シナリオ詳細
<グラオ・クローネ2023>灰色コフレに感謝を込めて
オープニング
●『灰色の王冠』
――貴方に幸福を。灰色の王冠(グラオ・クローネ)を。
再現東京風にその日を顕わすならばSt. Valentine's day――愛を伝える日。
混沌世界では深緑に古くから伝わる御伽噺『灰色の王冠(グラオ・クローネ)』の伝承に基づいて大切な人に感謝を伝える日。
灰色の王冠を模した菓子『チョコレイト』を2/14になれば、皆、贈り合う。
ある人は大切な人へと感謝を伝えるために。
ある人は愛しい人へとその想いを伝えるために。
お馴染みとなったこのイベントはカムイグラにもよく馴染んでいた。と、云えども『ちょこれいと』の製造は輸入に頼っている背景がある。高価な贅沢品としても知られているが、それでも愛好されるのは御伽噺のお陰なのだろう。
覇竜領域では改めて開かれ始めた交易によりチョコレートや文化流入が行なわれ始めた。
グラオクローネは知識があれどもまだまだ馴染みのない文化でもある。亜竜種達もチョコレートに浮き足立っていることだろう。
しかし、今冬の鉄帝国は動乱の最中であり、ラサも市場の不安定さが勝る。
其方に遊びに行くのは難しいだろう。厳しい冬が過ぎ去り芽吹きの春が来るのを願うばかりだ。
●
「うっす、ハッピーグラオクローネ」
ひらひらと手を振った月原・亮 (p3n000006)は紙袋を下げて居た。可愛らしい文字で『配布用』と書かれているのを見る限り、『敏腕美少女情報屋』に押し付けられたのだろう。
「イレギュラーズ達と会ったら今日の予定を教えるついでに配れだってさ。人使いが荒い奴だ」
拗ねるように唇を尖らした亮の傍ではウキウキとした様子の珱・琉珂 (p3n000246)の姿も見られる。
「あ、アナタも来たのね。グラオクローネなんだって。あのね、チョコレート、はい、これプレゼント!」
押し付けるように渡されたのはローレットからのお見舞い品だ。配布されていたのは行事を楽しんで欲しいと言うちょっとした心配りか。
琉珂曰く、休暇は休めるときに休んでくれ、との事である。
うきうきとしている琉珂の傍で「俺の休暇は?」とげんなりした様子の亮が空になった紙袋をぶん回す。
「あっ、月原さん何してるんですか? ぶん回したら破れるじゃないですか!
幾らモテなくってチョコレート貰えないからってそれはあんまりですよ! 皆さんを労って!」
「うるせー!」
リリファ・ローレンツ(p3n000042)に指摘されて亮が唇を尖らせた。
相変わらずの二人は、グラオクローネでも変わらぬ空気感である。亮とリリファは所謂『喧嘩友達』だ。
端から見てどうかはさておいて当人同士の印象は「大切な親友(っぽい、居ないと困る奴)」である。
「ふふふ、イレギュラーズさん、知ってます? 月原さん、会った途端、『俺のチョコは?』って。
ぷっ、貰えると思ってたんですよ~~? 可笑しくないですか? そんなタダで貰えるわけないじゃないですかー!」
「は? イレギュラーズ、聞けよ。コイツだってさ、『はい、ください!』だぜ?
俺の出身世界じゃ女の子がチョコくれる日なんだよ。それは前に伝えただろ?
それにさ、感謝の日だぜ? かーんーしゃー。ラド・バウで俺がお前助けに行って遣っただろー?」
「はーー?? 寧ろ、あの時怒られてませんでした?? 助けてくれたのはイレギュラーズの皆さんでしたしーー??
シャイネンナハトのゲームでは私が勝ちましたからね? 勝者にはプレゼントですよ。むきゃむきゃむきゃ」
顔を合せる度に喧嘩をしているリリファと亮に琉珂は首を傾いだ。
仲が良いのか悪いのか、良く分からない二人だと言いたげな様子である。
コレだけ口撃を繰り広げているが、互いが危険になれば真っ先に走って行く。どちらかの危機を耳にすれば居ても立っても居られないとでも言う様に。
亮もリリファも互いが自分の身より大事だ。
シャイネンナハトは二人で夜通しパーティーゲームをした。正月は初詣に行き、お神籤で何方が良い結果かを何故か競い合った。
「亮とリリファって何時も喧嘩してるのね。うーん」
琉珂は首を傾げてから、矢張り此方も手伝いを強要されていた建葉・晴明 (p3n000180)を見付けて袖をくいくいと引っ張った。
「あの二人って仲が悪いの?」
「……いや、喧嘩するほど仲が良いと言うことでは無かろうか。
寧ろ想い合って――「「ない!!!」」……ないらしい。すまない、俺では感情の機微は察知出来ない」
少し悲しげに目を伏せた中務卿にフランツェル・ロア・ヘクセンハウス (p3n000115)が「ぶふ」と司教らしからぬ勢いで吹き出した。
「言わぬが花よ、中務卿。私達は観察しましょうね、其れが一番楽しむ方法よ。
さてっと、皆さん? 折角のグラオ・クローネだもの。楽しみましょうね。
思い人はいる? 感謝を伝えたい人は? それとも、とっても暇だったりするかしら?」
フランツェルは笑顔を崩さぬままイレギュラーズにチョコレートを差し出した。
「いつも戦ってくれてありがとう。お疲れ様。
あなたにとってとっても素敵な一日でありますように。折角の御伽噺の一日だもの、感謝を伝えに行きましょう」
- <グラオ・クローネ2023>灰色コフレに感謝を込めて完了
- GM名夏あかね
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2023年03月03日 22時10分
- 参加人数72/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 72 人
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参加者一覧(72人)
リプレイ
●幻想I
バレンタインのケーキを作ろうと計画するクリム達に気付き、調理場を覗き込んだ後、アリシアはレシピをまじまじと眺める。
「こそこそ何をしてるのかと思ったら……そういう事」
可愛らしいエプロンを着用し、チョコレートの材料を冷蔵庫に仕舞ってからケーキのレシピ本に沿って準備を手伝う事にしたのだ。
「いやまあ一人で作れないこともないんだけどなぁ」
ぼやいたミーナは本当は痕で驚かせようとしたが、皆に見つかって全員でのケーキ作りに発展したのだ。
それでも、それはそれで楽しいだろうか。ミーナは翼を揺らしながら上空からクリームの飾り付けを行って居た。司令塔になったアリシアの指示を聞きながら可愛らしいホイップの飾りについて五人で話し合うのも楽しみだ。
「こうかしら?」
「よさそうだな。チョコはそこに立てるのか?」
ミーナの問い掛けに「ここにフルーツはどうかな~?」とアイリスが提案する。たまにお腹が空いてフルーツを摘まみ食いするのもご愛敬だ。
クリームの甘さの確認にもなるし、味見だと言えば屹度、叱られることも無い筈だ。
クリムはと言えば「側面の飾りつけは任せろー!」とチョコペンでケーキに可愛らしい飾りを描く。
ついつい張り切ってしまったが、このサイズは五人だけで食べたら屹度、腹回りが――そこまで考えてから首を振った。
「お人形さん、かわいいね~。誰が作ったんだろうね~?」
食べる専門から作る側に回ったアイリスは指先でつん、と砂糖菓子の人形を突く。
「可愛いですよね、この人形。このデザインのぬいぐるみとか欲しくなります」
頷くクリムにミーナは「お菓子の人形は……私だけど?」と首を傾げた。
「え? ミーナが作ったの? 凄い!」
レイリーは自分じゃ絶対にムリだとミーナを見詰めてからキラリと瞳を輝かせる。
「私もにぬいぐるみで1体ずつ欲しい!」
「素材が余って体力残ってるならそのままチョコレート作るのもアリかもしれないわね。あと、ぬいぐるみも?」
それはできるのかしら、と呟いたアリシアにミーナは「どうだろうなあ」と肩を竦めて。
「さぁリリ、チョコを作りますわよ~♡」
うっとりと微笑んだルエルにリリーベルはエプロンを着用しながら頷いた。
素敵な一日には素敵なものを。作るのはお酒入りのトリュフチョコに決定したルエルはこっそりと怪しい小瓶を手にしていた。
「頑張ろうね♡」
にっこりと微笑むリリーベルに秘密の小瓶からこっそりと差し入れたチョコレートをそっと指先に着けてからルエルはリリーベルを覗き込む。
「あら、手にチョコが……ねぇリリ、もったいないですし、こちらのチョコ、味見してみません?」
「あ~ん、あ、こっちも」
そっとリリーベルは口元を拭ってからチョコレートを掬い上げる。互いが互いに、チョコレートを舐め合えば幸福な心地になる。
「ふふ、おいし♡ 明日が楽しみですわね、リリ」
明日は楽しいグラオ・クローネ!
