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双頭鷲の失望

 『煉獄編第三冠"憤怒"』バルナバス・スティージレッドがゼシュテル鉄帝国の帝位を簒奪してからというもの、グレイヘンガウス領はどこか重苦しさを隠しきれなかった。
 無論、先の見えぬ未来に対する漠然とした不安という点で言うならば、鉄帝の民ならば誰もが感じていると言っても過言ではあるまい。人々がかくも愛した皇帝は失われ、代わりに人類ひいては無辜なる混沌世界凡ての天敵とも呼ぶべき冠位魔種を皇帝として戴かねばならぬ羽目になった――それがどうして人々を暗鬱な気持ちにさせぬことがあるだろう?
 しかしながらグレイヘンガウス領の人々を暗澹たる雰囲気の中に閉ざすのは、かつて鉄帝を襲ったギア・バシリカ事件の記憶でも、この期に及んで根拠のない自尊心に満ちた当主スタニスラフの奇行でもないようだった。あたかも彼の無駄な自信が生み出す民への希望を打ち砕くかの如く文官である当主の『保護』を名目に押し寄せてきた、『黄金の双頭鷲』テオドール・ウィルヘルム・ローゼンイスタフ麾下の兵達の存在によるものだ。

 鉄帝国軍の将という地位にありながら、『黄金の双頭鷲』テオドール・ウィルヘルム・ローゼンイスタフ帝政派にもザーバ派にも、かといって軍部非主流派にも与しなかった。ましてや実の父がいるノーザンキングス解放戦線にも――だ。
 代わりに彼が忠誠を表明してみせたのは――あろう事か『新皇帝』派だ。
「決闘の勝者こそが皇帝の座に就くという鉄帝国の伝統を、多寡が新皇帝が冠位魔種であるという程度の理由で踏み躙るとは何事か。伝統は何よりも重い。高貴なる血がそれを蔑ろにするならば、それは最早『肥え太った害悪』である」
 と。

 尤も、だからといってテオドールの兵達が、実際にグレイヘンガウス領を脅かす事はそう無かったのであるが。
 テオドールの軍は、バルナバスが『弱肉強食』の勅令を掲げて解体を命じたはずの警察機構そのものであった。不躾にグレイヘンガウス領に足を踏み入れはしたし、囚えられていた罪人達も新皇帝の命令であるとして釈放はさせた。が、だからと言って罪人達が狼藉を働こうものならば、たちまち再び捕らえられて牢へと逆戻りする。一見すれば新皇帝への反逆でしかない光景が、そこかしこで散見されている。
「奪おうと、殺そうと、何をしても自由」
 スタニスラフより『善意による提供』を受けた執務室にて本日の軍の活動報告を聞きながら、テオドールは静かに頷いていた。
 確かに盗賊どもが勅令を盾に群れて狼藉を働くのも勅令により認められたが、そういった者共を別の強者が食らう事もまた認められているではないか。

 何をしても自由。
 故に、『法と秩序を守ろうと動くのも自由』。

「『これまで治安維持として働いていた者達が自由意志により群れ』、『自らの主義により他者の富と安全を脅かす者らのみを標的と定める』――本来、そう主張するだけで全てが事足りるのだ。逮捕ではなく拉致。勾留ではなく監禁。そう言い換えた末に新皇帝を打倒するため勢力拡大を狙うだけで良いものを、あたかも自分達こそが真の皇帝に相応しいかのように喧伝してみせる各派閥。姉上が見るべき美しく善良な世界には相応しくない」
 テオドール自身も皮肉として捉えていた事ではあるのだが、どうやら邪悪なはずの新皇帝は、世界の膿を浄化するために大いに役立ってくれるらしい。
 世界は、肥え太っている。
 罪を禁じられている中でさえ、人々は隠れて大罪を犯す。
 だが今……新皇帝の勅令が、そういった隠れた罪を暴いてみせたのだ! これまで存在に気付く事すら困難だった、或いは法に逆に守られてさえいた邪悪の数々が、自ら醜態を晒す下地が作られた!

 人類の良心というものが真に礼讚に足るべきものであるのかは、こうして犯罪の自由を示された時にこそ試されるものだ。そのようにテオドールは考えている。目先の自由に目が眩んだ者は、いずれ誰かの報復により滅ぶ。
(尤も……どれほど高潔に生きたところで、いずれ争いの種が自滅して興を削がれた新皇帝に、私自身も滅ぼされるのだろうが)
 だが自分達がたとえ処刑の列の最後尾に回るだけの話であったとしても、それで構いはしないではないか。その期に及んでバルナバスを討てるだけの『美しい人々』が残っておらぬなら、それは単に世界が『滅びる定め』であったというだけの事なのだから。


 ※鉄帝国に『宗教団体セフィロト』の影が見えるようです――
 ※イレギュラーズの提案により、『ラド・バウ独立区』での『資材確保』が行われる事となりました。
  他派閥でも様々な動きがあるようです。
 ※イレギュラーズの提案を受け、パルス・パッションが『ラサ』の大商人、ファレン・アル・パレスト(p3n000188)に協力を仰ぎました。
  此れにより『7日間限定のリミテッド・クエスト』が公開されています。



 ※鉄帝の六派閥から『自派閥への参加要請』が届いています――!
 ※詳しくは特設コーナーをご覧ください!!

鉄帝動乱編派閥ギルド

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