PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<総軍鏖殺>記憶探しとゴミ掃除

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 皇帝の交代――

 長らくヴェルス・ヴェルグ・ヴェンゲルズの王位が続いてきた鉄帝が、ついに大きく揺らいだ。
 アーカーシュの動乱があろうとも、派閥が分かれようとも根は揺るがなかった鉄帝が、である。
 新しく玉座に座った者の名は、バルナバス・スティージレッド。彼の“正体”が何処まで広がっているかは判らないが、突然の王位簒奪に鉄帝の民は大いに動揺した。

 そして、新しく王となったバルナバスが最初に下した勅令は更に動乱を齎す事となる。
 警察機構の総解体。奪おうと殺そうと罪のない国への方針転換。

「強ぇ奴は勝手に生きろ。弱い奴は勝手に死ね」

 弱肉強食――弱者の完全なる斬り捨てを、バルナバスは一言にして成したのである。
 鉄帝は変わって行く。強き者が生き残り、弱き者は逃げなければならない国へと。
 様々な思惑が交錯していく。強くなりたいと願うもの、富を得たいと暴れる者。
 或いは――



 ガシュカはラド・バウの闘士だ。

 ――といっても、順列は付けられていない。
 理由は簡単。彼はラド・バウで戦う事を目的としていない為である。
 彼の目的はただ一つ。己から“名前と記憶と愛剣”を奪った男を探す事。
 其の為にラド・バウに顔を出しては、こいつではなかったと落胆する日々を過ごしていた。
 そんな時、王位が簒奪されたとの法が発表された。
 新しく王になった男は、バルナバスというらしい。顔も見た。知らぬ顔だったので、ガシュカは直ぐに興味を失くした。
 たまたまラド・バウの傍にいた彼は、自治区として独立するというラド・バウに留まる事にした。
 ……しかし、何もせずにただ刃を磨いているだけというのは合わない。
 どうせなら少しくらい、この自治区の為に何かしてやっても良いかもしれない。
 最近ゴロツキが多いのだと誰か闘士が零していた気がするので、其の掃除でもしようと腰を上げたのだが。

 ガシュカは己の力量を良く知っている。
 少し囲まれれば、己は直ぐに戦闘不能に陥ってしまうだろう。
 こんな時、鉄帝はどうしていたのだったか――ガシュカは考えて、とある組織の存在を思い出した。
 ローレット。
 イレギュラーズ。
 彼らの手を借りれば良いのではないか。

 そうすれば、あわよくば、あの男と再び相まみえたとき、其の力を借りられるように――

GMコメント

 こんにちは、奇古譚です。
 こちらは2章完結のラリーシナリオです。
 宜しくお願いします。


●目標
 ラド・バウの“掃除”をせよ


●立地
 ラド・バウ周辺です。
 闘技場として盛り上げながらも自治区を護る闘士たちのお陰でおおむね治安は良いですが、時折「我こそは」というゴロツキが紛れ込んできます。其れが今です。
 掃除するにはガシュカでは力量が足りませんので、イレギュラーズの力を貸してあげてください。


●エネミー
 ゴロツキx複数
 ???x1
 ???x複数

 心に夢の詰まったゴロツキです。
 今ならラド・バウ闘士に負けた恨みを晴らせるのではないかとか思っています。
 ナイフを持っていたり、弓を使ったり、素手で戦ったりします。
 ラド・バウの闘士リストには名前のない者ばかりです。実力はお察し下さい。

 ……何か、嫌な予感がします……


●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●特殊ドロップ『闘争の誉れ』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争の誉れ』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran


 此処まで読んで下さりありがとうございました。
 アドリブが多くなる傾向にあります。
 NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写致します。
 では、いってらっしゃい。

  • <総軍鏖殺>記憶探しとゴミ掃除完了
  • GM名奇古譚
  • 種別ラリー
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年10月10日 21時30分
  • 章数2章
  • 総採用数72人
  • 参加費50RC

第2章

第2章 第1節

 死肉を漁っている犬がいた。

 其れ自体は珍しい事ではない。
 しかしおかしいのは、其の犬には“脚が六本あった”。

「へっ、へっへっへっ」
「あァ、ダメだよォ。死肉なんて食べたらロクスケちゃん、危ないよォ?」

 どうせ食べるなら活きの良いものにしようよォ。
 例えばこの先で彼が集めてくれた、イレギュラーズっていうのとかァ。
 あ、でも君はおこぷんになっちゃうから、もしかしたら美味しく食べられないかもォ?
 うーん、困ったねェ。



「ガシュカ君!! ガシュカ君ッ!!」
「……レイディ」

 桃色の鮮やかな髪を靡かせ、眼鏡の位置を直しながら走って来る女がいた。
 はあ、と息を整えると顔を上げ、大変だわと言った。
 其れはガシュカだけではなく、助力に駆け付けてくれたイレギュラーズも見ての事だった。

「魔種が現れたわ」

 ――!

 周囲に緊張が奔る。

「近付こうとしたけど、頭が痛くて駄目だった……だから間違いなく魔種だわ。犬みたいな化け物を連れて、この闘技場に近付いてきてる」
「……他の闘士は」
「出られる状況にはないわ。ただでさえ不安定なこの時期に、魔種が現れるなんて……!」

「あぁ、其れってぼくの事ォ?」

 暢気な声がした。
 間延びした甘い声色は、しかし、一同の心を悍ましく震わせるには十分に過ぎる。
 快くない。恐ろしい。気持ち悪い。聞きたくない。
 其の感情に呼応するように、遠吠えが幾重にも鳴り響く。

「あー、ダメダメ、ダメだよォ。まだダメ、自己紹介が終わってないよォ」
「……お前、……!!」

 其の風貌を見たガシュカの雰囲気が、変わった。
 怒りだ。
 今までにないような怒りが、其の未熟な男を包んでいた。

 対して、魔種だと呼ばわれた男は腰に佩いた幾つもの剣の柄に腕を掛けながらははは、と笑う。
 金髪に長い耳、翠色の目。ハーモニアだと言われれば誰もが信じそうな風貌だが、其の纏う空気は余りにも血腥く悍ましかった。

「ガシュカ君じゃないかァ、久し振りィ。覚えてる? ぼく、ガルロカ」
「忘れるものか、……俺から“ガシュカ”を奪った……!」
「でも代わりの武器あげたじゃァん。あれ、結構お高かったんだよォ?」
「……!!!」

 踏み出すガシュカを、イレギュラーズが止める。
 とてもじゃないが、今の未熟なガシュカで魔種に敵う訳がないのだ。無謀に過ぎる。今行ってはただ何も出来ず死ぬだけだと。

「僕はね、折角だから今回は挨拶だけにしようと思ったんだけどォ……」
「ぐるる、るる、る」

 ガルロカ、と名乗った男の周囲で、犬が怒りに顔を歪ませている。
 何に怒っているのだろう。
 ガルロカは朗らかに笑って、ごめんねェ、と言った。

「この子、お腹へってるんだァ。ちょっと君たち、食べられてくれない?」


!!-------------!!

