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シナリオ詳細

<咬首六天>omnia perussi alba

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●全てを喰らう『白』
 ある日、雪が降った。
 ギアバジリカの前で雪かき用のばかみたいにデカいスコップを持った司祭はコートの下で白い息をつきながら、今年も冬がやってきたなと呟いて雪かきを始めた。
 どこの家もそうだ。この季節になれば雪が深く降り積もり、馬車はおろか人だって歩けないほどのかさになる。玄関前の雪を土を掘り返すような勢いですくっては端に放り、人がまあまあ通れる程度の道を作るのが雪国の習慣というものだ。
 一軒家ですら毎日大人が汗水流して雪かきをしなければならないほどなのだから、ギアバジリカほどの巨大な建物、くわえて難民キャンプを加えた規模となるとその労力は激しい。
「にしても今年は雪が多いな」
「そうですね……」
 クラースナヤ・ズヴェズダーの大司教ヴァルフォロメイと、革命派のシンボル的司祭アミナはその作業を手伝いながら呟いた。手袋越しの手がかじかんでくる。アミナははぁっと息を手のひらにあてて暖めると、再びスコップを持った。

 後日、吹雪が吹いた。
 昨日路面が見えるほど雪かきをしたはずの地面はすっかり埋まり、前以上のかさで雪が積もっている。
 気温の低下は激しく、コートを着ているのに震えるほどだ。
「これはいけませんね……」
 医療団体『オリーブのしずく』のリーダー、クラウディア・フィーニーは切迫した声で言った。
 誰が見ても『いけない』と思うほどの吹雪だが、医療従事者から見ればその危機感は更に増す。
「人間は不眠、飢餓、寒冷の三つが揃うと必ず体調不全を起こします。これが『保健』の基礎だと思ってください。そしてひとつが著しく失われた場合、人間は必然的に他二つをより多く消費します」
「寒くなると眠れなくなり喰いまくるってわけだ。冷えすぎると頭が痛くなるんだよな。で、油を直接飲みはじめる。こりゃマジの話だぜ?」
 元軍人の男ブラトン・スレンコヴァは忌々しげに呟やく。
 それに同意したのはブラックハンズ隊のリーダーボリスラフである。
「私も軍の訓練施設で聞いたことがあります。雪山での行軍訓練は経験しましたが……」
 建物内から外を眺める。最低限の道は根性で確保したが、降り積もった雪はひどい場所だと建物の一階部分を埋め始めていた。
「この風景はその時のものを思い出させますね。いくらなんでも、ここまで酷い吹雪は都市部近くのこの土地で経験したことがありません」
「ああ、俺もだ……暖炉の薪がえらいはやさで無くなって行きやがる。難民キャンプに配る分がこのままだと枯渇しちまうぞ」
 ヴァルフォロメイのその言葉に応えるように、分厚い資料を持ってアミナが部屋へと入ってきた。
「即刻、手を打たなければなりません。人員と物資を用意してください」
 翳した資料には、『ヤークト鉱山』という名が大きく書かれている。

●ヤークト鉱山調査部隊
「皆さん、集まって頂いてありがとうございます」
 ギアバジリカ内の大講堂。アミナが大きなプロジェクタ画面の前に立ち、集まる大勢の人間たちに向き直った。
 クラースナヤ・ズヴェズダーに属する司祭たち、外から保護され働くことになった技術者たち、そして多くのローレット・イレギュラーズ。『オリーブのしずく』やブラトン隊、ブラックハンズ隊の姿も見える。
 アミナは資料をノックするように叩くと、その内容を大きく壁に表示させた。
「現在私達、革命派難民キャンプ及びギアバジリカは未曾有の大寒波に見舞われています。
 例年通りの冬であれば乗り切れるだけの備蓄がありましたが、このままでは燃料と食料が冬の間に枯渇してしまうでしょう。
 なんとしてもこの事態を乗り切らなければなりません」
 アミナの言葉に反論する者は誰もいない。一度でも窓の外を見たことがあるなら、誰でも同じ思いを抱くからだ。
 肝心なのは『どう乗り切るか』である。
 たとえばこんなことがあった。
 吹雪が吹き始めたとき、いち早くブランシュ=エルフレーム=リアルト (p3p010222)が礼拝堂へやってきて「石炭とか燃料を掘る事は出来ませんか?」と尋ねてきたのだ。
 心当たりがないでもなかったヴァルフォロメイはギアバジリカ北部にある山岳地帯の中に『ヤークト鉱山』という場所があることを思いだしたのである。
 クラースナヤ・ズヴェズダーも宗教組織というだけあってそれなりの情報網がある。ヤークト鉱山に所有者がいることや、その鉱山に新皇帝派の手が及んでいるだろうこともそれなりに突き止めていた。また山中の木のなかには薪にするのに向いている樹木があるだろうことも知っている。……が、逆に言えばそこまでだ。
「鉄帝国にはバラミタという有名な鉱山がありますが、この場所からはあまりに遠い距離です。鉄道網が完全回復していない今、『いますぐに』資源を確保しに行くことは現実的ではないでしょう。
 ですので、すぐ北にある『ヤークト鉱山』からの資源採取を狙います。
 目下の問題は『ヤークト鉱山』が今どのような状態にあるか。資源が本当に採取できるのか。そして新皇帝派が放っているであろうモンスターの脅威はどれほどあるか。そういった部分を調査しなければなりません」
 アミナが次に壁に表示させたのは三つのアイコンと部隊編成を示す表示だった。
 調査員:樹木や鉱石に詳しい調査員、及び技術者で構成されたメンバー。
 シェルパ:荷物の運搬やガイドを担うメンバー。だがここにはいないため歯車兵に荷物の運搬を任せるに留める。
 護衛:戦闘力があり道中のモンスターとの戦闘に対応するメンバー。
「この三つを一つのチームとして山中へと分散、情報収集を行います。
 この調査に何日も時間をかけることはできません。なぜなら未曾有の吹雪がそこまで迫っている……私達には時間がないのです。よって山中にチームを分散させ、モンスターを倒しながら突き進み、情報を得たらすぐに撤退する。これをくり返すことになるでしょう」
 そして最後に、講壇に手を置くアミナ。
「冬の平野部ですらこの有様なのです。山に入れば自然の脅威にさらされることになるでしょう。
 ですが、私達は行かねばなりません。私達を頼り、この圧政から逃げ延びてきた難民の皆さんを守り抜く義務があるのです。あまねく皆を受け入れ救うと決めたからには、その義務が!」
 講壇に乗せた手に力がこもり、強く台を叩く。激昂したことを自覚したのだろう、アミナは瞑目しゆっくりと息を吸い、そして細く長く吐きだした。
「みなさん、どうか力を貸してください。目の前のひとが飢えて凍えて死んでしまうなんて、あんまりですから。
 どうか、どうか……よろしくお願いします」

