PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<アーカーシュ>忘らるる都

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 大空を駆け、一行はアーカーシュと呼ばれる巨大な浮遊島へと降り立った。
 幾人かの村人が目を丸くし、中央に居る一人の青年(のように見える人物)が、両手を広げる。

「遺跡の村レリッカへようこそ。私はこの村の長アンフィフテーレ・パフという。君達の来訪が……そうだな。喜ばしい類いのものであることを願っているよ。ではずいぶん可愛らしく見えるが、そちらは?」
「わたしはエヴァンジェリーナ・エルセヴナ・エフシュコヴァ。鉄帝国軍軽騎兵隊の隊長よ」
 リーヌシュカ(p3n000124)は愛称でなく正式に名乗り、一行を振り返った。
「こっちが協力してくれてる超有名な冒険者のイレギュラーズ。ローレット……は知らないわよね」
「残念ながら。我々の情報は、ここ百年ほど停滞していてね。亜竜で大空を駆る辺り、凄腕は頷けるが」
 村長は信じられないものを見るような表情を、一行に送った。
「わたし達は要するに先遣隊ってところだけど、まずは生きた人間に会えてとても嬉しいわ。これが国からの書簡よ。これから仲良くしましょ」
「なるほど、さっそく目を通させて頂こう」

 帝国からの書簡の内容はおおよそ次のようなものだった。
 一つ。三人の少年少女は鉄帝国の観光を望んでいる。いくらかの旅行気分を堪能してもらい村へ返す。
 二つ。鉄帝国は軍と冒険者を派遣し、この島を調査する。村から可能な限りの情報提供がほしい。
 三つ。見返りとして、鉄帝国は村への支援や協力を出来る範囲で約束する。
 署名は帝国で歯車卿と呼ばれる政治家、エフィム・ネストロヴィチ・ベルヴェノフのものだった。インフラの整備に強い定評のある男だ。

「鉄帝国にしては、思いのほか穏当だな。思わず身構えてしまっていたが、取り越し苦労だったかな」
「ふうん。あなたは帝国を知っているの?」
 アンフィフテーレの呟きに、リーヌシュカが首を傾げた。
「今はもう、私が唯一の生き残りだからね。ここを調査した隊の」
 村長はどこか遠い目をしている。知人がみな老いて死にゆくのは、長命種の宿命というやつだ。
 しかし村長の言うように、鉄帝国はかなり穏当な態度をとっている。大規模な軍事行動を思い返せば、静寂の青での滅海竜との一件までさかのぼるだろうか。幻想が巨人の群れと交戦していた際にもちょっかいをかけてこなかったのだから、歴史的に見ればかなり珍しい時期とも思える。
「ええと……つまり、あなた百歳のおじいちゃんなわけ?」
 随分とあけすけな質問に、村長は苦笑して応えた。
「なんだかまるで、村の子供達のような物言いだね。もう少しいってるけれど。一応は軍属扱いだったから、君の先輩かもね。まあ、行方不明からの殉職扱いあたりで、とっくの昔に除籍されているだろうけど。第二の人生も、悪くないものだよ」
 そう言いながら、書簡を筒へ戻した村長は、あらためて一行へと向き直った。
「いいだろう、委細承知した。レリッカは君達を歓迎しよう。どうぞこちらへ」


 促されるまま、一行は石造りの遺跡へと足を踏み入れた。
「最初の一年目が、いちばん堪えたよ。人がどんどん居なくなってね」
 村はずれには墓地がある。隊の人々が――村長の友人達が沢山眠っているのだろう。
「ともあれ、今はこの通りさ」
 そこには木材で住宅が作られ、日の当たる場所には畑が見えた。人々は狩猟や採取、そして限られた農耕をベースに、素朴な生活をしているようだ。のどかな光景だった。
 店のようなものもあるが、恐らく貨幣は使われていない。ぶつぶつ交換というやつだ。
「あの辺りは空き家も空き地も多いから、自由に使ってくれてかまわない。それで君達はどうするんだ?」
 一行は、先遣隊として、簡易な調査を命じられていた。
 あとはまあ、それにかこつけて観光でもしてやれば良いか。村人達と交流したってかまわない。
「良ければ宴でも開こう。たいしたものはないが、皆の娯楽にもなる」
 確かに、人々の好奇の視線が集まっているのを感じる。
 長らく閉鎖されている村なのだから、刺激的な行事となるだろう。

「一つだけ注意しておこう。知っていると思うが、この島の外側は雲と暴風に覆われていたんだ。それも、ついこの間まで。けれど今ちょうど帝国にお世話になっているユルグ少年が、村の奥にある石版に触れたとたん、雲がみんな吹き飛んでしまってね。原因も何も分からないんだ。我々もこの島を、ほとんど調査出来ていないのさ。だから未知の危険があることは、承知しておいてほしい。安全な場所は教えるがね」
 少なくとも、件の石版を除く村内と、畑は安全だと思われる。それから村人が狩猟や採取を行う森の付近、そして魚や水を調達している湖と川の付近も同様だ。そのほかは、ほとんど未踏といってよい。
 石版についても、村では『あやしいからなるべく触れないようにしよう』といった不文律はあったが、そもそも『風情があるから』と、そのあたりでよく祭りなどをしていた。いたずら者や、酒に酔った者が触れたことなど、日常茶飯事であったろう。ユルグ少年の一件が例外的であると考えるほうが自然だが――。
 なにはともあれ、ここは大昔に大量の犠牲者を出したという古代遺跡だ。
 何かと気をつけておくにこしたことはない。

