シナリオ詳細
<夏祭り2018>たくさんのゴーストハンター
オープニング
●たくさんのゴーストハンター
怪談話と言う物は季節問わず語られるものではあるが、やはりその本番は夏である、というイメージがある。
これはとある世界の日本という国に住む旅人なら納得していただけるかもしれない。暑い夜に、恐怖体験にて涼をとる……夏の風物詩と言っても差し支えない、文化の一つである。
「そんなふうにウォーカーから文化が流れてきたのかは定かではないですが。ネオ・フロンティアにも、夏場の肝試し、というイベントがありまして!」
『小さな守銭奴』ファーリナ(p3n000013)が、妙にテンション高く、そう告げた。
手にはこんにゃくが吊り下げられた釣竿を持っている。古典的だった。
「というわけで、肝試しなのですよ、肝試し! コースは簡単、この海岸をまっすぐ行って、突き当りにある洞窟に突入! この洞窟をこれまたまっすぐ行くと、行き止まりにスタンプを押すポイントがあるので、スタンプをポン! と押して帰ってくる! それだけです!」
ファーリナがこんにゃくをべしべしと振るいながら言った。
「一般参加はもちろん、脅かし役の幽霊の皆さんも募集しております! 脅かしてやろうぜ野郎ども! 参加者たちを、恐怖のどん底に叩き込んでやるんです!」
その言葉に、うおおおお、という声が上がったかは知らないが、いずれにしてもファーリナはテンション高めである。方向性はどうあれ、楽しみにしていることに変わりはない様だ。
何はともあれ。阿鼻叫喚の肝試しイベントの幕が、今切って落とされたのである。
- <夏祭り2018>たくさんのゴーストハンター完了
- GM名洗井落雲
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2018年08月05日 21時15分
- 参加人数58/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 58 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(58人)
リプレイ
●恐怖体験の始まり
月照らす夏の浜辺。潮騒が響くその場所に、多くの人々が集まっている。
ある者は楽し気に、ある者は緊張の面持ちで。
あたりには、時折悲鳴が響き、それを聞いた者たちは笑い、或いは恐怖故に耳をふさぐなど、様々なリアクションをとる。
さて、今宵は肝試しの時。心霊と絡めた夏の日に行うそれは、異世界は日本という国の文化の一つではあるが、度胸試しと言う点で見れば、そう言った行事は、あらゆる国に存在するようだ。非日常を楽しむ、というのが、この手の度胸試しの醍醐味であるといえるだろう。
さて、この肝試しの参加者は、例年であれば海洋の一般市民がメインであったのだが、今年はイレギュラーズ達も、多く参加している。参加者は、肝試しを行う側と、脅かし役の二手に分かれ、それぞれ脅かし脅かされ、夏の夜を楽しむのだ。例年よりも賑やかになったイベントに、参加者たちは期待と恐怖の入り混じった独特の感覚を抱き、自分達の出発の時を、或いは自分達の出番を今か今かと待っていた。
今回の肝試しは、浜辺をまっすぐ進み、洞窟を目指すコースをとる。コースとなる浜辺は、遊泳用の広々とした砂浜とは異なり、大きな岩などが転がる、些か見通しの悪い場所である。
「おっ、中々雰囲気出てるね!」
などと、鼻歌交じりにシャルレィスが歩く。幽霊などは怖くない、と語るシャルレィスである。実際、幽霊に扮した一般人の脅かしも、笑いながら楽しんでいたりするのだ。
そんなシャルレィスではあったが、不意に首筋を撫であげた、生暖かい、ぬるりとした感触には、流石にたまらず声をあげてしまった。
「うわぁああ!? え? え? 今の何? まさか本物??」
目を丸くして、辺りをきょろきょろと見まわすシャルレィス。ふと気づけば、視線の先にはつるされたこんにゃく。どうやら、先ほどの感触は、これの仕業らしい。ほっ、と一息つきつつ、
「べ、別に、怖かったわけじゃないからね! 驚いただけなんだから!」
と、誰に言うわけでもなく弁解しつつ、シャルレィスは先へと進んだ。
さて、あとに残されたこんにゃくを、指でつつくのはMorguxだ。
「指で触った感じ、本物っぽいな……」
呟く。こんにゃくとは古典的なトラップではあるが、旅人による口伝で広まった物だのだろうか。まぁ、それはさておき。
「食えるのかな」
Morguxが言った。お腹に手をやる。そう言えば、今日はまだ食事をとっていない。お腹が空いた。
「……腹が減ったな……」
ぐう、とお腹が鳴ったような気がした。恐怖より食い気か。とりあえず、このイベントが終ったらなんか食べよう、と思うMorguxである。こんにゃくは、この後Morguxが美味しくいただきました。
「肝試し! 話には聞いたことあるけどやってみるのは初めてなんだ! 楽しみだなー!」
と、楽し気に笑うアレクシアと、
「肝試しも旅人の文化なんだよな。俺も参加するのは初めてだよ」
それにこたえるウィリアムだ。2人は海岸を歩いていく。
「でも結局、演技に作り物だろ?」
ウィリアムは言った。
「本物の幽霊やらゾンビが出て来る訳でもないし、怖いモンでもねーだろ」
そう言って笑うウィリアムへ、
「演技や作り物でも、怖いものは怖いんじゃないかな? ……というかウィリアム君、本物のゾンビとかなら怖いんだ? ほほーう」
にやにやと笑いつつ、アレクシアが言うのへ、ウィリアムは「そういうわけじゃないけどさ」と、反論する。
