シナリオ詳細
Day Dream A Little Break
オープニング
●何の変哲も無い『9/24』
今から少し時間は遡る――
九月下旬、二十三日。折からの猛暑も嘘のように消え失せ、やたらに太く短かった盛夏が駆け足で過ぎ去った頃。ローレットで顔を合わせた『蒼剣』レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)はやぶからぼうにこう言った。
――サボりたい――
「……今、何て?」
「いや、だから全力を以てサボりたい。全ての業務(デスクワーク)を放り出して、酒とおねえちゃんに溺れたい。いや、そこまで望まんにせよ、一日位何もしたくない」
まぁ、それは何とも人間的原初の欲求に根ざしたストレートなご要望である。
口では大概に不良マスターだが、何だかんだでワーカーホリックの気の否めない彼がそう言うのだから当然そこには理由があった。イレギュラーズは程無くそれに思い当たり、「まぁ、ねぇ」と苦笑い混じりで彼に相槌を打った。
「誕生日だからねえ」
「そう。数を数えても嬉しくないイベントに成り下がったのは随分前の話だがね。
それはそれとしても、サボる大義名分にはもってこいだろ?」
ユリーカ(うるさいの)も明日ばかりは文句を言うまい、とレオン。
「ま、疲れてんならたっぷり惰眠でもおねえちゃんでも貪ってくれ。
そのアテがあるかは知らないが」
「そこだよ、諸君」
肩を竦めたイレギュラーズにレオンはしたり顔で言う。
「如何せん、忙し過ぎてこの所、馴染みの酒場にもいけてなかったからな。
お姫様もおかんむりで――まぁ、それはいいけど。兎に角、今日の明日で構ってくれそうな奴は多くないよな。うん、このローレットに山程たむろする君達以外は!」
「……その展開ね」
「そう、その展開だ。この展開ついでにもう準備もしてるんだよな。
俺の俺による俺の為のおサボり会――浅き夢見し、我が理想郷よ。
つまる所、温泉オフという訳だ。被ってるけど不良マスターだから知りません」
「ははあ、それに付き合えと。大人数で平気なのか?」
「伊達や酔狂で大手ギルド運営してる訳じゃねーのよ。
秋の味覚、温泉に酒、惰眠。あと出来ればおねえちゃん。
こっちの準備は万端で、最初から手筈は完璧よ。俺は俺を断固として祝うのです」
つまり、そういうお誘いという訳である。
良く良く見ればこのレオン、前日からもう仕事をする心算は無いらしく、手にした小瓶で昼間からアルコールをかっくらっている。
――疲れてるんだろうなあ――
駄目な大人を甘やかしてやるのも仕事の内……内なのか。
イレギュラーズの問いに答えは返らないが、どうするかは貴方次第。
過ぎ去りし九月の日、何の変哲もないその日に一体貴方はどうしたか――?
- Day Dream A Little Break完了
- GM名YAMIDEITEI
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2018年10月19日 21時20分
- 参加人数67/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 67 人
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参加者一覧(67人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●毎度恒例
――それは、地中からわき出す温水。
鉱水および水蒸気などで、セ氏二五度以上の温度、または一定の物質を有するもの。また、それを利用した浴場のある一帯。いでゆ。
……何が毎度なのかは遠大な謎として。
兎にも角にも温泉である。疲労回復にも腰痛にも効能が認められるとされるその場所に、九月の或る日にイレギュラーズ達が訪れたのは必然とも言える出来事だった。
「いやあ、いいねえ。最高だ。美味い酒に肴、気のおけない仲間達! 綺麗なお姉ちゃん!
難儀な家業(ギルドマスター)も報われる、最高の瞬間っていう訳だ!」
この酷く上機嫌な男――レオン・ドナーツ・バルトロメイこそこの日の主役(?)であり、今日の仕掛け人その人である。
「えひひひ、レオンさんも悪い人です。誕生日なのはおめでたいですがちょいと気合い入れすぎでは? これが職権乱用と言うものでしょうか」
彼は独特の笑みを口元に貼り付けたエマにレオンは「公私混同は権力者の義務だろう?」と堪えぬ顔である。
「温泉旅館を貸し切りとは、流石ローレットの旦那はやる事が違うねぇ
丁度俺もここのところ腰痛がひどくて、夜も眠れなかった事だ、後で満喫させてもらうとして――」
呆れたように、そして感心したようにも縁が言う。
贈り物に、と特別の一本――『人魚の涙』を持ち込んだ彼は「……というか、混浴の要望を出したのは……」と言いかけてそれも野暮かと肩を竦めた。
「前日の告知では碌な準備も出来ませんが、これでもよろしければどうぞ」
「いいねぇ、早速捌いて貰うとするか」
「ローレットの顔役が倒れると、私の『安定した経歴』にも傷がつきますからね」
フロウの言葉は幾らか冗句めいてもいたが、実際の所、本当の事だったりもする。
「オーナー(レオン)はいつも業務に追われているので、たまにはサボってダラダラしたいこともありますよね
今日はお酌にお給仕、身の回りの事はお任せ下さい! 私は――メイドですから!
