シナリオ詳細
<夏の夢の終わりに>白き孤独
オープニング
●
玉座の男が、忙しなく足をゆすっている。
真冬のように暖炉を灯していたが、冷え込んだ空気はなかなか暖まらない。
季節は八月半ば。
残暑などと呼ぶ向きもあるが、経験則からすれば夏真っ盛りである。
だがここ妖精郷アルヴィオンは『常春の国』として知られていた。
そんな妖精郷を、夏でもなく、春でもなく、極寒が襲っている。
いずれにせよ、異常事態には違いない。
「寒いよねえ。外套持ってくれば良かったかなあ。あ、コーヒーいれてくれない?」
「かしこまりました」
男――魔種タータリクスは配下の『キトリニタス・アリア』から、温かな飲み物を受け取る。
よりにもよってイレギュラーズの細胞を使い、妖精の命を燃やして動くおぞましい怪物だ。
身体の一部を素材になど利用された被害者当人――アリア・テリア(p3p007129)が知れば憤慨するであろうが、何の偶然か側近や、あるいは侍女のように重宝されているらしい。
「あっ、あっつ! ふうー! ふうー!」
タータリクスが腰を預けているのは、妖精城アヴァル=ケインの玉座である。
本来の主は妖精郷アルヴィオンの女王ファレノプシスであるが、タータリクスは彼女へ暴力的かつ一方的な懸想を抱いていた。即ち自身はファレノプシスと結ばれるべき『運命の人』であり、そうであるならばこの玉座は自分の所有物――彼流に述べればハニーとシェアする――という認識である。
勘違いも甚だしいのだが、それを指摘する者は誰もいない。
この魔種は、それらの空虚で非道な妄想を原動力として、妖精郷を徹底的に蹂躙した。
数多くの妖精を殺め、あまつさえ命を外道の技術へ利用したのだ。
「僕ぁ許さないぜ、イレギュラーズ!」
そんなタータリクスが激昂しているのは、捉えた女王をイレギュラーズが奪還した事に拠る。
許すもなにも、イレギュラーズが行ったのは奪還である。そもタータリクスは略取した側で、つべこべ述べる権利はなかろう。
「ああファリー……もうすぐあいつらが来るよ」
ファリーとは女王につけた勝手なあだ名であり、あいつらと云うのはイレギュラーズの事である。
女王を奪還したイレギュラーズは、妖精郷から魔種を駆逐するため決戦の準備を整えていた。
無論タータリクスとて、いたずらに手をこまねいていた訳ではない。
配下の怪物を着々と増やし、迎撃等の用意をしていたのだ。
「ファリー……心配だなあ。ひどいことをされていないかなぁ。寂しいよね、苦しいよねぇ」
これまで散々ひどいことをしたのはタータリクスであるが、それを教えてくれる者は誰もいない。
「フユツキさん、B(ビィー)ちゃん。最後まで力になってくれて本当にありがとう……」
魔種達とその協力者は、各々が別の目的で手を結んでいた。
Bと名乗る魔種ブルーベルは、妖精郷に眠る古の大精霊たる邪妖精『冬の王』を封印していた力を。
協力者クオン=フユツキは、『冬の王』の『力そのもの』その大部分を、それぞれが手に入れた。
用が済んだ彼等は妖精郷を後にし、封印解放の余波と、『冬の王』の力の残滓――抜け殻は常春の都アルヴィオンを冬に閉ざした訳である。
それは籠城しながら女王奪還を目指すタータリクスにとって、利用出来る現象ではあろう。
大自然の驚異そのものである冬の精霊力は、地の利を持つ側に有効な作用をするのだから。
そしてブルーベルとクオンは、別にタータリクスのためを思ってやった事ではない。
誰もが利用し利用される関係であった筈だが、歪んだ認知を正してくれる者は誰もいない。
誰も居ないのは、何も協力者達が去ったからではなかった。
友人と呼ぶブルーベルも、恩人と呼ぶクオンも、はなからそんなつもりはさらさらなかったのである。
――羽音と共に、巨大な目玉にコウモリの翼を生やしたような奇っ怪な魔物が現れた。
「はぁー……来ちゃったかあ」
瞳に映し出されたのは、この妖精城に進撃するイレギュラーズ達の姿だ。
「……ずいぶん多いな」
冬に閉ざされた妖精郷を救うため、イレギュラーズは深緑の迷宮森林警備隊や、戦う力のある妖精と共に連合軍を結成しているからだ。
「それよりさあ、もっとマシな情報もってこいよなあ!」
タータリクスは魔物を蹴りつける。
哀れな魔物はネズミのような悲鳴を零すと床に転がった。
「僕が作ってやったんだぞ! 創ー造ー主だ! わかってんの! え!?」
蹴り飛ばす。
「仕事はね、成果を出すものなんだよ! 相手をね、喜ばせるんでしょうが!」
もう一度蹴り飛ばす。
「誰が喜ぶの、ねえ、これ! 僕ぁちーっとも、嬉しくなかったよ!?」
タータリクスには他者の機微が理解出来ない。
己を妨げるものにただ怒り狂い、暴力で制圧せんとする怪物である。
魔物の身体はぐずぐずに崩れ、握りしめていた赤色の宝玉がころりと転がった。
タータリクスが造り出したフェアリーシードという物体である。
アルヴィオンの住人たる妖精を閉じ込め、その命を燃料とする非道の結晶であった。
「こんなの持ってきてたの? またアルベドが壊れたのかぁ……はぁー。使えないなあ」
妖精を救出する手立てはあるが、破壊は即ち妖精が命を失う事。
「そーれ!」
タータリクスはそれを、躊躇うこと無く無造作に踏み砕いた。
「さー。忙しくなりそうだぞぉ……
待っててね。ファリー。何もかも終わったら……結婚しよう」
●
イレギュラーズと迷宮森林警備隊、そして妖精達は、妖精城へ進撃する準備を整えていた。
作戦会議の場でいくらか混乱していたのは、迷宮森林警備隊である。
「素人か?」
誰かが言った。
妖精城を占拠する敵は籠城らしき構えを見せているが、こちら側の拠点となるエウィンの町への攻撃も続いているのだ。
敵は個々のグループでは統制が取れていたり、いなかったりと様々だが、全体としてはまるで『なっていない』としか言いようがない。
迷宮森林警備隊とて、城攻めなどしたことのない者がほとんどであろうが、それにしても敵の戦略は穴だらけのようだった。
とは言え、それも当然であると言える。
タータリクスが人間であった頃は市井の錬金術師であり、軍略など知る由もない。
魔種となってからも、そんな知識も経験も仕入れている訳がないのだから。
軍略はひとまず置いておこう。
魔物や魔種は、対人とは全く異なる脅威である。
やることは小さな戦争に近しいかもしれないが、実体は魔物の討伐作戦に類するのだ。
しかしどちらかといえばイレギュラーズも、迷宮森林警備隊も、魔物の討伐を得手としているのだ。何ら問題はあるまい。
そしてこの部隊が行うのは、敵首魁タータリクスの討伐である。
妖精城アヴァル=ケインの奥深くまで進撃し、確実に抹殺するための部隊だ。
タータリクスは魔種であり、迷宮森林警備隊や妖精達が直接ことを構えるのは得策でない。
故に少なくとも、タータリクス戦だけはイレギュラーズのみで行う必要がある。
また城内を守っているであろう強敵の討伐もまた、やはりイレギュラーズが良いだろう。
敵はアルベドやキトリニタスといった、イレギュラーズを模した怪物を製造している。
もちろん勝手知ったるイレギュラーズが相手するのが良いのは、言うまでもない。
じっと地図を眺め、指をさす。
「この細長い所はどんなところ?」
「廊下なの! すっごくすっごく広いの!」
質問した『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)に『花の妖精』ストレリチア(p3n000129)が答える。
一連の事件は魔種タータリクスが起こした事件であったが、妖精達がタータリクスと出会ったのは二十数年前に遡る。
アルヴィオンから遊びに来ていた(当時まだ女王ではなかった)ファレノプシスとストレリチア達は、少年時代の――そして当時は善良であった――タータリクスに出会っていた。
ストレリチアが女王にイタズラを仕掛けた際に、薬草をとりにきたタータリクス少年に見つかってしまったのである。
情報屋の調査で偶然それを知ったストレリチアは、己を責めてひどく落ち込んでしまった。
タータリクス反転の原因はクオン等の策謀によるものであり、ストレリチア達になんら因果関係はない。
だが『あの時』に軽率なイタズラなどしていなければ。
もしも出会わなかったなら、妖精郷は平和なままだったのかもしれない。タータリクスもまた善良な人間のままで居られたのかもしれない。そう思えてならなかったのである。
茫然自失のストレリチアに対して、イレギュラーズ達は温かな言葉をかけた。
泣きはらした彼女は翌日――おそらく未だ振り切れた訳ではなかろうが――どうにか立ち上がる。
そしてイレギュラーズに懇願した。
――お願い、助けてほしいの! 春を取り返してほしいの!