二人は、ずんずんと先へと進んで行った。アレクシアは、楽しみな事もあってか、歩くペースが速い。その歩みに合わせるように、少し足早に、ウィリアムも歩を進める。
所で、ウィリアムは油断していた。
本物でないと分かっているなら怖くない。
では、本物が居たら。
「――ぎゃあああああああ!?」
真横から、突然の叫び声をあげられて、アレクシアは、
「うわっ、何?! 何?!」
と、思わず声をあげた。
慌てて横を見やれば、大口を開けて驚いているウィリアム。その視線の先には、うすぼんやりと輝く、半透明の女性の姿があった。その女性はにこりと笑って手を振ると、ふっと暗闇に消えて行く。
おそらくは、特殊な生態を持つ旅人の類だろう。イレギュラーズと言うわけではないが、参加していたらしい。つまり、ある意味で本物の幽霊だったわけだ。
アレクシアは、思わず吹き出した。
「あそこまでびっくりしなくても、あはは」
「だって、お前、アレは卑怯だろ!?」
思わず言い訳してしまうも、アレクシアの笑いは止まらない。
顔を真っ赤にして恥ずかし気に、ウィリアムは先へと進んだ。
「些か足場が良くないな。驚いて転んでくれるなよ?」
ニヤリと笑いながら、リュグナーが言う。ソフィラの手をしっかりと握り、エスコートする。
「そ、そんなことはないと思うわ! リュグナーさんこそ、驚いた拍子に転んだりしないようにね?」
反論するソフィラへ、リュグナーは笑いながら頷いた。
しかし、と呟き、リュグナーがあたりを見渡す。幽霊・亡霊……心霊的な類には慣れているリュグナーである。しかしながら、多くの人々にとって、心霊的な現象とは、恐怖と非日常の象徴なのだろう。感心しつつ歩くリュグナーは、
「きゃぁっ!?」
というソフィラの叫びを聞き、
「ぅぉっ……」
小声で驚きの声をあげつつ、身体に力を込めて立ち止まってしまう。
「な、何かが今……!!」
ソフィラが声をあげつつ、首筋をさする。湿ったような、生ぬるい何かがふれた感覚。リュグナーが慌てて周囲を経過すると、目に入ったのは――。
「……こんにゃく、だな」
そう言った。そう、吊るされたこんにゃくである。それがソフィラの首筋に触れた、という事だろう。
「あら、あらあら……」
困ったように、照れ隠しのように笑うソフィラ。しかし、ふと何かに気付いたような顔をした後、
「所で、リュグナーさん……さっき、驚いてなかった?」
少し意地悪気に笑い、そう告げる。リュグナーは肩をすくめて、
「さぁ、な」
そう言って、視線を明後日の方へと向けた。
「割ってくれぇ~」
うら寂しげな声が、辺りに響く。
「割って……割ってくれぇ~……」
ふらり、ふらりとスイカが舞う。スイカが夜の闇を舞う。
なんだ、スイカの化け物か!? いや、違う、クレッシェントだ! 頭部(稲刈り鎌)の先端に、なぜかスイカを突き刺し、クレッシェントがふらふらと徘徊する!
クレッシェントがスイカを頭に突き刺した理由は、深く、悲しい物であった。
自分の頭でスイカ割りして笑ってたら、刺さって抜けなくなった。
なんと悲しい理由だろうか。
「割ってくれぇ……スイカを割ってくれぇ……割とマジでおねがいします……」
スイカ割りの棒を片手に、クレッシェントが徘徊する。そんな姿を見て、またひとり、参加者が悲鳴をあげて、脱兎のごとく逃げ出した。
果たして、クレッシェントの頭が解放されるのは、いつの日か。
「っていうか、頭にスイカって……ぶっふー! 想像したら自分でも笑っちゃいました! シュールですね!」
割と楽しそうだった。
砂浜を、轟音が揺るがす。それは獣の唸り声にも似た、地獄より響く音。
「ここよりは冥界への路――」
男が言った。唸り声をあげる獣――漆黒のバイクにまたがって。
左腕は魔獣の爪のごとき姿を見せた、ゴースト・ライダー。その言葉に続くように、
「恐れるならば、引き返せ。通行料は、お前の首だ」
馬に乗る騎士が、声をあげた。しかし、その騎士には首がなく、己が頭を手に抱え、巨大な剣を振りかざした。
「覚悟が決まったなら、”死出の旅路”を楽しむんだな!!」
ゴーストライダーがそう告げると、
「ウ”ウ”オ”オ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ!!!」
全身鎧の騎士が、地獄から響くかのような雄たけびをあげた。
その言葉を合図にしたように、ゴーストライダーが、デュラハンが、リビングメイルが、各々武器を振り回しながら、辺りを走り出した。
遭遇した参加者たちが悲鳴をあげながら走り回るのへ、
「皆ノリノリだな……」
と、ポテトが感心したような呆れたような笑顔を見せつつ、呟いた。
「僕も皆に負けないぞー!」
白い服を着たノーラが楽しげに言うのへ、ポテトはノーラの頭をぽんぽん、と軽くたたくと、
「あんまり遠くへ行っちゃだめだぞ」
と、言う。ノーラはうん! と元気良く頷くと、とてとてと参加者たちの下へと向かい、三人のゴーストたちの下へ、誘導していった。
「ハッ――見たいか? この世の地獄って奴を――」
ゴーストライダーが、笑いながら地を駆け、
「貴様の首をよこせぇ~……!」
デュラハンが剣を振り回し、
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」
リビングメイルは雄たけびを上げ、参加者を追い回す。
小さな幽霊は迷子を装って獲物をつり出し、自身も姿を消して、参加者たちを翻弄する。
「まぁ、あんまりやり過ぎるなよ」
そんな幽霊たちを眺めながら、ポテトは苦笑するのであった。
「……っと、おいおい、大丈夫か?」
