シナリオ詳細
<Celeste et>碧落のツークフォーゲル
オープニング
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険峰より尚も遠く。天涯に存在するとされたその浮島は紅鏡の下に姿を現した。
飛鳥は行きずりに見掛け、朗らかな聲を響かせたであろうか。
煙る飛沫の向こうに見えたのは瀑布の如く溢れ出す島特有の水流。それらは驟雨が如く鉄帝国へと降り注ぐ。
遥か蒼穹に存在した『伝説』に滝つ瀬のように逸る心を抑えきれずに『上陸』したのは鉄帝国の『新生調査隊』
嘗て、調査に失敗した大規模調査隊の忘れ形見の作り上げた集落は長閑な空気を纏わせて。
苔むしたのは石を積み上げ乱雑に作られた塀であろうか。蔦絡み、未知の植物がたらりと下がる。
塀の合間から顔をひょこりと出したのは青空を身に纏った美しい蝶々。それらは花々には見向きもせずに草から草へと渡り歩いた。
なだらかな坂道に落ちた礫を蹴り飛ばせば、驚いたようにそれは走り出す。生き物の擬態なのだろうか。
欅にも似た大木から溢れるのは蒲公英を思わす綿毛。ふわりふわりと舞い落ちて鷽思わす鳥の口へと入り込んだ。
それらの向こうに見えたのは瀞だろうか。跳ね上がった翼の生えた魚は悠々と泳ぎ行く。
川のせせらぎの心地よさに微睡を感じる日向の心地よさ。水も、木々も何もかもが未知に溢れたその場所こそ伝説と嘗て呼ばれた浮島なのだという。
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「空から、落ちてきたのだそうです。
まるで物語の一説の様に。『伝説』と呼ばれた浮島から、少年たちが落ちてきて、出会いを結ぶ」
それは奇異なる事であり、物語めいた出会いであったと『聖女の殻』エルピス (p3n000080)は独り言ちた。
鉄帝国南部の町、ノイスハウゼンの上空に伝説と謳われた島『アーカーシュ』が発見され、先見の調査隊が送られたのは早くも幾分か前の話だ。
島内唯一の村『レリッカ』は鉄帝国軍部とローレットの共同調査隊を快く受け入れ、歓迎の意を伝えてくれたらしい。
だが、アーカーシュは未踏の地である。
この地を巡ってにわかに派閥抗争の気配を見せ始めたというのだ。派閥は国家のために行動する軍人達の一派『軍務派』と、特務の機密特権を盾に調査の主導権を握ろうとするパトリック・アネル大佐率いる一派『特務派』との、二つに分かれ始めた囁かれる。
「……わたしには、派閥抗争、というものは分かりませんが。
未知たりえるこの島を探索するのはきっと素敵なことだと思います。
歯車卿からの依頼ではありますが、何処か、探しに行ってみませんか?」
レリッカより少し歩いた場所を見るだけで未知は好奇心を刺激した。花々は鮮やかに咲き誇り、露滴らせる植物の瑞々しさは雲間より垣間見た島の姿そのもの。摩訶不思議な生態系は名も知らぬ小動物や植物の発見にも適しているだろう。
「見えますか?」
エルピスが指さしたのは苔むした塀であった。
「彼方の向こう側に遺跡があるそうです。それから、小川もあります。
少しばかり歩くついでに調査をしませんか。キャンプをして、夜の生態系を観察したいのです」
まだ未知ばかりであるアーカーシュの生態系調査は村から少し歩いた場所にある小川と朽ちた遺跡など地図に新たに書き込むように広げてゆくのだという。
「古代獣と呼ばれた、おそろしいモンスターもいるそうなのです。
それらも、どのような姿なのか調べましょう。白紙の地図に少し書き込む、なんて、なんだか物語めいて楽しいですね」
鉄帝国軍から貸し与えられたキャンプグッズのほかにも持ち込みも可能なのだそうだ。
上空を飛びあがり、悠々と見てみるのだっていい。此処は伝説――まだ見ぬ真白の世界なのだから。
- <Celeste et>碧落のツークフォーゲル完了
- GM名日下部あやめ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年05月07日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
