PandoraPartyProject

ギルドスレッド

Wiegenlied

【1】Eingang

【唄う鵯亭】

幻想――”レガド・イルシオン”某所。
繁華街の大通りに店を構える大衆酒場である。
気っ風の良い老婦人と其の息子夫婦が切り盛りする繁盛店だ。
地元民よりは冒険者達が情報交換の場として利用している事が多い。

1階は酒場、2Fは宿屋。
早い、安い、美味い。

今日も、眠らない街が湧いている。
主人。……えと、

(自分の認識では、大きな家。少なくとも村には無いような規模の富豪の家屋に存在するハウスキーパー、其れが所謂”メイド”だ。其れならば、こんな荒くれが集う店よりも直接仕事の斡旋をして貰えるような所に行った方が良いのではないかと、問おうとしても上手く言の葉を紡げずに、曖昧に視線を泳がせ)

女のひと、が。ひとりでこういう店に来たら、あぶない。
その、……助け舟を出してくれたのは、すごく、ありがたかった、けど。

(助けて貰っておいて何を言うか。否、比較的紳士的な彼等二人よりもっと性質の悪い酔っ払いなんて幾らでもいる。一見丸腰の彼女が、華奢な女中が、腕に覚えがあるとも言い難い。貴女こそ大丈夫なのかと、カウンター越しのニコへ首を傾いで問い)
(暖かそうな毛皮の耳を持つラノールが乾杯の音頭を取ってくれた)
(提案はしたが、こういうことには向かないのでありがたく思う。と共に、こちらも見掛けより
随分温厚な人物であることが段々と感じられてきた)

(弁明については小さく頷き、理解を示す。最も悪意があるようであれば、そもこんな提案もしていないのだが)
(ラノールとギリアス、そして夜鷹と名乗った人物、皆「特異運命座標」だと言う。なるほど、本当に大規模召喚が起こったということか)
通りで、ここの客も増えたというわけですね。

(独りごちてから、賑やかな乾杯の声に無言で杯を小さく上げる。そっとグラスの中身を揺らすと再び口を開いた)
偶然とはいえ、わたくし達全員が特異運命座標とは…
確かにこちらは情報収集に最適ですね、もう一つ付け加えると食事も中々の腕前ですよ。
(突然、何かを振り払うように揺れたフードに視線を投げ掛ける)
夜鷹様、どうかされましたか。
お水か何か、飲まれますか。

(未だ不安げな様子で投げ掛けられた質問に、瞬きの合間を空けて)
なるほど、確かにそうかもしれません。
何故かはわかりかねますが、わたくしの出で立ちは随分と関心を集めるようですしね。

ご忠告、そしてご心配痛み入ります。
しかしわたくしには勿体無いお言葉、そして――

(グラスに付いていたオリーブの実をそっと指で摘み上げる)
(と、そのまま実は真っ二つに割れてカウンターに転がった)

――無用なお言葉、かもしれません。
悪漢の扱いは心得ております、従僕ですから。

(女の指は先程までの色の白い指先ではなく、鋭利な刃物と化している)
(彼女が「旅人(ウォーカー)」である、ということは明白だった)
(掲げられたグラスに器をぶつけ合う)
(こういった行為だけでも、少しばかり距離が縮まった気がするから不思議なものだ)
(のどを潤しながら、ニコ殿の言葉に耳を傾ける)

ふむ?察するにこの店の常連か、はたまた従業員の方なのだろうか?

(あまりこの店自体に来たことはなかったが、まさかメイドのいる宿屋があるとは)
(思えば客に何処となく男衆が多いのも、それが原因なのかもしれない)
(次いで果たされる、夜鷹殿とニコ殿のやりとり)

ほう!すごいな、体が武器になるのか。
便利なものだな。相手も徒手空拳だと油断して斬られては、たまったものではあるまい。

(指をまじまじと見つめてそう述べる)
(ウォーカー……単に姿形が変わった者はよく見かけるが、このようなタイプもいるものか)

所謂"ギフト"とはまた違ったものなのだな。
なんにせよ、それならば一人でも大丈夫そうだ。

(ちなみに"男"一人でも危ない時は危ないぞ、と付け加えておき)
(気遣わしげな女の声に、大丈夫、と短い応え)

――、

(ぼとり)

(割れたオリーブがテーブルを打つ音は喧騒に紛れて消えたけれど、視界に映る光景は消えない)
(息を飲んだ。目をいっぱいに見開いて、呆然と女の指先が刃に変わる瞬間を見ていた。”武器のような”うつくしさを持っていると、女に対して漠然と持っていた所感が確信に変わる。嗚呼――此の女は、”意志を持った兵器”だ)
(粟立った腕を宥める様にひと撫ですると、思い出したかのように大きく息を吸い込み)

私よりもずっと、あなたの方が戦い慣れているかもしれない。

(自分は未だ一年足らずも世界を歩いていない。戦いだって精々食材狩りか暴漢に絡まれた時位だ。殺しを、肉の感触を、未だ知らない)
(未知の存在に畏怖を感じたのは一瞬だけ。女は”話の通じる生き物”なのだ。恩もある。恐れる必要は何も無い。胸いっぱいに溜めた酸素を吐き出す頃には、影は常の調子を取り戻していた)
私は、定命の人間種しか見たことが無かったから。
あなたたちの存在が、ありがたい。

(自身もまた”ニンゲン”では無いからと添えつつに。影が顔を露わにする事は無かったが、其れを告げる事が影にとって最大級の歩み寄りだった)

もっと、たくさん居るのかな。
”外の世界”から来たひと。”ニンゲン”とは違う、ひと。

(知って何をしたいと云う訳では無いが、唯、唯。赦しが欲しかった)
(”ニンゲン”で無い自身が、生きていても良いと云う、赦し)
(俯き零した言の葉は、独り言のような小さな音で以って)

……男でも、あぶない?

