シナリオ詳細
昇れや昇れ、こいのぼり
オープニング
●
こいのぼり。
ある異世界は、日本と呼ばれる地域で行われる行事である。
鯉と呼ばれる魚を模した吹き流しを棒につるし、大空を泳がせる。
同世界、中国と呼ばれる地域の伝説、『滝を昇りきった鯉が龍となる』と言う物語から、滝を昇る鯉には立身出世を意味し、子供達、とりわけ男児の健康と成長を願って設置されるものである。
今日では、日本、或いはそれによく似た文化を持つ異世界からのウォーカーにより、この世界でも広く知られ、一部の地域ではこの文化が継承されており、観光の目玉となる事も多いという。
――ピープル社刊『世界文化紀行・異世界よりの文化編』より抜粋
●
「シトリンクォーツは楽しめましたか?」
と、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は、いつものようにローレットで依頼を探している君達に向かって言った。
「実は、少々休日からは外れてしまうのですが、『コイノボリ』と言うイベントがあるのをご存知でしょうか?」
その言葉に、君達は頷いたものもいるかもしれない。
こいのぼりと言えば、アレである。鯉を模した吹き流しをつるし、観賞するイベントだ。
「それなら話は早いのです!」
と、ユリーカは笑うと、
「この『コイノボリ』なのですが、実は今からエントリーが可能なのです。必要な道具などは現地で支給されるので、手ぶらで行っても問題なし。美味しい料理も振舞われるそうなのですよ。観光がてら、遊びに行ってみてはいかがでしょうか!」
なるほど、と君達は頷いた。確かにシトリンクォーツの期間からは外れてはしまったが、それはそれ。大きな事件も起きたことだし、息抜きも必要だろう。
君達は、ユリーカの誘いに乗ることにした。
それが数日ほど前。
「おっ、イレギュラーズさん達はコイノボリは初めてかい!?」
陽気なオッサンに声をかけられたので、君達はええ、まあ、と返した。
川のど真ん中である。
水が膝のあたりまでを濡らし、そよそよと流れている。これはまぁ、程よく冷たく心地よい。
眼前、数十メートル先には、奇妙な生き物の大軍がいた。
魚である。
魚っぽい生物である。
それは、2の字型に身体をくねらせ、立っていた。全長は、およそ1.5~2mほど。要するに、大体人間と同サイズ、という事である。
その手――ヒレかもしれない――には、さまざまな種類の銃器のようなものが握られいた。魚っぽい生物がその引き金を――どうやって引いているのかはご想像におまかせします――引くと、結構な勢いの水が噴き出した。
「おお、今年の水流もすげぇな!」
陽気なオッサンが笑った。
「おっと、コイノボリは初めてだったな! いいか、アレが、コイだ!」
あれが。
「コイって言っても鯉じゃねぇぞ? 魔物の突然変異なんだか、異世界から流れついてきた奴なのか……まぁ、そう言う生き物がいるんだ!」
へー、いるんだ。
「でな、そのコイなんだが、この位の時期になると、海から川を上って滝を昇りに来るんだ! このコイって奴らは、滝を昇りきると、進化? 変化? まぁ、そう言う感じで、やたら強くなっちまうんだよ!」
へー、そうなんだ。
「だから、そうなる前に、皆でとっ捕まえちまおう、ってのがコイノボリ祭りさ! ちなみに、とっ捕まえたコイは後で皆で食うんだ! これが絶品でな、ほっぺたが落ちるなんてもんじゃねぇ、最高なんだぜ!」
へー、美味しいんだ。
「お、そろそろ連中も動くな! まぁ、魔物って言っても、コイは俺達一般人でも捕まえられるくらいの強さだから、イレギュラーズさん達なら楽勝のはずだぜ? じゃあな、イレギュラーズさん! 楽しみなよ!」
はい。ありがとうございます。
陽気なオッサンはどこかへと消えて行った。
陽気なオッサンの言葉通り、なんかコイたちもうごうご言っている。多分鬨の声かかなんかだと思う。
へー、はじまるんだ。
君達は呆然と――あるいは結構乗り気の者もいるかもしれない――それを見つめていた。
そう言うわけで、コイノボリの始まりです。
- 昇れや昇れ、こいのぼり完了
- GM名洗井落雲
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2018年05月29日 21時40分
- 参加人数76/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 76 人
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参加者一覧(76人)
リプレイ
●開幕
うごうごと唸り声が聞こえる。
おうおうと鬨の声が聞こえる。
魚は駆けた。人は駆けた。
戦場を! 水しぶき舞う戦場を!
水流が撃たれ、人が倒れる。
網が振るわれ、魚が倒れる。
駆けよ! 駆けよ! 戦場を!
振るえ! 揮え! その腕を!
