シナリオ詳細
<光芒パルティーレ>溟海のブライト・シー
オープニング
●『シレンツィオ・リゾート』
ネオフロンティア海洋王国――
それはこの混沌において唯一諸島部に勢力を構え、漁業や海運、貿易で身を立てる国家である。
シーレーンを強く防備することの出来る海軍力と、同時に大国間の小競り合いを上手く泳ぐ事が出来た歴代各々のバランス感覚を有したその国は諸島の小国として外圧に晒されてきた。故に、概要に横たわっていた『絶望の青』を越え新天地を目指したのである。
それを彼等は『海洋王国大号令』と呼ぶ。
絶望に佇んでいた冠位魔種アルバニア、そして『滅海竜』リヴァイアサンを越えて彼等が至ったのは独自の文化発展を経た和の国『神威神楽(カムイグラ)』なのであった。
今や『静寂の海』の相性で親しまれることとなった海洋王国と神威神楽の外洋は今、大きな変革を迎えている。
――シレンツィオ・リゾート。
世界で最も経済の動くリゾートスポットとして名を轟かせるこの地は何も海洋王国と豊穣郷だけのものではない。
外洋への遠征に一枚噛みを求めたゼシュテル鉄帝国、内政こそ俄な騒ぎを作りながらも幻想王国でも貴族達のバカンスの地として噂となっている。
海洋王国から神威神楽へ向かう中間地点に存在するアクエリア諸島。
そして神威神楽の外洋とも呼べるフェデリア海域、フェデリア諸島。
海洋王国の外縁に位置し、辺境の海域たるコン=モスカ島。
この三点を利用して海洋王国は神威神楽との交易を発展させ――一大リゾート地として変貌させた。
大海原に漕ぎ出でるだけの『変化のなき外洋』は貿易船の往来と共に人口の増加を見込むことが出来た。
今まで人の手の及ばぬ地が多く存在して居たが故にその目新しさは観光資源と成り得たのだ。
点在する諸島には無数の港町が開拓され、海洋王国の経済的発展を押し進めた。
一部、鉄星会談の定めで鉄帝国の領地が存在するがそれも防衛的観点で言えば悪くはないであろう。
何よりも、この地が『各国でも注目された』理由は誰でも『出資者』と成り得る事である。
豊富な観光資源、発展性の見込めるシレンツィオ・リゾートで新たな冒険が始まろうとしている――
●神威神楽
「此度の夏の祭典は『静寂の海域』で行われる。
庚にはシレンツィオ・リゾートの大使館での実務を任せきりになってしまっていたが問題はないか?」
神威神楽、高天京にて『霞帝』今園・賀澄(p3n000181)は穏やかな声音で問い掛けた。
海洋王国より交易の一環にシレンツィオ・リゾートへの出資を求められた神威神楽は国内の文化発展に注目し、外洋の文化を取り入れるために了承していた。
「主上の親書は届けて参りました。夏の祭典の準備は我らが神威神楽も鋭意努力せねばなりませんでしょう。
一つお耳に挟むべき問題と致しましては『ダガヌ海域』にて遭難、難破、行方不明事件が多発しているとの事で御座います」
『陰陽頭』月ヶ瀬 庚(p3n000221)は霞帝の前に傅いた後、現状を報告する。海洋から豊穣へ向けてぐるりと一周するクルージングツアーには問題が多いのである。
「主上が天香を共同出資者に選んだのは遮那殿の名声を高めるため。豊穣の貴族連中が謀反を起こした天香の排斥を望む中、良き采配で御座いました。
しかし、ダガヌの脅威を放置し続ければ貴族連中はまたも天香の呪いなどと根も葉もないことを申し上げるでしょう」
「……うむ。付ける穴は付いておきたいというのが人の気持ちよ。神使達もシレンツィオで活動を始めるのだろう?
ならば、彼等にダガヌの事を我らとしても依頼するのがよいだろうな。……ま、その前に庚に頼みがあるのだが」
扇でぱたぱたと自身を仰いで霞帝は悪戯めいた笑みを浮かべた。彼の背後では額を抑えて頭痛を堪えた表情の『中務卿』建葉・晴明(p3n000180)が立っている。
(ああ、お労しや。中務卿。
主上はまたも貴方に無理を申し上げたのでしょうね。
練達旅行をしたいから視察をしろの次に来ることと行ったら――)
「俺もシレンツィオに征きたい」
「なりません。ダガヌ海域とやらの危険性を聞いていなかったのですか。
何よりも貴方様は神威神楽の代表たる存在。ならば、遮那殿を社会勉強に送り出す方が良いというモノ!」
「それもありだ。庚よ、セイメイが此処まで否定的に吼えてくるのだ。
仕方有るまい。お前達でシレンツィオの視察を行ってきてくれないか? 勿論、土産は盛大に期待して居る!」
●『観光視察』
「セイメイ、あれはなに?」
「ねえ、壁に何かを書くのは良いことなの?」
晴明の両隣にはハイカラな衣服に身を包んでいる『双子巫女』つづり(p3n000177)とそそぎ(p3n000178)の姿があった。
神霊のけがれ祓いを行う巫女の一族に産まれた双子の忌み巫女は社会勉強のためにシレンツィオ・リゾートへと訪れたのだそうだ。
「ここは『二番街(サンクチュアリ)』
高天京で言えば下町とも呼べる場所だ。安価の食事や市井らしい労働者達の営みを見ることが出来る」
「……ええと、庶民の街?」
「と、も言う」
首を傾げたつづりに晴明はゆるやかに頷いた。
島の南東に位置する一般労働者が暮らす二番街(サンクチュアリ)――
この地はフェデリアの発展に際し、大量に流入した労働者達の集合住宅が建ち並んだ非常に雑多な街である。
高級感溢れる中央市街とは一転し、雑多で活気がある。故に治安的な観点で言えば多少、不安はあるのだが。
「安価で量も申し分のない食事や酒、異国情緒を味わえる下町の空気感は愉快なものですね」
「賀澄、好きそう」
ぼそりと呟いたそそぎは立ち並んだ露店から漂った香りに鼻先をくんと揺らした。
肉や魚介類の串焼きと共に売られた酒類を手に雑踏を征く労働者達。商店街と呼んでも差し支えない程度に雑多に物がごった返した二番街はラグジュアリーに満ち溢れたシレンツィオでは珍しくも感じられた。
酒場は早朝から人に賑わい、ポップなBGMが鳴り響く。ペイントアートが無数に施された壁と屯する男達は日雇いの仕事を求めてるように視線を巡らせる。
この地で視察(あそぶ)のも悪くはない。シレンツィオを良く知るには下町から。そんな言葉も何処かで聞いた気さえする。
「晴明、あれが水竜様?」
「セイメイ、あれは水神様の像?」
双子巫女がそれぞれ指差したのは島の北側、四番街(リヴァイアス・グリーン)に存在する自然公園である。
フェデリア自然記念公園は豊穣では馴染み深い桜や海洋の椰子の木が立ち並び、観光客達の憩いの地であった。
滅海竜リヴァイアサンが封じられたとされる像が存在し、神使(イレギュラーズ)の活躍を一目見たかったという観光客達が『戦に参加したつもり』で記念写真を撮る光景も見られた。
キッチンカーが配備され、暑い夏を楽しめるようにシャーベットや軽食が販売されている。
手付かずの自然は南国の風景そのものであり、時折モンスターが飛び出してくるが自警団が統治に一役買っているらしい。
穏やかな南国の自然を楽しめる事もあり、散歩スポットとして人気の他、リゾートとはまた違う自然そのものの海洋を眺めることが出来るためスキューバーダイビングや海水浴にも注目が集まっているそうだ。
「海、潜れる?」
「ああ。しっかりと指導を受ければ安全に潜ることが出来るらしい」
「それって水神の眠りを妨げないの?」
双子巫女が晴明の服をくいくいと引っ張った。
リヴァイアサン、此処に眠る――と言いたげな像が立っているが実際に此処に眠っているかを確かめたものは居ないらしい。
「ねえ、晴明。聞いておきたいんだけど……『伝説』の歌は?」
「此処にも聞こえた逸話がある、って聞いた……」
伝説の――その言葉に晴明は一人のイレギュラーズを思い浮かべた。
嘗て、この地で激戦を繰り広げたイレギュラーズ。神威神楽ではリヴァイアサンは龍神として崇められていたという。
その龍神を鎮めた『龍の巫女』の逸話。彼女の歌声は伸びやかにフェデリアの海域へと響いたそうだ。
「……ああ、この地では、彼女の歌が響いたと聞いている。
自然公園では時折、波の音に交じって『歌』が聞こえると――そんな噂もあるそうだ」
二番街、四番街での視察(と書いて実は観光と読む)を楽しんだ後は三番街(セレニティームーン)の天衣永雅堂ホテルで休息を楽しもうではないか。
土産物を買うならば二番街も良いが、リゾートである三番街でのショッピングも良いだろう。
「晴明、次は何見る?」
「……セイメイ、いこ」
楽しげな双子に手を引かれ、何処か困った顔をした中務卿を微笑ましそうに眺める庚なのであった。
- <光芒パルティーレ>溟海のブライト・シー完了
- GM名夏あかね
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2022年07月09日 22時05分
- 参加人数50/50人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 50 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(50人)
サポートNPC一覧(4人)
リプレイ
●二番街(サンクチュアリ) I
各地から取り寄せられた高級な物品だけではない。シレンツィオ・リゾートは交易拠点の一種として様々な品質のものを見ることが出来た。
観光客向けの土産店ではなく地元民が使用する店舗や奥まったところにある店舗をチェックして回ることこそがSuviaの今回の目的だ。
「素敵なティータイムのためには労苦を惜しむつもりはありませんの。
何種類か茶葉を買って『特製シレンツィオ・ブレンドティー』の完成を目指してみますね。うふふ」
うっとりと笑ったSuvia。労働者達が好む茶なども屹度とても参考になりそうだ。
「庚様はROOでいっぱいお見かけしたと思うのですけど。ニルは会ったことがあったか、うろんなのです……」
ううん、と首を傾いだニルに「ならば今お近づきになったと言うことで」と庚は茶化すように笑った。
「ご一緒に回りましょうか」
「はい。屋台と言って思い浮かべるのは、ニルはラサなのですけど……ここもそんな感じなのでしょうか?
