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シナリオ詳細

<仏魔殿領域・常世穢国>晦冥旧時・残影追憶

完了

参加者 : 50 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

紫煙微睡

●<仏魔殿領域・常世穢国>晦冥旧時・残影追憶
 常世穢国。
 一人の魔種の願いによって顕現せしめている地――
 故にこそ玄武(p3n0000194)は神使を通してかの地を攻略せんとしている、訳だが。

「……帰って来ぬ者がいるのか」

 先日。常世穢国に対する攻勢の一環において、消息を絶った者達がいた。
 百合草 瑠々(p3p010340)に星穹(p3p008330)だ。
 ……いや厳密には全く行方が分からない訳ではない。彼女らはそれぞれの想いによって、偲雪の傍にいる事を選んだのだ。つまりは――常世穢国の中枢にいるのは間違いない。
 玄武にとっては予期せぬ事態であった。よもや、そこまで偲雪の影響が強いとは。
 いや……偲雪がどうこう以前に、彼女ら自身に想う所があったか……?
「むぅ……幸い、と言っていいか分からぬが。魔道へ完全に堕ちたかは分からぬ。
 引き戻す事もまだ……間に合うであろうか」
「……瑠々さん」
 そして当然。彼女らの行動は玄武のみならず、彼女らに親しき者達にも衝撃であった。
 瑠々と親しきはエドワード・S・アリゼ(p3p009403)にエア(p3p010085)、それからフラーゴラ・トラモント(p3p008825)であり――『敵対』の意思を示されたばかりだ。
 星穹と親しきは黒影 鬼灯(p3p007949)に恋屍・愛無(p3p007296)と、そして……
「…………星穹殿」
 ヴェルグリーズ(p3p008566)であろうか。
 彼の胸中に過るは何か。相棒と隣り合った日々か。
 それとも。届いた手紙に思わず、五指の力を込めてしまった時の熱色であろうか。
 ……いずれにせよこのままでは在れぬ。
 誰も彼もが動きたい『逸り』に迫られていて。
「しかし常世穢国の様子が変わっておるの。
 アレは恐らく……アレは恐らく修復活動であろうか」
 同時。玄武が見据えた先には――件の、敵の本拠たる常世穢国だ。
 豊穣の首都たる高天京にもよく似た街並みが、しかし今は。
 晦冥に包まれている。
 薄暗い。お天道様が天上に在ろうとも、漆黒たる空間に包まれている光景は異様だ。
 ぼんやりと中が見えはするもののマトモな空間であるとは思えぬ――が。
「修復――この前の破壊活動による被害の、って事だよね」
「うむ。皆のおかげでかなりの損害を与える事が出来た。偲雪の力によって顕現している地であれば、彼女の力によって再び回復も叶おうが……しかし彼女の力も無限ではない。時間と能力を割いて斯様な、何らかの行いをする必要があるだろう。偲雪の行いを止めたい我にとっては必ずしも凶事の前触れとは言えぬ」
 玄武は、情報を齎してくれたムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)に語るものだ。アレは、先日の神使らの行動によって生じた好機であろう、と。
 常世穢国は偲雪の願いを叶えんとする巨大な術式であった。
 故に破壊されたままではいられまい――外への拡大は一端諦め、内の安定を図っているが為の行動。放置すれば再び常世穢国は、元の状態に戻ってしまうかもしれない……が。
 これは『隙』になっていると推察できる。
 森に潜んでいる玄武や神使らに追撃の手が及ばぬ事がその証左だ――
 内の修復に全力を注いでいるのだろう、ならば。
「この一時、逃せぬ。我は常世穢国攻略の為、準備を進めておくが故……
 神使らは現状の常世穢国の状態の確認と、行方不明となった者達に接触してもらいたい。偲雪の下へいる事を選んだとは言え、今一度語りたい者もいよう。彼女らの意志が固くば、最早どうしようもないかもしれんが……」
「――準備って?」
「……秘密じゃ。其がしかと整えられるとも限らぬでの。無事に成せればその時伝えよう」
 最後の機があってもよかろうと、玄武は思考するものだ。
 一度目は久遠なる森の調査の為に訪れた。
 二度目は果てに見えた常世穢国が如何なる地か知るべく赴いた。
 三度目は危険性が故にこそ破壊すべしとした。
「その結果として、かの地には亀裂が生じておる。
 ……偲雪を倒す事に関して、想う所がある者もいようか。
 されど奴めは魔道に堕ちた存在――放置してはおけぬ。
 なにより……言や思いが正常に見えても、必ず狂おしい点があろう」
 偲雪は、魔種だ。
 最早この世の人に非ざる存在。世界を崩壊させる因子を宿した怪物。
 ……放置しておけばいずれこの国を呑み込まんと考え、実行するだろう人物。
 彼女は人の話を聞くように思えて、聞かぬ。
 自分の道が正しいと信じて疑わぬ――悩む様があったとしても、結論はいつも同じだ。

 全て塗りつぶす。

 悲しみを伴う自由よりも、統一された意思による笑顔こそが至高であると――信じている。
 彼女は討たねばならぬ。そして『その時』は、きっとそう遠くない。
「……ってぇ! なんだこりゃあ、進めねぇぞオイ!!」
「なんだー? これ、変な壁があるのか……? ん、でも進める人もいるな?」
 と、その時。
 常世穢国に踏み込まんとしていた者の内――神使に協力する空と巴の歩みが、止まった。
 否。厳密には、なぜかそれ以上進めぬのだ。まるで見えない『壁』があるかのように。
 ……しかし神使は別であった。阻害される事なく、内部へと進めていく。
 どうやら神使でなくば入れぬ様だ。
 ……いやむしろ神使であれば入れる、と言うのが正確だろうか?
「こいつは……なるほど。『縁』が反応してるんですかね?」
「ふぅむ――受け入れる者は受け入れる。かの御仁らしいと言えば、そうかもしれやせんが」
 八重 慧(p3p008813)に、その師匠たる栴檀(せんだん)が見据えるは、かつて慧が久遠なる森にて手に入れた事があるお守りだ。
 ――調査の末に判明したことだが、これは偲雪の力と関係があるらしい。
 それが反応しているが故に内部へと侵入する事が出来るのであろうか……或いは。内部に残っている行方が分からぬ神使との縁や、この地の主たる偲雪とどれほど関わりがあったか――も関係しているのかもしれない。
 それらの繋がりが深い者程、入りやすい様になっているのかもしれない。
 いずれにせよ今の所常世穢国へと入れるのは誰でも、と言う訳では無い様だ。
「ふむ……ならば僕は一度『里』に戻るとしようかな。
 長に報告して、可能なら戦力を引っ張ってこよう」
「此方も様子を見ようかな――全員で入り、何がしかの罠で全滅したら洒落にならない」
 続けて弥鹿に導満の声も並ぶもの。両名は空達と異なり、神使ではあるのだが……縁が足りぬのか、進みづらい様だ。ならば今回は、内部の事は皆に任せ、己らは外で動かんと意志を示す。
 然らば。貴方は足を踏み入れるものだ。
 晦冥に包まれた――常世穢国へと。


 ――足を踏み入れれば奇妙な感覚が生じた。
 なんだろうか。何か、違う。
 以前とは……景色もなにもかも。建物もなんぞや、色褪せている様な……
「――あっ」
 刹那。誰かが気付いた。
 ここはきっと――過去の世界を『映し出して』いるのだろう、と。
 元々、常世穢国は過去の高天京を再現しているとされている。幾らか『手』が入っている様で完全に同じではないが……しかし『過去を模している』という点は重要だ。一体何をもってして再現しているのか――? と言えば。
 それは偲雪や、協力する帝達の『記憶』に他ならぬだろう。
 そして偲雪が常世穢国復旧の為に無事だった状態へと『逆戻し』を行っているが故か――断片的に過去がちらほらと見えているのだ。
 常世穢国を中核として支える、古き帝達の時代の残影が此処に。
『一つ。『常帝』の時代は『平穏と退屈』の時代――
 二つ。『干戈帝』の時代は『騒乱』の時代――
 三つ。『正眼帝』の時代は『変革と拒絶』の時代――
 皆さんはその時代の折に紛れ込んだのです。
 ……これも、あの子が妄執の一端。偲雪が見てきたこの世の概念』
 同時。周囲の状況を見据えている神使に――声を掛ける者がいた。
 それは。
「――黄泉津瑞神!?」
『いいえ、私は只の残影。偲雪の記憶の片隅にあるだけの、紛い物』
 黄泉津瑞神――の、幻影だ。
 若き、全盛の折の姿。これもまた過去の映し出しであるが故か……?
 となれば彼女も偲雪の支配下にある存在と思える、が。敵意はなさそうだ。
『私は、この国を遥か太古から見守っていたからこそ、どの時代にも出現しうるだけです。逆戻しが終われば泡沫と消えるだけの……いわば一時の導き役』
「――そうか、確かに。瑞神は『全員』を知っているのか」
 帝と認め、加護を与え。
 国を委ねたが故にこそ――過去を遡れば必ず彼女がいるのだ。
 いずれの時代にも、彼女が……
『私は皆さんと敵対する気はありません――むしろ、この地に参りたいならば案内を』
「どうして? どうしてこちらに協力を?」
『……魔へと堕ちた”あの子”を見るのは、忍び難いが故に』
 刹那。瑞神の手にあるは――氷の花。
 それは。一部のイレギュラーズが手に入れた事があるという、花だ。
 ……偲雪が好み。瑞神もまた、其れを知る者。
 黄泉津に住まう者全てを我が子のように慈しむ彼女にとって――
 かつて愛し。そして今でも忘れぬ『あの子』の『変わってしまった』姿は、耐えがたいのかもしれない。例え彼女が、この今一時の間における幻影であるとしても……その本質に代わりないのであれば。
『では、参りましょう。これらの道筋を超えた先に……貴方達の探し人がいるでしょうから』
 然らば瑞は導いていく。この場に訪れた神使達を。
 まるで追憶する様に。
 この国の歴史に沿って――偲雪の下へと往くように。

GMコメント

 本シナリオの優先に関しましては行方不明になった方との関わり(前回シナリオ)や、アイテム『久遠の縁』を持っており、なおかつ常世穢国への参加回数が多い方などから幾人かを選出しております。強制ではないので、実際の参加に関してはご検討いただけますと幸いです。
(※行方不明者自体も参加可能な様に含まれていますが、これは意図したものです)

 なお本シナリオの『過去の世代の情報』を、相談期間中に特設コーナーで更新予定です。更新されましたら本GMコメントにも情報を追加していきます。

●過去世代の追憶(※9/8追記! 必ずしも読んでおく必要はありません)
追憶・正眼帝:https://rev1.reversion.jp/page/kuon_mikado1
追憶・干戈帝:https://rev1.reversion.jp/page/kuon_mikado2
追憶・常帝:https://rev1.reversion.jp/page/kuon_mikado3

●目標
・行方不明者との接触
・常世穢国の状態の確認

 いずれかの様な行動を行ってみてください。
(あくまで目標なので、独自にやりたい事があったら行ってみてもOKです)

●フィールド
 現在、常世穢国は非常に特殊な状態になっています。
 常世穢国は前回の依頼で多大な損壊を受けました。その為、現在偲雪は復旧作業を行おうとしています――言うなれば損壊を受ける前の、正常な状態に『逆戻し』しようとしている様です。
 が。その影響なのか時空が乱れている様で、古き帝達が統治していた『過去の時代』が断片的に顕現しています。

 つまり。本シナリオでは各帝が統治していた時代の一部を疑似体験する事が出来ます。
 皆さんは下記の中から一つ、もしくは複数(全部でもいいです)の時代を体験する事が出来ます。ただし複数個選択している場合は、リプレイでの描写も分散しますので集中的に登場したい場合は一個か二個までがお勧めです。

【1】『常帝』の時代
 現代から数えると最も時間的に近い、雲上の統治時代です。
 現在の常世穢国の外周部と言える範囲で発生しています。
 曰く。『平凡で停滞。退屈な時代』です。
 然して大きな出来事は起こりません。後世の歴史家からすれば本当に面白くない時代です。皆さんは『雲上が寿命で亡くなる数日前』の時代に参加出来ます。

 彼(幻影)は自家の縁側で、日向に当たっています。
 ――彼はどこか渇いています。
 刺激のない人生に。静寂を求められた己が人生に。

 ※PL情報:この時代に特に危険性はありません。この時代の重要度は低いです――だから雲上は偲雪の様な眩しい程に輝かしく『己』を持つ者に協力するのです。本物が出てくるかは不明です。

【2】『干戈帝』の時代
 ディリヒの統治時代です。偲雪と雲上の中間時代に位置します。
 現在の常世穢国の中層と言える範囲で発生しています。
 この時代は『騒乱』の時代です。
 豊穣各地で大規模な内乱と、民を害する妖怪が大発生していました。
 干戈帝は闘争を楽しむ武の権化であり、この時代に発生していたあらゆる騒乱を非常に楽しんでいました――あちこちで乱を鎮圧する手際は見事だったのですが、どこかわざと『長引かせていた』面もあるようです。

 その危険性に気付いた一部の面々が『干戈帝暗殺計画』を実行しました。
 皆さんはそのタイミングに参加出来ます。若い玄武も登場します。
(※ただし当時の幻影であり、現在の玄武ではありません)
(※その歴史に疑似参加出来るだけで、倒せないといけない訳ではありません)

 この時代のディリヒ(幻影)は瑞神の加護があり非常に強力です。
 かつて豊穣に存在した大妖怪『八首の蛇』を単身で打倒したとも言われています。

 ※PL情報:戦闘の推移次第で展開が変化する可能性がありますが、歴史通りであればディリヒは最終的に瑞神によって打ち倒されます。本物が出てくるかは不明です。

【3】『正眼帝』の時代
 現代から数えると最も時間的に遠い、偲雪の統治時代です。
 現在の常世穢国の、最も深い場所(中枢)と言える範囲で発生しています。
 この時代は『変革と拒絶』の時代です。この時代に玄武は登場しません。

 皆さんは『偲雪が暗殺される日』に参加できます。
 偲雪は暗殺される直前、誰かと親し気に話していた様です。
 その会話が終わって一人になった後に暗殺されました。

 ちなみにどういう風に殺されたかというと、毒が仕込まれた茶を飲んで吐血した所を、更に背後から複数の刃によって刺され暗殺されたとの事です。

 ※PL情報:話していた相手は瑞神です。過去の再現がされているので、ほぼ確実に偲雪(の幻影)は死にます。幻影ではない本人が登場するかは不明ですが、登場するとすれば、この場でしょう。

●NPC
●黄泉津瑞神(幻影)
 全ての帝に関わっている存在です。
 全ての時代に登場します。過去の幻影であり、本人ではありません。

●玄武(若年時代・幻影)
 玄武の若い時代です。ディリヒの時代に登場します。
 まだ四神になる前であり若い精霊の一種でした。
 国と民の為にと正義感を掲げ、ディリヒを討たんとします。
 ただし史実では彼を残して返り討ちにされてます。