GMコメント

このシナリオはラリーシナリオです。仕様についてはマニュアルをご覧ください。
https://rev1.reversion.jp/page/scenariorule#menu13
構成は一章限り。描写人数は未定です。
また、早期に調査を切り上げる必要があるためプレイング提出期間は短めとなっています。

●状況
 例年に見られない未曾有の大寒波が鉄帝国を襲っています。
 多くの難民を受け入れ人口密度の高い革命派はこれによる【生産力】への打撃をかなり大きく受けると予想されています。
 打撃を回避するための手段として、まず近隣にある『ヤークト鉱山』への緊急調査が決行されました。
 ヤークト鉱山はギアバジリカからすぐ北に存在する山で、かつては石炭や材木の採取が行われていたという記録が残っています。
 ですが今は連絡が閉ざされ、天衝種(アンチ・ヘイヴン)の存在も確認されています。
 この山へと入り、調査員をモンスターから護衛するのが皆さんの主な任務となるでしょう。
 勿論、『自力で戦闘ができる調査員』として参加することも可能です。

●グループタグ
 誰かと一緒に参加したい場合はプレイングの一行目に【】で囲んだグループ名と人数を記載してください。所属タグと同列でOKです。(人数を記載するのは、人数が揃わないうちに描写が完了してしまうのを防ぐためです)
 大きなグループの中で更に小グループを作りたい時は【チーム名】【コンビ名】といった具合に二つタグを作って並べて記載ください。
 このタグによってサーチするので、逆にキャラIDや名前を書いてもはぐれてしまうおそれがあります。ご注意ください。
例:【ナントカチーム】3名

●特殊ドロップ『闘争の誉れ』
 当シナリオでは参加者(プレイング採用者)全員にアイテム『闘争の誉れ』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

  • <咬首六天>omnia perussi alba完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別ラリー
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年12月19日 22時30分
  • 章数1章
  • 総採用数45人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
ルネ=エクス=アグニス(p3p008385)
書の静寂
ブライアン・ブレイズ(p3p009563)
鬼火憑き

「これは……なかなかだな……」
 身体を震わせ、くびをすぼめる『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)。
 吹き付ける吹雪は強烈な圧力をもって身体を押し、一秒とたたずに腕や頭に雪が積もる。
 ファミリアーによって五感を共有させた二匹の子犬を先行させるつもりだったが、彼らは早くのうちに安全なロッジへと戻していた。なにしろ、子犬たちが凍えて死んでしまうと確信できるほどの冷気と風なのだ。
 実際周囲を見回してみても動物の気配はなく、熊なども土の中に潜って冬眠状態に入っていることだろう。
 こんな場所で活動するものがるとすれば、それこそ強靱なモンスターだけだ。
「む――下がれ!」
 ウェールは前方から気配を感じ、素早く『銀時雨』の術を発動。札から実体化したサブマシンガンを撃ちまくり、銀の弾丸を放つ。
 ぶつけたのは当然天衝種だ。ギルバディアという熊型のモンスターで、木々をなぎ倒しながら突進をかけてくる。
「あああ~〜〜! やっぱ義理立てなんてするんじゃなかったな!
 お陰で要らねえ苦労をするハメになった! ハッハー! 馬鹿を見たぜ!」
 対抗して前に出た『鬼火憑き』ブライアン・ブレイズ(p3p009563)。
「一度はやってやると口に出した以上、コイツは絶対に譲れねえ」
 困難を前にして気力だけは最高潮に達したブライアンは、突進してきたギルバディアを押し返した。
「やはり本を読むのにも暖かくないと集中出来ないからね、その為にも何かしら見つけたいね」
 そう言って後ろに続く『書の静寂』ルネ=エクス=アグニス(p3p008385)。
 仲間の怪我に治癒の魔法をかけてから、『移動図書館』から一冊の手帳を取り出す。
「僕の調べによれば、この先に坑道の入り口があるはずだよ。途中にもモンスターはいるだろうし、中もそれなりに危険なはず。気をつけて進もう」
「へえ、あんた詳しいな」
 調査員の一人が雪の中を苦労しながらついていく。ルネは穏やかに笑い、頷いた。
「調べ物は僕の本領だからね。それより、急ごう。立ち止まっていると雪に埋まりそうだ」

成否

成功


第1章 第2節

ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
エルシア・クレンオータ(p3p008209)
自然を想う心
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
祈光のシュネー
囲 飛呂(p3p010030)
きみのために