どんなごはんがあるのか、どんなふうにみなさまが食べているのか、ニルはとってもとっても気になります。『おいしい』ごはんがたくさんあるといいですね」
「ラサも良いでしょうね。またご案内頂いても?」
「はい、勿論です。ニルでよければ」
『おいしい』は『しあわせ』だ。ニルは庚を案内してみせると意気込んで――ふと、周囲を見回した。
「庚様たちは何が好きですか? ニルは、みなさまがいいなって思ったもの、食べてみたいです!」
「それでは少しずつ、少量を選んで試してみましょうか」
折角ならば屋台の料理をより楽しみたいというのが観光の嗜みなのだ。
「おーい! つづりちゃーん! そそぎちゃーん! 晴明くーん!
ようこそ、海洋王国へ! 今日はボク達がばっちり観光案内……じゃなくて、視察のお手伝いをするよ!」
ガイドブックを片手に、焔はにんまりと微笑んだ。此の辺りにはまだ詳しくはないが、お土産探しならば二番街が向いているだろうか。
「露店でなら変な……じゃなくて珍しいものとかも売ってるかもだし!
それにほら! 食べ物のお店もいっぱいあるし、色々食べながら見て回ろう! これも社会勉強の一環だよね、うん!」
「おかしとか、あるんだ」
「……神威神楽ではないものも多そう」
不思議そうに見回すつづりにそそぎはぱちりと瞬いた。二人の様子にふふ、と笑った焔は「何でもチャレンジしてみようよ」と微笑む。
晴明が後ろ手に頷いたことに気付き、焔は双子の巫女を思う存分に楽しませてやるのだと意気込んだ。
「俺達が召喚されたのは、海洋での決戦の終わり頃だったな。つまり、……何年前だ? と思うくらい、もう地元民に近い気がするんだが」
どう思うと問うたアーマデルにイシュミルは「まあ、確かに」と頷いた。先程カラフルなシャツを着てみないかとアーマデルにせがまれていたイシュミルは「キミは恋人がいない時に私を呼ぶけれど、大丈夫? 私はBとLの間に挟まる気はないんだよ?」となあなあの拒否をしていたのだった。
「おや、あそこに見えるは豊穣の……庚殿、晴明殿、つづり殿、そそぎ殿。
晴明殿、よければこれを。胃薬だ、慣れない食べ物に胃の疲れを感じたら飲んでみてくれ。
……大丈夫、味も完璧だ。ちなみにこれが製造者なので、なにかあったらこいつに直接アタックしてくれ。な!」
「ああ、よく頂く薬の……」
イシュミルはアーマデルに「薬を渡していたのかい」と頷いた。
「製造者責任くらいは負うけれど。消費期限は守って、お大事にね」
「それで、皆は? ……ふむ、賀澄殿への土産物か。
食べ物と形の残るもの、両面から攻めるのがいいと思う。
ずっと共にあって欲しいなら袖口に隠して身に着けられる腕輪の類とかな。衣類を選んで流行らせるのもいいかもな」
アロハシャツなどはどうだと取り出したアーマデルに晴明は「主上に似合うであろうか」とまじまじと見詰めるのであった。
……ちなみにイシュミルはこれが一番似合うのだと白い己の衣服をアピールして懸命にアロハシャツを回避していたのだった。
「めぇ……晴明さま、お忙しそうです、ね。
すこし心配です、し、わたしも視察のお手伝い、をいたします、ね。えいえい、おー!」
胃の具合が少しばかり心配だというのは言葉にせず、えいえいおーと拳を振り上げたメイメイはきょろきょろと周囲を見回して。
「高級リゾートも素敵です、けれど、こういう活気のある場所は、やはりわくわくします、ね。ふふー、美味しそうなものも、たくさん、です……」
屋台の揚げ菓子を抱えたメイメイは屋台を眺めてから晴明に「晴明さま」と呼びかけた。
「これなら、布で作られているので、カムイグラまで持ち帰っても楽しめそう、です。瑞さまに、どうでしょう?」
「ああ、良いかも知れない。瑞神の髪に飾ってやれば喜びそうだ」
南国の花をモチーフにした髪飾りを手にしていたメイメイはふと、傍らで額に汗を滲ませた晴明を見上げる。
「……ところで、晴明さま。そのお姿ではだいぶ暑いのでは……?」
「ああ。確かに。だが、和装以外は中々……」
「せっかくなので、フェデリアの気候で過ごしやすいお召し物を、選んで差し上げます、ね。
これも視察を快適に執り行うためにも必要なことです、よ。……なんて」
メイメイの言葉にぱちりと瞬いてから、晴明は「良いのか? ならば俺も貴殿に選んでも良いだろうか」と微笑む。
少しばかり戸惑いながら「そ、それでは、おねがいします」とメイメイは頷いたのであった。
(中務卿も大変だな……)
そうは思いつつも、飯を食って酒を呷る。食べ歩きというのも案外悪くないのだとエイヴァンは二番街(サンクチュアリ)の様子を眺めながら佇んでいた。
「まぁ、なんかスリやら悪漢でも出てきたら、しれっと対処するぐらいのことはしてやろう。
あー、だがそうなると酒を飲むのはまずいか? ……まぁ、なんとなかるだろう」
普段であればカヌレなどに連れ回されてトラブル回避に気を配らねばならないが、今日はオフだ。トラブルがないことを願っておこう。
そこに香り続けるのは香ばしいソースと焦げた米の匂い。
提供されるのは豊穣の米。海洋の回線を使った二番街の労働者層の心にガツンと来るB級グルメ――そう、正しく『海鮮そばめし』だ。
ゴリョウはただ腹と舌を満たすだけではなく、豊穣や海洋が最大の供給先になる米と回線を使用するのもポイントであるとアピールし続ける。
「今後も安定した提供が出来るし、国の特産の魅力の伝達にもなる。
ちなみにソースを使わず中華出汁を代わりに使えば海鮮炒飯になるぜ。こっちも人気だな。
ぶはははッ、二番街における目玉として君臨させる勢いで焼いてやるぜぇ!」
人集りに気付いて晴明はおや、と首を捻った。底に見えたのがゴリョウの姿であったからだ。
「お、そこ行くカムイグラ視察勢。どうだい一つ! 安くしとくぜ!」
ゴリョウの呼びかけに「美味しそう」と声を揃えた双子巫女に庚は「ならば、是非ご馳走になりましょう」と微笑んだ。
「はじめまして、僕は鹿ノ子と申します。今園さまや遮那さんとは、少しだけ仲良くさせてもらっています」
「はじめまして、お話はかねがね。月ヶ瀬です。気軽に庚とお呼び下さい」
背筋を伸ばして微笑んだ庚に鹿ノ子は頷いた。共に視察がてら霞帝への土産を選ぼうとのんびりと二番街を歩く。
「……豊穣にも、貧富の差はありますよね。
勿論そういった状態を良くするために頑張っている方は多いのでしょうし、報告や要望は上がっているのでしょうけれど……
実際に現場を見てみなければ分からないことは、多いでしょうね。
此処は多少治安が悪いにしても、賑やかで活気があるだけましなのかもしれませんね」
「そうですね。豊穣ですとやはり種の差別がまだ残っている地方もありますから」
そうした部分が貧富の差を産み出す可能性はありましょうと庚は苦く頷いた。八百万ならば問題はないだろうが獄人にとっては大きな問題であろう。
「成程……ところで、今園さまって何がお好きなんでしょう? 意外とジャンクフードとか、気に入ってくれそうな気もしますよね」
「ああ。練達の食事などはお好みでしたよ。故郷が懐かしいのだとか――」
「賀澄様への土産物、探すのならば俺にもぜひ手伝わせて下さい!
