シナリオ詳細
さいごのねがい、さいごのたび
オープニング
●夢のはなし
これは夢の話であり、あるいは願いの物語である。
はるか昔、ネオフロンティア海洋王国は『地図の外』を夢に見た。
絶望の青の更に先に、新天地をもとめ船を出したのだ。
その結果として――誰一人、帰ってくることはなかった。
それが実に、二十二回。
数十年に一度、女王の大号令によって幾度となく挑み、沈み、挑み、沈み。
幾百幾千の無念の末に、ついに『第二十二回海洋王国大号令』において、人類は地図の向こう側を目にしたのであった。
「あの歴史的瞬間から、もう二年も経ったのですわね」
ワイングラスを傾け、カヌレ・ジェラート・コンテュール (p3n000127)は遠い時空似目を細める。
「そのおかげで我々豊穣との縁が繋がったのです。あれは時代の幕開けと呼ぶに相応しかった」
月ヶ瀬 庚(p3n000221)も優しげに目を閉じ……そして、手元の書類にスタンプを押した。
目の前には書類の山。庚にも、カヌレにも。
「ところで、手が止まっていますよ」
「どうしてー!」
カヌレは勢いよく立ち上がると、海洋王国フェデリアのスタンプを放り投げた。
「『深怪魔の脅威が去った今こそクルーズツアー開幕ですわ!』って昨日言っていたのに、なんでわたくしたちだけ総督府でお留守番なんですの!?」
「まあ、誰かが残っていないとね?」
とてつもなく素早い手際で書類をかたづけていくソルベ・ジェラート・コンテュール(p3n000075)。
そこはフェデリア島一番街、行政中枢として知られるフェデリアハウス。
がちゃりと扉が開き、フィオナ・イル・パレスト(p3n000189)が顔を覗かせた。
「パーティーの準備できたっすよー!」
「パーーティーーーですわーーー!」
お船に乗れないならいっそのことパーティーだ! という気持ちになったのだろう。カヌレが部屋を飛び出していく。
ソルベと庚も顔を見合わせ、肩をすくめてから歩き出した。
「まあ、今日くらいは」
「『祝勝会』、ですしね」
●シレンツィオパーティー
一番街に建設されたラサ大使館という名の巨大パーティー会場。
ラサの建築士を中心として様々な国の意匠が施された先進性と伝統の合わさったこの建物では、ここまでの戦いへの勝利と未来の栄光を祝してのパーティーが開かれる。
会場には『Giardino della Stella Bianca』ほか様々なシレンツィオ内企業が協賛した豪華な料理やバーカウンターが並び、株式会社ミフィスト・スタッフサービス、派遣会社ルンペルシュティルツ、ワダツミなどの用心棒が結構な数で雇われている。要人を多く招いていることもあるが、先の戦いで兵士の多くが負傷したことも原因だろうか。
兵士より無番街の用心棒のほうがタフというのは、なんだかシレンツィオらしい話である。
「おー、揃ってるねえ。あのゴタゴタんなかじゃあ裏方に回りっぱなしだったからねえ。そろそろ表で酒が飲みたくなってさ」
『禍黒の将』アズマがつかみ所の無い笑みを浮かべて酒瓶を手に取っている。
会場に招かれているのはそれだけではない。エルネスト・アトラクトス総督、ゼニガタ・D・デルモンテ総督、ファクル・シャルラハ司令官といった顔ぶれもだ。
「しかし、激しい戦いだったな……」
フェデリア島や竜宮、そして天浮の里でおきた大きな戦いを、ゼニガタたちは思い返す。
初めはこのシレンツィオ・リゾートの周辺に深怪魔なる新種の怪物が出没するという事件だった。やがて深怪魔を封印することのできる竜宮の巫女が現れ、彼女たちと友誼を結ぶなかで邪神ダガン=ダガヌの陰謀に触れることになった。
決して少なくない犠牲を払いながらも、未来と希望を守るために戦い、そして……勝利したのだ。
「てか、あーしらが来て良かったんすかね。邪道バニーっすけど」
「社長サンらが話つけてくれてんだ。今更野暮ってもんだよ」
竜宮からはサラバンドやビバリー・ウィンストン、その他様々なバニーがやってきて、本職の意地を見せてやるとばかりに給仕に勤しんでいる。
「書類仕事が大量に残っている。今日は顔出し程度で抜けさせて貰おう」
グラスを手にしていたエルネストが言うと、ゼニガタとファクルが『もうか?』という顔をした。
「この後祝砲代わりに花火を打ち上げる予定だ。せめて見ていかんか」
「……まあ、それまでなら」
●クルーズツアー
「で、それが『あんたら』の最後の願い事だったのかい?」
ジャケットのポケットに手を入れて、ファニー(p3p010255)は宙を見上げる。
空にふわふわと浮かぶのは、色鮮やかな光だった。まるで子供が好き放題にシロップをかけたかき氷のような、かろうじて人型をとったりとらなかったりするそれらを、『フリーパレット』と総称する。
「ぼくたち」
「いきたいんだ」
「ぜつぼうのあおの」
「そのさきに」
「しんてんちに」
彼らはかつての願いの欠片であり、この海に残った思念の集合体である。
生前叶えられなかった願いだけが漂い、記憶も人格もなくしながらも、願いが成就することをただ祈っている。
「任せるのだ。皆、必ず送り届けてみせるのだ」
声がして振り返ると、キャピテーヌ・P・ピラータ(p3n000279)が立っていた。
「そう――この、クイーンエリザベス号で!」
大空がある。大海がある。豪華客船クイーンエリザベス号のデッキで、キャピテーヌは腕を広げてみせた。