難易度がHARDに変更されました。
魔種“ガルロカ”、及び天衝種“DOG”との戦いになります。

★魔種“ガルロカ”x1
 腰に佩いた様々な剣を用いた戦いをしますが、今回はほぼ戦いません。
 其処にいるだけでガシュカの怒りを買う事を知っているからです。
 DOGへの治癒・火力支援などを行います。
 DOGが全滅すれば撤退します。

★“DOG”x複数
 天衝種、と呼ばれるモンスターです。脚が6本ある犬をイメージして下さい。
 憤怒の感情を宿し、死ぬまで其の感情を収める事はありません。
 特にイレギュラーズを敵視し、付け狙う傾向にあります。
 其の爪牙には腐食の呪詛があり、傷はあっという間に化膿していきます。

☆ガシュカ
 怒りで我を忘れかけています。
 ガルロカは彼から“ガシュカ”を奪った張本人です。
 何らかの手段を講じなければ、今にも斬り込んでしまいそうです。

☆レイディ
 ガシュカが情報収集を頼んでいた、ラド・バウ闘士の一人です。
 後方からイレギュラーズの治癒支援を行います。
(「大天使の祝福」相当の治癒とBS回復を行ってくれます)


第2章 第2節

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣


「さ、て……」

 折角此処に来たんだ、掃除くらいは引き受けねぇとな。
 義弘はばきり、と指の関節を鳴らす。そうして怒りで呼吸すらままならない、隣の男を見た。

「ガシュカ」
「何だ」
「お前の怒りはもっともだが、……周囲を見ろ。犬ッころが護ってやがる。こいつらを潰さねえ限り、あの野郎をぶちのめす事は出来ねえぞ」
「そうよ、貴方には護るものが――今度こそ奪われてはいけないものがあるでしょう。気をしっかり持ちなさい! レイディ、前に出るわ、“死なない程度に回復”して!」
「オーケイ、死なせない事には定評があるのよ……私!」

 イーリンが前に出る。レイディは後ろから援護する。そうしてイーリンは旗を掲げた。
 此処は鉄帝。ラド・バウ独立区。向かって来る悪意には決して屈しない!

「天啓で感じた獣の匂い……そう、貴方達だったのね」

 まさか魔種も一緒だとは思わなかったけど。オデットは視線を移す。ガルロカは犬たちの後ろで、優美に笑っている。其の優美さと持っている剣のおどろおどろしさは合致しない。そしてウォーカーであるオデットでも、其の血腥さが判った。

「ガシュカ! 教えたことを忘れたとは言わせないわよ!」
「……後衛が、いる事」
「そう! 撃たれ弱い後衛の存在、あんたみたいな前衛が突出するとね、こっちにまで被害が出るの! せめて他の人たちと呼吸を合わせなさい!」
「……ッ」
「――彼の目的は恐らく君だ」

 オデットの閃光が、異形の犬を焼いていく。
 愛無がそう呟きながら、投擲で更にダメージを稼いでいく。

「彼の目的は判らないが……君の怒りを煽ろうとしているのは確かだ。落ち着け、後ろの彼女も言ったように、呼吸をするんだ。怒りに呑まれればヤツの思うツボだぞ」
「……判ってる、……判ってる……! 俺は、弱い……!」
「強い弱いは此処じゃ関係ねえよ」

 義弘が前に出る。
 其の一撃は蛇のように――其の毒を異形の狗たちに巡らせる。ぐわん、と犬が鳴いて牙を剥く。

「ただ、お前だって思うだろ? アイツに一泡吹かせてやりてえってよ。其れで良いんじゃねえか」
「……」

 横合いから狗が噛み付いて来る。
 其れをガシュカの未熟な剣が切り裂き、狗はあっけなくぼとりと落ちた。其の首根っこを義弘の脚が踏んで、ばぎり。首の骨を折る。

 貴方には失えないものがある。絶対に奪えないものも、もうある筈。
 イーリンはガシュカ、義弘と共に前に出る。丁寧に狗の脚を叩き折ると、更に頭を割った。必ず仕留める、という意思が其処にあった。

「全く……」

 手の掛かる子どものようね。
 そう呟くオデットは、其れでも笑っていた。誰もがガシュカを案じ、彼を止めていたからだ。
 ならば、己から書ける言葉はもうない。あわよくばガルロカを巻き込めないかと再び閃光を放ち……愛無がそうだね、と合わせるように、更に投擲で狗の脚を叩き折った。

「おおっと、怖いなあ」
「怖い? 冗談を。目の前でご自慢のペットが食い散らかされる様を見に来たんじゃないのか」
「やだなァ。僕は、ちょっと挨拶に来ただけだよォ」

 あくまで、僕はね。
 ガルロカは佩いている剣を抜きもせず、……笑った。

成否

成功


第2章 第3節

モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
暁 無黒(p3p009772)
No.696
フーガ・リリオ(p3p010595)
君を護る黄金百合


「彼が憎い?」

 モカが問う。
 憎いさ。ガシュカが答える。

「あいつは俺から奪っていった。記憶も、剣も、何もかも……そうして俺の前に残っていたのはこの剣と、“ガシュカ”という名前だけだった」
「そう。まあ、判り切っていた答えだけどね。あなたの様子を見れば判る」
「其処ら辺の詳しい事情はわかんねーが……怒りに任せて剣を振るうのだけはやめとけよ」

 フーガが言う。
 余りにガシュカが怒りに囚われているようなら、組みついて止める事も考えていたが――其の必要はなさそうだと、内心でほっと胸をなでおろしていた。思っていたよりガシュカが冷静に見えるのは、きっと他のイレギュラーズの説得を受けたからかもしれない。

「怒りに任せて剣を振るえば、今度は人間らしさまで奪われる。そうしたら――アンタの望む立派な戦士にはなれない。“おいら達が”ここまで何の為に戦ってきたかを思い出せ。個人的な復讐の為か? 違うだろ。ラド・バウを護る為に、ゴロツキたちを斃そうってアンタは言ってくれたんじゃないか」
「……別に、そんな大仰な理由じゃない。単に邪魔だっただけだ」
「ま、理由は何でもいいっす! 事実として目の前に魔種と其の手下がいて、斃さなきゃいけないってだけっすよ!」

 無黒がすっぱりと切れ味のいい刃物のように言う。切り替えの速さで言えば、彼が一番かもしれない。

「あァ、魔種魔種って酷いなァ。僕にはちゃんと、ガ、ル、ロ、カ、って名前があるのになァ」

 ガルロカが糸を手繰るように指を動かすと……めりめり、と狗がより攻撃的なフォルムへと変わって行く。

 ――イレギュラーズ。イレギュラーズ、イレギュラーズ、特異運命座標!!

