シナリオ詳細
<伝承の旅路>それを、運命と呼ぶ
完了
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オープニング
●
「いっやあああ、助けてェッ!」
足を掴まれた様に宙ぶらりんになって樹に吊り上げられているのは『魔法使い』マナセだった。
10にも満たない年齢の小さな家出娘。家出の理由は『諸般の事情』だという。
――実際の所は魔法使いになりたいという夢を、それを馬鹿にする者達を見返すために冒険の旅に出たそうだが。
現在のマナセはアルティオ=エルムの入り口付近で蔓を伸ばし動物を喰らう食人花に囚われていた。
「……あー……」
見上げるフランツェル・ロア・ヘクセンハウス (p3n000115)はあなたに気付き「あの、手伝って貰える?」と問うた。
此の儘だと消化液に顔面からダイブする事になる魔法使いを救い出さねばならないだろう。
「はあっ、はあっ……魔法使い廃業するトコだった!」
「人間も廃業し掛かっていたわよ」
「危ないっ! 天才魔法使いなのにこんな目に遭って、死んでしまったら本も出せないわ!」
非常に強かな娘なのである。『マナセ』とは混沌世界では勇者PTに参画していた魔法使いだ。
幼いながらも卓越した魔術の素養を有し、全ての魔法の原点とさえも揶揄される。幾つもの攻撃魔法を生み出し、古語魔術までも駆使したという。
苦手であった封印術をパーティーメンバーの『フィナリィ』に教わり、妖精郷の冬を終らせる一助にもなったと言われているが――
「んもー! 森って虫も多いし、枝踏んだら命の危機がありそうだし、どうすればいいのよ!」
プーレルジールでは一般的魔法使い(天才ではあるがまだまだ未熟)な少女である。
マナセの手にはアルティオ=エルムでは旧い時代に使用されていたとされる古語で記載された魔導書が存在する。
著者の名前は『ファルカウ』。混沌世界の大樹ファルカウとその名を同じくしている事から探究心豊かなイレギュラーズと共に行動するに至った。
森を守って欲しいと頼むファルカウに応えて四天王を退けたのだが、肝心のファルカウは姿を現すことは無かった。
「ねえ、ファルカウー! 魔女に二言はないわよー! 魔女は対価を支払う者だけれど、対価は先払いしたと思うのだけれどー!」
森に向かって叫ぶマナセは落ち着くことを知らなかった。その年若さ故、そして、本人の気質故にだ。
混沌世界に存在する大樹の嘆きの上位種『オルド種』のクェイス (p3n000264)に言わせれば「喧しくて人の話を聞かないグズ娘」との事だった。
そんな彼女は森に向かって叫び――ようやっと観念したように木々が揺らめいた。
小さな栗鼠が走ってきてマナセの肩に上る。それは「わたくしは森を離れませんもの」と焼けに穏やかな声音を発した。
「ファルカウ?」
「ええ」
「ファルカウ!?」
「そうだと言って居るではありませんか。このアルティオ=エルムの主、ファルカウですわ、魔法使い。
わたくしもご一緒致しましょう。森で優雅に食人花(マンイーター)と遊んでいる暇はないのでは?」
栗鼠が呆れたように頬袋を撫でればマナセは「確かに……」と呟いた。
混沌世界には勇者アイオンと呼ばれる青年がいる。ただし、混沌世界ではという注釈が着く。
プーレルジールでは冒険の旅には出ず、母の病のために冒険者見習い程度であった。そんな彼はイレギュラーズと共に西を目指したのだ。
西、つまりはサハイェル砂漠と『影海』の存在する領域だ。浮遊島サハイェルが地へと落ち、魔王城諸共西方に存在するのはイレギュラーズにとっても既報である。
その位置が混沌世界では『終焉』と、『影の領域』と呼ばれるのも因果なものだ。
「とりあえず、世界が滅びないようにするには魔王をぶん殴るのよね? けちょんけちょんにするのよね?」
「ええ、そうしなくては滅びは世界を覆いますもの」
「ふーん……どうして魔王は世界を滅ぼすの?」
「そもそも、イルドゼギアと名乗って居る彼は『魔王』などではないのです、魔法使い」
マナセは首を傾げた。混沌世界のイルドゼギアも魔王ではない。ただ、支配と統治で世界を管理し滅びを退けようとしただけだという。
ならば、この世界の彼は――?
「管理者(かみ)が居なくなった世界は滅びるのみですから、世界が認識していた『勇者』と『魔王』を擬えて、世界が滅びに向かっているのです。
その滅びの象徴たる魔王は無理に産み出されたのではないでしょうか。……イルドゼギアと呼ばれる男はプーレルジールの住民ですよ」
「えっ、じゃあ、無理矢理にでも魔王をしているの?」
「ええ。きっと。……お話をしながら向かいましょう。西へ。死にたくないのでしょう? 魔法使い」
「勿論。何だか世界が滅びたらあの子 も困るって言ってたもの。ちゃっちゃっと魔王ぶん殴ってけちょんけちょんにして、世界を救ってハッピーエンドだわ。
ついでに、ほら、イレギュラーズ の住んでる……混沌? にも行って、滅びを私がぶん殴ってあげる」
幸せそうに笑ったマナセはあなた の手を引いた。
「行こう、西へ」
――魔法使いのパーティーメンバーである少女は何事もなくったってアイオンの元に向かっただろう。
それが世界の強制力で、それが世界の在り方だから。
「あっ、そこの人も西に行くのなら一緒に行きましょう? あのね、アイオンって人のところを目指しているの!」
にんまりと微笑むマナセは手を振った。あなたや、周囲のイレギュラーズを連れて、西を目指す。
目的は?
問われたマナセは意気揚々と答えた。
「戦う前に魔王イルドゼギアって人とお話しすることよ。
その前にファルカウにも何か聞きながら、アイオンってひとと合流しましょうね」
因みに……影海の中継地でキャンプをしていた『勇者』が盛大な嚔をしたのは、言わずもがなである。
●
「はあ……誰か噂してるかな」
一方の影海。勇者王と混沌世界では呼ばれていた青年は『冒険者』としてこの地に至っていた。
憩いの地と呼ばれた中継地点でのんびりと珈琲を飲んでいるのが『アイオン』である。
彼の目的はここでどんちゃん騒ぎすれば魔王イルドゼギアが顔を出すのではないかな?という何とも言えない目的だった。
「あの……」
不思議そうな顔をしたクレカ (p3n000118)にアイオンは「ああ、大丈夫だよ」と微笑む。
「とりあえず、ここで鍛錬をしながら待っていようかなって思う。友達が紹介したい『魔法使い』が居るって居てたんだけど、彼女も此処に向かってくるみたいだから」
「魔法使いっていうのは……」
「『ゼロ・クールの技師』ではない方」
アイオンはそんな古風な存在が居るなんて思わなかったねと微笑んだ。クレカは何とも言えない表情を見せる。つまり、クレカにとっては『魔法使い』とは魔術を行使する者というイメージが強いのだ。
そうした魔法を行使する人間も廃れ、現在のプーレルジールでは人形技師が魔法使いと呼ばれているのが実情だ。
プーレルジールが滅びに面した際にアイオンは起った事を記憶している。
幾人かが暴走した。狂い、そして他者を手にかけた。
幾人かが自ら命を絶った。外に出ることを怯える者が居た。
そんな中、ギャルリ・ド・プリエの一人の魔術師が『人形に命を与える』方法を思いついた。
そうして人の営みに溶け込ませ、必要以上に人間を喪わないようにと配慮したのだという。プーレルジールという世界を維持するための改革だったのだろう。
「クレカはゼロ・クールなんだろう?」
「……そう、なのかもね。わからないけれど」
「うん。心なしなんて呼ばれてるけれど、『感情』がないという意味じゃなく、心臓が与えられていないという意味なんだろうと思ってる。
君はどうやら生き物だし、他のイレギュラーズにもそうした人が居た。だからゼロ・クールと呼ぶべきではないのかも」
アイオンの言葉に耳を傾けながらクレカは俯いてから足元の石ころを蹴り飛ばした。
「あの、お願いしたいことがある」
「何かな」
「……変なことを言うよ。私ね、魔王イルドゼギアって人に、懐かしい気配を感じたんだ」
――もしかしたら、自分が生まれた理由に携わっているのかも知れない。
だからこそ、魔王を倒す前に少しだけ話をさせてくれやしないかとクレカは直談判しにやってきたのだ。
「構わないよ」
「え」
クレカはぱちくりと瞬いた。てっきり「必要かな」と言われると思っていた。クレカの中でのアイオンは『勇者王の伝説』という本の通りの人物像だったからだ。