 ちなみに幻影ではない玄武は、常世穢国が内部の修復を行わんとしている間に、外で何か『準備』をしているとの事です。

●行方不明者
・百合草 瑠々(p3p010340)さん
・星穹(p3p008330)さん
 は現在行方不明状態になっています。
 何処にいるかは分かりませんが、恐らく偲雪の傍――【3】にいると思われます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <仏魔殿領域・常世穢国>晦冥旧時・残影追憶完了
  • GM名茶零四
  • 種別長編
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年10月26日 22時20分
  • 参加人数50/50人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 50 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

(サポート5人)参加者一覧(50人)

夢見 ルル家(p3p000016)
離れぬ意思
クロバ・フユツキ(p3p000145)
真実穿つ銀弾
シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
優しき咆哮
ラダ・ジグリ(p3p000271)
天穿つ
セララ(p3p000273)
魔法騎士
リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
サンディ・カルタ(p3p000438)
抗う者
ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
武器商人(p3p001107)
闇之雲
古木・文(p3p001262)
結切
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
腐れ縁
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀焔の乙女
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
月香るウィスタリア
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
プラック・クラケーン(p3p006804)
昔日の青年
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の巫女見習い
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
オフィーリアの祝福
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人
恋屍・愛無(p3p007296)
獏馬の夜妖憑き
タイム(p3p007854)
この手を貴女に
黒影 鬼灯(p3p007949)
頼れる守護忍
星穹(p3p008330)
危険域
一条 夢心地(p3p008344)
殿
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
観音打 至東(p3p008495)
悪縁斬り
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
うそつき
シガー・アッシュグレイ(p3p008560)
紫煙揺らし
ヴェルグリーズ(p3p008566)
桜舞の暉剣
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
希紗良(p3p008628)
鬼菱ノ姫
鏡(p3p008705)
瑞鬼(p3p008720)
幽世歩き
隠岐奈 朝顔(p3p008750)
真意の選択
八重 慧(p3p008813)
歪角ノ夜叉
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
ルーキス・ファウン(p3p008870)
散華閃刀
金枝 繁茂(p3p008917)
善悪の彼岸
トキノエ(p3p009181)
劇毒
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針
佐藤 美咲(p3p009818)
合理的じゃない
星芒 玉兎(p3p009838)
星の巫兎
エア(p3p010085)
あの夜に答えを
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官
ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)
陽気な骸骨兵
猪市 きゐこ(p3p010262)
炎熱百計
百合草 瑠々(p3p010340)
偲雪の守人
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
未来への葬送

リプレイ


 誰しもに歴史がある。
 『今』があるのなら『過去』がある。
 ――その狭間に貴方達はいるのだ。
「此処は……一体……? 雲上さんの時代……? 何故?」
 かの領域に足を踏み入れた一人は『真意の選択』隠岐奈 朝顔(p3p008750)だ。
 なんだろうかこの空間は。どことなく戸惑うも、しかし。
 とにかく調べなければならない……この領域の事を、と。
 頭を振り、己が成すべきことを思い直した彼女は――往く。この場に溶け込むような演技をもってすれば誰しもの警戒など受けようもないものだ……尤も。この時代の空気はどこか――穏やかにして停滞している。
 誰しもの気が抜けている様な。乱など起こらぬと、誰しもが思っているかのような……
「常世穢国の外周部……どこかに外と繋げる為の綻びが無いか、確認しておきたい所ですわね」
 同時。この地の気配を感じながらも『星の巫兎』星芒 玉兎(p3p009838)は『外』と『内』の境界線を調べんとするものである。完全無欠の結界などあろうはずがない。外界との隔絶を解くための物理的或いは霊的な綻びのようなものは無いか……
 占星術師の端くれとして、探ってみましょう。
 ――それに。次にまた攻撃しても、閉じ籠もって逆戻しをされては堪りませんし。
「……そも。このように蓋をするのは、偲雪様の心中はやはり『外』を拒絶している事の証左なのでは?」
 結局、偲雪は個人の意思を制圧して成すのだと。都合の悪いモノは排除するのだ、と。
 ――それは分かりやすい拳による暴力でこそないが『何』が違うのだ。
 力によって成せば地獄であるという事に異論は無いでしょう。
 異能によって成したとして、結論が変わる道理は無いはず。 
 だから、玉兎は偲雪の理想郷に価値を感じえない。玉兎は偲雪に――賛同せぬだろう。
「これが……この国の象徴と言える気質、ですか。
 ……停滞。それが、この国に止めを刺した……」
 同時。想いを巡らせるは『輝奪のヘリオドール』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)である――心の中には静謐を宿し、彼女は周囲を見据えんとする。これらに『在る』はなんなのか、と。
 知る必要がある。この地に在るであろう真の理を……
 常帝の時代に在る気質を気取り。常世穢国を知るために。
 故に進むのだ。彼女は一つ一つ、順繰りに――そして。

「むっ……何者か? こんな所まで入ってくる者がいるとは、珍しい……」

 いた。常帝だ。
 『此処の彼』に敵対の意思はない――困惑する様子はあれども、だ。ならばと。
「……やあ、突然すまないね。私は……死神だ。そう言われることも、ある」
「ほう。死神か……面白い。遂に私にもお迎えが来た、という訳か」
「そう捉えてもらっても結構だが――しかし少し言葉を交わしたくてね」
 語り掛けたのは『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)である。
 兵や他者を呼んでも無駄だ、と。告げながらも敵意が在る訳では――ない。
 言葉の通り、この時代の彼と些か言を交わせるだけの事。故に。
「……私は、此処とは違う場所からやってきた。
 其処には疫病に圧政、飢餓、争い。死と狂乱で溢れていた――
 あぁ。思えば、誰かの死に顔を見ない日は無かった」
 勿論それは、死を齎す者――死神としては望ましいことではあるのだが。
 しかし『死神』としての側面と『ルブラット』としての側面が同じとは限らない。
 ……だからルブラットは語りたかったのだ。
 圧政を。飢餓を。争いを無縁とするこの時代を築いた者と。
「ふふ。正直に言うとね、私は貴方を好ましく思っているよ」
「ほう――それはどうして?」
「平穏とは本来得難いもので、すぐに掌から零れ落ちるものだ。
 望んでも掬えず。求めても救えず。
 五指の間より零れて蕩けて消えるモノ――
 ソレを維持し続ける事が如何に万難の果てに在る事か……
 偉業とも言おうか。あぁ貴方は自覚しておくべきだ、成しえた事を」
「……ただただ静謐を求めたにすぎんつまらぬ男だよ、私は」
「そう言わないでおくれ。もっと自らを誇りに思い給え。この私を惨めにしないが為に」
 貴方はたまたま大事が起こらなかっただけだとか、そう考えているのだろうか?
 そんな事はないのだ。そんな事は出来ないのだと、ルブラットは『知って』いる。
 記憶にある最後の日――火刑の日の晴天を忘れた事はないのと同様に。
 彼は自らの経験から……常帝の事を好ましく思っているのだ。
 ――だが、幾ら謙虚といえど、自分をつまらないとまで称するのは誤りだよ。
「それが伝えたかっただけだ。どうせ我々はまたすぐに出会えるのだから。
 それまでは、……息災で」
「……うむ。死の神を名乗る者よ、またいずれ三途の導きの果てに会おう」
 彼は――ルブラットは真に、心の底からそう思っているが故にこそ。
 此処に来たのだ。
 ……分かっている。この常帝は過去の再現であり、会話にどこまで意味があろうか、と。
 しかし、それで止まる理由がどこにあろう。
 伝えたい事が――あったのだから。

「うむ、うむ。良き風が吹いておるのう――隣に良いかの?」
「うん……? 君は……さて。とんだ傾奇者に見えるが」
「はっはっは。まーったく失礼な奴じゃのう。こんな麿を捕まえて傾奇者とは!」
 そして続けて雲上に接触したのは『殿』一条 夢心地(p3p008344)だ。
 雲上の返答を聞く前に横に腰掛ける――そして。
「お主。風は心地よいか?」
「……むっ? 確かに今日と言う日は、中々に陽気な天気であるとは思うが」
「うむ。そうか――然らば、それはお主が吹かせた風であろうぞ」
 夢心地は、言うものだ。
 ……此処に来るまでの間に夢心地は城下の民の様子を見て回っていた。
 然らば分かるものだ。雲上の成した功績が、どれ程のモノであったかは。
 なーーーにが、退屈な時代じゃ。何も起こらなかったのではないわ、起こさなかったのよ。
 実績と自己評価がここまでかけ離れていると、いっそ笑えてくるものだが。
 しかし、説教染みた事を言うつもりはない。
 逆に寄り添う言葉もお気持ち表明も叱咤激励念仏なにもなし!
 じゃが、それでも。
 一つだけ言うとするならば――伝えておこう。
 この長閑な風は。
「紛れもなく、お主が数十年かけて吹かせたものよ」
 何を思い何を目指していたかは二の次。結果だけが全てなのだ。
 ……麿たちレベルの為政者に下される評価は極論『民が笑っていたか否か』のみに集約されるべきじゃからの。そしてその観点で言えば、己の持ち得なかったモノに対する羨望は。
「――麿とて捨てられぬ」
「誉められている、と取っていいのかな?」
「好きに取るが良いぞ。まぁ、麿はまだまだ現在進行形の存在よ。
 歴史家に語られる身では在らぬ。麿の道が完成した時にこそ――
 お主とはまたこうして、隣あってみたいものよ」
 見ておこう。行っておこう。殿的存在であるこの一条夢心地が。
 そして、記憶しておこう。
 ――お主の様な者が確かにいたのだと。
「そうだよ。他人にどう言われようがこんなにも長く目立った事件が起こってないってのはすごいことだと思うんだ。大陸の方だなんて年がら年中事件ばかりだし、それに――平穏で有ることの大切さは、子と孫を失った僕もよく知ってるから……
 っと。それよりも『初めまして』だね。
 僕はムスティスラーフ・バイルシュタイン。よろしくね」
「ほうムスティスラーフと言うのか……名前からして豊穣の外の者かな?」
「はは。むしろ『この世界の外』から、かな」
 直後。雲上へと語り掛けたのは『腐れ縁』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)である。現世の彼とは何度か出逢っているが……再現とはいえ生きている彼に会うのは、初めてか。共に縁側で日向に当たりながら挨拶をするものだ。
 そして――ムスティスラーフはそのまま問いかける。
「ねぇ――君は、なにかやり残したこととか無いのかい?
 現状に満足してなさそうだけど、なにかあるなら今の内だよ。
 時間がいつまでもあるとは限らないから――
 あっ。ちなみに僕は君とデートしたいなって思ってるよ」
「デート? ふっ、面白い事を言う。こんな爺とかね」
「勿論! 平凡な毎日もこうやって変化させれば新しく見えるかなって」
 それは全て本心だ。僕らに残された時間は少ないかもしれないけれど。
 それを理由に諦める事はないと思うんだ。
 ……ねぇ。君は一体、どんな人生を送って来たんだい?
「そうですわね。私もあなたのお話は伺いたい所ですわ――」
 然らば一通りの調査を行った玉兎も雲上の言に耳を傾けんとするものだ。一国を背負い、長い生涯を一度全うされた人生の先達の言であれば……耳を傾ける価値があると存じますから。
 そもそも雲上は自らを卑下している様だが――安寧とは大気のようなモノ。
 誰しもにとって必要なモノであるはずなのに。
 不足しなければ価値を知覚される事は無い。むしろ軽んじられる事もあろうか。
 ……皮肉なモノだ。
「物好きな者達もいたものだ。
 まぁ年寄りの時間は余っている……君達が良ければ、そうだな。
 少しばかり昔の事を語ってみても良い所だが……どれ、その前に茶でも入れるかね」
「……失礼。体調が良ければだが、紅茶の入れ方を教えてはくれないだろうか?」
「初めまして、雲上さん。ヨゾラっていいます。一緒にお茶会でもどう、かな」
 と。続いて雲上の下へと語り掛けたのは『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)に『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)である。
 にこやかなる表情と共に紡ぐは、一つの提案。ランドウェラの手には茶葉とハーブバタークッキーが在り、ヨゾラの手にも茶菓子があろうか。両名共に雲上と茶の一時を楽しまんと持ち込んできたのである。
 ――退屈そうな人物には刺激が必要だ、と。だがあまりに刺激的な事はよくないとランドウェラは判断し、紅茶の芳醇とした匂いを楽しむ一時を……
 見ようによっては『おじいちゃんと孫の図』になるかもしれないな――
 などと思えば、口端がふと自然に緩もうか。
「ほう。紅茶とは中々珍しいモノを見たな――久方振りに淹れてみようか」
「はは、なら是非とも――あ、そうだ。
 なあ、雲上殿。あだ名とかないのかあだ名。ニックネーム!」
「む。ニックネーム? と言われてもな……」
「あ、待って待って。まだ言わないでくれ、当てて見せる!」
 むむむ、と額に指をあて考え込むランドウェラ。
 ――考えろ。カムイグラに召喚された来たのなら……『雲上』以外の名前があったのではないか? そもそも彼の雰囲気はどうにも、カムイグラとは別の気配を感じるもの――きっと幻想か天義か鉄帝か、その辺りの名前なのではと推察して。
「ウィリアム。ウィリアムとかいう――名前なんじゃないか?」
「――――ほう。それは、勘かね?」
「あぁ。勘も勘さ。なんだかそんな感じの名前が似合いそうな気がして、ね」
「ふっ。だがそれはもう、捨てた名だ。この地に召喚されてからはな……」
 然らば、彼の脳髄に天啓が降り注ぐ。
 ウィリアム。ウィリアム・ハーバーが彼の、雲上の元の名前、らしい。だが帝としてこの地に迎合した彼は、カムイグラの者に寄り添う為に名を変じた……それが雲上という名。かつての地に帰れなくなったが故にこそ――その名前を己に定着させたのだ。
「あぁ懐かしい響きを聞いた。
 もう何十年も帰ってはおれんか……これからもそうであろうな、む――?」
「なら、雲上さん――いや、ウィリアムさん。せめてこれだけでも――どうかな」
 と、その時。ヨゾラは天に幻影を張る。
 それは星空。ヨゾラの記憶にある、混沌大陸側で見た事のある――夜空だ。
 せめて幻なれど。彼の旧き記憶に根差す光景を見せる事が出来たら……と。
「おぉ……これは。カムイグラとは異なるな……ふふっ。君達も外から、か」
「うん――お茶でも飲みながら、ゆっくりと眺めてみてよ」
 永遠に居続ける事は出来ないけれど、今だけは、と。
 ヨゾラは力の限り振舞うものだ。
 ――皆(イレギュラーズ)の中に雲上さんが光を見出せますようにと、願いながら。
 そして……その背後付近で呼吸を整える影が一つあった。
 ここが過去の常世穢国であるのならば……この中では皆『生きて』いるのだろうと。ならば大丈夫。大丈夫だと『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)は己の魂に言い聞かせる。お化けはいない。多分。幻影ならセーフ。多分。
 深呼吸する様に息を整えながら――ジルーシャが思うのは、瑞の言葉だ。
 たしか彼女は『平穏と退屈』の時代、と言っていたか。
「でもそれって、素敵な事じゃない……?」
 ――だって。ずっと続くと思っていた平穏が突然壊れていく怖さを。
 アタシは――アタシたちは、よく知っているもの。
 信じていた明日が来ない事。信じていた安寧が血塗れになる事。
 ……ソレが来ないのは、どれ程素晴らしい事であろうか。
「んーっ、このお茶美味しいわね! アタシにも淹れ方を教えて頂戴な♪」
「ふむ。これぐらいならまぁ、お安い御用だ。時もあるしな」
 然らばジルーシャは踏み込み過ぎず、かといって傍観者に成らず。
 カウンセラーらしく――在るものだ。
 ……起こってしまった事は変えられないけれど。
 元に戻ったら、ここでアタシたちと交わした言葉も忘れてしまうかもしれないけれど。
(それでも『縁』ってのは不思議なモノよね――
 それでも、無駄だったなんてことはないでしょ?)
 記憶の片隅に、きっと何か残せたはずだと、信じる殻。
 そして……時が綻ぶように至れば、聞きださねばならぬことがある。
 澱みは吐き出さないと溜まり続けるだけなのだから。
「ねぇ。貴方は……なにかしたい事とかがあるんじゃないの?」
「……」
「死ぬ前にしておきたい事とかが、さ」
 常帝。彼の抱えし渇望ははたしてなんなのか。
 ……ここはあくまで過去の再現。起こってしまったことは変えられないけれど。
 元に戻ったら、ここでアタシたちと交わした言葉も忘れてしまうかもしれないけれど。
 それでも――
「無駄だったなんてことはないでしょ?」
 記憶の片隅に、きっと何か残せたはずだって。
 紡がれた縁がきっと繋がっていくんだって――信じてるから。
「例えば『渇き』……波乱を、それを御する為に己の才を振るう事。
 それがあなたの未練なのだろうか」
 直後、言を紡いだのは――『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)だ。
 彼の人の望み、願い、想い。其れは何処にある?
 ヒトは誰しも大なり小なり未練を抱えて逝くものだが、余程大きなものでなければ。
 『己』を保ったままに『顕現』は出来まいよ。
 ……故に知っておきたいのだ。彼の力の源ははたして何か、と。ならば。
「ねぇ、常帝。貴方は色んな人の望みを叶えてきたけれど……
 貴方自身の望みは何だったのですか?」
 朝顔もまた、アーマデルらと似た事を問うものだ。
 彼の望みは何処にあるのかと――さすれば。
「ふっ。私の望みか……そうだな。望みとなれば……
 強いて言えば私はな、誰かを導くのではなく、誰かに仕えたかったのだ」
「誰かに……?」
「そもそも私はバグ召喚により此処に召喚された訳だが――その前はある貴族の家に仕えていてな、正に執事を務めていたのだ……あぁ、懐かしい。アレは天職であったと感じているよ。理解できるかね? 自由気ままに在る事よりも、誰かに奉仕する事に喜びを感じる人種を」
 遠く。彼方を見据える様な瞳が其処にあった。
 ……あぁ人の上に立つのは本意ではなかったのだ。元々がそういう気質ではない。
 しかしそれでも『望まれた』から望まれる儘に振舞った。
 結果として無難に事は成せた、と思う。
「だが『こう』ではなかった。私は誰かに、仕えるべき程の輝きがある者に仕えたかった」
「……あなたは、あなた自身が守った平穏を誇れないと?」
「誇れないというよりも、満足出来ない、満ち足りないというのが正確かな」
 アーマデルへ返答する雲上――あぁそうか。
 そもそも雲上が帝の地位にある事自体が間違いなのだ。
 彼はそういう立場を望んでいなかったのだから。
 ……であれば現世の彼は、もう。終わらせてあげる事が何よりなのかもしれない。
 波乱なき平穏は永きに過ぎれば淀んで腐るもの。
 我が神は死者と生者の領域の境界を保つもの。
 我が守神は死者が最後に辿り着く死出の旅路の終着点で死者を見送るもの。
「――死者と生者の境界を曖昧にするあなたたちの所業は俺の信条に反するのだ。
 多様性の一というにはあまりにも影響が大きい」
 この事は。『この』雲上に言っても仕方がない事かもしれない、が。
 それでも言わずにはおれなかった。彼の存在意義としても。
 だから。
「だから……あなたが逝くときは、往くべき処へ逝って欲しいと思うのだ」
「ふむ……人は死ねば涅槃以外に留まる所などあるまい? 少なくとも私は知らんよ」
「……あぁそうだな。そうであると願っている」
 未来がどう進むにせよ。
 今この時にそう感じたのは嘘ではないだろうと信じて――朗らかに、語るものだ。
「うーん、うーん……あ、そうだ! 『豊穣を全ての種族が平等になる国にして、八百万の貴族との恋を叶えたいので手伝って下さい!』って言ったら手伝ってくれますか? なんなら光りますよ、こう……ぴかーって!」
「ぬぉ、眩しいッ。むむむ、近頃の若者は斯様な事が出来るのかね? 面白いな」
 そして更に立て続けに朝顔は紡ぐ。
 暗い気持ちを吹き飛ばす様に、笑い飛ばしてくれればと願いながら。彼に何か、更なる目標があれば良いのではと思考したが故に……他に何かないだろうか? うーん、うーん、あっ。
「そうだ。あと、お茶を淹れてもらってもいいですか? 常帝のお茶の入れ方を学びたいです! ほら、ティーセットもあるんですよ!」
「おぉティーセットとはこれもまた中々……宜しい。然らば少し指南してみようか」
 本当に何故、私こんなものを懐に入れて……? ま、いいか!
 今は交流の一時であると朝顔は思えばこそ、穏やかな時の流れを感じ往くものだ。
 ……しかし常帝。本当に、偲雪さんに協力していいのですか?
(……彼にとって彼女は眩しかったのだろうけど……主でも、時に止めるのも従者でしょう?)
 私は此処に来るまで貴方は望まれてではなく。
 望んで静寂の時代を創り上げたと勘違いしてたんですよ。
 自分で自分の行いを否定して欲しくないなって。
(それとも、否定しても良いぐらいに貴方は今、満たされているのですか――?)
 ……答えは本物だけが知るのであろう。

