PandoraPartyProject

ギルドスレッド

宿屋【金色流れ星】

宿屋2階『ミルフィのお部屋』

宿屋の2階にあるミルフィのお部屋。
テーブルとイス、シングルベッドが置かれており基本的な家具は一通り構成そろっている。また、テーブルの上にはちょっと上手な作りのカピバラさんのぬいぐるみがおいてある。

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(カチャリ。きぃぃ…と音を立てながら、ゆっくりと扉を開ける。)

まぁ…!ここが私の新しいお城ね!
(大きく空気を吸って、吐いて。上機嫌な足取りで部屋を一通り確認すると、テーブルの上のぬいぐるみに声をかけた。)

あら、可愛らしいカピバラさん。
あなたが私を出迎えてくれる従者なのかしら?
私はミルフィ。これからしばらくの間よろしくね!

ふふふ、さっそく明かりを付けましょう。

まずは荷物の整理から始めなくちゃね♪
(鼻歌を歌いながら、開けた荷物カバンに手を付けて。)
~♪
(お気に入りのネグリジェを着て、くるくると踊りながら持ち運んできたお洋服を手に取る。すべてクローゼットへ仕舞ってしまいましょうね。)(外へ赴くための衣服は取りやすく、奥の方には薄手のワンピースを。だって夏のお洋服はもう使わないもの!)

……!!
(窓から外を覗けば、冷たい風が頬を撫でる。街灯の明かりが華やかに夜の町を彩り、近くの酒場の前では仲睦まじい男女の姿が垣間見える。人々の営み、賑やかな夜。)

ふふ、ローレットの近くにお宿をとって正解だったわ。
お月様が出ているというのに、ちっとも寂しくないんですもの。たくさんの音色が私の静かな夜を満たしてくれる。なんて心が踊るのでしょう!

カピバラさん、少しだけ私のお話聞いてくれる?
(テーブルに置いてあったちいさなカピバラ人形をぎゅっと抱きしめて、夜風にあたりながら思うままに言葉を紡ぐ)
……私、今までずーっと森の奥の御屋敷でお世話になっていたの。そこのお屋敷の叔父様はとっても音楽を愛している人でね。ほかの世界からやってきた私の音も愛してくれた。

君がここに居たいと思う限り、自由にしてくれて構わないって私を置いてくれたの。本当に優しい方で、その屋敷に置いてある楽器も自由に使わせてくださったわ。

でも…。いつまでもお世話になるわけにはいかないから、自立できる準備を整えてここに移ってきたの。……今はまだ仮宿だけど。

それにローレットでたくさんの人々に出会ってから、毎日がすごくすごく楽しくて!前から近い場所に移り住みたいって思っていたの。もしかしたらこれが一番の理由かもしれないわ? ふふふ♪
……ここでなら、もっと心が踊るような楽しいハーモニーを綴れるような気がする。生活のためにも頑張らなくちゃ!

カピバラさん、お話を聞いてくれてどうもありがとう。そわそわした気持ちが落ち着いたような気がするわ!

今日も眠る前に思い浮かんだ音色を書き出しましょう。
さあ、ランタンの明かりを消して。
おやすみなさい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〈星が瞬く静かな夜、眠りにつく前〉

彼女は夜、眠りにつく前に手紙の返事を書く。
届いていた手紙の内容に沿って返事をしたためたり、
今日はどんなことが面白かったのか、どんな人と巡り合ったのか。
そういった自身の身に起きたことなども踏まえて返事の手紙を送るのだ。

送り先は彼女がこの世界で一番慕っている大好きな兄様。
二人は会う機会が少ない分、定期的に手紙でやりとりしている。

ミルフィは手紙に書いてあった
兄様の面白い話や依頼先での出来事に心躍らせ、その場面を想像した。

…それでもやっぱり、想像は想像に過ぎなかった。

「手紙を読むのもいいけれど、やっぱり直接お話を聞きたいわ。」

そうだ、せっかく部屋を借りたのだから
その報告と合わせて彼をこの部屋に招待すればいいじゃない。

もちろん常に忙しい彼のことだ。いつになるかはわからないが、
それでもやっぱり約束は取り付けておくべきものだと思う。

これは小さなお城への招待状。

宿の名前と場所そして最後に部屋の番号を簡単に添えて、彼女は手紙に封をするのでした。
紹介状に対する返事の手紙が彼女の元へと届いたのは数日前のこと。

『お誘いありがとうございます。喜んで参加させていただきますね?』

今日はキミのための茶菓子を選ぶために町に出ようと思います。
キミの部屋に似合う花もいいかもしれません。
ローレットの仕事はこの日なら空いていますよ、等と
そんな普段よりも少しだけ浮足立ったような文字面にもミルフィは気付くだろうか。