いわゆる「死に装束」を着こみ、火の玉をつるしたグレンが、へたり込んだ参加者の少女に声をかけた。脅かし役、という事で参加していたグレンだが、恐怖が限界に達してしまった参加者や、ケガをした参加者たちの救護なども行っていた。
「まだまだ序盤だぜ? まぁ、今回は、色んな奴が参加してるからそれもしょうがないのかな……」
グレンはそう言いながら、少女に手を差し出した。その手を取り、立ち上がった少女が礼を言う。
「一人で戻れるか? ……無理? まぁ、そうだろうなぁ……」
頭をかきつつ、グレンは頷くと、
「よし、じゃあ一緒に戻るか。……ああ、これは脅かしの仕込みとかじゃないからな? 安心してくれ」
そう言って、グレンは少女を伴い、歩き始めた。
さて、グレンの言う通り、今年の参加者は多種多様。一般の旅人はもちろん、イレギュラーズの中にも、特異な外見・能力を持つ者は存在する。
「さあ。此度も我等『物語』の独壇場。阿鼻叫喚を御覧じろ!」
オラボナも、そういう特異な存在の一人である。
オラボナのギフトは、娯楽化された恐怖を作る。つまり楽しむための恐怖であるが、恐怖の楽しみ方とは恐怖する事であり――端的に言おう、めっちゃくちゃ怖いのが出てくるギフトだ。
ギフトによって作り出された、灰色の雲。それは、雲でありながら地上にある、異常なる存在。そこから無数のひづめが飛び出したるや、それは瞬く間に融解した。どろどろと解けるそれが、苦痛に歪む顔の形を取り、まるでうめき声の様な音をあげ、しゅうしゅうと溶けていく。無数の顔が、溶けていく。まるで地獄のような光景であった。こんなのが突然目の前に出てくるわけで、遭遇した参加者の心境たるや推して知るべしである。
「Nyahahahahahahahahahaha!!!」
30秒の地獄を演じた後、その雲は泡のように消え失せた。途端、響き渡る笑い声。物語によるカーテンコール。返されるは拍手ではなく、恐怖の悲鳴。だが、それでいいのだ。娯楽たる恐怖の物語にとって、恐怖の声こそがすなわち拍手であるのだから。
さて、そんな恐るべき恐怖を目の当たりにしては、とてもではないが耐えられまい。
思わず悲鳴をあげながら、走り去る二つの影。
レイと霧玄は、あまりの恐怖に叫びつつ、目的地である洞窟目がけて、一目散に走り出した。
●洞窟のゴースト
砂浜を越えると、次に見えるのは洞窟である。薄暗く、ひんやりとした空気の漂うこの洞窟の、奥にあるスタンプを押して、また引き返してくるのがコースとなっている。
霧玄が先行して洞窟へと入っていく。レイは、その後を追った。2人は、一緒に参加した、というわけではない。たまたま先ほどの脅かし役に一緒に遭遇して、そのまま合流した、というわけだ。
「ねぇ、知ってる? この洞窟ね……実は崩れたりすることが多くて沢山の人が亡くなったんだって」
ふと、霧玄が口を開いた。
「そうなの?」
レイが驚いたように、息をのんだ。
「でも、今はここ、そんなことないんだ。実はね? ここが綺麗になったのはね……人柱を置いたからなんだ」
霧玄の言葉に、レイは思わず、身をすくめた。
「それも、10代前半の男の子。……その子は何も知られずにいきなり捕まえられて洞窟に埋めらたの。だから、今もその子は人を恨んで肝試しにきた人に紛れて連れて行こうとするんだって」
レイが思わず後ずさった。霧玄が振り返る。
その顔は、赤かった。
真っ赤な血に染まった顔。血みどろの衣装。
「キ、ミ、モ、オ、イ、デ、ヨ」
囁くような霧玄の言葉に、レイは、
レイは、
「……あれ?」
霧玄が小首をかしげる。レイは、一切の反応を返さない。こちらを見て、何やらぼうっとしているように見える。が、次の瞬間、レイはバタン、とその場に倒れ伏した。慌てて霧玄が駆け寄る。
「き、気絶しちゃってる……やり過ぎちゃったかな……!」
わたわたと慌てつつ、霧玄は必死に倒れたレイを介抱するのであった。
(むむ……しまった、これでは人の位置が……)
ヴィクターが、胸中でぼやいた。周囲のレーダーマップを表示できる、というギフトを持つヴィクターには、演者が周囲で待ち構えているのが分かってしまう。これでは、恐怖の質も些か落ちてしまうと言う物。
「いや……だが、それでも、勉強になる、と言う物か……」
ふむ、と唸り、気を取り直す。ヴィクターにとっては、恐怖……感情と言う物は、未だ学ぶ最中のモノ。であれば、肝試しとは、抜群の教材であった。
「恐怖……驚かす、か。本機ならば……やはり長射程からの狙撃。奇襲による突然の銃撃。トラップによる不意打ち。こういった手段が考えられるが……」
それは恐怖や驚きの質がまた違うのではないだろうか。
「ふむ……難しいものだな……だが、新鮮ではある」
そう言って、ヴィクターは次の学びを得るために、歩き出した。
「これ、そこの者達。儂が、御主らの運勢を占ってやろう……」
しわがれたような声が、洞窟に響く。
洞窟内に、突如として現れたのは、謎の占い屋と、その主である老婆である。
大きな水晶玉をテーブルの上に置き、フードを被った老婆――のフリをしたイーディスなのだが、イーディスは参加者が通るたびに声をかけ、強引に占いを行っていった。
「ふむ、この運勢は……うぇっひっひっひ。知りたいか? なら、ほら。後ろに……」
イーディスが、そう言って、ゆっくりと、参加者の後ろを指さす。その先に視線をうつせば、赤い炎がゆらり、ゆらりと揺れる。
「ひ、人魂……!?」
と、それを見たアグライアが一瞬、驚いたような声をあげ、
「凄いですねー……どうやってるんですか?」
と、のほほん、と尋ね出した。
