シナリオ詳細
<Jabberwock>お茶会は始まらない
オープニング
●
冬の寒さが肌を刺し、弱い日差しが微かに体を暖める。今日もセフィロトは穏やかだ。
「ふう」
ひと作業終えた彼――その性別は不明とされているが、性自認は男性とのことなので彼と呼ばせて頂こう――エートス・セグントは立ち上がる。観察対象としている場所はあと1箇所だ。
彼は『想像の塔』に所属する研究者の1人である。その元を辿れば電子データより生成された機械生命体(AI)であり、今ではウォーカーとして自我を発達させていた。その自我は、本来ならば意思や感情を持たないはずのモノがそれらを得るプロセス、精霊種や秘宝種といった存在への興味を起こし、こうしてフィールドワークへとエートスを突き動かしているのである。
(電子生命体を人口身体に定着させる……あの方法には驚いたな)
それは先日のR.O.O、そしてセフィロトを巻き込んだ騒動の折に完成した技術『エーテルコード』。長らく『無能』とセフィロトで呼ばれ続けた研究員、清水湧汰が開発したものだ。これまでとはまた異なったルーツの秘宝種もそのうち研究してみたい。
とはいえ、現在研究中のテーマを疎かにもできない。それはそれで楽しく、興味を持って行っているのだから。
着いた、とエートスは動かしていた足を止めた。今日は最後のチェックポイントだ。
精霊種は混沌世界における、自然的由来の事象から発生する種である。とすれば、彼らが生まれたことによって混沌にも影響を及ぼしているのではないか……というのがエートスの研究テーマであった。
R.O.Oについてはテストユーザーとして参加していたが、基本的にはフィールドワークである。些細な変化だって見逃せないのだ。あちらの世界にかかりきりで一時はそれどころじゃなくなってしまったが、その分しっかりと――。
「――全く、人使いの荒い……!」
聞き覚えのある声にエートスはえ、と顔を上げた。その先にいたのは目元をマスクで覆った女性体。いました、とAI(アイ)が声を上げると、先程の声の主だった湧汰がこちらへ向かってくる。
「非常事態だ。フィールドワークなんてしている場合じゃないだろう」
通達が出ていたぞ、と眉を吊り上げる湧汰。どうやらフィールドワークに出てしまっている研究員へ声をかけて回っているようだ。なぜ彼が、とも思うが。
「たまたまマッドハッターに捕まったんだ。……人命に関わるとあったら、断るわけにはいかないだろう」
「博士は8時間の休息を終えられた直後でしたので、Dr.マッドハッターも依頼し易かったと想定されます」
心を読んだのように湧汰が答え、AIが補足する。つまるところ、丁度よくあちこち回れそうな人材が彼だったということか。
苦々しい表情ではあるが、のし上がってやろうという思いはあれど、他人を見殺しにするような男ではない。そういうことである。
「ところで、その非常事態とは」
エートスの元にも通達が来ていたのだろうが、まだ開いていない。R.O.Oにいた間、山というほど溜まった書類やらなんやらがあったからそこに載せられているのだろう。自身の研究テーマを思うとフィールドワークが重要である、という建前で書類消化を面倒臭がり、フィールドワークに逃げていたというのもある。
普通ならば見ていなかったのかと批難されることだろう。しかし見ていたらこんな事態は起きていないからか、それとも既に声をかけた面々も同じ問いかけをしたのか――湧汰はそこをつつくような事はなく、淡々と事実のみを述べた。
「ジャバーウォック……『怪竜』とその配下たるワイバーンの急襲だ」
その時。ワイバーンたちの鳴き声が、穏やかだったセフィロトの空に響き渡った。
●
練達は旅人たちを主として構成された勢力だ。異世界という現実に耐えられないもののために作られた再現性東京の他、自力で元世界に戻りたいと願い行動する研究者たちが多い。そしてそういった者は大抵『物事に没頭してしまう性質』なのである。
何が言いたいか? つまりは――通達を確認していなかったのは、何もエートス1人の話ではないという事。
『Dr.』マッドハッター(p3n000088)の司りし『想像』の塔に置いても事態を飲み込めていない研究者が存在しており、小さな混乱が起こっていた。
「防衛機構の作動だって……!?」
「やだ実験の途中なのに!」
このあとどうすべきかと右往左往する者、始めてしまった実験を中断し難いとごねる者と様々だが、このままでは混乱に乗じて敵が攻めてこないとも限らない。そこへリゼットの透き通ったソプラノが響いた。
「皆さん、落ち着いて塔の中へ避難してください! もう少しすればローレットが駆けつけてくれますから!」
「「リゼットきゅん……!」」
研究者の、特にお姉さま方から声が上がる。愛らしい彼――そう、男の娘である――からそう言われたなら従わざるを得ない。ここで食い下がってリゼットが悲しんでしまうようなことがあってはならないのだ。
一方のリゼットは研究者たちが混乱を多少なりとも収め、避難に向けて動き出したことにホッとする。珍しく『サボらない』塔主から回された仕事だ。なんとしてもやり遂げなければ。
しかし空から響くひび割れた鳴き声にリゼットはハッと顔を向ける。見えたのはこちらへ向かってくる火の玉。
「あ――」
避けるとか、そういう問題ではなく。死んでしまうと思った。研究者の誰かがリゼットの名を読んでいるけれど、振り返ることもできない。
だが、飛んできた火の玉は唐突に弾けて消える。横合いから聞こえた不思議な旋律に視線を向けると、そこには1人の女性の姿。彼女は口を開き、
「そこのキミは大丈夫そうだね」
……と、しわがれた男性の声でリゼットの安全を確認した。このギャップにはリゼットも目を白黒させる。
「あ、ありがとうございます!」
「大した事じゃない。ワタシは防衛に回るから、避難誘導を頼んだよ」
塔の防衛も必要だというのに、研究者たちに右往左往されたらそれどころじゃない。そうぼやいた彼女は颯爽と駆け出していった。