そんな手紙のやり取りで交わした約束はついに明日。
手紙を書いた本人はどうにも落ち着かない様子で今までに届いた手紙を整理などしてみせる。

「……いやいや、なんでこんなに落ち着かないんでしょうね?」

何にしても、どんな風に過ごそうと約束の日はやってきてしまう。
何度目かになるだろうか、手に持った手紙の文字に眼を落とし、小さくため息を零すのだった。
〈当日、昼下がりの町中にて〉

少女は歩き慣れた街角を通り抜けて、
そわそわと落ち着かない様子で町の大きな広場へと向かう。
今日の目的はこれから来る客人をおもてなしするための買い物だ。

見慣れた商品が多い中、時折見たこともない不思議な小物や
キラキラと輝く綺麗な髪飾りが目に映ると、ついつい足を止めてしまう。

(……いけない。今日は急がなくっちゃ!)

自分は何をしにここまで来たのか、目的を再確認して目的の店へと足を早める。
沢山の人々が行き交う道を掻き分け進めば、そこには小さな紅茶の専門店。

「おじさま、このお店の中でとびきり美味しいものをくださいな!」

だって大切なあの人がやってくる日なんですもの。
それに、彼が用意してくれる茶菓子に見合うような紅茶をご用意しなくちゃね!
ミルフィは鼻歌交じりに小さな紙袋を受け取って店を出た。

「……兄様のお口に合うかしら♪」

そんなことをやんわり考えながら、
部屋の準備を整えるべく足早に帰路へと付くのであった。
〈星鳴りの夜、小さなお茶会〉

星が夜空を鮮やかに彩る頃。
本日の舞台はレースで彩られた小さなテーブル。それを優しく照らすのはランタンの灯火。

窓から見える星は一つ一つが綺麗に瞬いて。町の明かりと相まって賑やかな景色がそこには広がっていた。

(……なにかおかしな所はないかしら?)

そんな中、自室で一人。
何度も何度も部屋の様子を確かめる少女の姿があった。

まだ引っ越してから日も浅く私室と言えるほど物も揃ってはいないが、それはそれとして人を部屋に招待するのはどうしても浮き足立ってしまうものなのだ。
意味もなく部屋を回って埃が溜まってないか見てしまうし、身嗜みに乱れがないか念入りに確かめてしまう。

やることをやり終えてしまったからこそ、色んなことを考えてしまうのかもしれない。

(…よし!)

ミルフィは改めて三つ編みを綺麗に結び直して、引き出しにしまったあの人からの手紙を丁寧に読み返しながら彼の訪問を待つのでした。
控えめなノックが数回部屋の扉を叩く。
彼女がそれを開けばそこにいるのは想像通りの人物だろう。

「やあ、お招きありがとうございます。」

小さな包を掲げながら青年はニッコリと笑ってみせる。

「これが約束のおかしです。
 上がっても良かったですかね?」

身につけたコートの端が何か気になったのか、それとも手持ち無沙汰なのか
空いた片手でパンパンと払いながらミルフィの顔をアベルは覗き込むように見つめた。
「…っ、はあい!」

コンコン、と期待していたドアの音が響く。慌てて返事をしてドアノブに手をかければそこには兄様の姿。

「ふふ、ようこそお待ちしてました。」

彼を見るなり嬉しそうに耳をパタつかせてはにかむ少女。リボンのついたしっぽが上機嫌に揺れている。

「…まぁ!ありがとう兄様。ふふ、やっぱりお話するなら美味しい紅茶とお菓子がなくちゃね♪ さあ、あがってくださいな。」

あぁ、コートはこちらでおかけしましょうか?そんなやり取りを交わして。
少女は彼をテーブルのお席へと案内する。

「今日は綺麗な星でも見ながら、のんびりとお話しましょう。」

今日は何から話しましょうか。そんなことをやんわりと考えながら、予め温めてあったティーポットを彼が待つテーブルへと運んだ。
「ええ、ええ。それは素敵ですね?」

コートをミルフィへと渡し、椅子に腰を落とすとテーブルの上に菓子を置いた。
小動物のような妹分の姿に部屋に上る前にあったような緊張はどこかへ飛んだらしい。

「どうにも菓子職人にもお兄さんが居たらしく、兄の味だとかなんとか。」

今回に丁度いいかと思いまして。
そんな風にトントン、と菓子の箱を指で小突いてみせた。
「まぁ!お兄さんに教えてもらったのかしら? …ふふ、なんだか微笑ましいお話ね。」

