シナリオ詳細
<夏祭り2020>いっちょやりましょ肝試し
オープニング
●夏と言ったらやっぱり!
「肝試しだよね!」
夏祭りを開催するにあたり、準備の為に集まったイレギュラーズへ開口一番に張り切った声を上げたのは、『性別に偽りなし』暁月・ほむら(p3n000145)である。本日も相変わらずポニーテールを揺らし、服はTシャツにスパッツを履いた上でのスカート姿だ。
「え?」
夏祭りだよね、という顔のイレギュラーズに、「夏祭りだからこそ、こういうイベントもアリでしょ」とあっけらかんと答える少年。
今イレギュラーズが居るのは、先の戦いの後に発見された東方の島『黄泉津』のカムイグラという場所である。
海洋王国は長らくの航海により、サマーフェスティバルを開催する余力がない。しかし、カムイグラとの貿易と交流の起点づくりは行いたい。
そういった思惑から合同祭事を提案。
巫女姫が快諾したことにより、こうして開催される事となったのだが。
ほむらの提案に困惑した様子のイレギュラーズは、しかしこのままでは埒が明かないので進めた方が良さそうだと判断する。
「とりあえず、やるとして、いつ、どこでやるんだ?」
「時間は夜。夏祭り当日に肝試しを開催。場所は、ちょっとした森というかそういう場所があるから、その道を進んでもらって、そうしたらちっちゃい広場みたいなのに出るんだ。そこにお地蔵さんかそれっぽい置物と一緒に、行ってきた事を証明する物を置く。それを持って帰ってこれたら肝試しは終了」
「……一応聞くけど、それってもしかして、お化け役も居る?」
「もちろん。そうじゃなくちゃ面白くないでしょ? お化け役が苦手なら冷たい何かをピトってくっつけるとか、効果音かそれっぽい小道具を用意するとかしてもいいと思うよ」
裏方をするのも可能という事ならば、やってみるのも一興か。
思い出したように、一つ言葉を付け足した。
「折角だから、参加者として参加するのでもいいと思うよ。その代わり、準備する人達には混ざれないけど」
事前の仕掛けが分かっては面白くない。
それを理解した者達が退出していく姿を見送り、ほむらは残った者達に向けて笑顔で言い放った。
「肝試しって、仲を深めるのにもってこいらしいね」
「ん?」
「いっぱい脅かして、皆に楽しんでもらおうよ!」
ほむらくん、リア充に何か思惑とか持ってないよね?
彼の笑顔にそんな事をついつい考えてしまうのだった。
●肝試しの準備に向けて
ほむらを含めたイレギュラーズは案を出し合うことから始め、次に用意できたもので小道具を作ったり、設置場所を確認したりしていった。
かんたんな祠のような物を作り、そこに木彫りで作った何かの像を設置する。なお、この木彫りの像、造形を曖昧にしており、ほむらが言うには『こけし』なるものに近いそうだ。
あえて曖昧にしたのは、地元の住民とは違う自分達の信仰の対象を作るのは如何なものか、という理由からである。
小道具には色々な物を用意した。冷たいタオルであったり、古ぼけた木の板によくわからない文字を書き連ねたりと、その種類は様々だ。
取ってくるものについては、箱の中から紙を一枚取ってくる、という事で落ち着いた。当日は適当に書かれた紙が用意されるだろう。
道を外れないように、予めロープなどを使用して道を作る。これで迷うことも無いはずだ。
それから、チェックポイントを設ける事にした。途中で何かしらの目印と遭遇したのを裏方組が確認する事でコースから外れて目的地に向かうという不正を防ぐ為である。
そうして諸々が出来上がり、当日を迎える運びとなった。
●開催されるよ肝試し!
夕暮れも越え、夜の帳が下りる頃。
いくつかの薄明かりが森の入口を照らす。その入口に、チラシあるいは口コミで集まってきただろう人の姿が増えていく。
人数の多さを確認しつつ、頃合いを見計らって女物の浴衣に身を包んだほむらが先頭に立って声を上げた。
「こんばんはー! 今日は集まってくれてありがとうございます! それでは、今から肝試しをやろうと思います!」
そして、彼の口から今回の肝試しについて説明がされる。
一、二人一組で行動する事。ソロで来た方は強制的に誰かと組む事になります。
二、ロープに沿った道を歩く事。道中に明かりはないので、渡したカンテラで進んでください。
三、チェックポイントが三つあるのでそこを通る事。通ったかどうかをスタッフが確認します。
四、最終目的地はちょっとした広場に祠があるので、その像の前に置いた紙を一枚持って帰ってくる事。帰り道も立て札を出しているので、後続と出会うことはありません。
五、道中、色々と怖い事に遭遇するかもしれないけど、気絶しない程度に頑張ってね。
要約するとこういう事らしい。
参加者から質問が飛ぶ。
「チェックポイントというのはどういうものですか?」
「いい所に気がついたね。じゃあ、チェックポイントについて教えるよ。
一つ目は井戸、二つ目は幹の模様が顔に見える木、三つ目は大きなクマのぬいぐるみ。これらにはチェックポイントの札をかけてあるからすぐに分かると思うよ」
「チェックポイントで何かする事はありますか?」
「声をかけてくれればいいよ。何でもいい、例えば『通りますねー』でもいいよ。スタッフはそれを確認ととるから。ただし、二人一緒に声を出してね。パートナーと逸れてたりしたら失格だから、戻ってもらうよ」
「もし途中で気絶した場合は?」
「その場合はスタッフが責任持って回収するから、安心して怖がってね」
安心って何だっけ。
そんな疑問が参加者の頭に浮かんだが、今は隅へ追いやる事する。
ほむらが「はーい、並んで並んでー」と声をかけている。順番をくじ引きで決めるようだ。
エントリーした参加者達はくじ引きの結果を確認し、自分達が呼ばれるのを待つ事にした。
全てにくじが行き渡ったのを確認した後、ほむらはポニーテールを揺らしながら楽しそうに笑う。
「さあ、肝試しの始まりだよ!」
●プレイング補足<参加者編>
一行目:ソロかペアかの記載
二行目:ペアの場合は相手の名前を記載
三行目~:行動・心情の記載
●プレイング補足<スタッフ編>
一行目:スタッフと記載
二行目:お化け、効果音、物で脅かす、など、脅かし役としての役割の記載
三行目~:行動・心情の記載
*当たり前ですが、危害を加える行為は参加者・スタッフ双方とも禁止です。
- <夏祭り2020>いっちょやりましょ肝試し完了
- GM名古里兎 握
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2020年08月07日 23時15分
- 参加人数73/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 73 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(73人)
リプレイ
●
夏祭りとしては少々凝りすぎな部類かもしれないが、肝試しの舞台が森の中とは、何とも言えぬ雰囲気がある。
加えて灯りは月明かり以外では自分達の手元のカンテラのみ。
ソロ参加者の者達は主催者の暁月ほむらによってペアが完成。
くじによる順番も決まり、ほむらの合図によって肝試しが始まった。
彼らを迎え撃つ(スタッフによる)運命や如何に!?
