PandoraPartyProject

ギルドスレッド

和風バル【潮騒】

◇【1:1】ブルームーン(RP)

 海が夜と溶け合い、闇に沈む。
 ぽっかりと浮かぶ白銀の月だけが、その輪郭を照らし出していた。

(……静かなモンだ)

 【潮騒】から零れる柔らかな橙の光に夜闇を暴く無粋さはなく、カウンターの向こうでは、蒼い着流しの男が相変わらず煙管をくゆらせている。
 ほんの数刻前まで依頼帰りの特異運命座標達と共に溢れていた喧騒も過ぎ去り、今は波の音が響くのみだ。

「あぁ、そうさな。もう誰も来ねぇようなら、そろそろ閉め――」

 煙を吐き出すと、店の奥へと気だるげな声を投げようとして。
 扉が開く音に「おっと」と言葉を呑み込み、入口へと顔を向けた男は、目を細めて笑った。

「――よう、いらっしゃい。
 お前さんが、本日最後のお客ってワケだ。ゆっくりしていってくれや」

――――――――――――――――――――――――――――――
◆こちらは、「一番最初に訪れたPC様」との【1:1】用スレッドになります。
 既知・未知・未成年の方でも大歓迎。まったりお話できると嬉しいです。
◆時間帯は夜。シリアスや多少のメタ発言もOKです。

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(扉が開いて、現れたのは齢二十も半ばほどの女。)
(…カラン、と下駄が鳴り、着物の乱れを少し気にしながら、立っていた。)

…お今晩は…旦那はん見たとこ、お店閉める手前やったんやろに
うちのせいで、偉いすんまへんなァ…。
お月さんも綺麗やし、こないな夜は…勿体ない思て。
ほんで、落ち着けるええ店あらへんやろかて、探しとったら
此処の店から漏れる灯に、気ぃついて。

…思てた通り、素敵なお店やし、何より…ええ男やわァ。
女一人やけど、お願い出来ますやろか?
(軽く会釈を済ませ、柔らかく微笑むと、店主の返事を待った)
 (しっとりとした独特の口調と、艶やかな着物姿。
  馴染みのないそれらに一拍間が空き、すぐに我に返った様子で)

いや、構わねぇよ。見ての通り、まだ「営業中」だ。
それに、こんな夜にうちの店を選んでくれた客を追い返す趣味はねぇんでな。
嬢ちゃん一人ともなりゃぁ尚更、よ。

 (「――ようこそ、【潮騒】へ」。
  そう言いながら、カウンターを挟んだ正面の席を手のひらで示した)

おっさんは十夜(とおや)だ、よろしく頼むぜ――……おっと、お前さんみたいな「いい女」にそう言って貰えるとは光栄だね。
……そういやここらじゃ見ねぇ顔だが……(頭上の耳に視線をやって)ラサの方から来たのかい?
嬢ちゃん、か、…ここでそやって言われるやなんて。
(ポツリと小声で寂し気に呟いた後、案内されたままカウンターへと足を運ぶ)

うちを、嬢ちゃん言うてくれるん?…嬉しいやないの。
そないな事言うてくれる人、いつぶりやろか…少し昔を思い出してしもたわァ。

名乗りが遅なりました…うちは、蜻蛉(かげろう)と申します、ここでお逢いしたんも何かのご縁、よろしゅうお願い申し上げます。

ほな、十夜の旦那はん…お言葉に甘えさせてもらいます。
(名乗り終えた後、一度窓の外の月に目をやってから、椅子を引いて腰かけた)

ええ女かどうかは、も少し話してみてからの方がええんやない?
ラサ…あぁ、うちはこないな格好やけど、この世界の獣人のもんと違うんよ。
うちは…お月さんから来たんよ。(窓の月を指さしながら、悪戯っぽく笑みを浮かべた)
昔って言うほどの歳じゃねぇだろうに。
お前さんいくつだ――……っと、これは野暮な質問だったな。悪い。(ややばつが悪そうに髪をくしゃりとやって)
ま、俺から見りゃぁ嬢ちゃんなんでな、嫌じゃねぇなら安心したぜ。

 (つられて月を眺めかけ、告げられた名前に視線を戻す)

蜻蛉か、いい名だな。
いやなに、店を褒めてくれた上に、こんなおっさんに「いい男」なんて世辞までくれるんだ。十分いい女だと思うがね。
……さて、何か飲むかい?(壁に並ぶ様々なボトルを後ろ手に示し)

ラサじゃねぇとするとどっから――

 (月から来た、と聞こえたその言葉に、僅かな間沈黙する。
  それから、何度か外の月と蜻蛉を見比べた後)

――ははっ、月からの旅人か。そいつはいい。
どうだい、あっちからの眺めは。こんな夜は海が最高に綺麗に見えるんじゃねぇか?