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空を飛ぶことは飛行種ならば日常であるのかもしれない。それでも、縹渺と無辺際に広がっている空を泳ぐように優美に動く島となれば話が違う。
チェレステブルーの空に手が届きそうだと『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)は疵の刻まれた指先を空へと伸ばす。
指先は、空を掴むことなく宙を掻いたけれど。『聖女の殻』エルピス (p3n000080)の云うとおりだとアッシュの唇に薄らと笑みが浮かんだ。
「まるでおとぎの国に降り立ったような、そんな気持ち。
折角、こうして空に最も近い地に降り立てたのなら、せめて今だけは闘争を忘れて未知を知り、未知を辿る旅路を愉しみましょう」
「はい。すこしばかり、こわくもあります」
未知(まだしらない)と言葉にすれば途端に何もかもを失ったかのような感覚に放り出される。街灯のない隘路を進むような奇妙な感覚。
「私も初めてです。誰も知らない地に足を踏み入れる……それってなんだか、本に出てくる探索家の様でドキドキしますね」
デザートの話に花咲かせ、恐ろしさよりも楽しさを見出したいと『シロツメクサの花冠』ジュリエット・フォン・イーリス(p3p008823)は照れ隠しのようにはにかんだ。淡く雪解けのように伸びた長髪はオーロラの輝きとして毛先に抜ける。風に遊ばせるジュリエットは「調査や観察はしっかりやりましょう」と自身の傍らでチョコレイトやスイカを担いでやってきたワイバーンの背を撫でた。
心地良さそうに目を細めたワイバーンの仕草をまじまじと眺めやってから『カーバンクル(元人間)』ライ・ガネット(p3p008854)は黒曜石の様な光を帯びた眸に丸い色を帯びさせる。
「昔は職業柄、キャンプはよくしていたが……大人数でキャンプしたことはあまり無かったな。どういう感じなのかとても楽しみだ」
「そうね! 今日は仕事ってよりもアウトドアっていう遊びの方でしょう?
キャンプって外でご飯食べて、そして何よりばーべきゅーには焼きましゅまろってものがあるんでしょ?」
涎滴る勢いで美味しい『ばーべきゅー』を思い浮かべた『パンケーキで許す』秦・鈴花(p3p010358)は蒼穹に焦がれる幼子のようにキラリと瞳を輝かせる。空を映した眸に描かれた文字は期待。鈴花オーダーのメニューならば『純白の聖乙女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)も知る所。
「キャンプする機会ってあんまりないから楽しみー! 探検にバーベキューに焼きマシュマロと楽しいことも盛りだくさん。名一杯楽しんじゃおー!」
「調査もありますよ」
囁くジュリエットにぱちり大きな眸を瞬かせたスティアは「え、依頼だって?」と小首を傾げた。
「細かいことは気にしない!」
「そうだ、しごと……こ、これは里の暮らしを良くするための興味で甘いものにつられたわけじゃ……とにかく行くわよ!」
未知の領域での探索なのだから、心躍る冒険がしたい。生態系の観察を行えば、この地の事を知る事も出来る――それに、エルピスが「してみたい」というなら希望を叶えてやりたいのだと『木漏れ日のフルール』リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)は笑みを浮かべた。
「ただ、古代獣の存在が不安です。できれば戦闘は避けたいものですね」
「そうですね。未知の土地での調査――と、キャンプ。楽しみだな! 万が一がないようにだけ気をつけましょう」
苔生した塀の内側に荷物を置いてから『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)は周辺を確認する。不思議な蔦に覆われた塀に風に揺らいだ花の一つさえも地上とは何処か違っていて。
「ふむ……今よりここ(拠点)を今日からホストクラブ『シャーマナイト』アーカーシュ支店とする!
