シナリオ詳細
詫び酒(???L)が届いています
オープニング
●なんか酒以外も届いてるんだけど?
「……というわけで、こちらに先日のジャバーウォック案件と亜竜集落トライアルの見返りとして凄く色々な種類のお酒が届いておりまして」
『ナーバス・フィルムズ』日高 三弦 (p3n000097)は(もう何度目かわからないが)ローレットに運ばれてきた大量の酒をちらりと見てその場に居合わせたイレギュラーズ達に告げた。なかには先日イレギュラーズになったばかりの亜竜種達もいるかもしれない彼ら彼女らにとっては、並んでいる酒に見覚えがあるものも……あるかもしれない。
三弦は伝票を捲りながら説明する。
「こちらが『竜牙酒』。度数が高いですが辛口で後味がスッキリしており、二日酔いにならない素晴らしいお酒です。その分貴重なようですが……。こちらがドラロッカ、蒸留酒にドラゴングラスを漬け込んだもので、桜餅のような香りがするもの。凍らせるとより美味しいそうです。
こちらがドラキーラ、竜舌サボテンの液糖を発酵させて蒸留酒にしたもので、カクテルベースによいと聞きました。
これはドラレロ、ドラインの葉を始めとするハーブ類を漬け込んだもので、若い方向けのお酒ですね。度数は29度。
こちらが……リューガルデン? ドラゴンシトラスの皮で香り付けをしたホワイトビールだそうです。
で、こっちがアイスなどの氷菓子に『かけるためだけに作られた』お酒で、竜ノ眼とよばれるベリーをベースにしたものですね。
……で、こっちが幻想の酒場から一時接収した魔法の樽」
『亜竜集落トライアル』で聞いたことのある者もいそうな酒から、どっかで爆発起こした酒場のものまで。亜竜集落由来の酒が非常に充実しているような気がする。
「こちらの棚にあるのが全部梅酒ですね。混沌各地で作られた梅をそれぞれ漬けたもので、鉄帝の中央あたりで作られた梅は締まった実が蒸留酒の味を引き締めキリッとした味わいで、海洋や幻想南部の梅はとろりとした甘い味わいが楽しめるものとなっています。他にも果実酒が……ああ、『幸ヶ嶼』という豊穣の領地からも桃園防衛の依頼でお世話になったからと桃の果実酒や氷菓子専用のお酒、あとは果実酒がたくさんきてます」
イレギュラーズが過去に救った地域や、信頼故に回ってくる混沌各地の酒。中にはコーヒーリキュールや紅茶のリキュール、チョコリキュールなんてものも揃っている。
「勿論、未成年の方も多いでしょうからジュース類もありますよ! 天然の炭酸水、果物のジュース、こっちには果物酢なんて通なものもありますね。炭酸割りでも美味しい筈です」
『蒼ノ鶫』ドロッセル=グリュンバウム (p3n000119)は、酒樽の山の横に用意された未成年向けの飲料を手にとった。ジュースのみならずカフェイン飲料(お茶だのなんだの)も豊富で、特にお茶に関しては豊穣からの流入品が非常に多い。未成年でも十分に楽しめること請け合いだ。何故かエナジードリンクが混じっているが、これは子供向けのそれなのだろうか……?
「そういえば豊穣から米の酒が来てたゆ。練達でギリ無事だった酒蔵の再現性日本酒、なんつったかゆ『天晴』とか『灘紫』とか『浦松ノ春』とか、そういうのがあゆ。順番に淡麗辛口、甘口、濁り酒ゆ。あと、当然だけど酒のあてっつーか飯もちゃんとたくさん用意できてゆ。こっちにいかにんじん、亜竜肉の料理各種、なんかヴィーザルの方のウサ公から届いたジビエとか色々。多分あるか聞いたらだいたい出てくるんじゃないかゆ」
『ポテサラハーモニア』パパス・デ・エンサルーダ (p3n000172)は後から後から用意されつつある料理をあちこちに並べながら説明を加えた。少なくとも現時点で給仕をやりそうなのは以上の三名であり、どう考えてもキャパが足りてない感じがひしひしと。
「亜竜種の皆様は主賓ですので楽しんでもらうとして、是々非々で……それはそれとしてお酒は飲み干してもらったほうがローレットの床板に優しいですね」
もう何度目かになってきたが、そういうこともあるので。そう三弦は締めくくると、イレギュラーズ達に仲間でもなんでも新入り含め集めてきてもらうようお願いするのだった。
- 詫び酒(???L)が届いています完了
- GM名ふみの
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2022年02月26日 22時05分
- 参加人数87/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 87 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(87人)
サポートNPC一覧(3人)
リプレイ
●
「オーホッホッホ! 此度の宴は私達を持て成す為のものとお聞きいたしましたわ! でしたら、そのご厚意に素直に甘えるのもまた姫たる者の務め! 皆様に感謝ですわ~!」
「そ、そうね、これは外の世界のことを少しでも知ってやろうって亜竜種様の優しい心づかいなんだから……」
「そうそう、今日は朱華達を主賓として呼んでくれたんだし、目一杯飲んで食べて、楽しませてもらいましょっ!」
麗姫、鈴花、朱華、三者三様の賑やかな声がローレットの一角に響き渡る。【食楽】、いわば珱・琉珂を中心とする亜竜種達(つまりこの催しの主賓だ)が纏まって語らう場をつくり、以て異文化交流の場を持とう、というわけだ。麗姫のテンションは相当なもので、眩いばかりに輝いている。ほか、紲の姓を持つ者達がこの機に交流を深めるため集まっていた。
「里の外で、しかも大勢で、食卓を囲むのは初めてだな。注文は俺がしよう。取り分けも任せてくれ」
久望はメニュー表にあるものを片っ端から注文し、次々と手際よく取り分けていく。催しの場を設けたゆえか、善性ゆえか。
「楽しい一時を過ごしてね。あっちの地獄は見なくていいわ」