クイーンエリザベス号。それは第十三回海洋王国大号令を発令した当時の女王から名をとった豪華客船である。
国の威信をかけたクルーズツアーは諸問題を解決し、ついにフェデリア島から出港。
はては豊穣郷カムイグラへと至るツアーとなる。
シレンツィオ・リゾートを築くにあたって手を結んだ国の代表、イザベラ・パニ・アイス(p3n000046)、今園・賀澄(p3n000181)がクイーンエリザベス号の中央パーティーホールにてそれぞれグラスを掲げて見せた。
「本来なら、鉄帝国の代表も招待されるべきところだったのじゃろうが……」
「いくら新皇帝に即位したとて、あの冠位魔種を呼ぶわけには、な」
彼らの中で、『絶望の青』を踏破し『静寂の青』へと変えた盟友はヴェルス・ヴェルク・ヴェンゲルズ(p3n000076)を置いてほかにない。
資本という形でこのシレンツィオ・リゾート計画に加わったラサの重鎮ファレン・アル・パレスト(p3n000188)も、その点では同じだ。
「では、こうしよう――ヴェルスに」
「「ヴェルスに」」
三人は乾杯、とグラスを掲げる。
するとそこへ、サンブカス=コン=モスカがグラスを手にやってきた。フェデリア、アクエリア、コン=モスカの主要三島からなるシレンツィオ・リゾートであるが、祝福の島であるコン=モスカから彼が出てくることは稀であった。
「招待、感謝する」
その横には『天浮の里』からやってきたという潔一や浮・妃憂たちの姿もある。
原初のコン=モスカことリモーネとの戦いを終え、彼らの表情はどこか柔らかい。
彼女の思惑と影響により無理な神性を宿されていた亜竜種の一人、氷雨――は激戦の果てに命は辛うじて助かったものの、意識は戻らず、対と言っていい存在たる卯ノ花と共に天浮に残っているそうだが。
一方で、パーティーホールには竜宮から派遣されたバニーたちが給仕に勤しんでいた。
例えばシレーナ・セレーネやソーリス・オルトゥスといった紳士淑女を対象とした正当なるバニーから、ヴィナース・V・ファリディアのような我が道を行くバニー。
中にはアレクサンダー・スターミュージーのようなサンマヘッドのバーテンダーがバーカウンターで静かにシェイカーを振っている光景も見える。
かと思えば、テティシア・ネーレーが扇子を振って踊る横でメンダコ型精霊めんてんちゃんたちが寿司を握ったり刺身を捌いたりして次々に料理を作っていた。
「勝利と栄光を! 今宵はパーティーですわ!」
- さいごのねがい、さいごのたび完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2022年11月24日 22時26分
- 参加人数48/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 48 人
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参加者一覧(48人)
リプレイ
●
「今宵はパーティです! シレンツィオ・リゾートと、その全ての友人達の親交と繁栄を願って――!」
「「KPーーー!」」
ティティシアと並んでグラスを掲げる『勇往邁進』リディア・T・レオンハート(p3p008325)。
まわりではせわしなく『めんてん』が料理を運んだりドリンクの乗ったトレーを運んだりと動き回っている。
リディアの衣装は特別にめんてんくいーん仕様だ。
「これが竜宮の正装なのでしょう?」
「ええ、ええ! けれどその伝統を作ったのは……誰なのでしょうね」
意味深に目を瞑るティティシア。
ちらりと目を開けると、サラバンドがソファに腰掛けて煙草を吸っていた。ホスト側の存在のはずだが、貫禄がすごい。
「おや、ビバリーさんは?」
「それなら船のほうに行ったスよ」
「なら、こちらはこちらで楽しみましょうか」
そう言って現れた『つまさきに光芒』綾辻・愛奈(p3p010320)の姿は美しい紺のドレス。シレンツィオはシレンツィオでも上流階級向けの会場で見るような、気品溢れる姿であった。
「ネオン光眩しい竜宮城…というのは、私にとっては中々にイメージギャップの大きなものでしたが……マイスター通りのあの雰囲気、とても好きです。
またジャルムピースにも遊びに行きますね。今度はお仕事抜きで」
「それはもー! 大歓迎っスよ、今度はサービスするっス」
ニッコリ笑うサラバンドに、愛奈は微笑みを返した。
(何でもない日常を護り続ける事。私がかつて諦めて、そしてもう一度掴んだ事。――今度は、離しません)
「お、やってんな!」
『島の用心棒』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)が両サイドにバニーを侍らせた状態でやってきた。
かとおもってよく見たら、片側はバニー仕様の『蒼騎雷電』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)だった。
「ふんふふんふふーん♪ いやー、気分がいいッスよね。
パーッと祝勝会、無事に出来て良かったッス! 竜宮の復興は、イルミナも手伝いにいくッスからね! ……って、バニーなのにバニーしてない!?」
「こうやって一緒に飲むのが『ジャムルピース』流ッスよ」
「型にとらわれないやつッスね!?」
