シナリオ詳細
夢の中で食べた味
オープニング
●夢の中で
「本当に美味しかったんですよ、あの料理」
ローレット本部で『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)と話しているのは、中年の男性だ。
商人風で、何やらユリーカに熱く語っている。
「そんなに美味しかったのですか……」
ユリーカも、ゴクリと喉を鳴らして熱心に聞いていた。
「ええ、そりゃもう! 今まで食べたこともなければ見たことも聞いたこともありません。
見た目だけでも思い出せればいいんですがねぇ。そこはほら、夢なんで」
つるりとした頭を撫でながら、商人風の男性が残念そうに言う。
「ただ、あれ以来何を食べても美味しくなくて。食が進まず、日に日に痩せて女房には心配されるわ、食事を残すから不満げにされるわで。
健康にも夫婦仲にも問題が出てきましてね、それで伺ったわけなんですよ」
弱りました、とまた自分の禿げた頭を撫でている。
「ご飯が美味しくないのは大変なのです」
ユリーカも困った顔をし、彼に深く同情している。
●助けてイレギュラーズ
どうもこの商人風の男性、夢の中で食べた料理が美味しすぎたせいで、色々な問題が起こり始めているというのだ。
今までに食べたどの料理よりも美味しく、全く知らない料理だったらしい。
そこで、他の世界からやってきたというイレギュラーズが集まるこのローレットに依頼すれば、何とかなるのではないかと考えたのだという。
もしかしたら、説明を聞いただけで分かってくれる者がいるかも、同じではなくても似た料理を知っている者がいるかも、と淡い期待を抱いているようだ。
最悪、夢の中の料理ではなくてもいいので、何か今まで食べたことのない珍しい美味しい料理を作って欲しい。
今の自分でも食べることのできる料理が見つかれば、とりあえずの健康問題はクリアできる。
そんな気持ちもあるのだろう。
「その料理について、思い出せる限りのことはここに書いてきましたので。何とかお願いします。
このままじゃ、商売どころじゃなくなりそうですし。美食家ってわけでもないんですがねぇ」
そう言って男性が差し出した紙を受け取ると、ユリーカは難しい顔をしながら確認していく。
「なるほどなのです。これは、すごく美味しそうな……」
味についても書かれているのだろう。
ユリーカはその味を想像し、思わず自分のお腹を押さえた。
「材料については、何でも構いません。かかった費用は、報酬とは別にお支払します。
何とかお願いします」
男性がその禿げた頭を深々と下げると、彼のお腹がぐううぅと鳴った。
きっと、しばらく食べていないのだろう。
よく見れば、顔色もあまり良くない。
早く何か食べられる物を作ってあげるしか、彼を救う方法はなさそうだ。
●異世界グルメ大戦
こうしてイレギュラーズに対して依頼が出されることになった。
異世界ならではの料理を作り、最も彼の夢の中で出た料理に近いもの、もしくは美味しかったものが彼に決められるという、ある意味では料理対決のような依頼である。
日時と場所を決め、イレギュラーズによって料理が作られ、彼が食べるという特殊な依頼となっている。
彼の妻も呼ばれ、彼が食べられる物があれば、妻に作り方を教えて欲しいというのも依頼内容にあった。
依頼を受けた中には、料理上手なイレギュラーズだけでなく、自分の世界にあった料理を広めたいというイレギュラーズもいるかもしれない。
何となく軽く感じてしまうが、依頼主にとっては死活問題である。
果たして、彼が夢の中で食べた料理に近いものは、再現されるのだろうか。
- 夢の中で食べた味完了
- GM名文月
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2018年04月27日 21時55分
- 参加人数94/100人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 94 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(94人)
リプレイ
●イレっと〜☆クッキ〜ング☆
商人とその妻のいる会場に、続々とイレギュラーズ達が集まってきていた。
商人が夢で見たという料理を再現しよう、という今回の試みには料理好きな者だけでなく、自分がいた世界の料理を紹介したいという者も少なからずいるようだ。
中にはアベルのようにスナイパーアイや狙撃といったスキルを活用し、材料となるモンスターや動物を狩るところから始める者もいた。
「あ、駄目? まあ、いいか……皆の役に立つなら」
どうやらアベルは狩ってきた獲物を買い取ってもらおうとしたようだが、ただでさえたくさんの材料費がかかっているので、支払いに関する審査は厳しい。
だが狩るのにかかった諸経費はきちんと支払われた。
アベルの獲物は他の参加者によって料理され、美味しくいただかれることだろう。
ナーガも自分の大好物である猪型モンスターを仕留めて持参し、エビも市場で購入してきたようだ。
どうやら自分で使うために狩ってきたらしく、豪快にさばいて調理し始める。
会場に到着し、準備ができた者から好きに調理して良いことになっているのだ。
そうでもしないと、商人が味見する時に困る。
ナーガは小麦粉と芋を混ぜた生地に叩いて砕いた肉、丸ごとのエビを、これまた豪快に投げ込んで丸焼きにする。
外見のイメージ通り、細かいことは苦手らしい。
「それ余るよな? もらっていいか?」
調理中のナーガに声をかけたのはアラン・アークライトだ。
「いいよー! オニクたっぷりだからね」
見た目に反して中身は純粋で幼い少女であるナーガは、大量に残っていた猪型モンスターの肉を笑顔で差し出した。
「うぉぉぉおらぁぁぁ!!」
アランは、これをひき肉にし、玉ねぎやピーマンといった野菜、エビやイカ、タコにアベルが狩ってきたらしい魔獣の肉、ついでに海魔のうねる触手、その他の材料を刻んで入れると力任せに混ぜ、鉄板の上へ全て流し込み円形に広げると豪快に焼く。
「超巨大ハンバーグだ!」
ヘラの扱いが上手く綺麗な円形に焼けていて、匂いも美味しそうだ。
