シナリオ詳細
<廻刻のツァンラート>目覚める街
オープニング
●
「……何度でも、何度だって、繰り返すんだ」
男の言葉は低く、重く。零れ落ちたそれは、誰の耳にも入ることなく黒く固まった血だまりに零れ落ちた。
1月4日は男にとって地獄から始まった。女性技師の――男の恋人の遺体が見つかったのだ。夜間に殺害されたと見られ、犯人についても足取りが掴めないと伝えられた。
視線、視線、視線。誰もが憐憫の視線を向けてくる。そんな1週間を過ごして、彼女を埋葬するその日。男は魔種に墜ちた。
彼女をこのまま埋めてしまう訳にはいかなかった。彼女に『もう一度会うために』。
始まりの日は、彼女が死んだ日。
終わりの日は、彼が反転した日。
繰り返しの瞬間には時計台に登った。死んでしまった彼女はその痕跡しか残らないけれど、『犯人』は違う。その瞬間、彼女を殺した事実だけを記憶に残して去って行こうとする。だから殺した。
あまりにも本来と異なってしまったら蘇生も叶わないかもしれない。だから初日の朝には多少の手を加えた。それらしい遺体を作って置いておくのだ。
「お前が役に立つ時が来て、良かったよ。アレは計算外だったが」
男は視線を後方へやった。そこには恋人を殺した犯人『だったもの』が蹲っている。殺してしまったから犯人であった男の意思はないが、その体は良いように弄らせてもらった。
それはただ殺すのでは満たされないが故だったが、イレギュラーズという計算外が現れたことで有用性を持ったわけだ。
バルコニーから街を見下ろし、男は瞳を眇める。
魔種を討ち、世界の終わりを避けんとする勇者たち。彼らと自身が相容れぬ存在であり、どちらかが死ぬしかないことは良く知っている。誰も寄せ付けぬはずの結界を越えてきたのだから、それなりの強者だろう。捉えていた魂を使って見張らせてもいたが、真実に近づくのは時間の問題だった。
しかし街を覆う結界は、彼らを一時閉じ込めるための結界を張るために消した。その結界も消えた。今ならば全力を出せるだろう。街の住民たちも狂気によってイレギュラーズたちを足止めしてくれるはずだ。
この街からイレギュラーズを退けて、再び巻き戻りの結界を張る。何度繰り返して彼女が戻って来なくても、それ以上に繰り返して『いつか』をつかみ取るのだ。
バルコニーから街を見下ろす彼を、少し離れたところから『彼女』は見守っていた。空に漂う姿は輪郭でしかなく、それでも見ようとすれば見えるだろうけれど。それでも彼は気づかない――気づけない。
●
鉄帝の街、ツァンラート。中央に時計台のそびえるこの街は、ひとつの事件に巻き込まれていた。見えない壁によって力のない者は入れず、街の中から出てくる者もいない。そしてどうやら街の中は『一定期間を繰り返している』のだと言う。
この件につて鉄帝から依頼されたイレギュラーズたちは、複数回の調査の後に時計塔で起こった事件が殺人事件であり、この被害者には恋人がいたことを突き止めた。そしてその恋人の元へと訪れたのだが――本性を現した魔種によって、一部のイレギュラーズが黒い結界に閉じ込められる事態となったのである。
これはその結界を脱し、ほどなくしてからのことであった。
黒い結界を脱したイレギュラーズたちは街の異変に気付いた。
「なんだ……?」
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は街を駆けながら周囲を見渡す。先にリュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)が住民へ伝達するよう根回しをしていたおかげで、大混乱と言うわけではない。けれども何かに惑っているようだ。
「どうやら……街全体の結界が解けたみたいだね」
シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)が見て、と前方を指す。街の外に続く門のほうから数人の姿が見えた。
「この人たちが弾けるような音がしたって言うから来てみたんだけど、」
「……結界、なくなったみたいだよ」
『アイドル闘士』パルス・パッション(p3n000070)と『Blue Rose』シャルル(p3n000032)、そして外でずっと待っていたであろう弟子入り希望の青年たち。彼らが入って来られた事こそが、街の内と外を隔てるものがなくなった確かな証拠だ。
つまり、街の者が外へ出られるということでもある。
「皆さんを避難させないといけませんネ!」
「先ほど同様に、食い止めてもらう者も必要そうだ」
リュカシスの言葉にベネディクトは視線を巡らせる。先ほどまで内側にいた彼だが、外側の事も凡そ把握はできていた。狂気にあてられた住民たちを退けている間、手すきの者で結界を外から攻撃していたのだ、と。
「それに、元凶もどうにかせなあかんな! これ以上妙な真似はさせんで!」
箕島 つつじ(p3p008266)が時計台を見上げ、拳を掌に叩きつける。この『結界が解けた』という事態が相手にとって幸か不幸かはわからないが、また結界を作り出される前に決着を着けてしまおう。
「伝えることもあるしね」
その心に届くかどうかはわからないが。Я・E・D(p3p009532)は今いない彼女、ルーシェから託された言葉を思い出す。彼への伝言を、届けられるうちに届けなければ。
(ルーシェさんは今、どこにいるのかしら。それに……『彼』も)
フルール プリュニエ(p3p002501)は空を見上げる。黒い結界を解いた際、ルーシェは気づいたらいなくなっていた。魔種の彼もまた、結界を作るなり墓場から出て行ったと言う。彼らは一体どこへ向かったと言うのか。
その時。柔らかな風が吹いた。
『時計台へ』
「え……?」
フルールは振り返る。彼女はいない、されども聞こえた。それが助言か、はたまた罠であるのかはわからない。けれどもフルールが先ほど話した彼女は、少なくとも敵ではなかったと思う。だから――。
「時計台へ」
フルールは皆へそう告げた。彼女に伝えられたままに。
「行きましょう。魔種へ、会いに」
- <廻刻のツァンラート>目覚める街Lv:15以上完了
- GM名愁
- 種別長編
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年07月30日 22時10分
- 参加人数30/30人
- 相談8日
- 参加費100RC
参加者 : 30 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(30人)
サポートNPC一覧(2人)
リプレイ
●消える結界
傍から見ても判らない。けれども街の門をくぐったならば、そこに『何もない』ことに――結界が解けた事に気が付けるだろう。
このタイミングで街へやってきたイレギュラーズは、既に街の中で調査を行っていたはずの仲間たちと合流すべく、或いはいち早く避難誘導を始めるべく駆けだす。
「それじゃ、頑張って」
ぽんと背中を叩かれた『秋の約束』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)は『Blue Rose』シャルル(p3n000032)の後ろ姿を見て目を瞬かせた。思わず口元をほころばせて、それからはっと引き締める。
鉄帝――寒く厳しく、そして逞しい国。イーハトーヴのにとってのヒーローもここを故郷としている。彼と共闘する日が来ようとは、数年前の自分に言っても信じて貰えないだろう。
「イーさん!」
『無敵鉄板暴牛』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)が駆けてくる。その後ろからは他のイレギュラーズたちも続いているようだ。
「イーさん、力を貸して!」
「うん!」
向かうべくは時計台。魔種から伝播した狂気によって、住民や動物たちがそこへ集まろうとしているのだ。このままでは時計台に上がることもできない。
(精一杯やって、シャルル嬢にも笑顔でいい報告をしなきゃ)
助けられる命は全部、可能な限り助けたい。リュカシスとならできるような気持ちになる。
先ほど彼女に叩かれた背が温かいような気がする。まるで後押ししてくれるように。
「君のこと、力いっぱい支えるから見ててね!」
「うん、しっかり見てる! それでは、援護をお願いします!」
2人は、そして他の心を同じにする仲間たちは時計台へと一直線に向かい始める。より一層突き抜けたのは『竜剣』シラス(p3p004421)だ。
「ふん、邪魔はさせねえぞ」
力強く地を踏み、加速する。一気に射程圏内へと敵を収めたシラスは、内1体の足元に魔法陣を展開した。
先手必勝、序盤だからこその最大出力。数人の動きが止まる。
「まだまだっ!」
魔法陣がひとつ、ふたつ、みっつ。次々と展開され、群がっていた者たちが次々と動きを止めた。思うようにいかぬ唸り声が聞こえるが、さりとてもはや彼の術中の中である。
「先に行くやつは行ってくれ! 早く!」
しかしそれも長くは続かないと知っていればこそ。シラスは声を上げ、魔種の元へ辿り着かんとする者たちを促した。
「すっごーい! これは負けられないね、ボクも頑張っちゃうよ!」
そこへ飛び込んでいった『アイドル闘士』パルス・パッション(p3n000070)は、機敏な動きでシラスの縫い留めた敵を無力化しにかかる。
「パルス・パッション! あの時の俺とはもう違うだろ?!」
シラスが彼女を見る目はアイドルを見る目ではない――ライバルを見るそれだ。
パルスはアイドルであるとともにB級闘士。等級の追いついたシラスにとっては立派に『超えるべき壁』なのである。
なにより以前情けない姿を見せてしまった分、今がイメージの覆し時だ!