 (本気にしていない様子で、それでも否定する事はなく、面白そうにからから笑った)
旦那はんやって、おっさん言うてはるけど、うちとそないに変わらんように見えるんやけど…(カウンター越しにジーっと見て)
うちの…”昔”の基準が少し人と、ちごてるせいやろか、懐かしゅうて。
気にせんでええんよ、旦那はんの呼びやすいように、呼んでもろたら。

うちは、世辞は言わへん、その佇まい雰囲気でよお分かる………おおきに。(飾り気のない素直な言葉に、少しだけ頬が朱に染まり目線を外した)

ほな…旦那はんの好きなんはどれやろ?…良かったら、それを。(並べられたボトルを品定めしつつ)

ほんに、今夜みたいな月灯りに照らされた水面が綺麗で…ええ眺め…
……って!ほんまにお人がええわァ…旦那はんくらいのお人なら、察しがおつきでしょうに。
…うちは、こっちの世界でいう所の、旅人言うもんらし。

(仕掛けたつもりが逆に遊ばれて、恥ずかしさに唇を尖らせながらぼやいた)
俺の好きな酒か。わかってるねぇ、お前さん。
そうさなぁ……だったら――

 (ボトルを選ぶ仕草で、さりげなく、見つめる視線から顔を逸らす。
  そのまま背中越しに小さく笑い声を立てた)

若く見えるかい? そりゃ光栄だが、これでも38でな。充分おっさんだぜ。
ま、ひょっとしたらお前さんの方が年上って可能性もあるかもしれんが……そんなら、お言葉に甘えるとするぜ、嬢ちゃん。
もちろん、ちゃんと名前でも呼ばせてもらうがね――……っと、あった。

 (目当てのボトルを取ると、軽く揺らしてから陶磁の酒器に注ぐ。
  振り返り、微かに甘い香りの漂う透明の酒で満たされたそれを、そっと蜻蛉の前へ)

ははっ、すまんすまん、からかったわけじゃねぇんだ。(唇を尖らせている様子が目に入り、からから笑って)
旅人ってのは本当に色々な世界から来るらしいからよ、月から来たって話も全くの嘘とは言い切れねぇと思ったのさ。こんな夜だと特に、な。
殿方に、おなごの好みがあるように、酒の好みも、人それぞれにありますやろ?
そこに、人となりが見えるような…そんな気ぃして。
…もちろん、うちの中だけの話やけど。

旦那はん、おおき…に…
(出された酒器を目の前にして、あぁ…と、吐息混じりに呟いた後
 酒器を手に持ち、大事そうに口元へ。ひと口、ふた口…すると自然と顔も綻んで)

…ここやったらあるんやないかて思てたけど、うちも好きな酒…懐かしい。(白い頬がほんのり染まる)
向こうにもお月さんがあったように、こっちでも飲めるやなんて、嬉しいやないの。
お月さんが引き合わせてくれたんやろか…せやね、ほんまに、綺麗―…
あっちの世界で見た月、こっちの世界で見る月…
一つだけ違うんは、目の前におる人がお人よし過ぎる、言う事やろか。

…そや、うちの向こうでの話、少しだけ聞いておくんなし、お月さんでの話、や。
(酒も入って、緊張も解けてきたのか、着物の袖で口元を隠しくすっと笑う)
いや、その考え方は間違っちゃいねぇさ。

 (言いながら、小さな盃に同じ酒を少し注ぐ。
  何かを気にするように一瞬厨房を振り返った視線を再び戻し)

酒場に深く関わってるやつは、自然と酒に詳しくなる。
そんなやつが選ぶ一杯ってのは……ある意味、そいつらの「本質」に近いモンなんだろうぜ。

 (盃を揺らし、軽く波立ち煌く水面を穏やかに眺めてから、蜻蛉の様子に満足気に笑む)

そいつは良かった。
お前さんの言ったように、酒の好みは人それぞれだ。そん中で、こうして同じ味を気に入るやつと会えるってのは……月が起こした奇跡、なのかもしれねぇな。
……俺が「お人よし過ぎる」ように見えるのも、ひょっとしたら月のせいかもしれねぇぜ?

