シナリオ詳細
砂の都より感謝を込めて
オープニング
●
有力商人ファレン・アル・パレストの邸宅――
……と言うより遊び倒していたその妹フィオナの耳に、やぶからぼうに飛び込んで来たのは『新生・砂蠍』軍の壊滅と主導者たるキング・スコルピオの死という大ニュースだった。
「マジか」
元々はラサで暴れに暴れた盗賊王だ。
山積する問題を棚上げにして、ラサという勢力を挙げて討伐に到ったのはそれだけの理由がある。
彼は強靭で、彼は悪辣で、彼は――それでも落ち延びた男だったから。
「マジっすかー」
果実を齧り乍らそう言うはフィオナ・イル・パレスト。
ぽかり、と彼女の頭を叩いたファレンは態度が悪いと彼女を叱りつけた。
「嘘をついても仕方ない事でしょうから『まじ』ですね」
小さく息を付き、現状の把握と確認が為に、と周囲を見回した幻想種傭兵団『レナヴィスカ』の首領イルナスに欠伸一つ葡萄酒を煽っていた獣種傭兵団『凶』のハウザーが「成る程ねぇ」と獣口を歪めた。
「ま、揃いも揃った豪華なお歴々だ。その理由を疑うのはバカバカしいだろうよ」
奥の部屋より姿を現した『赤犬』ディルク・レイス・エッフェンベルグ(p3n000071)と美しい幻想種の女、そしてローレットよりオーナーレオンの名代としてラサへと訪れていた『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)であった。
「ギルド・ローレットの勝利おめでとうございます」
「ありがとう。そうね――立ち込めたウェストミンスターが漸く晴れたと言う所かしら?
私達のエジプシアン・レッドが貴女達に届いたのなら、ジョーンシトロンな気持ちにもなると言う所だわ」
「わかんねぇよ」とぼやいたハウザーの隣でイルナスは「ええ、その通り」と『なぜかすべてを理解した様子』でプルーへ返している。
「……分かんのか」
「わかるでしょう?」
――何故、判るのだろうか。
何所か気の抜けた様子の『傭兵集団の指導者たる面々』に肩を竦める幻想種の女はルドラ。ディルクと共に現れた彼女は深緑――アルティオ=エルムと呼ばれる幻想種の国の重鎮だ。滅多な事では迷宮森林の外に出る事は無い彼女がこの場に居る意味を何だかんだでこの場の面子は理解していた。
「話し合いの方は?」
「滞りはない。リュミエ様も、皆も『傭兵』の提案に賛成している」
「いや、驚きだな。オマエらはどうせ『余所者(ローレット)へはまだ信頼が足りない』とでも言って拒絶するかと思った」
人の悪い笑みを見せるディルクに「わざとだな?」と溜息を吐くルドラ。
「深緑(わたし)達は異種を好まぬのではなく、不和を運ぶ存在を好まないだけ――
故に、彼等が深緑(わたし)達の在り方を尊重してくれると言うなら、問題等あろうものか。
……それとも、まさか。『他ならぬ貴殿』が問題のある勢力を我々に推薦したと言うのか?」
不機嫌にそう告げたルドラに「悪かったよ」とディルクがひらりと手を返す。
フィオナには良く分からなかったが、ディルクは深緑と特に親しい。女王リュミエと会った事のある外部の人間というくくりで見るならば滅多に居ないと言っても過言ではない。
「分かってないでしょうが、今日はこうして集まるというのに遊びに行くからですよ、フィオナ」
「ちゃんと帰ってきたじゃねーですか。それに、聞いてなかったですしー。
まさか、そんなジューダイな話が進んでるとかしらねーじゃねーすか。オケハザマっすよ、オニーサマ。
知ってりゃこの超絶美少女、それ相応の顔をするってモンですからね!」
「それは嘘です」
イルナスのゼロタイム回答にフィオナは唇を尖らせた。
繰り返しの説明になるが、『深緑』は混沌でも特別な領域の一つである。
ラサと隣接した迷宮森林の大樹ファルカウを中心とした魔術的幻想種の国家、アルティオ=エルムは、自然と融和し高度に世界と結びつく彼らは独自の文化と独自の繁栄を遂げたとされ、幻想種以外とはあまり慣れ合うことはない。
しかし、その在り方より隣接するラサとは友好的な関係を結んでいた。フィオナとて目の前のルドラも含めて、幼いころから『外見の変わらぬ』知人はまぁ――程々に居る。
「でも、何となく分かったっすよ。
要するにローレットの人達に深緑を紹介する話を進めてる、と」
「ああ。それからウチもな」
フィオナにディルクは頷いた。
「うちは傭兵の国だ。傭兵の国が傭兵依頼を出すんだから、生半可じゃ筋が通らない。
その点、今回の『砂蠍(かり)』は十分過ぎるだろ。俺達は連中を信頼出来るし、信頼出来るから仕事も渡せる。
ついでに言うなら親愛なる深緑(どうめいこく)に推挙も出来るって訳だ。
活動拠点として、仕事の依頼の準備を進める話を今ルドラとうちの連中で進めてたんだよ」