最初の一番手はリトル・リリーとカイト・シャルラハ。
リリーからカンテラを預かって道を照らすカイト。
彼の腕を掴む手が震えているのに気付いて、「大丈夫か?」と声をかける。
「え? び、びびってないよ! だいじょうぶだから!! ……カイトさんは大丈夫?」
「まあ船幽霊とかで慣れてるからな。船乗りがお化け怖がってどうするんだってんだ」
胸を張ってみせる彼だが、それが強がりな事に彼女が気付いていないのは幸いというべきか。
恐る恐るゆっくりと進んでいく。風が木の枝を揺らす音にも敏感になる二人。
ある程度進んだ時、後ろから何か重い物を引きずるような音が聞こえてきた。
唾を飲んだのは、どちらだっただろう。しかし、振り返るのは共に。
月明かりが照らすのは、目と鼻に穴が開いたずた袋を被った大柄な男の姿。上半身は血のように赤く染まり、引きずる鉄棒は歪んでいる。
聞こえてきた唸り声に危険を察した二人の口から出たのは甲高い絶叫だった。
抱きつくリリーを抱え、低空飛行でその場を後にするカイト。
ポツンと残された大柄の男だが、彼は小さく笑い声を零す。
「よしよし、それじゃあこの調子で徘徊するか」
ゴリョウ・クートンは自分の自信作と今の反応に満足すると、物陰をかき分けながら次の参加者を脅す準備をするのだった。
一組目の絶叫を耳にした者達は早くも戦慄を覚えていた。
一体どんな怖いものが自分達を待ち受けているというのか。
大体思っている事が殆どの中、二組目として入っていったのは炎堂 焔とアニー・メルヴィル。
「ア、アアアアア、アニーちゃん、大丈夫だよ、た、ただの肝試しだもん!」
「そ、そうだよね……! お、お化けだって、人がやってるんだもん! こここ怖い筈がないよね……!」
お二人ともそれはフラグになりませんか?
後続組の心配をよそにカンテラを持っておそるおそる進んでいく二人。
時折する物音などに震える様子はあるものの、なんとか絶叫は避けている。
ふと、草木のこすれる音に交じり、何か音が聞こえてきた。
よく聞けば、それは楽器の音のようで。この重低音はギターだろうか。
途切れ途切れだった音は、二人が道を進むにつれて少しずつ近づいていく。その上聞こえてくる音から感じられるのは不気味なでたらめ音。
木々の隙間に月明かりが差し込み、それは急に二人の視界に飛び込んだ。
ぼろ布を纏う三角帽の主は、ドレッドヘアーの間から口を大きく横に広げて低い掠れ声で笑う。
「ひっ、ひっ、ひっ、ひぃーっひひひ……」
「きゃーーーーっ!!!!」
焔とアニーの両名は堪らず叫び、道の先を走って行く。
遠ざかるカンテラの灯を見送りながら、三角帽の主であるマッダラー=マッド=マッダラーは満足げに音を一つかき鳴らしたのだった。
悲鳴を耳にしつつも、カンテラを持って進んでいくのは善と悪を敷く 天鍵の 女王とミニュイ・ラ・シュエットである。
置いていかないようにというミニュイの心遣いにより、手を繫ぐ事にした二人。
「レナ、大丈夫?」
「大丈夫よ。ミニュ、怖くなったら我に抱き着いてもいいのだからね!」
「うん、そうする」
歩いて行く途中で遭遇する様々な仕掛けに対して悲鳴は上げるものの、駆け出すほどは無いまま道なりに進んでいく。
第一チェックポイントを通り過ぎた辺りで、木々の間に時折長物が吊るされているのを見つける。
何なのかと思いつつも仕掛けだと思うと迂闊に近づけない。
そのまま通り過ぎるかと思った時、突然長物の一つが何かに当たった音を立てて落ちた。
思わず肩を震わせた二人の耳に、声が届く。
「つつ……おらの……つつ……どこだぁ……どごいっだぁ……」
声のした方を見ても誰も居ない。
と、その時!
