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シナリオ詳細

<仏魔殿領域・常世穢国>ヨモツヘグイ

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 久遠なる森。
 行方不明者達が出ているという事態が起こっており。
 神使らが調査に出向いたのが少し前――そして。

「初めまして! 私は偲雪! 何代も何代も前に帝をしてたんだよ――よろしくね!」

 かの地の奥にいたのは――『かつての帝』を名乗る偲雪という人物であった。
 かき集めた情報によれば此処はそもそも、歴代の帝の『遺骨』が収められる『皇陵』と呼ばれる地であるらしい。墓荒らしなどの被害を恐れ、一部の者達以外には存在が秘匿されていたのだとか……
 その奥にいた『かつての帝』の偲雪。
 彼女は外より訪れた神使達と話し合いの場を設けたいという……
 しかし。

 彼女の滲ませる笑顔には、とてつもなき不穏さが感じられていた。

 いや、そもそも以前の問題として……何故、既に死亡した筈の人物が眼前にいるのか?
 彼女は本物か? 偽物か? どちらであろうと行方不明事件の主犯なのか?
 ――その場は一端退いた。
 数多の疑問を整理する必要もあり、不確かな大地に足を踏み入れるのを避けたのだ。偲雪もまたこちらを追おうとはしなければ――誰一人と欠け落ちる事無く帰還の途には着けるもの。
 そして。
「むぅ『偲雪』や『干戈』の名を持つ者がいるとは……
 確かにかつてそういった帝達はいたが、これは……」
 玄武(p3n000194)は一連の報告を耳にし、眉を顰めた。
 ――死者が蘇る事はあり得ない。それだけはこの世界の絶対たる法則だ。
 ならば『実は生きていた』か、もしくは『妖の類へと変じている』かのどちらかであろう――
「これは、更なる調査が必要であろうな。神使よ――頼めるか? 我も些か出来る限りで動いてはみるが……守護すべき領域以上には動けぬでな」
 故に。危険は承知な上で更なる依頼が提示された。
 ――偲雪の座す街へと踏み込んでほしいと。
 目標は、とにかく情報を集める事だ。聞いた所によれば、街には住民も普通に住んでいる様子だったという事……いや、その街の住民たちが『普通』かは知れぬ。見据えた様子によれば『心の底から笑顔を浮かべているかのよう』であったと聞くが……
 しかし。どこかにはいる筈なのだ。
 久遠なる森で行方不明になった者達が――街のどこかに。
 それらの調査はいずれにせよ続行せねばならぬ。身内が突如行方不明になり、その帰還を心待ちにしている民がいるのだから……
 故に。

「あ、来てくれたんだね! 嬉しいなぁ、待ってたよ!」

 再度。久遠なる森の奥へと――足を踏み入れるものだ。
 久遠なる森に道と言うべき道はない。しかしラダ・ジグリ(p3p000271)やジルーシャ・グレイ(p3p002246)、鬼桜 雪之丞(p3p002312)に猪市 きゐこ(p3p010262)達が中心となって作り上げた地図があらば最短距離で街へとは到達できるものだ。
 尤も、森の全てを解明出来た訳ではなく周辺の地理には未だ不明な所もあるのだが……ともあれ。
「あのね、あのねお話したいな! 今、外はどうなってるの? 瑞は元気?
 今ってどういう帝の人がいるの? 中務の皆は元気?
 ――あっ! 立ち話もなんだよね! 皆であっちでお菓子でも食べようか!」
 偲雪と接触自体は、街に辿り着けば簡単であった。
 なにせ向こうから歓迎してくれるのだ――高天京にも似た街にて、彼女は神使を待っていた。
 待っていた。そう、待っていたのだ。
 とってもとってもお話したかったから。
 私が知らないことを。貴方達が知らないことを。知ってほしい事を。

「いっぱいいっぱいお話しようね!
 ほら! お茶もお菓子もあるんだよ――食べる?」

 彼女が差し出した食べ物は――とても美味しそうに輝いて見えた。

GMコメント

 久遠なる森は黄泉の国に繋がっているという伝説(噂)がある地です。
 怖いですね。

●目標
 行方不明事件の情報収集。
 ここで何が起こっているのか? 偲雪は何を考えているのか――調査が依頼となります。

●フィールド
 本シナリオでは幾つか調査できるフィールドがあります。

【1:久遠なる森】
 久遠なる森と呼ばれる、豊穣に存在する深い森です。
 妖などが出現したりもしますので、ある程度の危険性はあるかもしれません。
 森全体には不気味な雰囲気が漂っていますが、この雰囲気が一体如何なる理由によって感じられているのか、現状では不明です……

【2:街中】
 常世穢国という街です。その街はなんとなく高天京に似ていますが……?

 本来は『皇陵』と呼ばれる『歴代の帝の遺骨』が納められる地でした。しかしどういう訳か調査の結果『街』が存在している事が判明しています……建物どころか住民もいるようです。皆さんはこの街を自由に歩き回る事が可能です。
 高天京に在る様な施設が並んでいます。
 八百屋、傘屋、鍛冶屋、などなど……一見すると普通の街にしか見えないです。

【3:偲雪のいる城】
 高天御所となんとなく雰囲気が似ている場所です。
 ここには【偲雪】がいます。
 偲雪に案内されると、天守閣近くで歓待を受けます。
 沢山の食べ物やお菓子が並んでいます。美味しそうです。

●『偲雪』
 かつて『正眼帝』とも称された古き帝です。
 鬼とヤオヨロズの融和を目指し活動しようとして――暗殺されたとされています。
 その為、故人の筈ですが……?

 神使達を歓迎する姿勢を見せています。
 彼女と話す場には食物やお菓子なども沢山並んでいます。食べてもいいかもですね。
 ただし彼女と話す事によって『何』が起こるかは未知数です……

●ディリヒ・フォン・ゲルストラー
 かつて『干戈帝』とも称された古き帝です。
 非常に高い戦闘技能を持ちますが、同時に非常に好戦的な人物でもあります。
 また自らをこの街の『守人』と名乗っています。

 しかし街の中には(今の所)姿は見られません。
 森の方面になにがしかの用事で出ているのかもしれません……

●緑髪の老人
 干戈帝と比べれば大分温和な老人です。
 しかし突如人の背後に現れたりする事が可能など妖しげです……
 また自らをこの街の『守人』と名乗っています。

 恐らく街の方面にいると思われます。

●街の住人×無数
 常世穢国の街中には住民が存在しています。
 皆ニコニコとしています。幸せそうですね。
 住民に話しかけると親切な返事を返してきたりします。会話は可能な様です。

 彼らからも会話などを経て情報収集が可能――かもしれません。

●関係者
 常世穢国周辺には多くの関係者が存在しています。
 彼らは皆さんの味方かもしれませんし、敵かもしれません……
 状況に応じて彼らにも動きがあります。

●行方不明者達
 現状、どこにいるかは不明です。偲雪によれば(街の住民を指差して)「皆、生きてるよ! 死んじゃったりとかしてる訳じゃないから!」――との事で、街の住民になっている者もいる様です……?

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <仏魔殿領域・常世穢国>ヨモツヘグイ完了
  • GM名茶零四
  • 種別ラリー
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月25日 23時30分
  • 章数1章
  • 総採用数87人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
煌・彩嘉(p3p010396)
Neugier

 常世穢国。その街中を往く一人は鬼灯だ。
「帝さんのところとそっくりねぇ」
「そうだね、だがここは元々墓の筈だ――
 このように立派な建物があるのは不自然極まるばかりだよ」
 何故街がある――? 疑問を抱きながら、己が手に抱く章姫と共に周囲を窺っている。
 見据えた景色を手元の紙に精密なる模写をすれば、浮かび上がるのは慣れ親しんだ高天京……に、やはり似ている。『本来実在しない』であろう街が、しかし何故似ているのか。
「……或いは此処が真に墓地なら、遺品置き場でもあるだろうか」
 調べねばならぬ。
 建物の陰に隠れながら少しずつ、少しずつ各地の光景をその目に捉え続け。
 同時に探すのは――手がかりもだ。
 此処が死を治める墓地であるならば。
 きっとどこかに『ソレ』がある筈だと目を張り巡らせる。
 しかし奇妙な事に――この街には墓地らしきモノすら見当たらぬ。
 どこか、別の場所に在るのだろうか? 例えばあの城の方など……

「こんにちは、神使のリュカシスと申します! 良いお天気ですね!
 あなたにとって偲雪様が今代の帝なのですか?
 どうでしょう、霞帝はご存知ですか?」
「んん? 霞の……なんだって? 帝は偲雪様じゃろう?」

 と、同時。その街に住まう住民へと声を掛けるのは――リュカシスだ。
 森の奥に帝のお墓があって、帝のお墓があったと思ったら、その奥に街があって昔の帝が治めている……? それって時間の流れがおかしいデス――!
 はたして此処は『何処』なのか。
 過去か、確かなる現在なのか――確かめる為にも情報が必要だと。
 故に、語り掛けてみれば誰も霞帝を知らぬ……いや。
「おお霞帝かぁ。知ってるぜ。なにせ俺は高天京から来たからな」
「おっと!? と言う事は貴方は外の人――なのデス!?」
「ああ。森で迷ったら偲雪様が導いてくれてな。それ以来此処に住んでるんだよ――」
 だが一部の住民には『知っている者』もいる様だ。
 外から来た……? 迷い込んだ……? もしかして、この人は行方不明の人――?
 そう思うが、そう語ってくれた男はただ只管に笑顔の儘で、此処に在った。
 ――外に出る事など一切考えていないかの様に。
「……此処の住民はどうやら二つぐらいいるみたいですかねぇ。
 一つは昔から此処にいたと言ってくる連中。
 一つは迷い込んだのを『導いてくれた』と言っている連中」
 その光景に言を零すのは彩嘉だ。
 彩嘉もまたリュカシスと同様に街人に話を聞いている――さすれば二種類の人間がいると気付くものだ。内にいた者と、最近外から来た者……と。しかしどちらも笑顔を浮かべている。此処にいるのは己の望みだという様に。
 そして。
「帝? 帝と言ったら――偲雪様だろ?」
「霞帝は勿論知ってるぜ――でもここでは偲雪様だろう?」
 二種の人間はそれぞれ異なる認識を抱いていながら。
 しかし何が問題とも、思ってすらいない。
 ――奇妙な光景だ。まるで誰も彼もの認識が都合よく捻じ曲げられている様な……
「……都合の悪い所は『どうでもいい』として思考から斬り捨てさせている?」
 であれば彩嘉は思考する。
 この街が一体どうやって成り立っているのか。
 この街は一体『何を』至上として――成立させているのかを。
「ふむ、なんでも此処は『歴代の帝の遺骨』が納められる地だったそうだが……
 こうしてみると、普通に人も生活している様だな。墓地とは全く思えん。
 ……どれ、夏子。そこに通りがかる女性達にでも話を聞いてみるか」
「へ? ほ? ベネディーナンパするんスか? ま、そういう事ならお任せあれへぇ~いソコゆく麗しのご婦人方~! ご一緒に甘味でお茶でもしばかない? 今ならなんと僕と一緒にあのオーラからイケてる人が付いてきます」
「あんら、外のお人なん? まっ! 言葉がお上手なんだから~!」
 直後。
 狼だけどね――と、ベネディクトを指差しながら街の女性へと語り掛けるのは夏子だ。
 とにもかくにも住民がいるならば話を聞いてみるのが先決だと。本丸攻める前にまずは周囲から埋めるのが定石……そう考えたのだ、が。しかし、幾人かの者に声を掛けても此方を知っている者がいないとは。
 豊穣の地におけるベネディクトの名声は非常に高い筈だが……彼の事を誰も知らぬ?
 勿論、豊穣の全住民が現在の神使を把握しているとは限らぬが、しかし。
「この街に来てあなた方はどれくらいになるのです?」
「この街に来て……? 不思議な事を言うお人やねぇ。この街は『此処』にずっとあるやろ?」
「……では、生まれもまた同様に?」
「んん? さぁ……どうやったかなぁ。まぁそんな些細な事はええやろ?
 私達はずーとずーっと此処にいて、特に不自由もなんもしとらへんしなぁ」
 同時に、彼女らの受け答えにも幾つか『妙』な点があると思うものだ。
 過去や起源を探ろうとすれば、まるではぐらかす様な笑顔を零してくるのだ。
 ここ最近の話、例えば雨が降ったか、昨日は何を食べたか……などであれば正常な受け答えを返してくれるが、しかしそれ以前の以前を問おうとすれば『そう』なって。
「成程ね。どうやらお互いの事をもっとじっくり知る必要があると思うな……
 良かったらこの後どうかな? 二人で夜を通して理解を深めないかい?」
「あらあらお兄さん……そんな風に誘ったりなんかしたら――帰さないわよ?」
 だから、という訳でもないが。夏子は眼前に座し、美しき年頃の女へと声を掛ける。
 仕事でもあるし仕事でなくてもこれこそが彼の矜持であればこそ、と。
 さすれば――女の方も言うものだ。
 この後家に付き合うかと。
 甘く、蕩けそうな饅頭を一つ夏子達へと差し出しながら……

成否

成功


第1章 第2節

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
シャーラッシュ=ホー(p3p009832)
納骨堂の神
グルック・ストラーハ(p3p010439)
復興青空教室

 ラダの視界には数多の商品が並んでいた――
 瑞々しい果物。櫛や傘など日用品もそれぞれに。
 ……本物に見えるがしかし、真に本物ならばこれは一体。
「店主、これは一体どこのものだい? 良い代物だとお見受けするが」
「おぉ、お目が高い! そいつはこの辺りの名物さね! 城の職人が作ってるのよ!
 緑髪のお人でねぇ。時々街の方にも降りてらっしゃるんだが……」
「……ほう。城の職人」
 どこから流れてくるものなのかと、話を聞けば果物などの類は近くで獲れる――という事らしいが。それ以外の、形ある品の多くは偲雪の座す城の方に職人とやらがいるらしい――それは『緑髪の老人』が流しているのだとか。
 手に持って触ってみれば……確かな感触がある。偽物ではなさそうだ、が。
「どうだい折角なら菓子も食っていくかい!」
「ああ。これは旨そうだな――うん。後で頂くとするよ」
 同時、あまり長居しない方がよさそうだとラダは次の地へと常に移動するものだ。
 試食の類は何やら妖しい。工芸品を幾つか購入するに留めておいて、次へと往こう……ああそれと、視線も周囲に張り巡らせる。行方不明者が紛れていないかと。もしかすればこの街に溶け込まされているのではないかと――思考しながら。
「……なるほど、少なくともここは『生きている街』のようだ。
 見た目の上では、な。ただ貨幣がどこへと流れて消えているかはしらないが……」
 同時。ラダと同様に飲食物などを取り扱う店を調べているのはモカだ。
 全てが内内で完結しているのだけが気になるが、少なくとも街人はそのことに違和を感じてはいないらしい。いや、或いは……違和など『流す』様に操作されているのかもしれないが……
「う~ん……不思議な所だよなぁ。帝専用のお墓的な所の筈が、何故か街があって住人もいて……?? ウェーイ。どういうことなのかさっぱり訳が分からないじゃん」
 そしてその街中を更に戸惑いつつもグルックも進むものだ――
 亜竜の里とは全く事なる街の様子。視線を巡らせ観察し、見て回る心中には好奇心もある。
 やっぱ豊穣スタイル直に見たいじゃん――! あ、違うよ? 調査もするって!
「ふんふん……なんか新しい着物を身に着けてるヤツもいるけど。
 ちょいちょい古ーいタイプの着物を着てる様なヤツもいるじゃん……?」
 模様とか造りなどを観察するものだ。
 今この場で見た限りでは詳細までは分からないが……しかし、グルックは気付く。二種類の人間がいると――多くの者は古い着物であるが、一部の者は比較的新しい者もいる。ああ、そういえば、付近の森で最近行方不明者が出ているのだとか?
 新しいのはそいつらから奪ったのか、それとも――その者達もこの街にとりこまれたか。
「死人の言葉を鵜呑みにするな、ってねぇ……」
 さて。誰ぞに話を聞いてみるべきか。
 誰の言葉を信じ、誰の言葉を呑まぬべきか――思案を続けて。
「住人の方々が皆笑顔なのは大変素晴らしいことですが。
 しかし――匂いますねぇ。この街は何やら生者らしからぬ匂いがします」
 同時、ホーもまた感じるものだ。
 魂の嗅覚に、妙な気配が。
 この街は――正しき感覚に包まれていない。どことなく感じる、この匂いは……
「失礼、この場所に歴代帝の皇陵があると聞いて参拝に訪れたのですが。
 私、道を間違えてしまったのでしょうか? 大変申し訳ありません。方向音痴なもので。
 道をご教示願えればと思うのですが……」
「んっ? 墓? 何言ってんだいアンタ、この街にはお墓なんてねぇよハハハ!
 偲雪様が亡くなられたなら、そういうのも出来るかもしれねぇが」
「……おや、そうでしたか。それは失敬」
 そして、ホーは語り掛けるものだ。
 街の者へ。情報を得んとする為に――
 さすれば、ホーに与えられし祝福の権能にて『分かる』事もあるものだ。
 眼前、話している者の中には……
 生きている者もいる。
 しかし『生きていない』者もいる。
 そして、それらはどちらとも須らく――笑顔に溢れている。
 違和。されど、街の者側は何も感じていないようであった。
 この街は普通の街だよ。偲雪様がいらっしゃるだけさと――ただそうとだけ、誰もが応えてくれば。
「うう……もーイヤよ……ここって見かけは街だけど、実際はお墓なんでしょう……?
 と言う事は、そうよね、つまりここの人達は……!」
 ゾンビがうようよしている街って事よね?? ヤダ――!!
 思わずもう叫び声をあげてしまいそうになっているのはジルーシャだ。常に半泣き、瞳に涙を浮かべて足も震えて小鹿の様に。ラダなどが見ている工芸品……例えば簪だなんて普段なら『キャーッ、この簪素敵だわー♪』なんて華やぐのに!!
 それ所ではない――ッ! もう帰りたい。どーしても帰りたい。
 でも進む。なんとかちょっとでも進んで情報を集めるのだと……!!
 ――が。その情報集めも上手くいくとは限らぬものであった。
 なぜならば精霊達に声を掛けても、彼らはあまり応えてくれぬのだ。
 いや、それどころか……精霊たちも街人と同様に『笑顔』の含み笑いを見せるばかりで。
「えっ、えっ? なになになに? ヒッ、もしかして精霊達もそういう……!?」
 向こうから危害を加えてくる様子は見られないが。
 思案を重ねる度にジルーシャの心の平穏は――いつ崩れぬとも知れなかった。