――あの時の子を……タータリクスを殺して!
きっぱりとした言葉だった。
イレギュラーズの本業は魔種の討伐、なにより可能性の蒐集であり、ストレリチアに言われるまでもなく、成さねばならぬ事である。
だが参戦を決意したストレリチア達、妖精に免じて『そういうこと』にしておいてやるのも、あるいは悪くないのかもしれない。
ともあれ全ての準備は整った。
魔種が立てこもる城は、本来は妖精達が使用していた古代遺跡だ。
あらかたの地図は分かっている。
総勢百名に近い部隊は、城内の地図を入念に確認し、頷きあった。
さあ、進撃開始だ。
●
アヴァルケインの城内で、真っ白な少女が座り込んでいた。
「あなたには、愛する妖精の女の子がいるのよね」
呟いたのはアルベド――タイプミラーカだ。
「あなたは、そこに返されるべきなのよ……」
イレギュラーズであるミラーカ・マギノ(p3p005124)を模した怪物は、己の胸に手をあてそう呟いた。
その胸を貫けば、そこにあるコア『フェアリーシード』をくりぬけば、願いは叶う。
爪の先が白い肌を抉った。
思ったよりもずっと硬い。考えていたよりもずっと痛い。
赤い血液など流れはしない。アルベドは、そんな風には作られていなかった。
白い組織液に濡れた指が止まる。プログラムされたかのように、防衛本能が手を止めてしまう。
己が身を傷つけるのは――こんなに難しいのか。
――待って!
誰かが叫んだような気がして、アルベドミラーカが振り返る。
けれどそこには、誰も居はしなかった。
――お願い、やめて!
頭の中に直接響いてくるような声の正体は、胸のフェアリーシードからだ。
「あなた、は……」
――わたしはアザレア。お願い、力を貸して!
額を抑えたアルベドミラーカは、「どうやって」と呻く。
――戦って。私と一緒に!
「駄目よ! あなたには、愛する女の子がいるんだもの!」
――だから戦いたいの!
でもわたしは、無力なの! でもあなたは違う!
「あたしは、あなたの命を燃やして動く、ただの化物じゃない!」
――でもわたしと一緒なら、戦える。
「あなたには、愛する女の子がいるんじゃない!」
間に入るなんて、まっぴらごめんだった。
けれどその叫びに答えたのは、くすくすとした笑い声だった。
その笑い声は、なぜか胸の奥をくすぐるようで。
温かくて、けれど酷く寂しそうで……。
――わたしの命が燃え尽きたら、あなたは死んじゃうんでしょ?
「そうよ!」
――イレギュラーズと戦ったら、あなたは死んじゃうつもりなんでしょ?
「ふふん、そうに決まってるじゃない!」
――タータリクスを殴りに行くなら、もう少しだけ長く一緒に居られるかもしれないでしょ?
「……え?」
――なんでそんなに、にぶいのよ!
わたしは好きな人と……あなたと少しでも長く一緒に居たいだけなの!
- <夏の夢の終わりに>白き孤独Lv:20以上完了
- GM名pipi
- 種別決戦
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2020年09月02日 23時36分
- 参加人数52/50人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 52 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(52人)
サポートNPC一覧(2人)
リプレイ
●Estate nel cielo freddo I
――夏の終わり。
季節の頃は、そのはずである。
石畳は霜に覆われ、踏みしめた堅氷は、靴底に些かの滑りも感じない。
吐く息は氷室のそれより尚白く、そこが厳寒のただ中にあることを実感させる。
俄な冬に覆われたアルヴィオンは、そびえ立つ城を中心に闘撃の音を奏で続けていた。
妖精郷を蹂躙した魔種共は遂に、この城を初めとするいくらかの戦域に追いやられている。
イレギュラーズと深緑の迷宮森林警備隊、そして妖精達の連合軍は、殆ど局地戦に勝利を収めたのだ。
畢竟――ここ妖精城アヴァル=ケインが決戦の舞台となる訳だ。
「魔物とその親玉の討伐戦! わかりやすい悪者でいいね、遠慮なくぶっ潰せるよー!」
ヒィロは星天の煌めきを湛える刃で、遠く視線の先を真っ直ぐに指す。
一行目指すは城の最奥、魔種タータリクスが居るであろう玉座の間だ。
「流石は魔種とでも言う? 統率もせずよくもこんだけ沸かせたもんね……」
呟く美咲。二人の眼前、視界を覆のは敵、敵――敵。
呆れた声音の美咲は、しかし微塵にも臆することなく、その瞳を鮮烈に輝かせる。
「蹴散らすよ、ヒィロ!」
「先駆けはボク達に任せて! ね、美咲さん!」
先陣を切るヒィロと全く同時に、美咲もまた術陣を紡ぎ上げる。
一行は無数の敵陣を貫いて大広間を抜け、中庭を越え、魔種の待つそこへ向かう事になる。
「ボクが相手だよ!」
凜としたヒィロの声音に、魔物共が剥き出しの敵意を向けた刹那――強烈な雷撃が敵陣を劈いた。
「妖精さん達は、長篠の三段撃ち……と言っても伝わらないか」
「たぶんー、わかるとおもいます!」
妖精兵の返答に美咲は首を傾げる。
崩れないバベルがあるとはいえ、真意までしっかりと伝わるとは限らないから。
「とにかく部隊を小分けしてローテしてね」
「はいな、私達におまかせください!」
美咲の周囲を飛び三列を作り横並びした妖精達。
「いっくよー! ブラックドッグス!」
その最前列の組が一斉に黒曜の雷霊を召喚し、火力を敵陣に叩き付ける。
「良かった……」
友軍との適切な連携と統率――クェーサーの妙技があれば、戦闘の効率は如実に高まるはずだ。
意図が伝わった様子にほっとした美咲は、すぐさま次なる術式の構築を開始する。
「いいかんじ! そこのけそこのけ狐が通ーる! このまま中庭への道を敵の血で舗装しちゃお!」
ヒィロは天真爛漫な笑みを浮かべて凍てつく赤の道へ切り込み、けれど物騒なことを述べ――
佐里が手を広げる。
ふわりと舞う光糸は驟雨の如く、オートマタが、ニグレドが貫かれ弾ける。
急ごしらえの連合軍は、互いが保有する技術、役割にポジション、緊急事態の対応力の把握も難しい。
仮に出来ていたとしても、連携能力の高さと信頼関係は一朝一夕に築けるものではない。
だから――
(上手く回すんじゃない、上手く回るように手を添える)
「あっちが奥です」
宙を駆ける佐里の言葉に頷いた仲間達が互いに指示を飛ばしあい、矛先を定めた。
「敵の数も多いけれどそれに対抗するには数だよね
あたしが支援するからみんな遠慮なく戦って!
