シナリオ詳細
<伝承の旅路>それを、運命と呼ぶ
完了
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オープニング
●
「いっやあああ、助けてェッ!」
足を掴まれた様に宙ぶらりんになって樹に吊り上げられているのは『魔法使い』マナセだった。
10にも満たない年齢の小さな家出娘。家出の理由は『諸般の事情』だという。
――実際の所は魔法使いになりたいという夢を、それを馬鹿にする者達を見返すために冒険の旅に出たそうだが。
現在のマナセはアルティオ=エルムの入り口付近で蔓を伸ばし動物を喰らう食人花に囚われていた。
「……あー……」
見上げるフランツェル・ロア・ヘクセンハウス (p3n000115)はあなたに気付き「あの、手伝って貰える?」と問うた。
此の儘だと消化液に顔面からダイブする事になる魔法使いを救い出さねばならないだろう。
「はあっ、はあっ……魔法使い廃業するトコだった!」
「人間も廃業し掛かっていたわよ」
「危ないっ! 天才魔法使いなのにこんな目に遭って、死んでしまったら本も出せないわ!」
非常に強かな娘なのである。『マナセ』とは混沌世界では勇者PTに参画していた魔法使いだ。
幼いながらも卓越した魔術の素養を有し、全ての魔法の原点とさえも揶揄される。幾つもの攻撃魔法を生み出し、古語魔術までも駆使したという。
苦手であった封印術をパーティーメンバーの『フィナリィ』に教わり、妖精郷の冬を終らせる一助にもなったと言われているが――
「んもー! 森って虫も多いし、枝踏んだら命の危機がありそうだし、どうすればいいのよ!」
プーレルジールでは一般的魔法使い(天才ではあるがまだまだ未熟)な少女である。
マナセの手にはアルティオ=エルムでは旧い時代に使用されていたとされる古語で記載された魔導書が存在する。
著者の名前は『ファルカウ』。混沌世界の大樹ファルカウとその名を同じくしている事から探究心豊かなイレギュラーズと共に行動するに至った。
森を守って欲しいと頼むファルカウに応えて四天王を退けたのだが、肝心のファルカウは姿を現すことは無かった。
「ねえ、ファルカウー! 魔女に二言はないわよー! 魔女は対価を支払う者だけれど、対価は先払いしたと思うのだけれどー!」
森に向かって叫ぶマナセは落ち着くことを知らなかった。その年若さ故、そして、本人の気質故にだ。
混沌世界に存在する大樹の嘆きの上位種『オルド種』のクェイス (p3n000264)に言わせれば「喧しくて人の話を聞かないグズ娘」との事だった。
そんな彼女は森に向かって叫び――ようやっと観念したように木々が揺らめいた。
小さな栗鼠が走ってきてマナセの肩に上る。それは「わたくしは森を離れませんもの」と焼けに穏やかな声音を発した。
「ファルカウ?」
「ええ」
「ファルカウ!?」
「そうだと言って居るではありませんか。このアルティオ=エルムの主、ファルカウですわ、魔法使い。
わたくしもご一緒致しましょう。森で優雅に食人花(マンイーター)と遊んでいる暇はないのでは?」
栗鼠が呆れたように頬袋を撫でればマナセは「確かに……」と呟いた。
混沌世界には勇者アイオンと呼ばれる青年がいる。ただし、混沌世界ではという注釈が着く。
プーレルジールでは冒険の旅には出ず、母の病のために冒険者見習い程度であった。そんな彼はイレギュラーズと共に西を目指したのだ。
西、つまりはサハイェル砂漠と『影海』の存在する領域だ。浮遊島サハイェルが地へと落ち、魔王城諸共西方に存在するのはイレギュラーズにとっても既報である。
その位置が混沌世界では『終焉』と、『影の領域』と呼ばれるのも因果なものだ。
「とりあえず、世界が滅びないようにするには魔王をぶん殴るのよね? けちょんけちょんにするのよね?」
「ええ、そうしなくては滅びは世界を覆いますもの」
「ふーん……どうして魔王は世界を滅ぼすの?」
「そもそも、イルドゼギアと名乗って居る彼は『魔王』などではないのです、魔法使い」
マナセは首を傾げた。混沌世界のイルドゼギアも魔王ではない。ただ、支配と統治で世界を管理し滅びを退けようとしただけだという。
ならば、この世界の彼は――?
「管理者(かみ)が居なくなった世界は滅びるのみですから、世界が認識していた『勇者』と『魔王』を擬えて、世界が滅びに向かっているのです。
その滅びの象徴たる魔王は無理に産み出されたのではないでしょうか。……イルドゼギアと呼ばれる男はプーレルジールの住民ですよ」
「えっ、じゃあ、無理矢理にでも魔王をしているの?」
「ええ。きっと。……お話をしながら向かいましょう。西へ。死にたくないのでしょう? 魔法使い」
「勿論。何だか世界が滅びたらあの子 も困るって言ってたもの。ちゃっちゃっと魔王ぶん殴ってけちょんけちょんにして、世界を救ってハッピーエンドだわ。
ついでに、ほら、イレギュラーズ の住んでる……混沌? にも行って、滅びを私がぶん殴ってあげる」
幸せそうに笑ったマナセはあなた の手を引いた。
「行こう、西へ」
――魔法使いのパーティーメンバーである少女は何事もなくったってアイオンの元に向かっただろう。
それが世界の強制力で、それが世界の在り方だから。
「あっ、そこの人も西に行くのなら一緒に行きましょう? あのね、アイオンって人のところを目指しているの!」
にんまりと微笑むマナセは手を振った。あなたや、周囲のイレギュラーズを連れて、西を目指す。
目的は?
問われたマナセは意気揚々と答えた。
「戦う前に魔王イルドゼギアって人とお話しすることよ。
その前にファルカウにも何か聞きながら、アイオンってひとと合流しましょうね」
因みに……影海の中継地でキャンプをしていた『勇者』が盛大な嚔をしたのは、言わずもがなである。
●
「はあ……誰か噂してるかな」
一方の影海。勇者王と混沌世界では呼ばれていた青年は『冒険者』としてこの地に至っていた。
憩いの地と呼ばれた中継地点でのんびりと珈琲を飲んでいるのが『アイオン』である。
彼の目的はここでどんちゃん騒ぎすれば魔王イルドゼギアが顔を出すのではないかな?という何とも言えない目的だった。
「あの……」
不思議そうな顔をしたクレカ (p3n000118)にアイオンは「ああ、大丈夫だよ」と微笑む。
「とりあえず、ここで鍛錬をしながら待っていようかなって思う。友達が紹介したい『魔法使い』が居るって居てたんだけど、彼女も此処に向かってくるみたいだから」
「魔法使いっていうのは……」
「『ゼロ・クールの技師』ではない方」
アイオンはそんな古風な存在が居るなんて思わなかったねと微笑んだ。クレカは何とも言えない表情を見せる。つまり、クレカにとっては『魔法使い』とは魔術を行使する者というイメージが強いのだ。
そうした魔法を行使する人間も廃れ、現在のプーレルジールでは人形技師が魔法使いと呼ばれているのが実情だ。
プーレルジールが滅びに面した際にアイオンは起った事を記憶している。
幾人かが暴走した。狂い、そして他者を手にかけた。
幾人かが自ら命を絶った。外に出ることを怯える者が居た。
そんな中、ギャルリ・ド・プリエの一人の魔術師が『人形に命を与える』方法を思いついた。
そうして人の営みに溶け込ませ、必要以上に人間を喪わないようにと配慮したのだという。プーレルジールという世界を維持するための改革だったのだろう。
「クレカはゼロ・クールなんだろう?」
「……そう、なのかもね。わからないけれど」
「うん。心なしなんて呼ばれてるけれど、『感情』がないという意味じゃなく、心臓が与えられていないという意味なんだろうと思ってる。
君はどうやら生き物だし、他のイレギュラーズにもそうした人が居た。だからゼロ・クールと呼ぶべきではないのかも」
アイオンの言葉に耳を傾けながらクレカは俯いてから足元の石ころを蹴り飛ばした。
「あの、お願いしたいことがある」
「何かな」
「……変なことを言うよ。私ね、魔王イルドゼギアって人に、懐かしい気配を感じたんだ」
――もしかしたら、自分が生まれた理由に携わっているのかも知れない。
だからこそ、魔王を倒す前に少しだけ話をさせてくれやしないかとクレカは直談判しにやってきたのだ。
「構わないよ」
「え」
クレカはぱちくりと瞬いた。てっきり「必要かな」と言われると思っていた。クレカの中でのアイオンは『勇者王の伝説』という本の通りの人物像だったからだ。
「これまで関わったイレギュラーズが対話も必要だと行って居たし識る事も大切だと言って居たからね。
だから、その通りにしよう。ここでばしばし騒いで煩くすればイルドゼギアが『煩い』って叱りにやってくるかも知れないだろ。
なんだか、聞いた話だと魔法使いのマナセという女の子は煩いらしい」
「……」
クレカは彼女に此処で騒がせてイルドゼギアを呼び出すつもりのアイオンに何とも言えない感情を覚えた。
それまでは野営地を整え、此処で訓練をし魔王を倒す準備をするのだという。
話を経てからも『滅びは打ち倒すべき』だ。魔王に事情があるならばそれを考慮する必要もあるが――
「とりあえず、用意は大事だろう。鍋でも食べる?」
「あ、う、うん」
「この辺の探索と、敵の殲滅もした方が良いかもね。ここは戦場になるかもしれないし」
アイオンは取りあえず鍋の用意だと適当に捕まえてきたマンドレイクを突然捌き始めた。
クレカは響き渡った植物の叫び声に「探索してきます」と立ち上がったのだった。
- <伝承の旅路>それを、運命と呼ぶ完了
- GM名夏あかね
- 種別ラリー
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年11月16日 15時50分
- 章数2章
- 総採用数91人
- 参加費50RC
第1章
第1章 第1節
●勇者『未満』I
篝火を前に一人の青年が佇んでいる。燃えるような赤毛に、やや吊り上がった溌剌とした瞳。
そんな彼が手にしていたのは小型のマンドレイクだった。その周辺には「私があんな目に!?」と言いたげな植物たちの叫び声が木霊している。
「大丈夫だよ」
「……」
大丈夫なのかと言いたげなクレカにアイオンは「大丈夫だよ、ちゃんと調理するからさ」と笑みを曇らせることはない。
青ざめた顔をして居た『その毒は守るために』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)はまさかアイオンがその様な調理方法を行なうなどとは考えていなかったと頭を押さえた。
「うう、なんだかまだ耳に残っている気がします。わかっていれば塞いだのに……」
「ごめんね」
「いえ、クレカ様もご存じなかったでしょうから……」
木霊する野菜の叫び声も鼓膜に張り付いてしまったとしょんぼりとするジョシュアに「離れよう」とクレカはその手を握り引いた。
「あ、じゃあ、私たちは……もっと――叫んだりしなさそうな――食材とか、探すね」
そろそろとその場を後にするクレカの背中を双眸に映してから『狂言回し』回言 世界(p3p007315)は「クレカ」と呼び掛ける。
「叫び声? が聞こえたから様子を見に来た。叫び声は……クレカも知っているのか?」
「食べられたくない野菜の恐怖心」
「……良く分からないが……探索に行くのなら護衛しよう。一人でいくわけにはいかないだろうからな」
クレカはありがとうと頷いた。それでも自身の感じていた『不思議な感覚』を誰もが理解し、納得してくれるとは思っては居ないのだ。
「……私、可笑しな事言わなかった?」
「イルドゼギアとお話ししたい、だっけ?」
アイオンの元に薪を運んでいく途中だったのだろう。『龍柱朋友』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)はぱちくりと瞬いた。
「うん。それ、アイオンに頼まれた?」
「そう。アイくんに手伝う事ある? って聞いたら薪が欲しいって」
にこにこと笑うシキはアイオンの友人となりたいと手を差し伸べていた。アイオンという青年は誰に対しても距離がそれなりに近しい。
親しい友人を沢山作り、そうして勇者の旅路を続けてきたのだろうとさえ感じていた。
「めーっちゃ楽しそうじゃんか! そういうの好きだよ!