「これまで関わったイレギュラーズが対話も必要だと行って居たし識る事も大切だと言って居たからね。
だから、その通りにしよう。ここでばしばし騒いで煩くすればイルドゼギアが『煩い』って叱りにやってくるかも知れないだろ。
なんだか、聞いた話だと魔法使いのマナセという女の子は煩いらしい」
「……」
クレカは彼女に此処で騒がせてイルドゼギアを呼び出すつもりのアイオンに何とも言えない感情を覚えた。
それまでは野営地を整え、此処で訓練をし魔王を倒す準備をするのだという。
話を経てからも『滅びは打ち倒すべき』だ。魔王に事情があるならばそれを考慮する必要もあるが――
「とりあえず、用意は大事だろう。鍋でも食べる?」
「あ、う、うん」
「この辺の探索と、敵の殲滅もした方が良いかもね。ここは戦場になるかもしれないし」
アイオンは取りあえず鍋の用意だと適当に捕まえてきたマンドレイクを突然捌き始めた。
クレカは響き渡った植物の叫び声に「探索してきます」と立ち上がったのだった。
- <伝承の旅路>それを、運命と呼ぶ完了
- GM名夏あかね
- 種別ラリー
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年11月16日 15時50分
- 章数2章
- 総採用数91人
- 参加費50RC
第2章
第2章 第1節
●『魔王』
(――魔王イルドゼギア。その立場に選ばれてしまった憐れな『魔法使い』よ。
……勇者と出会い、貴方は何を為そうというのですか。恨まれ、殺される道筋を作るのか。それとも、対話をし、救いの手を求めるのか)
ファルカウは「皆ぁ、凄い変な気配が近いわ~!」とイレギュラーズ達の元へと向けて駆けて行くマナセの背をゆっくりとした歩調で追掛けた。
(ああ――実に、興味深いのだわ)
そうやって彼女はやってきた。
魔法使いの名前はマナセ。そして伴に連れているのは大樹の魔女『ファルカウ』――の憑依した栗鼠である。
そして彼女は出会った。因果を感じるものだが、混沌世界では共に戦った勇者と魔法使いはこの場で顔を合わしたのだ。
「あなたがアイオンね! ああ、どうしましょう!」
慌てた様子のマナセは『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)の背後に隠れていた。
それもまた因果なものだ。シフォリィと同一の魂を有していた『フィナリィ』は勇者パーティーの封印術を得意とした賢者であったからだ。
近くに感じられた清らかな気配はハイペリオンだろうか。彼女もまた、星の気配を宿す少女とこの地にまで至っているのだろうか。
一同が集まったのはサハィエル砂漠に存在する沈島地帯。
――つまり、魔王城を目前にしたアイオンのキャンプである。
どうして魔王と呼ばれた存在がこの世界に居るのか。
混沌の魔王イルドゼギアとは大きく違う存在である彼はどの様にしてその立場を与えられたのか。
「俺は答えを知りたいよ」
アイオンはにんまりと笑ってから天を眺めた。感じていた『視線』は徐々に輪郭を帯びていくようだった。
周辺の気配が形を作り、渦を巻く。瘴気が覆い尽くしそれは人の影となる。
「俺が勇者である意味や、キミが魔王でこの世界を滅ぼさなくちゃならない意味。
それから、こうやってマナセと俺が出会った意味も知りたい。
残念ながら俺は『イレギュラーズ達の知ってる伝承の勇者』には程遠いし、マナセだってそうだろう」
「え、わたしってダメっぽい!?」
慌てた様子で振り返ったマナセにファルカウは「67点くらいですわ、魔法使い」とさらりと返す。「微妙」と呟く少女は膨れ面でアイオンを見た。
「……まあ。
とりあえず、俺達の前に姿を現したのは話がしたかったからだろう。
この子、クレカだって疑問を抱えているよ。キミに懐かしい気配を感じたんだって言う。イルドゼギア――キミは何なんだ?」
イルドゼギアの唇がつい、と吊り上がった。彼の意志か、それとも周辺の滅びの気配による防衛反応だろうか。
アイオンに向け、黒き手が迫り来る―――!
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★二章補足説明
■あらすじ
勇者アイオンは魔王撃破のために影海に到達していました。その地でキャンプをしながら戦う準備を整えています。
共に過ごすクレカはゼロ・クール(秘宝種)です。自らのルーツを知りたいが為にここまでやってきました。
魔王に対して感じた懐かしい気持ちから彼が製作者なのではないかと疑っているようです……。
一方で、魔女ファルカウの誘いで、アイオンとの合流を目指すマナセは楽しい旅を送ってきました。
二人は合流を果たし――目の前に『イルドゼギア』が現れたのでした。
■敵勢情報
・『影の守護者』
魔王の周辺から伸びてくる黒い手です。魔王を護る為の防衛機構のようですが……。
眼前の気配に反応して襲いかかってきたので一先ずは退けてイルドゼギアとの対話の機会を整えましょう。
落ち着かせても直ぐに出てくる可能性はあります。警戒は怠りませんよう。
・周辺の獣や気配
……魔王が現れてから敵と感じられる反応がぐるりと周囲を取り囲んでいるようです。
魔王との対話の最中に、防衛以外で手を出さない方が賢明でしょうか……。
■登場人物補足
・『勇者』アイオン :沢山訓練を積みそれなりに戦えます。明るく楽しげな冒険者の青年です。勇者の役割を理解し始めています。
・クレカ(秘宝種) :イルドゼギアが製作者(父親)なのではないかと疑っています。彼に感じるこの気持ちは何でしょう。
・『魔法使い』マナセ:ぎゃー!何か黒いの来た~!魔法の制御をちょっと覚えました。攻撃魔法が得意です。
・『魔女』ファルカウ:マナセの肩に座っている栗鼠です。何か聞きたいことが有ればお気軽にどうぞ
・『魔王』イルドゼギア ←New!
プーレルジールを滅びに誘わんとする存在です。……が、混沌の魔王とは大きく違うようです。
ファルカウ曰くは「彼は選ばれただけですわ、来訪者」とのことですが。
伝承のイルドゼギアと比べれば非常に落ち着いており、穏やかな青年を思わせます。
クレカが製作者(父親)ではないかと疑ってしまうほどに――彼は穏やかなのです。
彼にも何か理由があるのでしょうか? それとも……声を掛け、彼について識る事が出来れば新たな路が開けるかも知れません。
第2章 第2節
●『魔王』
「アイオン! クレカ! 貴方達は絶対に護るわ!」
声を張り上げた『ヴァイス☆ドラッヘ!』レイリー=シュタイン(p3p007270)は白盾を構え眼前の男を睨め付けた。
彼との対話を求めるクレカに、彼について今だ悩ましく思うアイオン。レイリーが与えたいのは対話の時間だ。彼から本音を引き出すことが出来るならば。
「めぇ……こ、これは……」
『ちいさな決意』メイメイ・ルー(p3p004460)がごくりと息を呑んだ。『魔王』イルドゼギア。男の周囲から黒き手が伸び上がり迫り来る。
「イルドゼギアさま、これが貴方の意思です、か?」
「僕は……いいや……」
「イルドゼギアさまの方で制御出来ないのでしたら、力づくで止めるしかなさそうです、ね」
緩やかに首を振ったイルドゼギア。だが、無数の黒き手は伸び上がり続ける。まるでアイオンを――この場の冒険者を遠ざけるように。
「あの黒い手……沢山あるけど…攻撃するのはもう少し後でもいいかも知れない……分からないけど……」
「レイン……」
クレカが『話したい』と言っていた相手を無碍に攻撃したくはない。『玉響』レイン・レイン(p3p010586)の気持ちを感じ取ったのだろうクレカは「危ないよ」と声を掛ける。
「相手が攻撃してくるんじゃないなら……話してみたい………クレカの事も……ううん……多分、クレカが話してみたいはず……。
魔王みたいな人が話してくれるかは分からないけど……少しでも機会があるなら、その時間を作りたい……。
僕も……聞いてみたいこと、あるし……」
「レインさま、防衛だけ、いたしましょう!」
メイメイにレインは頷いた。アイオンとクレカも彼に聞きたいことがある筈だ。『魔王っぽい人』と呼び掛けたレインは彼が魔王本人では無いような心地がしていた。
「ひとまず……君のこと……今は、魔王って呼ぶけど……魔王は……何をするのが好き……?