勝って平和な妖精郷を取り戻すんだ!」
「ああ、無論だ。私達も迷宮森林からはるばる観光に来た訳ではないからな」
「ここで勝たねば明日は我が身、ならおじいちゃんも気合い入れて頑張るサ。
大本を叩く理由は特にないから、警備隊を連れて数いる雑魚を叩いて大広間より奥に行かせないよう。
やってやろうじゃないカ!」
「よろしく頼む!」
バスティスとジュルナットに応じて、迷宮森林警備隊が前進する。
広間では多くの仲間達もまた、交戦を開始していた。
「道を切り開きます」
「今回もよろしく」
オリーブと目配せしたミヅハは天穿つ弓に矢をつがえ――閃光。
中庭へと続く広間を駆け抜けた光が、敵陣を巨大な扉もろともに貫きこじ開ける。
「くしゅん! ……やっぱ冷えるなぁ」
吹き付ける冷気にミヅハはくしゃみを一つ。
轍のような跡をなぞるように駆け抜けるオリーブは、迫り来る人工精霊を長剣で斬り捨て突き進む。
早くも、道は開かれた。
防がんと殺到する敵へ、ジュルナットは星狩りの大弓を構え、放たれた無数の銀閃が敵陣を穿つ。
ハーモニアの剣士がオートマタのナタを細い剣でいなし、精霊使いが敵陣奥深くに風刃の嵐を放った。
取り囲まれた剣士を無数の触手が捉えるが。
ジュルナットの矢を浴びたニグレドがグズグズと崩れ落ち、剣士を解放した。
「私達は、負けないよ!」
バスティスの放つ癒やしの術陣、清らかな天音が仲間達の傷を瞬く間に消失せしめる。
「やることあるなら、綺麗に済ませてきなさいな」
ヒィロを狙う敵に雷撃をたたき込んだ美咲が声を張る。
「ここは任せて、先に行って!」
勝ち気な笑みのヒィロに導かれるように、一行は――
●La rosa della neve I
サンディが踏みしめた中庭は、まるで全てが氷の彫刻で出来ているようだった。
一行の眼前に現れたのはイレギュラーズの仲間であるアリア、そしてアルテナ――二人に良く似た怪物であった。纏う黄金の瘴気は肌が泡立つ程に醜悪で、それらが人ではないことを克明に告げている。
イレギュラーズは手筈通り【戦歌】【害歌】に分かれ、それぞれを撃破する手筈だ。
「侵入者は撃破するんだよね、こっちは任せて!」
キトリニタス・タイプ・アルテナは些か抑揚を欠く声音で呟くと、細剣を構えて駆けてくる。
「もうちょっと甘え上手になりゃモテそうなのにな、黄ルテナちゃん」
「ちょっと、それどういう意味?」
サンディの軽口に、こちらは本物のアルテナが答えた。
「いや、はは」
一行に迫る黄アルテナは、魔力を乗せた鋭い剣撃を放つ。
仲間達とはやや距離を取り、サンディは黄アルテナを囲むように回り込んだ。
切っ先に乗るのは爆発的な魔力。
「風牙さん、気をつけて! その偽物、私なんかよりずっと強い!」
アルテナの叫び。
初撃をはじき返したのは愛槍烙地彗天を構えた風牙であった。
腕から駆け抜ける重い衝撃に、踵が足元の氷を砕き、蜘蛛の巣のように亀裂を走らせる。
なるほど、これは強敵だ。
支援なしで受けきれるのは二度程度だろうか。下手をすればもう一撃で意識を持って行かれかねない。
「オッケーオッケー、今回のオレの役目はここに決めた」
このパチモノの内面がどうなっているのかは知れないが、少なくとも立ちはだかる以上は敵だろう。
手加減も躊躇もしない。ただ、斬るのみ!
生い立ちが、経緯がどうであれ、人の世に仇為す悪であるなら討つのが自信の務めだと胸に刻み。
「これで問題ないな」
「サンキュー!」
温かな光が風牙を包み、体を蝕む軋みを瞬く間の内に消し去った。
両チームの中心に立つゲオルグは、都度臨機応変な支援を行う算段だ。
斬り結ぶ風牙と対角線上に、雪之丞が黄アルテナを挟撃する。
「おいでませおいでませ。決して唯一無二に為れぬ紛い物。矛先は此方に。憎悪は此処に」
柏手一つ。
響き渡る鈴に似た音色に黄アルテナが振り返り、刃を雪之丞に向けた。
「なに? やるつもり?」
ぞっとするほど同じ、けれど凍えるような声音に。
「知人の姿を真似られるのは非常に不愉快ですから」
雪之丞もまた二振りの夜刀を抜き放つ。
「動きだけは、本当にソックリだけど!」
黄アルテナの立ち回りは、イグナートの知るアルテナと実に良く似ている。
それが刺突を放った直後に、振り抜かれた渾身の拳――絶招・雷吼拳!
轟音と暴風さえ伴う勝利の一撃に、
「よく見てるのね。中々抜けない私の悪い癖。傷ついちゃうかも」
「サンコウに出来て良かったよ」
アルテナのぼやきにイグナートが答え、二人は少し笑う。
「タータリクス……魔種どもが、調子に乗っていられるのもここまでだ。この世界の“癌”は皆殺しだ!」
獰猛に吠えたハロルドが聖剣を抜き放ち、二重の防壁を展開する。
「また私だ!」
同じく中庭にたどり着いたアリアが、思わず口元に手をあてる。
エウィン奪還戦の折りに、自身を模したアルベド(白化)のホムンクルスを完封したアリアだが、相手はどうも更に完成度を高めてきたらしい。
しかしまるで側近のような扱いであったが、なぜ自身(アリア)なのだろうと思う。
誰かに似ていたりするのかもしれないが――考えるのは後だ。
キトリニタス・タイプ・アリアが立ち塞がるハロルドを指さした。
足元に生じた四角形から四条の光が走り、ハロルドを閉じ込める。
「スケフィントンの娘……じゃない。違う、あれは、なんだろ?」
「どっちにしろ、効かねえよ!」
アリアの言葉に顎を上げたハロルドを、禍々しい紫に光る立方体が包み込んだ。
閉じ込められた無数の災厄は、人間一人など粉みじんに消し飛ばしてしまうだろう。
「この前みたいにはいかないよ!」
雷光と共に画数を増しす術陣は遂に小星形十二面体を描き――砕けた。
「これがファラリスの星! って、あれ?」
「で、今のはなんだったんだ?」
「必殺技だよ!」
全くの無傷で現れたハロルドを見た黄アリアは主張するが、直後、災厄の魔光に貫かれる。
「あ、く……っ」
「同じ顔だけど、容赦しないよ!」
「私のほうが、強い、はずなのに。あの時みたいには、絶対させない、だって」
本物の宣言に、黄アリアは僅かにたじろいだように見える。
(なんか、なんていうか、不憫。だけど)
ミルヴィは『もう一つの可能性』を解き放ち、ギターコードと共に幻影の斬撃を放つ。
「対バンだね」
いつもは喧嘩ばかりだけど!
今日の舞剣士はアリアの音を友人として聴き、共に奏でるのだ。
●Albina solitudine I
「入れよ。イっレギュラァーズ!」
玉座の男――魔種タータリクスがさも鷹揚そうに立ち上がる。
中庭を踏み越え、長い廊下を駆け抜けて。
遂に【冬尽】と【花守】、そしていくらかの面々が謁見の間へと踏み込んだ。
「ストレリチアとの出会いで妖精郷を知り、そこへ行きたいと思った……
そういう点では私と似た者同士だな」
憮然と呟いたゼフィラが続ける。
「ま、恋慕が絡む点では違うが……
同類として、妖精郷に迷い込んだ少年の末路をこれ以上汚させないさ!」
まずは仲間を調和の術で支援しつつ、一点突破を狙いたい。
「悪夢の時間は終わりだぜ、タータリクス」
巨大なマクアフティル――黒犬のレプリカを大上段に構えたルカが吠える。
エウィン防衛戦では好き勝手にやらせたが、二度はない。
可憐な肢体に大戦斧を携えたハルアが、辺りを見回す。
最奥のタータリクスが、術式を紡いでいる。
「密集は避けて!」
幾人かが頷く。
「てき」「あどみにすとれーたの、てき」
眼前に迫る白い素体のような怪物に、ハルアは大戦斧を腰だめに構えた。
まずは目の前の怪物達を片付けて、タータリクスに接近しなければならないと、一息になぎ払う。
きらきらとした白い粒子が舞い散り、なるほどさすがに試作品とは言えどアルベドだ。
一撃では落ちてくれない!