「……みぃつげだぁ……!」
二人の足首を力強く掴んだ手。
声にならない叫びを発したミニュイは友人を抱えると同時に地面を蹴った。
「みにゅー、はやくいこう! いきましょー!」
「行こう」
激しく同意し、駆け抜けていく二人。チェックポイントで声を出すのを忘れないか心配である。
さて、驚かした本人である三國・誠司はというと、二人の様子を見て満足したようだ。
落ちた長物を元に戻した後、再び闇の中へと消えていく。彼の次の標的は誰になるのだろう。
哀坂 信政の隣を歩きながら、クラリーチェ・カヴァッツァは不思議そうに声を出した。
「どうして人は態々怖い体験をしようとするのでしょうか」
「ま、好奇心は猫を殺す、怖いもの見たさって奴だろうなぁ。俺は怖がってる猫を見てぇ方だが、な、くくく」
猫、とは?
首を傾げる彼女の反応にまた笑い、信政はさらりと話を変える。
「しかしまぁ、大分女らしくなってきたな、似合ってんぜ嬢ちゃん」
彼が褒めたのは彼女が着ている紺色の浴衣。信政に合わせた色のそれが似合っているか、気になっていた彼女にとって、その言葉は喜ぶに値するものであった。
お礼を言いつつ、歩を進める。
どうにか第一チェックポイントの井戸に着き、声を揃えて通る事を告げる。
その時だ。井戸から手が一本生えてきた。
それはゆっくりした動きで井戸の縁を掴むと、頭を覗かせた。顔では無いのは、それが長い髪で隠されていたからだ。
「う~ら~め~し~や~……」
「きゃーー!!」
「おぉ?!」
おどろおどろしい声にクラリーチェが悲鳴を上げ、信政が驚いた声を出す。彼の場合、驚いたのは彼女に服の裾を掴まれたからなのだが。
「す、すみません……。この『何か出てくるぞ』という雰囲気……少し怖いみたいで。このまま服、掴んでいてもいいですか?」
「おぉ……そうだな、最初から掴まれてる方が俺も、安心だ」
行くぞ、とクラリーチェが掴みやすいように手を差し出し、二人は道を進んでいく。
残された脅かし役こと篠崎 升麻は、何とも言えない顔で二人を見送るしか出来なかった。
「え、えぇ……そんなのあり?」
やれやれと肩をすくめると、次の二人こそは、と気を取り直すのだった。
逢華は暗闇の中、はぁと息を吐く。
「いっぱい居るなぁ」
何が、とは聞けない。そもそも、そういうものが居るとかはほむらも事前に話していないので、逢華の呟きを深く聞く事は躊躇われた。
「僕のギフトで除霊を……」
などと呟く彼女の華奢な肩を、日高 三弦が叩く。振り返れば、彼女の眼鏡が怪しく光る。月明かりのせいかもしれないけど。
「そういった事をせずとも良いのです。お手本をお見せいたしましょう」
物陰に隠れるよう指示し、やってくる人物達を待つ。
カンテラの灯りを伴ってやってきたのは、隠岐奈 朝顔とタツミ・ロック・ストレージだ。
ほむらによって組まされたこの二人は、主に朝顔からの談話をしていた。タツミはほぼ相槌を打っているだけである。
彼を気遣ってか怖い話を避けている朝顔。その心遣いに怖がりな気持ちが若干和らぐタツミ。
雰囲気的には良さそうと思われた二人だが、その雰囲気も三弦の仕掛けによって恐怖に変わる事となる。
三弦が木に吊るした物を投げた。それはタツミの頬に丁度当たり、そのぬるっとした感触の気持ち悪さに情けない声を出す男。
「どうしたの?」
「い、今何かぬるっとしたのが頬に!!」
「えっ?」
何事、と思う間も無く、今度は朝顔の足が沈んだ。
落とし穴の類いだと思った。彼女の足に柔らかい何かが当たるまでは。
「きゃっ!」
悲鳴を上げてタツミに抱きつく朝顔。
「大丈夫か?」と声をかけ、足早で朝顔を引っ張っていく。思いは一つ。早く紙を取って、全速力で二人で戻るという事。
半ば駆け足で去って行く二人を見て、三弦は誇らしげに胸を張る。
「こういう風にすれば、吊り橋効果もあるでしょう」
いそいそと落とし穴を直す彼女。ちなみに、先ほどタツミの頬に当てたのはこんにゃくで、落とし穴の中に入れていたのは柔らかいスポンジ達である。
見ていた逢華が「なるほど」と頷く。一体何を学んだのかは、彼女のみぞ知る。
カンテラの灯りを頼りに進んでいく太井 数子とヨハン=レーム。
「絶対離れないでね!」
そう言って彼の腕にしがみつく数子に、ヨハンはやれやれという顔をする。
「んもー依頼で戦うような敵よりマシじゃないですか……」
とはいえ、顔色の悪い彼女を放っておけるはずもなく、されるがままのヨハン。
そろそろ第一チェックポイントにさしかかろうという所にまで歩みを進めた二人。
井戸が見えてきた事で、ヨハンの腕を掴む数子の力が少し強くなった。
身構えつつ、声を揃えて「通ります!」と告げる。
数子の予想通り、井戸の中から黒髪の女が現れて、二人の口から悲鳴が上がる。
ヨハンが数子を引っ張って足早に行こうとした矢先、彼女が膝から崩れ落ちた。
「腰抜けて……立てなくなっちゃった……」
涙目で見上げる彼女に、ヨハンは「わかりました」と告げるとその膝裏に手を入れて持ち上げた。所謂お姫様抱っこ、というやつだ。
「うん、おめめ瞑ってください?」
そう言って落とさないように気をつけながら歩き始めるヨハン。