魔物を作ること……? それとも……一人の時間を楽しむこと……?」
「僕は――僕の好きなこと、だと……?」
困惑した様子のイルドゼギアを見詰めてからレインは「難しい……?」と首を傾げた。
「僕達は……僕達の世界を守る為にここに居るんだけど……魔王も……何か……守りたいものがあるの……?」
「僕が守りたいのは――」
唇を震わせるイルドゼギアを見上げてから僅かな違和感を覚えたのは『愛を知った者よ』グリーフ・ロス(p3p008615)であった。
幾度対話を重ねようとしても手は伸び上がる。困惑し、悩ましげに言葉を選ぶイルドゼギアとは対照的に。
「……話すだけじゃラチがあかねぇか……! アイオン! 時間を稼いでやる、話してこい」
防衛機構だ。そして、何を守りたいのかは――恐らくはイルドゼギア本人とこの場所だ。
相手の陣地の只中だものなと唇に笑みを灯してから『蛇喰らい』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)は走り出す。
「生憎、握手会はやってねえんだ、一旦影に還ってろ」
切り落とした腕は影の海に飲まれ――そして足元からも伸び上がる。
「合流した矢先に急に現れるとか、ゆっくり語らう時間もくれないんですか!?」
性急な男は嫌われると『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は叫ぶ。
アイオンとも話がしたい、その上でイルドゼギアにだって向き合わねばならないのだから。
「見ていてくださいね、マナセさん。此れが私の――魔術の使い方です!」
実践あるのみ。魔力が周囲を包み込む。シフォリィの『封印術』は影を食い止めた。すらりと飛び上がったバクルドが次々に手を切り落としていく。
「周囲が囲まれてやがるな……。一体全体何を考えてるんだ、イルドゼキアってのは」
「さあ。少なくとも私達の出方を見ているのは確か。イルドゼギアには手伝ってくれてもいいんですよ?」
シフォリィの言葉にバクルドが面食らったような顔をした。何故か赤の他人とは思えないというシフォリィの試すような声音にイルドゼギアの肩がぴくりと揺れ動いた。
「……何にせよ、だ。お前が本当の魔王じゃねぇことは良く分かる」
バクルドが知っている御伽噺の時代ではない。幾ら登場人物をなぞらえて、過去の混沌世界を模していようとも毛色がまるで違う。
(ゼロ・クールの存在、勇者パーティの欠落、魔王の来歴の差異。
フォルカウ的に言うなら役割に当てはまった別人というわけなんだろう……見るものが見りゃ演劇みたいなものに見えるのかもしれんな)
質の悪い演劇だとファルカウが喩えれば益々悩ましげに『愛を知った者よ』グリーフ・ロス(p3p008615)は首を振った。
「お会いするのは二度目ですね、魔王イルドゼギア。
あなたからは敵意が感じられません。目的も、与えられた役割も、その全てを把握することができないのですが――」
何にせよ、此処を乗り切りクレカを守り切るのが先決か。グリーフは眉を寄せた。
「……私も、聴きたいことがありますから」
フォーゲット。『姉妹』を通して垣間見たそれは分からないことばかりだが――
(ただ、魔王とドクターの求める答えは違う気がします。
マスターコードで自壊せず、まるで人のような苦痛を覚える、今の私は、ドクターの求める物に近づいているのでは?
寄生されたゼロ・クールを見るに、私たちは滅びの器となり得る。滅びが混沌へ至る。
そうなった時。私は……滅びをあえて一身に受ければ、守れるでしょうか。ラトラナジュが守った世界を)
もしも、そうなら。
ゼロ・クール達が産み出された意味が変わってしまう。人を助けるための存在が人を害する存在になる。
(だからこそ心なし、そう名付けられたとでも言うのでしょうか――)
本来の製造者がイルドゼギア、いいや『目の前の男』であるならば、その真意を問い質したい。
滅びを溜め込み、混沌へと渡る手段を手に入れ全てを流し込むために『混沌に認められたクレカ』が必要なんて事があれば。
「……クレカのこと……ううん、この子に似てる子を……見たことはある……?
この世界のこと……この世界に生きる人のこと……ゼロ・クールのことは……どう感じてて……どう思ってるの……?」
「K-00カ……?」
「おと――」
お父さんと縺れて旨くは言えなかったクレカをレインは見た。嗚呼、何も解らないけれど。
知らなくては。イルドゼギアの言葉を遮るように伸びる腕は彼の『自我』を押さえ付けているようにも見えた。
「折角、話して居るのですから……! 悪いお手手は、こう、です……!」
メイメイの砂が全てを絡め取っていく。
クレカのお父さん。それは本当なのか。分からない――知りたい。知らねばならないのに。
お邪魔虫の手はうようよと伸びてくる。メイメイはそれが攻撃を受け無力化されている間は彼と話すことが出来ていることにも気付いて居た。
「うう、どうしましょう! シフォリィ、やばいわよ! サイズ、あっちから手が!」
慌てるマナセをじいと見てから『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)はぎゅっと鎌を握り締めた。
「呪われた妖……人に一度聞こうとした事はあった、もう一人の妖精にも、結果は何も帰ってこなかった。
……それが答えだよ、命がけの呪いのね。周りは英雄だの、良い人言ってくれたが……その奇跡の名声だけは俺には苦痛だった。
それでも奇跡で歪みかけてた俺を叩き直した2人の妖精の為にも戦わないと……ああ、クソ、鉄メッキが剥がれた」
首を振ってからサイズは言った。
「そうだな、俺は……他のイレギュラーズから聞いたと思うけど、俺は伝承の魔法使いは嫌いだ。
最後に1つだけ教える、自分が納得しなきゃどれだけ良い大人になっても無意味だ。……頑張れよ、後悔なき生涯を」
「わたしのことが嫌いって事ね! オーケー! でも、わたしは嫌いじゃ無いわよ」
「は?」
「わたしはわたし、『伝承の魔法使い』はその人! 違う人間ってことで一つ――よろしくねえええ!?」
勢い良くリミッターを外した魔力が流れ込んでいく。「マナセ!」とレイリーが叱るように声を上げた。
「危ないわよ! 味方を巻込まないように気をつけて!」
「ごめんなさい! レイリーが黒焦げになるところだったわ!」
走って行くマナセを小突いてからレイリーは今だ湧上がるように手を伸ばす腕を前にして微笑んだ。
「さぁ、私の名はヴァイス☆ドラッヘ! 勇気ある者の夢を護るため、只今参上!
なんだかどんな守護者化もよく見えない影の奴らなんて誰一人通さないわよ!」
アイオンとクレカ、マナセ、皆がイルドゼギアとの対話を望んでいるならばそれこそが大事だ。
どうやら相手は『防衛』にシフトしている。戦いながらも話を聞くことが出来る筈だ。
(憎しみより相手を認めて戦って、尊重し合う。それこそが意味のある大切な事だと思うんだ。
けれどね、ふふ……勇者の守護者なんて誉れの極みだし、こんな舞台は騎士(アイドル)として胸が躍るもの!)
レイリーはにんまりと微笑んだ。
さあ、この身を越えて行きたいというならば滅びの一つや二つじゃ足りやしない!
成否
成功
第2章 第3節
●『魔王』II
「おいおい、いきなりだな」
無抵抗でしてやれる訳にも行かないと肩を竦めた『運命砕き』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)に「ルカ、あっちの腕ぐーんよ~!」とマナセが腕を振り回している。
「了解。っと、マナセ、魔王や味方を巻き込まずに撃ち落とせるか? ファルカウもフォローしてやってくれ。俺は魔法はわからねえ」
「ははーん、天才魔法使いマナセに任せたいって事ね!」
「不安しかないよ?」
オロオロとした『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)にファルカウは「不安が更に上昇しましたわね」と栗鼠の身で頷いた。
「『魔法使い』、落ち着きなさい。貴女は直ぐに気が逸る」
「綺麗な言葉で言ったけど、調子乗るなって言った!?」
マナセがぐるんと振り返る。その視線の先で『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が乾いた笑いを浮かべた。
「ううん、それより、あれがイルドゼギア……想像していたよりもずっと人間らしい雰囲気だね。
とはいえ、油断できる相手ではなさそうだけど……!」
「アッチが本気で俺達を同行するつもりじゃないだけマシだけどな」
ルカにアレクシアは頷いた。スティアとアレクシアの支えを受けて『最大火力』を叩き込もうとするマナセは「魔力を集めるわ~!」と杖を振り回している。
「魔王さん! はじめまして、あたしはレガシーゼロのアリカといいます!」
エイヤー!と勢い良く飛び込んだ『お菓子の魔法使い』アリカ(p3p011038)は礼儀正しく挨拶をした。
「勇者さんは、生まれたときから勇者じゃありません!
だから魔王さんも、生まれたときから魔王だったわけじゃないってあたしは思ってます!」
アリカは勢い良く周辺の手を払い除けた。イルドゼギアに敵意が無くともそれが覆う内は対話ができないというのだから。
「成程」と『騎士の矜持』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は頷いた。
「『魔王』イルドゼギアか……。
選ばれただけ、というのであればそれを選んだ者、或いはそこに介在する意思やシステムの様な物が存在するのだろうとは思うが。
選ばれてしまった以上はそれを真っ当しなければペナルティの様な物は存在するのだろうか。
それとも、『奇跡』が起きれば別の道が開ける可能性はあるのか?」
ファルカウがベネディクトを見た。何にせよ相手の『出方』を見てからでなくてはならないか。
「対話だけが目的であれば襲う必要はない。こちらの出方を見たいのか?」
わん、とポメ太郎は返事をした。マナセのサポートを行なう使い魔は「ご主人様、気をつけて下さい!」とでも言って居るかのようだ。
「魔王さんはどうして魔王さんになったのですか!魔王さんになりたくてなったのですか!