……と言うノリでいるかはわからないが、コイノボリ祭り、開幕であった。
●河口の戦い・ここが地獄の最前線
「HINA……練達……頭が……」
と、頭に手をやり痛みを抑えるウィリアム。とは言え、今回は練達の関与はなしである。安心していただきたい。
「ほ……本当に関わってないのか……あの水鉄砲とか……本当に……?」
随分と疑心暗鬼になってしまっているようだ。この練達への風評被害、まったく、誰のせいなのでしょう。
とは言え、頭を抱えてばかりもいられない。すでにコイノボリの幕は上がったのだ。どこが元凶であるにせよ、戦わなければならない。
「くそーっ、ナマスが良いか!? 丸焼きが良いか!? 選ばせてやらああああ!」
叫び、ウィリアムが突撃して行く。
ウィリアムだけではない。一般市民の皆さんはもちろん、イレギュラーズも祭りに参加している。
「屋根より高い……って聞いたことあるけど、横に長いコイ前線がくるとは思わなかったよ?」
呟き、つつ、コイたちを吹っ飛ばすコリーヌ。
「吹っ飛ばしがいがあるのはいいけれど……これ、どれだけいるんだろう」
倒しても倒しても、コイの行列が尽きる事はない。結構な数の一般参加者に、今回は戦闘能力も高いイレギュラーズがいてなおこれなのだ。
「確かに、凄い数なのですよ!」
術式を発動してコイを吹っ飛ばしつつ、ルアミィが答える。
「うう、お魚さんには親近感があるのですが……お魚さん? ですよね? でも、とにかく、悪さをすることになるのなら容赦はしないのです!」
多分魚類ではあるとは思うが断言はできない。でも、これを放っておいては少々面倒なことになるのは事実であるので、張り切って退治していただきたい。
一方で、会場に咆哮が響き渡る。黒羽の挑発の声だ。
「さて、どれくらい釣れたものか……」
呟く黒羽に、応えたものは無数の銃口。釣れに釣れた。大漁である。大漁であるのだが。
「う、うおっ!?」
思わず悲鳴をあげる黒羽。一斉に放たれた水鉄砲が、黒羽を勢いよく濡らしていく。
一般人なら思わず転ぶ威力の水流である。イレギュラーズ達にとっては痛くはないが、かと言って全く影響なし、と言うわけではない。
「ぶ……わ、ぷっ! くそっ! 痛くはないが……ぶふっ! とんでもない水圧だなこりゃぁ!」
ぶしゅぶしゅと水鉄砲を撃たれ、足止めを食らう黒羽。デコイとしての役割は果たしが、あまり長時間、攻撃を受けていたくはない。濡れるし。
「水揚げにゃー! びちびちさせてやるにゃ!」
と、黒羽に釣られたコイを、処理していくのは、シュリエだ。水鉄砲の水をものともせず、次から次へと水揚げしていく。
「ちょ、ちょっと! あなたびしゃびしゃで……服がちょっと透けてるじゃない!」
と、顔を赤くして指摘するのは、ミラーカである。
「むむ? 気にする事はないにゃ。それより競争と行かないかにゃ? にゃはははははーっ!」
どうやらテンションが異様に高くなっているらしいシュリエ。高笑いをしつつ、次の獲物へと飛びつく。
「も、もう! 話聞きなさいよーっ!」
大慌てでその後を追うミラーカだった。
「い、いくよゲンティウス!」
自身の持つ杖に声をかけ、アリスが飛んだ。コイたちの間を飛び回り、ぽこぽこと叩いて回る。
「うう、私達の世界の文化だと思ってきてみたら、全然違う風に伝わっちゃってた、って言うの、これで何回目なんだろう……!」
と、ぼやく。果たして何回目なのでしょう。いやはや混沌とは恐ろしい。
「この世には違うコイがいるんだね。図鑑に載っているのはそっちの鯉なのかな?」
同じく飛行していたN123が、アリスに声をかける。
「多分……! 私の知っているのは、こういうのじゃないよ……」
アリスの言葉に、N123は頷き、
「なるほど、いずれそっちの鯉も見てみたいものだね……今は、それどころじゃないけれど。所で、このコイは持ち帰れるのかな?」
いいつつ、術式でコイを狙い撃つN123である。ちなみに、持ち帰りは可能です。
【七曜堂・河】のメンバーは、3人(厳密にいえば6人になるのだろうか?)でチームを組み参加している。
カウダ&インヴィディアのコンビは遠距離攻撃でコイを狙い撃つ。インヴィディアはその身体をびくびくと震わせていたが、これはコイへの恐怖、と言うより、周囲に人が多い事への恐怖感によるものだ。
レーグラ&ルクセリアは、ルクセリアに思う事があり、戦闘訓練のために参加した、と言う。確かに、コイはイレギュラーズ達にとっては意志を持った的、と言っても問題ない相手だ。レーグラにより補助された鋼線は、コイを次々と切り裂いていく。
一方で、ストマクス&グラ、とりわけグラは、食材確保に余念がない。レイピアを煌かせ、コイに攻撃を仕掛けていく。
「おっとと……ディアさん、意外に消耗してないように感じますね」
『……そうなのか?』
そう言うグラの視線の先には、びくびくしつつも、コイを撃破していくインヴィディアの姿がある。
「……カッ、カウダ……!」
『了解だ、契約者殿』
放たれた魔力弾が、ルクセリアを狙うコイを打ち倒す。援護に感謝の意を表すルクセリア。
「ちょっとはコツを掴めてきましたけどぉ……そ、そんなの無理ですぅ!」
『……』
「カウダに援護されてばかりはいられない、って……そっちの都合じゃないですかぁ!」
レーグラへと声をあげるが、応答はない。とはいえ、戦闘訓練を願うのは自分でもある。ため息をつきつつも、ルクセリアは再び鋼線を放つ。
「さってと、私達は食材確保に行きますか」
『なるべく、綺麗な物がいいだろうな』
そんな仲間を見やりつつ、グラとストマクスは、倒したコイを物色し始めた。
さて、そんな祭りの喧騒の中でも、どこかのんびりとした時を過ごしているものはいる。