これを横で見ていたメルト・ノーグマンもハンバーグを作っていたが、こちらはキャベツを細かく刻んで、しっかりこねたひき肉に合わせてエビ、イカを混ぜて薄く焼いていく。
材料は似たような物、同じハンバーグを作ったはずなのに、出来あがりを見るとまるで別物だ。
「まかせて、こういうの大得意だから!」
そう言ってステラが作り始めた料理は、アランやメルトが作ったのと似ているが少し違う。
丁寧に下ごしらえし、フライパンで2枚のハンバーグを焼き、別のフライパンを使って秘伝のたれを作り、これを絡めながらエビとタコを炒める。
さらにパンの上にキャベツ、その上にハンバーグ、そしてスライスチーズ、またハンバーグ、エビとタコを重ねた上にパンを乗せてナイフとフォークを添えて出す。
「むぅ……美味いが、夢の中で食べたものとは違うような」
「えっ、これじゃないの?」
試食した商人に違うと言われがっかりしているが、商人でも食べられたようだ。
「いや、しかし貴方の料理が最初で良かったです」
商人がウィルフレド・ダークブリンガーに声をかけた。
何日も食べていないと聞いたウィルフレドは、いきなり豚やエビを食べては胃に悪いだろう、と胃に優しいおかゆを作ってくれていたのだ。
「シンプルな食事だが、役に立てたなら良かった」
ウィルフレドは強面だが、かなりの気遣いである。
おかゆで胃を慣らしたのもあってか、出来上がってきた料理を順に試食していく商人だが、今のところはどの料理も一口ずつ食べられてはいる。
だが、夢の中で食べたのと同じ物はまだ見つからない。
美味しいと感じても、この後のことを考えると一口ずつしか食べられないのが残念そうだ。
レシピは商人の部下がイレギュラーズに聞いて書き留めている。
後で商人の妻に渡されるはずである。
商人の妻はと言うと、意外にノリノリで調理中のイレギュラーズの手元を観察しに行ったり、珍しい調味料があれば味見させてもらったりと動き回っていた。
イレギュラーズ達の中には、メインを作るのは他の者に任せ、気合を入れたソースを作ろうという者も何人かいるようだ。
ブーケガルニもその1人だ。
「何やろな、『アタリ』の料理にはソースが必要不可欠ていう天の声が聞こえた気がするんよなぁ」
そんなことを言いながら、事前に一昼夜煮込んでおいたフォンドヴォーにワインやはちみつ、香辛料などを片っ端から投入していく。
完成する頃には、「魔改造デミグラスソース」とでも言うべき謎のソースが出来上がっていた。
「よっしゃ、でけたかな。味は…………うん、食べてからのお楽しみやね!」
何となくだが、間が怖い。
アーリア・スピリッツは、その向かいで調理しながら夢の中で飲んだ酒のことを思い出していた。
こちらも作っているのはソースだが、果実や調味料を煮込み、隠し味として手持ちの酒を入れる。
夢で飲んだ酒のことを考えていたからか、一口、また一口とその酒を飲んでしまう。
ソースが出来上がる頃には、完全にほろ酔いになっている。
「終わったら余りで宴会とかはだめ?」
「ぶははっ、そりゃいいや!」
他の参加者の手伝いをしていたゴリョウだが、そのうちに自分も作りたくなりアーリアの隣でソース作りをしていた。
偏見かもしれないが、オークであるゴリョウが料理というと、かなり豪快なことになりそうだ。
しかし、意外にも結構手の込んだウスターソースを簡単そうに作っている。
材料のチョイスや分量もきちんとしていた。
このソースをキャベツ等にかければ美味しいに違いない。
これだけの人数がいると、やはり重複する料理を作る者も多いが、それぞれにその個性が出ていて実にユニークである。
たとえば、同じ『ピザ』という料理を作った参加者だけ見ても、全く同じものはない。
鬼桜 雪之丞が作ったピザは、小麦粉に砂糖やイーストなどを混ぜ込み、キャベツやエビ、イカを乗せてチーズをまぶし、焼く。
焼けたらチーズとの相性抜群のバジルを彩りとして乗せ、完成だ。
独特の香りが食欲をそそる。
「やるしかない、でありますね」
一方、竜胆 碧はピザを食べたことはないものの、かつて見た記憶を頼りにピザを作った。
こねた小麦粉を円形に広げ、上に指定された材料を乗せると焦げ目がつくまで焼いていく。
生地のきちんとしたレシピを知らなかったのだろう、生地が固めでパリッとしたピザができあがった。
これはこれで、香ばしくて美味しそうだ。
「我が推察するに、依頼人殿が食べた物はミックスピザの類であるな」
ルクス=サンクトゥスは、そう考えピザ生地の上に適当な大きさに切った材料を乗せ、石窯で焼く。
石窯を使うあたりは、なかなか本格的だ。
ちなみに、石窯はこのために会場に設置させたらしい。
さすがはそれなりに稼いでいる商人である。
「全ては、ピザ生地に乗っけて焼けば解決する! おお、これは立派な石窯じゃな。使わせてもらっても良いか?」
ルクスより少し後に会場入りしたルア=フォス=ニアが、嬉しそうに訊ねる。
「もちろん。我のピザはそろそろ焼き上がるからの」
ルアはこれを聞き、それではとばかりに手際よく調理する。
調理しながら、ルアが誰よりも食べたそうにしている。
ルクスの石窯を使ってこれを焼き、出来上がったピザはたっぷりのチーズがトロトロで最高に美味しそうだ。
「んーまっ!!」
我慢できなかったのか、ルアが一切れ食べて至福の表情で頬に手を当てている。
グレイシア=オルトバーンとルアナ・テルフォードは2人で調理している。
主にグレイシアが調理し、ルアナが手伝う。
慣れた様子で生地をこね、丁寧に下ごしらえしていく。
「ふわぁぁぁぁ!! おじさますごい! くるくる!!」
グレイシアが本場のピザ職人よろしく生地を回転させながら伸ばしていくのを見て、ルアナがはしゃぐ。
たっぷりのチーズを乗せ、ルクスとルアのやり取りを見ていたルアナがルクスに石窯の使用許可をもらいに行った。
「構わぬぞ。そもそも、あれは我の物というわけではないしの」
少し困惑しているようにも見えるルクスから許可を得ると、たっぷりのチーズを乗せて石窯で焼く。
「さて、ルアナは好きな具材があるだろうか?」
「えっとね。チョコ!」
きらきらした瞳で言うルアナだが、チョコの用意はなかったので同じピザをもう1枚焼くことになった。
後日、美味しいチョコピザを作ってもらえるはずだ。
焼きあがったピザは、ルアナ達の故郷のピザをアレンジしたものらしい。