先んじてやってきたワイバーンの群れは想像の塔を破壊し、人々へ混乱をもたらすように暴れている。高くそびえる塔が破壊されたなら、その被害は如何ほどか。塔に所属する魔術師などが対処しているが、その圧倒的な火力に早くも周囲の建物は一部崩れている。
リゼットを助けた女性は再び詩を紡ぎ魔術を展開する。それは『魔術』というよりも一種の『芸術』だ。
――マッドハッターに聞いたことがある。芸術を媒介とする魔術師が、この塔にいるのだと。
その名をヴィン・シレーニ。己が美声を犠牲にして、その知と才を受けた者である。
リゼットは彼女に言われたように、そしてマッドハッターに頼まれたことを忠実に守って研究者たちを誘導する。通る声は良い道標だ。
しかし、それも届かないような場所でマッドハッターは剣呑に空を見据えていた。既に先遣隊と思しきワイバーンたちが想像の塔方面へと通り過ぎて行き、防衛隊との戦闘が始まっている。
彼自身までそこへ向かう訳にはいかない。この場所でさらに強大な敵を引き留めなければならないのだから。
「マッドハッターさん!」
「やあ、愛しの特異運命座標(アリス)達。すまないね、本当はお茶会に招きたかったところなんだが」
有栖川 卯月(p3p008551)の声に振り返った彼は先ほどと一転し、いつもの笑みを口元に湛えていた。難しい表情などアリスたちへ向けるのに相応しい物ではない。
「既に聞いての通りだろうが、ジャバーウォックと亜竜たちが間もなくここまで到達する」
それは『怪竜』と呼ばれる竜種。練達でも危険視し動向を監視していたのだが、一時は監視どころでなくなってしまった。それを再び捉えた時には練達へ向かってくる真っ最中、というのが今回の顛末である。
危険なのはジャバーウォックだけではない。あれこそが危険の最たるものであろうが、亜竜の中にも複数体の狂暴と思われる個体が確認されている。その内、想像の塔へ向かって来ている亜竜をマッドハッターは『アシェンプテル(灰かぶり)』と称した。
首都セフィロトより手前で食い止めるにはあまりにも時間が足りず、さりとてセフィロト内でも防衛しきれるかどうか。R.O.Oの傷跡が容易に癒えるわけではない。故にイレギュラーズたちへ依頼が届けられたのである。
「この場所には練達の発明品を仕込んでいてね。1回限りだが、アシェンプテルを空から君たちへと届けよう」
設置型のそれは、言わば鎖の付いたバリスタである。凶悪なモンスターなどを拘束するのに使われるそれを、マッドハッターは少しばかり改良して引き寄せる機能を付けたのだとか。そんな簡単に機能を追加できるものなのかとも思うが、目の前にいるのは塔主たる1人だ。
とはいえ、相手にどこまで通じるか――引き寄せられたとしても、地に縫い留められる時間は決して長くないだろう。再び飛び立たれてしまえばこちらには追いかける手段がない。そこはイレギュラーズたちの腕の見せ所だ。
「私も持てる限りを尽くそう。すまないがアリス達、頼らせておくれ」
この大災を乗り切らねば、アリス達を茶会へ招待することもできないのだから。
- <Jabberwock>お茶会は始まらない完了
- GM名愁
- 種別決戦
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2022年01月31日 22時00分
- 参加人数52/50人
- 相談5日
- 参加費50RC
参加者 : 52 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(52人)
リプレイ
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――セフィロト、想像の塔付近。そこにはあらかじめ通達があったにも関わらず、少なからずの混乱が生じていた。
「残っていたら返事をしてくれ!!」
清水湧汰は逃げ遅れがいないかと声を張り上げ、AIと共に救助者を探す。
「ユータ、助けに来たぜ! あっちだ!」
そこへ駆けつけた洸汰は心に響いた声に従って方角を示す。湧汰はひとつ頷き、3人で救助者を見つけ出した。
「AI、どうだ?」
「大腿部の損傷が確認されます。軽度ですが、個人行動は不可能でしょう」
「オレが連れて行く」
「オッケー! こっちはオレたちに任せてくれよな!」
湧汰に頷いた洸汰。すっくと立ち上がると空を飛ぶワイバーンへ視線を向ける。それらは既に仲間たちが注意を引き付けていた。
「珠緒さん!」
「ええ、蛍さん」
息の合った恋人たちが少しずつワイバーンを引き付け、殲滅していく。全ては1人でも多くの人を救い出すため。
「それにしたって、随分とファンタジーな存在よね……!」
「けれど、どんな敵であろうと……どんな絶望であろうとも、珠緒たちには関係のない事」
ええ、と蛍が笑みを浮かべる。珠緒も微笑む。互いがいる限り、誓いが在る限り、その心に敗北などありえない。
「空に居ようが関係ねー!」
「ええ、どこまでだって届かせるわ!」
空を舞う桜吹雪。それはまだ見ぬ春を思わせるようにワイバーンたちを包み込んだ。
それを少し高い所から眺めていたジークフリートは、その視界に逃げ惑う人の姿を認めて声をかける。
『避難ルートを指示するから、従ってもらえるかな』
最初こそ驚いた研究者も、イレギュラーズだと知らせれば多少の納得と落ち着きを見せる。見える範囲から逃さぬよう自身も移動しつつ、索敵も欠かせない。
(全く以て、穏やかじゃないね)
つい先日までの騒動が一段落したと聞いていたが、ともふもふな羊は小さな溜息をついた。セフィロトはまだまだ落ち着けないようだ、と。
『む。そこに怪我人がいるようだ』
(わかりましたっ)
ジークフリートの伝達にドリフトは肉塊に見える体を動かす。落ち着いて冷静に対処してもらうためにも、いざという時だって護れるよう動かなければ。
(ええと、怪我人の方は……あっいましたっ!)