「ボクも頑張りますよ! 力こそパワー!!!」
リュカシスも次いで飛び込み、敵を引き付けにかかる。そしてある程度集まったタイミングで文字通りに暴れ出した。すごい力でとにかく、沢山、殴るのだ!
「痛いよね、ごめんなさい! でもこのまま死ぬよりマシだから!」
応戦してくる相手にリュカシスも傷を負うけれど、自らの意志でなく戦う彼らに比べたらこんなのかすり傷だ。
「リュカシス!」
イーハトーヴの声と共に、暖かい力が降り注ぐ。体の奥底から、力が湧いてくるように。
「ありがとう、イーさん!」
にっと笑って拳を握るリュカシス。援護しようとしたイーハトーヴは、時計台へ向かおうとする姿を見て咄嗟に攻撃を放った。
殺さない、優しい一撃。それでも一瞬、小さく顔を顰めてしまうのは相手が『人』だからか。
それでも。
「……行かせるわけにはいかないんだ」
ポケットの上からあるものを押さえる。ここは魔種に近いからか、どことなく嫌な感じがする。けれどこれがあれば大丈夫――迷いなく、仲間を支えられる。
「イーさん! その人正気付いたみたい! とにかく全力で離れさせてー!」
リュカシスの声に振り向けば、よろよろと立ち上がって頭を振る青年がいた。辺りのことが把握できていないらしいその目は正常で、イーハトーヴは素早く腕を取って避難させる。
「ここは危ないから避難して。俺たちの仲間が誘導してくれるはずだよ!」
状況を理解させる時間が惜しい。イーハトーヴは道を示し、青年の背中を押し出した。
(まだ気絶させれば元に戻る、か?)
シラスはその様子を見ながら手刀打ちで敵を昏倒させる。思っていたよりもしぶとい――というか、只々数が多い。さしもの彼も無傷ではいられないが、この場にはパルスがいる。無様な姿など何があっても見せるものか。
「予想よりずっと忙しい1日ね? 随分とお客さんが沢山ですこと!」
『青嵐』ゼファー(p3p007625)の軽やかな声と共に武器が舞う。細かく、的確に、嵐のように。
とにかく集まってくる敵を押し返し、叩きのめす他ない。背にした時計台の上に元凶がいるとなれば、此処で尻尾を撒いて逃げる訳にもいくまい。
(全く呼び声って奴は迷惑なんですから)
「あんた達も右に倣えで狂わされてんじゃあないわ!」
振るわれる槍に恐れもしない住民たち。怪我をしようとも、それこそ死の危険が迫ろうとも恐れはしないのだろう。
「その癖、ぶっ殺せばこっちの寝覚めが悪くなるんですから」
呟きは風に攫われる。嗚呼全く、こんな言葉も届きやしない。
ならば少しでも救えるように。寝覚めが良くなるように、目の前に溢れる住民たちを伸していくしかないだろう。
(ど、ど、どうしよう……!?)
炎縛札を放ちながら『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は目をぐるぐるさせる。だって、まさか、まさかではないか。
(パルスちゃんがいるなんてっ!?)
大好きなアイドルがこんな近くで。しかも共闘している。身なりがおかしくないか確認したくなってしまいそうだ。
しかし広場に溢れる住民や動物を見ていたらmそんなことをしている場合ではないのは一目瞭然。まずは彼らを正気に戻すことと、仲間を追わせない事。
焔は仲間たちが戦っている隙にギフトの炎を入口へ撒く。燃える事のない炎だが、突進することは流石に躊躇う――と思いたい。狂気に侵された彼らがどう出るかは不明だが、少しでも隙が出来れば焔たちで動けなくさせることもできるだろう。
振り返るとあちこちで戦闘が起き、乱戦状態であることが分かる。パルスは少し離れた場所で戦っているようだ。その戦いぶりに見惚れてしまいそうだが、先ずは皆の安全が最優先である。
(出来ればパルスちゃんの近くで戦いたいけど……あっでも近くにいたら緊張しちゃって上手く戦えなくなっちゃうかも! ちょっと離れたところで見ていようかな……)
――彼女もまた、優れたファイターであるのだが。パルスを前にしてはただの1ファンなのだった。
少しの間振りにこの街を訪れた――というには穏やかではないが――『うつろう恵み』フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)はクェーサーアナライズと天使の歌で味方を支援する。誰1人倒れないように。抜け穴になってしまいそうな場所を作らないように。
「目覚めは、良いものであるべき、です……」
だというのに、この惨状はどうだ。狂気におかされた者たちは時間の流れた正されたことすら気付いていないかもしれない。それがこの街に、この場に一体どれだけいるのか。
彼女が成せることと言えば、仲間を回復し続ける事。それしかできない、と言っても過言ではない。
(けれど、出来るから、やらなくては……良き未来の、ためにも)
彼女のミリアドハーモニクスが仲間の傷口を優しく包み込む。遠くにいる仲間が傷だらけならそちらへ移って。その視線がふと、路地に続く道へ注がれる。
(あれ、でしょうか……でも、あちら、も?)
この広場は色々な場所に繋がっている。大通り然り、路地然り。沢山の小道から、思わぬ場所から何者かが出てこないとも限らない。
フェリシアはそちらへ注意しながら、癒すべき仲間の元へ駆けていく。彼女の癒しを受けた『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)は、ちょうど路地から出てきた住民の前へ立ちふさがった。
「ええい! 魔種なんぞに良い様にされて、今はこの体たらく!