 吹き抜ける雪と風は、全てを奪っていく。
 比喩ではない、『全て』だ。
 色と光は白く濁りきって消えていき、音は雪に吸収され暴風によって上書きされる。
 冷え切った空気は匂いすらも止め、素肌を出していれば触覚は消えて然るべきだ。やがて脳まで冷え切り、舌は痺れ意識は遠のいていく。
 もし体温が奪われたならじきに命も奪われるだろう。それは人間も動物も同じであり、こんな状況でも活動しているのは特別に耐性を付与された改良型の天衝種だけだ。
(ニルは……おなかがすくというのが、わかりません。
 わからないけれど、それがとてもつらいというのは、わかるのです。
 ニルはかなしいのは嫌です。
 ニルはつらいのは嫌です。
 ニルには、なにができるでしょう?)
 そんな中で、ニル(p3p009185)は咆哮し襲いかかる狼型のモンスターを波動によってはねのけた。
「ファミリアーは……この天候じゃ使えないです。鳥も、鼠も、犬だって」
 犬は犬種によってはこの極寒の世界でも生き残るかもしれないが、共有した五感が使い物にならなければ意味が無い。
 要は調査員たちを守り突き進むというただそれだけに集中するしか、今はないのだ。
「こういうとき、どうすればいいのでしょう」
「本来であれば『来るべきではない』のですけれど」
 『自然を想う心』エルシア・クレンオータ(p3p008209)はそんなふうにニルの疑問に答えた。
 エルシアは森を愛する幻想種を自負するだけあって植物の生態に詳しい。彼女は風の流れを読みながら、仲間を先導して森のあるエリアへと入っていった。
「あれ? すこしマシになった……?」
 『点睛穿貫』囲 飛呂(p3p010030)は森に入って暫くしてから、五感がさっきよりもよく働くことに気がついた。鋭敏になっているからなおのことその違いがわかるのだ。
 温度視覚を試してみると、森の中と外では気温に若干の変化があるのがわかる。
 エルシアは樹木のひとつに触れ、小さく頷いた。
「このあたりに繁殖している木は、当然鉄帝の雪山という環境に適応しています。強い風、冷気、そして深い雪やそれに対応した動物。そういった諸々の環境の中で生き残ったものが生えているんです。適者生存。こんなところまで、鉄帝国らしいですね」
 エルシアは目を瞑り、木々の声を聞く。とはいっても木がマペット芸のようにお喋りをするわけではない。木々に流れる僅かな水気、栄養分、その他様々なものを読み取る力であり、ある意味では知恵だ。
「そんな木々でも、この吹雪は経験がないようです。一部の木は壊れかけています……」
「マジかよ。それってヤバイことなのか?」
「いえ、一概にそうは言えません。死んで乾燥を起こした木は薪にしやすいので、伐採して持ち帰ることができればすぐに燃料になりますし、道中で使うこともできるでしょう。天然の薪製造機だとも言えますね」
「前向きが過ぎる……」
 飛呂はそう呟いた、次の瞬間。ハッと振り返り銃を構えた。
「熱源が近づいてくる。モンスターだ!」
 彼の狙撃――と同時に『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)と『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)が同時に動き出す。
「革命派の人達や、難民の人達……誰も死なせたくない。
 だから、僕も調査隊を護衛する……!」
 調査隊のメンバーをかばうように前へ出ると、祝音は『糸切傀儡』の技を行使した。
 木々の間に張り巡らされた魔力の糸が、飛び込んでくる巨大な虫型モンスターの身体を絡め取り、そして切り裂く。
 一方でヨゾラは『練達上位式』で作り出した式神に登山リュックをパスすると、動きをとめたモンスターめがけ『星の破撃』を叩きこんだ。魔力を収束させた零距離の魔力爆発。別名『夜の星の破撃(ナハトスターブラスター)』である。
 モンスターを破壊したそのあと、ヨゾラはその残骸から独特の匂いがすることに気がついた。
「これは……森や山の匂いじゃないね。坑道から出てきたのかな?」
「そうみたい、見て……!」
 祝音が指をさす先に、鉱山労働者が落としたとおぼしき道具があった。祝音はヨゾラたちと協力しながら森を進み、そして……ついにスナーク坑道の入り口のひとつを発見したのである。

成否

成功


第1章 第3節

リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
雨紅(p3p008287)
愛星
スースァ(p3p010535)
欠け竜
水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで
トール=アシェンプテル(p3p010816)
ココロズ・プリンス

 坑道内は広く、そして暗い。
 吹雪の日に洞窟を目指すように、坑道内にはいくらか動物の痕跡も見つかった。
 だが入り込むのは動物だけではないようで……。
「ここはヤバそうだな……」
 『欠け竜』スースァ(p3p010535)は襲いかかってきた小柄な岩石型モンスターを蹴り飛ばすと、紅蓮の剣でたたき壊した。
「中はモンスターだらけだ。アタシらから離れるなよ!」
 調査員たちに呼びかけつつ、スースァは周囲に警戒を広げる。
「寒いのもひもじいのも、ロクなもんじゃない。
 目の前にそういう人がいるなら、見捨てるなんてそうそう出来ないさ」
 そう呟くのは、スースァがそれなりの経験をしてきたからだろうか。
 この未曾有の寒波のなかでどれだけの死者が出るかわかったものではないが、それが自分の手で軽減できるのであれば、したい。
 それは人ならぬ精神性をもつ『北辰より来たる母神』水天宮 妙見子(p3p010644)でも同じことのようだった。
「えぇ~ん、寒すぎますぅ……鉄帝の冬、初めて過ごしましたがこれはあまりにも……。
 妙見子も凍えて飢えた民草のために働きましょうか……」
 ぐすんと鳴き真似のように目元に手を当てる妙見子。『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)はその様子にほっこりと笑った。
「鉄帝を包むこの大寒波……バラバラになっていては新皇帝派による『各個撃破』の恐れもあります。ここは派閥を越えて協力するとき、ですね」
 そうでなくてもローレットは所属する派閥を越えて協力する状態ではあるのだが、トールはそれ以上に今回の『天災』とも言うべき被害を重く見ていた。
「ですよね利香さ――わっ」
 振り返ると『雨宿りの雨宮利香』リカ・サキュバス(p3p001254)がサキュバスモードになっていた。トールが『入れてる』ものより遥かに巨大なそれを見て、トールはごくりといきのむ。
「かつて来た妖精郷の冬とやらを思い出しますね、この寒波は。まあ、あの王は自分のせいじゃないって言ってましたけど……」
 サキュバスとはいえこの寒波。リカも今日は厚着である。露出すると死ぬとあらば仕方あるまい。
「もし偶然なら、不運だなんて言葉で片付けませんよ。あの新皇帝のせいなんでしょうか」
「それは、なんとも……」
 言いながら、トールとリカは同時に剣を構えた。
 坑道の横穴から新たなモンスターが現れたのだ、巨大な蜘蛛のようなそれは糸を吐きながら接近し、50センチサイズの子蜘蛛を次々に放ってくる。
「早速お仕事ですよ、トール様、リカ様!」
 妙見子はびしりと鉄扇を広げると、神威を纏わせ大きく風を起こした。
 神風……というわけではないのだろうが、妙見子のおこした風はリカとトールに更なる力をもたらし、まさに追い風となって敵へと進ませる。
 トールの抜いた輝剣『プリンセス・シンデレラ』が狭い坑道内に適した短剣サイズとなり、子蜘蛛たちを次々と切り払う。その素早さたるや凄まじく、あっというまに周囲の子蜘蛛を蹴散らしてしまった。
「新入り達。少しは働いてもらいますよ。言っておきますがあなた達を庇いはしませんからね」
 リカはそんな軽口をいいながら魔剣を握り直し、主体である大蜘蛛モンスターめがけ突進した。
 突き刺さる剣。と同時に纏った魔力が雷となって大蜘蛛を貫き、だらりとその場に伏せさせる。
「お見事――」
 『刑天(シンティエン)』雨紅(p3p008287)は追撃の必要なしと見なして構えていた槍をおろした。顔半分を覆った仮面ですら隠すことが出来ないような美貌が、口元で笑みを作っている。
(寒さという現象の前に、この行いがどの程度役に立つのか不安はあります。
 ですが、力を貸さない理由にはならない……)
 雨紅は心の中でそう呟いてから、坑道の奥に向けて進み始めた。
 エネミーサーチは常に働かせている。戦闘可能な距離に敵意を向けるものがあればすぐに察知できるだろう。そうでなくても、音の反響しやすい坑道内では五感の優れた雨紅の感覚は役に立つ。坑道にありがちなガス溜まりにもすぐに気付いてくれるはずだ。頼もしい護衛役である。
 そして進み続けること暫し……一行は新たな発見に至るのであった。

