シナリオ詳細
<神の王国>嗚呼、素晴らしきこの世界
オープニング
●
セレスタン・オリオールという人間の目的は達成された。
ゴールに到達したのだ。
サマエルという男の憐憫。
セレスタンという男の苦悶。
それは二つの己が一つに合一されることによって、すべてを理想のうちに飲み込んだ。
彼は今や、唯一無二にして理想なる『セレスタン=サマエル・オリオール』であり。
その目的は達成された、という事だ。
だが。それでも、人生というものは続く。
彼の歩みが止まるとしたら、それは己が死ぬ時だ。
他の人と同様に。いや、彼がこの時、真に人間になったのだとしたら、ようやくモラトリアムを終えたのだとしたら、ここからが死というゴールに向けて歩む、もう一つのスタートに間違いなかったのだ。
「私は世界を愛する」
彼は言う。
「そして私は世界を呪う。
正しき世界を愛し、正しくなかった世界を呪う」
彼自身にとって、実際のところ、『ルスト・シファーの事などはどうでもよかった』。いや、彼自身に打ち込まれた呪い、すなわち『神霊の淵(ダイモーン・テホーム)』の契約によって行われる『ルストへの服従』は強制力を発揮し、ルストの命令、すなわち『自らのすべてを以て帳を降ろすことによる世界の浸蝕』事は避けられないことであったが、それでも、彼にとってはそれもまた『目的』であるのだ。
「世界が私たちを拒んだ。
私たちもまた世界を拒もう。
なぁ、そうだろう? 『私』よ」
夢があった。
理想が実現し、一己の人間として独り立ちした彼には、また夢があった。
「私たちが生きていける世界を作ろう。この世界を、私たちが生きていける世界へと変えよう」
それが、愛した己への、アンサーになるはずだった。
はっきりと言えば、合一し、混ざり合った彼らにとって、今の自分というものが、どちらがどちらなのかというものは全くわからない。もしかしたら、まったく違う第三の私なのかもしれなかったし、サマエルなのかもしれないしセレスタンがベースなのかもしれなかった。
だが、それも、すぐに考えるだけ無意味なことだと思う。
私は、私なのだから。
こんなにも素晴らしく晴れやかで。
世界は祝福に満ちている。
●
「動いたか」
と、ゴリョウ・クートン(p3p002081)が言う。
遂行者たち――いや、ルスト陣営すべての動きが活発化した。おそらくは、これが最後の決戦になるのだろう。
『内通者』から得られた情報によれば、ルスト陣営は、世界各地に帳を降ろし、自らの神の国の降臨を完璧なものとするのだという。だが、その各地に降ろされた帳を制圧しきり、逆に神の国へと攻撃を、ルストへの、可能性を用いた攻撃を成功させれば――。
この長きにわたる戦乱にも、終止符を打つことができるのだ、という。
なれば、イレギュラーズたちの行動は早い。帳の下りた各地にて、遂行者たちとの戦いを開始したのだ。
ゴリョウは、動いたか、といった。彼らは待っていた――遂行者の中でも、指折りの実力者である数名の行動。それは例えば、『サマエル』と名乗った男――そして、己(セレスタン・オリオール)との合一を果たした裏切者の行動であった。
「奴は、リンバス・シティに再度降臨したらしい」
レイチェルが言う。
「そうなの? あそこって、もう帳おりきってる感じじゃね?」
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)の言葉に、スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が、ふむ、とうなづいた。
「でも、切除も進んでるし、大聖堂は私たちが神の国に行くための入り口みたいになっちゃってるよね?
もう一度帳を降ろして、完全に固着されちゃったら、私たちは手も足も出せなくなるから……」
「だからこそ、かの地を完全に制圧したいんだろうね」
サクラ(p3p005004)が頷く。
リンバス・シティは、この地に最初に打ち込まれた帳、ともいえた。天義の地を、ごっそりと奪い取ったかの地が現れて以降、世界は浸食され始めたといっても過言ではあるまい。
「始まりの地、なのですね。僕たちにとっても、多分、彼にとっても」
水月・鏡禍(p3p008354)が、そう言った。
「なんにしても、やることは変わらねぇさ」
ゴリョウが笑う。
「あの色男と決着をつけに行こうぜ。
約束も、あるだろう?」
「ええ」
タイム(p3p007854)が頷いた。
「次は。次に会ったときは。必ず、迷わず」
「はい」
ネーヴェ(p3p007199)が、少しだけ目を伏せて、頷いた。
「いきましょう。
彼風に、言うのならば。
最後の、ダンスを」
「ダンスホールか」
ふ、とコルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)が笑った。
「逃げて逃げて、逃げるのをやめて……アンタはそこで踊るのかい、セレスタン」
「皆様」
と、声がかかった。一行が顔をあげると、そこにはジル・フラヴィニーの姿があった。
「僕も連れて行ってください。リンバス・シティであれば、僕でも入れます」
「いいのかい、ジルぼうや」
秋奈が言った。
「次に会う彼は、もう」
ネーヴェが言うのへ、ジルはうなづいた。
「はい。もう、僕の知っているセレスタン様ではありません。
でも、約束しましたから。皆さまと、一緒に」
そういう彼の瞳は、誰かに縋り付くような、今までのそれではなかった。
きりっとした瞳は、一人の大人としての瞳だった。
「なら、行くか」
ゴリョウが頷く。
「守ってやるんじゃねぇぜ。背中は預ける。
大人に対してはなぁ、オレたちはそうするのさ」
その言葉に、仲間たちは、そしてジルはうなづいた。
●決戦
リンバス・シティは、予想外に静かだった。敵の姿は見受けられない。あれほどいた、『遺言を話すもの』たちも、理想郷の住人と思わしき者たちもいない。