人魂――それは、頭部のガラス管を外したジェームズであった。ジェームズは首を傾げる様子を見せた後に、スケッチブックにさらさらと、文字を書き始めた。ガラス管の保護器具が無ければ、スピーカーもないため喋れない、とは本人の弁。
『自前です』
と、差し出されたスケッチブックの文字を読み、感心したように頷くアグライアへ、
「なんだよー、あんまり反応良くないじゃん」
と、ぼやくイーディス。
アグライアはうふふ、と笑う。
と、
「げ、げぇぇぇっ! 人魂!!」
たまたま通りかかったのだろう、史之はジェームズを指さしながら、悲鳴をあげた。続いてイーディスへと視線を移し、
「ひいっ、こっちには魔女まで!!」
涙目で悲鳴をあげる史之。
「うわああああ!!! もういやだぁぁぁぁぁぁ!!!」
史之は思いっきり叫びながら、洞窟の奥へ向かって走り出した。逆方向、入口へ向かって逃げ出さなかったのは、史之のプライドのなせる技だったろうか。強くなって、片思い中の相手に認めてもらう――そんな想いが、史之を突き動かしている。
のだが、内面のことなど、周囲の三人にはわからぬこと。三人にとって、史之は突如現れ、めっちゃビビりながら走り出した参加者に過ぎないのだ。三人は呆然と史之を見送る。遠く離れた場所で、史之の悲鳴が上がるのを、三人はきいていた。
ジェームズは、スケッチブックへ、キュッキュッと、
『大成功、ですかね?』
と書いて、二人に見せた。
「いや、予定してたのとはなんか違うっつーか……」
イーディスが複雑な表情をするのへ、
「まぁ、終わり良ければすべてよし、ですよ」
アグライアはにこにこと笑って答えるのであった。
「ふむふむ、なるほど、こんなもんかね?」
ペッカートは呟きつつ、洞窟を行く。自身も悪魔と呼ばれる存在であるからか、心霊的な存在に関しては耐性のあるペッカートである。その為、その歩調はどこか気楽である。
肝試し、と言う物が心霊系にかたよっていることもあり、脅かし方の殆どが、ペッカートにとって耐性のあるものだ。ここまで特に問題もなく、ペッカートは進んでいた。
と。その視界の先に、ペッカートは何かを見つける。
それは、散らばっている無数の人形だ。それもよく見れば、一部で呪いの人形として流通しているものである。
ははぁ、そういう脅かしか。
ペッカートは内心ため息をつきつつ、人形地帯をあっさりと通り過ぎる。と。
「!」
途端、ペッカートの目の前に、突如人影が現れた。あたりには隠れる場所などなかったため、完全に油断していた形になる。それは突如『壁の中から』現れ、ペッカートの目の前に飛び出してきたのだ。
思わず、ペッカートは声をあげた。とんでもなく大きな声だった。ペッカートは、心霊系には耐性があるが、びっくり系には耐性が無いのである。
「…………っ!!」
と、驚いたのはペッカートだけではない。というか、ペッカートの声に驚いたわけであるが、とにかく声にならない悲鳴をあげたのは、飛び出してきた人影――シュバルツである。
「お、おいおい! なんつー声だ! こっちがびっくりしたぜ!」
シュバルツの抗議の声に、
「ちっ、あんな不意打ちかます方が悪いだろ!」
ペッカートはそう言い返すと、すたすたと先へと進んで行ってしまう。
シュバルツはしばし、耳を押さえてから頭を振ると、次の参加者を待つために、再び壁の中へと姿を消したのである。
「……突然誘ってごめんなさい。助かりました」
そういうLumiliaへ、
「いや、かまわないさ。しかし意外だね。肝試しが好きなのかい?」
ラノールが返した。
「実は、少し興味が」
と、が答えた。この肝試しへの参加を提案したのは、Lumiliaだ。気にはなっていたものの、やはりどうしても怖いという気持ちもあったため、知人であるラノールに出会えたのは幸運だったといえるだろう。
二人で参加できた、とは言え、やはり脅かされればびっくりするのは仕方がない。大げさな叫び声などはあげなかったけれど、Lumiliaは思わず少し「飛び上がって」しまったし、ラノールは、その耳と尻尾がぶわり、と逆立ってしまう。お互い、気恥ずかしさから苦笑しつつも、のんびりとコースを歩んでいく。
「怪我はもう治ったようだね。友人も心配していたよ」
ラノールの言葉に、Lumiliaは頷いて、礼を言った。Lumiliaをエスコートするように、少し先を歩くラノールの背中を、Lumiliaは好ましく感じながら。2人は静かに……時折びっくりしつつ、緩やかに、道を進んで行った。
「いやああああ! やっぱり怖い怖い! 暗い! 洞窟! 助けて王子!」
わうわう、と吠えるロクへ、勇気づけるように言いつつも、
「ま、任せてくれたまえ! 王子たるもの、か弱い女性の盾となるのは当然の……ヒョエッ!! 何か冷たいものが!! あ、あ、水滴……!?」
垂れてきた水滴にびっくりしてしまうクリスティアンである。
少々びくびくしてはいるものの、クリスティアンの心意気は本物である。事実、クリスティアンはここに至るまで、どれだけ恐ろしい目にあおうとも、ロクをないがしろにするようなことはしていない。
それ故に、ロクもまた、クリスティアンに信頼を寄せているのだ。
「私もできるだけがんばるからね! 負けない! めげない! ひいっ、なんか通った……! ひゅっ、なんか踏んだぁ!! イヤァァァァァ!!! 滑っとしたァァァァァァ!」
「ウヒャァッ!! ロ、ロロク君!! 失礼するよ!!」
たまらず、クリスティアンはロクを抱きかかえた。力強く、しかし苦しく感じさせないように。絶妙な力加減でロクを抱きしめ、
「スタンプはもうすぐだ! 走るよ、ロク君!」
と、叫び、一目散に走り出した!