「ねえ、そういえば知ってる?」
 リーヌシュカが肘でイレギュラーズを小突いた。
「調査隊を結成した歯車卿ってのは大丈夫な人なんだけど、軍で色んな人が興味もってるみたいなの。それで特務っていわれてるとこが噛んできてて、パトリック・アネルってのが面倒くさい人で」
 なるほど。帝国内でも派閥毎に色々あるのだろう。
 ゆくゆくはそういった所にも気を配ったほうがいいのかもしれない。

 それではさて、何からはじめようか。

GMコメント

 pipiです。
 伝説の浮遊島アーカーシュの村、レリッカをお散歩してみましょう。

●目的
 依頼内容は、一応『簡易な調査』ということになっています。
 とはいえ初見なわけですから、村でお茶してても調査にはなります。

●持ち物
 今回の皆さんは、皆さん自身の所持品の他に、鉄帝国から『缶詰とビスケット中心の戦闘糧食』と『水や紅茶の茶葉や珈琲やジャム、チョコレートやガムなどのいくらかの嗜好品』を、数日分支給されています。
 あとテントや寝袋、バーナーなど。キャンプっぽい用品が一式あります。
 他、簡単に持ち込みたいものはプレイングに指定してください。もっていけそうなものであればもっていけます。

●出来そうなこと
 以下にいくらか羅列します。書かれていないことも、出来るかもしれません。

・村の近くのお散歩
 川、湖、墓地、森の入り口あたりは安全なようです。
 野生動物が居るため、村人達は狩猟しているようです。

・村の中のお散歩
 家や畑、ぶつぶつ交換の商店があります。この辺りで採れた野菜や木の実のほか、肉や魚といったジビエ中心の生活スタイルです。
 塩は岩塩のみの貴重品であるほか、穀物は野生種の米や麦しかないらしく、不足しているようです。

 村人達は皆さんに興味津々です。おしゃべりしてもいいでしょう。

・食事など
 好きに使って良いという家や広場があるようです。
 間違いなく、好奇心旺盛な村人達も集まってくるでしょう。

・村長とおしゃべり
 村長はアンフィフテーレ・パフという人物です。種族はおそらく旅人のようです。
 村の若者にはエターナル村長とかヤングじじいと呼ばれ、親しまれています。
 若く見えますが、百年以上を生きているらしく、なんでも全滅したとされる大規模調査隊の生き残りのようです。村人達も、その調査隊の子孫であるとか。
 たぶん色々知っています。

・村から離れた場所のお散歩
 かなりの危険が潜んでいます。なにしろ何もわかりません。

●同行NPC
『セイバーマギエル』リーヌシュカ(p3n000124)
 皆さんに憧れる、鉄帝国の軍人です。皆さんについてまわります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 村人達は信用できますが、なにぶんほとんど未知の遺跡です。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 未知の遺跡だからです。難易度もNORMALですし。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <アーカーシュ>忘らるる都完了
  • GM名pipi
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年04月18日 22時06分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ヨハン=レーム(p3p001117)
帝国軽騎兵隊客員軍医将校
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
ジェック・アーロン(p3p004755)
天空の勇者
ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを
小金井・正純(p3p008000)
燻る微熱
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
陽気な歌が世界を回す
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
魔砲トレーナー

リプレイ


 見上げれば、空がずいぶん近く感じられる。
 目映い朝の日差しとは裏腹に、風はずいぶん冷たいのは、さながら高原のようだった。

 案内された通りに、『闇之雲』武器商人(p3p001107)達イレギュラーズ一行は、遺跡のほうへと歩みを進めている。北側にはコケが生えているが、さほど風化したようには見えない。
「レリッカと、言うのですね」
「そうみたいだねえ、兎のコ」
 木に彫られた文字を読み取った『うさぎのながみみ』ネーヴェ(p3p007199)に、武器商人が頷き、『陽気な歌が世界を回す』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)も相槌一つ。
「伝説の浮遊島たぁ、中々に詩人心をそそられるじゃないか」
「誰もが未知の場所、とても、とても、気になります!」
「遺跡でもあるなら、さらにドンだ」
 後で曲にでもしてやろう、などと。そんなことを考えながらヤツェク達が歩くのは、伝説に語られるアーカーシュという浮遊島であった。

 なんでも百年ほど前に鉄帝国が調査しようと試み、隊の全滅によって断念したものらしい。
 その後は存在すら危ぶまれ、忘れ去られ――昨今へと至る。
「私も本で読んでたのよねぇ……」
 そう述べた『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)の言葉通り、ここもまた童話に語られるおとぎ話の世界だ。
「不思議な空飛ぶ島でしてー! こういうのが実在してると他の噂話や夢物語も実在するのでは? ってなって夢が膨らむのですよー!」
「そうよねえ」
 確かに『にじいろ一番星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)の言う通り、伝承の実存が確認されるということは、他の様々な事象も存在するかもしれないという希望にもなる。
 そんな訳で、すっかり歴史の中で忘れ去られていたアーカーシュであったが、こうして再び人々の前に姿を現したのだ。島を多う分厚い雲と雷が、なんらかの要因により消え失せたことによって。
 鉄帝国はアーリアも知る歯車卿という政治家を中心に新生調査隊を結成。ローレットにも調査協力の依頼をしたという訳だ。

