕の闘氣。敵対する者を徹底的に破壊するために肉体を駆使する昴の眸がぎらりと光を帯びる。
 獄人と呼ばれる神威神楽の固有種。鍛え上げたその体に慈悲はない。自身が放てる最大の力を昴は理解している。
 その一発で目を眩ませ、直ぐにでも逃げるが為に。天衝種に拳を叩きつける昴と共に弾正が直ぐにでも戦闘態勢を取る。
「――退きますよ!」
 変身バンクより取り出した装備を構えたリカの前に男が立っている。
 紫苑の髪の青年だけではない。その彼の傍に立っている男はリカの目から見て直ぐに分った。
(『ギュルヴィ』は只の視察で、此処の司令官はあっちですか――!)
 男は鯉口を切ることもしない。ただ、佇んでイレギュラーズの動きを視認し続けるだけだ。リカの足元から広がった影は闇を内包し、腕を伸ばす。
 抗えぬ停滞へと導くのは、ただ一つ。時間稼ぎに他ならない。
「誰だか知りませんが、今日は『お相手』する暇がないんですよ!」
 弾正の手を引いてアーマデルが「今のうちに」と叫ぶ。ゲオルグがじり、と地を踏み締めた。相手が只の下っ端でないことはその膚で分かる。
「……名前を聞いても?」
「おや、教えて欲しいそうですよ? どうしますか、中佐」
 ギュルヴィが揶揄うように声を掛ければ『中佐』と呼ばれていた男は肩を竦めてからゲオルグをまじまじと見た。

「――『アラクラン』所属、カデナ中佐だ」

 男は狼に匹に「stay」とコマンドを送る。
 此処でイレギュラーズと相手取ることは考えていないのだろう。それが、彼の余裕か――それとも。
「イイ男ね」
 S級闘士を連れていたことによる泥仕合を避けたいと考えたのはかは定かではない。
 だが、カデナ中佐がビッツを知っているのは確かだ。出方を観察しているのは傍らのゲオルグも良く分かる。
 ビッツはゲオルグの肩を叩き、立てていた指先でぷにりと頬を吐く。
「行くわよ。良い男の名前を持ち帰るまでが?」
「……調査だ」
 待避を行なうべく、その場を後にするゲオルグは追い縋る気配がないことを感じながら僅かな違和感を覚えた。
 いや、そうではないか。
 カデナ中佐と名乗ったあの男がブランデン=グラードの制圧を行なう責任者であるならば、自ずと彼とはもう一度、相対することになる筈だ。
「……上に連れて来ておいて良かったな」
 昴に「便利でしょ、アタシ」とビッツは揶揄うように笑った。
 カデナ中佐が追撃を仕掛けないうちに脱出しよう。彼が『狼』にコマンドを送った時点でその能力に大凡の推測はついている。
 ビーストテイマー。その能力の範囲こそが肝である。ブランデン=グラードの責任者を担っている男が獣たちを己の目や足にしているならば。
「中佐、『下』はどうでしょうね?」
「『下』には腹を空かせた者達に待機させている。問題はないだろう」
 カデナ中佐の言葉にアーマデルがひきつった息を吐いた。……仲間達が下った階段前で『地下班』が脱出してくる事を願わなくてはならないか。
 せめて、地下に向かった仲間達の脱出の手引きだけでも出来るようにと、頭の片隅に彼等のことを思いながら―― 