成否

成功


第1章 第4節

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
不遜の魔王
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
一条 夢心地(p3p008344)
殿
八重 慧(p3p008813)
歪角ノ夜叉
白妙姫(p3p009627)
慈鬼

 ヤークト鉱山は鉱石の採掘地であると同時に山でもある。
 当然生えている木も一種類だけではない。
「これはよく建材に使われる木っすね。燃えにくいんでむしろ薪には向かないっす」
「ほお、よく知っているね」
 『歪角ノ夜叉』八重 慧(p3p008813)は樹木をコツンと叩き、記録をとる調査員と話し合っていた。
 鉄帝の樹木に詳しい者がそう沢山いるわけではないので、慧の知識もここぞとばかりに活用されているのだ。
「豊穣にも似た種類の木があったから知ってただけっすよ。こんな遠い、それも雪国って感じの土地で見るとは思わなかったっすけどね」
 世界は広いようで狭い。
「雪自体は嫌いじゃないんすけどね。
 こうも厳冬じゃ、そうも言ってられねぇっすね」
「はー、はあぁ。寒いのう。既に吹雪いておるなか山に向かわねばならぬほど困っておるのか? 困っとるんじゃろうなぁ。まるで冬眠し損ねた熊じゃ」
 そこへ、分厚い上着を着込んだ『慈鬼』白妙姫(p3p009627)が両手に白い吐息をあてながらついてくる。
 慧は平気そうに話していたが、吹き付ける吹雪の層は分厚く、ちょっとでも離れると前後不覚に陥りそのまま遭難しかねないという過酷すぎる環境なのだ。白妙姫の言うとおり、よほど追い詰められなければ入ることはないだろう。
 そしてそんな者たちを襲うのは……。
「む? 仕事のようじゃの」
 白妙姫は素早く木の幹を『駆け上がる』と、そのままジグザグに跳躍して太い枝の上に飛び乗った。
「――『看』えた」
 白妙姫はそこから跳躍すると、回転をかけ『相手』へと斬りかかる。
 奇襲をかけたつもりだったのだろう。相手の熊型モンスターは白妙姫の放つ魔性の剣によって惑わされ、気付かぬうちに首を切り落とされていた。
 が、そこはやはり危険な山のこと。モンスターは一体だけではなかったようだ。
 何体もの熊型モンスターが突進をしかけ、先ほど観察していた木を腕の一振りでへし折ってしまう。
 なんという怪力。なんという威力。
 しかし――『同一奇譚』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)が立ち塞がったならば話は別だ。
「雪だろうがホイップクリームだろうが私の前では藻屑に過ぎない。
 必要なのは木材その他と聞くが、兎も角、為すべき事柄は常の如くだ」
 オラボナはすかさず前へ出ると、「Nyahahahahahahahaha!!!」と笑いながらモンスターたちの打撃を身体で受けた。
 先ほどの樹木で言えば『何十本』ぶんのダメージが入っているにもかかわらず、オラボナの笑いは止まらない。
 相手からすれば一人の人間ではなく軽く林かなにかを相手にしているようなものである。
 今のうちに攻撃しろといわんばかりに声をあげるオラボナ。
 そこへ『オフィーリアの祝福』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)が雪を散らしながら回り込み、ぎゅっと拳を握りしめた。
(俺はこの国が好き。
 でもこの国の自然の厳しさは……少しだけ、元いた世界のそれと重なって見える時がある。
 だけど、だからって立ち止まるのは『今の俺』らしくないよね、オフィーリア)
 握った拳のさきに光るのはデマントイド・ガーネット。祈りを込めるかのように目を瞑り、唇にそっと近づける。
「アミナが語っていた悲劇を僅かでも減らす力が、俺にだってあるかもしれないんだから」
 信じる心が光となって、モンスターの身体を貫いていく。
「……ふう」
 崩れおちたモンスターを軽く観察してから、イーハトーヴは樹木の観察へと戻った。
 すると。
「なーーーっはっはっは! 見るのじゃ! このワクワクドリーム夢心地号を!」
 いつのまにこしらえたのか、『殿』一条 夢心地(p3p008344)が倒れた木を切り出して長いソリを作っていた。
 器用なことに、棒状に切り出した板を船型に組み合わせたことで荷物をくくりつけて運搬可能なつくりになっている。
「足元が悪いからの、歯車兵をシェルパ代わりに使うのには賛成じゃの。
 しかしちゃんと機能するかの実証テストを行う必要はある。効率を上げる必要もな」
「あ、これ! さっきの木だね。建材に使われてるっていう……」
 イーハトーヴがソリの下面をなで、樹液のようなものが染み出ていることに気付いた。
 慧が「燃えにくい」と言っていた理由がこれだろう。
「燃えにくいだけじゃないんだ。雪にちょっと抵抗してる。ソリとして使うと滑りがよくなるんだ。これは使えるかも!」
 エッヘンとソリのうえで胸をはる夢心地。
 そして傾くソリ。
 滑り出すソリ。
「「あ」」
「あ?」
 走り出す、ソリ。
「ああああああああああああああああああ!」
「夢心地ーーーーーーー!」