おや。気が早すぎましたか? しかし私のギフトはモチベーションによりクオリティが上下致しますので!」
何もない閑散とした地であれど、『無限ライダー2号』鵜来巣 冥夜(p3p008218)にとってはシャーマナイト支店候補に変化する。
冥夜の爽やかな笑みを眺めてから「参りましょう」とジュリエットは穏やかに微笑んだ。エルピスへ手を差し伸べれば、おずおずと掌が重なって。
なだらかな坂を下れば底さえ近く感じるほどに済んだ小河が穏やかなせせらぎと共に歓迎を告げて居た。
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未知の場所では単独行動は危険だとリディアは未知の動植物であるかを判断しながら対話を行ってみようと身を屈めた。
見たことのないふわふわ綿毛を纏う欅の大木の傍からひょこりと顔を出したのは小さな栗鼠。
「……わ、がお、がおー……こちらの言葉で問題ない? やはりそうですか……」
ぱちくりと瞬くアッシュは『動物疎通』を用いて栗鼠へと声を掛けた。どうやらそれはこの地でしか見ない動物だ。栗鼠に似ているが長い尾を持ち水棲生物を食すらしい。木々の洞に巣穴を作りのんびりと腰掛けていたそれはアッシュとリディアを見比べて首を傾げる。
「ここはいいところだけど、怖いものはいない?」
問うリディアに栗鼠は「いっぱい」と合図するように身を捻った。古代獣と呼ぶ存在は島の中には無数に存在していて。地上と同じように、小さな生き物たちは身を潜めて暮らしている。
茂る草木に身を隠すように潜んでいた栗鼠は二人には目もくれず魚を尾からぱくりと丸呑みにする。その姿はアッシュの思い浮かべる『リスさん』とは違っていて、更にぱちりと瞬かずには居られない。
「……あ、食材集めも兼ねているのでしたっけ。食べられそうな木の実とかを教えて貰っても良いでしょうか?」
水辺や餌場を教えて欲しいのだと声を掛ければ、アッシュが飛ばしていた小鳥が微雨のように声を発した。
何か、違うものが近付いてくる気配なのだろう。草垣に身を隠し、栗石のように身を屈める。何かが遠離る音を聞いてから二人はほうと胸を撫で下ろした。
「珍しい植物とか動物とか見つけられないかなー? もし発見したらそこまで進んでみるね!」
「はい。不思議なものがあるでしょうか?」
首を傾げるエルピスに「どうかなあ」とスティアは揶揄うように笑う。散策は小川の周辺まで。穏やかなせせらぎが初夏の心地よさを身の中に流し込む。微睡みを誘う気配を感じ取りながら、ジュリエットは「何か不思議なものはありましたか?」と問いかけた。
「どうかな……。エルピス、よければ上の方まで一緒に行ってみよう!」
「そうね、エルピス。上から気になるものがあればジュリエットに教えてあげましょうよ」
手を差し伸べるルーキスにエルピスは「緊張しますね」と言葉を漏した。鈴花のように自由に空を飛ぶ事が出来る筈なのに。どうしても、尻込みをする彼女を上空へとゆっくりと引き上げたルーキスはくすりと笑った。
「嘘の一日の夢みたいに、こうして一緒に飛ぶことが出来て嬉しいな」
「不思議、ですね。翼がなくとも、空を飛べる……鈴花さま、ルーキスさん。あれは、なんでしょう?」
少し穹へと誘われれば、木々より実った果実が弾け、礫のように落ちて行く。立ち枝の先に存在した果実の重みに耐えきれなくなった枝が振り下ろしたようにも見えた。
「わ、わ、見たことがありません」
不思議そうに見上げるジュリエット。食べられるだろうかと確認するルーキスは籠に幾つか果実を入れてから、ゆっくりと地へと足を着く。
「不思議な果実もあるんだね」
「そうね。あ、そうだわ。小川の水は濾過すればなんとかなるかと思って……一応確認しておくわ!」
鈴花が水を準備している間に、幾つか上空から見かけた果実を摘み取った。
草隠れから覗いた尾にスティアとジュリエットが顔を見合わせればひょこりと顔を出したのはライ。カーバンクルとしての体の感覚を活かして、探索をしていたのだと彼は尾を揺らがせた。