 (酒に口をつけつつ、どこか意地悪く囁いて)

おっ、いいねぇ。是非とも聞かせてくれよ、その話。(細めた翡翠の奥に、微かに好奇心が滲んでいた)
旦那はん、せっかくやで、うちお酌しますよって…どうぞ。
これでも、もとは花魁の端くれ…今宵は客と言えど、注がれて下さいな。
机越しなんが残念やけど…ごめんしておくんなし。(手慣れた様子で盃へ注ごうと)

うちのおった世界…こちらの世界で言うところの、人間種だけの世界__
やけど、八百万の神…妖や物の怪、人ならざる者も一緒に存在しとった。
物も、獣も、長く生きれば――…

(言いかけた所でふいに詰まる言葉、少し間を開けて)

生きれば、そこに魂も宿ります―…。

普段は目に見えず、時々は、悪さをするものもおりました…。
でも、”それ”は、いつも「人」と共にありんした。

(伏し目がちに、何かを思い出すように、優しい表情で語る。
 ハっと、我に返り…相手の反応を伺うようにゆっくり顔を上げた)

あの…うちの話…つまらんかったら言うておくんなし。
いや、流石に客に注がせる訳には――

 (反射的に盃を引きかけるも、ふと外の月が目に入って動きを止める。
  少しの思案の後、苦笑を口端に浮かべた)

……いや、そうさな。月からの客人の厚意を無下にするのは、それこそ無粋ってモンか。
なら……お言葉に甘えるとするかね。

 (手慣れた様子で注がれる酒を、反対に慣れていない様子で眺めつつ。
  紡がれる言葉に静かに耳を傾け始めれば、その穏やかな語り口調に、自然と目を細める)

「人」と共に、か。いいねぇそういう――……ん?

 (不意に途切れたそれを追うように、つられて視線を上げて)

いや、つまらねぇなんて思っちゃいねぇよ。
むしろ聞き入っちまうと言うか……語り部の才能があるぜ、お前さん。

 (店内の明かりを受けてちらちらと、続きをねだる子供のように翡翠が揺れた)
…さっきの、人となりの話――…逢うて早々にお人の心なんて、わからしまへん。

(盃を持つ相手の手元と顔を見ながら、嬉しそうに笑みを浮かべて)

でも、旦那はんが、迷いながらも、こやってうちのお酌を受けてくれた。
…そういう不器用な優しさ、うちは好きやわ。
困らせたいわけやないけど、十夜はんのほんまのお顔、見れて嬉しゅうて。
…逆に気ぃ使わせてしもて、かんにんしておくんなし。

(綺麗な深い緑、海の蒼、そんな眼差しを受けながら、女の話は続く―…)

いつもは聞き役なんよ、語り部やなんて…そんな大そうな。

…見ての通り、うちはお人やのおて”それ”側のもの。
こちらの世界の獣種とは成り立ちがちごてて、獣が力を持って化けた妖。
もともとは、ただの猫やった。

縁あって、花街の女将さんに拾われて、よおして貰った恩返しに、思て。
変化を覚えたうちは、身の上隠してそこの花魁になりました。
ははっ、酒を注がれて謝られたのは初めてだ。(肩を揺らして笑えば、合わせるように盃が揺れる)
困らせられたなんて思っちゃいねぇよ。気を遣った訳でもねぇ。
ただ……まあ、何だ……

 (ふいと顔を逸らし、誤魔化すように酒を一口。「美味い」と呟く頬が微かに赤い)

聞き上手なやつは話し上手、とも言うだろ?
現に俺は好きだぜ、嬢ちゃんの話。話し方も、声も――そこに本当のお前さんが見える気がしてよ。

 (先の仕返しとばかりに、言い回しを真似る。
  意地悪な口調に反して穏やかな笑みのまま、再び耳を傾け始めた)
伝えたい思たときに、言わんと、後から後悔するよって。
こういうんは、そう…言うとかんとっていう、うちの信条。
今日元気やった人が、次の日にはおらへん…そんな日ぃがよおけあった。

(少し照れた顔に気づかない振りをして、空になった酒器に視線を落として。
 朱い爪先でそのふちをなぞる――…)

…そやって日々、過ごして来たとこやったのに。
でも…少しの寂しさはあるものの、これも運命なら、仕方あらへん。
長々喋ってしもたけど、誰かに話せて…少し安心しました。
この店の居心地のええ雰囲気と、旦那はんのおかげやろか。
そっちの方こそ、聞き上手やわ…もう一杯貰えますやろか?