もし、そうじゃないなら……『昔話』を、聞かせてくれませんか?」
「僕は……うッ……」
イルドゼギアが頭を抑える。アリカは「混乱して居るみたいです」と呟いた。
「彼に寄生する終焉獣が自我を飲み込もうとしているのだろう。黒い手の防衛反応は……成程な。
イルドゼギアの『肉体の持ち主』の自我を抑える為の終焉獣の本能か」
ベネディクトの槍が手を払い除ける。アリカは「分かりました!」と頷いた。
あの人は悪い魔王じゃないかもしれない。ひょっとすれば良い魔王なのかも知れない。
クレカを作った魔法使いならば、その理由も知りたい。世界を滅ぼさない魔王だというならば、彼を正しいひだまりに連れ戻してあげたいのだから。
「魔王サンよ、この世界の滅びの運命を退ける協力をする気はねえか?」
「僕にそれが――?」
ああやはり、腕を撃ち落としている間は『その滅びが剥がれ落ちた』ように対話が可能か。
「ああ。ファルカウが選ばれただけって言ってたが、それは滅びの運命にって事か? なら呪われたみてえなもんだろ」
「呪い……たしかにそうだね。呪いだ。この世界をどうにかしたくって魔王になったわけじゃあないんだよね?」
アレクシアの問い掛けにイルドゼギアは痛む頭を抑えながらも「僕は世界を守りたくて――」と呟いた。
「守りたい……じゃあ、魔王なんてやりたくなかったらやめちゃおうよ。
そうできない理由があるなら教えてほしい。私達が何とかしてみせるからさ!」
快活で明るい森の魔女。ファルカウは「54点」と呟く。スティアは「え?」と聞き直した。
「さっき、マナセさんを67点と言ってて、アレクシアさんは54点?」
「『魔法使い』の方が幾分か生に執着している。あの森の魔女は……ええ、きっと、危ういでしょう」
ファルカウにスティアは「うーん」と唇を尖らせた。マナセのサポートをし、彼女の足りない部分を補って真に来たる決戦に備えては居るけれど。
(……きっと、ファルカウにも考えがあるんだ)
スティアはまじまじとアレクシアやルカと話すイルドゼギアを見ていた。
ヨゾラとて聞きたいことがあった。周囲に感じるのはセァハの気配だ。アイオンの動きを見ている事が良く分かる。
「イルドゼギア……久しぶり、って言っても良いのかな」
イルドゼギアはゆるやかに涼しげな目を細めてからヨゾラを見た。
「魔王イルドゼギア、君に聞きたいことがある。今の君に、寄生先の……古の冒険者イルドゼギアさんの記憶ってあるの?」
「古の冒険者――では、ないな。僕は……ただの魔法使いだよ」
その穏やかな声音に、被さるようにまたも腕が伸び上がる。「うぎゃああー!」とマナセが叫んだ。
「ど、どうしたの!?」
「きもちわるい」
「マナセさんって、結構その感想多いよね……」
スティアが肩を竦めれば「うようよしてるものー!」とマナセが慌てながらもまたも杖に魔力を集め続けている。
(……クレカさんは――)
ヨゾラは背後に立っているクレカの様子を見た。『狂言回し』回言 世界(p3p007315)の傍で不安げな顔をして居るクレカは「世界」と呼び掛けてから彼の服をつい、と摘まむ。
「魔法使いって」
「ああ。ならば――やはり。魔王殿御自ら出向いていただけるとは恐悦至極。
わざわざ足を運んでもらって悪いが歓迎会の準備はできてないんだ。魔王城でゆっくり待っていてくれ。
……とは言うものの、聞きたい事がある以上本当に帰ってもらうわけにはいかないな。
ちょっとしたお喋りを交えたティータイムと行こうじゃないか」
世界は真っ向からイルドゼギアを眺め遣る。
世界は渋い表情を浮かべていた。出会い頭イキナリパパ認定で早とちりしたくないとは上辺だけ。個人的に認めたくなかったのだ。
「改めていく。お前はクレカの親について何か知っているか? 彼女はお前に懐かしさを抱いているみたいだが」
「君が、僕の作ったゼロ・クールなら……」
「あなたが、私を作ったの……? どうして……?」
ずきりと頭が痛んだ様子でイルドゼギアは眉を顰める。世界は「根掘り葉掘り聞かせて頂きたいものだが」と付け加えた。
だが――
「イルドゼギア、この世界は好きですか?そして、あなたはもしかして、”管理者”になりたいのですか?」
静かに問うた『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)にイルドゼギアの唇が「ああ」と動いた。
けれど、それが彼本人の意志で鼻息がして鳴らない。ああ、そうだ、勇者と魔王が敵対するという『固定概念』の上で彼がその役割を与えられているならば。
(……『ここで彼から終焉獣を引き剥がせたら』、混沌世界を救う為に力を貸してくれる可能性もある……?)
ぐらりと傾いだ世界の上で、藁にも縋りたい気持ちがある。どこもかしこも滅び、滅び、滅び。
ああ、まったくもって、救いなんて何処にもないようではないか。
「アイオンさん!」
「ココロ、右だ!」
「はい! あなたに尽くすこの戦友にここはお任せ下さい!」
ココロの『ほたてぱんち』が影を吹き飛ばす。スティアの視線がアイオンを追掛けた剣を振るう仕草、そのひとつ。
(ああ、似てるんだ。イルドゼギアとアイオンさんは。……どうしてだろう、何かが、変だな。
終焉獣の気配が張付いてないときのイルドゼギアは全然だけど……うーん?)
スティアは「うおー! 分からなくなってきたけどマナセさん、いくよー!」と拳を振り上げた。
「うおー! スティア、ぱんち、ぱんち!」
杖をぶんぶんと振り回すマナセと共にスティアはその支援をする。
――吹き飛ばされる、黒き手。そしてまたも、穏やかなイルドゼギアの表情が見える。
「呪いなら解呪したいだろうし、協力の道もあるんじゃねえかと思ってな。
それが難しいとか、何らか他のしがらみで協力出来ねえなら理由を知りてえ」
「僕からどうやってこの終焉獣を引き剥がすつもりなんだ」
ルカは鼻で笑った。それからくるりと振り返る。視線の先はスティア――ではなく、ファルカウだ。
「こっちには伝説の大魔法使い様と勇者様がいるんだ。それに俺たちもいる。何だって何とかしてみせるぜ。
ていうかファルカウよ。お前色々知ってるんだろ?もうそろそろ全部話したって良いんじゃねえか?」
「……ファルカウさん! それが『運命』なんて言葉はいらないんだからね!」
アレクシアが叫んだ。ファルカウは「どのような存在が付着しているのかを解析した上で『元の肉体を保全』し、一気に火力で消し飛ばすのです」と囁いた。
「今のマナセには封印術は難しいでしょう。ならば――」
「一番遣りやすい方法ってわけだな?」
ルカはにいと笑った。その為に『イルドゼギアの元の人格』を出来るだけ引き上げ、その肉体の所有者になって貰わねばならないのか。
魔法使いである男、それから『彼の体に何が張付いているのか』を見極めねばならない。
益々、遣ることは増えたが――解決策があるなら無駄になるまい。
成否
成功
第2章 第4節
●『魔王』III
(四天王と同じなら、魔王の役割を担う終焉獣こそが真の本体
あれはサーシャさん達と同様に終焉獣に身体を奪われた誰か……クレカさんの様子を見る限り恐らくは……)
イルドゼギアは嘘を吐いていないと『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は認識していた。
魔王がいるから終焉が訪れるのではない。来たる終焉が代行者として魔王を用意したに他ならない。
だが、来たる終焉が代行者として『何らかの破片を集めた』というならば、散らばったパーツが乱雑に汲み上げられても問題は無い。
「暗躍の跡が視える終焉の使徒の思惑は兎も角として、勇者アイオンと魔王イルドゼギアの邂逅……
伝説の筋道をなぞる意味があるのなら、それは確かに避け得ざる運命なのでしょうね。
『イルドゼギア』、今一度問います。混沌へ至り、何をしようというのです。混沌を滅ぼして諸共に死ぬのが貴方の宿命ですか?」
「……ああ」
目を細めたイルドゼギアにリースリットは「そう、なのでしょうね。その為に貴方は『何もかもを囚われた』」
囁く声音を聞きながら『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)は「イルドゼギア……」と震えた声音を滲ませた。
「ファルカウさんは……イルドゼギアの事、知ってる?」
「ベースの事ならば何も知りませんわ。『ヒーラー』」
ファルカウは首を振った。ファルカウが知っているのはリースリットの語った言そのものなのだろう。
故に、何かが張付いているならば力尽くで引き剥がすだけだ。だが、魂と肉体が分離してはならぬのだと付け加えられる。
「わ、分からないけど……イルドゼギア……の肉体と『終焉獣』を引き剥がすために自己を確率? させるんだね」
その為には対話が必要だ。『イルドゼギア』と呼ばれた名も知らぬその人の魂を結びつけなくてはならないのだから。
「……魔王。その体と魂に寄生したのは……どのくらい前からなの? そして……イルドゼギアに寄生する『君』は、何者?」
「世界を滅ぼすための存在だよ」
穏やかな声音でイルドゼギアは囁いた。祝音はそれ以上は分からないと首を振る。誰だって死なないで欲しい――けれど。
切り札を握り込んでから息を吐く。「……あなた自身はその魔王という役割を、厭うているのでしょうか」と囁いた『刑天(シンティエン)』雨紅(p3p008287)が舞い踊るように黒き手を払い除けた。
「クレカ様。場は整えます。どうか心のままに。助けになると言いましたから。
ゼロクールは、滅ぶ世界と人、その後に残り続くものでもあるとか、違いますか?」
払い除けたからか――彼が顔を出す。
「ゼロ・クールは人を助けるための存在だ。君に新しい心を与えるために。この滅びなど取り込まず、空っぽの心が満たされるようにと願った――」
雨紅はだからこそ『ゼロ・クール』と呟いた。己が手にしたそれが防衛機構を僅かに対処する。
死せる星のエイドスの効果だろうか。今暫くの『正気』が目の前には訪れた。
「イルドゼギア、いえ。貴方はその様な名前ではないのでしょう――?」
「僕は、そうだ……もっと、違う名前が……」
頭を抱えたイルドゼギアを見て「勇者も魔王も最初は肩書きでしかない。『イルドゼギア』もそうなのだろう」と『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は問うた。
「アイオンさんは望んでその役割に従おうとしてる。……では魔王さん、貴方はその肩書きに望んで従いたいのか?
