PandoraPartyProject

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深淵の誘い

 シレンツィオより些か離れた海域――
 どちらかと言えば豊穣に近い側に『其れ』はあった。
「――海援様は?」
「『奥の間』に籠られておる。氷雨(ひさめ)も同様にな……
 やれやれ。いよいよもって何ぞや、妙な気配が流れてきておるな」
 深海と、深海に繋がる洞穴に存在せし亜竜種達の隠れ里たる『天浮の里』――その地で語り合うのは、里長の跡取り娘たる浮・妃憂(ふう・きゆう)と、里の一員である少年潔一(きよかず)の二人であった。
 この地は覇竜領域外の外にある珍しい亜竜種の里にして……かつてこの海域を統べていた大いなる竜であるリヴァイアサンを信仰する地でもあるのだが。ここ最近、天浮周辺海域では妙な出来事が起こっていた。
 虚滅種(ホロウクレスト)なる『リヴァイアサン』に似た気配を宿している魔物の出現が確認されていたのである。あくまでも、どことなく雰囲気や攻撃方法が似ているだけであり、かつての大竜そのものではなさそうだが……一体どういう事なのか。
 彼らは海域を通らんとする船を襲い、沈める事もあった。
 結果として行方不明者も出ている始末だ――斯様な出来事は天浮の里の者達も知る所であったのだ、が。
 言うのだ。この里において『神』の声を聞けるとされる特別な巫女……海援様が。

『――心配は無用。海を穢す愚か者共が、天よりの罰を受けているだけであれば。
 皆、平素通りに過ごすべし』

「そんな筈はない。こんな事は今までなかったのじゃ。
 先日……お主が外の者達を連れて来てから、海援様の様子はおかしい極まる。
 ――あぁ。先に言っておくが、別にお主が悪いなどとは言っておらぬぞ」
 しかし、妃憂は斯様な言に対して信を置いてなどいなかった――
 海援様に訝しき行動が多すぎるのだ。彼女が里に戻ってからというもの、里の周辺には魔に属する妖共の出現が増えているし、里の信仰を支える『依り代』たる氷雨(ひさめ)卯ノ花(うのはな)に至っては態度や言動すら変わり始めている――
 そればかりか天浮の里自体が『何か』おかしい。
 里を包む……妙な気配を感じているのだ。最近は、誰ぞが作り上げたかも分からぬ『竜』を象った遺物や祠らしき存在も増えている。ここはリヴァイアサンを信仰する里――故に最初は子供の戯れか近所の者が新しく作ったモノかと思っていたが、どうにも『そう』ではない。
 嫌な気配だ。それらを眺めていると魂の背筋を撫ぜられる様な……
「俺、もう一回外の連中に会って来るよ――
 虚滅種も退治され始めて少なくなってるし、今ならまた外に行く事も出来ると思うからよ」
「それは……いや、そうじゃな。外の同胞達に助けを求めるのが最善かもしれん」
 とにかく。里を案じる妃憂にとって最早この状況は座して静観などし難い。
 故にこそ潔一の言に微かに迷いながらも賛同するものだ。海援様が最早信用能わぬとあらば外の同胞や、縁を繋いだ者らに救い求める他あるまい、と。今までこの地は隠れ里として外界との接触は最小限にしていたが……時は移ろい往くもの。
 同胞達が大いに外界を出歩いているというのならば、天浮の里も変わりて何が問題あろうか。それに幸いと言うべきか、その外の同胞らも此処に関しては気にかけてくれているらしい。
 以前に結ばれた縁をもう一度手繰ってみようかと思案し……と、その時。
「ところで潔一」
「んっ?」
「お主、昨日の夜どこへ出かけておった?」
「――はっ? 何の話だよ……昨日の夜って、俺は寝てたけど?」
「ん、だがしかし、確かにお主がどこぞへ歩いて……
 いやなんでもない。やはりわらわの気のせいかもしれんな」
 それから、昨今。妃憂はもう一つ気になっている事がある――
 誰しもが眠りに付くような頃合いに外を出歩く者が幾らか増えているのだ。
 ふらり、と。まるで彷徨う如く。
 まるで『夢遊病』の如く。
 眼前の潔一も先日、外の者共を無遠慮に引き入れたとして海援に個別に叱責されてから、斯様な姿が時折目撃されていたのだ――
 ……それは、妃憂にとっては存ぜぬ事であるが。他の深海に属する竜宮で巻き起こっている事態とどこか似ていた。
 暗き海の水底に、一体どれ程の深淵が潜んでいるだろうか。

 ――後日。天浮の里からの使者が、ローレットに接触した。

 里を救ってほしいという助けを求める声であり。
 一方で、まるで深淵に手招きされるかの様な感覚も……どこかに潜んでいた。


 シレンツィオにて、大規模作戦の気配が濃厚になっています――。
 亜竜種の隠れ里『天浮の里』からも依頼が舞い込んできそうです。
 シレンツィオにて――エスペランサ遺跡調査、フェデリア島内でのダガヌチ暴走事件、竜宮城でのダガヌチ大量発生事件それぞれの報告書が共有されています。
→報告書を見てみる

これまでの 覇竜編シレンツィオ編鉄帝編

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