(狼男の添え言葉に、影の首が大きく傾いだ)
(幼子や女はか弱く男に傅く存在だと云う如何にも古臭い認識だが、はて)
…ヒュー♪

(ニコの一連の動作を目撃し、思わず口笛を吹く)
(ウォーカー、俺も特異運命座標となってからは何度か出会ったことがある。)
(この人物から感じ取った只ならぬ“何か”の正体はまさにソレだ。)

ウォーカーか、道理で。
ん…?そういや、ニコと夜鷹は知り合いってわけじゃなかったのか?

(ニコが発した「偶然」という言葉が引っかかった。だから、なんとなくその疑問を口にしてみた。)


(各々がそれぞれ会話をする中、シャイな夜鷹もポツリ、ポツリと話をし始めた)
(さっきビビらせてしまったことを思い出し、多少の罪悪感が過ぎったが、現状を見るに心配なさそうだ、と一人胸をなでおろす。)

(さて、何か話でもして誤解を解こうか、そう思った矢先、夜鷹の発する“ニンゲン”という言葉に陰を感じた。)
(もしかして人間ギライなのか…?)
(そう考え至ると話しかける言葉は浮かんでこなかった。)

うーむ…。
常連…情報収集のついでに食事したい時、程の頻度です。
(勘違いしている可能性を危惧してか「客として」と付け加えた)
こちらからの方が皆様とお話しやすいので移動したまでです。

(3人が”その意味”を理解したことがわかれば、手早くオリーブの骸を紙ナプキンに包み込む)
――失礼致しました。
しかし、頂いたお言葉程の腕前とは言えません。
所詮は道具、ラノール様がおっしゃられたように、油断している相手への脅しとしては有効ですけれど。

(グラスへ伸ばされた指先は再び、白く細い女のそれへと戻っている)
(夜鷹のどこか懺悔にも感じられる言葉を聞きながら、そっとグラスへ口をつけた)

そうですね、例の大規模召喚を切っ掛けに相当数増えたとは思います。
きっと夜鷹様だけではなく、わたくしや殿方達も今迄出会ったことの無いような御仁もいらっしゃるでしょう。

(ちらりと改めてカウンター越しに3人を見やり)
ラノール様はブルーブラッド、森の獣狼でいらっしゃいますか?

(ギリアスに視線を向けたところで、その悩ましい表情が見て取れた)
…ギリアス様、差し出がましいようですが、恐らく然程心配しなくても宜しいかと。
わたくし個人の見解ではありますが、夜鷹様のおっしゃる者はカオスシード全般を指しているわけではないと思いますよ。

(外見的な特徴、そしてどことなく雰囲気からそうだろうかと検討をつけて)
(ニンゲンではない、という言葉に、少しばかり耳が動く)
(瞳の綺麗な人間かと思っていたが…フードでそう見えていただけか)
(いやあるいは、そう見せるためにフードを被っていたのか)
(そうまでして自らの種族を隠蔽する理由は何故だろう、と少しばかり首を傾げる)
(と、ともに、それを明かした事の心情も察する)

あぁ、私が見ただけでもたくさんいたよ。酒場によっては、外の世界の人間の方がそれ以外よりも多かったくらいだ。

(多種多様な姿形で、壮観だったよと)
(その答えが彼女の抱く疑問に対する理想的な答えになれば良いのだが)

あぁ、男…特に見た目に力強さが表れない者はね。
美人局は元より……恐喝や理由なき暴力…女人を殴るのは忍びないと中途半端なモラルを携えたものが、
そういった男性をターゲットにすることは少なくない。

(それと、と付け加え)

男でも良いから…いや男こそを組み伏せたいという輩もいる

(至極真顔で言い)
(ニコ殿の言葉には、なるほどと返し)

ははは、あまりにもその立ち位置が堂に入ってるものでね。
従業員かと思ってしまった。

(刃物でなければ綺麗な指なのにな、とぼんやり眺めながら付け加え)
(いや、刃物はそれはそれで美しいのだが)

あぁ、その通り。私は狼の獣種だ。正確には、砂漠の狼だがね。
…オアシスの狼が正しいか?

