PandoraPartyProject

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得たもの、失われたもの

 鉄帝国南部の街ノイスハウゼン――その上空に伝説の浮遊島アーカーシュ発見されてから幾ばくかの時が過ぎていた。鉄帝国軍と依頼を受けたイレギュラーズによる調査によって、島からは様々な発見がもたらされており、鉄帝国が慢性的に抱える食糧問題や、入植など多大な期待が抱かれている。
 課題となっていたのは古代獣(エルディアン)と呼ばれる凶悪な怪物、そして荒れ狂う精霊達だ。
 これを解消出来ればアーカーシュは『人が住むのに適した土地』になる。そこで鉄帝国は難関となっていたエピトゥシ城、ならびにショコラ・ドングリス遺跡の一斉攻略を企画した。
 これこそ最終作戦となる予定の大討伐。
 すなわち鋼の進撃作戦(Stahl Eroberung)である。
 ――そのはずだった。

「パトリック大佐は反転している! イレギュラーズへの攻撃をただちに停止せよ! 繰り返す!」
 友軍であるイレギュラーズへの攻撃など、明らかに異常な命令であった。
 レリッカ村長が連行されたのも、少年が拉致されたのも、通信設備が遮断されたのも、自惚れ屋の嫌われ者ではあっても冷静沈着で愛国心の強いパトリックであれば、考えられない愚行だ。
 いくら異常な命令とて、軍人であれば従わざるを得ない。だが命令した者が魔種(デモニア)に反転しているとなれば、話は別だ。原罪の呼び声(クリミナル・オファー)は人の魂を揺さぶり、世界へ滅びを招く不倶戴天の敵へと堕としてしまう。パトリックは、もはやかつてのパトリックではない。討伐すべき、ただの怪物なのだから。
「すまない、謝って済む話ではないと思うが……」
 エッボという名の特務軍人が、申し訳なさそうな表情でイレギュラーズの前に現れた。
 命令とはいえ――さらに彼の場合は原罪の呼び声に抗いながら狂気に陥っていたとはいえ――味方に銃口を向けるなど、あってはならないと続ける。
「じゃあ一杯おごれよ。そしたら後はおれに任せとけ」
「……ああ、すま――」
「おっとそれ以上はなしだ。きりがねえ」
 エッボの肩を叩いたヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)は、『なんだか怪しい奴』だったパトリックを調査していたが、同じく調査していたエッダ・フロールリジ(p3p006270)只野・黒子(p3p008597)等と共に出した結論が『軍人としてはまとも』だったが故に、やりきれない感情もある。

「大方の話は聞いていますので、今後の方針を伝えます」
 現れたのは、『歯車卿』エフィム・ネストロヴィチ・ベルヴェノフ――アーカーシュに関する一連を取り仕切っている鉄帝国の政治家である。作戦終了後直ちにアーリア・スピリッツ(p3p004400)カシエ=カシオル=カシミエ(p3p002718)は、彼とレリッカ村長を連れてきたのだ。
「良かったわ」
 拉致から救助されたユルグ少年が友人達と抱き合う姿を見て、カシエがぽつりとこぼす。
 実際のところ、鋼の進撃作戦は(横槍こそ入ったが)イレギュラーズの奮闘もあり、成功している。
 これでアーカーシュは、そのほぼ全土に人の手が入ったことになり、大方の安全が確保出来たのだ。
「もともと順調ではあるからねえ」
 武器商人(p3p001107)が言うように、人の生活圏が拡大すれば農耕の他に商業なども発展することになるだろう。鉄帝国がシレンツィオに租界を獲得したように、ここもまた。

 問題は――
「当機は最高権限者から、ビジターである皆様を排除するよう命令を受けています。しかしながら当機は秘書機であり、皆様を排除するスペックを保有しておりません。そのため御退去頂ければ幸いです」
「これは?」
「イェルナさん。大佐が手に入れたものらしいんだけど、置き去りにされちゃったみたいよ」
 魔種となったパトリックはアーカーシュの最高責任者という権限を有していた。つまり遺跡全土の機能を掌握出来る可能性があるということ。イェルナの姿を見てなぜか驚愕した村長の話はまた別の機会に譲るが、ともあれこの秘宝種らしきイェルナという存在自体には害がないようだ。
「やってくれやがったぜ」
 レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)の表情は厳しい。
「けど、となると――あれか」
 まだ希望はある。
 イレギュラーズは魔王城である『エピトゥシ城』の制圧に成功していた。
 この城はアーカーシュ全土の遺跡よりも、だいぶ後に作られたものであり、アーカーシュの制御の範囲外となる。パトリックの権限が及ばない安全地帯にあたるのだ。
「そこでエピトゥシ城はローレットに譲ることになりました。支部として下さい。我々鉄帝国はレリッカ村の安全を確保しながら、パトリックの捜索を続けます」
「ローレット魔王城支部……」
 歯車卿の言葉に、ドラマ・ゲツク(p3p000172)がどこか呆然と呟く。
「エピトゥシ城を拠点とし、魔種パトリックを撃破します」
「わかりました!」
 歯車卿はそう伝え、ユーフォニー(p3p010323)が返事する。

 しかしアーリアは、はたと気付いた。
 彼の端正な面持ちは悲痛そうに歪んでおり、そして得意の罵詈雑言の一つさえないことに。
 歯車卿と大佐には、交友関係があった。インフラ屋と諜報屋という、鉄帝国では軽んじられがちな分野を得手とする彼等同士には互いにシンパシーがある。稀にオペラや展覧会の鑑賞などで、プライベートを共にすることもあったようだ。心境は察するに余りある。
 とはいえ今は成すべきをなさねばならない。
 直ちに魔王城を改修し、やがて来る魔種パトリックとの決戦に備えるのだ。

 ※鋼の進撃作戦(Stahl Eroberung)が成功し、浮遊島アーカーシュをの調査が終了しました!
 ※鉄帝国の特務大佐パトリック・アネルが憤怒の魔種へ反転しました……
 ※パトリックはアーカーシュの最高権限を保有した状態です……

 ※イレギュラーズはパトリックの権限が及ばない島内唯一の場所『エピトゥシ城』を入手しました。
 早速改装して拠点にしましょう!


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