「あ、待って王子! さっきふんだの、こんにゃくだったの! こんにゃくなのよ、王子! 王子、こんにゃく! こんにゃく、王子!!」
「僕はこんにゃくではないよぉぉぉぉぉ!!!」
叫びながら、2人は洞窟を駆け抜けていった。
「ぎょえええええええ!!」
洞窟内に、悲鳴が響き渡る。
驚かされたクァレがあげる悲鳴――それを横で聞きながら、楽し気に笑みを浮かべるのは、マルベートだ。
マルベートにとっては、肝試しのアトラクションでは驚かされたうちにも入らないだろうが、クァレにとっては充分、恐怖の対象である。双方へ、微笑ましさなどを感じてしまうマルベートであった。
「べべべべべべ、別にお化けが怖いというわけではねーですが!」
クァレが声をあげる。
「今の驚かし方は卑怯だと思わねーですか!? 卑怯なのです! 異議ありなのです!」
恐怖を紛らわせるためでもあるのだろう、口早に告げるクァレに、
「ふふ、そうかもしれないね」
と、余裕の言葉を返すマルベート。
「むむ、余裕そうですね……と、所で、このあたり、何人くらい『いる』んです……?」
恐る恐る尋ねるクァレへ、
「ふむ。……んー……」
マルベートは、くんくん、と何かを嗅ぎ取った後、
「…………うん、特に、何もいないようだよ?」
と、答える。
「な、なんですかその間は! ほ、本当ですか!? 本当に何も居やがらないんですか!?」
クァレがまくしたてるのへ、マルベートは笑いながら、頷いた。
その数秒後に、クァレの悲鳴が、洞窟へと響いたのであった。
さて、洞窟に、二人分の悲鳴が響き渡る。
「きゃああああ! な、何か踏みましたぁ!! ぐにゃっとしましたよぉ!!」
「うわあああああん! アニーさんそういうのやめてください! ほんともう勘弁してください!!」
ぎゃあぎゃあと喚きながら、ヨハンとアニーが洞窟を駆け抜けていく。その様は、脅かし側の参加者たちも呆然とするほどである。
二人はしばらく走り回り、途端、足を止めた。
「うう、無理です、無理ですよぉ! ヨハン様、確か男の子でしたよね! 先歩いてくださいよぉ!」
ぐいぐい、とアニーがヨハンを押しやるのへ、
「無理無理無理無理無理! アニーさんこそレディーファーストですよお先へどうぞ!!」
ぐいぐい、とヨハンがアニーを前へと押しやる。
ぐいぐい。ぐいぐい。大声をあげながら押し合いを続ける二人のへ、ぴちゃり、と、天井から水滴が零れ落ち、二人の首筋を濡らした。途端。
「うわあああああああ! もうやだぁ!! 出口どこおおおおお!!!!」
「いやああああ! 駄目ですぅぅぅぅ!! 助けてくださぁぁぁぁぁい!!!」
ヨハンとアニーは口々に叫び声をあげながら、再び一目散に走り出した。
あたりに散らばる人形たちを尻目に、ボルカノは一人、洞窟を行く。
ふと視線を感じて、後ろを振り返る。誰もいない。気のせいだろうか。ボルカノは前へと向き直り、再び歩き出し――足を止めた。
再び、後ろを振り返る。気のせいだろうか。先ほどと、人形の配置が違う……いや、人形たちが、後ろをついてきていないか?
瞬間、がさり、と音がした。その方を振り向く。人形しかない。またがさり、と音がする。其方へと視線を移しても、人形しかいない。
がさり、がさり、と周囲から音がする。ボルカノは周囲をぐるぐると見まわした。
ボルカノはあまり、心霊的恐怖への耐性はない。ここに来るまでにも散々驚かされてきて、正直限界が近かった。がさがさという音は止まない。気づけば、人形たちに包囲されている――。
「な、なな、なんであるかな!?」
上ずった声をあげるボルカノ。洞窟内に、一瞬、冷たい風が吹き抜けた途端、
≪みぃつけた≫
ボルカノの頭の中に、直接響き渡る声。子供のような声。同時に、周囲の人形たちが一斉に、ガタガタと動き出した。
もう限界だった。
「ややややっぱりやめておいたほうが良かったであるかなーーーー!!!」
ボルカノは叫ぶと、洞窟の奥へ向かって全力で駆け出した。
そんなボルカノを見やりつつ、レオンとカルラが、
「大成功だね!」
『大成功ね!』
喜びの声をあげる。その言葉に頷くように、辺りに散らばった人形たちが、カタカタと動いていた。
「脅かされるくらいこわくないぞ! さあオバケたち、かかってこい!」
と、当初は自信満々であったモモカではあったが、砂浜を抜け、洞窟へ入ったころには、すっかり意気消沈していた。
というのも、スプラッタな物に対しての耐性は高かったモモカではあったが、心霊系やびっくり系に対しての耐性はなかったようで、その手のギミックに、モモカは、すっかりやられてしまったわけである。
「うう、いまなんか動かなかったか……?」
と、声をあげるモモカへ、
「んー? 虫かなぁ。何でもないと思うよ?」
と、モモカを安心させるように、ルチアーノは言う。ルチアーノも、内心は人並みにびっくりしてはいたが、ルチアーノの本職はボディーガードである。冷静沈着に、対象を守る。そう言った技術は身体に染みついていたので、怯えるモモカを守るためにも、その本領を発揮しているわけだ。
「そ、そうよね! お化けなんていないわよね! 大丈夫、私、沢山清酒飲んでるから! 体内から清めてるから!」
恐怖を紛らわせるためか、いつもより勢いよくお酒を飲みつつ、アーリアが言った。恐怖に駆られているアーリアは、ルチアーノに引っ付いて歩いている。
「う、うーん……飲みすぎはまたよくないんじゃないかなぁ……」
ルチアーノが苦笑しつつ、声をあげた。
と、そんな三人の背後から、大声をあげて何かが飛び出してきた。