(空の器を大事そうに手を添えながら、カウンター越しに催促を)

此処は…旦那はんのお店?
 (後悔、という言葉にそっと苦い表情を浮かべ)

一期一会、ってやつか……おっと、すまねぇな。

 (はたと我に返り、己がすっかり聞き入っていた事に気づく。
  慌ててボトルを手に取り、空になった器に酒を注ぎつつ)

ははっ、そう言って貰えるとは光栄だ。
とは言え、俺は何もしちゃいねぇが……こんなおっさんでも、嬢ちゃんを安心させられたってのは嬉しいモンだ。

うちの店主も喜ぶ――……あぁいや、ここは俺の店じゃねぇ。
俺は、店を手伝う代わりに住まわせてもらってる……いわゆる、居候ってやつさね。
(少し曇った顔と声、今度は少しだけ触れても─…)

何か…心当たりがおありやろか?…いや、そんな気ぃしただけ。
無理に聞かへん…誰やって、ひとつやふたつ、抱えとるもんや。
…ただ、誰かに話して楽になることもあるよって。

(相手に無理に触れはしない、触れてはいけない場所があるのを知っているから)

…ん、おおきに。(零さないように口元へ運び、ゆっくり口を付けて)

…仕方あらへんとは言え、見ず知らずの場所…心細かった時も。
安心するんは、この家屋の作りが、向こうの世界に居てた場所に似とるから…。
そんなことあらへん、一緒に盃交わしてくれる相手がおるだけで、ありがたいんよ。

てっきり、店主さんやと思てた…居候やと思われへんくらい。
そこで…居候さん、お願いが…せっかくやで、あっちで月見酒したらあかん?

(何かを思いついたように、縁側を指さしながら尋ねた)
……。あぁ……ま、この歳になりゃぁ、それなりにな。
つっても、大した話じゃねぇさ。

 (ぎこちなく笑うと、逡巡するように視線を僅かに逸らして)

造りが似てる……そういや、前に来た客も似たようなことを言ってたか。
遠くから来た旅人のやつらが、そうやってちっとでも心の支えにしてくれてるって知ったら、ここを(ふと天井を仰ぎ)建てたやつも嬉しいと思うぜ。
……それに、俺もな。これくらいでよけりゃぁ、いつでも付き合わせてくれや。

 (再び戻した視線に、既に翳りはなく。
  ニッと気さくな笑みを浮かべると、盃に残った酒を飲み干した)

おいおい、俺が店主だったら今頃潰れちまってるぜ? この店。
そう思われるくらいでかい顔してるのは否定しねぇが――……ん?(からからと笑いながら、指差す先に視線をやって)

あっちって言うと……縁側か。
もちろん構わねぇよ。なら、敷くモンを持って行かねぇとな……っと、暫く縁側使うぜ、旦那。

 (店の奥へと短く告げ、カウンターから出てくる。
  座敷の脇に積まれた座布団を一枚手に取ると、縁側へと向かい、それをそっと敷いた)
…ならええんです、つい…人さまの目ぇの奥、覗こうとしてしもて。
うちの悪いとこや…堪忍しておくんなし。(椅子に腰掛けたまま、小さく頭を下げた)

異世界に一人、誰やって故郷を思わずにおられへん。
違う世界やけど、どこか懐かしゅうてあったかい…心の支え…か、確かに。

…言われてみれば、それも…そやろか(つられて、口に手を当てながらクスクス笑う)

(縁側に出て見れば、白銀の月─…それに照らされて煌く水面。
 月夜の静寂、繰り返す波音、夜風が酒で火照った身体を冷ましていく)

──…綺麗やわ。

窓越しもええんやけど…こやって見たかった。
うちのおったところは、海があらへんかったから…。
こうして海を眺めるんは、こっちへ来てからが初めてなんよ。

…旦那は、見たとこ海種の人…やっぱり、海は好きやの?

(しばし立ったまま月を眺め、視線はそのままに問いかけた)
 (再び店内に戻り、頭を下げる様子にカウンター越しに軽く手を振る)

いや、お前さんが謝る事じゃねぇさ。だから頭なんて下げんでくれや。
そうやって笑った顔のが好きだぜ、おっさんは。

 (苦笑混じりに、先の酒を乳白色の徳利へと注ぎ移して。
  揃いの盃と共に小さな盆に乗せると、それを器用に片手のひらで支えながらまた縁側へ)

ほれ、月見酒ならこっちの方が風情が出るだろ。

 (蜻蛉の側へ静かにそれを置き、自分は隣に腰を下ろすと胡座をかいた)

海がねぇ場所か……なら、最初に海を見たときは驚いたんじゃねぇかい?
いつだったか、「でっかい水たまり」なんて言ったやつもいたくらいだ。(懐かしむように目を細めて)

俺は……そうさな、生まれ育った場所だからよ。
好きでもあり、怖くもあり……ってとこかね。

 (曖昧な、はぐらかすような言葉。
  懐から取り出した煙管の先端で、何かを考えるように掌をとんとんと叩きながら、
  少しの間の後)

……お前さんは……取り返しのつかねぇ失敗を、やっちまったことはあるかい?
(そっと置かれた心遣いに目線を落とし、足を崩した形でゆっくりと腰を下ろす。
 月灯りに照らされた長い黒髪、邪魔にならないよう片側に寄せ、肩へと流した──…)