あ、そうだ。仕事ぶりが気に入ったらローレットにお手伝いで雇ってもいいんですよ!」
副業とは言え、そこには確かなプライドがあるのだろう。シズカの提案はレオンにとっては望むべくもないものである。
願わくば彼女があと幾つか歳を取っていたなら、尚更良かったのかも知れないが――
「人魚の涙に、近海の魚に――メイドさん。楽しみが増えたね!」
酒に肴、ついでに言うなら『おねえちゃん』が増えた事はレオンにとってこの上ない朗報らしい。
「流石ローレット、いい宿貸切ったもんだねぇ」
『こちらとしてもありがたい限りだな』
「さてと、ちょうどいいし厨房でも借りるとするかねぇ」
『自由にと言わないが様々な食材は扱えそうだな』
ついでに言えば、アワリティアとブラキウム――厨房の戦力も今この場で増えたようだ。
今回の全ての発端はこの不良マスターが自身の誕生日にかこつけてイレギュラーズ達を巻き込んだ事に由来する。公然とサボりを口にした彼は異様な程の根回しの良さとバイタリティであっという間にこの日を作り上げたという訳だ。
かくて都合六十七人にも及ぶイレギュラーズとギルド関係者は幻想には不似合いな『オンセンリョカン』に集められ――
「では、乾杯!」
――その一部はレオンの掛け声で始まった大宴会に付き合わされる事となった次第である。
「ヒャッハー!おサボり会だー! ボクはサボタージュの泰斗だぜー!」
……とは言え、今回の集まりは名目上こそレオンの誕生祝いだが、参加動機は様々だ。クロジンデの場合、唯のおサボり会の側面が強い。
「上司がサボってるのならボクもサボってて問題ないよねー。こういうところでサボって無いとオーバーワークで倒れちゃうよー」
彼女は実際の所、イレギュラーズとしてもローレットの受付嬢としても大分働いている方だ。
捻くれているというか強かであるというか……
「えー、オーナーの誕生日祝いー? 本人がもう年を取ることを喜べる歳じゃないって言ってるんだしいらないだろー。
まー、ボクは幻想種だからあと100年は誕生日が来たら祝いを催促してゆく所存だけどねー」
……等と嘯く彼女は実にらしさを発揮しているとも言えるのだが、大体こういうのは後で頭をグリグリされるものと相場が決まっている。うん。
そんなクロジンデも居れば、割と真っ当にレオンを祝いに来た連中も居る。
その代表格が【SBDP】の面々と言えるだろう。
「まったく、さぼって……なんて今日くらいは良いでしょう。全力で祝って魅せて楽しませてみせますとも♪」
何処か蠱惑的に色っぽく――微笑んで『甘やかす』弥恵は恐らくレオンが望む理想の一つと言えるだろう。
「ぶっちゃけた話、飲みに来たのです!
一緒に御祝い事の類が出来るなら、それはなお酔い……もとい、良いことなのです!
秘蔵のお酒も持ってきたので、満足行くまで飲むのです!」
やや本音が駄々漏れているクーアだが、とっておきを持ち込んでいる位である。
少なからず祝う気持ちはあるのだろう、呑みたいだけで。
「直接ではないが日頃から世話になっているしな」
「レオン様の誕生日とあらば、腕を振るわないわけにはいかないな!」
「うん」
リゲルとポテト、
「パパとママとチキンを作ったんだ!」
ノーラを加えた三人は今日の宴会に一つの彩りを添えていた。
買って貰ったばかりの子供用の包丁を握って真剣な顔をするノーラを見守るポテトとリゲルは何とも幸せな風景を作っていた。
『家族』の協力で出来上がった立派な一皿は添えられた野菜の彩りの美しい、何とも美味しそうなローストチキンだった。
「……レオン様がいなければ夜乃様に出会うこともなかったですメェ……
……だから、心を込めてケーキを作りましたメェ……」
ムーの作ったケーキはギフト(味覚テレパス)に保証された『レオンの好み』である。
甘みを抑えたコクのあるそれは彼に似合いの大人の味である。用意された二つの数字は彼の年齢を現す童心めいたアクセントと言える。
「……いや、実際の所ありがとうよ。そんなにしてくれると思っちゃいなかったんだが」
気恥ずかしそうに言うレオンは宴会場の奥の小さなステージに登壇する面々を眺めていた。
【SBDP】は料理の仕込みから贈り物、それに出し物まで中々余念がないらしい。
「THE奇術ショー!」
部屋の照明がすっと落ち、朗々とした声が響けば奇跡が始まる。
「まずはレオン様の私物が?」
瞬間記憶で覚えた情報を幻は忘れない。胡蝶の夢が紡ぐのは彼の愛用の鎧(※今日は浴衣である)であり、青いぱんつである。
「さぁ皆レオンを祝おう……宴の始まりだ……!」
「オマエ等なあ!」
誕生日の宴会の余興には十分な――十分過ぎると言える位の『本格派』は言わずと知れた幻の仕事である。
それを合図にしたかのようにヴァイオリンの音色を揺蕩わせたのはヨタカである。
特別な日には特別な餞を――何ともサービス精神の旺盛な仲間達なのであった。
「誕生日おめでとう。この歳になると体が精神に反抗してきやがる。腰は痛くなるわ、目も霞んでくる。
だからこそさ! まだ、若い奴らに負けられねえという意地を見せて欲しい――そんな訳だ」
十分な受けを取った幻やヨタカに連携するように歩み寄ったジェイクがレオンに新たな一杯を注いだ。
旅一座の舞台を今日はこの場に選んだ面々の息の合った調子には、まったくブレもそつもない。
「では、次の演目を!」
如才なく場を仕切る幻の声に応じたのは、結構な数のイレギュラーズ達だった。
「今日は月がとても綺麗な日だね。
静かな場所でお月見するのもいいけど、今日は団長さんの誕生日って聞いたから――
いつもの感謝の気持ちを込めてみんなで楽しくお祝いしたいなって」
まさに月光のように淡く笑むのは久遠。
「おじさんハッピーバースデー!ヾ(≧▽≦)ノ
おたんじょうびって、とってもたのしいよね!