「ヘ〜面白そうじゃん! 怪しさ満点のヤバそうな場所。
 フツーの街に見えるのが尚更雰囲気を醸し出すってやつだよなぁ~!」

 更に渦中の街中をStars――いや。虚は往くものだ。
 最早見るからに妖しさしかないこの街を。
 陽気な声を零しながらもしかし、警戒は怠らずに……住民へと声を掛け情報収集。
「なぁなぁなぁいつからここに住んでるの? 生まれた時からずっと?」
「はは、なんだアンタ外の奴か?
 まぁ俺っちも元々外にいたんだぜ! ただ最近な、森に迷い込んじまってな……
 だけどよ偲雪様が導いてくれたんだよ――この街にな」
「へ~外から来たって事はさ、外の家族はどうしたん?」
「家族? さぁ元気にやってんじゃねぇかなぁ……あいつらもこっちに来ればいいのにな」
 おっとっとぉ。いきなりヤバイ感じのにぶち当たったなぁ――
 さりげなく。建物に手を触れながら彼は力を行使する。
 それは彼に宿りし権能――対象の辿ってきた歴史を解明する戯曲生成の一端。

 さすれば。読み取れしは悲哀、渇望、平穏の色とりどり――

「なんだこりゃあ……? 『これ』は一体だれの感情なんだろな?」
 この街を作った『主』の感情が混ざっているのかと。
 ふと視線を城の方に――見据えるものだ。

成否

成功


第1章 第3節

 街を巡りて、いくつかの事が分かりつつある。
 この街には二種類の人間が存在しているという事――
 死を見据える力を宿すホーは、生者と死者がこの街に介在している事に気付きつつあったのだ。比率としては死者の割合の方が圧倒的に多いようだが――しかし街人の中にも生者がいて。
 そしてその生者の服装は比較的『新しい服』を着ていると見たのがグルックだ。
 もしや彼らこそが、件の行方不明者なのだろうか――?
 虚が話しかけてみれば『外から来ている』と、存外簡単に応えるものだが。
「でもそれに違和感を感じてねーんだよな――やっぱなんかヤベーよなこの街」
「むぅ。どうすべきなんでしょう。これは無理やりにでも連れ出すのがいいんでしょうか」
 同時。街の者達に積極的に声を掛けているリュカシスも悩んでいるものであった。
 幸か不幸かは知らぬが、生者も死者にも普通に言を掛ける事は出来る。
 そして彼らは――どちらも『今の所』こちらに敵対する様な素振りはみせていない。
 それ所か笑顔と共に友好的な受け答えをしてくる程だ。
 ……が。もしも強引な手法を取らんとすればどのような結果が生まれる事か。
 街全体に漂う異質な雰囲気――と、その時。

「――暴力は止めておきたまえよ。さすれば何が起こるか保証は出来んぞ」

 背後。全く気配が無かったその場所に――緑髪の老人が唐突に現れた。
 ジルーシャの恐怖の感覚が撫ぜられる。上限突破し過ぎて逆に悲鳴をあげなかった程に。
 心の臓の鼓動が外に聞こえる程に高鳴りて、しかし。
「ね、ねえ、それなら教えて頂戴。ここの人達を連れて帰るには、どうすればいいの?」
 舌が渇きそうな感情を得ながらも、語りかけるものだ。
 引きつり気味の笑顔と共に、老人へと――
「――無理だな。今の彼らにとっては此処こそが帰る地。
 偲雪の意に賛同する……彼女の『子』となった者達が彼らだ。
 『子』は『親』に付き従うもの――どうしてもというのであれば」
 一息。
「手を伸ばす親を退ける他あるまいな。
 尤も、斯様な事を望むのであれば……『子』も黙ってはおらなんだろうが」


第1章 第4節

ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護
一条 夢心地(p3p008344)
殿
マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)
涙を知る泥人形
猪市 きゐこ(p3p010262)
炎熱百計

 緑髪の老人が現れる――
 それに即座に反応した中にはムスティスラーフの姿もあった。
「やぁまた会ったね!
 こんな広い街中で会えるだなんて、星の導きでもあったのかな?
 僕はムスティスラーフ。君の名前――教えてくれるかな?」
 彼は常に周囲で、非戦の力の行使がないか網を張り巡らせていたのだ。
 その結果として『何か』を感知した。
 具体的な力は分からない。不可視から顕現したのか、移動の力を見せたのか……しかし――背後に回る特性を知っていた彼は、力の行使と背後に気配が生じたのを機敏に察知。さすれば件の老人だとはすぐにアタリがついて。
「ほう……名を名乗られて返さぬは不義理だな。
 ――いいだろう。私のこの国での名前は『雲上』という」
「この国? 本当の名前があるのかな?」
「ふっ……此岸の辺に飛ばされた時に際に捨てた名だ。気にすることはない」
「ふぅん……? 君もかつての帝なのかな? あの――偲雪って人みたいに」
 であればと、問う。
 君は誰なのかと。困った事はないかと。
 彼の事を知る為にも――言の葉を交わすのだ。
「困った事……? ふっ。強いて言うなら偲雪の近くをウロチョロとする鼠がいるのが気がかりではあるがな。しかし斯様な事は君達にとっては手伝える事ではあるまい――むしろ君達側の者もいるだろうしな」
 しかし。彼はやんわりと『大丈夫だ』と紡ぐものである。
 ……彼の言は偲雪の事に寄っている気がした。そこに彼の根底がある――? が、まぁ気になるのはもう一つ。
「でも不思議だよね。昔の人が生きてるだなんて、信じがたいよ」
 幻想種ならばまだしも、彼は違いそうだ。如何なる理屈か、力か……

「ははぁ、待て待て待てぇ~い。麿には分かっておるぞ!
 ぶっちゃけこれゴースト入ってるじゃろ。
 この街の連中ほとんどゴースト&ゴーストじゃろ。三途の川、渡っちゃってる~?」

 刹那。老人との会話の中へと踏み込んできたのは――夢心地であった。
「この通りの街人を色々見てきたがの。ほっっっとんど『違った』ぞよ?
 霊術師エキスパートたる麿の眼を欺けると思うてか! あ、何人かは生きとったけど。
 アレが件の行方不明者で、お主たちがなんか洗脳とかしちゃってるんじゃないのかの?」
「……その見た目からは想像も出来ぬ程に聡明だな、お前は」
 麿、称えられちった?
 ――夢心地は此処に至るまでに観察の眼を絶やさなかった。並んだ店を除いて人間たちの様子を観察して辿り着いた結論があったのである。あちらこちらにいるは三途の川を渡り掛けている者がほとんどだと……
 夢心地の推測はほぼ当たりだと言って差し支えなかったのである――
 しかし。理由もなく、そのような幽界に属す者が元気にうようよいてたまるか。
 目の前の老人もまた、同じ匂いを醸し出していると気づけば……
「――居たわね♪ 情報見る限り一番話せそうだし、何より服の色の趣味が良いわ♪」
 と、その時。雲上と名乗った老人の姿を捉えたのはきゐこだ。
 ムスティスラーフら夢心地と話している現場へと数多の力を振るう――
 それは物理的な暴力と言う意味ではない。
 霊を操作する術、魔法の眼、心を読まんとする術……
 それらをもってして老人の奥底を見極めんとしているのである。
「……っで。隠してる事を全部教えて欲しいのだけど?」
「……ほう。これはこれは、血気盛んなお嬢さんだ」
 だが、弾く。
 老人が腕を振るいて、まるで紡がんとした糸を断ち切る様に。
 ――効かない? 力ある者であれば操作術や魔眼が通じないことは想定出来たが。
 しかし、心を読む術は……まるで空虚を捉えた様な……
「無駄だ。ムスティスラーフの問いの答えにもなるが……
 私はとうの昔に死んだ身であり、魂だけの状態で彼女の力の下にあるに過ぎん。
 ――私は常に操作されている人形の様なモノだ。
 故に上から操作する事も、心を読むことも叶うまい……私は此処に『いない』のだから」
「なによソレ。そんな事が行われながら此処が本当に『理想郷』なの?
 ……まぁ出来れば良いわね? 私にはそれを作る『真っ当な』方法は浮かばないけど」
「理想郷は理想郷だよ。私も無理に従わされているのではない。
 己が意志によって彼女に仕えているのだからな」
 そして雲上は――きゐこに暴を返さんとはしなかった。
 彼の逆鱗は、彼自身に力を振るう事ではないのかもしれない……
 ならばと彼女は言を続ける。まだまだ気になる事はあるのだ――
 ――どうして私達をここに招いたのか。
 護るなら、道に迷わせる方が防衛的であるのが自然の筈。
「それは彼女――偲雪と話したまえ。私は彼女が望んだから、そのようにしただけの事だ」
 が。雲上はにこやかな顔を崩さぬままに、視線を城へと向けるものだ。
 件の人物……偲雪が座しているであろう、城の方へと。

「――死んだ人間は生き帰らない。ああそうだ。そうだろうよ」

 と、更にマッダラーも言の葉を重ねる。
 街の中にて音色響かせ。詩を届けながら重ねる思考は生死の境目。
 泥人形は食事不要。意志も、何かを楽しむ感情も。抱けぬからこそ泥人形。
 仮にここに居る彼らが死者だったとして、自分の意思と感情を持っているのなら。
 ――俺なんかよりもずっと人間だと思うよ。
「おっと、失礼。御老体。何か好きな詩でもあるかな――一曲お届けしてみせるが」
「ほう……では混沌の地の……なんでもよい。大陸側の詩をみせてはくれまいか」
「何か縁でも?」
「私は元々『向こう側』の者だからな」
 此岸の辺。その言の葉を紡いだ時に、予想は出来ていたが……
 彼は。バグ召喚によりこの地へと神隠しされた――かつての大陸側の人間だったという事か。そして。

「私は『常帝』。
 この美しき地を愛し、名を変え、帰属し。
 かつて平穏たらんとした世を築かんとした――つまらぬ帝が一角よ」

成否

成功


第1章 第5節

レッド(p3p000395)
赤々靴
ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)
生イカが好き
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
アルハ・オーグ・アルハット(p3p010355)
名高きアルハットの裔

 常世穢国城内――
 その上階にて神使達は偲雪と共に在る。
 笑顔の儘に。数多の食物が卓の上に並べられており……
「わー、豊穣のお菓子だ♪
 偲雪さま、とおっしゃったか? 本当に貰っていいのだな?
 それなら遠慮なくいただくぞ♡」
 そして――それらの内の一つを。
 ぱくり、と。口に含んだのはアルハである。
 蕩ける様な感触が彼女の舌の上で踊れば、上品なりし甘味の味わいもまた広がりて――
「わぁ食べて食べて! それねー私が作ったんだよ!」
「おー、帝っていったら確かスゲーえらい人なんだよな?
 ってことは偲雪はえれー人なのか! その上こんな菓子まで作れちまうのか!
 すげー奴なんだな! かんどーしちまうぜ!」
「えへへ。そんなに大した事じゃあないよぉ~私はなんかいつの間にか選ばれただけだしねぇ」
 同時。ワモンも喰らうものだ。
 羊羹や饅頭などの、いわゆる和菓子で構成された多くの菓子を……
 偲雪の手作りだというソレらを。

 うめー! 歓迎してくれたばかりか、おまけにこんなにいっぱいお菓子まで用意してくれるだなんて――すげーいいやつじゃねーか!

 思わず叫びそうになるワモン。同様にアルハも絶品の数々に上機嫌となれば。
「ふはは! 馳走になった! ――然らば聞いて驚け、わらわこそ――覇竜領域デザストルより来たりしドラゴニアにして偉大なるアルハットの裔、アルハ・オーグ・アルハット! 偲雪さまよ、よろしく頼む!!」
「??? どらごにあ? ねぇソレってなぁに?」
「あっ。そうか偲雪さまは昔の人なれば知らなんだか……
 では、お礼とお詫びに、わらわの棲まうフリアノンの話をしてしんぜよう♡」
「まちな! オイラだってそんなにくわしくはねーけど、知ってる事ならなんでもおしえるぜ!」
 ワモンとアルハは、もっと偲雪と話したいと……胸の奥底から湧き出る高揚感と共に、我先にと彼女へ言を紡がんとするものだ。元より偲雪に友好的に接するつもりであった二人だが、菓子を食べてからは――なんとなし、その傾向が更に強まった気がする。
「え、これ食べていいの? ほんといいの? じゃあたべる」
 そして更に口にするのはリュコスもだ。饅頭一つ摘み、口に含めば――おいしい!
 眼前にいる『偲雪』とは死んでいると聞いているが……でもにこにこしてるしやさしそうでわるい人には見えない。生きてた時の話からいい人そうだし――なによりおかしをくれるのはいい人……あっ。腹の虫が鳴ってしまった、もう一つ!
「偲雪……あ、えらい人だから様とかつけた方がいい?」
「ううん、好きに呼んでいいよ! えへへ私なんて大したことはないからね!」
「そうかなぁ――? でも良いなら偲雪って呼ぶね。あのね、あのね、カムイグラは今はね……」
 直後には偲雪との語らいも始まるものだ。
 豊穣の、もっともっと外から来た事。海を乗り越え豊穣内もあるき、外でも色んな所にいったり――多くの友達と遊んだりしている事も。その全てを偲雪は笑顔と共に受け入れるものだ。
 ――であれば、口も饒舌になりつつある。
 もっと彼女に言を聞いて欲しいと。もっともっと聞いてほしいと。
 胸に過る高揚感の正体ははたして――なんなのか。

「それじゃ僕もいただきまーすっす!
 お茶っす! お菓子っす! こういうのは大好きっす! んん~~甘いっす!!」

 モグモグ・グビグビ・モググビグビ――ぷっはー!!
 続けてレッドも偲雪からの菓子を勢いよく喉奥へと放り込むものである――過度の遠慮は逆に礼を失する。ならばとお茶も飲み込み彼女と接しようではないか……
「知ってるっすか? 豊穣の外は静寂の青って海があるっす、リヴァイアサンが少し前すんごい暴れてたんすけど、色々あって今はスヤスヤ寝てるっす」
「あっ。こっちから見て西にそういう海があるのは知ってたよ! 超えてきたんだね!」
「そっすよ! 最近だと練達とかいう国でジャヴァウォックとかいう大っきな竜種が出たっす! あれはヤバかったっす。下手すると国が滅んでたっすよ」
 竜種っすよ! 竜種! どんなのか知ってるっすか? 見たことあるっすか――?
 偲雪が興味深そうにレッドに何度も相槌を。
 さすれば、あぁ、なんだか気分が良くなってくるものである……お茶菓子もきゅもきゅ、お茶ズゾゾゾゾォ――! こら! もうちょっと静かに呑みなさい!
 だが偲雪は、レッドが斯様な音を立てて茶を飲んでもニコニコとした笑顔の儘だ。
 そんな姿すら愛おしいとする視線を向けているかのようで……
「あっ!! ところでお茶うけの果物ないっすか?
 出来るなら『天下無敵』の花言葉ある果物欲しいっす!」
「天下無敵……? あ、桃の事かな?
 ううん。外の御庭になら実ってた気がするけれど、今ここにはないね。ごめんね!」
 後で獲ってきてみる? レッドの言に、これもまた穏やかな口調で返せば。
 偲雪の優しき提案に場の盛り上がりは一層と高まるものであった――

 ある種、不自然なまでに。


 ※食物を口に含んだ人物は、何故か非常に気分が高揚している……かもしれません。
 ※また同時に偲雪の言が、心の内に浸み込む様に聞こえてくる様な気がします。
 ※(現段階では上記はまだ『かもしれない』程度です)