ん、ほんに。趣きがあって…綺麗やわ。それに…二つ並んで可愛らし。
こんな事言うたら、怒らはるかもやけど…人は見た目に寄らんのやなぁ…て。

(ほんの冗談や…と、からかうように笑いながら、盃を大事そうに口もとへと運ぶ)

水たまり…ほんま大きな水たまりや。うちはそやなぁ…驚いたいうより…なんやろ。
見渡す限り一面の青色で…お空が落ちたんやないかて。
それに…どこか懐かしゅうて、吸い込まれてしまいそうな、そんな風に思た。

好きは分かる…けど、怖いて。

(盃を一旦盆へと戻す。
 崩していた膝を片方立て、隣りの顔を覗くように頬杖をついた。
 カウンター越しには分からなかった、煙草の香りが距離の近さを教える─)

……取返しの…つかへんこと…?

(瞬間、その場の空気が変わる。顔を上げ、唐突な質問に首を傾げた。
 しばしの間思考を巡らせ、紡いだ言葉)

…そやねぇ、ひとつだけ。忘れとおても、忘れられへん事やったら。
旦那…どないしたん?
ははっ、怒ったりしねぇよ。よく言われるんでな。

 (気に入った様子に、どこかほっとしたように穏やかに笑む。
  もう一度、ぱしり、と煙管で掌を叩いてから、再び暗い水面へと視線をやった)

空が落ちた、か……いいねぇ、そっちの例えのがずっといい。
水たまりなんて言ったやつに聞かせてやりてぇくらいだ。(関心したように笑って)
昔聞いた話じゃ、一番最初の命は海から生まれたらしいからよ、嬢ちゃんのその「懐かしい」ってのはそれからくるモンかもしれねぇな。

ほら、よく言うだろ。「全ての命は海から生まれ、やがて海に還る」、ってよ。
海は大らかで、かと思えば何もかも呑み込んじまう大食らいで……だから……

 (怖ぇのさ、と、風の音に近く呟いて。
  覗き込む気配に、ほんの少し視線を隣へ)

忘れたくても、忘れられねぇ……あぁ、そうだな。確かにそうだ。

 (蜻蛉の問いにすぐには答えず、自嘲的な笑みを口端に浮かべる。
  そのまましばし、 手の中で煙管を遊ばせながら──不意に、口を開いた)

……この暗い海の……更に暗い、光の届かねぇ底に……俺の大事なやつが沈んでる。
──……そう言ったら、お前さんは信じるかい?
(視線を逸らされた事に気づいて、それとなく瞼を伏せる。)
(─…続く沈黙、月灯りの下、隣りに座る男の言葉を待ちながら。
 …僅かに開いた瞳、ぼんやりと自分の足先の朱が目に入った)

…旦那の大事な…お人。

(ポツリと零しながら、きゅっと膝を抱える。
 聞きたかった話のはず…なのに、何故か、少しの不安を覚えて)

……旦那の目ぇは、嘘ついとるようには…見えへん。
……信じるも、何も…………。

(どう言葉を返していいのか分からず、紅い唇に指を当てる。
 少しの空白の後、白銀の月を見上げながら、ゆっくりと言葉を返した)

…うちは、もう此処へ来ることは、ないかもしれへん…。
…旦那に、逢う事もないかもしれん…一期一会、……これも何かのご縁。
何があったか聞いてもええ?……辛い事、思い出させてしまうかもしれんけど…。

(──…それは、波立っていた自分の心を落ち着かせるように。
 相手の記憶の水底に触れる、覚悟を持って)
何だ、うちのお得意さんになっちゃくれねぇのかい?
ま、確かに、こんなおっさんの顔なら見飽きて当ぜ――

 (蜻蛉の言葉を、思わずいつものように茶化しかけて。
  月を見上げるその横顔に、はた、と途中で呑み込んだ)

……あぁ、いや……そうさな。嬢ちゃんは月から来たんだった。
こうして話せるのは、夜の間だけ。朝が来れば……忘れちまうんだ。ここであったことは、何もかも。(どこか自分に言い聞かせるように呟き)

なら……酒の肴に聞いてくれや。
……と言っても、そう面白いモンじゃねぇが……ある馬鹿な男の、馬鹿な話をよ。
 (煙管を吹かすと、長い息と共に煙を吐き出して)