グラスを掲げるサラバンド。イルミナにそのグラスを手渡すと、キドーの肩をポンと叩き、火のついた煙草をキドーにくわえさせてから会場を出て行った。
キドーはその後ろ姿をちらりと見ただけで、小さく二度ほど頷いた。
彼らの間には既に、何か大きく深い絆ができているようだ。思えば宝箱を開けたあの日から続く、かけがえのない何かが。
「俺はこの混沌でルンペルシュティルツをデカくしていく。だからよ……」
そこまで呟いてから、キドーは煙草の煙を吸いこんだ。
これ以上言葉にするのは、野暮ってもんだ。
「カヌレ、お仕事お疲れ様。折角のパーティだけど、一緒に見て回っていいかな?」
「ええ、よろこんで!」
にこっと笑うカヌレに手をかざし、ドレス姿の『穢翼の死神』ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)もまた微細に笑った。
二人っきりになれる雰囲気では、今日はまだないけれど。今度はそうしてみようかな。伝えてみたい言葉もあるし。ティアは挨拶に来る人々に笑顔で応対するカヌレを横目でみながら心の中で呟いた。
二人っきりになれないのは、やはり今日の彼女が要人中の要人だからだろう。
『太陽の翼』カイト・シャルラハ(p3p000684)たち警備員がきっちり会場のあちこちに立ってきょろきょろとしている。
「ソルベ様、今後は天浮の里とも交易をしていくのか?」
「どうでしょう。これからの交渉次第ですわね。けれど、きっと前向きに進みますわ」
「そうか……」
卯の花や氷雨はここには居ない。噂だと氷雨が目を覚まさないらしいし……と心の中で呟いて、自分も交流の架け橋になれるだろうと考える。
「天浮の里を馴染ませていったら、卯の花も気軽に遊びにこれると思う。
そんな日が来るまで、四番街はちゃんと守っておかないとな」
「ええ、その通りですわね!」
その一方で、『おかえりを言う為に』ニル(p3p009185)は庚たちと談笑をしていた。
「おつかれさまでした、のおまつり。
庚様たちもおつかれさま、なのですね。
たくさんのごはんも、きれいな花火も。
みなさまわいわいしめいて。
ニルはとってもとっても楽しくて、うれしいきもちになります。
ずっと、こういうきもちが続いたらなって」
そのまた一方では、『砂国からの使者』エルス・ティーネ(p3p007325)が会場に残っていたフィオナや接待にやってきたキュールと談笑をしていた。
「これで晴れてこの竜宮城の『海底に輝く満月(ディープシー・フルムーン)』店に顔出しが出来ると言うもの……。
フィオナさんとは来たけれど、ファレンさんはこう言うお店どうかしら?」
「行くときは行くんじゃないっすかね?」
エルスはそれもそうか、とファレンがラサのそれっぽいお店で接待をうけるさまを想像した。そういうケースすごい沢山ありそう。
「ところで、『あのお方』のこと聞かせてよ。エルスがキュンとしちゃってる人、なんでしょ?」
恋バナに関しては譲れないキュールである。フィオナが目をきらんとさせて話を始めると、エルスは両手をぶんぶん振った。
「もう、ファレンさんったら……止めてちょうだいな」
顔を赤くするエルスに、二人はくすくすと笑うのだった。
「まて、俺は竜墨のリョウじゃ――」
新作映画が発表されたせいでより間違えられやすくなってしまった『鳥籠の画家』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)は、本日何度目かのサインをことわ……ろうとして、あえてキリッとした顔をした。映画の台詞をつぶやき、色紙に美しいイラストを施す。
(もうあながち偽物ってわけでもなくなったしな。次回作に繋がるようファンサをしておくか……)
それに、ここまでの別世界。創作へのいい刺激になりそうだ。
「シレンツィオも平和になって、本当に良かった。豪華なパーティー…楽しみ。みゃー」
花火を楽しみにしていた『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)。
「皆楽しんでて、バニーさん達も頑張ってるね…元気そうで良かった
猫さんもいるかな…いたら猫さん撫でたいな。猫さん可愛い。みゃー」
会場のテラスへ出て、もうじき花火のあがる空を見上げている。
「街のみんなも私達も、みんなが協力してここを守ったんだね!
何だか…うん…。
感慨深いって言う気持ちって、これなのかなぁ?
あはは! 間違ってるのかも分からないや!
とにかく嬉しくて思わず笑っちゃうね! ふふ!」
同じくテラスに出てきた『道草大好き』モニモニ・プー(p3p010585)がふふっと笑う。
「私がお手伝いする切っ掛けになったキャピテーヌさんの事もそうだけど、戦闘中、この街の人にもたくさん助けられた…。
みんな本当に勇気があるんだなって、凄くびっくりしちゃった。
私も困った人や何か大変な事が起きた時に、すぐ助けられたり、勇気を出せる人になりたいな……」
そんな話をしていると、ドンッと空に花火があがる。ゼニガタたちが祝砲としてあげる花火だ。
『生イカが好き』ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)もそれに混ざってガトリング花火をあげまくっていた。
「色々あったけどこれにて一件落着ってやつだな!