足を引きずる研究者に近づくドリフト。相手はその見た目に一瞬顔を引きつらせるも、敵対存在ではないと感じ取ってほっと表情を緩めた。
しかし、そこへ影が差し研究者が顔を強張らせる。ワイバーンの眼が2人を見下ろしていた。咄嗟に前へ出たドリフトの横合いをすり抜け、菫の髪が靡く。
「生ける災厄が観光なんて、今のここには面白みもありませんよ?」
空へと弾かれる亜竜。すみれは視線をそらさず2人を促す。
倒す必要もない敵だ。仲間内で殲滅班がいる以上、こちらは避難の為の時間稼ぎが出来れば良い。
彼女や仲間たちの援護を頼りに、ハビーブは避難誘導へ注力していた。
「そこの君、早く避難を!」
しかし研究者は大切な資料なのだと舞い散る紙をかき集める。ハビーブは彼の肩を掴んだ。
「何よりも自分の頭脳を大事にしなさい。カイドウ先生も君を失ったら悲しむだろう」
はっとハビーブを見る研究者。挙げたのはこの辺りで研究をしているという知人の名だ。研究者は名残惜しく研究所を振り返り、その迷いを振り払ってハビーブについて行く。
次々と亜竜の襲来するこの場所に、絶対の安全を保障する場所はない。それでもこの戦いが止む瞬間まで、少しでも生きる可能性を掴み取らなくては――。
そんな彼らに亜竜の影が迫る。しかしその突撃は頑丈な網の壁によって阻害された。
「おっと。流石にそこへ突っ込むほど馬鹿でもないってか?」
バクルドは網の前で唸るワイバーンへ拳銃を向ける。網をすり抜ける弾幕は精霊爆弾を起爆させながら敵を打ちのめした。
「行きな。目障りに飛ぶのくれぇは何とかしてやれるさ」
このまま練達を破壊されるのは我慢ならない。復興し始めていたこの地を想い、バクルドは銃と刀を手に駆ける。と、そこへ。
「助太刀するぜ!」
エナドリで身軽になったタツミが大きく跳躍する。力のこもった拳がワイバーンを思いきりぶん殴った。
(いけたか!? いや、)
隣のビルに激突した亜竜は、しかし怒りの眼でタツミを見ている。そう簡単に倒れてくれる敵ではなさそうだ。
(それでも、及ばなくても――やらないわけにはいかねえ)
この地で生きる人間がいるのなら、その脅威に立ち向かわなければ。損得抜きにして、そう思うから。
「みーおも加勢しますにゃー!」
遠方、かつ上方から声と共に魔弾が飛来する。ドローンの援護射撃が続いた。
再び空へ舞い上がろうとしたワイバーンは、しかし射撃の勢いで上手く上がることができない。
(削り切るならドローンもいる今のうちですにゃ!)
耐久性こそ不安があれど、セフィロトの備える高命中ドローンである。使うなら今だとみーおは再びワイバーンへ狙い撃った。
「ぉ……これほどまで脅威となりえるのか」
ビジュの眼が空を飛ぶ敵を捕らえ、小さく震える。下位の亜竜とはいえ、そこらを飛び跳ねるスライム等と同じには扱えない。これ以上の惨状を起こさぬため、ビジュはその意識を自身へと向けさせる。
「そうだ、こちらへ来ると良い。私は――勇者たる彼らの支えにはなれる」
「ずっと殴らせはしないけどな!」
ビジュの引き付けた敵へ手数で攻める零。息つく暇もなくフランスパンがレールガンのように敵へ口へ突っ込んでいく。
「どうだ? 『羽印』のフランスパンだ!」
ぎろりとワイバーンの眼が零を見て、フランスパンをぐしゃりと噛み潰す。お気に召さなかったか――いや、その割には咀嚼してしっかり飲み込んだが。
「大丈夫!? 今回復するわ!」
2人の姿を空から認めたミソラが降下してくる。その身から発せられた癒しの術がビジュを取り巻いた。
「ォ、ォ……感謝する」
ぎょろりと目玉のひとつがミソラを見た。その姿は魔物のようであれど、護るという心は3人とも同じだ。
「ワイバーンなんて怖くないわ! 誰も倒させやしないんだから!」
「おう! その前に俺のフランスパンでイチコロにしてやる!」
次々とフランスパンを飛来させる零。パンって武器になるんだ、と目を白黒させながらもミソラはビジュへヒールを飛ばす。その戦闘を――より詳細に言えば戦闘を行う敵性存在を、ドローンの1体が感知したらしい。空からの狙撃がワイバーンの翼を貫いた。
彼らが戦う敵の他にも、他の箇所では亜竜たちが我が物顔で空を飛び回っている。踏ん張りどころはまだこれからだ。
●
「『貸し』を作らせてもらうよ、マッドハッターくん」
エクレアはやって来たアシェンプテルの姿を見ながら言葉を零す。あれがこのまま進めば三塔の被害も大きいだろう。
周囲を鼓舞しながら、エクレアは前線で戦う味方の片っ端から順に強化していく。その間にも、マッドハッターの仕込んだ発明品が作動し、勢いよく数本の鎖が空中へ射出される。イレギュラーズたちが構える中、それはアシェンプテルを拘束し、地上へと引きずりおろした。
ドォォォォォン!!!