「てき。はいじょ、する」
「ぶちのめしてやるぜ!」
続くルカは、眼前に飛び出してきたキトリニタスの試作品ごと、アルベドを斬り付ける。
ハルアとルカの一撃で床を転げた怪物達が跳ね起きた。
その身体から組織液が弾け、宙空でさらさらと砂へと還って行く。
「短期撃破を狙いましょう――邪魔です」
アリシスの放つ意思の波動が、飛び起きて迫り来るアルベドの頭部を粉々に打ち砕いた。
「なるほど……まだ動きますか」
「そりゃそうだよ! 羽虫風情が役立つように、ボクが作ってやった渾身の作品なんだぜ!」
反吐が出る。
醜悪さが目立つ分、反転前は善良であったのだろう。
だが魔種となった以上は関係ないと、ドラマは小蒼剣を構える。
「幻想種の古き友、妖精さん達の女王ファレノプシス様の想いを、ストレリチアさんの願いを背負って。
その捻じ曲がってしまった性の根、叩き斬って差し上げます!」
立ち塞がるキトリニタスへ、ドラマは蒼き月を――それ以上に何かを――思わせる斬撃を放つ。
いよいよ、決戦の中の決戦だ。
高揚を隠せぬきりもまた、長尺の刃を士気杖に持ち替えて戦場を俯瞰する。
(この戦いを妖精郷の英雄譚にするために!)
影の立役者を勤め上げる心算だ。
「恐らく、仕掛けてきます。毒霧の魔術を!」
きっと手下諸共に!
そのギフト『パーティチャット』は仲間達との文字による思念通話を可能とする。
きりとハルアの言葉で散開した直後、戦場を猛毒の霧が包み込み、最前線に立つ数名の肺を灼く。
「どうだい! これが、化学の力ってやつだ!」
「させません――!」
きりは即座に治癒の光陣を展開する。
あの男は――タータリクスは、仲間であるクロバの父によって反転させられたと言う。
恐るべき計略の犠牲者とはいえ、けれど魔種となり行ったことは許せるものではない。
兄も――きっと許さないだろう。
――タータリクスは、大切な姉のことを忘れてしまったのだろうか。
だから。
「せめて、終わらせにいきます」
もうどこにも居ない貴方の為に!
月は陽の影となり、メルナは勇猛果敢・不撓不屈をその身に宿して斬り込んだ。
「前にお前は言ったな。家族は大切に、って」
クロバは喉の奥から声を絞り出す。
「言った言った。フユツキさん、最高の力を手に入れてくれたと思うよ、良かったね!」
「煽ってるようにしか、聞こえねえけど。そんなつもりじゃないんだろうさ」
「家族、の。大切さ……そう、だねえ。なんだったかな」
タータリクスが眉間に皺を寄せる。
「分からなくてもいい。けどな……俺は誰の為でなく――」
”クロバ・フユツキ”として!
身内の落とし前をつける為にいざ、参る!
●La rosa della neve II
中庭では、未だキトリニタス達との戦いが続いている。
凍える程の大気は、あの美しい妖精郷とはまるで思えない。
こんな所業は――許さない。
「こちらです」
黄アルテナの斬撃が雪之丞に迫り――銀翼が弾け飛ぶ。
斬撃を受けとめながらライセルは更に踏み込み、返す赤の刃で黄アルテナを斬る。瘴気が爆ぜた。
身体中を貫くほどの衝撃に、ライセルの口元から血が溢れ――
その影を駆ける雪之丞の剣撃。
白鬼の剣が黄アルテナに黄泉の呪いを刻みつける。
――シュテね、妖精達、助けるしたい……
あまり、助ける、出来な、だったけど……
でもね、でもね…いっぱい、思う……するっ。
なんでかね、いっぱい、思う、するの……っ!
だから。
「ライセル……! シュテ、頑張る、するねっ!」
必至に両手を広げたシュテルンが癒やしの術式を紡ぎ、温かな調律の魔力がライセルを包み込む。
「さすがに重い」
「二人とも、ありがとう」
シュテルンとゲオルグに礼を述べ、ライセルは口元の血を拭い、叫んだ。
「今のうちに攻撃を!」
再びイレギュラーズの猛攻が始まった。
すぐ隣でやはり【害歌】の面々も戦闘を続けていた。
さすがアリアの模造品であろう。
「やっぱり油断は出来ない相手だね。支えきるよ」
呟いたルフナ達は腕を真っ直ぐに伸ばすと、マナを解放した。
凍てつく庭に顕現した『澱の森』が、変質を嫌う霊力を仲間達に展開し常在へと導く。
我慢比べの長期戦は得手中の得手。
仲間達と共にあれば、勝算は十二分だ。
それになんといっても、これがなければ殺風景だから!
激闘は続いている。
「もっと迅く! 鋭く――」
咲き乱れるミルヴィの剣舞は黄アリアを着実に追い詰め、その体力を奪い続けている。
けれど未だ倒れることなく。
「本物はわりとこの戦法で倒れてくれるんだけどねー……」
そのぼやきは、正に怪物を相手とする証左。
「踊ってくれるレディより先にサンディ様がへばってたまるか!」
黄アルテナの放つ氷刃の嵐に切り刻まれ、それでもサンディは可能性を焼きながら肉薄した。
「――これで!」
あまりに生々しい怪物の肌に手のひらをあて、嵐神の暴風を解き放つ。
氷嵐ごと黄アルテナが吹き飛び、柱をへし折るが。
眼前を覆う程の粉塵から弾けるように跳ねた黄アルテナが、宙空で剣を構えた。
再び一直線に雪之丞を狙うアルテナに、イグナートは幾度目かの拳をたたき込む。
「邪魔を、しないで」
「セッカク生まれたんだからジンセイを、戦いを楽しまない? 操り人形で終わるなんて勿体ナイよ!」
「じん、せい……?」
黄アルテナが額を抑えて呻く。
「そう。ジンセイ」
「わから、ない……どうして」
本当に?
再び振り抜かれた拳が問う。
黄アルテナは僅かに眉をしかめて、それでも雪之丞へ細剣を構え。
「守ると、決めたんだ!」
腹部に突き刺さる剣を握りしめ、ライセルが叫んだ。
――俺達は絶対勝たないといけない。
散って行った白ラクリマの命を。
彼が死んだ意味を無駄になんてしない。
『何をこんな所で寝てるんですか』
この声は。
『貴方が帰る場所は俺の本物の傍でしょう』
――ああ、そうだ。
俺はラクリマの隣に帰らないといけないんだ!
消えそうになる意識を支えるような声に。
胸の奥から響く温かな旋律に、ライセルは可能性を燃やして立ち上がる。
イレギュラーズの猛攻の中で、ゲオルグとシュテルンの支えを受け、ライセルは尚も打撃を受け続け。
遂にチャンスが訪れた。
「今だ鬼桜さん、アルテナさん、合わせろ!」
裂帛の踏み込みと共に、風牙音速の刺突が黄アルテナを貫いた。
魔力を帯びたアルテナの細剣が、偽物を突き通す。
その口元から星の欠片のように輝く金色の粒子が舞う。
「これで終わりです」
雪之丞の剣がその首を駆け抜け、キトリニタス・タイプ・アルテナは金色の粒子となって消え去った。
「そらそら! いくよ!」
跳躍した朋子が、相棒【原始真刃 ネアンデルタール】を大上段に振りかぶる。
地を揺らすほどの衝撃に、黄アリアが吹き飛び瘴気が爆ぜる。
思えばリディアの初陣――かの鎖海に刻むヒストリア――でも、鉄帝国軍との共闘で、隣に居た朋子が突進したのを思い出す。
(そう、私自身は未だ未熟でも、頼れる味方が傍にいる――今回も決して、負けはしませんとも!)
