PandoraPartyProject

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『最善』への手札

 駆け回る騎士達は各地での状況や現状の報告に追われて居る。
『一人の少女』が去った後、重苦しい空気が取払われたことに些かの安堵を覚えたシェアキム・ロッド・フォン・フェネスト六世はテーブルの上に並んだ報告書と睨み合いを続けて居た。
「猊下」
 呼び掛けたのはエミリア・ヴァークライト――スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)の叔母に当たる女だ。
 彼女の背後にはジル・フラヴィニーとメディカ――彼女はアーリア・スピリッツ(p3p004400)の実妹にあたる――の姿があった。
「ジルとメディカが帰還致しました。『準備』も滞りなく」
「そうか」
 シェアキムは一先ずは二カ所での勝利の報告に胸を撫で下ろした。
 メディカを始めとした幾人もの『黒衣の騎士』が激突したのは『星灯聖典』の名の元に活動して居た者達である。率いる聖騎士グラキエスを教祖と仰ぎ異教徒たる彼等は己が理想のために奔走し続けたのだろう。
 グラキエス撃破の一方と、メディカやアンバー・キリードーンが持ち帰った『ある秘策』はスモーキーが率先して準備を行って居るらしい。
「安心して下さいませ、猊下」
 嫋やかな笑みを浮かべるメディカにシェアキムは頷くことしか出来まい。
 次に口を開いたのはジルであった。彼は己が主君を討つ事となった。その心労は計り知れまい。少年期が終わり、独り立ちの機会が来たのだ。
「ジル、貴殿は」
「大丈夫です。猊下」
 ジルは背筋をぴんと伸ばして答えた。主人の『聖盾』はジルに受け継がれることは無かった。それを受け継いだのはイレギュラーズ――ゴリョウ・クートン(p3p002081)だ。
「ゴリョウさんならば、大丈夫です。
 今はミュラトール卿と一緒にルスト・シファー討滅に赴いているコンフィズリー卿との合流を行って居るはずです」
 サマエル、いいや、セレスタン・オリオールの手にしていた聖盾はリンツァトルテ・コンフィズリーの『聖剣』とのシンパシーがある。
 一度のみならばその力を引き出すことが出来るだろう。その手法はリンツァトルテも知る由がない。
 ああ、せめて。イェルハルド・フェレス・コンフィズリーが居たならばヒントくらいは聞けただろうか。
 息子であるリンツァトルテは不正義の騎士として断罪されたイェルハルドから何も聞くことは出来なかっただろう。
 紛い物とされた聖剣の力を引き出せたのも『一度』きり。あの時も冠位強欲をサクラ(p3p005004)と斬り伏せたのだったか。
「……信じるしかあるまいな」
 シェアキムはテーブルをとん、とんと叩いた。ジルは「信じます。大丈夫です」と理由も無く確信している。
 ゴリョウならば、とあの人は託した。その意味をジルが信じなくて誰が信じることが出来るか。
「イレギュラーズは、強いですね。ヴァークライト卿」
 見上げられたエミリアは「ええ」と目を伏せた。兄が断罪され、義姉は出産の折に死去、残された『たった一人の大切な姪』を守る為に騎士として身を砕いた女は、言っても止まらず何時だって危険に飛び込んでいくトラブルメイカーを思い浮かべた。
「臆さないからこそ、強いのでしょう」
 今は、親友達と共に居る。信じるしかないのだろう。
「猊下、『天の杖』の準備を団長が続けております。また、『エンピレオの薔薇』の機動準備も整っております。
 あとは――『ルスト・シファーへと撃ち込む』のみとなりました」
「冠位魔種の権能内への道筋は?」
「聖竜アレフが『的』となります。そこまで聖騎士の聖骸布を利用して『理想郷』を捻じ曲げ、届ける事が出来るかと」
「……可能か?」
「可能にする為に参りました、猊下」