だからもっともりあげて、もっともっとたのしくしよう!(>ヮ<)」
Q.U.U.A.が楽しげにそう言えば、ドリームシアターが幻影のミラーボールを和風旅館に輝かせた。
「誰がおじさんだ、誰が」と応じるレオンも満更ではないらしい。
何が始まるのかと注目してみてみれば――
「さあ、みんなと合わせて歌うのである!」
――仁王立ちするのは生徒会長。
「伴奏は任せといてね」
虚之香は笛での演奏を得意としている。
「あ、そこよろしく」
ちなみに手伝いは『山口さん』である。
「……いっぱい、歌うよ!
誕生日だから明るい歌を、たくさん……!
悲しい歌は、いらない……とにかく、たくさん、たくさん、たくさん、歌うよ……!」
――真剣な顔のニミッツの声と共に面々は素直な祝福を歌い出す。
美しく『奏でる』のはLumiliaとリジアの二人も同じ。
「いつもありがとうございます。レオンさん。ふふ。望む美人な女性には程遠いのはお見逃し下さい。
本日を堪能させていただいたお礼も兼ねて、生誕のお祝いをいたしましょう?」
「今回の依頼はレオンからだったか。サボりたいから出した依頼。
……矛盾している。依頼は仕事で、サボるために仕事をする……わからない。ルミリアは分かっているようだ。ならばいい。
それで、その……なんだ。要は、生誕の祝いに歌を歌う……ということだ。ありがたく受け取るが良い」
――――♪
Lumiliaの流麗なフルートにリジアの透明な声が乗った。
「真っ直ぐ来るね、オマエ達」
「ええ、勿論。今宵今晩、貴方の祝い彩る月の舞。どうぞ楽しんでくださいませ♪
こんなに祝われると気恥ずかしいでしょうけど、貴方が主役となって舞姫がもてなし祝う役得は今日ぐらいですよ♪」
歌と舞踏は弥恵(まいひめ)の本領発揮だ。
彼女は魅られる程に美しく、魅せられる程に輝きを増し、何と言っても魅られたがる――何とも困った娘さんなのである。
「ハッピーバースデー! レオン殿!
うむうむ、今年でさんじゅうろく? なな? であったっけ? 若いであるなぁ。
同じ位の頃、吾は生徒会長ではなく、ミッション系(傭兵業)であったかな」
所謂女学生の『ミッション系』を全力で破壊する百合子の声に小鳥が窓の外で同じ囀りを見せていた。
百合子の歌は(可愛い感じに)調子っ外れで、(敢えて記載するならば)概ね歌詞は全力で平仮名な感じであったが、順調にレベルは上がっているらしい。見ればむくつけき姿は何だかすっかり美少女風になっている。可愛いドーベルマンがもうパピヨンとかそんな感じじゃない。幾らモブ風とか言ったってさ、茂野さんでモブなんてなる訳ないよね。いやさ、どう見てもハイレベル。どう見ても美少女――閑話休題!
素晴らしいSBDP(ごうほう)は打ち鳴らされた。
呑めや騒げやの宴会はイレギュラーズの関わる場の大半がそうであるのと同じように早速無軌道で愉快なものになる。
「――――」
声も無くムシャムシャと、カラス的な食欲の割には礼儀正しく、でもムシャムシャと。
ナハトラーベが実に良く出来た旅館料理を楽しんでいる一方で、
「レオン、誕生日おめっとさん!」
「ボス―! レオン様! お誕生日おめでとうございまーす!」
元気の良い声を二つ、彼の席に歩み寄ったのはサンディとルチアーノの二人だった。
「まー、このギルド、上納金とか取らねえんだから良心的だよな。
こんだけ多いと単なる顔役ってだけでも諸々大変だろうが、それに加えて結構裏でも動いてるんだよな。よーやってるぜ」
「ボスが倒れたら、ローレットは壊滅するんだから。お体にお気をつけて、末永く生き永らえてくださいね!」
気安く労を労うサンディ。優男の顔立ちに微妙に物騒な言葉をチョイスするルチアーノはマフィア育ちが故だろうか。
「まぁ、さっきは歌もありがとよ」
歌の素直な祝福は捻くれたアラフォーには多少眩しかったらしく、レオンは酒を煽って軽く言う。
「お酒が好きと聞きました。私とも一杯お願いできますか?」
「『酒とおねえちゃんに溺れたい』なーんて言葉を聞いたら私の出番よねぇ。
なんていったって、私はお酒に溺れているおねーさん!
ということで、この際だからたっぷりレオンくんを甘やかしましょ~。
決して私も便乗してお酒を飲みたいわけじゃないわよぉ?」
久遠やアーリアの登場はレオンにとって渡りに船である。美人の言葉に一秒で相好を崩した彼だったが、世の中はそんなに甘くない。
「そうそう! 僕知ってます、こーいう場って目上の人に注ぎにいかないといけないんですよね。
たっぷり飲んでください、ゼシュテル産地直送高級オイル。いやぁこくがあって美味しいですよね!