昔……俺がまだ「おっさん」じゃなかったくらい昔。
そこの(月明かりに浮かぶ砂浜を煙管の先で示して)浜で、海を眺めてる嬢ちゃんに会ったんだ。

歳は、その頃の俺より少し……いや、あの耳はハーモニアだったから、正確にはもっと年上だったのかもしれねぇが。
生まれたばかりの赤ん坊を抱いててな。
寂しそうな顔で海を見てるモンだから、入水でもする気じゃねぇかと思って……声を掛けたのが、確かきっかけだ。

 (その時の事を思い出したのか、自然と口元に穏やかな笑みが浮かぶ)

聞けば、夫に先立たれて、心の静養を兼ねて海洋に来たって話でな。
まだ若い嬢ちゃんが、子供一人育てながらってのは大変だろうと、何かと世話を焼くようになったのさ。
安くて品のいい店を教えたり、偶の息抜きに連れ出したり……最初は、軽いお節介のつもりだった。

だがまぁ、何だ……長く一緒にいると、どうしたって情が湧く。(「だろ?」と、同意を求めるように付け足して)
俺も例外じゃなく、気づけばすっかりその嬢ちゃんに……何というか、あれだ、ほら……恋、みてぇなモンを……。

 (呟きは、波の音に紛れそうなほど小さく。
  落ち着かなげに髪を片手でぐしゃりとやって――蜻蛉の表情をちらと伺った)
…こっち来てから、色んなとこふらふら、決まったお店に通う事なんてあらへんかった。
どないしよ…天の神様に聞いてみんと、わからん。

(くすりと天邪鬼に笑うと、そのまま話に耳を傾けて。
 迷い、躊躇い…臆病、色んなものが入り混じった、そんな声色に)

そや、一夜限り。朝には消えてのおなる、あのお月さんみたいに。
うちが聞きたい言うたんよ、どんな話でも……。

(それは好奇心か、ただの気まぐれか…それとも、月夜がそうさせたのか)
旦那が若い頃の話…やね。
ハーモニア…ああ、こっちの耳の長い純種さん。
水のあるとこで赤ん坊抱いとったら、普通…そう思てしもてもしょうがない。

(優しくなる表情、彼にとっての幸せな記憶。自分も目を細めながら、話しの続きを聞く)

…まぁ……未亡人。世話やく姿が目に浮かびます、あれやこれやて。
旦那、面倒見良さそうやし、困った子おったらほっとけん人、初めて逢うたうちでもそう思う。
きっとその人も、旦那がおってくれて良かったんやないやろか。

そりゃ、一緒に長い事おったら…無理もない。
…立派な恋、や。(小さな呟きを可愛らしく思いつつ、改めて言い直して)
自然な流れ、男と女、そうならん方がおかしい。

(煙管を懐から取り出して、灯を入れる。
 愛おしむように赤いそれを撫でながら、甘い香りの混じった煙をふぅーっと吐く)

……ほんで、続きは?(こてりと小さく首を傾げては、話の続きを待った)
……どうだろうな。下心あっての面倒見の良さ、かもしれないぜ?

 (照れ臭さを誤魔化すようにか、肩を竦めつつわざと捻くれた物言いで)

ま……とはいえ、伝える気はなかった。少なくとも、その時は。
寂しさに付け込むみたいだったってのもあるが……言わねぇでもわかってくれてるって、自惚れてたのさ。
なら、わざわざ言葉にするのはむしろ野暮ってモンだ――……なんてかっこつけてたが、今思えば、言ってフラれるのが怖かったんだろうぜ。(自分の言葉に自分で笑う)
そうやって自惚れたまま、時が流れて……俺の背が嬢ちゃんを追い越した頃だ。
連れてた赤ん坊も、一人で勝手に歩き回るようになって……あぁ、そうだ、丁度目を離せねぇ時期だって知っていたのに……。

 (視線は暗い水面へ、その奥底まで見透そうとするかのように遠く。
  知らず、声も低く、後悔の色が滲み始めていた)

……あの日も、いつものように浜で話してた。俺のくだらん冗談に、嬢ちゃんは楽しそうに笑ったりしてよ。
ほんの一瞬……本当に、ほんの一瞬だ。二人してちっと目を離した隙に、子供の姿は見当たらなくなってた。

「かくれんぼでも始めたのか」、なんて馬鹿なことを言いながら探して、探して――
――……見つけたのは……波間に浮かぶ、小さな身体だった。

 (ぐ、とこみ上げる何かを喉で堪える。視線を外すと、かぶりを振って)

子供は……助からなかった。
嬢ちゃんの悲鳴が聞こえてすぐ、俺は飛び込んで助けに行った。……だが、その時にはもう手遅れだった。

 (膝の上に投げ出した両腕。無意識に、何かを抱き上げる形を取っていて。
  何もないのに。誰もいないのに。……重さを感じるかのように、指先だけをのろく動かす)