「そうですね、皆さんはぜひともローレットの楽しい部分を覚えて帰ってくださいねっ!」
アンナは地獄めいた酒盛り現場から巧みに視線を切らせると、注文された料理を並べていく。危なっかしい足取りでついてきたドロッセルもそれに続き、追加注文を受けてぱたぱたと戻っていく。
なお、アンナはこの後酒瓶を置きにいってひどい目に遭うが別の話である。
「あっ、リュカちゃんだ! こっちに遊びに来てたんだね!」
「アナタも来ていたのね、知っている顔がいて嬉しいわ! ねえ、それって何を食べてるのかしら?」
並べられていく料理に、目を輝かせている琉珂に歩み寄ってきたのは焔だ。手にはピザとコーラ。酒はイケる年齢だが控えているらしい。
「これ? ピザっていうんだよ。並んでる料理は……いっぱいあるね?」
「これはカルパッチョという料理だそうだ。生魚を使っているのに生臭くなく、見た目も良い。祝いの席にいいな……」
既に並んだ注文の数々に舌を巻く焔の前で、久望は琉珂に熱っぽく語っている。新しいものへの好奇心と、単純に彼女への好意だろうか。この食事の席を楽しんでいるのは、彼が筆頭かもしれぬ。
「俺、お肉大好き! あ、テーブルに乗ったらだめだな。俺もみんなと同じところに座って良いのか?」
「熾煇、こっちに。琉珂さんも皆と仲良く話しているからね」
肉を求め、水牛のスペアリブにかじりついた熾煇は琉珂の足元に向かおうとしたが、雨軒に制され大人しく彼の膝下に収まった。鋭い目で肉を見る姿は成程、変身状態らしい野生を感じる。
「姫たる者、美しくあるならバランスの良い食事は不可欠! さあ、このサラダも瑞々しくて美味しいですわよ!」
「朱華は特にスイーツが気に入ったわっ! 甘くて美味しくって幸せーって感じがするものっ!」
亜竜女子達に好評なのは野菜やスイーツ類。麗姫や朱華は瑞々しいサラダやスイーツ、ことプリンアラモードなどに夢中だ。料理名は配膳に来た者達から積極的に聞いている。
「スイーツは鮮やかでいいわね。こっちのこれ……えっと、なんていうのかしら」
「ポテサラゆ。潰した芋に野菜を混ぜた料理ゆ。調味料が珍しいならあっちに並んでるから試すがいいゆ」
鈴花がポテトサラダを前に神妙な顔をしていると、パパスが通りすがりに伝えていく。指差す先には塩、胡椒から辛味オイルまで様々。味変という概念に疎い彼女には、それが輝いて見えたかもしれない。
「兄様、叔父様が何か緊張していませんか?」
「董馬はここで自分たちとご飯食べてような、大人の話はまだ早いよ」
董馬の旺盛な好奇心を前に、煌氷はやんわりと視線を外すよう誘導する。久望のどこか堅苦しい姿に察する処はあったのだろう、割り込むのも無粋という判断ゆえだ。
「心無しか嬉しそうに見えるのは、同郷の者と席を共にしているからだろうか!!」
「……うん、まあ」
暁蕾の明朗極まりない感想には、董馬も生返事を返すしかない。……というか反応しづらいのもあろう。
「……甘い」
そのやり取りの傍ら、桜夜は口にした液体、その味わいに目を丸くする。ジュースを初めて飲んだのだろう、輝く目に宿る好奇心たるや。
続けざまに食事に手を付け、更に感激を覚え……忙しない所作には、外の世界の新鮮さを楽しむ純朴さが窺える。
「なるほど、これが外の国の味か、中々美味いな」
「今日はジュースだけど、あのね、やってみたいの。えっと『乾杯』!」
「杯を乾すと書いてカンパーーーーーーイ! ヒュー!」
琉珂の掛け声に惹かれて寄ってきたのか、いつの間にやら近くにイグナート。今日は地獄の酒盛りから遠ざかっているようだ。
「フリアノンや亜竜集落のオモシロイ風習なんて聞いてみたいな! 鉄帝だと大体だけれどオレたちの仲間のカルネがハリツケにされたりハチミツ塗られたりするよ!」
「蜂蜜ってあの蜂蜜かい!? 人に塗る?」
雨軒は琉珂達から距離をおいて観察しようとしていたが、流石にイグナートの言葉に色を失う。外の世界は凄まじい、と彼は思った。
「酒は……覇竜のものが多いようであるな」
「ぃっく……美味い酒があるんだってー? そりゃあ飲まないとねー!? おやおや外の酒もなかなか多いねー!」
練倒は並べられた酒に覇竜のものが多いことから、敢えて飲むまでもないかと考えていた。……が、酒鏡の言葉には俄然興味が湧くのも事実であり。よくよく見れば成程、豊穣や幻想の酒は覇竜や隣接するラサとは違う趣が強い。
「これは……酒のための料理なども欲しくなるな……」
「はいはーい♪ お酒のおつまみなら此方にあるわよー♪ 一品料理なんか合うんじゃないかしらー♪」
「おすすめなどあるだろうか!! 少しずつ色々なものが欲しいのだが!」
練倒がぽつりと零すと、蘇芳がすかさず料理を纏めて運んでくる。たこわさび、いかにんじん、きんぴらごぼうに酢の物、唐揚げ。油っけだけではなく塩っけや酸味まで計算して持ってくる辺り、彼女の手腕が窺える。暁蕾はそんな彼女にすかさず話を聞き、オードブルを用意してもらっていた。当然、食事らしいものも多々。家族が喜ぶと思えば、その期待も一入である。
●
「おお! ここまで豪勢な酒に食事とは全く分かっておる! であればしかと食せねばならんのう! 酒がだめなら食事じゃ食事!」
「酒飲みの皆さんも盛り上がっておりますし、ワタクシ達も負けてられませんわね! 美味しいご飯を沢山食べますわ!パクパクですわーーー!!」
ダリルとシャルロッテは目の前に並ぶ食事を前に興奮気味に飛びついた。お互い酒を飲めない(飲ませてもらえない)身として目の前の食事に手をのばすのは当たり前の帰結であった。
血の滴るような亜竜の肉のステーキは、骨付きのワイルドなものも混じって野趣溢れる匂いが充満している。
ポテサラも葉物サラダに薄切りにされたローストビーフが乗せられ、一呼吸つけるための粥まである。
「こんなに美味しい料理でしたら三日三晩休まず食べれますわね……」