轟音と共に砂煙が舞う。しかし自然に晴れるより早く、アシェンプテルの翼がそれを吹き飛ばした。
「まあでっけえ竜だこと……」
二日酔いも飛んで行ってしまいそうだと嘉六はぼやく。大きな亜竜を聖霊は睨みつけた。
「清舟、嘉六。あのクソトカゲを撃墜させてくれたら、とびきり高くて美味い酒奢ってやるよ」
「その言葉忘れんなよ」
「ひゃひゃひゃ! こりゃあ是が非でもぶっ飛ばさんとなぁ!」
命を懸けた大博打。されど勝利の後に酒が待っているとあれば命も勝利も掴み取る他なかろうと。
「攻撃は任せたぞ!」
「「おうともよ!」」
先を争うように清舟と嘉六の弾幕が広範囲へばらまかれる。彼らを補佐すべく聖霊はクェーサーアナライズを展開させた。
「近頃の世界の流れは加速するばかりですね」
ネフェルティにとってそれは目が回ってしまう程に忙しなく。亜竜の襲来とてまた然り。
せめて少しは止まってくれと、簡易封印の術式ををアシェンプテルへ放つ。この大波に自身も、仲間も、セフィロトとて呑まれる訳にはいかないのだ。
「マッドハッターさん、気を付けてくださいね!」
「ああ。……そうだ、アリス」
そのリボン、今日も似合っているよ。
彼はそう告げて前線へ走って行ってしまう。このタイミングで言わなくたって良いのにと思いながら、気づいてくれることが嬉しくて。
頬の熱を感じながら卯月は視界をより広くとり、傷ついた味方をすかさずフォローする。
「おおっとぉ、こっちは通さないっすよ?」
ウルズは一瞬にてワイバーンの懐に潜り込み、強力な一撃を叩き込む。一撃程度で倒されるほどヤワではなかろうが、これでアシェンプテルの方へ乱入しに行かないなら上々だ。
「こんなに大きな亜竜が……いいえ、この場所をこれ以上踏み荒らさせたりなんかしない!」
ルビーは陸鮫に乗り、ゆっくりと空中へ移動する。この間にワイバーンなどが攻めてきたら一巻の終わりだが、ウルズが上手く引き付けているようだ。
「灰かぶりの行く舞踏会はここではありませんよ!」
空中から飛び降りながら亜竜へ攻撃を仕掛けるルビー。熱が彼女の肌を軽く炙る。
「泣きっ面に蜂、の方がマシな状況っすね」
慧の抑えられていた呪いの一端が漏れだし、敵意を呼び寄せる。目の前で対峙する亜竜に友好的な様子は皆無であった。
(でも、やられっぱなしは御免です)
星のような守護宝石に祈りを込める。どうか、力をと。
「ここまでの大きさともなると、翼も頑丈か」
舌打ちしたい気持ちのまま、ジェイクは翼狙いで引き金を引き続ける。
このままでは練達に関わる全てが無に還るだろう。R.O.Oが消えかけた、あの時のように。
「それでも挫けない……どんなものが相手だろうと人は負けないんだって、証明して見せるよ!」
魔王の力を纏ったミルヴィは軽やかに跳躍する。狙うは翼よりももっと本体側。その付け根だ。
「まあ、宇宙クジラのようなもんだろう。竜殺しの方が叙事詩に相応しいだろうがね!」
有象無象は師匠が相手をしていると聞き、ヤツェクは根本を断つためここへ来た。仲間たちと共に、かの亜竜を退けるのだ。
「おれ達も、セフィロトも、哀歌にはまだ早すぎるのさ!」
場違いなほどの陽気な歌は、死神も寄せ付けないだろう。味方の士気を持たせんとする彼の歌声を聞きながら、リディアは黒の一閃を繰り出す。巨大な顎を模ったそれは、灰被りの身体に喰らいついた。
(一難去ってまた一難というか、とんでもないものがやってきたね)
この程度、とは言えないダメージを与えたはずだ。しかし余裕を欠片も削れない。
「なんと、力強くおぞましいけだものか……」
空を飛ぶワイバーンもまた然りだが、この亜竜はより一層禍々しい。リースヒースは逃れられぬ魔の光を亜竜へ浴びせかけた。
「もう、リゼット君だってここにいるのに、どうして次から次へと!」
アリアは術を発動させ、狂乱の渦へアシェンプテルを叩き込まんとする。亜竜はそれに唸り声を上げた。
「大丈夫。彼の安全は保障するよ、アリス」
振り返ると同時、マッドハッターが超小型の何かを飛ばした。それは慧の元まで飛んでいき。華の幻影を出すと共に亜竜の攻撃を緩和する。
イレギュラーズたちと戦う亜竜に、アルペストゥスは静かな眼差しを向けた。亜竜もその存在に気付く。小さく瞳が揺れる。
ヒトに比べたら近い姿をしていると思う。けれども、違う。なかまじゃないと知るのに、長い時間は必要じゃない。
「ギャアアオッ!」
アルペストゥスの翼が広げられ、魔弾が飛ぶ。暴れまわる亜竜の動きに気を付けながら、綾花は魔力を溢れさせた。
(1%でも勝機があるのなら挑まなきゃ、ギャンブラーの名が廃るわね!)