『あなた』をはじめとする、イレギュラーズの精鋭30名超は、決死の覚悟を以て、再び『異言都市(リンバス・シティ)』へと侵入を果たしていた。
「……誘ってるね。自信があるのかな?」
スティアが言うのへ、サクラは「わからない」と言った。
「でも……もし、彼が『理想』を演じているのなら。
きっと、これは騎士道なんだろうね。セレスタンの、理想の」
サクラの言葉に、レイチェルは頷いた。
「かもな。
……結局、理想に縛られちまうのか」
少しだけ悲し気に、レイチェルはそういう。
一行が進むと、果たして大聖堂が見えて、そこには大きく扉が開かれていた。縮尺がゆがむような錯覚を覚える。おそらく、魔術的な力にて、内部の構造や大きさがめちゃくちゃになっているのだろう。
「ようこそ」
そう、声が上がった。
「サマエルさんですか? それとも、セレスタンさん?」
鏡禍が尋ねるのへ、それは答えた。
「セレスタン=サマエル・オリオール。セレスタンで構わないよ」
余裕と自信を持った、騎士然とした男の態度だった。それがあまりにも悲しかった。
「それが、あなたの理想、なのですね」
ネーヴェが言った。
「とても――とても、悲しい」
「泣くことはない、子兎よ」
躊躇も、照れもなかった。故に、悲しい。
「これは私の理想だ――今はとても清々しい。ジルもいるね」
そう言って、セレスタンがジルを見る。ジルは、決意の視線を、そこへと向けていた。
「セレスタン様――いいえ、遂行者、セレスタン。
天義の騎士でもなく、僕はジル・フラヴィニーとして。
あなたと戦いに来ました」
「それでいい」
ふ、とセレスタンは笑った。
「とはいえ――数の不利くらいは何とかさせてもらうよ。そのために、友人たちに助力を願ったのだからね」
影からは、無数の『影の艦隊』たちの姿が現れる。
「それじゃあ、始めようか。
ラスト・ダンスだ」
聖盾が、静かに光を放った。
『あなた』は、ゆっくりと武器を持ち、構えた。
決戦が、始まろうとしていた。
- <神の王国>嗚呼、素晴らしきこの世界完了
- GM名洗井落雲
- 種別決戦
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年12月16日 22時15分
- 参加人数39/39人
- 相談6日
- 参加費50RC
参加者 : 39 人
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参加者一覧(39人)
リプレイ
●
戦いを、ダンス、と形容することに不快感を抱くものもいるだろう。
不謹慎な、と思うかもしれない。気障な、と思うかもしれない。
ただ、この『ダンスフロア』の主は、それをダンスだといった。これこそが、ラスト・ダンスだと。
どちらが負けても、何らかの決着はつく。最後のダンスだ。この『戦場(ダンス・フロア)』に集うものたちが踊る、最後の、命がけの『戦闘(ダンス)』に違いない。
なれば――今ここで繰り広げられる戦いとは、苛烈なるダンスに他ならない。
命を懸け、己の総てを懸け、理想を懸け。
踊(たたか)う。
剣戟が、砲撃が、銃撃が、魔撃が。
あらゆる『音』が鳴り響き、命を輝かせる。
ダンスだ。これは――総てを懸けた。
『あなた』たちの、正義と勇気を懸けた。
『セレスタン=サマエル』の、理想と絶望を懸けた。
最後の戦いである。
ダンスパートナーには事欠くまい。このフロアには無数のダンサーが集う。影から生まれ、狂気の産物から生まれた、異形の艦隊。影の艦隊と呼ばれた人型の怪物たちは、今その力の最後の発揮場所と理解したかのように、苛烈なる砲撃と、雷撃を、イレギュラーズたちに叩きつける。
「臨む所です」
オリーブ・ローレルが、そう言った。敵の数は多い。だが、こちらの数も多い。およそ39名の勇者たち。この一騎当千の英雄たちは、今この場にうごめく影に相対して負けぬほどの力を持つ。
それに――オリーブにとってみれば、多対多は臨む所であった。相手は、こちらを集中砲火はできまい。だが、こちらは『狙わなくても当てることができる』。
「数が多い。それがいい」
オリーブがクロスボウを構えた。狙いをつけずに乱雑に打ち放つそれが、言葉通りに不意を突いた駆逐艦タイプに突き刺さる。ばぁっ、と影が散ってそれが消滅するのへ、さらなる影が地を泳ぐ。
「おっと~! 雑魚とのラストダンスも楽しませてもらおうかな!」
岩倉・鈴音が、その影にとびかかった。軽巡洋艦タイプであろうそれに、大盾で殴りかかる。
「まぁ! わたしの本領は支援なんだけどさ! というわけで、オールハンデッド! 全員突撃! でも一人も欠けずに帰ってこい!
ここで倒れちゃドラマにならないよ!」
にぃ、と笑う鈴音。仲間の背を支えるのは、鈴音だけではない。
「そう! だれも、死なせたりしない!」
柊木 涼花が、指揮杖を構え、歌うように叫んだ。その声は、癒しの音色になって、仲間たちを鼓舞する力になる。
「醒めない夢はない。
明けない夜はない。
止まない雨はない。
そんな言葉、ばかばかしいと思っていました。
だって、今その辛さに耐えられなくて嘆いているのに、先の話をしたって仕方ないでしょう?
ええ、でも――今日だけは。
醒めない夢などないのだと、証明しにいきましょう!」
夢。
夢だ。
「理想(ゆめ)か」
セレスタン=サマエルは静かにつぶやく。
「いい歌だ、お嬢さん」
「有難う。でも、目覚めの時です」
「そうかな。私が居る限り、理想は覚めないよ」
ガチャリ、と、剣を抜き放つ。
「我が友の献身、我が友の狂気。艦隊はそれによって浮かぶ。
さぁ、踊りたまえ」
聖盾が、僅かに光を放った。それが、周囲の艦隊に力を与えたようだった。より苛烈になった攻撃を、敵群を、イレギュラーズたちは突破する!