それは安っぽいゾンビのマスクをかぶった一般人であったが、緊張が極限状態のモモカやアーリアにとっては、それでも充分な衝撃だ。
「うわあああ! こ、こっち来るなー!」
モモカが叫び、
「いやああっ! ど、どうすればいいかしら! お酒、かけた方がいい? 飲んだ方がいい?」
アーリアもパニックに陥りながら叫ぶ。
「うう、こうなったら最終手段!」
ルチアーノはモモカとアーリアの手を強く握って、
「いいね、逃げるよ!」
と、二人の手を引いた。
「わわ、まって!」
「まって、一杯だけ飲んでから……!」
声をあげた2人が走り出すのを確認してから、ルチアーノも走り出したのだった。
「こういうのは得意じゃないんだが……物は試し、かな」
と、参加したアオイ。実際のアオイは臆病な所があったのだが、同時に非常に我慢強くもあった。その為、内心かなりの衝撃を受けつつも、一見すれば何事もなかったかのように、歩を進めていく。
その我慢強さは、確かな長所ではあったのだが、今回は裏目に出たかもしれない。
途中でリタイアしてもよかったのだが、持ち前の我慢強さからそれもせず。ひたすらに進み続けた。進み続けてしまった。
アオイのそれは、やがて限界ギリギリのラインまで蓄積していった。
そこまで達すれば、きっかけはどれだけささやかな物でも構わない。
洞窟の中頃まで進んでいたアオイの目の前に、何かが落下してきた。
それは、天井に仕掛けられていた、生首を模した置物である。正直、出来はあまりよろしくない。が。今のアオイには、それだけで充分すぎた。
ぷつん、と何かが切れる音が聞こえた――様な気がした。
途端、アオイはとさり、とその場にへたり込んでしまった。アオイの目じりには涙が浮かんでいる。
へたりこみ、脱力したように肩を落とし、そのまま、アオイは動けなくなってしまったのであった。
イヴもまた、一人洞窟を歩く。スタートから幾度となく驚かしを受けたが、それらを概ね、受け流していった。
というのも、イヴにとって、恐怖とはあまり抱いたことのない感情であった。
例えば、戦場で、とてつもなく戦力差のある相手と遭遇した場合。こういった状況で、恐怖に近いものを感じたことはあった。だが、この肝試しで抱く恐怖とそれは、また違ったものであるのだろう。
より、ヒトへと近づくために。イヴはこういった感情を、学習しなければならない。と、思う。
今の所、イヴの感情を揺り動かすような恐怖は、発生していない。が、今日の出来事は無駄ではないだろう。
「しかし……恐怖、ですか。恐怖、不安……確かに、武器も持たず、丸腰で、妨害が発生すると分かっている場所に向かうのは、不安かもしれねーですが……」
呟く。些か方向性は違うものではあったが、それもまた、恐怖であるのかもしれない。
イヴは気持ち足早に、洞窟を歩き進めた。
「ふんふ~ん♪ ……反響して逆に不気味ですねぇ」
洞窟を歩きながら、ルクセリアが言った。仲間達と逸れたのか、今日のルクセリアは一人……いや、相棒のレーグラと二人か、肝試しへと参加していた。
『……』
「あははは! 確かにぃ、傍から見たら私の方が怪しいかも知れないのは同意ですよぉ」
レーグラの言葉に、ルクセリアは笑う。
参加者による驚かしは、二人にはあまり響くものではなかった。その為か、何処かのんびりとした散歩のような様子で、コースを進んで行く。
ふと、二人の目前に、壊れて朽ちたような、木箱が置いてあるのを見つける。
怪しい。どう見ても怪しい。
警戒しつつ、ルクセリアがおそるおそる木箱へ近づくと――。
「ばあああああああああん!!!!」
と、大声をあげつつ、何かが飛び出した。真っ白な顔に、べちゃべちゃと顔になすりつけられたクリーム。バタバタと翻るマントを身に着けたそれは、ケタケタと笑い声をあげながら、洞窟内部を駆けまわり、飛び跳ねた。
「あはははははは! おどろいた!?」
飛び跳ねながら尋ねる何か――変装したQ.U.U.A.。
ルクセリアは胸を押さえつつ、
「心臓に悪ぃ……」
『……』
呟き、コホン、と咳払いした後、
「心臓に悪いですぅ! 」
と、声をあげる。Q.U.U.A.はルクセリアの抗議を意に介さず、楽しげに笑っていたのである。
「えっと、このスタンプを押せばいいんですよね……?」
と、ティミが尋ねるのへ、ジークが頷く。
洞窟の最奥に、スタンプ台が設置してあった。ティミはそれに近づいて、スタート時に手渡された台紙へスタンプを押す。
ティミは、もともと肝試しに参加するつもりはなかった。宿へと戻ろうとしたが迷子になってしまい、そのまま肝試しの参加者の列へ紛れ込んでしまったのだ。
ジークに出会えたのは幸運だっただろう。二人は一緒に参加することになり、どうにかこうにか、折り返し地点にまで到着できたのだった。
「これで……後は、戻るだけですね」
そう言って顔をあげたティミの視界に、飛び込む、闇に浮かんだ骸骨の姿。
「ひ、ひゃっ……!」
思わず悲鳴をあげてしりもちをつくティミへ、
「いやいや、ティミ君、私だよ、私」
と、骸骨――ジークが笑いかける。その言葉に、ティミはハッとした表情を見せた後、顔を赤らめて、
「ご……ごめんなさい! 失礼な事を……」
「いやいや、しかたないよね。うん。さっきも私にそっくりな――」
そう言いかけて、ジークは、むむ、と唸った後、
「この話はやめておこうか。怖がらせても意味がないし」
意味ありげに呟くジークへ、
「も、もう! そういうのやめてください、気になります!」
と、ティミが抗議の声をあげるのへ、ジークは笑った。