1枚目は商人のところへ持って行き、2枚目を2人で食べる。
ピザの見た目だけでなく、調理している様子も完成した時の様子も、それぞれだ。
おかげで商人も飽きずに味見を続けている。
とは言っても、一口ずつなのだが。
気付けば、アーリアがふと漏らした言葉の通り、調理が終わった者達が残った料理を囲んで宴会のようになっている。
成人したイレギュラーズの中には、酒を飲んでいる者もいるようだ。
ピザと迷ってパンケーキを作り始めたのはオーガスト・ステラ・シャーリーだ。
理由は、オーガストがスイーツを食べたい気分だったからだが、牛肉を使って少し豪華になっている。
砂糖を少なめに焼いたパンケーキの上に炒めた具材を乗せ、塩コショウやソースなどをかけてマヨネーズでマイルドに。
最後に愛情を込めて祈祷する。
「おいしくなーれ、おいしくなーれ」
これを近くで見ていたセララが思わずオーガストに声をかける。
「もしかして、メイドさん?」
「メイド? 私がですか?」
驚いているオーガストの様子にセララが謝る。
現代日本出身のセララには、先程のオーガストの様子で何か連想するものがあったようだが、無関係である。
そんなセララが作ったのは豚肉、キャベツ、イカを使ったイカ焼きそばだ。
「見よ、これが至高のヤキソバだー!」
気を取り直して鉄板を使い、割りと本格的な焼きそばを作った。
アレクシア・アトリー・アバークロンビーは、友人であるオーガストが不思議な声のかけられ方をしているのを、少し離れた場所から見ながら生地を混ぜていた。
フライパンでこれを焼きつつ豚肉などの具材も焼いて、生地が焼けたら具材を巻いていく。
意外と上手く巻けている。
「それは何という料理でありますか?」
「なんだっけ……えーと……そうそう、クレープ!」
すぐ隣にいた鉄帝軍人のハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルクが、深緑から来たアレクシアに料理名を聞く。
そんなハイデマリーだが、魚介類を組み合わせてすり潰し調味料を加えてこね、ベーコンとキャベツの葉で包むと爪楊枝で固定し、コンソメスープで煮込むという凝った料理を作っている。
スープの水分を飛ばしてソース代わりにするというテクニックまで使い、シーフードロールキャベツが完成した。
本人も出来の良さに驚いている。
何しろまだ10歳なのだ。
ロールキャベツを作ったイレギュラーズは他にもいた。
レンジーもその1人だが、こちらは豚ひき肉をベーコンでは包まずにキャベツだけで包んでいる。
自分の店からハーブや香辛料を持参し、丁寧に味付けをする。
それをクリームスープで煮込む。
トロトロのスープの真ん中に鎮座するロールキャベツは、とても美味しそうだ。
「ハーブ、少し分けてもらえないかな?」
品揃え豊富なレンジーのハーブを見て、マルクが声をかける。
「もちろん! 他の皆も自由に使ってね」
これを聞いて、レンジーのハーブや香辛料を借りる者は多かった。
マルクはレンジーから分けてもらったハーブを使って豚肉の臭みを消し、実に丁寧な調理を行っていく。
キャベツで巻いた後は糸を使い、コトコトと1時間かけてコンソメと野菜くずのスープで煮込んでいく。
材料として挙げられていたキャベツだが、どうせなら春キャベツを一番美味しく食べてもらおうという考えで作ったらしい。
主人=公も、レシピ本を見ながらだが一生懸命ロールキャベツを作っている。
調理実習スタイルなので、少し目立つ。
豚ひき肉や細かく切ったエビなどをキャベツで包み、スープで煮込んだ後はトマトソースをかけて完成させる。
レシピ本通りに作り、素人っぽい感じの見た目ではあるが、一生懸命さは伝わってくる。
包むという意味ではロールキャベツに似ているが、全く違う料理を作ったのはクロジンデ・エーベルヴァインだ。
まずキャベツは刻み、豚肉、エビ、イカ、タコを適当な大きさに切ると火を通しておく。
そして卵を何個か割ると大きなオムレツを作り、その中に上手く包み込んで完成だ。
「具材から味出てるから何も付けないでいけるだろー」
そう言いながら、この豪華なオムレツを商人に試食してもらう。
「うーん、美味しいんですが夢で食べた物は、もっとこってりした味だったような……」
これも違ったらしい。
ミルヴィ=カーソンが作ったタコも、包むという意味ではロールキャベツと同じではある。
タコスと呼ぶ方が分かりやすいかもしれないが、ミルヴィは旅人だったという母に作ってもらっていたらしい。
想い出の料理というわけだ。
隠し味にアンチョビを、辛めのチーズやチリソースも使って石窯を借りて焼き、美味しく刺激的な味に仕上がっている。
ラルフ・ザン・ネセサリーはトウモロコシを使って薄い生地を作り、ポークソーセージやシーフードを乗せ、チリソースにチョリソーソースをブレンドして塗っていた。
ミルヴィと似た料理を作っているようだ。
石窯を使い、完成した料理に刻んだキャベツを乗せると小さく切り分け、それから巻いていく。
アンチョビと白ワインを添える心配りが憎い。
「私の知っている一番美味しい料理、ホットタコスだ」
試食する商人を見ながら昔のことでも思い出したのか、少し遠い目をする。
ある意味、ロールキャベツにとても近いのに、何故か全く別の物を作ったイレギュラーズもいた。
ノリア・ソーリアと コリーヌ=P=カーペンターである。
2人が調理した時間も場所も離れていたのだが、ほぼ同じ物を偶然作っていた。
最近、依頼の中で火の使い方を覚えたばかりのノリアは少し危なっかしいところもあったが、丸ごと1個のキャベツの中をくり抜き、そこに肉や魚介類を刻んだ物を詰めたら蒸す。
中まで火が通れば完成である。
コリーヌはギフトで呼び出したお手伝いメカの正宗くんと会話しながら、ほぼ同じ物を作った。
ただ、コリーヌの場合は正宗くんとの会話から、元々は父親の創作料理だったことが分かっている。
ちなみに、コリーヌが作ったのはキャベツボンバーという名前がついており、最後は蒸すのではなく焼く料理だ。
ノリアの料理も創作料理と言えるだろうが、偶然とは恐ろしいものである。
もしかしたら、ノリアとコリーヌの父は好きな料理が似ているのかもしれない。
●どんどん作って試食して!