 地に足はついているのに、遙か下にも地上が見える。『白砂糖の指先』ジェック・アーロン(p3p004755)は確かめるように、何度か土の上を歩いてみた。イレギュラーズはこれに近い光景を、空中神殿で見知っているとはいえ、実際はまるで違っている。
 なにせあの場所(空中神殿)は、もっと、こう『止まっている』のだ。こことはまるで違って――
 遠く雪を頂く山々は丘陵めいても見え、比較的近くに見えるのは、あれがノイスハウゼンの町だ。
 空飛ぶ島というのは、どんな世界でも、どんな場合でも、心躍るものらしい。武器商人もまた興味津々にあちこちを眺めて見る。特に鉄帝国は遺跡なども多い地域であり、そこには遺失してしまった技術もある。『終わった物語』の『続き』があるかもしれないと思えば、尚更。
「……オアア走り回るんじゃない!」
「知らなかったの? 騎兵隊は駆け回るものなのよ!」
「あーもう」
 はしゃぎ回るリーヌシュカ(p3n000124)は、いつにもまして子供そのものである。
 落ちるのではないかと、『Safety device』ヨハン=レーム(p3p001117)などはひやひやするが、どうにかエスコートしてやらねば。

「遺跡の中に建築しているのですね」
「色々楽しそ……興味深いね!」
 どこか故郷の光景を思い起こしながら呟いた『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)に、『希う魔道士』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)も頷く。未知の遺跡、魔術、技術が見つかるかもしれない。それに――ヨゾラは思う――猫だって居たりして。
 ドラマは奇しくもR.O.O『ネクスト』の中で、鋼鉄(スチーラー)の空賊(!)と共に浮遊島バビロンを冒険していた。ネクストという世界は、混沌を模倣していると言え、この現実世界にも『もしかしたら』という思いもあった。まさかこちらでも、似たような所に足を踏み入れることになるとは。
「まずは協力関係を結んでおきたいところだ。それから下調べ」
 いきなり遺跡調査に向かうのは命取りであるとヤツェクは述べた。何しろ何も分からないと来ている。

 そんなことを考えながら歩みを進めると、人影が見えた。
 カラスムギのようなものを脱穀している、中年の女性だ。
 本当に人が暮らして居るとは――『燻る微熱』小金井・正純(p3p008000)が、どこか感慨深げに見つめていると、女性が立ち上がった。
「おおお、村長の言ってたお客さんかい!? たまげたねえ、本当に人ってのは居るんだねえ」
 一行は挨拶を交すが、「名前は何て言うんだい」「どっから来たんだい」「そりゃどんなところだい」などと、女性の質問は止まらない。どうやら早速捕まってしまったらしい。


「すまなかったね。ロゼッタは小さな頃から話好きなんだ」
 一行に救いの手を差し伸べたのはレリッカの村長アンフィフテーレ・パフであった。
 村の中心にある広場に案内されると、村人達は仕事の手を止め、一行を興味深げに眺めはじめた。
「皆、聞いて欲しい。こちらが件のお客人方だ。くれぐれも粗相のないように」
 村人達は村長の言葉に頷くが、やはり好奇の視線は集まったままである。
「まあ、こういう所なんだ。申し訳ないが、許してやってほしい」
 ここは互いに、そういうものだろう。

 村内は想像していたよりも、明るい場所だった。
 遺跡の天井はところどころ穴が空いており、採光に適している。火を焚くにも都合が良いのだろう。
 村長は一行と共に村内をいくらか歩き、自由に使って良い建物などを案内してくれた。
 そして――

「それじゃあ、また後でね」
 アーリアがひらひらと手を振り、一行は思い思いの場所へ歩き始めた。
 まずは各々が村内の気になる場所を調査し、後で一緒に村の外を探索する手筈になっている。
 ヨゾラが持参したのは小麦粉に塩、それから砂糖と菓子類だった。武器商人は塩と胡椒である。
 村はどうやら貨幣経済が成立しておらず、物々交換をしているという話だった。
 だからこうしたものは貴重品であり、取引に役立つはずだ。
「ねこ……!」
 早速、興味への道しるべが伝えたものは、一匹の猫だった。
 後ろ足で首をかき、大あくびをしている。
「あいつはミック。ねずみ取りの名人さ。中々の働きモンだぜ」
 近くで一休みしていた中年の男がそう言った。
 ヨゾラは挨拶し、さっそく猫――ミックを観察する。
 ミックは普通の猫より少しだけ大きく、耳の先に黒いふさ毛がある。イエネコに近い野生種の山猫なのだろう。かつてイエネコの祖先がそうしたように、きっとネズミを追いかけて人里に住み着き、いつしか人との共生をはじめたのだろう。執政官のルシール辺りが居れば、得意げに分析しはじめるに違いない。
 それより重要なことは、触れさせてくれるだろうかという所だが。
「兄ちゃん、大丈夫大丈夫。人懐こいんだ、そいつは」
 そっと首元にふれてやると、ミックは目を細めてごろごろと喉を鳴らし始めた。
 背側の毛は幾分か硬く、立派なダブルコートを持っているようだ。
 胸が高鳴る。とてつもなくかわいい。