そんな話を楽しそうにコロコロと笑いながら相槌を打つ。

目の前のお菓子に心をときめかせながら、
用意したティーカップに紅茶を注いで。
そして、焼き菓子を丁寧に盛り付ける。

「ここから見える景色はね、私のお気に入りなの! 私がこのお部屋を借りようって思った理由の一つでもあるのよ。」

揺れるカーテン、なびく髪。
彼女が愛おしそうに見つめる先には、町のあたたかい明かりと夜空に瞬く星々の輝き。

「ほら、ここってローレットからも近いでしょう?だから、夜も遅くまで賑やかでね?」

夜遅くまで賑やかなところが彼女にとっては新鮮なようで、それが何だかとっても心地がいいんだとか。そんなことを嬉しそうに彼に話して柔らかい笑みを浮かべている。
「そうですね、此処から見ると上にも下にも星空があるようですね」

横に並ぶように窓の外へと視線を向けると上に下にと視線を動かす。
夜風でなびく彼女の自慢の髪が乱れてしまわぬようにゆったりと手櫛で撫でる。
「失礼」等と言ってはいるものの、受け入れてくれるだろうというそんな心構えが見てとえた。

「シャイネンナハトが近いからでしょうか、特に街が賑やかな気がしますね。
 俺は田舎者なので特にこういうのはすごく感じてしまいますね」

深緑の山奥はこの時間じゃ真っ暗ですよ、と。
「ふふっ、兄様。くすぐったいわ!」

彼の手が触れると彼女の耳がぴこぴこと小さく反応して。触れれば柔らかな髪の感触と共に、ミルクのような優しい香りが鼻腔を擽るだろう。

兄様の手櫛は彼女も好きな様子で、嬉しそうにそれを受け入れた。

「シャイネンナハト!確かに、そうかもしれないわ。…そっか。今よりももっと夜が賑やかになるのかしら。毎日ウキウキしちゃって眠れなくなっちゃうかも?」

口元に手を添えながら、くすくすと楽しそうに微笑んで。

「私もこんなに賑やかな場所に住むのは初めてよ!もといた世界でも、しばらくお世話になった御屋敷も、どちらかと言えば森の方にあったから」

星灯と月の光が優しく見守ってくれる落ち着いた夜も悪くは無いのだけどね、なんて話ながら、手元にあったミルクを混ぜて優雅にミルクティーを堪能している。
「そうですね、練達の技術でイルミネーションと言うんでしたっけ。
光る装飾が街中を埋め尽くすでしょうし、屋台や出店が大通りをごった返すのかな」

と言っても去年一度体験しただけの知識だと、恥ずかしそうに頬を掻く。

「そうでしたね、ミルフィは旅人。
元の世界ってのがあるんですか。」

仲良くしてきたつもりではあるが深くは触れてはいないそんな場所。
しかし、こんな機会でもなければ……。そう意を決したのか青年はこんな問を彼女に投げることにした。

「どんな場所だったんです?」
「…!イルミネーション。兄様と歩いた時にキラキラと街を彩っていた装飾のことね?練達、にはまだ向かったことは無いけれどその国はもっとキラキラしたもので溢れてるのかしら!楽しみだわ。 」

なんて、指を軽く合わせながら話をする。
去年1度きり…?ちょっと意外かも。

「あぁ、そういえば兄様にも話したことはなかったわね!…んーと。私が生まれ育った場所はのどかな郊外の御屋敷だったわ。父と母は音楽をとても愛していて、いつだって屋敷には使用人の歌声やピアノの音、色んな音で溢れていたような?…ふふ、思い出補正かもしれないけれど。」

「でも、夜はやっぱり人気がなくて、森も静かで、ちょっと寂しかったわね。そんな時はいつもお母様の寝室に潜り込んで子守唄をお願いしていたっけ。」

彼女の瞳の奥に映るのは、記憶の中にいる母の姿。懐かしむように言葉を紡ぐ少女。でも、そこに寂しさや哀愁の雰囲気はあまり感じとれない。

「だから、こうして夜も賑やかで人の営みを肌で感じられるこの町はとっても好きよ!やっぱり、誰かが近くで生活してるって実感できるといくらか寂しさが紛れるわね。」

彼女は町を眺めながら、小さくはにかんで焼き菓子を口へと運んだ。

…おいしい!
「いい場所だったんですね。
 キミの優しさや、正しさはご両親から受け継いできたものなんでしょう」

音楽に溢れていたのだろうその屋敷を想像しているのか。
目を瞑り、少女の声に耳を傾ける。
きっとこの優しく可愛らしい声によく似て、夜に似合う子守唄だったのだろう。

「子守唄にはあまり縁がない人生ですので今度聞いてみたいですね
 また機会がればお願いしてもいいでしょうか?」

寂しい、と少女が口にした。
それもそうだろう、この年頃の少女が一人知らない場所で生活する事がどれほど心細いか。
ただ、それをまっすぐに口にするのは目の前の少女への侮辱になるかもしれない。