美少女注入してやる故、並べ!!! 順番を乱すな! 並べ!!」
戦いの鼓動に百合子の元へ住民たちが近づいていく――のは良いが、まあ当然並ばない。そんな彼らに片眉を上げた百合子は、
「イヤーッ!」
叫んだ。美少女がそう叫べばボーンとなるのは常識である。はしたなく、多用するのは下品な振る舞いとまで言われるが、背に腹は代えられない。
「む! もしや正気に戻ったか!」
「うう……ここは……?」
そうしてボーンされた男が正気に戻る。百合子は早く街の外へ逃げるよう男へ告げた。
「吾の仲間もいる、助けが必要になれば呼ぶが良い!」
「は、はい!」
訳も分からぬ様子で、ひと先ず走り出す男。素直なのは百合子が男へ告げる間も容赦ないイヤボーンをかましていたからかもしれない。
一般人がどれだけ犠牲になろうとも、百合子は気にしない。自身が揺らぐこともないと知っている。しかし仲間が違うこともまた知っているのだ。
(こういう時は少数派の吾が合わせるに限る)
別にその考えが悪いとは思わない。嫌いとも思わない。ただ――戦場に立つと、すぐ忘れてしまうだけで。
『Meteora Barista』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)もこれ以上の進撃を防ぐべく、堅牢なる壁となって動物たちを足止めしていた。全体の数を見れば雀の涙だが、それでも無暗に暴れさせないのは大切な事だ。
(ローレットの仕事とはいえ、愛着も湧いてきたしな)
決して少ない時間ではない。平穏が戻ればこのまま、ようやく正常になった街を楽しむのだって悪くない。それに何時かStella Biancaの支店を出すのだって。
そのためにもここを切り抜けなければいけない。モカはスズメバチの群れの如く、素早い動きで敵を翻弄しながら急所を突かんと足で蹴り上げる。ぱらぱらと人や動物が倒れていくが、まだまだこちらへ向かってくる敵は多いようだ。
(囲まれたら危険だな……)
軽い一撃では流石に倒れないらしい。となれば不利な位置を避けながら数を減らしていくしかないだろう。
手数で攻めるモカは時に空へ逃げ、位置を修正しながら戦っていく。そして正気付いた住民に気付くと、敵から庇うようにしながら指示を飛ばした。
「ようやっと結界が消えたと思ったら……随分な有様でありますね」
「ああ。だがこの街の不可思議な現象も、これで終わりだ」
『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)は自ら引き付けた敵を壁にすることで、時計台へ進もうとする敵の流れを阻害していた。そこへ『猪突!邁進!』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)が手にしたものを投げる、投げる。混乱で辺りに『何かしら』は落ちているものの、人々の足で大半は蹴散らされてしまったようで手頃な投擲物はあまりない。故に彼女が本来持ちうる武器を手にするのも時間の問題であった。
「こちらの制圧を優先でお願いするでありますよ」
周囲で戦う仲間たちにも声をかけながら住民たちを倒していくエッダ。そこには容赦の欠片もないが、自国の国民と知っているからこそ容赦不要なのだと分かっている。むしろここまでしなければただの人間と言えど、危険だ。
後手にて先手を取り、己の優位を作っていく。しかしそんな彼女も数ばかりはどうにもならない。
「おっと」
などと呟くエッダだが、その実危なげなく剣は繰り出されていた。どこか呆れたような視線のブレンダにエッダはにぃと笑みを浮かべる。
「自分1人ではこんなに捌き切れないでありますよ? ブレンダなら殺さないようにたくさん倒すこともできましょうが~」
その実、大忙しである。細かい事とか隙は全てブレンダへ丸投げしてしまうくらいには。
(しかし、どのような場であれどこれらは我が国民)
出来る事なら救いたい――否、救ってみせる。
やがて2人は背中合わせに立った。敵は随分減った。しかしまだ数の利はあちらにある。一方のこちらは多少の差があれどいずれも疲弊してきた者ばかり。
「疲れたなら休んでいてもいいぞ? 私はまだ余裕だからな!」
「貴女が立って戦っているのなら、私が戦わないわけにはいかないでしょ」
肩越しに視線が交錯する。エッダは不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「……何、見てるんですか」
「いいや? ……それじゃ、ヘバるなよ!」
襲い来る敵の群れ。2人は弾かれるように飛び出した。
●時計台を登る
「颯爽と救出しようと来たのに、肩透かしだぜ」
「残念ながら壁は自分でぶち破ったね。でも心配してくれてありがと」
『処刑人の務め』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)は『横紙破り』サンディ・カルタ(p3p000438)の横顔へ視線をくれる。その視線に気づいたサンディは小さく笑みを浮かべた。
「ま、すぐに帰るって顔でもなさそーだし? 目標は――この上にいるあれ、だろ?」
今、イレギュラーズたちは時計台を登っている。果てない階段、その下ではまた別の仲間たちが狂気の伝播でおかしくなった住民たちを押さえてくれているのだ。
改めてついていくと意思表示したサンディにシキは目を細める。
「ふふ、そっか。相変わらず君は頼りになるなぁ」
「だろ?」
片目をつぶってみせるサンディに頷いて、シキは顔を上げた。
この上には魔種と、彷徨える魂が待っている。あるべき場所へ、いくべき魂が向かうことができるよう導く。それが処刑人の勤めであり、シキがここにいる理由だ。
「――じゃ、いこうか。"君たち"の魂の導き手になりに、ね」
男がひとり、そこにいた。傍らに転がっている、いや寝かされているのはルーシェを模した遺体か。そして近くに蹲っている塊は彼の使役するモンスターだろう。
(タイムリミットは再びループが発生するまで)
ここにいる全ての敵を掃討する時間は残されていないだろう。サンディには申し訳ないが、今回も相当の無茶を強いることになる。
けれど彼も承知の上で来ているのだろう。互いを良く知っているのだから。
「魔種フェイリス。……私はこの街の真実を知ったよ。だからこそ来たんだ」
終わりにするために。彼女の言葉に男――魔種となったフェイリスは顔を歪めた。
「終わり……? いいや、終わらない。終わらせなどしない!!」
フェイリスの言葉と共に床へ黒いシミができ、そこから奇怪な小型モンスターが現れる。ギギ、と鳴き声を上げるそれはイレギュラーズへ威嚇しはじめた。
(紛い物の器……これらもまた、彼に縛られている)
街も、人も、魂も。繰り返す事で歪になっていく。全てを自由の元に、解き放たなくては。
シキが進路上に放たれたモンスターへ乱撃で応戦する。息の合った動きでサンディが前へ出て、フェイリスへ肉薄した。
「相手は俺だ。やれるもんならやってみろ!」