成否

成功


第1章 第6節

メイメイ・ルー(p3p004460)
約束の力
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼
囲 飛呂(p3p010030)
君のもとに
百合草 瑠々(p3p010340)
偲雪の守人
雨涵(p3p010371)
女子力(物理)

 場が盛り上がる――その一方で、食物を口にせぬ者もまた存在するものだ。
 その一人が飛呂であり。彼は食べ物をやんわりと断りながら……言の葉を紡いで。
「再現性東京……の話とかもどうだ? 旅人――いやこっちだと神人だっけ?
 その神人たちやうちの親父がいた世界を再現した場所なんだ」
「えぇ!? 今はそんな場所もあるの!!? すごいなぁ……」
「あぁ――色々と作り上げるのには努力もあったみたいだぜ。
 ……そういやここも随分『高天京』に似てるよな?
 もしかして偲雪さんがいた頃の再現とかなのか?」
「あっ。よく分かったね! うんうん。此処はね、私が生きてた時代頃を再現した高天京なんだよ! 細部までは覚えてないから違う所もあるかもしれないけど!」
 えへへ。と、笑いながらとんでもない事を偲雪がのたまっている。
 これほどの領域の再現を如何にして行っているのか。
 優れた術士であれば不可能ではないのかもしれないが……しかし、なんとも違和がある。
 彼女だけの力でこの領域が維持されているというのは――なんとも――

「なあ偲雪サマ。聞いた所によるとよ、確か死んだんだろ?
 それとも、そんな事は無かったか? ――まぁどっちでもいいや」

 と、その時。偲雪へと間髪入れずに話しかけるのは瑠々だ。
 死を迎えた者がまた現世に蘇るなど――あぁあぁ。
「馬鹿みたいにつええ竜が出た話とか興味あるか? 海向こうじゃ色々あったんだぜ――
 ああどうだ? アンタの時代にも竜の被害とかあったの?」
「うーん、こっちの国じゃあ竜の被害は、少なくとも私は知らないなぁ。
 流石に海は渡ってこれなかったのかもね!」
 楽し気に瑠々と語らう偲雪。
 竜が襲い掛かってきて大変だった話、撃退した話――目を輝かせて聞くものだ。
 それは外への渇望が故、か?
 出たいのか。それとも……
(……しかし、たしかヨモツヘグリの果実、だったか?)
 刹那。瑠々は並べられた果物の一つを手に取り。
 食すものだ。
 ……喰えば死者の国へ行くだったか?
(いいね)
 死ねるのなら、それでもいいと。
 死人たる筈の偲雪を前にしながら――彼女は思うものだ。
「わたし、雨涵。偲雪さま、初めまして。
 わたし、あなたに会えて嬉しい」
 更に続けて雨涵も言の葉を。
 彼女は亜竜種だ――今の豊穣の事も、偲雪の事もあまり知らない。
 だからこそ、教えてほしい。
「ここはどんな街? ここであなたは何をしているの?」
「えへへ。ここはね、皆が『笑顔』でいられる街だよ!」
「――笑顔?」
「うん! 誰も差別しないし、誰も憎しみ合ったりしないんだ!」
 外の世界では多くある。理不尽な差別が。誰かが傷つく環境が。
 だけど此処ならないのだと。『私』に賛同してくれた皆で――構成されているこの街は。
「……そう。なら、わたしもお話するね。竜の住まう、地の事を」
 一方で。雨涵はお礼代わりに話すものだ。
 過酷なる山脈地帯の話を。デザストルという混沌屈指の環境下を。
 ――豊穣の人達は色々な問題乗り越えて外の世界と繋がった。
 そしてその結果として今、覇竜の領域と豊穣の領域の縁が繋がったのだと……
 眼を輝かせる偲雪へと、紡ぐのだ。

(この方が、偲雪さま……瑞さまが語られていた、かつての、帝……)

 同時。様子を窺っていたメイメイは思考するもの。
 彼女が、偲雪。瑞神の語りし旧き帝……
 如何なる事情によって現世に在り続けているのか――疑問を口にする為にも、メイメイは往く。
「は、はじめまして、偲雪さま。メイメイ、と申します。
 あの、偲雪さまは、森の外に出たりはなさらないのでしょう、か?」
「森の外? ああ、私はね、出れないんだよ! だってもう昔に死んじゃってるから!」
「――ご自覚は、おあり、なんですね」
 うん、そうだよ!
 にっこりと。微笑みながら、自らの死を口にする――偲雪。
 しかし気になる事を言っていた……『出れない』?
「……やっぱり幽霊の類ではあるんだね。
 いや、もっと厳密には地縛霊と言った方が近いのかな……? 此処に縛られている」
 さすればЯ・E・Dの言が続くものだ。
 霊と意志を疎通させる術あらば、より明確に気付けるもの――
 彼女は正常なる者ではないと。
 亡者。霊魂。黄泉の住人……生命の鼓動が感じられぬ。
 幻想王国風に言うなら『アンデッド』の類と考えるのが簡単か?
 Я・E・Dの卓越なる交渉の弁舌さをもってして彼女と会話を続けて――
「……偲雪さんの事、正眼帝はずっと昔に死んだって聞いたよ。
 緑髪のお爺さんも幽体だったし。
 ここに住んでいる人たちは、基本的に皆、幽霊だって事で良いのかな?」
「うーん皆じゃないよ。緑髪……雲上も幽霊だけど。最近、此処に移り住んでくれた人もいるしね!」
「――ほう、それは。一体どのような者達が?」
 刹那。菓子を食べる――振りをして指先で弄び、服の陰に隠すは愛無だ。
 愛無は気付いていた。コレは只の菓子ではない――と。
 故にЯ・E・Dもであるが解析を試みんとすれば、力……或いは意志、か?
 何か、そういった類のモノが込められている。
 持ち出せば効力を失うかもしれないが――恐らく此処で口にすれば魂に影響があろう。世界に愛される――パンドラを持つ神使であれば被害は小さいかもしれないが、しかし只人であれば如何なる影響がある事か。隠し持った事を悟られぬ様に平常心を保ち、表情すら感情の色を表に出さぬ堅牢さを築けば。
「もしや昨今『行方不明』と騒がれている者達が『そう』なのかな……?
 そちらにはもしや言に長けた者か、人を導くに長けた者でもいるのか――」
「『行方不明』って言われてるかは分からないけれど、うん。私がね、直に話したんだよ! こんな風にね招待したりとか……あと森に入ってきた人は私が『分かる』から、そこで直接念話みたいなことをした事もあったかな!」
 笑顔のままに語る偲雪――だが。その内容には見逃せぬ内容が入っている。

 つまり。行方不明者達は偲雪との接触を経て『此処』に留まっているという事。

 ……そして彼女は森の事すら把握しうる視点か能力を有している事も。
 恐らく。この街と久遠なる森自体が――彼女の力の範疇下にあるのだ。
 尋常ならざる力である。直接ソレが万一の際の『戦』に使われるかは分からないが……
 しかし同時に、もうひとつ確信に至る要素もあった。
 なんらかの事情により動いている亡者の類にしては――力が大きすぎるのだ。
 彼女から感じ得る『圧』は、もしや。
「貴方は」
 神使であれば、知っている。これを知っている。
 世界を滅す因子を宿した怪物の象徴たる力を。

 ――彼女は、魔種だ。

成否

成功


第1章 第7節

 Я・E・Dは思案する。眼前の食物を口にするか、しないかを。
 愛無と同様にЯ・E・Dも分かっている――これは正常な代物ではない、と。
 では、食さぬか? 否。
「――それで、わたし達と話しておきたい事って何かなぁ?」
「……めえ。私も一口、頂きます、です」
 それでもあえて口に運んだ。
 例えばあの老人からは悪意を感じなかった。街の者からも、だ。
 ……であればすぐさまに敵対はしないと判断できる。ならば信用の為にもと――口にすれば、メイメイも一口。美味しそうな物はどうしても気になってしまう性分だし……なによりワモンたちが話していた際に述べていたが。
 偲雪の手作りだと先程言にしていれば、その味自体も気になってしまうものだから。
 ほぐれる味わい。甘き味わいが体に浸み込むようで……
「うん。皆にはね、出来れば協力してほしい事があるんだよね――
 私はね、もっともっと。外の皆とも、もっともっとお話ししたいんだ。
 だから知り合いの人とかいたらもっともっと連れてきてほしいなぁ」
「何の為に?」
 刹那。愛無が間髪入れずに言を挟むものだ。
 まだだ。探るべき事は山の様にある。
 もしも彼女が予測通り魔種だとすれば、最終的に待つのは戦いだ。
 ――その折を考えても敵の戦力や能力を把握しておきたいのであれば、と。
 なんとなし。偲雪からは戦に強い様な気配は感じない。
 代わりにこの領域そのものを支配する様な――多くの者に精神的干渉を及ぼす事に長けている様な気配は感じるものであり……と、その時。
「皆に。もっともっと理解してほしいんだ。私が平和を望んでいるって事を。
 『話せばきっと皆分かってくれる』から。
 昔はダメで、毒を盛られてね。殺されちゃったけど――『今』なら出来る気がするから」
 偲雪は語る。
 相も変わらずにこやかなる笑顔にて。
 自らの力の一端を。

「実はね! 私に賛同してくれる人がいればいる程、私の力はね。どんどん広くなるんだ――
 多分。その内この国全体を包んだりする事だってできちゃうよ!
 みーんなニコニコと過ごせるこんな街みたいな国が、きっといつか出来るんだ!!」


第1章 第8節

八重 慧(p3p008813)
歪角ノ夜叉

「――つまり、やっぱりこの地は『誰かの想い』で施されているのだ、という事っすか。お師匠さん」
「そういう事でさぁ。さんざっぱら巡って確信に至りやしたよ。
 ここは件の帝とやらの心の残滓が形作ってるんでしょうねぇ」
 同時刻。久遠なる森の方にて――慧は師匠たる栴檀と歩みを共にしていた。
 この地は偲雪の極大の願いによって形成されているのだと。
 『どのような願い』が肥大化しているのかは知らないが、間違いない。
 幻。その力を司る者として――栴檀は森を巡りて察知したのである。
 この地がかつての帝によって施されている幻の一端であることに。
 そして。
「まずいのは今なお拡大してる……って所ですかねぇ」
「お師匠。今でさえバカデカイ結界みたいなもんなのに、んな事があるっつーことは」
「慧の想像通り、どこかに力の根源……要石なのがあって然るべきでしょうねぇ」
 探し出さねーといつかまずい事になりそうだと、栴檀は言うものだ。
 恐らく行方不明者達はこの領域の力に取り込まれている。

 自らの世界を。理想郷を作らんとする――帝の力に。

 そして取り込んだ者達を糧として帝は力を更に増幅させていく。
 神使や栴檀と言った強き者達であれば領域が拡大した所で取り込まれる訳ではないだろう。しかし只人……力なき者であれば分からぬ。久遠なる森の周辺に点在する村がいつか飲み込まれれば、更にその者達が糧となりて更に更に――
 そんな終わりなき倍々遊戯が成立してしまう前に、元凶を潰さねば。
「……力の源、っすか」
 どこか知らぬかと、慧は植物と意思を疎通させんとしてみるものだ。
 人が通った記憶か、はたまた別の何かでも……
 さすれば微かに辿れたのは街の方――城へと続く足跡の様な痕跡――

 遺骨を持つ様な人の陰が向かうのが、微かに見えた。

成否

成功


第1章 第9節

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
優しき咆哮
古木・文(p3p001262)
文具屋
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
煉・朱華(p3p010458)
未来を背負う者

「……なるほどね。久遠の森で以前感じた視線が気になって来たんだけれど――
 あれはやっぱり偲雪さんのだったんだ」

 ――所戻りて再び常世穢国の城内。
 言うは文である。森での探索の際に感じた奇妙な視線は、彼女だったのか。
 彼女が魔種である事。この地に縛られる霊魂の存在でありながらまだ拡大を求める事。
 中々に驚く話だが、しかしカムイグラの事を深くは知らぬ己ならば情報を抜かれる心配はなさそうだと――微かな安堵と共に彼は言の葉を続けるものであり。
「この街もその一端、って言う事だね……森で行方不明になっている人がいると聞いて探しに来ただけのつもりだったんだけど、まさかこんな凄い街を作るなんてね――偲雪さんの夢なんだ」
「そうだよ! 見た? 皆すっごく笑顔だったでしょ?
 鬼もヤオヨロズもみんなみーんな、笑顔! ずっと作りたかったんだ!」
 同時。彼女の笑顔から――狂気を感じたか否か。
 微妙な所であった。
 彼女は恐らく、ただ心の底から純真と共にこの街が最善だと思っている。
 ――説得可能かも微妙な所だ。森で失踪者が出るのは止めたい所だが……
 それは、この領域の源になっている彼女を直に止める他ないのだろうか。
 この街が正しいと思っている、彼女を。

「……そう。それで、もっともっと外を取り込みたいから。
 朱華達から外の情報を仕入れようとしている訳ね」

 言うは朱華である。
 踏み込まなければ得られないモノがあると分かってはいたが。
 ――これは想像以上のきな臭さだ。
 そも、自らたちの前に置かれているこの食物も……黄泉の誘いか?
 聞いた事がある。ヨモツヘグイ――だったかしら?
 こっそりと。偲雪の眼には見えぬ様に食物は隠し、持ち帰らんとしながら……
「行方不明者達も街の住民に『なってしまっている』と言う事かしら――
 貴方の作り出したこの世界で。正に食事をしてしまい黄泉の住人に」
「ううーん、でもね。住民になってくれた人は、大なり小なり私に賛同してくれる心がある人だけなんだよ。そうじゃない人を無理やり従わせるのは、私的に好きでもないし……」
「……そう。そういう認識ではある訳ね」
 魔種でもある彼女の力に、真に抗える者が只人に可能かは知らぬが、と。
「おおっとぉ! お食事はご勘弁頂ければ! 正直なところ、拙者はこの場所を死者の国だと思ってますので。こう、拙者の世界の古の神話にて、黄泉の国の食べ物を食べたら常世に戻れない……という言い伝えがありまして。歓迎頂いているのにすいません!」
 と、その時。ハッキリと偲雪の食物を断ったのは――ルル家であった。
 朱華同様、ルル家も確信している。この食物は森に迷い込んだ者達を返さぬ……黄泉の食べモノだと。まぁ、元々『話がある』と聞いていた時点で此方にとって『良いもの』である可能性は低いと当たりは付けていたのだが……
 魔種である上に、精神に関与する様な効力がある食べ物とは――
「うう。それは残念だなぁ……でもしょうがないね。
 食べたくなければ食べなくてもいいよ! うんうん、それは仕方ないね!
 ――でも違うよ? ここはね、死者の国なんかじゃないの。
 ただね。皆が笑って暮らせる場所なんだよ」
 そして、それ自体は特に責められはしなかったが。
 けれど、にこやかで穏やかな偲雪が――ルル家の意見には真正面から違うと答えた。
 否定を受け流せぬ箇所であったか。ならば。
「いずれにせよもう一点――拙者は天香家に仕える身ですので、偲雪殿にはお仕え出来ぬ次第――誰もが笑い合えて過ごせる世というのは望ましいですが」
 しかし。これは。
 他の精神を捻じ伏せるは、傘下に加える支配と何か違うのか。
 先程『賛同してくれる心がある人だけ』とは言っていたが。
 しかし魔種としての力はそこまで生易しいものだろうか?
 彼女の協力してほしいという要請……はたして受け入れられるものであろうかと思案すれば。

「少なくとも、鬼とヤオヨロズの融和を目指していた――って話は、本当みたいだね」

 直後。ルル家とは対照的に、偲雪の差し出した食物を摘んだのはシキだ。
 そのまま口へと運ぶ。何の躊躇もなく、受け入れるのだ――
「美味しい……! これもっと食べて良いんだよね? やった!」
「えへへ。頑張って作ったから食べてくれると嬉しいなぁ……どんどん食べてね!」
 互いに溢れる『嬉』の感情。彼女の眼をまっすぐに見て、へらりと笑む。
 ――こういう折は真正面から行くのがシキの性だ。
 美味なる羊羹を味わい、そして。
「ねぇ偲雪さん――私ね、この国を愛してる」
 彼女は、紡ぐ。
 言の葉を散らさず、一直線に。
「愛してるから……幸せに生きて欲しいと願う人が沢山いるんだよ」
 だから貴方の言葉も聞かせて?
 貴方の想いも――同じものなのか。

「――うん。私もだよ。だから私も皆には『幸せ』に生きてほしいんだ」

 さすれば、偲雪は言う。
「差別なんて嫌だよね。誰かが虐げられるのは苦しいんだ。
 だから私は、私に賛同してくれる人達と一緒に成し遂げるんだ」
「――何を?」
「『幸せな世界』を築き上げるの」
 鬼とヤオヨロズの差別がない世界を。
 皆がニコニコと過ごせる世界を。