成否

成功


第1章 第5節

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
優しき咆哮
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先

 既に多くの発見をしている調査隊であったが、万事良好というわけではない。
 モンスターと遭遇し運悪く怪我を負った調査員や、歯車兵を壊されて立ち往生しそうなチームも存在した。
 そうした者たちを森の中に作った暴風設備で匿い、治療するチームがいた。
 『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)たち【救手】チームである。
「難民の皆の中に灯ってきた希望の火をここで消させる訳にはいかないわ。
 皆の明日を繋げる為、何とか成果を持ち帰らないとね。
 頼りにしてるわ、アレクシアさん、シキ。それと、サンディも駆けつけてくれて……本当に有難う」
 集まった面々の顔を見るリア。『抗う者』サンディ・カルタ(p3p000438)たちは微笑み、彼女に頷いてみせた。
(革命派って若干危うい感じはするんだが……ま、それはそれ。調査は進んだ方がいい。
 バシリカみたいな遺跡だった時に、「アナスタシア」をもう出さないために。
 それに、どうせ止まらねえしな、リアもシキも)
 内心でそう呟き、サンディは周りを改めて観察する。
 リアのこしらえた暴風陣地は丸太を数本設置しそこにテントを組み合わせた簡単なものなのだが、森の中という環境と丸太の配置方法によって上手に吹雪を免れる構造になっていた。
 内側では小さく火をたき鎌倉の要領で気温を温め、凍傷になりかけていた調査員たちを魔法で治癒していく。
 サンディの仕事は負傷した調査員を搬送する役目と、ベースキャンプとしたこの場所を中心に調査範囲を広げるための統率である。
「敵はいないみたいだ。暫くは安全だね」
 『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)が真上から降下し、テント前へとおりたつ。
「それにしても寒いなあ……。
 景色は違うけど、こういった時には故郷のことを思い出すよ。
 乾いた大地、何もない場所。明日の食べ物も不安で……。
 景色は違えど、あの時の気持ちがたくさんの人にさせていいものでないのは、わかるよ。
 だから頑張ろう、わたしにできること」
 シキは瞳に悲しみのような、憂いのような、不思議な感情をのせてそう呟いた。
「苦境は絶望を呼び寄せ、それはひいてはさらなる混乱をもたらす」
 同意するように、テントから出てきた『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が言う。
「この寒さの裏に何があるかはわからないけど、まずはみんなの心を少しでもあたためないとね。頑張ろう、みんな!」
 シキやアレクシアたちは頷き合う。皆の想いは同じだ。
 そんな中で彼女たちが担当しているのは広範囲にわたる警戒である。
 シキは飛行しながらエネミーサーチを、アレクシアは周囲の木々が放つ気配のようなものを敏感に察知して動物その他の動きを探っていた。
 たとえこの極寒の世界であっても動植物は生きている。それゆえのサイクルがあり、それゆえのネットワークがある。アレクシアはそれを『森の声』と称して受け取っているのだ。
 実際、天衝種はこの環境における危険な外来種であり、ネットワークやサイクルを壊すものだ。現れればその影響は必ず出るのだろう。
「『旋律』が、穏やかになってきたわね……」
 リアもまたテントから出て仲間達を見やる。怪我人の治療が終わり、皆の安心を取り戻せたのだろう。サンディは小さく手を上げた。
「余裕が出たなら、他の怪我人がいないか聞いて回ってみる。そろそろまたトラブルが起きる頃だろうしな……」

成否

成功


第1章 第6節

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
ルネ=エクス=アグニス(p3p008385)
書の静寂
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

 ホワイトアウト現象というものを、『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)は知っている。
 白い闇とも言われるこの現象は、低温下かつ強風の降雪時に起きやすい。
「実際に体験してみると、なかなかだね……!」
 リニアドライブによる飛行状態を終え、坑道の入り口へと降り立つマリア。
「強化された私の視力でも地上を見通せなかった。どころか、上下感覚までおかしくなったくらいだよ。『空で遭難』なんて冗談じゃないね……ごめんね、結局空からは情報が得られなかった」
 マリアが苦々しく言うと、彼女の頭につもった雪を『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)がタオルで優しくぬぐった。
「空からの補佐をお願いしたのは私ですから、いいんですのよ。マリィが無事でなによりですわ。今は比較的安全な地上を進みましょう。雪に足がとられないだけでも充分飛行する意味はありますわ」
 ヴァレーリヤはそう説明しながら、現在の状況を改めて観察しなおしていた。
 ヤークト鉱山がまがりなりにも稼働していた鉱山であるなら、必要な材木などを確保しやすい位置に入り口や拠点を作るはず。
 そして地上との運搬ルートも確保しているはず、なのだ。
 ヴァレーリヤの狙い通り、元々存在していた山道はある程度整備され、手を入れればこの環境下でも材木や石炭の確保と運搬は可能なようだった。
 坑道内は吹雪が入らない代わりにモンスターが多いという危険があるものの、相応の武力を随伴させれば採取作業やスタッフの休憩も行えるだろう。安全地帯と述べると語弊があるが、少なくとも自然の猛威からは逃れられる場所なのである。
「あとは、坑道内が空っぽになっていないことを願うのみですわね……」