うきうきとしているヨゾラは自身の館の掃除をしていた。キッチンを綺麗に整え材料を揃えておくのだ。
親友三人とクッキーを作ってパーティーをするならば、念には念を入れて準備をしておこう。
「小麦粉にバターに卵に砂糖、ココアパウダーやチョコレート……
失敗しても大丈夫なように多めに買っておこうかな? ちょっと焦げた位なら多分食べれる大丈夫!」
材料の確認をし、客室の掃除をしようと掃除用具を抱えたヨゾラは猫がちょこりと座っていることに気付いた。
「ああああ! その部屋は今日明日は入れないんだよー! ごめんよー!」
「ふう。材料いっぱい買い過ぎちゃったかな……」
キッチン台に買い込んだ材料を置いてからフラーゴラは一息吐く。水色のニットの上にはエプロンを着けて早速、愛しい人のために調理開始である。
今年もやって来たグラオ・クローネだ。折角想いを伝えるならば思い切り拘りたいのが乙女心だ。
マンディアンとルビーのハートチョコレートは作った――けれど。
「ハートいいなあ。やっぱり愛を伝えるにはハートがいいよね……あとかわいい!
うん決まり! ハート型のワッフルを作るろう。チョコのかかったものと生地に入れたものにして……グラオ・クローネだものねチョコ入れたいよね」
うんうんと頷きながら早速調理に取り掛かる。調理が完了した後はラッピングの準備も必要だ。
休憩がてら雑誌を開いて理想のラッピングを考え込む。袋もリボンも目に付いたものを買い込んだ。どう組み合わせるのが最近のトレンドだろうか。
「ええと色は……うう、日差しあったかくて心地いい……あ……駄目、寝ちゃう……すやすや……」
――明日、起きたなら、一番に愛を伝えに行かなくては。フラーゴラは暫し、穏やかな夢の中へ。
昨日一緒に作ったチョコを渡すのにゃ!
そんなウキウキとした様子のちぐさに「待っていたかい?」とショウは声を掛けた。ちぐさが作ったチョコレートは誰に渡すかは内緒にされていたが自身に貰えると考えて居たのはショウだけの秘密だ。
休憩がてらカフェによりコーヒーを傾けるショウにちぐさはにこにことしながら楽しそうに街の様子を語る。
(ショウ、喜んでくれるかにゃ……?
でも、初めて大好きな人とチョコを一緒に作ってそれを大好きな人に渡すなんて経験きっと滅多にできないのにゃ。
イマイチ喜んで貰えなくても昨日のお礼とかも伝えたいのにゃ!)
緊張しながら脚を揺らしたちぐさに「どうかしたかな」とショウは穏やかに問う。そんな彼の声掛けにちぐさは緊張しながらラッピングしたチョコレートを差し出した。
「ショウ、ハッピーグラオクローネにゃ! 僕の気持ち、受け取ってほしいのにゃ!」
「ああ、有り難う。昨日、作った奴かい?」
「そ、そうにゃ! あ、そういえばショウもチョコ作ってたにゃ。
お菓子屋さんに売ってそうなすごいキレイなチョコだったのにゃ! 誰にあげるのかにゃ?
ユリーカやプルーとか情報屋の仲間かにゃ?
ショウが一生懸命作ったチョコを貰えるなんて、ますます僕も情報屋……ショウの弟子になりたいのにゃ」
弟子も良いかもねと笑ったショウにちぐさは耳をぴこりと動かした。本当はショウの傍に居られるなら何だって良いし、師匠じゃ無くてパパになって欲しいのは――秘密なのだけれど。
「実はコレは、ちぐさへのものだよ」
ハッピーグラオクローネと手渡されたチョコにぱちくりと瞬いてからちぐさは嬉しそうに微笑んだ。
●幻想II
――ルアナが元に戻らなくなってから早くも数日が経過した。
「いい加減仏頂面辞めて頂戴。『可愛いルアナ』が戻ってこなくて寂しいんでしょうけど」
嘆息するルアナにグレイシアは「そういう問題ではないのだが……」と呟きながら珈琲と共にチョコレートを差し出した。
今迄は自然に戻っていたのだけどと言いつつ珈琲を受け取るとルアナ――『勇者』は首を振る。
「コレを貰うのは私じゃないわ」
「……しかし……今日渡せなければ意味が無い……勇者? どうかしたのか?」
どうした者かと考え倦ねていた勇者は背の紋様が熱い気がして黙りこくっていた。それが何を意味するかを何となく理解している。
ルアナが窮地に陥ったことで、勇者として対処をした『本来のルアナ』は己の背の紋章から小さなルアナが呼んでいる事に気付いた。
「背中に手をあてて、ルアナの名を呼んでみて」
背中に、と疑問に思いながら触れたグレイシアはその名を呼ぶ。徐々に身体が変容し――
「……おじさま? おじさまー!」
嬉しそうに喜ぶルアナが表面化し、先程まであった勇者の人格は欠片も存在していない。
「真っ暗なとこで出してー! て叫んでたら出れた! わあい、チョコだあ!」
嬉しそうに笑ったルアナはそれでも分かったことがあった――『私達は勇者の証を通して身体を共有している』
同様に、それが小さな身体の限界を知らせていることも分かる。ルアナは自身の事であるからこそ、気付きながらも口にしなかった。
(……紋様に手を当てた事から、ルアナの意識は一時的に背中の紋様へと収納されていたのではないか?
勇者の様子を見るに、何かしらルアナを勇者たらしめるシステムに異常が発生しているのではないか?
ルアナが今も勇者であるのは、あの紋様のせいではないのか。もし、なければ――?)
グレイシアは、思い当たったその疑問をどうすることも出来ないまま飲み込んだ。
ファニーはどうしても手作りを渡したかった。食事を楽しいと感じられるようになったのも、料理を作ってくれる人の有り難みを知ったのもクウハのお陰だったから。
レシピと睨めっこするのは大変だったが、努力は惜しみたくなかった。
恋人へのプレゼントだ。手抜きなど赦されない。それに、食べて貰うことを考えて作るのは中々に楽しかったからだ。
「ファニー、ハッピーグラオクローネ」
そんなことも知らず、手作りの惑星チョコレートを作ったクウハは彼を思うばかりだった。
未熟な味覚が発達したばかりのファニーが色々と楽しめるようにと中に詰めるガナッシュは味を変更してみた。
喜んでくれるだろうか――と差し出したチョコレートに「オレからも」とファニーが手作りを差し出すものだからクウハは瞬いた。
「heh、びっくりしたか?」
「ああ、苦労しただろう?」
健気なやつめ。そんなことを思いながら受け取ったのはふっくらとしたスポンジケーキをチョコレートでコーティングしフランボワーズと薔薇を添えたものであった。
図鑑から飛び出してきたようなチョコをまじまじと眺めていたファニーは驚いたように呟く。
「オレが星をすきなの、覚えててくれたんだな……ありがとうなクウハ。愛してるぜ」
「勿体無いからって食わずに取っとくのは無しだぜ?