言われた通りに目を瞑っていた数子だが、耳に届く音が余計に恐怖を煽るらしい。
井戸に戻った脅かし役には、道の先から数子の悲鳴がよく聞こえてきたそうだ。
肝試しという物を知らない人も世の中には居るものだ。
例えば、シキ・ナイトアッシュがその一人だ。彼女はシレオ・ラウルスに肝試しとはという説明を聞き、納得する。ついでに、危害を加えてはいけないのでスキルを使ってはいけない事も。
「さあ行こうぜ、シキ!」
テンションが高いなと指摘されれば、別にそうでもないという答えが返ってくる。
「んだよ、……美味しいだろうが、オレンジジュース」
どこからオレンジジュースの話題が出たのかはともかく、シキはくすくすと笑う。
「……まぁ、シレオはオレンジジュースが好きだからね、テンションがいつも子供という意味では確かにいつも通りだけれど」
途端に少し拗ねたような顔をする彼にまた笑いながら、シレオと共に森の中に消えていった。
彼と彼女の楽しみは無事に達成されたかどうかは、森の奥から聞こえる楽しそうな悲鳴が物語るだろう。
体を震わせながら道を進んでいくヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ。
彼女の隣にはマリア・レイシスの姿がある。
二人は夏祭りに合わせて浴衣で参加していた。
が、どちらもこういうものには弱いようだ。それでも、マリアの方がヴァレーリヤを気遣って手を差し出してくれた。
「てて手なんて繋がなくても大丈夫だけれど、マリアが怖いなら仕方ありませんわね!」
強がっているのが傍目に見てもわかるが、それをマリアは指摘せずにおく優しさを見せる。
第一、第二のチェックポイントを何とか気絶する事なく通り過ぎていく二人。
問題はここからである。
ここから更に怖い物が待ち受けているのではと身構える彼女達の視界に、火の玉を回りに飛ばして佇む女の姿が目に入った。
避けたい。けれど、道の真ん中にいるから避けて通れない。
それ以上踏み出せず留まるに至る二人の目の前で、その女の首が、後ろから何かの刃物で切られた。
鮮血が飛ぶ中、刃物の主の姿は消え、代わりに地面に転がった首が二人の足下にやってきた。
それはヴァレーリアとマリアの目を真っ直ぐに見据えると、にんまり嗤って挨拶する。
「こんばんわぁ」
流石に耐えきれなかったようだ。
着慣れぬ浴衣姿で走り去る二人を、刃物の主である彼岸会 無量に抱えられた首の主、陰陽 秘巫は楽しそうに笑いながら見送るのだった。
目の前でリアル首狩りは怖いだろうな、と無量は思ったけれど、胸の内に秘めておく事にした。
●
スタッフとして参加しているフィーネ・ヴィユノーク・シュネーブラウは、参加者であるソロア・ズヌシェカと千之にある説明をしていた。
その内容は単純明快。
「この道を絶対に振り返ってはいけない」というもの。
神話や怖い話などでよくある振りである。
分かっていても、振り向けないのが人の心理。後ろからついてくるような鈴の音がしているのならば尚更だ。
記憶違いで無ければ、フィーネが付けていた髪飾りに鈴がついていなかったか。となるとフィーネが追いかけてきているのだろうか。
怖いけれど確かめる勇気も出ないまま、道を進んでいく。
チェックポイントを見る度に、ソロアが「もうかえっていいのか!?」と叫ぶが、まだ先である事をその度にソロアが説明する。
彼女の叫びは後ろの鈴の主にも届いているはずだが、消える気配は見えない。
しかし、ここまでついてきていると、逆に気になってしまう。
千之が振り返ってみて、「おぉ……」と小さく声を漏らす。
彼が驚くような声を出すとは何事だろうかと、ソロアもつられて振り返る。
視界に飛び込んできたのは、白い着物。それから、般若の面。手元には刀。
「ほぎゃああああああああ!!!!」
堪らず叫んだ彼女は、そろそろ限界だったようだ。
ふっ、と意識を失って倒れるソロアを千之が支える。
「え、まじで、ちょ、おーい……まじかよ」
困った、とため息をつく彼。
仕方ないので、彼は彼女を連れて、般若の面を被っていた者である白薊 小夜に案内してもらう事にした。
目覚めた時、土下座せんばかりの勢いでひたすらに謝るソロアの姿があったとかなかったとか。
暗い道の中、伊達 千尋がカンテラを持って日輪 寿をエスコートしていく。
冠位魔種を倒した男だと自負する彼は、寿に向けて、「大船に乗ったつもりで後ろに隠れてくれていいぜ」といつものニンマリ口で話しかける。寿も柔らかな笑顔を彼に向ける。
第一チェックポイントまでは何とか気持ち的には過ごす事が出来たのだが、問題は第二チェックポイントに向かう途中の事だった。
突然、何の足音も無く、後ろから肩を叩かれたのだ。
振り向けば、そこには自然の物で作った隠れ蓑を纏った道化師風の男。
肩を叩いた手を上げて、彼はニッコリと笑った。
「ハァイジュー爺!」
月明かりのせいで若干引きつり笑いにも見えたのだが、それでも十分なインパクトを与えた。
「フォーーーーーーーーーーーーーーッホゥ!!!!」
千尋の声が響き渡り、それに驚く寿。