「ああ、いいですね。わかりやすい」
ボディ・ダクレが、そう言葉を紡いだ。
「『理想的』です。私が行うべき、『理想的な役割』としては。
どうぞ、いらっしゃい。影だか、妄執だか。
貴方達は私が捌きましょう。
此処は私に任せて先に行け、という奴です」
「ふふん、ボクが一番たくさんやってみせるから」
その隣で、ソアはぺろりと唇を舐める。
「だから――みんなは行ってよ。
ボクはがまんなんてしないもの。
かわいそうなあの人に、教えてあげて。
あなたは人間らしかったかもしれないけれど、もう少しだけ、自由になるべきだった」
たん、と踏み込む。獣の双腕が、あたりを乱撃する。弾けるような音を立てて消えていく影の間隙を縫うように、イレギュラーズたちは進撃する。
「セレスタン様……遂行者になってしまったひと。
残した言葉があると聞きました。
それに応えたいひとたちがいるのも、ニルは知っています」
ニルが、そう、仲間に告げた。小さな体を、精一杯に動かして、言葉を伝えたい仲間のために、今は。
「縁の深いみなさまの攻撃が、想いが、セレスタン様に届くように……。
かなしいのはいやだから。
ニルは……道を、開くのです!」
ニルの呼び出した混沌の泥が、影の艦隊を飲み込む。流し、道を作り上げる。その優しさを今は力に変えて、今は、『かなしくないおわり』のために……!
「影の艦隊だろうと何だろうと……我はただ斬るのみ!」
フィノアーシェ・M・ミラージュが、遠距離砲撃を仕掛ける戦艦タイプに一気に突貫する。その言葉通りに。ただ斬るのみ。斬撃が、影を切り裂く。
「ラスト・ダンスの前に一太刀を入れる……邪魔な雑兵は始末させてもらう!
その理想、成就することはないと知れ!」
「……理想を叶えたとして……不幸になる人が沢山居たら……意味が無いと思うんだけどね……。
……神の国を作らなくても……ここから逃げるとか……方法はあったと思うのに……僕みたいに……」
グレイル・テンペスタは、襲い来る影の艦隊たちを打ち払いながら、つぶやく。様々な、救われる手段はあった。だが、それを彼は選べなかった。選ばなかったのだ。
「……キリがない……けど……彼に向かう仲間たちのために……少しでも……」
言葉通りに、全力をもって敵を撃つ。そうしなければ、届かない刃があった。
「みーおが引き付けますにゃ、1体でも多く倒して下さいにゃ!」
もこねこ みーおもまた、精一杯に声を張り上げた。
「こんなの、きっと悲しいのですにゃ。
だから、絶対に、この理想を叶えてしまってはいけないはずですにゃ!」
「そうだよ! 理想がある。夢がある。
それは素敵なことだと思うよ。
でも、それが他の人の住むところを……まして世界そのものを奪っていい理由には、何があったってなりはしない!
私はこの世界が好きだ。だから、そこを護るために全力を尽くす!」
アレクシア・アトリー・アバークロンビーが、勇気を以てそう叫んだ。
「みんなで、無事に帰る! 理想を語れというのならば、それが私の理想!
叶えるのは、私たちの理想だから!」
「ああ、そうだ。そうだとも。
今この力は、この身は! 友のために!
退けよ有象無象! 白猫宅急便のお通りだ!」
仙狸厄狩 汰磨羈が、吠える!
「ダンスパートナーをお望みだったな、セレスタン=サマエル!
私が水先案内人だ! 連れて行ってやるよ、御主のもとへ!」
汰磨羈の放つ、強烈な光が、まるで光の道のようにセレスタン=サマエルへと打ち抜かれた。セレスタン=サマエルが、聖盾を掲げてそれを受け止める。激しい光が明滅し、僅かにセレスタン=サマエルが足を止めた瞬間、仲間たちは一斉に踏み込んだ!
「理想は確かに持つべきものですが、そのために己を殺してなんになりましょう。貴方は自分が死んでしまうとは考えなかったのですか?」
ジュリエット・フォーサイスが静かに尋ねる。セレスタン=サマエルは頭を振った。
「いいや。だが、きっとあのままでは、いずれ『私』は壊れていたさ」
「……ほかに、手段はあったはずです」
「そうだな。でも、それを『私』は選べなかった」
そう、少し悲しげに笑った。ジュリエットが、僅かに表情を曇らせた。
「拒絶に拒絶を返したい気持ちは分かる。
でも自身が生きやすくなる為に、恨みも関係もない無辜の民を躊躇いなく消せる理想なんてものは」
ウェール=ナイトボートが声をあげる。
「間違っている。
そんなもので得られるものは、上辺だけの尊敬だろう」
「耳が痛いな」
セレスタン=サマエルが苦笑する。
「これは『私』の我儘だとも。
自覚はしている」
「だからと言って、それを是とすることはできませんよ」
そう、雪村 沙月が言った。
「私達の邪魔をするのであれば排除するのみ。
この世界を『偽り(りそう)』で塗り替えられる訳にはいかないですから。
それでは覚悟はよろしいでしょうか?」
「ああ。きたまえ」
構える。
お互いに。
――駆け抜ける! 眼前へと! 沙月の流麗なる一撃を、セレスタン=サマエルはその聖盾で受け止めた。そのまま、シールドバッシュの要領で沙月を振り払う。
「はぁい色男。一見さんお断りでなければ私とダンスは如何?」
間髪入れず、飛び込むオリアンヌ・ジェルヴェーズ!