蒼の紋を湛える愛剣『蒼煌剣メテオライト』の熱に、舞い散る雪が霧のように揺蕩っている。
煌めく刃に蒼炎の闘気を宿して。
跳ね起きた黄アリアへ突撃したリディアは、獅子の剣撃をたたき込んだ。
瘴気が舞い、斬撃を真正面から受けた黄アリアがついに膝を付く。
「ここでこいつを倒すのがあたしの役目だ!!」
朋子が再び、ネアンデルタールを振り上げ――衝撃。
ただ振り下ろしたその一撃に、黄アリアは光の粒子となって消え失せる。
――だ、め。わた、し。つたえなきゃ、お姉さんの、声。
黄アリアがタータリクスの姉の声を知るはずもない。
真似が出来るはずもない。
真似が出来たとして、代わりになるはずもない。
どだい不可能なことを、為そうとしていた訳か。
「……謝りはしないぜ。あばよ」
怪物に別れを告げ、風牙はあえて想いを背負う。
それから膝をついて落ちたフェアリーシードを両手で包み込んだ。
キトリニタスは――妖精の命を残さず奪い去る邪法によって作られる。
空っぽになっているそれに向けて、風牙は最後に弔いの言葉を小さく零し。
「貴女も、私と同じ命。だけど、貴方が知るべきだったものを、未来を私が奪った」
亀裂とクレーターの中心で、アリアはぽつりと零す。
――ごめんね。赦されるとは思ってないけど、せめてこの先の旅路を一緒に見よう。
小さな祈りと共に。
「さよなら私。そしてこれから宜しくね、私」
金色の砂に包まれた破片をアリアはすくいあげた。
●Estate nel cielo freddo II
「あらあら、まだまだ敵の姿がいっぱいね」
敵の中心に居るのは、恐らくアルベドであろう。あれはタータリクスであったろうか。
魔種を元にしたのか、魔種となる前の何かを元にしたのかは知れぬが、ともあれ敵はそうしたものも扱えるらしい。
フルールは戦いそのものを得手とは思わないが――
「フィニクス? 彼らを火で覆いましょう。紅蓮の焔で砕きましょう」
――私ができるのはただ燃やすことだけ。燃やして砕いて、ただ壊すの。ね。
理性を飛ばし、全てを解き放つ。
次々に現れる無尽蔵とも思える敵を前に、紅蓮凶華を纏ったフルールが艶やかに微笑んだ。
「さぁ、さぁ、焔をここに謳いましょう。紅蓮の夢はここに成るわ」
舞い駆ける焔の大精霊を解き放ち、フルールは眼前の怪物を焼き払う。
――キトリニタス二体の撃破を確認しました!
迷宮森林警備隊が情報を伝える。
「良い感じ! このまま引き付けるよ!」
焼け野原の向こうから、尚も迫る人工精霊の群れにシャルレィスは蒼魔神風を構えた。
駆け、一刀。迫る炎を切り裂き、嵐のような斬撃が炸裂する。
砕けた人工精霊の核が煌めき宙を舞った。
「じゃあ僕も手を貸そう」
露払いを決め込むムスティスラーフが大きく息を吸い込み――閃光が戦場を貫いた。
絶大な威力は広間の氷を爆ぜ溶かし、石畳に轍を抉りながら突き進む。
数体のニグレドが瞬く間のうちに蒸発した。
個人的な感情としてはムスティスラーフは、一連の戦いで自身の模造品に会えるという喜びもあった。
それも、ふんどしから作られたという素晴らしいものに!
とは言え、伝えに行くほどの礼でもない。
想いのある仲間達の為に、道を切り開くのだ。
アルベドには、どうやら心があるらしい。
意思は尊重したいが、けれど最後には妖精ごと命を失ってしまう。
代わりの燃料があればよいが――奇跡を持ってしてもどうなるかは分からない。
歯がゆいところだ。
――みんな聞いて! 魔種との交戦がはじまったみたい!
妖精兵が叫んだ。
仲間達がついにタータリクスへ到達したらしい。
「こっちもまずは届いたわ、こっちに来てちょうだい」
ニグレドをなぎ払ったゼファーの声。
「傷だらけじゃない。ふふん、すぐに癒やすんだから!」
ミラーカの術式は仲間達と共に、アルベド・タイプ・ミラーカも包み込む。
「手伝ってくれるの……? どうして、あたしは敵で、あなたの偽物よ」
「貴女なんかあたしじゃないわ……化け物でもない。もう一つの命よ!」
「……え」
(全く、妖精百合を……自分のフェアリーシードの幸せを想い過ぎて、胸の中で眠れる妖精を起こすなんて、やってくれるわ)
「ミラーカ・アルベド……長い! 今日から略してミラベドね! 気にしたら負けよ!」
アルベドミラーカに、ミラーカ当人が胸を張る。アザレアの命を燃やさせてなどなるものか!
「ミラベド、いいじゃない。そう呼ばせてもらうわね」
肩を叩いたゼファーが、再び迫り来るニグレドを貫いた。
初めは造り物であったとしても、その胸に宿した気持ちが彼女だけのものであるなら――
模造品呼ばわりは無粋というものだから。
「此処まで来たら最後まで付き合いましょう。あの眼鏡をぶっ飛ばすんなら、目的は一緒だわ」
「私には細かな事情などは分かりませぬが……!」
敵から寝返ったアルベドミラーカを、【白鏡】の面々は支援することに決めたのだ。
ミラベドの自我に共鳴したフェアリーシード内の妖精アザレアが、ミラベドと共にありたいと願った、それを聞いてしまったのである。
だから。
「ミラーカさんが、友人が手を貸すというのなら! 私も刃を振るい、力を貸しましょう!」
すずなが三尺五寸の長尺刀『竜胆』を構える。
例えそれがアルベドだろうと――他でもない友人の姉妹とでもいうべき存在ですから…!
「ゼファーさん! マリアさんも! 頼りにしていますからね!」
「ええ、もちろんよ」
「むしろ、共に戦ってくれる事に感謝を!」
「さあさ、かかってきなさい!」
指で招くゼファーに、怪物共が殺到する。
迫るオートマタのナタをかわし、槍を支柱に蹴りつけ弾く。
「ちゃんと付いてきて下さいよ……!」
邪魔するものは、悉く斬り伏せ進むのみ!
すずなは姿勢を崩したオートマタを斬り伏せ、続く人工精霊をなぎ払い、更に踏み込む。
駆け抜け、更に現れた二体のニグレドが両断され、黒い泥となって凍り付く。
貴女“達”が本懐を遂げる、その為に――!
●Estate nel cielo freddo III
広間での戦闘は、徐々にイレギュラーズが押している。
仲間達は
「こんな底冷えする日はこたつで熱燗にしたいの。あてはおでんがいいの」
ブラックドッグを放つストレリチアのぼやきに、アーリアが答える。
「ストレリチアちゃんと寒い中こたつで熱燗もいいけれど、やっぱりお酒はあったかい時期の方が美味しいもの! ケリを付けて、動いた後の一杯で【優勝】していきましょ」
「コレ終わったら二日酔い止めたんまり用意するっすから
偽物タータリクスを倒して2次会3次会行くっすよ!」
「はいなの!」
アーリアとジルの言葉に、ストレリチアが力強く頷く。
「ストレリチアちゃん……だっけ?」
「たぶんだけど千尋さん、なの!?」
「おうよ。お前の覚悟決まった啖呵、俺の胸に響いたぜ。
ホンモノの方には行けねえけど、せめてニセモノくらいはブン殴りてえよな」
「にせもの、あの奥の白いのなの?」
「言いてえ事だっていっぱいあるだろ。
だからよ、一緒に行こうぜ。俺達で、あいつをボコボコにしてやるんだよ!
あのニセモノを倒したら皆でテーブル囲んで美味い酒で【優勝】していこうじゃねえか!」
千尋が指先でそっとストレリチアの肩をつつく。
頷いたストレリチアが一行に振り返る。
「あの白いのをぶんなぐって、あとあと出来る全部もやって、みんなで優勝していくの!」
「言えたじゃねえの! さてと……行くぞテメーらァ!!!」
目標はタータリクスとかいう陰キャのニセモノだ!