違うのであれば、取り戻さなくちゃならないと、思うよ。
魔王と勇者が戦えば多分、神?おおいなるもの? の思い通りになるんだろうな。
そう思うと大人しく従うのは癪に感じてさ。……覆したいと思ったこと、ない?」
まるで悪戯めいて笑ったイズマにイルドゼギアは「ああ、そうなれば――嬉しいな」と掠れた声を漏した。
イルドゼギアが混沌に渡るために星の気配を宿した少女ステラを利用しようとしていることは良く分かる。
そして、今のイルドゼギアは『正気』を保つのが難しく、直ぐに寄生した終焉獣に飲まれてしまう。
『おいしいで満たされて』ニル(p3p009185)はぎゅうと杖を握り締めた。
「イルドゼギア様がクレカ様のおとうさま……だとしたら、戦わない道はないのでしょうか……?
ニルはかなしいのはいやです。ニルは、家族が戦うのは……かなしいです。
何かすれ違いがあったりするのなら、それを確かめて、手をつなげたら、と思うのです」
イルドゼギアが『何かに取り憑かれているならば』。それがどうしたいのかを知りたいのだ。
「ニルは、クレカ様が、かなしい想いをしなくてよければいいと、願います。
かぞくは、しあわせなものだと思うから……思いたいから」
「僕も、子ども達には幸せになってほし――」
またも黒い手が阻む。ニルはそれらを打ち払い声を張り上げた。杖が力をくれる。
『つくりもの』だなんていわれても、それは命を宿しているのだから。
「自分のルーツ……自分をつくったひと。
ニルは、ニルがどうやって生まれたのか、なんで生まれたのか。どんなひとがおとうさまで、おかあさまなのか、知りません。
思い、出せません。プーレルジールでも、ニルは、わからないままです。
それを、知ろうとしているクレカ様を、知れるクレカ様を、ニルは応援したいです」
クレカだって、知りたいのだ。己の使命や在り方を。そうして、新たに歩き出す未来を夢に見ているのだから。
「ねえ、あの黒い手を弾けば良いみたいだわ!」
マナセがくるんと振り返った。「それから、なんかあの魔王、アイオンに似てない!?」と『黒鉄守護』オウェード=ランドマスター(p3p009184)へと詰め寄ってくる。
「そ、そう……かね?」
「そうよ。なんか仕草とか、あと、ちょっと格好付けてるところ!」
「……」
アイオンが「俺って格好付けているか」と問うようにリースリットを見たが彼女は首を振った。
「何か関係あるんじゃない!? どうする!?」
「うむ。……魔法で打ち払うんじゃ。
その魔法は見事じゃな……ワシは接近戦と庇う事が得意としてる単なる冒険者じゃ……宜しくじゃよ……」
「よろしくね!」
マナセはぱあと笑みを浮かべてから魔法を放つ。マナセが『攻撃』すれば彼女を庇えば良い。
実に天真爛漫で可愛らしい少女だとオウェードはその背を見詰めていた。
「しかし……流石は魔王城付近の言った所じゃ」
「ええ。しかもお誂え向きに混沌ならば此処は影の領域です」
全てがそうあるように『設定』されたのだろうと『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)は呟いた。
「この世界には本来存在しない、けれど勇者アイオンの対として歴史上替えの利かない魔王イルドゼギアという配役に当て嵌められた代役が、彼」
アリシスは静かに後方で佇む栗鼠に問うた。
「ファルカウ様、一つお聞きします。
この世界に神――管理者は居ない。それはそうでしょうね。であれば、彼を魔王の代役に選んだのは誰……或いは『何』か。
尤も。同じく代役であろう四天王を名乗る存在が全て寄生型終焉獣な事を考えれば、概ね答えの解り切った問いかもしれませんが……ご存じなのではありませんか?
終焉……恐らくは、世界を消去する為の機構……屹度、それはこの世界と在り様の意味を示す」
「ええ、分かりきっているのではありませんか? 『逸脱者』」
この世界は終るために存在して居る。終焉の徒も、何もかも。世界を消去する為にこの世界は『変容』している。
ああ、けれど、先程のマナセの言葉で気付いて仕舞った。
英雄譚のしもべたちは、混沌世界の物語をサルベージしている。より強大な世界を続けさせた『存在』ならば世界を『終らすことも』出来ようか。
魔王イルドゼギアに取り憑く終焉獣は――ひょっとすれば。
(アイオン……どうやら、あなたの伝承の数々は、終る世界に多大な影響を与えたようですよ)
成否
成功
第2章 第5節
●『魔王』IV
「えっとえっと……クレカさんの『パパ』に終焉獣が寄生してるってことなのかな? だったら助けなきゃ!」
真っ直ぐにイルドゼギアを見た『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)の発言は現状を把握するのに非常に分かり易かった。
その目が捉えた情報はやはり、イルドゼギアの元となった存在が只の人間である事、そして終焉獣が張付いていることだ。
「うーん」
それ以上のことは分からずとも、周囲の『手』を払い除けることは出来る。
「アイオンさん!」
「ああ!」
地を蹴って跳ね上がるアイオンの剣が腕を薙ぎ払う。フラーゴラはその補佐をしながらイルドゼギアを見据えていた。
フラーゴラの『クレカさんのパパ』という言葉に『狂言回し』回言 世界(p3p007315)は「畜生」と思わず呻く。
「情報を得れば得るほど父親説が濃厚じゃねーか。
アイツが本当にそうなら、クレカはやっと会えた親と戦う事になるんだぞ」
その言葉に酷く悲しげな表情を見せたのは『おいしいで満たされて』ニル(p3p009185)であった。
「自分が、自分でなくなってしまうのは、やりたくないことをしてしまうのは。
すきなひとのことを忘れてしまうのは……ニルはこわくて、かなしくて……いやです!」
今すぐに『わるいもの』を振り払うことができなくとも、クレカの事だけは理解し、覚えていって欲しい。
すきなひとのこと、かぞくのこと。それが一番に大事なことだとニルは知っている。
「……ぼくは、そうだ、ぼくは君にクレカと呼び名を着けて――」
「……イルド、ゼギア……」
ああ、そんな名前で『あなた』を呼んだことはない。クレカの悲痛な表情を一瞥してからニルは更なる願いを込めるように言った。
「なくしたくないというきもち、まもりたいというきもち、わすれたくないというきもち。
――あなたの中にあるだいじなものを、どうか。どうか」
忘れないで。ニルが見てもイルドゼギアを包む終焉獣の気配は強大だ。それに気取られず、打ち勝てるほどに強いその人を取り戻したい。
「……取り戻すんだな」
『死神の足音』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)は囁き地を蹴った。
「魔王の役割を持った者よ。一度そのロールを外すがいい。もしクレカが本当の娘だというのなら、本音で話すがいい。
その為ならば、幾らでも奇跡などくれてやる――死神だからな」
「ブランシュ、手が」
伸びてくる。エイドスによる奇跡は不完全だが、それでも、折り重なれば少しは彼の本音が見える気がした。
ブランシュが見て、彼がゼロ・クールという存在の全ての始まりである事は明らかだった。
彼こそがこの世界の技師たる魔法使いであり、そして、クレカの父親に当たる存在なのだ。
全ての黒い腕を払い除けるべく、叩き混んだ攻撃にエイドスの煌めきが乗せられる。
奇跡が、その場で万全に煌めいてくれることだけをただ、ただ祈る。
「あれが魔王」
囁いた『華奢なる原石』フローラ・フローライト(p3p009875)の眸はしっかりと彼を見詰めていた。
「現れたのですね、『魔王』の役割を担わされたひと。
……この纏わり付く滅びの気配。きっとそれこそがプーレルジール、そして混沌を脅かそうとしているものの原因」
故に、この『魔王』との対話を成功させなくてはならない。眩い光を伴いながらフローラは思考する。
「『勇者』が『魔王』に勝つ形で、そして『役者』を下ろすことができたなら――
『めでたしめでたし』で『むかしむかし』に語られる世界を続けられるのでは。
……終焉達が役割に拘るなら逆手にとって、たとえばシュナルヒェン。
ここには居ない役割に、配役を変えられたのなら……役者は助ける事ができるのでは。そして残るは終焉という真の魔王。これを討ったら良いとそう、なってやくれませんか」
ああ、もしくは――『彼と戦い力尽くで払い除ける』事か。
「アナタの本当の名前……クレカさんのパパの、イルドゼギアの、本当の名前、教えて」
フラーゴラは声を張り上げた。父親を殺す事、それがどれ程に辛いのかをフラーゴラは知っている。
『パパ』は魔種になった。そして、イレギュラーズが殺した。そのイレギュラーズの一人がフラーゴラ本人だ。
(ワタシのパパは……ワタシが殺したも同然。クレカさんには…そうなって欲しくないから!)