気に入ったんならまた幾らでも作ってやるさ。ありがとな、ファニー。俺もオマエを愛してるよ」
互いを想い合ったプレゼントだからこそ何物にも代えがたいのだ。
「ッ、ユ、ユリーカさん」
ぎこちなく声を掛ける飛呂へとユリーカは「こんにちはなのです!」と微笑んだ。事前にカフェの人気メニューを調べておいたのだ。
飛呂はビターなチョコレートが好きだが、ユリーカは人気商品に心惹かれているらしい。
「人気メニューの方が気になる?」
「も、勿論。情報屋としてしっかりと流行はチェックしておくべきなのです!」
食べたいんだ、と飛呂の口元に自然な笑みが浮かぶ。ユリーカとメニューを見て、何れが良いかを話し合うだけでも楽しい。
「グラオ・クローネのおとぎ話って『誰かを笑顔にしたい』ってのが中心にある感じなんだよな」
「はい。楽しく過ごせるグラオ・クローネでボクもとっても嬉しいのです!」
にっこりと微笑んだユリーカに飛呂は緊張しながらも大きく頷いたのであった。
カフェに踏み込んでからハリエットは突如として響いたファンファーレにぱちくりと瞬いた。
「えっ、来場記念――? わわわ。大きなぬいぐるみだね……どうしたものか。
嬉しいと言えば嬉しいけれど持ち運びながら一緒に巡るのは難し――」
悩ましげなギルオスに見詰められながら大きなくまのぬいぐるみを唾棄あっ変えていたハリエットは「これは買い物はムリだね……」と呟く。
「そこのお店で持ち帰りのケーキ買って、私の家で食べない? 買い物は延期になるけど、ぬいぐるみ眺めながらのんびり過ごせるよ」
「――ハリエットの家で?」
その誘いには少し驚いたがケーキがあるというならば喜ばしい。甘い物は好物だと笑うギルオスはケーキを持つハリエットの代わりにくまを抱えることにした。
「くま抱えてるギルオスさん、可愛いなって思っちゃった」
「可愛い?いやいや可愛いっていうならハリエットの方だろう。後でちょっと持ってみてくれるかい? きっと君に似合うさ」
どっちの家の子になるかは今は大きな問題ではないだろうか。それでも予定が狂ったのは確かで。
普通に買い物をして、ご飯を食べて、鞄に忍ばせたチョコレートを渡して……そんな事を考えて居たのはハリエットだけではない。
いつも共に居てくれるハリエットに用意した甘く蕩けるチョコを、何時渡そうかとギルオスも熊を抱えて頭を悩ませたのであった。
バレンタイン当日にはクラルス・アルカナと共にバレンタインイベントを開催することにしたレジーナは早速、リーゼロッテを招いた。
洋服が汚れたならば其の儘、お泊まり会を画策するクラルスはさておいて、レジーナは胸を張る。
「さて今日は我(わたし)が先生をやりますからね! お嬢様はどのようなお菓子を作られますか?」
「ふふ、生まれて初めての経験ですけれど、教えてくれるならかえって好都合というものでしょう。
たまには女の子らしい事もしておきませんとね? ……何が宜しいのかしら?」
余りに何も知らないリーゼロッテにレジーナは「我にお任せを」と胸を張る。料理は一切経験の無いリーゼロッテがチョコレートを直火に掛けてもご愛敬だ。
「お嬢様、サポート致します!」
「あ、お嬢様、チョコが頬についていますよ――」
頬のチョコレートを拭おうとするクラルスに「><。」顔をしたリーゼロッテが振り向く。見慣れぬ表情は二人に特大ダメージだ。
「何とか出来ましたわね……これは効果抜群ですわよ。 隠し味は劇的に――私はアーベントロートですものね」
「ところでお嬢様、チョコを渡すお相手は?」
クラルスとレジーナに詰め寄られてからリーゼロッテはくすくすと笑ってその口元に作りたてのチョコレートをそっと押し込んだ。
●幻想II
アーベントロート邸の客間に対峙する寛治はリーゼロッテの時間が空くのを待っていた。あの一件以降、勝手知ったるなんとやら、堂々と居座っているのだ。
彼女と二人きりの時は眼鏡を外し、前髪を下ろす。お嬢様ではなく、リズと呼び掛けるのは『そういう』事なのだ。
「料理教室は滞りなく?」
「ええ、アーベントロートですから」
相変わらずな彼女の『劇的な隠し味』はどのようなものだろうか。寛治はにこりと微笑んでからその髪を一束掬い上げた。
「それで、リズ。私のチョコレートは?」
彼女からのものならば、板チョコの一片だって至高の一品となると囁く寛治はリーゼロッテが皿の上からチョコレートを掬い上げた事に気付き、その指先を誘った。
「……但し、それは、リズが食べさせてくれるならですけれど、ね」
「フフ、素敵なお店でしょ? この間偶然見つけて、一緒に来たいなって思ってたの♪」
「誘ってくれて有り難う。アザレアピンクが可愛い場所ね」
ジルーシャは微笑むプルーに頬を緩めた。グラオ・クローネの特別メニューはお客をイメージしたマカロンの詰め合わせだ。
受け取った箱を手にしてジルーシャはプルーとイートインスペースへと移動した。可愛らしい飾りがグラオ・クローネをイメージさせる。
紅茶の香りを感じて、こくり、と息を呑んだ。だって、言ってしまった。もっと頑張る、と。
「はい、プルーちゃん、あーん♪」
そろそろと紫色のマカロンをひとつ、その口元に差し出せばプルーはくすりと笑った。
「どうぞ」と差し出された緑色は宝石のようで。とても美しくって堪らない。
「……ね、知ってるかしら。マカロンを贈るのは、『あなたは特別な人』って意味があるのよ――ちょっとだけ、自惚れてもいい?」
少しの頑張りにプルーは揶揄うような眼をしてから「シクラメンピンクのような頬をしているわ」と揶揄った。
「いらっしゃいませなのです! チョコレートのお菓子、召し上がれなのです!」
多分美味しく出来たはずだと手作りのクッキーを手にしていたメイがジョージを招いたのは自身の過ごす教会であった。
「お招き頂き、ありがとう。クッキーか。うむ。いい出来た。美味いな」
頷いたジョージはお礼に、とホットチョコレートを用意していた。溶かして飲むと寒い日には丁度良いと告げたジョージにメイは嬉しそうに微笑む――が。
「ありがとうなのです! ……って、ねこさん! これはメイのです! きゃー!! ねこさんにチョコはだめなのですー!!!」
大慌てのメイにジョージは可笑しくなってもう一つの包みを差し出した。
「あぁ、大丈夫だ。猫たちにも、用意している」
「ねこさん用ですか? 嬉しいです!」
猫にもみくちゃにされているメイはなんとも微笑ましい。チョコは渡せないが猫たちにはマタタビをご相伴頂こう。
「あぁ、そうだ。丁度いい。ホットチョコレート。今から淹れようか。メイ嬢のクッキーもある。のんびりするには、良い時間だろう」
「わあ……! はいなのです!」
「だってだって! この前は負けちゃったし! 今日はぜ~ったいわたしが勝つの!」
「うんうん! そうだねそうだね!! 勝たないとね!!!」
チョコレートをコーティングした菓子を口に咥え、両端から囓り何方が先にギブアップするか。
拗ねたタイムを前にして夏子は可愛いなあと笑った。何時もなら自身から仕掛ける事を彼女が誘ってくれるのだ。
勝負には乗るが、笑みを隠しきれない。
「……んっ」
きゅっと目を瞑ってから菓子を咥えたタイムは勢い任せに夏子の腕の中。優しく支える彼の腕は妙に余裕だ。
それもその筈。夏子にとっては100%勝利の提案だ。「なんて難しいゲームなんだ~勝てるかな~この僕にぃ~」なんて揶揄いながらタイムを見詰める。
勝敗だってどうでもよくって、こうやって傍に居ることを求めて『くれる』事に気付いたからには何方が勝ちか。
「今日もお尻が大きくてイイね!」
「もう!」
菓子が唇の動きと共に動いて、夏子はすいっとそれを食べきってから口付けた。
「僕の負けだね 我慢できないやコレは~」
「ッ――!?」
男冥利に尽きますなあと笑う夏子にタイムは唇を尖らせて。ああ、もう、こんな女になったのは誰の所為なのか――!
●海洋
竜宮にやって来た千代は本命チョコレートの調査を行って居る。
(うう……まさか今更になって彼への想いに気づくなんて……!
幼馴染で信頼しているお兄ちゃんって感じだったのに……傍に居なくなって初めて気づく事なんてあるんですね……)
赤らめた頬を抑える。今更になってから友哉への想いに気付いてしまったのだ。
「ううう……地元の知り合いにこんな姿見せられません!
だからこうして地元の鉄帝ではなく、馴染みのある竜宮に来ているわけですが……どんなチョコなら友哉さん喜んでくれるのでしょうか……」
名前を呼ぶとまたも頬が赤らんだ。それでも、頑張らなくては――明日になれば、告白するのだから!