サンディが押さえた後ろで『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)が生み出されたモンスターに攻撃を繰り出す。数の利が厄介なものだと思えばこそ。
先ほど出現した様子だと効果があるか定かでないが、倒したモンスターの残骸はなるべくバルコニーの方へと強く蹴り飛ばしておく。
(魔種には往々にして奥に手があるもの)
警戒し過ぎるに越した事はない。ただでさえ情報が少ないのだ、何かしようとした瞬間に動き始められたなら十分である。
(あちらの立ち位置にも気を付けた方が良さそうです)
オリーブは視線を滑らせ、魔種の使役するモンスター『ヴェイ』へ向ける。もしこちらが狙われても向こうの対処をする味方が無事ならばと思ったが、あの図体では諸共やられる可能性がある。あまりに巻き込まれ損だ。
「何度も試してるなら、むしろ解るはずじゃないか?」
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)の細剣が正確無比に刺し貫かんと突き出される。迷いも何もない、真っすぐな攻撃が。
反転して、繰り返して、犯人を処しても戻らない恋人。本当は彼だってわかっているのではないか。しかしイズマの問いかけにフェイリスは首を振る。
「いいや、解らないね。解ってたまるものか……!」
その口ぶりにイズマは瞳を眇め、なお攻撃を叩き込む。
たまるものか、なんて。本当に理解できないのではなく、理解『したくない』者の言い分だ。
フェイリスへ向かっていく者たちを見た『白き不撓』グリーフ・ロス(p3p008615)はヴェイの抑えへと回る。その身へ不調の一切は顕にならない。来た直後に保護結界を張ったが、出来るだけ傷つけない位置にヴェイを誘導する。
(……私のクリエイターは、ニアを失い、ワタシたちを作った)
彼は恋人であるルーシェを失い、時間を巻き戻すことで彼女を取り戻そうとしている。選んだ方法こそ異なれど、根底にある想いと願いは同じなのだろう。
だからこそ、彼を否定することはできない。想いも、行動も、選択も。否定すればグリーフ自身(作られたもの)を否定することにも同義だから。
「っ!」
ヴェイの尻尾が横から勢いよく迫る。受け流したグリーフは相手を逃さぬよう睨み据えた。
フェイリスも、ヴェイも、敵対する以外に道はない。彼らは『魔種』とそれに使役されるモノだから。
(彼に、私はどんな感情を見るのでしょうか)
不意にあらぬ方向へ闇の炎が舞う。『神は許さなくても私が許す』白夜 希(p3p009099)の放ったそれはヴェイでもフェイリスでもなく、辻褄合わせのためにルーシェを模した遺体へ飛んだ。
こればかりはただの遺体だ。簡単に燃え出したそれに、フェイリスは怒りを露わにする。
「一度全て失くしてみろ。大切にしたかったものは……大事なものは、何だったか。きっと思い出せる」
「言われずとも覚えているさ! それを踏み躙ろうとしているのはそちらだろう……!」
いいや、と希は首を振る。一時はそうかもしれないが、行き着く先は『2人の願いのため』であることは変わりない。
だって――助けに来たと聞いた彼女の顔は、どうしたって忘れられないから。
(フェイリスの今の望みを壊し、新たな願いを作る)
彼が望みを、希望を持つのは可能性があるからだ。ルーシェを復活させんとする儀式が失敗し、同じ時を重ねていく。
ならばそれらを――遺体、骨を、血を、肉を、全て燃やし尽くしてしまったなら。希望の潰えた彼は、次の願いを見出すかもしれない。
「都合の良すぎるお前の望は叶わない。残っていた希望も私が今、消した」
「……いいや、消えてなどいないさ」
悪しき風が彼を取り巻き、抑えていたサンディごと直線に突風を起こす。腕を交差させ、風を受け流した希は嗤う彼を見た。
「もう一度、巻き戻れば良い」
「なに……?」
復活の儀式が巻き戻りではない、ということか。眉根を寄せる希はそれでも叫ぶ。
「墓守の仕事は人の素性じゃない。心と魂に寄り添うことだろ? 何としてでも会いたかったんだろ!?」
「ああ、そうだよ。どんな方法だっていい。だから『こうなった』のさ」
「……死を受け入れられないから、こうなってしまったのよね」
『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)は7つの精霊と融合を果たし、大人びた――どこかルーシェに似たような――姿となって、呟いた。
彼女にとって、魔種という存在はそれだけで討伐しなければいけない理由ではなかった。だからこそ未だに、迷いがある。
(ただ討伐するだけで良いのなら簡単だけれど、私はそれをしたくない)
だから最低限の反撃にとどめ、積極的には攻めていかない。もっと平和な道があるのではないかと、そう思うから。
「ルーシェおねーさんの言葉を、どうしたら伝えられるのかしら」
「会ったこともないクセに?」
皮肉に彼の口元が歪められる。フェイリスには『見えない』から、ルーシェが近くにいることもわからない。
(納得してくれなくとも……)
彼女の言葉を伝えることこそ、フルールが結界の解けた街に止まった理由だ。
「ルーシェさん」
フルールは彼女を呼ぶ。決して広くはない場所で戦闘が行われているのだ、ルーシェが離れていても仕方がない。それでも伝えるなら今だとフルールは彼女を呼ぶ。
「っ……」
流れ弾がその身を掠める。けれど止めるつもりはない。
魔種が人間と相容れないことをわかっていて、尚。フルールは共に行きたいと思うし、そうでなくても最期に享受するものが幸福であれと願っている。誰から見て悲惨だろうと、その人にとって幸福な末路を辿ってほしいと。
彼女へ迫るモンスターを『赤い頭巾の悪食狼』Я・E・D(p3p009532)の放った気糸の斬撃が絡めとる。Я・E・Dはしかと敵を捕らえながら、一瞬視線を外へ向けた。
「ルーシェさん、少し待ってて」
まだ、約束した言葉を伝えるには遠すぎる。必ず、ちゃんと届けてあげたいから、もう少しだけ。
今のところ、フェイリスの戦闘方法はモンスターの召喚と神秘適性の攻撃。あとは使役しているヴェイのBS攻撃か。
(間を埋めるモンスターが邪魔だな)
魔種の中でいえば、おそらくフェイリスは攻撃特化ではない。もちろん侮れる相手ではないが、攻撃面を補助する敵を一掃すれば、彼へも攻撃がより届くはずだ。
(その狂気を一時的にでも砕いて、精神に揺さぶりをかければ)
思うだけでは叶わない。Я・E・Dは味方を補佐しながらもモンスターを少しずつ弱らせていく。
「やっと登り切ってぴえんなのに何これヤバたんシチュエーションじゃんっ!」
疲れている、と言いつつも元気バリバリに見える『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)が真っすぐにフェイリスへ突っ込んでいく。
「墓守さんだよねっ? ルーシェちゃんと何かいい雰囲気だった?」
「ふざけたことを」
刀が弾かれる。どうやらルーシェは約束通りそこに『居る』のだが、イレギュラーズが空気をぶっ壊したわけではなさそうだ。