(ラサは砂漠に囲まれた街だが、街自体はオアシスのような楽園だ)
(どちらが正しいのだろうと、至極どうでもいいことで悩む)

ギリアス殿、どうした!口数が少ないな。
言葉に詰まるならば酒で潤滑にするしかあるまい。

(ギリアス殿のグラスが空いているのを確認して、そこに酒を注いだ)
戦わないで勝てるなら。脅しは、あって損はないと思う。
……あなたとは、こうして言葉を交わすことができる。物言わぬ鉄の塊よりも、ずっといい。

(武器は使われてこそ、とは思うが。だとしたら、彼女は”使われる事”を望んで此の店に足を運んだのだろうか?)
(先程自分に助け舟を出してくれた事を思い浮かべては首を捻る。もしもあの時、自分が”乙女のピンチ”であると、女に告げていたなら――?)
(ギリアスの問いに、或いは浮かんだ想像を頭の片隅に追い遣る様に、静かに頭を振って否を示す)
(傷面の男の不興を買ってまた睨まれやしないだろうかと内心おっかなびっくりではあったけれど。表面上は冷静であった、筈)
(女中が言葉足らずの自分の意を伺う様な言の葉を述べれば、同調する様に小さく頷いて)

カオスシードが嫌いなわけじゃない。
私が、ニンゲンじゃないから。私だけが、ニンゲンじゃなかった、から。
……すこし、こわいだけ。
そう。

(楽しげに語る狼男の口振りに小さく息を吐く)
(それでいい。喚ばれた外の者は、多ければ多い程良い。そうすれば自分如き、”瑣末事”で済まされる)

……、

(真顔で告げられる言の葉が意味するものを理解すれば、肌が粟立った)
(『ケダモノ共め』。漏れ掛けた音は影がジョッキを呷った事で最後まで紡がれなかった。唇を一度強く噛み締めて、息を吸う。白くなった唇は、微かに震えていた)

物入りなら買えば良いのに。
自分の欲を満たすためだけに他人を”もの”にしようとするなんて、馬鹿げてる。

(ひとつ裏通りに出れば非合法の花売り宿――”夜鷹”なんて、掃いて捨てる程居る。都会に足を踏み入れて、其の華やかさの影に当たる部分ばかりがやたら目に付いた事を、色濃く覚えている)
(暴力。窃盗。売春。ヒトの欲望は、ヒトの集まる所に溢れ返っているのだと。影は其れを知った時、絶望したと同時、密かに安堵したのだ)
(だって、それなら――)
(浮かんだ考えを打ち捨てる様に、もう一度頭を振った。夢も希望も何一つ持ち得て居ないが、今や”化物”であった此の身は皮肉にも”世界の希望”なのだ)
(含んだ氷を奥歯で噛み砕けば、口内も頭も幾らか冷やされた)

砂漠……。

(そんな中、不意に耳が拾った聞き慣れぬ単語を鸚鵡返しに。問いたげに揺れる薄氷の瞳が狼男へ向けられ)

ラサはまだ行った事がない。
緑が育たぬ、砂の海が広がっているところだと聞いたことがある。

(個人主義の傭兵達が集う国。ともすれば今居る”幻想”よりも、自分の在り方には合っているかもしれない)
(良ければ話を聞かせて欲しいと、小さく添えて)
…お、おう。悪いな!

(ニコは人の機微に敏感なようだ。俺の考えてることを見抜くようにフォローの言葉をかけてくれた。この旅人から最初に受けた印象は、刃物のような鋭利で冷たい印象だったが俺の勘違いだったらしい。)
(もしかしたら、さっき間に入ってきたのは俺らが揉めていると感じてのことかもしれねぇ。)
(意外に世話好きだったりするのかもな、メイドだし。)

(次いでラノールが気さくに話しかけ、俺のグラスに酒を注ぐ。酒瓶が小さく感じるほど厳つい手をしている。目の前で注がれる酒を見ながらそう思った。)
(傭兵と言えば戦争屋だ。俺の国でも目下紛争中であり、それを食い物にする奴らを快く思っているはずがない。ただ、俺は自分の目で見たものしか信じない。)
(現にこの男は俺が戦場で見た傭兵とは全く異なる気質を持っているように感じる。温和で礼儀正しい、かと言って隙を見せない佇まい。)
(…こいつは“強い”。そう思った。)
(ニコの言葉に添えるように夜鷹も俺の疑問に答える。どうやら人間が嫌いなわけではないらしい。)
(すこし、こわい…?)

(そうか、俺か)

怖がらせてしまってすまねぇ!
この通り。許せ!

(ビビらせてしまったかとは感じていたが、本人から直接そう聞けば咄嗟に頭を下げ謝罪せずにはいられなかった。)


(しかし…人間が嫌いと言われればそれに俺は納得していただろう。)
(どこかの国の、誰とも知れぬモノから定められた“正義”を振りかざす盲目の民。それを煽り、保身と己が欲を満たすことしか頭にない下衆ども。)
(思い出しただけでも辟易する。)

(そう、俺があの国の人間たちを嫌っているんだ…。)
従業員ではございません、わたくしは従僕でございます。
(ラノールの言葉にぴしり、と言い切った。どうやら拘りがあるらしい)

そうおっしゃって頂けて嬉しゅうございます。
しかし、言葉を交わすか交わさぬかは大した問題ではございませんよ。
鉄塊もわたくしも、ご主人様にお使えすることに変わりございませんから。