「……ほら、今は俺は怪我を癒やしてますし
 少しだけ甘えてもいいでしょうか、キミに」

だから、兄貴分としては情けないこんな言葉に化けていた。
ふふーん。
なんだか得意げな表情でうなづいている。
お父様とお母様を褒めてもらえたことが何よりも嬉しかったのだろう。

「あら、私の子守唄でよければぜひ。
兄様が聞きたいって言ってくれればいつだって、どこでだって歌ってあげますとも。」

任せてちょうだい!と嬉しそうに胸を貼る。それもそうだろう、だって大好きなお母様が教えてくれた子守唄を歌える機会が来るのだから。

「……?ふふ、兄様は甘えたがりさんね!」

そんな気持ちもいざ知らず。
兄様が甘えてくれた、その事実が嬉しくて嬉しくて。何故だか勝手にウキウキしてしまっている自分がいた。

子守唄だろうか、それでも悪くない。
だって今は夜も深いのだから。

それともハグだろうか?
ハグなら優しく包んでいい子いい子するのもいいかもしれない。…あぁ、でも前にした時は困っていたっけ。

それとも兄様の悲しかった出来事のお話だろうか。それなら穏やかに話を聞いて彼と痛みを分かち合おう。人の気持ちになるのは得意なほうなのだ。

色々考えてみたけれど、じつはあんまり甘えられるって経験したことなくてどうしたらいいのかわからなかったりするのが現状だったりする。だって一人っ子だもん。

彼は一体、どんな甘え方をしてくれるのかな。と、そわそわ話を聞きながら傾けていた紅茶はいつの間にか飲み干してしまっていた。
妹分の何かを期待するような視線。
それを察したのか、椅子に深く座り直すと目の前の紅茶を大きく煽り空にする。

「……夜風で少し冷えてしまいましたね」

ポンポン、と膝を叩くと椅子を引いてテーブルとの間を開く。
視線と軽く開いた手はおいで、と招いているようだ。

「特等席で1曲聞かせてください。お姫様」

理由はなんでもいい。
約束通り決戦から帰ってきたから。
弟分を失ったから。
今晩はとても寒いから。
妹のチャームポイントがふわふわで心地いいから。

なんの役に立つだとか利があるだとか
そういう事を抜きにしても子のことは一緒にいたいとそう思った。

「甘えん坊の兄ですみません、ミルフィ」

他の人間には、それこそ弟分にしかこんな事をしたことはないのにな。
それなのに何故かこの子には……。
それがどうにも不思議だったけれど、そんな事を考えるよりも目の前の歌と愛おしい妹に集中しよう。

そんな夜だった。

(すみません、眠気が来たのでそろそろ一旦〆でいいでしょうか。)
(また時間がある時にやりましょう)
「…ええ、そうね。ちょっとだけ、肌寒いかもしれないわ。」

窓から入る冷たいそよ風。
もうじき秋も終わり、冬がやってくる。
夜も遅いこの時間では、昼間暖かい風も冷気を纏って。

「ふふっ、兄様には特別よ?」

ぽんぽん、と彼が優しく誘う膝の上。
彼女は彼にもたれ掛かって、うりうりと自慢の髪を押し付けた。

「~♪」

目をつぶって空間を感じて、風を感じて暖かさを想って。
瞼の裏に蘇るのは在りし日の母との記憶。

(……たしか、こんな感じだったかしら。)

おぼろげな記憶を辿って音色を思い出す。
これは小さな子を想う母の歌。

その声色は赤子を包む柔らかな綿のように穏やかで、絹糸のように繊細で
耳触りの良い彼女の声は、小さな部屋を満たしてすっと夜の空へと抜けていった。

(ああ、なんだか歌っていると私まで眠くなっちゃうわね)

意識が溶けていくような、そんな心地よさに酔いながら
彼女は背中越しに感じる兄様に届くよう、ゆっくりと言葉を紡いだ。
もたれ掛かってきた妹分に合わせるように手を寄せ抱きかかえる。
彼女の熱と少しばかり軽すぎる重みを感じつつ、子守歌に意識を集中する。

「……あぁ」

意図せず口から漏れ出た声だった。
優しい声色が子供の頃を思い起こさせる。

その歌のリズムに合わせるようにゆったりと彼女に添えた手を揺らす。

「素敵な、歌ですね
 きっとこれを歌っていたお母さんはとても素敵な方だったんでしょう」

自分にもたれかかるミルフィの力が僅かに抜けるような気がして少しだけ抱きしめる手に力を入れた。
彼女の負担にならないためか、何か怖かったのか少しづつ少しづつ。
「…ふふっ♪」