商人は何だかんだで全ての料理を一口ずつ試食しているが、まだ夢の中の味には出会えていないらしい。
難儀な男である。
しっかり三角巾をつけ、そば粉のガレットを作っているのはセレネだ。
予め炒めておいた具材を、フライパンで水で溶いたそば粉を丸く薄く焼いたものの真ん中に並べ、上から卵を落とすと塩コショウをかけ、四隅を包み込むようにそっと折り曲げる。
ソースも用意し、好みでかけられるようにしておく。
熱々で美味しそうだ。
ティミ・リリナールが小麦粉と卵、少しの塩と砂糖を入れた生地にチョコチップを混ぜ、型に入れて焼いているが、スイーツっぽく見える。
「美味しいですが、これは……」
試食した商人も甘い料理に少し困惑気味だが、儚げで華奢な10歳のティミが一生懸命作ってくれたことを思い、それ以上は何も言わなかった。
春津見・小梢は、気合と情熱を注ぎ込んでトンカツとエビフライをトッピングしたシーフードカレーを作っている。
「うなれ私のカレー・ジャスティス!」
「うーん、美味しいですがこれ、切り分ける必要ないですよね……」
試食した商人が思わず突っ込む。
小梢のカレー・ジャスティスは強いが、今回は残念ながらうならなかったようだ。
巡離 リンネは小梢のその様子を見て、気を付けなければと思いながら作り始めたが、途中で面倒になってしまった。
「シンプルにいこう!」
挙げられていた材料を全て潰して練り、ボール状にすると固めるため適当な出汁で煮始めた。
「アツアツだって言ってたし、おでんっぽい感じでいいでしょ!」
こうして豚肉つみれおでんが完成した。
これを見た商人の妻は、他にも色々具材を入れれば日常的に使えそうなメニューだと思ったのか、何やらメモしていた。
「焼くのは趣味だから。一番身近な『焼く』行為は修行の一環とも言えるし」
セルウスとズットッド・ズットッド・ズットッドは2人で調理していたが、料理は苦手ではないというセルウスの発言は、料理の出来に関してこれを聞いた者を何となく不安にさせる。
セルウスが考えた方針に従ってズットッドが生地に塩や唐辛子を混ぜ、牛乳を注ぎ込む。
具材は2人で分担して切り、生地と合わせて焼き始める。
ひっくり返すと大抵悲惨なことになるから、とセルウスが自分の火も使ってひっくり返さずに焼くことにする。
「……多少焦げた方が美味しいかもだし、ポジティブにいこうぜ!」
『焦げ目が香ばしくて美味しい!』
『ってよく聞くよ』
セルウスに同意するかのように、ズットッドのラジオもそう言っている。
「ファイヤー!」
「レッツファイヤー」
セルウスのかけ声と共に鉄板の上下から、しかも上からは強力な直火で焼かれた料理は多少どころか真っ黒焦げになった。
ただし、中心だけはいい感じである。
そこで商人の試食には、中心のいい感じのところだけを渡したのだった。
アズライール・プルートは指定された具材を少し濃いめの味付けで炒め、耳を切り落とした食パン2枚で挟むと端をフォークで押し潰して止めていく。
これをいい色に焼くと三角形になるよう半分にカットし、トマトやレタスと一緒に彩りよく盛り付けた。
「シーフードホットサンドの出来上がり、です」
「ホットサンドというその発想、とても良いね」
パン屋である上谷・零にとって、アズライールの料理が興味深かったのだろう。
ギフトでフランスパンを作り、半分にカットしたものの内側に焼いた具材を詰めながら、自分の斜め前で作られた料理を褒める。
パンの外側にはカリッと焼いた豚肉を乗せ、マヨネーズや青のり、かつお節やソースをかけていく。
試食した商人が味は近いと言っていたが、これも違ったようだ。
次に試食してもらおうとしていた最上・C・狐耶は、これを聞いて複雑な顔をしていたが、とりあえず料理を渡す。
狐耶が作ったのは具材にチーズをからめ、ご飯の上に乗せてオーブンで焼いたものだ。
チーズが香ばしく焼きあがったシーフード入りあつあつチーズ乗せご飯、と言っているがどこからかシーフードドリアと聞こえてきた。
「…シーフードドリア? なんですそれ?」
狐耶は首を傾げるが、似た料理を知っていた者がいたのだろう。
狐耶だけでなく、他の多くのイレギュラーズ達も既に調理を始めていたので、商人が零の作った惣菜パンを夢で食べたものと近い味だ、と発言したのを聞いても方向転換できた者はほとんどいなかった。
これから調理を始めようとしていた者、この後会場に到着した者ならもしくは、といったところだろうか。
何はともあれ、ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルクが作ったのは豚ひき肉と大きめにカットしたエビをキャベツで包み、トマトソースで煮込んだものだ。
人参、豆腐も使い、エビの代わりにイカ、タコを使って同じ物を作っている。
さらにもちもちの生地に混ぜた物も作り、何かの盛り合わせのようになっていた。
ヴァレット=クレッセントは念のために本を用意し、それを見ながらキャベツで適当な大きさに切った豚肉、エビ、イカそれぞれを巻いて木の串を刺してとめ、コンソメスープで煮込む。
ロールキャベツっぽいが、何かが違う。
「あ、串は外して食べてね」
味が薄いといけないと思ったのだろう、小皿に粉状にした岩塩まで用意している。
ウィリアム・M・アステリズムは調理しながら、師匠に感謝していた。
不得手な師匠の代わりに料理を担当していた経験のお陰で、困ることなく調理できているからだ。
ウィリアムが作ったのは異世界風シーフードパイだが、上面のパイ生地をしっかり網目状にするという、細かい技まで使っている。