シレンツィオの平和も守れたし、オイラも一安心だぜー。
っつーわけで今日は祝勝会を満喫するぞー! うおー!」
普通じゃありえない弾幕(?)であがる花火に、会場の人々が笑顔をあげる。
その中には『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)の姿もあった。
いつもよりグッと大人っぽい、そしてちょっと貴族っぽい豪華なドレスに身を包んだイリス。慣れないドレスを父親に見せたいような見られたくないような。フクザツな気持ちでいると……後ろに立った誰かになじみ深い香りがした。
振り返らなくても、誰だかわかる。
けれど、何を言えばいいんだろう。何をしたくて、今ここに……。
「よくやった」
大きな花火の音のなかで、その言葉だけがイリスの耳に届いた。
振り返ると、そこにはもうあの人はいない。けれど、子供の頃からずっとあったあの香りと、胸の温かさはちゃんとそこにあった。
夜の海に、竜宮イルカとともにぷかぷか浮かぶ『玉響』レイン・レイン(p3p010586)。
いつかは荒れ狂っていたこの海も、今では静かで穏やかだ。
「…後で、海の底にも行こうかな…
同胞がどうなったのか…知りたいし…
生き死になんて…負けたらただ弱いだけ…だと思ってた
けど…今回のは、何か違う…気がするし…」
すると、イルカがつんとレインの足をつついた。
「連れていってくれるの…?」
レインはうっすらと微笑み、イルカの手をとった。
夜のベンチにひとり、『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は腰掛けている。
「なんというか、色々必死でしたね今回の戦いは……」
「こんなところにおられましたか」
後ろから声がする。深く、そして心慮深い紳士の声だ。振り返るとアレクサンダーがスッとグラスをひとつ差し出してきた。
「人の想いを忘れず、繋げていけた今回の戦い……きっと、これが最善だったのでしょう」
あがる花火に照らされて、揺れるカクテルの水面。
「彼らは無事、絶望の先へたどり着けたでしょうか」
「あの時といい今回といい…嬢ちゃんがいてくれりゃぁ、こんなおっさんでも無茶ができちまうらしい」
「それこそ、無茶し過ぎて……あの世へ行ってしまわんように一緒におるの」
『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)と『暁月夜』蜻蛉(p3p002599)がよりそい、ベンチに腰掛けている。
「よお」
そこへ、深い馴染みの声がした。アズマだ。
「今回は無番街の用心棒にはなってくれなかったのかい? さみしいねぇ~、また一緒に仕事ができると思ったのに。どうだい、これから――」
蜻蛉を守るように立ち上がる十夜。
「……悪い冗談はよしてくれや」
「うちは、大丈夫やから。それより……」
十夜の目が、空気が気になる。ふと、十夜が彼女の手を強く強く握っている事に気付いた。
アズマもそれに気付いたのだろう。少しだけ、ほんとうに少しだけ驚いた顔をして、そしてすぐに深い笑みにそれを隠した。
「そうかい。ま、気が変わったら遊びにきなよ」
蜻蛉にだけはウィンクひとつで済ませ、アズマは悠々と立ち去っていく。
その背を見送る十夜の手を、蜻蛉はせめてもと、握り返した。
この先どんな不確かなことがあったとしても、この手のぬくもりは本物だから。
「ふむ、……美味しいな。この島には、まだまだ私の知らぬ美食の数々があるようだ」
「でしょ? 美味しいよね!」
『思い出を守れ』ルブラット・メルクライン(p3p009557)と『オフィーリアの祝福』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)はにっこりと笑い合い、お菓子をわけあっている。花火をみたあとは無番街のあのお店にいくつもりなのだ。
「あのね、ルブラット。
無番街での戦いの時、『イーハトーヴ君』って名前で呼んでくれたでしょう?
君とまた一つ仲良くなれたみたいな気がして、すごく嬉しかったんだ
それに、大切なお友達の隣だから、安心して戦えたっていうか……」
「おや。呼び方のこと、気付いてくれていたのか。
礼を言われる程のことでは……いいや、感謝の気持ちは素直に受け取っておくとしよう。
……信じ難いかもしれないが、最近、私は君を見ていると昔の自分を見つめている気分になるんだ」
イーハトーヴは意外そうに、ルブラットはどこか心配そうに、互いの顔を見つめた。
「だからなのかな、君と肩を並べていると、妙に安心した心地になるのは。
私も君の隣に居ることを許してもらえて、嬉しく思っているよ。
ありがとう。――イーハトーヴ君」
「うん、こっちこそ――ありがとう。ルブラット」
これ以上、互いに言葉はいらない気がした。
背負ってきたもの。なくしてきたもの。そしてだからこそなくしたくないもの。
二人はあがる花火を見上げ、それを強く胸に抱いた。
●
(私にとってシレンツィオは『彼女』が眠る海でもあります。勿論勝利が齎されて嬉しいです。それが故に今一度……)
「私が憧れたあの歌い手さんの眠る海に……彼女の歌を捧げたい。
久しぶり……忘れたわけじゃないんだけど、命日に来れなくてごめんね」
花火の音に溶け合うように、『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)は海に歌を捧げた。
途中で、フレーズの一部が『彼女』の声を真似た。
そのことに『海淵の騎士』フェルディン・T・レオンハート(p3p000215)は少なからず驚いたが、横に立つ『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)は意外なことに目を瞑ったままだ。
港を出る豪華客船クイーンエリザベス号。
遠い花火を眺める人々の中に、サンブカス=コン=モスカの姿もあった。それが今、フェルディンたちの隣にいる。
フェルディンは、心の中に様々な思いを湧かせながらも、ただひとつの言葉を述べることに決めた。
「必ずや、我が身命をモスカに――クレマァダ様に献上致しましょう」
驚きに振り返るクレマァダ。
その言葉をうけて、いまこそはとクレマァダは父へと向き直る。
「すでに初代様は亡く、この剣は持ち主を定めた。
どうでしょう、これをフェルディンに下賜するというのは」
今度はフェルディンが驚きに振り返る番だ。しかし。
「君自身が決めなさい」
優しくも、そして厳しくもある、それだけの言葉をザブンカスは告げ、そしてもう必要ないだろうと背を向けその場を去った。
顔を見合わせるフェルディンとクレマァダ。花火が、より一層に大きくあがる。
「ぶはははッ、せっかくだし余興の一つでもさせてもらいますかねぇ!