ディルクの言葉にフィオナはふんふんと頷いた。
「まぁ――活躍は我々の耳にも届いている。個人的にも顔を見た事もあるし――」
ゆっくりと唇を開いたルドラに幻想種たるプルーは頷いた。ローレットより派遣されたのが幻想種のプルーであることより慎重に慎重にと深緑を活動拠点にする事への交渉を行っていたことがわかる。鮮やか過ぎる手並みを見るに、恐らく旧知のディルクとレオンはその友誼を通じて、今回の『砂蠍』を契機にする事を裏で画策していたのだろう。『傭兵という国家に實力を認めさせる』、『その傭兵の名の下に深緑への扉を拓く』。面子や理屈を作る必要があるのも『政治』の難しく、面白い所なのかも知れない。
一連の事件――『新生砂蠍』を破った事で得れたのは『ラサ』からの信頼だけではない。
長きに渡ってラサを騒がした彼らの討伐により、『深緑』からも信頼を得ることが出来たという事である。
「次回! ローレット、深緑へ!」
「ええ、近日中には。先ずはファルカウへと招いての交流からでしょうが」
楽しくなってきたらしい妹の粗忽さをもう責める事はなく、ファレンは咳払いをして頷いた。
「……つっても、いきなり仕事を振るわけにもいかない。
深緑のルールはそれなりに面倒くさ――おっと、厳格だし。
何より、幻想の莫迦王が『自国を守った』って宴を催してるのに迷惑をかけた俺達が何もしないじゃ格好がつかない」
「当たり前だ。盛大にもてなして――肉を沢山――いや、贅をつくした食事で癒しを与えるべきだろう」
慣れた様子でディルクはプルーへと一つの招待状を手渡した。
それはネルフェストでの宴の誘い。
「一先ずは祝勝会に位は噛ませろよ」と――恐らくディルクは自分が騒ぎたいだけなのだろうが。
「まぁ、悪くねえな。もう一度面も拝んでおきたい所だ」
「……ええ。知らない顔ではありませんしね」
ハウザーやイルナスも賛成しているようなので、最早これは『総意』と言って構うまい。
此度の戦への勝利と感謝を込めて。
「ローレットの戦士へ」
「頂戴するわ」
――美しき都ネルフェストへ、どうぞ。
- 砂の都より感謝を込めて完了
- GM名夏あかね
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2018年12月23日 20時10分
- 参加人数54/∞人
- 相談4日
- 参加費50RC
参加者 : 54 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(54人)
サポートNPC一覧(5人)
リプレイ
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夢の都はネフェルスト。砂漠の中心、オアシスに在るその場所は異国情緒を感じさせながら商人の都として潤いを感じさせる。
「夢の都とは心躍るネ! ディルク殿はやはり粋なことをする」
幻想に居ても観光ガイドブックでお目にかかるネフェルスト。その都へと招待したディルクの計らいにイーフォは心を躍らせた。
新生・砂蠍との戦いでの礼を時刻を守ったとフォルデルマン三世が行う中、ラサの大征伐から派生したであろうあの『戦』の礼を掻くなど商人と傭兵の都としてあってはならぬことだと彼は云う。
「砂漠のオアシス……おれのような深海魚には国にいちゃ来ることはなかったろうから、今回の機会を作ってくれた彼には感謝だネ」
折角だから特異運命座標を招いて。そして、折角だから――心往くまでその身を休め楽しんで欲しいという此度の饗宴は何処までも魅惑の気配を孕んでいる。
「スパイスの効いた料理というものに興味があル。
おれのふるさとは香草で味付けをして調理することが多かったカラ」
イーフォにとってはあまり口にしたことのない様々な料理。勧めされたレストランではどのような美味を味わえるであろうかと心を躍らせて。
「ラサ、今回、事、で、初めて、来る、した。来るまでに、たくさん、たくさん、の、砂……どこまでも、続く、砂……あって、不思議って!」
何処か興奮した様にシュテルンは砂漠地帯の事を思い浮かべて心を躍らせる。
幻想に鉄帝、海洋、天義、そしてラサ――こうして国が違えば文化が違う。シュテルンにとっては『今まで見たことない』ものばかりで心は踊る。
「シュテ、いろんなの、いっぱい、いっぱい、知る、したい!
あとはー……およーふく? とか、ブンカ? とか もっと、たくさん、たくさん、知りただよっ!」
きょろりと見回せばサンド・バザール。
観光には打って付けだとヨシトは周囲を見回した。
「ねぇちょっと何で客引きの方々俺をそんなに引っ張っていこうとしてんの!?