「貴方はお硬い男らしいけど、そういう相手は得意な方だからね」
「邪剣か。いいとも」
硬直した状態の体を無理やりひねり、オリアンヌの斬撃を、セレスタン=サマエルは刃で以て受け止めた。
「貴方の事は結構好きだけど、恋愛対象としてはゴメンね。
カンペキとか、こうあるべきとか。そういうのはもうお腹いっぱい
私は私の生きたいように、自由に生きるのが好きなの」
「ふ――私とは水と油か。残念だ」
再度振り下ろされた『癇癪もち』を、セレスタン=サマエルは刃で打ち払った。イレギュラーズたちの総攻撃は終わらない。
「誰しも一人で孤で、人は真に他人を理解しない。
だが、孤故に他人を求め、支え合おうとする……!」
アルヴァ=ラドスラフが一気に踏み込んだ。長銃をロッドのように振るい、棒術の要領で叩き込む! 直前の斬撃に対応していたセレスタン=サマエルの動きがわずかに遅れた。その打撃が、遂行者(バケモノ)の体を打つ。
「それは『理想』だ! 祈りよりも、もっと儚い……!」
「それを捨てたら、本当にダメになっちまうんだろう!」
アルヴァに向けてふるわれた斬撃を受け止めた。そのままの勢いで、後方へと飛びずさる。
「焼ききれ! 周りの雑魚ごと!」
「舞い踊ります、桜花が散るごとく――!」
その言葉通りに、ゆらり、ひらりと舞う乱打。鹿ノ子の武踏が、周囲の影の艦隊をもろとも巻き込んだ。
「好いダンスだ」
「ありがとうございます。
ですが――たとえ作り変えたとて、世界は貴方”たち”を歓迎しない!」
「いいや、受け入れさせるのさ、私”たち”を!」
鹿ノ子の打撃は、セレスタン=サマエルの防御の合間を縫って、彼に一打を加えた。ふむ、と息を吐きながら、セレスタン=サマエルがわずかに後ずさる。
「このまま……押し切るんだ」
チック・シュテルが声を上げる。白鳥の言葉とともに奏でられる旋律は、真白の恩寵。光の雨が、勢いをつけた仲間たちの背中を押す。
「この戦いに集った人達の中には……おれの友達や仲間も、いる。
彼らの助けになりたい。それが、今此処にいる理由。
……君の『理想』を、止めさせてもらうよ」
「好い理由だ。では、私は君の『理想』を破壊させてもらう」
セレスタン=サマエルが刃を薙いだ。真空波となった斬撃が、仲間たちを一息に切り裂く!
「……噂通りの強さだな。しかし、こちらにも簡単には退けない理由がある。悪いが、もう暫く付き合って貰うぞ?」
痛みを堪えながらも、ルーキス・ファウンが刃とともに飛び込む。上段から放たれた斬撃を、セレスタン=サマエルは刃を以て受け止めた。
「理想か。
人はどうして、そう言うものに溺れてしまうのだろうな……!」
「掴めないから、なのかもしれないな!」
セレスタン=サマエルが、ルーキスを振り払う――同時、飛び込んだのは、セレナ・夜月とマリエッタ・エーレインだ!
「セレスタン? サマエル? どっちでもいいわ!」
セレナが叫ぶ。マリエッタが続いた。
「貴方に用があって、ここまで来てましてね。
ええ、グウェナエルとエーレインの事ですよ……そう、感謝していることを伝えておきたくて。
おかげで彼らとちゃんと向き合えましてね」
マリエッタがその指先で呪印を刻む。
「それと、ついでにもう一つ。
この体の聖女の血について……いいえ。
彼らを利用した分。一発殴りに来ました」
そのまま、ぱちん、と指を鳴らした。放たれた血が、刃をなってセレスタン=サマエルを狙う!
「わたしの方も忘れないでよね! ええ、二人で! ぶん殴りに来たのだから!」
振るうその手が鮮血乙女の呪印を描く。二人の放つ、先決の術式が、セレスタン=サマエルをその場に縫い付けた!
「ふ……まさか君たちに殴られるとはな。
グウェナエル、君の探す魔女は、随分とお転婆なようだ!」
傷つきながらも、セレスタン=サマエルは二人の鮮血の術式を、その聖と魔の混ざった聖盾の力で打ち払った。ダメージは蓄積されている。あと、一息――。
「星影 向日葵、参ります……!」
隠岐奈 朝顔が、飛び込んだ。
一撃。それは、心を届けるための――。
「……初めまして、したかったな。そうすれば」
何かが、変わっただろうか。何かを、変えられただろうか。
わからない。ただ――。
「私のことなどで、心を傷つけることはあるまいに――」
人魚姫の刃は、この時、セレスタン=サマエルの体を切り裂き、一撃を加えたことは確かだ。
「ふ、む」
セレスタン=サマエルが唸る。
「やはり――君たちは強いな。
敬意を表する――いや、ずっとわかっていたことだ。
君達は、強い。英雄なのだから」
「いや」
ヤツェク・ブルーフラワーが笑う。
「おれだって物語の白騎士に憧れていた。今だってそうだが――。
教条通りの存在になろうとするのではなく、暗闇を照らそうと生きる奴になりたいもんだ。
英雄なんて、そんなたいそうなものじゃなくて、さ。
おれは、最強のダチでありたい。ジルにとっても、だ」
その背から、ジル・フラヴィニーが姿を現した。
「ありがとうございます、ヤツェクさん」
ジルがほほ笑んだ。ヤツェクが頷く。
「ダチの願いだ。アンタも、意志を全てぶつけてやれ」
頷いた。
「セレスタン=サマエル。
僕は、貴方と討つためにここに来ました。
みんなも、そうです。
セレスタン様とも、約束しましたから」
「そうだね、ジル」
セレスタン=サマエルが笑う。
「だが――私にも、意地がある」
そういってセレスタン=サマエルが取り出したのは、小さな、古ぼけた小箱だった。ジルが悲し気に笑った。
「セレスタン様のお父様から、頂いた宝物でしたね」
「ああ。君には見せたね、ジル。
これは私の力の源。私がルスト・シファーにささげた心臓が入っている。
これを破壊されない限り、私は不死身だ。そして」
その小箱が、強烈な光を放った。何か、リミッターのようなものを解放したのだと、誰もが気づいた。
「この力の源をオーバーロードさせる……私の全力だ。
君たちの力と、心を打ち砕く。
そのために、私も捨て身をさらす」
「馬鹿野郎が」
ヤツェクが言った。
「そうだな。否定はしないとも」
ふ、とセレスタン=サマエルが笑う。
「『私』たちは、お互いの理想のために。
そして新たにできた『夢』のために。
自らの全身全霊を以て、君たちを滅ぼそう」
強烈なプレッシャーが、イレギュラーズたちを襲った。
ここからが、ダンスの本番に間違いない。
●ラスト・ダンス
ダンス・フロアに、ただステップを踏む音だけが聞こえる。
剣戟。魔撃。銃撃――ありとあらゆる、『理想を摘む』ための音、戦い。
お互いの理想を懸けた、戦い。ダンス。
それはきっと、これからあっという間の時間に、終わるのだろう。
「つっこむぞ! 秋奈、みんな!」
紫電・弍式・アレンツァーが叫んだ。友を、その背の翼(れんさこうどう)にのせて。導く――2人。戦神。そして戦乙女。
「かつての天義の……被害者ともいえるが!