 それが、理想郷。

 この地の事なんだよ。
「昔。目指したけど辿り着けなかったんだ。だからもう一度目指すんだ」
「……その願いは、歪んでないって言いきれるのか?」
「んっ?」
 刹那。言葉を繋いだのは――風牙だ。
 風牙もまたシキと同様に、まっすぐと偲雪を見据えている……
 かつて、獄人達の差別を無くそうとした帝。そして、それに失敗した人。
 その尊い思いは、どうだろうか。
 抱いているのは分かった。けれどねじ曲がっていないか?
 それを見据える為にもと。彼女の心を探らんとして……
「オレの名は新道風牙。人々が平和に生きていける世のために戦ってる。
 ……と、そうだ。出会えたら渡そうと思ってたんだ――これを」
 同時。風牙が取り出したのは――一輪の花だ。
 それは、氷の花。
 黄泉津瑞神の権能である瑞兆が形作ったと言い伝えられる……一輪。
 そしてそれは。
「……なあ、その花のどんなところが好きなんだ? 聞かせてくれよ」
 瑞が言っていた。
 偲雪も好きだったと、懐かしむ様に。故に手渡す――
 彼女の生きていた頃に、触れるかの様に。

「――溶けない事だよ」

 さすれば、言う。
 偲雪が初めて神使達から視線を外して――花を見据えれば。
「ずっと、ずっと変わらないから好きなの――
 だから私は、この街もずっとそうであってほしいと思ってるんだ」
 ずっと。未来永劫に笑顔のままでいてほしい。
 皆幸せでいてほしい。
 誰も憎まず。誰も僻まず。誰も争ってほしくない。
 それが私の願い。
 だから――皆にも協力してほしいな。

「この理想郷を広める為に。鬼もヤオヨロズの皆も、笑顔の儘に過ごせる――世の為に」

 彼女は再び風牙らを見据える。
 ――折れぬ意志をその瞳に抱きながら。

成否

成功


第1章 第10節

 ……瑞。
 幾人か。シキやメイメイなどが口にした、その名前――
 偲雪の脳裏にかつてが蘇る。
 瑞。黄泉津瑞神。
 私に加護をくれた人。
 いや、人じゃないね。大精霊、神霊の一柱。
 ――ああ。元気だとは聞いた。良かったなぁ。

「瑞、かぁ」

 風牙が。土産替わりだと手渡してくれた氷の花――
 懐かしい。これは、瑞が教えてくれたね。
 万年雪……溶けない氷の花。

 君は、あの頃の風景を覚えていてくれているのかな。

 私は、あの頃のままでいれているかな。


 ※偲雪は霊魂の類にして、同時に魔種であることが判明しました。
 ※また、久遠なる森を含めた地域は偲雪の特殊な力の管轄下にあるようです。
 ※この力は結界の様なモノであり、精神の弱い者(例えば一般人)などに作用する性質をもっており、場合により偲雪の意志に染まってしまいます……

 ※この範囲は『偲雪に賛同する者』が増える事によってより広がる性質を持っているようです。
 ※偲雪の目的は『誰もが差別をしない理想郷』がもっとより外にまで広まる事です――


第1章 第11節

金枝 繁茂(p3p008917)
善悪の彼岸

 ――理想郷。理想郷とのたまったか。

 繁茂は街中を探索していた。周囲の光景を眺めながら……
 鬼もいる。ヤオヨロズもいる。
 皆が笑い合っている。
 ――ああ。ここは獄人が迫害されていない世界だ。
 誰もが笑顔の儘に過ごせて、差別のない世界――
「……ふざけるな」
 今の高天京の治安は昔よりも遥かに良くなっている。それは霞帝だけの力ではなく、大勢の尽力あってのものだ……それをこの街は、今を生きる報われない可哀そうな人々を死人が誘拐し理想郷に住まわせてあげるって事ですか。
 何が理想郷だ。何が幸せな世界だ。
「そんなに今を生きる者達を信用できないか?」
 未来を託して後悔したか?
 ここは。この世界は。
 現世を……今を生きる者達への、冒涜だ。

 豊穣の未来を信じ逝った者達を冒涜する行為を許せるわけがない。

 繁茂は往く。この街を成し遂げている『力』を砕くが如く想いを瞳に込めて。
 このような街を維持するにはどこかに、根幹となって支えている場所がある筈だ。
 その地がどこかと――奇妙な気配を感じる城の方を、一瞥しながら……

成否

成功


第1章 第12節

シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士
釈提院 沙弥(p3p009634)
破戒求道者

 多くの者が死者の街――
 そういった曰く付きの地が希望ヶ浜の方にもあったとシューヴェルトは思考するものだ。
 来名戸村。雰囲気は異なれど、かの地と此処には似通った所があるか……
「――まさかな。これほど霊の声に溢れているとは」
 そして彼は己が身に宿りしギフト――祝福と言う名の呪いにより『声』を聴くものである。
 あちらこちらから溢れている。波の様に、濁流の様に……
 この地は恐らく偲雪の力によって――彼女を慕う者達の霊魂によって多くが構成されているのだろう。彼らからは特に彼女の意志に賛同する様な……彼女を称える声に溢れた声を、シューヴェルトは捉えていた。
「ふむ……だが、なんだ……この声は……城の方に続いている……?」
 同時に悟るものだ――街の人々から聞こえる声は特に、城の方に近付くほど濃くなっていると。
 恐らく、住民の顕現に繋がる様な力の『要』が其処にあるのであろう。
 偲雪は上階にいると聞く――が。
 上ではない。むしろ『下』の方から力を感じる様な……

「ふぅん。誰も彼も墓所なんて知らない、と……けれどそんな筈はないのよねぇ」

 同時。沙弥は街中で神社仏閣などの施設がないかと巡っていた――
 自分は旅の尼僧だから、行く先々でその地の祖霊に祈りを捧げてると、住民らに声を掛けて。
 ……この街で真っ当に生者が暮らしているなら、今まで亡くなった普通の人たちを埋葬し、悼む場所があって然るべきだ。しかし此処には『そんなものはない』とばかりに……住民らは笑って答えていた。
 歪。沙弥らは感じながらも、しかし住民側はその違和を感じていない。
 ――それでも。どこかには必ずある筈なのだ。
 なにせこの地は墓所であるという話なのだから。相応する何かは必ずある筈だ。
「さて。この地の主が墓所に収められた存在なら……
 やっぱり城の方が『そう』なのかしらね――」
 見据える。どこかに在るのならばやはりあちらの方か、と。
 ……そういった情報を周囲に漂う霊魂あらば聞いておきたい所だったのだが。
 残念ながらというべきか、周辺に死者の霊魂は一切いなかった。
 ――いや。それらは全てこの地の住民として取り込まれていると見るべきか。
 黄泉の国に。これ以上先はない――死者の国に。

成否

成功


第1章 第13節

シガー・アッシュグレイ(p3p008560)
紫煙揺らし
希紗良(p3p008628)
鬼菱ノ姫

「アッシュ殿。此度はご一緒頂き感謝であります! 以前訪れた際は不可思議な気持ちになったでありまして……今暫くこの地にて調査をと思うのであります」
「いやいや、俺も気になってる案件だからねぇ……んっ、不可思議な気持ち?」
 そして久遠なる森の方面でも動きがありつつあった――
 希紗良とシガーの両名は森の中にて、妖を退けながら進んでいる……
 そも、前回において晴れぬ疑問があったのだ、それは。
「前回街に着いた折には『助けを求める声が聴こえなかった』のであります。これは、行方不明者が自ら望んでこの地に赴いたのか、何かの術を掛けられているのか……恐らく、この地に蔓延る気配からして後者であるかとは思うのですが……」
「行方不明者の全員が全員『自ら望んで』というのは、流石に疑わしいからねぇ。
 何らかの術の影響と考えるのが正しそうだ……偲雪って人かな? やっぱり」
 そう。行方不明者の助けを求める声が――聞こえなかった事。
 明らかにおかしい。もしも森で彷徨っていれば助けを求める声が一つや二つあるが自然。
 だというのに一つも何も無いというのは、これは……

「そう――全てはあの街にある。偲雪という根源がこの森を覆っているんだ」

 刹那。再び希紗良らの前に姿を現したのは――清之介であった。
「清之介殿!」
「やぁ希紗良、無事だったか――どうやら多くの神使がこの森に訪れている様子。
 無事に会えるか不安だったけれど、これも縁があったという事かな。ははは」
「……」
 が、同時。シガーは些か訝し気な表情で清之介を見据えるものだ。
 以前に共闘を誘われた。が、一体どのようにして清之介は此方の位置を把握しているのか。
 奇妙な気配だ。『確実に会える』という確信でもあるのだろうか……?
 或いは共闘は只のポーズであり『別段会えなくても問題ない』とでも思っているのか――
 神使達がこの地に大量に訪れさえすれば……と。
「それよりも行方不明者達はどうやらこの森に……偲雪に取り込まれている様だ。
 知っているかな? 街の方の住民として目撃されていると言う事を」
「なんと……やはりそのような、精神に干渉を受けているのでありますか……」
「ああ――術を解くには恐らく、妖へと変じた偲雪を倒す他ないやもしれない。
 だが。偲雪を倒そうと試みれば……以前話した干戈の男などが出張ってくるもの」
「よくそこまで調べ上げる事が出来たものだね――もしくは、もう『試した』後とか?」
「――いやいや。
 街の調査を行っている者が干戈に襲われていたが故にそう推察出来たというだけ」
 シガーの言に微笑む清之介。己は偲雪なる女性に近付けてすらおれぬと。
 ――だが逆にその微笑みが、よりシガーの疑惑を強めていた。
 やはり、この人物には何かあるのではと……
 一方で清之介は斯様な目を知るか知らぬか――言を続けて。
「しかしながら拙者と行動を共にする――ああ今は近くにはいないが――『協力者』もいれば分かった事もあるものだ。取り込まれた者達の術を解除する手段なども」
「……!? 本当でありますか清之介殿!」
「嘘は言わない。良いかな、術はそも偲雪という者が維持している……
 ならば単純に偲雪の力を削げば術の効力は低下し、解放される者も出てこよう」
「それは道理だけれども――具体的な手段は?」
「城のどこかにある遺骨箱を叩き割るんだ」
 そして、述べた。遺骨に害をなせ、と。

「さすれば、それだけで倒す事は叶わぬかもしれないが。
 確実に偲雪と、そしてそれを護らんとする守人達の行動に影響はある――
 後は奴らの監視の目を掻い潜る術さえあれば、な」


 ※月原清之介より偲雪の力を弱体化させる手段が齎されました。
 ※城のどこかにある『偲雪の遺骨箱』を損壊させると、彼女の力が弱体化するようです。
 ※嘘は付いていない様です。嘘は。

成否

成功


第1章 第14節

カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
鏡(p3p008705)
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
トキノエ(p3p009181)
恨み辛みも肴にかえて
月折・社(p3p010061)
紅椿

 森は深い。街が見つかった後もなお――広大さが存在していて。
 だからこそトキノエはその森の中を進みつつあった。
「……さてさて。黄泉の国に繋がってる……ていう森の噂は聞いてたが。
 噂のみならず死んだ帝まで実際に出てくるとはな。
 怪談か御伽噺だと――それで済めばよかったんだが」
 どうにもそうはいかなさそうだと、彼は感じるものである。
 事態は恐らく深刻だと。
 故に彼は――この地に住まう動物や精霊の類へと意志を疎通させんとする。
 この森の事。この森で消えた人間たちの事を何か知らぬかと。さすれば……
「――なんだ? まさか……鳥達までこの森に飲み込まれちまってんのか?」
 気付いた。鳥達と意志を交わさんとしても――彼らは何も答えぬと。
 彼らには『喜』の感情しかない。あの街の様に、笑顔に内面が包まれている……
 人だけではない。動物や精霊にも効果がある力で満たされているというのか、この森は。
 ――もしもこの森を覆っている『力』が更に外にまで進出したら――どうなるか。

「厄介だよなぁ。ってな訳で……事情を知ってそうな奴さんを探すとするかね!」

 同時。動いているのはカイトもであった。
 彼は出てくる妖らを蹴散らし、森の中を突き進む。この辺り出てきた奴……干戈の帝と名乗ったあの男を引き摺り出す為に――えっ? 迷子じゃないからな!!? これはちゃんと探してるだけなんだからな!? いや確かにアテはないけれども――!
 と、その時。
「ほう。貴様は先日のイレギュラーズだな――元気そうで何よりだ」
 声が聞こえた、と思ったと同時。
 闘志がカイトの真横で炸裂した。奴だ――ディリヒの襲撃だ!
「待てや! 待て待て待て待て!!
 守人っても今は攻め入ってないから攻撃するなよ、な! その戯れ怖ぇんだよ!」
「ははは――知らぬ」
「知れよ!!」
 全霊の回避。風を読み切り飛翔して。ディリヒの攻撃を避け続ける――!
「はぁ、はぁ待てって……! なぁディリヒはどーしてまだここにいるんだ? もっと外行ったほうが強いやつもいっぱいいるだろうに。望んでこの地に縛られてんのか?」
「望んでこの地にいる――ああそれもあるとも。私は偲雪に多少ながら恩があってな……彼女の夢が潰えるまでは彼女の味方をしてやろうと、この地で守人をしているのだよ」
 んんっ? と言う事は、コイツは外に出れない訳じゃないのか――とあぶねぇええ! コイツ首狙ってきやがる首!! ガチだ!!
 カイトでなければ躱せなかったかもしれぬ一撃を辛うじて凌ぎ――そうしていれば。

「おぉ。干戈帝ってのは貴方の事ッスね――お相手仕るっす!」

 刹那。鹿ノ子がディリヒへと襲来した。優れし三感をもってして彼女は元からディリヒを探していたのだ。聞きたい事もあらば、白く透き通る刀身を抜きて――かの帝へと激突せん。
「私は鹿ノ子と言うッス。天香家にお世話になっている者ッスよ……!」
「ほう。天香――懐かしい名を出すではないか!」
「御存じなんすか?」
「無論よ。かつて私が帝であった時代に――私を殺しに来た家の者の一人だ」
 ――なんと? ディリヒと切り結ぶ鹿ノ子は、眼前に集中しながらも彼の言を聞きて。
「ははは。私はな、かつての時代……まぁ少しばかり闘争の私欲を満たさんとしていてな。それを危険視した者達がいたのだよ。それで、ある日私を排除せんとかかってきたのだ――全く可愛らしい反逆だった。まぁソレは大体全員返り討ちにしたのだが」
 その内の一人に、若き天香家がいたのだと――
「成程、天香家も……結構昔からあったんッス、ねっ!」
 ディリヒの濁流が如き攻勢。このまま受け続けるのはよくないと、一度弾きて距離を取り。
 しかし。彼は一歩で詰めてくる。
「中々良い動きだ。洗練されているな――しかし逃さぬよ」
 素早い。巨漢でありながら疾風が如き干戈の帝。
 その追撃の一手が鹿ノ子へ襲来せんとして――
「まった……! そうはさせないよ……!」
 が。そこへと割りこんだのがフラーゴラであった。
 真正面から受け止める。自らの体躯に合わせられた盾にて、ディリヒの撃を。
 ――衝突音。凄まじい衝撃がフラーゴラを襲う、が。
 覚悟していた衝撃だ。たかが一撃で崩れようものか。
(やっぱり、ちょっと似ているかも……)
 同時。フラーゴラはディリヒを見据える――
 魔種になって殺した義父に似ている気がしたのだ。
 ……ワタシの思い出すことのなかった、『パパ』と呼ぶことのなかった……義父に。
「おや。今日は乱入者も多いな――いいぞ。お前たちの力を見せてみろ……!」
「舐めないでよね、ワタシは受け止められるぐらい強い……!」
 ここまで森自体の調査もフラーゴラは行って来た。
 各地の調査を行い、リボンで色分けし調査済みか否かを示して……
 しかしこの森を覆う違和感は――どうしても分からなかった。
 故に、彼に喋ってもらうとしよう。
 彼が満足すれば口が緩むかもしれぬから……!