おかしいだろ、見るからに金があるわけでもガラが良いわけでもねぇだろうに!」
まあまあ、と笑う商人たち。ぐいぐいと引っ張られるその腕に『善人臭』は十分に発揮されてるのかと彼は吼える。
「ギフトか!? ギフトのせいか!? いやちょっと待ってそれってもしかしてカモだと思われて……お、おいやめ、ヤメロォ!押し売りは歓迎してねぇぞ!?」
ほら、向こうにあるのは――『闇市』ではないか。
「闇市ですか」
ヘイゼルは嬉々としてサンド・バザールにある闇市へと向かう。キャラバン隊が運んでくる様々な道具にはローレットとしても非常にお世話になっているのである。
「もう一度、サンド・バザールの底に挑戦してみませうか」
くすくすと笑い進み往くヘイゼル。ディルクの客人としてこの場所に来ている以上はあまりに深い場所に踏み込むのはお勧めしないと商人たちはヘイゼルへと告げる。
「ふむ? それは『他の誰かの誘いなら踏み込める』ということでせうか?」
さあ、と商人は首傾げる。そうか、傭兵団のディルクではなく、商人たるパレスト家の方がこういった事には造詣が深いはずと考える様にヘイゼルは口元に笑み浮かべて。
「掘り出しものとか無いかな。あと、美味しい物も探そう。ラサの名物料理って何かなー?
美味しいのがあったらレシピ貰いたいな。それで幻想に戻って皆に広めるんだ」
るんるんと心を躍らせるセララ。闇市を十分に謳歌したセララにとってサンド・バザールは楽し気なものが沢山だ。
コロッケを思わせる料理であれば幻想でも受け入れられるのではないかと商人が告げる言葉にセララはふんふんと頷いた。
「なるほどー! そっか、幻想とラサじゃ味覚の差があるかもしれないんだね。
ふっふー。テンション上がってきた! よし、あそこのお店に突撃ー!」
所違えば文化も味覚も違う。ラサの料理を幻想に受け入れられるためにはまだまだ研究が必要かもしれない。
ネフェルストのサンド・バザールには様々な商店が立ち並ぶ。マナは周囲をきょろきょろと見回しながら何か素敵なものはないだろうかと商人との会話を楽しみながらアクセサリーを眺めていた。
いつもの闇市ならば余りに商品を眺める時間はない。偶然荷物に紛れ込んでいる呪いの品に驚いた利することばかりだ。
「市場で買ったアクセサリー、気に入ったいただけるでしょうか……」
また今度――『あの人』とここに来て選びたいと呟くマナに商人は「待ってるからねぇ」と楽し気に笑みを浮かべた。
「なぁごぉー! 久しぶりの里帰りー!」
ぴょこんと跳ねたティエル。尾を揺らし屋根の上へと走れば心地よい太陽が燦燦と注いでいる。サーカスの残党狩りを頑張ったのだからこんな機会をのんびり過ごすのだっていいだろう。
「リヴィ」
見慣れた背中を見つけてニアはひらりと手を振った。「おっ」と声上げて笑みを浮かべたリヴィエールがニアに大仰な程に手を振る。
「せっかくだから、その、そう、と、友達と回ってみたいし。
…あたしなんかが友達名乗って迷惑じゃなきゃ良いんだけどさ」
「ともだち……勿論、友達っすよ! あたしもお友達とサンド・バザールって憧れだったんすよね」
饒舌に笑ったリヴィエールにニアはこくりと頷く。何をするべきだろうかとルンルンと進んだリヴィエールにニアは悩まし気に首を傾ぐ。
「あとはこういう、仕事以外の時って……他に何をすれば良いんだ? あ、お土産とか、買うか? ……どうするか。友達作りって、難しいな?」
「お土産探したりのんびり遊ぶのが友達……っすかね?」
お友達作り一年生同士。まだまだ慣れぬことばかりに二人、目を見合わせて微笑んだ。
砂漠のオアシス、夢の都。良い響きだとフェスタの足も軽やかになる。
「んふふふ♪ お散歩欲が高まってきちゃう♪
よぉーし、お散歩メモ・ラサバージョンの作成開始! 出来ることなら、すみっっっずみまで見て回りたいなー」
小さなノートを片手に、良い匂いに惹かれ乍らフェスタは心を躍らせた。甘いものも食べたいし、スパイシーなものも捨てがたい。
「ねね、オジサン! ソレ、なーに?」
持ち歩きに適した小さなコロッケ。店主はローレットの冒険者かとフェスタに問いかけ快くプレゼントだと差し出した。
「ネフェルストを楽しんで」
「はーい♪」
周囲を見回せばリノはその肌に馴染む感覚だとうんと一つ伸びをして
「相変わらず賑わってるわねェ、我が故郷は。やっぱりこっちの空気が一番肌に合う気がするわ」
その視線の先にはファレンの屋敷より少しばかり休憩と出て来たディルクが立っていた。
「はァい、ディルク。お招き有難う。相変わらずここは良い都ね。
一杯くらい付き合ってくださる?貴方の好むお酒を教えて欲しいわ。
私は……そうね、オアシスの雫なんてオススメかしら。誰しも認める名酒だもの、その名の通り渇きを癒すイイお酒ね」
くすくすと笑ったリノ。ディルクは彼女の美貌に酔い痴れたかのようなフリをして「美女と一杯、悪かねぇな」と冗談めかした。
「ミニュは、ラサにいたこともあるのよね?