これを見ていたクリム・T・マスクヴェールは、自分が作ったパイと見比べ、悔しそうに唸った。
クリムのパイは、具材を炒めてマヨネーズで味付けし、スライスチーズを乗せてパイ生地に包んだだけでなく、きちんと溶き卵を塗って照りを出しているのだが見た目の良さはウィリアムの方が上だと、何となく感じたらしい。
セリカ=O=ブランフォールはキャベツを生で千切りにし、豚ヒレカツ、エビフライ、イカフライを揚げていく。
イカはきちんとリング状にし、耳の部分や足も漏れなくフライにしておく。
さらにレシピ本を見ながら自作してきたウスターソースを添え、商人に試食してもらう。
「外はカリカリ、中はジューシー&ぷりぷりなフライセットだよっ!」
一口ずつ食べていたとは言え、そろそろお腹が膨れてきた商人だが、これも美味しいと言って食べていた。
とは言え、もうしばらく料理を試食したら、一旦休憩を入れる必要が出て来るかもしれない。
シビュレ=レヴィナ=トリリハウルは、普段あまり料理をしないのか、材料を全て細かく切りパンに包んで焼いてみる。
念のためにと料理用に酒を持ってきていたが、料理を完成させて商人に試食してもらうと、そのまま調理が終わって宴会状態になっているイレギュラーズ達に誘われ、その酒を持って加わった。
リーゼル・H・コンスタンツェが作ったのは、卵と牛乳、そしてバターを使った生地の上にキャベツや麺、豚肉を乗せて、その上からまた卵を乗せひっくり返してから蒸し焼きにするいうものだ。
お好みでソースがかけられるように添えてある。
ムスティスラーフ・バイルシュタインは自分のいた世界に該当しそうな料理がなかったので、今回の依頼のために創作料理を開発してきていた。
モンスター知識を使い、熱を加えれば凝固するという性質の体液を持つモンスターを狩り、この体液を生地代わりにする。
キャベツと豚肉、エビ、タコかイカの代わりに、これらに共通する触腕を持つモンスターを入れて塩コショウして完成である。
試食した商人によれば、独特な味と感触だったらしい。
ヨハン=レームは悩んだ末に指定された具材を焼いてパンに挟んだ。
手軽で作りやすいことをアピールし、商人の妻は興味深く見ていた。
「これはイカエビブタパン……そう、IEBPっていうハイカラなやつ! です!!」
IEBP、と聞くと何だかとてもオシャレな料理に聞こえる。
Lumilia=Sherwoodは自らの師がかつて作っていた料理を再現してみた。
これは小麦粉と水、卵を混ぜてできた液体を具材と共に焼くというものである。
その時使われていた山菜を探し、キノコや他の山菜も入れて焼いていく。
「美味しい…んですが、これ私が言った材料が入っていないような……」
申し訳なさそうに試食した商人が指摘する。
「あっ……」
いつの間にか、師の作っていた料理を再現することに重点が置かれていたようだ。
料理は不得手なジョセフ・ハイマンだが、残り物を食べたいという気持ちから参加してしまったのであった。
具材を全て刻んで混ぜ、独断と偏見によって小麦粉と卵を投入する。
誰かに聞いた「カロリーは美味しさ。揚げ物は至高」という言葉を思い出すが、揚げるのは難易度が高そうなので、天かすを混ぜてみる。
これを円形に整えてオーブンで焼く。
「私にもよく分からん物が出来た! オーロラソースが全てを解決してくれる…はず!」
そう言ってオーロラソースをかける。
商人はこれを試食している間、何故かずっと首を傾げていたが特に何も言わない。
その後、ジョセフは宴会中のイレギュラーズ達の輪に加わった。
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペンは色々考え、きっとケーキっぽい形だろうと当たりをつけていた。
まずはソース用のブイヨンを作り煮込む。
細かく刻んだキャベツ、小さめに切ったその他の材料を卵と小麦粉を混ぜた中に入れ、さらに混ぜたものをケーキの型に入れたらオーブンで焼く。
その間に、小麦粉とバターを炒めてブイヨンを入れて煮詰めたソースを完成させ、焼きあがったものにこれをかけるとケーキのように切り分けて出す。
「さぁ、アツアツの内にどうぞ!」
試食した商人によれば、見た目はケーキっぽいのに食べると甘くない、不思議な感じだったらしい。
サブリナ・クィンシーは切り分けたライ麦パンにクリームソース、チーズ、イカ、タコを乗せる。
さらに切り分けた食パンにはトマトソース、刻んだチーズ、豚肉の塩漬けを乗せた。
この2種類りパンピザをフライパンで焼いて、刻んだキャベツを少し乗せて完成だ。
やはり手軽に作れそうなのが商人の妻からは評価されていた。
スティア・エイル・ヴァークライトは、その華奢な外見からは予想しづらい、割りと豪快な料理を作っている。
その名も「豚の丸焼きスティアスペシャル」だ。
そう、ようは豚の丸焼きである。
エビ、イカ、玉ねぎ、人参は食べやすくカットし、キャベツは豚の内臓を抜いた部分に敷き、塩コショウで味付けした具材をここに入れて包む。
耐熱性の高い紐を使って腹部を巻いてとめ、特製ソースを豚の全身に塗り、まず表面を一気に焼いてから弱火でじっくり炙る。
完成したら、とりあえずそのまま商人の前に持って行く。
「これは……さすがにこんなインパクトのあるものは…いや、まあ美味しいですが」
色々言いながらも、とりあえず切り分けて試食する商人である。
そして、ここで商人が満腹になってしまったので、一旦休憩することになった。
数時間経過してから再開だ。
●休憩したからまだ行ける!