「お邪魔じゃなくて何よりっ! ま、このまま引くワケないんだけどね!!」
再び秋奈は斬りかかる。守りは仲間に全て丸投げして、自身はただただ痛烈な一撃を喰らわせるだけである。
「私は戦神が一騎、茶屋ヶ坂アキナ! 有象無象が赦しても、私の緋剣は赦しはしない!」
これが最後の舞台だと『希望の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)は楽曲を紡ぐ。さあ踊れ。さあ歌え。これが貴方のラスト・ダンスになるだろうから。
(すれ違ったままの物語なんて悲しいだけ……でも、まずは戦わなきゃ)
勝たねば、伝えられることも伝えられない。何より彼は魔種だから。
「リュティス、花丸。今回も頼りにさせて貰うぞ」
「はい。それでは参りましょうか、御主人様、花丸様」
『黒狼の勇者』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)と『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)の言葉に『人為遂行』笹木 花丸(p3p008689)は頷き、ベネディクトと共に前線へと駆ける。
(気持ちがわかる……何て、私には言えはしない)
花丸の気持ちが花丸だけのものであるように、フェイリスの気持ちはフェイリスだけのものだ。殺されてしまった恋人に狂おしい程恋焦がれ、ついぞ起こってしまった事件を放っておくことはできないけれど、その心を真実理解するということは不可能に近いくらいに難しい。
「魔種よ、此処までだ。これ以上、お前の思う通りにさせることは出来ない」
「思う通りにすることに、誰の許しも必要ない」
立ちはだかるベネディクトから逃れようとするフェイリスだが、抑えにかかるサンディとベネディクトの放った圧力に瞳を眇める。
「死者は死んだら蘇らない。自ら諦められないというのであればその未練、断ち切ってみせましょう」
まだ回復はいらぬとリュティスも前へ出る。これ以上時を繰り返したとて、その願いが叶わないのは明白だ。
死舞で攻めるリュティスの傍ら、花丸はヴェイへと視線を走らせる。あちらはグリーフ1人でどうにかなりそうか。アレもまた無視することのできない強敵だろう。
(いつでも行けるようにしなくちゃね)
けれどそちらばかりにも目を向けてはいられない。足元へ生み出されたモンスターたちに花丸は素早く応戦し、引き付けてまとめる。後ろへ向かおうという姿勢だったからだ。
「ここは花丸ちゃんが通さないよ!」
フェイリス、ヴェイ、そして召喚される多くのモンスターたち。時計塔の上は、早くも乱戦状態になっていた。
●市街地を駆ける
この街を覆う結界が解けた直後、リュカシスの行動によって少しずつ避難誘導が始まっていた。しかしそれでも、街の住民全員を避難させるには時間も統率も足りていない。
「聞けぇ、テメェら!!!!」
正しい時の流れに放り出され、混乱の最中にある人々はその声に黙り込んだ。独裁者然とした『ドラゴンスマッシャー』郷田 貴道(p3p000401)に嫌でも視線が集まる。そこに立ちはだかる巨体はどう見ても『戦士』のそれである。
だがしかし、彼の目的は戦うことではない。
「ここは見ての通りの戦場だ、ユー達が単独で生き残るのは厳しい! だがミー達についてくれば助けてやる、黙ってこっちについて来い!!」
「本当か……?」
「あの人は一体?」
ざわざわと戸惑いの声が辺りに揺らぐが、その質問にいちいち答えている余裕はない。
ただ、彼らが知れば良いのはひとつだけ。
「ミーは大衆の味方だからな、一般ピーポーを守るのも役目の一つさ! さあ、いったいった!」
止まっている暇などないと貴道は彼らを出口へ急き立てる。とにかく街を脱出することだけに集中してもらったほうが、逆に混乱も少ないと言うもの。
「皆、落ち着いてほしい! 私たちは救援に来た。まずは女子供、老人を優先して街の外へ逃がすんだ!」
「HAHAHA、いいね、渡りに船ってやつだ。ユー達、彼女の指示に従ってくれ!」
『蒼き燕』夜式・十七号(p3p008363)の言葉に貴道が促す。貴道は外からの合流組だが、元々この街を調査していた者ならば道にも明るいはずだ。
十七号の視線がついと貴道へ向けられる。その視線に貴道は片眉を上げた。
「ミーには似合わないかい、避難誘導?」
「……意外だ、とは思う」
見せかけではない、戦い抜かれた筋肉だと察するのは鉄帝の民ゆえか。貴道は路地から出てきた住民――おおよそ『正常』とは言い難い――を見てにっと笑う。
「オーディエンスの居ない試合なんてつまらないだろう、HAHAHA!」
槍の如き拳圧の連打は今にも住民へ襲い掛かろうとしていた者を弾き飛ばす。こちらを見る住民へ「早く行きな!」と叫ぶと、貴道は湧くように現れ始めた者たちに向かって拳を構えた。
「やられてえヤツから来な! ミーが全員ぶちかましてやるぜ!」
強者の見せる余裕。それに住民たちの避難が若干円滑になったのを見て十七号は口元に小さく弧を描いた。これならばより迅速な避難が望めるだろう。
(かなり前の事で少しうろ覚えだが、避難するのは『この街の住民』だ)
街の何処からでも見上げることのできる時計台、そのバルコニーから見た景色。今いる位置から出口へ近い道を思いだし、十七号は住民たちに指示を振っていく。
この場にいること、其れ即ち時計台での決着に居合わせられないこと。口惜しくはあるが、自身に出来る事をと彼女は街へ降りてきた。
(奴にとっては無念だろうけれど――"今日"を、現在(いま)を繰り返させてやる訳にはいかない)
「そちらはお願いします!」
貴道とともに合流を果たした『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)は十七号へそう告げ、どこかへと駆けていく。その上空には彼女が使役しているらしき鳥たちが飛んでいた。それを認めた十七号は住民たちの先頭をきり、襲い来る者を牽制していった。
一方、2羽の鳥を使役するウィズィは空からの視界を借りながら逃げ遅れた住民を探していた。
「イレギュラーズです! もう大丈夫、助けにきましたよ!」
真白な毛並みのラニオンに騎乗した彼女の声はよく通る。ほどなくして彼女は逃げ遅れていた迷子や老人たちを集めた。
「大丈夫、落ち着いて逃げましょう! 経路は確認済みですからね!」
巨大ナイフを旗のように掲げ、先を行くウィズィ。そこへ同じように手助けをしにきた『砂原で咲う花』箕島 つつじ(p3p008266)とシャルル、そしてずっと街の外で待っていた技師の卵たちが鉢合わせる。
「ウチらも手伝うで! さ、おいで!」
子供をつつじが抱え、シャルルが老人へ手を貸す。少しでも早く、1人でも多く安全な場所へと連れて行かねばならない。
「嫌な感じがしたら、すぐ逃げて」
「せやで! ウチらはウォーカーやから大丈夫やけど、君らは危険なんやから」
「「はい!」」
技師の卵たちが素直な返事を上げる。敵となる住民が多ければこのまま街を出てもらった方が良いかもしれない。そう思っていた矢先、一同の前に敵が飛び込んできた。怯える住民たちの前に立ったウィズィがにっと笑みを浮かべる。