「食べられるなら遠慮なく食べるがいい! 暴飲暴食だが我、堕天使だから誘うのもセーフ!」
三日三晩という表現が嘘じゃなさそうで、怖い。
一方その頃。
「うおおおおおああああああああ」
カフカは持ち前のローラースケート技術を駆使して給仕に回っていた。不幸中の幸いは、未成年だからアルハラ地獄に引き込まれなかったこと。さりとて不幸があるとするなら、酒がなくても暴食する連中がとんでもねぇ数居るってことだ。
「――――」
誰とも話さず、誰ともつるまず。ナハトラーベは眼前にうず高く積み上げられた料理に片端から手を付けていた。亜竜集落周辺で狩られた魔物の唐揚げは、筋の多い肉から脂肪多めのものまで多岐にわたり、ポテサラも周囲に供されてるものより芋の潰しが荒い。『食うやつ』向けだ。
次から次へ、味がわかってるのかという勢いで流し込まれる料理の前に、バッシングと給仕を同時にこなすカフカの肘も色々限界だ。だが同格の大食いは彼方此方にいるぞ。頑張れカフカ、肘が死なない程度に。
「パパス様こんにちは。ニルはおてつだいにきました」
「タダ酒貰うワケだからな、労働ついでに酒飲むのもアリだろ?」
「ニルは今日もよろしくゆ。トキノエ、常識で言えばダメなんだけど給仕なんて余禄なしじゃ辛いしお酌したらご返杯を受けるのが礼儀だからそこは適当にやるといいゆ」
ニルはトキノエを連れて給仕担当としてパパスに挨拶。どこかそわそわと周囲を見ていたトキノエはしかし、『悪事』を公認されてキョトンとした顔を見せた。
「だってよニル、ちぐさも連れて酒とつまみ取りに行こうぜ!」
「あっちもこっちもお酒の注文いっぱいにゃ! 『早い! うまい! おいしい!』みたいに行き渡らせてからにするにゃー!」
「せめて隠す努力をしろって話だゆ」
気を良くしたトキノエはニルと懇意のちぐさまで巻き込み飲みに行こうとするが、流石に止められた。
(そういえば、教義に飲酒を禁ずるという旨はなかったな)
「ジビエと、それと野菜を。酒は気になるが控えておこうか」
バクは神職者としての矜持があったが、思い返すに酒は禁じられていなかった。ならいいか、と思わぬのが彼で、食事の量もやや控えめだ。たまさか隣に座っていたメリッカが勿体なさげに横目でそれを眺めつつ、並べられた酒のラベルを読み、香りを嗅いでから手酌で注いでいく。
「それは残念だね。梅酒は漬けてる梅や酒が違うのかな? 風味がだいぶ変わるね……あ、ドラレロも欲しいな」
「いかにんじん、おすすめですよ」
「ではそれも」
ニルは酒をガンガン注文していくメリッカに巧みに追いつきつつ、追加でおすすめまで入れていく。バクは野菜と魚介ということで罪悪感のハードルが下がったか、即座に注文に追加。反応が早い。
「……中々ヤヴァい飲み方してる方々いるけどアレ大丈夫なのかな?」
「にゃ!? さっき間違えてあそこにお酒配りすぎちゃったにゃ! でも皆楽しそうだからOKにゃ! 半分以上減っちゃったしにゃ……!」
メリッカの怪訝な視線の先には【地獄】の惨状、そしてちぐさの証言。約束された惨劇はさておき、視線を移動させるといつの間にやらニルとトキノエは酒盛りの算段などしている。
「こうして我らの血肉となり明日を繋ぐ生命に感謝を、畑で精一杯の愛を与えた百姓に命を運んだ狩人に荷馬車で街まで運んだ商人に食すに値する様ほどいた料理人に感謝を」
「……だそうですよゴリョウさん、有り難い話ですね」
「ぶはははッ、料理人冥利に尽きるな! すずなも適当に休んでおけよ!」
「そうですね、手が足りるなら……!」
すずなは小夜や空観(無量)らが温泉に行っている間に何故かローレットで給仕をしていた。解せぬ。だが串カツ屋の経験は無駄ではなかったのか、手際よく給仕に専念し、危険牌はとらないで仲間に流す辺り手慣れている。
「さて、ここは戦場だ。皆の力でこの場をうまく回していくぞ!」
「お、おー……?」
キッチンカウンター近くでは、シューヴェルトが比較的歴の浅い面々の指揮を執りつつ、自らもてきぱきと作業を進めていた。カクテル類の作成速度が倍くらい早い。仕事を見ようと控えていたラビットが困惑気味なほどに。
「この酒精の匂いは……強い酒ばかり並んでいるな。ローレットの人たちは、底なしの酒飲みが多いのか……?」
「多いが新人の君達は行かなくていい。近づきもするな。穏便な酒飲みはたくさんいるからそちらに回るように。もしくは食事だ。あとは適度に休んで食事してもいい」
「そういう人達なら、ローレットの仕事についても教えてもらえる、かな……?」
シャールカーニの怪訝な表情に、シューヴェルトは遺憾ながら、と加えつつ多いことは認める。そして亜竜種は主賓なので、シャールカーニとラビットが適当に休めるよう言葉を添えるのも忘れない。二人の安堵が目に見えて伝わってきた。
「あっちは気合入ってますね」
「俺達もつまみを沢山作らないと間に合わないけどな! ビールや酎ハイは枝豆とかの軽いもの、日本酒や焼酎なら和風料理か海鮮系か。蒸留酒だと燻製……ドラキーラは飲んだことがない味だな」
感心したような声のすずなをよそに、ゴリョウは少しずつ酒を飲み比べつつ合う料理を作っていく。酒の味が分からねば合う料理も上手くいかぬのである。
「……お酒も美味しそうだけど……あたしは…やっぱりご飯がいっぱい食べたいから……」
「オイラは酒は飲めないからご飯だね。独りで食べるよりは集まった方が楽しいよね?」
巳華とアンリは亜竜種同士卓を囲んで料理を待つ。加えて、ちょこんと隣に座っているスフィアはメニュー表をためつすがめつして身振り手振りで料理を頼む。喋るのが苦手な上に料理の別がわからないので、満足に食べられないとまで考えているようだ。
「追加注文……してくれたの? ありがとう……」