気になることがあるならお話ししよう。敵と仲良くなっちゃいけないなんてルールはないんだし。
実際、私やみんなはそういうことをたくさんしてきたしね」
「……そう、なの……?」
不思議そうな顔をしたクレカに勿論だと頷いたのは『愛を知った者よ』グリーフ・ロス(p3p008615)だった。
「クレカさんの世界が広がりますように。アイオンさんとも、お話ししてみます」
「……うん、有り難う。グリーフ」
『彼女』の事をクレカは信頼している。世界は常に境界図書館で過ごしていた常連さんであり、グリーフは同種の存在だ。
だからこそ、彼女がアイオンと話せば現状を彼にも理解して貰える気がしたのだ。
「クレカさんは、不安なの?」
穏やかに微笑む『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)をちらりと見てからクレカは頷いた。
「魔王だもの」
「そうだね。魔王だ。でも……もしかしたら、そろそろまた遭う事になるのかもね……魔王イルドゼギア」
クレカの予感を世界は改めて「縁者である可能性があると持ったのだろう」と問うた。例えば製作者(おとうさん)である可能性だ。
「それはありえるのかもしれないよね。
クレカさんを生み出したのが古の冒険者だった時か終焉の気配に憑かれてからかはわからないけど……」
「うん……」
「僕もさ……おとうさん、というか『僕という魔術』の生みの親の事は知らなくてさ」
自身の本体はここなのだと魔術紋をとんと軽く叩いたヨゾラは「だから、製作者(マスター)が居るはずなんだ。一緒だね」と視線を合わせた。
「僕は他の世界出身だから、ここにルーツはないとは思うけど、クレカさんの願いが叶いますように」
「そうだよ。クレカにとってルーツを識る事が大切なら話をしてみよう。
だから、さ。後悔はない方がずっといいでしょ? 見つかるといいね、クレカの大事な人」
にんまりと笑うシキとヨゾラにクレカは大きく頷いた。イレギュラーズにも分かってくれる人がいることが嬉しいのだ。
こうして調査に出ると踏み出せば共に進むことを選んでくれる人が居ることが何よりも嬉しいのだとクレカは目許を赤くする。
「あの懐かしさは、関係ないなんて思いたくないんだ」
「懐かしさを感じる……それは確かに気になりますね。そうしたいとクレカ様が思うなら、微力ながら助けになりますよ」
周辺を警戒しながらも『刑天(シンティエン)』雨紅(p3p008287)はそう言った。
その感情も、予感も何事も捨置いて名張らないモノだと雨紅はしっている。作られた物でも、心なしと呼ばれたものでも、ふと心や感情を得る事があるはずだ。
それは雨紅の実体験であり、現状のクレカそのものなのだ。
「そうしたいと思う感情は、大切にしていいと思うのです。例えば、叫ばない食料を探す……なんてこともそうでしょう」
「うん。叫ばないものを調理して欲しい」
やけに力強く言ったクレカにジョシュアが大きく頷いた。終焉獣が居る土地である以上は出来うる限りの警戒は行なうべきだ。
雨紅は周辺探索は任せて欲しいとモンスターの気配を察知し続ける。土壌の調査をすると立ち止まったジョシュアの傍にしゃがみ込みクレカは土をつんと突いた。
「この辺、まだ嫌な気配しない」
「そうですね。それに、この辺りは野草なんかも生えています。
プーレルジールの植物に興味があるのですよね。クレカ様は花は好きですか? 思い出の花があったり?」
「あまり。此の辺りの記憶はあやふやなんだ。でも、花を貰ったことはあるかも」
どんな花だったか忘れてしまったけれど。呟いたクレカにジョシュアはにまりと微笑んだ。
「前にプリエの回廊で花売りから貰った花があって、、どこかで見つけられたらいいなって思っています。それも探しましょう」
「うん。目標が一つ増えた、ね」
にんまりと微笑む二人を見ていれば世界は随分とクレカにも『変化』があったのだと感じ入る。
「クレカはあまりプーレルジールに対する思い出はなさそうだな。
まあ、生まれてすぐにこっちに来た可能性もあるし、或いは外には一度も出てないということも十分考えられる。
だから故郷に帰ってきたからといっても何も思い出せないかもしれんが……。何か思い出したことはあるか?」
世界の問いにクレカは首を振る。断片的に覚えて射るのはアトリエの景色、そして『父親』と思わしき魔法使いの声音だけ。
ただ、それも掠れてしまってどうにも上手く思い出せないのだ。それっきりではあったが、互いにあまり言葉を交さなくても良いというのは穏やかな間柄ではある。
こうして見ていればクレカは様々な事に興味を持つがそれをどう言葉に表すのかをしらないようでもある。
(まあ、話す必要が無い間柄というのも存分に悪くはないのだろうが……)
「世界」とクレカは決まって頼るように呼ぶ。それが信頼の形だと思えば妙な関係性だなと肩を竦めずには居られないのだ。
「モンスターが近いな。クレカ、後ろに下がっていろ」
「過保護っていうと聞いたよ」
「過保護? まあ気分はさながら娘の行動を見守る父親といったところだが……はっ、まさか俺がクレカの父親だったのか??」
「……!」
まさかと言いたげなクレカは振り返る。視線を受けてからヨゾラは「えっ」と呟いてからまじまじと世界を見ていた。
――勿論冗談だという彼にヨゾラは可笑しくなって笑ったのだった。
「アイオンさん」
鍋の準備をするアイオンの傍にグリーフは立っていた。マナセが来ることを待ちながらも彼と話したいことがあったのだ。
「プーレルジールが滅びに面した際、最初にゼロ・クールを産み出したのはどなただったか、貴方はご存知ですか?
私は、クレカさんと同種の存在です。そんな私を産み出したヒトが。ドクターがあちら側にいる可能性が、高いようなのです。
ゼロ・クールの誕生。量産。その目的。それに関わった方たちについて何か、御存じないでしょうか?
……もう一度魔王と相対する前に、この地のことを。ゼロ・クールのことを。”魔法使い”やドクターのことを、知りたいのです」
「俺は、もしかするとあんまり詳しくないのかも。
たださ、世界が滅びますって言われたらそれを成そうとするヤツに腹が立っただけかもしれないし」
アイオンは鍋をぐつぐつと煮込みながらシキから薪を受取りそう言った。
「そうですか……ドクター達は『プーレルジールを保とうとしていた』とギイチさんは言いました。
プーレルジールを保つ。文字通り、滅びを退けこの地と人々を守るのか。
滅びを避けるために混沌へと渡ろうとしているのか。その結果、あちらの幻想とすげかわるといった事態をもたらす可能性はないのか」
呟くグリーフにアイオンは「もしかすると、最初は『滅びを許容してない』のかもしれないね、皆」とそう言った。
「ならば、今のこの現状の……終焉獣や星界獣を内包したこの世界を混沌が飲み込めば、混沌はどうなるでしょう?」
「滅びるかも」
分からないよ、とアイオンは付け加える。
「分からないけど、此処で待っていれば何かを知れる気がする。グリーフも待とう。鍋はもう少し時間が掛かりそうだし」
アイオンはまじまじと鍋を見詰めてから「ちょっと、体動かそうかな」と立ち上がった。
「鍋が煮えるまで? なら、もう少し鍛錬を頼んでもいい? ……あ、まだ疲れてたら大丈夫だよ、なんてね?」
「いーや、動こう。シキ」
にまりと笑った彼を見て、シキは嬉しいと微笑んだ。
彼が仲間と呼んでくれた。それだけで嬉しいのだ。だって、彼が仲間と呼んでくれるなら、滅びだってなんだって、どうにかなる気がしてならないのだから。
成否
成功
第1章 第2節
●『魔法使い』I
「へいそこのギャン可愛女子ぃ~! しにゃとお話しませんか~?」
「!?!? 何っ、ピンク色の何だかテンションのハッピー高い女の子が突然現れたわ!」
助けてと叫んだマナセは『滅刃の死神』クロバ・フユツキ(p3p000145)の後ろに隠れた。
余りに勢いの良すぎる調子で遁れたマナセを見てから『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)は慌てた様子で両手をぶんぶんと振る。
「怖くないよ! 怪しくないですよ! だから逃げないでください!
お姫様を夢見る美少女って所が凄い共感しちゃいましてね! ついでに家出中な所も!」
「……え、家出仲間なの?」
「それ良い仲間なのか分かりませんけど! でも わかりますよ! しにゃも異世界(ゲーム)ではお姫様だったんですけど現実ではまだなんですよ!
魔法の方はちょっと良くわかんないんですけど、お姫様に憧れる女子同士仲良くしましょうね!
きっと諦めなければお姫様も魔法使いも慣れますよ! 欲張りに生きましょう!
こういうのは気持ちが大事です! まずは自称していきましょう!