(夜鷹の仕草に合わせ、ギリアスの問いにこちらも言葉で返事をする)
ええ、初対面でございます。
お三方の様子が目に留まりましたので、差し出がましくはありましたが口を出させて頂いたのです。
砂漠…
(ラノールの言葉にそういった地域もあることを思い出して)
多種多様と言えば、種族だけでなく生まれ等も星の数程ありますね。
種族が同じでも文化、文明が異なれば様々な考えを持つように…

(話を聞きたいと言う夜鷹に次いで頷いた)
わたくしもお聞きしたいです。
まだ経験はございませんが、いつかそういった環境のご主人様にお使えすることもありましょう。

ギリアス様はどちらのお国から?
今までにも他の国を見て回られたこともあるのでしょうか。
(手持ち無沙汰らしい、その辺にあったグラスを布巾で磨きながら尋ねた)
そ、そうか、すまないニコ殿……

(従僕と言い切るその言葉に思わず気押され、謝罪を述べる)
(従業員とは違うものなのか。これからは気を付けよう…そう胸に誓った)

……まぁ、そういう者もいるものさ。人は多種多様だからね。
無論、許されるものではないが。

(夜鷹殿の呟きには、そう答えを返し)
(自身のために武器を振るう傭兵も、根本的には変わらない)
(自分もあまり人には誇れないなと、内心ため息をついた)

…まぁ、夜や暗い場所は歩かないようにな!

(空気を換えるように、努めて明るくそう言った)
(思いのほか故郷の事に興味を示されて、少しばかり驚く)
(そうか、思えば砂漠も、ラサの者以外からすればあまり馴染みがないものか)
(喋る前に一度酒を飲み、のどを潤す)

そうだなぁ……まぁ基本的には自由を尊ぶな。
何かに縛られることを嫌い、常に自身という個人を尊重する……
それ故に逆に他人を縛ることもそうないな。最低限のマナー以外は自由にやり、そして自由にやらせる。そのような場所だ。

(あまり国単位での特色、というものも無いな、と付け加え)

傭兵と商人の国家である以上約束に関しては厳しいな。
種族は人間と獣種……それと幻想種も、か。
外部の者でも実力を示せば……戦闘能力に限った話ではない、諜報活動などを依頼されることもあるからな、そういった力も含めて、示すことができればすぐに受け入れられるよ。

(あとは……と耳を動かしながら考える)

…大きな市場があるな。ガラクタから凄い物まで、見てるだけで楽しいぞ。
(自分の言の葉を聞き入れるや否や頭を下げた傷面の男に小さく肩が跳ね)

……だいじょうぶ。

(謝罪を受けて漸く影は少しだけ肩の力を抜いた。断りを入れた後、躊躇いがちに唇を開き)

どうして、私の目を見るの。

(もう一度、今度は十分に聞き取れるであろう声量で以って、重ねて問うた)
(自分を街角以外で見掛けた覚えでもあるのかと首を傾いだ。だとしたら、碌な出会いでは無いだろうけれど)
あなた……、えと、……ニコは、その。
たとえばだけど……『武器に困ってる』って、おねがいしたら。

(使われてくれるのか、と小さく問うた)
(自分はあまり近接戦に向いていない。護身用の短刀を携帯しているが、獲物を捌く以外に使った試しが無いし、力で勝る男に組み付かれたらまず勝てない。遠くから気付かれる前に倒す、或いは動きを封じる。其れが影に出来得る身の守り方だった)
(此れから”世界を救う”為の仕事を受ける事になる。腕の良い、近接戦に長けた仲間と組む事が結果的に自分の命を繋ぐ事になるだろうと考えていたのだ)

(――実際の所其れは建前で、本音を言うともう少しだけ彼女と、彼らと話をしてみたかったのだ)
(他者に優しくされた事が無い影は、ラノールの気遣いに、ニコの助け舟に、胸の内で心臓を騒つかせていた)
そういう奴は、自分が同じ目にあえば良いんだ。

(眉根を下げて吐き捨てる。が、からりと明るく注意を促されれば毒気も抜けた)
(わかった、と言の葉を返して小さく頷き)

ふうん……私のいたところとは、だいぶ違うみたいだ。
民が自由なら、市に並ぶしなものもきっと、いろいろ……幻想種も?

(拾った音に、フードの下で尖った耳が僅かに跳ねた)
(未だ数人、其れも街角で挨拶を交わした程度にしか出会っていない、”同胞”)
(嗚呼、そうだ、)

……新緑にも、いつか。いってみたい。

(緑と生きる、妖精や精霊達と言の葉を交わし合う、悠久を生きる者達の住まう森)
(彼らの世界なら。もしかしたら、この”隠れ蓑”が必要無いかもしれない)
(”世界”を影に覆う事なく、有りの侭を此の瞳に映す事が出来るかもしれないのだ)
(夜鷹への謝罪は受け入れられたようだ)
(“だいじょうぶ”という言葉に片方の口角をニッと上げ、笑顔を返す)

(ニコからの問いかけに体がピクッと反応する)
(ラノールが自らの出身国の話をしていれば、そういう話題を振られるのは当たり前のことと言っていい)
(嘘をつくのは正直苦手だが、この手の質問があった時の回答は前もって準備している。俺はニコの目を見ずにそれを答えた)

俺は、幻想の片田舎出身だ。
この稼業だ、ほとんどの国は行ったことあるぜ?
広く浅くってやつだがな。

(人の話を聞くのも自分の話をするのも好きだが、例外はある。自国の話をすることだ)
(どうにかして話を逸らす方法はないか…)
(そう思案した時、夜鷹が不意に問いを投げた。今度はハッキリと聞こえる言の葉で)

……。

俺はあんたの目に見覚えがある。
何もかも朧気だが…そう直感した。

夜鷹、あんたはどこの出身だ…?