「お買い物に付き合うて貰って、おおきに。助かりました」
穏やかに微笑んだ蜻蛉は予想よりも多くなってしまった買い物袋を受け取った縁に小さく頭を下げた。
「気にしなさんな。この程度の甲斐性は持ち合わせてるつもりなんでね……それよかお前さん、足をどうかしちまったのかい?」
蜻蛉の誤算と敗因は慣れていない履き物で来たことだ。問われてしまえば罰が悪そうに蜻蛉は目を逸らす。
「……そ、その、やって、履いたとこ見て欲しかったんやもの」
足元から注意が離れた瞬間に蜻蛉の身体がぐらりと傾ぐ。ぎこちない足取りと、可愛らしい理由に笑みを漏したことを隠した縁の視界の端に転んだ彼女の姿が見えた。
「やれやれ……仕方ねぇ、乗り心地は悪いだろうが、我慢してくれや。何が運びやす――」
「おんぶ?!ううん、そんな頼めません。……重いでしょ」
大人しく甘えられないから――考え倦ねてから蜻蛉は「少しだけ反対側向いとって。お願い、ええから」と呟いた。
猫に変わる姿は見られたくはないから。目を背けた彼を確認してから小さな黒猫になってからばさばさと落ちていく衣服ごと慌てて縁は蜻蛉を腕の中へと仕舞い込んだ。
「あのなぁ…!」
「これで、ちょっとは運びやすいと思うんよ。……何よ、そないにびっくりせんでも」
尾をゆらゆらとさせながら衣服ごと抱きかかえられた蜻蛉は悪戯のように囁く。
「ねぇ……このまま人の姿に戻っても、抱っこしとってくれる?」
「……他のやつに見せてやる気はねぇよ」
慌てる彼の声音が降ってから蜻蛉はころころと笑った。
――そういえば、最初にチョコを渡した時も、呼び出したのは公園だったな。
そんな事を思ってみてからクレマァダは足元をまじまじと見詰めた。緊張するクレマァダと対照的なフェルディン。
そういえば、最初にチョコを貰ったのはこの場所だったと足取り軽く至上の喜びを噛み締めたフェルディンを一瞥してからクレマァダはぎゅ、とチョコを握る。
対照的にも程がある。
祭司長は尊大で、己の存在を理解し、真っ直ぐ生きている。だが、フェルディンという男は情けないくらいに臆病なのだ。
臆病すぎて、彼女の傍に立ち、言葉を交し、時間を共有し、贈物を賜ったとて彼女との縁が途切れる事を恐れている。彼女と縁が繋がっていることを実感できる度に安堵と喜びを繰返すのだ。
「……フェルディン」
嬉しそうな顔をする。そもそも、今までは色々と良い訳が出来ていた。世話になっている方とか、友愛だとか。そんな良い訳が今は出来なくなってしまって――リモーネとの戦いでがっつりと護られて、誤魔化す言葉も遠くなったのだ。
「チョコじゃ」
ふい、と外方を向いてからクレマァダは唇を尖らせた。なんて、お気楽な顔だ。好きだと言えればどんなに楽になるのか。
彼女の差し出してくれた『少なからずの好意』を抱き締めてからフェルディンは「ありがとうございます!」と笑った。
嗚呼、けれど一つだけ似ているのは――どちらも愛しているだとか、好きだとか、そんな本心だけは隠していることだろうか。
護衛役であるティアは嬉しそうなカヌレの横顔を眺めていた。斯うした祭の視察だって屹度彼女には大事だ。
なんて、名目で、本当はカヌレとデートを出来れば嬉しいなんて事はティアはおいそれとは言わないけれど。
「人も多いからはぐれない様に、ね?」
「ええ、参りましょう!」
そっと手を取られて、腕を組めればデートっぽかったのに、と唇を尖らせた。
「折角バレンタインだし、何かカヌレの好きなチョコレート一緒に食べてみたい」
「それなら、お兄様が昔、くださったものがありますの。一緒に買いに行きませんこと?」
幸せそうなカヌレにティアは頷いた。店舗に売られていた商品で気になったアルコール入りのチョコレートを悪戯めいて彼女へと差し出した。
「おいしい」と嬉しそうに微笑んだのは少しだけ、食べ過ぎたのか少し歩みの可笑しな彼女を支えながらティアはゆっくりとその体を支える。
「カヌレ、大丈夫?」
「ええ、ええ、だいじょうぶですわ。うふふ、おにいさまよろこんでくれるかしら」
――ティアが恋をしていても、屹度この人は気付かない儘、幼い少女のように兄を尊ぶのだと儘ならなさを少しだけ感じた。
「アッシュ殿! ここいらの店は豊穣には無いものばかりでありますな」
右も左も物珍しい商店が建ち並んでいるのだと希沙良はきょろきょろと周囲を見回した。
「航路が開かれたとはいえ、まだ豊穣に伝わって無い物は多いだろうからねぇ」
彼女にとっては珍しい者が多いのだろうとシガーは頷いた。心なしか、希沙良を視る目が親が子を見るそれと同じになったのはご愛敬だ。
希沙良とて、その視線には気付いている。思わず咳払いをしたのは大人アピールのようなものでもある。
「神威神楽は長く他国と隔たれておりました故……。これからどんどん変わっていくのでありましょうな」
「そうだね。良い方向へと変わっていくと良いねぇ…さて、気になる物があれば遠慮なく言ってくれて良いからね?」
「エッ」
絶望の青を越えた者が居た。そうして開かれた希沙良の国はこの国と同じように様々な者が混ざり合っていくのだろう。
「気になるもの、有りすぎて困っているでありまして……」
「時間はまだまだあるから、ゆっくり一つずつ見ていくとしよう」
今日全てが見えなくたって構わないとシガーは希沙良に提案して微笑みかけた。
「マリィマリィ、あれすごいですわよ! 噴水みたいにチョコレートが噴き出して……私、あれやってみたいですわー!」
くいくいと服を引っ張ったヴァレーリヤに『チョコ噴水』をその双眸に映してからマリアが驚いたように眼を見開く。
「あれって全部食べられるのかな!?
ふふ! そんなに引っ張らなくても私もチョコも逃げないよ! さあ、行こうか!」
二人揃って楽しげに歩き出す。ヴァレーリヤの手を取ったマリアは足取りも軽く、どこか楽しげだ。
「イチゴにバナナ、マシュマロ……どれにするか悩みますわね。マリィはどれがよろしくて?」
「私はどうしようかなぁ……クッキーにキウイ、それにパンケーキなんかどうかな!」
「クッキーも美味しそうですわねっ! 私もそれにしようかしら」
チョコレートに櫛に刺したフルーツを差し入れてチョコを絡める。その光景だけでも楽しいが、ヴァレーリヤは『何時も通り』なのだ。
「お酒がたっぷり入ったチョコレートでやったら、きっともっと美味しいのに残念でございますわ」
しょんぼりとしたヴァレーリヤにマリアは「お酒と一緒にチョコを楽しむのも屹度素敵だよ?」と提案する。
「ホテルに色々なチョコやお酒を買って帰って1杯やらないかい?
勿論朝まで付き合うよ! それでどうだい? 私の可愛いお姫様♪」
「ありがとう、マリィならそう言ってくれると思ってございましたわー!
約束でしてよ、もう取り消せませんわよ! ふふ、お家に帰るのが今から楽しみですわねっ!」
スパークリングワインとチョコレート、チョコレートリキュールだって屹度楽しいだろう。マリアはそんなことを考えてからヴァレーリヤのためにフルーツをチョコレートに差し入れた。
●天義
「グラオクローネだよ! ってことで――!」
スティアがやることは単純明快。イルのおめかしである。
「綺麗に着飾ってリンツさんをメロメロにしないと!
流石にデートのお手伝いまではできないし、恋が成就するように祈るのみ……ちょっともどかしいけどね」
「スティアが着飾ってくれればプリンセスになれる気がする!
