PandoraPartyProject

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夢に踊る

 竜宮。シレンツィオと豊穣を繋ぐ海の底に存在する、隠れ里。
 ダガン、と呼ばれた存在を封じた者たちの末裔が住まうその場所は、長き変遷を経て、今や夜の街めいた光り輝く都と化していた。
 それを堕落と言えば、そうだろうか。しかして、光差し込まぬ深海にて、人が使命のみに生きるのは、些か寂しすぎた。
 かつての竜宮は、あまりにも寂しい場所であったとされる。欲を持たず、望みを持たず、ただ魔を封じるためだけに、生きるために生きている人々の表情はあまりにも昏く。
 次第に心から壊れ、歪んでいったのだとされる。
 そんな竜宮を救ったのは、ある時代に訪れた、一人の旅人(ウォーカー)だったのだという。光差し込まぬその街を、旅人と、その当代の乙姫は、明るくて誰もが笑って過ごせる街にしようと奔走した。
 旅人の持っていた、『楽しい街』の知識を頼りに、竜宮を作り替えた。
 深海が暗いのならば、どこよりも明るく光ればいい。
 深海が寂しくて冷たいならば、皆で寄り添って笑いあえば、寂しくもないし暖かい。
 お腹がすいたらチャーハンでも作って食べよう。まぁ、俺はそれしか作れないんだけど。
 旅人はそう言って、多くの人達に笑いかけて、笑いかけて、笑いかけて――その笑顔を、みんなに伝えた。
 旅人の知識は――まぁ、今にして思えば、だいぶ偏っていたのだけれど。
 それでもずっと、昔よりマシな街になった。竜宮という、深海に輝く、素敵な街に。
「へー、それで今の街にねぇ」
 そう言ってグラスを傾けるのは、浦太郎(ホタロウ)と名乗る豊穣の男だ。竜宮がひらかれるずっと前から、道しるべであるべっ甲の宝玉を持つものとして、竜宮に通い詰めていた男である。
 そんなわけだから、浦太郎は今日も、稼いだ金を盛大に竜宮に注ぎ込んでいた。今日のお相手はペルルという竜宮嬢で、竜宮の昔話も、そんなペルルから聞かされたものだ。
「うん、あたしはこの話、好きだよ。だって本当だったら、すっごく暗くて、辛い街になってたじゃない?
 外からは……変に思われたかもだけど。でも、あたしは浦太郎にも会えたし、幸せかな~?」
 本心か、リップサービスか、それともからかっているのか……楽し気に目を細めるペルルの表情からは、それはうかがい知れない。が、浦太郎はその辺の機微も楽しんで、竜宮に通っているのだ。浦太郎は遊び人ではあったが、故に節度をわきまえている。具体的に言えば『推しに手を触れるなかれ』。浦太郎にとっては、竜宮嬢とはすなわち推しなので、推しの迷惑になる様な事をするわけがないのだ。
「いやぁ、そう言ってもらえるとシャンパン空けたくなっちゃうなぁ?  しかし、お城の方も色々大変みたいだねぇ。マールちゃんも、色々飛びまわってるみたいだ」
「うん、まぁ、マールは、ね。特に、ようやく街の外に出られるようになったから、嬉しいみたい」
「泣かせるねぇ。流石俺の最推しだぁ。しかし、今はダガヌチとか深怪魔とか、そういう奴で大変なんだろう?」
 深怪魔封印の目処が立ったとはいえ、未だに彼らが跋扈している事実に変わりはない。また、新たな脅威である『ダガヌチ』も現れ、状況は一進一退という所か。
 結局のところ、事態を買える決定打は、未だ打てていない、という事だ。とはいえ、乙姫であるメーアも、それを良しとはしていないだろう。
「メーアも色々動いてるみたいで……
 まぁ、アタシにはそこまで教えてもらえないんだけどね。機密事項だし~」
 そう言って、店の窓から、外を見て見る。竜宮はおおむね四六時中明るいが、時間帯を知るための設備はある。例えば、通りに設置された大きな時計などだ。今は、深夜に近い時間帯。竜宮でも多くのものが活発に動く時間帯でもあるが、しかしそうでないものはすでに眠っているだろう。例えばメーアなどは、『お店』で働くことなどはめったにないのだから、この時間帯にはすでに就寝しているはずである。
 ――だが。
「あれ? あの子、メーアちゃんじゃぁないかい?」
 浦太郎が言う。
 言われてみれば、その通りだ。確かに、何かふらふらと、大通りを歩くのは、メーアのように見えた。
 だが……何か、変だ、と浦太郎は感じた。今まで幾人もの竜宮嬢と話、語り合ってきた遊び人である彼には、メーアの『不自然さ』に、何かぴぃんと来るものがあったのだ。
「ごめんよ、ペルルちゃん。ちょいと……」
 そういうと浦太郎は店を飛び出した。大通りに飛び出すと、しかしすでにメーアの姿は人ごみに隠れて見えなくなっている。
「ホタロウクン、どしたの?」
 追いかけてきたペルルに、浦太郎は告げる。
「あぁ、なんか、メーアちゃんを見かけたんだが……様子がおかしくてねぇ。まるで、寝てるみたいな……ふらふらしてる見てぇな」
「夢遊病、みたいな?」
「アァ、なんか妙だな……」
「あ、そう言えば」
 ペルルが思い出したように、言った。
「夢遊病と言えば……最近、竜宮の子達も、ちゃんと寝られてない、って子が多いみたい。寝てるのに、まるで身体が動いてるみたいな夢を見た、って子もいて……まるで夢遊病にでもかかったんじゃないか、って言ってたんだけど」
「ほんとかい、ペルルちゃん?」
「ん。あたしも、いろんな人から相談ウケてたんだけど、原因がよくわかんないんだよね……」
 ふむ、と浦太郎は唸った。
「ううん、ペルルちゃん、マールちゃんと親しいんだろ? ちぃとそれとなく、メーアちゃんの様子について、たずねてみちゃあくれないかい?」
「うん。いいよ。なんかあたしも心配になってきたし……マールに伝えておくね」
「おう、たのむよぉ、ペルルちゃん!」
 そう言って、浦太郎は唸った。
 杞憂ならば、それでよかった。
 ただ、多くの竜宮嬢たちが何らかの異常を訴えているのだとしたら、もしかしたら――何事か、あるのかもしれない。
 それに……。
 あの時、街の人ごみに消えていったメーアの表情は――。
 嘲笑(わら)っていた、ような気がするのだ。酷く、嗜虐的に。
 ――そして、竜宮の夜は更けていく。
 その光の影に、小さな不安をのぞかせながら。

※竜宮・シレンツィオにて、何やら動きが見えます――。



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