ふふ。約束どおりラサを案内して頂戴なミニュ。今日はどんなところに連れて行ってくれるのかしら?」
レジーナの言葉にミニュイはゆるゆると頷いた。
適当にサンド・バザールをぶらつこうかと歩むミニュイに逸れないようにと手を差し出すレジーナがくすくすと笑う。
「シャイネン・ナハトまじかだし何かプレゼントを見繕っておこうかな」
「そうね。ふふ、記念に何か、一つ探してみないかしら? ミニュはどれがいいと思うー?」
こちらこちら、とレジーナが指さす方向にミニュイは案内を兼ねながら進む。
料理もたくさんあるのねと瞳輝かせた彼女が「食べさせてあげましょうか?」と冗談めかすそれにレジーナがわかる程度に微笑して。
「レナ、こっちへ行こう」
「ええ、ええ、ミニュ。あちらも楽しそう」
グドルフにとってラサは故郷。ローレットでのオリエンテーションの際に各国を回った時以来ではないかと周囲を見回して。
「このクソ安い濁った酒、幻想じゃとても味わえねえ。あー懐かしいね。マズい」
酒を呷るグドルフを見つけ、酒場の傭兵たちが久しぶりだなと声かける。他愛もない話をする相手も随分減ったものだとグドルフは感じていた。
それがこの国。傭兵。依頼で命を落とすものも少なくない。
「寂しいもんだよな」
「ああ、傭兵稼業を長年やってりゃ、死ぬ奴も出てくれば、引退する奴も出てくる。
昨日まで一緒に酒飲んでた奴も、明日にゃ形見だけ残して冷てえ土ん中、なんてのもザラだ。
だが、おれさまはまだまだくたばるつもりはねえぞ。おめえら、このおれさま──いや、ローレットにまるっと仕事奪われねえよう、気を付けるこったな!」
エール片手に持ち上げたグドルフに傭兵たちは「言ってくれんじゃねぇか」と負けず、応戦して見せた。
●
深緑より使者が訪れていると聞けば縁は何処か居心地の悪ささえ感じていた。
『あいつが生きて居りゃ』と呟く言葉は後悔だらけ、深い海の様にそれは儘ならぬ程に続いている。
「なんせ夢の都だ、海洋じゃお目にかかれねぇような美味い酒もあるだろうさ」
適当な店で酒でも呷ろう。自分へのご褒美だとそう称して口にした料理はスパイスでぴりりと辛い。
咳き込む縁は追加で果実たっぷりのデザート頼み窓の外を見遣る。
漸く訪れた平穏を楽しむとマルベートはサンド・バザールを見回した。
「折角シャイネンナハトも近いから、それ用の何かが見つかればいいな」
アレクシアはマルベートと共にバザールを見て回りながらシャイネン・ナハトのケーキの準備として砂糖菓子や果物を探し㎡÷。
「ああ、やっぱり色々あって目移りしちゃうなあ!
マルベート君は何かよさそうな収穫はあったかな? 肉料理、普段あんまり作らないから参考にしたいなあ!」
「私の好物の肉料理に合う香辛料があるかと探したんだが、見た事ない物もたくさんだ!」
アレクシアの手を引き屋台を歩むマルベートに、彼女はくすくす笑う。
「好きなものがあれば教えてほしいな。いつかマルベート君がうちに遊びに来たときの料理の目安にもなるしね!」
子供の様にはしゃいでしまっただろうかと笑ったマルベートにアレクシアもつられて、笑みを溢して。
「これが、ラサ……! 人がいっぱいで凄いね!」
きょろりと周囲を見回してノースポールはルチアーノの手をぎゅっと握る。
「わぁっポー、はぐれないように気を付けてね!」
しっかりと握られた手を確かめながらルチアーノはガラクタもたくさんあるのだとおずおずとサンド・バザールの様子を見回した。
「あっ、この羽根綺麗! 伝説の鳥の羽根かな!?」
「伝説の羽? そ、それはどうかな……」
私の羽根も売れるかなと笑うノースポールにルークは僅かに唇を尖らせて「僕が買い占めるよ」とそう告げる。
「ふふっ、ルークにならいくらでもあげるよ!」
「綺麗な羽だから、価値に気付かれて毟られないか心配になるよー!」
冗談交えながら手にしたスパイシーな料理。頂きますと食べるノースポールはみるみる涙目になり、ル、ルークと声を震わせる。
そんな様子もかわいくて。無茶しないでね、と柔らかに一つルチアーノは告げた。
ふわふわ羊を呼び出してゲオルグは砂漠特有のスイーツを堪能してからディルクの許へと向かった。
こうしてラサとかかわりを持つようになるまでまだまだ時間がかかると思っていたのだろ云うゲオルグに「オマエらの頑張りのおかげだな」とディルクは冗談めかす。