輸送の日数を考慮すると、やはり日持ちのする物が良いでしょうか?
現地の雰囲気を感じて頂くため、一般向けの酒類なんか良いかもしれませんね。後は、それに合いそうな肴とか……」
どうでしょうかとさ、土産物についての考察を行うルーキス。折角ならば霞帝の好ましく思うものをセレクトしておきたいのが従者の心。
双子巫女や庚もそれぞれ移動するだろうか。ルーキスはそわそわとした様子で「よければ食事は如何でしょうか?と声を掛けた。
「『引率』のお役目も今はお休みして大丈夫だと思いますよ。何より、職務で多忙な晴明殿に、ひと時でも『観光』を楽しんで貰いたいのです。
晴明殿の好きな食べ物は何ですか? 是非それを食べにいきましょう!」
「俺は魚を好むが……この場所ならではが有れば嬉しいな」
「成程。ならば探してみましょうか俺で良ければ何処へでもお供します。さぁ、行きましょう!」
手を差し伸べて楽しげに笑ったルーキスにつれられて晴明は興味深そうにその背を追掛けるのであった。
●二番街(サンクチュアリ) II
「二番街の名はサンクチュアリ、か。
なかなか面白い名前だなぁ。俺はとりあえず、裏通りに行ってみるか……」
屋台などが多いというならばコミュニケーションも取りやすいだろうとフレイはふらりと裏通りへと足を進める。
こういう場所は串料理を食べ歩き、此処ならではの酒を呷るのがぴったりだ。店に入らなくても良いというのが利点でもある。
裏通りの喧噪から眺めればマーケットが見える。土産物は其方の方が多いだろうか。見て回るならば食事を終えてざっと確認してみるのも良さそうである。
二番街に棲まう労働者向けの日用雑貨も販売されているらしい。一風変わったモノが手に入る可能性もありそうだ。
「簪のお礼に帝さんにお土産選ぶの! 何がいいかしら、お兄様」
ひらひらとサマードレスを揺らした章姫。晴明から霞帝からの贈り物だと渡された簪を愛らしく着用して居る。
晴明の服の裾をつんつんと摘まんだ章姫は愛らしい。だが、鬼灯は「鬼灯くん右腕寂しいなー章殿ー!」と言わずには居られない――まあ、彼女が楽しければOKではあるのだが。
「さて俺からも帝への土産を選ばねばなるまいな……なんだって喜ぶだろうが……何にしたものか」
「あの方は何でも喜びそうなのが困るであろう?」
確かにと晴明に頷いた鬼灯に章姫は慌てた様に走り寄った。「鬼灯くん! 帝さんのおめめと同じ色の石があるのだわ! これにする!」と意気込んだのは優しい光を持った宝石だ。
サファイアかラピスラズリなのだろうか。神威神楽では珍しく加工して装飾することでアクセサリー類としてプレゼントできる。
「お兄様達にも同じものをあげるのだわ!」
「良いのか?」
「勿論なのだわ! 弥生さん! これをブローチにしてほしいのだわ! お願いできるかしら?」
うきうきとした章姫は弥生にブローチの加工を願い出た。弥生ならば石を鑑定しサファイアであると直ぐに教えてくれそうだ。
弥生自身も美しいものは良く好んでいる。楽しんで作業してくれるはずだ。完成品は晴明や双子巫女にプレゼントし帝のお土産にと包んでやればいいだろうか。
「奥方がそうお願いされるなら」
うっとりと微笑んだ弥生に章姫は「とっても素敵にして欲しいのだわ!」と微笑んだのだった。
「思っていたより活気があります。このように賑わうのはとても良いことだと思いますね」
「やはりこちらの方は活気があるな。ホテルの方は高級リゾートといった感じだったが……人がかなり多い様だから、逸れない様にな。リュティス」
声を掛けるベネディクトに領地運営のヒントがありそうだと周囲を見回していたリュティスはぱちりと瞬く。
「ふむ……迷子ですか? ご主人様は目立ちますし、問題ありません。私は小さいので心配かもしれませんが……」
どうしましょうかと首を捻ったリュティスにベネディクトは気をつけてくれれば構わないと微笑みかける。
「さて、食事だが……あの店はどうだ?ハンバーガーなる物を売っている様だが。
見た所、パンに肉を挟んで、間には少し野菜なども入れるのかな? 似た様な物は食べた事はあるが……」
「ハンバーガーですか、名前は聞いた事がありますね。なるほど、お手軽に食べれるのは利点でしょうか?
食べごたえもありますし……それにとても大きい物もあるのですね」
如何しましょうと問うたリュティスは大きなものは幾らか分けた方が良さそうだといいながらもビックバンズという食べ応えバッチリな逸品を選ぶベネディクトを眺めていた。
「私はてりやきバーガーなる物が気になります。余ったら持ち帰り用に包んで頂きましょうか」
――その後、必死に齧り付くベネディクトを見ることになるのはリュティスだけの秘密にしておこうか。
「ええ、これも全ては帝へのご報告に生かす為。微力ながら僕にもお手伝いさせて下さい晴明殿!」
ばっちりリゾート向けの洋服に身を包んでいた社に晴明は「良く似合っておられるな」と頷いた。因みに、今回は霞帝の為のお土産とご報告という指名を背負っている社である。
「しかし僕自身も見慣れないものばかりだ。海を越えるだけでこうも文化が変わるとは……。
後はお土産……もとい視察の結果として持ち帰るものも心して選ばなくてはいけないし……この街における下町の雰囲気、しっかりと味わっていこう」
治安的な心配は、出来るだけ避けておきたいと社はそろそろと周囲を気にしながら進む。
「……巫女殿、賀澄様がお好きそうだと仰っていたな……味見をしてお土産に……」
ふと屋台に足を止めた社に「社殿?」と晴明が声を掛ける。
「こ、これは正当な視察の結果としてお渡しするものであって! 決して褒めて頂きたいという下心などでは……!」
屹度、霞帝ならばもの凄く喜んで笑って呉れることだろう。「良いものを有り難う!」と微笑む賀澄の顔を思い浮かべてから社は「これは重要な使命!」と繰り返したのだった。
「あら。アンタ、フリアノンの琉珂じゃない? アンタ、今一人? 暇? 暇ね、よし! 今から、あたしと一緒に食べ歩きするわよ!」
「わ、わ、燦火さん! 食べ歩きね、ラジャー!」
ポーズを取った琉珂に燦火はにんまりと笑う。
「知ってる? ここって、リーズナブルな価格で美味しいモノをいっぱい食べられるのよ!
ここで、全制覇する勢いで食べ歩きしないでどーするのってヤツ!」
「ええっ、そんなに食べられるかしら? 燦火さんはお腹には自信がある? 私ね、一寸ずつかも知れないから燦火さんとシェアってハッピーになりたいわ!」
次に「ラジャー」と返したのは燦火であった。結構な大食らい。胃もたれ知らずの燦火は『師曰く思い立ったら吉日』だと琉珂へと声を掛けたそうだ。
「やっぱり一人でってのは寂しいのよね。だってほら、食べ物の感想を言う相手がいないじゃない?
……という事で、こうしてアンタを誘ったって訳。何なら、食事代は私が出してあげてもいいわ。最近、依頼で稼いでるから。懐は温かいの!」
「んふふ、私もちゃんと出すものっ。里長だって多少お金稼ぎをしたのよ!」
ウキウキと走る二人。串焼きや串揚げを始め、ラップサラダやポテトと色々な物を購入し続ける。
両手一杯になる食事についつい戸惑って仕舞うけれど――
「他の国の料理が、こんなに美味しいものばかりだったなんて。こんがり焼いて岩塩振っただけの肉とは大違いだわ……っ」
「私もそう思ったの。美味しくって、こんなお料理を出来たら毎日食べれるのかなあ」
「かもしれないわね? 琉珂、アンタは何が気に入ったの?」
「んー、このポテトサラダってやつ?」
お芋を崩していてあっさりしている、かと思えばブラックペッパーとごろりと入ったベーコンの食べ応えがあったの、と琉珂はにんまりと微笑んだ。
燦火は「聞いてたらお腹空いちゃうじゃない!」ともう一度走り出し――
「二番街は一般労働者層が暮らす地域だと聞きました! こういう所にこそ、その地域の特色というモノが出るのです!