(話を逸らさねば、その思いとは裏腹の言葉が口を衝く)

(夜鷹の問い掛けを静かに聞き取ると、グラスを磨く手を止めずに)
それは、半分には肯定を、もう半分には否定を致しましょう。

わたくしは、従僕でございます。
ご主人様が武器としたいのであれば、わたくしは武器にもなりましょう。

しかし、それに必要なことはお願いではありません。
ベルを鳴らしてわたくしを呼びつけ、命じること。
それだけでよろしいのですよ、夜鷹様。
(それはまるで詩を諳んじているような返答だった)

(暫しの間を空けて)
敢えて言葉にしておきますが、命じられなくとも、こうして机を囲むことはできます。
わたくし程度の受け答えでよろしければ、話をすることも。

(それは冷たい鉄塊、冷徹な従僕の女が見せた、血の通った想いの破片だ)
(考えている時に動く耳に気を引かれていた。当たり前だけれど、動物的な動作だと思う)
実力を示せば、ですか。
確かにそれはどの地域へ行っても言えることですね。
随分暮らしやすそうな印象を受けますが…

ラノール様は何故ラサからこちらへいらっしゃったのでしょうか。
(よく動く耳の次に興味を惹かれたのは、穏やかな砂の国の狼が、自由な故郷を離れた理由についてだった)


……
(ギリアスの反応、こうも夜鷹の瞳を気にする人物がこちらの瞳を見ずに発する言葉)
(明白であることは手に取るようにわかったが、しかし、それを深追いすることはしなかった)

そうですか。
(一言、応えると次に発せられた問い掛けに、微かに眉が動いた)
(視線は向けないけれど、気配で夜鷹の反応を見守る)
(幻想種、という言葉を聞き返して、彼女のフードが僅かに跳ねた)
(ほんの僅か、横の部分だけ少しばかり張り詰めたフード。帽子ではなく、フードでなければいけないモノ)
(最初は髪の毛で嵩が増しているのかと思っていたそれも、今までの話を聞けば違う見方になってくる)

あぁ、新緑か。あそこもよい場所だね。
流石に首都まで踏み入れたことはないが……空気も綺麗で美しい場所だ。
異種には厳しいが……まぁ、好戦的ではないしね。行ってみるのもいいのではないか?

(特異運命点座標なら首都同士をワープすることもできることだし、と付け足し)
(言葉をしゃべりながら、フードの側面からは視線を外した)

要らぬかもしれないが、もし護衛が必要ならその時は、声を掛けてくれれば受け持とう。
……酒一杯で。

(無料でと言えないのは傭兵の性だ)
(頭部に刺さる視線の方に顔を向ければ、ニコ殿からの疑問の声)

ラサは先ほども言った通り砂漠に囲まれた国だ。故に、外にいくのも一苦労でね。
仕事の依頼の時はその砂漠を超え、現地で闘い、そしてそのまま帰る…という生活が主だった。
故に、今まではあまり他の国の事は知らなかったのだ、せいぜい隣り合っている場所くらいさ。

(一度酒を飲み、グラスを空にしてから再度言葉を紡ぐ)

特異運命点座標になり、それ用の特権が与えられた。その1つが首都と首都とを繋ぐ転移の道だ。
大規模召喚の事もあり、使用は許可され、そして初めてしっかりと他の国に来た。
……せっかくの機会だ。見聞を深めようと思ってね。
ラサは確かに良い場所だ。だが、そればかりに執着して他を知らぬまま排他するようではいけない。
色々な場所の、色々なものを知り、自身の常識という枠を広げようと、そう思ったのさ。

(まぁ、ただの好奇心もあるがね、と最後に苦笑を漏らし)
(女中は詠う。自身の在り方を。従僕としての立ち振る舞いを)
(呼び付け、命じる)
(そんなことはできない。自分は誰かと対等どころか、”ヒト以下”なのだから)
(嗚呼、違う。そうではない。単純な話だ。”そうしたくない”のだ)

(しゅんとフードの下で耳を垂らして顔を俯ける)
(けれど、そんな影に次いで落とされた言の葉はあたたかく、幼子を宥めるような柔らかさがあった)
(思わずぱっと顔を上げて、女の琥珀の双眸を真正面から見詰め)

いいの?