「大丈夫ですよ、こんな時の為の私たちです!」
先に行けとウィズィは一同を促す。一刻を争う事態だ、このまま立ち止まっていて良いことはない。
「さあ、Step on it!! 皆さんには指一本触れさせないぞ!!」
敵を引き付け、一同から距離を取るウィズィ。それを見たつつじは「行くで!」と皆の前を早足で進み始めた。
まだあちこちで助けを求める声が上がっているのが感じられる。敵を引き付けてくれるなら素直に甘え、自分は多くの住民を逃がさなければ。
(……反転するくらい強い想いを抱いてたのは分かる。けど無関係の人らを巻き込むのは、やっぱり許せんよ)
視線は時計台へ。元凶たる魔種がそこにいるはずだ。気がかりでないと言えば、嘘になるけども。
「つつじ、大丈夫?」
「うん? 勿論、まだまだ体力はありあまっとるで!」
同じくらい、何度も足を運んで愛着を持ち始めていたこの街だって気がかりなのだ。
シャルルは笑みを浮かべた彼女の答えにそう、と頷いて視線を前へ。先を行っていた集団へ追いつき始めたようだ。
だが、油断するにはまだ早い。
「そこの路地……なーんか、見通し悪かった気がするんよな」
つつじが示したのは少し先にある脇道だ。まだその先が見える位置にはいないが、それはつまり死角ということでもある。シャルルは手を貸していた老人を技師の卵の1人に任せ、いつでも応戦できる体制を取った。
「……気を付けて、いこうか」
敵はまだまだ、この街に潜んでいるのだから。
(戦闘よりも緊張するな……)
『ヴァンガード』グリゼルダ=ロッジェロ(p3p009285)は持ち前の怪力で老人を抱え、街の外まで駆けていた。
元凶と戦いたいのは山々だが、住民たちを放っておいてはもやもやして――そう、寝覚めが悪いのだろう。
とはいえ、グリゼルダは戦闘以外においては得意とは言い難い。果たしてどれだけ支援できるのかと考えていたが、怪力がこのような場で役に立つとは。
(いや、だがこの先はわからない……ま、まぁ殿として死地に行かねばならん場面もあるだろうし……撤退戦は地獄とはよく聞くものだし……)
戦闘など起こって欲しくもないだろうが、そういう時の自分であると言い聞かせ、グリゼルダは歩を進めるのであった。
「マリィ!」
「ヴァリューシャ! 来てくれたんだね!」
恋人との再会を果たした『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は『雷はただ前へ』マリア・レイシス(p3p006685)の怪我の有無を確かめる。多少の疲れはあるものの、元気そうな姿にまずはほっと笑みを浮かべた。
「行きましょう、マリィ。1人でも多くの人が、無事に避難できるようにしなければ」
「うん、行こう! 大丈夫、君が来てくれたら百人力さ!」
だって彼女は、マリアの可愛い可愛い太陽なのだから。
2人は混乱している住民たちの集まる場所へと向かう。仲間たちも対処してくれているが、この街全体を網羅するには時間が足りない。人海戦術で手分けをしなければ。
「皆様、聞いて下さいまし。見ての通り、今は異常な状況です」
ヴァレーリヤの言葉に目を向ける者も、耳を傾ける者もいる。しかし混乱の最中でそれどころではない者もまた、いる。
「皆! 今、話をしてくれているのは見ても分かる通り司祭様だよ! だから一旦話を聞いて、信じて欲しい!」
多くの人が聞いてくれるようにとマリアも声を張る。何人かが振り向いたのが見えた。
『マリィ、このままお願いできまして?』
『もちろんだよヴァリューシャ!』
小声で言葉を交わし、マリアは人の視線を集めるように。ヴァレーリヤは言葉を聞かせるように。それぞれの為すべきことを互いの為に為す。
「現実と記憶が食い違っていて、きっと混乱していることと思います。ですが、こんな状況だからこそ落ち着いて、私たちの指示に従ってくださいまし。
必ず、私たちが守ります」
「なあ、あれって」
「クラースナヤ・ズヴェズダーの……」
「イレギュラーズでもある……」
「あの赤髪の嬢ちゃんも……!」
次第に住民たちは2人の正体に気付きだす。彼女らの名声を考えれば道理であり、鉄帝で名を馳せるイレギュラーズたちによって次第に住民たちは落ち着きを取り戻した。
「深呼吸をして落ち着いて、私たちの指示に従って避難しておくれ!皆の安全は私たちが守るよ!」
「慌てないで! 押さないように、慌てず順番に! 敵が出たらすぐに行くので呼んで頂戴!」
先導するヴァレーリヤ、周囲を警戒するマリア。その警戒を掻い潜り、わき道から襲い掛かる影があった。
「マリィ!」
住民との間にヴァレーリヤが滑り込む。同時、紅の光が突撃した。
「こちらは私が抑える! 大丈夫、必ず守るよ!」
「マリィ、増援ですわ。皆様は私たちが食い止める間に避難を!」
別方向からやってきた敵にヴァレーリヤのメイスが振るわれる。未だ退路はそこに、しかし時間をかければ包囲されてしまいかねない。
「出口まではもう少しだ! 慌てずに、少しずつでいいから向かっておくれ!」
2名の猛者の言葉に住民たちが動き始める。と、そこへ避難住民を探しにきたつつじとシャルルが合流した。
「こっちへ」
「急げん人がいるなら抱えるで!」
こうして、住民たちは街の外へと脱出したのである。
避難場所に到着したグリゼルダは辺りを見回した。安全地帯だと聞いてほっとしている者もいれば、まだ不安そうにしている者もいる。その中の1人に目を留めたグリゼルダはゆっくりと近づいた。
「……大丈夫か? 何か気になることがあるのなら、私に話してみてほしい」
声をかけられた少年はぱっとグリゼルダを見上げる。一瞬躊躇うように視線が泳ぐが、小さな声で親とはぐれてしまったのだと告げた。
「どこまで一緒だった?」
「まちのなか。ここまで来るときに……」
そこまで言うときゅっと口をつぐむ。グリゼルダは彼の前へ、視線を合わせるようにそっと屈んだ。
「安心しなさい。私か私の仲間がご両親を必ず助け、ここまで連れてくる。大丈夫だ」
話術が得意と言うわけではないが、少しでも安心させてやりたい。そう声をかけるグリゼルダの視線は街へと続く。
「ヴァリューシャ、私たちは守ることができているかな……?」
「……ええ、きっと! 今は、少しでも多く助けられたと信じましょう」
マリアとヴァレーリヤは戦闘を終え、治療の必要な住民へ駆け寄る。
この1分1秒に救える命と、そうでない命がある。後者を嘆く暇なんてありはしないのだ。
●明日を望む
生み出されるモンスターたちにグリーフはЯ・E・Dを庇う。自身の体は丈夫だし、彼女はルーシェから言葉を託されているらしい。
伝えるべき者がいる。その身のために己を盾とすることは、厭わない。
けれどとグリーフは同時に思う。『自分』には伝えるものがなくとも、『彼女』が伝えたいものを伝えられないかと。
元より他者の記憶を持つ者だ。秘宝種については謎が多いが、グリーフのその一点のみを考えたら他者の魂を招き入れる奇跡だって起こせるのではないか?