 そしてフラーゴラ達の奮戦が続く場――そこを社も察知した。

 久遠なる森、過去の帝を名乗る者あらば出来る限り確認をしておきたいと……
 優れた感覚をもってして周囲を索敵し続けていたのである――さすれば。
「……敵か、味方か。いや少なくとも味方ではなさそうだ……」
 闘争に狂う干戈帝の気配は――とても友好的とは言えなかった。
 かといって、何がなんでも神使を排除せんとする敵対的な感情も感じぬものだが。
 怒りや恨み、そんなものがあれば話し合いなど出来る余地すらない。
 しかしあの男から感じるのは――悦だけだ。
 死線を潜る楽しさだけ。
 ……さて。如何したものか。
 支援に出向くのは簡単だが、その前にまずは――他の神使にも伝達せんとして。

「おっとぉ……? ここで何してるんですか? ディリヒくん。
 はしゃぎ過ぎですよ――遊んでくれる相手がいるからって」

 そこへ。戦闘の気配を察して訪れたのは、鏡だ。
 前回、派手にやり合った仲ではあるが――いや、というか私まだ負けてませんから。
 アナタが仮に気紛れに強めに叩けば私を殺せるとしても。
「それよりも私が早くその首を落とせばぁ……というかアナタ、死ぬんですか?」
「ははは! 私は人だよ。あくまでもな――首が落ちれば死ぬだけの者にすぎぬ。
 案ぜよ。まぁただ、生まれてこの方一度たりとも首が落ちた事はないのだが」
「ははぁ。全く随分と自信家な様子で……
 でもどれだけご機嫌でも、干戈様なんて呼んであげませんよぉ?」
「好きにするがいい。私も、好きにさせてもらうのだから!」
 どうせこの類はへりくだってもご機嫌はとれないのだ。
 ならばと。冗談交じりに彼を探っていく――真意を隠しながら、殺せるか否かを。
 それは重大な出来事だ。不死でさえなければ……可能性は潰えないのだから。
「――全く。戦う意志は、少なくとも俺にはないんだけれどね」
 と、更に。社らの情報共有によって訪れたのはヴェルグリーズであった。
 彼は、今後がどう動くにせよ万が一の際はこの森を通って逃げ込まねばならぬ状況から――安全確保も兼ねて偵察に来ていた真っ最中であった。
 特にこの森を覆う気配が一体なんであるのか気になれば……散歩する様に周囲を眺めている。此処に至るまでに、妖にであっても極力回避してきた程に。故に闘争に身を投じるつもりはないのだと……干戈の者に伝えれば。
「まぁどうしてもと言うのならやぶさかでもない――受けて立つよ」
「ほほう。付き合ってくれるというのか……分かる者ではないか!
 宜しい。お前達が私の私欲に付き合ってくれるのならば、お前達の欲する情報もくれてやろう――あぁ」
 本当に、満足させてくれるならばだがと。
 笑みを浮かべる干戈の表情は――闘争に恋焦がれる悪鬼の様であった。

成否

成功


第1章 第15節

彼岸会 空観(p3p007169)
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華

 久遠なる森。そこを進む者として、四名の影も存在していた。
「ふぅ、ふぅ。ううう、どれだけ広いのこの森……歩いても歩いても先が見えないよ」
「ここのどこかに彼らがいる筈ではあるんだけどね。もうちょっと歩いてみようか!」
 その内の二人がタイムと花丸だ――彼女らはこの森で存在を見かけたタイムやディリヒを追っていたのである。彼らからは何か話を聞けそうであるし……特に空は随分と苛立っていた様子であった。
 ならば感情を探知する術をもってすれば比較的見つけやすいのではないかと。
 この森の謎は未だあり、ならば。
「う~~ん、やっぱりさ、探し出して聞くのが一番早いよね。
 会えたらずばっと聞いちゃおうよ。こう、ずばーっ」
「何を斬ったのですかタイムさん。それもパリィタイムなのですか――もう一度お願いします」
「なるほど、パリィタイム? ふむ、それは新しい技だったりするのでしょうか。後学の為にもう一度お願いします」
「ひぇ~~!」
 ただちょっと手刀のポーズをしただけなのに~~!
 虚空を穿つパリィタイム。空観と沙月に詰め寄られ、あわあわとしながらもう一度だけ草むらへとずばるもの。ずばばーっ。まぁパリィタイムの切れ味はともあれ、実際タイムの言う様に彼らから話を聞くのが近道であろうとは空観らも思っているのだ――
 何代も前の帝の存在は実に不可解。
 聞けば練達でも此岸と彼岸……否、ROO? でもその堺が曖昧になる様な事象もあったとか。故に、タイムにもう一回パリィタイムをお願いしながらも警戒は蜜に。
 沙月の嗅覚、花丸の聴覚にて戦闘や妙な匂いが無いかと探りて。
 空観も周辺の動物らと意志を交わす術によって情報を収集せん――
 いずれもが優れし使い手として注意の網を広げつつあった……正にその時。

「――むっ? おぉ。誰ぞの気配があると思えば。
 お前達もイレギュラーズではないか――また来たのか」
「わーまた幽霊の帝が出た~~!!」

 件のディリヒが偶然にも――三度目のパリィタイムを斬った先から現れた。
 先述の通り警戒を強めていた花丸らに隙はない、が。
 同時に、彼を追っていた筈の空の気配はないものだ。苛立つ彼を見つける方が先かと思っていたが……まぁこの森に深く関係のあるディリヒを見つけることが叶わばそれでもいいとは言えるが。
「幽霊とは失敬な。私は違うぞ」
「……え、そうなの? でも何代も前の人なんでしょ?」
「だが世には幻想種がいる様に長命の存在がいても不思議はあるまい――?
 私はな。そういう長寿の存在なのだよ。ギフトがある故と言ってもいいが」
 そしてディリヒはタイムへと言を紡ぐ……おや?
 なんだか前回より問答無用感がない。
 と。よく見ればディリヒの服にはなにやら戦闘をした様な跡が残っている様だ――戦闘狂いらしい雰囲気を前回見せていたが、今は多少『解消』したばかりと言う事か? もしや件の空や、或いは他の神使とぶつかり合った直後なのかもしれない……
 いずれにせよ、機嫌の良さそうな彼へ。
 言を重ねるだけの暇があるなら今の内にと――空観は疑問をぶつけ。
「しかし。それならそれで奇妙ですね――長寿の存在なのに、どうして帝の座から退いて?」
「ははは! いや何、些か趣味のままに振るっていたらかつて瑞を激怒させてしまってな。
 私も死力を尽くしたのだが、彼女の強い事強い事……
 最終的に命辛々なんとか逃げて生き延びた、という訳なのだよ」
「そうなんだ――もしかして、その時にこの森に?」
 だったら、と花丸も述べるものだ。
「この森の事、知っている筈だよね。この森を覆ってる――雰囲気とかも」
「無論だ。お前達も大方予想は付いているのではないか?
 ――偲雪だよ。彼女の狂おしいまでの願いがこの森を覆い、そしてあの街を形成しているのだ。彼女は平穏なる世界を、差別なき世界を願い――『そうであってほしい』という想いがこの森を覆っている。ははは。可愛らしい願いだとは思わんか。
 死しても尚。魔種へと変じても尚――彼女はこの国を願い続けた」
 さすればディリヒも応えるモノだ。
 この森は彼女の支配下にあるのだと。
 結界の様なモノがある――と考えれば簡単だろうか。領域内に入った者は、彼女の想いの影響を受ける。イレギュラーズや精神に強い者であれば跳ねのける事は出来るだろうが……しかし只人であれば、そのまま飲み込まれる可能性の方が高いだろう。
 花丸が感じていた『雰囲気』はソレの事だったのだ。
「……ふむ。偲雪さんの残留思念とも言えますか。
 いえ、或いはもっと別の……精神干渉の類がある、というのが正確でしょうか」
「然り。お前達がこの事態を解決したいのなら、彼女を倒すがいい。
 さすれば万事全てが解決する。
 霊魂はこの地より解き放たれ、精神に干渉された者も解放されよう」
「――随分とあっさりと話して頂けますね? 貴方はこの地を護る者なのでは?」
 であれば、沙月もまた言の葉を述べる。
 ディリヒが随分と話してくれるものだと。
 ……しかし曲りなり向こうの陣営であれば、こちらに話す事に益は無い様に思えるのだが。
 何か企んでいるのか――? そう警戒するのも当然だ、が。
「ふっ。先程随分と私に付き合ってくれた者達もいたからな……
 まぁそれを仮に抜きにしても――私には関係がないからな」
「――なんですって?」
「理想郷など築けるはずもない。あんな歪な願いが成就する筈もない。
 必ずいつか崩壊する。反発する者が外から訪れよう――
 私はその折の大戦を待ち望んでいるから彼女に協力しているのだ」
 彼は。ディリヒはただ――不敵に笑うのみであった。

成否

成功


第1章 第16節

「さて……とはいえ少し、話しすぎたかな。
 ははは。これでは偲雪に不義理とも言えよう――やはりお前達には今の言葉を忘れてもらう方が都合がいいかもしれん。どうしたものかな」
 と、その時。
 ディリヒの気配が急激に変じる――闘争の気配を身に纏っているのだ。
 タイムに花丸、空観に沙月らとやはり闘争を楽しもうという訳か――?
「やれやれ、情緒不安定なのかなこの人は――!」
「――襲い来るというのならば相対させて頂きましょうか」
 即座に迎撃の構えを取る花丸に空観。
 タイムや沙月も同様に彼が襲撃せしめんとするならば備えた――次の瞬間。

「待てよ。お前の相手は俺だろうが――死ね」

 横より『何か』が飛来する様にディリヒへと襲い掛かった。
 刹那に生じるは激しき金属音――空の、斬撃だ。
「むぅ! しつこい奴だ――
 お前の死力は面白いが、お前にだけ構っている暇もないのだが」
「知るかんなモン死ね。さっさと死ね。今すぐ死ね!」
「ひ、ひぇ~凄い勢いが……!!」
 タイムの眼前で繰り広げられる暴風の様な戦闘――攻勢を仕掛ける空の勢いたるや凄まじいが。その全てを捌かんとするディリヒの技量もまた洗練されている。
「お前が些か世話になった村の者が行方不明になった程度で大げさな――」
「俺が此処に訪れたのはソイツが理由だが、テメェを殺す理由は別だ。
 ――テメェ。俺の事を『下』だと思ってやがるだろ?」
 刹那。紡がれる言の葉は空がディリヒへと襲い掛かる理由――
 その行動原理は只一つ。
 舐める奴は殺す。
 ――強きを尊ぶ鬼閃党が一角にして、己を下に見てくるディリヒだけは許せぬのだ。

 俺より強いつもりか、貴様ッ――!!

「やれやれ――守人よ、奴を穿て」
 直後。ディリヒは笑みを見せながらも吐息を一つ零し――
 言をどこぞへと放ったと思えば。森の奥から弓矢が投じられた。
 空を切り裂き飛来するソレは空を狙っている――
「――これは。どうやら戦える者は、干戈の名を持つあの者だけではない様ですね」
 その気配は、沙月の嗅覚によって捉えられていた。
 森の奥に……何かがいる。
 恐らくは兵士の類。ディリヒ配下の者達だろうか――
 しかし、感じ得る気配が妙に虚ろだ。もしや、これは霊の類……?
「があああうぜぇ!! また茶を濁す気かぁ!」
「お前よりも優先して叩き潰すべき天狗面などがいるのでな――また暇が出来たら遊んでやるとも。ではなイレギュラーズよ! お前達ともまた会おう――ッ!」
 であればと。出来た隙にて離脱を測らんとするディリヒ。
 ――ただ。弓矢の雨は空だけのみならず、花丸達にも無差別に降り注いでいて。
「おっと! とりあえず私達も一端身を隠そうか!」
 故に被害を受けぬ様に木々の影にて射線を切るものだ。
 弓矢を放つ者達――奴らの事を守人、とディリヒは呼んでいた。
 ……この森と、街を守護する者の数は存外に多いのかもしれない。
 今の所出会っていない辺り、彼らは積極的に神使を襲う事はない様だが。

 もしも将来。魔種たる偲雪と戦う事になれば――話は別かもしれなかった。



 ※『干戈帝』は霊魂ではない様です。
 ※『干戈帝』は『偲雪』に協力してはいますが、独自の思惑も持っている様です。
 ※彼は空以外の天狗面なる『一部の者』達を優先して探している様です……?


第1章 第17節

シガー・アッシュグレイ(p3p008560)
紫煙揺らし
希紗良(p3p008628)
鬼菱ノ姫

「ところで清之助君――共闘とは言った物の連絡手段等の話をしてなかったね。今回みたいに偶然会える機会もそうそう無いだろうから、何か方法が必要だと思うんだが……」
「ふむ……それは、確かにその通り……然らば……うん。これはどうだろう」
 森にて引き続き語らうはシガーと清之助だ。
 シガーは清之助の事をさほど信用していない――が。それはそれ。此方から接触する為の手段を確認するのは間違いではない。なにせ共闘云々は向こうが言っている事なのだから。
 故にと。清之助が取り出したのは……一つの、小さな人型の式神?
「これは拙者が仕入れた式神の一種。二つで一つという組み合わせなのだが……
 離れてももう一つの方角が分かる様になっているのだ。
 首を垂れている方に、もう片方が在る」
「……へぇ。こいつは便利だ」
「距離は分からぬが。しかし其方に進んでいれば会える――そういう代物」
 勿論。無限なる距離でも効力が続く訳ではなく。
 なんらか神秘的な妨害があらば阻まれる可能性も高い。
 が、そういった要素を除けば森や街の中で使うぐらいであれば出来るだろうと――彼から手渡され。
「では。また別れようか……永く留まっていると、干戈の奴が嗅ぎ付けるかもしれない」
「――お待ちを、もう少し話を聞かせて欲しいであります。清之助殿」
 その時。別れんとした清之助を留めたのは……希紗良だ。
 戸惑い――彼女の心中に生まれた一滴は、そう表現するに足るものであった。
 清之助は事情通の様だ。それはいい。
 だけれども――なんとなしに違和を感じた。
 どうして、こうも情報を与えてくれる?
 話したいとは思っていた。けれど、どうにも……これは『一方的』なのでは、と。そも。共闘をと言うのであれば、個人ではなくてローレットに話を持って行くのが筋であるはずだ。わざわざにこのように人目を忍ぶようにしながら会う意味など――
 しかし。
「ふむ――もう少しとは、例えば?」
「で、ありますな……その……しかして、清之助殿には仲間がいらっしゃるのでありましょう? そちらで得た情報を、どうしてキサ達に? キサ達も無論、情報は欲しかった所ではありますが……」
「ふむ? 不思議な事を言うじゃないか――希紗良。
 折角の同郷の者に親しくするのが、そんなに疑問かな?」
「そ、それは……」
 しかし。彼は、清之助は。
 まるで希紗良の良心を突く様な言い方をするものだ。
 情報を流しているのは親しき希紗良がいるからだと。ただそれだけなのだと言う様に。
 有無を言わせぬ物言い。
 ……はて。記憶の彼方にある清之助殿は、こんな人物だっただろうか。
 あの日々を過ごした――清之助殿は――
「……希紗良ちゃん。そろそろ時間だ。街の方へ行くとしよう」
「シ、シガー殿……そうでありますな」
「そんじゃまた今度、そちらのお仲間にも会わせてもらえると考えて良いのかねぇ……」
 正直。彼とは会いたくないんだが、共闘する姿勢をとるなら――会わぬ挨拶をするは不自然と。
 希紗良の肩を誘導し、シガーは歩を進める。
 その先は街へと。招待されている――渦中へと。

「無論だ。元より、近い内に会おう」

 その背を見送りながら、清之助は。
「神使も溢れ始めれば、拙者らが街に近付く余裕も出来よう。
 ……拙者の刀も、そろそろ求めているのだからな」
 溢れんばかりの血肉を。女の肉を……と。
 言の葉を零すものであった。
 風に蕩けて、消え失せる程の――小声であったが……


 ※月原清之助から簡易な式神が手渡されました(破棄しても構いません)
 ※『常世穢国』の陣営とは異なる、月原清之助らは元々何らかの動きを計画していた様です。
 ※<仏魔殿領域・常世穢国>極楽往生にて動きが見られる、かもしれません。

成否

成功


第1章 第18節

エマ・ウィートラント(p3p005065)
Enigma
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
佐藤 美咲(p3p009818)
無職

「私は皆さんの考えを否定しません」
 常世穢国の街中――そこにて言うは、美咲だ。
「だからこそ思うのですが……常世穢国はもっと外に人を送るべきじゃないんスか?
 それも、外にルーツを持つ人を送ったほうが効果が高いでしょう。
 ねぇどうスか? 外にでて――此処の素晴らしさを伝えに行ってみませんか?」
「いやぁ……でも外はなぁ……」
 さすればざわつく住民たち――無論、これは演技の扇動だ。『ここの生者を外に送り出す』という形で思想拡大に協力する……振りをしているのである。真なる目的は『生者』を外に出すのを嫌がるかどうか。
 外に出すと領域の効果が無くなるのなら、何らかの反応をするはずと。
 ……思っていれば実際にそうだ。
 彼らは外に出たがらない。森までは言ってもいいという人物達がいるが――
 しかし。
 誰も外に出ようとはせぬ。
「……ほら。これが歪さ、っスよ」
 であれば。美咲は言を零すものだ。
 ああ――全く。『話せばきっと皆分かってくれる』でしょう? だって?