レオンさんも飲んで飲んで! 日頃の疲れをいやしましょー!
あ、僕のはノンアルコールオイルですからだいじょーぶです! アルコールは二十歳になってからですよね!」
「そういうのが好きなんだろ、仕方ねぇなあ」と言わんばかりのあざといメイド服に身を包んだヨハン(性別行方不明)がそんなレオンに絡んでくる。
「ぼくのあぶらがのめないのか!!!」
「人間は油呑むように出来てねぇんだよ!」
「第一、夏も今回も僕の扱いがおかしいんですよ!!! 僕は! 芸人扱いか!!!」
扱いです。でもそういうの好きでしょう?
絡み酒ならぬ絡みオイルでメイド服から伸びる尻尾を掴まれた『酔っていない』ヨハンが猛烈な抗議をする。
「さすがマスターって言えばイイのかこの集られてる感じは? クハハッ!人気者は辛いねェ!」
メイド服のヨハンにサソリ固めをかけるレオンを眺めてBrigaが笑う。
「誕生日オメデトウ……せっかくの日だ、イイ気分で酔っぱらっちまえ! 足りなかったらまた今度呑もうぜ!」
ご禁制の酒を片手にした彼女とレオンがハイタッチする。ヨハンが「ぐええ」と潰れた蛙のような声を上げている。
そんなアレな状況を更に燃やすのが使命に燃えた恋だった。
(……あたしにはわかる。
これはただの誕生日会じゃない。恋活よ、きっと恋活も兼ねてるのよ。
というか年齢的にも、そっちが本命かも。そう! だったらあたしの出番よね!)
……と言う訳で。
「実際、マスターってどんな子が好みなの?
ていうか、もしかしてイレギュラーズの中に意中の人がいたりする?
みんな注目! 今からギルドマスターが好きな人を告白しまーす!
あ、しまった。もしあたしだったらどうしよう。結婚? そんな急になんて……OK!」
「どんな訳でどんな展開だよ!」
強烈な思い込みと自己完結で嵐のように結論を急ぐ恋である。何時もの事なのである。
彼女の強力な恋フィルターはありとあらゆる事象を恋のせいに変換する。
魔法少女的には何となくそれでいい気もするが、魔法少女にさしたる未練はない。本当にそれでいいのか――無限乃恋!
まぁ、これに関しては少し離れた所にいる華蓮が赤くなったり青くなったりしている方が愉快である。
「オマエ、何してるの?」
「あ、いえ。念のため、何かあっても旅館に迷惑が掛からないように保護結界をと……
客の立場でも、何かやってないと不安になるのは職業病でしょうか……」
生真面目に困ったような笑みを見せたミシュリーも居た。
「テテスも参加させてもらってるぞ。
レオンは誕生日おめでとう、そしてありがとう。
いやぁ、こんないいところに連れてきてくれるとはな――温泉もよかったぞ、うん」
何時もの車椅子から飛び降りたテテスの世話をミシュリーが焼いている。
「そりゃあ良かった。あと温泉は三回は入っとけよな」
何とも年かさの発言をするレオンはそんな微笑ましい光景を楽しげに眺めていた。
微笑ましい光景は微笑ましいのだが、当然その逆もある。
「レオンさん、お誕生日おめでとうございます!」
屈託なく元気よくお祝いを述べたのは九鬼である。
「お年よりも若く見えるので、たまにアラフォーだという事を忘れてしまいますね……
しかし、一生懸命考えてみたのですが……何でも手に入れれてしまいそうなレオンさんが喜びそうな事が思い浮かばず……!
とりあえずお祝いして、あとは直接何をしてほしいか聞いてみようかなと!」
「成る程」
「というわけで、何かして欲しい事とかありませんか?
何でもとは言いませんが……出来る限り頑張っちゃいます!
酔い潰れた後の介抱でも、私はお酒は飲めませんがお酌でもどーんと来いです!」
「じゃあ、混よ――」
本日の趣旨に従って碌でもない要求をしようとする駄目な大人の元にそこでレスト(※年長者)が顔を出した。
「レオンちゃんこんにちはぁ。
風の噂で聞いたのだけれど、どうやら腰痛で悩んでいるとか……
わかるわぁ……おばさんも重い物を持ち上げたりするとギクッと来る事があるものね~。
そ・こ・で! マスター思いの可愛い可愛いイレギュラーズがプレゼントに来たわぁ。
んふふ~、これをねんねする前に、腰に貼ってみて、ね?」
のんびりした口調で自身を『おばさん』と称するレストは幻想種である。
見た目はどう見てもレオンより若く、そんな言葉は全く似合わないのだが――世話焼きの雰囲気は確かに年上のそれも感じさせる調子であった。
「あー、案外マジで嬉しいかも」
「んふふ、マスターが肝心な時に、腰が……とか言っていたらイケてないものね」
「腰凝ってます? 指圧しましょうか? 下手だけど」
そんな二人のやり取りにルチアーノが顔を出し、レオンは「その情報(へた)要らねえだろ!」と律儀に突っ込む。
「そういえば、レオンさん。腰痛に悩んでるって話でしたね。
レオンさんさえ良ければ、僕がこう、いい感じに按摩をやってあげようかなって――
あ、心配しないで。僕の按摩の腕はおばあ様も太鼓判を押すくらいだから!」
津々流の方はどうも心配無さそうである。
イレギュラーズという連中は本当にどいつもこいつも変にキャラが立っている。
「このゼシュテルパンの缶詰はプレゼントです、形が残らない物が良いかと思いまして!