「あっちで栗鼠を発見したらしい。魚を食事にしていたみたいだが、果物も持ってた。探してみても良いかもな」
「リディアさん達の方にも合流してみようか! 拠点で冥夜さんが食事の確認をしてくれるし、色々持ち込んでみようよ」
苔生した塀の向こう側で待っている冥夜はキャンプにはホストが一人必要だと自身が取り出したシャンパンをアルコール消毒用に使用して皆の帰りを待っていてくれるらしい。
夜営の為の薪拾いや、夜間の寒さに備えた準備を続ける冥夜は植物の綿毛を袋に詰め込んで簡易的な毛布を作成してくれていた。ふかふかとしたその手触りは羊にも似ていて、仲間達には好評だ。
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「おかえりなさい。早速BBQとしましょうか! マシュマロを焼きたい方のために準備もしてきましたよ!」
準備を整えている冥夜にスティアは籠を差し出した。『すぺしゃる』は我慢して、普通のお料理を心掛ける幻想種はやることはやるのだとやる気も十分だ。
身を清めるスプレーを使用したリディアは「皆さんもどうでしょうか」と仲間達へと声を掛けた。水質も不明な浮島で少しでも清潔さを身に着けるならば持ち込む物品による。
「有り難う! お料理もするし、手は清めておいた方が良いね。
それじゃあ、フルーツポンチを作ってみようかな。折角拾ってきた果物も使ってみてもいいし……焼きマシュマロ用のディップソースも忘れないようにしないと!」
早速準備に取り掛かるスティアを眺めてアッシュとエルピスが顔を見合わせる。
焼きマシュマロとは? そんな疑問を口にしたエルピスに「串に刺すのだそうです」とアッシュはエルピスと一緒にマシュマロの準備を続けて行く。
「皆さんお料理達者な方ばかりで勉強になります!
スティアさん。持ち込んだスイカを刳り抜いてフルーツポンチのお皿になりませんでしょうか?」
小振りなスイカを半分にルーキスが剣術で割ってくれたのだとジュリエットは嬉しそうに半分になったスイカを抱えていた。中を刳り抜けば、フルーツを入れてフルーツポンチにもなる。冥夜のシャンパンに入れるのも屹度、新しいアレンジとして楽しめる。
日中に倒した獣の肉をライが焼き、鈴花がワイン煮込みや果物ソースを作成。里の食糧を管理する秦家たるもの、美味しく調理することが使命なのだと彼女は頬へと朱を乗せ自慢げにそう言った。
「ましゅまろならば、これも使って下さい。持参してきました。これを焼くんですか……? どんな味がするのか楽しみだな」
「焼くのなら任せてくれ。慣れて居るぞ」
薪を焼べて、火を囲み料理を続ける。爆ぜる音に、赤らんで見える仲間の顔を眺めてルーキスはマシュマロをライへと手渡した。
焼けるまでの時間も待ち遠しく。アッシュはスキレットにぎゅうぎゅうに詰め込んで程良く焼ければソースが焦げない温度でチョコレートを注ぎ入れた。様々な食べ方を楽しめるからこそ出自の違う仲間とのキャンプは盛り上がる。
「焼き立ては熱いから気をつけて……って遅かった! ごめんねー!」
「――――ッあっつ! こ、この体が猫舌なの忘れてた……ちゃんと冷まして食べないと……」
「ふわとろで――あっつい! ちょっと誰か熱いって教えてよ!?」
口を押さえるライと鈴花にルーキスはごくり、と唾を飲み込んだ。スティアが冷ましてからと揶揄うように破顔する傍でエルピスが緊張したように身を固くする。
「エルピスさんも遠慮なく食べて下さいね」
「はい。ジュリエットさまも、ご一緒に」
マシュマロを刺した串をくるり、くるりと回す仕草一つ。それだけでもどこか可笑しく感じて。
小さく白いマシュマロが少し蕩けて落ちて行きそうになるのも一興。白雪に足跡を残すようにくっきりとついた焦げ目に食べ所を確認して口に運べば、想像よりも熱いと二人して口を押さえた。
「えーとキャンプの夜っていえば恋の話って聞いたわ! ねぇ甘酸っぱい話ないの? アタシはない!」