巳華はその様子に微笑むと、その反応は予想外だったとばかりにびくりと震えるスフィア。ややあって運ばれてきたものを見るや、すっと料理を自分中心に並べてく手際のよさである。
「……運ばれてきたお料理……全部食べるね……というか……このお店のメニューに載ってるお料理……全部頂くね……」
「オイラも食べる……食べていいんだよね?」
巳華の暴君発言に、アンリは慌てて食事に手を付けると、スフィアは様子をうかがいつつおずおずと手を伸ばした。肉野菜はともかく、海産物は恐らく珍しかろう。甘味など名前も知らず頼んだものがカラフルだったのだから驚くだろうし。それにしたって量が異常ではあるが。
「お茶もいかがですか? 亜竜種の皆さんなら薬草茶や緑茶、紅茶も色々ありますよ」
「……はい」
「オイラはおすすめが欲しいかな! お茶のことはわから……」
そんな様子を嗅ぎつけてか、現れたSuviaの提案にスフィアは考え込んでからこくりと頷く。アンリは何も考えず勧められるがまま、と思ったらポケットから紙片が出てきた。何故か『梅昆布茶』と書いてある。
「これで!」
「わかりました、ここで淹れますね。様子を見るのもよいものですよ」
Suviaはどこか俗世離れした二人(+食事中の一人)を見て、これも社会学習だとばかりにお茶を淹れ始めた。整った所作は、知らぬ者にとってはある意味エンタメですらあるのだ。
「ふむ、酒。旅立ちの日に父と呑み交わして以来の物であるが、如何様な物か」
レオナは父から飲酒を控えるよう、厳に言い含められていた。これを機に飲酒の習慣に慣れようと思ったゆえに、目の前に並ぶ酒と料理に圧倒されて手を付けかねていた。隣に座っていたエルディンは、あまりの種類の多さにちょっと困惑気味だ。選ぶのにかなり苦労している。
「こんなに沢山あると迷うな。少しずつ飲み比べしたいが……」
「『竜牙酒』にドラロッカにドラキーラにドラレロ、リューガルデンに……そこの人、亜竜種だよね? お酒に詳しくない?」
と、そこにメニュー表片手に現れたヨゾラがレオナに顔を向け、唐突に問いかけた。
「私? 私はあまり……だが父からは『ドラロッカと竜牙酒はやめておけ』と言われたような……」
「じゃあ僕はそれを! 君は慣れてなさそうだからこの果実酒とかどう? そっちはエルヴィン君だっけ、纏めて頼むから飲み比べしようか!」
「え、ああうん……」
あれよあれよという間にヨゾラのペースに巻き込まれた二人は、並べられていく料理と酒に圧倒されていた。そんな中、ふらっと現れたパパスにエルディンが視線を送った。
(働いてるな。そりゃそうか……まあ、今日は)
「なんだエルディンじゃないかゆ。養生してるかゆ。この卓だったゆな、料理は」
「え、うん、そうだな」
「驚くんじゃねえゆ。ツラは変わんねーんだから見忘れるこたねーゆ。ジャバーウォックもなんとかなったしおどおどしなくてもなんとかなゆから無理はすんなゆ?」
パパスは矢継ぎ早にそう告げると、また別の卓へと歩いていく。
「よーし僕達も飲むz、うわぁボフっていったボフって! 報告書通りの熟成具合!」
「酒とは爆発するものなのか……? そしてなんだ、顔が熱い……」
「氷菓子に酒をかけただけだよな? しかも一口」
そんな様子を尻目に爆弾酒に手を付けたヨゾラは爆発しても嬉しそうだし、レオナは氷菓子専用酒を舐めただけで既に顔が赤い。エルディンは飲み比べの前に二人のサポートが必要なのかもしれない。
「魚料理中心にお持ちしました。ではごゆっくり」
テルルはスティーブンとイルリカが向かい合わせで座る卓へと料理を並べると、静かに頭を下げて去っていく。二人の卓を含め、落ち着いて飲んでいる面々が居るのはいいことだ。一部から目を背ければ、そして調理量を無視すれば概ね平和だ。
「スティーブンさん、なにかおすすめある?」
「これなんか飲みやすいぜ。そこそこ強いんだが」
先にいろいろな酒に口をつけて味を吟味していたスティーブンに、イルリカが問う。あまり酒に強くない彼女は、酒に強くて詳しいスティーブンが頼りなのだ。
スティーブンに注がれた酒に口をつけた彼女は、その味わいに目を見開き感銘を覚えた。
「あ、ほんとだするする飲めるしおいしい……」
とはいえ、飲みやすいのといくら飲んでも酔わないのとはイコールではないわけで。程なくして頭をふらふらと揺らし始めた姿を見れば、『この場で』これ以上飲むのは不味いとわかる。
「ん、そろそろげんかいかも……」
「おやおや、それじゃ歩けるうちに止めとかねぇとな」
早々に限界を迎えたイルリカを抱え、スティーブンはローレットを後にする。テルルはそんな二人を「若いなあ」とか思いながら手元の酒を呷った。まあ彼女も若いのだけれど。
「おまたせしました、ついでに一杯お酌はどう?」
「川や湖で見ない魚がいっぱいね……折角だから、ついでにお願いしようかしら?」
沙弥が傾けた酒瓶に、瑠藍はにっこりと笑って杯を掲げる。覇竜ではみることのない類の魚はしかし、生臭さひとつなく多彩な味わいをみせている。それに竜牙酒や天晴のような鋭い味わいのものがよく合うのだ。それぞれに口をつけ、その相性に頬を緩めた瑠藍は、期待の籠った視線を沙弥から感じ、すかさず空いたグラスを手渡した。見れば、沙弥の割烹着姿もまた酒や刺し身を中心とした食卓の雰囲気にマッチしている。
「あたしの相手という名目で休憩はいかが?」
「あらあら、それじゃ遠慮なく頂くわ」
沙弥はグラスを傾け、酒を迎え入れるとそれを半ばまで一息で干す。『できる』と見て取った瑠藍の口元が深く歪むのがよく見えた。お互いに笑い合う姿は、しかしどうにも悪巧みとかそのたぐいにも……見えなくはない。
「先生! 来てくれたんだな! 急な誘いですまねぇな。手紙で言った通り、エスコートくらいはさせてもらうぜ。とにかく席まで案内しよう。なに、身辺警護の経験もある。安心してくれ」
「それでは御言葉に甘えて。エスコート、お願いします」