 『書の静寂』ルネ=エクス=アグニス(p3p008385)たちは引き続き坑道内の探索を行っていた。
「内部の情報は資料に残してなかったみたいだね。拠点に最新の採掘記録があったけれど、随分古いものだった。それに……」
 ルネたちは鉱山労働者たちの作業拠点のひとつをベースキャンプにして坑道内の探索を行っていた。
 採取した鉱石を運ぶためのトロッコはあったものの、専用のレールがあちこち壊されており、資料にない横穴も複数みられた。
 入り込んだモンスターによるものと、人工的に掘り進めたものがあるので、おそらくは……。
「新皇帝派の軍に占拠されていた、か」
 状況から推理を立てる『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)。
 坑道内部や山中に天衝種がうろついているところからも、新皇帝派の影響は考えて然るべきだろう。
 今ここに軍の人間や鉱山労働者たちがいないのは、それぞれ大寒波をさけるべく撤収したためと思われる。
「となると、労働者たちは今頃……」
 ラダは目を細め、そして――意識を瞬時に戦闘モードへ切り替えた。
 彼女の鋭敏な感覚がモンスターの接近を感知したのだ。
 そして……ラダの推理は苦すぎる形で敵中する。
「ウ……ア……」
 細くひからびた死体が、まるで操られるかのようにぼてぼてと歩きこちらへと接近してくる。
 その周囲には亡霊めいたモンスター。彼らからは憤怒のエネルギーが溢れ、まるで『自分達を使い捨てにして殺した軍への怒り』があるように見えた。
「もう、いい。安らかに眠れ」
 ラダは祈るように唱え、その頭部を一発で撃ち抜く。
 そこからの『未来への葬送』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)の行動は早かった。
 残った亡霊モンスターたちめがけて距離を詰めると、自ら流した血の鎌で斬り付ける。
 素早く攻撃にうつるべく草刈り鎌サイズの小さなものだったが、亡霊モンスターのエネルギー体に刺さったその瞬間にバチッという火花のような衝撃を走らせ、引っ掻くように切り裂いて行く。
 あふれ出たエネルギーによって急速にしぼみ、そして恨みがましい呟きを残す。
 『さむい――ひもじい――』
 その声を聞いて、マリエッタは目を瞑る。
 脳裏に浮かび上がったのは、いつだか森へと追いやってしまった人々。
 この冬は比喩ではなく人を殺すのだ。直接銃や剣をうちこまずとも、ただ『見捨てる』だけで死んでしまう。
 軍の人間たちは鉱山を占領したのち強制労働を行わせ、過労で倒れるのを無視し働かせ続けたのだろう。そして寒波がくると物資もろとも引き上げ、取り残された労働者たちはモンスターに殺されるか飢えるか凍えるかといういずれかの死を選択するしかなかったのだ。
「大丈夫ですか?」
 後ろから、『純白の矜持』楊枝 茄子子(p3p008356)が優しく声をかけてくる。
 マリエッタは薄目を開き、そして笑顔を作った。
「ええ、大丈夫です……調査、引き続きお手伝いさせてください」
「それにしても寒いですね。精霊たちも随分荒れているようです」
 茄子子はかなり厚着をしてきたようだ。忍耐にはかなり自信のある彼女だが、この寒さは我慢でどうにかなるものではない。凍傷や凍死というレベルなのだから。
 それでもおっとりと微笑む表情を崩さないのは、それこそ茄子子の忍耐力――あるいはその裏にあるもの――のおかげだろう。
「精霊、ですか?」
「対話が可能なほどの精霊は見当たりませんが、すくなくともこの寒波を受けてぐちゃぐちゃになっているようです。気圧が上下すると気分が悪くなることがあるでしょう? あれに似ていますね」
 茄子子はそういいながら、横たわった死体に視線をおろす。
 そして聞こえないほど小さな声で呟いた。
「本当に、参考にならない……」

成否

成功


第1章 第7節

レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
ンクルス・クー(p3p007660)
山吹の孫娘
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
イロン=マ=イデン(p3p008964)
善行の囚人
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
ルトヴィリア・シュルフツ(p3p010843)
瀉血する灼血の魔女