休憩時間が終わると、ヘイゼル・ゴルトブーツは100%の確信を持って料理を始めた。
ただ、その料理を作ったことはないらしく、時々思い出すように考えている。
大きなボールに具材と一緒に入れるのはケケルだ。
調味料は何が入っていたか分からないので適当に追加し、ザオを混ぜてよくこねたらタネ型にする。
たっぷりの油を敷いてフライパンに流し込むと両面を焼いて完成だ。
「これでケフルリゾの完成なのです!」
「こ、これは…想像もつかなかった味!」
商人は試食しながらやたらとテンションを上げていたが、これも違ったらしい。
銀城 黒羽は、小麦粉と米粉、水、卵、玉ねぎとニラでタネを作り、千切りキャベツに一口大に切ったエビとイカを混ぜ、最後にキムチを加えて鉄板で両面をしっかりと焼いていく。
キムチのお陰で適度に絡みと酸味が加わり、食欲をそそられるチヂミの完成だ。
商人には食べやすいよう一口大に切ってから渡す。
「こ、これは…!味は違いますが、似ている、ような」
試食した商人が言うには、夢で食べた料理と味は違うが他はとても似ているらしい。
これを聞き、同じくチヂミを作っていたティアブラスが急いで完成させようとする。
こちらは薄力粉、片栗粉、水、卵に塩を使って生地を作って焼き、天使オリジナルブレンドエキスをたれとして使う。
「これを機に、事業展開などの計画はございませんか?」
やはり似ていると言いながら試食する商人に、何やら思惑があるのかそう迫るティアブラスだったが、商人の妻にあしらわれてしまった。
何はともあれ商人が夢の中で食べた料理は、どうやら零の作った惣菜パンの味に近く、黒羽達の作ったチヂミに似た何か、ということらしい。
ここからは、多くのイレギュラーズ達がほぼ同じ料理を作り始めた。
大きなヒントが得られたからだろう。
花房・てふが作ったのは山芋や揚げ玉を入れてふわとろ生地の割りとオーソドックスな関西風のお好み焼きだった。
これを試食した商人が、かなり近いと評したことにより、どうやらお好み焼きかそれに類する物で間違いなさそうだということになった。
鏡・胡蝶もお好み焼きを作ったが、胡蝶が作ったのは明太子と餅とチーズが入った明太もちチーズお好み焼きである。
商人の妻が餅の食感を気に入ったらしく、自家製の餅を作って売り出してはどうかと商人に提案していた。
十夜 縁のお好み焼きは身内が作っていたものを見よう見まねでふわっと作ったものだ。
料理は得意ではないらしいが、見た目が悪くなってもそんなに気にせず、最低限の指定された材料と山芋で完成させる。
クロバ=ザ=ホロウメアのお好み焼きは、あえて少し外して広島風だ。
「やれやれ、こんな身の上になっても料理をする事になるとはな。……まぁ、身についたものは利用するに限る、か」
そんなことを言いながら料理スキルも使い、調理を終えた者が少しずつ集まった結果、かなりの大人数になっている宴会用にもと多めに作る。
もちろん、商人に試食してもらった後は自身も加わるつもりだ。
ココル・コロはセティア・レイスの隣で調理している。
2人で一緒に作るのだから、とココルは可能性にかけてだし汁に海鮮と玉ねぎを入れ、煮た後に卵でとじて熱々のご飯に乗せる。
セティアはまず試作として普通にお好み焼きを作ってみるが、納得いかなかったらしい。
何枚か作っているうち、もらってきたキャベツを使い切ってしまったので今度は別の物を作り始める。
丸くへこんだ鉄板を使い、そこに生地を流し込むとタコを入れ、つつくようにひっくり返しながら焼く。
「美味しそうなのです!! ひとつ食べてもいいですか?」
ココルが完成したセティアの料理、たこ焼きを見てねだる。
「いいよ」
「美味しい! あつあつとろとろ!」
そんなココルを見ながら、セティアは失敗作となったお好み焼きを食べてみるが意外と美味しかった。
商人には、たこ焼きを渡してしまったが、お好み焼きで良かったかもしれない。
秋月・キツネは以前、他の依頼でアレンジしたお好み焼きを作ったことがあった。
食感を重視するため、キャベツは千切りではなく小さめのざく切りにし、豚肉の切り落とし、小さめのエビと一緒に炒めて水溶き片栗粉をからめ、野菜を煮込んで作ったソースと混ぜ合わせる。
これにあおさとかつお粉をまぶしたら、卵と小麦粉で薄く焼いた生地でくるんで出来あがりだ。
一応、イカやタコを混ぜたものも作ってみる。
エリザベート・ヴラド・ウングレアーヌとユーリエ・シュトラールは2人で相談しながらお好み焼きを作っている。
「食材的に卵も合いそうだよね! 色々混ぜてやってみるね!」
2人とも食べたことがないのだろう、どう作るか意見を出し合いつつ料理していく。
ユーリエは昔誰かに聞いた「塩コショウをかけて焼けば何でも美味しくなる」という言葉を思い出し、塩コショウで味付けしようとするがエリザベートが意見を述べる。
「塩コショウだけでは、物足りないような気がします」
何となくマヨネーズが合いそうだ、ということでかけてみるが何となくまだ足りない気がする。
「チーズも乗せて、生地を薄くして焼きそばを絡めたら面白そうですね」
エリザベートのこの言葉で、焼きそばに使うソースもかけてみた。
良い感じになった気がするので、これを商人に食べてもらう。
雨宮 利香は記憶喪失なので、自分の世界もよく知らないのだが文献などで色々と知識は得ているのだった。
お陰でお好み焼きの作り方も知っている。
文献にかかれていた通りに作り、キャベツを山盛り乗せていく。
が、何か違うような気がして記憶をたどってみる。
「これ『広島風』だー!?」
とは言え、試食してみると美味しかったのでそのまま商人のところへ持って行った。
相変わらず、夢の中で食べたままの料理にはまだ出会えていない商人である。
イース・ライブスシェードはあまり料理が得意ではないが、依頼なので頑張って調理している。
お好み焼きの作り方もよく知らないのだが、ケーキ作りと同様に卵は卵黄と卵白を分け、卵黄と他の具材を混ぜると卵白をメレンゲになるまで泡立てて後から加える。
鉄板にこれを乗せて焼くと、すごくふわふわした食感のお好み焼きができた。
ルルリア・ルルフェルルークとミア・レイフィールドはお互いにライバル心のようなものを持ちながらも一緒にお好み焼きを作っている。
具材を切るのは2人でやり、生地を作って具材を入れるのはミアが担当した。
焼いてひっくり返すのはルルリアが担当する。
2枚焼くと1枚の上にチーズを乗せてもう1枚をその上に乗せ、ソースや青のり、かつお節をかけマヨネーズで白猫を描いて可愛くデコレーションしてみた。
かなりのボリュームだが、なかなか美味しそうである。
どちらも失敗することがなかったので、ルルリアとミアのどちらが料理上手なのか、ということの決着は今回はつけられなかった。
