シナリオ詳細
<太陽と月の祝福>アルティオ=エルムの為に
オープニング
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――遥か悠久の果てよりファルカウは絶対だった。
僕が僕として生まれた頃より大樹であったファルカウの偉大さは今も尚変わらない。
僕はこの素晴らしき大樹を――永遠に守り通していくと、ずっとずっと分かっていた。
「ほほう。あんなゴミの様な幻想種達を放置しながら『護れている』のですぞ?」
その時だ。あの愚図が現れたのは。
見るに汚物。邪悪に塗れた、僕と対極の存在と――出逢ったのは。
●
「ハッー! ハッー! 愚図めええええ!!
ゴミの様な術式を大樹に仕込むなど、ぎい、が、がああ……!!」
ファルカウ上層――其処にクェイスはいた。
息を切らしながら。体の内側が掻き毟られる様な感覚を得ながら、だ。
……それは先の戦いでクェイスが大樹を護る『おまじない』に触れてしまったが為。
かつてマナセ・セレーナ・ムーンキーが親しき仲であるフィナリィ……の故郷にある大樹へと齎した守護の術式が、悪意を持って接さんとしていた術者に絶大な呪いを齎したのである。大樹に意図的に負荷をかけ、嘆きを生み出さんとしていたクェイスに……
それは以前、クェイスにも告げられていた約束だったのに。
『という訳でもうやっちゃったから!! だから無理におまじないを引っぺがそうとか傷つけたらダメよクェイス!! いいわね!!』
『誰が霊樹を傷つけるか愚図ッ!! 僕を誰だと思ってるんだ!!』
――あの言葉を忘れたが故に降りかかった災厄。
自業自得? 因果応報? 自らのみがファルカウを護れるとの傲慢が故か――?
否ッ!
「知った事か! 僕は間違えていない。僕は間違ってなどいない!」
『――然り然り。幻想種や、幻想種に与する連中の言葉などに如何程の価値がありましょうか』
同時。クェイスの脳髄に響き渡る声があった――
それは『呼び声』だ。クェイスの魂に纏わりこびり付いている、過去に受けた呼び声。
――ザントマン。
まだ奴が神隠しによってカムイグラに飛ばされる前に出逢った事が在ったのだ。奴の声が脳で鳴り響いている……無論、カムイグラで朽ち果てた奴めが実は生きていて干渉、などと言った事をしている訳ではない。
ただただ――昔からクェイスは、もう狂っていただけの話なのだ。
かつて存在した者の声が、脳髄に染み渡り残り会話までする程に。
『さぁ苦しいでしょう。何もかも投げ捨てのたうち回りたいでしょう――
しかし許しませんぞ。あと一歩を成すまでは。この機を逃せば次はない』
「誰にモノを言っているつもりだ!!
僕に不可能などない……僕は、このファルカウにおいてならば無敵だ!!」
『そう、その気概でいいのですよ――カロン様よりお受け取りになられた権能もあるのでしょう? 全てを用いて事を成されるのですぞ。ンッふっふ。あと一歩、あと一歩……』
「死人は消えろッ!! 僕はお前に利用などされていない――僕は僕の意思でファルカウを閉ざすのだ! あのクソ猫なんぞ関係あるか! 僕が! 僕が利用しているんだ!!」
まるで。邪魔な影を掻き消すかのようにクェイスは虚空を己が腕で払う。
そこには誰もいないというのに。
まるで彼には誰かいる様に――見えている様に。
――直後。彼が頭を抑えた。
「ぬ、が、ががぁ……! 愚図め、愚図の要素が、僕を……ォォォオ!」
痛みに耐えるかのように。先の『おまじない』の作用――ではなく。
それはカロン・アンテノーラの権能が一つが働いているが故、だ。
正式名称は知らない。あのクソ猫曰くの『おまえやれにゃー』は――勝手に周囲に滅びのアーク側の――例えば魔物を生み出すのだ。ソレらはカロンに変わって役目を果たさんと積極的に動き出す。
カロンの手を煩わせないが為に。
クェイスの魔力を吸い取りながら生み出されるソレは……夢魔という種であった。
『おぅおぅ。これはカロン様の配下ですな。
本来は夢の世界の住人なのですが――成程。主の望みを感知し、這いずり出てきたと。
――いやしかし懐かしい。多分ですが、私が生まれたのも『コレ』ですからな』
同時。ザントマンの興味深げな声が、またするものだ。
肉腫。ガイア・キャンサーと銘打たれるその存在の始まりが『コレ』なのかもしれないと。
カロンは怠惰だ。だから自分から積極的には動かないし、他人にやらせる。
故に肉腫が生まれた。この世界を積極的に滅ぼさんとする様な――存在が。
「愚図が生まれた経緯はやはり愚図か……! えぇい! 僕の力を吸うんじゃない!」
『いやまぁ? 多分ですぞ多分。私も私が生まれた経緯など知りもしませんが。
しかしカロン様の性質を考えればそういう可能性もあってはおかしくない、と』
せせら笑う様な声。あぁ、もうどうでもいい。
真実が如何なるものであれ、やる事に変わりはないのだ。
――僕はこの国を閉ざす。
大樹ファルカウを護るために。
見ろ! この地に勝手に国を切り拓いた者達が何を成した!
アカツキ・アマギ(p3p008034)と言ったか? エルシア・クレンオータ(p3p008209)とかいう奴もだったか? 許せん! 許せんぞ虫けら共め!! そして、それを少しでも許容する幻想種のシロアリ共も!! そしてファルカウに――今こうして土足で踏み上がってくる異邦の愚図共全て!!
……クェイスの瞳には狂気しかなかった。
ファルカウの守護者であるという自負は傲慢に至り。
永遠の静寂こそ至高であるという怠惰の罪に共感した。
狂おしいまでの渇望は正気の限界点を突き抜けて他者を根絶せんとする。
あぁそうだ! どこまでも煩わしく生意気だったマナセも!
自らを犠牲になどと言う自己満足の塊の女だったフィナリィも!
僕の思想を理解しない下らない裏切り者のレテートも!
そして――今代の巫女にして外界を開いた大罪人のリュミエも!
あんな愚図共皆皆死んでしまえ!! 必要ないんだッ!!
僕だ。僕だけがファルカウの守護者。僕だけがこの大樹を永劫に守れる存在!
『グレート・ワン』・『Ordo』・クェイス。
「さぁ来い無知蒙昧共!