「何せ、ローレットが本格的に動き出したからまだ一年足らずなわけだし。
速度を考えれば尋常ではないが喜ばしいことには違いない……これからよろしく頼む」
「ああ、これからも『良き仕事仲間』としてよろしく頼む」
そう笑うディルクにゲオルグは周囲を見回し「良い国だな」とゆったりと笑った。
もふもふの羊をちら、と見遣った後にリカナはもふもふ、もふもふと何度も告げる。
おすすめのもふもふは何処だろうか。砂漠の都、獣人部隊、この日が来たとリカナは心を躍らせる。
「ドーモ、ハウザーサン、モフリストです」
その言葉にハウザーがからからと笑う。モフリストと言われれば面白がらないわけもない。
「この機会に凶部隊おすすめのモフモフちゃんを紹介して、ハウザー氏でもいいわよ」
「美人にされんのなら悪くはねぇな!」
リカナが手を伸ばす。どうやらハウザーは酒も相俟って無礼講のようだ。
「きっつい戦いも終わったし。こんな招待が来てるなら、行ってみるっきゃないよね」
天十里にとって祝宴と言って偉い人々と何かするというのは余り慣れた事ではない。美味しい者や珍しい物を探してお店巡りをした方がいいと天十里は周囲をきょろりと見回した。
サンドバザールは気軽に立ち寄れる店舗が並んでいる。様々な商品を手に取りながら天十里は「こんにちはぁ」と屋台へと声かけた。
「お嬢ちゃん、ローレットの?」
「はい!」
よければ、と差し出されるトロピカルジュース。一口飲めば、その甘さは心地よい。
「お偉いさんには興味が無いのよ……私はこっちを楽しみましょ?」
天十里と同じように利香はサンド・バザールを見て回る。『自称・妹』のルビと出会わないようにと暴れないよう気を付けて――もちろん暴れたらディルクにしこたま怒られてしまうのだが――刺激的な屋台を楽しんでいる。
からぁい物にマジックアイテム。何かあるかしら、と色仕掛けのいいけれどと唇尖らせ利香は悩む。
「ねーえ、それ何かしら、ちょっとおねーさんも食べてみていい? いひひ……♪」
スパイス料理じゃなくって、こちらでもと商人たちが冗談めかすそれに利香の口元ににんまりと笑みが浮かび上がった。
戦いはひとまず終止符を打った。アレフは一つの壁を打破し、その次――大きな壁となり得る魔種(ひと)影を感じつつ息を付く。
それは今口にしても栓無き事だと彼はよく知っている。砂の都を一望すべく足を進めるのはネフェルストの外周の小高い丘。
こうして一人ときは何かをするわけではなく世界を眺めている。
それが――自身がこの世界の一部であると感じれる確かな感覚なのだとアレフは息を深くついて。
「……成程、悪くない、良い風景だ」
全てを為すには余りにも我々は小さな存在だ、と何時か父が言っていたと思い返しながら。
「ぶはははっ、何か生きてもここのスパイス効いたメシはたまんねぇなぁ!
というわけでオークのゴリョウだぜ。今回は首都のとあるレストランにてお送りするぜ」
というわけで、ゴリョウがレストランからお送りしている。
「まぁ俺ぁ蠍とそこそこ関わってはきたがキング・スコルピオとは直接顔合わせちゃあいねぇからな。
流石にファレン・アル・パレストの邸宅の敷居を跨ぐほどの活躍もしてねぇ。故にその辺のレストランで上等だぜ!」
とはいえ、レストランも十分だ。なんせ、ファレンがおすすめした店なのだから基本の国民料理から観光客むけのものまで取り揃えてある。
さあ、今からこれを堪能しようではないか。
●
饗宴を。勝利と、そして感謝を込めて――ファレンの邸宅では料理が並んでいる。
「よぉ、アンタ赤犬だろう?」
快活な笑みを浮かべて貴道はひらひらと手を振ったその人、『赤犬の群れ』ディルクが気にしているであろうキング・スコルピオの最期を告げようと近寄った。
「どうだ? 因縁あるヤツの最期位知りたいと思ってな」
「ああ、最期を知りたいってよりもオマエらの活躍を教えてくれた方が有難いな」
スコルピオハンドを手に入れた顛末、そして貴道の戦いや魔種の事。ディルクはそれを聞き「魔種」と神妙な表情を見せる。
「トドメを刺した俺が言うことじゃないが、まあ嫌いなヤツじゃなかったぜ、HAHAHA!」
「――ああ、俺も」
嫌いではなかった、と。只、静かに告げて。
「あぁ、ハウザー殿。こちらにいましたか」