ゲオルグ=レオンハートは、みじん切りのキャベツを入れたお好み焼きの生地を半分だけ焼いている間にコーン、ほうれん草、蒸したさつま芋を別々にバター炒めにする。
焼いている生地の上にこれを乗せたら、残りの生地を流し入れ熱で固まり始めたらひっくり返す。
焼きあがったら特性ソースとマヨネーズをかけて完成だ。
ギフトでふわふわ羊のジークを呼び出すと、余分に作っていたお好み焼きを一緒に食べる。
アマリリスは佐山・勇司の助手として参加しているが、材料を切っているうちに何度も指を怪我し、その手は絆創膏だらけだ。
勇司はその間に生地を混ぜておき、火が苦手なアマリリスを気遣いながら焼いていく。
アマリリスは勇司の後ろに隠れ、勇司の服を強く握り締めながら恐る恐る覗いて焼けていく様子を見ている。
鉄板で焼いているのでそんなに火は見えないのだが、相当怖いのだろう。
お好み焼きができたらソース、かつお節、青のりをかけて仕上げる。
ぐうぅぅ……。
アマリリスのお腹が鳴り、恥ずかしさから真っ赤になってしまう。
「佐山さま! あーん!」
「わーったよ。ほら、あーん…だ。火傷すんなよ?」
恥ずかしさを誤魔化すように勢いで言ってみたのだが、勇司がアマリリスの口まで一口大に切り分けたお好み焼きを運んでやる。
エスラ・イリエは一般的なお好み焼きを作ると錬達産ソースやかつお節、青のりをかけて仕上げる。
自分の作り方と正確な分量まで書いたメモを商人の妻に渡しておく。
レシピの記録係が1人分でも休めると喜んでいたようだ。
これだけ人数がいて料理を作っていると、レシピを書き留めるのも大変なのだろう。
九重 竜胆は、以前誰かが作っていたのを見たらしく、その記憶を頼りにお好み焼きをテキパキと作ってみせた。
商人が言っていた材料は全て入れてある。
調理を終えると竜胆も宴会に加わり、他の参加者達からその個性的な料理のレシピや開発秘話などを聞いて回った。
ルーキス・グリムゲルデとルナール・グルナディエは2人で参加しているが、主に料理しているのはルナールのようだ。
山芋の代わりにルーキスが持ってきたヒノモト産だという芋を使ってみる。
商人には普通のサイズ、一緒に味見するために小さめのお好み焼きを作り、出来上がったら味見してみる。
ソースとマヨネーズは錬金で作ったものだ。
「さて、味はどうだー?」
もぐもぐと味見しているルーキスを見ながらルナールが訊ねる。
「うん、予想より美味しい。帰ったらまた作ってもらおう」
笑顔で言うルーキスに、嬉しくなるルナールだった。
弓削 鶫は仙狸厄狩 汰磨羈と参加しているが、それぞれ別に料理していた。
「作る物が分かればこっちの物です。とびっきりに美味しい物を作ってあげましょう」
鶫はお好み焼き、広島風お好み焼き、モダン焼き、キャベツ焼きと多種類作っている。
汰磨羈は普通のお好み焼きだけを作ったようだ。
「コレを焼くのは久しぶりだが。んむ、いい具合に焼けたと思うぞ」
お互いに少しずつ交換して味見してから商人に渡した。
その後はもちろん宴会に加わり、お好み焼きについて詳しく知っている者達とお好み焼きの種類や成り立ち、何を入れるのが好きかなど様々な話題で盛り上がっていた。
Svipulはイカやタコを思わせる上位者的まな存在から何かを受信したようだ。
自立稼働しそうなOKONOMIYAKIを作ろうとしたらしいが、出来たのは普通のお好み焼きだった。
「Oh Majesteettinen!! これが新世代の粉物料理!!」
「あっ……である!」
「である」をつけ忘れたらしい。
無表情のまま商人の元へお好み焼きを持って行くと、しれっと宴会にも参加し、色々食べて帰った。
白銀 雪は、以前とある旅人からもらったお好み焼きを思い出しながら調理していた。
正しい知識はないので、何となくで作っている。
チョコを焦がしまくったこともあったが、料理の腕は磨いてきたつもりだ。
しかし、料理となるとどうにも肩に力が入ってしまう雪である。
一方、知識はあるが不器用だからと料理はせずに力仕事や雑用をこなしていた銀が、雪の様子に気付いてハラハラしながら見守っていた。
包丁を握って材料を切り始めるのを見て、我慢できなくなって声をかける。
「手伝おうか…?」
「…お願い」
渡りに船とばかりに銀に手伝ってもらう雪だが、2人とも料理は苦手なのだ。
「お手伝いしましょう」
イースリー・ノースがその人助けセンサースキルでこれに気付くと、問いかけるのではなく申し出るかたちでサポートに入る。
見た目は人と変わらないイースリーだが、実際は人工知能である。
本体との接続は切れているので、本来持つ性能から大幅に落ちてはいるが、お好み焼きくらいなら問題なく作ることができるだろう。
何より、イースリーは人類が大好きなのである。
嬉しそうに人類との共同作業として調理を進めていくのだった。
参加したのはいいが、料理するのが初めてというシレオ・ラウルスは、お好み焼きは知っているが作り方は当然知らず、生地を作るのに小麦粉と卵と牛乳を使っている。
「ふぉ! あ、ダメだ、いや、大丈夫、くっつければ生きられる、いや! 生きろ!」
焼いている途中、ひっくり返そうとするが失敗して分裂したらしい。
慌てて寄せ集めて1つに戻し、何とか完成させた。
塩むすびも用意してあるので、きっと何とかなるだろう。
ミストリアも料理はできないが、そのために会場でルアミィ・フアネーレ、リック・狐佚・ブラック、ラズライト・ラピスラズリ、藤野 蛍の4人を集めていた。
このうち、ルアミィは料理ができず、リックはお好み焼きは知っているが作り方が分からないので、できる範囲のことを手伝うか、誰かに指示してもらうしかない。
そこでラズライトと蛍が中心になって調理を進めていく。
こうして、主にミストリア以外の4人で作ったお好み焼きだが、人数も多いのでたくさん作られていた。
そのうち1枚にだけ、ミストリアがこっそり激辛パウダーを混ぜ込んである。
商人が試食しても何もなかったが、自分達で試食するとミストリア自身がこれを引き当ててしまった。
ルアミィが慌てて水を持ってきて祈祷し、介抱する。
ラズライトはひたすら慌てていた。
この時、蛍は商人の妻に引き止められて調理のコツを説明中、リックは鉄板があるなら焼きそばが食べたい、と麺を探しに行っていたのでいなかった。
ある意味、幸運である。
休憩を挟んだとは言え、商人はまた満腹に近づいてきている。
ほとんどのイレギュラーズが調理を終え、宴会中だ。
会場周辺を散歩している者もいる。
皆、結果が気になるので帰るに帰れないのだ。
あと少しだから、と商人はこのまま一気に試食してしまうつもりらしい。
●はてさて、お目当ては?