プランも立てたし、プレゼントも持ったぞ。こ、コレで大丈夫な筈なんだ」
やけに自慢げなイルにスティアは小さく笑った。リンツァトルテなら屹度エスコートもしてくれるだろうから、と可愛らしく着飾ってから送り出した。
イルが失敗してもリンツァトルテがリカバリーしてくれるだろう、何てことを考えて小さく笑う。
流石に覗き見はダメかと食べ歩きに出掛けるスティアの前に立っていたのはエミリアだ。早足で過ぎ去っていく彼女の背後には――「あ、やっぱり」
『何時もの』褐色の青年が薔薇の花束を手にエミリアを追掛けていたのであった。
ティナリスにとっては憧れのイレギュラーズであるマルクから勉学を学べる貴重な機会だ。心して挑むとやる気十分の彼女にマルクが用意したのは幾つかの教本だった。
「ティナリスさんが学びたいと思っているなら、僕もその機会を作りたいと思ってね」
「はい。マルクさん先日はありがとうございました! 本日は、どうぞよろしくお願いします!」
背筋をぴんと伸ばしたティナリスは緊張で胸が高鳴る。ポイントはしっかりとメモをして立派な騎士にならなくては――
机上で例題を問い、プロセスと解答を確認していたマルクは硬い表情のティナリスを見てつい笑みを零す。
「そんなに緊張しないで。これは机上演習で、実戦じゃ無いんだからね」
「はい、ありがとうございます…実戦はもっと厳しいものですよね。ですが、マルクさんの教えてくれたこと、絶対に忘れません」
真っ直ぐに向き合うティナリスにマルクは頷いた。彼女が騎士となれば隊を任される可能性だってある。
作戦の立案、指揮、各種戦術への造詣は必須だろう。
「僕の知見で良ければ、どんどん役立てて欲しいな。……そのチョコレートがお礼に貰えるなら、安いものだよ」
「しかし、手作りですので……お口に合えばいいのですが……」
おずおずと取り出したチョコレートを差し出すティナリスはこれからも宜しくお願いしますと頭を下げて。
待ち合わせ場所には茶太郎とポメ太郎。ふわふわとした犬を連れていたベネディクトの元に走り寄ったイレイサはぱちくりと瞬いた。
「今日は俺の相棒達を紹介しがてら、お茶でもどうかと思って。
こっちの小さいのがポメ太郎で、大きいのが茶太郎だよ。2匹とも粗相の無いようにな」
「ああ、これが、ベネディクトの友人……友犬? 俺はイレイサだ、よろしく。ポメ太郎、茶太郎」
挨拶をするイレイサの表情は硬いが撫でようと伸ばされた手にベネディクトは「ゆっくりと」と促した。
そろそろと撫でるイレイサは少しばかり緊張していたが嬉しそうだ。ふんふんと鼻を鳴らすポメ太郎にイレイサは満足げである。
「何か忙しかったなら手伝っても良いが、大丈夫か? 買い物でも何でも、必要があれば言ってくれて良いぞ」
「買い物……実は、あまり慣れていなくて街を見ている最中なんだ。ベネディクトは詳しいだろうか? もし、よければ一緒に回って欲しい」
惜しいホットドッグを売る店を見付けたのだとイレイサは提案し、緊張しながら進む。
「犬も食べれるのか?」
「……どうだろうな、品を見て見ようか。
イレイサ、君とはまだ依頼の中でしか付き合えて居なかったからな。相互理解の時間が欲しいなと思っていたんだ」
優しい騎士に憧れたようにイレイサは大きく頷いて。
「俺も、ベネディクトを理解出来れば嬉しく思う。……憧れたんだ、その姿に。だから傍で見て真似てみたいとおもった」
そんな彼に主人を自慢するようにポメ太郎がわん、と吼えた。
●練達I
当日のための準備を行なうべく、祝音はミルクチョコレートの板チョコを購入していた。ついでに、猫のおやつもきっちり準備だ。
足元に擦り寄ってくる猫たちに「ただいま」と声を掛けて、猫のおやつを渡せば嬉しそうな鳴き声が響く。
頭を撫でるだけでも癒やしそのもの。
残念ながらチョコレートは猫にはプレゼントできないからこそ、猫たちにはお部屋でのんびりとしていて貰うのだ。
「バレンタイン、楽しいね。みゃー」
星形のカップケーキは幸せ味。明日には上げたい人にプレゼントするのだと祝音の頬は緩んだ。
「よぉ! 先生! 悪いな。付き合わせちまって。何か食べたいものはあるか?」
「それでは、パスタは如何ですか?」
バレンタインで浮ついた雰囲気の街をともに歩く天川は「お、いいな」と頷いた。晴陽は気に入っている店があるそうだ。
エスコートしながら辿り着いた店はバレンタイン限定スイーツの広告が貼られている。晴陽はまじまじと眺めてから「美味しそうですね」と呟いた。
「平日だってのに昼時は中々の混雑だな……急な誘いだったが迷惑じゃなかったか? 忙しかったろうに」
「いえ、最近はきちんと食事を取ってますから」
それは良いと天川は頷く。半ば定例になってきた大変だったことや近状の報告は最近は他愛も無いことまで混ざり始める。
「いやなぁ……今月はペット探しの仕事が異常に多くてな……仕事に貴賤はないんだが、流石に複雑な心境になるぜ……一応俺は探偵なんだが……」
「尾行とかしてみたいです」
「先生がか?」
頷く晴陽に「それも面白いかも知れないな」と天川は可笑しそうに笑った。
「そういえば世はバレンタイン一色だが、先生はバレンタインはチョコレートとか贈るのか?」
「そうですね……特に考えて無かったのですが……バレンタインメニューを今から頼もうと思います」
気になっていましたとフォンダンショコラを指差した晴陽が二つ注文し「これでバレンタインはノルマをクリアです」と表情を変えず言い始める。
自分が貰えるとは微塵も思って居ない天川は「ノルマクリア、悪くないな」と笑った。
「この年になると完全にそういうのとは無縁になっちまうもんだぜ。俺の場合、特にな。まぁ過去に色々あっただろう? それもあってな……」
「明日、良いブサカワがいるといいですね」
「ふふ。まぁ明日は楽しみにしてるぜ。さて、病院まで送ろう」
前日ではあるが晴陽にチョコレートを渡そうかとやって来たリュティスは「お世話になりました」と好きそうなキャラクターをモチーフにチョコレートを作った。
おまけにはポメ太郎とデスマシーンじろうくんのチョコレートも入っている。チベットスナギツネなどその顔がしっかりと表現されているのも面白い。
「細部までこだわっておりますので見た目も含めて楽しんで頂ければと思います。
……あ、飾らないで食べて下さいね? 気に入ったのであればまた作ってきますので」
「はい。分かりました」
デスマシーンじろうくんにチョコレートを見せていた晴陽はやや残念そうな顔をして居る。
「もしよろしければ、心咲様の元に行きませんか?」
「お墓参りですね、丁度良かった。心咲にデスマシーンじろう君を紹介したかったんです」
うきうきとしていた晴陽にリュティスは首を捻った――が、気にしても仕方が無い事なのだろう。
「若者たちの甘酸っぱい思いがそこかしこに溢れるグラオ・クローネ!
……って言いたいところだけど、それどころじゃないのが受験生ね?」
揶揄うように笑ったアーリアにぐったりとしたなじみが「はあい」と小さく呟いた。
無ヶ丘高校の生徒ではあるが、なじみもアーリアの特別授業を『目指す希望ヶ浜学園』で承けている。
「ちなみにここはジョーくんの3年の時の教室よ、ふふ」
「え、じゃあ定くんは何処に座ってた?」
窓際を指差すアーリアに、なじみは嬉しそうに座席を撫でてから「えへへ」と笑う。そんな様子を見ていれば、定が視線を逸らすのだってご愛敬。
「さあ、なじみちゃんの苦手な所を集中特訓!
解っているはずなのに毎回間違えちゃうところとか、どっちかで迷っちゃうとかそういう曖昧な所を重点的にカバーしていきましょう?」
「うーん、うん……どうして間違えるんだろうね」
百面相のなじみを眺めてアーリアは思わず笑みを浮かべた。あと5頁終れば今日は終了――だけれど。
「なじみちゃん、はい、あーん」
「ん」
「お勉強には糖分も大事だもの、エネルギーチャージしてラストスパートよぉ!」
応援をするアーリアに「頑張るぞ~!」となじみは拳を振り上げた。アーリアはその片隅で待っていた定にカフェを教え、アドバイスを送っている。
「定くん、もうちょっと待っててね」
「ああ、うん。アーリアせんせと話してるから」
定が座っていた窓際の席に移動して必死に勉強するなじみは「君と同じ景色で勉強するから」と必死に学習を続けて居る。
もしも同じ学年で同じ学校なら教鞭をとるアーリアを同じ学園の制服を着て見ていたのだろうか。
「終った! 定くん、行こうぜ。お待たせ!」
いってらっしゃいと手を振ったアーリアに礼を言い、定となじみはカフェで昼食をとってからグラオ・クローネの催事にやって来た。
(……もう間も無く試験だって言うのに遊びに誘って良かったのだろうか。
今更ながら空気読めてなかったんじゃないかって不安になってきた。い、いや! 今年の僕は一味違うんだ)
不安になるより誘いに乗ってくれた事に感謝をしなくてはと首を振る。
「今年の催事は凄いらしいぜ、海洋産のナッツを使った物とか豊穣のお茶の風味のとか。色々買って分けっこしようよ」
「うんうん、良いねえ!」
澄原病院に戻るというなじみは晴陽に外出許可を貰っているのだと自慢げだ。お茶をしても構わないと聞き、少し飲料を買おうかとコンビニに立ち寄ることを提案した。