ファルカウに土足で近付いてくる連中は――皆殺しにしてやる!」
その瞳にはもう過去も未来も映っていない。
マナセとの約束は忘れ。フィナリィは愚図だと馬鹿にし。レテートの思いも勘定せず。
ただただその背でせせら笑う――呼び声だけと共にある。
全ては『ファルカウの為に』あるのだと。どこまでも信じながら……
●
――イレギュラーズ達は進む。ファルカウの上層を。
其処は美しき大樹……の一角とは思えぬほどに混沌としていた。
殺意が溢れている。魔の気配が溢れている。
そこかしこには冠位怠惰カロン・アンテノーラの配下が蠢いているのだろう。
……だが。だからこそ此処が正念場だ。深緑を閉ざさんとしたカロンの目論見は半ば崩れている――此処までイレギュラーズ達の侵入を許したのだから。
しかしそれでも簡単ではない。
未だ敵は多く、そして歩みを進めているイレギュラーズ達の眼前にも……
「――ッ、また大樹の嘆きか」
「それだけじゃないぞ……なんだ連中は? 妖しい気配だ……!」
その道を阻まんとする存在が顕現し始めたのである。
一つは大樹の嘆き。本来であれば無差別的に攻撃する彼ら……が、しかし全て此方に敵意を見せてきている。『レテートの巫女』クエル・チア・レテートの献身により解放された個体達もいた筈だが、未だクェイスの支配下に組み込まれている個体もいるという事か――
そしてもう一つは、朧気なる姿の者達。
――夢魔だ。怠惰を司るカロンの配下。
かなりの数だ。こちらも……故郷奪還に燃える迷宮森林警備隊が友軍としていてくれているが、しかしそれでもやはり此処は今、敵のテリトリーと言う訳か。厳しいかもしれないが、しかしこの地も突破せねばならない――
指揮を執っているクェイスがいる筈だ。奴さえ倒せば――!
誰もがそう思い、態勢を整えた……その瞬間。
「んっ!? なんだ……!?」
敵陣に、攻撃が仕掛けられた。
イレギュラーズ達ではない。警備隊でもない。それは……
――人の子らよ。我らも共に戦おう。
それは――大樹の嘆きであった。
同時。念話の様な声がイレギュラーズ達の心に響き渡る。
それは穏やかな声。悲しみに塗れていない、とても安らかな……
――大樹の為に。ファルカウの為に。レテートの意思に応えるべく。
――今ぞ我らはこの地の為に。
先述のレテートによる――支配から解放された個体達、か。
もうイレギュラーズ達は敵ではないと彼らは分かっている。
故にこそ、戦おう。
深緑の為。『アルティオ=エルムの為に』
真なる平穏をこの地に齎す為に――!
- <太陽と月の祝福>アルティオ=エルムの為にLv:30以上完了
- GM名茶零四
- 種別決戦
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2022年06月30日 23時10分
- 参加人数54/54人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 54 人
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参加者一覧(54人)
リプレイ
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ファルカウが望むのは停滞か、それとも。
答えは分からぬ。
ファルカウは只そこに在るだけだからだ。
大樹は語らぬ。
ファルカウは悠久の彼方より、只そこにあるだけ……
●
「全く。なんつー状況だよ……練達に竜が来てから休まらねぇ状況が続くとは思ってたが、こんなにまでなるのか? はー……ま、足を突っ込んだからには進むしかないんだ。行くぜ、カフカくん」
「はいはい。行くんやったら着いてきますよ、ジョーくん。むしろ置いていかんとってな」
始めてくる深緑の大自然に圧倒――されている暇もなく定は、眼前より迫りくる夢魔共に吐息を一つ零していた。手が足りないからと手伝いに来たカフカも、予想以上の騒動に足を踏み入れてしまったと、こちらも吐息を零して……
次の瞬間には動き出す。何ともあれ来たからには事を成す、と。
「嫌な気分だぜ、こんな連中率いながら守護者を名乗ってるってのかい!?」
「あーもう。はよ帰って美味いもん食いたいわ――オラァ!」
敵の中枢へと定は纏めて薙ぎ払う様な撃を叩き込み。
カフカもまた五指を固めた拳を一閃――またの名を悪夢パンチッ!
「……これがこの国の大樹そのもの嘆きの声とでもいうのか?
だが悪いな。ボクはあくまで仕事で来ただけで、お前たちには興味もないし同情もしない」
次いで往くのはセレマだ。彼も大樹の嘆きへの対処へと向かう。
その戦法は至って単純。『受けて返す』事のみ。
連中を。知らぬであろう至高の『美』によって釘付けし――そして返してやるのだ。
負傷すれば、その天秤を奴らの方へと。
「まことの美しさは種を超えて通用するものだ。美こそが森羅万象に通ずる唯一無二」
――ボクはここでそれを証明するのだと。セレマは幾度の攻撃を受けても経ち続ける。
「オーホッホッホ! 夢檻に囚われたりしましたが、見事私復活!
夢檻と言えど私を縛る事が出来る様な代物ではなかったようですわ――!」
更に戦場に現れたのは麗姫だ。輝く彼女は――うわっ、眩しッ!
本来であればこのテンションの儘にクェイスをもう一回姫としてぶん殴って差し上げようと思っていたのだが……その前にどうも露払いが必要な様だ、と。こちらに向かってくる敵の姿を確認すれば。
「掛かって来やがれですわ! 姫は逃げも隠れもしませんわ~~~!
オーホッホッホ! 喰らいなさい、これこそ姫力の具現化! 私の――拳ですわああ!」
二秒ぐらい思考した後――全力でぶん殴ってやる事に決めた!
一にストレート。二にストレート。三、四がジャブで五にストレート!
…………ガァァァ……
そして同時――空を飛翔しながら戦場を見据えるのは、アルペストゥスだ。
押し寄せてくる敵の数は相当に、いる。
故にこそ仲間が戦いやすいように。彼は直上より降り注がせるものだ――
「Omnia aeque――Quid sit」
『あらゆるものを等しく――在るべき形へ』
言の葉。紡ぎあげたのは只の『音』ではなく言語魔術。
概念を巻き込み全てを変質させる一撃をもってして全てを穿とう。特に、敵の密集している場所へと。
頂点捕食者の獲物は――多いほど良いのだから。
「敵がいっぱいだなー! うわーあれ全部倒せば良いのかー?
数が多くて面倒だけど、やるぞー! 狩るんだー! 一杯狩れば、きっといい事あるぞー!」
「メーコも頑張るんですめぇ! 皆さん、こっちですめぇ!!」
更には熾煇やメーコも続くものだ。
熾煇はワイバーンと共に空より至りて、魔砲によって敵陣を薙いでいく。特に夢魔などという連中が厄介そうなので焼き尽くしてやるのだ――うおおおおワイバーン! 一緒に沢山狩るぞ――!!
同時にメーコは激しく鐘を鳴らす。ソレは周囲に危険を知らせる音色……だが。
それが故にこそ響く音色に引き寄せられる敵もいるものだ。
然らば彼女に攻撃が集中し、て。
「めぇ……! これぐらい痛くないですめぇ……!」
だが耐える。
そして彼女は周囲の者に治癒の術を齎すのだ――この果てに、勝利が在ると信じて。
「鬼灯くん、敵さんがいっぱいなのだわ!」
「ああそうだね章殿――どうやら、目覚めぬ地平を望む者達の様だ」
そして。鬼灯は腕に抱く章殿に言を紡ぎながら、同時に糸を張り巡らせるものだ。
狙うはメーコに集っている敵の足。機動力を削いで、更に転ばせて進ぜようか――
それに足を取られ更に後続が引っ掛かれば上等。
忍らしく。
影らしく。
彼は彼の儘に在り続ける。
「さぁ空繰舞台の幕を上げようか」
――安らかに眠れ。
彼の五指より死の幕引きたる糸が――演者らに降り注がんとしていた。
「やれやれ。夢魔……カロン・アンテノーラの配下でしたか?