……嬢ちゃんは泣いた。冷たくなった子供を抱き締めて、喉が裂けるんじゃねぇかってくらい叫んでた。
俺は……ただそれを、黙って見てた。

……その時まで、俺はすっかり忘れてたんだ。
俺達海種にとっては、海は優しく穏やかでも――……他のやつらには、そうじゃねぇってことを。
下心のない殿方なんて、見た事あらへんわ…。
うちの周りには、そういう人が多かっただけかもしれんけど。
…また…そやって隠さんでも。旦那は、そういう事出来ん人や。

(今までの経験と雰囲気、どことなく察しはつく。この人はそういう事が出来ない人──
 確信はなくとも、そう思わされる何かがある、そんな気がして)

言わんでも分かる……か、男はそう思うやろけど、おなごは違う。
言の葉にして、身体で示して欲しいもんや。…そやって伝えんと分からん事やって。
──…誰やって、傷つくんは怖い。

(紅い唇で白い煙をひと息吐くと、物憂げな表情を浮かべる。
 その目線は遠く──…海面に煌く月の光を瞳に映して)
子供は、大きゅうなって動けるようになる分…それだけ危ないことも増える…。

(「歩き回るように…」嫌な予感がした。途端、話していた声色が変わる
 恐る恐る…その横顔を見ると、遠くを見る悲し気な碧の瞳がそこにあった。
 心が何処かに行ってしまったような…そんな影を背に漂わせて)

………旦那。

(それだけ呟くと、持っていた煙管を下に置いて、かける言葉も見つからず。
 唯……逃げる事はなく、十夜から視線を外す事もなく、そこに在った)
(女はその時初めて、話を聞き出そうとした事を悔やみ、己の唇を強く噛んだ)
(それでも、聞かなければ。真を知らねば、この人の過去を)

自然は恵みも与える、でも………時として奪いもする。
…話を聞いとるだけで、その声が今も、聞こえて来そうや……どんなに辛かったやろ。
自分を責めて、責めて、責めて………。

(静かだった波音が、急に騒めいて聞こえて。それは誰かの代わりに、泣いているように─)
伝えないと分からない、か……。
……そう、だな。あん時、変にかっこつけずに伝えてりゃぁ……何か、変わってたのかもしれねぇな。

 (自嘲めいた、力のない笑み。
  口端に上らせたまま、呼ぶ声にふと隣を見やれば、唇を噛む蜻蛉の姿が目に入って)

…………っと……悪いな、変な話聞かせちまってよ。
おっさんのこんな面白くもねぇ話なんて、水に――いや、酒に流して忘れてくれや。な?

 (そんな顔をさせたかった訳じゃねぇんだ。と、申し訳なさそうにへらりと笑う)

 (笑うのには慣れた。笑えない出来事を、笑ってごまかすのには慣れた。筈だった。
  それでも、一度手繰り寄せた記憶の波は容易くひいてはくれなくて。
  減った酒を注ぎ足そうと徳利を傾ける手。押し寄せる後悔に震えて、うまく動かせない)
(…震える手。見かねて、その上からそっと自分の手を添えようと)

……大丈夫、うちが注ぐよって、その徳利…此処へ置きや?
変な話やない…面白い話して欲しかったわけでもないんよ……。

(暗い海の底に沈んでいるのは…貴方自身。
 口を開いて、やや躊躇った言葉の先…慰めにもならないのは分かっている…けれど)

他人がどうこう言うて、変わるもんやない…決して分かるものでもあらへん。
一生消えへん…ここでうちが、何か言うて救えるもんやない。
その人やないと、ほんまの痛みなんて分からへん………それでも…──

──…昔の話をする旦那の顔は、ええ顔しとった…それだけはうちにも、分かる。
……今でも、愛してはる。
そして…そんな自分を…許せずにずっと責めて生きて来た…この海の傍で。
辛い時は辛い…そう言うたらええ、そんな風に笑わんで。

(目を伏せながら、首をゆっくり横に振る。
 そんな悲しそうに笑わないで、聞いたのは自分なのだから…貴方の所為じゃない)
っ……(添えられた手の温もりに導かれるように、言われるまま徳利をゆっくりと置く。視線、自然と手に落として)

…………違うんだ。(唇を微かに動かして、言葉を紡ぐ)
愛、とか……そんな、綺麗な想いじゃねぇんだ。……言ったろ、「馬鹿な話」だって。

(緩く頭を振る。笑わないでと言われても、わからない。
 ……今、自分が、どんな顔をしているのか)