いつもお世話になっております、ローレットに来てから毎日が充実しています! これもギルドマスターレオン様のお陰です!
缶詰(これ)はほんの心ばかりのものですが、お納めください!」
「オマエね」
呆れたように呟くレオンは底に張り付いた金貨を眺めて苦笑する。
「ノータイムで袖の下に来るのどうなのよ?」
この灰を見れば分かる通り、それはそれは立っている。
「こちら、お邪魔してもよろしいですか?」
「いや、いいけどよ。何で微妙に離れてそう聞くのさ」
入れ替わり立ち替わり現れるイレギュラーズの相手をするレオンが今度尋ねたのはリーゼロッテおぜうさま曰くの「胡散臭い商社マン」――祝いの席にもパリッとしたスーツを着て現れた新田寛治その人だった。
「答えは明快。此処にいればレオン様に集まってくる美女を、特等席で眺める事ができるというものです。
その中には、今後是非ビジネスのお話をさせていただきたい方がいるかもしれません。
つまり、これもマーケティングというわけです」
「ははあ、仕事熱心だねえ」
「それ程でも。それにね、私とて、上役への礼儀と敬意くらいは持ち合わせていない訳ではないのです。
その席を開けておいた方が意に沿うのでは無いかと思いましてね――勿論、私も誰かに恨まれたい訳ではないので。
貴方も中年、私も中年。今更何だというかも知れませんが、お誕生日、おめでとうございます」
――成る程、ちらりと流し目を向けた寛治の言は一理ある。
「――お、お気遣いありがとうございます、なのだわ!」
その席は少なくとも頬を薔薇色に染めた華蓮の望む特等席である。
「可愛いでしょ。あげないよ」
「……ちょっ、そっ、レッ……」
意地の悪い男は平気の体で金色の髪をくしゃりと撫でる。
何の気無しにそんな事をする、出来てしまう――どうしようもない男は全く毒そのものなのだが――
彼の後ろを三歩引いて歩きたい――あれこれ自然に彼の世話を焼く彼女はそれが結構幸せなのだった。
●温泉
「似合うと思って……つい。買ってしまったんだ。う、受け取ってくれないかな……」
「あら、レオンでなくアタシにかい。物好きだねえ!」
コクコクと頷いた礼久にとって目の前にオリヴィアを置くそれは勇気を出しての一幕だ。
「ローレット に! レオンに!幸あれーっ!」
「うわ!? ビックリした!」
「あははははは! 成る程、そうして遊んでるのかい。いい趣味してるねえ!」
逆さまになるのは、気配を消失させるのは、他人を驚かせるのはある種ミミの趣味なのかも知れない。
温泉旅館の廊下に定期的に響く悲鳴やら何やらは余談として、宴会もいいが次に重要なのは温泉である。
君が様子を見たいのは男湯だろうか、女湯だろうか、それとも混浴だろうか?
ねこたんは美味しいものは最後に取っておく主義なので取り敢えずどうでもい……じゃない男湯からその様子を見ていこう!
「ところで、オマエ」
「はいなのだわ」
「このまま付いてくるの?」
「……う、うわあああああん!」
かあいいなあ!
・男湯の場合
全身に染み渡るのは熱く鋭い温熱の棘。
僅かにちくちくと肌を突き刺す刺激的な感覚は、少しの痛みとそれ以上の心地良さを与えてくるものだ。
「趣味がいいね、オマエ」
「おう。折角だ、一緒にやるかい?」
貸し切りの広々とした湯船に盆を載せ、徳利を左右に振って見せたのは今日という日をたっぷりと堪能している様子のゴリョウだった。
「勿論、ご相伴に預かるか」
「そうこなくちゃ」
湯船でちびちびと酒をやるゴリョウもレオンも騒がず多くを語らないが、こんな時はそれでいい。
「月が綺麗だなぁ」
しみじみと言ったゴリョウに酒をやるにはまだ早い――一悟が応じた。
「……月っていやさ、混沌の月って元いた世界の月とほとんど同じだよな。
月一つに太陽一つ……専門じゃないから確信はないけどさ、星座の形も位置も何処か同じような気がする。
それって結構不思議じゃね? だって火星で空を見たら、地球のと違って見えるはずだろ?