結果は後からついてきます! しにゃはよく超絶美少女姫天使しにゃこちゃんって名乗ります!」
「わたしも、それって超絶ラブリープリンセスマナセちゃんって名乗れば……ってコト!?」
驚愕するマナセに「落ち着け」と頭をぼすぼすと叩いたのは『運命砕き』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)だった。
「おい、しにゃこ」
「ハッ、やばいヤツに見つかりました!?」
じろりと見詰めるルカに「悪い事は教えていません」と両手を挙げたしにゃこ。マナセはおろおろと二人を見てから「友達なのね!」と何とも簡単な結論に至っていた。
「ふふ。イレギュラーズは様々な人種がおりますからね。こんにちは、シフォリィ・シリア・アルテロンドです」
にこりと微笑んだ『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)にとって、アイオンに追い付く前にやるべき事とはマナセをアイオンの元に連れていくという選択だった。
(……しかしマナセさん、そしてファルカウの意思……まさか本当に私が出会うことが出来るなんて……夢のようです)
色々と聞きたいことはあるが、まずはこの明るい調子の魔法使い見習いとその肩に座っている魔女ファルカウと親交を深めるべきだろうか。
「マナセさんの夢は素敵な夢です、もし力があればどれだけの人を救えるか、いつだって私も考えていますし。
魔法も使えるお姫様、とてもいい夢じゃないですか」
「そうでしょう。超絶ラプリープリンセスマナセちゃんだもの!」とマナセはしにゃこに倣って胸を張る。
それでも、なれるとは思って居なさそうな彼女には自信が欠けているのだろうか。シフォリィは「大丈夫ですよ」と微笑んだ。
「マナセさんならなれますよ」
「うーん、でもね、足りないことばかりなのよ」
「いいえ。でも私はいつだって助けられてきましたよ」
ぽろりと溢れた本音にマナセは「いつだって?」と首を傾げた。ああ、違う。これは――あの人(フィナリィ)の感想だ。
胸の奥で、彼女が懐かしいと、愛おしいと彼女に叫んでいるのだ。小さな魔法使い。愛らしい小さな女の子。
「いえ、何でもありませんよ。旅を頑張りましょうね」
「ええ!」
「魔法使い、出立の準備は整いましたか?」
ファルカウの問いに「勿論よ、ね」とマナセは『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)へと微笑んだ。
「ところでファルカウさんは……森の方はひとまず大丈夫なの? またこないだみたいなのに襲われたりとかしない?」
「さあ……保証は出来ませんが、私の『本体』がいますから」
穏やかな調子で言ったファルカウにアレクシアはぱちくりと瞬いた。
「一緒に来てくれるだけお得ってことよね? ファルカウには皆からいっぱい質問があるはずよ!
わたしも知らないもの。えーと、イルドゼギア。何だかお名前がややこしいわよね。イルカとかなら覚えやすいのに」
唇を尖らせるマナセにアレクシアはくすくすと笑った。マナセにとってはよく走らないが世界を滅ぼうと画策してくる相手に他ならない。
理解が及ぶ存在でもないのだろう。だからこそ、名前が覚えにくいと彼女は言うのだ。
「イルドゼギアか……正直、私たちとしてもわかんないことの多い相手だよね。
そういう意味では、お話するのは賛成。何事も、まずは相手のことを理解してこそだしね!
そこから見えてくる道もある! もし魔王を味方につけられたら、それってなんだかスゴイ気がするし!」
「魔王を味方に……しにゃことわたしがもしかすると魔王を配下にしたす、凄い存在に!?」
意気込んだマナセに呆れた様子でファルカウが息を吐く。
「どうするにしても無事に着かなきゃ意味が無いだろう? さぁ、お嬢様。共に参ると致しましょうか? ……なんてな。」
「はーい!」
クロバにぴょんぴょんと跳ねながら返事をするマナセにぱちくりと瞬いてから『約束の果てへ』セチア・リリー・スノードロップ(p3p009573)は「改めて自己紹介をさせてね」と微笑みを浮かべた。
「私はセチア! 鉄帝の看守よ、宜しくね!」
マナセとファルカウ。ずっと逢ってみたかった存在だ。それが此程までに明るいのは少しばかり想定外だけれど――
「ファルカウ、後々、魔法を教えて貰っても?」
問うたクロバにファルカウは「魔法使いと一緒にですわよ」と外方を向いた。マナセは「ファルカウ、いやなのね」と頬をぶにぶにと突いている。
(君は何者なのか――そう問いたいが、どの様に問うべきかを考えた方が良いか。
此処の彼女は『魔女』であり『幻想種』である可能性がある。そう応えられたらそこで質問は終ってしまう、か)
クロバはまじまじとファルカウを見たが――「お姉さんの方が好きなのね」とマナセが仁王立ちをして立っている。
「いや、違う違う。知らない相手だからな。マナセの事も気になるよ。何が好きだ? 食べ物とか、服とか」
「ふわふわの服が好き。あとね、食べ物は甘い物が良いわね!」
にこにこと笑う彼女は本当に只の少女だ。どうにもその名前には因果を感じてしまうが、ここまで明るい普通の娘だと拍子抜けしてしまうだろうか。
「しかし、アイオンか。俺の知ってる勇者王じゃないとは言っても、あのアイオンに会えるってのはワクワクしちまうな。
マナセは楽しみか? ま、お前さんに取っちゃああんまり知らんニーチャンでしかねえだろうが」
己の憧れた存在よりも更に焦がれた相手だとルカが告げれば「そんなに凄い人なの? 教えて欲しいわ!」と瞳を煌めかせた。
「お前も凄い魔法使いだろ?」
「うーん……でも、おとうさんたちは否定するわ?」
「マナセの両親はお前が心配なんだろうな。知らねえ力ってのは怖いもんだ。古代魔法を覚えてお前に悪い事がねえか心配なんだろ。
良い親御さんじゃねえか。
……だからお前がちゃんと理解して教えてやれよ。古代魔法を覚えても良い大人になれるってな。古代魔法を覚えたからこそ出来る事だってあるはずだ」
「ええ。だから、ファルカウの書でお勉強するの」
これ、と魔導書を取り出したマナセが胸を張る。
「なぁ、ファルカウ。アンタは何の目的でこの書を残したんだ?
こりゃ勘なんだが、アンタが技術を残したいってだけで書を作るって感じはしねえんだよな。
この書がマナセのところに行き着いて、マナセが自分に会いに来る……その為に残したんじゃねえのか?」
「……」
ルカは『沈黙は肯定』として受け取った。ファルカウは静かに佇むのみである。
「もう一つ聞きたい。管理者がいなくなった世界って言ったな。その管理者ってのは神託の巫女の事か」
「それは只の作られた存在でありましょうに。大元ですわ、傭兵の青年」
栗鼠は欠伸を漏してから、アレクシアに呼ばれその肩へと過ぎて行く。ルカは「神」とぽつりと呟いた。
「マナセさんには余り聞かせたくないから、ファルカウにだけ聞くね。
こないだ言ってた『森が滅びに瀕している』っていうのは、これから向かう先に関係があるってことなのかな?
……その、ファルカウさんが『滅びを封じるために生きている』って言ってた事が気になってるの。マナセ君に同行するのも、そのためなのかな?」
「『マナセ』がなんたるかを理解しているのですか、魔女の娘」
栗鼠の問い掛けにアレクシアは頷いた。大魔導と呼ぶに相応しい魔力を有した幼い少女――彼女は、封印術を決死の覚悟でも使用できる。
「……どうやって滅びを封じるのかわからないけど、その時には協力させてもらえないかな。
……それはこの世界を救いたいという気持ちやファルカウさんの負担を軽減したいという気持ちもあるけど……。
その術を間近で見て、体験すれば、私たちの世界を救う役にも立つかなって思ってさ。
私自身……まあちょっとした事情でずっと同じように戦っていけるのかわかんないから、今のうちに識れることは識っておきたいんだ」
「わたくし自身を糧に、大樹へ封ずるのです。わたくしは長く生きすぎた。そろそろお暇を頂きたいからというのも理由ですが。
森を愛するならば、それが一番だろうと思っているのです。異世界の魔女の娘、きっと貴方の知るわたくしもそうしたことでしょう」
アレクシアはまじまじとファルカウを見た。彼女はそれ以上は何も言葉にはしない。
「ねぇファルカウ。……初対面に聞く内容ではないかもしれない、でもどうしても悩んでいるの」
「何か?」
栗鼠が小首を傾げた気が為た。セチアはアレクシアの肩でくつろぐ彼女に向き直る。
「貴方に似た木々の精霊が居て、その人は私が再会を約束してる者の大切な人かもしれなくて。
『人と木々は共存できない。全て滅びろ』って言うの。
私はそれを否定したかった。木々の精霊と人は共存できると……だけど否定するには私は余りにも……色々知らなすぎて」
混沌世界で出会ったそれは先程ファルカウが語った話にも通じるのだろうか。
「ねぇファルカウ、貴方は人間をどう思っているの?」
「わたくしも人間ですわよ、看守の娘。今のところは」
セチアは「あ」と呟いてからファルカウを見た。
「森を害するならば、どの様な理由があったとて、わたくしはわたくしの理念に乗っ取るのみ。
もしも、森を傷つけ、わたくしの『身』の危機に晒したのであれば――許してなどおけるものですか」
成否
成功
第1章 第3節
●魔法使いII
「まずはアイオンさんと合流だー!」
「ねえ、どうして前に居るの? スティア」
「何かと危なっかしいからかな……」
ええーとショックを受けた様子で叫んだマナセに『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)はくすりと笑った。
本当に明るく楽しげなのだ。全ての魔法の基礎となったとも謳われた少女は魔力も、その素養もピカイチだが制御に難がある。
マンイーターに頭から突っ込んで、モンスターの巣に足を突っ込んでと『野放し』に出来ない存在だ。
「わたしも戦えるのにぃ……」
「マナセさんも滅びをぶん殴ってくれるの……頼もしいな。みゃー」
「ふふん」
自慢げなマナセに『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)は頷いた。自身とてある程度は戦うがマナセの『重すぎる一撃』には及ばない気が為た――そう、それ程にマナセという少女は未知数の魔力を持っているのである。
「古語魔法を使っても良い大人になれない……だっけ。……そんな事、ないよ。
他の魔法を使ったからって良い大人になれるって訳でもないし、大切なのは、その人の行動と何に活かすか、だと思う。
ただ……魔法には代償が必要な場合もあるから気を付けてね」
マナセは祝音を見た。ファルカウが休憩をしようと誘ったのか切り株に座っているのが見える。彼女を見てからマナセは祝音に囁いた。
「知ってる」
その声音に何か含みがある気がして「誰かを守る為に、代償覚悟で使うなら……僕等も頼ってね。みゃー」と祝音は眉を顰めた。
「だめよ、祝音。あなたはあなたの為に使わなきゃ。わたし、怒るからね」
「マナセさん」
ああ、本当に――危なっかしいのだ。だからこそ、彼女は勇者パーティーの一員であるのかもしれない。
「やっと追い付いた。そういえばファルカウさんって森の外に出たりできるんだねぇ。
ずっと迷宮森林にいた理由ってあったりするの? それに普段はどんな事をしてるのかな? 後は枝を踏むのも駄目な理由って何かあったりする?