夢の世界より這いずり出てくるなど、ご苦労な事です」
次いで瑠璃もまた夢魔の対処に。とにもかくにも連中を削らねばクェイスの下へ、という場合でもないのだ――故に警備隊とも連携して彼女は撃を重ねていく。虹の如く煌く雲が敵のみを穿ち、その身を沈めん……
連中の脅威はパンドラをも直接削る可能性がある所だ。
全ての攻撃がそうなる訳ではないが――直撃にだけは気を付けねばならぬ。
「ふむ……珍しい能力を有しているものだな。しかし、自己犠牲の精神に満ちている訳でもないが、命の危険が高い仕事はフリアノンで慣れている。今更どうこう言うほどのものでもあるまい」
「それに来るのは夢魔だけじゃないからね――ほら来た!
うわぁ変な化け物だー! ――全部楽にしてあげるからね」
だが。斯様な能力を抱いているからと言って臆す事はない。
危険という括りはどの依頼にも存在しているのだと――シャールカーニやリコリスの迎撃が走る。シャールカーニは守護の加護を齎し自らの身を堅牢に。続け様に夢魔を打ち砕くは防御から攻勢へと転じる技術の一手――
悪夢など、必要ないのだとばかりに。
そしてリコリスが見据えるのは夢魔や、増援として訪れてくる個体共だ。
ソレは――クェイスの魔力を吸って生まれてくる魔物共。
……しかしそれはカロンの権能があってこそだ。つまりアレを倒せば倒す程猫の休眠に影響も及ぼすのでは――? あ。片手間には嘆きの相手もしてあげようか。放置は可哀想だもんね。
「ふふ。より取り見取り、獲物は選び放題――だね」
「より取り見取り……成程。言いえて妙だね。
確かに随分と色々な『食い物』が用意されているようだし――そこは悪くない」
然らば。彼女はフードを深く被りて狙い定める。
ソレは彼女にとっての儀式。狩人たりうる意と共に、引き金絞り上げ――穿ち貫く。
同時にマルベートも別の意味でリコリスに同調するものだ。
正直この戦い自体に興味はない、が。しかし饗宴の悪魔としてならば及第点をくれてあげる程度には『種類』が豊富で……故にこそ戦おう。血の匂いと戦の雄叫び、溢れんばかりの殺意と悪意、各々の想いを抱いた仲間達の雄姿――
「あぁ。とても食欲が沸くエッセンスだね」
舌なめずり。同時に彼女は戦の加護を自らに齎し、敵を刻み喰らう。
欲望の儘に。さぁ血と命のビュッフェを――愉しませてもらおうか。
「随分とまぁ暴れてくれちゃってるわね、これもあのネコちゃんの仕業ってわけ? 郷田家は代々ネコ派なんだけどな〜? ちょーっとこれは可愛いイタズラ、じゃあすまないわねぇ」
なんだかアタシ、イヌ派に傾いちゃいそうだわ。なんて。
襲い来る大量の敵を前にしながら飄々と呟くは京である――直後。全身より吹き出でる超高温の火炎が彼女の身をスパークさせる。それは戦闘態勢へ移行した合図でもあり……敵を粉砕する前段階。
次の瞬間には神速に至りて万物を薙ぐが如く駆け抜ける。
特に狙うのはクェイスより出でる個体。
リコリスと同様に、これらを倒していけば彼の負担が増すのではないかと思考して――ぶちのめしていくのだ!
さすればイレギュラーズ達の勢いに乗じて警備隊も己らが力を振るうもの。
弓を投じ魔力を投じ。近づかんとする嘆きや夢魔に攻勢を重ねて……
「皆ー! か弱い私の為に頑張ってー! かわりにいっぱい援護するから――!」
さすればクリスハイトが声を張り上げるものだ。
クリスハイトは一歩引いた所で皆の治癒を前線へと飛ばしている。
サボっている? ちがう! 一応こうして頑張ってるんだから……! 本当は帰って早く寝たいけ、ど。
「本当に起きれなくなるのは困るからね……仕方なく頑張るんだー!」
前向きなのか後ろ向きなのか知れぬが、彼女は力の限り治癒術を振るい続ける。
同時に――美透も周囲の味方へと自らの指揮を齎すもの。
的確なる指示が敵の突破を許さず、味方の力となる。あぁ故郷を取り戻さんとする者達よ――
「せめてもの力添えだ、受け取ってくれ! この瞬間こそが――天王山!」
共に戦おうと、彼女は奮い立たせる。
多くの警備隊と共に嘆きや夢魔へと抗う。激しき攻撃至れば彼女が庇おう。
此処を超える事が――今後の全てを決めるであろうから。今一歩の力を込めん!
「しかしこれは……あちらこちら敵意ばかりですね……! 常に注意をしてください。
奇襲はおろか――恐らく流れ弾も大量に来ますよ……!」
「ふぅ! 取り巻きがごちゃごちゃと集まりやがって……! こりゃ張り切っていかねぇとな!」
そしてジュリエットは潜む敵意が無いか探知する術を張り巡らせつつ――夢魔へと警戒を蜜にするものだ。彼らはパンドラを直接削り取ってくるという……ならば直撃すれば危険だと、距離を取って魔力を紡ぎ――そして射撃する様に遠くから倒さんとし。
同時にリックは戦場の流れを読み切り、各所へと支援を齎すものだ。
圧迫されている所には治癒術を。負を齎されれば立て直す号令を。
一つ一つを紡ぎあげ、勝利への道を歩まんとして……
「ふむ――この日この時この場。なんともはや色とりどりの悪意ばかりよ。
焦熱地獄が似合いだと思わないか。
尤も、我が身、紙故に大敵なのだがな。Nyahahahaha!!!」
直後。高笑いと共に戦場へと至るのは――オラボナだ。
操られし嘆きらの動きを阻害せんとオラボナは前へ、前へ。さすれば砕けぬ堅牢さは健在であり、オラボナが周囲の仲間を庇えば……それを倒し切るは困難な程の防衛力を誇るものだ。強靭なりし物理装甲も纏えば、正に要塞が如く。
「くっ、しかしなんで数だ――だけれども此処で退く訳にはいかない。
例え力不足だとしても……今の僕に出来る事をやるだけだ……!」
「ここで、頑張らないと、深緑が、なくなっちゃう……
そんなのは、絶対ダメ、なの。
操られても、そうじゃなくても、悪いことするなら……殺してでも、止める……!」
そしてシャルティエもまた苦戦している戦況があらばすぐさまカバーに入らんと行動する。周囲を俯瞰する視点や、助けを求める声に応じて戦場を駆け抜けるもの――
時に庇い。時に斬撃。時に名乗り上げる様に敵の注意を引き付け、己に出来る事を、一歩ずつ。
さすればアクアが向かうのは大樹の嘆き方面だ。
操られ戦わせられ、辛い嘆きを天に吠える程に……そんなのは可哀想で見ていられないのだと。彼女は『終わらせる』為の一撃を――敵へと紡ぐ。言葉も掛けない。一刻も早く、彼らを解放せんと……前へ、前へ。
「クソがぁ! 囀るな! 喋るな! 耳障りなカス共が……全部纏めて消してやるよ!」
その過程で傷を負う事あらば――彼女の『暴』が顔を出すものだ。
なんだお前は夢魔? 知った事か死ね! 今すぐ死ね! 死んで詫びろカスが!