「ワタシは狼だから寒いのちょっとは平気だけど、ここまで厳しいなんて……」
 『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)は暖炉に薪をくべながら震える身体に耐え、手を火にかざす。
 手の感覚は既になく、無自覚な震えを抑えようともう一歩前に出ようとしたところで、クラウディア・フィーニーによってそっと肩を掴まれた。
「あまり火に近づきすぎないように。身体を温めるどころか、火傷してしまいますよ」
「あっ」
 本来なら正常に機能するはずの感覚があまりの冷気によって狂っていた。そう自覚して、フラーゴラは雪山の恐ろしさを再確認した。
 シンプルに『自分がアテにならない』という状況は生きるための難易度を格段に上げる。協力しあい、適切な知識を用いなければ死ぬのだ。
 見れば、探索に赴いた調査員たちにも怪我人が出ており、その原因は雪山を進むにあたって方向感覚が狂ったり焦って変な方向へ走ってしまったりした結果集団からはぐれ、モンスターに遭遇し……という負の連鎖がほとんどだ。
「坑道の入り口付近に作業拠点が残っていてよかったな。破壊されていてもおかしくなかった」
 『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)はそう呟きつつ、怪我人の治療にあたっていく。
 ルブラット等のイレギュラーズが同行したチームは迷わず拠点にたどり着けたが、探索範囲を広げるためにチーム数を増やしたことでカバーしきれない範囲が出たようだ。ここからはチーム数をしぼって探索を続ける必要があるだろう。
「……寒いことの利点なぞ、ここで言えるものであれば、死体が腐る速度が遅いという程度だな」
 ルブラットは嘆息し、その横でブラトン・スレンコヴァが嫌な顔をした。
「坑道内じゃ死んだ労働者の死体がアンデッドになって襲ってきてるらしいぜ。死体が新鮮なせいでちと頑丈らしいな」
「前言撤回だ。デメリットしかなかった」
 はあ、とため息を強めて首を振るルブラット。
 フラーゴラが暖炉の前から立ち上がる。
「さ、もう一度行こう。坑道内でも迷って取り残されてるチームがあるかも」
「確かにねっ」
 『鋼のシスター』ンクルス・クー(p3p007660)も同じく立ち上がり、再編成したチームと共に拠点を出ると坑道へと入っていった。
 内部に灯りは残っておらず、ンクルスが光を直接放つことで照明がわりとしていた。
 この光を見てると落ち着く、というのもあるが。
「保護した人が困ってるなら私も一生懸命頑張るっ!
 でも私は調査は得意じゃないからその人達がしっかりと動けるように肉体的にも精神的にも守るよっ!」
 ンクルスを照明兼タンク役として前に出し、フラーゴラの高速戦闘術によって遭遇したモンスターを即座に排除する。そんな作戦が良い具合にハマり、彼女たちの探索チームは坑道内をかなりの効率で探索できていた。
「アミナさんの想いに心打たれました。
 ワタシとしても、この状況を黙って見過ごす訳にはいきません。
 罪なき人を守るためにも、全力を尽くさねば」
 ダメージを受けたンクルスに『善行の囚人』イロン=マ=イデン(p3p008964)が治癒の光をあててやる。頭の上に飛び出たコアがぽあわっと黄色く光り、温かい光りの波動を広げていく。
 イロンにとって革命派の志……ひいてはアミナの志は共感の深いものであった。
 『善い事をする者には、いつか必ず良い事が待っている』という信念に基づけば、彼女がバルナバスに勝利する未来はあって然るべきなのだ。それを遮るものを、イロンは許しておけない。
「そろそろ前衛を変わるわ。照明をお願い」
 『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)はそう言って前に出ると、装備を攻撃型から防御型へと変更。腕のコンテナに入れ替えた。
 吹雪が入り込まないといっても、坑道の中も充分に寒い。過酷耐性をもつレイリーであっても一人で取り残されれば死んでしまうのではと思えるほどだ。
 これこそが大自然の猛威。それも、伝説に語られるほどの。
「来たわ、構えて!」
 レイリーが盾を翳すと、怒りの感情によって練り上げられた弾丸が何発も飛んでくる。亡霊型モンスターとアンデッドモンスターの混成集団と遭遇したようだ。
 彼らの『元』は、この場に取り残された鉱山労働者たちだろう。
「さぁ、ここは私を倒さない限り通行止めよ!」
 レイリーが攻撃に耐える一方、『瀉血する灼血の魔女』ルトヴィリア・シュルフツ(p3p010843)は早速攻撃魔法を練り上げた。
「どこもかしこもクソ寒いんですよほんとに。そんな中で、派閥など些事じゃあないですか、ね?」
 ルトヴィリアはそんな風に呟きながら、こちらへ接近し掴みかかろうとするアンデッドに魔術を放った。
 彼女のもつエコーロケーションスキルは坑道内の探索に非常に役に立つ。灯りを照らしていても、モンスターがあけた小さな横穴に気づけないことや、分岐した穴のあちこちから迫る何者かの気配に気づけないことも多いからだ。
 そして今、ルトヴィリアはハッと側面方向に目を向ける。
「新手。頼める?」
「了解っスー」
 『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)は素早く銃を向けると、穴を掘って現れた全長1m程度のワーム型モンスターへ射撃を浴びせまくった。
 弾頭に刻み込んだ魔術式が発動し、光りの爆発を起こす。
「ささっと帰って、熱めのスープでも飲みたいとこっスねー。
 生姜をがっつり効かせたやつがいいでス」
「ああ、いいわね……」
 美咲は残る仲間達と協力してワームを撃退すると、素早く銃をリロードした。
 戦闘に普通に加わっているだけに見える美咲だが、探索隊に『記憶にない人間』が紛れ込んでいないかどうかは逐次チェックしていた。『グロースならやりかねない』と思えたからである。
 と、そう思ってからふと疑問が浮かぶ。
 あれだけ『バルナバス性』を重んじるグロースが、なぜそんな回りくどい手を得意とするのだろう。仮にバルナバスであるなら、そんな手を使わず直接ギアバジリカを殴って壊すだろう。
(グロース将軍といえば参謀本部の悪魔……。さしずめ、自分と正反対の存在に憧れた、といった所でスかね……)
 確かにバルナバスを間近で見れば、集団や知恵による強さがばかばかしくなるかもしれない。個としての強さを極限まで高めれば、そんなものはいらないと。
「太陽に友達はいらない、か……」

成否

成功


第1章 第8節

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
シラス(p3p004421)
超える者
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
エストレーリャ=セルバ(p3p007114)
賦活
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
タナトス・ディーラー
ガイアドニス(p3p010327)
小さな命に大きな愛

 雪山を進む炎の群れがあった。
 比喩ではない。本当に人間大の炎が十個以上集まってゆらゆらと吹雪の中を進んでいるのだ。
「こんな使い方初めてしたかも……ボクの炎が役に立つって聞いたからきたけど……」
「かなり快適だな。燃えないというのが特にいい」
 『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)の使う『神炎』はどんなものにも火を付けられるというギフト能力だが、燃えないし当然広がらないという、『元の能力』からすればえらく弱体化したものであった。が、いまこの状況においては、これ以上なく優秀なスキルなのであった。
「寒冷地帯において常に温かいというのは利点だ。強いて難点をあげるなら、吹雪の中で使うと光りが反射しすぎて視界がかえって悪くなることだが……」
 『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は振り返り、猛吹雪の風景を見た。
「視界は既に最悪だ。視力に頼って移動していたのでは、一時間とたたずに遭難していたことだろう」
 汰磨羈は持ち前のサバイバル知識を駆使して雪山を先行し、危険の有無を確かめながら先の状態を確かめていた。
 当然、視界の通らなさが酷いので(それ以外の感覚もアテにならないので)長く伸ばしたロープを全員で掴んで繋がることで遭難を避ける工夫がなされていた。ちなみにこれも、立派な登山テクニックである。
 そして汰磨羈は収穫があったとばかりに先を指さした。
「この先に森がある。坑道拠点とは別のな」
「何か使えそうなものはありそう?」
「私にそこまではわからん。博識な連中に任せよう」
 どこかクールに言ってみせると、『博識な連中』であるところの『浮遊島の大使』マルク・シリング(p3p001309)と『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)に視線を移した。