どう? マナセさんも知りたいと思わない!?」
「枝踏んだら死ぬの!?」
ずいずいと詰め寄るスティアとマナセにファルカウは「普段は魔法の研究を。森林はわたくしの故郷ですもの。枝を踏むのは――『制約』とでも」とさらりと答える。
制約と呟いてからスティアは眉を顰めた。スティアはささっと後方へ下がりフランツェルにファルカウの反応を共有する。
「今の所、身を挺して森を守ったからファルカウって名前がついたような気がするけど……
実際に現れたファルカウさんの幻影はなんだったんだろう?
残滓? それともクェイスさんみたいな感じなのか。むむむ、わからないよー!」
「もしかすると、大樹ファルカウと魔女ファルカウは混ざり合った存在なのかもしれないわね。まだ、全容は知れないけれど」
「滅びを封じ込めたとか?」
「……かも。だから、『魔法使いマナセ』を呼んだのか」
顔を見合わせてからスティアは「分からないね!」と手を打ち合わせてから昼食の用意を始めた。
「はぁ、すごい。
こっちの世界とはいえファルカウとお話しできるなんて思ってもみなかったわ。お喋りしてくれるかしら、精霊さん?」
「構わなくてよ」
『優しき水竜を想う』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は緊張しながらも「古語魔法っていうのは?」と問うた。
「私達でも使いこなせたりするのかなって。……後はこの世界について、明らかに私達よりこの世界の住人の誰よりも知ってそうだもの。
管理者って誰? 精霊達よりもっと強い何かなのかしら。もしその管理者が仮にこの世界に戻ってきたら、滅びは止まる?」
「古語魔法は迷宮森林に旧く伝わるまじないの一種ですわ。簡単なモノならあなたでも使用できるでしょうね。
それに……神様と呼ぶべき存在は、悪戯めいていますもの。滅びは止まりませんわ、もう手を離したならば終わりですもの」
身に覚えはないのかと問うたファルカウにオデットは眉を顰めた。精霊事情も聞いておきたい。この世界の精霊達は皆、ファルカウと共に在る様子ではあるのだ。
「あなたとも気を許してもらえたら幸いだわ、ファルカウ」
「ええ、旅の同行者ですものね」
いまいち喰えぬ彼女は「魔法をお教えするのでしたか」と栗鼠の体のまま問うた。
「ああ。古語魔法か……気になるな……力は何があっても足りないからな。
古語魔法を通じてこの世界のことの一端を理解できるかもしれないしな……」
『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は享受して欲しいと告げた。マナセ自身は読み解き、それをある程度は『無意識下』で利用できるのかも知れないが――それはその身に存在する魔力が故なのだろうか。
「何か、コツなんかはあるのか?」
「わたくしの使用するまじないは、どちらかと言えば自然そのものを手繰るだけではありますもの。何を知りたいのですか?」
「……封印術、だ」
ファルカウは悩ましげに首を傾いだ。栗鼠が困っている様子にも見える。例えば妖精郷の封印術は『マナセが理論を立て行使した』が、その理論の大元は賢者と呼ばれた聖女フィナリィのものである。
「古語魔法にも封印術はありますけれど、わたくしの行使するモノは『制約』が強くてよ」
「……どれ位?」
「死ねますこと?」
ファルカウの問いにサイズはやや面食らった様子で彼女を凝視した。
「何を怖い話してるの? 今ね、瑠璃が魔法の制御について教えてくれてるのよ」
魔力制御が如何に必要かを説いていた『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)がファルカウに会釈をする。
例えば、木の枝に魔力をぶつけて実を落としてみようと食事を得ようとしたときにマナセは樹ごと吹き飛ばしてしまうのだ。
「良いですか、マナセさん。狙った方向に飛ばして、狙った的に当てて、狙い通りの規模で、というのが理想です。
威力は強いに越したことはないですが、手加減ができればなお良いと思います。
料理をなさるならご理解頂けると思いますが、強火の直火だけで何でも作れる筈がないでしょう?」
「確かに、黒焦げだわ!」
慌てた様子のマナセに「そうでしょうとも」と瑠璃は頷いた。
「さて、それでは訓練といきましょう。
まずは強弱だけでもつけてみようという事で、プレートメイルと紙箱の中にそれぞれ砂糖菓子を置きましたので、魔法で穴をあけてみましょう。
どのような魔法を使っても結構、手段の違いにすぎませんから」
「んむむむ―――……ファルカウに聞いたのよ。ちょっとした魔法! サイズも見てらっしゃい!」
マナセは魔力をコントロールして緑の『腕』を作り出した。それはじわじわと紙を解かしているかのように見える。
精密な魔力コントロールなのだろうが本人の顔面は真っ赤に染まっていた。
成否
成功
第1章 第4節
●勇者『未満』II
「よお、また会ったな。アイオン」
旅の道連れになってやると笑いかけた『蛇喰らい』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)。
年の差があれども『ダチ公』には変わりは無い。アイオンは「バクルド! 良く来てくれた」と朗らかに微笑んだ。
彼を見ていれば心が躍るのだ。冒険に焦がれて色々と学び吸収していく。若いモノの特権ではあるが、それを見るだけで心が躍る。
実に柔軟な考え方を有する冒険者向きの青年なのだ。教え甲斐があると感じたのは自信が老い耄れたからかと肩を竦める。
「とはいえもうちょい知識を蓄えたほうが良いな。座学は大事だぞ、取り返しがつかなくなる事態を取り返しがつく段階で知れるんだからな」
「飯を食べながら学べるかな」
「飯。そうだな、飯は大事だ。お前さんに言うまでも無いが周囲を警戒してても飯はちゃんと食えよ」
肩を叩いたバクルドにアイオンは勿論だと頷いた。鍋をこしらえたアイオンを前にして恐る恐ると近付いて着たのは『ちいさな決意』メイメイ・ルー(p3p004460)。
「めぇ……! あ、アイオンさま、お鍋を作るのは良いのです、が。そのマンドレイクは……食べられるのでしょう、か?
……こういうのを、一度は味わうのも旅の醍醐味……??」
困惑するメイメイは「これは……」と頭をなやました。不思議な味わいになる前にフォローした方が良いか。味付けの調整をしなければ『勇者』の冒険料理として語り草になってしまうやもしれない。色んな意味で。
「任せておけ! ぶはははッ、健全な精神と肉体は腹を満たしてこそ成り立つってなぁ!
訓練も無論大事だが、しっかり食って身体を作る『素』を取り入れてねぇと仕上がらねぇぜアイオン坊!」
肩をばしんと叩いた『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は自身の調理用具や調味料、食材を持ち込んだ。
おにぎりや豚汁は食べやすさと栄養バランスが優秀な最強コンビである。旅を行なうならば腹に溜る料理である方が良いだろう。
「そのマンドレイク、細かく刻めば豚汁にあうかもしれねぇな!」
「あっ、確かに……このお鍋もよく見ればなんとかなりそうです」
そわそわとするメイメイの傍でそそくさと準備を行なうゴリョウをまじまじと見ていた『おいしいで満たされて』ニル(p3p009185)は「あれは『おいしい』ですか?」と首を傾げた。
「実は、俺は余り料理を得意としてないんだよな。ニルは見てどう思う?」
「うーん……」
おいしくないかもしれない。ニルはそんな不安そうな顔をして居た。アイオンの食べる料理は色味が『おいしく』なさそうだったのだ。
それでも誰かと食べるごはんとは『おいしい』。だからこそ、プーレルジールのことは好きだ。一緒に食事をしてくれるアイオンの事も好きである。
「おいしいごはんは、元気につながるのです。えーきをやしなう、のですよ!」
「そうだねえ。お鍋にしてたんだっけ?」
にんまりと微笑んだ『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)は食事の後は特訓だよと意気込んだ。
「じゃん! 『家庭用サイズ「神の獣のお肉」』のだよお。これをブツ切りにしてお鍋に入れよう。
あと『肉屋のピクニックバスケット』も用意してるよ。好きなのはあるかな?」
「フラーゴラ、俺、からあげが食べたいかも知れないな」
ふにゃりと笑うアイオンに「あら、いいじゃない」と『ヴァイス☆ドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)は頷いた。
ゴリョウのおにぎりと豚汁、フラーゴラの持ち込む食材を生かせば豪華な夕食の出来上がりだ。
後々の鍛錬準備を整えてた『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)に「ココロ、飯だぞ」とアイオンは声を掛けた。
「おうおう。一緒におにぎり片手に語り合えばまさに『同じ釜の飯を食う』仲間ってやつだ!
しっかり食って英気を養ってくれ! 遠慮なんかすんじゃねぇぞ! いざって時に『腹減った』とか言われちゃ俺泣いちゃうからな!」
「ゴリョウ、リクエスをしても? 鍛錬が終ったら夜食が欲しい」
ココロとフラーゴラとこれから体を動かすのだというアイオンにゴリョウは「任せておけ」と腹を叩いた。
「これでマナセさまと合流したら、ついに魔王を……です、ね。始まったばかり、な気がしたのに……。
ぐつぐつ煮えるお鍋を見つめていたら、少ししんみりしてしまいました。さあ、ごはんにしましょう、アイオンさま……!」
「ああ、頂きます!」
食事を続けるアイオンにメイメイは頷いた。こうやって見れば彼は非常に穏やかな青年だ。
それでも混沌世界では勇者と呼ばれる『存在』である事は確かで。
「勇者王というのは単に勇気に長けた王というわけじゃないんだろうな」
バクルドはふと呟いた。他者に勇気を奮い立たせられるそういう人間性だからこそ、彼は勇者なのだろうか。
「よし、肉が来たな。そんなことより肉をくおうぜ肉を、後ありったけの安酒をな」
「お酒、いいわねえ」
レイリーはにんまりと笑った。此れまでの旅で彼とゆっくりと話す機会はなかったが――彼の事を知りたいとレイリーは考えて居た。
「ありがとうね、アイオン殿。私達の世界の為に戦ってくれて」
「えっ、そう言われると不思議な感じだな。レイリー達こそ、俺達の世界のために戦ってるだろう?」
ここがプーレルジールだからだ。レイリーはそれでも、混沌の滅びを遠ざけるために彼が戦っているのは間違いではないと感じていた。
「ふふ、敵地近くだなんて思えないわよね。
私はお酒を飲んだり歌い踊ったりすること、やっぱり飲んで食べて歌って騒いでみんなで盛り上がるのは大好きよ。
アイオン、あなたはどんなことが好きかしら?」
「斯う言うとさ、アレなのかもしれないけど。戦うことも、あと旅することも好きかもしれないな。
知らないことを知れるって言うのは、何者にも変えられないよ。どんな場所があるんだろうってウキウキする」
アイオンはにこりと笑ってから「よし、腹が満ちた!」と立ち上がった。
「ココロ、フラーゴラ、鍛錬だ」
「はい。アイオンさん! 実は学んでいただきたいことがありまして」
ココロが放ったのは魔力の光だった。理知の光は魔力の先行としてアイオンが作った木の人形に叩き付けられる。
「もし、敵対者が操られているとかの理由で殺したくない、と考えたとしましょう。
そんなときは、理知……すなわち敵を倒す、殺すといった感情に制御をつけて押さえつける別の感情の力を用いましょう。
今の術のように自分の気持ちをもう一つ作って、剣でのインパクトの瞬間にその気持ちを添えて急所を外すのです。さすれば、【不殺】の効果を得られます」
「殺さない?」
不思議そうな顔をしたアイオンをレイリーは『生死のやりとり』ばかりをこなしてきたのだと改めて感じていた。
「はい。ちょっとした過ちが一生の後悔を生みかねない。
皆が勇者に期待する気持ちはたくさん。いまのうちに使える技の種類を増やしておきましょう。さあ、わたしが受け手になります。どうぞ!」
「えっ、いいのかな」
「ええ!」
何処か困ったような顔をしたアイオンにフラーゴラは「ワタシを狙ってみる?」と微笑んだ。
「フラーゴラは何が得意なんだ?」
「そうだねぇ……ワタシが教えたかったのは『罠設置』かな。視覚、嗅覚、聴覚を研ぎ澄まして感知するの。
じゃあ、ワタシが罠を設置するからアイオンさんは、それを避けてワタシに攻撃を放ってね!」
速力には自身があるというフラーゴラ。回避にも優れ、堅牢である。回復力を生かせば、耐久力にも優れている。
「さあ、どんどんタフになるよ……!」
「驚いた。女の子を攻撃するのは忍びないって思ってたけど……これなら戦いやすいよ!」
全力でぶん殴ってくるつもりのアイオンにフラーゴラは笑った。斯うした場合はどの様な戦闘を行なうべきか。
自身が苦手な『タイプ』を的確に理解しているフラーゴラは「実はね」とヒントを与えかけたが――
「と、と、アイオンさんに自力で学んで欲しいので教え過ぎないよーに……」
きっと彼は『戦い方』を理解してくれるはずだ。もう少し体を動かしたら夜食を食べようとアイオンは意気込み始めるだろうか。
成否
成功
第1章 第5節
●勇者『未満』III
「おう! おまんがアイオンか!」
にいと唇を吊り上げたのは『特異運命座標』金熊 両儀(p3p009992)であった。
屈託なく笑う鬼一種の青年を見上げてからアイオンは「君は?」と問うた。
「金熊 両儀っちゅうきに。急ですまんが儂と手合わせをして欲しいぜよ!