いつもよりちょっとだけ危険な、命の賭け。それはどうしようもなく心を高揚させるのだ。
(本当は逃げたいっきゅ)
しかしそんな風に思えないほうが普通で。レーゲンも大多数の方だった。グリュックの事を思えば死ぬことなんてできない。
けれど。ここで身を引けば、練達の未来はない。この地で縁のあった者も皆、いなくなってしまうのだ。
「レーさんは、やるっきゅ!」
その決意と共に放たれるのは破壊的な魔術。次いでトウカの放った夾竹桃がそのすべてで亜竜を蝕まんとする。
(俺より小さい先輩が頑張ってるんだ、逃げる訳にはいかないよな)
そうして自らの心に打ち勝とうとする者がいる中で、零時はどこか楽し気に刀を振るっていた。不可視の刃がアシェンプテルへ突き刺さる。
「生きている内に竜退治をすることになるとはね」
この胸の内を吐露してしまえば不謹慎だと言われるだろう。勿論、手を抜くなんてないけれども。
「はぁぁっ!」
気合の声と共にメルナの一閃が雷撃と共に叩きつけられる。小さくアシェンプテルがたたらを踏み、次いで大きく翼をはためかせた。マッドハッターのマントが翻り、その勢いを軽減させる。
(怖く、ない。怖くなんてない。いつも通り、今まで通りにやらなくちゃ)
大丈夫、仲間達だっているんだから。皆の為に力を尽くせば勝てない敵ではない。メルナは自身を落ち着かせ、剣を握りしめた。
●
「行って、はやく!」
祝音はワイバーンへ熱砂の嵐を叩きつける。この程度でどれだけの足止めになるかなんてわからない。けれど折角見つけて掬い上げた命を、ここで失う訳にはいかないのだ。
「急いで!」
再三の促しにようやく、祝音に救助された研究者たちの足が動き出した。最初はのろのろと、段々早く。それを肩越しに見て祝音は小さく笑みを浮かべる。
避難経路は教えた。あとは仲間たちの奮闘を信じるのみだ。
「エートス殿! キミも早く避難を!」
ヴェルグリーズの声に振り返った長い髪がなびく。その瞳はイレギュラーズたちの姿を認めて安堵の色を浮かべた。
「すまないが、ここは任せるよ」
「ええ。ここはお任せください」
エートスに頷いた星穹。傍らで幻介は刀の柄へと触れる。
「突き穿て――紫雷一閃!」
その光は空を駆けあがり、今まさにこちらへ目を付けていたワイバーンへと牙を剥いた。落下するように一直線で幻介へと向かってくるかの亜竜へ、星穹の術が炸裂する。
「愚かですね。そのような大きな的を携えてくるとは」
撃ち込まれた術にワイバーンがもがく。その頭上へ、大きく跳躍したヴェルグリーズが影を落とした。
「まずはその翼、潰させてもらうよ」
その刃は『別つモノ』。亜竜と空を別つ一閃。痛みに怒り狂ったワイバーンが至近距離で火球を放つ。
「拙者に炎は効かぬがな?」
にぃと笑った幻介はヴェルグリーズが狙ったのと逆の翼を貫く。さあ、もう高くは飛べまい。
「お前達が奪った命の分、此方も命を狩りましょう」
すでに間に合わなかった命もある。なればこそ、今ある命は1人たりともくれてやるものか。
地に足を付けたワイバーンは間もなくして絶命へと追いやられた。けれど――。
「……ヴェルグリーズ」
「ああ。キミの死角は任せてくれ」
背中合わせに立つ2人。その空を数体の亜竜が飛び回る。
「何体来ようとも全て引きずりおろしてくれる」
にぃと笑う幻介は、次の標的を定め刀を握った。
そうして戦う者がいる傍らで、避難誘導は続く。ラニットは大気に混じる精霊へ呼びかけ、まだ息のある者たちの所在を問うた。
「礼を言うぞ、同胞」
応えるように精霊たちがラニットの周囲を回る。彼らにも、自分にとってもこの地は少しばかり居心地が悪い。されど自然と人は完全に切って切り離せないものだ。精霊と共に住まう者がいる以上、その灯を絶やさせるわけにはいかない。
(急ごう)
亜竜たちとの戦闘はまだ続いている。要救助者が少なくなれば立ち回りもしやすくなるのだ。
(しかし、これだからワーカーホリックは……)
通達が出ていたのだろうに、とエマはため息をつきながら捜索を続けていた。彼らがちゃんと動けていれば、こんな人員を割く必要もなかった。だがそれは過ぎた話だ。
亜竜の気配を感じれば物陰に隠れ、やりすごすか誰かが注意を引き付けてくれるのを待つ。多少の時間はかかれど、戦闘でかかるロスを思えばこちらの方が早いだろう。
あと何人が助けられるのを待っているか、誰にも定かではない。しかしイレギュラーズたちは見逃される命がないよう、未だセフィロトを駆け巡るのだ。
「全く、この國はついてないのぅ」
鶫はやれやれと息をつく。大分ワイバーンが減ったような気がする。いいや、気のせいではない。イレギュラーズたちの猛攻により、各地で亜竜の数が減り、伴って士気が下がっているのだ。
「なに、油断できる敵ではあるまい……簡単に通しはせぬ!」
それでも未だ飛び回るワイバーンを引き付ける鶫。疲弊する彼女を見てレナートは癒しの術を放つ。
ここまで戦う仲間たちを見て、誰も傷つかずに戦いを終えるのは無理だと気づいた。戦うのだ、双方が傷を負う。
ならばこそ、その傷を癒そう。せめて誰1人欠けることなく戦いを終えよう。そのための支援をと魔力を練り上げる。
「感謝するぞ。これでまだ戦える」
鶫はレナートににぃと笑みを浮かべ、手にした盾を前に。力強く押し込んでワイバーンを打った。その耳を触りの良い旋律が擽る。視線を向けた先に居たのは魔術師――援軍か。
「ここで倒してしまいたいものだね」
その言葉は見た目に反し、しわがれた男性のそれ。ヴィン・シレーニはそれを気にした風もなく彼女らの援護に回った。
「まだまだ行くぜテメーら!」
キドーの号令にイレギュラーズたちが動く。ファルムは未だしげしげといった様子でワイバーンたちを見上げていた。
(『わるいドラゴン』……何度見ても、ゴブリンがドラゴンに立ち向かうなんて、そんな物語は見たことがない)
共にワイバーンたちを空から引きずり下ろすゴブリン――キドーは典型的なゴブリンだと思う。物語なんかではそもそも味方にいることもあまりない。
(けれど……読んでみたいと、思う)
ゴブリンが味方に居て、共にドラゴンへ立ち向かう物語。ワクワクできるような、そんな気がするから。
「ファルム、気ィ抜くなよ!」
「うん。喰われたくない、から」
そこに在るだけで宝物のような種だ。キドーは妖精を使役しながら注意を促す。しかし他者へ向けていられる余裕は決して長くない。
「チッ、郷に入っては郷に従えって言葉を知らねェのか? 交通ルールぐらい守れよな!」
「しらねーから突っ込んできちまったのかもな!」
琥太郎がワイバーンの中へと突っ込み、武器を振り回して暴れまわる。いつか大物の――故郷の山ぐらいの大きさをした――敵を倒してみたい。けれどその前にこの程度の亜竜もいなせなければ話にならないだろう。
「かかってこいやぁー!」
自身への反動を意に介した風もなく攻め続ける琥太郎。ウーナがその攻撃を援護する。
(大物もかなりのものだったけれど、こっちもでかいねえ)
奇襲をかけ、一時的に攻撃力を挙げていた敵の調子を狂わせる。1撃の重さに自身はないが、こうしたサポートならお任せあれだ。
「おっと、新しいの来ましたよ! キドーさんよろしくお願いしますね! ひひひ!」
エマは新たな敵影にいち早く気づき、軽い身のこなしでキドーの方へと連れて行く。そのまま敵の1体に向けて跳躍すると、その背へ飛び乗った。
乗られたワイバーンが驚いて暴れまわるが、勢いに乗って飛び退く寸前にソニックエッジを叩きつける。
「ひひっ、どうですかね?」
「まだ、もう少し……」
グレイルの構築する術式が重なり、交じり合って獰猛なる白狼を作り出す。行けと短く命じれば、狼は素早く敵へと肉薄し、その翼へ鋭い爪を振るった。
響き渡る断末魔。なかなか慣れることのないそれは、しかしまだ敵の残る状況を思えば怯んでも居られない。
「せっかく練達の危機を脱したと思ったのに……なんで今……?」
狙いすましたようなタイミング。果たしてこれは偶然なのだろうか?