「ははは、ちょっとした冗談だよ。さて、そろそろ戻ろうか」
ジークの言葉に、ティミが頷く。
肝試しも、もうすぐ終わりを告げようとしていた。
●かえりみち
「うう……こわくなかったもん……」
と、涙声で言うのは、ルアナだ。ルアナはグレイシアに背負われ、帰路へとついていた。
「そうだな、頑張ったな……」
落ち着かせるように、グレイシアが声をかける。
開始前は自信満々だったルアナではあったが、実際に参加し、散々に驚かされてしまっては、流石にきつかったらしい。
道中、混乱状態で走り出してしまったのを、グレイシアが慌てて追いかけるという場面もあった。
「おじさま、ごめんなさい……」
しょんぼりとした様子で言うルアナ。グレイシアはゆっくりと首を振って、
「構わんよ」
とだけ言った。
二人の様子を見てか、帰り道脅かし役が登場する事はなかった。ゆっくりと歩いていくグレイシア。その背におぶられながら、ルアナは呟く。
「次はもっと頑張るからね……」
「期待しているよ」
その言葉に、グレイシアが答える。
(とは言え……勇者への道のりは、まだまだ遠いといった所だな)
胸中で嘆息しつつ。魔王は小さな勇者を背に乗せて、のんびりと歩みを進めた。
「い、今其処に何かいませんでしたか?」
思わず、ノエルが声をあげるのへ、
「いえ……私には何も……」
コーデリアが返答する。
どうにかこうにかスタンプを押した帰り道。
ノエルとコーデリアは、どこか奇妙な空気を感じていた。
洞窟内部の空気は、確かに冷たい。だが、冷たすぎる。
また、そこかしこに人の気配がする――確かに、仕掛け人が潜んでいる可能性はあるのだが、それでも、何故だろう、言葉にはできないのだが、奇妙な違和感があった。
二人は恐る恐る帰り道を行く。スタンプを押し、後は帰るだけ……なのだが、その帰り道が、また怖い。
と。
くすくす。くすくす。と。
笑い声が聞こえた。
「あ、あの……!」
ノエルの言葉に、コーデリアが無言で頷く。自分にも聞こえた。と。
途端。ふわり、と、二人の間を何かが通り抜けた。何も見えない。ただ気配だけが、駆け抜けていった感覚。
慌てて振り向いた二人の視線の先には、何も見えない。ごくり、とつばを飲み込む二人の背中を、突然、とんとん、と何者かが静かに叩く。
同時に。
「────ッ!!!」
コーデリアが悲鳴をあげた。その声に吃驚するように、小さな子供……ナキが姿を現した。
「わわ、ごめんなさい、やり過ぎてしまいましたか?」
慌てて駆け寄ってくるナキ。ノエルは目を丸くしつつ、
「あなたがやっていたんですね」
と、声をあげた。仕掛けの正体が現れたこともあり、コーデリアは落ち着きを取り戻したようだ。こほん、と小さく咳払いして、
「な、なるほど……確かに驚きました」
と、平静を装う。
「でも、凄かったです。まるで本当になにか居たみたいで……どうやっていたんですか?」
尋ねるノエルに、ナキは笑いながら、答えた。
「はい! 皆に手伝ってもらったのです!」
その言葉を合図に、再び周囲に人の気配が現れた。姿は見えない。だが、ナキの近くに誰かがいる気配が、確かにある。
ナキの言葉。皆に手伝ってもらった。その皆、とは?
その正体に思い至った時に、ノエルとコーデリアは、再び悲鳴をあげた。
「も、もうすぐ、もうすぐ出口ですよね……!」
上ずった声で声をあげるアマリリスへ、
「うむ、そろそろ終わるからな、大丈夫ぞ」
汰磨羈が答える。
最近知り合った二人、交流を深めるために……と肝試しに参加してみたのだが、アマリリスには、些か刺激が強かったようだ。始まる前から震え始め――これは武者震いである、と本人は言っていたが――道中はびくびくと怯えていた。汰磨羈はアマリリスを宥めつつも最奥でスタンプを取得。何とかかんとか入り口近くまで戻ってきたわけである。
「ふ、ふふ、なかなかなか楽しめました。この位なら、何ともありませんね!」
と、終わりが見えてきて余裕が出てきたのか、少々の強がりを言うアマリリス。そんな二人へ、何やら低く、恨めしそうな声が届いたのは、その瞬間であった。
「最近の話だがサーカス事件で、サーカスを見に行った青年がいたのだよ……病弱でねえ、面長の色白の美青年だった……」
ぶわり、と生ぬるい風が、辺りを吹き抜けた。アマリリスが思わず足を止め、ビクリ、と肩を震わせる。
「そんな彼が敢え無く犠牲となり、狂気に囚われて今回の事件で亡くなった……頭を割られた無残な最期だった……それからだ……」
声が途切れる。しばしの無音。生ぬるい風。再び、声が続けた。
「彼が夜な夜なここに現れるようになったのは……――」
とん。と。
何かがアマリリスの方を叩いた。
「ほら。君の う し ろ に も」
その言葉に促されるように、アマリリスは振り返った。振り返ってしまった。
アマリリスの目に映ったのは、真っ白な顔の男だった。頭と口元から血をこぼし、三日月のように口を開き、目を見開いたその男は、アマリリスを指差し、
「み ぃ つ け た」
「うーん」
その言葉に、アマリリスは唸り声をあげてパタリ、と倒れた。
「あ、アマリリスーッ!!!」
汰磨羈が思わす声をあげ、
「やったか、友よ!?」
物陰から飛び出してくる謎の声の主――ラルフ。
「いえーい、バッチリ!」
そんなラルフへ親指を立て、最高にいい笑顔を返す白い男――アリスター。
二人はめっちゃ嬉しそうな笑顔で、力強く握手を交わした。俺達、やったよね。最高の仕事をしたよね。そういう確信に満ちた笑顔を、二人は交わす。