正直なことを言えば家よりも病院の一室の方が良いと言う彼女の環境が寂しくて堪らない。だが、そこはまだ定が触れて良いとは思えなかった。
ほんとはまだ、怖かった。これから『先』、彼女が居なくなって仕舞うつもりで場所を間借りしているのでは無いか――と
「なじみさんが希望ヶ浜学園に合格して通い始めたら、一人暮らしも良いかもね」
「寮もいいよね。一人暮らしは少し寂しいかも?」
遊びに来てくれるかと笑った彼女に頷いた。――そうなる未来を掴んでみせる。君のいない世界は僕にはもうきっと、苦すぎるから。
●練達II
(チョコか。欲しくないと言えばうそになるが。いや、むしろほしいが。
しかし最近の練達は静羅川立神教の影響もある。澄原病院も忙しそうではあった。調査とあわせて病院本来の仕事も大変なのではないか。
晴陽君も無理をしていそうだ。そんな時に水夜子君が無理をしないとは思えん。やはり我儘は言わずに彼女の労をねぎらうとしよう。そうしよう)
むむ、と唇を尖らせてから愛無は何時も通りに「やあ、水夜子君」と声を掛けた。バレンタインだ。
何かイベントなどがあれば、労を労う目的で彼女に何かご馳走したいというのが愛無の今回の目的である。
「僕はチョコレートファウンテンとか気になるんだ。あれ、なんか楽しそうじゃないかね? 日頃の感謝を込めて僕が奢るよ」
「ならお店選びは私ですね?」
嬉しそうに笑う水夜子が店まで少し歩きましょうと愛無に手を差し伸べる。それだけで嬉しくなるのだから『人間』って変わるモノなのだ。
「実際、感謝はしているんだよ。君と出会ってから楽しい事も増えたし。はらはらする事も増えたけれども。
怪異の事を学ぶのは面白い。人間と同じくらい怪異からも学ぶ事がある。次はどんな怪異が出てくるのだろうな」
「どうでしょうねえ」
「……蕃茄君には『人間らしい』と言われたが、やはり僕には人の心は良く解らん。
それでも、僕は僕なりに君の事を大切に思っているんだよ」
――同じくらい食べたいと思っているけれど、それは最後なのだと飲み込んで。
水夜子がバレンタインの催事について語っていたと聞き、竜真は「チョコレートファウンテンなんてそうそうやる機会もないだろ。一回体験しておくのはありだなって」と晴陽へと提案した。
並々と噴水のようにも見えたチョコレートを眺めていた晴陽は「何を浸けるべきでしょうね」と少しばかり困った顔をして居ただろうか。
好きなものを選べば良いのだと声を掛けるが、何分晴陽は真面目だ。中々決めきらない様子でもある。
「俺はとりあえずフルーツかな。色々置いてあるってことは、つけたら美味しいかもしれないし。晴陽さんはどうだ、好きなのは見つかったか?」
「迷いますね……」
「そういえばどんなやつが好きなのかとか、俺は晴陽さんのことをちゃんと知らないな。よかったら今食べ物の好みとか教えてくれないか?」
好みの食べ物、と聞かれれば晴陽はサンドイッチが一番だろう。手軽に食べられることを重視しているのだ。
「私も竜真さんの事は余り知りませんね。お好みの物があれば教えて下さい。……一先ずマシュマロからチョコレートをチャレンジしてみます」
真顔の晴陽が緊張しながらチョコレートファウンテンに向かう様子は中々面白いものではあったのだ。
バレンタインデー当日ともなれば、出不精なあの人を誘って出掛けたって屹度構わない。
何時もは幻想の街でのデートが中心だが、再現性東京は妙に賑わっていると聞き、ドラマはレオンを街へと誘った。
「練達でデートね。いいよ、普段と景色も変わって面白いんじゃない?」
「私は結構、練達には興味があるのですよ!
旅人の作った、異世界の知識が集積されている場所ですし製本技術も他とは全然違いますし、ね。興味は尽きません。
ほら、レオン君あっち! あっちも見てみましょう!」
走り出しそうなドラマの手をそっと握りしめてから「ほら、転ぶ」と揶揄うように言う。子供扱いに唇を尖らせるが、指が絡まればそれだけで赦して仕舞うのだ。
(シャイネンナハトから、でしょうか?
レオン君は吹っ切れたみたいで、対応が以前と変わってきた気がします。それは大変喜ばしいコトではあるのですが……)
「――ちょっと近すぎませんか!?」
ドラマが思わず声を上げればレオンは揶揄い半分に笑みを漏す。
「何? 不満? これが『通常営業』だけどね。不満じゃない? でも困りはしてる。これからもっとそうなるけどね」
「うう……」
「いやいや、お子様ランチを卒業なら俺って大抵こんなもんでしょ?」
お子様扱いしないで、なんていうなら『大人』の関わり方であるべきではないか。
「……で、ドラマ。今夜ここから『俺のやり方』でいいんだっけ?」
「……お、お手柔らかにお願い致します」
――何とは言わず嫌な予感がする。シュペルはグラオ・クローネなんていう乱痴気騒ぎには付き合わないと決めて居たのだ。
今日も静かで平和に終るべきなのだ。終るべき、だというのに。
「しゅぺるちゃん! ちゃんと言われた通り、期日までは大人しくしてたんだから会いに来たわぁ。
お土産いっぱい持ってきたんだからちゃんと扉を開けてねぇ。よーちゃんと来たんだからー!」
手斧で扉を『ノック』するメリーノはにんまり笑顔である。ずっしりとした荷物を持ったメリーノを気遣って荷物を持ったヨハンナに「よーちゃんやさしい!」とメリーノは微笑んで。
「シュペル先生ー! 来たぞー! 扉を開けてくれ!!! 俺からもグラオクローネのチョコだー。あ、義理だぞ! 義理!」
「しゅぺるちゃーん! よーちゃんもとっても楽しそうなのよー! ふふふ! 開けて頂戴ー!」
扉が手斧で叩かれ続けてボロボロになっていく。
一方で前日に同性でも『感謝の気持ち』があれば良いのだと家事全般、料理、職人魂のスキルを駆使した錬は魔改造したチョコレートを手にタワーに訪れていた。
「シュペル。
俺らしく性能、もとい栄養価を極限まで高め、医療知識、ファーマシー、科学も利用して最強の(?)星型チョコを作製したんだ。受け取って貰えるだろうか」
混沌に召喚されて『レベル1』で弱体化した錬にとっての目標。星として輝くシュペルにこそ、渡すべき品なのだ。
タワーの攻略をしなくては彼に会えない。だからこそ、外扉を破ったメリーノとヨハンナに続き錬もタワーに登るのであった。
「……あああああああ、と言ってる間にも既に外がやかましい!!! 奴等は何なんだ? 暇か? 暇なのか?」
頭を抱えることはなく、シュペルはぶつぶつと呟きながら迎撃態勢を整えたのだった。
●練達III
ナヴァンと出会ってから三回目のグラオクローネがやって来た。手許にはチョコレートのタルトを用意してニルはナヴァンの元を訪れる。
去年よりうまくできただろうか、気に入ってくれるだろうか、そんなことばかりを考えて研究所の扉を開いた。
「ニル」
「ナヴァンさま。グラオクローネです。
たくさんのありがとうとたくさんのだいすきを込めました。『おいしく』できたでしょうか」
わくわくとしているニルをまじまじと眺めてからナヴァンは何処か困ったように視線を逸らした。
時刻を少し遡る――同僚は「そういえばなぁ、ニィちゃん、2月14日が誕生日なんやってな」と何気なく行ったのだ。
「本当か?」
「ローレットの登録はそうなっとるって……そうやなくてもグラオ・クローネなんやから、なあ?」
何か贈物でもしろと言いたげだったのだ。ニルが何を喜ぶのか検討も付かずに四苦八苦したナヴァンがエランダのは可愛らしいマフラーだ。
「……誕生日だと聞いた」
「これ、ニルにですか?」
ナヴァンからの贈物は想定していなかった。目を丸くしてから蕩けるように笑ってニルはマフラーをぎゅっと抱き締める。
「ありがとうございます! とってもとっても大事にします!」
だいすきなひとと過ごすグラオクローネと誕生日はとってもとっても「おいしい」のだ。
整備員にお遣いを頼まれて、街を歩いていたSpiegelⅡはばったりとナインと出くわした。
「私の外殻の鎧に使う装甲にこのチョコを使ったりは?
いや、流石に無理ですか……む、シュピちゃんこんな所で会うなんて偶然ですね。私と一緒で何か買い出しにでも来たんですか?」
「おや、ナインさんこんにちはです。お買い物です。整備員の皆さんがチョコレートを食べたいとのことでしたので」
こくりと頷いたシュピーゲルにナインは合点が言ったように街並みを眺めた。確かに今日はチョコレートを『贈る』日だ。
「どうです、一緒にチョコでも食べますか?」
「ご一緒にチョコレートですか。そうですね。今日はそういう日らしいですので、お友達にもあげる分。ちゃんと用意したんですよ」
「ありがとうございます。では、私の本体でお相手を。特別な扱いというやつです。
誰にでも見せるものではないので感謝しても良いんですよ?」
ぱちくりと瞬いたシュピーゲルは「確かにナインさんは小さいですので、普段からは難しいのでしょう」と頷いた。
30センチ程度の少女にはシュピーゲルの用意したチョコレートは大きすぎただろうか。
「む、このチョコ大きい。な、なんですか小さく砕かなくても大丈夫ですって! ペットのお世話見たいなことをするなあ!」
「しかし失念していました。チョコが大きかったですね。さぁお食べ―」
シュピズジョークに唇を尖らせる、そんな友人がシュピーゲルにとっては少し愉快に感じられた。
「えへへ、ハッピーバレンタインだよ。ひよのさんっ!