という訳で食べ歩きツアー敢行です! 美味しい串焼きや隠れた名店を制覇してやるんですよ!」
うきうきとしていた千代は庚の姿を見付け、「美味しいお店は見付けましたか?」と問い掛けようとして――
「びぇぇぇ!? 治安はそんなに良くないって聞いてましたけど……何で私ばっかりこんな目に!? 誰か助けて~!」
厄病神『カーラ・ラートリ』の籠は勢い良く千代を不幸に巻込んだ。ごろつきに追掛けられて、勢い良く走り出す。
その時、千代の背中から触手が生えたのをごろつきはぎょっとしたように見詰めている。
「ハッ! ミサキちゃん!?
私のピンチに助けてくれるのはすごく嬉しいんですけどこんな街中で触手事案はご法度ですよ! しかも私にも絡まってるしぃ!?」
寄生触手生物『ミサキ』に絡みつかれる千代にごろつきは怯えたような目を向けていたのだった。
●二番街(サンクチュアリ) III
「みゃーこよ。今日はちょっと土産のブサカワグッズ探しに付き合ってくれねぇか?
付き合ってくれている間は無論俺の奢りだ。空いた時間で構わねぇから検討してみてくれ」
「乗った」
何を奢って貰おうかとるんるん気分で天川の元へと向かう水夜子は従姉・晴陽の為の土産を選ぶ彼の『助手』に立候補したのだった。
「折角の海洋だしな……今回も海の生き物っぽい奴でも探すか? みゃーこ、最近の先生のブサカワトレンドとか知らねぇか?」
「んー、そうですねえ。めんだことか可愛いですけど」
本気の本気で情報収集を行う天川。探偵としての意地を見せる彼はブサカワグッズを見付けたならば色違いで水夜子と晴陽に購入する次第だ。
「室内用スリッパ……ぬいぐるみ……可愛らしいが、先生は使うだろうか……」
「んー、室内用スリッパは自室で使いそうですよね。あ、天川さんは此れ買って下さい。姉さん用に。
私と姉さんにおそろいでっていうなら、この『めんだこちゃんがま口』がいいです」
ぐいぐいと押し付けられたのは鮮やかな海を思わせるガラスペンであった。記念品っぽいという理由で晴陽に水夜子が選ぼうと思っていた土産であるらしい。ブサカワグッズとして水夜子が欲しかったのは『めんだこ』のがま口だ。これならば一寸した買い物に持てるからと水夜子一推しである。
「みゃーこ、付き合ってくれてありがとよ。一緒に昼飯でも食いに行くか」
「わ、海鮮ですか? 喜んで!」
うきうきとした水夜子に「お手柔らかにな」と天川は揶揄うように笑ったのであった。
「えへへ、まさか今年も皆と海洋――それも今話題のシレンツィオ・リゾートに皆でお出掛けできるなんて思っても見なかったよっ!」
にんまりと微笑んだ花丸にひよのとなじみは「確かに」「旅行に来られるなんて!」と微笑んだ。
「深緑の一件は片付いても混沌各地では未だ色んな問題が山積みだけど、皆と遊んでる間はそれも忘れてめいっぱい楽しまなきゃ……だよねっ!」
「ああ。そうだね。花丸ちゃんが居るとは言え治安も良くないし緊張するぜ。
いいかいなじみさん、面白そうなものがあっても一人で走って行っちゃダメだぜ。団体行動!」
びしりと指差した定になじみは「アイアイサー!」とポージング。安いグルメが食べられるらしいと聞いてそわそわしていた花丸ははっとしたように「ひよのさん、手!」と差し出した。
「ジョーさんもなじみさんから目を離しちゃダメだよ?」
「じゃあ、定くん。手」
「……なじみさん、諸事情につきまして僕の鞄の紐を掴んでて貰えますでしょうか」
正直手汗がやばかった。暑くて気になってしまった。ひよのと花丸は何も気にして居なさそうだが、定はそういうわけにはいかない。
スリや変な人に気を配りながら安価でボリューミーな食事を堪能する花丸は串焼きと一緒にノンアルコールドリンクを傾ける。
「ジョーさんも最近は外に出るようになったけど、こういうとこはまだ慣れてないよね。楽しもうね」
「あ、ああそうだね……」
「ってなわけで、こっちもいただきまーす! んー、美味しいーっ!
あ、ひよのさん! ひよのさんの食べてるやつ花丸ちゃんに一口ちょうだい? 代わりに花丸ちゃんのあげるからっ!」
「ええ、よければどうぞ」
『あーん』も普通にやってのけている二人を眺めながら、ふと、露天の端を見詰めてから定は「……なじみさん、これどう?」と指差した。
ガラス製雫型。様々な色彩のグラデーションの掛かったピアスは可愛らしい。可愛いと声を弾ませたなじみに定はふと、彼女を見詰める。
「そういえばなじみさんって何色が好きなんだっけ。……夕焼けから夜に変わる様な色や空色から海に、とか色々あるから好きなの選んでくれるかい?」
「んー……私は、そうだね。夜に朝が来たように澄んだこれとか! 夜明けの空って綺麗だよねえ」
また一緒に見たいねとなじみは定に微笑んだのだった。
「いつか見に行った、海洋のバザーの賑わいぶりには驚かされたものだけど。今度は高級リゾート地か……この国はやはり凄いね」
ぱちくりと瞬いた美透は「良ければ琉珂君も一緒にどうかな? 食べ歩きでもしながら、色々見て回ってみようじゃないか」と琉珂を誘った。
「ええ、美透がよければ。何を見て回る? 面白いものあるかしら!」
「あるかもしれないね。まずは裏通りで串焼きをいくつか買って行こう。お酒は……うん、やめておこう!」
「どうして?」
「……琉珂君」
酔うと醜態をさらすと告げてから、どうにも美透の『一寸お茶目な面』を琉珂が求めてきているようでもある。
串焼きを食べながらそろそろと後退する美透に「面白い美透はまだ?」と琉珂はじりじりと距離を詰めるが。
「ほら、琉珂君。マーケットだ。色々な商品があるけれど、やはり土産物が多いようだね」
「あ、本当ね」
――よかった、話題が逸れた。
「……ふむ。この街は何処を見てもエネルギッシュな雰囲気だね。治安が良い訳では無さそうだけど、それもまた魅力の一つなのだろうね」
「そうね。ね、美透。お揃いの何かを買っていきましょうよ!」
屹度素敵な物があるはずよと琉珂はるんるんとした心地で歩き出すのだった。
「琉珂! 琉珂! すっごく美味しそうな匂いが一杯するよ! こんな天国みたいな通りがあるなんて、夢みたいだなぁ」
「本当ね! おいしそうがいっぱい!」
涎をごくりと飲んでから玲樹は瞳を輝かせた。きょろきょろと周囲を見回す琉珂も食欲には勝てないのである。
「どれから食べよう? 俺はやっぱり肉かな! ……あ! そうだ! はぐれないように今回も手を繋いで行こうね」
「はっ、そうね、手を繋いでいないと二人とも美味しそうなものに向かって行っちゃう!」
ついつい食事に気を引かれてしまうと玲樹と琉珂は顔を見合わせて笑った。流石に全部の屋台は回ることが出来なさそうだ。
一番美味しそうなものに向かうという玲樹に「その心は?」と琉珂は問うた。
「俺は当たりを引く勘はある方だから! あ、そうだ! 食休みの時はお土産屋に寄って何かお揃いの物を買おう? これも夏の思い出作りになるよね」
琉珂はどんなものが好き、と問い掛けた玲樹に琉珂は「んー、アクセサリーも可愛いのよね」と首を傾げて。
「ねえ、異国のおしゃれを堪能するためにアクセサリーを見て回りましょうよ。玲樹の尾に飾れるものとか!」
「琉珂の尾にも飾れそうだね!」
●三番街(セレニティームーン)I
「むほー! サンサンと照り付ける太陽で輝くビーチ! こいつはテンションがアゲアゲでありますな!
と、今回の目当てはビーチで泳ぐ事じゃなくてショッピングセンターでお土産探しであります!
せっかくのリゾートでありますからにー、ひよの殿にお土産を買っていくでありますぞー! ……あるぇ? あそこにいるのひよの殿じゃありませんかー?!」
お土産を買おうと思って居た相手がリゾートに居る。なんてこったい。ジョーイの目的は此処で消えた――が!
「ひよの殿ー! 奇遇でありますな! まさかひよの殿もリゾートに来ていたとは!
ともあれ、ここで会えたのもなんかの縁でありますゆえー、そこのカフェでお茶でもいかがですかな? 連れの方も含めておごっちゃいますぞー!」
「あら、良いんですか? ジョーイさんがそう仰ってくれるなら『うちの連れ合い』も喜びます」
「喜んじゃうんだぜ」
「とっても喜んじゃいます」
練達三人娘との出会いはある意味で――ジョーイの財布を痛めつける可能性はある。
ひよのの後ろで悪戯っぽく笑ったなじみと水夜子は何にしようかなあと楽しげに歩を進めるのであった。
「せっかくだし、見慣れない所に行く方が楽しいかなって!