その人を救う為に、その心を繋ぎ止めておきたい。
ニルは余り時間はないのだろうと心を繋ぎ止めるためにエイドスの軌跡に頼った。それだけでも、彼を支えていられると――
「魔法使い(ウォーロック)」
何処からか声が聞こえイルドゼギアが気取られた。
(ウォーロック……? 魔法使いの意味か)
眼鏡の奥で世界の眸が煌めいた。ニルは「ウォーロック」と呟く。それが『彼』を表す言葉なのだろうか。
「クレカ」
「……何?」
「アイツを救いたいか」
もしも彼女が望むならば――いや、どう答えようとも魔王城には行くのだが――いまいち定めきれなかったこの度時の目標がハッキリするはずだ。
イルドゼギアの腕を払い除けながらも戦う仲間達を見据えて世界は背後のクレカの答えを聞いた。
ああ、だろうと思ったよ。
「助けたい」
彼女は、実に人間らしい言葉の含みで、そう言った。
「うん。助けましょう。ね」
『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は鮮やかな微笑みを見せた。『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)は「ココロちゃん?」と呼び掛ける。
「見て。魔王イルドゼギアには何かが取りついているように見えるのだけど……うーん、考えたってなにもわからない。
だからあの終焉獣たちを魔王から遠ざけよう。あれが居なくなればもっとたくさんお話できるかも――トール君、いっくよー!」
「背中はお願いします! ココロちゃん!」
本当に『助ける』ならば、役者を舞台から引き摺り堕とすのならば力尽くでならねばならない。
消去だの、来たる終焉だの。何だかんだ言ってもまだ何も終ってはいないのだ。
「わたしの勇者、トール君が希望を導いてくれるから、わたしは滅びに対して知らんぷりできるのです」
「僕の大切なお姫様の頼みとあれば、期待に応えてみせます!」
希望を導く勇者だなんてこそばゆい言葉でも――今はその期待に応えて見せる。
トールの剣がイルドゼギアの周囲を包んだ腕をを切り裂いた。その煌めきをその視界に移し込み、周辺で牙を剥きだし終焉獣を払い除ける。
成否
成功
第2章 第6節
●『魔王』V
「戦いの最中で考え事に集中する余裕はねぇんだが!」
思わず呻いた『蛇喰らい』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)は地を蹴った。
頭を回せ、周辺の確認を続けろ。この世界が御伽噺の不完全な再現である事に留意しろ。
(なぜ魔王が目の前にいて他四天王が現れない、シェナルヒェンの存在の未確認も懸念事項だ。
……いや、ひょっとすれば御伽噺にシュナルヒェンが語られず、他四天王も他の思惑で動いている――か、魔王が独断で動いたか)
その何方かか。目の前の腕を払い除けながらもバクルドは脳をフル回転させていた。考えろ、何かを見落とさぬように。
『玉響』レイン・レイン(p3p010586)はふと、思う。
『こころ』があって、それが自らの動力源であると言うならば『こころ』とは即ち魔法なのだろうか。
(ゼロ・クールやクレカが……それを持てたら……皆、魔法使いになれる可能性を持って、生まれてくるんだね……。
なら……もし、今……目の前にいる人が……そういうのを無くしちゃったら……。
クレカや僕達……ゼロ・クール達の『魔法』で……取り戻せないかな……)
イルドゼギアは、蝕まれている。『こころ』とは目にも見えぬものだ。だからこそ、難しく分からなくもなろう。
治すのも取り戻すのも、得る事だって、こころに触れたときだ。桜色の傘を開き、イルドゼギアの元を急いだ。
近付くことを拒む腕は尚も勢い良く伸び上がる。
奇跡を願うのは『芽生え』アルム・カンフローレル(p3p007874)とて同じだった。
「ステラ君から預かったこの力があれば、終焉から彼を救う道もきっと見つけられる。
……ステラ君が世界を救う希望を、俺たちに見出してくれたから。
この世界を救うなら……まず魔王役を押し付けられた彼を、なんとかしなきゃならないよね!」
唇に浮かべた笑みは尚も、美しい。その笑みは希望に溢れている。少女ステラが『触れて』帯びた変化が、イレギュラーズと共に在ることを選ぶ道であったという。
ステラから見ればイレギュラーズとは自らに変化を齎した勇者そのものだ。
「さあ、君の本当の名前を思い出して、クレカ君を作った『魔法使い』君! 君のことはしっかり守ってみせるから!」
――ウォーロック。
魔法使いとだけ呼ばれていたのだろう。アルムはふと、問うた。
「君には名前は無かった? 魔法使い(ウォーロック)とだけ呼ばれてきたのかい?」
星くずの奇跡が、眩く光る。クレカは「お父さん」とか細い声で呼んだ。
「……僕は、ずっと魔法使いと呼ばれていたから、名前なんてものは見付けたことが無かった」
名は、しるべ。
その事をアルムも、『騎士の矜持』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)も知っている。
ああ、だからこそ彼の道程がブレやすいのだ。名という本人を表す記号が朧気であるから。
「魔王イルドゼギア――いや、この名で呼ぶ事さえも『お前を否定する』事になるのだろうか」
ベネディクトの背後ではおろおろとするマナセと、その腕に納まっているポメ太郎の姿があった。
マナセはファルカウから伝え聞いた『戦い』方を頭の中で組み立てているのだろう。前足をしきりに動かすポメ太郎は応援をして居るようである。
聞き出せることは少ない。「お前の好きな物はなんだ。嫌いな物は?どうして魔法を修めようと思った」と問うたベネディクトにイルドゼギアは囁いた。
「そうだ――僕は、魔法が好きだったから」
腕が伸びてくる。其れ等を全て払い除けるように槍を振りかざした。
ベネディクトは問う。
「――或いは、俺達は友人になれると思うか?」
イルドゼギアの眸が瞬かれて、細められた。ああ、もしかすると、そんな未来があったって――
「……勇者アイオン。その最期は果ての迷宮に挑み続けたそうだね。
彼の物語が、この世界を形作るライブノベルだとして……
その勇者アイオン本人が、終焉の気配となってイルドゼキアの役割を彼に与えてる……?」
アルムにバクルドは「成程」と呟いた。確かに、果ての迷宮に挑んだアイオンをこの世界が『認知』した結果、世界を終らすに適した存在と認識した可能性はある。
「それならイルドゼキア役を押し付けられている時の彼と、アイオン君が似てるっていうのも辻褄が合うけど……。
理由が分からないな……アイオンがこの世界を終わらせたい……?」
「いや、もしくは、だ。それだけ強大な英雄譚の『存在』に滅びが合わさった結果なのでは?