例えばシーヴァは、コイの遡上を眺めて楽しみつつ、近場の岩などに腰かけ、足を水の流れに浸し、涼んでいる。
「強くなるため上を目指せど、その多くは滝に昇る事も出来ず果ててしまう。もののあはれね……」
ふう、と一息つきながら、祭りの喧騒を見やる。砂漠のオアシス出身のシーヴァではあったが、何処か、東洋で言う風流な雰囲気が、辺りに漂っていた。
一方のクロジンデは、河口からさらに離れた高台の上に陣取り、目を輝かせている。
「コイが異世界からの漂流物……つまり旅人であるなら、ギフトを持っている可能性が高いよねー」
クロジンデは、視界内のギフト所持者の持つギフト名や、その詳細を知ることができる能力を持って居る。
コイだけならず、イレギュラーズ、一般の旅人なども参加しているだろうこの現場。クロジンデにとって逃す手はない。クロジンデにとって、今日この場は、貴重なギフト大博覧会であるのだ。当人の言葉を借りれば、「ヒャッハー! ギフトが大量だ!」である。
「ふむ、このコイと呼ばれる魚を次々叩けばいいのだな」
サラテリは言いつつ、衝術で、次々とコイを叩いていく。
「水も滴るー……やないけど、濡れて肌に張り付いた服とか、運動して上気した頬とか、結構ツウ好みやと思うんよね」
その近くでは、ブーケが蹴りを基調とした連続格闘攻撃で、コイをしとめていく。
「それにしても数が多いな。コイとはこんなにも群れをなすものなのか」
小首をかしげるサラテリと、
「これだけ多いと、簡単にはさばききれんなぁ……わぷっ! くうっ、この水鉄砲、なんか癖になるわぁ……」
と、攻撃を受けつつも、そう言い放つブーケである。
「ほらほら、気をつけるのだぞ」
と、言いながら、エーテルガトリングでコイを一掃するのがルクスである。
「む? お主らびしょぬれではないか。怪我があったら言ってくれよ? すぐに治療するぞ?」
ルクスの言葉に、サラテリとブーケは首を振った。
「あはは、濡れてはいるんやけど、ケガの方は大丈夫なんよ」
「わーはっはっはっ! コイ軍団死すべし、慈悲は無いわァーッ!!」
その横で、ルアがライトニングをぶっ放す。
「おお、汝らも手伝え! あのコイ・ハードども、ファランクスで密集隊形でうごうご言っておるぞ! 厄介じゃが、一気に刈り取る好機ともいえる!」
「範囲攻撃なら我の出番か。手伝うぞ」
頷くルクス。2人の一斉攻撃により、密集したコイは一掃されたのであった。
●滝の戦い・最終防衛戦
さて、河口より昇って、上流、ここには大きな滝が存在する。
参加者たちは、河口と道中の参加者たちから逃れてここまでやってきた屈強なコイ、いわばエリート・コイを食い止めるため、ここに待ち構えていた。
「だからヤッキーと言いHINAと言い、いい加減練……え、違う? あれ生物?」
目を丸くしつつ、ラダが言う。残念ながら……いや、有難い事に、今回練達はノータッチである。水鉄砲も、自前なのか、どこかから盗んできたのかはわからないが、本当に、今回は練達は関わっていないのだ。本当である。信じてほしい。
「……しかしあの水鉄砲、回収して夏場に海洋で売ったら、良い稼ぎにならないだろうか……」
出身の関係か、商機については聡いラダである。拾ってみて、売れると思ったらそうするのもいいかもしれない。
「まさかとは思うが。アレも練達の何かが原因だったりしないか?」
と言うのは汰磨羈である。違うんです、本当に違うんです。信じてください。
「そうじゃねぇ……と願いてぇ、いやマジで。ってかもう考えたくねぇな……」
答えたのはアランだ。違うんです、本当に違うんです。練達だったら空中戦艦『コイノボリ』に、機械甲冑『ゴガツムシャ』とかだしてくるに違いないです。
「まぁ、なんだ。さっさと捌いて、クロバの奴に押し付けて刺身にして貰おうか。行くぞ!」
汰磨羈が言いながら駆け、コイたちに攻撃を仕掛けていく。
「ええい、こんな事になっちまったならしゃーねぇ! やるだけやってやらぁ!」
アランもそれに続く。汰磨羈の攻撃に息を合わせ、トドメをさす形でアランが剣戟がきらめく。
「随分と蹴り応えがあるな。いい身の締まり方だ。アラン、こいつは逃がすな! 絶対に旨いぞ!」
「クソが! 言われなくともわかってんだよボケが! 旨いって食いもんのことばっかか!」
悪態をつきつつ、しかし息の合ったコンビネーションで、2人は次々とコイをさばいていった。
「ハハッ、混沌らしい面白い生き物じゃない!」
「闘うのならば多少は歯ごたえがある方がいい、なぁルーミニス?」
ルーミニスの言葉に、クロバが言葉を投げかける。
2人は滝の近く、本当の意味での最終防衛戦と言える場所に陣取っていた。参加者たちを潜り抜け、ここへとたどり着いた、いわば真のエリート・コイと戦う、そのために、だ。
2人は荒々しく、しかし研ぎ澄まされた動きとコンビネーションで、コイを三枚におろしていく。
「龍になった、っていうのとも戦ってみたかったわね……」
「龍とやり合うのは贅沢が過ぎるだろ、オレらはオレらの仕事を果たすまでだぜ。ま、戦えた方が面白くはあったんだろうけどな?」
ニヤリと笑うクロバ。それへ笑みを返すルーミニス。
2人の狩りは、未だ始まったばかり。
「はははは! おら、かかってこいよ! 文字通り“三枚におろし”てやるぜ! それとも“鯖折り”が好みか?」
「強いんだな? 強いんだろお前? 来いよ鯉野郎……切り身にしてやるぜッ!!」
ハロルドとMorgux。2人はまさに暴風である。嵐のごとく駆け抜け、驟雨のごとく攻撃をたたきつける。
切り身か、三枚おろしか、サバオリか……あるいはミンチか。言葉通りに次々と「調理」されていくコイたち。