「あ、アマリリース! アマリリスー!! いかん、何かカクカクしてる! ええい、馬鹿者! 二人ともやりすぎだぁっ!!」
大慌てでアマリリスへと駆け寄りつつ、汰磨羈は非難の声をあげるのであった。
「も、もうすぐ! もうすぐ終わり……!」
ティスルが呟きつつ、歩を進める。
「うう、沢山怖い目に遭いました……」
ペットと一緒に参加していたのはエリーナだ。たまたま一緒になった二人は、最後まで一緒に行動することになった。ティスルはホラーが苦手という事で、一緒に回る人間がいるという事は、かなり心強かっただろう。そう言った不安の軽減と、何より本人たちの「意地でもリタイアしないで完走してやる」という思いもあり、こうしてゴール間際まで到着することができたというわけだ。
「あ、灯が……あっちがゴールかな?」
ティスルが指をさす。確かに、その先には煌々と明りがともっているようだ。その明りへと向けて、歩を進める。
――が。
エリーナは、何か違和感を覚えていた。確か、道はほぼ一本道、まっすぐな物だったハズだ。だが、あの明りは些か道を外れていないか――。
「ティスルさん? あの」
エリーナが声をあげた時、ティスルは歩みを止めた。エリーナが不思議そうにティスルの顔を見やると、ティスルは怯えたような表情で、灯の方を見つめている。
エリーナが灯の方向へ視線をやると、ティスルが何故止まったのか、それを思い知らされることになった。
灯は、移動していた。
こちらへ向けて。
ずりずり。ずりずりと。
灯とは、炎であった。炎が燃える。燃えるには、何か燃料が必要だ。ではこの炎は、何を燃料に燃えている?
ずりずり。ずりずり。炎が動く。燃料が動いている。
炎に焼かれ、炎にまかれ、ずりずりと動く燃料――人間の、女性だ。
「熱い……熱いよぉ……」
女性が、言った。
「助けて……助けてぇ……」
そう言って、手を伸ばした。
エリーナとティスルは悲鳴をあげて、駆けだした。前方に見えるもう一つの灯――ゴールへと向けて。
そんな二人を見やりつつ、女性――焔が立ち上がる。
「うん、服をダメにした甲斐はあったかな」
満足そうに、呟くのであった。
●奇談
全ての参加者が様々な形で帰還し、今年の肝試しは終了となった。
今年の肝試しは、例年より多くの参加者と、例年よりも派手な脅かし役達により、様々な形で盛り上がったようだ。多くの参加者たちが、ひと時の非日常を存分に楽しみ、いつもの日常へと帰っていく。
さて、多くの人が帰路につき、人もまばらになった会場に、一人のイレギュラーズがいた。
「チッ。まーったく、リア充のカップルが多くてかなわんかったわ!」
と、言うのは、元である。女の子の驚く顔が見たい! という、ある意味自分に正直な理由で脅かし役として活動していたのだが、参加してくる一般人カップルの多さに辟易としていたらしい。まぁ、それはそれとして、可愛い女の子の驚く顔は見られたので良いのだが。
さて、元が会場に残っているのは、特に理由があったわけではない。なんとなく、帰りそびれただけである。砂浜に腰かけ、涼んでいた元は、砂浜に座り込む人影を見かけた。
「おお、なんじゃなんじゃ、女の子じゃないか!」
その人影は、いわゆる浴衣を着た少女のように見えた。元はうひょひょ、と小走りで少女の方へと向かうと、
「ほほほ、お嬢ちゃん、どうかしたかの!?」
声をかける。そんな元に気付いた少女は、ゆっくりと、顔をあげた。
次の瞬間、夜の浜辺に、元の悲鳴が響き渡ったのである。
元が何を見たのかは定かではない。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
また来年、この浜辺で皆と会えたら嬉しいです。
……って、さっきまでそこにいた見知らぬ女の子が言っていました。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
今回は肝試しイベントになります。脅したり脅されたりしましょう。
●やれること
主に以下の2つです。
2つの中から参加したい方を一つ選び、【番号】と言う形式でプレイングに記入してください。
【1】一般参加
一般参加です。普通に肝試しに参加しましょう。
コースは海岸を歩いて洞窟へ入り、その奥にあるスタンプを押して帰ってくる、と言う物になります。
お一人様でも複数でも。お気軽にご参加ください。
【2】幽霊役
こちらは参加者を驚かす役。です。様々な手段を用いて、参加者たちを阿鼻叫喚の悪夢の中に叩き込みましょう。
とは言え、実際に参加者の方に危害をくわえてはいけません。ノータッチです。
お一人様でも複数でも。お気軽にご参加ください。
●諸注意
お友達、或いはグループでの参加を希望の方は、プレイング冒頭に「【相手の名前とID】」或いは「【グループ名】」の記載をお願い致します。【相手の名前とID】、【グループ名】が記載されていない場合、セット・グループでの描写が出来かねる場合がありますので、ご了承ください。
基本的には、アドリブや、複数人セットでの描写が多めになりますので、アドリブNGと言う方や、完全に単独での描写を希望の方は、その旨をプレイングに記載してくださると助かります。
過度な暴力行為、性的な行為、その他公序良俗に反する行為はお控え願いますようよろしくお願い致します。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
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