「アーリアさん! 足止めヨロシクゥ!」
「お任せよぉ。きっつい電気でブランな雨をお見舞いしちゃうんだから」
降り注ぐ雷撃が怪物共をなぎ払う。
「ジルちゃん! サポート任せた!」
「当然っすよ!」
癒やしの術式が、傷だらけの千尋を包み込む。
「ストレリチアさん、連携はよろしくっす!」
「まかせてなの!」
ゼファーが貫いたオートマタを、すずなが斬り捨てる。
「すーずな、えらいえらい」
「言っててください!」
一行の眼前には、ついにアルベド・タータリクスが立ちはだかった。
「これ以上いかせないよ。あの子は、姉さんの声をしてるんだ」
白いタータリクスは両手を広げる。
おそらくキトリニタス・タイプ・アリアの特性を言っているのだろう。
タータリクスが何を考えてアリアの偽物を置き、何を思って死んだ姉の声真似をさせたかは知れぬが、そんなことは、イレギュラーズにとって関係ない。
「あなたの夢(ひめい)を聞かせてちょうだい?」
フルールが放つ炎が白タータリクスを襲い、周囲の怪物ごと無慈悲に残酷に焼き払う。
「ボクは、負ける訳にはいかないんだ!」
「やーねぇ、それはこっちのセリフよぉ」
アーリアの黄金に煌めく蠱惑の瞬きが白タータリクスを打つ。
「いまよ! がつんといってやりなさい!」
「アザレア……力を貸して」
――任せて。ミラベドちゃん、でいいよね。
ミラーカに導かれるように、白ミラーカが白タータリクスへただ真っ白な光剣を振るう。
(なぜだろう……。あの子達を見ていると胸が苦しい……。どうにもならないのかな……)
胸を刺す痛みの正体を、マリアは掴めていない。
なぜだか思い浮かぶのは太陽のように明るい、鉄帝国の司祭の笑顔で――
けれどその気持ちがなんなのか、自分自身にさえ分からずに。
(駄目だ……! 集中しろ! ここは、戦場だ!)
軍人は凜と眉を結び。
雷光のように駆け抜けたマリアが、紅雷を纏う靴底を白タータリクスへと打ち付けた。
跳ね飛んだタータリクスへ向け。
すかさず地を蹴りつけたマリアは紅雷を纏って瞬間加速する。
乱舞する蹴撃が帯びる、魂を焼き切る程の鮮烈な力の奔流。
紅雷がその仮初の精神を、魔力を根こそぎに焼き尽くして行く。
一行を襲う強烈な火炎の嵐は、もう幾度も使えまい。
マリアに続いて、ゼファーが、すずなが、シャルレィスが、白タータリクスを切り裂いた。
「これは八つ当たりよ」
ゼファーが嘯く。
「馬鹿げてるかしら? まあでも、しないよりはした方がスカっとしますからね!」
「支えきるわ!」
「任せるっす!」
ミラーカが、ジルが、癒やしの術式を紡ぐ。
「今こそいつものあれよぉー!」
敵陣を術でなぎ払いながら、アーリアが叫ぶ。
「捕まれストレリチアちゃん!」
「がってんしょうちのすけなの!」
「行くぜ――Maria」
フルスロットルの魔導バイクが駆け抜ける。
肩につかまったストレリチアと共に、千尋は白タータリクスへ肉薄する。
千尋が白タータリクスに拳をたたき込み、バイクを滑らせ床に転げた。
「一発かましてやりなァ!!」
慣性のままにカッ飛んだストレリチアが拳を引き絞り――
「しねなの!」
ストレリチアの小さな拳が白タータリクスの顔を打ち、顕現した黒曜犬の雷撃が貫く。
「あああああ!」
転げて吠えた白タータリクスは、腕を振り上げ魔術を紡ごうとするが――
「させるものか!」
マリアの蹴りに魔法陣が雲散霧消し、マリアは更なる連撃をたたき込む。
白タータリクスの体が歪んだ。
「助けるんだ。命を!」
シャルレィスの剣が白タータリクスの胸を貫いて。
「それが私の剣、変わらぬ願いなんだから!」
ぐずぐずと崩れる身体に手を突き出し、シャルレィスはフェアリーシードを抜き取った。
ぽんと弾けたフェアリーシードから、小さな妖精が現れる。
「助けてくれて……ありがとう……」
シャルレィスの両手のひらの上で妖精はぐったりとうな垂れる。命に別状はなさそうだ。
「ぶちかましてやったの!」
「やばば、えぐいのもってんじゃん」
ストレリチアの言葉に、千尋は大の字に寝転がった。
そして残すは――
●Albina solitudine II
背後からの足音に幾人かが振り返る。
「制圧は終わったぜ!」
プロトアルベドに嵐の力をたたき込んだサンディの言葉に、喝采があがった。
――抉り取ってアザレアを助けても、彼女に必要なのは、あたしじゃなくて貴女だわ。
共に命を燃やし尽くすのも、あるいは美しい終わりなのかもね……
「あなた達の時間は、あたしが繋ぐわ!」
「……どうしてそこまでしてくれるのよ」
「悲恋百合なんて見たくないからだっての!」
叶わぬ奇跡さえ願って、それでもミラーカは胸を張る。
ただの一分一秒とて、無駄にしないために。
――いこう。ミラベド。
「ふふん、見てなさい! 試作品なんてあたし……あたし達が滅茶苦茶にしてあげるわ!」
プロトタイプのアルベドとキトリニタスは強力で、【冬尽】と【花守】の面々は攻めあぐねていたが、広間と中庭の完全な制圧により、仲間達が応援に駆けつけたことは大きい。
意思の波動でアルベドを撃ち貫いたアリシスが問う。
「貴方は……そも、あのアカデミアで何の為に錬金術を学んだのです」
マグヌス・オプスか。それとも神人合一。
それともこの侵攻の為の手駒作りか。
まさか!
そのための手段として『生命創造』はあまりにズレている。
「どうして、って。ボクぁ薬が、作りたくて、あれ……?」
「生前の複製――世界法則の裏をかく疑似的な死者蘇生位は成し得るかとも思いましたが……」
「え……なんで、だ? ボクぁ愛しのファリーに会いに、きて」
「癒したい者、取り戻したい誰か――反転して忘れた貴方の始まりが居たのでは?」
「やめろ、やめろよ! なんで、なんでボクを責めるんだ。ジナイーダ、は、違う、リュシアン!」
(記憶が混濁していますか)
「貴方がなぜ錬金術を学び始めたのか、その理由はもう覚えていないの?」
タータリクスに切り込んだアルテミアも、また問う。
情報屋によれば、若きタータリクスは姉の病を治すために調薬を目指したようだが、錬金術師として学んだ技術は生体そのものへの干渉であった。
それでも副次的に得た知識で、タータリクスは再び調薬を始めたとされているが――
「貴方には救いたい人がいたんじゃないの?? それすらも忘れてしまったの??」
「――めろ、そういうの、やめろよなぁ!」
タータリクスの拳がアルテミアを打ち付け――喀血。
デモニアなだけはあるが、このタイミングで術式を作らせなかったことは大きい。
(……歪んでるなぁ)
フレイが嘆息した。
これが純粋で綺麗な気持ちであれば、応援してやるのも吝かではないが。
この執着は行きすぎている。
第一『何のために女王に会いたかったのか』、そこがすっぽりと抜け落ちているではないか。
二重の防壁を纏うフレイに、タータリクスの得手は一切通じない。
問題はキトリニタスが持つ破魔の技だが、この状況ともなれば受ける筈もないだろう。
敵は完全に包囲されている。
戦況は早くも――という程でもないが――どう押さえ込みきるかという所まで来ていた。
激闘は未だ続いている。
イレギュラーズは果敢に攻め立てるが、タータリクスが立て続けに放つ魔術の爆発力は尋常ではない。
「君は覚えちゃいないだろうけど、おにーさんのアルベドを生み出してくれたお礼がしたくてさ」
「忘れないって、その顔! キトリニタスとおんなじ! 駄目だよ、女の子には優しくしなくっちゃぁ!」
爆風がヴォルペを包み込み――
「はは……言うね」
――粉塵のただ中から駆けるヴォルペがタータリクスの襟首を掴み上げる。
「けど今は、もっとおにーさんと遊ぼうか!」
意思力が爆ぜ、タータリクスが壁に叩き付けられた。
こんな戦場で、ヴィルペは誰一人、死なせはしない。
「借りは返します。この間のようにはさせません」
「合わせられるか?」
「無論です」
ルカに頷いた沙月は、優美な舞いと共にタータリクスへ肉薄する。
ルカの巨大な刃が唸りを上げ、立て続けの連撃が血肉を切り裂いた。
血花が咲く中で、沙月もまた流れるようにたたき込まれる刹那の三段撃を見舞う。
「残念だよ、タータクリス。最後に足蹴にしたものが、君はいけなかった」
姉を、妖精を、生きるものの尊厳を。
「タータリクス……お前にどういう過去があるかは知らない。
けどお前がやったことは許されることじゃねえし……何より魔種だってんなら倒さなきゃなぁ!」
「行くよ、アオイ。援護するから、君の出せるだけを叩き込んでやろうっ!」
「甘えるとしようか、さあ……攻めるぞ!」
リウィルディアの術式がアオイの背を包み込み、その傷を瞬く間の内に消失させた。
唸りを上げた無数の歯車が駆け、タータリクスの身を引き裂いて行く。
「あああ! もう! なんなんだよ! ほんとキミ達はさぁ!」
金切り声のタータリクスが、爆炎の術式をぶちまけた。
「対処しよう」
ゼフィラの号令が、その炎を打ち払い。
「それはともかく、私がかわいいところ、愛を語ろう。話、めっちゃ長くなるけどいい?」
爆風の中からゆっくりと歩み寄るのは秋奈であった。
「何をだよ!」
教えるのは――本当の愛について!