 目に見える程の怒りを纏って、狗たちは奔る。何故そんなに怒っているのかは誰にも知り得ない。ただ、斃さなければ斃される。其れだけだ。

「いくっすよ!」

 まっさきに動いたのは無黒だった。
 降りしきる雨のような一撃一撃を、片っ端から狗へと叩き込んでいく。そうしてそっと撃ち込んだ不調は、彼らと魔種を繋ぐ糸を断ち切る。

「まったく、ラド・バウ独立派の見分がてらに来ただけなのに……面倒事に巻き込まれたみたいだね。取り敢えずお掃除すればいいんでしょ?」

 其処にアイリスが猛攻を掛ける。
 数だけは多いから、少し鎖につないであげよう。
 じゃらり、と鎖の音がしたような気がした。イレギュラーズと見れば見境なく攻撃してくる狗たちに、見えない拘束が絡みつく。
 がるるる、と牙を剥く狗たち。其処には本来ありそうな温厚さなど欠片もなかった。鎖を引きちぎらんばかりの勢いでアイリスへと飛び掛かり、其の爪が彼女の腕を掠める。

「っ、つ……!」

 痛みが走った。ただ掠っただけなのに、まるで刺されたかのような痛みだ。
 服をまくって腕を見ると、みるみると腕が紫色に染まって行く。――これが、この狗のやり口か……

「回復ならおいらに任せろ! 全員しっかり治してやる!」
「ええ! 私も援護する、だから皆は前に集中して!」

 フーガとレイディがアイリスを癒す。紫色に化膿した部分が広がる事はなくなり、アイリスは再び前を向く。

「ガシュカくん」

 モカは彼の目を見詰める。

「私たちは君に雇われている。……強い人間に必要な能力、というのは判るかい?」
「……」
「其れはね、敵の力量を知り、必要ならば他者の助力を萎縮せず得る事だと、私は思っている」

 ガシュカとモカは駆け出す。
 モカの雀蜂めいた乱撃が、狗たちに凶事を振り撒きながら彼らを吹き飛ばす。
 ガシュカの剣が狗を切り裂き、其処から青黒い血が噴き出した。――血液ですら、彼らは紅くない。

「私たちはいわば、貴方に雇われた身分だ。私たちの力を信じて、任せてくれ」
「……判ってる。だけれど、……此処にいさせてくれ」
「……。どうしても、というなら止めはしないけど」
「きっと戦力にはならない、判ってる。だが……あいつに少しでも、悔しい思いをさせたい」

 ガシュカは判っているのだ。
 イレギュラーズではない己では、ガルロカに敵わない事を。
 だから、少しでも。少しでも、彼らに対抗し得るイレギュラーズの力になりたいと足掻いている。
 ――止めはしないよ、とモカは溜息交じりに言った。其のもどかしさが判らない程、モカは鈍感ではいられなかったからだ。
 そうして二人に飛び掛かって来る狗に向けて、相手の加護をも撃ち砕く一撃を繰り出し――狗の骨身をぐちゃぐちゃに砕いたのだった。

成否

成功


第2章 第4節

リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド


「あら、強いと聞いて少しは期待したのだケレド……期待外れねえ。坊や、カッとするには勿体無いわよ」

 こんなカマ臭い男。
 リカは容赦なく言う。サキュバス的には魔種であろうが強い男なら昂るが、どうやらガルロカはお気に召さなかったらしい。

「くすくす。カマ臭い。酷い言われようですね」
「全くだねェ。ま、僕の怒りは――彼らに任せるとするよ。彼らは多分、僕の分まで怒ってくれるからさァ」

 笑うクーアにガルロカは肩を竦め、さあ、と促した。
 狗がたし、と砂地を踏む。其の爪はまるで短剣のように長い。夢魔二人はガシュカにさがっているように言うと、二人とも前線に位置した。

「ただの夢魔だと思ってると、痛い目見ますよー?」

 初手はクーアだ。
 鉛弾が饗宴し、狗たちを傷だらけにしていく。其れでも狗は前に進む事をやめられない。イレギュラーズへの怒りが、ガルロカの支援が、そして何よりリカの魅力(チャーム)が、彼女のもとへと奔る事しか許してくれない!

「ごめんなさいね。生憎私、猫派なの」
「にゃうん」

 私に従順な、でも気紛れな猫なら、もっと良い。
 応えるようにクーアが鳴いて、鉛弾を狗に撃ち込む。

「ガシュカちゃん、良い? 強さとは勝つ事よ」

 狗の手足を丁寧に愛撫(ひきちぎ)ってあげながら、リカは後ろにいるガシュカへと言う。ガシュカは夢魔二人のむせかえるような色香に困惑しているのだろう、フードをしきりに上げ下げしながらも聴いていた。

「心を殺して、ただ相手の隙を突く。――本当なら、あのカマ臭い男に一撃入れたいけど……ちょっと数が多いわね」

 ふう、とリカは溜息を吐く。其の仕草さえ色っぽいのだから、夢魔というのは恐ろしい。
 狗たちが飛び掛かる。爪が、牙が、リカを攻め立てる。青い膚に紫の傷が刻まれていく。

「おい……!」
「リカ!」

 クーアが叫ぶ。彼女には狗の腐食毒は通じない。リカの盾になって、小さな奇跡を使う覚悟で狗から庇う。
 きらり、と奇跡が煌めいた。其れでも狗の猛攻は終わらない。

「あら、ごめんなさい」
「大丈夫! これも……恋人の役目、ですからにゃん?」

 だからこれくらいの傷、大した事ないんです。ただ引っ掛かれて、噛み付かれて、痛いだけ。

「ふふ。可愛い子だこと。――私の可愛い子に傷を付けた罰は、たっぷり支払って貰うわよ?」

 リカが気を巡らせて己の不調を打ち払うと、同時に瘴気を思い切り吐き出す。
 夢魔の瘴気は甘い毒のよう。狗たちはふらり、ふらりと足元がおぼつかなくなり、クーアに蹴散らされた。
 そうしてゆっくりとリカに愛撫(ころ)されて、狗はどさりと斃れてゆく。

「……ッ」
「あら?」
「おやおや? どうやらガシュカさんにも、夢魔の気が聞いちゃったですか?」

 くすくす。
 命を懸けた戦いだというのに、クーアは奇跡を使ったというのに、からかうように笑う夢魔二人に、顔を真っ赤にしながらガシュカは笑うな、と文句を付けたのだった。