Morguxは元いた世界では食事をしなかった。
しかし、お好み焼きは見たことがあったので、料理が得意というわけでもないがチャレンジしてみる。
豚肉、エビ、イカ、タコをまず鉄板で焼いて上からキャベツを混ぜ込んだ生地を流して両面を焼いた。
自信なさそうにしているが、見た目はそれっぽくなってはいる。
何をかければ良いのか覚えていなかったのでケチャップをかけておいた。
試食した商人は、ソースのお好み焼きが続いていたのでケチャップで少し味の違うお好み焼きが少し嬉しそうだった。
風巻・威降はきちんと出汁を取って生地を作るのに使い、山芋も使ってふわっとしたお好み焼きを作った。
「前日の残り物でも入れて焼けば、無駄もない上に美味しくてお腹も満足という素敵な一品だよ!」
試食する商人の妻に、お好み焼きの長所をアピールする。
レオンハルトは真剣に考察し、推測して来た料理が正解らしいことに安堵しつつ生地を作り、円形に薄く伸ばして焼いていく。
その上に具材を乗せて少しだけまた生地を垂らしてひっくり返すと、具材を蒸し焼きにするようにしながら炒めた麺を生地の上に乗せた。
この隣に卵を割ってこれを円形に伸ばし、本体をそのままの状態で乗せ、さらにひっくり返して卵が上に来るとソース等をかけた。
鳴神 香澄は、フライパンの方が使い慣れているのか、鉄板は使わない。
他にもお好み焼きを作る者がいれば手伝おうかと思っていたようだが、人数が多いので自分も作ることにしたようだ。
フライパンで器用にお好み焼きを焼いていると、商人の妻が寄ってきて色々聞いていた。
他の者は鉄板を使ってお好み焼きを焼いていたので、物珍しかったのかもしれない。
お好み焼きは知っていた牙軌 颯人だが、いざ作ろうとしてみると普段は店で完成品を買っていたので、作り方について詳しく知っているわけではないことに気付く。
それでも参加した以上は、と記憶をたどりながら作っていくが、慣れない鉄板で初めて作るお好み焼きでは、焼き加減がよく分からない。
「……しまった、焼き加減を失敗して真っ黒になってしまった」
そろそろだろう、とひっくり返してみるとその言葉通り真っ黒である。
その向かいでは、クラリーチェが正統派なお好み焼きを作り、ケチャップを隠し味として塗り、ソースやマヨネーズ等をかけて商人のところへ運ぶ。
「さあ、冷めてしまってはいけないわ。あたたかい内に召し上がれ!」
ハフハフ言いながら熱々のお好み焼きを食べる商人である。
途中から、余った料理をレシピの記録係も食べていた。
見ているだけだとお腹が空くのは道理だ。
むしろ、可哀想になってくるので、商人が言い出したらしい。
アリス・フィン・アーデルハイドは料理するのが楽しいのか、鼻歌交じりでお好み焼きを作った。
「こんな感じでどうでしょーかっ!? 私も食べたいから違ってたらいただきます、はいっ!」
「違わなくても食べていいですよ、私には多すぎますから」
笑いながら言う商人の言葉に、アリスは大喜びだ。
椚・伊津葉は、たくさんあるお好み焼きの種類とアレンジ具材について考えていたが、とりあえず色々な料理が作られればそれをもらえるだろうと期待もしていた。
故郷の味であるお好み焼きが会場でたくさん焼かれ、視覚、聴覚、嗅覚から刺激を受けているうちに作りたくなり、1枚焼いてみた。
イカの脚を生地に混ぜ込んでおいたので、良い出汁が出ている。
伊津葉のお好み焼きを試食し、全員の料理を食べ終えた商人は、しばらく考え込んでいた。
「うーん、お好み焼きというものが一番近かったですね。夢の中の味と全く同じ、という訳ではないですがほぼ同じでした。
いやぁ、しかし何日ぶりでしょうか。こんな風に食事をしたのは。私の腹もよくもってくれました」
言いながら笑っている。
何だかんだで、全員が作った料理を一口ずつは食べたのだ。
本当に今まで食事ができなかったのだろうか、と不思議に思うくらいだった。
禿げた頭を撫でながら、商人が締めようとする。
「これだけ色々と美味しい料理を食べたお陰か、夢の中で食べた料理の味も薄れています。女房も食べてましたし、レシピも教えてもらいましたから、もう心配いらないでしょう。
いやぁ、本当に皆さんには感謝してもしきれません。助かりました」
ここで立ち上がると、商人が1度だけ手を打つ。
「さあ、ここからは皆さん自由に過ごしてください。既に宴会してらっしゃいますが、もっと出しましょう!
私からのお礼代わりです。思う存分、楽しんで帰ってください!」
こうして会場は宴会場へ変化し、成人している者にはそれなりに良い酒が振る舞われ、未成年にも珍しいジュースが振る舞われた。
料理はたくさんあるが、フルーツやサラダなどが出されたので甘い物が好きな者、野菜好きな者も満足できそうだ。
夜遅くまで宴会は続き、商人はこの後きちんと毎日食事を取れるようになり、夫婦仲も元通りになった。
最近では、商人の妻が異世界料理を作るのに大ハマリしているらしく、時々ローレット本部にも顔を出しているとか、いないとか……。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
大変お疲れ様でした。
今回は私、文月の担当しましたシナリオにご参加いただきありがとうございました。
皆様のお陰で、商人の健康問題も夫婦問題も無事に解決できました。
2人とも、とても感謝しているようです。
少しでも楽しんでいただけましたならば幸いです。
またの機会がありましたら、よろしくお願いいたします。
GMコメント
閲覧ありがとうございます、文月です。
今回は商人の男性が夢の中で食べた料理を再現するのが目的です。
以下、補足となります。
●成功条件
・商人が食べられる物を作る
夢の中で食べた料理が再現できれば1番ではあります。
難しい場合でも、彼が食べることのできる異世界の美味しい料理を振る舞えれば成功となります。
●夢で食べた料理の確定情報
・スイーツではない
・覚えていて把握できた範囲内での材料は、キャベツと豚肉、エビ
・アツアツだった
・スープではなく、固形の料理
・イカかタコが入っていたかも
・切り分けて少しずつ食べた
正解の料理はありますが、アイデア次第で商人を満足させられます。
特にこだわらず、自由な発想で異世界の美味しい料理を作ってあげてください。
●料理についての条件
特にありません。
材料も似たものであれば何を使っても大丈夫ですし、挙げられていない物を入れても良いです。
何ならモンスター等を使っても構いません。
ただし、犯罪行為に繋がるものはもちろん駄目です。
しいて挙げるなら、異世界の美味しい料理であること、というのが条件です。
●その他
口調や性格等が分かりやすいよう書いていただけたりしますと、大変助かります。アドリブ不可と記載がない場合はアドリブが入ることもありますのでご注意ください。
皆様のご参加、お待ちしております。
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