 ……話し合いで全部解決するなら、私みたいな仕事はいらないんスよ。

「……ふむ。墓地である筈の皇陵。しかし、その正体が高天原に似た街とは。
 これはこれはどこを見ても興味が尽きないでありんすね……」
 尤も。エマは、美咲の言を聞いてる者達を一瞥して分かる――
 アレらに聞いても何もわからぬだろう、と。
 外の事も知る者知らぬ者……数多におる有象無象では。
 ――だからこそ彼女は往くものだ。
 食物には手を付けず。
 黄泉を思わせる地の食物など、手にすれば何が起こる事か。
「まぁ。こういったアクセサリーの一つぐらいは買っておきんしょうか」
 これは一体どこの誰が作ったのかしれぬが。
 何かの役に立つかもしれぬと――思考すればこそ。
 素材ははたしてどこからかと、興味深げに眺めれば……

「いやーははは! これ食べていいの? マジで? じゃー秋奈ちゃん頂きまーす!」

 ……が。一方で秋奈は――盛大にかっ喰らっていた。
 偲雪っちはどことなく胡散臭いからまずは街からだと。でも歓迎してくれるなら受けちゃうよ? 本性でちゃうまではこっちも仲良くうぇいうぇいさせてもらおうぜ? てなわけで? お菓子街の人がくれるなら頂いちゃうぜ? おっ、上手そうな羊羹(もぐもぐ)
 無理やり連れてかれて頭いじられてたら、どこかしら歪なところ出てくるハズ(もぐもぐ)
 路地裏とかも見て回るぜー(もぐもぐ)
 レジスタンスとかいねーかなー(もぐもぐ)
 ……そんなしてたら頭ぐわんぐわんしてきた秋奈ちゃん。
 どこを歩いているのかもよく分からぬ。気付けばぶっ倒れる――おろろろ。
「ん~~~~なんじゃありゃ、地下……?」
 しかし。朦朧とする環境下で――彼女は感じた。
 否。この国の食物を喰らい、一時的にこの国の者に近しくなったが故に、と言うべきか。
 造られし城の地下にある――

 小さな祠の様な場所へと続いている、階段を……


 ※美咲が街中で扇動している事により、街側に意識が集まっているようです。
 ※<仏魔殿領域・常世穢国>極楽往生になんらかの影響があるかもしれません

 ※どうやら城の一角に長い地下へと通じる階段があり、そこには祠があるようです……
 ※今秋奈が感じたばかりでは、特に警備の兵などは見えなかったようですが……?

成否

成功


第1章 第19節

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000668)
ツクヨミ
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
星穹(p3p008330)
約束の瓊盾
星影 向日葵(p3p008750)
遠い約束
マリカ・ハウ(p3p009233)
冥府への導き手
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼
星芒 玉兎(p3p009838)
星の巫兎

 森で活動する者がおり。
 街で調査を行う者がいて。
 この街の大まかな全容は掴めてきたと言えるか――

 この地は、偲雪の理想郷。

 かつての帝が思い描いた『差別なき世界』の一端……
 誰もが笑顔に包まれ。誰もが誰をも区別しない。
 その証左に……街の方で繁茂は見た。
 鬼もいる。ヤオヨロズもいる――けれど。誰もが誰をも尊重し合っている場面を。
 平穏なる世界。平和なる世界。
 かつて。『正眼帝』として帝の地位にあった偲雪の思い描いた全てが――此処にあるのだ。

 しかし。それは歪なる世界。

 狂おしいまでの願いを抱いていた偲雪は死後に魔種へと堕ちており。
 他者の思想を塗りつぶす事で形成される――世界なのだ。
「ああ……ここは皆幸せそうで。まるで噂に聞く桃源郷――
 所謂あの世にも似た場所ですね」
 そして。常世穢国城内にて。
 Regina……否、ツクヨミが飛ばすのはファミリアによる使い魔だ。
 この城や地形を見渡し見取り図を作れるように観察を務めよう――瞬間的に記憶する術や優れた視覚があらば次々と各地を把握していく……と、同時に、ツクヨミは偲雪本人とも語らうものだ。
「所で呼び方は如何にお呼びしましょう。偲雪帝とした方が宜しいですか?」
「なんでもいいよ! でも偲雪って呼んでくれた方が嬉しいかな!」
 と、直後。偲雪との団欒の最中に。
 こっそりと。彼女の心を読まんとする術を――用いれば――

『ん、なぁに? お話したいの――?』

 にっこりと、微笑む。彼女の『内面』が――垣間見えた。
 が。その瞬間に。
 まるで腕から『何か』が這い上がってくるかのような感覚が――得られた。
 脳髄を目指して虫が突き進んでくるような感覚。
「――ッ!」
 だからこそ直感的にツクヨミはリーディングの接続を、切った。
 あのまま繋げ続けていれば――どうなっていたか――
 偲雪の。他者への精神干渉は、これは想像以上の……

「――ねえねえ、チョコはある?
 ケーキは? スモアは? キャラメルは? ドーナッツは? バウムクーヘンとかは?」

 刹那。ツクヨミに代わって偲雪との会話を繋いだのは、マリカであった。
 こんな場所ですら望めば洋菓子も出てくるのかと――
「え、ケーキ? うーん、ごめんね。和菓子じゃないとちょっと用意できないかも……」
「ああ、そうなんだ――いやいや別にいいよ!」
 ――どうせ。冥府のハーデスが差し出すものを食べるつもりなどなかったのだから。
 ネクロマンサーの常識☆ 豊穣ではこういうのなんていうんだっけ?
「ああ、そうそう」
 ヨモツヘグイ、だね♡
「――まぁそれは良いんだけれども。それより常世穢国って不思議な名前だね」
 常世は不変の神域で、穢土は穢れたこの世。
 生者と死者が存在する街。そんな両者をかどわかして……
「作りたかったのが――差別のない街なの?」
「うん! だってさ、嫌じゃない? 誰かが誰かを見下すなんて……私はいやだよ」
 偲雪はまるで落ち込む様な反応を見せるものだ。
 鬼とヤオロヨズの軋轢。それほどまでに辛かったのかと。

「俺、偲雪さまの理想、好きだなぁ」

 であれば。その思想に共感する者も――いるものだ。
 イーハトーヴが羊羹を一つ頂きながら偲雪に言の葉を。
「偲雪さま、はじめまして! 俺はイーハトーヴ。
 こっちの兎のぬいぐるみはオフィーリアだよ!」
「わぁ……! かわいいね! 兎のオフィーリアさん? よろしくね!」
 ぬいぐるみを介して和気藹々としながら――彼の思考にはかつての出来事。
 ……己の肌を何度呪ったかわからない。
 差別から解放されても、長く生きられない身体は今も己の心も蝕んでいる。
 この世界で出会った大好きな皆にさよならを言う日が来るのは――怖いもの。
 みんな笑顔で過ごせる永遠の理想郷なんてのがあったら、とても素敵で……
「でも」
 だからこそ。
「外の家族や友人と離れ離れになっている人がいるなら――
 偲雪さま、帰してあげられないかな?」
 儘ならないことがあっても。
 大切な人達との繋がりはかけがえのない幸せだから。
 だから――帰してあげられないだろうかと。
「?? どうして? じゃあ外の人達も皆『こっち』に来ればいいんじゃないかな?」
 だけど。偲雪は無邪気なままに――
 外ではなく、内の事を考える。だって此処が理想郷なのだからと。

「……貴女は、笑顔を護るためならば、何をも厭わないのですか?」

 さすれば、星穹は語る。
 茶菓子を頂きながら、しかし視線だけはまっすぐに偲雪へと……
 笑顔は大切な事です。
 守りたいのでしょう。それから、共にありたい。大切だから、幸せにしたい
 ――それは、分かります。私にも、大切な人たちが居ますから。
「私では力になることは、できないのですか?」
「出来なくはないよ――私と一緒に歩んでくれるなら、すっごく嬉しい。
 この街に残って、私と一緒にずっといてくれるなら……歓迎するよ」
「――――」
 星穹は、この国が好きだ。
 刀と転機を授けてくれたこの国を――言葉に出来ない程大切に思っている。
 だから。この国を良くしたいと思っているならば。
 ……共感する所もあるのだと。
 彼女の手を握らんとする様な――衝動にも、些か駆られるもので。

「貴方に夢を今生きている人に託す、という選択肢は無かったのですか?」

 けれど、同時に。
 朝顔は問うものだ……偲雪の理想郷へと。差別なき世を齎したいというその想いは――今生きている人の思いも努力も否定しているのではないか?
 現世の者達が、そこまで信用できなかったのか?
「今の帝も遮那君も貴方と同じ未来を目指している……そしてその結果、豊穣は変わりつつ在る」
「だけど。きっとなくなったりしないよ。私だったら――出来るんだ」
「あらゆる人々を塗りつぶして、ですか?」
 夢は素敵だ。心の底から、そう思う。
 同じ時を生きていたであろう星影の初代も。
 舞芸で平和と笑顔を齎そうとしたと聞いてましたから尚更。
 だけど――駄目だ。
 その役目は、今を生きている者達だけの歩みの中にあるのだと。
 そして何より彼女には。
「夢があるんですから……!」
 この今の世の中でのみ、成し遂げたい事が……と。
「偲雪さん。色々と教えてくれてありがとう。でも、最後に一つ聞いておきたいな。
 偲雪さんは、この理想郷を広めたいと言ったけれど……
 それはもう一度、この国の帝になりたいという事?」
 ――それとも、新しく国を作りたいのかなぁ?
 直後。問うЯ・E・Dの視線は――真っすぐに偲雪へと。さすれば。
「うーん。どっちでもいいよ! 私が別に帝じゃなくてもいいんだ。
 ただ皆が笑い合ってくれるなら、それでいい。いがみ合う世界だけは――嫌なんだ」
「……そう、なんだね」
「うん!」
 彼女の笑顔は、眩しいばかりだ。
 ……彼女が帝であった時ならば、その理想は正しいものだったのかもしれない。
 けれど、彼女が魔種となった今では歪んでしまっている……
「理想は正しく、けれど手段が間違ってしまったんだね……」
 生前の彼女は、きっと。
 争いが嫌いだったのだと思う。
 話し合いで何とか自分の理想を叶えようとしていたのだろう。
 彼女の言い伝えを聞く限りでも――そうだと思う。
 だから、こんな。

 ”話し合い”で相手を洗脳する能力など得てしまった。

 神使達ならばともかく。只人ならば容易く呑み込めてしまう、力を……
 止めるしかないのだろうか。彼女をどうにかして。
 ……死者である彼女を止める方法が如何なるモノであるのかは、まだ知れぬが。
 と、思ったその時。
「成程。豊穣郷の近況を、ずっとずっと気にかけていらっしゃった訳ですね」
 直後。言を紡いだのは玉兎である。
 偲雪へと拝謁し、彼女の歓談に応じ、そして。
「しかし――ご存じですか? 今や甲斐有って、獄人と八百万の融和が果たされつつありますわ。今代の帝……霞帝の下に。無論、伝えられるように偲雪様が遥か昔にこの未来を思い描いていたならば、成程『正眼』の二つ名で呼ばれるのも頷ける識見です」
 ですが、ならばと。
「若しよろしければ、今度は偲雪様が高天京に来訪なさって。
 ご自身の目で確認するのはいかがでしょう?
 ――現世の高天京にもご興味がおありなのでは?」
「うーん……そうしたいけれど、私は死んじゃってるからね。
 この森以上には動けないんだよね――もっと言うと、私の本体は『遺骨』なんだ」
 玉兎の言は……真の意もあり、同時に探りの意もあった。
 外に出る事が可能か否か。正直に答えるかは分からない所であったが……
 しかし偲雪はなんというか。どこまでも無邪気だ。
 質問には虚偽なく応えるし。敵対的な感情が向けられる様子もない――
「『遺骨』は一人でには動けないものでしょう?
 だから私はこの街や森以上には動けないんだよ」
「――ただし、賛同者が増えれば別、か?」
「まぁそうだね! 皆からちょっとずつ力を貰えばいつかもっと外には行けるかも!」
 同時。愛無は再度別の探りを入れていた。
 彼女の力が、領域がどこまで広がる可能性があるのか……
 復興の最中、不安定な豊穣にとって彼女の思想と存在は極めて危険。
 平和という名の甘美は、人の心に蕩ける様に浸み込む事もあるのだから。
「いずれは高天京にまで遊びに行けるやもしれぬ、と」
「うん! きっとこのままの調子なら、そう遠くはないと思うよ? だってね私が蘇ったのは随分昔だったんだけど……森にまで範囲が広がったのはつい最近なんだ。えーと、なんだっけ? 開国……の影響とかなんとか?」
 首を傾げて口淀んでいる様子だが――彼女の力が増幅されたのは、ここ最近。
 海洋王国との接触以降に広がり始めたのか。
 恐らくは豊穣国内を出入りする人間の増加に伴って、と言う事だろう。開拓精神にあふれる海洋王国の者に感化され、豊穣国内を旅する者が増えていないとは言い切れないし……いやもしかすればこの街には、更なる冒険を試みた海洋王国の者もいたりするのでは……?
 想像以上に彼女の力はここ最近で急激に増しているのかもしれない。
 ましてや最近は行方不明者を探す為に入る者もいるのだ……
 まずい。要救助者と潜在戦力、信者の数と領域の展開速度……
 それらが仮に比例しているのであれば。
 一刻も早く彼女を止めねば、敵の数もまた急速に増えていくかもしれない。
「ほう――しかし。いずれ悪意を持った侵入者が来るかもしれないのでは?
 例えば直接遺骨を狙うと言った手段がないわけでもあるまい」
「うーん、でもね。祠に近付く人がいたら大体私が『分かる』し。仮に近づけてもそういうのはディリヒと雲上が大体全部なんとかするからね。あの二人の手が回らなくても、えーと、守人っていう……なんだろう。ディリヒに従ってた武士みたいな人達もちょーっといるし……」
 愛無は探る。時間の猶予と、敵の戦力がどの程度あるのか……
 どうも、軍隊と言う程ではないがある程度動ける戦力もあるらしい。こういった詳細は偲雪よりも今名前が出た連中に探りを入れた方が正確だろうか? まぁともあれ。

「貴方の志はわかりました――それ自体は素晴らしいものだと思います」

 彼女の言を一通り聞いて――ルル家は再度、言の葉を紡ぐものだ。
 皆が笑顔で暮らせる世界。ああ確かにそれは理想郷というに相応しい世界でしょう。
 それには拙者も否はありません。しかし。
「拙者は貴方の言う様な世界から来ました。
 拙者自身も、苦しみや悲しみを感じず、笑顔で幸せだけを感じていました」
 それはとても楽な生き方です。それを悪いとは言いませんが。
「でも『そう』でなくなった今、拙者は思うのです。
 目を閉じて、楽しい事だけを感じて生きるのはとても悲しい事だと」
「――そうなのかな?」
「ええ。きっと『そう』です」
 それはきっと、かつてそうであった者にしかわからない事です。
「拙者、偲雪殿の事は好きですよ。だから貴方が悲しむところを見たくはありません」
 故にこそ。
「――貴方の夢を叶えさせる訳にはいかないと思うのです」
「…………」
「偲雪殿」
「――貴方は『そう』でなくなる出来事があったんだね」
「……ええ」
「でもね。もう無理なんだ」
 偲雪は、言う。ルル家に。いや、神使の皆に――もう己は止まれないのだと。
 『出来る』と思ってしまって。
 『出来る』手段がこの手の内にあるのならば。
 きっと。私は自分で止まる事は絶対にない。
 誰かと誰かが争うぐらいならば。私が皆を引っ張って行ってあげる。

「私が嫌いなら――私を止めてね。
 私が好きなら――私と一緒に歩んでほしいな」

 彼女はただ、微笑んでいた。
 彼女はただただ――微笑んでいた。


 ※偲雪に対し、リーディングなどの類を使うと逆干渉を受ける様です。
 ※偲雪の本体は『遺骨』であることが判明しました。
 ※この城のどこかに在る『遺骨』を破砕すると偲雪に影響があると目されます。

成否

成功


第1章 第20節

フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
金枝 繁茂(p3p008917)
善悪の彼岸
猪市 きゐこ(p3p010262)
炎熱百計

 ――偲雪との語らい。
 多くの者が意志を交わせた中でフラーゴラは――彼女の思想を認めがたかった。
「……偲雪さんは、誰も見ていないよ」
 相手のことを考えていない。何も見ちゃいない。
 結局、偲雪のやっている事は洗脳と同じなのだ。
 ……相手を殴って言うことを聞かせるのと同じ。
 だからフラーゴラは動き出した――
 料理を作っている厨房はある? 寝室は? 武器庫は? 貯蔵庫は? 資料庫は――?
 可能な限りの多くの情報を偲雪より聞き出し、そして。
「この地は、歪だよ」
 探っていくのだ。この城内の地形を、地図を。今頃潜入している者達の支援となる様に。
 気配を殺し誰ぞと知れぬ雰囲気を纏いて潜入するもの。
 ……いざいざバレても問題なし。派手に騒いで演技の囮となれば――一つの助力になるかと思考して。
 特に彼女は『出入り口』の類を記憶せんとしていた。
 『万一』の際は其処が重要に――なるのだから。
 そして同様に城の中で行動せんとしているのは繁茂もであった。
「……霊魂。なるほど、確かにここは黄泉の国と言えますか……」
 彼は天守閣へと案内される道筋を外れ、周囲を索敵せんとしていたのである。
 その折。城の中に見えた存在は――霊魂の類であると感じる者達。
 ……あれが偲雪を護る守人という存在達であろうか?
 魔種たる偲雪の配下であるが故か、戦う力を感じる。強制的に成仏させる事は叶わぬか――
「しかし。それならばそれで結構。城の中を今暫く拝見させて頂きましょう」
 聞き耳を立てて彼は周囲から情報を探らんとする。
 確かに感じるのだ。この城から違和感を。
 足元。地下でもあるのだろうか、そちらの方より気配を感じながら。
 どこに入口でもあるのかと。守人らの眼をなんとか掻い潜らんとしつつ……