ここまで来て慄き逃げ出すようなコイは一匹もいなかった。しかしコイたちの必死の応戦は、2つの暴風を喜ばせその勢いを増す手助けをしたにすぎない。また、また、次々とコイたちが調理されていく。それを止める術などないのだ。
「滝を昇りたければ私を倒していきなさい!」
堂々と声をあげ、結が『魔剣ズィーガー』を掲げる。次々と切り裂かれていくコイたちだが、その内の数体が、ズィーガーを受け止めた。
「水流の剣!?」
同じく、剣による攻撃を繰り広げていたシャルレィスが叫ぶ。
水鉄砲ではない、特殊な装備品を持ったコイがいるという話は聞いていたが、それがコイツらだろう。
「――なるほど。いわばエリート・サムライ・コイとでもいうべきものたち。その名にふさわしき実力をお持ちのようですね」
雪之丞が刀を鞘に納め、静かに呼吸を整えた。抜刀による一撃必殺の構え。
「水の剣に負けた、となったら恥ずかしいわよね、ズィーガー」
結が笑う。
「剣士としては、戦わない手はないね! ……滝を昇った奴とも戦ってみたかったけど」
シャルレィス。
「それでは祭りの趣旨からは外れてしまいます故。しかし、その気持ちは分かります」
雪之丞。
「それじゃあ、一つお手合わせ!」
結の声を合図に、コイとイレギュラーズ、双方が動いた。
結は暗黒の剣を持って、水流の剣ごとコイを飲み込んだ。
シャルレィスは水流の剣を、自身の剣で以て受け流し、その胴を切り裂いた。
雪之丞はコイが間合いに入った瞬間、その刀を閃かせた。ちん、と音をたてて刀を鞘に納めれば、コイが倒れ伏す。
三者三様の一撃で、三人の剣士は、その業を存分に揮ったのである。
ルアナは上機嫌で鼻歌などを歌っている。ふと小首をかしげるや、
「小さいときに歌ってた……あ。一つ記憶戻ったー! でも、こんなんだったっけ? こいのぼり。まぁいいや」
「それは良い事だ。しかし、これがこいのぼりか……」
ふむ、とグレイシアが唸る。また1つ、誤った知識が広まってしまったかもしれない。
「一匹捕まえたらいいの? それともたくさん?」
尋ねるルアナに、
「河口と滝前、二段構えである事を考慮すると、出来る限り捕まえた方が良いだろう」
グレイシアが答える。ルアナはわかった! と元気よく返事を一つ。コイを片っ端から殴り飛ばしていく。
「ねぇねぇ。これお夕飯になる? ならばっ。おじさまの好きなお料理作ってほしいなー」
殴り飛ばしたコイを担いで、見つけた獲物を自慢する様にグレイシアに見せつけながら言うルアナに、
「好きな料理、か。ふむ……初めての食材故、作れる料理は一通り作ってみたいところだ」
グレイシアは頷きつつ、そう言ったのであった。
エスラは遠距離から、コイたちを次々と狙い打っていく。
「コイさん達? もしも黒焦げになりたくなかったら、そこから先は近づいてこないことね!」
ふふっ、と笑いつつ、しかしふと口元に手をやり、
「……でも、後で食べるなら、黒焦げにしたらダメかしら……?」
と、小首をかしげるエスラである。
一方、次々とコイとヘッドショットで始末していくのは鶫である。〆る時に暴れたら身が焼けてしまうから……という事らしいが、それはマグロの話である気がしないでもない。
「ふふ……これだけ集めれば……ご主人様も喜んでくれるでしょう……」
お姉ちゃん、ありがとう! とってもおいしいよ……いとおしいご主人様の笑顔が脳裏に浮かぶ。思わず緩んでしまう頬を、意識して引き締める。
「おっと……いけない。今は漁に集中しませんと。全ては御主人様の為に!」
頭をふり、気を取り直すと、再びコイをヘッドショットで仕留めていくのであった。
「鯉さんの断頭台はこちらになります!」
シエラは大剣を振りかざし、ばっさばっさとコイの頭を落としていく。
「異世界の言葉で言うなれば登竜門、でありましょうか」
碧も同様に、大剣を振り回し、居合の一閃でコイを次々と解体していく。
「お集まりでありましょうが、我が心持ちは一騎当千と参るでありますよ!」
「秘剣! ろーがげっこうざーーん!!(狼牙月光斬)」
その体躯とは釣り合わぬ大剣を揮い、2人の剣士の解体ショーは派手に繰り広げられていく。2人の後には、見事に解体されたコイが残るのみだ。
「まったくっ! こうやって変質しちまった故郷の行事を見るのは何度目かねぇ。慣れちまったのがなんか嫌だ!」
言いながら、勇司がコイをさばいていく。エリート・コイの目つきは、確かに河口で見かけたコイのそれよりは険しいようで、歴戦の勇士、というのも間違いではないな、と勇司は思った。コイだが。
「だけど、イレギュラーズには勝てないぜ……って、しまった、囲まれた!?」
一瞬の油断をつかれた。敵の数は多いのだ。気づけば囲まれていた勇司は、その身体をコイに掴まれていた。
「うごうごうご、ごー(特別意訳:我々は昇る)」
「うっごうご、ごごー(特別意訳:貴様は沈め)」
「くそーっ、何うごうご言って……ぶ……ぶはぁっ!」
コイ語は混沌であっても翻訳されないらしい。まぁ、明確な言語文化がないからしょうがないのだろう。たぶん。
さておきコイはうごうご言いながら、勇司を掴んで滝つぼへと沈んでいく。果たして勇司の運命や如何に。(この後無事助け出されました)
さて、その横で、滝つぼからバシャーン、と飛び出る一つの影。そのままの勢いで、滝を昇る様に上昇していく。
コイか? コイか? いや、エルメスだ!
なんでも「コイが滝を昇りきって龍になる」と言う異世界の伝説を聞いたエルメスは、「もしかして、ここで儀式をすれば何か起こるかもしれない!」と思い、先ほどから滝に上ろうとしては失敗して落ちているのだ!