俺は……あの時、逃げたんだ。
さっきまで這い回っていた子供が動かねぇのも、さっきまで笑っていた嬢ちゃんが泣いてるのも……受け入れられなかった。タチの悪い夢だと思った。
何を言やぁいいのかも思いつかねぇ。いっそ罵ってくれりゃぁ楽だったのに。

だから――……馬鹿な俺は、その場から逃げ出しちまった。
自分から手を差し伸べたくせに、肝心な時は見えねぇふりをしようとしたのさ。(酷い男だろ?と自嘲して)

……走って、走って……走り続けて、やっとそこで、自分が何をしでかしたか気づいた。
急いで戻って、謝ろうと思った。出会った頃みてぇに、側で支えてやろうと思った。
……最初から、そうすべきだった。――……あぁそうだ、俺はいつだって、何をやるにも遅すぎる。

(何かを堪えるようにか、無意識に、蜻蛉の手を一度だけ強く握ろうとし)

戻った俺の目の前で……嬢ちゃんは、動かなくなった子供を抱いて――海に身を投げたんだ。

(静寂に近く放った言葉が、夜の空気によく響く。
 自分の声なのに、どこか他人事のように聞こえる気がした)
……その後の事は……今でもはっきり覚えてる。

 (言葉が、零れる。後悔が、懺悔が、罪が、想いが)

飛び込んで、引き上げようとした嬢ちゃんの身体が、子供を抱いてるとはいえやけに重くて……それでも、俺なら助けられた。
…………助けられる、筈だったんだ。

 (こみ上げる感情の渦に、呑み込まれるような不安感。不快感。
  思わず手の温もりに縋りかけて――それでも、他ならぬ己自信がそれを許さない。
  ……なぜならば)

気づいたら――……首を絞めてた。

 (そう告げる自分自身が首を絞められているかのように、細い息を吐き出して)

水に沈めたまま、細い首に力を込めて……口から零れる泡を、ただ見つめて。
……そうしたら……嬢ちゃんと、目が合ったんだ。唇を動かして……「どうして」……あぁそうだ、「どうして」って……。

その途端、俺は我に返って――急に怖くなって、手を離して逃げだした。結局、また逃げちまったんだ。
……戻らねぇまま、あの日から、ずっと逃げてる。……今も。

 (どうして。どうして。どうして。
  延々とそう問い掛けてくる波の音に、首を垂れるように深く俯いた)
そやね………馬鹿な話や、臆病ものの可哀想な話。

(返って来た弱々しい言葉。残念そうに少しの皮肉を混ぜながら)

罵って、怒って、責めてくれたら楽?…そんな甘い事考えてる場合やなかったやろに。
……一人残されて……一番傍におらんとあかんときやないの…。
一緒に、痛みを、悲しみを…抱きしめて欲しい時やったろうに…。

(自嘲の問いには、返さず無言でそのまま話に耳を傾ける)

…怖かったんね、目の前の事が……そや、失ってみんと分からん。
失のうて、初めてその大事さに気ぃつくんよ…。
でも、その時じゃ遅すぎるんよ…遅すぎる。

("遅すぎる"その最後の一言は、まるで自分に言い聞かせるように、ぽつりと)
(添えた手、握られるのをそのまま払う事もせず。
 その手から伝わる感情を受け止めるように、呼応するように握り返して)

……そう…海に。

(最初から…事の顛末は予想出来ていた。それでも、当たらないで欲しい
 そう思いながら…思いは届かない事が多い、いつも)
(月に照らされて、綺麗だった海。表情を変え、仄暗く…その闇に飲み込まれそうに感じる)
……何でそんな事してしもたの……?どうして…。

(記憶の中の彼女と同じ台詞、否──…自然と発せられた言葉)

助けようとしたのに…その子が生きて、その子に責められるんが怖かった?
逃げた事を…助けられんかった事、どうして。

(握られていた手を離して、そっと十夜の首に触れようとする)

……そんなに辛いんやったら、自分も死んでしもたら良かったのに。
それとも、死ぬのも怖いん?沈んでるんやったら、逢いに行ってあげればええのに。

(もう片方の手を添えて、首を絞める寸での所で止めて)

───ねぇ、旦那。旦那は生きとる。
この脈が、ぬくもりが、吐息が…生きとる証拠や。
きっと…生きてるなら、生かされとるなら、その意味はあるんよ。
死ぬことも出来たやろに、こやって生きとる言う事は、まだ償う時間はある言う事や。
…落とし前つけんとあかん日が絶対来る、その時、どうするか……。
あの日ぃと同じ過ちを繰り返すんか、それを取り返すんか…全部は、旦那次第や。

(首にかけた手、そっとその手を離して。
 今度は、海風に冷やされた頬に、そっと触れようとして)

その時にまた…逃げようとしたら、今度はうちが殺めてあげる。

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