 一方で『劇毒』トキノエ(p3p009181)は城下街の方へと歩みを進めていた。
 地味な服装で紛れ込んで。空にはファミリアーを飛ばして様子を天より見てみようか。
 ああそれと――
「聞いておきたいな、瑞神よ」
 彼は問う。幻影なれど案内人として其処にある瑞神に。
 『常帝』の統治する時代について――瑞神からはどう見え映るのか?
 そしてそもそも『常帝』自身を、どう思う?
 周りに望まれ何十年も平穏な時代を続けた……
「いや『続けられた』雲上ってやつのことをよ」
『……あくまでこの場における幻影の戯言だと思ってください。
 常帝は自らの『個』が薄い人物です――
 だからこそ民の期待に長年応える事が出来た。
 そして彼はこの時代に適任たる人物であったと言えるでしょう。
 民は皆、平穏をこそ願っていたのですから。
 ただ……彼には長年に渡り苦労を敷いてしまった、とは思っています』
 豊穣の平和を願う瑞神とも相性が良かったと言えるだろう――常帝の統治は。
 ただし。雲上個人が求められるままに人生を捧げてしまっているのは、気になっていた様だ。
 ……彼はもっと別の人生を生きたかったのであろうに。
 誰かの上に立つのではなく、誰かの下に付く人生をこそが……
「それが雲上の未練、って訳だったのかねぇ」
 『平穏』を長く保つってのは簡単にできるもんじゃねえんだろ。全然平凡じゃねーよ。
 確かに差別を中心とした問題はそのままだったのだろう。
 停滞と言えばそれはその通りかもしれない。だが、それを考慮してもなお、だ。
「……俺は嫌いじゃねぇぜ。アンタが治めた時代」
 トキノエは天を見据える。其処には青空が広がっていた。
 この光景もまた、偲雪の力によって作られた偽りの青空であろうか。
 それでも、この時の狭間に在って抱いた印象に偽りはない。
 この時代は――確かに平穏で安寧のある時代だった。

 ……穏やかな風が吹く、時代であったのだ。


 時は更に逆しまに戻り往く。
 次なる時代に感じたのは――炎と硝煙の匂い。
 高天京……と言っても過去の幻影だが……その地に蔓延るは、常帝の折とは異なる陰なる気配だ。
 この時代は血と鉄、命と死で塗れている。
 どこもかしこも闘争騒乱。あぁなんたる時代ぞや――と。
「『騒乱』の時代とはなんともまぁ大層な名前じゃな。
 ふむ……じゃが、この時代のこの気配……
 どことなく懐かしさも感じるわ」
 言うは『幽世歩き』瑞鬼(p3p008720)だ。己が嗅覚を擽るは、一体『何』か。
 妖が大量に生まれた時代。人が死に、妖が死に、また生まれて死に散り往く折。
 ……己が生まれたころのことなんぞ、ちっとも覚えてはおらん、が。
 瑞鬼はどことなく懐かしさを――感じているものであった。
「……興味深い時代ではある。確認したい事もあるしな、今の内に動かせてもらうとしよう」
「干戈帝。果たしてどれだけ今の状況を理解しているか……
 過去の現し身であろうとも、吐いた唾を呑み込めるとは思わん事だ」
 然らば『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)や『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)の姿も続くものだ。どうしても気になる事があるのだと、両名はこの時の狭間に飛び込んだ……
 干戈帝。ディリヒ・フォン・ゲルストラー。
 奴には問わねばならぬ事があるのだから――
 進む。干戈帝暗殺計画とやらが行われるまで、暇はないのだから、と。
「……しかし、その前に情報収集を行っておきたい所ですね。
 『この時代』の干戈帝の言から得られる何かも在る事でしょう」
 さりとて先んじて干戈帝に接触せんとしている一人が『月下美人』雪村 沙月(p3p007273)である。彼女は干戈に勧誘された事がある身……その繋がりを『此処』で利用できぬかと踏んだのだ。勿論、この世界の彼に勧誘された訳ではない事は承知している――
 さりとて、この空間自体、過去の世界そのものではないのだ。
 紡がれた縁が形となる事もあろうと……然らば。
「うんうん調査ってのは色んなアプローチがあっていいだろうしさ。
 だから僕達もいつもみたいにねっとり行こっか」
「……も~! こんな所で何言ってるの、誤解されるようなこといわないで!」
 呼ばれて飛び出て『八百屋の息子』コラバポス 夏子(p3p000808)ちゃん★ は『揺れずの聖域』タイム(p3p007854)へと軽く、いつも通りの様な言を紡ぐものだ――いつでもタイムを庇えるように夏子は位置しながら、歩みを進めていく。
「それにしても街の破壊工作はうまく行ったはずだけど……これは『正眼帝』がその破壊工作を修復しよう、って言う事なのよね? とんでもない力を振るうなんて……ううっ。気をしっかり持たなくちゃ!」
 同時。タイムはこの地で起こっている不可思議な現象に心乱されぬ様に、頬を軽く両手で叩いて、己に喝を入れるものだ。隣には夏子もいてくれるのだから……何を恐れようか! 気合気合!
 ――さすれば、各々進むものである。
 暗殺計画が始まるまであと少し。『陽気な骸骨兵』ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)はあえて戦場になる箇所を避けて、常世穢国に住まう民らの確認をせんとする――どうも目に映る民などの意識も当時のモノになっている様だ。
「……逆戻しによる領域の復旧とその影響による断片的な過去の顕現……正眼帝の力はよほど強力なのですな……もしくはそれだけ過去への執念が強いが故、と見るべきでしょうか……ともあれ今は阻止の足掛かりを掴まなくては!」
 故にヴェルミリオが探るのは常世穢国そのものの状態確認。
 気になっているのが――幻影の瑞神殿が仰っていた『あの子が妄執の一端。偲雪が見てきたこの世の概念』という言葉……つまりこの再現には干戈帝の記憶だけではなく、正眼帝の記憶も含まれている?
(少なくとも、この術式は干戈帝ではなく正眼帝が主体なのは間違いない、筈ですな)
 何処に彼女の意図が含まれているか……それも探らんとしつ、つ。
 彼は民にも言を投げるものである。
 この時代の民は干戈帝をどのように評価したのかと――さすれば。
「干戈帝は英雄だよ! あの方が帝についてから連戦連勝さ!」
「ただねぇ、ちょっとね……最近は高天京も怖いよ。特に兵部省の連中がさ……」
 戦に勝ち続ける存在として、崇められてはいる。
 が、同時に恐れられてもいるようだ――特に軍部が幅を利かせる様になっているらしく、些か軍部中心主義が芽生えていると言えよう。それは軍国主義国家が目覚める前兆であったかもしれない……干戈帝がこのまま玉座に就き続ければ、だが。
「ふむふむ……なら私の『同類』が生まれてそうな時代でもありそうですね。
 さて。私も少しばかり調べてみるとしましょうか」
 そしてヴェルミリオと同様にこの時代の調査をせんとするのは『刹那一願』観音打 至東(p3p008495)も、である。詰まる所、弑逆に浮足立つ生粋の暗殺一族(キラーズ・クラン)がいるかどうか。
 できれば家名などだけでも分かれば、後で記録を見て調査出来るのだが。
 え。其れに何の意味があるのかって? だって、ほら。
「こんな物騒な血は絶対世の中のためになりませんし。情報として効果(たか)く売れそうですし♪ それに――もしも残っていなかったっり『意図的に』絶やされていたのなら、それはそれで面白い過程かと」
 至東はにこやかなる表情を携えつつ、往くものだ。
 あとはついでに往く道行く道を録画してみようか。面白いモノが取れないかな~♪ え、暗殺自体はどうするのかって……? あんまり興味ないですよ。暗殺側の勝ち戦に加わるのなんて、興が削がれます。
「切った張ったはやっぱり――本当に命がけでないと。ええ」
 至東にとってソレは娯楽の一種。
 理性的に、そして興味本位の儘に――今この一時を過ごすとしようか。
 と。そうして神使達が動いていれ、ば。