複雑と言えても、それでも! 此処で討伐しなければならないのならば!
容赦はしない!」
「ああ、そうだとも! 容赦はいらない!」
清廉潔白のごとき態度は、それも『理想』であるが故か。悠然と遂行者は立つ。
「『初めまして』理想の騎士さん、とある騎士様からの依頼を承って、参上致しました」
戦神――茶屋ヶ坂 戦神 秋奈は、少しだけ真面目に、そう告げた。
「しがない巫女をやっている、茶屋ヶ坂アキナと申します。
時間がもったいないしさっそく始めましょうか。大切なモノのために」
走る――刃! 堅牢なる装甲すら無視するがごとく切り裂く、斬撃! その一撃が、セレスタン=サマエルの体を薙いだ。途端、強烈な魔の力がほとばしり、その傷を瞬く間に埋めた。ダメージが入らなかったわけではない。即座に完全回復したわけでもないだろう。それでも、一撃に劇で倒せるほど甘くはないという事だ。
「しってるよ。それがあなたの理想(ゆめ)だ――。
かなしいな! 無残だな! 知っているから余計にそう!」
「多くは語りません。これから多くの人が、貴方に言葉を懸けるのでしょうから」
戦乙女――シフォリィ・シリア・アルテロンドが、刃を構えた。
「シフォリィ・シリア・アルテロンド――『遂行者サマエル』、大いなる意思の下に、貴方を倒す!」
刃を突き入れる。その細剣で、遂行者を縫い付けるように。その一撃で、命をとれるとは思っていない。
後続に、繋げる。意思を、繋ぐ。それが、シフォリィの、己の役目だと、分かっていた。
「『私』を『サマエル』と呼ぶのならば、それでいい」
セレスタン=サマエルは剣で以てその細剣を打ち払った。が、シフォリィがさらなる追撃を見舞う。
「『私』は『遂行者(サマエル)』として、君の正義を折る!」
「私たちは、貴方の夢を、許容しません!」
たん、と踏み込んだ一撃を、シフォリィは受け流した。間髪入れず、セレスタン=サマエルは聖盾を構える。
「起動(レディ)・展開(オープン)――『聖盾よ、悪しきを振り払いたまえ(セイクリッド・テリトリィ・オーバーロード)』!」
ぐわおうん、と空間がゆがんだような気すらしら。間髪入れず、強烈な聖のプレッシャーが、イレギュラーズたちを打ち据える!
「聖盾の力……!」
スティア・エイル・ヴァークライトが、対抗するように聖術を描く。聖なると、聖なるが、ぶつかり合うような感覚。スティアの聖術が、聖盾に負けじと花弁を散らした。
「その盾が、貴方に力を貸しているという事が、証明なんだ!
この世界にも貴方に感謝している人達はいたはずだって!
貴方は理想ではなく、そして貴方を傷つける人はいたけど!
それでも、気高い心を持っていたのだって!」
「人は、己の尺によって己を測られる」
セレスタン=サマエルがそういう。
「一番に私は許せなかったのは、私だ……!」
「だとしても! それをなかった事にするのはあまりにも悲しいよ……!
誰が否定しても、世界が否定しても、私は貴方の生きてきた証を肯定する!
セレスタン=サマエルではない、セレスタンとして生きてきた貴方を!
だから……!」
「私たちが、ここで!」
サクラが叫んだ。スティアの花弁を背にのせて、刃を以て突撃する。
「貴方の篭る加護なんて何度だって打ち砕いて見せる!」
刃が、雷をまといて聖なるを打つ。
彼の加護を打ち破るような斬撃が、サクラの刃から放たれていた。
「スティアも言ったことです! 貴方がいたから救われた人々は確かにいました!
忘れないで下さい。その人達にとって、セレスタン・オリオールは確かに英雄だったんです……!