「まずは見つけない事には始まりませんが……」
 蝙蝠を随伴させていたルトヴィリアは駅構内を探索するメンバーからの情報で『階段』を見付けた事を仲間達へと周知した。
 その位置は貴道が地質学を用いてアタリを付けていた場所とも合致している。
 鉄道を引くための調査用であるならば地質を揺るがすような場所には掘らない。そして『地下鉄』だというならば尚更だ。
 トンネル崩落の危険性を招く事もあり、無暗に岩盤を傷付けては居ない筈だ。駅の景観も損なわれず、尚且つ、余り知られていないならば人通りが少ない場所に当たるだろう。
 地下鉄駅としてブランデン=グラード中央駅が出来上がる前に計画が立ち上がっていたとするならばその入り口も駅構内に存在している筈なのだ。
「ブランデン=グラードを制圧して『地下通路』の利用が出来るようになった方が良い、か。問題は山積みだな」
 やれやれと肩を竦める貴道に秋奈は「ちょっち進んでみる?」と問うた。透視で下を見れば「穴があるぜ!」と叫んだ秋奈は捜索スキルをきらんと光らせた。
 最初は息を止めていたが、ガス等は存在して居なさそうだ。……少なくとも、この場所には。
 地下通路内の状況把握を行ない、何処まで繋がっているかを確認しておきたいが――どうやら穴は各方向に拡張されて続いていって居る。
 例えば、だ。此れが鉱山夫達が作った調査通路だというならばバラミタまでの地下道が存在している可能性もある。
 そして地下鉄利用を考えていたというならばゲヴィド・ウェスタンやボーデクトンへの道も拓ける『かも』しれないのだ。
「直ぐに把握するのは難しそうだな。……広大な地下通路か。使い勝手が良さそうだぜ」
 貴道が周囲を見回す傍らで、汰磨羈は資材や土砂を運ぶ為の搬入路は駅とは別方向に存在しているのだろうと推測した。
 内部は、現時点では伽藍堂だが道を進めばモンスターの根城になっていることは容易に想像できた。
「何処からか排ガスが湧き出したり、古代兵器が暴れてる場合も有るかも知れないワケだ。
 てーか、そうだ。古代兵器あるんでしょ? 機械なんだし無機疎通がよく効きそう!
 所属、型式、用途、稼働可能部位とか! 私ちゃんと相性がいい子がいるかもだし、その時は楽しく盛り上がっとくワケよ」
 イイでしょと笑った秋奈にセレナは頷いた。もしも『利用できる兵器』が存在していればそれは役に立つ可能性さえある。
 一つの通路に鼠を送り出し、動物たちを探す。そのついでに人の気配を探るようにセレナは耳を欹てた。
「……鼠の気配が消えたわ。奥に何か居るのかも」
「敵ですかね……」
 内部に魔種が入り込んでいるのか、それとも。新皇帝派、暗殺者染みた兵士グループ、魔種達の巣窟。様々な情報が混ざり合っているのだ。
 警戒を第一にしていたルトヴィリアは「……ちゃんと皆さんの言う事を聞いてね、レーレリック?」と声を掛け駅構内の仲間達に随伴していた蝙蝠を心配するように嘆息した。
 上も下も。何方も分からないことばかりだからだ。路線図は『知っていた』物やビッツ達がある程度掴んでいた情報で間違いは無さそうだ。だが、トンネルは上部の列車路線とは異なっている部分も感じられる。
「どう繋がってるんでしょうね」
 警戒するルトヴィリアにセレナは「分からないわね」と呟いた。風の気配を探す様に走って行く別の鼠と意思を疎通させ、其方に汰磨羈が推測した資材の搬入経路が存在している可能性を感じ取る。
「んー、少し歩いてみたけど、洞窟って感じ? なんかギアバジリカで探索された古代遺跡っつーやつ?」
 似てる気がすると秋奈が笑えば貴道は「そうした地下通路の古代遺跡も組み込まれてる可能性があるぜ」と周囲を見回した。
 少し風景が変化したと感じられたのは遺跡らしき部分に繋がっている場所があったからだ。モリブデンも近い。ギア・バジリカが存在する場所にもこの地か通路から辿り着けるのだろうか。
「『革命派』と名乗る囚人がこれを隠し通路として利用してラド・バウに来てると言われても納得できるな」
「……有り得るわね」
 貴道にセレナは苦く笑みを浮かべた。確かに、其れは否定できない。
 解き放たれた囚人達が難を逃れて『革命派と名乗る魔種達』に接触し、この道を教えられていたならば――鉢合わせの可能性がある。
 そうした存在の通用口にもなっている可能性もあるのか。逆に、帝都から外部に魔種が出ていくための道になっているかもしれないのだ。
「地下の隠し通路は利用の仕方は山ほどあるってワケですね」
 ルトヴィリアが肩を竦めた刹那、秋奈が「シッ!」と声を発した。