琉珂ちゃんにいっぱい美味しい物を食べさせてあげなきゃー! 琉珂ちゃんは和食って食べたことある?」
「な、ない!」
天衣永雅堂ホテルのレストランに着席したスティアはメニューを眺めてからにんまりと微笑む。緊張した様子の琉珂に「私が選んであげるね!」と胸を張った。
「お寿司に天ぷらは外せないよね。後は何が良さそうかな……お刺身とか和牛のタタキとか?」
お箸の使い方も教えてあげるからと微笑むスティア。因みに彼女も練習をしたのだ。『おねーさん』らしくしっかりとアピールするスティアに「すごい!」と琉珂が手を叩き笑う。
「この後はシロタイガー・ビーチのアクセサリーショップに向かおうか。琉珂ちゃんはどんなアクセサリーが好き?」
「んー、あんまり分からないのだけれど。イヤリングとか、とっても気になるの」
たまのお洒落は女の子の嗜みだと笑い合う。気に入った物があれば彼女にプレゼントしてあげようとスティアが心に決める一方で、琉珂もお土産を買わなくちゃと意気込んでいたのであった。
「うーみだー! すごーい! おっきーーーい!」
「あーもうゆえはしゃぎすぎ! ねぇリュカ、ゆえに犬の散歩みたいにリード付けましょうよ、だめ?」
「つけたら首がぎゅってなっちゃうかもしれないわ!」
リードを付けても走って行ってしまいそうだと認識しているのだろうか。琉珂の発言に鈴花が吹き出した。
今回は水着を持ってきていないから、次回は必ずと意気込んだユウェルに鈴花は「いーわよ」と頷いて。
「泳げないけど海で遊ぶのだー! 海水をくらえ!」
尾をぶんぶんと振り回したユウェルの一撃は琉珂と鈴花へと見事にクリーンヒット。
「ってこらゆえ、いきなり顔面は卑怯よ! んもうリュカ、いくわよ! アタシは右から! リュカは左から!」
「任せて! ユウェルは沈めちゃうんだから!」
「ふにゃー! 2対1はひきょーだー!」
「最初に攻撃してきた卑怯者には何も言わせませーん!」
ばしゃばしゃと水を掛け合い笑い合う。タオルはどうやら貸与を受ける事が出来そうだ。少しばかり衣服が乾いたならばマーケットに回ってみよう。
そう提案するユウェルはふと、アクセサリーショップを眺めてから―ー
「あ、あのアクセサリー屋さんがいいと思う! 美味しそうだし! おかーさんの分とー3人でお揃いのやつ何かほしーね。今日の記念に!」
「……アクセサリーがおいしそう? 少なくとも店内で食べちゃだめよ、ゆえ」
首根っこをひっぱる鈴花にユウェルが「ぐええ」と鳴いた。琉珂が「ねえ、鈴花、これはー?」と指差したのは花のヘアゴムだ。
「角につけるのもきっとかわいいわ」
「「つけて!!」」
二人揃ってお強請りをする琉珂とユウェルに鈴花はくすりと笑う。「はいはい、おねーさんのアタシがつけたげる」と手間の掛かる二人の角へとヘアゴムを飾って――
「この前も色々あったけど今日はこうして遊べたし、次は水着でちゃんと泳ぎたいね!
行きたいところはまだまだいっぱいあるしたっくさん遊ぼうね! お外はやっぱり楽しい!」
「そうねえ、人は多くて目は回るけど、3人でこうして色々出かけるのは、嫌いじゃないかもね」
「はじめまして、俺は寒櫻院・史之。どうぞよろしく。なにしにここへ来たの?」
史之の声かけに「ご機嫌よう」と庚が穏やかに微笑んだ。カムイグラの視察団は所謂、霞帝のおつかいである。
「おみやげ探しをするなら治安の良いところを回るんだよ?
まちがってもスラムのほうへ近づかないようにね……ごめんごめん、そんなのわかってるよね。でもなーんかドジ踏みそうで怖いんだよなあ」
「ん、」
「晴明さんそんなに怒らないで。視察だからって見に行かないほうがいいところもあるんだよ」
くすくすと笑った史之に「怒っているわけではないが」と晴明も困り眉を作って見せた。晴明は顔が怖いと双子巫女がその服をついと引っ張る。
「つづりちゃんとそそぎちゃんだっけ? うん、噂には聞いているよ。ふたりは仲良し?」
「仲良し」
「……うん」
頷く二人に史之は「此処は君達の国をモデルにしているんだね。過ごしやすいや」と中庭も見事だと彼等の国の文化を褒め称えた。
不安げにしていたトルハを連れてバクルドはシロタイガー・ビーチをまじまじと眺めていた。
正直なことを言えばバクルドは放浪を行う事が好きであった観光や興行は違和感がある。だが、今日はバクルドがメインではない。
メインはアルティマのレッドレナ小集落で救出したトルハと名乗る少女である。
「ええと……」
不安そうに周囲を見回すトルハ。バクルドは彼女が楽しめそうな所を回ったり屋台で食事をすることを提案するが――
(子供を持ったりしたことなんてないからどうすれば喜ばせられるのかさっぱり分からねえ。
何事も分からずじまいで右往左往することにはなるかもしれねえな……)
こうして、活動しても良いのだろうかとトルハが不安そうな顔をする。
「生き残ったことは罪じゃねえ、お前さんの両親は何よりお前さんの無事と幸せを願ってる、間違いなくな」
言えるのは其れだけだ。今日一日彼女に振り回されたって良い。楽しみを覚えて生き残ったことは罪ではないと教えてやりたいと感じているからだ。
「はー……風が気持ちいいわねー……♪ ね、ちょっとだけ、裸足で歩いてみましょ」
プルーへと手を差し伸べるジルーシャは「大丈夫よ、もし転びそうになっても、ちゃーんとアタシが支えてあげるから!」と胸を張るが――
「あら、貴方のミルキーホワイトな指先で?」
「……ってちょっと、何で笑うのよー! もう……そりゃぁ鍛えてるって言えるほど筋肉はないけれど……ハイ、お手をどうぞ」
唇を尖らせるジルーシャに「なら、最初から捕まっておこうかしら」とそっとプルーは手を差し伸べた。
「フフ、砂がサラサラで気持ちいい♪ 砂浜を歩きながら景色を眺めるのも楽しいわ。
あっちに見えるのは……カジノ、かしら。宝石の洞窟も見てみたいし、一日じゃ全然時間が足りないわね」
「ええ、そうね。素敵な色彩が溢れかえっているもの」
「またアタシと一緒にお出かけしてくれるかしら? 二人で全スポット制覇目指しましょ♪」
「何処かに宿泊して全て制覇するのも楽しそうだとは思わないこと? ディナーも、折角だから」
プルーはジルーシャに囁いた――故郷を護ってくれて有り難う、と。
「まぁ、色々とケリがついたらという話でもあった気もするが。折角の機会ではあるし『此処』ほどカキ氷が似合う処もなさそうではあるゆえに」
奢るよとはいくまいか。そう視線を送った愛無に水夜子は「持ちつ持たれつなので、奢りはナシですよ?」と揶揄うように笑う。
何時もならば『ご褒美』である奢りだ。だが、それを封じられるならばさて、困った。
「いいや。まぁ、これから海洋の仕事も増えそうだ。使った分は稼げばいい――という訳で奢るよ。好きな物を頼んでくれて構わない」
「そんな、エスコートばかり」
くすくすと笑った水夜子に愛無は「けれど、ああいうの好きだろう」とメニューを指差した。少しばかりお高いフルーツが沢山乗ったかき氷。マンゴーなんて正しく南国でないだろうか。
「そう言えばアクセサリーショップもあるのか」
「ああ、あっちにありましたよね。食べ終わったら見に行きましょうか」
「そうしよう」
スーツに合わせられそうなシンプルなアクセサリーなども屹度販売しているはずだ。水夜子は案外、シンプルなものを好むらしい。
(さて、何が良いか。
リングやブレスレットだと資料とか見る時に資料痛めたりしそうだし。チョーカーとかが良いかしら。
予算もあるし。何より僕は人間の好みは、さっぱり解らん。店員のお勧めとか参考になるかもだしな)
水夜子をマジマジと眺めてから愛無は「良い物があると良いが」と聞こえないように呟いた。
●三番街(セレニティームーン)II
「観光も兼ねてお土産を探しましょうか?」
つづりとそそぎ、それに晴明にも声を掛けて沙月は「お手伝いしましょう」と微笑んだ。
双子巫女はお土産選びにもなれていないのだろう。巾着には可愛らしいがま口の財布をそれぞれ持っているようだ――どうやらそれも晴明が用意したもののようである。
「せっかくなので海洋らしいお土産を送ってはどうでしょうか」
「「海洋らしい」」
ううんと首を傾いだ二人はああでもないこうでもないと選択しているのだろう。沙月は二人を見守っていて下さいねと晴明に声を掛けて髪飾りを見繕う。
普段使いも出来るように。二人の和装にも似合うものをそれぞれ揃いで選ぶ。少しばかり雰囲気の違う双子だが、顔をつきあわせていれば良く似ている。
「沙月さん、これは、どうかな……」
「これ、可愛いでしょ?」
双子はセイメイは当てにならないと唇を尖らせている。つい笑みを浮かべた沙月は「良いと思いますよ」と視線を会わせた。
「さ、休憩に甘味でも食べましょうか。和風か洋風のどちらのお店の方が良いですか?