 とうとう仰向けになった猫の腹を撫でるヨゾラの向こう側では、武器商人が商店らしき所で立ち止まる。
「やァ。少し見せてもらってもいいかぃ?」
「何か珍しいものでもあるのかい? あたしらにとっちゃ、ありきたりのもんばかりだけどね!」
 店主の女性はそう言って大声で笑い始める。
 なんというか、大らかな気質の村だ。
 村人達の気質は鉄帝国と近いのかもしれないが、どこか海洋を思わせる陽気なのどかさも感じる。
「こいつはシトラの実、ほんでこっちがコリコナッツってんだよ。炒ってあるんだ。ひとつどうだい?」
「お言葉に甘えて、いただこうかねぇ?」
「はいよ!」
 香ばしくほろ苦い風味は、クルミに似ている。
 村の糖分は僅かな蜂蜜、塩分は岩塩の採取場に依存しているらしく、塩や胡椒などの調味料は絶好の取引材料になってくれた。いくらか入手したものから、特産品と言えるほどの品物が見つかれば、商人ギルド・サヨナキドリにとっても利益になるだろう。なにせこの村とは、誰も交易していないのだ。
「ああ、小鳥にいい土産ができそうだ。ありがとーぉ」
「こっちこそ、面白いもんが手に入ったよ。ありがとさんね! アッハッハ!」

 そこは市場と呼ぶには小さいが、取引場の役目を持つ一角だった。
 向かいの店では正純が、毛皮やなめし革、水鳥の羽などを興味深げに眺めている。
(狩猟や採集が主な食料を得る手段、どんな生態系をしてるのでしょうねこの島は)
 正純はあえていくらかの貨幣を持ってきたが――
「銅は地金になるが、銀貨を潰すのはもったいねえなあ。まあ、初めて見たもんだけどよ」
「ははぁ、なるほど」
 店主はそんなことを言いながら難しい顔をしている。誰もがそうかは分からないが、少なくともこの男は、貨幣というより、金属としての価値に重きを置いて考えているらしい。
 元々、彼等の先祖――それもわずか数代前の――は鉄帝国をはじめとする混沌各地の人々である。全てが原始の存在という訳ではないから、貨幣というもの自体がなんであるのかは伝承されているらしい。
「よう姉さん、キノコの串焼きはどうだい? お題はその銅貨ってやつでいいぜ」
 そんなことを考えていると、隣の屋台から声がかかる。
「それではお一つ、頂けますか? だいたい、このぐらいだと思うのですが」
「毎度あり!」
 正純は少し考え、地上での『相場』を渡す。
 僅かな塩だけを振られたキノコの串焼きをほおばると、じゅわっと旨味が溢れてきた。香りも中々だ。
 思っていたよりもずっと、きちんと食べられる味だと感じ、失礼かな……と思い直す。
 あちこちの店頭に並んでいる商品はあまり種類が豊富ではない。そこから推測するに、村の作物などが豊富とは思えないが、こういった所を精査すれば、鉄帝国の食糧事情に寄与することもあるだろう。
(そうなればあの村のように飢えに苦しむことも――いえ、それは今は良いでしょう)
 あとはやはり、特産品のようなものがあれば、今後の交易を行う上で役立つのではなかろうか。

 簡素な市場の近くには、これまた簡素な工場(こうば)のような建物が軒を連ねている。
 その向こうには、民家が建ち並んでいた。空き家がずいぶん多いのは、人口減少が偲ばれる。
 家々は木材を組み合わせて、遺跡の中に小屋を作って生活しているようだ。屋根は所によりあったりなかったりするが、茅葺きのようなものが多い。
 屋根があったりなかったりするのは、おそらく『遺跡の天井』の有無に左右されるのだろう。穴が空いている所からは、きっと雨が降るのだろうから。
 アーリアはいくらかの民家を眺めた後、そのあたりを歩き始めた。
 気になるのは生活レベルや衛生状態だ。件の歯車卿にも情報を持ち帰って、報いてやりたい。
 恩を売ればウォッカがダース単位で――なんてことも考えつつも。
 見たところ、村の生活は非常に素朴、言ってしまえば原始的だが、ある意味では驚くほど文明的であるとも言える。目に見える道具の多くは石器や木材だが、品質は高い。この島に降り立った先人達が、知恵を駆使して切り拓いたのだろう。こうした事例は『車輪の再開発』などとも言えるだろうが、苦労の連続だったに違いない。石やいくらかの魔術で木を切り、掘り、削り、道具にしている訳か。
 水道はないが、上水と下水はきっちりと区別されている。衛生観念はしっかりしているようだ。
 村人達は善良で、理知的な人々が多い。言うなれば、こんな『海のない無人島』のような過酷な環境を、見事に生き抜いているだけある。
 年齢分布は――老人が少ない所に、環境の過酷さを感じ取ることが出来る。気になるところは、若者の数がずいぶん少ないことだろうか。