クルーズツアーが出来なかった頃に一度やらせてもらったが……鉄板焼きのライブキッチンだ!」
「うわぁー! すごいのだ! 料理がもうダイナミックなのだ!」
きゃっきゃとはしゃぐキャピテーヌ。『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)はニッコリとオークスマイルを浮かべ、鉄板焼きを仕上げてみせる。
「今回も食ってくかい! キャピテーヌの嬢ちゃん! うん!」
そんなキャピテーヌの頭に、『開幕を告げる星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)ががっしょんとうさみみを装着させた。
「わっ」
「遅れちゃってごめんなさいですよ。
でも、これでやっとこうしてみんなの日常が戻ってきたって思うと、本当に、よかったのでして」
後ろから覗き込むルシア。
二人はうさみみをぴこぴことやって。
「えへへー」
「えへへー」
あの日みたいに、また笑い合った。
「おかしいなぁ、一応乗るのは初めてじゃないし、しかもあの時はたしかキャピテーヌさんとも会って……ええい。今回は誰にも会えなかったのが悪いって事にしとこっと」
『自在の名手』リリー・シャルラハ(p3p000955)は広すぎる船内で早速迷ってしまったようで、きょろきょろとまわりを見回しながら歩いている。
と、うさみみがぴこぴこしているのを見つけた。
「あっ!」
「あっ、リリーなのだ! 一緒にごはんを食べよう!」
こちらに手を振るキャピテーヌ。リリーはほっとして、駆けていく。
「様々な思いを乗せ、遂に豊穣に向けての船旅ですね。
私にとって豊穣は向かう場所ではなく1つの帰る場所なので行きの方とは見え方が違うでしょう。
向かう先もそうですがこの船に対しても思い出がありますし……」
『善悪の彼岸』金枝 繁茂(p3p008917)はいつか座って場所にもう一度座り、隣を見る。
そして虚空に向けてグラスを翳した。必ず、迎えに行くと決めて。
「さて、ここにいない人を想って1人酒で船旅をフィニッシュするのもあれですし、あっちのぱーりーぴーぽーに私もまぜてもらいましょうかね」
花火が一通りあがったあとの船内パーティー会場では、『酔狂者』バルガル・ミフィスト(p3p007978)がバニーを眺めてご満悦だった。
「随分鼻の下が伸びたじゃないか」
「ハッ!?」
ビバリーが横に立っていたことに気付いて高速で振り返るバルガル。
「い、いやあ……」
「前から思ってたけどアンタ、本当にこういうのが好みなのかい?」
ながい髪をかきあげ、正統派のバニースーツを見せつけるようにポーズをとるビバリー。バルガルはあまりにも複雑な目をして、ビバリーもまたどこか複雑な瞳をゆらした。
「ま、楽しんでいきな」
ぽんぽんと叩いて立ち去るビバリー。すれ違いにヴィーナスがやってきて、『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)にドリンクを渡す。
「ああ、ヴィナースさん。色々とありがとな。あんたと出会えたのも幸運だった。
戦いのときには色々と奔走してくれたし、本当に感謝してる。
その恰好だけはいつまでも慣れそうにないけどな。はは……」
「風牙さんって真面目ですもんね! けど、そこがいい」
格好には慣れないけど、お喋りするのはやっぱり楽しい。風牙は照れ笑いを浮かべた。
「また遊びにくるよ。そんときは必ず顔出すから。
そっちも、困ったことがあったらいつでも呼んでくれ。すぐ駆け付けるからさ」
『赤薔薇の歌竜』佐倉・望乃(p3p010720)と『黄金の旋律』フーガ・リリオ(p3p010595)。二人は甲板から夕焼けを眺めていた。オレンジ色が無限の海に反射している。
「アンタと最初に出会ったのは、シレンツィオの海だったな。
初々しかったお姫様が気づけば立派に…『姉ちゃん』だから初めから立派だったんだろうが…」
「ふふ。シレンツィオを守って、今、こうしてあなたの隣に立っている事が、凄く、誇らしいです」
二人は互いを見つめ合った。
「わたしは、もしもの時には、誰かの盾になって死んでも、悔いは無かったの。
でも、フーガさんがそれを怖いと思うのなら、これからは、自分自身もしっかり守らないと。だって、あなたの笑顔を守る為に死んでしまったら、あなたは、笑顔になれないでしょう?」
「確かに……そうだな。怖かったんだ。
アンタが戦場で呆気なく散っていくことが。アハハ、弱音なんてカッコ悪いよな。
けど、望乃、生きてくれてありがとう。多くの人を助けられたのも嬉しいが、アンタが無事に帰ってきてくれたことが一番嬉しい」
自然と。最初からそうなると分かっていたみたいに、フーガの腕が彼女を強く抱きしめた。
望乃の腕も、それに答えるように彼の背中に回す。
このまま。太陽が沈むまで。もうすこしだけ……。
「ごきげんよう、此度は良い夜だな」
「帝さん! 女王様! ごきげんよう!」
「うむ――」
久しぶりの帝に、『報恩の絡繰師』黒影 鬼灯(p3p007949)は早速挨拶をしに行っていた。帝も慣れた雰囲気で対応してくれている。
(本当に章殿は帝が大好きだなあ、俺にもかまって欲しいぞ章殿。
というわけで章殿がお父様と慕ってやまない霞帝の所へ挨拶に、毎回恒例だな。
そして帝に抱っこしてくれとせがむ章殿は幼子のようで大変可愛い、可愛いらしいが……)
もやもやーっと湧き上がる気持ちに、鬼灯は首を振る。
(いや、ヤキモチではない、決してやいてなんかいないが!)