和風なら冷やしぜんざいでしょうか? 洋風ならアイスクリームが良いかも知れませんね」
どっちも、と双子が声を合わせたことが可愛らしくて沙月は多く頷いたのだった。
「記録ではほしよみキネマを開発したのはROOの月ヶ瀬さんらしいですね。
もしかしたらと思いこちらまで来たのですが、やはり建物の見た目が似ているだけでしょうか。
こちらでもほしよみキネマが使えるのならば心強いのですが……」
「其れは無理な話かも知れませんね。矢張り、現実とR.O.O(仮想現実)では具合が違うでしょうし」
いつかの日に現実でそうしたものを構築できれば嬉しいですが、と庚は繁茂へと大仰に頷いた。
やはり、彼方で出来たことが此方でも実現できる可能性は捨てきれない。
「折角ここまで来たので何か見て行きましょうか? ……一作品でも映画を見れば思い出話にはなるでしょうし。
そうなると……これがよさそうですね、シレンツィオ・リゾートの開発風景を撮った短編映画」
「成程、良いかも知れませんね。作法は教わっても?」
「はい。ポップコーンにホットドッグにチュロスにポテトにチキンナゲットに飲み物を買って――これが希望ヶ浜で学んだ映画鑑賞セットですよ」
除ければ月ヶ瀬さんも、と声を掛けられて庚はチュロスを片手に鑑賞席へと向かうのであった。
ヒイズルだとか、高天京壱号映画館だとか、雰囲気に惹かれて来たはいいものの――
知っている気がして星穹はヴェルグリーズとキャピテーヌ・ピカデリーに来てみたは良かった。確かに雰囲気はヒイズルにも良く似ている、が。
「……そ、その、ヴェルグリーズ。私、映画というものを見たことがなくて……」
「あ、これなんて面白そうじゃない? スタイリッシュ3DNINJAアクション、席が揺れる! 水飛沫が飛ぶ! だって」
「忍者! ……ええ、気になります。是非そちらをお願いしたく!」
瞳を煌めかせた星穹は「作法も知らずお恥ずかしいのですが」と彼を見遣った。チケットを購入したヴェルグリーズは映画鑑賞の下調べもばっちりなのだろう。
「そうそう、映画を見る時はポップコーンのバケツと大きなドリンクが定番らしいよ。両方とも買っていこう」
「……ぽっぷこーん? なるほど、ホットドックもあるんですね」
取りあえず購入してみようとキャラメル味と塩味のポップコーンが並べば圧巻だ。ドリンクもLサイズにしたのはご愛敬。
「大きい……し、すごく……ふふ、楽しい。それにこれは……?
この赤と青の眼鏡で本当に立体になるのでしょうか? チケットはこれでいいんですよね?」
「なるほど、この眼鏡をかけると3D? とやらに見えるんだね。よく分からないけれどこれが売りだそうだからどうなるか楽しみだね」
着席して眼鏡を掛けてみても今は青と赤のフィルムが目の前にあるだけだ。眼鏡を掛けた顔がどこか可笑しくて二人は顔を見合わせて。
「どうしましょう、私……どきどきしています。とても! まぁなるようになるでしょうし……行ってみましょうか!」
――鑑賞を終えて、二人とも暫くは余韻に浸っていた。
「楽しかったね……! 敵の攻撃が目の前に迫ってくるみたいでとても見ごたえがあった!
NINJAの戦い方もすごく機動力があって参考になったよ! 画面に合わせて動く座席もとても臨場感があったよ!」
「すごい、あんな風に身体を使えば私も貴方を更に護れるかもしれない……。
映画館というものはこのように学びの多い場所なのですね。それに、そう、このポップコーンがおいしくて……食べすぎて、しまったのです」
揺れたり、濡れたり、匂いがしたり。もうこれは『楽しかった』と言うしかない。
「これは他のも見てみないといけないね! 時間があったらまた見にこよう」
「ええ、ええ、是非参りましょう、ヴェルグリーズ。映画館、好きになれそうです」
希望ヶ浜にもあるらしい映画を、心置きなく楽しめる気がして、二人の共通の趣味が新たに芽生えたのだった。
「気になる店はあるかい、嬢ちゃん。何でも……とは言えねぇが、祝勝会代わりだ、おっさんが奢ってやるぜ」
祝勝会の代りだろうとシロタイガー・ビーチを進む縁に蜻蛉は柔らかな笑みを浮かべ返した。
「いつも買うてもろてるし、連れ出して来てくれただけでも充分」
深緑での一件は店の客が噂していた。大切な者を失った彼女の埋めようのない喪失感は知っているからこそ『敢えて』知らんぷりをした。
蜻蛉も、彼が触れないならば何も云わない。何がしたかったわけじゃない。ただ、海を見たかった。
波が全部攫ってくれれば良いのに。風に靡いていた髪も懐かしい。首筋のくすぐったさが、喪失感を煽るように引いては遠離る。
「サマーフェスティバルの時期になったら、ここも今以上に賑やかになるのかねぇ」
「どこの世界でも、お人はお祭りするんが好きやから。今から楽しみ」
小さく笑ってから蜻蛉はぎゅうとその手を握った。
――あなたは、あの時こんな気持ちやったの?
聞けやしない言葉を飲み込んでから、彼の優しさがちくりと痛かった。
「その……髪、短いの似合てるやろか?」
「ああ、いいと思うぜ。夏場は特に涼しそうだしな」
「言うて欲しいんは、そういう事やのうて!」
「いてっ――」
ひれ耳をぎゅうと掴んでから、縁が小さく笑う声を聞く。
「……悪い悪い、冗談だ。そんな顔しなさんな――お前さんが頑張った証が、似合ってねぇわけねぇだろ」
「……良かった。こんなに短いんは初めてやから。嫌われてしもたらどないしよかと思てた」
嫌いに何か、とは言わないまま縁は散らばった黒髪を眺める。
この髪が元の通りに長くなったときに、心の傷は癒えているのだろうか――そんな、分かりゃしない言葉なんて、口にしはしないまま。
●四番街(リヴァイアス・グリーン) I
あの日、救ってくれたあの人は屹度眠っているのだ。人間の生活など瞬きの間に移り変わる。
端には絶海の王が。近海の姫君は微睡みながら過ごし続ける。あの歌声は子守歌だった――波濤をも打ち消したあの響き。
彼女は今も海の底で眠っているのだろうか。泡沫の中で、渦潮姫は眠りに落ちる。
「つづりさんとそそぎさんも来てるけど……やっぱり、リリー達が行くべき場所はここ、だよねっ」
そうだよね、と見上げるリリーにカイトは大きく頷いた。あの時共に助けてくれたリリーとの契り。それをしっかりと伝えておきたかったのだ。
「……リヴァイアサンの事ばかり書いてある気がするけど、水竜様の事も忘れちゃダメ。お祈りしに行かないとねっ。
……こんだけ平和になったのは、水竜様のお陰もあるもん。……それに、報告しなくちゃいけないこともあるし、ねっ」
「ああ。水竜さま、あのとき助けてくれてありがとな。
ここに眠っているのかはわからないけど、この広い海の何処かに、水竜様はまだいらっしゃる。
なら俺はこの海に感謝をしつつ、これからも大海原に乗り出していくだけだ。今度はリリーと一緒にな!」
そうだろうと微笑んでカイトは転た寝中の竜を起こすのは悪い事だろうとリリーと揶揄うように笑った。
「そうだね……カイトさんも、リリーも、こんなに立派になったよ。だから……海の底で、見ててね。水竜様」
二人で、願うように目を伏せた。奇跡がそこに存在して居たから。渦潮姫は人を愛し、人は渦潮姫を愛していた。
――愛おしい、音色のように、あの歌声に微睡んで。
「……さて、水竜さまを探しに行くか!