 案内された無人の家屋、その前にある小さな広場では、ルシアがテキパキと茶器を並べ始めた。
 新しい場所で新しい話が聞けるなら、いっそ盛大なお茶会でも開けば、いろいろな人が来るに違いない。
 簡易箱庭、空飛ぶお茶会――まずはこれがあれば、万事解決する。
 けれど、ルシアとしては、この土地独特の果物なども使ってみたいところ。
 幸い鉄帝国からはバーナーなど、キャンプ用具の一式が支給されており、火には困らないが――
「お嬢さん、お嬢さん。そいつは珍しいもんだね。そいつは茶器かい?」
「そうなのですよ! みんな来てくれたら嬉しいのです! お茶会を開くのでして!」
 老人が話しかけてくる。
「カカカ! こりゃ皆を呼んでこんとな! 婆さんや、ちとご近所さんを集めてくれんかの」
「あいよ。アタシに任せときな」
「そんじゃワシはこっちを手伝おうか」
 老人はそう言うと、石窯に薪をくべ、小石を焼き始めた。
「こうしてな」
「!」
 熱く焼けた石を、木の器に注がれた水に入れると、みるみる沸騰する。
 なるほどこの村では、熱湯をこのように調達するらしい。
 それにこの石窯があれば、クッキーやパンケーキ、パイなども焼けそうだ。
 ルシアは先程、商店でお菓子との交換によって手に入れた木の実や果実を並べる。
 お菓子の材料になりそうなものを、見繕っていたのだ。木の実はクッキーに乗せたりしてもいい。甘酸っぱい果実はパンケーキと合わせると美味しそうだ。形は地上の町などで見かけるものよりもずいぶん不揃いなものが多いが、そこはデコレーションの腕の見せ所だ。目一杯、可愛く盛り付けてあげよう。
「腕が鳴るのですよ!」

 それから一時間ほどして、お菓子が焼ける香りが漂いはじめると、いよいよ人が集まってきた。
「ワシのじいさんから聞いた話だがね、なんでも大嵐の中を飛んだって言うじゃないか。軋んで、バラバラになっちまいそうな気球がな、ついに破れたそうでな」
 ネーヴェは村の人々から、いろいろな話を聞いていた。
「それで、どうされたのですか……!?」
「嵐の中を飛ばされて、気付いたら陸の上に居たんだと。じいさんはついに、天国に来ちまったと思ったそうな。この島は雲の壁に覆われてたんだが、不思議と上のほうは晴れてることが多くてな」
 語られているのは、先祖の冒険譚だ。
 この老人が言うには、祖父にあたる人物が件の調査隊だったらしい。
 ネーヴェはこうした話を聞くのが好きだ。まるで自身が体験しているように思えるから。それにここで会えたのも何かの縁なのだから、と。
「おお、村長が来た。あいつが一番詳しいんだ。なんせずーっと生きてるからな。ガッハッハ!」

 古びた書類やいくらかの手記をかかえ、歩いてきたのは村長だった。
「確かに『死んじまったー』とか叫んでたよ。あんたの爺さんは」
 村長は老人へ苦笑をこぼし、テーブルへすっかり茶色くなった紙束を広げる。
「こんなものしかないが」
「ありがとうございます」
 礼を述べたドラマは、当時の貴重な書類へ早速視線を落とす。
「わたくしも拝見してよろしいでしょうか?」
 ネーヴェも静かに片手を上げた。
「我(アタシ)も知りたいところだねぇ」
「もちろん、どうぞ」
 村長に促され、各々が木の椅子に着席する。
「お茶がはいったのですよ! こっちは鉄帝国の紅茶の、こっちは村の薬草茶なのですよ!」
 ルシアがお茶と焼きたてのお菓子を持ってきてくれた。
「それからこっちは、クッキーとパンケーキでして!」
 あとは珈琲も用意したのだが、これには村長が食いついた。
「……うん、百年分の味わいだ。それで最近の世情はどうなっているのかな?」
「それには僕がお答えしたい所だけど……このちっこい犬みたいなの、エヴァンジェリーナ・エルセヴナ・エフシュコヴァだよ。一人前のレディとして僕たちの国の事を教えてあげて、僕はお茶とか飲んでるから」
「犬とは何よ、失礼じゃない。あなたなんか猫みたいなくせに」
 尻尾を掴もうとしたリーヌシュカの手を、ヨハンはひらりとかわした。
 ヨハンとリーヌシュカのやり取りに村長は苦笑すると、「それじゃお聞かせ願えると幸いだ」と、話し込みはじめた。後で地上を観光している三人の子供達から情報が入るのだろうけれど、情報量が多いに越したことはない。それに子供達は、自分達が興味をもった今年か頭にないだろうから。その点リーヌシュカなら――ルシアの菓子を熱心に食べる姿が見えるが――こんなでも軍人だ。
 ヨハンもクッキーと、それから糧食のクラッカーを一口。
 皇帝陛下から賜った糧食、感無量である。ああ、ちゃんとした肉が食べたい。
 それはともかく、ヨハンは思う。結局、自分達イレギュラーズと鉄帝国、そして村の数名の手でも借りて、少しずつ外を調査する――そんな合同作戦を展開するしかないのだろう。
 領土欲の強い鉄帝国(のうきんランド)は絶対に乗り気だし、その際には村長やリーヌシュカから推薦の口添えも欲しい。ヨハンとしては鉄帝国のために働くのはやぶさかではなく、何よりこのちっこいのは――リーヌシュカに視線を送ると、彼女は楽しげに微笑んだ――放ってはおけない。