ん? 理由? 何、おまんは強者じゃと噂を聞いてのぅ!」
「はは、それは光栄だなあ」
アイオンはゆっくりと立ち上がってからふと自らの武装を眺めた。アイオンは剣を得手としている。
例えば、『魔法騎士』セララ(p3p000273)との連携を意識した際にも剣を駆使していた――が。
「武装は?」
「儂も相棒を使うきに。気にせんでええ。
何、他のもんから教えてもらうた事の集大成と思って! 全力でかかってきちょってえいぞ!」
アイオンは「君の相棒は中々に良く手入れされている。持ち主の人柄かな」と穏やかに微笑んでから柄に指先を添える。すらりと引き抜かれたアイオンの剣も細かな手入れが成されているように思えた。
両義はほうと呟いてからおとがいを撫でる。背筋に入ったのは『訓練中』と聞いていた青年がめきめきと成長をしている事によるある種の畏怖と戦いへ向けての強い期待か。
「安心せい、儂はイレギュラーズの中でも強うない部類じゃ!
儂の全力も、今のおまんの全力も大体同じくらいじゃし、ヒーラーもおる! まっこと、楽しい斬り合いが期待出来る筈ぜよ!
やらん言うても……血が沸ってきちゅう! 此方からやるがのぅ!」
「はは、それじゃ、宜しく頼むよ!」
鋭く風を切るようにアイオンが走る。その剣戟は彼が冒険に出た頃と比べればなかったものだ。
セララの雷撃を纏わせる魔剣を真似た一撃、魔法のノウハウを教えるイレギュラーズによる『魔力制御』。それだけではない――索敵も必須と聞いたのだ。
アイオンが後方を見る。ぎらりと輝く瞳と共に後方に振られた剣が何かにぶつかった。
「っと、はは――」
『竜剣』シラス(p3p004421)の唇がついと吊り上がった。お行儀の良い訓練ばかりでは学べないことがある。
両義との訓練の最中でも不意打ちには備えねばならないのだと『教える』為に来た――というのは建前だ。見ろ、目の前には『勇者王』アイオンが居る!
シラスの心が沸き立った。彼と出会えたことが何よりも喜ばしく感じられて仕方がないのだ。
「おっと、ご機嫌よう?」
「ふ。何するんだって顔だよな。どうした、プーレルジールじゃあ敵は挨拶してかかってくるのか?」
「……あ、しないな。なら、正当だ」
アイオンは納得したようにシラスを一瞥し、両義をちらりと見る。奇襲の際にアイオンが感じたのは鋭い殺気であった。
アイオンの反応を計り、『丁度対応できる』程度に抑えたつもりだが、2度目はないかとシラスは考える。
(この野郎――……流石は『伝説』って話か?)
伝説の勇者なら持っていて当たり前だとは考えたが、悔しいものがある。戦えば戦うほど彼が研ぎ澄まされていくのだ。
「うんうん、アイオン! 流石だね!」
「師匠が良いんだよ。まあ、師匠っていっても個人じゃないけれど」
アイオンがからりと笑えばセララはにんまりと微笑みを浮かべてみせる。シラスと両義と距離をとって剣を一度降ろしたアイオンに「じゃあ、次は~」と指を折る。
「付与だね。両義君との手合わせとシラス君の奇襲への反応を見てて思ったけど、アイオンって結構まっすぐだなあって。
それじゃ、まずはボクの付与を見せてあげるね。いくよ! ――『セララおやつタイム!』」
セララがドーナツをもぐもぐと早食いし始める。呆気にとられたアイオンはセララを指差してから両義とシラスに「俺もドーナツを出せた方が良いのか」と真面目な顔をする。
「うーん、とっても美味しかったの。これでボクの攻撃力は3割アップだよ」
「それは早食いをするセララが凄いのか、もしくはドーナツが凄いのか……」
「どうかな? じゃあ、ボクの付与をアイオンに使って上げるね! はい、どーぞ」
お上がりなさいとでも言う様にドーナツを手渡されたアイオンは咥えた儘で両義を振り返った。
「アイオン殿! ……アイオン殿?」
此処で会うとは奇遇だと軽やかな挨拶を行なう『黒鉄守護』オウェード=ランドマスター(p3p009184)はドーナツを加えたアイオンにぱちくりと瞬いた。
「ああ、おふぇーど。げんひだっひゃか?」
「ドーナツ、食べ終わってからにしろよ。アイオン」
シラスが窘めればアイオンは『敵前では手が空かない』事を意識してからもごもごと口のみでドーナツを咀嚼し終えて微笑んだ。
「オウェード、元気だったか?」
「ワシかね? 相変わらずじゃ! さておき、ワシはお前さんに特訓やら護衛やらを行おうと思っているが……どうかね?」
「もひりょ……もご、勿論」
ドーナツ二個目を食べながらアイオンは頷いた。オウェードはうんうんと頷いてから「この鞭は飾りじゃ……出来ればあまり気にしないで欲しいが……」と呟きながらも手に鞭を握り締めていた。
「あの時よりは強くなっているのう……でもまだちょっと隙があるのう……戦術を見極める必要があるんじゃ。斯うした盤上では……」
オウェードの説明耳に為ながら座学には些か疲弊したような顔を見せたアイオンが「うーん」と呟く。
『蛇喰らい』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)は「放浪の経験則、座学とくりゃ、次は実戦訓練だな」と肩を叩いた。
「ふむ。ここからはアイオン殿の判断じゃ! 戦略眼はワシより優れてるしのう」
「なら、バクルドとの戦闘を見て意見をくれ」
アイオンは意気揚々と立ち上がった。オウェードは頷いたがバクルドは「とはいえだ、俺の戦い方とお前さんのそれとはかなり異なる」と先ずは前置きをした。
「俺から教えるのは距離の得手不得手と対応方法だな。端的に言えば得意な距離を維持して、不得手な距離を押し付ける」
「押し付ける?」
「ああ。先手をとれれば相手に早く対処が出来る。行動回数を増やせば攻撃した後に安全距離に離脱できる、そうだろう?
しかも、だ。移動距離を伸ばせれば逃げた相手にも着いていける。
まず相手を知るよりも自分を知る、不得手な距離と得意な距離を体と頭で覚えて貰おうか」
「オーケー」
アイオンはにいと唇を吊り上げた。バクルドは攻撃可能範囲が高く、ある程度の機動力を備えている。アイオンが『距離』を推し量るならば丁度良い相手だ。
ただし、ドーナツは咥えている。咥えて両義ともタッグを組めば即席で戦況を見極めなくてはならない機会の感性だ。シラスの奇襲にも備えておくべきだろう。
(しかし、こいつは凄いな。地力も成長性も高いアイオンだ。立ち回り次第じゃすぐに追い抜かれるかもな)
バクルドは息を切らしながら幾度かの戦闘を終え、アイオンがはたと気付いたように「疲れたな。腹も減るし」とあっけらかんと笑う声を聞いた。
休憩をしようと告げた彼にオウェードは「噂によると結構冒険をして来たらしいのう……例えばどんな冒険をして来たのかね?」と問うた。
「砂漠を越えたよ。それに、魔王軍ともあったし」
「ワシが勇者に相応しいかは分からぬ……分かる事は重き荷を背負う事だけじゃ……これまでも……これから先もじゃ……」
背負う、とアイオンは呟いた。
果たして背負えるのだろうか。格好付けて勇者なんて名乗るにはまだ自らは足りない気はするけれど――背負えたときはそうなのっても許されるだろうか、なんて。
そんなことを思わずには居られなかった。
成否
成功
第1章 第6節
●『魔法使い』III
「『ちゃっちゃっと魔王ぶん殴ってけちょんけちょんにして、世界を救ってハッピーエンド』ですか。
……ふふ、マナセさんは本当に頼もしいですねぇ。明るい貴女と接していると、元気を貰えます。
さて、けちょんけちょんにするためにも――アイオンさんの元へと、共に向かいましょう」
楽しげに歩く少女を見詰めてから『暗殺流儀』チェレンチィ(p3p008318)はついつい笑みを綻ばせた。
「それ、よく言われるわ。底抜けに明るいって!