天川は誘いに乗ってローレットまで訪れた晴陽を恭しく迎え入れると、ボディタッチにならない範囲で彼女を席まで誘導する。R.O.Oやジャバーウォックの一件やらその他諸々で気疲れもあろう彼女の姿に、天川は気が気ではなく、些細な段差や人の流れにすら細心の注意を払っている。晴陽にはそれが少し気恥ずかしくもある。
「竜真さん、楽しんでいらっしゃいますか?」
「ああ、お陰様で」
「はいはーい、追加お待たせしました! 追加はございませんか?」
「えっ、あ、大丈夫……です……」
ふと一人でぼんやりとした表情の竜真を見つけた晴陽は、小首を傾げて彼に問う。慌てて応じようとした彼は、しかしレナートの矢継ぎ早の言葉に機先を制され、声がやや尻すぼみになっていた。元気、というのは間違いないのだろう。屹度。
「とりあえず皆の無事と勝利に乾杯するか! 乾杯!」
「私はお酒はあまり得意ではなくて。その、判断力が鈍るような気がして……偶に楽しむのは良いでしょうし。お勧めのものがあれば教えて下さい」
乾杯をお茶で済ませた晴陽は、申し訳無さそうに天川にお願いする。年齢の割に酒に明るくないことに気負いがあったのかもしれないが、天川はちょられることが嬉しかったのか、あれやこれやと世話を焼く。レナートが都度注文を取りにきたこともあり、スムーズな食事ができたのは確かだ。
この平和を、平穏を享受できることを感謝し、大事にせねば。晴陽は思いをあらたにした様子であった。
「お待たせしました―! ……ってどうしたんですか?」
「いえいえ、気にしないで下さい。それよりも大変でしょう。一杯どうですか?」
「え、いいんですか?! では遠慮なく!」
愛奈は食事もそこそこに無表情で出入り口その他に視線をむけるバルガルの様子を見て、不思議そうに首を傾げた。だが、酒を勧められれば思わずグラスをずいっと差し出し求める姿勢を崩さない。バルガルも、そんな彼女が相伴に与る様子を見つつ、しかしコソコソと動き回るいくつかの影を見逃さなかった。
彼の目的はローレット内部で振る舞われた酒を(個人利用の範疇外で)持ち出したり奪ったりしようとする輩の監視だ。頼まれたわけでなく、教訓から。
美味しい料理をリストアップしてキッチンに嬉々として向かった愛奈をよそに、彼はその不心得者達をある人物にチクるのだった……。
●天網恢恢なんとやら
「皆様により良いお酒を供給するべくローレットの秘蔵のお酒をないないさせていただきましょう。表に出ている物で全てなどそんな事はない筈です。秘蔵の物があるでしょう。ここで出さずしていつ出しますか。皆様が求めていらっしゃるのです」
「ゲヘヘ……いいこと言うじゃねぇか! そうだよなぁ! 上層部は上前ハネてるはずだよなぁ!」
倉庫マンは、恐らく今回の飲み会に対して酒の絶対数が足りなくなるだろうと推察した。だからローレットが溜め込んでいる(であろう)酒を奪うことを企図した。【酒蔵庫破り】である。不幸なことに、ゲンゾウのように我欲に塗れた賛同者がいたわけだが。
二人は実際よくやったほうだろう。ローレットに対し悪意ある霊魂達を味方につけ、倉庫マンのギフトを駆使した。
お膳立ては整っていたのだ。
「へへっ、やっぱいい酒があるじゃねぇか!」
「この頑丈な箱に『触るな危険』と保管されていた物など、如何にも良い物ではないでしょうか」
「へぇ、面白いこと言うんだゆなおまえ」
「ハッハァ! 本当におもしろ……い…………?」
二人の声に混じって殺人的にトーンの低い声が交じる。
振り返れたならよかったのだ。彼らは、クビを巡らせる間もなく窓から叩き出され、拍子に倉庫マンが手にしていた怪しい箱が爆光を放つ。
ああ、とても――汚い花火だ。
●地獄ってこういうの
「まあ、一体何が地獄なんですの!? こんな催し、天国に決まっておりますわ!」
「おほほほほ、歓迎会でございますわ飲み放題でございますわーー!」
「んふふ、ローレットの床板を守るためにぃ? かんぱぁい♪」
テレジアの素ボケは芸術点が非常に高かった。この台詞を聞いたヴァレーリヤが何を思ったかは明らか。『明らかに何も考えていない』。
酒が飲めるなら大体なんでもいいのだ。ラズワルドなんか見てよもう彼方此方にコナかけながら目がいい感じに酔いが回ってるから。マジで。
「いやー、練達では大変だったな!死ぬかと思ったぞ!」
「そうよねぇ、これだけ色々大変だったんだものタダ酒がないとパンドラ収集もできないわぁ。しかも亜竜種ちゃんとの素敵な出会い! そう、これは歓迎会でもありこれからの過酷な仕事に耐えるための洗礼……ローレット指折りの酒クズを集めたわ!」
ブレンダの心からの言葉に生返事気味に返すアーリアは、もう今から自分に干される酒しか見えていない。いつもの酒クズどもに輪をかけて酒クズが多いのは彼女のせいか。最大派閥じゃねえか。
「じゃじゃーん! ストレリチアなの! アーリアさん、お誘いありがとうなの!」
酒クズの妖精ストレリチア。すでにドラレロタワー建設に余念がない。今日は誰のパンドラを奪うんだッッッ!
「乾杯で杯を干した奴は酒クズだ! 干さなかった奴は(ペース配分を)訓練された酒クズだ! ホント飲み会は地獄だぜぇ! フゥーハハハー!」
対抗馬、寛治! 減ったばかりのパンドラをストレリチア対策に使うのか? ……いや褒章貰って飲み死はまずいだろ(素)。
「酒だあああァァぉぉおおお飲むぞぉおお!」
こっちには酒クズどもと組んで酒場を爆破したバクルド! 無関係だと喚いても誰も信じちゃくれねえってッッ!
「今日は飲み放題なんだってね! やったね! ヴァリューシャ!」
こちらはヴァレーリヤにも酒の耐性的にも甘いマリアだ! 単体なら善人だがVが絡んだら暴走特急だぞ!
「詳細はよく分かんねーっすけどタダ酒出来るってんならこっちのもんっすよ!」
色々恥ずかしい過去はさておきリサがここに来た! 飲めるなら飲むぞといわんばかりだ!