唐突な鈴花の問いかけにびくりと肩を跳ねさせたのはジュリエットとルーキス。
「恋バナはキャンプより女子会って感じがするけど、こういう場で話すのも良いかもね!」
動じることもなく肉を切り分けるスティアは楽しげに耳を傾け、冥夜がムードを作るように音楽を流せば『女子』の話題もヒートアップする。
「ねえねえ?」
「こ、恋のお話ですか!? ええと、恥ずかしいのでまだ秘密です……」
ジュリエットが口から飛び出しそうになる心臓を収めるように胸に手を当て吐息を吐けば、エルピスが首をこてりと傾げる。
アッシュの膝の上には昼間に見かけた栗鼠のような動物が肉が欲しいと甘えるようにちち、ちちと鳴いてせがむ様子が見えた。
「コイバナ……恋の話、ですか。へぇ……」
流石に、此処で好きな人が居ますとは口に出来ない。ルーキスが横目でエルピスを見詰めれば、エルピスは何処か所在なさげな表情をしていた。
「エルピスは、ない?」
「わたしは、嘗て好いた方が居ましたが、もう、亡くなってしまいましたから……。
これ以上は、ないかも、しれません。リディアさまやスティアさまはございませんか?」
炎に照らされたと小顔に浪花が散るような儚さを感じてルーキスは唇を引き結んだ。
愛を囁くことは難しい。一世一代の恋をして、いのちを賭して護られた自らをエルピスは語ることなく桜唇をそれ以上は開かない。
「じゃあ、この話題は――?」
ムードメイカーのようにぱあと花を咲かせる笑みを浮かべた鈴花へスティアはうんうんと頷いた。
リディアが見上げる空は陰りの雲も払除けられ、玉兎が走る。美しい夜は、兎さえ捕まえられそうな程に澄渡っていた。
夜の星明かりを頼りにしながら、自然の囁きに耳を傾ける。眠りの時間は交代をしながら夜営をと決めた。
少しばかりの眠気はふかふかとした綿毛の毛布によるものだろうか。リディアは目を細め、小さな欠伸を噛み殺す。
気付けばチェレステの蒼空は色彩を変化させ濃いゲーテに覆い隠される。
「夜空のような綺麗に光る蝶が飛んでいます。あれは昼間青空に擬態した蝶でしょうか?」
指差すジュリエットは体が告げる睡眠を欲する声に欠伸を漏した。
「睡眠不要な私が見ていますから、少し寝てきて下さいね」
冥夜の声かけに素直に応じて、二人はそろそろとテントの中に潜り込む。外気を遮断した空間にすぽりと収まれば程良い眠気が身を包み込んだ。
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がさ、と音がして眠気眼を擦ったスティアはそろそろと起き上がる。体をぐっと起こしたスティアの指先をちょんと突いたのはアッシュのファミリアーであった。
「あれ……? おはよう」
「お早うございます。古代獣の気配はないようですが……」
夜営を行っていたルーキスが薪を焼べながら起き上がってきたスティアへと手を振った。爆ぜる音を聞きながら、過ぎ去る時に身を任せる二人の元へと僅かな高揚を感じさせた声を届けたのは鈴花であった。
「ねえ、ねえ」
高揚感を隠しきれない声音は、悪戯が成功した子供の様に上擦っていた。苔生した塀に手を当てて覗き込む彼女はその頬を紅色に染め上げて「ねえ、ねえ」と繰り返す。
「どうしたの? 鈴花さん」
「あのね、外は安全に過ごせて、こんなにも楽しくて。ほんと平和で、里の外って捨てたもんじゃないと思ってたの。
そうしたら昼間に見付けたって言ってた栗鼠が居て……こっそり追掛けてみたんだけど!」
天蓋を覆う骨や洞もない。何処までも広がって行く涯てに焦がれた亜竜種の少女は拠点として使用した古代遺跡の端に階段を見付けた。
明かりもなく、直黒の世界に我が物顔で降りて行く小さな栗鼠の背を追掛けるように鈴花は落ちていた団栗をぽい、と投げた。
かつん、かつん。跳ねる音と共は夜半に響いて研ぎ澄ませた鈴花の鼓膜を叩いた。
「古代遺跡……」