「まず何が魅力かというと、私から寄ってくるのけど相手から向かってくとめっちゃ照れて初心いところ
可愛い。それしか言葉がない。私かわいい。でね、好きなことばっか考えてたら、いろいろぜーんぶ忘れちゃうんだなーふっはっはっはー!」
「ボクの愛を馬鹿にするのかよ! 虫螻がぁ!」
「あんたを止める。倒す。必ず。
この身がどれだけ傷つこうとも、勝つし」
――それにね、私は酷い目にあえばあうほど、口もとがゆるんでくるのよ私。
光が走った。
「残念だけど、貴方のそれは愛とは言わないのさ」
斬撃の軌跡と共に、遅れて血霧が戦場を舞い踊る。
タータリクスには最早後がない。
情報屋によれば、魔種である以上は何らかの強力な攻撃や権能――例えば精神に干渉する等――を保有している可能性が示唆されている。奥の手だって、あっても不思議ではない。
「ああ、ファリー、ファリー!」
タータリクスとてせめて最後は、姉を想いだしてほしいとメルナは願う。
反転というのは、ただそれだけのことも許してくれないのだろうか。
ならば――不撓の精神を蒼炎を剣に纏わせ、メルナの無垢なる正義の炎、その斬撃が駆け抜けた。
「ファリーを、早く迎えにいかないといけないのに……」
「タータリクス」
ハルアが呼びかけた。
いつも相手より先にいっぱい喋ってない?
静かだと『本当』が見えそうでボク達は怖い。
でもアルベドの皆は知ろうとする。
傷ついても一生懸命。
それって。
あなたの心も宿ってる。
まっすぐに学ぶ心。
ボクは戦う。
けど。
そのあなたを。
あなたに伝えにきたよ――
「ボクぁ……なんで、なんで、だよ」
ハルアの言葉を聞いた魔種の呻きは、その傷によるものだけではないのだろう。
何かが胸の内に疼き始めたのだ。
振りかぶり攻撃の術を紡ぐタータリクスの腕を、突如『黒いもの』が飲み込んだ。
魔力の暴発――どんと籠もった音と共にそれが膨れ、一瞬遅れて煙を吐き出す。
「結構。予想通りの味だ……つまらんな」
抑揚のない声で粘膜を引き戻した愛無が嘆息する。
この男は、被害者でもあるのだろう。
だがこの事態そのものは、彼自身が招いたとも云える。
愛無が思うに、彼の本質は『逃避』だ。
誰かと、何かと、向き合うことなく生きてきた。
大人に詰め寄られた時。
姉の死を見た時。
反転した時。
ブルーベルと再開した時。
きっと彼は、これからも逃げ続けるのだろう。
――自分の想いからも。哀れな事だ。
ゆえに。
「終わらせる」
愛無に頷いたドラマは、幾重にも刺し貫く粘膜の槍と共に、蒼の斬撃を放つ。
刹那の閃光と共に、一閃――けれど。
「まだです!」
アミュレットが光に消えると共に、視界が微かに歪んだ。
停止した――否、誰よりも速くなった時間の中で、ドラマは更なる一閃を、二度放つ。
「――貴方の物語はここで、終わりです」
動き出した時間の中で、三重の斬撃を浴びたタータリクスが再び壁に叩き付けられた。
「さぁ、クオンに利用されたのは哀れですが、見過ごせるわけではありませんので。
ここで終止符を打たせていただきましょうか」
舞う無貌の仮面と共に――
「あの方の言葉を借りて……『しねなの』」
無残に踏み荒らされた妖精達の言葉を。
あの飲んだくれのストレリチアの言葉を、せめて代弁してやろう。
フォークロアが放つ救済なき激情、終焉なき絶望が、タータリクスに災厄を与え続けている。
ハイデマリーはこの騒動を引き起こした元凶――クオンを見た。
話し、戦った。
こうなった理由は承知している。
だからこうして直接対峙したかった。
しかし変わらぬ結論はある。例え元が善人であったとしても――
「だけど、何れ鉄帝にも害になろう貴殿には死んでもらう」
金獅子旗を戴く、ハイデマリーの冷徹な引き金に迷いはない。
鳴り響く銃声は立て続けに四度。その全てがタータリクスの身を穿つ。
魔種であろうが。
過去にどんな思いがあろうが――タルトには関係がない。
倒すのだって誰でもいい。
対たい焼き用(!?)のありったけを投げつける。
災厄と呼ぶに相応しい数多を浴びせかけられたタータリクスへ、タルトは殺意を込めた滅びの短剣、そして暗黒の呪いをこめたそれを幾度も突き込んだ。
と に か く!
――絶対に逃さない。ここで殺す。
爆炎を吹き上げた刃が加速する。
「運命なんて戯言で、愛を押し付けるな!」
斬撃を浴びたタータリクスが血を吐き出す。
「誰かを想う気持ちは己自身のものだ! 運命なんかに決めさせるなよ!
あった筈だお前も、お姉さんを救いたかったように!!」
一人では届かなくても。
でも――君と一緒になら!
「行こう皆、シフォリィ!」
「はい、クロバさん! この冬を終わらせ、妖精郷に雪解けを!」
イレギュラーズの猛攻は終わらない。
クロバの一撃が跳ね上げたタータリクスを、シフォリィが放つ斬撃がたたき落とす。
「タータリクス、たった一人になってまで貴方は本当にこんなことを望んでいたのですか?」
奇跡さえ願っても良いと思えた肉薄。
ラストチャンス。
シフォリィは己自信に注意を引き付けるため、更なる斬撃を見舞い、その瞳を見据える。
「貴方の本当の願いを思い出してください!
貴方が本当に女王様に伝えたかったことを、貴方が救いたかった人を忘れたままになんてさせない!
本当の運命は、こんなものじゃなかったはずだから!」
「ボクぁ……誰を、姉さんを。病気を、薬が、ほしくて」
雷撃が貫く中、エストレーリャがソアの背を押す。
傷ついた身体に、温かな――戦う力が漲ってくる。
「ソア。思いっきり行こう!
君の背中は、僕が護るから……!」
守り通す信念と共に。
――隣に立って戦うって、決めたから。
ソアが傷つくなら、それを癒やすのが僕の戦い!