ここは異世界じゃなく……魔種の望みが叶って混沌が滅んだら元の世界にも影響出るのかなぁ――」
独白めいた彼は「教えてよ、小生君」と言葉を結んだが、彼の中に居るギフトは当然ながらこんな問いかけを無視しているようだ。
「さてねぇ」
運命という女は数奇なものである。
掴み所が無く、捉え所も無い。ファム・ファタルのように気まぐれで、とびきり魅力的で――それから時に残酷だ。
未来は、全く先行きの見えない霧の中。袋小路を神託が予言している位だからそれは尚更なのである。
「そういや混浴もあるらしいな。今日ばかりはオメェさんが行っても許されるんじゃねぇか?」
ゴリョウの言葉にレオンは肩を竦めた。一悟はと言えば『鼻血を噴きそうだから』それは難しいのはお年頃か。
「まぁ、イベントの盛り上がりってのは重要だ。勿論、顔を出すとも。勿論、公益の為に」
レオンは酒を一気に飲み干し、不意に物陰の方をジッと見つめた。
「オマエもそう思うでしょ? いや、何でオマエがそこに居て、何をしたいのかはほとほと分からないんだがね」
「ふふふ……こういった温泉イベントには古来よりある行為が伝統芸能として続けられてきたのですよ」
目隠しの柵から顔だけをひょっこり出したヘイゼルが不敵な笑みを浮かべていた。
「女湯には普通に入れますから男湯を覗いてみたのです。
せっかく温円旅館に泊まるのですからやりませんと、と――しかし」
隠蔽系の能力に優れたヘイゼルの誤算は男湯にたったの三人しか居なかった事だ。
女湯に向けってそこから外に出る。混浴の外壁を潜行して男湯へ――プランは緻密だったが、静か過ぎて、人が居なくて、これではステルススキルも台無しだ。相手が相手という事もあるのだが。
「労多くして益無しなのです」
「だろうな」
まずヘイゼルは特に野郎の裸とか別に見たい訳ではない。
だが、寂しい男湯を取り敢えず盛り上げる程度の役目は果たしたと言えるのだろう。
ほら、一悟とか恥ずかしがって慌てているし。ゴリョウとかうら若い乙女の視線に肩までお湯に浸かっているし。
・女湯の場合
全身に染み渡るのは熱く鋭い温熱の棘。
僅かにちくちくと肌を突き刺す刺激的な感覚は、少しの痛みとそれ以上の心地良さを与えてくるものだ。
「ん~、ダラダラ最高~♪」
ゴリョウでは無いが盆を湯船に浮かべて徳利を傾ける――お猪口を手にした小梢の頬は蕩けている。
多幸感に溢れた彼女がぐいと飲み干すのがカレーなのは何時もの事で置いとくとして。
むさ苦しい男湯と見目麗しい女子の集まる女湯。
誰だってどっちか選べというなら、高確率でこっちを選ぶのは当然である。
「レオンさん、そういえば超大型ギルドのマスターだものね。
サボりのスケールがでっかいのなんの――でもまあ。普段頑張ってるのなら、休むのだって必要だよね」
大きく伸びをしたティスルも今日という休暇を満喫しているようだ。
「――という訳で、温泉だー!
温泉宿とかに行くことはあったけど、大体は旅一座の公演で行った関係で忙しかったから。
マトモにゆっくり入るの初めてなんだよね。
でも……うん、レオンさんがサボってでも来たかった気持ち、分かるや」
楽しそうで何よりである。
「ポーさん、今日はお誘いいただき、ありがとうございます、です」
「ほっこりほわわん。はふぅ……癒されます~♪ レウさんも温泉、楽しんでますか?」
「ええ、はい。勿論。とっても気持ちがいいですね――」
「!?」
ノースポールが振り向いたレウルィアの胸が湯船にぷっかり浮いている。
(――これが格差社会!!!)
「???」
衝撃を受けるノースポールにレウルィアは当然ながら小首を傾げまくる展開である。
「あの、レウさん。その……触ってもいいですか!?」
「……? はい、どうぞ、です?」
ほら! ほら! 華やかで最高だろ!?
全く当然の結論ながら、こちらの参加者の方が圧倒的に多かった。僕としても大変嬉しい。
「はい、マリーもどうぞ。こういう場所で飲むジュースはきっと美味しいよ」
「アルコールに比べれば温泉で飲む分には問題ないでアリマスな」
髪の毛を結って上げたハイデマリーはセララから渡されたコップでくぴくぴとりんごジュースの炭酸割を呑んでいる。
「暖かい温泉の中で冷たいジュースが流れ込んで不思議な感覚であります」
熱めの温泉に浸かりながら飲む冷えたジュースは何処か特別な味がした。
「マリー、いつもボクに付き合ってくれてありがとう」
笑顔のセララがそう言えば、
「……ありがとうと言われる要素はないであります。
ワタシがセララに付き合うのを自分で決めているのですから、感謝はいらないであります」
ハイデマリーは自分が何を言っているのか少し分からなくなった。
セララがいると落ち着かない。だけど落ち着く。すごく疲れる。でも全然疲れなくて――成る程、言葉にしようもない。
何とも甘酸っぱいガール・ミーツ・ガール的な展開の向こうには疲れたOLのようなお方もいる。
「先月の依頼、戦闘だけで七本よ七本! ローレットは私を殺す気かしら!」
愚痴る割には――実際の所は大いなる冒険に心躍る所もあるのが彼女らしく、言葉程イーリンは不満そうではない。
「まーまー。レオンの誕生日って事だったけど、今回は私らも休暇って事でな」
「それはそうだけどね。今日なんかは役得かしら?」
(まぁ、役得は私もなー)
言葉に出すと大いに警戒されそうだし、台無しだし。
ミーナとしては心に仕舞っておく方が良い事もあるという所だ。
「折角だし、背中流すぜ。背中」
「あら、ありがと。気が利くじゃない。
じゃあ背中流すのは任せるわ……でも、変なことしたらブン殴るから」
「わーってるよ」
ミーナは苦笑したが、実際の所――口では文句を言う割にイーリンはリラックスと信頼で無防備そのものだ。
(綺麗な肌してんなぁ――)
むくむくともたげる悪戯心を責め立てるは酷というものだろう。
これもまた、女湯の一つの醍醐味である。
もにゅもにゅ。
「ちょっ! と、バカ、やめなさい!」
ふにふに。
「ここ何処だと思ってるのよ。公衆の……」
すりすり。
「……っていうか二人っきりでもダメに決まってるでしょバカ! ひゃっ!」
ふにゅふみゅ。
「――ひゃん!」
あん? セクハラシーンだけ余分に気合が入ってる? 気のせいだよそんなもん!