成否

成功


第2章 第5節

イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
航空猟兵
リドニア・アルフェーネ(p3p010574)
たったひとつの純愛
シェンリー・アリーアル(p3p010784)
戦勝の指し手


 ごん。
 と、音がした。
 ブランシュが持っていたメイスで軽く、かるーくガシュカの頭を殴った音だ。

「ッ、てえ……!?」
「えッ!?」

 キーホルダーで彼の気を引こうとしていたイーハトーヴが、驚きの声を上げる。
 ブランシュはとても冷静に、言った。

「力量を見誤るのは駄目ですよ。ちょっと止まっててください。魔種相手に一人じゃ無理ですよ。ブランシュたちもまとまって戦うですよ」
「そ、其れはそうだけど、流石にメイスで殴るのは……だ、大丈夫? ガシュカ」
「……ッ、ああ……前がくらくらしてるけどな」
「――今は、難しいかもしれない。でも生きて切り抜ければ、次がある。後で話を聞かせてよ。俺、君が大切なものを取り戻す力になりたいんだ!」
「ええ、其の通りです。このような輩にはさっさとお帰り願うのが一番」

 イーハトーヴが大丈夫かな、とガシュカの様子を伺う。許可を得て頭部を見せて貰うと、見事にたんこぶが出来ていた。ブランシュも流石に手加減してくれていたらしい。
 リドニアが心底面倒くさそうに言って、ガルロカを見る。楽しそうに見ている彼は、そろそろ良いかな、と怒れる狗たちをけしかけた。

「僕相手に一人で戦おうとしてた君が、こんなに沢山の人に助けられるなんて、ガルロカくん感激しちゃうなァ。でも、今は君“凄く剣技がへたっぴ”でしょ? まだまだだよね~」
「……お前、何を考えている?」
「何って?」

 ガルロカは首を傾げる。まるで誤魔化すように――いや、誤魔化すというよりは、本当に何故そんな事を聞かれるのか判っていないようだった。
 憂炎が前に出た。其の呟きは咆哮となって狗たちの耳へと入り、意識を向けさせる。六本の脚で器用に走る狗が、憂炎を捉えた。

「僕は生憎――彼に同盟を申し込んだ身でね。此処で死なせる訳にはいかないんだ」
「なァるほど? 彼が愛されてて、僕も嬉しいよォ」
「気味の悪い事を言うんじゃないですよ。どうせ其の後に“狩り甲斐がある”とか言うんじゃないですか」

 ブランシュが後方から援護する。
 糸を針に通すような一撃で狗の頭をぱりん、と砕く。まるで肉細工のように弾け飛んだ狗は少しだけ名残惜しく走り、ぱたり、と横に倒れた。
 一気に前に出る。其れは奇しくもリドニアも同じ。

「合わせるですよ」
「ええ」

 憂炎に狗の意識が向いているうちに。
 ブランシュの百とも一ともつかぬ攻撃と、リドニアの花札をぱちんと叩くかのような三連撃が狗を襲う。

「援護なら俺に任せて! 大丈夫、絶対に治すから!」

 イーハトーヴが憂炎を癒す。
 癒えていく傷、其の周囲に滲んでいた紫色を見ながら、憂炎は厄介だな、と呟いた。

「腐食か……」
「大丈夫?」
「ああ。これくらいならまだいけるさ」

 ガシュカが怒りに呑まれてしまう前に、彼にはお帰り頂かねばならないだろう。
 リドニアは面倒臭そうに溜息をほう、と吐いた。

「全く……躾のなっていないワンちゃんですこと。ブリーダーの腕が悪いですわね」

成否

成功


第2章 第6節

ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
優しい白子猫
三鬼 昴(p3p010722)
修羅の如く


「彼の名前と同じ名の、大切なもの……」

 大切なものや、名前。
 其れを奪って嘲笑う、ガルロカと名乗る魔種。
 正直ヨゾラは、とても腹が立っていた。
 ――けれど。
 彼の思惑に乗るのは、彼の笑みを深くさせるのは、其れ以上に腹が立つ!

「ガシュカさん、ブチギレるのも仕方ないけど待って! 僕らと一緒に、あの狗たちと戦って!」
「……俺が……?」
「ええ。怒っては相手の思うツボ。彼は貴方を怒らせるのが目的なんだから」
「……」

 ガルロカは笑みを崩さない。
 其の沈黙が肯定のように想えて、レイリーは不気味に思う。
 ガシュカ殿を怒りの沼に落として、……其れからどうする気なの? 貴方。

「怒りは武器だ」

 だが、冷静であってこそ其の鋭さを発揮する。
 昴は静かに言う。
 心の奥で静かに燃やし、殺意を研ぎ澄ませる事で真価を発揮するのだと。

「こんな風にな」

 いうと、昴は耐えきれず駆け出した狗の一匹に目を付ける。
 己も駆け出し、間合いに入ったところで――雷撃へと変えた一撃を叩き込む。
 悲鳴を上げる暇すらも与えない。其処に必殺の拳を撃ち込み、狗を死の奈落へと叩き落とした。其れは瞬きの間の事。

「ガシュカさん、一緒に!」

 ヨゾラが駆け出す。気で編み出した糸が狗たちをふわりと包み込み、其の血肉を刻む。ガシュカが其の一瞬の停滞を狙って踏み出し、頭を落とすべく剣を繰り出す。ごとん、と音がして、狗の頸が落ちた。
 おお、とガルロカはぱちぱち拍手をする。

「すごいすごォい。あんなにダメダメだった君が、この子たちの頸くらいなら落とせるようになったんだ?」
「……ッ」
「駄目よ、落ち着いて」

 狗たちがヨゾラの気糸を抜けて駆けて来る。はっとしたガシュカを庇ったのはレイリーだった。其の牙と爪を受け、祝音の回復を受けて立つ。

「これくらいの狗――何匹いたって、へっちゃらよ! 皆、引き付け役は私が引き受けたわ!」

 “ヴァイスドラッヘ”の誇りと共に!
 レイリーは白き城塞となり、狗の繰り出す攻撃を受ける。

「大丈夫です、……僕が、回復します……!!」

 手伝うのが遅れちゃった分も含めて、絶対に癒すと祝音は決めていた。仲間もガシュカも、絶対に傷を残させない。
 ガシュカはイレギュラーズではない。もし彼が傷付いたら、医療施設を借りてでも治癒をすると決めていた。
 其の覚悟と共に、祝音は福音を紡ぐ。後ろから更に治癒の力が飛んでくる。――レイディだ。二重の癒しを受けて、白き城塞は凛と佇む。