(フェイリスさんは、たしかに魔種です)
イレギュラーズにとって、世界にとっての敵。滅びのアークを集めるモノ。それでも『失った愛する人に手を伸ばし続ける』という行動原理だけは、ニアを求めて作られたグリーフに否定できない。
――けれど、可能性は未だ応える余地を持たない。彼女の器には、一分の隙間も無いほどに満たされているから。
「お前はここで終わりだ」
ヴェイに向かって希は闇の炎を放ち、あたりに腐臭が立ち込める。
殺され、命を弄ばれた時点で復讐は十分なはずだ。これ以上の死体蹴りは必要ない。与えるべくは、随分前に与えられるはずだった――死という名の解放だ。
ベネディクトは戦いながら、フェイリスの様子を窺う。
(お前が言葉を聞きたい相手は他に居るのだろう)
それに一番聞き入れる相手も彼女なのだろうとベネディクトは思う。何せ、自身も堕ちていたところを好いた女性に助けてもらった身なのだから。
フェイリスから受けた傷をリュティスに癒してもらい、ベネディクトは声を張り上げる。
「耳を塞ぎたくなるかも知れん、嘘だと思うかも知れん。それでも、受け止めろ! 彼女を本当に愛していたのなら!」
「受け止める必要なんてない! 彼女は――ルーシェは、いつか帰ってくるんだ!」
ベネディクトが彼の勢いに押される。それを支えながらリュティスは「本当に?」と投げかけた。
こうして無理やり生き返らせて、それが本当に望んでいることなのか。フェイリスが自身の気持ちを一方的に押し付けているだけではないのか。
「街の人たちを犠牲にして、それでも生き返りたいと望むような方だったのでしょうか?」
「ああ、彼女は悲しんでしまうかもしれない。だがそれなら、街の皆も生き返れば問題ないだろう?」
――その為に、またどれだけの犠牲を払うつもりなのか。
リュティスはなおも言い募ろうとして、やめた。狂った人間とまともに話そうだなんて無理がある。
「それならお前は、彼女を理由に人を殺める事を是とするのか!? そんなことをしたかったんじゃないだろう!」
しかしベネディクトはなお言葉を重ねた。そこへフェイリスがキメラをけしかける。
「勿論。俺だって元から魔種なワケじゃない、『この街の住民』だ」
ルーシェだけじゃない。友人もいたし、それなりに可愛がってくれる年かさの者たちだっていた。それでも、反転してしまったのは。
(そこまで、深い想いがあったから……)
モンスターを蹴散らしベネディクト達に加勢していた花丸は僅かに睫毛を震わせる。たった1人の為に反転してしまうなんて、一体どれだけの想いなのか計り知れない。
けれどもそれに同調してはならないのだ。これはしてはならないことだから。花丸の拳は今、この街の住民を護るためにあるのだから。
サンディの一撃がフェイリスへ呪いを与えんと加えられ、同時にサンディへ僅かの癒しを与える。その背後から飛び出したシキは迷いなくフェイリスの首を狙って攻撃を仕掛けた。威力が上乗せされたそれは辛くも、フェイリスが盾として召喚したまがいものに阻まれるが――それが、ひび割れる。
ぼたぼたと、赤いシミが地面にできた。サンディはフェイリスに注意しながら視線を巡らせる。
(声が聞こえるなら……)
いや。声が聞こえなくとも変わらない。サンディは元々『何も知らない』のだから。
「なあ、レディ。奴に伝えたいことがあるなら、言っとけよ。僅かにでも伝わる可能性があるとしたら、今だけだ」
先にも後にも機会はないかもしれない。彼の言葉に小さく息を呑む音が、聞こえたような気がした。
オリーブが至近戦でフェイリスへ仕掛ける。多少の怪我なんてつきもので、むしろこの場は数人が敵を押さえてくれるからまだマシかもしれない。あとはひたすらに攻撃を加えるのみだ。
(痛い物は、痛いけど……)
受けた傷は当然痛む。もちろん回復してほしいが、癒し手がひっ迫する場ではある程度我慢する他ない。
「ベ卿ヤバヤバじゃん!」
秋奈が彼の前へ滑り込み、フェイリスの抑えを代わる。誰も倒させなどするものか。
「邪魔だ」
「うんうん、邪魔してるんだよ。此処は通せないのさ」
あなただから、通さない。
秋奈はやれるものならやってみろと挑発的な視線を投げかける。同時に、フェイリスの周囲から新たなモンスターが生み出された。
(けれど、少ない……そろそろか?)
Я・E・Dは味方を回復しながら周囲へ視線を走らせる。敵の物量は減ってきた。こちらの被害もЯ・E・Dだけではカバーできないほどに甚大だが、ここで引くわけにはいかない。
「皆、まだいける?」
「おうよ。このサンディ様に任せとけ!」
「い、痛いのは嫌ですけれど……!」
サンディが魔種を引きつけんと前へ出て、オリーブは歯を食いしばりながら攻撃を放つ。
やるなら、今か。
「お伽話を見せてあげる。何度も繰り返して貴方の望んだ『いつか』を今、ここに!!」
Я・E・Dのドリームシアターが形を取り始める。彼にとっては忘れられない、だというのに懐かしい、愛した彼女の姿を。
「ルーシェさん、あなたの声で言葉にして」
聞いて、覚えて、それを幻に乗せるだけ。Я・E・Dが幻という形で、誰にでも見えるルーシェを作り出し彼らを疑似対面させる。それこそが彼女の作戦だ。
しかし。戦場で彼女は『あまりにも集中し過ぎていた』。
「ぐっ……!」
横合いからの衝撃にЯ・E・Dの息が詰まる。集中力が途切れる。けれど――間に合った。
愛してる。その一言が彼女の声で、彼女の幻を揺らがせながら零れ落ちる。
それこそ彼女が最期の言葉を告げて、消えてしまったように。
「あれは、紛い物……偽物に何を言わせたところで、」
「その割には動揺しまくりだけど、な!」
サンディと息を合わせてシキが仕掛けていく。ふらついたЯ・E・Dはフェイリスを見て、小さく目を細めた。
失った愛の為に魔種へ落ちた、悲しい人だと思う。だからこそ、最期に『愛』を思い出して欲しかった。貴方を救う事はもうできないから、尚更。
「君を明日へ導くのは、後悔でも恨みでも悲しみでもない」
「いいや……明日なんて、彼女がいない明日なんて来なくていい!!」
シキに対するフェイリスの言葉に、雷切を撃ち放ったイズマは小さく眉を寄せた。そこまでして諦めたくないか。
(諦めないのは結構だけど、そのやり方では最後の可能性……見届けてる彼女には気づけてないじゃないか)
それではダメなのだ。ツァンラート(歯車)は動き出さなければ。つい先ほどまで時を繰り返していたそうだが、この街は外の世界と繋がって、歯車をかみ合わせて、明日へ向かうべきなのだ。
フェイリスの想いを直接ぶつけられるような衝撃から庇われながら、シキは首を振った。
どれだけ否定しても、どれだけ逃げても、いつか明日はやってくる。来なければいけないのだ。
「人の想いと魂。それさえあればまた彼女に出会えるよ。……ううん、出会えるように、私がきっと導いてみせるから。だから、お願いだ」
昨日は昨日で、今日は今日。
この街の全ての人に。
亡くなってしまった彼女に。
彼女に置いていかれてしまった貴方に。
「明日が、欲しいんだ」
思わず呼吸を止めてしまったような、その一瞬。蒼天へ伸ばさんばかりの、花丸の拳が強く彼を撃ち。
壁へ打ち付けられたフェイリスは、呻き声ひとつあげて床へと転がった。
ぴくりとも動かなくなったフェイリスへ、そっとアリアが近づく。気配を感じたのか視線を向けられるものの、指すらももはや動かせないようだった。グリーフが体を張って引き付けていたヴェイも使役するほどの力がなくなったか、その身を構成していたものがぐずぐずに崩れていく。
(情け、なんて大層なものではないけど)
アリアは静かにギフトを発動させた。演技(まね)るのは彼の恋人の声。視線で探せば、戦いの最初こそほとんど見えない場所に隠れていた彼女もイレギュラーズの呼びかけによって遠目から見ていたようだった。視線が合って、彼女がゆっくり寄ってくる。
(彼には……見えて、いなさそうだけれど)
アリアの隣まで彼女がおりてきても、その視線はうつらない。だからこその自分だとアリアは言い聞かせる。
あとは、彼女が伝えたい事を口にしてくれさえすればよい。それに合わせて、伝えるだけだから。
アリアの口が、ルーシェに続く。ゆっくりと瞼を閉ざすフェイリスにその声は聞こえているのか否か、わからないけれど。
最期の表情は、穏やかに見えた。
これで、時計塔の異変奇譚は終焉を迎え。明日がこの街にやってくる。
(まだ、街の人は混乱の中だろうなあ)
アリアはバルコニーへと視線を向けて、小さく目を細めた。そこにいたのは光の粒となっていくルーシェの姿。
消えゆくルーシェに秋奈は苦笑を浮かべる。その視線はこと切れた彼女の恋人へ向けられていて、どことなく――拗ねているようにも思えたから。
彼女からすればやはり、生きていてほしくて。けれどもこんな結末もまた、仕方がないのだ。
「墓守さんも色々苦労してたんだよ。だからそっちで会えたら、ちょっとは許してあげてね?」
どうかしら、なんて。その声音は優しく、その場にいたイレギュラーズの耳に触れた。
(……あの世で彼女と幸せになるくらいは祈ってあげましょう)
リュティスは光の残滓を視線で追いかける。どうか、彼もあの元へ行けますように、と。
「ふぅ、流石にこの量は疲れたな……」
すっかり敵の引いた広場でブレンダが座り込む。加減しながら戦い続けるというのは中々しんどいもので。
けれどもこの広場の状況こそが、時計塔上での決着をも表しているだろう。無事に解決、と言った所か。
「おいヘバったでありますか? ヘイヘーイ!!」
そこへペーン!! と尻に衝撃が走り、次いでやかましい影が反復横跳びを繰り返す。はたかれた尻をさすりながら、ブレンダはエッダへ文句のひとつも言ってやろうかと思ったが――。
「反撃したいなら追いかけてくるでありますよ。ヘバったブレンダに追いつけるとも思いませんが~」
「言ったな??」
戦闘直後だと言うのに追いかけっこをし始めるエッダとブレンダ。ブレンダがそのまま住民救助や回収に駆り出されるのは、もう少し後の話である。
「終わった終わった! 混沌今日もいとめでたし、だぜい!!」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
これにて、終幕。
長くご参加頂いた皆様も、途中から興味を持ってご参加下さった皆様も、ありがとうございました。
それでは、またのご縁をお待ちしております。
GMコメント
●Danger!!