無論、この後、ミーナがボコボコにされたのは言うまでもない。
華やかなりし舞台の袖。
「温泉はいいですね。身も心も温まります。今の時期は暑くもなく寒くもなく……けれど。
少々火照った体には、風が気持ちいいです」
「ええ湯加減やった……少し肌寒なったとこやったし、極楽極楽でした」
脱衣場の二人――クラリーチェと蜻蛉の火照った肌を風が撫で付ける。
放っておけば風邪を引いてしまうかも知れないが、少しの時間はそれもいい。
(素敵……)
クラリーチェがじっと見つめたのはまさに『緑の黒髪』とも言うべき、蜻蛉の烏の濡れ羽である。
「……ん? この髪……気になる? 大変やよ、でも髪は女の命言うてね。大事なんよ」
「……あの。よかったら髪の毛のお手入れ、お手伝いさせて頂けませんか?」
「ほな……頼めますやろか。人にしてもらうやて、どれだけぶりやろ……」
意外な提案に目を丸くした蜻蛉はそれでも頷き、少しだけ気恥ずかしそうに睫毛を伏せた。
美しくたおやかで――大人っぽい彼女はクラリーチェの見る憧れの未来である。
ガールズトークに華が咲き、時間はゆったりと流れていく。
・混浴の場合
全身に染み渡るのは熱く鋭い温熱の棘。
僅かにちくちくと肌を突き刺す刺激的な感覚は、少しの痛みとそれ以上の心地良さを与えてくるものだ。
「うふふふ。温泉はいいですね。日ごろの傷や疲労がたちまち治っていく気がします。
そして混浴もいいですね。皆さま自慢の鍛えられた肉体をそれとなく拝めるよい機会ですからね」
言葉の後半はトーンを落として、目を細めたアニーヤはこの時間に期待しているようだ。
ああ、期待したいのは山々なのだ。しかしこんなものを山と書いてきた私は何となくそれを理解しているのである。今、まさにライヴでプレイングを読んでいる私(※一発書き)は多分ここはどうしようもなく無軌道でグダグダするんだろうなあ、と予測しているのだが果たしてどうなったか。
まさに〆のドラマを演出する光景は――
「普段はつい忘れがちだけども、ロク君は女性なのだよね……
ひゃあ! ロク君腰にタオルを巻いていないじゃないか!」
「……タオル? どこを隠すの……?」
赤くなったり素に戻ったり忙しい王子(クリスティアン)と犬(ロク)のコントから始まった。
「温泉! 温泉! 気持ち良いから好きよ!」
「温泉か。来るのは久しぶりだが……混浴では、水着かタオル着用なんだ、な……
こっこ……いや、トリーネ。水着はいいのか……?」
「水着? 私達は羽毛が服だからいらないわよ!」
「そ、そうか……羽毛が服なのか……いや、だが、やっぱり……」
難しい顔で頭にぴよちゃんを載せたトリーネ(としごろのじょし?)を見る結依も複雑そうである。
【こけちーむ】もほーら、見ろ! 色物だ! と勝ち誇る声が聞こえそうな展開だが……
「心の洗濯、すなわちそれは温泉……さぁいざ往かん――」
あわやすっぽんぽんで混浴に突撃しかけ、PPP倫に阻止された樹里も居るのでお色気イベント的にはまぁ、うん。まぁ。
「……ところで、こけちゃん。お出汁になるまえにきちんと上がらなきゃダメですからね?」
……良いお出汁の話は置いといて。
「眼を少し離した隙にあの娘は……はあ、怪我がないのならいいわ……
トリーネもいらっしゃい、お湯に入り易い様に少し羽漉きしましょう」
【こけちーむ】にはエトという良心も居たから良しとしよう。
盛り上がっているのだからそれはそれで良いのである。エトさんに任せておけば大丈夫!
「一緒に温泉はいろーよ! バルメトロイ!」
ギルドマスターはシグルーンと遊ぶのに忙しいからね。ね!