「やっつけるよ。もう絶対に退かないんだから!」
隣にエストレーリャが居てくれる。
反転なんて大嫌いだ。
あれはもう、頑張って薬を作っていたタータリクスではない。
彼だったものを死なせ、ねじ曲げて作ったへんてこな鏡映しなのだ。
元に戻してはあげられない。だから――せめてここで終わらせる。
温かく柔らかな感情を胸に、雷虎が駆ける。
それが出来ると勇気が沸いてくる。
爆発的な意思力を爪に宿らせ、強烈な雷撃がタータリクスを劈いた。
「繋ぎましょう、これで終わりとなるように」
沙月が流麗な徒手の斬舞をたたみかける。
モノクルが砕けてはじけ飛ぶ。獣のような悲鳴をあげて、タータリクスが尻餅をついた。
「あの女王サンならテメェの墓をここに作るぐれぇ許してくれんだろ」
魔種ってのはつれぇもんだ。
あり方を捻じ曲げられた上にその事に気付きもしねぇ。
ならせめて――ルカが刃を振りかぶり。
「花に包まれて眠りな。きっといい夢が見れるだろうさ」
踏み込み――
「ガァッ!」
絶叫。僅か一刀がタータリクスの胸元まで食い込んでいる。
「本当の気持ちをここで出せ。俺達が見ているからな」
フレイが呟く。
再び血を吐き出したタータリクスに、奥の手はあるのか。
実のところ、タータリクスは最後の瞬間、どん詰まりになったら『求婚』するつもりでいた。
あろうはずもないが、そうすれば戦いを終えられると信じていたのである。
「姉さん……ごめん。ボクは……間違え、たんだ」
だが失血が生命を閉ざす最後の瞬間、彼が口にしたのは別の言葉であった。
「クロバ、貴方が止めたいのでありましょう?」
油断なく銃口を突きつけたハイデマリーは、しかし引き金を引かなかった。
「ありがとう――けど、もう終わってるのさ。な、シフォリィ」
「はい。だって――私達のほうは『ラストチャンス』が届きましたから」
シフォリィがタータリクスの瞳を閉じさせる。
「眠りな、タータリクス」
ルカが背を向け、ハルアとアルテミアが目配せする。
「サヨウナラだ、出きれば魔種になる前の君と語り合いたかったよ」
壁に背を預けたゼフィラがぽつりと零して――
温かな、そよ風が吹く。
一行と共にデモニアの亡骸を包む優しい春の斜陽は、けれど不思議と秋の残照のようにも感じられた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
決戦お疲れ様でした。
ちょっとした記念品がほんの少し出ています。
MVPは名指揮官へ。
統率が弱い部隊に対する直接指揮は予想外でしたが、多数の雑魚敵に対する有効打となり、結果としてイレギュラーズ全体の戦線を押し上げる重要なファクターとなりました。
それではまた皆さんとのご縁を願って。pipiでした。
GMコメント
pipiです。
妖精編もいよいよ決戦です。
きっちり終わらせてやりましょう。
●同時参加につきまして
決戦及びRAIDシナリオは他決戦・RAIDシナリオと同時に参加出来ません。(通常全体とは同時参加出来ます)
どちらか一つの参加となりますのでご注意下さい。
●目的
魔種タータリクスの討伐。
配下を出来る限り駆逐して、場を制圧すること。
●ルール
一行目:ロケーションのA~Cを選んで記載下さい。
二行目:同行者を記載下さい。
三行目からは自由に記述下さい。
●諸注意
他の依頼も含め、強い影響を受ける場合があります。
敵も味方も、増援等があるかもしれません。
●ロケーション
妖精城アヴァル=ケイン城内です。
いくつもの広い部屋があり、最奥にタータリクスがいます。
大広間、中庭、謁見の間の順番に進撃します。
上手いこと制圧出来れば、余力が残る範囲で勝手に他の場所を助けているものと見なします。
これによって戦闘不能等の不利な状況になることはありません。
A:『大広間』
広い室内です。
魔物が待ち構えています。
奥からどんどん、無数の怪物が現れます。
思う存分に蹴散らして、無双してやりましょう。
敵が多いため、BやCに強い影響を与えるエリアです。
『ニグレド』×12
黒いどろどろのひとがたのモンスターです。
うすのろですが、中々にタフです。攻撃そのものは素早いようです。
中距離まで粘液の触手を槍のように伸ばして攻撃してきます。
『ルクスリアン・オートマタ』×12
手足が刃物になっている自動人形の怪物です。
意外とタフで素早いです。
物理至~近距離主体で攻撃。列攻撃あり。
出血系のBSを保有しています。
・人工精霊『炎』×10
燃えさかるトカゲのような炎の魔物です。
攻撃力が高く、HPとAPが少ないです。
神秘遠近両用。範囲攻撃あり。
炎系のBSを保有しています。
・人工精霊『氷』×10
透き通った少女のような氷の魔物です。
攻撃力が高く、HPとAPが少ないです。
神秘中距離主体の攻撃。範囲攻撃あり。
氷系のBSを保有しています。
『アルベド』タイプ・タータリクス×1
神秘系後衛タイプです。
・炎熱爆破(A):神中範、火炎、業炎
・雷撃破(A):神遠貫万能、感電
・毒雲陣(A):神遠域、毒、猛毒
『アルベド』タイプ・ミラーカ・マギノ×1
ミラーカ・マギノ(p3p005124)さんを模した怪物です。
仲間のHPやAPの回復を行う他、瞬間的に能力を増大させ、至近攻撃が出来ます。
怪物なりに、ご本人とステータス自体は違います。
イレギュラーズの突入と同時に敵を裏切り、味方として戦います。
色々叫びながら、かなり何か思い詰めた様子です……
イレギュラーズは『事情』を察しても構いません。
・増援
上記の魔物が毎ターン、少しずつ登場します。
他シナリオの結果によっては、べつの敵も現れるかもしれません。
B:『中庭』
極寒の中庭です。
敵は、わずか二体です。
場合によっては、大広間等、他の戦場からの敵増援が予想されます。
『キトリニタス』タイプ・アルテナ・フォルテ×1
両面型前衛アタッカータイプです。
非常に強力な個体です。
『キトリニタス』タイプ・アリア・テリア×1
アリア・テリア(p3p007129)さんを模した怪物です。
強力かつ攻撃的な神秘スキルを操ります。
特に石化、恍惚、不運、呪い、AP攻撃、失血、炎獄、狂気、呪縛等、凶悪なBS攻撃を誇ります。
ステータスは特に、HP、AP、命中、回避に優れています。
怪物なりに、ご本人とステータス自体は違います。
非常に強力な個体です。
C:『謁見の間』
広い室内です。
場合によっては、大広間等、他の戦場からの敵増援が予想されます。
魔種と直接相対する、最も危険なエリアです。
『魔種』タータリクス
この依頼で最も強い敵です。
HP、AP、神秘攻撃、命中が極めて高いです。
魔種なりに、他のステータスも優れています。
・炎熱爆破(A):神中範、火炎、業炎
・雷撃破(A):神遠貫、万能、感電
・毒雲陣(A):神遠域、毒、猛毒
・ラストチャンス(A):???:タータリクスが追い詰められた際に、一度だけ実施します。
・魅了の権能(A):???:僕を舐めるなよ。イレギュラーズ! 断じて使うかよ!
『プロトアルベド』:×4
真っ白な、人型の怪物です。
果敢に物理攻撃を仕掛けてきます。ちょっと強いです。
取得コスト4までのスキルに類似した攻撃をすることがあります。
『プロトキトリニタス』:×2
金色のオーラを纏う、人型の怪物です。
果敢に物理攻撃を仕掛けてきます。わりと強いです。
取得コスト5までのスキルに類似した攻撃をすることがあります。
●味方
『迷宮森林警備隊』×20
剣や弓、攻撃魔術、回復魔術等で戦う、精強でバランスの良い部隊です。
独自の判断でイレギュラーズと連携して戦いますが、指示にも従います。
Aに参戦します。
『妖精兵』×8
主に攻撃魔術、回復魔術で戦います。
Aに参戦します。
『花の妖精』ストレリチア(p3n000129)
神秘後衛タイプ。
Aスキルはブラックドッグ、エメスドライブ、ミリアドハーモニクス、マジックフラワー。
非戦闘スキルは異形朋友、精霊疎通、精霊操作。
Aに参戦します。
『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)
皆さんの仲間。
両面型前衛アタッカー。
Aスキルは格闘、飛翔斬、ディスピリオド、剣魔双撃。
非戦闘スキルはジャミング、物質透過。
Bに参戦します。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
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