敵の集まっている箇所へと大波を顕現せしめ――全てを押し流し叩き潰して。
「苦痛に囚われて嘆き悲しむなんて、敵であろうとあんまりじゃないですか……
このような事が許されるのでしょうか……?
……いえ。悩む暇はありませんね――討伐が救済と言うのなら、私が前に出て斬り伏せます」
更に響子も――操られし嘆きを見て、悲哀なる感情が走るものだ。
が。今すぐに救う手段がないのなら……やむを得ない。
せめて覚えておこう。救(き)った人たちの顔は忘れない。
「――それが私に出来る唯一の弔いです」
往く。嘆きへと跳躍し、斬撃一閃。
切り伏せ次が近くにいれば、その苦しみから解放すべく――またも振るうものだ。
「ったく! 後から後から湧いてきやがるな……!
だからこそ邪魔はさせねぇよ! おら来い!! 俺が相手してやらぁ!!」
「……全く。イレギュラーズには性根の優しい子が多いからな。
そんな彼らに――大樹の嘆きの始末は辛かろう。ならば、これこそが私の役目か」
言うはオランにヴュルガー達である。オランはイレギュラーズや友軍の警備隊を粉砕せんと至る大樹の嘆きへ届く様に声を張る――その目的は、クェイスの下へと行かんとする者達の援護だ。
優れた三感をもってして索敵、そして警戒。
声を張り注意を引き付け。数多の感覚を研ぎ澄ませながら全方位を警戒し――至る攻撃があらば反撃の一手を紡ぐ。
ヴュルガーもまたこちらへと至る嘆きの対処に奔走していた。場を制圧するかの如き一撃を。狙いを付けなくてもどうせ彼方此方にいるのだ――あぁ全く。敵に対して『お友達になりたい』だのなんだの、非現実的な事を述べる者が多いが。
「だからこそ。運命を変えられる一歩を刻めるのだろうな」
苦笑する様な声を零しつつ――彼は銃撃を再開する。
今まで似た境遇の者を何人も屠ってきた。
貴殿の顔も、忘れませんと――心の中で呟きながら。
そして……深緑を、アルティオ=エルムを好むウィリアムはコルクと共に戦場へと至っていた。静かで、落ち着けるこの地に危機があるならば――
「一緒に戦ってくれるか、エト」
「はい。勿論です。ずっと……お隣にいますわ、ウィル様」
今こそ戦うべき時だと。コルクと視線を合わせ、頷くものだ。
カロンの配下たる夢魔へと紡ぐ魔力。味方から孤立しない様に注意しつつ紡ぎあげるウィリアムに続く形で、近寄る個体はコルクが斬撃一閃――直後に収束された魔力が天より降り注ぎ、敵を一掃しようか。
「――エト。大丈夫か? 無理はするなよ」
「――ああ、もう。本当の名前で呼ぶのは、ずるいでしょう」
未来の為に戦う二人。揃えば如何なる敵がいようと阻む事が出来ようか。
突然読んでくる『名』に、コルクは些か頬に熱が灯るのを感じる、が。
「この国で、二人で成人祝いをしたんだから。次はわたしの番でしょう!」
誤魔化す様に。彼女は往くものだ。望むべくの未来をつかみ取る為――
さすれば道が開け始める。
嘆きと夢魔らの防衛線に穴が生じ始めているのだ。
これであれば行けるか――この先にいるであろう、クェイスの下へ!
「はは、ネコチャンとどつきあう物とばかり思っていたが……どうも今回はファルカウ大好きマンが相手らしい。自然主義者の脳内は理解しがたい所があるもんだよなぁ――ま、いいさ。苦労してネコチャンを駆除しても、取り巻きの小粒が残ってると面倒だからな」
然らばヨハンが治癒の術を紡ぐ。この先へ行く者達へ、力を齎すのだ。
――さぁネコちゃんの取り巻き一匹、倒しに行くとしようか!
「おのれ愚図共め……こんな所にまで来るのか! なんなんだお前達は本当に!!」
であれば、クェイスもイレギュラーズ達の接近を知覚するものだ。
脳髄が軋む様な痛みを伴いながらもクェイスは反撃の一手を紡がんとする。いや、それだけではない……彼の周囲にて護衛する様に布陣していた嘆きや夢魔達も、イレギュラーズの道を阻まんと前に出て。
「――守護者よ。其方の在り方は理解しよう。しかし、納得はせぬのだよ」
が。その行動を予測していたかのようにクレマァダが先んじるものだ。
彼女の言祝ぐ歌が戦線を乱す――クェイスへ至る道を作る様に。
更には敵が勝機を取り戻す前に海嘯の魔力も叩き込んでやり。
「我は遠き絶海の守護。その役目を終に成し遂げた者。
故に其方の意を理解できぬわけではない――しかし。
強き者よ。お主は真面目過ぎる。そして責任感と言う鎖に囚われている。
いい加減――少しばかり、肩の力を抜け」
「ぬかすな! 僕だ! 僕だけだファルカウを永劫に守れるのは! 僕が止まる訳にはいかないんだ!」
「――守りたいなら、声を聞くなら、選ぶのはそちらではないでしょうに」
直後には慧が往く。庭師たる彼は、植物を好み。
彼らの『声』――みたいなものには、耳を傾けてもいるつもりだ。
……だからクェイスの言う事が分かるし、分かるけれど認められない。
「クェイスさん。クェイスさんは大樹の嘆き達に――声をかけてやりましたか?」
大切な人達の声をしかと聞いたかと。
彼は紡ぎながら――邪魔立てせんとする夢魔らの妨害へと赴くものだ。自らに張り巡らせる守護の術にて敵を阻み、目立つように振舞いて敵の注意を引き付けよう。
行かせない。これ以上は。
誰の邪魔もさせるものかと強い意志と共に……
「その願いは、正しいのかもしれません。私も分からない訳ではありません。
ですが――このままにしておくわけにもいかないのです。未来を閉ざさせる事だけは……そう、ファルカウに暮らす人々の全ての未来が掛かっているのですから」
サルヴェナーズだ。森を開いたことで失ったものも多かったのだと――想像は、出来る。
だけれども同調は出来ないと、開かれし魔眼が敵を見据えるものだ。
然らば、受けた靄を祓わんと彼女に敵が至れば。
「ふふ。たった一人でもファルカウを守るですか……いやあ、感動的ですねえ。
尤も……その様はまるで操られし人形の様にしか私には見えませんが……」
更にウィルドも敵を引き付ける様に立ち回る。
冠位に都合よく利用されいる様にしか見えぬ、哀れな個体を見据えながら……
「まぁ何でも構いませんこちらも此方の仕事を完遂させて頂くとしましょう」
彼は敵の真っただ中へ往く。不敵な笑みを浮かべながら紡ぐ魔力があらば、引き付けられた者達が――闇に引きずりこまれるものだ。数多の敵を巻き込みながら彼は己が仕事を遂行し続けて。
「クヒヒ! 何ともあのザントマンさんの気配がしたので思わずこの戦場に参加してしまいましたが……所詮は残滓。あの憎らしい程の存在感がない精神的な再生怪人程度なら恐れる程ではないですねぇ……やはり夏の新刊でのネタにでもしときますか……クェザン……いえザンクェ……? ご本人様としてはどちらの方がお好みでしょうか?」
「何を言っているのかさっぱりわからんぞ愚図――消え失せろ!」
直後。あやめがクェイスへ接近せんとする。
『クェイス×ザントマン』などと言う意味不明な言語をメモしながら……
巨大な魔力に圧殺されんと――する前に脱出。クヒヒ。それよりも未だクェイスの周辺に展開せんとしている個体達からお味方を護るべく動くとしましょうか――ねぇ!