いや海に飛び込んで探すとかじゃなくてな、水竜さまのうろことか、水竜さまのモニュメントとか。水竜さまモチーフのもの探そうぜ!」
「大規模なリゾート地、んー、いいねぇ。小鳥やラスと一緒に過ごすにはもってこいだ。
とはいえ、楽しんでばかりもいられない。我(アタシ)はともかく、ここに商機を見出すギルド員もたくさんいるからね。
顔役としてお仕事というわけさ」
サヨナキドリの重要な仕事は交易である。商売人として斯うした機会には目を光らせておきたいというのが武器商人の考えだ。
需要調査に新事業の切欠作り。それも大切であると恩はふと以蔵を一瞥した。
「海洋支店長さんとは初めましてかねぇ? 不束者じゃが宜しゅう頼んますなぁ綾志さん。うち、こういう仕事は初めてゆえ手解き宜しゅうな?」
「ああ。宜しく。……海洋でリゾート地ねぇ。まぁ、うちのボスが乗り込まねぇ理由が無ぇわけで。
海洋支部長としちゃ早めに参入して成果上げてぇとこだな。っと、禁煙か此処」
煙草についても考えるのも良いことかもね、と武器商人がからからと笑えば以蔵は確かにと小さく頷く。
記念公園を散策し、公園内での需要調査を行うのも悪くはなさそうだ。観光客達の様子を確認することも此処では重要なのだ。
「この自然公園はそのままの自然を楽しめるってのが売りだ。ってことは何か店を出す場合、あんまり主張の激しい店は避けた方がいいな」
ふむ、と呟いた以蔵に武器商人は小さく頷いた。迷子防止に離れやしない恩に「怖がらなくて良いと思うぜ?」と声を掛ける。
「雰囲気を大事にしたいね。外観を周囲に合わせたオープンテラス付きのカフェとかどうであろ。
休憩所としての活用が見込めそうじゃないかな? ウチは飲食業はかなり盛んだし」
武器商人の提案に恩は「それはよさそうじゃ」と言いながら未だ以蔵の背に隠れていた。
「公園ならば路面店舗じゃろうか? 髪飾り売ったり、食べ物屋も楽しそうじゃな。ああ、親子連れも多いのぅ。
それに向けて……遊べる何か…玩具売る……?
夏ばかりでなく、他の季節もちゃんと営業できるものを用意せねばならんよなぁ。この辺りで人気のものはなんじゃろ」
その辺りも詳しく調査してみよう。してみたい――が、さて……恩がこの場所に慣れるまでは少しばかり時間が掛かりそうだ。
「カムイグラ以外で2人の巫女が見れるなんてなんか不思議な感じだな!
おれっちたちの巫女相当のざんげもこうやっていつもと違う場所には来れねえのかな」
リックの言う通りカムイグラの巫女であるつづりとそそぎが外に出ていることは珍しい。ざんげとは立場が異なる二人は本来は普通の鬼人種だ。
残念ながらざんげがこうして外を楽しむことは出来ないが――その分思い出を持ち帰ってやればいい。
リヴァイアサンの記念像前で波との結びつきを高めて耳を澄ませる。潮騒の感知をする。どうだろうか、何か聞こえるだろうか。
耳を欹てるリックは気付かない。ざあ、ざあと音に混ざり込んだ何かの響き。それは海中から聞こえた誰ぞの呼び声だったのだろうか。
戦闘も一段落したから、とイナリは首を傾げる。さて、これから何をしようか――個人的にはリヴァイアサン記念像の下に本当にリヴァイアサンが眠っているかを確認したいが重機などというものはないし、大量の爆薬で周辺地形ごと吹っ飛ばすなど怒られそうである。
「さて、どうしようかしらね……大人しく自然を満喫しましょうか!
登山装備を一式用意して自然の中を数日かけてサバイバルを満喫しつつ、何か面白そうな生物とか物体とかが無いか探してみるのもわるくなさそうだものね」
記念像の傍で何か聞こえるか試してみようかとアンリはドラネコと遊びながら佇んでいた。
飲み物は其れなりに用意した。日よけの四阿を使用しながら、のびのびと歩き回る。
「空飛んで回ったりとかしつつ、近場に海とかあるならそこから潜れば下にいるか分かるんだろうかね?
というか大きいならこの陸地其の物が竜の体なんじゃないかなぁ?と思うんだけどどうなんだろうね」
このリゾート地には何があるのだろうか。まだ見ぬ冒険が少しばかり楽しみなのだ。
「この辺りは綺麗な自然がそのままなんですか。リヴァイアス・グリーン。穏やかでいい所です。
賑やかなのは嫌いではありませんが、ボクはやはりこういう落ち着いた場所の方が好きですねぇ……」
はあ、と息を吐いたチェレンチィはなんとなしに散歩をしようとのんびりと歩き回る。四阿から眺めることの出来る美しい海は心を落ち着かせてくれた。
広々とした自然公園のベンチから眺めることが出来るのはリヴァイアサンの像であった。
「ボクは海洋の事件は詳しくないのですが、流石に知っていますよ。
本物はこれよりももっともっと大きかったのでしょう。それを倒してしまうとは……イレギュラーズって凄いですねぇ」
何処か他人事のように呟いたのは自身もその言い賃であるという実感がなかったからだ。マジマジと眺めていたチェレンチィはふと、顔を上げて。
「……? 今、波の音に紛れて、誰かの綺麗な歌声が聞こえたような?」
●四番街(リヴァイアス・グリーン) II
三番街でカヌレが屹度笑っている。あとで少し会いに行こうかな、とティアは四番街をふわりと浮き上がる。
リヴァイアサンの記念像に歌姫の伝説。そんな、気になってしまうような話を耳にした。
「まあ迷信……と言いたいところだけど、少しぐらい気にしてもいいと思うの」
唄がもしも、聞こえたら。二年以上も前になる。短くも、長いような、その時の流れ。彼女の歌声を間近で聞いたのはあの波濤でのことだった。
「あの時は落ち着いて聴いてる雰囲気ではなかったから……今日ぐらいは聴いていても罰は当たらないと願って」
祈るように手を組み合わせて。あの日の歌声が、聞こえてくるような潮騒――まだ遠い。けれど、屹度。
夕日が差し込んでいる。海に緩やかに浮かび上がるように遊泳を楽しんでいるシラスの横顔を一瞥してから、アレクシアははあと息を吐いた。
「こうやってのんびり遊べるのもずいぶんと久しぶりだねえ。
深緑の戦いの間はずうっと張り詰めていたから……なんだかちょっと、息の抜き方も忘れちゃったような気すら。
終わったんだなあ、って思うと同時に色々とまだ実感がなくてぼんやりしているというか……」
ちゃぷ、と音を立てて空へと手を伸ばすアレクシアの声音にシラスはぼんやりとしたまま「ああ、終ったね……」と呟き返した。
体を包み込んでいた、戦いの熱が少し醒めていくような気がしてシラスは小さく笑った。
「大きな事件の後は俺らいつもこんなだよな?」
何時だって、熱に浮かされた様に、ぼんやりと微睡むように身を包んだ気配を冷ます。下ろされた指先をそっと絡めた。
昔よりもずっと小さく感じる傷だらけの掌は、奇跡を掴むために努力が為されたものだから。
「格好良かったぜ、俺ずっと忘れないよ。おまじないが効いたかな……なんつって、本当にお疲れさまだ」
揶揄うように笑えば、アレクシアは少し悪戯めいた笑みを返した。
「はは、奇跡の後に寝込んだのは肝が冷えたけどな。夢檻の中までついていけて良かった……最期まで隣で戦えて嬉しいよ」
「ふふ。夢の中まで――ねえ、シラス君。ここも……2年前は戦いの舞台だったなんて信じられないくらいだよね。
いつか、どこもこうやってのんびりできるような場所になるといいなあ。そしたら、色んなところに探検に行きたいな」
この空だって、今は違って見える。時が移ろえば空も、世界も様変わりしていく。知らないままではいられないから。
「もっと見ていきたいなあ……ねえ、その時は、一緒に来てね」
「ああ」
シラスは夕日に照らされて、楽しげに笑ったアレクシアを見ていた。太陽みたいに笑う彼女は陽射しに余り強くないという。
何時だって寝込んでしまうのに――奇跡だって起こして、そんな体で真っ直ぐに走っていって。
「もう少し、あっちの方も見に行ってみない? ここはまだ自然が多いから、もしかしたら面白いものも見つかるかもしれないよ! ほらほら!」
「少しだけだよ。……少ししたら、冷えてきたから戻ろう」
約束だ、と囁いたシラスにアレクシアは「連れて戻ってね」と楽しげに笑った。夕焼けに解けないようにその手をそっと握りしめて。
「つづり、そそぎと一緒に『視察』だ! うんうん、世間を、世の中を知るのは大人になるのにとても必要なことだ。いっぱい見識を広めるといいぞ!」
「言われなくてもやるし」
「……そそぎ、楽しみだったって」
風牙にそっぽをむいたそそぎはうきうきと周囲を見回していた。勿論、つづりにとっては興味のあった場所だ。
『巫女』として、竜の器が成した事は気になっているはずだ。リヴァイアサンの像の前で風牙は人死にや過激な情報は控えめにしながらも、語る。
その言葉を聞きながら「もっと食べ物やらの気の利いたものがあれば良かったのじゃがな」とクレマァダは周囲を見回した。
後で何か食べに行っても構わないかと語る風牙と耳を傾ける双子巫女を眺めて、ふと――「……こんな姿じゃったかのう? もう少し威厳というか……」と矯めつ眇めつ。斯うしてみれば、不思議と憎しみなどは湧かぬのだ。あれだけ、悲しかったというのに。
「クレマァダのおねえちゃんも、ここに?」
「あ……」
そそぎが息を呑んだ。つづりの問い掛けにクレマァダは小さく頷いて。
「生きたのだ、誰もが必死に。あの時あの海では、誰もが必死だった。
それはきっと、この龍もそうだった。生命ではなく、尊厳を守るという意味で。だから、いいんじゃよ」
――何かが聞こえた気がしたけれど、クレマァダは何も云わずに双子の前では笑っていた。
「――色んな人が、色んな想いを抱いて頑張って、今のこの平和な公園があるんだよ」
風牙は真剣に耳を傾けていた双子と視線を合わせた。あの時の戦いのような命を捨てる覚悟をしなければならないという状況にはなって欲しくない。
けれど、彼女らにとって『『命を懸けるに値する何か』ができて欲しいと願わずには居られない。
つづりはそそぎの為に。そそぎはつづりの為に。それだけではない、広い世界にも目を向けて欲しいのだ。
「……あ、帝への土産物ならこの辺でひとつ買っていったらどうだ?