「行こう」

 昴は言葉少なに飛び出す。
 己が一人であったなら、突撃は分が悪いと迎撃に転じていただろう。
 だが、己には仲間がいる。共に出てくれるヨゾラ、引き付けてくれるレイリー、そして回復役の祝音。更に後ろにはレイディ、そして前にはガシュカ。
 ならば――多少の無茶をしたところで、問題あるまいよ。
 戦士たちは駆ける。狗が繰り出す狂乱の攻撃をレイリーが盾で受け、其の牙が他へ向かう前に、ヨゾラと昴、ガシュカの一撃が犬を八つ裂きにした。

成否

成功


第2章 第7節

カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
雨紅(p3p008287)
愛星
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
囲 飛呂(p3p010030)
君の為に
刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼


 フラーゴラは先手を取る。
 盾として己のやる事は一つ。敵を引き付け、攻撃役がより多くを一掃しやすくする事だ。
 魔種ガルロカ、そして狗、更にはガシュカからも先手を奪い取り、フラーゴラは誘いの魔力を周囲に満たす。

「――其の燃える心は其のままでいい」

 ガシュカに、フラーゴラは言う。
 でも、頭は冷静にしないといけない、と。

「だから、ワタシの言葉に耳を傾けて! これが戦い方よ、教えてあげるわ!」
「……!」

 戦い方を教えて欲しい。
 そんな言葉、魔種の登場ですっかり忘れられたと思っていた。
 だけれども。忘れていないと。フラーゴラは共に立てと言う。

「ですが、どうか無茶はなさらぬよう。ガシュカ殿は特異運命座標ではない……万が一呼び声に晒されでもしたら危険です」

 舞うように雨紅が飛び出す。
 雨紅は己がどういうタイプなのかを心得ている。防禦が薄い代わりに身軽で、回避する事で致命傷を避ける。其れが己の戦い方だ。
 フラーゴラへ駆けていく狗。彼らの一体を狙い、“横合いからブン殴る”。もとい、蹴り上げて上空へと跳ね飛ばし……確実な死と共に地面へ叩き付ける。
 仲間の血の匂いに気付いたのか、後続の狗が雨紅を見て――其の頭をぱきゅん、と撃ち抜かれた。

「――なんかあいつ、癇に触るな」

 飛呂だった。
 少し離れた場所から、狗の脚を、頭を、次々と撃つ。
 これは布石だ。徐々に撃ち抜く位置を変えていき――最後にガルロカと名乗る魔種を狙う。其の凶弾は確実に、ガルロカの頭を――捉えた筈だった。
 だが。

「ッ」

 比呂は気付いた。
 ガルロカがずうっと、飛呂の方を見ていた事に。

“そこにいるよね?”

 唇が動いて、声なく問う。
 ガルロカが剣をするり、と抜きかけた其の時。飛呂とガルロカの間に入った影がある。

「悪いな、マナー違反は掃除するしかないって相場が決まってるんだ」
「中々嫌な状況だね。――だけど、此処を切り抜けてこそ!」

 カイトと雲雀だった。
 距離を空けて、しかし飛呂とガルロカの間に入り込み、二人で一気に仕掛ける。

「アンタ、今仕掛けようとしたな?」

 ありったけの凶事を含んだ神秘の一撃が、ガルロカごと狗を蹴散らす。其処に重ねるように雲雀が更に神秘の閃光を浴びせ、狗を骸へと変えていく。
 二人の連携は、ガルロカはおろか狗をも容易に近付かせない。ガルロカは剣の鞘に手を置いたまま、巧みに彼らの間合いから“僅かに一歩”遠ざかる。

「やだなァ、だってこっちを盗み見してた悪い子がいたからさ、気になっちゃっただけだよォ。ほら、ヨンタくん、ゴスケくん、やっちゃって」

 狗に強化を掛けてけしかける。
 名前つけてんのかよ、と悪態付くのはカイトだった。使い捨てのように使っておきながら名前を付ける。悪趣味極まりない。
 恐るべき速さで駆けて来る狗2匹、其の足を凶弾が撃ち抜いて機動力を削ぐ。――飛呂だ。感謝の代わりとでも言うのだろうか。著しく動きを悪くした狗たちに、カイトと雲雀は連携して二撃叩き込む。

「――あちらを援護したい気持ちはやまやまですが……」

 雨紅はガルロカを牽制しつつ狗を屠るカイトと雲雀、そして援護に回っている“誰か”の方角をちらりと見る。
 じっと見る余裕はない。フラーゴラとガシュカが盾として立つ以上、刃は己の役割だからだ。
 次元ごと撃ち砕くような一撃で、複数の狗の体力を削る。狗はきゃいん、と高く鳴き……まるで怒りを募らせるように、るるる、と唸った。

「ガルロカは、攻撃してこない」

 其の頸を落とす者がいる。――ガシュカだ。
 未熟な剣でも、強大な一撃の後ならば頸くらいは落とせる。雨紅の横に立ち、俺も前に出る、と呟いた。

「其れがあいつのやり口だ。あいつはギリギリまで自分の手を汚さない」
「……ですが、貴方は奪われたのでしょう?」
「ああ。だが其れは、決闘を俺が申し込んだからだ。俺が……愚かだったんだよ」

 悔いるような言葉。未熟な一撃。
 其処に何があったのかを雨紅は察する事しか出来ないが――其れでも今は敵を倒すべきだと、再び複数を巻き込み、攻撃を叩き込むのだった。

成否

成功


第2章 第8節

古木・文(p3p001262)
文具屋
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
八重 慧(p3p008813)
歪角ノ夜叉


「ゴロツキよりよっぽどやばくて、止めなきゃならんのが出てきたっすねぇ」

 慧はそう言いながら、狗たちから仲間を庇う。
 狗の爪が、牙が、慧の歪な角を削ってがりり、と音を立てた。

 文がガシュカを見る。
 彼の本意ではないかもしれない。彼はきっと、今すぐにでもあの魔種の頸を取りたいと思っているだろう。
 けれども。

「えっと、ガルロカ、さん?」
「ウン、何だい?」

 狗に強化を施しながら、柔和な顔の魔種は――文を見た。
 其れを見ながらヴァレーリヤは、聖句を唱え炎の壁を作る。ガルロカと狗の間を断つように。

 ――恐らく、情報を集めるつもりですのね?

 何のつもりか判らない、其れはヴァレーリヤも疑問に思う所だった。
 この程度の狗数匹でイレギュラーズを相手に立ち回ったところで、其の命を奪える訳でもない。今は情報が欲しい。ガルロカとは何者なのか。

 ――まあ、其の間に“可愛いペット”たちは斃させて頂きますけれど!