……うん、軽い地獄。
「わーはっはっはっ!」
「わーっはっはっは!!」
「「酒じゃ(なのだ)これ!!」」
チンカチンカのドラロッカを酌み交わしたヘルミーネとフロルは何故か一気してから酒であることを確認し合い、へらへらと笑っていた。
「わーはっはっはっ! 亜竜種の皆も乾杯!」
「この出会いを祝して、盛大に飲み交わそうじゃないか。何、大丈夫さ。亜竜種の肝臓は強いぞ?」
ヘルミーネの合図に応じた美透は、自信満面にぐいっと酒を呷る。これくらい楽勝だと言わんばかりのそれは、ヘルミーネを喜ばせるものだった。
「びいる? ニホンシュ? いや、飲めるぞ? 飲めるのじゃがな、苦いお酒は好きでは無いのじゃ……。ジュースで割ったり、甘いものなら大丈夫なのじゃが」
「酒場ってのは出会いの場だろ? 出会いの場ってことはつまり、祝いの場だろ? 祝いの場ってことは乾杯しなきゃな! うっし! カーンパーイ!」
「カッカッカッ! 儂もいれぎゅらぁずっちゅう奴になったばっかりじゃが! ほんに、いれぎゅらぁずっちゅう奴らは愉快なやつばっかりじゃのう!」
「クソ田舎から出てきて早速こういう系のイベントあるってマジラッキーって感じじゃん! 天はグルックくんに味方しましたね……」
小鈴や奏音、源やグルックは外の世界でいきなり巻き込まれた酒宴に喜ぶやら驚くやら。亜竜種の豪快さでもってしても、この酒量は異常なのは間違いなさそうだ。
そしてそんな連中に絡むヤツもまあ、いる。
「ニュービーどもぉ。ここに来たらまずやることがある。何かわかるか? んー?」
エッダはそんな面々に答えてみろとばかりに耳を向けた。そして答えられないとスピリタスを持ち出し消毒とか言い出した。消毒アルコールは77%ぐらいだぞ自重しろ。
「いや、まて、そのグラスはなんじゃ? 死ぬからな、いや、フリでは無いぞ? 亜竜種がみんなザルだとか、明らかに間違った情報じゃからな? だから妾にそのグラスを」
「ひとーつ」
「これから色々と儂に教えてくれ、先輩方! ……でもその飲み方はしらんでも良かったなぁせんぱ」
「ふたーつ」
「酒ってのはぁ、こーあらが本番らよらぁ! うえへへへへへ」
「みーっつ」
「酒豪にして修羅……暴竜……いや女傑に囲まれ育った俺を甘く見ないで欲しいもんですねえ」
「いっぱーい」
「頼みますよ先輩~~。グルックくんがどれだけ飲めるかは先輩方にかかってるんすから!」
「オッいけるでありますなオラッまだ飲め!」
「えっまっもう無っ」
「無理は嘘つきの言葉であります」
亜竜種4人を向こうに回して度数の高いやつばかりゴリゴリに突っ込んでいくこの先輩ほんとアルハラパワハラが果てしない。
「新田さんとの勝負、受けて立つの」
「それでこそストレリチアさんです」
寛治とストレリチアは相対し、互いに酒のグラスを持った。間に飛び散る火花、燃え上がる背景。頂上決戦みたい。
「こっちは同郷の先輩のフロルさんなの! 乾杯なの! 先輩お願いしますなの!」
「に精通したプロ精霊種じゃとか……お会いできて光栄じゃ、えっ?」
いきなり替え玉扱いされたフロルはよくわからないまま酒を一気した。酔いの巡りが早いがそれ以上に状況がわからん。
「まだ私のパンドラは残っていますよストレリチアさん! いざ! いざ!!!」
「酔ってたら妖精の違いなんてわからないの」
「なるほど……なるほど? いやそれわしのパンドラがマッハじゃない?」
「英司さんのチェイサーはわたしのものなの! ふーっ生き返るの!」
「待ってくれよユリーカちゃ」
「代わりにこのお酒あげるの」
「まってそれ俺が混ぜた“究極のドラゴン酒”じゃ」
「良いから飲むの」
「はい……」
「なんでわしが水飲めてないのにストレリチア殿はやりきった顔しておるんじゃ?」
「酔った人間に妖精なんて見分けがつかないの」
寛治は出来上がりつつも覚悟はキマっていた。パンドラは削るつもりでやってきたのだ。
ストレリチアが仲間のパンドラを削ってまで酒を飲むという逸話はあまりにも有名だ。だが、よもや強引にパンドラを削るんじゃなくて代打としてパンドラを石臼引きにするなんて誰が思っただろうか。普段は仕掛ける側の英司が知らぬ間にチェイサーを酒にすり替えられて飲み比べの犠牲者となったことで、彼もまたなけなしのパンドラをすり減らすのであるいや酷くない?
「練達事件は死ぬかと思ったが、まずは生きていることに乾杯!」
「いやー、ローレットは酒を飲む仕事が多くてありがたいっスねー」
「今日は飲むぞーダメになるまで飲むぞー!」
ヤツェクの音頭にあわせ、美咲と創が杯を掲げてしみじみと語る。節度を持ってダメになるis何。
だがこの面子はまだマシな方だ。ヤツェクの生リューガルデン一気は定番として、その後チョコリキュールのアレンジに移行する辺り完全に酒飲みのグラオ・クローネなのである。
創はともかくとして美咲は状況が混乱しすぎると困るのでセーブしている……のだが、ブレーキというのは握る人間が居なければ意味がない。
「お料理お待たせしました! 追加の飲み物もすぐお持ちしますね」
「飲んでるかー!? 何を飲む? 水? じゃあ私が取って来てやろう……ええとす、ぴ、り……うん水だな!」
「数字が大きい方が皆喜ぶだろうから持ってきたよ!」
「数字が大きいなら純度も高いな! 実質純水だ!」
ユーフォニーは彼方此方の惨状を見つつちゃんと給仕していた。これはマジだ。そして注文をとってサクっと仕事をこな……そうとして、ブレンダ達の乱入に目を丸くした。ブレンダが『手洗いうがい消毒』のためにエッダが手にしたスピリタスをひったくり、帳も何を思ってか数字の大きい(=度数がエグい)酒を持ってきた。限りなく100に近いので純水。カロリーゼロ理論の対極みたいな理屈である。
「この雰囲気に超絶技巧は合わないな、陽気な曲でも行ってみよう……そこの別嬪さん……じゃなかった美丈夫さんよ、歌お願いできるかい?」
「俺にお願いするなんて面白い。その辺のいい女達と一緒ならやりますぜ?」
ヤツェクは酔った勢いで演奏がてらセッションを試みようとして、たまたま通りがかった建峰を呼びつける。一族の面々の輪から外れ、女漁りに赴いていた彼にとってこれは一大アピールチャンスと言えなくもない。必然、周囲の女性陣も交えての合唱が始まったり始まらなかったりする。ノリいいヤツ多いからな地獄なのに。
「カクテル『大ジョッキにここにある酒全部混ぜた奴』~~、度数の違う酒を混ぜ続けて乱高下させ、以て対消滅して実質度数ゼロ!」
「しかしあっちの飲み方もどうかしてるな」
「クソわよ」
真の度数ゼロ理論の強者フロル、死地でパンドラすり減らしながらの帰還。そのエグい色合いに『どうかしてる』と突っ込むブレンダはしかし、瓶の口を手刀で開けている。美咲の目が濁るのも無理はないだろう。
「あら、美咲。コップが空になっていましてよ! ……美人で慈悲深い聖女である私の? お酒が? 飲めない?」
「ヴァリューシャのブーツ酒が飲めないだって?」
「ブーツに酒を注ぐ風習なんて聞いたことがねえっスよなんでタゲられてるんスか」
ヴァレーリヤにタゲられたらにげられない。美咲はマリアにまで詰め寄られてRe:version(定番の隠語)不可避に陥っていた。だが捨てる神あればなんとやら、さっそうと現れた人影が!