「わーはっはっはっ! ヘルちゃん、参上なのだー!
久々に悪戯しに来てやったのだ! アザミー! 合わせるのだ――!!」
「……ヘルミーネ、あんた本当にそういう部分は性格悪いわよね。ガチで……言ってるのよね。うん……」
――その刹那。クェイスへと急速接近したのはヘルミーネである。
傍には彼女に連れられたのかアザミの姿もあるが……ヘルミーネは高笑いと共に不敵な思惑がその思考の中に在った――一言でいうならば。
「我が魔炎の極致……見せてやるのだ! ぬが――!!」
「ぐッ!? き、さまぁ!! 炎と共に突っ込んでくるとは……正気かァ!?」
「あーあもうやっちゃったわね。こうなったら仕方ないわ……
まぁ。魔種に与するのなら――意趣返しも必要だし、ね!」
そう。炎による突撃である。黒炎を纏いしヘルミーネがクェイスへと吶喊。続け様に行動するアザミも、業火をもってしてクェイスを焼かんとする――徹底的にだ。さすれば。
「わーはっはっはっ! 傲慢な精霊種を一方的にブチ転がすのは楽しーのだ! これだから煽るのはやめられねぇのd……うわ止めるのだー! なんでヘルちゃん達にいきなり集中攻撃してくるのだー! お、横暴なのだー! これだから傲慢な精霊種は――!」
「黙って死ね愚図ッ!! 躱すな喚くな黙して死ねェ!!」
ヘルミーネとアザミに集中攻撃。
巨大なる、木の根を模した様な杭が彼女に襲い掛かってくるもの……
直撃すればタダではすまぬ。成程、これがファルカウの守護者の力か――
「ところで……常々疑問に思うのです。偉大なるファルカウが燃えるだなんて、そんな恐ろしい事が起こるのでしょうか? 無論、些末な枝葉は別として、余程の悪意が無ければ幹まで焼ける心配なんてありませんでしょうに! 一体何を恐れるというのか!」
直後。クェイスが殺したくて仕方ない奴の上位にいるエルシアが戦場へ至るものだ。
彼女は思う。新しい深緑の為には、恐れ過ぎない、正しい炎の使い方を示さねばならないと……母の過ちを正しい方向に訂正して受け継ぐ為にも。
「ですので――えぇ。私は私の道を往くとしましょう」
「ぬ、貴様! 止せ、やめろ――ッ!!」
放つ。クェイスを、渾身の魔力をもってして。
炎の属性を宿すその一閃は破滅的威力を宿している――思わずクェイスはファルカウを庇わんと動きて。同時に怒りの儘にエルシアへと撃を紡ぐ――母なる大樹の怒りを知れ、と。
神速の枝の如き杭がエルシアヘ。だが、そこに割り込むは。
「させんよ。エルシアを害すなら、俺を踏み越えてみせろ」
幻介だ。居合の一閃によって迎撃し、エルシアを庇わんとする。
……やれやれ、どう見ても尋常な状態ではない感じだと肌で分かるものだ、が。
「だがな、クェイス……『今の』貴殿には到底解るまいよ、幻想種達が……エルシアが。どんな苦渋の想いで此処に炎を灯そうとしているか。再び罪を纏い、その身が裂かれる様な想いで戦おうとしているか……理解出来るか、貴様に!」
「理解しうる必要性などあるまい! 考える必要もない!
母なるファルカウに炎など、行うだけで大罪だ! それ以外の結論など必要ない!」
「それは思考停止と言うのだッ!」
だからと言って加減はせぬと――幻介は跳躍する。
更なる一刀を紡ぐため。しかし……クェイスの、まるで弾幕の様な杭の放出が在らば幻介のみならず多くのイレギュラーズに傷を与えてくるものだ。まるで無尽蔵か? と思われる程の出力――ファルカウの守護者を自認するだけはある。
恐らく本当にファルカウから吸い上げているのかもしれない。
そしてその魔力を喰らって……カロンの権能より魔物が生み出される。
――長期戦は不利だ。
警備隊や、こちらに味方をしてくれる大樹の嘆きもいるが……しかしそれを含めても、神秘の塊どころではない程の規模であるファルカウに浸食され続ければ勝ち目はない――特に夢魔共はイレギュラーズのパンドラを削り取らんと積極的に撃を放ってくるのだから。
「ははは――成程。中々の怒りっぷりだが……どうだ? こんな小さい火にも反応するのか?」
だからこそヲルトはヘルミーネやエルシアに続く形で――小さな火の粉を灯すものだ。
それは挑発の為。彼の意識を逸らし、此方に攻撃を集中させる為。
攻撃は他の者に任せる……だから!
「どうした? こんなものかクェイス。オレはまだまだ動けるぞ。もっと本気でこいよ!」
「煩い愚図だ! そんなに死にたければ――望み通り殺してくれる!」
言と共に紡げば――ヲルトへとまるで壁の如き弾幕が一斉に紡がれた。
死の気配。流れゆく走馬灯。だがその狭間にこそ……彼の真価は発揮される。
クェイスに対して何か、成したい事がある者がいるならば。
オレは――その手助けをするだけだと。
奥歯を噛みしめ彼は踏み留まる。戦線に。己が戦場に!
「クェイスとやら、お主の面はいつ見ても怒りで真っ赤じゃのう?
まあ、炎みたいで妾は嫌いではないが――あっ、お主に炎は禁句じゃったか? いやーすまんのう! かーっ! 今のはわざとじゃないんじゃ、ついそのままの本音が漏れただけでのー! かーっ!!」
「また出たなこの幻想種ですらない愚図の大結晶が――!!」
そして更にクェイスの集中を乱さんと声を張り上げたのはアカツキだ。
テンションが上がってる。ファルカウ上層とかいう燃やせない所を燃やせ……げふん。故郷の危機に馳せ参じたからだ。信じろ!