夜営を続けるルーキスはアッシュのファミリアーを連絡役にスティアと鈴花に様子を見てきて欲しいと告げた。張ったテントの中ではまだ眠るライやリディアの姿もある。ジュリエットとエルピスは寒くないようにと身を寄せ合って眠っているだろうか。
こそりと顔を覗かせた冥夜は二人の少女が遺跡の内部へと入っていったことを聞き、警戒するように頷いた。
「さて、寝込みを襲う無粋な輩がいるかと思いましたが――いやはや、此方が攻め込む番ですか?」
「……何かあれば、エルピス達を起こして付いていこう。荷は置いていっても構わないだろうし」
礫を蹴り飛ばし、穹より離れた場所へと降りて行く。決して広くはない遺跡内部に降りたってスティアは「行き止まりかな?」と首を傾げた。
宵の寒さはまだ身を震わせる。天蓋飾った紅鏡が遠離ることが口惜しくも感じる夜半の遺跡は更にひやりとした気配を二人へ届けた。
「違う、見て。ほら……ここ!」
稼働していない魔道装置。そう、称するしかない不可思議な装置が、堂々と鎮座している。それ以外は変哲のない暗い遺跡だ。上部に露出していた部位と同じ、変哲のない場所だ。
それでも違和感と奇妙な高揚が、発見となって二人の少女の胸を衝く。
暗がりを進み踏み抜いた一歩。鈴花の足先が沈み込み何かが外れる音がした。がこん。
その音に驚愕し、上擦った声を開けたのは何方か――先に見えたのは更に『深部』へと通じている新しい道。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
この度は未知の島でのキャンプにご参加頂き有り難う御座いました。
夜営に至るまで、沢山の対策を取って安全なキャンプを楽しむことが出来てエルピスもとても喜んでいました。
最後……新しい道の発見となり、おめでとうございます。
その先はどうなっているのか、今からとても楽しみですね。
GMコメント
日下部あやめと申します。どうぞ、よろしくお願いします。
●目的
アーカーシュでキャンプをしよう
●ロケーション
アーカーシュの村『レリッカ』から少し離れた場所に存在する小川の古代遺跡です。
古びた遺跡は苔むした塀に覆われており、内部に潜り込む必要はない程度の広さです。
その周囲には奇妙な蔦や植物動物などがうろうろとしています。『非戦闘スキル』などの利用もオススメです。
まだ未知なる場所です。川も飲む前に水質を確かめた方がよいでしょう。
この地で一泊のキャンプをします。BBQなんかを一緒にしてみても楽しいかもしれませんね。
●古代獣(エルディアン)
いると言われたモンスターです。どのような姿であるかはわかりませんが凶悪であるのは確かです。
とても大きなフクロウを見たともいわれていますが……。
●キャンプ拠点
さびれた古代遺跡です。この場所はひとまず『名前は分からない場所』として地図に記載されました。
この地を起点に調査を行いながら楽しく1泊を過ごしましょう。
キャンプグッズは鉄帝国軍から貸与されていますが、ワイバーンなどの背に乗せて持ち込み可能です。
●特殊ルール『新発見命名権』
浮遊島アーカーシュシナリオ<Celeste et>では、新たな動植物、森や湖に遺跡、魔物等を発見出来ることがあります。
発見者には『命名権』があたえられます。
※命名は公序良俗等の観点からマスタリングされる場合があります。
特に名前を決めない場合は、発見者にちなんだ名が冠されます。
※ユリーカ草、リーヌシュカの実など。
命名権は放棄してもかまいません。
※放棄した場合には、何も起りません。
●同行NPC『エルピス (p3n000080)』
エルピスがお供します。ヒーラー、飛行有です。飛ぶことにはあまり慣れていません。
世間知らずでおっとりとしていますが、キャンプという新しい体験をとても楽しみにしています。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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