(命じなくとも。願わなくとも。望めば言の葉を交わす事を許してくれるのかと。薄氷の、蒼銀の瞳に確かな喜びのきらめきを宿して)
……うん。

(そう、行こうと思えば、もう。何時だって行く事が出来るのだ)
(”同族”達を見て。彼等が、”普通の生活”をしている姿を見て。自分は、平常心で居られるのだろうか?自分は、どうなってしまうのだろう?)
(知る事が恐ろしかった。漠然とした不安に、胸が押し潰されそうだった)
(然れど全てを行きずりの、出会ったばかりの彼等に告げる事は憚られた)
(もごもごと何事か口籠り身を縮め乍ら。ややあって、影は漸く顔を上げると砂狼を仰いだ)

ひとりで行くのが、こわい、から。
……ここ、奢る。

(貴方を雇うにはそれで足りるのかと、首を傾いで)
(自分の目に覚えがある。其れは、どういう意味だろうか)
(常にヒトの顔色を伺い、絶望と悲哀に彩られた”虐げられる者”の目)
(傷面の男は、何と自分を重ねているのだろうか)

……私は、”かみさまのいるところ”から、きた。
聖都のほうじゃなくて……もっとずっと外れの、小さな村。

(聖教国ネメシス。聖なるかなを尊ぶ宗教国家)
(”神”の御名のもと、”正義”を執行する者達が集う其の地では、老いも若きも男も女も。其の全てが”神罰者”であった)
(嗚呼、そうだ。此の呪わしき我が身こそ、”悪魔”であると――)

あなたの望む答えかどうかは、わからないけれど。
幻想に来たのは、つい最近。大規模召喚が起きてから。

(其れまでは各地を転々としていたのだと告げて)
(影は男から視線を外すと、ジョッキに視線を落とし乍ら言葉を切った)
(やっぱりだ)
(“かみさまのいるところ”つまりは天義の出身)
(もっとだ、もっと何かないか。記憶に近づく何か…)

どこの村出身なんだ?
領主の名は?
召喚される前はどこの国にいた?
あんた、年は?

(男は身を乗り出し、当初の勢いそのままに小さな黒へ矢継ぎ早に質問をする)
(こうなると最早誰かが止めに入るまで、男は自分が思いつくこと全てを思いつくままに口にするだろう)
(その様は好奇心のまま動く少年のような幼さを感じさせるかもしれない)
(ラノールの語る諸国の話に耳を傾ける)
(今迄仕えてきた主人は皆、幻想。噂話や諸国からの客人と言葉を交わすことはあっても、こんな風に話をしたことはなかった)
確かに、転移を使わずに渡り歩くのは骨が折れますね。
そう考えれば、旅人以外の特異運命点座標もこちらへ集まってくるのも納得できますね。
純種の方々もこれを機に見聞を広めたい方が多いのでしょう。

(夜鷹とラノールのやり取りを、グラスを磨きながら聞いていた)
護衛…ラノール様は警護のお仕事を?
それとも、特異運命点座標としての依頼が専門でございますか。
(初めて瞳が合った瞬間だった)
(煌めくその色に思わず目を見張る)
…ええ、勿論でございます。
(直ぐに平常心を取り戻すが、なんだか忙しなくグラスを取り一口飲み込んだ)
(思っていたよりも幼さの残る反応だった、とグラスで揺れる水面を見詰める)

ギリアス様。
(ギリアスの降り注ぐ質問の雨に、呼び掛けを挟み込む)
……どうか、ゆっくりと参りましょう。
夜鷹様も急いでこの場を出なければならぬ様子ではございませんし。
それにそう勇んでは、わたくしが分け入った意味が、無くなってしまいます。
(かなり強引に3人の会話に入ったのは、この素直な冒険者の威勢に、優しい狼と密やかな影が、戸惑っているようだったからなのだから)
(夜鷹殿の言葉をしかと聞き届け、口に残っていた氷を噛み砕く)
(そのあとで、しっかりと正面に向き直り、微笑んだ)

契約成立だな。君の旅路をしかと守り通して見せようとも。

(そうと決まればたくさん頼まねばな、と冗談めかして言う)
(ついでニコ殿の言葉。再び体を正面に向けた)

私は傭兵。色々仕事の種類はあれど、見ての通り荒事が専門でね。

(後ろに担いだマトックをちょいちょいと指さす)
(まぁ鉱山夫に見られることも少なくはないのだが)

とはいえ別に戦争に出るだけではなく、ボディガードなども経験はある。
まぁ、頼りになるかは別として、そういう仕事はやってきているのさ。

(特異運命点座標としてもそういう仕事が主になってくるだろうな、と付け加え)
(ギリアス殿の威勢には、ニコ殿と合わせてやんわり止めておく)

ギリアス殿、なにか……夜鷹氏にもっと直接的に言いたいことがあるのでは?