一方で、『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)はファレンへ挨拶にきていた。
「ファレン殿がここまで顔を出せるのであれば、ラサは平和と見て良さそうだな。
最近は深緑に鉄帝・幻想と、とにかく隣国での騒動が多い。
ラサがいつも通り、多少やんちゃなだけで平和ならそれでいいが……。
もし、表立って動けない不穏な気配があればぜひ声をかけて欲しい」
ラダのそんな発言に、ファレンは少しだけ考えるようなそぶりをした後、小さく頷いた。
政治的な立場のある彼のことだ。こうした各国首脳が集まるような場所でうかつに発言できないのかもしれない。けれど頷くことはしてくれた誠意に、ラダもまた頷きで返した。
世界はカオスだ。冠位魔種の脅威も続々とやってきて、いつどこが危険になるかわからない。
けれど、きっと乗り越えるだろう。今のように。
ラダにはそんな確信と、そして挑戦心があった。
●
船は娯楽でいっぱいの日々を乗せて、フェデリア島からカムイグラへの航路をゆく。
そして東の海から朝日が昇った頃、船内にアナウンスが流れた。
「まもなく、豊穣郷カムイグラへと到着いたします――」
「見て、ヴァリューシャの言う通り町が見えるかもしれないよ!」
『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)と『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)はデッキへと出て、徐々に見えてくるカムイグラの風景に目を細めた。
「一緒に来てくれてありがとう、マリィ。
でもパーティーに行っても良かったんですのよ?
美味しいお料理も美味しいお酒も、きっと幾らでもあったでしょうに」
「何言ってるのさ、ヴァリューシャ!私は君と一緒に居たくて付いて来ただけさ
それに…私だって彼らの行く末を見守りたかったんだ。
私こそ一緒に連れて来てくれてありがとうね……」
二人並ぶ、その周りに。虹色の光がぽわぽわと湧き上がり始める。
フリーパレットたちが姿を見せ始めているのだ。
「そうですわ。あの島こそ、あなたたちが目指した新天地。願いの果てに見つけた希望ですわ」
「……絶望の海域を超え、かの豊穣を目指したもの達の残滓。
この旅道の果てに、辿り着いた時……、彼等は、何を思うのだろうか?」
「……このレポートにもある通り、沢山のアプローチを掛けてなお、辿り着けなかった彼等の夢。それが叶うのは、きっととてもいい事なのでしょう」
『鳴動する幼大山』弥多々良 つづら(p3p010846)と『瀉血する灼血の魔女』ルトヴィリア・シュルフツ(p3p010843)は、船のデッキからフリーパレットたちの様子を眺めている。
船を包む虹色の光の粒はどこまでも幻想的で、その全てから喜びの感情が伝わってくるようだ。
「故に、終わりは華々しくなくては。
ふうん、仔鬼は舞を捧げると。
では……あたしは、精霊達を呼び寄せてみましょうかね」
「そうだ、吾は戦巫女の端くれ故に、豊穣流の舞踏と歌唱も齧っておる。
彼等を送る為の、鎮魂と安らぎと、祝福の舞を……。
彼等との今際に、きっと踊り抜いて見せよう!」
二人はそれを、光の煌めきと歌と踊りで彩り始めた。
わっと船内の人々が幻想的な様子にわくなか。
反対側のデッキに『いわしプリンセス』アンジュ・サルディーネ(p3p006960)が立っていた。
「いるんでしょう、エルキュール」
きゅっ? と飛び上がって首をかしげたような動きをするエンジェルいわし……とは別に、後ろでこつりと足音がした。飛行し、デッキへ降り立った音だ。
それまでいかにして気配と姿を消していたのかはわからないが……。アンジュはあえて振り返ることなく、遠き海を見つめて言う。
「『お父さん』も、この海を見ていたんだね。この海の先を、望んでいたんだね。
彼らの旅はここで終わるけれど……私たちの航路は、まだ続いていくんだ」
「アンジュ様! 見てくださいカムイグラが――ッ」
船内から駆けてきたイワンシスが、手に持っていたノートを取り落とした。
エルキュールの姿を一目見たそれだけで、賢い彼女は気付いてしまったのだろう。
彼女が追い求めた『欠けた一ページ』の、その悲しい現実に。
「気づいたの。昔のことが思い出せないこと。それが、あなたの『優しい嘘』だって」
今度こそ振り返ったアンジュ。
彼女に、もう幼く弱い少女の姿はない。
「私はもう、大丈夫」
「……」
エルキュールはあえて何も言わなかった。ただ微笑み、そして自らの胸に手を当てる。
青く透き通ったいわし型の光が胸から泳ぎだし、そしてアンジュと――呆然と見つめるイワンシスの胸へと入り込んでいく。
アンジュの脳裏に蘇る。記憶。記憶。記憶――。
「お父さん。ありがとう、ずっと見守っていてくれたんだね」
目を瞑って空をあおぐと、たくさんのいわしが海から飛び出し空へと舞い上がった。
いや、それはいわしではない。銀色の光となった、フリーパレットと同じ存在。つまりは、『願いの欠片』だ。
「そっか、あなた達は、この海の……絶望と呼ばれていた海の先を夢見ていたのね」
『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)は胸に手を当て、微笑むフリーパレットたちが少しずつ形作られ、そしてまた少しずつ消えていくのを眺めていた。