第3回に参加していたPCは、行動内容に関わらずこのシナリオ開始時に『HP・AP8割』からスタートします。優先付与があるPCも同様です。ご了承の上、ご参加ください。(装備・スキル等は変更して構いません)
また、このシナリオは『原罪の呼び声』が発生する可能性が有り得ます。
純種のキャラクターは予めご了承の上、参加するようにお願い致します。
●成功条件
魔種の撃破
●ご挨拶
愁と申します。
この<廻刻のツァンラート>は鉄帝の街『ツァンラート』を舞台とした全4回予定の長編シリーズです。これで長編シリーズ最終回となります。勿論この回だけの参加も可能です。
第3回から程なく。同日の出来事となります。今回新規参加の方はシャルルやパルスたちについてきたということになりますし、前回から参加の方は彼女らと合流したというところからになります。
尚、このシナリオはHardですが、パートによって若干の差はあります。
●プレイングについて
この長編シリーズではパートが分かれています。
プレイングの1行目にパートの数字を、
プレイングの2行目に同行者の名前or同行タグを、
プレイングの3行目から本文を書いてください。
例:
1
【ひよこ隊】
時計台に登ってみよう!
●パート1:魔種撃破
時計台の上、立ち入り禁止区域だった場所に魔種がいます。彼を撃破しなければ、この事件は終わりません。
魔種は再び結界を張り、ループを始めようとしているようです。一刻も早く止めなければ、再びのループ中に街は狂気で満たされてしまうでしょう。
・エネミー
『魔種』フェイリス
墓守だった男であり、この場で死んだ女性技師の恋人でした。その悲しみと望み故に反転したようです。
彼が望むのは『彼女ともう一度会う事』。会ってどうするのかは不明です。
ネクロマンサー的な能力を持っており、非常に強力なエネミーです。神秘適性が高く、そこまで強力でないモンスターであればその場でも容易に作り出せるでしょう。
能力の全貌はわかりませんが、彼自身も戦闘経験はあまりないようです。そこそこ動きは粗削りでしょうが、魔種である以上油断はできません。
尚、彼にだけルーシェの姿を見ることができませんし、声も聞こえません。
『殺人の果て』ヴェイ
ルーシェを殺した殺人犯、だったもの。フェイリスによって改造され、使役されています。彼の意志は既にありません。
姿は様々な肉や骨を混ぜ込んだキメラであり、大型な四つ足の獣に爬虫類らしき尻尾がついたものになっています。
図体の大きさから、攻撃は基本的に広範囲へ届くものとなります。
また、2レンジ以内に入ると様々なBSの判定が起きるようです。BSは様々なものが内包されており受けないとわかりません。
・NPC
ルーシェ
幽霊の女性。この舞台で死んだ女性技師であり、魔種の恋人でした。
魔種から彼女のことは見えませんが、皆さんには見えるし言葉も聞こえます。
戦闘中は誰の視界にも入らない場所で見届けているでしょう。
●パート2:狂った住民の対処
狂気の伝播に影響された住民や動物たちが時計塔へ詰め寄ろうとしています。パート1に向かうPCたちを突破させ、また後を追わないよう食い止めることが必要です。
幸いにも時計台前には広場があるため、移動や攻撃レンジを気にせず戦うことが出来るでしょう。半面、『良い的』になることも承知おきください。広場からは大通りだったり路地に繋がる道がいくつもあります。
このパートが上手くいかないと、シナリオ全体へ影響があります。
・エネミー
狂った住民たち×???
魔種の狂気で狂った住民や動物たちです。早期撃破すれば正気付く可能性がありますが、確証はありません。
一様にゾンビのような動きで迫ってきます。力が強く、俊敏です。ただし防御技術はそこそこのようです。
包丁などの生活用品を始め、護身用の剣を持っていたり、自警団の者も狂気化しているようです。遠距離攻撃の出来る者もいるかもしれません。
・NPC
『アイドル闘士』パルス・パッション(p3n000070)
鉄帝、ラド・バウの闘士でありアイドル。最初の調査に少し関わったあと、この街を気にしていたようです。
それなりに戦えるので皆さんと共闘してくれます。
●パート3:避難誘導
このパートは比較的安全です。
街がループから解かれたことにより、住民たちは外へ出られるようになりました。思考も正常ですが、自分たちの感覚と日付がずれていることにより若干の混乱が見られます。
彼らが狂気の伝播でおかしくなってしまう前に、街の外へと逃がしてあげる必要があります。また、避難中に狂った住民から襲われることもあるでしょう。
このパートが上手くいかないと、パート2の敵が増えます。
・エネミー……パート2と同様です。
・NPC
『Blue Rose』シャルル(p3n000032)
ウォーカーの少女です。第2回で少しだけ調査に加わっていました。
神秘攻撃ができます。イレギュラーズの指示に従います。
弟子入り希望者×3
ツァンラートへ弟子入りに来た技師の卵たち。乗り掛かった舟ということで避難誘導を助けてくれます。
ただし戦闘能力はなく、狂気にあてられる可能性があります。イレギュラーズの指示に従うので、戦線離脱させるのもアリです。
●パート4:その他
自由行動できますが、行動に対しての成功は保証されません。
●過去作
第1回:<廻刻のツァンラート>隔絶された街
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5085
第2回:<廻刻のツァンラート>廻りゆく街
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5331
第3回:<廻刻のツァンラート>巻き戻りの街
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5586
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