(色々と聞き出すその様をみて、問いかける)
(雇われてくれる。言の葉を交わすことを良しとしてくれる。砂狼の、女中の言の葉に。ほう、と安堵と感嘆の入り混じった吐息を零し)

ありがとう。私のことを、こわがらないでくれて。

(ヒト慣れする事は、今後の為になる。卑屈を貫き一匹狼のままでは生き延びる事が出来ない。多分、きっと)
(自分の事を恐れないでくれる人物がそばに居てくれるのなら、此れ程喜ばしい事はない)

もっと、しりたい。
この世界が、どこまで続いているのか。
それから、……あなたたちのことも。

(”ともだち”と呼べる存在は、居ない。故に影は他者に踏み込む事も、踏み入られる事も、良しとしてこなかった)
(他者を寄せ付けず、逃げ続けてきた。けれど――ほんとうは、ずっとずっと、寂しかったのだ)
(相手のことを、知りたいと思うこと。其れは、影の中で起こった、小さな小さな変化だった)
(が、そんな事を考えていた矢先の事だ)

ひ、

(ずい、と近くなった顔に影は小さな悲鳴を上げた)
(何故此の男は、自分を――否。自分の故郷を知りたがる?)
(畳み掛けるように重ねられる問いに、影は其の身を更に小さく縮こめた)
(自身を真っ直ぐ射抜く瞳から逃げる様に俯いて。けれど、ややあって。男が望む答えをぽつぽつと零しはじめ)

……タオフェ。天義の、山奥の村。
領主のなまえは、しらない。
召喚される直前は、たしか。ゼシュテルの国境にいた。
どこに行けばいいのか、わからなくて……どこに逃げれば、”助かる”のか、わからなくて。

(西へ、西へ。太陽と月を追って、歩き続けていたのだと。視線を落とした侭、緩々と頭を振り)
(次から次と、夜鷹に聞きたいことが頭に浮かぶ。その一つ一つをすぐさまぶつける。単純な作業だ)
(そうやっていくつかの問いを投げた時、ニコとラノールが半ば呆れたように止めに入り、更にラノールが俺に問いかける)
(言いたいこと?)

だから今言いたいことを言ってるところだぜ!?

(若干興奮気味にそう答えたところで、夜鷹のか細い声が聞こえてくる)
(タオフェ…?その言葉を聞いた時、いくつかの場面と声が脳裏を過ぎった)
ー見慣れた屋敷の情景ー
(「タオフェ村付近の山中で魔種が出た。今回の討伐隊にはお前も同行せよ」)
(「はい!父上!」)

ー寂れた村の一角ー
(「ならん。お前もルフィン家の男ならば道理を弁えよ」)
(「少女一人救わずして何が“正義”というのですか!」)

ー木々が生い茂る山中ー
(「ゼイラム様!ギリアス様が…!」)
(「…!。しっかりせよ!ギリアス!」)
(「………」)



くッ…!

(細切れの映像が終わると共に頭痛が襲う。心なしか気分も悪い)

“助かる”ね…。
OK、わかった。
この話はここまでだ…。

(男はそう言うと、席から腰を上げる)
(一瞬フラリとよろめく。酔いのせいか、はたまた…)
(「こわがらないでくれて」その言葉に微かに首を傾げる。次いでラノールの方をちらりと見た)
(訥々と語られる言葉は思っていたよりもずっと素直で、己から動く意志のある言葉だ)

夜鷹様は、不思議な方でございますね。

(零れた言葉は語り掛けた、と言うよりも独り言のような)


(二人の様子を砂狼と共に見守る)
(影が困るようであれば再び、何かしらアクションを起こそうと思っていたけれど、幸い、いや意外にも返答を口にする様子はそこまでに至らないと判断したからだ)

(「タオフェ」「天義」…どうやらその辺りが鍵のようだ、とギリアスの様子を伺う)

ギリアス様、大丈夫ですか。
何がわかったのか、わたくしには何がなにやら図りかねますが…

(夜鷹にも気遣いの視線を向ける。)
(不思議だと、零れ落ちた女の声に棘は無い。恐らくは好意的解釈をしても良いのだろう)
(少しばかり緩んだ口元。半ばをフードで隠した幼げな面立ちは年相応の少女めいた微笑みを湛えていた)

ほんとうは、……だれかとこうして、いっしょに飲んだり食べたりしながら。
なんでもないお喋りをすることが、できたらいいのにって、思っていた、から。

(夢と言うには余りにささやかな望みを口にすれば、気恥ずかしさから小さく身を縮めて)
(影がまだ娘であった頃。其の殆どを”決められた場所”で過ごしてきた為、他者との接触は或る一定の時間帯以外は無きに等しい。当然、傷面の男との面識は無い)
(――若しも仮に、男が一般家庭の、其れも”客人を通すに相応しく無い施設”を覗き見るような”いい趣味”を持っているのならば、一方的に娘の姿を視認する機会があったのかもしれないが)

他人の空似だと、おもう。
私は、村のニンゲン以外を、見たことが無い。

(苦悶の表情を浮かべる傷面の男へ、唯々困惑の表情を浮かべて)
(よろめき乍らも立ち上がろうとする男の様子を伺うように見詰め)

えと、……みんなはこれから、どうするの。

(夜も更けた。共に旅路を、と告げてくれた砂狼は日が昇る頃にまた落ち合えば良いだろう)
(けれど。目前の女と、此の不可思議な男は?)
(よければいっしょにと願う言の葉は、喉の奥で引っ掛かってしまって声に出来なかった)
(他人の空似、か)
(記憶力の良くない俺だ、そういうこともあるだろう…。ひとまず考えるのはやめだ)
(男は記憶の断片を振り払うように頭を2~3度振る)

(そうしてニコからの問いに答える)

ああ、大丈夫だ…。
わかったってのは、あんたが言った「ゆっくり」ってやつさ。
俺はどうにもせっかちらしい。

(そう言うと今度は夜鷹に向き直り)

これからかぁ。
そうだな、俺はあんたらに興味が沸いた。
とりあえず“深緑”行くんだろ?俺も行くわ。

ニコ、当然あんたも行くよな?