「あー、生き返るなぁ。
……なんで温泉ってこんな魅力的なんだろうなぁ。シャワーの生活に戻れなくなるぜ」
特異運命座標には良くある事だが、『ぶっちゃけどっちか分からない』ペッカートが湯船に浮かべたアヒルをその白い指先で突いている。
キャラじゃないから臆面なくレオンを祝うような事はせず、さりとて心の中だけで彼を労ってペッカートは目を閉じてこの大層極上な時間に身を委ねていた。
「はぁ……次に女王陛下へお会いできるのはいつになるんだろう。早くて次の夏かな。遠いなあ……」
思わず恋煩いの独り言を溜息混じりに漏らしたのは史之だ。
瞼の裏に浮かぶのはごく短い時間を共に過ごした麗しの君。
月に紅葉が舞うこの素晴らしい風景を美しい人と見れたならどんなにか幸福だろう――
そう考えた彼にレオンが意地悪く声を掛けた。
「オマエが――ローレットが目立った功績を残せばその時間が縮まるかもよ?」
リラックス全開といった彼は言葉通り『温泉は三回入るもの』らしい。
その彼に背中を向けるようにして真っ赤になっている少女が居るが、どうも男湯(あちら)は兎も角混浴(こちら)は頑張ってみたらしい。
「なんかからかわれてる気がするけど! 需要ならここにあるから! あるから! あ、レオンはおめでとう!!!」
言うなれば、史之必死だな、というヤツである。
「温泉掘ろうぜ。ローレットの近くにさ」
「いいねぇ、それ」
ペッカートの与太話にレオンは目を閉じて応じた。
「風情だねえ」
向こうではクリスティアンが盛大な鼻血を噴いて倒れている。
騒がしいが、こんな時間も悪くはない。
●結びのお話
「折角の息抜きなのに、出てこれないなんてあんまりじゃない?」
静かな夜に暁蕾の玲瓏たる声が響く。
「皆で騒いでも一人。あの高い神殿に一人なのでしょう。彼女は、それが当たり前」
苦笑を浮かべた『彼』に穏やかな語り口で告げる彼女は、彼女なりに何かの結論を得ているかのようでもある。
「貴方の趣味が分からなかったし、無難な物でごめんなさいね。
それからメッセージを。『おめでとうごぜーます。この日にはもう随分会ってねぇですが』」
花束を受け取ったレオンは口元を僅かに歪めて言う。
「何で、あいつに拘るのさ」
「エラー召喚って稀有な例なんでしょ? それって何か運命的じゃない?」
「占い師ってのは他人(ひと)をめくるのが趣味なのかい」
肩を竦めるレオンは彼にしては僅かに棘を込めてその言葉に皮肉めいた。
「あんな所に一人じゃ、寂しいとは思わない?」
暁蕾はどうも空中神殿に赴いてわざわざ、あのざんげに会ってきたらしい。
レオンの抱く感情はこの時、非常に読み難かった。
「さてね。呪いってのは自分で掛けるもんだから。
――もう、今日が終わるぜ。オマエ等も世話になったな」
宴会場の戸を開く。その惨状を片付けているのは「気にするな」と応じたハロルドと、
「……やれやれ、随分と盛り上がったみたいだな?」
宴会の残り香にその盛り上がりを思い起こすクロバである。
時計が十二時の針を刻めば、レオンが誕生日会と称した一日限りの馬鹿騒ぎ(きゅうか)は終わりを告げる。
後は眠り、夜が開け、日常が戻ってくるばかり。
「そう言えば――」
クロバはふと、考えた。
九月二十五日は自身の誕生日である。
昔、妹に怒られた事があった。無頓着過ぎて、覚えてないから面白くない。
今思えば、中々理不尽な怒られ方だが、死神の頬は自然に緩みを見せていた。
(――誕生日おめでとさん、オレ)
「知ってるよ」
予想外の言葉は目の前の意地悪な大人から投げかけられた。
この宿は貸し切りだ。貸し切りならば、するのは一つ。
「おっし、オマエ等。二次会だ。今度の主役はクロバで行こうぜ!」
ギルドマスターが号令に声を張れば、そこかしこからイレギュラーズが顔を出す。
クロバはそんな光景に思わず吹き出してた。
――コイツ等、馬鹿だろ――
そんな、お話。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
YAMIDEITEIっす。
この67人って環境は重力が少なくてスイスイ動けらぁ!
MVP? お祝いです。どうぞ。
重傷? ええやろ、その価値はあったはず。
白紙以外全員描写したと思います。
シナリオ、お疲れ様でした。
GMコメント
YAMIDEITEIっす。
温泉に行きたい、は口癖らしい。
過ぎちゃったので小細工してますが、レオンの誕生日です。
だってオフ会の翌日なんだもんよ、私、東京にいたもんよ。
●依頼達成条件
・適当に過ごせばいいよ
●レオン・ドナーツ・バルトロメイ
腰痛に苦しむアラフォー。
不良ギルドマスターにつき、今回大胆にサボる。
一応このシナリオは彼のお誕生日シナリオです。
●温泉宿
ローレットがコネを駆使して貸し切った温泉旅館。
旅館スタイルは幻想に馴染まないけれど、恐らくウォーカーか何かが持ち込んだ文明なのでしょう。その文明は良い文明だ。
このシナリオでは温泉宿で過ごす九月二十四日の出来事を描きます。
以下の内からプレイングに近しいタグを選択し、書式に従って記述して下さい。
【宴会】:大広間で宴会します。飲んで食って騒ぎます。余興や芸も。
【温泉(男)】:温泉でゆっくりします。疲労回復、湯治にも。腰痛に効能あり。
【温泉(女)】:同上。こちらは女性用。
【温泉(混浴)】:強い要望につき。タオルを巻こう。
【自由行動】:温泉旅館に相応しければ。誕生日はお題目。好き勝手過ごしてOK
書式例
一行目:【温泉(混浴)】
二行目:同行者(ID)、ないしは【(グループタグ)】、ソロならば不要です。NPCと遊びたい場合は名前を書いて下さい。居そうな人は居ます。
三行目以降:自由記述
書式はくれぐれも守るようにお願いします。
温泉かぶっちゃったけど気にしないのです。
適当で雑な休日シナリオという感じで!
祝っても祝わなくても自由なので温泉いきたい人はいくといいのです。
以上、宜しければご参加下さいませませ。
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