かぁ――っ妾もな――! 好きでやっとるわけじゃないが、これもファルカウの平和の為じゃからのー! 仮に手が滑ってそこらに炎が飛んでいっても戦闘中の事故じゃしな――! お主が妾の攻撃を避けたりしたら後ろに炎が飛んでいくかもしれぬが仕方がないことじゃしな――!
「何を考えているのか想像が付くぞ! その前に――殺す!」
「かーっ! 妾、まだ何もやってないのに冤罪とは酷いのじゃ、かー――っ!!」
「アカツキさん!? アカツキさん!? 援護するとは言いましたけど――やりすぎないようにお願いしますよ!? ちょっとアカツキさ……あー!! 全く手加減する気がない――!!」
直後。アカツキが業火の炎をためらいなく連打。
さすれば彼女を支援せんと動いていたマリナは些か以上に困惑するものである――あれ。どっちが悪役でしたっけ、っと。だがクェイスがアカツキを殺害せしめんと魔力を投じれば、流石にやらせる訳にはいかないと治癒の術を張り巡らせ。
「させませんよ……! アカツキちゃんを取らないでください!」
同時に。アカツキを素早く庇うように動くのは、リンディスであった。
友達は、大切な友達は守り抜きます。
……クェイスさん、あなたにとってのファルカウもそうなのでしょう。
「だから……もう分かり合えないのだとしたら。
どれだけ大切だったか、せめて教えてください」
貴方の想いを記録して、この先も一緒に育てていきます。
――新しい芽と、想いは繋ぎ育てる為に。
「いいだろう――そこの愚図以下のゴミカスを今すぐ僕の足元に放り投げれば教えてやってもいいぞ」
「だからなー! 妾もなー! 好きでやっとるわけじゃないんじゃよ、かーっ!」
「アカツキさん、もうちょっと黙っときましょう? ね?
私の船を燃やさない様に、今この場である程度欲望の儘に行動するのは許しますから!」
だが。クェイスはどうしてもアカツキは許せなかったらしく――殺意と共に返答を成すものだ。まずい、とマリナが思えば未だ業火を放るアカツキを援護する形で大波を発生させ、クェイスに抗さんとし。
「クェイス様――そうは、いきません」
直後。その反撃に助力の一手を紡いだのは。
「ニルは、もう眠りません。ニルは、もうかなしいのはいやですから」
ニルだ。紡ぐ言のソレは……決意。
クェイス様とだって、一緒に笑えたらよかったのに。
一緒にご飯を食べられたらよかったのに。
みんなみんな、笑っていられたら、一番いいのに。
そうしたらきっと――レンブランサ様も――
「……ッ。ニルたちが森に来たことで変わってしまったとレンブランサ様は言いました」
「だろうな。外界の者達が訪れ始めたのが全ての原因。全ての悪だ」
「もし例えそうだとしても」
ニルはまもりたい。穏やかなこの場所を。
――だからニルは全霊をもってして相対するのだ。
クェイスの周囲にいる夢魔も巻き込んで、終焉の帳を指し示さん――
さすれば、倒れない。
誰も彼もが。傷つき、血を流す者がいようとも。
それでも歩みを止める事はなく――前へと皆が進み続ける。
「おのれ――愚図共が! 気持ちが悪いのだ、近付いてくるな!」
「そうはいかないね。ちょっとした縁だけどクェイス、君に会いに来たよ!」
瞬間。戦場を瞬く砲撃の如き奔流を放ったのはムスティスラーフ。
夢魔を主軸として狙い、全てを吹き飛ばしていく――
「君は腐れ縁だと言いそうだけどもこういったちょっとした縁の積み重ねが大事だと思うんだ。君の周り変なやつでいっぱいだし……だから払ってあげるよ! 出血大サービスさ! お礼は後でいいよ――!」
「ぐっ、貴様――!」
「クェイス……もう、疲れたでしょう。今、楽にして差し上げます」
そして再び即座に動くものだ。護るために攻撃を。護るために倒すのだと。
自身を庇わんとしてくれる嘆き達に感謝と、しかし不要を告げながら。
願う。この戦いの勝利を。
更にはハインも続くものだ。事ここに至るまで見てきた彼の心には『拒絶』の色しかない。
……フォルカウに近づく者を滅ぼす。それ以外には微塵の興味も関心も無く。
フォルカウの存在によってのみ世界と繋がりを保つ、半ば死人のような存在。
こんな悲しい事があろうか――それぐらいならば、滅ぼす。
故にハインは紡ぐ。己が全霊を。数多の攻撃を紡がれ隙が出始めているクェイスへと。
「――行きましょうアイラさん。この機を逃す訳にはいきません」
「ええ、アッシュちゃん! アッシュちゃんの事は――ボクが必ず守ってみせますよ!」
「ふふ。今日此の時は。アイラさんを守るのはわたしです」
さすれば続く形でアッシュとアイラが踏み込む。
狙うはクェイス。アッシュが先んじて、アイラが治癒の援護を念入りに。
――可愛いアッシュちゃんをしっかりお家に帰さなくては、ボク、怒られてしまいますもの!
「クェイス。森の守護者――もうその面影もありませんか」
そしてアッシュは呟く。彼の行動を……独り善がりの暴走と断じるべきか。
其れとも、貴方もまた歪められたものなのか。
どちらにせよ。もう、貴方は此の森を害し、滅ぼす側へと堕してしまったのです。
「馬鹿を言うな。僕こそが森を守る者だ。お前達こそが侵略者だと――気づけ!」
「アッシュちゃん!」
「大丈夫です、アイラさん」
さすればクェイスが撃を放ってくる。
恐ろしい程の量の杭は、人体など容易く突き破るだろうか。
……しかしそんなもの自体は怖くないのだ。
アッシュにとってはアイラが。アイラにとってはアッシュが。
傷つく事だけが……怖いのだから。
「大丈夫。行けます――ボクが傍に付いてますから」
故にアイラはその背を護る。自らに万全の加護を齎し、治癒の鳥を飛ばしながら。
さすればアッシュもまた畏れぬ。むしろより一歩踏み込む様に、前に出て。
苛烈なまでの熱と光を纏って振るわれる剣を――クェイスに一閃した。
「ぬ、ぐ、ぉぉぉ……!!」
「――よう。色男。随分苦しそうじゃねぇか。
忙しい所悪いんだけどよ。てめえ個人に恨みなんざねえがなあ……」
――てめえをブン殴る理由が一つだけあるのよ、と紡ぐのはグドルフだ。
ただ――俺がクソ嫌いなヤツとやってることが一緒ってだけだ。
何度殺しても、殺しても、殺したりねェくらいの──
「なんだお前は。知らんぞお前の様な愚図は!」
「だろうな。だろうさ。お前達はいつだってそうだろうし、それでいいんだよ!」
だからグドルフは往く。膂力の全てを、此処に乗せて。
「往生際の悪ィカス野郎が──いつまでも居座ってんじゃねえぞッ!」
穿つは果たしてクェイスか。それともその魂にいつまでも蔓延る真なる『愚図』か。
いずれにせよ激しい衝撃がクェイスを襲い、更には。
「守護者ってのはな、『ひとりでできる』んじゃねぇんだよ。
『ひとりでできる』守護者ってのは、ただの支配者だぜ?