 村人達は礼を述べながらがクッキーを手に取り、幸せそうな表情で食べ始めた。
 ルシアは小さな子供に『秘密の場所』なんてものを聞いてみたが、なんだかしぶって中々おしえてもらえない。けれどお菓子を食べ始めると色々と話始めた。レリッカは隅の方が入り組んでおり、よく『かくれんぼ』をするということだ。こうした生活でも、楽しみを見つけて、暮らしているのだろう。
 そんなわけで、ネーヴェとドラマ、武器商人もルシアにお礼の言葉を述べて、手記などを確認する。
 小型飛行船や気球などの飛行計画やタイムスケジュール、巨大な雲のスケッチなど、内容は様々だ。
 計画そのものは、かなり無謀なものに見えたが、鉄帝国らしいといえばらしい。
 それから手記のほうは、多くが日記のような内容であったが、胸が痛むものが多かった。
 初めの頃は誰それが亡くなったというもの、家族に会いたいといったもの、いくらかの探検の記録――
 多くが失敗と挫折の連続だ。けれどレリッカを作っていく過程は前向きで力強い。いずれにせよ、なんとも生々しいドキュメンタリーである。そして――
「あ……」
 ほとんどが、遙か過去のまま途切れている。あるいは、極端に日付が飛んでいる。染みのようになって消えてしまった文章もある。きっと筆記用具がなくなったのだ。
「貴重な資料を、ありがとうございます」
「いや、問題ないよ。日の目が見られて良かっただろう。これを書いた奴は、そりゃもう大層な目立ちたがり屋だったしね。なんせ、あそこで踊ってるケイティのご先祖だから」
 村長が指さす先では、陽気そうな女性がステップを刻んでいた。

「そういえば、村には、何か困りごとはあるのかな」
 ジェックはちょうどコーヒーをおかわりした村長に、思い切って尋ねてみた。
「困りごと――そうだな」
「どんな些細なことでも力になるよ。ま、まあ……アタシだけじゃ解決できないことは仲間の力を借りたり、すぐ解決できなかったりするかもだけど!」
 ジェックが聞いた限り、村の人はあまり島について、本格的な調査などを行っていないという話だった。
 ということは、村の外や島について最も詳しいのは村長のはずである。
 村長は協力的ではあるが、ジェック達イレギュラーズが信用を得ている状態とは言いがたい。なにせイレギュラーズの実力とて見聞でしか知らなければ、深い友好関係を築いている訳でもないのだ。だから村長が知っていることだって、その全てをつまびらかに教えてくれるかは分からない。
 村長も村人も、今までの生活が壊れるかもしれないという不安だって抱いているだろう。せめて悪人ではないことを知ってくれたら、安心してもらうことが出来る。少なくともギルド・ローレットは敵ではないと認識してもらいたいところだ。
 ちょっとした下心としては――そうしたほうが今後の調査もしやすくなるという所もある。利害を一致させるのは大切だろう。とはいえ先程リーヌシュカが言っていた「面倒な人」も居るようだから、完全に安心されても困るかもしれないが、はてさて。ともあれ、そういった諸々の『信頼』を得るため、まず下積みをしておきたいところである訳だ。
 ならばどうすれば良いか。良くある手法としては酒を飲んで腹を割る――といっても、ジェックはまだ酒を飲むことは出来ない。だったらここはギルド・ローレットの冒険者らしく『困りごとの解決』からだろう。
 幻想でも豊穣でも、それこそ覇竜でも同じだったのだから。
 要するに『お使い』を引き受けるという訳だ。
「もしも小麦を栽培することが出来たら、なんて考えることがあるよ。野生種はあまりに歩留りが悪くてね。品種改良も考えたんだが、ずいぶん難しい。作物全般に言えるが。あとは金属が不足していてね。ナイフや斧、ハンマーや釘なんかがあれば、かなり助かるだろうな。どうだろう?」
 なるほど、そういったものを欲しているらしい。これはリーヌシュカあたりに伝えれば上手くやってくれるだろう。だから早速そんな話をしてみると、リーヌシュカがそのあたりをやってくれると述べた。
 あとはすぐに解決出来そうな問題は何か。
「君等が今後、調査する上で手に入れた情報のうち、特に機密などの問題にならないような部分があれば……たとえば植生やなにか、発見したものについて、教えてほしい」
「それはいいわ。そのぐらい当然よ」
 これはリーヌシュカが即座に許可を出した。鉄帝国はこういう所にいい加減だ。良くも悪くも――
「あとは、そうだな。こんなことを頼んでいいものか分からないが」
 村長は少し悩んだ末にきりだす。
「鉄帝国の古い銃があるんだが、良ければメンテナンスを頼めないだろうか?」
「わかった。見せてほしい」
 それは得意分野だ。
 ジェックが確認したところ単純な整備不良だったが、メンテナンスの道具が破損してしまい直せないという状況だ。ジェックは予備と一緒に、いくらかの弾丸もわけてあげた。
「助かるよ。こいつは恩に着るってやつだ。こんな貴重品で獣を撃つわけにはいかないが、古代獣ってのがなかなか厄介でね。たまに村の近くにも現れるんだ」
「その時は、遠慮なく呼んでよ」
「そうさせてもらいたいのは山々だが、我々には先立つものがない」
「こっちの調査費につければいいじゃない」
 リーヌシュカがあっけらかんと言った。
 鉄帝国というのは、本当にいい加減な国である。