ほら、このリヴァイアサンキーホルダーとかどうよ! 背中に刺さってる剣が着脱可能だぜ!
金属製で重量感もばっちりだ!! 絶対帝気に入るって!」
「そそぎ、どう?」
「晴明に聞けば?」
双子の様子に笑っているクレマァダは「屋台を覗くか」と少しばかり双子の前を行き――
「そそぎ、何か聞こえない?」
「つづりも何か聞こえる?」
歌声が、聞こえた。
――ねえ、ねえ、聞こえるかしら。ねえ、海向こうの巫女さんたち。
貴女たちは、お互いを護れたのね。それはきっと、素敵なこと。
ちょっと羨しくなっちゃう。美味しく実っているのだもの。
でもだめね。娘に嫌われちゃう。
……この国を、きっと好きになって帰ってね。そしてもっと美味しそうになって、またいらして?
くじらのむくろ くちたさんご なげきのうた あなたにしかきこえないこどくなくじらは うみにしずんで――
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした!
皆さんにとってもとっても楽しいシレンツィオリゾートのはじまりになればうれしいです。
リゾート観光、楽しんでいきましょう~!
GMコメント
シレンツィオ・リゾートへ。カムイグラご一行!
●目標
シレンツィオ・リゾートで一時を過ごしましょう。
中務卿「視察で、主上(霞帝)への土産を献上しなくてはならないというのに……!(胃が痛い)」
●プレイング書式
一行目:【向かう場所】(1~5、0番街の数字でご指定下さい)
二行目:【グループ】or同行者(ID) ※なしの場合は空行
三行目:自由記入
例:
【3】
今園・賀澄(p3n000181)
留守番してて!
●シレンツィオ・リゾートとは?
元々は『絶望の青』に閉ざされていたフェデリア海域。しかし大号令の成功と、東に発見されたカムイグラとの活発的な交流の狭間で急速に発展した観光地――それがシレンツィア・リゾートです。
所謂リゾート地。詳細は特設も是非是非ご覧ください!
特設:https://rev1.reversion.jp/page/sirenzio
以下はカムイグラ視察組が向かう場所です。
勿論、この他へと散策に出掛けていただいたり、遊びに行って頂く事も可能です(特設ページを確認してスポット指定をお願いします!)
●二番街(サンクチュアリ)
島の南東に位置し、一般労働者層が暮らす地域です。安くて美味しいグルメやインディーズアートなど、異国情緒に溢れています。
港湾労働者街が存在し、簡単に言えば下町です。マーケットやバザール、屋台などが並んでおり、高級リゾートからは一風変わった雰囲気です。
庚の調査の通り『安価でボリューミーな食事や酒』を楽しむことが出来る他、施錠を大きく反映したような品々が流通しており『実情把握』にはもってこいの場所です。
・串焼き(肉や魚、野菜)、酒類の屋台が建ち並んでいる裏通り
・土産物屋や日用雑貨の露店が建ち並んだマーケット
・日雇い労働者や一般労働者層が暮らしている集合住宅
・R&Bミュージックが鳴り響き、壁にはペイントアートが無数に施された酒場 etc……
・治安は決して良いとは言えませんが、イレギュラーズなら問題ないですね!
●三番街(セレニティームーン)
島の『南西側』に位置する、いわゆるリゾート地です。
高級ホテルやカジノ、セレブリティビーチなど富裕層向けの観光資源が集まっています。
ここは様々なスポット地がありますので、詳細は特設ページ(https://rev1.reversion.jp/page/sirenzio)の三番街もご覧ください。
・天衣永雅堂ホテル
所謂カムイグラ様式の旅館です。ホテルと名は付いていますが旅館です。カムイグラご一行は洋風宿に慣れなかったようです。
温泉などもありますので是非のんびりとした休暇をお楽しみ下さい。
勿論和食を楽しむことも出来ます!
洋風の食事は三番街のレストラン街で楽しんでも良いかもしれませんね(高級レストランが立ち並んでいるようです。晴明は青ざめておりました)
・シロタイガー・ビーチ
豊穣からの出資によって整備された公共ビーチです。
良質な海を堪能できるだけでなく、ショッピング・レストランエリアが融合しアーティスティックなカフェやアクセサリーショップが軒を連ねます。楽しいよ! がおー!と誰かの声が聞こえてきそうですね。
●四番街(リヴァイアス・グリーン)
島の北に位置する自然豊かな地区です。ほぼ手つかずの自然が残されており、穏やかな空気を楽しむにはもってこいの場所になります。
・フェデリア自然記念公園
絶海のアポカリプス戦にて活躍した水竜様の勇姿を称え建設された公園です。憩いの場所として親しまれ自然そのままの空気感です。
自然を楽しむために、フェデリア海域での簡単なスキューバーダイビングや海水浴も楽しむことが出来ます。
ビーチほど整理されているわけではないので、危険と隣り合わせではありますが密かな人気を博しているようです。
・リヴァイアサン記念像
この場所に滅海竜リヴァイアサンが眠っているとして巨大な像が建設されています。
ちなみに、本当にここに眠っているか確かめた人はいません。
・『歌姫の伝説』
リヴァイアサンを鎮めた龍の巫女の歌声が潮騒に乗って響いてくると言われています。
リヴァイアサン記念像の傍で過ごすと、伝説の歌声が微かに聞こえると言いますが――?
●NPC
良ければご一緒してあげて下さい!
・月ヶ瀬 庚
神威神楽の中務省陰陽寮の長である陰陽頭。
R.O.Oでの調査の他、シレンツィオ・リゾートではカムイグラの豊穣大使館にもお勤めです。
非常に気易く、開放的な性格をしています。主上(霞帝)のお土産は適当な物を選ぼうとしているようです。
・建葉・晴明
はるあきくん。神威神楽の中務省の長である『中務卿』。霞帝の右腕でもあります。
胃痛に苦しみながら霞帝の突拍子もない発言にお付き合い。社会勉強を兼ねた双子巫女の引率をしています。
ダガヌ海域のことを心配しているようですが、シレンツィオの視察をしっかりと行うぞ!と意気込んでおります。
・つづり&そそぎ
けがれ(此岸ノ辺)の双子巫女。少し引っ込み思案のつづりとややツンデ……気難しいそそぎの双子。
晴明を『セイメイ』と呼び兄のように慕っています。社会勉強のためにやってきました。
賀澄(霞帝)はお留守番なので何か良いお土産を選ぼうと奮闘しているようです。
※夏あかねの担当NPCは月原、リヴィエール、フランツェル、琉珂あたりはプレイングでお声かけ下さい)
※折角なので音呂木ひよの、綾敷なじみ、澄原水夜子の練達三人娘も旅行でお邪魔させていただきます。
※その他、担当の付いていないNPCは状況次第でお邪魔させていただきますが、ご希望にお応えできない場合も御座います。
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