思わず感嘆を口にした兄様の声を聞いて、嬉しそうに耳をパタつかせる。
無意識に彼女の尻尾が揺れた。

「えぇ、そうでしょう?
 わたしのお母様はとっても綺麗な人で、お歌もすっごく上手なのよ!」

ミルフィは語る、彼女の母は元々オペラ歌手として有名な貴婦人でピアノの講師としても有名だった事。彼女の父は有名な作曲家で何かと公演で忙しく家を開けていたが、家に帰ればたくさん甘えさせてくれた…とか、そんな話だ。

「んー…。久々に子守唄を口ずさんだら私まで心地よくなっちゃった。」

だらしなく彼にもたれ掛かる。
少しずつ強く抱きしめてくれる兄様の手に、そっと手を重ねて微睡んだ。

「兄様は小さい頃、どんな子だったの?」

ふと、彼女が思ったのは幼き頃の彼への興味。
小さい頃…彼も子守唄を歌ってもらっていた時期があったりするのだろうか。
今の私のように子供らしく誰かに甘えたり、遊んでいた時期があったのだろうか。
当たり前なことだけど、あまり想像がつかない。

触れたことがないのだ、彼の過去に。
彼も彼女もお互いのことを知らなすぎる。

だから、こういう時こそ、彼“過去”に触れてみたいと思ったんだ。
自慢気に両親を語る妹分に、少しだけ曖昧な笑みを浮かべる。
とても尊い光景に思えてそれでいて自分とはどうにも住む世界がずれている。

「本当に素敵なお母さんですね
 キミも大きくなったらそんな風になるのかもしれませんね?」

そんな時にやってきた彼女の問い。
自分の子供の頃。

「ああ、そうですね。
 それも話すって約束でしたか」

弟分と退治するためにラサへと向かう前日に
偶然に顔を合わせた彼女と必ず帰るという約束と一緒に。

「まあ、楽しい話ではないですけどね?」

始まりはこの世界ではよくある不幸。
ラサという国は傭兵の国、なんだかんだと諍いが絶えずそんな中で親を亡くす子供も少なくない。
そんな子供の中のひとりが自分だった、とそう語る。

「そんな時にふらっと深緑の方へ流れていたんですよ」

ラサと深緑は深緑からすれば珍しく国交が盛んな国々だ。
どんなで国を移ったかは子供の記憶には残っていないが砂漠の熱気より深緑の木陰が過ごしやすかったのは覚えている。

「前に言ってた弟分って奴とはその時一緒で。
 子供ながらに頼れるのはそいつだけだったんですよ。」
「ふふっ、そうだといいわね!」

私もなれるだろうか。尊敬する父と母のような、立派な存在に。
そうなれるよう、大人にならなくちゃ。なんて子供なりに、胸の中でつぶやいた。

「……。」

咀嚼するように真剣に聞いて、理解できる範囲で飲み込んで、相槌を打った。
彼の過去を聞いてはじめに思ったのは、あぁ…やっぱり…。という感想。

普段から礼儀正しく人に気を配るのも上手で気さくな態度で
誰かと話している彼からは想像できない程の壮絶な過去だと思う。

けれど、その立ち振る舞いの中にも他人に深入りしないような…
特に自身について触れられるようなことは避けていたように見えた。

そんな彼の昔話だ。ある程度、苦しい話だとは覚悟していたし、
実際、聞いている時もやけに落ち着いた気分で聞けている自分がいる。
というのも、彼の過去に関しては自身の過去とかけ離れすぎて
想像してもしきれないところがあるのが大きいだろう。

なんとなく想像できるけど、どこか上の空な感覚。

「…兄様には小さい頃にずっと一緒に居た大切な弟が居たのね!」

兄様には弟分が居たという。
子供ながら手を取り合って逞しく生きていたんだと、なんとなく感じた。
きっとたくさんの不幸に巻き込まれたり、理不尽に耐えながら
生きやすい場所へと移動して深緑にたどり着いたのだろう…。

彼の語る、弟分とはどんな子なんだろうか。
そんな存在に惹かれながら、彼女は話を続きを、と催促するのだった。
「ええ、大切な弟でした。
 俺より賢くて、俺より凄くて……自慢の弟です」