その問いに応えられるものは存在しない。原因究明はもっと先の話になるだろう。そしてそのためにも、セフィロトの技術と知恵は必要となるはずだ。
「なにはともあれ、練達最後の日かもしれませんね?」
「そうは、させない……!」
エマはグレイルの様子に一瞬口を噤む。そしてワイバーンへ視線を向けてそうですねと呟いた。
「そうならないためにも、思いっきり叩いてやりましょうか」
集めるのはキドーとファルムが十二分に頑張ってくれている。ルルゥは皆を勇気づけ、2人の癒し手としてここに立っていた。
(きれいな空がいい。こんなこわい空は嫌だ……!)
空を飛べる相手との戦いとなると、どうしても苦手意識がぬぐえないけれど。それでもここに立つだけの想いと理由がある。ルルゥは負けないぞと足を踏ん張り、天使の歌を響かせた。
「いい感じに集まってきたじゃない」
「おう。いっちょ頼むぜ!」
キドーにアルメリアは任されたと口角を上げた。
息つく間もなく操り続けられる雷撃。それはイレギュラーズを器用に避けて、ワイバーンだけを狙っていく。集めてさえくれたならあとは範囲攻撃でブチ転がせば良い。動く必要だってないのだ。
(それはそれとして、後でじっくり事情を聞かせて貰いましょ)
これだけのイレギュラーズを動員しているのだ。練達から亜竜たちが向かってくるに至ったワケが聞けると思って良いのだろう。
「皆、大丈夫? きっともう少しだから頑張って!」
必死にイーハトーヴもヒールするが、何せワイバーンの数が数だ。各地でも仲間たちが頑張っていることでその士気は下がりつつあるが、それでも油断できない。
「大丈夫、R.O.Oでだって守れたんだ……こっちだって!」
『……ええ。笑って帰れるように最善を尽くしなさいよね』
懐から小さくオフィーリアの声。彼が頑張りたいのだと分かっているから、無理をしないよう諭すのではなく、そっとその背を押してゆく。
「今度こそ平和にして、ゆっくり観光でもしたいものですね」
嫌な鳴き声をものともせず、チェレンチィの目にも留まらぬ刃がワイバーンを切り裂く。逃れようとした敵をチェレンチィは空まで追いかけた。
「――墜ちなさい」
立体的な空間機動で敵が叩き落される。そのまま動かなくなったことを確認したチェレンチィは、ウーナの声に視線を滑らせた。
「見て! ワイバーンたちが……!」
「これは……帰っていってますかね?」
「そう、みたい……?」
エマの言葉にグレイルは目を瞬かせる。キドーは撤退する様を認めると深いため息をついて座り込んだ。
「マジきっつ……」
「だ、大丈夫? すぐに治してあげるからね!」
イーハトーヴがそれにびっくりして駆け寄る。その頭上を幾体ものワイバーンが飛び去って行った。
●
少し時を遡る。
「――危ない!」
咄嗟にエクレアは前へ飛び出て、攻撃を庇う。例え耐えきれぬ一撃が来たとしても、その一撃で倒れるはずだった仲間を助けられるのなら、それで良い。
「戦闘不能者はこっちで引き取るっす!」
自身も傷だらけでウルズが戦場を駆けまわる。蹲って動けない仲間に肩を貸し、あっという間に戦線離脱するとそこへ仲間を下ろした。
「あたしはもう一度行ってくるっすよ! じゃ!」
敵がいる以上、すべき事はいくらでもある。ウルズは激戦の戦場へと風のように駆けた。
「行きたまえ、アリス!」
アシェンプテルの吐き出した炎をマッドハッターが打ち破る。その隙にルビーは肉薄し、スーパーノヴァを叩き込んだ。
卯月は彼へ駆け寄りながら炎に炙られた傷を癒す。表情を緩めた彼は再び立ち上がった。
「ねえ、マッドハッターさん」
「なんだい、アリス」
紡がれるのは、『次』の約束。マッドハッターは小さく笑う。
「お茶会はいつの間にか始まって、毎日終わらないもの、でしょう?