セレナは戦いの中で会得した結界に、これと同じ力を感じていた。つまりは、祈りと願いだ。
「ねえ、フリーパレット。
わたし、初めて見た時から、あなた達の色彩が好きだったの。
きらきらしていて、様々な色を持っていて……それはきっと、数多の願いの色彩。
ひとりひとり違って、でもその人にとっては鮮やかに輝く希望の色」
いまはわかる。同じ光が胸の中にある。
「とびきりの幸福(ハッピーエンド)に向かって、流れ星のように翔けてみせるからね」
だからさよなら。フリーパレット。
伸ばした手を、七色の光がそっと掴み、温かく消えていく。
『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)や『ナチュラルボーン食いしん坊!』ニャンタル・ポルタ(p3p010190)は、そんなフリーパレットたちを見つめていた。
「ここまでのクルーズツアー、フリーパレットさん達も楽しめたかな。
ここへ来るのが、楽しみだったのかな。
絶望の青での戦い…僕が本格的な戦いに身を投じた、初めての経験。
あの頃の僕は強くなくて、そんなに役に立った気はしないけれど。
…あの戦いを経たから、シレンツィオがあって、僕もここにいる。
カムイグラの空に七色の光が溶けて消えていく。
僕が最初に綺麗だって思ったのは、元の世界で見た夜の空だけど。
それと同じか勝る位に綺麗で切ないこの光景を、きっと忘れない」
「それにしても…何とも…。
生者なのに幽霊達を率いる船長の様じゃの!
生者の乗組員も、我等も含めて、大所帯の大船長じゃ!
色んな種族も乗っ取るし、其れがひとつの目的に向かってこうしとるのは…ムフフ。面白い事じゃな」
ニャンタルは小さく手を振った。それにこたえ、手を振るフリーパレットの姿がある。
言葉にしなくてもわかった。あのとき出会った願いの欠片が、ここにもあったのだ。
「そっか、これで最後なんだね……」
『おはようの祝福』Meer=See=Februar(p3p007819)は手を伸ばし、そして微笑んだ。
「お別れは寂しいけど、フリーパレットくん達の願いを叶えてあげよう。
未練なんて抱えていない方が、きっとしあわせだから
歌うよ、君達の平穏を願って!」
Meerの歌が始まり、まるでそれに送られるかのように七色の光が湧き上がっては少しずつ消えていく。
「長く辛かっただろうに、諦めずにココまで来たんだ。尊敬するよ」
歌につられて口ずさみながら、『欠け竜』スースァ(p3p010535)は船の柱に背を預け小さく笑う。
船の外に、キャピテーヌが出てくるのが見えた。
スースァに気づき、手を振ってくる。
「付き合ってくれてありがとうなのだ」
「いいや。アタシはココでの騒動そんなに関わってたわけじゃないけどさ、日常を守りたいってアンタの言葉で作戦に参加しただけだよ。立派な代表執政官だよねぇ、お疲れ様」
スースァの素直な称賛に、キャピテーヌは照れ笑いを浮かべた。
「ご飯いる? 尻尾モフる? そっか、もうおなかいっぱいなんだね」
『多言数窮の積雪』ユイユ・アペティート(p3p009040)は満足そうに微笑むフリーパレットのらくがきめいた顔を見て、にっこりと笑った。
かれらとの長くもあり短くもあった旅も、ここでおしまいだ。
手を振るユイユに、フリーパレットが手を振り返す。
「七色のかき氷みたいって誰かが言ってたけど、こんな氷なら…少しは好きになれそうかな……? じゃあね、バイバイ」
笑顔で消えていくそれは、何も思い残すことがないようにみえた。
しあわせそうに。満足そうに。
「死者の未練、残された願い。
それを見守り、時に寄り添い、必要ならば手を差し伸べるのが『一翼の蛇』に連なるものの使命……」
『蹂躙するキャラメルポップ』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)はソーリスと共にそんな景色を眺めている。
「つまり、またバニーボーイになってもらうのも使命」
「使命じゃないぞそれは!?」
「そんなこと言って、頼んだら来てくれるくせに」
小悪魔的な笑みを浮かべ肩に手を回すソーリス。
そして、フリーパレットに目をやった。
「ごらん。彼らにもう未練はないんだ。こんなに素敵なことって、ないよね」
「ああ……確かにな」
『絶海』ジョージ・キングマン(p3p007332)は七色の光の中で、ただひとり立っていた。
「『レイニー』。もしかしたら、お前の声、聞こえるかと思ったんだがな」
新天地を目指し、大空賊になると願ったあの姿を思い浮かべる。
「お前を見送ってから随分と時間を掛けちまったが、ようやく。約束は果たせそうだぞ。
相棒。お前の願いは、まだ終わっちゃいないんだろう」
呟く彼の後ろに、ノワール・ニュイが現れた。
「何を浸ってるのよ。むこうについたらまた仕事があるんだから。それと、早速見て貰いたい書類があるの。さっきとりつけてきたんだけど――」
「分かっている。今行く」
ジョージは短く答え、きびすを返すジョージ。
その背に、誰かがポンと触れた気がした。振り返るとそこには、七色の光。
「もう少し待っていてくれ。共に、世界の全てを巡ろうじゃないか」
「なあ、キャピテーヌ」
話しかける『紅矢の守護者』天之空・ミーナ(p3p005003)に、キャピテーヌは小さく手を上げてみせる。