「なるほど……よーくわかったわ。
 一つの意思の元に個人の意思を剥奪し完全管理された幸福な理想郷ね? ……ッケ!
 そんなものがまかり通る世の中が来た方が良いだなんて――お目出度い事だわ!」

 同時。上階にてきゐこは偲雪へと――激しき嫌悪を吐露していた。
 不変であるのが素晴らしいぃ? 技術も精神も試行錯誤して前に進んでこそ!
「清き水には魚は住まず。人なんて悪虐非道、喜怒哀あるもの。
 それらを否定して、己の気持ちがいいだけの上辺だけを掬って作り上げた理想郷なんて。
 ……お前とその理想郷凄く嫌だし嫌い!!」
「――そう。悲しいね、貴方はどうしても外の方がいいんだ」
「そうよ! 痛みと悲しみが避けられない世界なのだとしても、こんな気持ちの悪い所よりはね!」
 ぷんす! 吐き捨てる様にきゐこは紡ぐものだ。
 ――相も変わらず笑顔のままに見据えてくる偲雪を警戒しながら。
 彼女が何も動かぬとは限らぬ。そう、途端に鬼の形相を見せてこぬとも限らぬのであれば……
「そう怒らないで? お腹空いてるのかな――どう? お菓子でもいる?」
 ――結構! 帰るわ!!
 この様な場所に長居は無用だと。声を張りたて激昂し。
 偲雪への嫌がらせを行うかのように――差し出してきた菓子を、手で弾き飛ばした。


 ※騒ぎが上階を中心に起こっており、下の方の注意が比較的散漫になっている様です……

成否

成功


第1章 第21節

善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000668)
ツクヨミ
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
八重 慧(p3p008813)
歪角ノ夜叉
スースァ(p3p010535)
欠け竜

 初めて訪れる豊穣なる地。
 スースァにとっては何もかもが新鮮だ――が。
「ふ~ん、豊穣。豊穣ってのは歩いてたらこんな妖が襲ってくる場所……な訳ないか」
 そんな彼女にすら分かるものだ。この森と街が『異常』である事は。
 森の陰より跳び出る一体――狼型の妖怪が唸り声と共に彼女の懐へと。
 故、弾き飛ばす。
 五指を固めた拳の一閃にて。派手に吹き飛ばして『目』に付く様に。
「安全なルートの確保ってのは大事だからねぇ――さぁて」
 精々、もう少し暴れてやろうかと彼女は思考するものだ。
 こうして暴れ続けていれば街などを調べている者達から眼を逸らさせる誘導となろう――それに。なんぞやを調べたりする事はそういう知識やらに特化した者達がやればいい。少なくとも今のアタシでは向いていないのだから――
 そして同様に慧も森の方面で活動を続けていた。
 自らの師匠たる人物と言を交わして……
「ああ、そうだお師匠さん。
 どうせまだアレコレと森を探るつもりでしょう?
 ついでにこのお守りみたいなの――確認お願いできませんか?」
「ん、なんでさぁこれは?」
「さぁ……いつの間にか懐入ってたんすけど、関わりがあるかと思いましてね」
 取り出すのは――かつて、久遠なる森を探索した時に得た代物だ。
 いつの間にやら入手していた縁の一品。
 ……良いものにしろ悪いものにしろ、この地から影響を与えるような品ならば。
「逆に。こちらから『辿る』様な事もできないっすかねぇ?」
「……ふむ。なるほど、ちぃとばかし調べてみますかい。ただ期待は」
「はいはい。半分ぐらいに――留めておくっすよ」
 そして慧は森のマッピングへと移行する。
 仮に。これよりなんらかの情報を得たとしても……持ち帰れねば意味がないのだ。
 故に撤退時のルートをしっかりと確保するべく。
 眼を凝らし。場所を覚えて記録するものだ。

 天を眺めれば――あぁ。太陽が眩しくも輝いていて……

 同時。別の場所ではヴェルグリーズも調査の為に赴いていた。
 話に聞いた守人……一体如何なる存在達か……
「……街の方が賑やかだけれども、こっちでも動きがありそうだしね。
 特に干戈帝や、陰でこそこそと動いている存在――とやらも気になるし」
 街から出現しているのか。それとも森に集落や詰所でもあるのか。
 森に潜むならどういった場所が有効だ――? 彼はその目によって歩みを進めていけ、ば。
「んっ? なんだあの影……天狗面……?」
 刹那。ヴェルグリーズが天を見据えれば――空に浮かぶ一つの影があった。
 初めは鳥か何かかと思ったが……違う。翼をもつ飛行種の様な存在であり、同時に。

 ――あれは魔種だ、という事もなんとなし分かるものであった。

 憤怒の感情を撒き散らし、街を見据えている。
 気配を隠しもせぬ輩……さて。声を掛けるべくかどうするか――と思っていれば。
「――何を見ている。お前は」
 気付かれた。と同時に急降下。
 ヴェルグリーズと激突する――咄嗟に構えたが故にこそ傷は負わなかったが、しかし。
「問答無用とは、喧嘩っ早いね。
 キミは誰だい? 神使とは思えない、何の為に此処にいるのかな?」
「応える義理はないな。が、理由だけは言ってやろう」
 ――気に食わない女を殺す為に此処にいるんだよ。
 そして。ヴェルグリーズら神使も邪魔だからだ。
 魔種と神使は相容れぬ存在。故に今この場で排除しておくと――闘志を漲らせれば。

「いやはや。闘争かね? 私を抜きにして、死合おうなどつれないではないか――混ぜよ」

 直後。どこから嗅ぎ付けたのか――干戈の名を持つディリヒが乱入してきた。
 衝撃一閃。天狗面の男へと放つ一撃があらば……
「チッ。またお前か……煩い奴だ。構っていられるか」
「ハハハ! そう思うのならばこの地に来なければいいものを!」
 天狗面の男は舌打ち一つ共に、飛翔するものだ。
 ヴェルグリーズは見据える。その光景一つ一つを見逃さぬ様に。
 今後に備えて一つでも多くの情報を持ち帰らねばならぬのだから。
 天狗面は。干戈帝は。如何なる心を持ち、如何なる行動を常とするのか。
 そして彼らの力は――と。

『御機嫌よう干戈帝――それとも守人のディリヒ殿とお呼びした方が良いですかね』

 直後。退かんとする天狗面を追わんとしたディリヒへ――一つの言が放たれた。
 語り掛けたのは女王……否、ツクヨミである。ツクヨミは己が祝福により生み出した幻影を用いて彼と語らんとしているのだ――空にはファミリアによる鳥もおり、そこから得た視界により念話を放ちて。
『幻にて失礼。私はツクヨミと申します……
 用事があって此方にと伺いました。何をなさっているのです?』
「何をだと――? 知れた事。森に潜む不届きなる輩を滅さんとしているのだ。
 見よ。時折悪意や敵意を持った者達が紛れ込んでくる事がある――
 斯様な者達は通さず、滅ぼす事も時には必要なのだよ」
『それが貴方の御役目、だとでも?』
「然り。まぁ……私は強い者が好きだ。強い者との闘争も好きだ。
 そういった趣味の面がある事までは否定せんがね」
 そして。ディリヒとの語らいで確信に至る――彼は楽しんでいる、と。
 あまり街やこの地を護ろうとする気概が前面に出ている訳ではない。ともすれば彼は、街を護る事よりも己が私欲を満たす事こそを優先する人間なのかもしれない……更なる情報を得んと、続けて言の葉を紡ごうとする――が。
「しかし。一方的に見られ話す立場というのも偶には悪くないが。
 甘んじる気もないのでな。私と話したくば、直に来るが良い」
『……考えておきましょう』
 直後。幻影が一閃される。
 実体はなく。斬られてもツクヨミにダメージが在る訳ではないが――神秘の力でも伴っていたのか、幻が霧散するものだ。
 干戈の帝……ディリヒ・フォン・ゲルストラー。
 闘争に身を狂わせる男の笑顔は、まるで虎の様であった。

成否

成功


第1章 第22節

彼岸会 空観(p3p007169)
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華

「婆娑羅ですね」
 空観は言うものだ。先程現れた『空』に対する言動を――
 自らの世話になった者達への仁義を通す粋、洒落だけの身なりではない。
 ――ならばこそ此処は共に行くべきかと。
「再度あの御仁に相対した所でまた物陰から矢を射られ有耶無耶にされるのも面白くないでしょう。我々と進むのであれば、再度あの様な事があれば率先して射手を斬り伏せてみせますが……如何ですか?」
「――お前らと息があうかどうかはまた、別の話になってくると思うんだがなぁ」
「さて。確かに完璧にして万全には至らぬやもしれませんが。
 我々はこの森の事をまだ知らなさすぎる……
 故に、轡を並べる士は多い方が良う御座います」
 語り掛けるは件の『空』へと、だ。
 先程の応酬を経て確信できた事もある――此れより何を行動するにせよ一人では無謀だ。敵には見えぬ戦力があり、ともすればまたも似たような形で追撃を払われるかもしれない……いやそれだけならまだいいが、最悪包囲され圧殺される可能性も。
「お喋りしてくれたと思ったら急に襲ってくるんだもん。びっくりしたー! なんなんだろうねアレ、情緒不安定なのかな? あーいういきなり人を叩いてくるの、良くないと思うの。ねぇ~、もぉ~!」
「そうですね。話しをしたかと思えば仕掛け、離脱して忙しない方でした。
 ――次は逃さぬ為にも協力するのが良いと思います」
 ぷんぷん。おこおこタイムが頬を膨らませ、その隣では沙月も言に賛同を。
 さすれば先の流れを思い起こすものだ。
 もしも先程タイム達にしろ空にしろ一人であったのならどうなっていた事か……
 あの場では流れたが干戈の目的次第では今後直接ぶつかりあう事もあるかもしれない――ならば、その時に備え空観の言う様に共に行動した方がきっといいと彼女は紡いで――

「それに――ここにいるのはか弱い女の子ばかりなのよ? 見捨てていくの!?」

 タイム、迫真の演技を炸裂させる。
 ……でも後ろの方では『えっ?』っていう顔をするのが複数人いて。えっ?
「ええっ? か弱いって言うにはちょっと無理な気がするんだけど、花丸ちゃんは。
 ねぇねぇタイムちゃん。ね~聞いてる? 聞いてるー!?」
「花丸ちゃんは黙ってて! 今真面目な話してるんだから!」
 そんなーっ! ひどいよーっ!
 花丸ちゃん。タイムの膨らんだ頬を指でつんつんする抗議をバッサリと斬り捨てられる――一方で沙月は思い悩む様に顎に手を当て。
「か弱いですか……そんなことはないと思っていましたが……
 いえ。力はそんなに強くはありませんからね。
 確かにもっと精進すべき余地があると考えれば――『か弱い』のやもしれません」
「どうして『か弱い』に対してこうまで疑問と概念的定義する奴が多いんだよ。
 まぁ――確かに複数人で行動した方が良いってのは、その通りだな」
「では」
 ああ。と空は一息付いて。
「オレもわざわざ敵を増やす様な真似をする意味はねぇ――
 味方、っつーよりも敵対しない意味で、協力してやるのはやぶさかじゃねぇよ」
「うんうん! 守人を相手にしながらディリヒを相手にするのは空さんも面倒でしょ?
 とにかく私達で争わなければ兎に角ヨシッ! よろしくね!!」
 笑顔咲く花丸の表情――そうだ。この事件はまだまだこれより『先』があるだろうから。
 協力できる人は一人でも多い方が良い……故に。
「然らば……更に協力出来そうな人材を求めていきましょうか。
 確か巴さんというお方もこの地域で動いているはずです」
「そうだね! そうと決まれば他にも単独行動してるがいればどんどん声を掛けちゃおうよ! 協力できるなら大勢の方がいいものね! いこいこ~!」
「気は緩めません様に。どこに敵が潜んでいるとも限りませんし、足元も不安定ですので。気を抜くと転ぶことも容易いかと――あっ言ってる傍からタイムさんが」
 更に情報と人手を求めて彼女達は動いていくものだ。
 先んじて入っている『巴』なる人物。
 空よりも好戦的ではなく、説得の難易度もきっと低い筈だ――空観にタイムが森の彼方へと目を向け、沙月が卓越した嗅覚によって人の匂いを探し。花丸が冒険のいろはの知識と優れた三感によって更に探知の範囲を広げて歩を進めていく。
 ここは敵の領域なれど、神使達に協力する者も多いのだから。
 希望はある。多くの者達の協力によって――事を成していこうと思考するものだ……

 と。彼女達が行動をし始めた頃であっただろうか。
 その間に『街』の方では、玄武を中心とした神使らの行動が始まらんとしていた……


 ※『空』が神使達と協力してくれるようです――
 ※今後の常世穢国編において『空』は神使側の味方側として動く事が期待されそうです。

成否

成功


第1章 第23節

仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切

「くぁ――!!!!!」
 秋奈、死地(?)より生還。
 手足をバタつかせ現世に舞い戻るッ――! うぉーなんか見えたぞー!
 あれマジヤバだって。絶対! こりゃ行くっきゃねぇなぁ――!!
「存在しないはずの都に眠るお宝が私ちゃんを待っている!
 街が賑やかの今! 今だけが秋奈ちゃんのターンってヤツよ!!」
 ハイテンション。一に武器。二に暗視。三にテンション。四でゴー!
 突入前にはぁー……安・全・確・認! 意識は朦朧ー……ヨシ! ヨシッ!?
「うおおおおどけー! 秋奈ちゃんのお出ましだぞ――!」
「こらー! 何者だお前、やめろ! 止まれ――!!」
 しかし。先程見えた地下への入り口がある城に入ろうとした途端警備の――守人に止められる秋奈。どけー! どくかー!
 騒がしくなる入口。しかし彼女の騒動が、城への潜入を試みる者達から眼を逸らす一助となっていた。そう、これは天才秋奈ちゃんの密かなる策略…………だったのだ?

「秋奈は何をしている……? まぁいいか。私は街を巡らせてもらうとしよう」

 そんな秋奈を横目で見据えながら汰磨羈は街へと赴く――
 かつての帝に謎の街。
 いやはや、なんともきな臭い、が。
 単に疑って、はなから色眼鏡で見過ぎるのも良くなさそうだ。
「ふむ……とにもかくにも笑顔が溢れ、か。
 少なくとも傍目には住民たちが幸福そうにしてはいるな……」
 故に。可能な限り彼女は公正なる目にて市居の暮らしを覗き込むものだ。
 此処が統治されているのならば、どうやった所で治め方の影響が滲み出るもの。
 道行く者達に声を掛けてみれば全て偲雪を称えるかのような感情を発している――
 ……だが。どうにもこうにも『笑顔』ばかりだ。
 人に在って然るべき喜怒哀楽の何かが――欠けているかのような印象も得るもの。
「……しかし、まぁ、なんだ。腹が減ってはなんとやら。
 店主よ。此処の名物とやらは何か――ないのか?」
「おお、それじゃあこれはどうだい! 偲雪様がお好きな羊羹だ!」
「ほほう。これは旨そうだな」
 故に一口。これを頂いていくとしようか。
 ――ああ。何やら己も、心の底から笑顔に溢れる様な感覚を得るものであった。

「……歪だな。変わらぬものなどないのだ、特にヒトの心は」

 同時。アーマデルは汰磨羈同様に街を眺めるもの。
 しかし。彼の心はこの街にはない……
 時を経て肉体が変じ、老いてゆくのに、心が変わらぬ訳などあろうか。
 時を経ても変じぬものであるなら──
「それはもうヒトではない」
 ああ。成程、確かにここは人ならざる霊の住まいなのだろうな。
 彼は巡りて往く。城の周辺に妙な気配はないかと……
 この街が正常であるとはどうしても思えぬから。
「……んっ。また行き止まりか。この街は所々行き止まりが多い気がするな……」
 そして。気付く。どうにもこの街の造りは――奇妙だと。
 なんだか歩きづらい。風が通りにくく、人の歩みもまたし辛い……何故だ?
 まるで一所に留まらせる様な作りになっている様な気がするものだ。
 ……ここは自らの故郷ではないが。
 我が神は死者と生者の境界を保つもの、その眷属の使徒の使命も、また。
 死者は留まり、生者は歩き続けるもの。
 同じ場所に留まり続ける事は出来ないし、宜しくないのだ――
「あぁ、だから、か?」
 ここは留まらせる様に作っている。
 ――死者の国だから。