「ああ。アリスが望むのなら、いくらでも」
そのためにも、お互いここで命を落とすようなことがあってはならないのだ。
「おら、嘉六! さぼんじゃねぇぞ! 儂1人で酒飲んでええんかぁ!? あ、いっつぅ!」
「べらべら喋っているからだ。ま、サボれるもんならサボりたかったがね!」
聖霊に治癒を受ける清舟を一瞥し、嘉六はすかさずカウンターを放つ。すぐさま清舟も前に出て、負けじと連続攻撃で打って出た。
「どうじゃどうじゃ! こちとら飲み会控えとんのじゃ、負けやせんわ!!」
後のことなど気にせずぶちかます。深い傷を負っても、ガス欠になったとしても、そこは聖霊に全部任せて良い。
故に。2人は酒の為、あらゆる手を使っての猛攻を止ませない。その執念深さは亜竜にとって苛立たしいものであることに間違いないだろう。
「皆さん、まだチップは尽きてませんよ!」
自然回復した魔力で綾花が掴み取る赤のスリーセブン。彼女の鼓舞に猛攻は続く。けれども。
「こんだけぶちかましてるんだ、そろそろ穴の一つも開いて良い頃合いじゃねぇのか」
思わず零れた言葉の直後、ジェイクたちの足元が大きく揺れて体勢が崩れる。発信源は目の前の亜竜だ。
「っ……」
ひたすら耐え続ける慧。その姿は亜竜から見ればちっぽけな事だろう。
「それでも……無害とは思わねぇことっす!!」
彼の内に眠るパンドラが、その欠片を熱く燃やす。まだ膝をつく時ではないのだ!
「おれ達はまだまだ戦う術を残してる。そうだろ?」
「ああ。それに俺達はあのリヴァイアサンも越えたんだ。あれに比べりゃ空飛ぶ蜥蜴さ!」
ヤツェクの言葉に再びジェイクも銃口を向ける。ここで諦めてなるものか。
「崩れた、今がチャンス!」
ミルヴィの執拗な乱舞は亜竜を確実に苦しめる。その鼓舞にイレギュラーズたちは士気を上げた。リディアの雷切がアシェンプテルへ炸裂する。
「大事な団員は喪わせない!」
アリアが肉薄し、ゼロ距離で攻撃を放つ。ぴり、と熱に皮膚が炙られる感触がしてアリアは顔を顰めた。
(でも、ダメ! 大事な団員を喪いたくない!)
マッドハッターが安全は保障すると言っていたが、それはこの亜竜を押しとどめている間の事だろう。これが解き放たれたなら、想像の塔付近はどうなるかわからない。
「そろそろ力尽きて貰っても結構なんだがね……!」
神の加護を振るい、敵を攻撃するトウカ。幸いにして慧が死力を尽くして引き付けてくれているため、レーゲンを庇ってはいるものの体力には比較的余裕がある。
(悲鳴や泣き声は、大分少なくなった)
仲間たちが頑張ってくれているのだろう。鋭い聴力で聞こえていたそれも、今はほとんどない。ならば尚更、あの嘆きを再び聞かないように。
「――ここだ!」
メルナの剣身が蒼い炎を纏う。その斬撃は翼ではなく、その付け根へと叩き込まれた。アシェンプテルの痛みによる咆哮が響く。
「畳みかけた方が良さそうだね」
零時のファントムレイザーが放たれる。アシェンプテルの余裕は大分削がれたらしい。そこへオパールのような色合いのドラゴンが前へ出た。
(なぜ、ここにきたの)
来てしまった以上、自然のままに生きられない以上、戦う他ない。アルペストゥスは皆が好きだから。ぼろぼろの身体を引きずって、その口を開く。
「Ego pugnabo」
――ぼくは たたかう。
気が付けば、無数の結晶体が生まれていた。亜竜の身体も一部が変化している。畳みかけるようにリースヒースの魔術が敵を圧倒せんと構築された。
「灰は、灰に。滅せよ――アシェンプテル!」
亜竜は低く唸り声をあげ、大きな地響きを起こした。周囲にいたイレギュラーズたちはよろけ、砂煙が起こる。
それは再びアシェンプテルの翼によって吹き飛ばされる。しかしその身は地上になく――。
「くっ……!」
最初より遅いのはダメージを受けたからか。だがリースヒースが呪言より早く、その身は遥か上へと昇っていく。
「逃げの一手を打たざるを得なくなった、ということだろうね」
マッドハッターも同じ空を見上げる。そこには、アシェンプテルの撤退を受けて同じように引き返すワイバーンたちの姿があった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした、イレギュラーズ。
アシェンプテルは撤退し、伴ってワイバーンたちも引き上げていきました。
人身被害も最少と言って良いでしょう。
それではまた、ご縁がございましたらよろしくお願い致します。
GMコメント
●成功条件
アシェンプテルの撃退、或いは撃破
想像の塔の防衛
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●ご注意
グループで参加される場合は【グループタグ】を、お仲間で参加の場合はIDをご記載ください。
また、どの戦場に行くのか『1箇所のみ』指定を冒頭にお願いします。
例:
【A】
ブラウ(p3n000090)
囮作戦だ!俺は拳で殴るぜ!