俺の狩りの技術もそいつから習ったんですよ、と懐かしむようにアベルは語る。

「小さい頃から俺じゃあよくわからない事ばかり考えていましたよ
 子供っぽくない、いや大人びてる……って言うんですかね?」

自慢げな語り口からもわかるようにいつもよりも声色は明るい。
普段はあまり見せない面が漏れ出ているかのように。

「弟分ってのも俺が我儘で『背が高いから俺のが兄貴!』って言ってただけですけどね?」

ミルフィが重ねてくれた手を躊躇いつつも握る。
その手は少しだけ震えていた、恐怖かそれとも別のなにかか。

「まあ、そんなのも長くは続かなくて……
 色んな、色んな事があってアイツは魔種に俺はイレギュラーズになったって感じですか」

それがあの日のことだ。
決戦の向かう前日、頭をなでてもらったあの日のこと。

「決着はつきました、もう大丈夫ですよ
 色んな人が俺を助けてくれて、キミも俺を助けてくれた」

だから、大丈夫だと。
手を握りながら、小さくつぶやいた。
「ふふっ、兄様の弟君は兄様を引っ張ってくれるような存在だったのね。」

弟君を語る兄様の声はなんだかいつもより楽しそうで…
ちょっぴり羨ましくなった。

賢い弟君とやんちゃな兄様…ってところかしら?
嫉妬しちゃうところもあるけど、想像するとなんだか微笑ましい気がしてくる。

「…兄様は、本当にたくさんの人達に恵まれてるのね!」

恵まれている。賢い弟君もその中の一人だ。
その弟君が居なければ、今の兄様はここには居ないし
きっと二人が離れてしまった理由もお互いを大切に想うが故なのだろう。

それは想像でしかないけれど、なんとなくそんな気がした。

「ふふ。私はただ祈って待っていただけよ?」

くすくす、と可笑しそうに笑って彼の手を握り返す。

「……でも、兄様がこうして生きて戻ってきてくれて本当によかった。」

安堵したような、穏やかな声でそう伝えると
少女は背中に大きく体重を預けて、すりすりと小さく甘えた。
「俺は弱いですからね。
 いつだって誰かに頼って生きてきましたよ」

ミルフィの言葉に何度かうなずいてみせる。

「ええ、ええ。本当に。
 俺は本当に縁に恵まれているんです。」

握られた手の震えはもうない。
あの日もこんな風に震えを止めた気がした。

「前も言いましたけどキミがいつだって俺の心を守っているんです。
 あの日戦いの中で沢山の人が俺を守ってくれましたけど心を守ってくれたのはキミだ」

普段歯の浮くような台詞を言っても顔色一つ変えないつもりはあるけれど
今ばかりは顔の見られない位置で良かったのかもしれない。
自分ではわからないがどんな顔をしているのか……。

「だから約束は守りますよ
 ミルフィを泣かすわけにはいきませんし?
 マイスイートエンジェルのお願いはなんだって叶えるものです」

だから、わざとらしく。
跳ねるような陽気な口調で冗談を、照れ隠しだと察せられなければいいけれど。

「…それもまた、兄様の強さなんだわ。」

頼れる誰かがそばにいる…そんな関係を築くというのは簡単なものではない。
きっと、彼はそういう才能に恵まれていて、これからだってそうなのだろう。
人と人との縁を強く惹きつける運命力。
わたしもまた、惹きつけられたうちのひとりなのかもしれない。

「…守られてばかりのわたしが、兄様を支える者の一人になれたことを誇りに思うわ。」

いつもたくさん甘えさせてくれる優しい兄様。
夜道だって私の手を握ってしっかりと送り返してくれる兄様。
でも本当は人一倍寂しがり屋で人一倍心が弱くて放っておけない私の兄様。
――それがこの世界で私が最も慕う大切なひと。

私は小さく震えていた彼の手をそっと撫でてから自分の方へと寄せてぎゅっと。

「えぇ、ええ。今までも、これからも。私は兄様のそばにいるわ。」

願うのは兄様、貴方ひとり。

兄様にとって私が心の拠り所であるように、私にとってもまた、兄様は私の心の拠り所。
これから何が起ころうと、私は貴方の拠り所で在ることを誓いましょう。
いつかまた、彼が苦しむ時がくるかもしれないその日のために。

