PandoraPartyProject

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チェチェロの夢へ

 夜明け――月片花の咲くアルバの丘。
 差し込んできた鮮烈な陽光は、けれど優しい温もりを伝えてくる。
 それを史上初めて目にしたのは、きっとネーヴェ(p3p007199)であったろう。
 島に住まう精霊アイル=リーシュジェック・アーロン(p3p004755)達に語った所によれば、伝説の浮遊島アーカーシュは、かの勇者王アイオンですら未踏の古代遺跡群であった。

 そんなアーカーシュを遠く見上げる鉄帝国南部ノイスハウゼンの町――
 当局施設に構えられた『歯車卿』エフィム・ネストロヴィチ・ベルヴェノフの執務室を尋ねてきたのは、特務大佐パトリック・アネルであった。
「閣下、しばしよろしいか?」
「どうぞ、出来れば手短にお願いします。調査報告ならば出来れば書類で」
 アーカーシュの探索は僅かな間に怒濤の進展を見せ、様々な発見物が学会を賑わせている。クシーのような学者達は間違いなく大忙しだろう。発見物の数も、ついに百年前の第一次調査隊の数を上回ったという。フォレムラピスエレメンタルパワー村といった遺跡群は、いずれも『精霊都市』と呼ぶに相応しい高度な文明を持っていたと推測される。ランプ(光の精霊灯)コンロ(暁の火)製氷機(アイス・スピリッツ製氷機)といった遺物の数々は、その生活水準の高さを物語っている。とはいえ歯車卿はそれら全て、何もかもの報告を捌かねばならないから、酷く忙しかった。
「いえ、軍事機密に関する取り扱いについて、今一度言質を、出来れば書面で頂こうと思いましてね」
「それはどういった?」
「例えば――あの浮遊島は僅かに移動している」
「ああそういう……」
 仮に今後いつの日か、アーカーシュが他国領土の上空にさしかかった場合、それらは外交や軍事に関する話につながる。そうした多少センシティブな情報に関して、特務が握っておきたいということである。
「それは特務(そっち)でかまいませんよ。こちらが気にしているのは内政の話です。アホカスのようにクソ面倒な仕事は、これ以上増やしたくありませんのでね」
「結構、利害が一致しており何よりですな。それではこちらにサインを」
「ええ、かまいませんよ」
「ところで閣下も祝賀会には参加されるので?」
「このクソ忙しい時に……まあ、けれど仕方がないでしょう」
「おやおや乗り気でいらっしゃらない。閣下らしいですな」
 鉄帝国ではこの新たな大地への期待が膨らみ、帝国が抱える食糧問題に一石を投じる希望も見えてきた。そうした中で、ついに祝賀会が開催される運びとなったのである。鉄帝国皇帝である『麗帝』ヴェルス・ヴェルク・ヴェンゲルズ(p3n000076)は「いっそ別荘でも建ててやりたい」などと喜んでいたらしい。
 とはいえアーカーシュに関する案件は、どちらかと言えば皇帝よりも『鉄宰相』バイル・バイオン(p3n000237)向きであり、もっと言えば歯車卿の手腕にかかったものだ。要は『内政』であり『インフラ』であり、こうした内向きの希望は、つい外へ向きがちになる――つまり何かと戦争をしたがる鉄帝国にとって、非常に喜ばしいのではなかろうか。アーカーシュは空にあるとはいえ鉄帝国内で発見された遺跡であり、帝国は特に領有権などを主張していない。『自ずからそうである』という立場だ。諸外国の首脳部はいくらか眉をひそめたかもしれないが、かといって何かを述べる立場にもない訳だ。

 そんなノイスハウゼンのとある酒場――VIPルームに居るのは、エッダ・フロールリジ(p3p006270)只野・黒子(p3p008597)、それからヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)の三者であった。
 いわゆる密談である。
 水面波紋――以前、互いの立場を確認し合ったエッダと黒子であったが、また独自の調査を行っていたヤツェクと、捜査上で良い意味での干渉があったのである。
「……と、そういう訳らしい」
「なるほど……」
 得られた情報はアーカーシュが僅かに移動していること。そして特務派は軍事に関する情報を秘匿したいこと。あとは情報秘匿に関する取り決めが歯車卿と特務派との間で結ばれたこと。三者が得た情報――特務派の動きは、おおよそそのような内容だった。
 アーカーシュを調査する帝国軍部はパトリック率いる『特務派』と、それ以外の軍人達による『軍務派』に派閥が分かれつつある。パトリックが強権的に派閥を構成し、独自に秘密を抱えている状況はどうにもきな臭く映っており、鉄帝国に深く関係するイレギュラーズや、あるいは独自の懸念を抱く者も居る。華やかな賑わいを見せるアーカーシュ調査依頼の中で、気にすべき者は気にしておいても良いかもしれない。特にイレギュラーズでありながら、国家の命あらばフロールリジ騎士団長――即ち連隊を指揮する大佐としての階級効力を持つエッダにとって、なかなかセンシティブな状況にもなってきているから。なにせよりによってパトリックと同階級なのである。

 お国の事情さておき、アーカーシュの探査は更なる進展を見せていた。
 遺跡で多数発見されるゴーレムの修繕が、鉄帝国における『極めて先進的な古代兵器』の発掘・解析・メンテナンス及びそれらの知見を活かした新兵器開発等を行っている機関『EAMD』のキャナル・リルガール(p3p008601)やその所長『 趣 味 爺 』ガスパー・オークソン等の手により可能となったのである。栄えある一号機はハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)によってマルクトアインスと名付けられた。今後多数のゴーレムを再稼働させることが出来るだろう。こうした島内都市機能の回復は、将来的な農耕や入植などについても、強く期待出来る出来事だ。
 また秦・鈴花(p3p010358)達がショコラ・ドングリス遺跡に、深部への入り口を発見したのも大きな成果である。それに加えて島の外周部に多数存在する小さな浮遊島への探索も可能となった。
 長月・イナリ(p3p008096)達の冒険の中で見えてきた魔王イルドゼギアという不穏な単語――それはかつて勇者アイオンに倒された伝説上の存在でもある。そんな存在が、この島とどんな関係があるというのか。

 いずれ全ての謎を解き明かし、この巨大遺跡群を踏破する。
 イレギュラーズは、そんなチェチェロの夢へ向け――


 ――イレギュラーズの活躍により、浮遊島アーカーシュの探索が大きく進展しています。
 ――鉄帝国で祝賀会が開催されることとなりました。
 ――特務大佐パトリック・アネルが動きを見せています。

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