「ごぼごぼ……けふっ、けふっ! い、意外と流れ強いのね……! これはたしかに登り切った時に進化とかしちゃいそうだわ……!」
どうやって上っているのか。多分箒にまたがって飛んでいるかなんかだと思う。なんにせよ、エルメスは昇る。昇る。昇る。あ、落ちた。
「ふはははは」
と、その滝つぼでは、狐耶がコイをひっつかんで、水の中に引きずり込んでいる。
「コイは出世して龍となる。なればコイを倒せばきつねもまた龍になるのです。よくわかりませんが、つまりそういう事です」
よくわからない理屈であるが、本人がそう信じているのだからしょうがない。またここに、異世界で伝統と言うものが捻じ曲げられていくのだ。
狐耶はコイにヘッドロック(どのように?)し、関節(どこ?)を極め、コイと格闘戦を繰り広げる。エリート・コイも負けてはいない。取っ組み合いで狐耶に迫る。ばっしゃんばっしゃん音をたてて、コイときつねの頂上決戦は続く。
「きゃー」
なんて棒読み気味の悲鳴をあげながら、ルーキスが滝つぼに沈んでいく。
「ナマモノ風情が、俺の嫁に何してやがる!」
と叫び、コイを思いっきりぶん殴って無力化した後、ルナールは滝つぼへともぐり、ルーキスを救い出した。
「あはは、凄いんだねぇ、コイノボリって!」
笑うルーキスへ、
「ああ、うん……違うんだけどな、全然こいのぼりじゃないんだけどな……」
こいのぼりと言う行事が存在する世界よりやってきたルナールにとって、こいのぼりとは、鯉の絵を描いたものを飾るものである。断じてナマモノ大戦争などではない。
「さて、まだまだくるみたいだし? もうちょっと頑張ろうか!」
ルーキスが笑いながら、栞を構える。『宝晶箋エフェメラ』と呼ばれるそれは、魔術媒介である。
「終わったら料理が待ってるぞー、酒でもいいねー」
そんなルーキスに背中を預けながら、
「これ食うより酒がいいな!」
ルナールも武器を構え、コイを迎え撃つのだ。
「まったく、コイって言ったら鯉だって思うじゃない! なによ、この……なに、これ!?」
愚痴りつつ、手にした妖刀で、コイを解体してくパルファン。パルファンも「こいのぼり」を知っているのだが、全く、どうしてこうなってしまったのか……。
「もう、こんなの、全然涼やかでも風流でも優雅でもない……アタシの知ってるこいのぼりを返して!」
そんな嘆きの声をあげつつ、しかし動きは止めない。この上、コイに攻撃されて沈められるなんて心からゴメンこうむるわけで。
パルファンの戦いは、まだまだ始まったばかりであった。
【七曜堂・滝】のメンバーは、3名(呪具・あるいは契約者をそれぞれ一人と数えるなら合計6名である)でパーティを組み、エリート・コイ達に立ち向かっていた。
まず、支援、回復役のアーラ&イリュティムのコンビだ。
「スペルヴィアはあそこで……イーラも視野にいますからひとまずここに居ましょうか」
『あの二人に援護がいるかは不明だがな』
「必要になった時の練習と思っておけば構わないでしょう?」
言いつつ、残りのメンバーをちゃんと確認できる位置に位置取り、回復、ついでに撃ち漏らしの迎撃を行う。
サングィス&スペルヴィアのコンビ、そしてコルヌ&イーラのコンビは、それぞれ前衛を担当する。その戦い方は対照的で、拳による攻撃をメインに据え、頭部や胸部を抜き手で貫いていくスペルヴィアに、関節への攻撃や頭部への蹴り、或いは跳躍しての踏み抜き等の足技をメインに戦うイーラだ。
「ったく、水辺じゃ動きにくいわね」
ぼやくイーラへ、コルヌが、
『スペルヴィアのように殴り合いも覚えるか?』
と尋ねる。
一方、スぺルヴィアも、
「……ふむ、それなりに手ごたえはあるわね。水辺で動きにくいというのもあるけれど――」
そう言うのへ、サングィスは、
『イーラのように、足技で戦ってみるか?』
と言う。
期せずして、似たような会話を2人(4人)で行っていたわけだが、
「……それはそれで癪ね。まぁ、今後の課題にして今は目の前に集中するわ」
「……イーラには負けてられないよ」
と、異なる言葉で拒絶の意を示した。
とは言え、ある意味お互いを補い合うような戦い方は、遠目には実に息の合った戦い方のようにも見える。実際、支援を入れる程の必要性がないほどの戦いぶりであり、
『予想通りの戦況でやることがすくないな』
「とはいえ、支援の方はしっかりやっておきましょう」
と、アーラとイリュティムが手持無沙汰になるほどであったとか。
「パパ行こう! 一緒にいっぱい倒すぞー!!」
そう元気よく宣言するのは、ノーラだ。
「ああ、俺達が力を合わせれば、どんな強敵であろうと倒していける! いくぞ、どんどんかかって来い!」
リゲルはその声を受けて、共に前線へと躍り出る。
ノーラとリゲルのコンビは、実際に息の合ったコンビネーションを魅せる。それは親子の絆か。
リゲルが敵を引き付け、ノーラが攻撃する。強力な相手には、2人の力を合わせてアタックだ。
「おいおい、気をつけるんだぞ!」
ポテトが2人に声をかけながら、支援の祝福を行う。
そんなポテトへ、リゲルはウインク一つとサムズアップで応える。ノーラもまた、リゲルを真似してウインク――が出来なくて、笑顔で応えた。
「2人とも、ちゃんと前向いてないと危ないぞ!」
そんな2人へ呆れ半分、照れ半分で、ポテトが声をかける。
家族のだんらん。子との時間。或いは、この祭りの中で、最も正しく「こいのぼり」の心を表していたのは、この者たちだったのかもしれない。
そして、それは、この者も。
(こいのぼり??、男児の健康と成長、か。??僕にはもう願えないものだなぁ)
ムスティスラーフは、胸中で呟いた。
失った。多くを。大切なモノを。その上で、ムスティスラーフはここに立っている。
弱きは捨てろ。嘆きは捨てろ。成長し、生きて生きて――正しく最期の時まで、生き続けるのだ。
先が短いとしても、全てを投げ出さず、生きる。
それこそが、失われた命への供養である。
それこそが、我が子供達への供養である。