「――むっ。何者だ? 見たことがない者だな……?」

 いた。干戈帝、ディリヒだ。
 ――その身からは壮絶なる闘気が感じられる。この当時の彼は瑞神の加護をも得ている時代だ……それらを全て戦に注がんとしている、正に全盛期時代。肌に感じる『圧』を沙月を感じながらも、しかし。
「干戈帝。お忘れですか? 先日、配下として勧誘を受けた者ですが」
「ほう。妙だな、貴様の様な強者……一度見れば忘れぬものだが」
「――率直にお尋ね申し上げます。貴方はこの戦乱、如何に捉えていらっしゃいますか。
 終わらぬ程の気配。何のために戦い、何を求めているか……」
「愚問だな。極上の『宴』よ。それ以外に何であるというのだ?」
 沙月は干戈帝の仲間のフリをしながら――彼に問いかけを行う。
 彼が如何な価値観を抱いているかを……ともすれば共闘出来るのではないか?
 極上の闘争だけが彼の行動原理であるのなら、と。
「良いか娘よ。この世界は今、どこを見ても戦ばかりで地獄だ――
 だからこそ私にとっては至高である。
 軍を動かし、敵を叩き潰す。其れを幾度も幾度も繰り返せるのだからな」
「……ではこの戦いの果てにどのような世界にするか、という考えは」
「ふむ。ないな――まぁどうしても敵がいなくなれば、次は軍備を整え西に進撃するのも面白いやもしれぬ。知っているか? 西には巨大なりし大竜がいるという伝説があるのだ。真であるならば次は神話の戦いが出来よう」
 ……とんでもない男だ。本当に、どこまでも戦狂い。
 しかしだからこそ共闘の可能性があると沙月は見出した。
 干戈帝は現世に至っても偲雪の平和主義を理解などしない――ならば、彼にとっての偲雪に与する『恩』が何かはしれないが――それを排すことが出来れば、彼は此方に付くのではないか、と。その時。
「……むっ。なにやら妙な気配を感じるな。何者だ?」
「……恐らく貴方を暗殺せんとする者達かと」
 感じた。周囲を取り囲む者達の気配を――
 反・干戈帝勢力か。若かりし頃の玄武も混じっていると聞く……が。
 分かる。干戈帝の打倒は並大抵の事ではない――ましてや瑞神の加護がある状態では。
 恐らく、ほとんどは返り討ちにされる事であろう。
 ……そして実際に『そう』であった。
 戦の強者たるディリヒは己が儘に振る舞い、暗殺者達を蹂躙していく。
 刀を折り、弓を弾き、術を叩き割り、返り討ちに――だが。
「……成程。過ぎたる光は強い闇を生む、と。ヒイズルでもそうだったが、陰陽のバランスは大事だな。そして干戈帝の存在はそのバランスを危ういモノとする様だ――」
「むっ? 貴様……他の面々とは毛並みが違うな。何者だ?」
「さて。たしか『勝てば全て包み隠さず話してやる』だったな?
 ならばこちらも『そう』であるとしよう――知りたくば勝利を掴んでみせるがいい。
 帝であるなら吐いた言葉は違えないでもらいたいな!」
 この場には神使も混じっている。合流した錬は、干戈帝を中心に式符を展開。
 太陽を写す魔鏡を鍛造し――虚像の鏡像から溢れる暗黒の雫を敵陣へと齎そうか。
「玄武、味方させてもらうぞ……被害を減らせ! まだ息のある者達を救うんだ!」
「あ、ぁあ! 何処の誰かは知らないが――忝い!」
 同時。錬は若玄武へと言を飛ばす様にする。
 ……泡沫の世界で無意味な事かもしれない、だが暗殺メンバーは未来を見据えてたんだ。
「玄武も含めて少しは報われて欲しいものだぜ――なにより。
 もしかしたら俺の領民の先祖かもしれないからな!
 お前の好きにはさせんぞ、干戈帝!」
「面白い! 私に勝てると――大言を吐くならば実現してみせよ!」
 高笑うディリヒ。錬の一撃に臆すこと無く、彼は跳躍し錬諸共全てを薙がんとして。
「戦の天才なら強すぎる力に有形無形の反動があるのは分かっているだろうに。
 何故戦の勝利という光だけで照らそうとするのか!」
「ハハハ! 分からぬか――? 光が強ければ強い程に影もまた生まれる事に!
 私はそれを楽しみにしているのだ――着眼点が違うな!」
「着眼点が違うのではなく、それは発想が碌でもないというのだ!」
 続け様に錬は真っ向より打ち合う。
 完全な回避ができずとも、攻撃の切れ目を狙いて斧とする一撃を振るわん――!
 直後。その動きの狭間に割り込んだのは、汰磨羈だ。
 彼女は言を投げかける。気になっていた事を――一つ。
「率直に聞こう。御主は、自らに従う民の事をどう考えていた?」
「民? なんだそれは、民草を鑑みてなんとする――?
 私は戦と戦にまつわる政を見る者。
 民草は明日の食い扶持を見る者――互いに見る世界が異なる者だ。
 頓着する必要のある存在ではあるまい」
「……正気か?」
 ディリヒの一撃。火花散る程の一閃を汰磨羈は迎撃しながら――悟る。
 この男は、干戈帝は本来。
 頂点に立つべき男ではないのだ。
 或いは軍の指揮官としては優秀な男なのかもしれない。戦いを長引かせていた事は事実。でも、乱を鎮圧していた事もまた事実なのだ――だがそれ以上ではない。
 万民を統べ得る帝の才覚と器はない……只の闘争狂い。
 別の本質があるのでは、と思っていた。それも間違いではない――要は一個人としての感覚なのだ。彼は闘争狂いではあるが、しかし恩を受けた一個人があらばその人物への義理は果たす。それらは両立し、矛盾するものではない。
 はたしてディリヒが『いつ』『どこで』偲雪に恩を受けたかはともかく、だが。
「嘘でしょ? 他に何かあるでしょう?
 ほら。何かもっと、やらなきゃいけないとっても大事な理由が……あるって言ってよ!」
「なんだそれは? お前は自らが『楽しい』と思う事に一々他の理由をもう一つ付けるのか?」
「そういう事言ってるんじゃないわよ、馬鹿――!」
 言を紡いだのはタイムである。そちらへと干戈帝が視線を向ければ――超速の跳躍から蹴撃一閃。さすれば夏子が即座に介入し、その蹴りを真っ向から受けとめて、払って距離を取らんとするものだ。
 直後にはタイムの治癒術が周囲を満たす。
 夏子に無茶をしてほしくないし、ダメージに関しては幾度となく注意するものだ。
 深手を負う様な事があれば即座に動けるように、と。
「偲雪さんの想いと全然違うじゃない……!
 戦いなんてだいきらい! 何がそんなに楽しいの……!
 貴方がどれだけ強かろうが、私は貴方を否定し続けてやるわよ……!」
「ふっ。所詮小娘には勝利の美酒の味わいが分からんか――」
「そんなの味わえれば大人の証? 安っぽいのね、貴方の言う大人って!」
 怒り気味のタイム。挑発する様に語るディリヒ――
 暗殺の場は激化する。はたしてどちらの我が通される事か……
 いや、過去の再現であるこの場における『結果』は定まってはいるが――ともあれ。

 ――同時刻。『紫煙揺らし』シガー・アッシュグレイ(p3p008560)と『鬼菱ノ姫』希紗良(p3p008628)は干戈帝の方ではなく、別の方面の調査に出向いていた。この時代が過去の全てを再現しているのなら、と。
「気になる事があって来てみたけれど……調査をするには少々騒がしいタイミングになってるね。ただ始まってるのなら、その隙を突く事も出来る、かな?」
「過去の世界に降り立つことができるなど……偲雪殿の力はこれほどまでに強力ということでありますか。どれ程の執念が力となっているのでありましょうか……」
「騒乱の時代というか、騒乱の真っただ中と言う感じだね……まぁいいや。とにかく希紗良ちゃんは、前に俺に襲い掛かって来た守り人を覚えてるかな?」
 シガーが語るのは――彼らに襲い掛かって来た者。
 柳征堂という人物だ。首を縦に振る希紗良の様子を見れば、彼女もしかと覚えていた様で。
「確りと。かなりの強者かつ……どこか危なげな雰囲気を纏うお方であったかと。あのお方が如何に?」
「調べてみたら、この時代の人物らしくてね。今のあいつには意味が無いかもしれないが、調べられる物は調べておきたい――もしかすると、現世に繋がる思わぬ情報があるかもしれないし、ね」
「なんと! キサ、同じくらいの年代かと思うておりました。
 ならば、この時代の帝を見張っていれば、彼奴が現れるやも……?」
 故に動く。万一騒乱に巻き込まれても対応できるように注意はしながら、だ。
 ……確か柳はこの時代、剣術指南役だったか。
 待てよ。干戈帝の側近の一人であるのなら――希紗良ちゃんの言うように暗殺阻止の為に出てくる可能性もある、か。故に二人は待ち伏せる。暗殺の戦闘が行われている場より少し離れた場所で。
 干戈帝救援の為に至る者がいないかと――さすれば。
「おっと――柳征堂だな? 良ければ手合わせ願いたい」
「何……!? 賊か!? くっ、帝の下へ急がねばならぬというのに――!」
「……随分な忠義っぷりだが、あんたは、あの帝に疑問を抱いたりはしないのか?
 闘争狂い。民を鑑みない、只の軍国主義者だ。それで良しと、アンタは言うのか?」
「黙れ賊め! 干戈帝がいなくば、どれ程の暴虐が吹き荒れていた事か……! あの方はこの国に勝利を齎す英雄だ! 英雄を疑うなど許されない――あの方がいなくなれば再びこの国は暗黒の渦に落ちるぞ!」
 ……成程。シガーはなんとなく征堂の人となりが見えた気がした。
 彼は干戈帝に狂信している。彼の武が全てを解決すると信じている。
 些か妄信と言える領域までに。
 ――だからこそ干戈帝が排斥された後に狂ってしまったのだろう。
 光が失われたと嘆き、魔へと堕ちたのかもしれない――
「そこをどけ――どかねば、斬る!」
「否ッ! アッシュ殿を切らせはしないであります……! キサもお相手しましょうぞ!」
 直後。征堂が剣撃振るう。
 さすれば希紗良とシガーは彼を相手取る為に戦闘を繰り広げるものだ――
 特に希紗良は生粋の剣士であればこそ、強い御仁がいれば挑みたくなるもの。
 その太刀筋を己がモノとするが為に。己が成長の糧とする為に!
 …………あぁ。そういえば。
(……清之介殿)
 彼女の脳裏に一人の男の姿が過る。
 清之介は物心ついた時から村にいた人。そして剣を教えて下さったキサの師匠。
 『紅葉切』を探すため、村を出たと聞いて、いたのだが。
(もしも、清之介殿が嘘をついていて)
 『紅葉切』を奪った人物なら。
 或いは『紅葉切』を取り戻しつつも『紅葉切』の魅力が故に持って帰らなかったのなら。
 キサは――己が全てを懸けて受けるのみ。
「……はぁッ!」
「くっ! 小娘の割に、鋭い太刀筋を……!」
 一喝一閃。希紗良は、常に全霊を注ぎ戦を乗り越えんとする。
 希紗良は更に強い力を――つけておかねば、ならぬのだから。

 そしてシガーたちが征堂を足止めし、増援が干戈帝の方に至らぬ様になっていれば。
 干戈帝は遂に押され――
「フッ、ハハハハハ! 良いぞ、滾らせてくれる! だが私の首を絶つには足りんな!」
「ひー! あっぶなっ、今頭掠めたわよ!」
「これが……干戈帝の力、ですか。戦に特化した帝としての才覚……」
 ――て、いるのかどうか判断に難しい所であった。
 強い。とにかく強い。武力という事柄にだけ特化した帝として一人で全員倒す勢いだ。タイムが他者を庇いてギリギリの所で致命傷を避けるが……成程これが数多の戦と変革の時代に在った者なのかと、マリエッタは思うものだ。
 いくつもの犠牲で人々は平穏へと向かう。しかし……強すぎるが故に。
 そして強い事を楽しんでしまうが故に不要とされてしまった。
 帝そのものが、だ。力を求められ、そして拒絶された。
「くっ――なんという事だ。これほどの数で掛かっても無理だというのか……!?」
 若かりし頃の玄武の声色に焦りが見え始める――であれば。

「おやおや……流石ですねぇディリヒ君。でもコレ、負けるんですよねぇ?」

 紡いだ声の主は鏡(p3p008705)だ。
 彼女は見学している。ディリヒ側の護衛人物の一人として――だ。近くには沙月も共闘者として紛れているか。
 ディリヒ君が楽しそうでまぁ結構な事ですが……しかし。過去の再演であるこの空間、余程の事がなければ大筋は変わらない筈。が、今の所見ていると、なんとも勝ちそうな勢いがある。それもまた過去の再演の修正力なのかもしれないが……
「ふむ。不思議かね? この先の展開が。」
 ――と。その時だ。
 鏡の背後より声が聞こえた――と思えば。
「おやディリヒ君。『本物』ですかね?」
「然り。些か暇なのでな、私も傍観する気で来ただけだ。うむ実に懐かしい光景……
 この折は私に真っ向から歯向かおうという者も少なくてな。
 久々に気概のある者達が来たと、心に熱が灯る様な時であった」
 『本物』がやってきた。現世のディリヒだ。
 珍しく闘志の気配が薄い。今宵に関しては本当に傍観者として、観客としてこの一時を楽しむ気なのだろうか……まぁそれならそれで都合のいい面もある。ならば、と鏡は言を紡いで。
「ねぇディリヒ君。恩って――なんなんですか?」
「恩、か。ふむ、まず見よ。私はこれから瑞神に打ち倒される」
「へぇ。瑞神に」
「端的に言って些か怒らせ過ぎた、と言った所だ。瑞神は豊穣の守り神とも言える……ふっ。斯様な存在の加護を受けとりながら闘争に興じていれば、無論あちらとしては激怒しようぞ――歴代の帝でも加護を剥奪された者などそうはいないのではないかな?」
「ではそこでディリヒ君は殺されてしまった訳ですか?」
「否。私は間一髪生き残ったよ――或いは、瑞神も一度は帝と認めた者の命まで取るのは憚られたのかな。いずれにせよ私は一命を取り留め……たが、重傷も重傷でな。やむなく体を引き摺りその場を離れるのが精一杯だった」
 そして。その果てにディリヒは到達したのだ。
 己の命を討たんとする暗殺者達を退けながら。
 追手が来なさそうな地である――久遠の森へと。
「そうして私は偲雪に治療された」
「――それが、恩?」
「あぁ。アレが無くば流石に死んでいたかもしれんな。
 分かるか? 文字通りに命を救われたのだよ――
 ならば命を失う瀬戸際までは、私は偲雪と共に在ろう」
「成程のぉ。しかし人々に笑っていてもらいたいはずの偲雪が、お主の様なモノを引き入れるとは。それに神使の戦闘力に対する抑止力であれば他にもっと適任がおるはずでは?」
 と。次に言葉を繋いだのは瑞鬼だ。
 わざわざこの様な危険人物を引き入れずともよかったのでは、と。さすれば。
「偲雪の優しさは底なしだからな――私のようなモノでも己に賛同するのならば引き入れる。私も命を救われた借りぐらいは返してやろうと思ったしな。それに……少なくともあの当時、私の他に外敵に対する戦闘力に適任はいなかった。
 何故か? 偲雪の力は、己に賛同する者の数で変動する……私を引き入れた頃は、久遠の森の本当に一部の一部にしか行き渡らせるだけの力しかなかったのだよ」
 つまり、選択肢が無かったとも言えるのだ。偲雪の魔種としての力は精神干渉に特化しており直接的な殴り合いには向いていない。真正面からぶつかるだけなら、ディリヒの方が強いかもしれないぐらいだ。
 まぁ偲雪の穏やかな性質上、斯様な打算を心中に秘めていたかは知れぬが。
 ともあれ常世穢国を護る戦力としてディリヒはそれ以降、活動を始めた。
 偲雪への恩を返すまで。偲雪の望みが成就するか――途上で朽ち果てるまで。ディリヒ自体は偲雪の思想に心酔している訳ではないが故に『どちらでも』良い訳だが。
(……やはりどう考えても、この歪な国は長く続かんの。
 ディリヒにしても似たような考えではあろう――
 偲雪がどれだけ頑張ろうと摂理というものがある)
 であれば、瑞鬼は思案するものだ。
「……もう頑張らなくてよいのじゃ偲雪」
 独りで頑張らずとも民は笑える。民はそこまで子供ではない……
 ……お主が真の目で民を見れば、きっと分かる筈じゃ。
 それに気づけるとよいな――と思考して。
「……んむ? そう言えば、そうなるとお主はいつから生きておるのだ?」
「ふふっ。私は元よりウォーカーでな――まぁ不老長寿の様なギフトを持っているのだ。
 だからこそ私は危険視されたのだろうな。
 なにせ暗殺が成功しなければ今でも私が現役で帝だったかもしれん」
「成程――まぁディリヒ君はいつかきっと打ち倒されてたと思いますけどねぇ。
 ま、それはそれとして……」
 死合おうかと、鏡は告げるものだ。
 決着の時はきっと今じゃない。
 それでも――お互いつまみ食いくらいは許されるでしょう?
「フハハ! 然り然り。大義も大望も他者に投げ捨てよ。我々は精々楽しもうではないか!」
 故に。ディリヒも応じて軽い打ち合いが始まるものだ。
 闘争狂いの性質が故にこそ通じ合う所があるのか――