 『竜剣』シラス(p3p004421)率いるチームは調査員たちを下の拠点に残し、荷物運搬係である歯車兵だけを連れて山頂を目指していた。
 鉱山ということもあり、わざわざ山頂を目指す者もいなかったらしい。雪の積もり方もかなり激しいので地質調査を行うのも不可能だろうと調査員たちからもさけられていたのである。
「マルク、ドラマ。どうよ、何か分かったか?」
「まだなんとも、かな。森に入ったことで吹雪の勢いは弱まったけど……」
 マルクが木の種類を調べ、手帳になにかをメモしている。
「このあたりの木は高く売れそうな気がする。鉄帝の樹木は寒冷地なりの材質をしてるから用途によっては人気なんだよね。常に雪にうまる山頂部だけあってそれも極まってる感じがする」
「値段でものを見てるのか?」
「それだけじゃないけど……」
 マルクが振り返ると、ドラマが雪面の様子を確かめながら何かを調べていた。
「そっちも何か分かったみたいだね」
「はい……皆息を潜めていますが、動物はまだこのあたりで生活しているみたいです。ということは、自然のサイクルが維持されているということですから……」
 ドラマがちょいちょいと手招きをすると、『猛獣』ソア(p3p007025)が雪の上をざくざく踏みながら寄ってきた。
「どうしたの? やって欲しいことある?」
 耳をぴこぴこさせるソアに、ドラマがなにやら図解しながら説明をする。
 ソアは図解された内容が半分も頭にはいらなかったようだが、要点だけはわかったらしい。
「わかった! まかせて!」
 と言って目を瞑り両手を高く掲げるような姿勢をとった。
 ギフト能力『森の王』。森に住まう人ならぬ存在にその知性に応じた意思疎通や簡単な命令が可能となるスキル。対象の性質やソアとの相性に左右されるとはいえ、森の中にあればソアは優秀な探索能力を有するのだ。
 適用範囲が広すぎてなにやら希釈されそうな能力だが、ソアのざっくりとした性格と相まってうまく扱えているようである。
「あ、なんか……なんかありそう。森の……うえ? 上のとこ、すごい堅そうな感じする」
「かたそうなかんじ……」
 ドラマはその曖昧な表現に目を細めたが、しかしソアの言わんとすることやその理由に思い至った。
 ソアは植物疎通でも精霊疎通でも動物疎通でもなく『森疎通』とでも言うべき漠然としたナニカと対話している。その森が有するものは木であり動物であり土であり空気であり、それら一体となった生命の坩堝だ。
 そうした感覚からして『すごい堅い』とするなら、それは木が根をはった地層の様子をさすと考えてよさそうだ。
「でも危険な感じもする。気をつけて」
「ということは、そろそろ出番だね」
「腕がなるですよ」
 『賦活』エストレーリャ=セルバ(p3p007114)と『後光の乙女』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)が集団の前へと出た。
 ソアのいう『上のとこ』は木の上部ではなく山の斜面を登った先をさしているのだろう。
 注意して進んでみると、確かにモンスターがその場にじっと居座っているのが分かる。
 それも、吹雪の中でも平然と座り込み、周囲を睥睨している。
 四つ脚のトカゲににたシルエットだが、大きさはゆうに10m近くあり、赤く堅そうな鱗に覆われている。
 周囲には常に湯気がたち、ふりしきる雪もそのモンスターに触れたとたんに蒸発するといった有様だ。
「フレイムワイバーン? じゃないよね、ここ覇竜じゃないし」
「似たようなものですよ。早速行くですよ!」
 ブランシュは仲間達の支援をうけながらも率先してワイバーンもどきめがけて飛行。宙返りをはさむと、猛烈な跳び蹴りを叩き込んだ。
 ワイバーンもどきは反応こそできたものの、回避も防御も間に合わずブランシュによるキックの直撃をうける。
 このままではマズイと察したのか、ワイバーンもどきは喉を鳴らし、口内にある火打ち石のような器官をカッカッと打ち鳴らした。
 要は巨大なライターだ。打ち鳴らしてできた火花を吐き出したガスに引火させ、炎の息吹を放射したのである。
 ブランシュは真正面からうけたことで火に包まれるが、エストレーリャがすかさず治癒の魔法を唱える。
「チャンス――!」
「取り押さえるなら任せて! か弱いニンゲンさん達のために頑張るのだわー!」
 『超合金おねーさん』ガイアドニス(p3p010327)が飛び出しワイバーンもどきにしがみつくと、喉元を抑えて強制的に上向かせる。抵抗しガイアドニスをはねのけようと腕を振るが、その有様はまるで猫だ。前足は攻撃に向いた器官ではないのだろう、猫パンチのようなぺちぺちとした衝撃しかあたえられていない。
 そこへ『離れぬ意思』夢見 ルル家(p3p000016)が飛びかかり、必殺の空之弾丸を繰り出した。
 喉のあたりを切り裂き、穴をあける。炎を放射するために必要なガスを逃がしてしまうためだ。メタンガスのようなにおいが周囲へと広がる。
「ガイアドニス殿、いや皆離れて!」
 ルル家が叫ぶと同時に一斉に飛び退くガイアドニスたち。
 ワイバーンもどきは喉の傷口を押さえ再びカッカッと口内を鳴らし引火――した。それも、自分を包み込むガスにである。
 炎はそのまま体内の器官へと流れ込み、膨れ上がったエネルギーはワイバーンを内側から爆発させるというなんともえげつない結果をもたらしたのである。
「ふう、一件落着」
「そ、そう……?」
 エストレーリャが惨状を目の当たりにして顔を曇らせている。
 が、すぐに状況の『良さ』に気がついた。
「あっ、このあたりの精霊、すごいおだやか……」
 吹雪の荒れるヤークト鉱山の精霊達はとにかく荒ぶっていた。低位の精霊も高位の精霊も残らずピリピリしていたし、人間でいうと常に貧乏揺すりと舌打ちをしながら周りをにらみ付けてる人くらい怖かった。話しかけたら『あ゛!?』て言いそうなひとに、誰も話しかけたくはない。
 だがここは一転、精霊たちが落ち着いた様子を見せている。
「ワイバーンもどきがいたせいでしょうね。倒したのですぐに雪に埋まるでしょうが、地質調査をするために雪を掘りまくる手間は省けました」
 ルル家が早速地面に筒状の道具を突き刺し地質を調べ始める。ガイアドニスもそれを手伝い力仕事をこなすと、出てきた地層に目を光らせる。
「みてみて、この鉱石。希少なものよね」
 ガイアドニスの調べによれば、ヤークト鉱山の山頂部は非常に危険である反面、希少な鉱石が採取可能だということだ。
「場所を忘れないように目印を立てておきましょ。ニンゲンさんの第一目標は木材と石炭だけれど、余裕ができたらこれもお金にもできそうね!」
「ああ、来た甲斐があったぜ。革命派の技術力ならこいつを掘り出すことも難しくないだろうしな」
 シラスはやりとげた表情で息をつくと、下山の準備をはじめる。
 他の仲間達も充分に成果をあげた頃だろう。難民キャンプへ戻り、情報を共有しなくては……。

成否

成功

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