「ふふふ。今以上にわがままいって兄様を困らせてあげなくちゃね?」

ああ、いつもの兄様だ。
陽気で気さくな優しい兄様。

「まずは一緒に冒険してみたいわ!!」

彼女が要求したのは二人での探検だ。
シャイネンナハトより前に、遊びに行きたいらしい。

「ああ、そういえば異世界にプチ旅行っていうのも面白そうね!」

ご機嫌な様子で問いかける。
まだどこに行きたいとか、具体的な案は思いついていないけれど。

二人で依頼掲示板とにらめっこすれば良いのだ。
それもまた、二人にとって楽しい思い出の1ページになるだろう。
「……異世界ですか?
 全く、お転婆と言いますか」

そんなところが可愛いんですけれど。
まあ、彼女からすればラサへ行くのも鉄帝に行くのも異世界へ行くのもかわらないかもしれないが。

「ええ、ええ。お姫様?
 美人に我儘を言われるのも男の本懐です。
 何処へでも連れて行ってあげましょう」

そうなると知り合いに詳しそうなのが居るな、だとか
境界案内人に話を聞かなければ……だとか。
まあ、そんなことは些細な話。

シャイネンナハトまではそんなに時間はない。
彼女の笑顔のためにはまずは行動あるのみだ。

「じゃあ、明日は朝からローレットですかね?
 という訳でキミはそろそろ寝る時間です」

腕の中の彼女の姿勢を変え、横抱きにするとそのまま椅子から立ち上がる。
そのままベッドまで連れて行くと優しく寝かしつける。

「……じゃあ、おやすみ。
 夢の中でまた会いに行きますよ」

そうして小さく手をふると、何度か名残惜しそうに振り返りつつもアベルは部屋を後にした。
「えへへ…♪」

彼に抱きかかえられたまま、ベッドで寝かしつけられ素直に重たい瞼を擦る。

うと、うと。兄様がそばに居るからか、眠りに入るのがいつもより早い気がする。
夜ふかしのし過ぎかな…?あぁ、もうちょっと、お話したかったのに。

「んー。おやすみなさい、兄様。
 …夢の中でまた、お話の続きをしましょう。」

名残惜しそうに、彼の手を離すと
彼女は一足先に夢の世界へと向かったようだ。

扉が閉まる音。訪れる静寂。
二人だけの小さなお茶会は終わりを告げて。

彼女の寝顔はとても安らかで、幸せそうに頬を緩ませていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〈甘いケーキとおやつのじかん〉

今日は晴天。
空はどこまでも青く澄んで、白い雲は穏やかに流れていく。

少女が扉を開ければ、冷たい北風が髪の間をすり抜けて。

「ふふ、今日は気持ちのいい天気だわ!
…でもやっぱりちょっと寒いかしら。」

小さく肩を竦ませた後、大きく息を吸えばぐっと背を伸ばして換気し終えた部屋を見渡す。

「今日は特別な日だもの。
めいいっぱいおめかししなくちゃだわ!」

いつもよりも手間をかけて、左右の髪を丁寧に編み込めばふわふわな髪が整ったハーフアップに様変わり。
普段簡単な三つ編みしかしない少女にとって、これが最大の“おめかし”なのだ。

(…兄様は気づいてくれるかしら?)

なんて心を弾ませながら、少女はテーブルに置いてある手紙にそっと触れた。

「…そろそろ約束の時間だわ!」

時計を見やれば時刻は3時前。
予定の時刻が迫り、少女は慌てて散乱した書きかけの楽譜をまとめ、彼から届いた大切な手紙とともに引き出しの中へとしまい込む。

「兄様、早く来ないかしら!」

美味しいケーキと大好きな兄様に心を弾ませながら、少女は窓の外を眺めるのでした。
外を眺めていたミルフィに遠くから小さな誰かが手を振った。
そこまでゆったりと歩いていた誰かはそこから歩調を早め、ほんの数秒で建物の中へと姿を消す。

それから少しだけ間を置き、コンコンと控えめなノックが部屋に響く。
返事を待つ前に開くドアから前よりも少しだけ遠慮が減ったのを伺えた。

「こんにちは、ご機嫌いかがでしょう」

小さな紙箱を片手に提げながら現れた青年は妹分の姿を見つけると緩んだような笑みを浮かべる。

「こちらがお話していたお土産です。」

ローレットの仕事で異世界へ赴き、何故かケーキを作ってきた。
そんな話と共にお茶会の誘いをしたのがほんの少し前。
その作ったケーキを一緒に食べようと、今日はそんな話なのだ。