 ――いずれにせよ、この時代もまた終わりを迎える。
 干戈帝はやがて打ち倒されるのだ。加護を与えた『神』直々の手によって。
 しかしその折に死体は見つからなかった。それも全てディリヒの説明通り……
 そして返り咲く事叶わなかった干戈帝の時代は終わりを迎え、常帝の時代へと変革を迎える事となる。幸か不幸か干戈帝の趣味――活躍により各地の乱はかなり小規模なモノとなっていたが故に、彼抜きでも乱を収束させる事は可能であったのだ。
「……偲雪よ。御主は、その男に何を見出したのだ?」
 汰磨羈は天を見据え、紡ぐもの。
 ――戦の気配。死と炎の時代が終わる。
 では更に戻ろうか。

 時代を。世界を。何もかも。全ての始まりの――時へと。


 深奥へ至る。
 常帝の再現を超え、干戈帝の再現を超え――
 より深く。より旧い時代へと。
 ――光が見える。
 そう感じたのは『離れぬ意思』夢見 ルル家(p3p000016)だったか。
「――ここが。偲雪殿のいる城、ですか」
 周囲を見る。高天京にある城内に……なんとなく似ている気がする場所、だ。
 危険な敵意などは感じない。干戈帝時代の気配とは大違いである。
 ……偲雪殿。貴方は『失敗した』と『何も残せなかった』と言っていましたね。
 だから『あのような』手段を用いなければ――平和は成せないと。
(……拙者はそうは思いませんよ)
 ルル家は一瞬、瞼を閉じる。
 それは偲雪と語った光景の想起か、或いは己が神経の集中か――
 ――いずれにせよ城内を巡る。
 此処が過去の再現ならば無人という事はない筈だ。偲雪の付き人なりが必ずいる筈であり、彼女の成した事業や政策の情報を集め――現在に繋がるモノを突き止めるとしよう。
「やれやれ……自分が正しいと信じ、自分の考えを押し付けてくる奴とは、な。
 ――あの手の輩は一番嫌いなタイプだが。今はまずは知るべきことを知っておこうか」
「この時代は……まだそういう段階にすら至っていない筈。
 彼女が魔道に堕ちた理由……探っておきたいものだな」
 同時。『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)や『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)はルル家とは異なり城下町の方へと歩を進めていた。ラダに至っては『正眼帝』に内心、憤怒している面もあるのだが――今は抑える。
 本来の人物も、反転の経緯も。
 まずは知らねば『馬鹿』の所業と同じになるのだから。
 ラダは旅人を装い周辺の様子……特に民らの状況を確認していく。ヤオヨロズに鬼らの関係がどうなっているか。そもそも民衆が彼女に如何様な評価を抱いているか……
(……それに何より、遺骨が核になるという彼女の存在)
 そのような状態になったのは、彼女自身の何らかの特性故だろうかと。
 死の間際に反転の事象が訪れた――という辺りが、在り得る話だが。
 では、それは一体誰によって齎されたのか?
 ザントマンは肉腫であったし……知られていない魔種が潜んでいるかもしれない。
「……情報だけは、しかと持ち帰りたい所だな。いずれ来る、決着の時の為にも」
 誰もがいつも笑顔の国など。
 誰も笑っていない事と何が違う。
 ――狂おしいまでに笑顔を求める者よ。間違いを知れ。
 そして、ルーキスも場に溶け込むように振舞いながら偲雪に近しい者へと調査を進めていく。
 やはりこういう事は偲雪の傍で過ごしている者らの言を聞くのが一番だ、と。さすれば。
「……そもそもこの地は現実と同じ時間の流れなのか、物事の統合性が取れているのか。
 まだ何一つとして分かりません――注意は必要でしょうね」
 『夜妖<ヨル>を狩る者』金枝 繁茂(p3p008917)も周辺の調査から当たっていた。今のこの地、不穏な気配は不思議と感じないが……しかし油断は出来ぬ。もしかすれば瞬きした瞬間、朝が夜になっている様な不可思議が起こらぬとも限らぬのだ。
 故にこそ彼は意識を張り詰めつつ巡るもの。
「如何な選択が必要か。さて……出来る事から成していきましょうか」
 同時。霊魂の類があらば成仏させんと試みてみるものだ。
 これから先、如何に事態が進もうと、正眼帝の力の源になっていると思わしき霊魂を潰しておくのは妨害に働こう。そうでなくとも些か、彼自身のライフワークの側面もあるのだから――
 鬼人――獄人たる彼の身は自然と周囲に合わさりもしよう。
 違和感を周囲に与えずに繁茂は行動しつつ……更には同じく鬼人種たる『歪角ノ夜叉』八重 慧(p3p008813)もまた、調査を行わんと動くものであり。
「南天さん頼むっすよ。俺は正眼帝の近くへ行ってくるっす。
 ……まぁ結果は変わらないんでしょうが、それでも出来る事はありそうっすね」
 彼は己が式神――南天には精霊種のフリをしてもらい、現地で働く者を演じてもらって。慧自身は気配を殺しつつ各所へ潜入を試みるものだ。暗殺人は既に城内に紛れ込んでいる筈……どこかで秘密の会話をしていないかと聞き耳も立てて。
(……たしか毒でまずはやられて、その上で更に刺客が狙う――ていう話っす。でも随分と執拗な気もしますね……そこまでやらなければ殺せなかった? それともそこまで恨みを持たれていた……? いずれにしても気になる所っす)
 ――この場は貴重な瞬間だ。そも、霊魂を長期間保ち続ける程の願い、死の間際の心境・未練が現在の偲雪を成しているのならば、全ての始まりだと思わしきこの場に全てが込められているのではないか、と。
 魔種へと至る経緯を更に明確にしておきたい。彼女ははたしてどの段階で至ったのか。
 故に動く。少しでも手がかりを得んと。
 そして『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)もまた、この時代の狭間にいた。
 偲雪。彼女は如何にこの時代を統べていたのか。
 ……どうしても気になる。
 あいつが実際に目にし、耳にしたものを。あいつの感じたことを。
 あいつの想いの源泉は――何処にあるのか。
「……なぁ。瑞さんが、悲しむぜ。きっと、今の姿を見たら、な」
 ふと。風牙は一度、城の方を見るものだ。
 きっとこの時代の彼女もあそこにいるのだろうか――と。
 ……偲雪の語る世界を否定し、消し去る。そこに迷いはない。ないのだ。
 彼女は魔種。決してそのままにはしておけぬ者。
 分かっている。
 だけれども――『皆を平等に笑顔にしたい』という想いを、願いを。
 ただ消し去るだけというのは、なんというか、こう。
(気分が、良くない)
 喉の奥に、何かしこりがある様な気分だ――故に風牙は街の方へと一端歩を進める。
 民の様子を見聞きして。彼女が如何様な事を成したのか。
 そして彼女の有り様は……どのように受け止められたのかを、知るために。
 続けて『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)も、常世穢国(現代)と如何なる差異があるのかを確認せんとする――それぞれの時代で何か違いがあるか。たしかそもそもこの地自体が、彼女の力を増幅させるための術式であると聞いてはいるが。
「『この瞬間』にもそれをまた仕込んでいると考えられるッス……次もまた破壊工作が必要であればスムーズに行えるように――今の内、あちこちを把握しておくとするッス」
 彼女は潜り込む。各所に、まるで密偵の様に。
 どこに違いがあるか――どこに違いがないか――
 それが次に繋がると、思案して。
(……あと、コレは個人的な興味なんスけど)
 偲雪。彼女について。
 生前と今で『変わってないところ』も――探っておきたい。
 城下街の雰囲気や、話を聞いた限り『自分の意思ががっつり在るのに、主語を『誰か』にする』部分は割と元からな気がするのだ。なんとなく、分かる。アレは生粋だと。
 ……ここが、私が嫌な部分なんでスよ。
 なぜなら『昔の自分』を思い出すから。
 必ず他者を基準にする。必ず自分よりも他を優先する。
 見た覚えが――あるのだから。
 更に『闇之雲』武器商人(p3p001107)は雀のファミリアーを天へと飛ばす。
 各所がどうなっているか。不審な――暗殺に繋がる様な――言を発している者がいないか。監視と情報収集を行わんと、武器商人は動いているのである。特に民に問いたいのは……現世の、全ての意思をを塗りつぶす魔種の偲雪の様な力を『ここの偲雪』が持っていたら。
「――喜んで使うと思うかい? どうだい?」
「はは、アンタ面白い事言うな――偲雪様がそんな事される筈ねぇだろう?」
「ははははは――まぁ、そうなるかねぇ」
 民達はどう思うか。民達からの認識は、どうであったか――と。
 更に『春の約束』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)も露店などの聞き込みに至っていた。人の心を掴む様な話術をもってして、探らんとするのは
「はは。此処ではこんな素敵なモノを取り扱ってるんだね――
 ところで……実はさっき、ちょっと怖い人達を見かけたんだ。
 何か知らないかな? 最近この辺りで不穏な噂……とか」
「不穏な噂――? さぁ、知らないねぇ……ここ最近は平和なモンだよ」
 偲雪に不穏な影が迫っていないかとする確認である。
 ……しかし市井の間では全く気付かれていない様だ。と、なれば鬼の起用に不満を抱くヤオヨロズ……特に当時の政治の上層部にいた者達の間で暗殺は決行された、と言う事なのだろうか。
 友達の過去を――特に死んだ時の事なんて無暗に探る気はないけれど――
(……でも。この時代の偲雪さまを助けたい)
 イーハトーヴは決意するものだ。その心の内に、確かに。
 過去の現実は変えられなくても、復元される常世穢国に何か影響があるかもしれないし……いや仮にそうでなくても、今も燻る過去を例え幻影の中だけでも覆せたら『今の偲雪さま』の心も僅かでも安らぐかもしれない。
 それに何より、友達のピンチを――放ってなどおけようか。
「瑞神ちゃん、この術について何か知ってる事はあるかい? 過去の再現だなんて、只の術じゃない……例えばこの逆回しの世界に石を放り込んだら如何なるのだろう?」
『……さて。本来の私であれば何か分かる事もあるかもしれませんが、幻の身に過ぎぬのであれば……しかし石を投げたり、誰かと会話をしてもそれ自体は深い影響を及ぼす事はないでしょう――元々この地は偲雪の知る過去の高天京が再現されている地。もう一度過去を思い出す様にして、破壊された箇所の修復を行わんとしているだけなのですから』
 同時。幻の案内人たる瑞神に言を紡いだのは『結切』古木・文(p3p001262)である。昔の世界の出来事の狭間に在れるとは、彼は少しばかり心中に楽しみも抱いている――不謹慎かと思い表情にこそ出さぬが。
 ともあれ偲雪の未練と、この世界を作り出している術そのものに関心を向けるものだ。
 ――彼女があそこまで平和な世界に固執し続ける理由は何だろう。
 恐らく、志半ばで殺された未練が関係しているとは思うのだが。
「……偲雪さんは、なんとなく似てるんだよなぁ」
 同時。文が視線を向けた先にいるのは――イーハトーヴだ。
 彼はなんとなし、偲雪に敵意を持てない。それはどことなく偲雪とイーハトーヴの雰囲気が似ている――気がするからだ。無論、それは文の印象であり他者がどう感じるかは分からないが。
 だから彼はあくまでも調査に留めよう。
 彼女と一戦交えたくなどない。
 可能であるならば彼女の未練を知り――彼女を、平和的に成仏させるとか。
(……そう言った方法ばかりどうしても考えてしまうよ)