 そんなこんなで時刻はそろそろ昼、いったん集合して村の外も見ておきたい所だ。
「あ、危ない事はしません! 安全に、充分気をつけて……帰ってきますから、ね」
 村人達はかなり心配したが、ネーヴェはそう言って落ち着いてもらう。
 調査ならなんでもいい――村の中に居るだけでも問題自体はない――とは言え、フィールドワークも仕事内容のうちだから、今後に繋げることを考えるならば、出かけない訳にもいかない。
 未知とは言え村の近郊ではある。多少の障害なら――ルシアが胸を張る――魔砲でずとーんだ。
「任せてほしいわけでして!」
「それでは参りましょうか」
 メンバーの顔ぶれを確認した正純が歩き出す。
 幾分か春めいた空気になってきたが、とにかく細心の注意を払っておくにこしたことはない。弓にはいつでも手をかけられるようにしておく。
 敵は倒すよりも、生体や強度を知ることを心がけたいところだ。
 正純が提案した作戦に一同が応じた。
「それで、どこにいくの?」
 喜び勇んでついてきたリーヌシュカだったが、ここはアーリアが帽子に手を乗せ、首を横に振った。
「リーヌシュカちゃんは村で待っていて」
「えぇー!?」
 彼女は国を背負っているのだ。未知の場所には連れて行けない。そう告げると、リーヌシュカはあからさまに頬を膨らませ、少し俯き、それからたっぷりの時間を置いて「わかったわ」と応じた。
「次は一緒にね」
 アーリアはそう言って撫でてやる。
「約束よ!」
 それにリーヌシュカは、村長あたりと込み入った話をしなければならないだろうから。
(それにしても、こんな素敵な島……鉄帝にいいようにされないといいのだけれど!)

 小さな林を抜け、ハヤのような小魚の泳ぐ小川を飛び越える。
「こういうの……ワクワクします!」
 先程の冒険譚を聞いた後で、いざ自分達もとなれば、ネーヴェの鼓動は高鳴る。
 まずは物音に耳を澄ませ、木の様子を確かめ、上から周囲を眺めてみた。
 壮観な自然が広がっている。今のところの周囲は安全そうだ。
 ネーヴェが次に行けそうな場所を伝えると、一行が頷く。
「兎のコ、何か遺跡か集落は見えなかったかぃ?」
「遺跡らしきは、あちらに。集落は、ないと思います」
 武器商人としては、他の知的生命の存在が気になるところだった。
 後は水質だ。見たところ、多くの場所が地上同様である。湧き水は澄んでいるようだ。
 閉鎖した空中の島だが、どのように循環しているのだろうか。
「精霊の気配が多い気がしますね」
 そう述べたのは、ドラマだった。
「おやぁ?」
 普通よりも気配が濃いということは、顕現している可能性が高いとも思える。或いは――この島の状態を維持するために、精霊力を使ったなんらかの機構が存在しているとも考えられるが。
 仮にそうした存在に遭遇した際には、敵意がないことを伝えたいところだ。
 友好的であれば、ドラマなら対話だって出来る。
 未知は恐怖――好奇心は猫を殺すなどとも言うが。危険があるならば、それを知らぬことのほうが、よほど危ないというものだ。今後の足がかりを得ておきたい。
「何かありそうなのは……あっち、かな」
 ちょうどそんな時、ヨゾラがそう述べた。
 探索を開始して、二時間ほどが経過した頃だった。

 一行はやや小高い丘に登っている。下のほうから遺跡らしきものが見えたのである。
「村の人は、この辺りには、ほとんど来たことがないみたいだよ」
 ヨゾラとネーヴェはあたりの地形などを聞き、メモしていたが、そろそろ話に含まれて居ない地域だ。
 イレギュラーズは慎重に索敵し、罠――たとえば遺跡の中で生きている防衛機構の存在――を疑う。
 壁は激しく損壊しているが、石かセラミックのような硬質な素材で出来ているようだった。
 レリッカの村を覆うものと同じようだ。
 中には植物のつたが入り込んでおり、藪が茂っている。
「石版があります」
「……火の精霊力を感じますね」
 ネーヴェが言い、ドラマが続けた。
 石版は朽ちており、文字らしきものを読み取ることまでは出来なかったが、精霊が封じられているのは確かそうだ。ドラマは思い切って語りかけてみた。
「猛き焔の隣人よ、なにしに使はれるものか」
 それは、『言葉』によって小さな火を起こすために居るのだと応えた。
 さしずめコンロの精霊といったところか。太古の昔に、使役されていた精霊だろう。ずっと居るのだろうが、特に喜怒哀楽は感じない。なんだか不憫にも見えるが、その仕事に不満をもっている訳ではないようだ。解放しようとも思ったが、どちらかというとそこにいることに使命感を持っているように思えたため、そのままにしておく。こういう存在には、たまにそういう所がある。
 ただ一つ言えることは、人為的であるということ。アーカーシュはこうして、精霊を使役する都市だった可能性があるということだ。
 だとすれば――武器商人は思う。明確に意思疎通が可能な高位の精霊も居るのではないか。

 そうこうしていると、わずかに日が傾いてきた。
 一度の往復で、一行はいくつかの動植物、それから先程のコンロのような存在を発見することが出来た。
 外はおおよそ、そんな所だったろうか。


 一行が村へと戻ると、宴の準備が整っていた。
「それじゃ一曲」
 ヤツェクが鉄帝国の古い民謡を弾くと、一人の老婆が近寄ってきた。
「そいつは、アタシのばあちゃんが歌ってた歌だよ!」
 村人達が集まり、また他のイレギュラーズ、それから鉄帝国の軍人達の姿も見え始めた。
 軍人達は村の外にある小さな遺跡に簡易な基地を作成するつもりのようで、そこが拠点になるのだろう。
 噂の『地上に降りた三人』も戻ってきているようで、なにやら村人達に寄ってたかって説教をされている。とはいえ村人達は怒っているというより、なにより心配だったといった様子で、一安心だ。