そうかしら? そうなのかも。だって、笑顔の方が幸せになれそうだものね」
にんまりと微笑むマナセに『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は「うんうん!」と頷いた。
「でもマナセさん、笑顔で『やらかす』事が多いよね」
「うぐ」
マナセがたじろいでから指先をちょいちょいと突き合せる。だって、でも、そんな言葉を繰返す幼い魔法使いにスティアは微笑んだ。
「でも、練習すれば大丈夫! いつも全力でどーん! って感じだもんね。
威力は凄いと思うんだけど……疲れちゃったりしないのかな? 少しは制御する方法を学ばないとね。先は長いような気がするけど……」
――スティアは知らなかった。この後、マナセに「スティアの料理も制御出来るかしら」などと反撃されるのだ。
「あ、そうだ。ファルカウさんも何か話し込んでるし、せっかくだし、私と模擬戦してみる!?
私が受けるだけでマナセさんが攻撃役! うーん、危ないかなー?」
「うん」
「え、即答。でも緊張感があった方が成功するかもしれないって思って、私は少しくらいなら当たっても全然平気だしね!」
マナセはごくりと息を呑んだ。『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は「魔力制御を先に練習するか?」と問うた。
サイズ自身は少し悩ましさを懐いていたのだ。妖精郷の話を彼女に聞いたところで、この世界にはそれが存在して居ないのだというのだから。
「それじゃ、マナセ。
最初に体全身で力んでる所からやめようか、力んだ所で魔力の流れは変わらないからな、それにどうしたら制御に失敗するかも失敗して学べば良い」
「有り難う。そうしてみるわね……ウムムム……」
「それだと思う」
凄まじい魔力の奔流を感じたとサイズは呟いた。マナセの杖をある程度調整して魔力を貯蔵できるようにしてやれば良いだろうか。
失敗しながら学べば良いと言ったが失敗先がスティアなのはある意味で考え物だ。『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)は思わず笑みを零した。
「貴女程の素養を持って生まれると、望まずとも魔法と縁のない生き方は出来ないでしょうね。
一つ。力とは、究極的には使い様です。古語魔法の本質は兎も角、どのような魔法も使い方一つで破壊を起こせますし、誰かの役に立つ事もできます」
「今、破壊しそうだわ、スティアを」
アリシスは傷だらけになってから「マナセさん抑え目ー!」と叫ぶスティアを一瞥して困った様子で肩を竦めた。
「全ては貴女次第……魔法は好きですか?」
「好きよ。だから、この体が魔法に適していることが嬉しいの」
「では、そう思える自分を信じ抜くのです。貴女なら、きっとその力で大きな事も成し遂げられます。
……制御の修練は、課題ですね。力が大きければ大きいほど、制御は容易な事ではなくなりますから」
アリシスはこの大きすぎる魔力は時が解決する気が為てならなかったのだ。
「やァ、こんにちは。魔法使いと魔女、魔法(アタシ)に親しき『隣人』達。キミ達のモノガタリにも興味があるから同行させておくれよ」
「こんにちは!」
にんまりと微笑むマナセに『闇之雲』武器商人(p3p001107)は「イイ挨拶だね」と頷いた。
マナセとは魔術の交流をしておきたいが「状態保存の魔術とか洗浄の魔術とか空調の魔術とか旅にも生活にも便利だけど、情報の対価にどうだい?」と問えば「じゃあ、周辺を塵芥に変える方法なら!」と制御が出来ないから其れしか出来ないとマナセが困った様子で言う。
「はは。そういえば、もしもキミ達が、夜の魔女を知っていたら……あるいはどこかで会ったら。仲良くしてあげておくれね。
とっても可愛い、素敵な魔女だから」
「あら、そんな魔女がいるの? 逢いたいわ。会えるときっと幸せだろうけれど!」とマナセはにまりと微笑んだ。
目的はのんびりと『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)の魔女帽子に座っていたファルカウである。
「そうだなァ、管理者が居なくなったことをもう少し深掘りしようか。
神は自ら去ったのか、死んだのか、殺されたのか。……ほら、なんせ混沌の進退にも関わることだからね。
そういえば、混沌によく似たこの世界も、ざんげの方みたいな存在はいるのかなァ。居ると居ないとで何か変わるのかしら」
「居ませんわね。そもそも、管理者が彼女を作っておりませんもの。
何処に行ったのか、わたくしずっと知りませんでしたけどあなた方と出会って知りましたの。其方に御座す神は同一でしょう?」
混沌とプーレルジール。元が同じならば創造主は同じだろうとファルカウは推測していたのだろう。
「……ファルカウさん、知らないことが多くて申し訳ないのですが……
どうして森を離れられないのか知りたくて。主だから? 何か制約でもあるんでしょうか?」
「ええ、そのようなものですわ」
「そして、先ほどの話でもありましたけど……『ファルカウの書』はマナセさんが会いに来るようにと書いたのであれば。それは、彼女が類稀なる才を持つ魔法使いだから、でしょうか?」
ファルカウはチェレンチィをまじまじと見てから尾を揺らした。
彼女は大魔導に育つ。それこそ、古語魔法という『余りに外に流出しないそれ』を解き明かし、現代魔法そのものに変化させるほどの才能を有しているのだ。
「魔法を、この子に預けておきたかっただけですわよ、愛らしいお嬢さん」
「……成程……」
それはマナセの実力を認めての事だったのだろう。チェレンチィは後ほどマナセに伝えてやろうと考えてから、前方で大騒ぎするマナセの背中を追掛けた。
(それにしても……『君』に聞かせて貰った、勇者王アイオンの物語。
その彼らとは厳密には違う存在ですが、こうして行動を共に出来ると、やはり心が躍ります……!
アイオンとも合流出来るようですし……思ったより『君』へのお土産話が増えそうです)
彼はどの様に笑うだろうか。墓前で伝える話は突拍子もないと眉を顰められるだろうか。
「……ところで、ファルカウ様。フォーレという単語に覚えは御座いませんか?
フル・フォーレ……何か意味がある言葉なのでは、と思ったのですが」
ファルカウは栗鼠の体で首を傾げた。「人名ですか」と問うた彼女にアリシスは頷く。
「古語でよろしければ。貴方方に分かり易い言葉に代えれば……森と生きる者という意味を持ちます」
「成程、古語にはそうした意味合いが込められるのですね。なら、『ファルカウ』は?」
ファルカウは――栗鼠は尾を揺らす。スティアとアレクシアを見詰めてから彼女は言った。
「あなた方の言葉では『聖域』……ですわ、逸脱したお嬢さん」
アレクシアは「ファルカウさんは色んな秘密を持っているね」と呟く。スティアに引っ張られてやってきたフランツェルはその言葉をじいと聞いていた。
「封印のやり方については予想通りではあったかな……だから私達の世界でもああなってるんだろうし。
封じるのをやめろ、なんて言うつもりはないよ。私だって、きっと愛するものの為であればそうすると思うから」
「わたくしと似ていますわね」
ファルカウは笑っただろうか。嗚呼、そう言われたらそうだろう。自己犠牲を厭わないのは美点でありながらも汚点ともなぞられる。
犠牲を良しとしているわけではないが、そうなったならば我が身を省みる事はしないのだから。
(ギリギリまで可能性は探りたい。……でももしそういう時が訪れたら、覚悟くらいはできているつもり)
アレクシアはふと、思いついたようにファルカウを見た。
「ところで、滅びは封じるしかない、のかな?
つまり、今ここではどうやっても完全に祓うことはできないの? ……それとも、未来に託した、みたいな感じ?」
「わたくしは可能性の種(パンドラ)を持っては居りません、魔女よ」
奇跡などない世界。滅びのみの世界。神様に見捨てられたとはそうした事だったのだろうか。
『約束の果てへ』セチア・リリー・スノードロップ(p3p009573)はだからこそ、彼女は全てを封じ、森を守る決断をしたのかと考えた。
「『森を害するならば、どの様な理由があったとて、わたくしはわたくしの理念に乗っ取るのみ』
ならアレは滅びの因子関係なく、ファルカウにとって正当な怒り……?
こっちのファルカウに出逢えば、解決するんじゃないかと思ったけど更に悩み増えたー!」
ああ、と頭を抱えてからセチアは咳払いをする。ファルカウに伝えなくてはならないのだ。
――『わたくし自身を糧に、大樹へ封ずる』
それはこの危機を乗り越えた先に、未来の森で何かが起こる可能性がある、と。大吹雪が森を襲う可能性があるのではないかと。
森を助けるために選択しなくてはならない物が存在し、その果てに森そのものに糾弾される可能性さえある。
(彼女に伝えるのは怖い。けど……もしこっちでも混沌の出来事が起こり得るなら、森を愛し、苦渋の決断をした人が更に傷つく未来を避けられるかも)
セチアは意を決した様子でファルカウとその名を呼んだ。
「……今の貴女は誰かに森を託せるぐらい自分と同じぐらい森を愛する者が居ると信じているのなら。
森を愛する者同士が共存できないなんて、凄く悲しい事だから……
私が教えられる事は教えるから、怒りなら受け止めるから、同じ事がこの先、起きないようにして欲しいなー……って」
「どう言う意味ですか、看守よ」
「何が言いたいかっていうと……封じられる前に。
この先で森を襲う大吹雪とかの為に、森を愛する人達が苦しい決断しなくても大丈夫なように対策出来るならして欲しいなって」
ファルカウは首を振った。
「わたくしはあくまでもこの世界のわたくし。対策を講じようと看守、貴女の世界に影響は及ぼせません。
そう、ただ……『大吹雪』は精霊の仕業であればそれは受け入れる必要がありましょう。森を害さなくてはならないならば決別を覚悟しましょう」
「どうして……?」
「わたくしを封じればわたくしは人ではなくなりましょう。そうして、精神が変質しけだものに化すならば――あなた方がその『ファルカウ』を殺さねばなりませんものね」
突拍子も無い言葉だとセチアは感じていた。アレクシアは「そういうこと」と呟いてから俯く。
「ががーん! 教えてフランツェルさんのコーナー!
実際はお話をしながら整理してみる感じなんだけど! 制約と結界と滅びに関して考えてみるよ」
手を打ち合わせたスティアは古語魔法について考えるとフランツェルと向き合った。
「制約かぁ、つまりは魔法を行使する為の条件って感じなのかな。だから深緑では禁忌とされている」
「火が、って事ね?」
「そう。炎が禁忌だっていうのはそういう事なのかなーって。
という事は森を焼いた事によって滅びを封じ込めた結界が弱まった?