 主よ。天の王よ。この炎をもて彼らの罪を赦し、其の魂に安息を。……どうか我らを憐れみたまえ。
 聖句の如く振り下ろされた炎の濁流は狗たちを呑み込み――其の罪を洗い流すが如く、穢れた身体を灰へと変えていく。
 助かった、という慧の視線にぐっと親指を立てるヴァレーリヤ。回復は任せた、と視線を流す先はグリーフである。
 陽光が降り注ぐ。慈愛の風が吹く。傷付いた慧の身体を、グリーフの癒しがそっと包み込んでいく。

「――ガシュカさんは、自身の半身ともいうべき剣と力を奪われてしまった、そういう事でしょうか」

 問いは誰へともなく。しかし其れにガルロカが答えた。そうだよと。

「彼は僕に決闘を挑んできたんだけど……剣ちゃんが余りにも可哀想だったんだよねェ。未熟なガシュカくんに振るわれてさァ、可哀想だから僕が貰ってあげた訳。ついでに、ガシュカくんにはイチから勉強して貰おうって思って」
「……じゃあ、其の腰にある沢山の剣は」
「ウン、そうだよ。僕が今まで戦った敵から“貰った”ものさァ。僕はね、武器が大好きなんだ」

 ガルロカは優しく腰に佩いた剣を撫でる。
 そして、武器は良いよねェ、と恍惚と呟いた。

「力あるものが振るえば、どんななまくらでも竜をも殺す剣になるんだから。……だから、赦せなかったんだよねェ。未熟な手で、身の丈に合わない剣を振り回してる奴」
「――」

 ガシュカが息をのむのが判る。
 そっと其の肩に手を添えて牽制しながら、文はガルロカの言葉を聞いていた。
 グリーフは癒しを紡ぐ其の間に、ガシュカの剣がないかと無機物と会話しながら探すけれども――数が数で、おまけに狗の相手もしなければならない。どれがガシュカの持っていた剣なのかを特定するのは難しかった。

「何でガシュカくんが何も覚えてないんだろ、って思ってるでしょ」

 言って笑ったのは魔種の方だった。
 其れくらい判るよ、と言い添えて、端正な顔をした邪悪は笑う。

「イイよ、教えてあげるゥ。僕にもちょっとくらいは魔術の心得があるってコト。まあ兎も角ガシュカくんは、自分の剣に誇りを持っていたんだろうね? 繋がりが深ければ深い程、奪うものも多くなる……ガシュカくんは文字通り、“戦いが全て”だったんだねェ。アハ。かーわいそ!」
「お前……!!」
「ガシュカ君、抑えて!」
「そうですわ! 今あなたが飛び出したところで、何も出来やしませんのよ!」

 何度目かの炎の槌を振り下ろしながら、ヴァレーリヤが言う。
 其の通りだともガシュカは思う。しかし、しかし、憤怒が身体を支配してやまないのだ。この魔種を見るだけで、声を聴くだけで、まるで内側にある炎が熾るように怒りが燃えて来る。

「……俺が言えた義理じゃないかもっすけど」

 慧が何度目か、狗を留めながら――ガルロカを見た。

「悪趣味っすね、アンタ」
「アハハハ! よく言われるよォ! ――まあ、僕からしたら……未熟な癖に分不相応な剣を振るってる方が、悪趣味だけどね?」

 そう冷たく言った魔種の瞳には。
 僅かに、怒りの炎が燃えていた。

成否

成功


第2章 第9節

オウェード=ランドマスター(p3p009184)
黒鉄守護
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す
火野・彩陽(p3p010663)
晶竜封殺
トール=アシェンプテル(p3p010816)
つれないシンデレラ


「何かあれば実力行使で止めるつもりでいたんですが、其の必要はなさそうですね」

 狗の爪牙を受け止めながら、トールは冷静に言う。
 傷が腕を、身体を侵食していく。ちりちりと痺れるような痛みが広がって行くが、まだ戦えるとトールは構え。

「背中は任せて下さい。ええ、この醜悪なドッグランも此処で終わりです!」
「カーワイソ。醜悪って言われるなんてェ。ワンちゃんはもっと大事にしても良いんじゃないかなァ」

 ガルロカが指を振るえば、狗の目に燃える憤怒に薪が足される。どうして彼らはイレギュラーズに憤怒を燃やすのか? 其の真実は判らないが、兎角、狗は執拗にイレギュラーズを付け狙う。
 ならばそれはガシュカにとって好都合でしかないのだ。横合いから斬りかかり、剣で切り裂く。己はイレギュラーズではないから、狗の視界には入らない……!

「少し出遅れたが、此処から取り返しじゃ!」

 トールと共に壁役を務めるオウェードが、集まってきた犬を盾で殴りつける。ぎゃいん、と鳴く様は動物のようだが、憐憫の情は湧かない。

「レイディ殿! まだ敵は多いようじゃ、タイミングを合わせて回復を頼む!」
「判ったわ、其れじゃあ合図してくれるわね!?」
「勿論よ!」

 一匹一匹の力量は然程ではないが、腐食の呪詛と数が厄介だ。
 ガシュカも懸命に狗を斬り付けてくれているが、矢張り其処は一般人。一撃で複数を屠るは望めない。

「――ガシュカさん!」

 トールが叫ぶ。
 彼の後ろから、狗が迫る。其の牙がガシュカの身を掠め――其の瞬間、まるで風が吹いたかのようにガシュカの姿が消え、狗の頭が撃ち砕かれていた。

「ッたく! 七面倒臭ェ流れになってやがンなァ」
「あかんところにはあかんやつ、やろかなあ」

 ルナと彩陽だ。
 ルナのチャリオッツに彩陽が乗り、其のままガシュカを攫うように助けたのである。

「……アンタたち……」
「文句はきかへんよ。あと少しで怪我するとこやったんやから」
「そうだぜ。俺も行ったろ、生き残りゃいいって。死に急ぐんじゃねェよ莫迦。弾避けが減ったら俺が危ねェし」

 彩陽は銃を構える。盾となっている二人のお陰で狙いはつけやすい。チャリオッツは戦場を旋回するように奔り、まさしく弾丸の雨が降り注いで狗を屠って行く。

「おう、駄目になりそうなら言えよ! レイディの回復が間に合わなかったら、俺がかっさらうからな!」
「感謝する! ――が、なんとかなりそうじゃ! レイディ殿に、トール殿もおる!」
「ええ! ……オウェードさん!」
「おうさ! 今じゃ、レイディ殿!」

 オウェードが振りかぶった。
 全ての防禦を攻撃に回す。これまで耐えた分を、一気に敵に叩き付ける! 倍に膨れ上がった二の腕に籠る膂力を、一息に眼前の狗に叩き付けた。鳴き声すらなく、狗はへし潰される。
 そうして数拍の後、レイディとトールの癒しがオウェードに降り注ぐ。彩陽が其の動作を援護しようと、チャリオットの上、横合いから一気に魔砲で狗たちを薙ぎ払った。

成否

成功


第2章 第10節

ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
リーディア・ノイ・ヴォルク(p3p008298)
氷の狼