「ほら、無理して飲ませることしないの。私がその分飲むわ。任せなさい!」
「貸したまえ! こうするんだ! こう! さあキミも!」
レイリーは美咲に渡されたブーツ酒をひったくって己が、と身代わりになろうとするが、何故かマリアのが早かった。愛ってやつだな。一気に飲み干したマリアはそのまま更に度数の強い酒をブーツに注ぎレイリーへ。レイリーは堂々と受けて……何故かブーツが美咲に回った!
「クソわよ」
「いっぱい写真撮っておくね! 記念が残るのはいいことだよね!」
人、それをデジタルタトゥーという。この惨劇を前に撮るとは帳もなかなかにワルである。
「地獄ぅ? なぁに言ってるのよ! こちとら鬼の一人! 地獄ぐらいチョロイ物だわ!」
「そう言ってるヤツから惨劇に巻き込まれるんだよな……」
きゐこもなまじ鬼の気が在るだけに酒が強い(自称)。だから生半可な飲み方、自称地獄程度で潰れるわけがない(自称)。仲間達の騒乱を見て余裕でそう嘯ける姿を見て、義弘はああこの娘も犠牲になるんだなとしみじみ思いながら『天晴』を手酌で飲んでいた。
「手酌なんてもったいないわよぉ♪ おばさんもご相伴に与っていいかしらー♪」
「ああ、悪ぃな……はいご返杯」
蘇芳はそんな義弘にすかさず近付いては酌を代わり、絶妙なタイミングで酒を注ぐ。自らもぐいぐい飲んでるのを見ると、ふたりとも酒が好きなんだというのが分かる。
「私ダメなんだ、こう、本気で酔うとどうにも悲しい気持ちが出てきてね……私なんか田舎の魔術屋だし大した事もしてないのに何か召喚されたしもっと適任居そうな気がするしでも選ばれたからにはちゃんとやりたいし……。うううっ、ふぇぇぇっっっもうダメだかなしい私泣く!!」
「ミーちゃん……この人どうしよう……」
「悲しいときは飲みましょ、まだまだお酒はたくさんあるんだから♪ あ、この子預かるから片付けに戻っていいわよ♪」
肝臓は強いアピをしたばかりに潰されたのか、美透は既に泣き上戸に入っていた。イレギュラーズであるというだけで才能なのだが、上を見ると首が疲れるのもさもありなん。きゐこは出来上がっていたがその辺の機微はちゃんとしていたらしく、困惑したユーフォニーと猫のミーフィアを退避させつつ更に飲ませた。……いいのか?
「お酒が、飲めるように、なりましたので! 先日、アーリア様にお酒を頂いたので、美味しく飲むために……自分の限界を知ろうと、思います!」
ネーヴェは成人して間もない。そして、酒に関して疎い。主に自分の限界について。だもんで、この機会に限界を知るべく【地獄】に舞い降りたのである。加減しろ。
飲酒ニュービーというだけあって周囲はバニラアイスに苺やキウイ系の果実酒をかけて渡したり、炭酸割りを勧めるなどしてセーブさせるべく腐心していたのだが、まあ場所が悪かった。
「タダ酒だってさ! こんなん飲むしかやいやないスかァー!」
「ぷはあぁぁぁぁぁ!!! 味良く分からんっすけどうめぇっす! やっぱりこのグッときてふわってする感じが最高っす!」
文字通り『鉄の肝臓』を有すキャナルや、酒の味より勢いと酩酊感を求めているリサのような酒に敬意が感じられない(周囲談)連中がそばにいれば、自然と勢いも増すのである。やはり金銭のやり取りは理性のブレーキらしい。自重しろ。
「亜竜種(しんがお)どもよ――ついてこれるか? ワタシは蓮華、蔀・蓮華と申す鬼人よ! 我こそは、という猛者はワタシに続け!」
「そうそう、唐揚げには檸檬ブシャーであるな」
「それは続けさせるかァ!」
蓮華は威勢よく名乗りを上げ、亜竜種達に声をかける。エッダに絶賛潰され中の面々からも声が聞こえたが弱々しい。唯一、なぜか無事だった峰風はあろうことか戦争の火種を投下していたのだからさあ大変。
「はわあ……タダ酒しゅきぃ……うま……かゆ……」
どころか、何故か置いてあったエナジードリンクを素で飲みぶっ飛んだ思考でこれは割材だと理解。即座にドラロッカと割って前後不覚に陥っていた。……限度をわきまえろ限度を。
「なるほど、あんなふうに飲めばいいのです、ね!」
というわけで勘違いしてしまったネーヴェがどうなるかというと。
「アーリア様が三人います。そちらの方は五人いますね? ふふ、なんだか楽しいです……どれが本物なのでしょう?」
指差し数えながらふわふわとした笑みで語るネーヴェの姿は、誰がどう見ても酩酊者のそれであった。……なお、その後電池切れよろしく寝てしまい飲酒量など覚えているわけがなかったという。どっとはらい。
「あっそうそう、あれがローレット名物の眼鏡割だしダーツは英司くんって的にどうぞぉ。ほらほら先輩達は一発芸が足りてないわよぉ?」
「あん? 一芸だァァ? よしその樽をよこせ、飲み干してやる!」
「あぶねぇ! なんで的にンッ……フゥ……」
アーリアはストレリチアに敗北し眼鏡(ほんたい)を支払わされた寛治にゲラゲラ笑いながら英司にダーツを投げる。亜竜種達にもそれを強要。なんてやつだ。一芸を求められたバクルドはあろうことか樽酒一気に走り、的になった英司の体は真冬なのに夏になっている。何がマーメイドだ「まぁ! 迷道?」だろうがオラッ!