その違いも分からねぇ程に――狂っちまったのか?」
カイトも往く。禍根撒き散らし過ぎな『あの奴』に舌打ち一つ紡ぎながら。
同時に放つは凍れる雨だ。
クェイスの魔力を食い破り現世に出現戦としている新たな魔ごと撃ち抜いて。
「僕が支配者だと……? 何をぬかすか! 僕は、僕こそが――」
「自分『こそが』ってのはもう駄目だろ。
問題なのは『自分しか守護者足り得ない』っていう思い上がりだよ。
――そういう奴ほど、肝心な物の『見方』を忘れて失敗する」
傲慢と矜持は似て非なるモンだ。
お前の在り方は守護でも何でも無く――支配者のソレだよ。
……もうお前は守護者でもなんでもねぇんだと、更なる一撃をカイトは紡ぎあげて。
「やれ、手足振り回して愚図って幼児みたいだこと。
その泣きべそ面で大樹のためとかよく言えたねぇ――はいはいお利口さん」
「傲慢に溺れ、怠惰に落ちたか。どんな風に生まれようと、意思を持ち思考ができる生き物ってのは、最終的には感情で狂っちまうのかねぇ。全く感情ってやつは昔も今も厄介極まりねぇよなぁ――」
更には武器商人やファニーも続くものだ。
広き視点を抱きて周囲の状況を見据えながら武器商人は往く――大事な情報。例えば敵の襲来を感じ取ればソレは念話を用いて無言で連携を取り。そうしてクェイスの包囲網を縮めて彼へと言を紡ぐものだ。
「嗚呼、嗚呼、だからこそ物語ってのは美しく、映えるものなんだけどな」
武器商人はクェイスの撃に対して味方を庇い。
ファニーは業火の炎にて焼き尽くさんとする――あぁ時には木々に放ってしまおうか。
「き、貴様……! 大樹を狙うとは不敬者があああ!」
「ハハ。守りたいものがあるってのは心の芯になるが、それがゆえに変質してしまうとは――コッケイだよなぁ! ホネだけに!」
滑稽な物語だ。そして物語には、エンドマークが必要だ。だけどその前に。
「如何にして君は……悪夢に踊らされるようになったのか……
何が君の心を惑わしたのか……沢山聴きたいことがある」
ヨタカ走りたい。君の心の底は――何処に在るのかと。
不純物が混じっていない、君の起源はどこに……
「ああ――僕も気になるな。どうしても」
然らば京司もヨタカと想いを共にするものだ。
……どうしてだろうか。手前が『被る』からだろうか?
まあいい――どうしても喚き散らして止まらないというのなら。
「ちいとばかし――拳で語ろうぜ!」
「頭が高いぞ外界の愚図にしか過ぎないシロアリの分際でええええ!!」
往く。京司は決意をもってして、クェイスの下へと。
武器商人が撃を阻み。ヨタカが治癒の術を飛ばし。
権能により出現する魔はカイトやファニー、グドルフが砕き。
ああ。少しは話を聞けよ――クェイス。
「クェイス! 君の心は疲れてるんだ……汚れてるんだよ!
分からない? 君の心に巣食ってる存在がいる限り――君は君じゃないんだ!」
祝音も怨霊の魔力を収束させ、放ちながら言を紡ぎ続けるものだ。
殺すしかないなら仕方ない。仕方ないけれど、もしも可能ならと――願いながら。
「前を見るんだ! 光を見るんだ!
後ろばっかり向いて、過去が良かったなんて……暗い事ばかり見ちゃ駄目だよ、みゃー!」
然らば、なんとなし。
『――ンッふっふ。成程成程ぉ? イレギュラーズ如きが調子に乗ってくれますなぁ』
近付いた者にも見えるものだ――妖しき影が。
それは錯覚だ。それはもう死んだ者だ。それは幻影だ。
だけれども……
「出たわね。ザントマン……!」
アルテミアは即座に気付いた。巫女姫を――エルメリアを焚き付けた、肉腫!
たとえ残滓だとしても奥歯を噛みしめるかのような感情が渦巻き、しかし。
彼女は冷静に、親友たるシフォリィと共に此処にある。
「……やりたい事があるんです。手伝ってください。アルテミア」
「ええ――勿論よ、シフォリィ」
例え、何があったとしても一緒だと。
握りしめた手は温かく、暖かく……
――そして往く。
全てを救うために。クェイスの抵抗たる魔力が振るわれようと、剣撃にて薙ぎ払い。
そして――願うのだ。
奇跡を。
『まさか』
例え。奇跡を願ってでも。
救い揚げて見せる。本来、純真に森を守らんとするクェイスの、魂を……
その為にお前は邪魔なのだ――ザントマン!
『気でも狂ってるですぞ? この男の魂は変質している。
魔種でなくとも狂気に染まった魂がそう簡単に元に戻るとでも?』
「それを決めるのは、そっちじゃないのよ!」
同時。共に奇跡を願うのはセチアだ。
彼女もまたクェイスに会いに来た。彼を救わんとする為に……
『とっくの昔に狂ってた』? 『もう殺すしか無い』?
――生きているのなら可能性はあるでしょう!?
彼の魔力により蝕まれても構わぬとばかりにセチアは、クェイスを抱擁せんとし。
「クェイス、私ね。貴方と共に生きてみたいの!