それは完璧である事より、きっとずっと尊いことだと思います」
「君に言われると、心が揺れるな……だが、もう戻る道はないのでね!」
苦痛にわずかに笑いながら、セレスタン=サマエルは刃をうちふるう。比較的、攻撃面では劣るとはいえ、それでも強烈な遂行者(バケモノ)の斬撃である。サクラを振り払い、吹っ飛ばすような力は充分以上にあった。
打ち払われたサクラを、スティアが受け止める。命はある、という最低限のラインでの心配をする余裕しか、この場における仲間たちには存在しない。そうしなければ、打ち倒せぬ相手である。それに、癒し手たちがいる以上、ここで誰かが死ぬことはない。そう、信じ、攻撃に専念することが、仲間たちのやるべきことであった。
イレギュラーズたちは、独りではない。
セレスタン=サマエルとは、違った。
「盾役(ぼくたち)は、誰かを守るときに、その力を最大に発揮できるんです」
そう、水月・鏡禍が言う。その背に、愛しきルチア・アフラニアを庇いて。
「貴方もそうでしょう、セレスタンさん。いえ、もういないのだとしても、そう呼びます。貴方の最後の願いを叶えるために……!」
「過保護なのは若干不本意だけれど」
ルチアが言う。
「正しき世界、正しき義……。
何が正しい、などと偉そうに決めつける気はないわ。
ただ、還るべき世界を守る為に剣を執るだけよ」
「なら、守ってみたまえ!」
踏み込んだセレスタンの斬撃を、鏡禍が受け止める。その背から、ルチアが凶爪を振るいおろした。セレスタンはそれを振り払い、僅かに後方へと飛びずさる。足を止める。間髪入れずの、追撃!
「願うものはなんでしょうか。
正しい世界? それとも愛せた筈の自分?」
言葉とともに、星穹が踏み込む。星穹もまた、守りてであるがゆえに、その背に大切なものを背負う。
「自身の在り様をどこに置くか、それを決めるのはやはり自分でしかない!」
ヴェルグリーズが叫び、写しの刃を振り抜いた。セレスタン=サマエルが盾を以て受け止める。
「貴方のことはわからないし、きっとわかれない。
今を否定するならば、貴方のこれまですらも否定してしまう。
過去の痛みも、残った疵跡も。その全てが『私』を作ると――」
「それ故に――ただ、今は、未来を懸けて。
お互いの理想と未来を賭けて、いざ尋常に勝負だ!
セレスタン=サマエル・オリオール!」
ヴェルグリーズが、再度刃を振り抜いた。合わせるように、星穹が保護術式を展開する。ヴェルグリーズを振り払うように、セレスタン=サマエルは刃を横なぎに振り払った。ヴェルグリーズが受け止め、星穹とともに飛びずさる――一撃。一撃を、重ねていく。たどり着くように。その盾の内側へ。一歩。一歩を。仲間とともに。それは、セレスタン=サマエルでは『できない』戦い方である。
「貴方には、もうできないのでしょう」
チェレンチィが言った。
「それは究極、他者を排除してしまう生き方だから……。
一人で、独りで、すべてを完結させてしまうのは――やはり悲しいですよ、『セレスタン』さん」
「君か」
セレスタン=サマエルが言う。
「ええ。約束を、果たしに」
「やはり、良い人たちだ。
『私』が最期に、君たちに会えたのは、望外の幸運だったに違いない」
「そうだとも、サマエル」
結月 沙耶が、そう言った。
「いや……今はもう、セレスタン=サマエルなのか。
何故だろうね、少し寂しくすら感じる。
もう、サマエルはいない。セレスタンという騎士も。
それでも、もう誰も失わせない。歴史も、理想に塗りつぶさせない。
私もせっかくドレスを着てきたんだ――ラストダンスに、付き合わせてもらおうかな?」
「歓迎しよう。君なら」
踏み込む――沙耶が剣を生み出した。光。想い。そういったものの剣。それが形をとって、セレスタン=サマエルへと切りかかる。セレスタン=サマエルは、それを受け止めた。足を止める。間髪入れずに、銃撃が、彼の腕を貫いた。
「よぉ色男。
もう逃げないのね」
そう、コルネリア=フライフォーゲルが悲しげに笑った。
「世界とは不条理だらけさ。
何も成せない己の不甲斐無さが世界を怨み、否定してしまう。
それでも、アタシ達はこのくだらなくて汚ぇ世界で産まれ生きてきた。
ゴリョウやジル達のように踏ん張って前を向く連中が居る。
全てが変わっちまう世界の変質が正しき道義ってなら、アタシは薄汚れた悪党のままで良い。
逃げ続けてやるよ。それがきっと、アタシの歩んできた道になるのならば」
「そうだな。君はきっと、それが美しい」
セレスタン=サマエルが踏み込んだ。聖盾が、その力をオーバーロードさせた。
刃が、その聖と魔の気配を取り込んで、強烈な力を発揮させた。
全力。
全力だ。
お互いに。
此処から、決着がつくまでに。
わずかな時間も要しない。
振り抜いた刃を、ネーヴェが受け止めた。
「踊りましょう、ラスト・ダンスを」
「ああ、子兎。
再び、私の腕の中で踊るかね」
セレスタン=サマエルは、嬉しそうに笑った。ネーヴェも、くすりと笑う。
「言いませんでした、か?
兎のワルツは、腕の中なんて、小さな舞台では収まらないのです。
兎が踊る舞台は、素晴らしきこの世界。
わたくしたちが生きる、理想ではないけれど、時折美しい世界。
わたくしたちの望む、わたくしたちが生きる世界――」
振るわれた斬撃を、ネーヴェは再び受け止めた。傷すらいとわず、ネーヴェが踏み込む。速度を乗せた、一撃。それが、セレスタン=サマエルを縫い付ける!
「君は踊り続けたまえ。きっと、その方が美しい」
「ありがとう。さようなら。正しさを求めた貴方」
兎は跳んだ。
手の内から離れた。
ああ、その後には。
友が来る。
「待たせたな、色男」
ゴリョウ・クートンが。
「セレスタン。
もう一度、殺してくれ──お前の願いを叶えに来たぜ」
レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタインが。
おそらく、最後のダンスパートナーが。
此処まで紡いできた、仲間たちの想いを。
此処まで紡いできた、仲間たちの力を。
結実させるために――。
今!