彼女の手首を引いてその場を後にしたのだが、目的地である第二チェックポイントに着いた時、彼は幹が顔に見える木を見て再び叫んだ。
その場にしゃがんだ彼に、寿は改めて手を差し出した。
「ちょっと照れちゃいますが……手を繋いでいれば怖くありませんよ、きっと」
「すんません、ちょっと手握ってて貰っていいっすか……」
返事は変わらぬ柔和な微笑みが物語っていた。
かくして、冠位魔種を倒した男は、優しい女と手を繋ぐ事となったのだった。
その様子を先ほどの脅かし役――ジュルナット・ウィウストが気配を隠して覗き見していた事は言うまでもない。
最近結ばれたばかりのほやほやカップル、御天道・タントとジェック・アーロン。お揃いの浴衣を着る二人は誰が見ても仲良しだ。
カンテラを持つジェックの顔には、いつもと違いサングラスを装着していた。
目が良すぎるので彼女と同じ視界で楽しみたいというのが理由との事。健気である。
手を繋いで歩いて行く二人。
道中でタントが仕掛けや脅かし役に対して「ぴゃぁあああ!!」と声を上げるのを可愛いと思うジェック。
怖がりつつも、それでも彼女はジェックに向けてこう言った。
「し、しかし逃げませんわよ! わたくしにはジェック様をお守りするという大切な役目がございますから!」
そう言って密着させてくる彼女に、嬉しいやら照れるやら。
そんな可愛い彼女に、ちょっとだけ悪戯心が芽生えたのも仕方ないかもしれない。
耳に口を寄せるのに気付かぬまま、タントは独り言を呟く。
「こうしていると何だか恋人が無性に愛おしくなってきますわね。ねえ、ジェックさ……」
「わっ!!」
「まゃぁああ!?」
その反応が可愛くてクスクス笑うジェックに、タントが顔を赤くして抗議した。
「びびびびっくりさせないで下さいましジェック様ー!」
楽しそうな雰囲気を纏い、道を進んでいく二人。
二人の雰囲気に、脅かし役もついなりを潜めたとかそうでないとか。
暗闇の中、お化け役として意気込む男が一人。
「さぁ、やってやろうかねぇ」
その男、喜久蔵・刑部の策を知る事無く、一組の参加者がやってきた。
「マニエラ、全然平気なの?」
平然としているリアナル・マギサ・メーヴィンに、ウィズィ ニャ ラァムが疑問を投げかける。
気持ちくっつき気味な彼女だが、身長的にはウィズィの方が大きいので、例えるならデカい猫が新生児にのしかかっているようだ。
「はぁ……まぁ仕方ない。今回ばかりは私がエスコートするさ」
歩きづらいのだが、こればかりはしょうがないとため息をつく。
と、道の先にぼやけた人の姿を見つけた。その人物は自分達に背を向けている。
注目してはいけないと思いつつも注目してしまうのは仕方ない事。
カンテラの灯りを向けながら近づく二人へ、それが振り向いた。
ニヤけた笑顔は鬼人種のそれだが、即座に二人の背中を悪寒が駆け抜けた。
「ひっ」と声を出した時、その姿は闇に溶けて消えていった。
煩い心臓の音を感じながら、ウィズィは手をメーヴィンに差し出す。
「ちょっ、ちょっ、と、マニエラ、お願い、手繋いでて……じゃないと私……私……。
……咄嗟に幽霊、殴っちゃうかも……」
「……いや、拳は出すなよ?」
そう突っ込みつつ、しょうがないなと手を繋ぐ。
こういう時ぐらいしかカッコつけられないからね、と胸中で呟いた彼女の思いを、ウィズィが知る事は無いだろう。
一緒に組む事になった雪見に、角灯は先に謝罪する。
「おれ、鳥目で、良く見えてない、から、よろしく……?」
「……! ええ、ええ! ここは、雪見にお任せくださいまし!」
弱い姿も見せている相手だからこそ、今回それを挽回しようと躍起になる雪見。
亜人である角灯だが、雪見はギフトによって人化している。
カンテラを持ち、先を進む雪見だが、その背中が震えているのを角灯は気付いていた。よく見えないというのは嘘だ。どうしてそうしたのかは彼のみぞ知るが。
チェックポイントを通過するまで彼女の様子を見ながら歩を進める。
第二チェックポイントを過ぎた辺りで、何かが這いずる音が聞こえた。
「え?」と思った彼女が足下を見るのと、彼女の足首を血のついた白い手が掴んだのはほぼ同時。
低い唸り声を出しながら、手の主――白い着物を身につけた女は聞こえるようにこう言った。
「羨ましい……」
悲鳴が彼女の口をついて出て、その手を振りほどいて走ろうとする。
慌てて追いかける角灯。
少しして、角灯が彼女を抱き上げて走るのが見えた。
その様子を見送りながら、鈴鳴 詩音は「……よし」と頷いて、再び物陰に戻るのだった。
ワモン・C・デルモンテはアザラシ姿のままフラン・ヴィラネルに抱きかかえられるという形で参加していた。
必然的に彼がカンテラを持つ事になり、そうしているのだが。
腕の中で震える彼に、フランの感触を楽しむ余裕は無さそうだ。
道を照らしながら、彼は足下がちゃんと見えているかと心配する声をかける。大丈夫という返答に安堵はするものの、やはり震えは止まらない。
それはフランも同じなのだが、お互いに自分が震えていると気付いていないようだ。
と、二人の視界に何かが入った。
それはカンテラが照らす道の向こう。暗い道の中にて浮かぶ物。
朧気な灯りは、最初自分達の前に入った参加者のカンテラかと思った。