今年も無事にこの日を迎えられて良かったよね。ジョーさんやなじみさんも楽しく過ごせてるかな?」
――なんて笑った花丸のそばでひよのは「そうですねえ」と店の限定メニューを確かめるようにaPhoneを見詰めていた。
「うぅ、サムサム。やっぱりまだまだ冷えるね。花丸ちゃん達もお店に行こっか!」
「はい。少し歩きそうですが、混み合いそうなので席予約をして――」
そんな二人へと飛び込んできたのは――「ハッピィィイバレンタィーン! お二人さん! しにゃも限定スイーツ食べたいです!」
しにゃこだった。大凡、アーリア先生にでも「邪魔しちゃ駄目よ」と言われて花丸を追掛けてきたのだろう。
「越智内さんとなじみさんもどっかでスイーツ食べてるんですかね! あの二人なんかよくわからないけど仲いいですよね!」
「「……」」
顔を見合わせる花丸とひよのは「まあ」「そうですねえ」と鈍感美少女を眺めている。嬉しそうなしにゃこと三人分の席を確保してからバレンタインメニューを注文した。
限定のスイーツメニュープレートは四種類あった。花丸とひよのはそれぞれ別のものを注文しシェアをしようと笑い合っているが――
「あ、これとこれを! 誰にもあげません! しにゃが全部食べます!」
食い意地のしにゃこをスルーして花丸は「おいしそー!」と手を叩く。
「花丸ちゃんバレンタインって大好きっ! だって色んなチョコレートのスイーツが楽しめるんだもんっ!」
「私もバレンタインが好きになりました。花丸さんが嬉しそうな顔をして居ますから」
嬉しそうに分け合う二人の横で「くっ……食べきれない、キツい……お二人様ちょっと食べませんか!?」としにゃこが叫ぶ。
「無視しないで下さいよ! 後日10倍くらいで返してください! じ、冗談です! 気にせずお食べください!」
「じゃあ頂きます」
「はっはーん、笹木さんは色気よりまだ食い気って感じですねー」
わかった風に言うしにゃこに花丸は何となく腹が立って取りあえず目潰しを仕掛けようとしたのだった。
●豊穣
「晴明さま、今年も梅の花を見にいきましょう。それと……渡したいもの、も。晴明さまのお時間を、わたしに分けて下さい、ね」
「ああ、メイメイ殿こそ俺のために時間を割いてくれて有り難い」
穏やかな笑みを浮かべる晴明にメイメイは頬を赤らめながら高天御所の梅の花を眺めてから中務卿として彼が使う部屋の片隅に収まった。
「……召し上がっていただけます、か?」
手ずからショコラオランジェットを差し出せば、メイメイはついついはにかみ彼の反応を伺ってしまう。
「いつも、わたしに真心を向けてくれる事への感謝の気持ち……で、晴明さまへの特別、です」
最初のひとくちはメイメイが自らの手で渡したかった。今は『好き』を上手く伝えられない。その気持ちに気付いたばかりだから。
「ありがとう」
晴明がひとくち、口に運んだことを見てからメイメイはお願い事があるのだと告げた。
「……わたしは、晴明さまの事を、少ししか知りません。貴方が、この国の中務卿で、いつも一生懸命に霞帝さまや政の事を考えていて。
真面目で、優しくて、あたたかくて。時々、少年のようなお顔をなさる所は……可愛らしくて。
……それぐらい。だから……教えて下さい、ますか? 少しずつ、でも。
貴方の事を知り、貴方と同じ景色を見ていきたいなって。そして、わたしの事も……知ってもらえたら、嬉しいです」
柔らかに告げたメイメイへ晴明は頷いた。一つ大きな問題がある豊穣郷だ。それを滞りなく終えられるよう、神使である彼女にも手を貸して欲しいと囁くように声を掛けて。
「はぁ……結局晴明様にチョコを渡す機会を失いました……はぁ……夜も更けてきましたしもう諦めて帰りましょう……」
前日からどこに晴明が居るかを確認して――それから、そわそわとして、夜が来て――
「ってゲェ……雨まで降ってたのですが……。もう溜息が止まりませんね……この際ですから雨に濡れて帰りましょ~!
……泣いてませんよ……仮にも神たるこの私が恋愛等で泣くなど……びい……」
妙見子は徐々に座り込んでから「泣いてませんったら」と繰返した。そんな彼女に影が被さった。
雨が止んだかと顔を上げた妙見子ははっと顔を上げてぱちくりと瞬いて。
「……は、晴明様!? あ、傘……ありがとうございます」
「泣いているのを見かけたのでな。どうかしたのだろうか?」
「うっ……そのごめんなさい…お手間を取らせてしまいましたね……妙見子ちゃんは平気です!
……ごめんなさい、やっぱり平気じゃないです。理由は秘密ということにしておきますね……」
もう少しだけ、話したいと告げる妙見子に晴明は頷いた。身体が冷えてしまうと自身が羽織っていた外套をそっと妙見子へと差し出す。
「……その、以前、自分の主上にぜひ会ってほしいっておっしゃってましたよね。
……私は時の帝に合わせる顔がない女です。
こちらに召喚される前は幾多の国を滅ぼしてきた、そんな女なのです。
きっと私に会えば、私がどういった存在なのか、すぐにお分かりになると思います。……今私から言えるのはこれだけ」
呟く妙見子は何時か、全てを話し背中を預けて貰えるように努力すると紡ぐが――
「俺は、召喚前の事情は知らぬが、底に拘る必要は無いとそう思って居る。……貴殿も、この場所では一人の女性であろう?」
国を傾ける者など霞帝がおおらかに受け入れて無かったことにしてくれると、彼は己の主を思って楽しげに笑っていた。
●覇竜
「外の世界で見つけたチョコレートドリンクなら、皆に配りやすいかなって、試作しようとおもって」
瑞希は琉珂に感想を聞きたいのだと声を掛けた。飲むチョコレートもあるのだと誘えば琉珂はウキウキした様子でやって来たのだ。
「イチゴを入れてみたもの。甘いもの。ほろ苦い大人の味も! 琉珂さんは、どれが好きだった?」
「瑞希は?」
「ボクはイチゴ入りも良かったけど、お菓子を合わせるなら、ほろ苦いのもいいかな」
「私はイチゴが良かったわ。とっても美味しかった!」
イチゴって美味しいわねと微笑む琉珂に瑞希はにっこりと笑う。イチゴのホットチョコレートと、添えた苺を飾り付けしてから瑞希は琉珂に向き直った。
「君に幸福を。灰色の王冠を!
ボクから琉珂さんへ感謝の気持ち! 貴方の世界が沢山の色で彩られますように」
「わ、私も何か用意をしておけば良かったわね。私からもアナタの幸運を祈りたかった!」
悔しそうな里長に瑞希はにんまりと笑みを返したのだった。
アルフィオーネの手伝いをしていたアルフィンレーヌはウルトサライズハートチョコを漸くのことで完成させていた。
シャイネンナハトの時はやらないと言えば村人が寝込んでいた。だからこそ、アルフィオーネはアルフィンレーヌを助っ人に一週間前から材料を買いそろえ確りと準備を整えたのだ。
「「一人一人に配るのは面倒だから、みんなで分けて食べてね!」」
声を合せたアルフィオーネとアルフィンレーヌ。村長に連れられて遣ってきた村人達は心の底から喜びを滲ませていることが良く分かる。
「琉珂! 琉珂! 久し振りだから一緒にチョコレートを作ろうよ! 練達でも見かけて食べたけれど、すっごく美味しかったんだぁ」
「ええ、良いわね!」
「琉珂は何を握ってるの?」
謎の脚が生えた人参を握りしめている琉珂を見詰めながら玲樹はぱちくりと瞬いた。流石に原料からはムリだからと板チョコを購入してきた玲樹は『ウゴウゴニンジン』は余所において気を取り直す。
「見て見て! この桜色のチョコ、琉珂の色だなって、思ったから思わず買って来たんだ。
ルビーチョコレートって言うんだって、今日はこれを使って作るよ」
「わあ、屹度素敵ね! じゃあ早速」
『ギイイイイエエエエアアアア』
――どうしてウゴウゴニンジンをすりおろしたんだろう?