(見ていて欲しいんだ、成長するこの父を。お前達の応援があれば僕はなんだって出来る。この誓いの一撃、命の煌き、形にして見せる……)
ムスティスラーフは武器を構えた。
我が子らとともに、これからも歩み続けるために、だ。
●祭りの終わり・ある意味本番
コイはすっかり討伐されて、陽も傾きかけたこの時間。
討伐されたコイたちは、祭りの最後には食料として配られる。
それはある種の供養でもある。いかに害獣とて、それは人のものさし。
人の都合で奪った命だ。なれば無駄にせず、せめて糧として命を還そう。
――と言うのはまぁ建前で、ただのどんちゃん騒ぎである。
『こいのぼり(恋乃暴利)とは元寇、ヒナギの風習で、EDOエラに家系で始まった、単5のSeq.であるマヤ暦の5/5までの梅霖の時期のレイニーデイに、男子のイサオシと家康を願って真庭の軒先でデコられた紙・布・聖骸布などにコイの絵師を猫き……』
「……全然わからないのです」
と、百科事典を見ながらぼやくヘイゼルである。
あたりには、食欲をそそる良い香りが漂っている。既に出来上がっている料理もあるようだ。
「……コイノボリについては結局わかりませんでしたが、料理としてはとてもおいしそうですね」
にこりと笑いつつ、ヘイゼルはコイノボリについて、まずは味から理解するため、歩みを進める。
「……だいぶ歪ですが、初めてなら上出来でしょうか?」
ううん、と唸りながら、Lumiliaが呟いた。
今後海洋での冒険も増えるであろうことを見越し、魚介類の調理を習得したい、という思いで試してみたのだが、これはなんというか、些か不格好になってしまったようだ。
「味は……まぁ、美味しい……ですけれど。もっとうまく調理すれば、もっとおいしかったでしょうか……?」
苦笑を浮かべるLumiliaの足元に、猫のアイリスが現れた。にゃあ、と一鳴き。
「まぁ、街で貴方が私の傍へ来るのは珍しいですね。そうだ、貴方も食べますか?」
と、魚料理をひとかけら。勿論、ネコでも食べられる部位、材料の物だ。アイリスはにゃあ、と鳴いて、それをぱくりと平らげるのだった。
「いやぁ、凄く壮絶な戦いだったね……!」
と、いいつつ、切り身の串焼きをぱくり。ディジュラークは料理を堪能していた。
まぁ、ディジュラークは参加していなかったようだがそこはそれ。
「しかし、モンスターを食べる知識はあるけど、美味しく料理する知識はないからね。僕にできるのは塩焼き位……他の人が作った料理はどんなのだろう?」
もちろん、ある意味で伝統の祭りであるから、色々な料理が振舞われている。ディジュラークも満足する料理が必ずあるだろう。
シクリッドがパタパタと魚を仰いでいる。薄く切り身にした身を、網を張った台に乗せ、天日に干す。
「おお、干物か」
と、隣で魚をさばいていたゲオルグが声をかけた。ゲオルグの調理台には魚の身のほかに酢飯と、ワサビ(に限りなく風味の近い香辛料だ。旅人たちの手によって作られたもので、現地でもワサビ、と呼ばれているとか)がのっている。この組み合わせはつまり、寿司である。
「そちらはスシッスね? 凄いッス、寿司を握るのは職人技が必要と聞いているッスよ」
シクリッドの言葉に、ゲオルグは笑った。
「まぁ、そんな大したモノではないが……料理は得意なのでな」
言いつつ、切り取った身を使って、手際よく寿司を握る。
「ほほう、こいつぁ見事だな!」
と、声をあげたのはゴリョウだ。
「良かったらどうだ? 材料は山ほどあるようだからな、遠慮せず食べてくれ」
ゲオルグの言葉に、ゴリョウは頷いた。寿司を手づかみ、ショウユと言う調味料にチョン、とつけて、口に運ぶ。
「ぶはははっ、こいつぁ美味ぇ!」
ゴリョウは快活に笑う。
「良い腕だぜ、おめぇさん! おっと、そっちの干物もできたらくんな! 土産にして持ち帰りてぇ!」
「ああ、大丈夫ッスよ! もうちょっとかかるんで、一回りしてきて欲しいッス!」
シクリッドの言葉に、ゴリョウは嬉し気に頷いた。
「どんなゲテモノかと思いきや……こいつはァ大した美食だぜ、ってな。すきっ腹も嬉しくて悲鳴をあげるぜ」
ゴリョウはぽん、と腹を叩く。コイの捕獲で空いた腹だ、この程度では食い足りない。ゴリョウは2人に礼を言うと、次なる料理を求めて去って行く。
「さぁ、料理教室の始まりですよ!」
と、宣言したのはヨハンである。周囲には何名かのイレギュラーズ達が、その腕を揮わんと待ち構えている。
ヨハン達は、早速コイを集めて、調理を始める。
ミディーセラは懐から「モンスターを食べよう!」と題された本を取り出し開きつつ、コイを丁寧に処理していく。
「なめろう……これが気になっているのです。是非作りたい」
「あら、いいわねぇ、お酒に合うのよねぇ」
と、アーリアが現れた。その顔は真っ赤だ。
「の、飲んでますね……?」
ミディーセラが尋ねるのへ、
「うふふふふふふ。飲むわよぉ、だってぇ、お刺身が? できたんですものぉ……ニホンシュがねぇ、あうのよぉ? ねぇ知ってるニホンシュ? これもコイノボリと同じ世界からの文化らしいのぉ。いいわねぇ、ニホンシュとオサシミ……行ってみたいわぁ……ニホン……」
すっかり出来上がったアーリアがまくしたてる。アーリアは刺身を作っていたはずだが、途中で自身が作った刺身を肴に、一杯やり始めたらしい。
「ふむ、一品目。コイのムニエル、ホワイトソースかけであります」
と、ハイデマリーが、たん、と皿を差し出す。見事なムニエルが、その皿の上にはあった。
「す、すごい……」
と、目を白黒させるのは、アレクシアだ。その後も、ハイデマリーは次々と料理を完成させていく。薄造り、皮つきの串焼き、ツミレあら汁……。
「ほ、ホントに十歳の料理……?」
と、アレクシアが呟いてしまう。色んな意味で渋い料理が後半並んだが、それをさておいて、その手際は立派だろう。心なしか、ハイデマリーも得意げである。
「さて、貴殿らの料理も見せてほしいであります」
と、ハイデマリーが言うのへ、アレクシアは慌てた。
「あわわ、ヨハン君、これは負けてられないよ!」
と言うのへ、ヨハンもこくこくと頷いた。