「初めて作ったのでなんと言いますか拙いものなんですけどね」

格好いい兄貴でいたいものなんだけど、なんてボヤキながらも嫌ではないのが声色からもわかる。
嬉しそうな明るい口調だ。

「ええ、ええ。拙いですけど、君と一緒に食べたくて。」
「まぁ!ようこそ兄様、お待ちしていました。さあさ、お上がりくださいな♪」

程なくして、先程手を振りあった人物が部屋の前へと訪れた。彼は彼女がこの世界で誰よりも慕っている兄的存在だ。

言うまでもなく、迎え入れた少女は嬉しそうに耳をパタつかせながらケーキを受け取り、テーブルの椅子を引いた。

「あぁ、座るよりもまずはコートをかけなくちゃよね!」

彼の格好を見て、慌ててハンガーを手渡す。その姿はいつもとは違ってどこかソワソワしているように映るだろう。

「今日はどんなお話が待ってるのかしら。本当に楽しみだわ!」

ちらりと少女が視線を移した先には既にケーキ皿とティーカップが並べてあり、お茶会の準備は万端といった様子。

「拙いだなんて、そんな事ないわ!お菓子作りは見栄えよりもこころが大切なのよ?」

兄様が心を込めて作ってくれたのは見なくともわかるんだから!なんて自信ありげに胸を張れば優しく微笑んで。

「ふふっ、わたしも早く兄様と一緒にケーキを食べてしまいたいわ!」

お話ばかりじゃケーキが可哀想だもの、ね?と無邪気にあどけてティーポットを傾けた。
手渡されたハンガーにコートを吊るし、首のネクタイに指先をかけて緩めた。

「そうですね、まずは今回のケーキ作りの話からでしょうか?」

それは小さな恋のお話だ。
ケーキ屋の主人とそれに恋する少女のお話。

「まあ、俺達がしたことなんて何も無いんですけどね。
きっと彼女はきっかけさえあればなんでも出来る子だったんでしょう」

ただ単純に1人ではお菓子作り教室に行きにくいというだけ。
それにイレギュラーズは合わせただけ、という話だった。

「何はともあれ、聖夜というのはそういう季節ですよね」

羨ましい限りで、と肩を竦めわざとらしく嘆息するアベルだったがいつもとは雰囲気の違うミルフィに視線を止めた。

「……ん?なんだか今日はいつも以上におめかししています?」

よく撫でる彼女のチャームポイントに今日はいつも以上に気合が入っている。
そういう気分なのか、それとも聖夜が近いからか。
何にせよ、自分と会うためになどという思い上がりは彼の頭には一欠片もない。
妙なところで抜けた彼は純粋に首を傾げるだけだった。
「まぁ!!そんな事があったの?」
ふふ、それは素敵な恋のお話ね!と嬉しそうに手を合わせてはにかむ。

「たしかにその子は私たちが居なくとも告白はできたかもしれないけれど、きっかけって大切だものね!」

(ローレットの掲示板にそういう依頼もあったんだ…!ちょっと気になるかも。)

居合わせただけ、という言葉にくすっと相槌を打ちながらティーカップを傾ける。

「ええ。聖夜はこの世界でも私がいた世界でも、今回兄様が向かった世界でも。きっと、どの世界でだってお祝いする日なのかもしれないわね!」
そういえば、ポージィさん達も聖夜を密かに祝ったりしているのかしら、なんて思い出したりして。

「兄様は聖夜にエスコートしたいレディとか居たりしないの?」
もちろん、私みたいに妹分とかお友達とかそういう子以外よ!と付け加える。

「…っ!! えへへ、そうかしら?」
いつもより気合を入れて編み込んだ髪型に気づいてもらえたことが嬉しくて、つい指で髪を遊んでしまう。その笑顔はふにゃりと嬉しそうだ。

気づいてくれているのか、それとも彼の天然なのか、変なところで抜けた反応をする彼を見て小さくはにかんで。

「どう? いつもより綺麗に見えるかしら。」

背伸びしたような雰囲気で細い指を組み、控えめに微笑む少女。

聖夜が近づいて華やかな人々を目にする機会が増えたからだろうか、それとも単なる気まぐれなのか。なんであれこの少女がレディになるための第一歩を踏み始めてることには変わりないのであった。
「ええ、ええ。どんな形であれ手を貸せたならばよかったです。
 戦うだけでなくこういう風に人を救えるのならば万々歳」

シャイネンナハトが楽しいものだとはイレギュラーズになってから知ったぐらいの経験だが
こういった明るい雰囲気は嫌いではない、と小さく何度かうなずいた。

「残念ながらそういった女性はいませんよ?
 ……エスコートというのなら買い物に付き合ったりはしますけど」

それも別段そういった話でもなく、買い物の荷物持ちに付き合うだけ。
相手にも恋人が居ますからね、と何故か微笑みながら。

「ああ、でもお酒を飲みに連れて行って頂けるらしいです。
 俺も今年からは飲めるようになりますからね」

聖夜の予定はそのあたり、女性と関わる機会があっても恋愛沙汰はさっぱりの様子。

「ええ、雰囲気はいつもの可愛らしさよりもキレイと言った印象です。
 でもその笑顔はとっても可愛らしいですけどね?」

笑みを浮かべたままアベルは目を閉じ腕を組む。
む、と小さな低い唸り声のあと恐る恐る、口を開いた。

「まさか、ミルフィの方がなにか聖夜にエスコートしてくれる相手がいるとか?」

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