●フィールド
練達首都セフィロト。中でもマッドハッターが塔主を務める『想像の塔』付近となります。
詳細は各パートで紹介します。
●【A】アシェンプテル戦
想像の塔より少し離れた高速道路上。辺りには遮蔽物がなく、見晴らし良好です。
周囲は避難完了しており、多少壊れたところで問題ありません。
マッドハッターが先行して練達謹製バリスタを仕込んでいます。これはアシェンプテル会敵時にのみ作動し、遥か高い空を飛ぶアシェンプテルをフィールド上まで引きずり下ろします。
アシェンプテルを引き留めなければ想像の塔へ向かい、ワイバーンたちとともにいたる場所を破壊してしまうでしょう。
○アシェンプテル
全身に灰を被ったような色味をした、ワイバーンよりひとまわり大きな亜竜。【飛行】能力があります。
ワイバーンたちと共に想像の塔に向かっていましたが、マッドハッターの『仕込み』によって引きずりおろされます。仕込みが作動している間は動きに制限がかかります。
敵対時には表皮が非常に高温となり、【棘】の性質を持ちます。また、攻撃はいずれも広範囲に被弾します。
攻撃手段は爪や牙、翼で巻き起こす風、口から放つ炎等。【炎獄】【苦鳴】【体勢不利】等のBSが想定されます。
非常に頑丈かつ耐久力のある敵になります。その他のステータスも高いものと考えられますので、十分に警戒して戦闘に臨んでください。
○友軍
・『Dr.』マッドハッター(p3n000088)
『想像の塔』の塔主。特異運命座標の事をアリスと呼びます。
直接の戦闘はそこそこですが、大体のイレギュラーズよりは強いです。
あまり言う事を聞きませんが、自身の開発したアイテムや能力でイレギュラーズたちを支援します。
●【B】『想像の塔』防衛戦
想像の塔、及びその周辺で展開される防衛線です。高いビルが立ち並ぶ近未来的な街並みですが、既に始まっているエネミーとの交戦によりいくらか損傷が見られます。
ビルの上に登っての戦闘や、塔周辺を飛行しながらの戦闘などが可能です。
このまま放っておけば、ワイバーンたちによって塔とその周辺に甚大な被害を及ぼす他、【A】への敵援軍が想定されます!
○ワイバーン×???
この戦場に登場するエネミーです。亜竜と呼ばれるドラゴン系のモンスターになります。赤褐色の皮膚を持ち、【飛行】能力があります。
鋭利な爪や牙で攻撃してくる他、遠距離から火球を吐いて攻撃してきます。火球は範囲攻撃となり、【業炎】BSが付与されます。
また、彼らの鳴き声は精神に作用する可能性があるようです。
非常に攻撃力が高く、その火球で建物が抉れます。数も多いため囲まれると厄介です。正確な数は分かりませんが、恐らく30体以上いるでしょう。イレギュラーズが引き寄せない限りは無差別に攻撃します。
○友軍
・『賽の一投』ヴィン・シレーニ
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)さんの関係者。練達所属の魔術師です。見た目は神秘的な女性ですが、声は中年男性のようなしわがれ声。美声と対価に魔を宿す芸術の知識と才能を手に入れました。
火力特化というわけではありませんが、安定した経戦能力を持ちます。ワイバーンの勢いが強い場所へ加勢します。
・ドローン×15機
軍事用の自律型ドローンであり、空中からの狙撃を可能としています。
基本的にレーダーでワイバーンを観測し、自動的に狙撃を行います。射程と命中に長けています。耐久力は低め。
周囲に敵を観測できなくなった場合は、観測を続けながら移動します。上手く敵を引き寄せてあげれば援護射撃を望めるでしょう。但し戦闘時間が長引くほど、機体数は減少すると見込んでください。
●【C】研究員の避難誘導&護衛戦
想像の塔周辺の近未来的街並みが舞台です。【B】と戦場が被りますが、より人命に重きを置いた場合はこちらのパートです。
練達にはワーカーホリックな研究者が少なからず存在し、今回の非常事態について把握できていない者が逃げまどっています。彼らの避難誘導、及び避難までの護衛が必要となります。また、清水湧汰のように逃げ遅れた者がいないか捜索することで犠牲者を減らすことができるでしょう。
避難場所は想像の塔周辺に存在する建物の地下です。場所については依頼が舞い込んできた時点で連携されているものとします。
このパートは多くの人数を必要としませんが、友軍のみでは対処しきれません。その場合は犠牲者の発生、【B】の戦場へ逃げる研究者の乱入などが考えられます。
○エネミー
【B】と同じですので割愛します。
○友軍
・エートス・セグント
ヴェルグリーズ(p3p008566)さんの関係者。練達の研究者で、元世界ではAIです。彼は非常事態について把握していない研究者でしたが、周りへの声掛けを行いつつ避難を始めています。
旅人であり、フィールドワークをこなすことから多少戦いの心得はあります。どうにか自分の身を守るので精一杯といった程度でしょう。
・リゼット
アリア・テリア(p3p007129)さんの関係者。元々アリアさんと同じ劇団に所属するソプラノボーイ兼腹話術士でしたが、現在はマッドハッターの研究室の手伝いを行っています。
非イレギュラーズで戦闘能力はありませんが、マッドハッターからの頼みにより避難誘導を行っています。彼の声は良く通るため声掛けには最適ですが、マッドハッターからはあくまで自身の安全第一と言いつかっています。
・清水湧汰
清水 洸汰(p3p000845)さんの関係者。練達の研究者であり、電子生命体を人口身体へ定着させる技術『エーテルコード』の開発者。
今回はマッドハッターに巻き込まれたと言って良いですが、もはや乗り掛かった舟、人命がかかっていることもあり助力してくれます。
彼は破壊された建物などに逃げ遅れた者がいないか、後述の『AI(アイ)』とともに捜索・避難誘導を行っています。
・AI(アイ)
清水 洸汰(p3p000845)さんの関係者。清水湧汰の開発した『エーテルコード』によって秘宝種と認められています。
元々コンピュータに搭載されたサポートAIの一種であり、秘宝種となった今も他者の健康サポートを行っています。特に清水湧汰を気にかけており、今回の戦いにおいても彼をサポートしています。
●ご挨拶
『想像の塔』周辺を担当いたします、愁です。
ジャバーウォックたちの思惑は掴めませんが、まずはこの戦いを乗り切りましょう。
それでは、どうぞよろしくお願い致します。
●決戦シナリオの注意
当シナリオは『決戦シナリオ』です。
<Jabberwock>の決戦及びRAIDシナリオは他決戦・RAIDシナリオと同時に参加出来ません。(EXシナリオとは同時参加出来ます)
どれか一つの参加となりますのでご注意下さい。
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