 ――ヒュウ。

 何かの音がする。指笛のようなそれは『上』から響いてするりと広範囲に広がっていく風。
 違和感を感じたセレナは「何?」と首を捻る。怯えたようにセレナの傍で鼠が縮こまる。
 只ならぬ気配にルトヴィリアは「レーレリック」と呟いた。『上』で仲間達が魔種と相対した事が分かったからだ。ならば、これは――
「鼠が怯えている。獣にだけ伝わる何かか」
 汰磨羈の言葉にセレナとルトヴィリアは頷いた。ルトヴィリアのレーレリックが『上が撤退を開始した』事に気付く。
「……此方も、そろそろ撤退か?」
 警戒するように貴道が構えを作った。『何者』かの気配だ、人か、それとも――
 何者が現れるかは定かではないが、奥より無数の気配が感じられる。生暖かい獣の吐息が広がるように感じられた。
「……退こう」
 汰磨羈にセレナは頷いた。地下通路の内部には朽ちた線路などが存在している。だが、『入ってきた場所だけ』は理解出来た。
 別の出口を得て、そこから脱出したいとも考えたが、其れは難しそうである。これは調査通路というよりも本当に地下鉄を作ろうとした形跡が存在した通路だ。穴が何処まで繋がっているかは定かではないが、少なくとも直ぐに出口に辿り着くことは難しそうなのだから。
 駅構内を探索していた仲間達の撤退を知り汰磨羈は一先ずは貴道を振り返る。自身等も駅構内を通って外へ逃げなくては鳴らないのならば彼等の撤退に合わせて逃げるべきだろう。
「オーケー。一朝一夕で此処は探索しきれないな。出口が分からないんじゃ、此処に攻めこまれちゃ逃げ場を失う危険性もある」
「うんうん。上に敵が居るなら、第一目標は駅の奪取ってわけだ。ダッシュで。わははは」
 秋奈はにんまりと笑ってから武器を構えた。『何かに嗾けられた』か。モンスターが唸り声を上げて姿を現した。
 どうにも腹を空かせて、久方振りの獲物を楽しみにしているかのような様子でさえある。
「スースラの旦那ァ! 出番ですぜ! どうやらお出でなすったァッ!!!」
「やる気が十分な台詞だ。有り難う」
 秋奈が構えたのは戦神異界式装備。姉妹刀を手にマフラーを揺らす秋奈の傍でスースラが鯉口を切った。
 飛び出してきたモンスターは地下道に住まっていた存在か。人間の気配を感じ取り、のそのそと姿を現したか。
「こいつを倒して撤退しよう」
「……腹を空かせてるみたいですね。倒さなくちゃ上まで着いて来そうです」
 ルトヴィリアは「餌にはなりたくないですしね」と頷く。弾丸より早く駆けたスースラの一閃に続き秋奈は刀を押し込むようにして身をモンスターの肉体へと沈めていく。
 大口を開いたモンスターがせめて腕の一本でもと求めるようにあんぐりと牙を剥き出せば汰磨羈は勢い良く鞘をその口に投げ入れ『引っかけ』た。
 グウと唸ったモンスターの口へと「腹が減ってるんだろう!」と叫んだ貴道が腕を叩きつけ喉奥へと衝撃を叩きつけた。
「スースラ、退けるわね?」
「ああ。此れを倒しても奥には同じような存在が居るだろう。一度退こう」
 闘士である彼をセレナは信頼している。頷いて駆けだした少女は助けて、と誰かが呼ぶ声を聞いていた。
 この道は何処かに繋がっている。無数に可能性を秘めている。
 屹度、何処かから入り込み助けを求める人も居る。難民達の避難経路になっている場所や斯うした地下道を利用して住まいとしている者も居るはずだ。
 其れだけではない。モンスターの根城に、ラド・バウ派が意識を向けた鉱山への道や別派閥との合流可能性さえ存在している。
 ――一先ずは情報を持ち帰ろう。どの様な作戦を立て、ブランデン=グラードを確保するかを決めなくてはならない。

成否

成功

MVP

郷田 貴道(p3p000401)
竜拳

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。ブランデン=グラード。中央駅です。
 ラド・バウ派の皆さんにとっては最も近い駅であり、
 そして『中立』である皆さんが他の派閥と協力する為に確保しておきたい『地下通路』の存在が明るみに出ました。
 この通路を確保するためには魔種達が詰めかけるブランデン=グラードを制圧しなくてはならないようですね……。

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