だが、そうでないと分かったのは、それがあり得ない高さで揺らめいていた事からだ。
「え?」と思う間もなく、その光は跳ねるような動きを見せると、暗闇の中へ消えていった。
青ざめるフラン。腕の中のワモンも思わず唸る。が、それがいけなかった。
低く唸るその声が、恐怖に支配されたフランにはワモンの声と気付けず、結果、悲鳴をあげて走る事となった。
その上、腕の中のワモンを締め付けている事にも気付いていない。
締め付けられている事でさらに唸り声が続くワモン。気付かないフラン。
果たして彼女が気付くのはどのタイミングなのか。
火の玉の仕掛けをした本人――ニア・ルヴァリエは、通り過ぎた二人の様子を見て、ワモンが肝試し終了まで生きている事を密かに祈るのだった。
シュバルツ=リッケンハルトにカンテラを持って誘導してもらいながら、メルトリリスは震えていた。
「シュバルツは、こういうの苦手な人? 私は、怖いの苦手……」
腰が若干引けてる彼女は、自分を鼓舞する為にぴこぴこと鳴るハンマーを振り回す。
その様子を横目に見つつ、シュバルツは答える。
「怖いのはそこまで苦手じゃないな。ただスリルがあるのは良いと思うぜ」
「そ、そう」
変わらず震えている彼女を心配しつつ、シュバルツは周囲を見ていく。このイベントを楽しむ為、今夜は警戒をしないつもりだ。
第二チェックポイントまでなんとか到達した頃に、それは起きた。
幹が人の顔に見える木を確認し、二人で通る事を宣言する。
その時、不思議な事が起こった。
幹からにょきっと何か透明なものが生えてきたのだ。ぼんやりした形のそれは、霊のようにも見えた。
暗がりの中で現れたそれに、シュバルツは驚いた顔をするだけだったが、メルトリリスは違う。
思わず顔を背けた彼女。しかし、その背けた先にも別のぼんやりした形のものが浮かんでいた。
堪らず悲鳴を上げた彼女は一度手を離し、だがすぐに掴み直した。
それに追い打ちをかけたのはシュバルツである。
「なぁ……今、誰を掴んでるんだ?」
「えっ?」
手が掴んでいるのは、シュバルツとは逆方向。そして感触が消えたのを感じた彼女は……悲鳴を上げる間もなく卒倒した。
流石にやりすぎたと思ったのか、今の仕掛けを施したヨル・ラ・ハウゼンが現れて回収をする事になった。
スタッフは必ずしも一人で行動する者ばかりでは無い。二、三組ほどが協力体制をとっている事もある。
リュグナーとソフィラ=シェランテーレの二人もその一組である。
準備を終えた二人は、やってくる参加者を今か今かと待ちわびていた。
現れたのは、マルベート・トゥールーズとティル・エクスシアの一組。
「私がいるから大丈夫だよ」
そう声をかけた事で安堵したティルだったが、第二チェックポイントに着くまでにマルベートによる様々な追い打ちがあり、今ではすっかり涙目になっていた。
そんな二人が進む道の先にて、一人の女性が背を向けて立ち尽くしているのが見えた。
心配になったティルが女性に声をかける。
「どうしたんですか?」
「誰か、そこにいるの……?」
「ええ。一体どうしたんですか?」
「ねえ、ごめんなさい……私、落としたみたいなの」
落とし物なら探すべきか。
そう思う前に、女性――ソフィラが振り向く。
全く何も無い顔を。
叫ぶティルの背中を、マルベートが押す。
そんな二人の後ろから、今度は男の声がした。
「どこだ……どこにいるのだ……」
横にある木から、男の姿が現れて、ティルは堪らず逃げ出した。
後を追うマルベートが、さらに彼女へ追い打ちをかけるのだが、それは悲鳴が物語るだろう。
お化け役が成功した事に、リュグナーとソフィラは視線を合わせて笑い合ったのだった。
●
黒影 鬼灯は胸をなで下ろしていた。ペアで参加しなければならないという話であったが、幸いにしてお嫁殿とのペア参加と認められたのである。
片手にカンテラを持ち、片手にお嫁殿を抱えて進んでいく鬼灯。
忍集団の頭領を務めている事もあり、彼にとって別段闇は怖いものでは無い。
それもあってか、道中特に大きく驚く事も無く進んでいった。そろそろ第三チェックポイントに当たる。
「ふむ……」
思うところがあり、少しの間考える鬼灯。それから、「よし」と呟くと懐に忍ばせていた物を被り、カンテラを一度消す。月明かりも少しだが陰に入っていたので輪郭も曖昧になっていく。
進んでいくと、第三チェックポイントの近くで地面に座り込んでいる女性を発見した。艶めかしく太腿を露出している女に近づく鬼灯。
「大丈夫か?」
「ええ……なんとか」
そう答えて振り向いた女の顔は、口だけが異様に裂け、血を纏わり付かせたのっぺらぼうの顔をしていた。
全く動ずる様子も無い鬼灯の後ろから、もう一人、女の声がかけられる。
「パンツカモン!」
しかし、発動しない。何故ならば鬼灯は彼女に振り向かなかったからだ。
鬼灯――狐の面を被った男は、低い掠れ声で呟いた。
「……貴殿は俺達が見えるのだな、よもや仲間か?」
『あらあら、ねぇ、こっちへ来てお話してくださる?』
月明かりも丁度隠れた闇夜の中、宙に浮いている(ように見える)美しい人形と、狐面だけが浮かび上がっている。