成否

成功


第1章 第24節

佐藤 美咲(p3p009818)
無職

「さて――いきなり貴方がやってくるんすか」
「うむうむ……あまり民を惑わせる様な事は言ってほしくないのだが、無理かね?」
「さぁ。そっちが退けばいいんじゃないすかね?」
 そして街の一角では美咲が引き続き活動を進めていた。
 街の者達の矛盾を突くような扇動を続け。
 嫌がらせを繰り返しながら――あえて人気のない道を歩くもの。
 さすれば誰ぞが接触しに来る、とは思っていたが……常帝が来るとは。
「干戈帝は来ないんすか? 邪魔者を排除したいなら」
「あの馬鹿は森の方で忙しくてな。街で何が起これば私という訳だ」
「……そうすか。で、あたしをどうするつもりで?」
「どうもせんよ。止めるならな」
「――止めないと言ったら?」
「困る」
 にこやかな、本当に『困った』様な笑みを――彼は示すものだ。
 ……だがそう簡単に帰らせる訳にはいかない。
 これこそが別動隊の為の陽動でもあるのだから。
 干戈は森で活動し。偲雪は皆を歓待し。そして常帝が此処にいる――
 誰もが祠を気にしない。その時間を少しでも長く……

「――むっ? なんだ、この感覚は……まさか」

 と、その時。
 美咲を路地裏の壁に追い詰める常帝の様子が――変わった。
 ……さては別動隊が目的地へと辿り着いたか? ならば時間稼ぎの役目は果たせていたか。
 同時。一瞬の隙を突いて彼女は人気の多い場所へと逃げ込むものだ。
 人気の多い場所でなら嫌がらせはしてこないだろうから……
 今は、まだ。


 ※陽動により『常帝』の動きが鈍っています――城での動きの感知が遅れたようです――

成否

成功


第1章 第25節

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
煉・朱華(p3p010458)
未来を背負う者

「偲雪殿、先にも言いました――拙者は貴方の事が好きです。
 そして、だからこそ貴方を止めます」
 城にて相対するルル家は、偲雪に紡ぐ。
 ……彼女の事は好ましい。それはルル家の本心だ。
 だけど、だけれども――駄目なのだ。
「これより先。お互いがどうなっているかはわかりませぬ。
 ですがもう一度こうして会い、話す事が出来る事を祈ります」
「うん! 私もだよ、お話はいつでも待ってるからね!」
「……ええ。それでは、偲雪殿。もう一つ」
 例えこれより先に戦いが避けられるのだとしても。
 例えこれより先に刃交わす未来があるのだとしても。
 もしも――叶わぬ願い成れども。
「いつか。拙者と友達になっていただけますか?」
 最後の瞬間まで。きっと諦めないと誓いましょう。だから。
「拙者の名は、夢見ルル家です」
「ルル家だね――うん分かった! 絶対ね! 約束だよ、ルル家!」
「はい、勿論です」
 指切りげんまん。そんな仕草を見せる偲雪――
 いつか。真に約束の指切りが出来るだろうか。
 思考を馳せるルル家――に更に続いたのは、朱華だ。
 彼女もまた思う。偲雪は……どこまでも純粋なのだろうと。
 話していて好ましくすら思う。きっと彼女の理想郷は、それはそれで素晴らしいのだろう。
「けど、だからこそ、朱華も貴女を止めるわ」
「どうして? 皆が笑い合える世界が、嫌なの?」
「いいえ。だけれど……それは違うのよ。きっと『正しく』ないわ」
 人の、一生は。
 たくさん笑って、ときどき泣いて……
 好きなものを食べたり、こうして穏やかに語り合ったり。
 時に辛い別れもあって、新たな出会いに、新しいことに胸をときめかせて……
 酸いも甘いもあるからこそ命は輝くんだ――
「貴方のやり方は、全てを塗りつぶすだけ」
 他の色を認めない。酸いのは嫌だと駄々をこねている様子。
 ……こうして招いてくれて、話もしてくれたのに御免なさいね。
「貴方とは一緒には歩めない」
「……そっか、残念だな」
 しょんぼりと。そんな様子を見せる偲雪――
 その姿を見て、風牙は想うものだ。

 なあ、偲雪さん。
 あんたはさ、きっとたくさんの『汚いもの』を見てきたんだろう。
 それを綺麗にしたくて、頑張ってきたんだろう。
「だけど、あまりに汚いものを見過ぎたから、目を背けたくなったんじゃないか?」
「――? 何の事? 私は『汚いもの』なんて見てないよ。
 だって、ね? 皆きっと『話せばいつか分かってくれる』人達ばかりだから!」
「……本当に。本当に心の底からそう思ってるか?」
 城の上階――偲雪と語らう一人が風牙だ。
 偲雪はいつまでもにこやかだ。けれど、その顔の一歩下には――何がある?
 汚いものを見てきてない? そんな筈はないのだ。
 だって。世界が本当に綺麗なら。

 ……貴方は殺されていなかったろう?

 だから、綺麗なまま変わらないものを求めた……
 いつまでも枯れない氷の花のような世界を。
「偲雪さん」
「んっ?」
「オレ、止めるよ」
 貴女を。
 オレも、貴女と同じ想いを持っている。
 ――『誰もが笑顔で暮らせる世界』
 だけど違うんだ。
 全ての人が永遠に、同じ思想で、同じ日々を繰り返す。
 それは、全ての人の命を奪い、平らかにするのと変わらないと思うから。
 あの《転輪穢奴》が至った結論と同じだと思うから。

 ――三者は一端退出する。手を振る偲雪に、背を向けて。
 が、再びこの城へと舞い戻ってくるのだ。
 玄武と共に。この城のどこかに在るであろう、地下を目指して……

成否

成功


第1章 第26節

レッド(p3p000395)
赤々靴
古木・文(p3p001262)
文具屋
星影 向日葵(p3p008750)
遠い約束
釈提院 沙弥(p3p009634)
破戒求道者

 そして。偲雪との語らいはまだまだ続く――
 退出した者がいても、まだ残る者もいるからだ。
 彼女の出してきた料理もまだまだ残っていて……
「ははは――こんなに楽しいのは久しぶりかなぁ。
 少し暑くなってきたから風に当たってくるよ」
「うん、いいよいいよ無理はしないでね! そこから外に出れるから!」
 ああ。ありがとう――そう偲雪に紡いで席を離れたのは、文だ。
 外の景色が見える場所に赴く……と、見せかけ往くは城内の別箇所へ。
 ――見つからぬ様に城の探索をしようというのだ。
「……騙しているようで少し気が咎めるけど、今の内にしか出来ない事があるから、ね」
 内部の構造がどうなっているのか。
 遠い場所からでも此方の動きが不思議と『見える』以上――無茶な探索こそできないが。
 しかし彼の行動もまた、玄武らと行動をしている別動隊の陽動になっていた。
 足音を忍ばせ、階下に降りんとして……しかし。
「……くっ。この辺りは結構な人数がいるみたいだね……?」
 見れば、いた。
 武者の様な姿をした者達が幾人も――こちらに敵意は無いように見えるので、あくまで只の警備だろうか。しかし不穏な行動が見られればどうなるかは分からない……
 ……重武装だ。笑顔を謳っておきながら、あの武装を使う事を想定しているのか?
 せめて食べ物の事を調べたいのだがと――彼は他のルートが無いか模索せんとしていて。

「……偲雪さん。私、偲雪さんと似た人を知っています」

 その頃。先の歓待場において――朝顔は偲雪へと言を。
 『その人』も差別が無くしたいと、周りも賛同した事があった。
 ……結果、変な儀式に行き着き。その贄として沢山の人が笑い逝った。
 それを見た私は――絶望してた。
「けど」
 そんな国で。
 誰にでも平等で。
 誰よりも輝き笑う子と出会い恋をしました。
 ――その尊さを、価値を私は知っていたから。
「いい人に、出会えたんだね」
「はい。でも――だからこそ」
 偲雪さんの世界は、確かに平和だけれども。
「悲しみも苦しみも在るからこそ、何かを尊いと思う心が生まれるのだと。悲しみも苦しみも必要だと信じてるから。それらを消して、笑っているだけの日々を、私は幸福とは言いたく有りません」
「――朝顔ちゃんは、この国はきらい?」
「……認められない、と言った所でしょうか」
 だから。
「だから私は……貴女と戦います」
 どうしても、譲れない一線があるのだからと。
 彼女もまた席を立つものだ。
 ――これを。偲雪との最後の語らいだと思って。

 一方で。何か他に道はないのかと――沙弥の思考は深まるばかりであった。
 歓待されて近づき。寝首を掻くような手段でもし仮に術を止めたとしても。
 毒を盛って彼女の理想を殺したのと同じ事を繰り返すわけ?
「……偲雪さん。此処にはお墓はないの?」
「うん? お墓……? 一体どうしたの?」
「偲雪さんは、例えば亡くなっているのでしょう? なら――きちんと弔わせてほしいわ」
 それは本心。偲雪のやり方に賛同は出来ないけれど。
 でもこの城が遺骨を埋めた墓標なら――せめてと。
「うーん、うーん……地下にはあるんだけどね。でもあそこはなぁ……」
「――何か不都合でも?」
「ちょっと大事なところだからね。そうそう簡単には、といかないんだよなぁ……
 雲上やディリヒに怒られちゃうかも」
 ……近づかせたくない場所なのだろうか。死者の未練を晴らすのは苦労するものだけど、こうして話が直接出来るなら――話が早いものだと思っていたのだが。
「そう……なら、ねぇ。もう一ついいかしら?
 もしも。鬼とヤオヨロズの融和、誰もが差別をしない世界が訪れるなら」
 例えば他の誰かが違うやり方でそれを為しても
「――貴女は満足して逝けるのかしら?」
「そうだね。もしも本当に皆が。だれ一人として悲しくない世界が作れるのなら――」

 その光景が見えたのなら、未練はなにもないかもね! と。

 彼女は紡ぐものだ。そして――
「桃もお酒も美味しーっす! 優しい偲雪さんだーい好きっす!」
「うんうん、どんどん食べてね! 私もたくさん食べるレッドちゃんの事、好きだよ!」
 わーいっす!! と、そんな偲雪の膝元に飛び込んできたのはレッドだ。
 彼女は上機嫌。モシャモシャモシャ・グビグビ・ハグハグ~!
 ぷは~いい気分っす……あぁ、そうだ。
 偲雪さんは大事な記憶、大事な思い出の場所とかあるっすか?
「この大事な高天御所の中にもそういとこあるっすか?
 良かったら案内と一緒に思い出話語り聞かせてほしいなーっす」
 偲雪さんの趣味とか恋人とか好きな物とか幼い時の事とかもっともっと。
「偲雪さんの事いろいろ知りたいなーっす」
「うれしいなぁ。レッドちゃんは良い子だね……」
「そしたらボクは偲雪さんとの思い出忘れないでいるっす」
 ねぇ偲雪さん。死後の本当の死って知ってるっすか?
 それはね。
「……忘却っすよ」
 人は。人に忘れられた時に、真なる死を迎えるのだと。言え、ば。
「あはは! それなら大丈夫――私は忘れないから」
「ずっとっすか?」
「勿論。ずっとだよ。この国にいればずっとずっと――」
 忘れないであげる。私が必ず皆と一緒にいるから。

 が。その時。

「う、ん? 何か――変だなぁ」
「偲雪さん? どうしたんすか?」
「…………あっ。まずい。ごめんねレッドちゃん! ちょっと急用!」
 膝枕してもらっていたレッド。急に立ち上がった偲雪により後頭部が床に激突――
 何事かと。思えば焦る様子の偲雪の身が――ブレる。
 これは。なんだ? レッドらが確かに触れる事が出来ていたというのに、幻だったのか?
 疑問に思いてしかし――偲雪は急ぐ様に。
 文字通りにその場から突如として『消失』した。

成否

成功


第1章 第27節

イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
星穹(p3p008330)
約束の瓊盾
百合草 瑠々(p3p010340)
偲雪の守人

 偲雪が身を消したのには理由があった。
 それはそもそも彼女が既に判明している様に、霊魂である事が一つの起因。
 ……彼女には本体とも言うべき『遺骨』があったのだ。
 それは地下に安置されている。歴代の帝の遺骨が代々保管される場所に――
 そこに、侵入者があった。
 本来ならば、偲雪の『力』によりすぐに侵入者には気付けるのだが……今回は例外が幾つか。
 まず。神使達により偲雪や他の面々の眼が逸れていた事――
 四神玄武の力により、侵入する者達に隠蔽の加護が齎されていた事――
 それにより彼女は気付けなかった。故に焦りて……

「はぁ、はぁ。ごめんねさっきは突然いなくなっちゃって!」

 そして。やがて彼女は戻って来た。
 ……同時。城や街の方でなにやら騒がしい気配がしている。
 『侵入者がいたぞ――』『追え――』そんな言葉と感情が響き渡っていて。
「ふぅ。まさかあんなに近づかれるまで全然気付かないだなんて思ってもいなかったよ。
 やっぱりだめだね。とにかく早く『外』に出れるようになるぐらい、力をつけないと……」
「――外に出たいんだな? なら協力するぜ。
 話を聞く限りなら、遺骨とやらを運べばいいのか?」
「え、ホント!? あ、でも遺骨はダメなの。あれをね、あそこに在るべきものだから」
 と、その時。偲雪に賛同した一人は――瑠々だ。
 歪み合う世界はもう沢山だ。ウチも『前』の世界でたくさん見続けた。
「アンタの言う世界が広がるのなら――誰もが平和に過ごせるんなら、それが一番良い」
 ……魔種の言う事を、理解してしまった?
 瑠々は驚き半分。納得半分――己を見据えるものだ。
 自分の役割を忘れてまで、彼女の言いたい事がわかってしまった。
 なら、もういっそ墜ちる所まで堕ちてもいいか――
 瑠々は街を見据える。ああ――此処は良いな。
 みんながみんな、幸せそうな顔をして。
 ……あの輪がどこまでも広がるのも、悪くないか?
「ええ……私も、そう思います。ですから参りましょうか、偲雪様」
 そう。偲雪の語る『理想郷』が魅力的なモノも、いるのだ。
 例えば瑠々だけでなく……星穹もその一人。
 彼女の望む未来は、偲雪の目指す先にあると思うから。だから、彼女と共に往く。
 喩え其の道の先が。
「痛みを伴うとしても……」
「――星穹君」
 が。其処に割って入るのが――愛無である。
 ……愛無は星穹の様子がおかしいことに気付いていた。故にずっと気にかけていたのだ。
 彼女に何かあれば、海向こうにいる『皆』に――顔向けできん。
 心の臓を押さえつける様に平常心を保ち。心を読まれぬ様に仮面にて妨げ。
「まぁ待て。そう性急に決を出す必要もなかろう……偲雪殿もそう思わぬか?」
「うーん? 私は嬉しいけどね! 歓迎するよ!
 瑠々ちゃんも星穹ちゃんも! ねぇねぇイーハトーヴはどうかな――?」
「……そうだね。偲雪さま、俺、貴女とお友達になりたいな」
 そして。言の矛先はイーハトーヴにも向くものだ――
 さすれば彼は笑顔を作る。
 彼女とお喋りして、彼女の描く理想以上に――貴女自身を好きになったんだ。
「だって。俺は貴方を放っておけない」
 だから友達になりたい。
 ……もしもこの際。貴女と道を違えても。
 変わることなく――貴女が好きだから。

 イーハトーヴの胸中は星穹や瑠々と異なり、味方になろうと傾いている訳ではない。
 この先の未来に貴女の望むような協力者になれるかはわからない。
 だけど――少なくとも今は貴女を守る側の人間だ――
(……そんなに怒らなくってもちゃんと聞こえてるよ、オフィーリア)
 刹那。イーハトーヴの脳内に響き渡る声があった。
 それは彼の抱く人形からの声で……
(大丈夫、俺には君がいるもの。勿論ノルデとネネムもね)
 抱きかかえるものだ。大事な――君達を。

「友達……? いいよ! 勿論だよ! あ、ならねぇ……皆にはこれを挙げようかな!」

 と、その時。
 偲雪が差し出してきたのは……一つの、花だ。
 以前風牙が差し出した、瑞兆が形作ったと言い伝えられる一輪とよく似ている様な――
「似てるけど、違うよ。それは此処で作ったんだ」
 絶対に溶けない。もう一つの花。
 ――まるでスイレンの様な形をした花だ。
「ここの住人は皆コレを持ってるんだ。ここの住人の証といってもいいかな!」
「斯様なモノを頂いても、いいのですか? 誓いの証に――髪を切っても良いですが」
「ええ!? 星穹ちゃんの綺麗な髪を……!? はわわ、それは大変だよ!」
 この心が嘘ではないのだと星穹は彼女に証明したかった。
 その背後では冷静を装いつつも、万一の際は介入せんとする愛無の姿もある――が。
 さて。
「もう一度問うても構いませんか?
 偲雪様――『私は貴女の力になっても構いませんか?』」
「うんうん勿論だよ! ありがとね――星穹ちゃん!」
 星穹は改めて口にするものだ。己の決意を。
 ……さて。偲雪に対し、拒絶する者。理解はしながらも立ち去る者。受け入れる者。
 多くの者達がいた。多くの動きがあった。
「じゃあ瑠々ちゃん達の協力があるなら……やりたい事があるから、雲上達を呼ぼうかな!」
「――一体何を?」
「ふふ。それはまた後でのお楽しみだね!」
 にこやかなる偲雪。愛無の言に、口元に人差し指を持って行って。

 常世穢国の世は続く。今は――まだ。

成否

成功

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