(ニコに視線を送りながらそう問いかけた)
(夜鷹殿のぽつりとした純粋な呟きに、少しばかり目を開く)
(そのままニコ殿の方を見れば、向こうもまた同じ様子で)
(顔を見合わせる形になった。)
(続いて漏れ出る言葉に、くくくと笑みが零れる)

想像してたよりずっと可愛らしいな、夜鷹殿!

(縮こまった体が相まって、まるで娘のようにさえ見えてくる。これが父性本能というものか)
(出会ってからというものの怯えや警戒が入り混じっていた表情が、今やっと和らぐのを見て、こみ上げた嬉しさを隠すこともしなかった)

ふむ、私は呼ばれるまではどこかで一度休眠でもとろう。
ニコ殿ももし来ていただけるならば、とても心強い。

(笑みを湛えながらまっすぐ見る)
(ギリアス殿がいるだけでもかなりの心強さだが、ニコ殿がいればさらに盤石だろう)
(それになによりも)

ちなみにもし野営になったら私は肉を焼く以外の料理は出来ない。

(従僕殿の家政婦技術に預かりたく耳を動かした)
(これから、という言葉に少し考えている間に一人ずつ、いや最終的に3人の視線がグラスを磨く従僕の女へと向けられてた)
(数度の瞬きは表情には表さずとも、戸惑いを表している)

…随分と気の早い話ですね。
旅というものは、このように突然降って湧くものだとは。
日の出と共に、という間に皆様準備が完了するものなのですか。
(言葉の節々には、当初3人の会話へ入ってきた時の様な、ぴりりとした緊張感が伴っている)

わたくしには、次の主人を、仕事を探すという当初の目的もあります。
(ぴしゃりとそう言って、磨いていたグラスをカウンターへ置いた)
………
(小さく、息をついて)


しかし…わたくしの主人、ベルを鳴らす方は深緑にもいらっしゃるでしょう。
わたくしも幻想にこだわっているわけではありません。

(そして金色の射抜くような視線を上げる)
なにより、その様な食事で知人が旅の途中に行き倒れたなんて噂を聞くことは耐え難いですから。

……コホン。
(視線を逸し、少々態とらしい咳払い)
お供致しましょう、ただし諸々の雑事に関しては分担業務です。
よろしいですね。
(声を嚙み殺し乍ら屈託無く笑う砂狼の姿に、耳まで赤く染め上げて目を逸らし)

……どうして、わらうの。

(小さな反論は、抗議にも満たぬささやかなもの)
(悍ましい、汚らわしいと罵られた事は多々あった。けれど、可愛らしいなどと称された事は生まれて此の方一度も無い)
(其れはそうだ、故郷を出てからと云うもの、影は常ならば口元までもマフラーで覆い隠して居るのだから。顔など分かりようが無いし、喋る事すらも良しとしていなかった)
(人との関わりを持つようになったのは、此の身が”特異運命座標”であると信託の少女に告げられてから。影は、殻を破ったばかりの雛同然だったのだ)
(女の冷やかな声音をはじめは少しだけ恐れた。けれど、僅かな間に端々に感じた自身への気遣いを汲み取れるようになれば其の見方は大きく変わった)
(女には女の事情がある。其れに、女の身支度と云うのは時間が掛かるものだと聞き齧った事がある。気が早い、実に正論である)

……、

(自分が口を挟むよりも早く急くように女に注がれる期待に満ちた男たちの視線。否、自分だってきっと同じ目をしていた事だろう。何せ、”自分を庇ってくれたひと”にも、はじめて出会ったものだから。情を抱くには、充分過ぎる理由が出来てしまったのだ)
(暫しの間を置いて。然れど、簡潔に。女の口から是が返れば、ぱ、と其の瞳に歓喜を宿して)

……美味しいかどうかは、ひとに食べてもらった事がないから、わからないけれど。
私も、獲物を捌くことは、できるから。

(野営には慣れていると、ささやかに主張しつつに。影は改めて三人を仰いだ)
(はじめにそうしたように、空になったジョッキを掲げて乾杯の仕草を模して)
(旅立つにしても準備が必要だろうと、影は三日後の明け方、空中庭園で会おうと三人に示した)
(武器を新調してもいい。必要な荷を買い揃えるには充分な時間だろうと控えめに告げて)

ありがとう。……それと、その。
これから、よろしく。

(縁を繋いだ仲間達とのひとときの語らいを終えたあと。影はきっちり、四人分の代金を店主に支払ったのだとか)
(喧騒は止まない。今日も今日とて――鵯達は唄い続けるのだ)

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