逆に驚いた二人――――悪鬼・鈴鹿と秋空 輪廻は悲鳴を上げて、その場を後にした。
大成功、と満足した鬼灯はお嫁殿と手を取り合うのだった。
エストレーリャ=セルバは、浴衣を着ているソアの手を引いてエスコートする。
折角なら頼れるところを見せたいという男心というやつだ。微笑ましい。
対してソアは嬉しさ半分、恐さ半分という様子だ。お化けは平気だが、驚かす用意がされているとあれば用心してしまうのも仕方がないだろう。
真剣な目をしてリードしようとしてくれるエストに、胸の奥が高鳴るのを止められない。
第二チェックポイントを過ぎるまでにも、何とか耐えていた二人。
次は第三チェックポイントだよと優しく語りかけてくれるエストレーリャに瞳を潤ませる。
そんな中、エストレーリャの頬に、ぬるっとした何か気持ち悪い感触が当たった。
「ひゃっ!」
堪らず叫んだ彼に、ソアは可愛さを覚えた。
悲鳴を上げても、彼はソアの心配をしてくれる。それがソアにはまた嬉しかった。
「平気?」
「ぜんぜん平気じゃなくなっちゃった……」
そう言って目を潤ませ、彼にくっつくソア。慌てるエストレーリャ。
良い雰囲気の二人が道を進んでいくのを見送るのは、今し方の仕掛け人、笹木 花丸である。
「大成功っ!」
思わず声を上げた後、慌てて口元を押さえる。聞こえてないよね、と思いながらこんにゃくの仕掛けを仕切り直す。
次の人達にもやってやるぞーと意気込んで。
武器商人とヨタカ・アストラルノヴァは番である。
それ故か、お互いの呼び方にも独特な雰囲気を醸し出している。
「ほら小鳥、暗いけど躓かないようにお気をつけ」
「紫月がいるからか、とても心強いよ」
それに、デートのようで楽しい。
その言葉は喉の奥で留まったけれど。
第三チェックポイントを目指す途中で、木々の間から物音が聞こえてきた。何か複数の物を揺らすような不協和音は、物が見えないと恐怖を煽るものでしかない。
肩を震わせたヨタカを安心させる為に声をかけようとした武器商人だが、それよりも先に新たな刺客が二人を襲った。
体のラインが見えるほどに包帯で巻いているミイラが音とは別方向から現れたのだ。
「ひゃ……!?」
本気で驚いているのが見えたのと、人型だった事もあり、武器商人が思わず反応をしかけたがその手をヨタカが慌てて止めた。
「し、紫月確かに驚いたけど大丈夫だよ。だからお化け役の人を怖がらせちゃだめだよ?」
そういえばそうだった、と気付いて手を止めた。
気付けば先ほどのミイラ姿は見えない。既に姿を隠したのだろうか。
気を取り直して進む事にした二人を、道の両端から脅かし役の二人が顔を覗かせた。
「ちょっとおっさんの出番は無かったな」
「どんまい?」
緒形とバスティス・ナイアのやりとりは、二人だけの話である。
エスコートするのは大抵男性だが、ルチアーノ・グレコもまた例に漏れず。彼の場合は恋人のノースポールに対して溺愛している節があるけれども。
ルチアーノは平気という顔に対し、ノースポールは怖がる様子を見せている。物理的に殴れるゾンビは平気だが、心霊現象となると苦手な部類なのだ。
加えて、カンテラと月明かりだけが頼りの森の道。これで怖がるなという方が無理である。
そんな彼女に、ルチアーノは笑顔で「お化けの事を考えていると、喜んで寄ってくるらしいよ」などと言って、ノースポールを更に怖がらせていた。
そうやって怖がらせていたからだろうか。彼の足下に、冷たい、それでいて柔らかい、どこかぬるっとした感触が当たる。
「おや」
しかし、平気な顔をするルチアーノ。足下を見ても動じない。何せギフトのおかげで夜目が利くのだ。
「どうしたの?」
「いや、大丈夫だよ。それより、今あそこに白い影が見えたような……」
「ひぇっ! 何かいるの!? やめてよ~!!」
「大丈夫だよ。怖いならお姫様抱っこで進もうか?」
「お、お姫様抱っこは大丈夫だよ、歩けるから!」
止めなければ実行しそうだった勢いの彼は、残念と肩をすくめてみせる。
そのまま何事も無かったかのように歩いて行く二人を、先ほどのこんにゃく仕掛け人である奥州 一悟は地団駄を踏んで見送るしかなかった。
彼の狙いは男性を怖がらせるというものであったが、その目論見が見事に外れてしまったという訳だ。
「リア充が……! 次こそは!」
果たして、次の挑戦者はどうだろうかと改めて仕掛けを作り直すのだった。
メーコ・メープルは久しぶりの事にドキドキしていた。
今まで肝試しと言えば、脅かす側であったからだ。主に木々のざわめきだったり、黒い影になって横切るであったり。
しかし、今回は参加者としての参加である。ペアになってくれたのは鹿ノ子。初対面ではあるが、ペアになってくれて助かった。
迷惑をかけないか心配するメーコを余所に、鹿ノ子は(脅かし役にとっては)楽しい反応を見せてくれた。
チェックポイントや途中の仕掛けを見る度によく叫ぶ彼女を、メーコは興味深い目で見つめる。
突然、冷たい感触が頬を撫でた。それはほんの一瞬で、けれど怖いと感じるには十分すぎる程。
「ぎゃー!」
その悲鳴に、物陰にいた仕掛け人――朝香は満足そうに頷く。