玲樹は細かいことは気にしないことにした。
「わあ、琉珂は動くチョコレート? すごいね!! 俺はどうやっても動かないんだよね……名前を付けたら良いのかなぁ?」
「動くと怒られるけれど……でもウゴウゴニンジンを入れたからかしら? 名前はエリザベスにしましょう」
命名図鑑を手にしていた琉珂に玲樹は「よろしくね」とエリザベス(仮)へと微笑んだ。
「よし! はい、琉珂、あーん。これは感謝の気持ち。いつも遊んでくれてありがとう」
「あーん! おいしい!」
生チョコを食べて頬を緩める琉珂と玲樹の横をエリザベスが駆け抜けて行ったのは気のせいではないのだ――
●深緑
折角のグラオ・クローネ、とは言えどもそこまで色気づいた仲ではなく、一日を共に過ごすのも難しい話しだとクロバは認識していた。
ラサでの一件もあり、警護という形ならばリュミエの傍に居られるだろうか。
「行きたいところとか、無いのか? 何があったって傍についてるからしっかりガードするよ」
「……そう、ですね」
悩ましげなリュミエにクロバはリュミエが強いのは知っていると付け加えた。ちょっと位、リュミエが我儘を言う時があってもいいだろうとぼやくのだ。
彼女の視点から見る深緑を知りたい。それが折角の『この国の御伽噺の日』なら特によいだろう。
「なら、クロバさんが持ってきて下さった王冠葉(クローネコルザ)の元に、夜にでも行きませんか?」
――曰く、夜になってから彼女はその霊樹に『妹に贈りたかったチョコレート』を捧げるらしい。
共に訪れたクロバは満足げに振り向いたリュミエに贈物を差し出す。『大切な人への贈物』の日だ。
美味しそうだと思ったチョコレートと薄紫色のスカーフを。髪色に近いそれは手作りだ。
「……頂いて、宜しいのですか?」
「……こんな日を素敵だったと覚えててほしい。
そう願ってこれを贈る。深緑の隣人として、君の隣人になりたい者として」
穏やかに微笑んだリュミエは感謝を告げてから目を伏せた。臆病者の長命種はどう堪えるべきなのかさえ分からなかった。
「今日はグラオクローネに備えた準備! と、いうわけで、ショッピングを楽しみましょう~!」
にんまりと微笑んだアレクシアは偶にはお買い物を楽しもうとシラスを深緑に招いていた。
「グラオクローネは深緑が本場! こういう時にしか見れない面もあるんだから!」
事前にリサーチ済みのメモとガイドブックと睨めっこをするアレクシアが何処か微笑ましい。
地元と言えどアレクシアにとっても深緑は中々見て回るには広い場所だ。特に、幼少期は寝込みがちだったこともあるだろう。
「フランツェルも知らない凄いお店見つけようぜ」
「教えてあげようね!」
シラスはチョコが好きだと認識していたアレクシアはやっぱりと笑った。色々と目移りしては食べ歩きのようになるシラスは微笑ましい。
「美味い、流石はおとぎ話の本場だぜ」
「もっと美味しいものがあるから待っててね。ちゃーんと予約してあるから!」
嬉しそうに笑うアレクシアに連れられて入ったのはアクセサリーショップだ。「コレに合うね」と言い合うだけでもただ、ただ、楽しい。
ウィンドウショッピングを共にするだけで、コレだけ嬉しいのだとシラスは知らない街を歩く当たり前の日を楽しむようにアレクシアを追掛けた。
深緑はシラスにとって特別な場所だ。この場所がシラスとアレクシアにとっての一つの転機に思えるからである。
一緒に世界を広げてきた、出会った頃に眠たくなる前で語り合った夢を一つずつ叶えた。
彼女は背中すら見えなかった『兄さん』を追い越したのだ。そんな彼女が、親友が、誇らしい。
「最後は私イチオシのお菓子屋さん、『フローラリア』に寄っていこう!
ここのケーキがほんとーに美味しくて!昔から……それこそ外に満足に出れない時から、大好きだった。
今日はここでチョコレートケーキも買っていきましょう! 待って居てね?」
にこりと笑ったアレクシアにシラスは頷いた。待っている間にも、思い出に浸っていれば胸に炎が灯った。
今度は自分の番だ。紛い物のメダルの勇者では満足しない。幻想はこれから揺らぐかも知れない――だから。
「アレクシア、俺もっと頑張るよ、見ていてくれよな」
「うん」
見ているよ、と笑ってアレクシアはシラスに手を差し伸べた。一緒に進もう。迷う事なんて無いように。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ハッピーグラオクローネ。
皆さんの2/13、2/14が幸せな思い出になりますように!
GMコメント
夏あかねです。自由行動出来ます!
●グラオ・クローネ
グラオ・クローネの細かな御伽噺については特設ページをご覧下さい。
簡単に言えばバレンタインデーです。混沌世界では感謝を伝える日であるとされ、男女関係なく贈物をすることが多いです。
女性が愛を伝える人も言われているので、男性の中にはチョコレートを心待ちにする人も居るのかも……。
再現性東京ではバレンタインデーと呼ばれ、チョコレート催事も盛りだくさんだったようですよ。
●注意点
・名声は【幻想】に一律付与されます(選んだ国家に入るというわけではありませんのでご注意ください)
・鉄帝/ラサは世情を鑑みて選択肢から除外しています。
・妖精郷は深緑を、再現性東京は練達をセレクトしてください
●同行者について
プレイング一行目に【グループタグ】もしくは【名前(ID)】をご明記ください。
またNPCのお誘いは夏あかね担当NPCでしたら通常通りお声かけくださいませ。
担当外NPCの場合は恐れ入りますが担当に連絡の上、参加のお誘いを頂けますよう宜しくお願い致します。
(担当の付いていないNPCは場合によっては御顔出しをさせて頂きます)
【国家指定】
向かいたい国家をセレクトして下さい
(現在の国家情勢上【ゼシュテル鉄帝国】と【ラサ傭兵商人連合】は選択肢から抜いています)
【1】幻想&ローレット
幻想(レガド・イルシオン)に向かいます。
何時も通りの日常と言うのが一番似合うかも知れませんね。
【2】天義
隣国鉄帝国に警戒を強めながらも、日々を過ごす天義です。
国内情勢的には異様な襲撃が増えており、不安定ではありますがまだ平穏と言えそうです。
変わらずの日常を送っておりミサなどが楽しまれているようです。
【3】海洋(シレンツィオ含)
温和な気候が特徴の海洋も今冬は少しばかり肌寒いようです。
観光地でもあるためにグラオクローネ関連のショップが建ち並んでいます。
シレンツィオや竜宮でもそうした関連イベントが行なわれているようですね。
【4】練達(再現性東京含)
グラオクローネであれど研究者達の日常は変わらずに。細やかながらも楽しげに過ごしています。
また、再現性東京ではバレンタインとして親しまれ
チョコレートの催事などで賑わっているようです。
【5】深緑(妖精郷含)
復興の最中の深緑です。隣国ラサの『ゴタゴタ』には少しばかり警戒を強めています。
ですが、グラオクローネは深緑の御伽噺です。
ファルカウではグラオクローネのメニューを出す飲食店が盛況です。
アンテローゼ大聖堂ではファルカウへの祈りが行なわれ、茶会で和やかな空気感です。
妖精郷では甘いチョコレートを楽しむ可愛らしい妖精達の姿が見られます。
【6】豊穣
相変わらずの豊穣郷は梅も美しい頃合いです。
雪景色、梅、そんな僅かな春の気配を感じながら過ごしてみては如何でしょうか?
【7】覇竜
亜竜集落フリアノンが中心ではありますが、各地の点在する集落にも遊びに行くことが出来ます。
まだまだグラオクローネに馴染みがないのでチョコレートは珍しいお品のようですね。
行動
以下より行動を選択してください。
恐れ入りますがいずれかの日程のみとなります。
(分散して書かれている場合は描写が薄くなる可能性がありますことを予めご了承ください)
【1】前日(2/13)
前日の準備風景です。チョコレートを作ったり贈物を選んだり、前日の準備の様子を描写します。
自由行動ですので、お部屋をお掃除して当日に備えるぞ! でも良いかと思われます。
チョコレートを作って当日に思いを馳せる……なんてのもとっても可愛いと思います。
希望ヶ浜などではバレンタインの催事が行われているようです。様々なチョコレートが並んでいるのも圧巻ですね。
【2】当日(2/14)
当日です。グラオ・クローネの当日です。各地のカフェなどではバレンタインメニューが楽しめます。
ご自宅で意中の相手にプレゼントを贈るのも良いですし、デートに行くのも良いかと思います。
また、チョコレートを当日に作るぞ!というのもアリだと思います。一緒に作るのとかも楽しいですよね。
基本的に自由行動です。バレンタインピンナップの様子をここで、というのも大歓迎です!
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