「よ、よーし! 僕の全力を見せてあげますよー!」
と、ヨハンも気合を入れるのであった。
開催された料理教室では、様々な料理が並び、参加者のみならず、見物客も大いに楽しませたという。
「目指せ混沌料理完全制覇!」
と、元気よく駆け回るのはセララだ。焼き魚、てんぷら、スシ、刺身……様々な料理をつまんでは、笑顔を振りまいていく。
「何でも作れるのよね、このコイって……中々すごいわ」
竜胆が感心したように言いながら、美味しそうに食べるセララを眺める。
「このあらい、つくったの、誰!」
と、大声をあげたのは、セティアである。目を白黒させながら、
「わ、私……だけど……」
と答える竜胆へ、
「ぱなく美味しい」
とセティアが言うので、竜胆は笑った。
「さて、私もそろそろ食べるのに回ろうかな。あんな見た目だけど、皆美味しいって言うし……楽しみね」
竜胆そう言うと、山盛りの料理に箸を伸ばす。
「むぐむぐ……(こちらのお刺身は脂が乗った部位でしょうか、とろけるような味わいが……)」
刺身を食べながら、思わず顔をほころばせるメイメイ。次は唐揚げを、と見てみれば、唐揚げの乗った皿にも、多くの人が集まっている。
「からあげ、じゅわってレモンかける。美味しい」
と、メイメイに話しかけるセティア。
「じゅ、じゅわ……?」
「じゅわ」
おすすめされるままに、レモンを絞ってみるメイメイ。からあげを口に運べば、香ばしさと爽やかな香りで、すっきりと食べられる。
「ん……美味しい、です……!」
ぱぁ、と顔を輝かせるメイメイ。セティアはどや、っという顔をした後、
「しかし、勝手にから揚げにレモンをかけると怒られることもある諸刃の剣。使いどころが難しい」
と真面目な顔で言うので、
「む、難しい……ですか……!」
メイメイも真に受けて、真面目な顔で頷いた。
【七曜堂・食】の六名(人間3名、呪具3つの内訳だ)は、日陰の席を確保して、料理と食事を楽しんでいた。
「メランコリア、アケディア……ちっとは手伝いなよ」
と、料理をさらに乗せ、確保していた席へとやってきたのは、ブラキウム&アワリティアのコンビだ。アワリティアの言葉には避難の色はなく、諦めているのか、特に気にしていないのか。まぁ、どちらにしても、怒っているというわけではないようだ。それは席で待って居た2人もわかっているので、
「…………邪魔にしか…………ならない」
「……場所の準備をしておりましたので……」
と、返した。アワリティアも特に気にすることなく、料理をテーブルへと並べていく。
「…………おぉ……豪華……」
『刺身に焼き魚に煮付と大概のものはあるな……』
その料理の数々に、メランコリアとコルが感嘆の声をあげる。
アワリティアの料理の腕も相まって、その料理はどれも絶品と言えるものだった。談笑しつつも食事は進み、その皿がすっかり空になると、
「…………ご馳走様でした。素材の見かけと味は関係ないのがよくわかりました」
『寝るならば片付けの手伝いをしてからにし給えよ』
と、さっそくうとうととし始めるアケディアへ、オルクスが突っ込む。
「さて、多分調理しきれてないのもいるだろうから、あまりは貰って帰ろうかね」
『確かに。他の同胞の分も確保しておかなければな』
楽しげに言うアワリティアへ、ブラキウムは相槌を打つのであった。
カシミアにとって、今日は色々な初めてが満載だ。コイの様な巨大な魚……魔物……魚……? に遭遇するのもそうだし、海水魚(と近い味わいである)というものを食べるのも、初めてだ。
「川のお魚は食べたことがあるけれど、海のお魚って、やっぱりしょっぱいのかなぁ?」
楽しみ半分、怖さ半分。ドキドキしながら、まずは焼き魚を口に運ぶ。
「……! 美味しい! しょっぱくない!」
簡単な塩焼きであったので塩はきいているものの、その身はどこか甘さを感じさせ、今まで食べてきた川魚とは、また違った食感をしている。
「あっちは……おさしみ? そのままで食べるの……!? すごい、どんな味なんだろう……!」
あっという間に味のとりこになったカシミアであった。
「ふむ……コイ。未体験の味だ。この風味に合うワインは……」
と、丹念にコイを味わいつつ、一本、ワインを開けるのは、マルベートである。ワインと料理のマリアージュ……組み合わせは難しい。
料理の味を殺さぬワインを、料理の風味に負けぬワインを、様々な風味のワインの中から選びとらなければならないのである。
素材が同じでも、調理法によって適正なワインは異なってくる。それを探し出すことは難しいが、同時に楽しくもあるのだ。
「ふふ、ワインは決まったな」
ワインを含み、その香りと味を楽しむ。直前に食べたコイの風味を殺さず、しかしワインの香りはそれに負ける事はない。むしろお互いを引き立て合う、最高のマリアージュ……。
マルベートは満足げに頷いて、辺りを見渡した。さて、この出会いを共有する、今宵の友を探そう。
「うにゃぁあん、お魚さんが一杯ですぅ……!」
感激のあまり、猫の鳴き声の様な語尾が出てしまう鈴音。次々とテーブルへ料理を持ってくる鈴音へ、たまたま同席したみつきは、
「おいおい、大丈夫か? そんなに食べられるか?」
と尋ねるも、鈴音は満面の笑顔で頷くのみだ。
「まぁ、残したら持ち帰りにでもすりゃいいのかな……にしても、確かにコイツは美味いな!」
「お刺身が最高ですけれど、煮ても焼いても蒸しても揚げても美味しいですの!」
ぱくりぱくり、と料理を堪能していく2人。気づけば、持ってきた皿はあっという間に空っぽだ。
「おっと……まだいけるかい?」
と尋ねるみつきに、
「もちろんですわ!」
と、2つのしっぽを振りながら鈴音。2人は頷くと、次の料理を手に入れるべく立ち上がった。
「これがコイなんだ。凄く大きくて海って凄いねーって思えちゃうよね!」
と、スティアが声をあげる。サクラはそれに、
「私も、こんな大きなお魚初めて見たわ。幻想って凄いのね……」