「だ、大丈夫ですかめえ?」
「……大丈夫。うん」
どこからどう見ても強がりなのだが、それでもメーコは指摘もせずに鹿ノ子の心配をしている。
その優しさがありがたくて、鹿ノ子は改めて気を取り直し、メーコと共に楽しむ事にした。
尤も、それもすぐに悲鳴に変わるのだが……。
●
チェックポイントをなんとか過ごしていく中で、流星と星穹は互いに声を掛け合っていた。
どちらも肝試しに対して若干の震えがあったりするが、さておき。
「こ、此処を出たら、なにか美味しいものを食べに行きましょうか。
私が奢りますわ」
「それは是非! 冷えた体にお汁粉やココアが染みそうだ……」
実はこの少女、肝試し対策として相棒の鷹である玄を連れてきている。脅かし役を探し、心構えをしようという理由からだ。
建前上はお互いの安全の為、としているが。
空を飛ぶ鷹の目を通して心構えをしていても、やはり驚くものは驚くし、二人揃って悲鳴は上げる。
何をしているのか分からなかった仕掛けの一つとして、ロープにカンテラを括りつけたものがある。
木々の間を横切っていく火の玉の動きにも、暗闇の中ではやはり怖い。
仕掛けをしたのは八重 慧だ。ロープとカンテラで簡易火の玉を作り、実行したのだが、思いの外驚いてくれると思わず笑みを浮かべるというものだ。
紙を取るまで気の抜けない二人であったが、取った後も周囲を伺いながら帰路につくのだった。
黄鐘 呂色と三上 華の二人が組んでいるのは、呂色が華を見つけた事がきっかけだった。
ペアで参加しなければいけない事を知り、それならばと組む事にしたのだ。
カンテラを持って歩く途中、火の玉が飛んでいるのを見たり、ぬるっとした物(こんにゃく)が当たったりしたものの、呂色は怖がる様子が全く無い。
不思議に思った華は問う。
「呂色はこういう肝試しとかは、得意なのか?」
「特には。だって大事なことを覚えていられなかったり、大切な人がいなくなったりした方が数倍も怖いじゃないか」
そういうものだろうか、と更に不思議を覚える華をよそに、呂色は目的地である祠を見つけた。
「行きはよいよい、帰りはこわい」
「そんな歌を歌ってると、神隠しにでも隠されてしまうかもしれないぞ?」
口ずさんだ呂色に思わずそんな事を言ってしまう。
それに対して笑う呂色。
「はぐれないように手でもつないで帰ってみるかい?」
「あー……そうだな。こんな所で迷子になるとめんどくさいし…せっかくだから、繋ごうか」
意外な肯定の言葉に目をしばたくが、話が出た以上手を繋ぐ事にした。
そう素直に頷かれると困るな、と思った彼の胸の内は、言の葉として口に出す事は無かった。
参加者の中で最後の順番となったのは、雨紅とンクルス・クーだ。ほむらによって組まされた二人だが、偶然にもレガシーゼロという共通点を持つ二人であった。
仕立てたばかりの赤椿の浴衣を着た彼女は、鼻歌を歌うンクルスと共に歩いて行く。
物理的に触れられるものや科学的な仕掛けなら見抜ける自信があると話すンクルスに、雨紅は「すごいですね」と返す。
「はぐれないように手を繋いだ方が良いでしょうか?」
「じゃあ、そうする?」
何の躊躇いもなく差し出されたンクルスの手を、雨紅は握り返す。ちなみにカンテラを持っているのはンクルスの方だ。
第一、第二のチェックポイントまで難なく通過していく二人。途中にあった木を揺らしたり柔らかい物が落ちる音がしたりという仕掛けや脅かし役に対しても冷静だったので、後日仕掛け人であったトゥリトスからスタッフ殺しと言われそうではある。雨紅に関しては、武器を構えるような仕草をとっていたりしていたが。
第三チェックポイントは大きなクマのぬいぐるみ。
月明かりの下に照らされるぬいぐるみは少々不気味なのだが、二人は「これは肝が冷えるのもわかる」と頷くのみ。
通る事を告げて向かった先には木彫りの像が置かれており、紙があった。
割と枚数が減っていると見て分かる。
一枚抜き取ると、二人は帰りの道を歩いて行く。
「皆様、色んな脅かし方をするのですね。多種多様で、楽しかったです」
「ばったばった倒すのは出来なかったけどね」
楽しかったと口にする二人を、月明かりが照らす。
こうして、肝試しは最後の最後に穏やかなものとなって終了したのだった。
いや、最後の君達強すぎない?
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
肝試し、脅かす側も本気でしたね。
参加者の皆さんも楽しそうで何よりでした。
お疲れ様でした!
GMコメント
去年から温めていた肝試しネタを、ようやく! ようやく形にする事が出来ました!
というわけで、肝試しです。スタッフ参加でも一般参加者でもどんとこいですよ!
超常現象起きたら面白いですね!(だめです)
イベシナですので、気軽に参加できるようにいたしました。
OPが長い? 気にしたら負けです……。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております!
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