「理想と言う名の、お前を縛る呪い──鎖を断つ!」
『ヨハンナ』が叫んだ。獄炎が、セレスタン=サマエルを飲み込む。炎。そのうちに。仲間たちが刻んだものを、爆発させるかのように。
「なぁ、セレスタン。
なぁ、サマエル。
楽しかったか」
ゴリョウが言った。炎の中を、駆けだす。踏み込む。一息に、一息に。
「こういうとなんだがな。
俺ぁ悪くはなかった。
オメェさんと出会えたことが。
願わくば、友でいたかった。飯も食わせてやりたかった。
でも、それもできねぇ。
そんなものが理想だってなら、俺はそれを否定してやるよ」
にぃ、と、笑った。
拳を、構えた。
「正真正銘最後の切り札だ。
ここまで全ての戦いにおいて俺には火力がねぇと『そう思わせてきた』!
紡ぎし想いを拳に乗せて、その身に叩き込むッ!
終わりだ、『セレスタン』、『サマエル』!」
拳が、セレスタン=サマエルの体を穿った。
小箱が、ひしゃげて砕けた。
中の『心臓』ごと。
ささげた物ごと。
消えて――。
刹那、夢を見た。
幸せな夢だった。例えば、天義で少しだけ情けなく生きる話だ。
相変わらず周囲の目は厳しいが、少しだけ苦笑して、ジルにこういう。
「さすがにしんどいね、ああいう目は」
と。
「大丈夫ですか、セレスタン様」
心配げに、ジルは言うのだ。
「少しお休みになりましょう。ゴリョウ様のお店で、スティア様やサクラ様なども誘って。
それに、本当にお辛いのでしたら、別の事をしてもよいのです」
聖盾というものは重い。受け継いだものも、それを失ってしまったという事実も。
「重いなぁ」
と、苦笑する。
「はい。きっと、重いのです」
ジルも、苦笑した。
ああ、これはきっと情けない人生だけれど。
きっと一番、幸せな人生だ。
「皆にはいろいろしてもらっているからね。ゴリョウの店で、たまには奢ろうか」
「えっ、オリオール家にそんなにお金が?」
「あるよ? いや、多少没落したとはいえ、それくらいの蓄えは!」
「ですが、お世話になった皆さんをお呼びしたら、とても大変な額になりそうです。
ネーヴェ様もお呼びしたいですし、秋奈様、タイム様、ヨハンナ様……。
鏡禍様を呼ぶのでしたらルチア様もいらっしゃるでしょうし、僕はヤツェク様を呼びたいです。友達ですから。
これだけではないですよ。もっともっと、たくさんの」
「……私は随分と、多くの人に助けられたのだな」
「そうですよ」
「幸せ者だな」
「そうですよ」
ジルが笑った。
「うれしいな」
涙が止まらない。
幸せな夢だったから。
「馬鹿よね」
タイムが、悲しげに笑った。
「何度も看取らせないでよ、馬鹿。
でもね。
……ねぇ、サマエル。貴方だって幸せになっていいはずだったの。
今の『サマエル』が、一番素敵に見えてしまうの。
貴方は誰かを救いたくて。それができなくて。
自分だけでも、救ってあげたかったのでしょう?」
もう、今はいない存在に、そう告げた。
「終わっちまったのか」
ゴリョウが言った。
「ああ……終わりだよ、ゴリョウ」
セレスタンがそう言った。
「ようやく、終わる……長い夢だった……」
ごふ、と血を吐きだしながら、セレスタンはそういった。
ゆっくりと、聖盾を、地に置いた。まがまがしい聖痕が、うっすらと消えかかっているのがわかる。
「私が消えれば、この盾の聖痕も消える。あとは、まっさらな盾だけが残る」
セレスタンが笑った。
「使ってくれ、ゴリョウ。君なら、一度くらいは、こいつも力を貸してくれるだろうさ」
「セレスタン。俺は」
ゴリョウが言う。セレスタンは笑った。
「いいんだ。もとより、この魂は悪魔にささげた。
そういう奴の末路くらいは、知っているだろう?