「ガシュカから、“ガシュカ”を奪う。其れは其れは、不思議な事もあるものだなぁ」

 詳しく知りたいなぁ。じゃあこの状況を何とかしなきゃね。
 ランドウェラは中距離に構える。
 ならば私が、と前線に立ったのはアリアだった。

「お待たせ! 私も手伝いに来たけど……相手は、犬? 脚が六本あるけど?」
「まあ、そういう事もあるだろう」
「そういう事もありますとも」

 声は空から。タイニーワイバーンに乗ったリーディア、そしてアリアの隣にたつオリーブが周囲を俯瞰して観察しながら、アリアの問いにしれりと応えてみせた。
 そういう事もあるならば、仕方がない。
 アリアは怒りに駆られて駆けて来る狗たちを、少しだけ下がって引き付ける。そうして一気に解放した。圧倒的な極撃が齎すのは、肉体をも分解するほどの破壊。狙われた狗は塵一つとて残らない。

「ラド・バウにはお世話になった時期があるからね……私たちがいがみ合う必要はないし、手伝えるなら遠慮なく! さあ、お返しに消えてしまいたいならおいでよ!」

 アリアが構える。其の言葉は狗には通じない。だから彼女は、狗にカウンターの一撃をお見舞いし続ける。
 更にオリーブも至近からの抜き打ちで、狗の爪牙が此方に届く前になます切りにする。――恐らく彼らが持つのは毒の部類。ならば、毒の利かぬこの身体は有利に働くだろう。違っていても其の時は其の時、何せ我らは―― 一人ではないのだから。

「……ッ!」

 横合いから刃が振るわれて、狗の脚を落とした。
 著しく機動力の落ちた其の狗の頸を、素早くオリーブが刈り取る。……視線を向けると、其処には青年が一人、いた。

「……あなたが、ガシュカ?」
「そうだ。……僅かばかりの力だが、……俺も手伝う。これは、元は俺の失態だから」
「相手が魔種である以上、イレギュラーズでない貴方一人で背負える案件ではありませんが……そうですね。助けの手は正直助かりますよ」

 かなり後方から跳んでくる癒しの術。
 レイディという女は只管に、治癒に尽力していた。
 此処からは攻めの戦いになる。只管に狗を斃し、斃し、斃してガルロカに肉薄するしかない。
 ランドウェラが指を振るう。熱砂が巻きあがり、熱風が渦巻いて、狗たちを細かく切り刻んでいく。

「何体いるかは知らないけれど、兎に角全滅させれば問題はない。ただ撃ち抜いていくだけで良い……気楽な仕事もあるものだ」

 狗は飛べないから、ワイバーンと同じ目線に立つことが出来ず。
 だからリーディアは存分に、弾丸の雨を降らせる事が出来た。ばらばらばら、と巻かれた凶弾は狗を貫き、次々と屠って行く。

「しくしく、折角可愛くした狗チャンが斃されちゃう。可哀想だと思わないのォ?」
「いいや、ちっとも」

 答えたのはランドウェラだった。其の指を真っ直ぐ、ガルロカに向けて。

「どうせ君だって、全滅したら“面白いものが見られた”って去るんだろう?」

 封印の術式が迸る。
 其れはガルロカの後退を赦さぬ縄――に、なる筈だった。
 其の白い手に、ばちん! と弾かれるまでは、そう思っていた。

「!」
「……あいてて。痛いなァ、もう。――ほら、僕も一応元は神秘に近い種族の出だからね? これくらいは出来ないと、狗の脚を六本にするのって結構重労働なんだよォ」

 影から生まれ出でた狗が、またイレギュラーズたちへと走って行く。
 其れはまるで、何かを計測しているような……不気味な男だと、ランドウェラはガルロカ観を改めざるを得なかった。

成否

成功


第2章 第11節

ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
ガヴィ コレット(p3p006928)
旋律が覚えてる
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
佐藤 美咲(p3p009818)
無職


「ガシュカ氏」
「何だ」

 美咲は語り掛けながら、ワイバーンの首筋を撫でる。

「私が教えた事、覚えてまスか?」
「……」
「“殺したい奴には何回でも食らい付け”デスヨ。……今あいつに突っ込んで、確実に殺せる保証があるんスか?」

 ……手痛い言葉だった。
 ガシュカは怒りに任せ、もう少しで命を絶やすところだったからだ。
 美咲はその様子を見ると、まあねー、と肩を竦め。

「怒りが収まらない気持ちも判るんスよ。だから」

 嫌がらせ、しにいきましょ。
 タンデムシートへと親指で示しながら、美咲はにやりと笑ってみせた。


 復讐するならば、炎が燃え盛った時ではなく、冷え切った時が良い。
 其れはレイチェルの持論である。
 頭も心も冷え切った其の時に、全てを懸けた刃を振るう。其れが一番効率の良い、成功率の高い復讐の仕方。
 これは“先人”として教えねばならぬ、復讐の作法であるとレイチェルは思っている。だが伝えている時間はない。
 狗たちは其の間にも奔って来る。――右半身の術式制御を解除。絶え間なく燃え続ける焔でもって、狗たちへと炎の奔流を放つ。其れは不吉であり、凶事であり、凶兆である。

 僅かに残った残党は、ガヴィが引き受ける。とん、とん、とん。禍つステップは狗たちの倫理を簡単に溶かし崩し、同士討ちを始める。
 余り命中力には自信がない。だが、掠りさえすれば問題はない。

「あと少しです! 皆さん、耐え凌いでください!」

 ガヴィの声が戦場に響き渡る。
 其れを愛無も聴いていた。愛無はじっと、ガルロカを見ていた。狗たちへ治癒の糸を繋ぎ、怒りを増幅させ、身体能力を向上させる。其れはまるで、己の“おつかい”をさせるようだ。

「赦せなかったのは、弱い己かね?」

 問う。
 ガルロカは少しの間気付かず、……そうしてはた、と愛無を見た。

「其れ、僕に?」
「そうだ。お前が許せなかったのは、己か? 其れとも他者か?」
「ウーン、どうだったかなァ。よく覚えていないよ。其れに、君たちに応えても、別に関係ないでしょ?」
「そうだな。だが――気になるものは仕方ないだろう。君は“何を奪われた”? 穴埋めは、他人のもので出来たかね?」
「……。…………。僕、過去を詮索してくる人ってキラーイ! ジュウゴちゃん、あいつ殺しちゃってェ!」

 ガルロカの遊ぶような声に、初めて感情が乗った瞬間だった。
 ありったけの強化を乗せられ、最早怪物のようなフォルムをした狗が歩き出す。奔る程身軽ではない所に、ガルロカの秘めた怒りが伺える。

「なんだ、そんな強化も出来るんじゃないか」
「出来るんじゃないか、じゃねェよ。なに敵を煽ってンだ」
「悪い、悪い。しかし仕方ないじゃないか。気になるものは気になるのだから」