「こらこら、酒の強要は楽しくないだろう。その分私が余計にもらうぞ。私も飲みたいからな」
モカは人格者(者?)だが酒は飲みたい派。そして身体的事情から酔うことがないので【地獄】対策にピッタリ! ズルいな。
でもちゃんとお茶を配って回って二日酔い予防に努める辺り、デキるヤツであることは疑いの余地もない。まあこれで止まるアルハラはアルハラの中に入らないんだけどやらないよりはめっちゃマシ。
「あ、こないだの戦いはお疲れ様ー。かんぱーい!」
「かんぱーい! ニホンシュも竜牙酒も美味しいねえ、飲み干したいねえ!」
創とラズワルドはすっかりベロベロになりながらも笑い上戸気味に杯を傾け合い、楽しげに笑っていた。お互い酒には目がないので周りの酒をちゃんぽんしているのはよろしくないのだが、味わいが単調じゃつまらないのもわかる。已む無し。ラズワルドは己のギフトに頼ってどこか慎重そうな相手を探したが。
「折角じゃしチキチキ酒飲みチキンレースと洒落こむぞ。用意された酒を度数の低い物から順に一杯づつ飲んで全種類飲んで倒れたら負けじゃな」
「お酒があり、相手があり、勝負ということならば応じないわけにはいきません。地獄の鬼に酒で敵う方が果たしているのでしょうか?」
「ヌーッハッハ、言うな若造!」
ナールと繁茂はいきなり盃を交わしながら勝負をおっぱじめているがお互い楽しそうだった。酒飲みは酒飲み同志惹かれ合い、意気投合が早いらしい。チキンレースが順調にしかし凄まじいペースで進むのは、並の酒飲みなら顔を青くする事態である。ところで。
「そう! 誰からも抑圧されず自由であれる場所を天国と呼ぶのですわ!!」
と地獄を天国と勘違いしているテレジアに近付く影があった。酔わないけどめっちゃ飲む、エマである。この人毎回トラブル持ち込んでない? うん飲み会に。
「あ、そういえばテレジア様。わっち! こういうものをもっておりんして! そうそう100万Goldの借用書! 二つも!」
「この借金はどこぞのクソ父に押しつけて、わたくし自由の身ですから……不要になったコレを束にして燃やし尽くしてやりますわ!」
「えっ」
まだ効力があると思っていたエマだが、大量偽造事件から数億Gに及ぶ借金の出現、身内への押しつけ、天義内部に残る腐敗の露見など色々実は重い事情の名のもとに精算されていたので、紙くずなのである。だからって燃やせとは言ってないよ。火を付けるな。
「あ……自由の枷が燃えてゆくさまは美しいですわ……さあさ皆様もご一緒に、要らないものを燃やしてしましましょ!」
「ほ、ほほほほ保護結か――」
「燃やすのか? じゃあこの樽もやろうぜ! ……あれ、あの樽。飲み覚えのある喉越し……」
保護結界でローレットを守ろうとしたアーリアの目の前を、バクルドの投げた樽が飛んでいく。なんで酒なのに「TNT」って書いてあるの? ドット絵で。爆弾酒の樽だから? ああそう――。
「ええ、詫び酒の場で私達が詫びることになるとは思わなかったわぁ。内装は無事だったけど皆焦げたわよねぇ」
などと、アーリアは語っている。
爆心地であるテレジアとバクルド、近くに居て酒の強要を行っていた数名はしょっぴかれていったらしい。ウケる。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
大変おまたせして申し訳ございません。リプレイ公開となります。
白紙含め全員名前は出ていると思いますが、もし居なければFL等でご連絡ください。
GMコメント
多分新種族来るんだろうな、来たら飲み会だなって思ってました。
ロレトレがある分そこまで混み合わんだろガハハ! って思ってます。きっと。
※スペシャルサンクス:天野ハザマGM(竜牙酒まわり)、pipiSD(なんかすげーいっぱい)
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●プレイング書式
イベントシナリオとして多数参加する可能性がある為、描写漏れを防止する意味でも下記のテンプレートを可能な限り遵守いただければ幸いです。
1行目:パートタグ
2行目:同行者名(IDがあればなおよし)orグループタグor空白
3行目:プレイング本文
パートタグ
・【飲酒】
メインは飲み! な人向け。
OPにある通りお酒は多数あり、また、非アルコールも割材に使えます。なんでエナドリがあるんだろう……?
20歳以上が選択可能です。亜竜種には特に優しくしてあげてね……。
・【飲食】
未成年、ないし食べる方がメイン(酒を飲んでもよい)はこちらとなります。
敢えてOPで明記してませんがポテサラもあるにはあります。推してないだけで。
ジビエなんかも充実しているようです。
・【給仕】
料理を運んだり調理に回ったりする役どころ。
初期時点で給仕3人+名無しNPCの調理しか人が居ないので、いて困ることはないです。たすけて。
別に運んでる最中つまんだとか運んだ先で飲み始めるとかはOKです。窮屈だと困るからね……。
●NPC
ふみのが担当するNPC3名はデフォで給仕してます。
なお、無制限イベントシナリオなのでそれ以外に関しては未知数です。
●注意事項
・イベントシナリオなので、描写は全体的に軽めで、アドリブが通常より多めになります。
・書式を守らなかったり、同行者同士でのタグや表記ゆれが起きると迷子扱いになり全体の空気に混じってしまう可能性があります。根回しは慎重に。
・お酒であっぱらぱーになるのは全然OKですが、辛味オイルは事前許可をとってやりましょう。話が通ってればアラブ歓迎でもいいとおもう。
以上、お手隙であればぜひどうぞ。
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