それにな。私と初めまして、と言いたい子もいた。
そんなことに奇跡を願う必要はない。ただ、祈るだけでいい」
セレスタンが、僅かに、朝顔へと視線を向けた。
「……新しい、夢ができた。
いつか、また、はじめまして、と、君たちに告げたい。
その時は、私たちの情けない弱音を聞いてくれ。
それが、あの世という奴であっても、来世という奴であったとしても。
私は、今度こそ君たちの、友になりたい」
「ああ」
ヨハンナが言った。
「約束しよう」
「ありがとう」
セレスタンが、笑う。
その体が、闇にぶすぶすと溶けていた。
小箱の中の心臓は鼓動を止めて、また、闇に溶けていく。
やがてほんのわずかな時間で、彼は闇に溶けて、消えていった。
それに合わせるように、リンバス・シティの帳は消えた。きっと、この戦いが終わるころには、この街も本当の姿をすっかりと取り戻すのだろう。
「約束です」
朝顔が言った。
いつかもう一度、初めましてを言おう。
その約束とともに――。
二人の男は、その生涯を全うした。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
ご参加ありがとうございました。
彼らはきっと、満足して逝ったのだと思います。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
夢の終着。そして決戦。
●排他制限
こちらのRAIDに参加した場合、他のRAIDには参加出来ません。
※複数のRAIDに優先がある方は、特別に複数RAIDに参加可能です。
※片方のRAIDに参加した後、運営にお問い合わせから連絡いただければ、両方に参加できる処置を行います。恐れ入りますがご連絡いただけますと幸いです。
●成功条件
セレスタン=サマエル・オリオールの完全撃破。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●状況
決戦です。セレスタン=サマエル・オリオールは、リンバス・シティの帳を再強化するために、リンバス・シティの中央大聖堂に現れました。
セレスタン=サマエル・オリオールにリンバス・シティを再定着されてしまうことは、天義の地に甚大な被害を与えることはもちろん、対ルスト戦に向かう仲間たちにとって大きな足かせとなりかねません。
逆に、この地を制圧することができれば、対ルスト戦においての、援護になる可能性が非常に高いのです。
もはや多くは語りません。
セレスタン=サマエル・オリオールを撃破し、彼の夢を終わらせ、天義の地に再びの平穏を。
なお、戦闘ペナルティなどは発生しません。戦闘に注力してください。
●決戦構成
おおむね以下の二段階になります。
どちらかの戦場を選び、参戦してください。
1.前哨戦
セレスタン=サマエル・オリオールと、多くの影の艦隊と戦います。
この段階でのセレスタンは、まだ全力を出してはいませんが、それでも強力な遂行者です。
影の艦隊は、単体の戦闘能力はさほど高くはありませんが、大量にいるために、捌くにはそれなりの労力が必要です。
このフェーズは、セレスタンのHPを一定値以上減らした段階で終了します。
影の艦隊を捌きつつ、セレスタンとある程度戦う。多めの人数を配置した方が、楽に戦えるでしょう。
また、この段階が長引けば長引くほど、次の『2.決戦』のフェーズに参戦する仲間のHPが減少してしまいます。
2.ラスト・ダンス
全力をだしたセレスタン=サマエル・オリオールと決着をつけます。
遂行者の力の源にして生命の源である『神霊の淵(ダイモーン・テホーム)』の力を解放し、強烈な力を発揮したセレスタン単体が敵となっています。
もちろん、単体敵だから、と言って楽になるわけではありません。むしろここからが全力の出し場だと思ってください。
こちらは、戦力数よりも、一騎当千のエース達を投入する場だと思った方が素直です。
また、『1.前哨戦』に参加した味方の数に応じて、このフェーズの参加者に少々バフがかかります。
●エネミーデータ
影の艦隊 ×???
有体に言ってしまえば取り巻きの雑魚、という立場になります。
構成はバランスよく、近接タイプ・遠距離タイプ・支援タイプ、の三種類が配置されています。
総数は不明ですが、決して多くはないでしょう。
フェーズ2.ラスト・ダンスに移行した段階で、残った敵はすべて消滅します。
セレスタン=サマエル・オリオール
合一したセレスタン。彼の理想の姿です。
ボス敵であるため、シンプルに完成されたパラメータをしています。ただ、能力傾向としては、攻撃力よりも防御に振っている形になります。
タンク役などがしっかり受け止めれば、彼の攻撃も耐えられないことはありません。その間に、アタッカーにより速やかにHPを減らしてしまいましょう。
この段階のセレスタンとは、フェーズ1.前哨戦、で戦うことになります。
セレスタン=サマエル・オリオール(オーバーロード)
『神霊の淵(ダイモーン・テホーム)』の力を解放し、全力以上の力を発揮したセレスタンです。
ちなみに、彼の神霊の淵は、小さな小箱のかたちをしています。これは、セレスタンが子供のころに父からもらった宝箱なのだそうです。
さておき、この段階のセレスタンとはフェーズ2.ラスト・ダンスで戦うことになります。
聖盾も全力を発揮し、フェーズ1以上の高い防御力と、周囲に様々なBSをまき散らしながら襲い掛かってきます。
回復が厚めだと、助かるかもしれません。また、攻撃力は『比較的低め』ですので、頑張れば攻撃に耐えられる目もあります。
とはいえ、耐久戦はじり貧ですので、攻撃もしっかりと。
●味方NPC
ジル・フラヴィニー
天義の聖騎士見習いです。今回は、味方に回復とアッパーバフをまいてくれる強力なサポーターです。
フェーズ1とフェーズ2、両方に参戦します。放っておいても死ぬことはないでしょう。何かかけたいことばあがあればどうぞ。
●???
聖盾
天義に伝わる聖盾です。今は、持ち主であるセレスタンが扱っています。
もし、セレスタンを倒すことができれば、この盾は呪縛から解き放たれ、正義のための力を行使してくれる……かもしれませんね。
以上となります。
それでは、皆様のご武運を、お祈りいたします。
行動場所
以下の選択肢の中から行動する場所を選択して下さい。
【1】前哨戦
セレスタン=サマエル・オリオールと、多くの影の艦隊と戦います。
この段階でのセレスタンは、まだ全力を出してはいませんが、それでも強力な遂行者です。
影の艦隊は、単体の戦闘能力はさほど高くはありませんが、大量にいるために、捌くにはそれなりの労力が必要です。
このフェーズは、セレスタンのHPを一定値以上減らした段階で終了します。
影の艦隊を捌きつつ、セレスタンとある程度戦う。多めの人数を配置した方が、楽に戦えるでしょう。
また、この段階が長引けば長引くほど、次の『2.決戦』のフェーズに参戦する仲間のHPが減少してしまいます。
【2】ラスト・ダンス
全力をだしたセレスタン=サマエル・オリオールと決着をつけます。
遂行者の力の源にして生命の源である『神霊の淵(ダイモーン・テホーム)』の力を解放し、強烈な力を発揮したセレスタン単体が敵となっています。
もちろん、単体敵だから、と言って楽になるわけではありません。むしろここからが全力の出し場だと思ってください。
こちらは、戦力数よりも、一騎当千のエース達を投入する場だと思った方が素直です。
また、『1.前哨戦』に参加した味方の数に応じて、このフェーズの参加者に少々バフがかかります。
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