何だってそうだろう。人に語られるほどにその存在は強固な力を帯びていく。
……イルドゼギアそのものを『打ち倒した勇者』を次の魔王にするなんて酷いジョークだ」
バクルドは地を蹴った。ここで一度でも引き剥がせば次は。
ああ、そうだ。次はアイオンにそれが張付く可能性がある。
「マナセ!」
「えっ、な、なに!?」
「『剥がすな』!」
――あくまでも綻びを作るだけ。
「糸口を得るって事かな!? 火力でどーんっと吹き飛ばす!
マナセさんの得意技だからなんとかなりそうだったけど! でも苦手そうな肉体の保全は手伝った方が良いよね?」
どうやら自分への負担が重かった。『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は「うーん!?」と頭を抱えた後ファルカウを振り返った。
「ファルカウさん! 私って何点かな!?」
「おてんばは減点ですよ、聖職者。58点を着けましょう」
「お転婆でかなり引いた!?」
驚いた様子のスティアは滅びのアークが結びつき英雄譚をより強固にしたのだと認識する。
ガイアキャンサーと同じだ。人に語られ、それが素として結びつき滅びをより強くする。地へ染み付いた信仰や伝承は時に人を勇気づける。
「逆に負の気持ちが強くなっちゃうと終焉獣の気配が出てきそう……なんとか押し込まないとだね。
話してみて、名前が無い事がダメなら、いっそお名前をあげちゃう!?」
スティアは影の手を勢い良く握った。マナセが「ぎええ!?」と声を上げる。
「スティア大丈夫なの?」
「スティア君なら大丈夫だよ」
「アレクシアって結構スティアを放任するのね!?」
大慌てのマナセへと揶揄うように笑ってから『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は「ファルカウ」と呼んだ。
「……ねえ、ファルカウさん、あなたはどこまで知ってるの?
私達の世界にはあなたの伝承だってある。
つまり、私達の世界の影響を受けて、こちらのあなたも滅びを封印せざるを得なくなった、なんてことはないの?」
「……」
ファルカウはアレクシアを視た。
「ええ、その通りですわ、魔女」
「私はこの世界のみんなにも、幸せになってほしいから。
どこの誰の仕業かは知らないけどさ、勝手にお仕着せられた『役割』なんて全部吹き飛ばしてやりましょうよ!」
本来ならばこの世界のファルカウは『普通に生きていられた』のだろうか。混沌のファルカウが綻び、滅びの素となり染み出したとしても。
ここでこの人と築けた関係性は失いたくはない。
「この世界のアイオンが本来『勇者』でないのなら……『勇者』の役割は第二の魔王になった?
『魔王』であるべくされたイルドゼギアとある意味で近しいかもしれない……むしろ『そうさせられた』の?」
――ああだから、運命なんてやつは腹立たしいのだ。
こうあるべき、そうあるべき。そんなの――
「もしそうであるなら、やっぱり『運命』なんて御免被るよ。
寧ろ、この世界においては、それを積極的に破るべきなんじゃないの?」
アレクシアはマナセの背を押した。今は『綻び』を作りイルドゼギアを引き摺り出すだけ。
「さ、マナセ君、狙って――」
成否
成功
第2章 第7節
●魔王VI
(境界のこっち側で頑張ったって、『サンディ・カルタ』にゃ何の関係もない。……というか、多分こっちにはいねえんだろうな)
そう小さく笑ってから『金庫破り』サンディ・カルタ(p3p000438)はアイオンを見た。
「が、ま、そんなんは理由にならねえってのもそう。ちゃんとしたパーティ構成になるまで、面倒見てやっかな」
「ちゃんとした構成は俺は分からないのだけれどね、今って最高じゃないかな?」
「ハッ、クールな事を言う!」
サンディはからからと笑った。後方から送り出す係も必要だろうし、誰もが必要なのだ。
勇者の戦い方は分からないが後方で魔法使いが『魔法を出すタイミング』を知らせてやることくらいは出来る。
「サンディ!」
「シキ」
手を振った『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)がにんまりと笑った。
「聞いて。あの人……イルドゼギアがクレカの父親みたいなんだ。クレカだけじゃない。ゼロ・クールを作り上げた製作者らしい。
彼が終焉獣に寄生されているのは理解した、この世界自体が、終わるためにあることも……それでも私は諦めたくない」
「だろうなあ」
「だと思った」
シキへと、サンディとアイオンは同じタイミングでそう言った。思わず顔を見合わせた二人がふ、と笑う。
「例え世界の終わりが運命づけられていても、それは抗わない理由にはならないよ。
絶望から希望を拾い集めながら、私たちはここまできたんだ……! だからもう少しだけ、正気が呑まれないように待ってて」
「シキ」
アイオンは呼ぶ。決意を胸に、共に戦ってくれるその人がアイオンは好きだ。
いや、アイオンという青年は己の懐に誰だって入れる。サンディやグリーフのことだって好きだ。
「ねえ、世界を救える可能性は絶対ある。私はその可能性こそを、運命と呼ぶんだよ。アイくんは?」
「俺は、さ。多分皆みたいな可能性なんてこの体にはないと想うよ。けどね」
ヒロイックな彼は、どこまでも進むことが出来る。終焉獣が『勇者アイオン』で、傍らの彼と大きく違うことを再確認した。
「俺は、戦うよ」
「うん。それでこそアイくんだ。私もそばで戦わせてほしい――一緒に諦めない夢を見たいんだ」
肩書きなんかに囚われることはなく、彼から終焉獣の気配を引き剥がすにはどうするべきなのか。
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は顔を上げた。
「役名で呼ぶわけには行かない! だからね、俺は貴方の名前が知りたいよ『魔法使い(ウォーロック)』」
無いというならば似合いの名を用意して彼の存在を固定すれば良いのか。
この世界は混沌と地続きで、周囲に飛び交う腕を払い除けながらも声を掛けることで彼が『魔王』ではないと与え続ける。
放たれたマナセの攻撃にイルドゼギアが一歩たじろいだ。
「手、剥がれたー!」と叫ぶマナセへイズマは頷く。
「星の奇跡を集めたら、ゼロ・クールと同様に魔王の終焉獣も剥がせないか?」
「それしか、ないのかも、しれません」
奇跡を束ねて奔流と化す。それが『この世界を守る』為に必要な事なのか。
(この世界のために、手を取り合えるように――、いえ、混沌の為、でもあります)
『ちいさな決意』メイメイ・ルー(p3p004460)はぎゅうとその両手に力を込めた。
「肉体と魂を結びつける…彼から話を引き出し続ける事で『自分自身』を取り戻せるのではないでしょう、か。
だから、貴方が名を持たないというならば。貴方に紐付く全てで貴方を此処に縛り付けていたい。
クレカさまだけでない、貴方の生み出したゼロクール達の名前や姿も、覚えています、か?」
ギーコ。呼ぶ。彼女だけは自信の助手として産み出した。
メイメイはこくりと頷いた。彼が魔王の役を降りても二度と魔王が『産み出されないように』、この地の滅びを全て払わねばならない。
(ギーコ……ええ、確かにあの人は製作者なのでしょう)
だが、クレカを産み出したときに彼は『魔王』ではなかった筈だ。『愛を知った者よ』グリーフ・ロス(p3p008615)は彼を見遣る。
「では、あのフォーゲットから流れ込んできた会話。ギーコさんの言葉。
……ドクター。今の私や混沌にとって、貴方たちは敵となるのですか。それとも」
――ああ、屹度。あの人はイルドゼギアの傍で制作を続けて居る。純粋に愛を求めて。
彼と向き合うならば、此度か、それとも、彼が混沌へと渡った後であるか。それはグリーフに委ねられた選択でもあるのだろう。
「……ギーコさんの言う、別の世界から此方に近付いた存在。クレカさんはそれを模したと。
ペリカさんという境界図書館に至る迷宮の探索者。彼女が繋げてしまったから?
混沌と繋がれば、プーレルジールは呑まれる。だから『保とう』と?