と答える。2人は寿司と刺身――それぞれの一番食べたいものだ――をメインに、色々な料理を少しずつ皿に乗せた。2人はそれを持って、滝の近くへと向かう。先ほどまでの喧騒など嘘のように、滝の近くは、静かな場所になっていた。滝その物の水音が響き、どこか涼しさを感じさせる。
2人は早速、料理に手を付けることにした。コイ料理はそのすべてが絶品だ。
「美味しいね! 本当に、色々な料理になるんだね……」
「うん。でも、不思議な生き物だよね……この滝を昇ったら、本当に龍になったのかな……」
そう言って、サクラは滝を見上げた。スティアもつられて、滝に視線を移す。
日が暮れて、星が瞬き始めた夜空と、キラキラと水しぶきを散らしながら落ちる滝は、何処か不思議な雰囲気を伴っていて、ここを昇れたら、確かに不思議な事が起きるかもしれないな、と二人に思わせるのだった。
「コイノボリって、五月になると空を埋め尽くす領空侵犯用兵器だと思ってたよ!」
と、ルチアーノが笑う。ノースポールと一緒に訪れたルチアーノは、2人で、一匹分のコイの丸焼きを注文した。
一匹分と言えど、コイは巨大だ。その姿を見て、2人は思わず声をあげた。
「凄いね! わたしより大きい!」
感動するように言うノースポール。
「この分だと、ルークより大きそうだね」
と、その言葉に、ルチアーノはむむ、と唸り、
「そうか、このコイは僕より大きいのか……」
何故か対抗意識を燃やす。
「全部食べ尽くしてやる! ポー、頑張ろうね!」
と、宣言するルチアーノに、ノースポールは楽しげに笑うのだ。
焼き魚は絶品で、2人の箸は進む。
でも、このおいしさは、きっと素材や調理法のおかげ、だけではない。
この料理の最大の調味料は、お互いの笑顔に違いなかった。
ヴァンとメアトロは、調理場所を借りて、2人でコイを焼いていた。
「ごめんね、ヴァン君。料理を任せちゃって……でも、ありがとうね」
メアトロがいうのへ、
「いえ、家事は得意でしたから……あ、もう焼けましたよ」
と、ヴァンは魚を皿へ移す。
「特別な料理法じゃなくてもおいしいって言う話ですし……僕の料理の腕でも、美味しいはずです!」
と、ヴァン。メアトロはゆっくりと首を振って、
「ヴァン君が作ってくれたものなら、絶対においしいわ。ほら、一緒に食べましょ?」
そう言って、魚の身をほぐす。湯気をあげるその身に、メアトロは口を近づけて、
「ふー、ふー……はい、ヴァン君、あーん?」
と、身を差し出してくるものだから、ヴァンは顔を赤くしてしまった。しかし、そのままにしておくわけにもいかず、かと言って断ることもできず、ヴァンは差し出された身を口に含む。
「…………美味しい、です」
と、呟くと、メアトロは嬉しそうに笑う。そのまま新しく魚の身をほぐして、自身も口へと運ぶ。
「うん、本当、美味しいわね。……また、一緒に、ご飯食べに行こうね、ヴァン君」
微笑むメアトロに、ヴァンは笑顔で頷きをかえすのだった。
●祭りの終わり
何とも奇妙な祭りではあったけれど、終わり良ければ総て良し。
イレギュラーズも、しっかりと休暇を楽しめたことだろう。
未だ幻想は波乱に満ちて、悪意の種は健在である。
だが今はそれを忘れ、もう少し、この祭りの熱気に酔うのもいいだろう。
明日からは、また騒々しい日常が始まるのだから。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
余ったコイや、作った料理などは、どうぞお土産にお持ち帰りください。
なお、一般の参加者の皆さんは、「イレギュラーズさん達が参加してくれて、今年は盛り上がったぜ!」と喜んでいたそうです。
…………所で、進化したコイと戦ってみたいです?
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
コイが攻めてきたぞっ。
●やれること
主に以下の三つです。
三つの中から参加したい箇所を一つ選び、【番号】と言う形式でプレイングに記入してください。
【1】河口での戦い
河口にて、大量に押し寄せるコイの大軍と戦います。
何せ数が多いので、大量のコイを次々と叩いたり、コイの群れに飲まれたりできます。
【2】滝前での戦い
【1】の戦場を突破してきたエリート・コイと戦います。
河口に比べ数は少ないですが、その分一個体の強さは上がっている気がします。
少数精鋭でコイと戦いたい時にお勧めです。
【3】コイノボリ料理
お祭りの最後、倒したコイを料理して振舞います。
食べる専門でもいいですし、料理する側でも構いません。
コイとは言いますが、鯉とは全く違う魚です。
身はいわゆる海水魚に近く、臭みや毒などはありません。
刺身でも良し、そのまま焼いても良し。基本何してもおいしいものです。
●エネミーデータ
コイ:基本兵士 ×たくさん
銃で武装したコイ兵士です。水鉄砲を駆使して襲ってきます。
戦闘能力は難易度並(ベリー・イージー)。
コイ:特殊兵装 ×たくさん
多分いると思います。見かけたら報告したり戦ったりしてください。
戦闘能力は難易度並(ベリー・イージー)。
●諸注意
お友達、或いはグループでの参加を希望の方は、プレイングに「【相手の名前とID】」或いは「【グループ名】」の記載をお願い致します。【相手の名前とID】、【グループ名】が記載されていない場合、セット・グループでの描写が出来かねる場合がありますので、ご了承ください。
基本的には、アドリブや、複数人セットでの描写が多めになりますので、アドリブNGと言う方や、完全に単独での描写を希望の方は、その旨をプレイングに記載してくださると助かります。
このシナリオは『コメディ調イベントシナリオ』になります。戦闘プレイング等がなくてもコイとは戦えますし、特にペナルティはありませんので、お気軽にご参加ください。
ユリーカは登場しませんのでご了承ください。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
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