そしてファルカウさんが怒っていたのは封じ込めた滅びに汚染されちゃったって感じなのかな。
魔女ファルカウ=大樹ファルカウと考えると成り立ちそうな感じだけど……もし滅びに汚染されているのだとしたら救ってあげたいね」
「さっきのファルカウの言葉を見れば……」
「封印を行使したファルカウさんが、霊樹の祖となって精霊体になったのに、封印が解けて滅びに侵食されたとか?」
「有り得なくはないわよね」
「むむ……益々助けてあげなくっちゃ……」
この旅の終わりが近付いていることを感じながらスティアは「マナセさん、黒いの触っちゃ駄目だよー!」と見えてきた影海を指差して叫んだのであった。
成否
成功
第1章 第7節
●勇者『未満』IV
「はじめまして! 秘宝種のアリカといいます! お近付きの印にこれをどうぞ!」
にっこりと微笑む『お菓子の魔法使い』アリカ(p3p011038)にクレカは「えっと、ありがとう」とウサスラパンを受け取った。
食事の場に戻って来たクレカはアイオンがちょこちょこと食事を摘まんでは訓練を繰返していた様子に『人間とは元気なのだ』という感想を懐いた所だった。
「クレカさんはご自身のルーツをお探しなんですね」
「うん」
「あたしも誰に作られたか覚えてないんですけど、気にしたことはなかったのです。
だって人間の作る食事は美味しくて、目に映る何もかもが新鮮で、毎日が楽しいのです。
だから自分が誰に作られたとかどうして作られたとか考えたこともなかったのです。こういうの、”親不孝”って言うんですかね?」
ぱちりと瞬くクレカにアリカは「あっ、気にしないでくださいね」と首を振った。親不孝であるか否か、それはどうなのだろうか。
その言葉を傍で聞いていた『死神の足音』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)は「難儀なものだな」と呟いた。
「ゼロ・クールというのは、難儀なものだな。
俺ももしかするとゼロ・クールから設計をアップデートした存在かもしれんが。
俺は境界の事をよくわかっていない。俺たちのルーツが混沌の先の別世界など考えもしなかった。
……どうやって俺達は生み出されたのか。考えれば考える程、煮詰まりかえる」
「どうして、産まれたのか気にはなるよね」
「……ああ」
ブランシュとて秘宝種だ。人の手によって生まれたその命の意味を探さずには居られない。
アリカのように自らの目的を見付け、『一人の人間』として道を進むか、それとも――様々な思惑がそこにはあるだろう。
「それにしても、魔王ですか……。その魔王がクレカさんのお父さんだとしたら、クレカさんはどうしたいですか?」
「わからない」
俯いたクレカにアリカは「戦わないで済むならそうしたいってあたしは思いますけど」と付け加える。
「お前の親は優しい人物だといいな。魔王が作り上げたというのも、こう、なんと考えればいいのか俺のCPUでは答えが出ないが。
魔術師の全てが、祝福から作ったとは限らない。少なくとも、俺はそうだった。
もし本当にお前の親が魔王だとするならば俺達は撃たねばならない。それでも、いいのか。何か平和的な解決があればいいのだが……」
「祝福がある生まれであれば、いいなって思う」
「……そう、だね……」
『玉響』レイン・レイン(p3p010586)は影の海を眺めながら小さく頷いた。
「混沌が……こっちの世界の色々を飲み込んで……あの城の黒い海が……大きな波で……全てを流したら……。
なんにもない……全部が……ゼロになるのかな……ココも……僕たちの世界も……滅びに抗ってる……。
滅びはすぐそこに来てて……いい事も悪い事も……全てが相殺されたら……ゼロの世界に…何が残るんだろう……何が出てくるんだろう……」
それが魔王の狙いなのだろうか。レインは呟いてからクレカを見た。
「今は分からない事かも知れないけど……クレカは……。
もし、魔王が君の知り合いで……それが、クレカに……自分のする事を手伝って……って言ったら……クレカは……どうしたい……?」
クレカは初めて『創造者(おとうさん)』が悪人であったときの自らのスタンスについて考えた。
これまでは知りたいばかりだったのだ。知りたい、知りたいと。そればかりを考えて居たけれど――それだけでは、ダメなのだ。
「……わたしは、うん、イレギュラーズと、戦うよ。
わたしが生まれた意味が、世界を滅ぼすこと、だったとしたって……今のわたしは、それが『いや』だから」
俯いたクレカの頬をぷにりと突いたのは『龍柱朋友』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)であった。
「さ、お腹空いたね。お酒!! ……は、飲みすぎない。クレカもいるしー……。
でさ、クレカの力になりたい。世界……友達がそう思ってるから手伝いたいってのもあるけど私が、手を伸ばす彼女の力になりたい。
アイくんに手を貸したいと思うのも、そういう理由なのかもね?」
「シキはやさしいね……」
そう言ってから作ったおにぎりが一つ消えたことにクレカは気付いた。真っ直ぐ見詰める彼女の視線に『摘まみ食い』がばれた気がしながらもシキは微笑んで見せる。
「目の前で手を伸ばす人がいて、力になりたいと思うから私は強くなれる。それが私の力の源だ。
アイくんにもそういうのはある? これがあるから自分は強い! みたいな」
「あるよ。俺も多分、クレカの手伝いがしたいと思う。それが俺の目的の……まあ、勇者として魔王に会うにも通じそうだし」
「成程。じゃあさ、自分の『心の軸』ってやつ。そういうの、忘れちゃダメだよ。心とか気持ちって、自分を強くしてくれるから」
クレカもだよと微笑んだシキは「……っはは、つまみ食いバレた?」とフランクに笑って見せた。
影海に誰かがやってきた気配がする。偵察を行って居た者達の言葉を聞いてからそれが『マナセ』なのだろうと気付いてから『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は「因果なものですね」と呟いた。
「マナセ、魔法使いだっけ」
「ええ。伝承の一人でもあります。
……選択に関わらず道が定められている……という考え方はあまり好きではないのですが、それでも運命的な縁というものはあるのだな、と」
「俺もこれは定まった道じゃなくって運命だと思うよ。出会って、何かするみたいな。そういう運命だったんだ」
明るく笑うアイオンはやはり『勇者』そのものなのだろう。
「……勇者王の仲間……やはり何処かに居るのでしょうね。一人を除く他の方も」
「ん、誰かいないのか?」
「ええ。その一人は『スケアクロウ』、名はパウルという……旅人、完全な異世界からの来訪の魔術師でした。
勇者王の建国に付き合い大貴族の一人として共に国を作り上げた一人……です。
他には……例えば、そうですね。プーレルジールより遥か東の山を越えた先に広がる広大な大地に、一大宗教国家を建国した僧侶とか。
縁を信じるなら、何れ逢う事もあるかもしれませんね」
「ははあ……もしかすると何処かに居るのかもしれないな。もしさ、会えたら銅像でも作って貰う? 絵でも良いな。
そうやって俺達が実在してたこと残して貰わなくっちゃ。どう思う? リースリット」
明るく笑ったアイオンに「『マナセ』さんはきっと喜びますよ」と『幻想貴族』の娘は頷くのであった。
成否
成功
第1章 第8節
●出会う時
意気揚々と歩いていくマナセに『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は頭を悩ませる。
(しかし……イフとは言えども妖精郷の『冬の王を封じる』封印具を作った魔法使いに物事を教えているとは心の焼きでも回ったか……)
サイズをじいと見ていたマナセは何とか魔術をある程度制御すべく頭を悩ませているようだった。
それでもある程度は『覚えて』来たか、『体に馴染ませて』来たのか呪文のコントロールも行えているようではある。
「マナセ、聞いても?」
「ええ」
「もしも……とある国に住む多くの人を救わなくちゃならないとして。
その代償に自分以外の一人の人間の自由の大半を許可無く奪い、その人間が死んだら他の人間が呪いを被る呪いを作らないといけない場合、呪いを作った人間は悪い人か? 良い人か?」
「疑問が分からないわ。ええと、それって、『沢山の人を救う代償に誰かがいけにえになる』ってことよね」
サイズは小さく頷いた。妖精郷の女王の宿命は二つの因果が絡み合ってのことだ。
一つはサイズが考えるとおり冬の王による滅亡を避ける為の『封印維持』の為に存在して居た。もう一つは、妖精郷の門を維持する為にある。後者は魔術師シュペルの作品だ。どちらも代償が重く命をも欠けなくてはならないのだ。
そして彼は勘違いしているがマナセは妖精に強制していない。妖精が好んで行なった選択だ。
「んー難しいけど、誰かを勝手にいけにえにしたなら悪人だわ」
「ああ」
「でも、それなら周りが止めるんじゃない? もし、呪い? 呪われた人が、それを選んでるなら、悪いって言いきれないと思う。
その呪いを作った人が余所者で、わたしが救われる立場迷わず犠牲になるのを選ぶわ。もしかすると、いけにえになったひともそうだったのかもね」
マナセは唇を尖らせた。
「ねえ、サイズ。サイズってわたしのこと嫌いでしょ」
「は?」
「分かるわ。良く分からないけれど、此れだけは言えるの。
その呪われた人に聞けるなら聞いてみてほしいな。お前はそれに後悔してるか? って」
幼い少女はにんまりと微笑んでから足元に駆け寄ってきたポメ太郎を抱きかかえ、走り始めた。
『騎士の矜持』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は「マナセ」と手を振った。
「ベネディクト! ポメ太郎は忙しかったの?」
ウキウキとした様子でポメ太郎を抱きかかえるマナセへとベネディクトは「ああ、色々と」と頷いた。
「マナセ。少し会えなかったが、元気にしているかい」
「ベネディクトとポメ太郎も元気そうでよかったわ」
マナセはポメ太郎の肉球をふにふにとして居た。
「わん!(マナセさーん! 元気でしたか?! 僕は何だかきれいな所におさんぽに行ってました! ボール遊びできなかったのがむねんです! わん!)」
「わたしと遊びましょうよ。あれ、ほら、モンスター」
アレは食べれるのよとウキウキした様子のマナセは頭がボール状になって居るモンスターを指差した。
「くぅん……(食べません)」
マナセの様子にベネディクトは小さく笑ってから「目的まで一緒に行こうか」と軽やかな足取りで進み始めた。
「それにしたって、マナセさんは元気ですね」
くすりと笑った『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)にマナセは「元気が一番だもの、ね。ポメ太郎」と嬉しそうに微笑む。
「ええ。ええ。……そういえば、ファルカウ。マナセさんでも扱えるような封印術は教えないんですか?」
「それは後ほどに。この子の魔力が『大きすぎ』ますもの」
シフォリィは何か考えがあるのだろうかと首を捻った。そもそも、攻勢魔法を得意とする彼女の封印術のルーツはフィナリィによるものだ。
彼女と出会っていたならばマナセは簡易的な封印術を覚えて居たのかもしれないが――混沌世界と違い此方のマナセはフィナリィを知らない。
「何を話してるの?」
飛び付くようにやってきたマナセにシフォリィは「いえ」と首を振った。
「それにしてもマナセさんはアレンジが得意なタイプなんですね、今まで使ってた魔法を組み替えて新しい魔法を即興で作ってしまう。
本来の世界で私達が使っているような魔法もいくつかはマナセさんが思いつきで作ったのもあるのでしょうね」
「ファルカウもそう言っていたわ。シフォリィはわたしの知ってる魔法使える?」
うきうきとした彼女の様子を見れば『嘗ての記憶』が呼び覚まされた。
「……平和になったら、魔法のルーツを探ってみても面白いかも知れませんね。マナセさんの知っているものが何か分かるかも知れませんし。
ねえ、マナセさん。世界が平和になったら何がしたいですか?」
「んーお勉強」
頬を緩めたマナセは沢山の魔法を知って皆の役に立ちたいのだと声を弾ませた。うきうきとした彼女がルーツだと知れば『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は『感覚で魔法を扱うマナセ』と自分は良く似ているのだろうかと親近感を覚えた。
「ねえ、もしかして理論を組み立てるのって得意じゃない?