獣種の傭兵として、獣種傭兵団を率いてたハウザーに憧憬を抱くラノールは『凶』の首領ハウザーを見つけ、頭を下げる。
「幻想ではそれなりに名が通る様になったようだな。坊主」
健在だったかと笑ったハウザーにラノールははっとした表情を見せる。
幻想での名声を『傭兵しての知識』で知っていてくれたのかとラノールが心躍らせればハウザーからはエールが手渡された。
「よければご同席してもいいですか?」
「ああ、美味ェ肉を楽しもうじゃねぇか」
きょろりと周囲を見回してアーリアはほう、と息を吐く。
「お招き頂きありがとうねぇ。
ちょっと前まで、幻想の酒場の片隅でお酒を飲んでいた私がこんな華やかな場に呼ばれるなんて―――運命に選ばれる、ってこういうことなのね」
特異運命座標として、そして、ローレットの一員として。可能性を収取数る能力はこうして立場を変えてしまうだなんて。
お酒は、と見回すアーリアにファレンは勿論だと差し出した。ラサの果実酒は香辛料に合う様に調整されたか美味を感じさせる。
「美味しいものは誰かと共有した方がいいでしょお? おいしいものももっとおいしくなるのよお」
その傍らクーアは唐突に飛び出した。
「近く深緑にお呼ばれすると聞いて!!!!!」
ぐん、とクーアを引っ張ったのはイルナス。「にゃっ」其の儘つまみ出されたねこはとりあえず飲んだのだった。
酒を飲み続けるクーア。かわいい外見だが実年齢は30前後のおねえさんなのだ。
「森の精霊さんでも呼ぶ感じにしましょうか?」
「砂の背霊じゃなければ許可しましょう」
母の様なイルナスの言葉にクーアはぱちぱちと瞬いて。
ラサ出身であれど、ネフェルストにはあまりなじみがないクロジンデにとってはラサの偉い人々? どんな人? なのだ。
「幻想でも思ったけど、こういう普通はお目にかかれない人にも会えたりする。
っていうのが、イレギュラーズになって数少ない良かったことだよねー。受付嬢から給料増えねぇんだもんなー」
「あら」
そんな感じなんですね、と告げるイルナスにクロジンデは「気になるー?」と冗談めかす。
商人と傭兵隊長ばかり。幻想の方が馴染みあるわけだと納得できるのはこの都が傭兵だらけなのも事情の内なのだろうかと見回して。
「深緑から人が来てるんだ珍しー。ボクはラサ土着の砂漠幻想種だけど。
向こうから見るとどういう扱いになるのかなー? ちょっと気になるし話に行ってみるかー」
ふらふらと歩み出せば、どうやらルドラは沢山の人に囲まれている。皆、幻想種には興味があるのかなとクロジンデはその様子に首を傾げた。
「あら、おめかしに時間がかかったのかしら」
緑のドレスに結上げた髪。紅いフォックスアイの貴婦人は声かける武器商人を振り仰ぐ。
全体はややタイトな印象を受けるストレートラインのロングドレスに身を包み武器商人はヒヒと笑う。
ポニーテールにオフショルダーで男性的な印象を浮かべる上と下のスリットの女性的な印象が何所かアンバランスさえも感じさせる。
「さ、踊りましょうか。リードは任せるわね」
「ヒヒ……大輪の花の横に並ぶとあっては、あまりみすぼらしい格好は出来ないからさ」
性的魅力を活かして笑い、そして踊り続ける。周囲を魅せるダンスにほうと呟くは幻想種のイルナス。
「いずれ貴方がたとも一曲踊ることを楽しみにしています」
ルドラ――そして、深緑に向けたその声は凛として響いていた。
「肉と酒があれば宴はいつだってサイコーだよね! カンパーイ!」
イグナートにとってラサはまだまだ初めての連続だ。勉強するといってもラサで楽しく酒を飲んで風習や観光名所を聴くくらいだろうか。
イルナスに問い掛けるは『赤犬』ディルクの活躍。
「ローレットで言えばレオンのポジションの人だよね。
レオンやリーゼロッテと比べて、ウデマエの方はどんなもんなんだろうか? いずれオテアワセ願いたいよね!」
「無論――強いですよ」
我々は、とイルナスの口元にゆったりと笑みが浮かび上がる。まるで、幻想には負けやしないというかのように告げて。
「また招待してくれるなんてなぁ……! お言葉に甘えて、満足行くまで食べさせてもらおうじゃないか……!」
暴食の限りを尽くすヨルムンガンド。その喰いっぷりにはディルクよりもファレンが驚き、止めに入るほどではないだろうか。
「祝勝会なんだろう? 一緒に騒ごうじゃないか……! 蠍はラサの君達が追っていた敵でもあったんだからな……!