生きて、笑ってる貴方が見たいの。だから――お願い!」
悪意の残滓になんか、負けないで。
……願う心は多かった。そしてその全てがザントマンを消し飛ばす事に注がれており。
『以前』はザントマンが抵抗する様に先んじて彼女らを眠らせたのだが――しかし。
「失せなさいザントマン」
シフォリィは告げる。
貴方の物語はもうこの深緑、いえ。
「この世界に必要ありません!」
二度目はなかった。シフォリィやセチアの強き願いが紡がれ、奇跡が顕現する。
狂気が消し飛ばされる。魂を蝕む、狂気が。
……それはクェイスがあくまでも魔種ではなかった事にも起因する。
魔種になるというのは存在が根底からして変じる訳だが、彼はその領域にまで落ちてはいなかった。だからこそ彼はファルカウから魔力を吸い上げる様な事も出来ていたわけだ――あくまでも、ファルカウの守護者と言う枠組みではあったから。
同時。カロンより与えられていた権能たる『悪意の橋渡し』も弾き飛ばされる。
それは主たるカロンの下へ戻るのであろう、が。
「トキ。今だよ――行ってきな。」
「あぁクェイス。気分はどうだ?」
そんなモノよりも、武器商人が示す通り――京司はクェイスの方へと駆けつけた。
なあクェイス。僕は手前を信じたい。
ファウカルの友であった偉大なるオルド種のクェイスを。
――月白風清、精神の穢れを祓い給え。
――激濁揚清、精神の淀みを流し給え。その総て我が引き受ける
……彼の祝福が紡がれる。それは病払いの一種。清め癒す神秘の結晶。
どうか帰ってきてくれと――願えばこそ。
「う、うぅぐ……こ、此処は……」
「――クェイス!」
クェイスは。正気を完全に取り戻すのであった――
セチアが思わず抱きしめる。が、しかし。
全てが元通り、となった訳ではない。
狂気はクェイスを蝕んでいた要素ではあったが、現在の彼を構成する大部分でもあった。カロンの権能も合わさり、彼の本質はほとんど怠惰側に寄っていたと言える――ソレが奇跡とは言え剥がれた今――彼の存在は気迫となっている。
尤も。人で言う所の『死』が近い状態……と言う程でもない。
ただ。彼が守護者として再び力を振るえるのは……はたしてどれ程先となる事か。
この身では果たしてどれ程の事が出来るか。
もしかすれば永き眠りが必要となるかもしれない――
「あぁ――無念だ。僕がもう、ファルカウを護る事が出来ないなんて」
「……どうかしら。この困難を乗り越えた者達の姿を、もう一度見てあげたら?」
然らば。アルテミアは言うものだ。
イレギュラーズや深緑の子らが――ファルカウを護る?
「馬鹿な」
永遠の概念を持たなくても、守れるというのか?
幻想種はまだしも、お前達人間は百年もすれば死んでしまうのが大半であろうに。
理解しがたい。ああこれだからお前達は……
瞬きにしか生きられないのに――僕より遥か遠くを眺めてる。
……マナセ。フィナリィ。お前達もそうだった。どうしてお前達人間は……
「……クェイス」
シフォリィは、想う。
皆、ファルカウを護るという思いは一緒だったんです。
マナセも。フィナリィも。そしてリュミエも。
誰も彼も――ずっとずっと願っている。
平穏を。この日常を、敬虔せしファルカウと共に、明日もと……
想いは途絶えない。必ず継承されていく。
例え世代が変わろうと。人の意思は、決して……
「あっ。ファルカウが……」
刹那。セチアが気付く。
風が吹いた。
ファルカウの木の葉を揺らす、緩やかな風が。そう……
静寂と停滞に包まれていた深緑に――新たなる明日がやってくるのだ。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
怠惰に蝕まれた守護者の魂は……強い意志と奇跡を願う声に応え、救われました。
はたして深緑如何なる未来が紡がれていく事か――
ありがとうございました。
GMコメント
遂に最終決戦――よろしくお願いします。
●依頼達成条件
クェイスの撃破
●フィールド
ファルカウ上層です。其処は本来であれば只人は入れない、神聖な場所でした。
しかし現在はカロン一派の勢力に制圧されています――奪還してください。
幸いにして周囲は非常に広い空間が広がっています。戦いに不足はないでしょう。
●『グレート・ワン』オルド種『クェイス』
太古の昔より存在した大樹ファルカウ。
その存在と共に在り続ける守護者――それがクェイスです。
彼はファルカウで戦う場合に限り非常に強力な能力を宿す個体です。
どうにもファルカウからバックアップを受けている様な節があります。ただそれがファルカウの意思なのか、それともなんらか強制的にクェイスが吸い上げているのかは不明です。その為、彼は非常に強力な『充填』能力を宿しています。
……しかし未だファルカウを護らんと、その力の多くは周囲に張り巡らせている防御の加護に集中しているようです。(いわば超強力な保護結界を彼はずっと張っています)
それでも彼は、とうの昔から呼び声の狂気に誘われており魂から変質しています。
――打倒が必要です。
なお彼は幻想種も異邦の者も全て忌み嫌っていますが、その中でも炎系の技能を使う連中は『必ず殺す』とする程の殺意を抱いている様です。
攻撃としては主に神秘系の魔法などを駆使します。
数多のBSをばらまいてきますが、その中でも『毒・足止・不吉』系列のBSは高確率で付与出来る傾向にあるようです。
また、カロンから以下の権能を勝手に押し付けられて持っている様です。
・『おまえやれにゃー』(『悪意の船渡し』)
周囲に滅びのアーク側のなんらかの存在を生み出し、勝手に(カロンの為になる様な)行動します。かつてはこの権能の効果で肉腫が生まれた……という推測もありますが不明です。「そんなの覚えてないにゃー」
この権能の効果により、クェイスの周囲ではなんらか魔物などが突如として顕現する事があります。またクェイスを撃破すると、この権能はカロンの下に戻ります……が。再使用にはカロンが沢山お昼寝しないといけないので、すぐには使えません。
●ザントマンの残滓
遥か昔。クェイスに接触したとある存在の意思――の残滓です。
クェイスの深層心理に根付いているモノで何らかの理由で『形を持っている呼び声』だと思って頂いて構いません。奴は常にクェイスに囁くように煽り倒しています。あくまでも精神的な存在であり、皆さんに攻撃をしてくる事はありません。
●大樹の嘆き(敵側)×30
クェイスにより操られている嘆き達です。
『レテートの巫女』クエル・チア・レテートの献身により解放された個体もいるのですが……しかし一部はクェイスが未だ強力な支配の下に操っています。彼らは嘆き、悲しむ様な声を発しながら皆さんを攻撃する事でしょう……やむを得ません。一刻も早く撃破し――解放してあげてください。
●夢魔×30
近距離物理攻撃を得意とし、スマッシュヒット時に稀にパンドラを直接減損させる効果を宿した、カロン配下の魔物共です。本来は夢の世界の住人なのですが、カロンの権能の効果か、現実世界に顕現しています。
数が多いので叩きのめしていきましょう。スマッシュヒット以上には注意を!
●??種
先述の『おまえやれにゃー』により生み出される個体達です。
それは魔物だったり怪王種だったり肉腫だったり夢魔だったりするかもしれません。
能力傾向はその時々で違うので不明です。強かったり弱かったりします。
クェイスの魔力を吸い取りながら生み出され、皆さんに襲い掛かってくる事でしょう。
●味方戦力
●大樹の嘆き(味方側)×15
『レテートの巫女』クエル・チア・レテートの献身により解放された嘆き達です。
彼らはイレギュラーズ達を味方と定め、共に戦います。
明確な意思の疎通は出来ませんが、なんとなく感情は分かるようです。
彼らはイレギュラーズを治癒したり庇ったりします。
●迷宮森林警備隊×30
故郷を奪還せんと闘志を漲らせている警備隊です。
弓矢を用いたり魔力を使うタイプが多いようですが、近接も出来ます。
嘆きや夢魔と基本的に戦います。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●決戦シナリオの注意
当シナリオは『決戦シナリオ』です。
<太陽と月の祝福>の決戦及びRAIDシナリオは他決戦・RAIDシナリオと同時に参加出来ません。(EXシナリオとは同時参加出来ます)
どれか一つの参加となりますのでご注意下さい。
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