 再びお茶会の支度を調えたルシアが気になるのは『門限を守るためのお話』だ。
 子供達に聞いたところ、『影のオバケにさらわれる』というものがあるらしい。
 昼前ごろに聞いた『秘密の場所』もしかり、こういった村の習慣は知っておきたいところで、なぜならばそうした物は『経験に基づいて』作られることが多いからだ。
 影にさらわれるというのは、あるいは何か似たような事例が実際にあったのかもしれない。そう考えると、ちょっとぞっとする所でもある。
「じゃあ、約束するのですよ!」
 次に来た時に地上のお土産を約束すると、かなり喜ばれた。

 アーリアが開いたのは即席のバーで、手土産の高級ワインと本日の一本を持参している。
「そりゃ姉ちゃん、すんげーいい酒じゃねえか、おいおい」
「トーマス、酒か姉ちゃんかどっちかにしろ」
「あらぁ」
 ともかく人の心を掴んで、しっかりと打ち解けておきたいところだ。
 村の酒は果実を発酵させた物の他に、芋を元にした蒸留酒にボタニカルを漬け込んだものがあるようで、アクアビットに似ている。金物が不足しているのに蒸留器は作るあたり、人というものは業が深い。
「こりゃいける酒だねえ。それで聞いとくれよ。うちの旦那が、去年の秋に、うちの分の果物をみーんな酒にしちまってね。そしたら向かいのメルロフさんが――」
 課題はいつだって住民との何気ない会話から見つかる――なんてアーリアは思う――領主っぽいだろう。
 こんなでも仕事なのだ。
「そしたらお次に、こんな話はどうだい。空中神殿の大召喚」
 ヤツェクはといえば、酒のほうはあくまでほどほどに。ここ百年の大きな出来事を、ギターと共に村人達に語り聞かせている。ギターを担いだ星屑野郎――吟遊詩人の腕の見せ所だ。
 アピールするのは村の子供や若者達で、ローレットの武勇伝も欠かせない。実力をアピールする意味もあるし、なにより友好関係を築くには酒と歌なのだ。それに若者ならこっそり外に出ているかもしれず、そういった話を聞き出すチャンスもあるだろう。武勇伝に感化されて語り出す者が居れば情報が増える。
 後は村の言い伝えや、歌なども知りたいところでもあった。
 若者が言うには、どうも北の森に古代獣の住処があるらしい。
「ギターってのはそういう楽器だったんだな。初めて聴いたがいいもんだ。こいつを合わせてもいいかい」
「おれにかかればお安いご用だ。アンタのリズムを聴かせてもらおう」
 独特のパーカッションを持ち出してきた村人にヤツェクが応えた。
 即興のジャムに、何人かの村人が合わせて歌い出す。
 村で歌われているのは、鉄帝国の古い流行歌が多いようだが、メロディ楽器がない分、いろいろなアレンジもされているようで興味深い。
 あとは出来れば、あの村人達にとっ捕まっている三人の少年少女とも仲良くなってきたいところだ。
 石版の内容も知りたい所なのだが、石版について武器商人が調べた所、おかしなことがあった。
「おやぁ?」
 蝶のように見える精霊力が舞っていたのだが。
「わたしはウェナス、この都市の――」
 そんな声が聞こえた気がしたのだ。この件は持ち帰り、精査したほうがよいかもしれない。
 知っておきたいということなら、リーヌシュカが言っていたパトリック・アネル大佐と特務について、立場、思想、そしてどのように『めんどくさい』か。ヤツェク達にとって、なにしろ今後、冒険に水を差されてはたまったものではない。
 そんなわけで、これはヤツェクが後々に知る事になったのだが、パトリック・アネルは独断専行が目立つ人物であるようで、階級と機密特権を盾に、調査隊の中に独自の派閥を築きつつあるらしい。そうした動きは、鉄帝国という国家の目的にそぐわない気もする。どうにも注意しておく必要がありそうな人物のようだ。

 大規模召喚と言えば――ヨゾラは村長の後ろ姿に声を掛けた。村長が言葉通りの人物(ウォーカー)であれば、それよりもずっと前に空中神殿に召喚された人のはずだ。
 無理なく話したい範囲で、過去の事や、島や村のこと、ここでの暮らしについて聞いておきたい。
 村長が言うには、やはりここでの暮らしは道具類の不足が目立つようだ。金属や苗、種などがあれば助かるだろう。この島にはどんな不思議があるか気になるが、この素朴で良い人達を害するものではないことを、ヨゾラは願わずにはいられなかった。「彼等に良い事沢山ありますように」と。

「それじゃあ、イレギュラーズ達を知る助けになるかと思って資料を持ってきましたよ」
 宴もたけなわといった頃、ヨハンが切り出した。
 机に並べたのは数冊の本だ。
「何か1000GOLDで出回ってたんですが、この本に載ってる人達も頼りになるのでご検討を」

 いやこれ――『ボディ無知シチュ本』と『HOMURIA』でしょうが。

成否

成功

MVP

ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
魔砲トレーナー

状態異常

なし

あとがき

 依頼お疲れ様でした。

 MVPは状況にギフトがめちゃくちゃ刺さっていた方へ。
 村の人達に、とても喜ばれました。

 それではまた、皆さんとのご縁を願って。pipiでした。

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