「黄泉津瑞神サン。そういえば、歴代の帝にウォーカーが多いのって不思議なんデスが……それはどうしてなんでしょう? 瑞神の加護があれば、とにかくいいんでしょうか?」
『帝は必ずしも神人……うぉーかーとは限りませんが、しかしそうですね。ヤオヨロズは自らを『神の遣い』とする意識がありますから――同じく『神に選ばれた者』とする神人が選ばれる事が、多いのかもしれません。政治の傍にはヤオヨロズが常にいますから、反発も薄いでしょう』
 と、続けて瑞神へと言を投げかけたのは『無敵鉄板暴牛』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)である。豊穣の歴史自体をシッカリと分かっているわけではない……が故にこそ疑問に思っていた事を紡ぐのだ。
 今の霞帝にしてもウォーカーだったはずである。歴代の帝は政治の能力があるから選ばれる、と言う訳でもなさそうであれば基準は何か……干戈帝の様な、その時代の流れに適している様な世に求められて帝へ至る者もいそうだが。
 むしろウォーカーという事は古くからの仲間や家族がいる人達より仲間や後ろ盾がいない分不利な気がする。
(……或いは、意図的に力を持たせないで、象徴で在れと言外に縛っているんだろうか……? 少なくとも偲雪殿は『そういう』傾向な気がしないでもない……ヤオヨロズも自分たちに都合のいい帝の方が嬉しいんだろうですし、ね)
 とは言え、基本的にはやはり瑞神の言うように、神のモノとされるヤオヨロズと同じく神に選ばれた者であるモノが選ばれやすい――ヤオヨロズの者達も納得しやすい――という側面が大きいのだろうか。
 或いは『そういうモノ』だと言われれば、まぁ。ボクの国だって一番強い人が皇帝になるのって何で? って言われてもそういうものだからとしか言えないし、しかもそのせいで今、とても大変だからね……
 ……ともあれ彼もまた動き出す。
 子猫のファミリアーを使役し、その子は偲雪の傍へと行ける様に解き放って。
 会話を耳に捉える事が出来る様にしながら偲雪殿のまわりの空気を探りに行こうか……えっ。ちょ、お前は誰だって? いや、その、えーとデスね!
「帝の護衛デスよ! 最近入った新人デス! だから通して!!」
 ――強引でも進んでいこう! うん!
「よし、っと。上手く服の予備もあって良かったわ……これで給仕に見えるかしら」
 そして同時。『銀青の戦乙女』アルテミア・フィルティス(p3p001981)もまた、この地の主たる偲雪へと思いを巡らせていた。虐げられた者達である鬼人種に手を差し伸べ、救い上げようとした優しき帝……
 その心意気や善性はとても好ましく思う――けれど。
「貴女は、魔種なのよね」
 呟く。そう……彼女は、偲雪は魔種なのだ。
 世界を滅ぼす因子を宿した、感情の怪物。
 いやそれより何より、死んだ者が蘇る事なんて。
「どれだけ『奇跡』を望んだとしても」
 あり得る筈がないのよ……だって。そんな事が可能なら――
 ……アルテミアは頭を振る。脳裏に過った一つの思考を掻き消す様に。
 それよりも己も動かねばならぬ。
 カムイグラ、和服の給仕たる衣装を着込みながら偲雪の側へと往こうか。
 尋ねたい事が、あるのだから。
「わぁ……! お仕事って、こうやるんですね……!
 ワタシ来たばっかりでよく知らなくて……先輩何でも知ってるですね!」
 更には『リトル・ヴァンガード』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)もアルテミアと同様に、居城に務める者として扮していた。変装し、元からこの城の一員であったかのように振る舞いて、言を交わす。
 特にお喋り好きそうな給仕の方々を探し出して。
 偲雪が何処にいるのか。彼女の評判は。それから何か噂でもないかと――
「偲雪さんってワタシが言うのも何だけど……ふわふわしてるって言うか、そこが心配になっちゃいます。どこかでポカしてるんじゃないかなーって……そういう話聞きません? 誰かが偲雪さん睨んでるみたいな」
「さぁ……偲雪様はお優しい方やからねぇ。でもまぁ、古いヤオヨロズのお歴々はそういう所がちょっと、と成る事はあるんかもねぇ……偲雪様はあんまり政治に御詳しい方やなくて、とにかく理想を口にされる方みたいやし……」
「……成程。あっ。そうだ、そろそろ偲雪さんにお茶を持っていく時間ですよね――
 先輩とワタシで持って行ってポイントアップしちゃいましょうよ!」
 ……ならば茶菓子を持っていく役目を果たそうかと、フラーゴラは往くものだ。
 さすれば陰で茶をチェックする。もうこの時点から毒は混入されていたのではないかと。
 そして毒があるのならば。
 いつ混入したのか。何の素材の毒か。どこで使われる毒か――
(必ず、解析してみせるよ)
 自らの薬学の知識をもってして。
 ……あぁこの先に偲雪がいるのだろうか。
 偲雪さん。貴方はどうして――こんなモノを盛られてしまうの?
 知りたい。なにより偲雪を知る事がきっと『彼女』に近付く一歩にも――なるだろうから、と。
「やっほー。悪い事する予定なのかしら?」
 同じ頃。『炎熱百計』猪市 きゐこ(p3p010262)も動いていた。
 彼女が目を付けたのは、むしろ暗殺者側だ――
 どこかに潜んでいるのではないかと。あぁ『ソレ』を咎めに来たのではないわよ――?
「別に殺そうとする事を否定しに来たわけじゃないわよ。唯、手段が気に喰わなくてね……反対意見や殺意なんてのはね。自ら熱意を乗せて正面から叩きつけないと効果が無いのは歴史が証明してるのだわ! 実際無かった事を私は知ってるわ。だから、真正面から行きましょう」
「――真正面?」
「そうよ。お前が嫌いだと! こう言う理由で嫌いだと! だからお前を殺しに来たと! 無垢な餓鬼に現実を分からせてやるのだわ――自分が正しいなどと思う事は、如何に儚い事なのかを!」
 暗殺ではなく真っ当なクーデターでどうかと。
 偲雪は鬼を平等に――つまりは不遇な状況から救わんとしている――が故に、鬼を中心に支持が高い。故にこそ声高に『殺す』とすれば、その辺りからの大反発があろう……それに彼女は瑞神の加護、つまり瑞神から認められた存在でもあるのだ。
 故にこそ暗殺と言う手段こそが最上だとは思ったのだが。
 しかしクーデターを装い、眼を逸らさせるのも一つの手かもしれぬとは思うものだ。
「さぁ行くわよ。急いで準備を! 大丈夫だわさ。私も手伝うから――!」
 きゐこは嫌いだ。『現世の偲雪』が。
 過去に関しては実の所――そう嫌いではない。
 故にこそ、彼女が訳も分からぬまま、卑劣な殺し方をされるのは……気に食わぬ。
(せめて真正面から潰してやるように――全力を尽くすわよ)
 故に彼女は少しでも別の結末にならないかと、模索するものであった。