 ガヴィが舞う。
 同士討ちをしていた狗たちが、強大な“DOG”へと食らい付く。しかし“DOG”はそんなもの構いもせずに、強靭に肥大した脚で振り払う。
 レイチェルが舌打ちをして、炎を向けた。ガルロカもまた、“DOG”へ指を向けた。其の時だった。

「ほうら、お土産っスよ!」

 美咲の声が高々と、秋の高い空に響き渡る。
 同時にどさどさどさ、とガルロカの上に何かが落ちてきた。――ガルロカは不思議そうな顔をして、其れを拾い上げる。……何てことはない、生ごみだった。

「いいっスか、ガシュカさん。殺すだけが嫌がらせじゃないんスよ。――ねちっこく、ゆっくりやっていきましょ?」
「……」

 本当にやりやがった、という視線をタンデムに座して送るガシュカにウインクして、美咲はミニペリオンを召喚する。
 扇状に羽撃く其れはガルロカ側から味方へと流れるように光の軌跡を描き、強化された“DOG”に凶兆を与える。

 今だ、と誰もが思った。

 とんでもない復讐だ。ちっぽけな嫌がらせだ。しかし其れが時に、魔種をも油断させる一つの光明となる。
 レイチェルは輝きを呼ぶ。其の輝きはおぞましく、そして美しい。凶事を纏う全ての者から命を奪い取り、……其れは狗も、“DOG”も例外ではない。
 更にガヴィが狗をけしかけて、レイチェルがまとめて凶事を与え、命を奪い――そうして。
 巨躯に歪められた“DOG”は、どうと倒れ伏し、二度と動く事はなかった。

成否

成功


第2章 第12節

シラス(p3p004421)
超える者
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
ソア(p3p007025)
愛しき雷陣
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣


 剣を握る。
 剣を握り締めて、あの魔種へと突っ込んで行く。狗を切り払い、斬り抜いて、魔種の頸を狙う。
 脚に食いつかれる。痛みが走って歩調が鈍る。
 腕に食いつかれる。剣を持つ手から骨が覗いた。
 そうして最後は背中にまで乗られて、纏わりつかれて、次々と噛まれ、喉笛に――

「……ッ!?」

 はっ、とガシュカは我を取り戻す。
 いいユメみたか? とはシラスの言である。
 彼が幻影でもって、魔種に怒り任せに突っ込んだガシュカの末路を見せてみせたのだ。彼が荒い息ながらも落ち着いたところで、焔が眼前に。

「まあまずは落ち着けよ。ああなるのはイヤだろ?」
「そうだよ。……最初の攻撃見えてた? 突っ込んでたらあの程度じゃすまなかったよ。――何の為に皆から戦い方を教えて貰ったの? ボクは少なくとも、ガシュカくんに生き延びて欲しかったから、避け方のコツを教えてあげたんだからね!」

 ねっ、と額をピンと弾く。少し汗ばんだ額を叩くとガシュカは目を瞑り、……開き、気まずそうにそっぽを向く。

「……すまなかった」
「うん! 謝れるのは良い子だね」
「何事にも機というものがある」

 さあ、立てるかい。
 ガシュカを支えたのはヴェルグリーズだった。
 支えられながら立ち上がるガシュカは、幻で己の死を見たとはいえ大丈夫そうだ。

「機を冷静に見定められてこその戦士だ。常に冷静さは持ち合わせておいた方が良い。――其れに、今は俺達がいる」
「がお! ボクはいつだって食べる側だけど――あなた達は美味しくなさそうね!」

 ソアが一足先に、狗たちへの侵攻を開始している。
 雷電が躍る。雷虎が跳ねる。リソースが続く限り天候は変わらぬと、ソアは狗たちを蹴散らしていく。ついでに不調も付与してしまえばガルロカからの支援も意味をなさない!

「ガルロカ、と言ったっけ」
「え? あァ、ウン。僕はガルロカ。君は?」
「ヴェルグリーズ。――君が何を思って挨拶なんてしに来たのかは知らないけれど……ガシュカ殿には手出しはさせない。どれだけ煽っても無駄だよ」

 狗は無粋にも、二人の会話に割り込んでくる。
 光纏う剣で其れ等を蹴散らしながら、ヴェルグリーズは真っ直ぐにガルロカを見ていた。
 一方でガルロカは、笑みを深くする。

「そうかなァ。どうかなァ? 君たちが思うよりずっと……」
「ずっと?」
「……ふふふ! 何でもなーい。さあ、ええと……ニジュッタくんかな? 頑張れ、頑張れ、君たちのだーいっきらいなイレギュラーズが此処にいるんだから」
「これくらいで俺達が倒れるかよ」

 シラスが穢れた泥の渦で狗の魂を徹底的に穢し、傷付ける。
 其れ等をソアが雷電纏う爪で引き裂き、更に魂を穢す。
 其れ等を見ていたガルロカだが――数えてみると、二人ほどいない事に気が付いた。

 焔とガシュカがいない。
 大抵ガシュカはイレギュラーズの後方にいる筈だが、……おや?

「よくもノコノコと俺の前に顔を出したな」

 気付けば狗の包囲網を越えて、鉄騎種の彼は魔種へと肉薄していた。
 咄嗟にガルロカが脇の短剣を引き抜く。

「させないよ! これは――ガシュカくんの戦いだけど!」

 焔が庇いに入る。振り下ろした短剣は彼女を切り裂いて、ガシュカは苦い顔をする。……けれど! 彼女らが、後方の彼らが作ってくれた隙を、此れ以上浪費する訳にはいかないのだ!

「――斬る!!」
「アハハ! すっごォい!」

 ガシュカの剣が、一筋綺麗に弧を描いて。銀色の軌跡が、魔種の胸元を深く切り裂いた――

成否

成功


第2章 第13節


 ……よろり、よろめくガルロカ。
 其の周囲にはもう狗はおらず、最後の一体まで削ぎ尽くされて。

「……ねえ、ガシュカ君」
「何だ」
「……“怒りは消えたかい”?」

 笑いながら、頬に己の血を跳ねさせながらガルロカはそう言うと、霞のように消えていく。

「ねえ、僕待ってるよ。ずっと待ってる。君の剣が僕を越えるのをずっと待ってるよォ! 其の為にさ、そんな“お高い”剣をあげたんだから!」

 逃げるのか、と深追いしそうになったガシュカをイレギュラーズが引き留める。
 其の間に桃色の霞は空気にふんわりと消え、――いやに甘い香りだけが残った。

 ガシュカは、……剣を握り、大地を見ていた。
 何かが己のうちで燃えている。
 其れは怒りか。狂気への布石か。其れとも、怨敵を斬ったという、快楽、だろうか。

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