魔力の制御に関しては、無理に抑えようとするよりは流れに身を任せたほうがうまくいきそう~、なイメージ!
ほら、風とか止めてもぶわーってあちこち散らばっちゃうけど、通り道を作ってやればいい感じに流れるでしょ! 多分あんな感じ! たぶん!」
「ぶわ~~をまとめるのね!」
集中するマナセの背を眺めながら『滅刃の死神』クロバ・フユツキ(p3p000145)はまじまじとファルカウを見詰めた。
(”森と生きる者”、そして”聖域”。まさか……いや、俺の仮設程度で想像がつくならそう単純な話でもないだろう)
ファルカウはクロバを見据えてから「何か?」と問うた。
「ああ。俺からの質問は最後に一つだ魔女ファルカウ。
もし君が『種』と表現するものを使うなら一体どういうものが該当する?
勿論植物の種子という意味もあるが、ちょっと気になる話を最近聞いていてね。……気にすることでもないとは思うんだが、少しだけ突っかかっているんだ」
「色々と、思い浮かびますけれど、命ですわ。根源。すべてのこと」
クロバはヴィヴィ=アクアマナの事を思い出した。精霊体となったファルカウが滅びに侵食されているならば、彼女にとっての『子』――血の繋がりは無いが神霊として産み出されたならばファルカウの力を宿している子のような存在か――となるヴィヴィにも同じように。
(……嫌な話だが可能性としてはゼロではないだろう。
ファルカウから滅びの気配を取り除く、何かを媒介にして吸収させることができないだろうか、と。
そうだ、俺はなんとかしたい。霊樹も共に生きる人も、果たさないといけない約束も――リュミエも)
幻想種では無いが森を隣人と考えるならば、滅びに何とか立ち向かわねばならないのだ。渋い表情をしたクロバの傍では『約束の果てへ』セチア・リリー・スノードロップ(p3p009573)もまた惑うような顔をして居る。
「そっか…こっちのファルカウはそう思うのね……私の世界のファルカウを救うにはどうすれば良いのか。
どう向き合えば良いのか、まだ分からないけど……私、この世界のファルカウに出会えてよかったわ」
ファルカウは「そうですか」と目を伏せた。
「もしかして”クェイス”って名にも意味はあったりするの?」
「……知らない言葉ですわ。けれど、迚も愛おしい響きですわね」
ファルカウにセチアは「そうなのね」と頷いた。
「ファルカウさん、色々聞かせてくれてありがとう。おかげさまで、決意は固まったかな。うん」
アレクシアは胸に手を当ててからファルカウに向き直った。
「やっぱり私は、あなたは……厳密には違う人かもしれないけど、『あなた』をどうにか助けたい。
もちろんこの世界のこともそうだけど、同時に一番ある意味でお世話になった相手のことは見捨てる訳にはいかないよ。
『殺さねばならぬ』とは言われても、はいそうですかとすぐには言えない性分だからさ。
そういうわけで、封印術に関してはマナセ君と一緒に教えてもらうから!
私には彼女ほどの魔力はないし古語魔法に関してもからっきし。
でも、形だけでも知っておけば、後でなにか役立つかもしれないでしょう? 断られても、こっそり盗み見てやるからね! ふふん」
「魔女は皆強欲なものですね」
「あ、それマナセ君の事も言った?」
アレクシアは外方を向いたファルカウに彼女も今は『人間らしい』性質を有しているのだと感じてつい声を上げて笑ったのであった。
「何の話?」
「いいえ。マナセ、私は貴女のこと詳しくないから教えてくれる?
凄く魔法が好きで、強くて、魔王ともまずは会話って優しい子って程度しか知らないのだもの」
「かわいいってことも付け加えて欲しいわ!」
くすりと笑ってから「お話ししながら行きましょうね」とセチアは告げてから――「あ、もしこの世界で”クェイス”って奴に出会ったら教えてね!」と思い出したように囁いた。
「でも、もうすぐ着いてしまうのよね……ひいひい……」
「気負い過ぎるなよ魔法使い。死神が味方にいるんだ、考えようによっては頼もしいだろ?」
「ええ、でも勇者って――」
緊張するわよと叫んだマナセにクロバは小さく笑った。眼前には『華奢なる原石』フローラ・フローライト(p3p009875)と語らうアイオンの姿が存在して居る。
「魔法使いさん達がいらっしゃったようです」
「お。うんうん、でもその前に聞きたいことがあったんだろ?」
フローラは「良いのか」と言いたげな視線をアイオンに向けた。アイオンはにんまりと笑う。
「勿論」だと頷く彼にフローラは少し緊張した様子で問うた。
「魔王イルドゼギアについて、アイオンさんはどう感じる、でしょうか?
私が知るのは、別の世界で予備の肉体であった彼、ですけれど。
……でも、遺されていた記録から感じられた、滅びに抗う力の求道者めいた彼と、この世界のイルドゼギアはきっと違うもの」
「君の知っている魔王と、違う存在だって事?」
「はい。もしかしたら、プーレルジールは旅人であった魔王が訪れなかった世界で。
……つまり、アイオンさんを勇者として育てたのも魔王の存在があってのこと、ということも、あるのやも、なんて。
な、なんだか勝手な思い込みで色々と、すみません……っ。
でも、何者が、何のために別人を魔王の立場に据え置いたのか。それが気になってしまっています」
アイオンは「屹度、そうなんだろうね」と言った。
「例えば、世界の強制力――って言葉はあんまり好きじゃ無いけどさ。俺がそうだったとするだろ?
……なら、アイツもそうなんだ。だから、話を聞こうか。……マナセ、だったか? 君もコッチ」
「え? 待って、勇者が名指しするんだけど! ベネディクト! 私の代わりに『こんにちは、マナセよ』って名乗って」
無理があると首を振ったベネディクトにシフォリィの背後に隠れたマナセは「うーん」と呟いてから顔を出した。
「ええ。良く分からないけど、魔王をぶん殴る前に話すのね! 分かったわ!」
成否
成功
GMコメント
アイオンとマナセを合流させましょう。
それから、【ナニカの気配】がありますので、彼が出て来たら少しだけお話ししましょうか。
●ここはどこ?
マナセが向かって行くのは『影海』と呼ばれる混沌世界では終焉に当たる部分です。
何か不思議な気配がしていますが、どうやら『とある竜(オルドネウムではないかと推測される)』の庇護する空間です。
周辺には終焉獣なども多いので数を減らしておくと今後の戦いに役立つかも知れませんね。
また、アイオンは「鍛錬をしたい」「ご飯を食べよう」と気軽にキャンプに誘って来ます。
それも『マナセ』が合流するまでです。マナセはアルティオ=エルムから砂漠を抜け此処までやってきます――が、彼女は幼い少女ですので護衛も必要となります。
(第二章では『魔王』に関してのアプローチを受け付けることが想定されます。先ずはアイオンやマナセと交流してみましょう!)
●ラリー
当ラリーは2章までの構成で運営される予定です。
章切り替えは『マナセがアイオンと合流した時点です』
・参加時の注意事項
『同行者』が居る場合は【チーム名(チーム人数)】or【キャラ(ID)】をプレイングにご記載下さい。
ソロ参加の場合は指定はなくて大丈夫です。同行者の指定記載がなされない場合は単独参加であると判断されます。
※チーム人数については迷子対策です。必ずチーム人数確定後にご参加下さい。
※ラリー相談掲示板も適宜ご利用下さい。
※やむを得ずプレイングが失効してしまった場合は再度のプレイングを歓迎しております。
※リプレイ返却後、章が切り替わるまで何度でもプレイングの投稿は可能です。(シナリオ内容にそぐわない場合は採用を見送る場合もございます)
●第一章で出来る事は?
・マナセをアイオンの元までエスコートしましょう。
・マナセと『緑葉の精霊(ファルカウ)』に質問を行ないましょう。
・マナセと交流しましょう。
・アイオンと訓練をしましょう。
・アイオンと交流をしましょう。
・クレカと共に周辺調査や野営を楽しみましょう。
マナセがアイオンと合流した時点で二章に移行します。
行動ターゲット
誰と行動しますか?
【1】『魔法使い』マナセ&『緑葉の精霊』ファルカウ
『元』勇者パーティーの魔法使いマナセとその肩に乗っている魔女ファルカウが作り出した存在です。
森から砂漠を抜け、アイオンと合流しにやってきます。
●『魔法使い?』マナセ
マナセ・セレーナ・ムーンキー。魔法使いかお姫様になりたい女児です。
古語魔法を理解し使用することが出来ます。攻撃魔法>回復魔法>>>>封印術です。
威力は流石は勇者パーティーの魔法使いです。制御が下手くそですが……。
性格的には明るく溌剌。元気いっぱいの女の子です。自信が無いのは「古語魔法をつかったって良い大人になれない」と周りに言われ続けて居るからであり、その辺りは現実世界のマナセとはあまりかわらないようです。
●魔女ファルカウ(緑葉の精霊)
ファルカウ――の作り出した栗鼠です。マナセの肩に乗っています。
魔術書の著者であり、古語魔法の遣い手のようですが……詳細不明。
色々と聞いてみても良いかも知れませんね。
●フランツェル・ロア・ヘクセンハウス
深緑のアンテローゼ大聖堂の司教。魔女ヘクセンハウス。深緑に伝わる歴史を編纂し記憶する役割を担います。
皆さんと共に行動しています。イレギュラーズです。
【2】『勇者』アイオン&クレカ
『冒険者』アイオン
混沌史では勇者である青年。プーレルジールでは只の冒険者です。
それ程戦いには慣れていませんが、剣を手に皆さんの戦い方を模倣し、そしてアレンジしながら戦います。
勇者になる過程でもある為、彼自身はぐんぐんとその力を付けることでしょう。ですが、現状では未だ未だ『成長途中』です。
非常に明るく闊達。かなり距離感が近い青年ではあります。元気いっぱいです。迷うことなく戦う事が出来るのが利点です。
●クレカ(K-00カ号)
ゼロ・クールであると思われる境界図書館の館長でもある秘宝種の少女(便宜上、少女と称する)。
基本的に魔術を駆使して皆さんの支援をします。戦うことは余り得意としていませんが、皆さんの力になりたいようです。
自身のルーツを探っています。魔王イルドゼギアに何らかの違和感を感じています。
もしかして、あなたが、おとうさん?
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