 ――そして。
 舞台は偲雪の私室へと移る。
 進む時刻。もう間もなく『運命の時』が来るであろうかという、その前に。

「初めまして。わたし達は未来から来ました――
 信じて貰えないかもしれないけれど、話だけは聞いてくれないかなぁ?」
「うんうん、ボクもはじめまして! ボクはセララだよ。
 どうしても偲雪さんとお話ししたいことがあって来たんだ!」
「わ~なになに? 未来? 面白い事をいう子だね! ふふっ!
 お話も歓迎だよ! どーしたの?」
 接触した者は『赤い頭巾の魔砲狼』Я・E・D(p3p009532)や『魔法騎士』セララ(p3p000273)である。この場にいる偲雪は彼女らを知らぬが故に驚いた様な表情を見せるが――
「……偲雪さん。もしもこの先、貴方が『死ぬ』と言ったら、信じる?」
「ほえ?」
 それでも、誰かを拒む意思はないかのように彼女らと語らんとするものだ。
 然らばЯ・E・Dは言葉を紡ぐ。只管に。『これから先の全て』を。
 貴方が何を成すのかを。貴方が何をしてしまうのかを。
 そして――ここにいる貴方に何が降りかかるのかを。
「偲雪さん、だからわたしは聞きたい。
 未来の貴方の事を『正しい』と思うか。
 そして、道を間違ってしまった『自分』を止める事を望むのかを」
「……うーん。そんな事を私がするのかな?
 ちょっと信じられないなぁ。でも、そうだね……
 もし本当にそんな事が起こるのなら、止めてほしいな。
 だって――私は今でも『話せばわかる』と思ってる。
 他の人達の意識を塗りつぶしちゃうのは……きっと『諦め』の形だと思うから」
 そして。この時代の偲雪は――言う。
 もしも『そんな事』があるのなら、それはきっと間違っている、と……
 偲雪は洗脳や意識の強制など望んでいない。少なくとも、この時代の彼女は、だ。
 ……Я・E・Dは確かに聞いた。音声を記録する技能をもって――確かに。
(……やっぱり、もう別物になってしまったんだろうね。魔種として堕ちてしまってから)
 同時に確信する。理想は狂気に。願いは執念になってしまったのだろうと。
 『皆を幸せにしたい』――初めはただそれだけであった筈なのに。
 いや……或いはその願いは過去も今も変わって無いのかもしれない。
 けれど違う。今、この場における過去の偲雪が告げた様に……
「貴女の正しさは壊れてしまってるんだ――壊れたままに突き進んでいるんだ」
 きっと彼女は気付かずに。
 ……それをまだ理解できていないとしたら。不幸だ、誰よりも不幸で……憐れな人だよ。
 死しても尚妄執としてこの世に留まる程に――終わりを迎えなければ永遠に――
 そしてセララも偲雪の言は、その耳に捉えたかった。
「偲雪さんはきっと、平和な国を作りたいって思ってるんだよね。その想いを届けてあげたい人がいるって事だと思うんだけど……だからいっぱい語って欲しいんだ。人々に笑顔でいて欲しいとか、家族で仲良く過ごして欲しいとか……そう思った出来事とか、切っ掛けとか」
 彼女がはたして何を考えているのか。その始まりは何であるのか。
「そういうのをいっぱい語って欲しいんだ。
 ボクはそれを書いて記録して、ある人に届けるから!」
「ある人?」
「ふふ。秘密だよ! きっといつかは――分かるかもね!」
 ――未来の偲雪へ。
 自らの言を必ず届けるのだと、セララは決意する様に。
 ……魔種の方の偲雪さんはね、きっと忘れちゃってるんだ。何で平和な国を作りたかったのか。どうして人々を救いたいのか――自分の始まりを。きっときっと永い時を過ごしすぎて……だから過去の偲雪さんの言葉を記録するんだ。
 その時の想いや願いを思い出せれば。
 魔種であっても考え方を変えてくれるかも知れない。
 だってそれは他人の言葉じゃ無く――
(自分自身の言葉であり、願いなんだから。そうだよね、偲雪さん……!)
 魂に響く言葉を、必ず……
「……一ついいかしら。バグ召喚で訪れたのよね――?
 豊穣の地に降り立つ前は、どんな事をしていたの?
 幸せだった?」
「うん? そうだね――私、なんて言うんだろう……自然の多い所でね、田舎って言えるのかな――とにかく人の少ない所に住んでてね。でもお父さんもお母さんも家族も皆皆優しくて――幸せだったよ! あ、だからって豊穣にいるのが楽しくない訳じゃないけどね!」
 更にアルテミアも一つ語り掛ける。どうも彼女は、大陸側ではそのような生活をしていた、と。人として普通に幸福だった――裕福ではなく、かといって貧乏でもない生活をずっとずっと続けていたのだと。
 ……彼女の人柄らしい生活を営んでいたのだろう。きっとあちらでも。
 そして神使達と語り合い。
 やがて一息つかんと、偲雪が茶を一度飲まんとした――その時。その動きを制したのは。
「それは、毒なんだよ。飲んじゃだめ」
「ああ――これは駄目だ。飲めば動けなくなるどころでは済まないぞ」
 『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)だ。近くには毒を見るべく訪れたアーマデルもいようか。
 毒が入っている。それはもう定まっている、事実。
 フラーゴラが持ってきたモノではあるが、しかし彼女が取り除いたり他のモノと入れ替えていたとしても――きっとそれには毒がいつの間にか入っている。『だってそういう歴史』なのだから。
 だからこそ飲んじゃだめ。飲んだら偲雪は死ぬ。
 動けなくなったとこを大勢の人に裏切られて刺されて――死ぬ。
「だからだめなんだ」
 それに、死んだら……
 と、口を動かし紡がんとした――その時。
 襖が突如開かれ、刺客が出でる。その影、幾人も幾人も――
 先程まで気配がなかったというのに。
 ……しかし連中がどこから出てきたか、それは重要な事ではきっとないのだ。
 この場は只の過去の再現。『起こった事』を『映し出して』いるにすぎぬのだから。
 故に『決まっている結果』に向かって全ては収束していく――
「それでも……偲雪さん。自分は貴方を、助けにきました」
 が。『それでも』と紡ぎながら介入するのは『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)である。偲雪――現代であれば……笑顔を『強要』していて、自分たちの仲間を奪い去った人。とても許容できぬ者であります、が。
 この過去だと……『殺される』運命の人。
 ただ善良であった時代の人。殺された事に恨みはなくても、悲しいと言っていた。
 誰かの笑顔を守りたい、その思いは正しいものだった――だから!
「考えの違いで殺したいほど憎い人間が生まれてしまうかもしれない……
 それでも、死んでいい人間なんてどこにもいないんです!
 ましてや、何もしていない今の貴方が死んでいい理由などどこにも……!」
 奥歯を、噛みしめる。
 ムサシは現世の偲雪に思う所がない訳ではない――けれど。
「貴女の、誰かを笑顔にしたいという気持ち、本当に素晴らしいであります。
 ……なら、いや。だからこそ!
 その笑顔をみる前に死んでしまうなんて、悲しすぎる……!
 知るべきなのです……!」
 性急すぎただけなら、まだやり直すチャンスだってある!
 例えこの先の未来で如何様に進むのだとしても。
 今この時に抱いている――その志は間違いだなんて否定なんかさせない!
 だから……だから!
「もう一度、やり直すんだ!」
 ――救えるかもしれない命に全力で手を伸ばさないで、ヒーローを名乗れるものかよ!
 ムサシは戦う。例え防げぬ刃だとしても。何かをした所で意味がないのだとしても。
 何もしないままであるなんて――己が魂が許さぬのだから!
「ああ――全くよ。
 『世界から見捨てられる』なんてそんな夢のねえ話、誰がみすみす許すかってんだ!!」
 直後。続けて護衛に現れたのは『抗う者』サンディ・カルタ(p3p000438)である。
 ――『もっと早く「サンディ・カルタ」がいれば』
 あぁ俺は確かにそう言ったし、そこには同意してくれたんだ。
 ならよ……今回正に『その場』に『サンディ・カルタ』がいるのなら――行こう。
 約束を、果たしに来たんだ。
「触れさせねぇぞ……! 偲雪には指一本な……!!
「あ、貴方は――?」
「気にすんなッ『いつかどこかで出会う』だけの奴、さ!」
 敵の攻撃を払いのけ、凌いでいく。刃を弾き落とし、少しでも少しでも――と。
 だって、もし当時『サンディ』がこの場にいたら。
 偲雪のいう『もっと早くに出会って』いれば、そうしたに決まっているのだ。
 だから死力を尽くす。サンディ・カルタとして此処に在る為に!
 魔種の力や歪な渇望の世界など――必要ねぇんだって。見せるんだ。
 ――偲雪は一人じゃねぇんだから!
「むっ……これは、想定外の戦力がいるな……」
 と、然らば暗殺者の一人の太刀がサンディによって受け止められる――
 それは蒼き影を宿した者。顔を覆われており、誰ぞとは分からぬが……
 かの者は現代に続く、越天楽の祖先。暗殺者の一人たる者。
 分が悪いかと、その者は退いた。
 あくまで過去の再演の一部に生じた、ほんの些細な差異だ、が。
 退いたが故に微かに攻勢が弱まって……
「……例え『現代の』彼女が魔種だとしても、この場における彼女の死を見過ごす理由はないわ。原点である彼女の優しさは――嫌いにはなれないからね」
「――僕は為すべきを済ませた。後は如何なろうと既に事は僕の手を離れた訳だ、が。
 とはいえ、乗りかかった船であることも事実。
 今少しばかりこの舞台を共にしようか。結末に興味もある」
 然らばサンディ達だけではない――アルテミアや『戦飢餓』恋屍・愛無(p3p007296)もその場に姿を見せ始めるものだ。初撃から偲雪を殺しにかからんとする一閃を防ぎ、彼女を凶刃から守ろうか。然らば愛無は言を紡ぐものである。
 そもそも――この状況が『巻き戻し』のようなモノであるならば。状況が本来の過去と大きく異なるような事が起これば修復に何らかの影響を与える可能性はあるのではないか? 例え結末が変わらぬとしても、決まっている筈の結末へと修正する力が巨大に注ぎ込まれれば……なんの影響も一切出ないとは思えぬ。
 ――そうなれば本物の偲雪君との接触できる可能性もある。
 それは護衛として『彼女の下に残った者』がでてくる可能性もあるという事だ。
「まぁ実際に『彼女ら』が出てきたとしても――それは成すべき者に任すとするがな」
 彼女の死は彼女のモノだ。その死は彼女の選択の証だ。
 本来であれば、それを奪う様な真似はしたくないが。是非も無い。
「精々、歴史をかき回すとしよう。それとも歴史のズレは許さぬと、直せるかね?」
 愛無の問いかけははたして誰にであったか。
 眼前より迫りくる幾人もの暗殺者達にか――それとも……
「させない……! どんな事にだって、無意味だなんて言わせるもんか……!」
 更に『龍柱朋友』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)や『あの夜に答えを』エア(p3p010085)も駆けつける。その手に、瑞刀を握りしめ……強き意志を瞳に宿せば、暗殺者共を片っ端から排除せんとするものだ。
 ――ここは瑞の守護する国だ。それにこの頃はまだ瑞が全盛期の時代のはず。
「力を貸して……! 偲雪さんを護るために……!!」
 奥歯を噛みしめる。力が漲った様な気がしたのは錯覚か、真実か。
 どちらにしてもシキは諦めぬ。
 黒装束を身に纏った者達が押し寄せようとも、護り切らんとするのだ。傍にはサンディもいようか――知古から『シキが無茶しない様に見張ってて。見過ごすとすぐ無茶を通り越すんだから』なんて託されてもいるのだから。
(一人で突っ走ったりは――させねぇからな)
 見据える。シキの背を、サンディは支えるようにしながら。
「偲雪さんを……ころすんだね?」
 次いでリュコスも偲雪を守護する様に立ち回る。
 ……悪になった偲雪はまた殺される。その理想ごと。
「いやなんだ」
 あんなに優しい人が間違ってしまうのが。
 『間違ってる』と言われてまた殺されなきゃいけないのが、つらいんだ。
 あんなに笑顔で、お菓子をくれて、とってもとっても優しい人が――殺される。
 いやなんだ。見たくないんだ。悲しいんだ。
 『つい最近、ちょっとだけ会ったばかり』でも――ぼくは!
「たすけたいんだ……! 絶対に!」
 故にリュコスもまた動く。なんとしてでも守り抜かんと、暗殺者達を引き付けて。
 絶対に此処は通さないと――立ち回るのだ!
 させない。彼女が死んで、魔種になんて絶対に!
「さてさて。例え過去が……いや此処からすれば未来が定まっているとしても、まだやらせる訳にはいかないんすよ。調べるべきことは山の様に――ありますんで、ねぇ!」
 慧もまた暗殺者の刃から庇わんとする。
 毒で死にかけたトコを更に刺客が狙う――どこか執拗だ。
 それほどまでに死んでほしかった、と言う事だろうか。いずれにせよ止めんと彼は立ち回る。
(木々から伝えてもらった『遺骨を持つ様な人の陰』……アレはなんすかね?)
 帝のいずれか? 正眼帝を『呼んだ』もの?
 或いは遺骨を管理する墓守の一族でもいるのだろうか――
 それを知るまでは……まだ、と彼は奮戦し。
「偲雪さま、助けに来たよ! 後ろに隠れてて!!」
「遅れてしまってすまないね――此処からは私達も味方しよう」
「わぁ……! あ、ありがとう……!!」
 と、続けて現れたのはイーハトーヴにルブラットだ。
 正眼帝の思想には、ルブラットは思う所がある……が。
 今は友人たるイーハトーヴの選択を――見届けたいという感情が勝っている。
 あぁ。やっぱり、過去だろうが現在だろうが……イーハトーヴの想いは変わらないのだ。
 ――だって、やっぱり俺は貴女を護りたいんだもの!
「ぶははははっ、大工事中の演劇舞台におジャマしにきちゃったぜー! ドシリアス? ドシリアス? 秋奈ちゃんはしらねー! notをかし! いざ推参!!」
 と、更には『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)も暗殺の場に立ち会うものである――うーん、流石秋奈ちゃん! さてさてこの暗殺者共は一体どこのだれかと――フッ……私ちゃんがさりげなく名探偵してやるのも仕事の一つってもんよ。
 犯人をソッコーで見つけて縛り上げれば暗殺なんて起こらな……
 ん? 犯人はもう死んでる? いわれてみればそうである。
「でもまぁやれる事はあるっしょ!」
「あぁ――せめて暗殺の犯人の顔だけでも、判明させる事は出来るだろう!」
 直後。動く彼女の目的は、刺さんとする誰かさん達のチェック。
 神使に迎撃された倒れ伏している者達の顔を『元魔人第十三号』岩倉・鈴音(p3p006119)と共に視んとすれば――むむむ。何やらヤオヨロズっぽい雰囲気。鬼との融和を目指したが故の反発かな~? 多分、当時の政治に関わるヤオヨロズ達からの刺客なのだろうと推察。
 うぬうぬ。まぁこの頭脳はフル回転でもうまく整理がつかないから、この考察はえらいひとに任せるとして!
「うーむ。ま、そりゃーいきなり帝が殺されれば戦乱の時代に繋がるわな、ガハハ!
 ――で。瑞もどーよ。ホントはこの時話してたのって、瑞なんっしょ?」
『……ええ。しかし、他愛もない話をしただけです。まさかその後に亡くなるとは』
「ま、そりゃいいんだけどさ。いつぞの祠とか、マジ一体誰が作ったんだろうねー」
『それは墓守の者達でしょう。帝の遺骨を運ぶ者達が存在していた筈ですから。
 ただ……だからこそ偲雪の力の真っ先の対象になってしまったとは思いますが』
 あ、そういう人達もいるよね~そりゃそっか、がはは!
 瑞神の幻影と話しながらも――秋奈はこの光景を目に納めんとする。まるっと時代を追体験できるなど、そうそうない出来事なのだから。ぐへへ、がっつり見たろ。もしかしたら偲雪ちゃんの弱みなんぞでも握れないとかも、思案しつつ。
 ともあれ。暗殺者が入り込んだ事による場の混乱は最高潮に達していた。
 暗殺者達は偲雪を殺害せしめんと襲い掛かってくる――
 妙だ。神使が倒しても倒しても次から次へと……幾らなんでも数が多すぎる。
 あぁ、いや。これが、歴史通りに進まんとする力なのだろうか。
 つまり偲雪が死ぬまでこの動きは続くのだろう。
 だとすればこんな事は、偲雪を護ろうとするのは無為だ――
 だけど。
「理解は……しております……過去は変えられず、こんな事に意味はありません」
 だけれども、それでも!
「それでも! 友達が目の前で傷つくのを黙って見ていられましょうか!」
 理屈ではないのだ。意味があるとかないとかで、動いている訳じゃない。
 彼女がただ殺される場面を見るだけなんて――まっぴら御免だ!
 だから死力を尽くす。少しでも。少しでも彼女を延命させんとし――
「皆。守ってくれるんだね――ありがとう。でももういいよ、大丈夫」
「偲雪さん――!」
 だが。これが歴史の辿る道としての修正だろうか。
 暗殺人達の一人が警戒網をすり抜け――偲雪の背を刃で貫く。
 ……血が、舞う。偲雪の口から零れ、襖に飛び散り。
 やがて力なく――倒れ伏していく。
「偲雪さま……! あぁ、やはり、こうなってしまうのですね……」
「あぁ……なんて事が。やはり人の拒絶、否定がこの国を歪めた……のでしょうね」
 ……同時。言を紡いだのは、『ひつじぱわー』メイメイ・ルー(p3p004460)である。彼女も『いま』の偲雪の言葉を介さずに、彼女の事を知りたいとこの時代に来た――倒れる彼女に寄り添って『ほんとう』の貴女の顔を、記憶に留めんとする。
 同時に全ての時代を見てきたマリエッタも感じる所があるものだ。
 ああ、本当に、こうして血の終わりを見ていると、心が疼く。
 心の内で、血の魔女が囁く。私もやりたい、血を奪いたいと――だけれども。
(……必要なのは、魔女の力ではありませんね)
 マリエッタは見据えるものだ。眼前を、救いを求めて抗っているこの様を。
 魔女ではない私として……聖なる血を奪った者として。
 狂い果てつつある常世穢国に――少しでも救いを齎す道がないか、と。
 全てを知った上でこそ、戦う道が定まるのではないか、と。
 然らば暗殺人達の姿が消えゆくものだ。不思議と、蜻蛉の如く揺らめきながら。
 暗殺を成せば彼らはすぐに撤退したが故だろうか――
 まぁ、その辺りの統合性などもうどうでもいい。それよりも。
「なぁ。偲雪……お前自身の望みは、何だったんだ?」
 風牙は問わねばならぬと踏み込むものだ。
 最後に、一体何を想っていたのか。
 この状況下であれば、本来は看取った者などいないだろうか……
 孤独に死にゆくのが彼女の正史ならば――何を想った?
 そもそも『バグ召喚』で望まず連れてこられた、偲雪は。
「…………残念だなぁ、って思うんだよ。鬼の皆の、笑顔を、見たかっ……」
「――ねえ偲雪さん! また出逢うまで憶えていてよ」
 直後。息も絶え絶えな状態の彼女に駆けよりて紡ぐのは、シキだ。
 偲雪の手を取りながら。
 いつかまた出逢うのだから、いつかまたその手を取るのだから。
 この温もりを覚えていて……
 例え幾万、幾億の悪意にさらされても、絶対に君は一人なんかじゃない。
 君には私がいる。絶対絶対、この手を取ってみせるから。
「うん……シキちゃん、だね……? 絶対絶対、覚えておくよ……、……」
「うん――いつかまた、未来でまた会おう。そしたらさ、友達に……なろうよ」
 ……おやすみ。
 冷たくなっていく偲雪の肉体――あぁこれも只の再現なのであろう、が。
 眼の端から零れた熱き一滴が止められぬ。
 この時に。もしも自分がいたのなら。
 必ず止めてみせたのに。
 君の。”友達が欲しい”って願いを――叶えてあげたのに。
「……本当に。純粋で、無垢な想いの象徴ね。
 でも……だからこそ傲慢な想いでもあるわ」
 そしてアルテミアは見つめ続ける。命の灯が消え得る、その最後の瞬間まで。
 偲雪は本当に本当に優しい人物だ。最後の最後まで他者の幸せを願うなんて。
 でも……幸せを願っていても、今を忘れて幸せを感じ続ける事なんて、私はお断りよ。
 『片翼』を亡くした事や、大切な人の事を忘れる位なら。
(私は不幸でいい。決して失ってはならないものが、あるんだから)

「ありがとう――シキちゃんもルル家も、みんなみんな優しいね」

 刹那。響いた声は『偲雪』であって『偲雪』ではなかった。
 それは逆戻しの狭間にいる偲雪ではなく――
「――偲雪さん」
 現世の彼女。魔道へ狂い果てた、かつての帝。
 今しがた。シキの手の内で零れ落ちた者の果て。
「また貴女に会いに来たよ、偲雪さん」
 さすれば、イーハトーヴは往くものだ。
 あのね、貴女に渡したいものがあるんだ、と。
 差し出すのは――一つのぬいぐるみ。
「この子、俺が作ったんだよ。貴女なら大切にしてくれると思って」
「わぁ! 可愛いね――ありがとうイーハトーヴ! ふふ、贈り物なんて嬉しいなぁ……!」
 貴女を愛し、安らぎを願い、いつでも傍に居る……
 ぬいぐるみって、そんなお友達になってくれるんだ。
 だから。彼女の笑顔の一端になれば――とは思うのだが、しかし。
「でも……悲しいよね、分かり合えないのって。でも、もう大丈夫。
 私が必ず――分かり合える世界を作ってみせるから」
「偲雪ちゃん! 待ってください!」
 刹那の後には、変わるものだ。
 違う。やはり、先の過去の偲雪とは……どこか、雰囲気が。
 それが魔種として狂っている面であろうか。
 ――故にルル家は叫ぶ。力の限り、五指を握りしめながら。
「偲雪ちゃんが作った中務省が今もあるのは沢山の人が貴女の願いを守ったからなんです……偲雪ちゃんはずっと独りじゃなかったんです! 分かりますか……? 願いは沢山の人が受け継ぎ、大樹になろうとしている!」
 貴女の意思はずっとずっと――生きていたんです!
 語るルル家。瞼の奥が熱く、涙がこぼれ、声は震え、言葉は途切れ途切れに。
 それでも。
「だから、どうか、どうか――みんなが未来に届けようとした、みんなが引き継いだ偲雪ちゃんの想いを否定しないで! まだすぐには平和な世には出来ないかも知れないけど、私達が必ず貴女の想いを平和な未来に届かせるから! だから――!」
 一緒に来てよ、偲雪ちゃん!
 手を伸ばす。この手を取って、一緒に行きましょうと言わんばかりに――
「ありがとうルル家――でもね。『もういい』んだ」
 だ、が。
「もう皆が頑張らなくてもいいんだよ。『私が全部してあげる』から。
 頑張って頑張って苦しい想いをして大樹になるまで待たなくていいんだ」
「偲雪ちゃん――!!」
 偲雪は、むしろ。手を掴んでルル家を引きずり込まんとする。
 過去の偲雪は手を取れば心を交わせた。しかし。
 現世の偲雪は手を取れば心に溶けてこんとする――故に。
「……正体を現したな下郎がッ! その命、我が身命を賭して――滅ぼしてくれよう!」
「偲雪ね! 現世の奴には容赦しないわ――ぶっ殺してやるわッ!!」
 気配を押し殺し、闇と同化する技量をもってして『報恩の絡繰師』黒影 鬼灯(p3p007949)が偲雪を打ち倒さんとする。許せん。『知古の者』を引き摺り込んだだけに飽き足らず、更に生贄を求めるか――! 更にはきゐこも続く。
 手加減なし。現世の彼女は嫌いなのだから――!
 ここで倒す、とばかりに――刹那。
 鬼灯らの間に割り込んだ影があった。本物の偲雪の背後を護る様に立ち塞がるのは。
 『偲雪の守人』百合草 瑠々(p3p010340)に――星穹(p3p008330)だ。
 その瞳に、淀みはない。
 その魂に、穢れはない。
 豁然とした意志をもってして――立ち塞がっている。
「瑠々様、参りましょう。偲雪様の背中は、私達が守護するのです」
「あぁ。星穹、こいつらの話を聞く必要はない。俺達の道はもう一つだけだ」
 尤も。星穹の方に関しては『何か欠け』がある様な気もする、が。
 瑠々の後押しがあらば迷いはない様に見えるものだ。
「星穹……どうやらあの女に魂まで毒された様だな。
 深い考えがあって偲雪の傍にいることを選んだのだと思っていたが」
「おや……貴方は、どちら様でしょうか?」
「――本気で言っているのか? 俺を、いや、我々の顔を忘却したとでも?」
 鬼灯は、察知する。星穹の様子が何かおかしい、と。
 ……元々、初めから周囲を完全に警戒している二人が周囲に潜んでいれば、己が奇襲を悟らせる事は難しいやもしれぬとは思っていた。特に星穹は此方の手の内を良く知っている――使い魔をも用いてこちらの周囲索敵もされればかなり厳しい。
 の、だが。そもそもその星穹が妙だ。何か、こちらを忘れている様な……
 フリをしている様には見えないのだ。まるで心の底から本当に『知らぬ』かの如く。
「――星穹殿? 敵に一体……何をされたんだい?」
 で、あれば。『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は問うものだ。
 偲雪に何をされたのかと。洗脳か、干渉か、何か、何を――
 さすれば、星穹はヴェルグリーズの瞳を見据えて。