……いいえ、『勇者』が世界をつなげ、地続きの世界を『飲まれぬように』あなたは狙ったのですね『魔法使い』」
勇者と魔王は対である。この世界の滅びは混沌の余波を受けたとしか言いようがない。
世界を保つためにゼロ・クールを作った『魔法使い』の在り方が変容してしまったのは――
「成程なあ」
危険物全てを受け止めるのが『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)の役目だと飛び出した。
周辺の腕を受け止めるゴリョウに「有り難う!」と礼を言ってから『竜剣』シラス(p3p004421)は駆けて行く。
「対話するってんならコッチを任せな! ってか男同士の話し合いを遮ってんじゃねぇよすっとこどっこい! 『客』が舞台に手ぇ出すのはルール違反だぜ!」
己が全てを受け取って、その隙に『彼の本音』を引き摺り出すのだ。
「やっぱりアイオンに気配が似てるんだよな」
シラスは思わずぼやいた。イルドゼギアに取り憑く何者かとプーレルジールのアイオンが良く似ている。
特に隣に立っているアイオンとは直接手合わせしたのだ。故にそれは勘違いなどとは言えない。
(そしてその終焉獣は恐らく混沌由来だ。
しかし、アイオンの血統、つまり幻想王家がラスト・ラストに流れたなんて話は知らない。
……例外はあるだろうが王族なら大体は揺りかごから墓場まで記録が残ってる。
その例外の筆頭が果ての迷宮に消えたというアイオンその人だが──……反転? いや、まさかな。
反転じゃないならば――)
シラスは「ガイアキャンサー」と呟いた。大地の伝承が、滅びと紐付いて作り出されたのだ。
「アイオン!」
「どうした、シラス」
「『あいつの滅びを弾いた時、お前の体が危険に陥る可能性がある』としたら?」
シラスの問い掛けにアイオンはからからと笑った。
「望むところだ」
ならば、引き剥がす為にもう一度走れ。
「マナセ!」
アイオンが呼べば、焼けに耳馴染みの良い呼び方にマナセがぱちくりと瞬いた。体は自然に動く。
「スティアとアレクシアが手伝ってくれたんだもの。ポメ太郎行くわよ!」
注意・ポメ太郎はマナセの使い魔ではありません。
マナセは魔力を集めた。御膳立てしてくれた優しい先輩魔法使い達のサポートを得て、叩き付ける。
「ゴリョウ――――! 避けてねええええ!」
「うおっ!?」
それは聞いちゃいないと振り返ったゴリョウを掠めてマナセの魔砲がイルドゼギアの肩を穿った。
「ッ――」
「『魔王』」
グリーフは呼ぶ。
「何を為したいのですか。貴方の本当の望みではないのでしょう」
その声音から逃げ果せるように背を向けたイルドゼギアは身が固まった。周辺の黒い腕が一瞬鳴りを潜める。
それが滅びの気配が薄れたことだと気付いてからイズマは「『魔法使い』」と呼んだ。
「僕は―――」
グリーフは彼を見て、ぴたりと足を止めた。
「どこへ」
掠れた声が唇から漏れ出る。
「どこへ行くのですか」
「……お父さん」
男に名前はないと言う。
魔法使い(ウォーロック)と呼ばれ続けたというその人はふらりと、立ち眩んだ様子で後方へと下がった。
ぞう、と滅びの気配が一気に溢れ出す。
「僕は――君を殺したくはないよ、クレカ」
立ち去る男の背を追掛ける事は出来まい。夥しい程の滅びの気配にアイオンが「下がれ」と叫んだ。
『英雄譚』をベースに作り上げられた終焉獣達。混沌世界へと飲み込ませるのならば丁度良い。
ガイアキャンサーもそうだ。伝承は世に広く、それだけ強大な力ともなり得る。
「……だからこそ、勇者アイオンをベースにした終焉獣を作り上げ、第二の魔王にした、と。
勇者に敗北を喫した魔王では『もう一度負ける』までのストーリーが確定されている。ならば敗北を知らないその人ならば――」
『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)はゆっくりと振り返った。その姿に『青年』アイオンは見知った誰かを思い出した気がして目を擦った。
いいや、知らないはずだ。長い髪を揺らがせて朗らかに微笑む賢者の娘のことなど。
「……アイオン?」
「いや、シフォリィが違う人に見えただけ。気にしないでくれ」
「……ええ。いえ、私も『違う誰か』を重ねているので気にしないで下さい。
こういうのもなんですが、実は貴方と一緒に戦うの、期待してたんですよ。
この世界の貴方ではない一方的な縁ですけど、もう一回会ってみたかったんです……」
アイオンは「ひょっとして、俺が今、誰かと見間違えた理由もそれだろうか」と問う。
「さあ。どんな縁かは今は秘密です。きっと私達の世界の貴方を羨ましく思うでしょうし。
だけど求められた役割を全うしようとする所は変わらないんだなって思います。……目の前の彼も、同じようなところありますけど」
魔王は勇者に敗北する御伽噺が広く知られている。
だからこそ、勇者を『魔王』にしただなんて、なんて運命の悪戯か。
それでも、この旅の果てに待ち受けているのは『魔王』を討ち果たすことだ。
「……こういうのもなんですけど、この旅路はあなたにとって楽しいものであって欲しいです。
そしてその旅路の果てが終わるだけの物語なら一緒に覆したい、私はそう思うんです」
――勇者なんかじゃなかったただの青年が、異世界の来訪者と勇者になる話なんてのは、どうだろう?
成否
成功
GMコメント
アイオンとマナセを合流させましょう。
それから、【ナニカの気配】がありますので、彼が出て来たら少しだけお話ししましょうか。
●ここはどこ?
マナセが向かって行くのは『影海』と呼ばれる混沌世界では終焉に当たる部分です。
何か不思議な気配がしていますが、どうやら『とある竜(オルドネウムではないかと推測される)』の庇護する空間です。
周辺には終焉獣なども多いので数を減らしておくと今後の戦いに役立つかも知れませんね。
また、アイオンは「鍛錬をしたい」「ご飯を食べよう」と気軽にキャンプに誘って来ます。
それも『マナセ』が合流するまでです。マナセはアルティオ=エルムから砂漠を抜け此処までやってきます――が、彼女は幼い少女ですので護衛も必要となります。
(第二章では『魔王』に関してのアプローチを受け付けることが想定されます。先ずはアイオンやマナセと交流してみましょう!)
●ラリー
当ラリーは2章までの構成で運営される予定です。
章切り替えは『マナセがアイオンと合流した時点です』
・参加時の注意事項
『同行者』が居る場合は【チーム名(チーム人数)】or【キャラ(ID)】をプレイングにご記載下さい。
ソロ参加の場合は指定はなくて大丈夫です。同行者の指定記載がなされない場合は単独参加であると判断されます。
※チーム人数については迷子対策です。必ずチーム人数確定後にご参加下さい。
※ラリー相談掲示板も適宜ご利用下さい。
※やむを得ずプレイングが失効してしまった場合は再度のプレイングを歓迎しております。
※リプレイ返却後、章が切り替わるまで何度でもプレイングの投稿は可能です。(シナリオ内容にそぐわない場合は採用を見送る場合もございます)
●第一章で出来る事は?
・マナセをアイオンの元までエスコートしましょう。
・マナセと『緑葉の精霊(ファルカウ)』に質問を行ないましょう。
・マナセと交流しましょう。
・アイオンと訓練をしましょう。
・アイオンと交流をしましょう。
・クレカと共に周辺調査や野営を楽しみましょう。
マナセがアイオンと合流した時点で二章に移行します。
行動ターゲット
誰と行動しますか?
【1】『魔法使い』マナセ&『緑葉の精霊』ファルカウ
『元』勇者パーティーの魔法使いマナセとその肩に乗っている魔女ファルカウが作り出した存在です。
森から砂漠を抜け、アイオンと合流しにやってきます。
●『魔法使い?』マナセ
マナセ・セレーナ・ムーンキー。魔法使いかお姫様になりたい女児です。
古語魔法を理解し使用することが出来ます。攻撃魔法>回復魔法>>>>封印術です。
威力は流石は勇者パーティーの魔法使いです。制御が下手くそですが……。
性格的には明るく溌剌。元気いっぱいの女の子です。自信が無いのは「古語魔法をつかったって良い大人になれない」と周りに言われ続けて居るからであり、その辺りは現実世界のマナセとはあまりかわらないようです。
●魔女ファルカウ(緑葉の精霊)
ファルカウ――の作り出した栗鼠です。マナセの肩に乗っています。
魔術書の著者であり、古語魔法の遣い手のようですが……詳細不明。
色々と聞いてみても良いかも知れませんね。
●フランツェル・ロア・ヘクセンハウス
深緑のアンテローゼ大聖堂の司教。魔女ヘクセンハウス。深緑に伝わる歴史を編纂し記憶する役割を担います。
皆さんと共に行動しています。イレギュラーズです。
【2】『勇者』アイオン&クレカ
『冒険者』アイオン
混沌史では勇者である青年。プーレルジールでは只の冒険者です。
それ程戦いには慣れていませんが、剣を手に皆さんの戦い方を模倣し、そしてアレンジしながら戦います。
勇者になる過程でもある為、彼自身はぐんぐんとその力を付けることでしょう。ですが、現状では未だ未だ『成長途中』です。
非常に明るく闊達。かなり距離感が近い青年ではあります。元気いっぱいです。迷うことなく戦う事が出来るのが利点です。
●クレカ(K-00カ号)
ゼロ・クールであると思われる境界図書館の館長でもある秘宝種の少女(便宜上、少女と称する)。
基本的に魔術を駆使して皆さんの支援をします。戦うことは余り得意としていませんが、皆さんの力になりたいようです。
自身のルーツを探っています。魔王イルドゼギアに何らかの違和感を感じています。
もしかして、あなたが、おとうさん?
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