「いいのだ。わかっているのだ。あれは、私がミーナに『おねがい』したことでもあるのだ」
言葉も介さず通じ合った二人は、改めてフリーパレットの光の群れを見上げる。
「なあ、あのなかに、父親がいるのかな」
「そうかもしれないのだ。いや、きっと……」
フリーパレットは願いの欠片だ。
願いの数だけ存在し、そして海を漂っていた。
新天地を目指すいくつもの思いの中に、キャピテーヌの父のものも、確かにあっただろう。
ミーナは少しだけ考えてから、空に手をかざす。
(私は死神だ。送るのが、迎えに行くのが仕事だったけどさ、今日くらいは――)
「パパ!?」
はっと目を見開くキャピテーヌ。
光の中になじむ顔を見つけ、笑顔で頷くのを確かに見た。
言葉は……いらなかった。満足そうな笑みと、頷き。それが全てだった。
そして、消えていく。もう大丈夫だというように。
「お互い変わりましたね。キャピテーヌさん」
横に立った『未来への葬送』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)。
「初めてあったころは、私はまだまだ新人感は抜けませんでしたし、貴女も…ふふ、でも今はこんなにも。
立派になったと思いますよ、つい撫でてあげたくなってしまいます」
「なっ、撫でなくていいのだ!」
帽子を深く被って警戒(?)するキャピテーヌに、マリエッタは金色の目を細めた。
「私はこれからも戦います…きっと、いろいろ変わっていく…どうなるかもわからない。
だから、一つお願いをしたくて…今と…ちょっと前の私を覚えておいてくださいね」
マリエッタの言葉に、キャピテーヌはきょとんとしてから、そして深く頷いた。
「任せるのだ。覚えているし、ずっと友達なのだ!」
「ようやくすべてが終わるんだな」
『スケルトンの』ファニー(p3p010255)は、物語のおわりに立っていた。
「しかしなぁ……まさかこの俺様が舞台に上がることになるとはねぇ」
かりかりと頭蓋骨をゆびでかいて、ファニーは苦笑げに肩をゆする。
「けど、新鮮で、楽しいことだよな。できることならこの景色を、『あの方』にも見せたかったぜ」
これはひとつの物語のおわり。
けれど、世界は続き、『ファニーの物語』はまた始まるのだ。
「いつか、いつか、自分の人生を、胸を張って語れる日がくるだろうか」
夢想する。『あの方』の前に自分が立って、楽しい楽しい物語を語って聞かせるさまを。その主人公は、驚くべきことに自分なのだ。
「笑っちまうよな」
ファニーは肩をすくめ、そして。
「さよならだ。フリーパレット。いい物語だったぜ」
願いは叶った。
旅は終わった。
船は、港へとついにたどり着いたのだ。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
おしまい
GMコメント
■■■プレイング書式■■■
迷子防止のため、プレイングには以下の書式を守るようにしてください。
・一行目:パートタグ
・二行目:グループタグ(または空白行)
・三行目:実際のプレイング内容
書式が守られていない場合はお友達とはぐれたり、やろうとしたことをやり損ねたりすることがあります。くれぐれもご注意ください。
■■■グループタグ■■■
一緒に行動するPCがひとりでもいる場合は【グループ名】といった具合に二行目にグループタグをつけて共有してください。
大きなグループの中で小さなグループを作る場合はグループタグを横並びで二つ書いておくとよいでしょう。
■■■パートタグ■■■
シナリオ内には様々なお楽しみがあり、あっちこっちに顔を出してもOKですが、描写はそのなかの一つだけとなります。
ですので描写してほしいパートを選択し、プレイングに記載してください。
【シレンツィオ】
シレンツィオ・リゾート・フェデリア島一番街に建設された豪華なパーティー会場にて宴が開かれています。
終わりには祝砲や花火があがる予定です。
互いをねぎらいながら、これからのフェデリア島に想いをはせるのもよいでしょう。
会場にはカヌレやソルベ、庚やフィオナといった各国の代表社。そして一部の竜宮バニーさんたちがいます。
【豪華客船】
豪華客船クイーンエリザベス号のパーティー会場にて優雅な時を過ごしましょう。
カムイグラへと向かうこの船では祝賀会が開かれ、招待された各国重鎮が参加しています。
また、竜宮からも一部のバニーさんたちが参加しプロの接客を見せています。
【天浮】
天浮の里からやってきた人々とコン=モスカの招待客たちがデッキのバーへと集まっています。
氷雨と卯の花なる人物達はいない様ですが、浮・妃憂に潔一はいる様です。
彼らと戦いの記憶を振り返ったり、これからの未来を語ってみるのもよいでしょう。
【フリーパレット】
カムイグラへと到着すること。それが残った『フリーパレット』たちの最後の願いでした。
きっとこれまで幾度となく絶望の青に沈んできた海洋王国の人々の思念が、このツアーによって報われることとなります。
クルーズツアーのおわり。終着点となるカムイグラの港にて。
彼らはカムイグラの夜空に溶けるように、七色の光となって消えていくでしょう。
それを眺め、この旅の終わりを……あるいはこれまで世界の果てを夢見た人々に想いをはせるのもよいでしょう。
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