「――貴方は『誰』ですか?」
「――」

 紡ぐ、ものだ。
 知らぬと。分からぬと。まるで初対面であるかのような、言を。
 ――そんな馬鹿な。何を言っている? 嘘か。演技か。それとも、それとも――
「ヴェルグリーズ、逸るな。星穹は目の前にいるのだ。必ず、取り戻せる」
 刹那。ヴェルグリーズの肩を掴んで彼の意識を呼び覚ましたのは『駆け出し錬金術師』クロバ・フユツキ(p3p000145)だ。流石のヴェルグリーズも……斯様な返答は想定外だったのだろうか、今、完全に意識が乱れていた。
 故にクロバが引き戻す。
 尤も、星穹はクロバに視線を合わせても……彼の事すらピンと来ていない様だが。
 まさか。クロバ殿も、空殿も……ヴェルグリーズ殿も忘れてしまったか?
「俺も師走も暦もそんな無責任な忍に育てた覚えはないぞ。
 ――嫌と言おうが思い出させてやろうか。例えば、偲雪を殺せば思い出すか?」
「何を……我が主になんと不遜なッ! 下郎がッ!」
「星穹さんをこんな風にしてしまうなんて……
 偲雪さんとは仲良くできなさそうねぇ……残念なのだわ」
 直後。残念、と言ったのは鬼灯の傍に常にある章姫か。
 ――アレとは最早分かり合えぬと確信した。何を言っても自身が正義。
 そしてこのように他者を塗りつぶして満足する怪物を放ってなど置けるか。
 さぁ。空繰舞台の幕を上げろ。
「――我らが演者を連れ戻せ」
「――あぁ。理由は分からない。けれど……このままにはしておけない……!」
 激突する。必ず連れ戻すのだという意志と。
 貴方達など知らないという意志が――
「星穹。お前が忘れても、確かにここに在るぜ。”お前”は」
 直後。拒絶されようともクロバは諦めぬものだ。
「帰りを待つ子どもがいるんだろうが……
 子を親が置いていくなんて俺は絶対に認めねぇぞ!」
 星穹も、ヴェルグリーズも!
 これは友人だろうと、いや、友人だからこそ絶対にさせてたまるか!
 お前達を見捨てなどしない。お前達を連れて帰る――!
 だけれども、星穹の側も。
 まるでクロバを見下ろすような瞳で――相対するものだ。
 あぁ。『もしかしたら』確かに私と貴方達は知り合いかもしれませんね。でも。
「そもそも――私達がいつ助けて、救って、迎えにきて! ってお前達に云ったのかしら。
 自惚れも大概になさいよ。自己満足に巻き込まないでくれる?
 そうして連れて帰って貴方達に都合のいい『私』が戻って来れば、ご満足頂けるの?
 ありがとうって、最後に口付けの一つも交わせば綺麗に幕が閉じるのかしら――?
 ――おめでたい。どんな空想に酔っているの。『私』の何を知っているというの」
「何も知らないのはそちらの方だよ」
 すかさずヴェルグリーズは星穹に近付かんと踏み込んで。
「君は、俺の相棒だ」
 大事な約束をたくさんした。
 それも全部、忘れてしまったのなら。
 もう一度、思い出そう。
 ……星穹から投げられる一つ一つの言葉の刃があっても、彼は受け止める。
 泣きたい様な。笑っている様な。口端を必死に緩ませて、精一杯表情を作りながら。
 ヴェルグリーズは――
「星穹、こいつらの話を聞くな。違うだろ。お前はもう選んじまったんだ」
 が。そこへと介入するのが瑠々だ。
 もう、お前も私も『皆』の中にはいられない。
 お前には――偲雪様がいる。それだけだ。それだけが在れば十分だろう、と。
「……瑠々殿。邪魔をするならキミであっても容赦はしないよ」
「それは此方の台詞だ。いつまで未練を心に宿している。星穹はもうこっち側だ」
「生憎と。そう断じているのは瑠々殿――貴方一人だ!」
 交差。連撃。打ち合い、それでもヴェルグリーズは退かぬ。
 片手に――彼女から貰ったノートの切れ端を握りしめながら――退かぬのだ。
 その言葉が全ての真実。
 その言葉が彼の全てを支えているから。だから――!
「ソレこそ反吐が出るものだ。あぁ『どうせ会える』『自分の言葉で帰ってくる』『あいつは騙されてる』とでも考えてるかい? そんな甘い言葉で全てを見知った気でいられるなら――」
 殺すぞ。
 彼女より紡がれし一撃はまごう事なく、首筋を狙っていた。
 あちらも本気、と言う事か。
 ……偲雪が真に世界を救う者だと信じて、その道に付き従わんとしている。
 どんなやり方であったとしても世界平和を成せれば――それが至上である、と。
「やれやれ……君が、君自身の意志で仕えるのなら文句はない。
 けれど――分かってるんだろうね?
「……何がだよ、商人」
「幸せと希望と理想を"押し付けられる"なんて、クソッタレってことさ。
 ――キミが真っ先に唱えそうな言葉だが」
 されば。斯様な瑠々の様子に武器商人は言を紡ぐものだ。
 本当にそちらの立場で良いのだね? と。
 心の底から良しとするのならば否は述べぬが。弟子の一人の動向は気になるものだ。
(……それにしても、あちらの方も皮肉だねぇ)
 同時。武器商人が視線を滑らせる先には――星穹の姿がる。
 相棒と息子を守りたいと願った力があった筈なのに。
 全てを喪った後に――彼に向ける事になったら皮肉よな。
 気付いているのだろうかと。
 もう一度気付く事が出来るのだろうかと、思案して。
「百合草ァ――! こんな所にいやがったか!
 俺はな、テメェに言いてぇ事があるんだよ……!!」
「……プラックか。こっちにはないぞ。
 それ以上進んでくるのなら――この国からご退場願うだけだ」
 刹那。場へと一歩踏み込んだのは『救海の灯火』プラック・クラケーン(p3p006804)である。瑠々は変わらず敵対の意思を見せるものだが……しかしプラックも止まろうか。
 どうしても言いたい事があったのだ。
 覚悟だ、信念だとか抜かして道を選んだんならな――
「手紙だろうが保険だろうが"殺してくれ"だとか頼むんじゃねぇ!
 そいつはよ、言葉にしちまったなら……お前が仕える主のやり方が――」
 間違ってるって言ってるもんだろうが!
 戸惑いがある事の証左。そんなモノを出してくるなよ!
 持っていた手紙を五指に力を入れ、握り潰しながら――叫ぶ。
 魔種の下だろうが! その道が理想で正しいと思うんなら!
「胸張って、笑って、どこまでも自信満々に――勧誘でもしてろ!」
「……何?」
「───……お前の覚悟を問うぞ。俺は今から、偲雪とやらに協力する、テメェと同じ様にな」
 と、その時だ。プラックの口端から零れた言葉は――信じがたき事。
 常世穢国に、与すると?
「あぁ。俺の夢も、信念も、全てを捨ててその陣営に入る。
 それが嫌だったり、その心が揺らぐ事があれば戻って来い」
 元々。彼の命は深緑で消える筈だったもの。
 ソイツを救ったのは『お前』だ『お前』なんだ。
 だから。俺の命の半分はお前のもんで。
 お前の命の半分は俺のもんだ。
 ──彼が協力すると決めたのは、覚悟を問うた己の覚悟故。
 ──彼が協力すると決めたのは、義理と人情、ダチの為。
 ──彼は協力すると決めた、吐いた唾は飲まず、裏切る気は無い。

 "俺はお前と一緒に死んでやるよ"

 お前がちゃんと、望むならな。
「……ああ。なら、死んでくれプラック。
 それでも共に来るというのなら、歓迎しよう。
 その命を我が主に捧げろ。私と命を分けたというのなら、てめえこそ覚悟を見せろ。
 男なら吐いた唾を呑み込む事はしないだろうな――?」
「当然だろ」
「ならば、来い」
 ようこそ。我らが穢国へ。

 ――そして常世穢国の逆戻しは収束を向かえんとする。

 修復の完了だ。再びに常世穢国は顕現し、そして偲雪の願いを叶えんと動き出すだろう。
 新たに加わった――プラックの協力をも得ながら。
「魔道の力でこの世を成すなど言語道断……けれど、そこに至る無念までをも否定するつもりは無い。俺は、貴女の本心が知りたい。知った上で……その『心』を救いたいと思っているから。何故堕ちてしまったのか、その理由を教えてくれませんか?」
「私は堕ちてなんていないよ? ただ――力を得ただけだから。
 皆を幸せに出来る力を、ね。私だけがきっと、この国をぜんぶ幸せにしてあげられるんだ」
 同時。ルーキスはどうしても、偲雪本人に問いたいものだ。
 どこで狂ったのかと。どこで堕ちてしまったのかと。
 ……彼女は殺された時に無力を知ったのかもしれない。
 誰も恨んではいないけれど。力があれば望みを成せたのかな、と。
 だから実際に力を手に入れて――そのままに動いた。
 今度こそ。皆を幸せにするために。
「ほう。では、僕はどうなるのかな? 僕の様な――『化け物』は」
 続けて言葉を紡いだの愛無だ。
 偲雪君は優しい。その優しさは傲慢さでもあるが。
 その化け物と人は両立しない――とすれば、どうする?
「あっ。愛無だね? うん。ちょっと考えたんだけどね――私を食べさせてあげるよ」
「ほう?」
「私なら今なら力があるから、ちょっとぐらい食べられてもすぐ回復できるし!」
 そして。その末に彼女が出した答えは――狂気の沙汰だった。
 他を犠牲に出来ないなら自らを喰らわせる。何を選ぶでもない、自分を差し出す事。
 彼女は魔種。否、生きている人間とも言い難い存在なら――治癒も可能であろうか。
 故にこその選択。狂気、狂気、狂気――
「ああ――成程」
 そういう結論に至ったのかと、愛無は深く、深く頷くもので……
 ……ともあれ。修復が完了すれば再び守人などの守護者が動き出すかもしれない。となれば。
「偲雪、この場で貴様を殺せんのが残念でならん。
 現世へ戻った際は覚えておけ、我ら暦が全力を持って貴様を討つ」
「……退くぞヴェルグリーズ! 今、この場では無理だ――!」
「しかし!」
「聞き分けろ!! 俺だって友を助けたくないわけないだろうが!!」
 告げる鬼灯に、ヴェルグリーズの身を掴むクロバ。
 ――頼むよ、今は星穹しか見えてないかもしれないけど。
 お前は俺にとっての友達でもあるんだぞ。
 誰も。誰も最悪の事態になんて――させたくないのだ。
 ――だが。諦めきれようか。
「……キミとの約束があるんだ」
 迎えに行く。必ず、必ず。
 君が忘れてしまおうと。君が全てを忘却の彼方に置いてこようと。
 それでもと――彼は強く願うものだ。
 例えば己の全てを捧げんとしてでも――!
 彼女の腕を、いや手を掴まんとする。
 キミと紡いだ思い出は決して失わせない。
 だから、この手で必ず――その涙を拭ってみせるから。

「……大丈夫ですよ、ヴェルグリーズ。心配ありません」

 さすれば、ヴェルグリーズの指先が星穹に触れた――直後。
 彼女が、小さく呟いた。
 記憶の何処かに居る私が、動いた。貴方の笑顔が見たいのだと言う記憶。
 これは何? 私に……あったモノ? 残滓、だとでも?
 なる、ほど。
 この胸の内から湧き上がってくる感覚は――
「貴方が私の知り合いだというのは確かでしょうね」
「星穹殿――」
「でも。だから……だから」
 貴方の其の表情はどうも心が乱されて涙が溢れる。
 消えていく。風に運ばれる砂の様に。消えていく。どれだけ掬わんとしても零れる水の様に。
 記憶(あなた)が消えていく。
 約束? 私は解らないのに約束を守って迎えに来たの?
 でも、だとしても。
「さようなら。名も知らない人。さようなら。■■■■■■■」
 涙を拭うのに貴方の手は必要ない。
 私に貴方の相棒は相応しくない。
 貴方の手を取ることは出来ない。
 ――私は。
「その手を離しな――我が主に一番必要なのは、友達だ。
 星穹ならなれる。あの方の良き理解者に。
 だから――その手、もう離しな。これ以上粘るってんなら」
 ……無理矢理でも、断つ。
 瑠々の言。本気の瞳が、そこに在った。
 故にクロバは無理やり引き剥がす様にしながら――歩みを後方へと向けるものだ。
 ……さすれば。プラックは瑠々へと視線を向け、ながら。
「なぁ。『ソレ』に、お前はなれねぇのかよ」
「ウチか……? ウチはそれにはなれない。従者か守人って所ならともかく、な」
 あの方の為に生きて、死にたいと思ったから。
 忍はそういうモノなんだ――と。それよりも。
 なあプラック。お前、やっぱ相当の馬鹿だよ。
「この先が冥府魔道でも、後で文句言うなよ?」
「――お前の覚悟が揺らがなきゃ、な」
 紡ぐ。この国の果ては、一体どこに繋がっている事か。
 偲雪に賛同する者がいて。偲雪に反発する者がいて。
 まだ見えぬ道の果ては、理想に満ちた天上にして地獄の世界か。
 それとも――


 ――同時刻。
 久遠の森の外にて歩むは、現世の玄武だ。
 彼は内部に侵入していない。近くには『祝呪反魂』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)もいて本物の行いの手伝いをせんと――付いていけば。
「で、何処に行くつもりなんだ玄武のじーさん」
「うむ……可能であれば、事は内密に終わらせたかったのだがな。
 最早事此処に至っては仕方あるまい……」
 問いには『行けば分かる』とし、歩を進めていく。
 ……玄武は元々行方不明者事件が此処まで大きい事態になるとは思ってもいなかった。己が知り、己の胸の内だけで終わる事態であろうと……しかし、事は旧き帝達が関わる領域であった。
 故にこそ玄武は決断した。
 玄武が向かう先は、この国を遥か太古より見据える唯一足りうる存在の下。
 ――黄泉津瑞神。
 幻影ならざる真なる彼女の力を、借りんとしていたのである。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

プラック・クラケーン(p3p006804)[不明]
昔日の青年

あとがき

 ――お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 過去を超え、現世に戻り、未来に紡がれるは何か――

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