レオンが来てない分ディルクが労ってくれぇ……ほら、飲んで飲んで!」
自慢げなイルナスを見詰めていたディルクはヨルムンガンドに酒を進められ笑う。飲めといわれたならば遠慮なく、それがホストだろうという様に。
「次も、その次も……私達は必ず勝ってみせるぞ……! だから……また一緒に騒ごう……な!」
「ああ。帰ってきてくれ。ハウザーが美味い肉を共有してくれるヤツがいねぇと寂しがるだろ?」
●
「まあ! あのルドラ様が来ていらっしゃるのね。
おばさんは深緑出身なの。是非この機会にご挨拶をしちゃいましょ~」
レストは心を躍らせて、ルドラの許へと歩み寄る。特異運命座標に興味があるのならばとレストはにこやかに笑みを溢す。
「ルドラ様にイレギュラーズの子が大好きな物をおひとつお教えしますわね~。
ええ、それは闇市。ラサでもお馴染みのくじ引きでございます。
深緑の素敵な品の闇市なら、きっとイレギュラーズの子も喜んでくれるんじゃないかなぁって」
「闇市――」
ちら、とファレンに視線を送るルドラ。その様子に頬を掻いたファレンが「ウチもご御贔屓に」とレストとルドラを見遣り頬を掻いた。
蠍の闘いと、そして、ひとたびの祭り。未開の地――深緑。
冒険好きならば心躍る『深緑』。そう思えばクロバは未だ見ぬ豊かな緑に胸弾ませる様にルドラへと頭を下げた。
「この度は御目通りが叶って光栄、ってところか。然程礼儀作法がなってなくて悪いが多少はご容赦頼む」
「いや、構わない。今日は貴殿達の祝勝会。気楽に楽しんでくれ」
邪魔しているのは此方だろう、と頷くルドラは武闘派なのかクロバ達『ローレット』の戦い様にも興味深々のようだ。
機会に恵まれたなら、とファレンとルドラの許へと近寄るラダは柔らかに頭を下げる。
「お初にお目にかかる、以後お見知りおきをと」
深緑の事を、そして、その中心地たる『大樹ファルカウ』の事を聞きたいが――ルドラが此処に居るのならばまだ時期尚早かとラダはラサや幻想の話を使用かとルドラに提案した。
「砂蠍を追い出した後は相変わらずで? 幻想では、蠍もだが闇市も国内――少なくとも市場を――引っ掻き回していたが」
「そうですね。『闇市』は我々にとっても善いビジネスですから」
そう笑ったファレンがルドラに深緑からも何か如何ですかと提案している。
悩まし気な表情をしたルドラにラダは「名産や特産があるのか、また教えて欲しい」と告げれば彼女は大きく頷いた。
(深緑の人か……深緑は自然豊かでとてもいい所て聞いた。きっと静かに暮らすにはいい所なんだろうな……。
俺の目標は静かに暮らすこと……そのためには深緑の人たちと仲良くならないとな。頑張って深緑にちんまりとした家が欲しい)
サイズにとって深緑は憧れの場所だ。どんな会話をしようかとルドラを見遣るサイズは鉱石や景色について彼女に問いかける。
「迷宮森林の中に湖もあるだろう。あれを好む同胞も居たな」
君はどんな景色を美しいと思うのか。そう問われた言葉にサイズは戸惑う様に瞬いて。
「この度はお招き有難う。ラサだけでなく、深緑へも招待していただけると聞いて嬉しく思う」
樹霊であるポテトにとっては、帰る場所のある幻想にリゲルの実家のある天義に次いで気になる場所であったと彼女は心を躍らせる。
いよいよ以て深緑へと向かう事が出来るのかと心躍らせるリゲル。ポテトにとっても心地よい場所だろうと、そう感じているのだと彼は柔らかに笑みを浮かべて膝をつく。
「ルドラ様。この度はお招き有難うございます。
ローレットを通じて、様々な国の方々との交流も叶う事ができました。
幻想もラサも深緑も――そして天義も平和に末永く、交流が続くよう願っております」
天義も、と告げたリゲルの言葉にルドラは何処か困った様に曖昧な表情を見せる。文化の違いからか、その国家差は彼女の表情からもよく分かる。
難しいだろうが、それでも――そう願うリゲルの傍らでポテトは持参した鉢植えのアヤメをギフトで咲かせ、ルドラへそっと差し出した。
「でも今は、ラサの宴を楽しませて貰うつもりだ」
宴を楽しんだならばポテトとリゲル、手を繋ぎ二人でバザールへと向かうつもりだと告げればファレンは楽しんでと和かに告げた。
「お肉! お肉! 美味しいお肉が食べられるって聞いて!」
シャルレィスは皿にご馳走を乗せながら楽し気に声を躍らせる。
「あっ、ええっと、私はシャルレィス・スクァリオ! 未来の大冒険者だよ。
ルドラさんは深緑の人、なんだよね? 良かったら、お話聞かせてもらえないかな?」
ミルキーガーデンという深緑から遠く離れ、幻想にほど近い場所を集落とする幻想種の話をするシャルレィスにルドラは「穏やかな所だっただろう」と告げる。
「うんうんっ、お花が咲いた、綺麗な場所だったんだ。深緑……行ってみたいなぁ!」
「シャイネン・ナハトの日を――」
その言葉にシャルレィスの瞳がきらりと輝いた。秘密めいてそう言ったルドラにこくこくと何度も頷いて。