 メディカの発言にエミリアは「不敬ですよ」と言い掛けてから唇を引き結んだ。そのような事に拘っている場合ではないのだ。
「聖竜アレフは必ずしも聖女ルルの側に居ることでしょう。その魂に加護を与えているのですもの。
 なら、聖竜の力を有する方々の協力があれば――それは一度きりのチャンスにはなりますが――精度はあがります」
 聖骸布に集まった信仰が理想郷の内容を僅かに改変する。無論、グラキエスを知っている者が協力した方が良いことだ。
 メディカはその『決定』を行なって欲しいとシェアキムの前にまでやってきたのだ。
「一度穴を開ければ、そこからは畳みかけるしかありません。内部に居る『姉』とも連携をとりましょう。
 ……ルスト・シファーを守る遂行者が撃破されば、そこがチャンスです。穴を開け、外から『天の杖』と『エンピレオの薔薇』を撃ち込んでくださいませ」
「エンピレオの薔薇は機動に相当な苦痛を伴うのだったか」
 シェアキムは『天の杖』を手にしている。エンピレオの薔薇を利用する事は出来ない。
 誰ぞにその苦痛を与えなくてはならないのだ。彼が言えば、誰だってその柱になるだろう。
 エミリアは「迷わず、命じて下さい、猊下」と静かな声音で言った。
「……しかし」
「イレギュラーズでも、我らでも、この国を救うための準備は整っておりましょう。
 猊下は一声、『機が熟した』と仰れば良いのです。内部状況を鑑み、直ぐにでも作戦を開始致しましょう」
 テレサ=レジア・ローザリアパーセヴァル・ド・グランヴィルマスティマ――
 彼女達を倒せば更にルストを追い詰める一手が得られるはずだ。
「報告を」
 黒衣の騎士がその姿を見せる。
 続き、姿を見せたのはロレイン(p3p006293)とスティアであった。
「あれ、叔母様だ。遂行者の『夢哭のアインハイン』を撃破したよ」
「こちらはアリシア・フィンロードを」
 ロレインが作戦行動の遂行完了を告げればルカ・ガンビーノ(p3p007268)が「こっちは『聖拳』エクスだ」と告げてからスティアの頭を小突いた。
「な? スティア、先に行くなよ」
「えへへ、つい……私とルカさんは一緒に頑張ったよ」
 にっこりと笑うスティアにエミリアがホッと胸を撫で下ろす。
 ロレインは「そちらは?」と俯いていたニル(p3p009185)へと声を掛けた。
「ニルたちは遂行者のハーミル様……ハーミル・ロット様を撃破したのです。
 神の国ではアドレ様も……『かなしい』が沢山で、ニルもくるしくなります」
「仕方ないことではありますが……遂行者も、人の形をしていましたから。
 ラサの砂漠では超巨大量産型天使が撃破されたとも聞いています。作戦行動は現時点では滞りはありません」
 ロレインへとシェアキムは頷いた。ラサか、と呟いたルカはシェアキムをまじまじと見詰める。
「それで、如何するんだ? 策を講じてるだけじゃ何も進まないぜ」
「……『神の杖』を起動する。道を繋げる準備を――タイミングは、」
「任せていて。一番に良い時を知らせるようにするからね」
 スティアが胸を張った。神の国で遂行者達を撃破し、ルストに産まれた隙を付く。
「私達のことを虫螻って言ってんだ。
 虫螻でも結構恐いんだぞって、思わせてやらなくっちゃ!」
 天義の『聖女』はらしくない言葉を堂々と告げてから笑った。
「……はい。覚悟をしましょう」
 ――くるしくて、かなしい事ばかりだけど。
 その『かなしみ』を無くすために進まねばならないのだ。


 ※天義での決戦にて、戦果報告が上がっています――!


 ※神の王国に対する攻撃が始まりました!!

 ※『プルートの黄金劇場』事件に大きな変化があった模様です……

これまでの天義編プーレルジール(境界編)終焉の兆し(??編)

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