「どうも、イレギュラーズってのを間近で見たのは……初めてって訳じゃなさそうだな。
俺はアランだ。一応、太陽の勇者って体でやらせて貰ってる。よろしくな」
美味い肉に美味い酒。ディルクの用意したそれに舌鼓を打ちながらアランは愛しい妻を思いルドラへとそう声をかけた。
アルファード領の事を彼女に声かけても、遠く離れた森林の住民にとっては頑張って呉れと云われるだろうか。寧ろ、領土の話ならばファレンに向いていると促す様にルドラはアランを商人の方へと案内して。
●
♪――
猫のアイリスが好む癒しの局長を演奏しながらLumiliaは楽し気に目を細める。ルドラが心休まる様にと演奏したその音色を聴きながらフィオナが「いいっすねぇ」と楽し気にクッションに沈みながら笑っている。
程々に挨拶と共に、何時か訪れたいのだと声をかけようとLumiliaのフルートは宴の場へと響く。
「ギルド・ローレットは芸達者だな。ああやって奏者までもいる」
「それがローレットの強みでしょう。ハーモニアの国、深緑。こうして縁を得られることを嬉しく思います」
Lumiliaの微笑みと共に寛治は柔らかに頭を下げる。ローレットは様々な人種、そして、性質のものが居るのだと寛治は柔らかに説明して。
「私、様々な人物や出来事を絵画に残すことを事業の一つに掲げておりまして」
「成程。幻想種(わたしたち)にもと――またその絵画。紹介いただければ嬉しい」
同胞の事だ、と頷くルドラに「ご協力に感謝します」と寛治は頭を下げた、が、その隣にはにっこりのフィオナたんの姿が。
「もしもし?」
「はい」
「ここに美少女が居るっぽいんですけどー? 見えてるっすか? 節穴じゃねーですもんね?」
実の所、寛治はフィオナには並々ならぬ感覚があった。血脈を超え、次元を超え、会社を超え、「絵姿が――」
飛び込むはジャーマンスープレックス。
ジャーーマネッ!
叫ぶ声が只、響き渡る。
「ふむ」
暴れるフィオナと地に突き刺さる寛治を見遣りながらルドラが首を傾げる。
「なんかきっつい戒律とか刑罰があるんですかー。こちらとしても知らない風習なのに地雷を踏むのはこまるんだよねー」
鈴音がそう聞けば深緑は『隠れ里』や『閉鎖的な場所』である事から外の人間にはとっつきにくいかもしれないとファレンが注釈を入れる。
「深緑にもやっかいな敵が居るのかな?」
「獣や侵入者は少なからずいる」
その為の武装だと弓使いたるルドラは背負う弓に触れる。鈴音は「ぱんつは?」とぱちりと瞬いた。
深緑は笹の葉ふんどし説を確かめる鈴音の頭をぽかりと叩いたディルクは「ンなわけあるか」と困った様に告げて。
「国の様子はどうでしょうか。特に変わった事はありませんか」
ルドラの姿を見かけてウィリアムは一礼する。ラサの商人を物珍しく見るのと同様に、『同胞と故郷』に懐かしささえ感じさせる。
「ああ、リュミエ様もご健在で深緑(くに)も穏やかだ」
幻想種の姿には落ち着き払い、そして威厳ある立ち振る舞いを見せるルドラにウィリアムは笑みを溢す。
「具体的にいうと西側辺りで変な植物とか出没してませんか。大根が走り回ったりとか。
……無い? それは良かった。里の皆は元気みたいで何よりです」
「ふむ……大根が走る――のか?」
不思議そうな表情を見せたルドラにウィリアムは故郷へ、何より大樹ファルカウの威容を目にする日が楽しみだと笑みを溢して。
「美味しいお肉が食べられるって聞いてっ!」
楽し気なアリスはルドラの語る深緑の話に耳を傾け、幻想との違いに瞬いて見せる。
西洋文化を思わせる幻想と違い、深緑は自然を其の儘に木々の内部を都にしているのだそうだ。例えるならばファンタジーそのもの――エルフの住まう場所だと現代より召喚された者に言えば納得できる程――自然由来を大事にしているそうだ。
「獣とか、侵入者って?」
「私達は古代の遺跡も守っている。その中にある宝を求める輩や幻想種の娘を攫わんとする侵入者も多い」
悔し気に告げたルドラにアリスは成程、と小さく頷いた。
此れからの依頼のクライアントになるかもしれンしなァと呟くレイチェルは傍らに立つ恋仲、シグを振り仰ぐ。
「御呼ばれしたからには相応の格好を、だなァ。似合う似合わねぇは兎も角――ま、俺も一応魔術師の端くれだ」
「……こう言ったものも似合っているとは思うぞ?」
普段は男性の衣服を身に纏うレイチェルの姿を目に焼き付ける様に見遣りながらシグはルドラに頭を下げたレイチェルの話を聞いている。
――魔剣のシグ、吸血鬼の俺は長命だ。深緑の奴らとも長命同士だから気ぃ合うかもしれねぇし。
その言葉を思い返しながらシグは知識を求める以上、気になるのだとルドラへと声をかけた。
「交流は情報と物資をもたらす。…その門を閉ざしてまでしたい事は何か、興味はあるな」
その様子を遠巻きで眺めながらサンディは肉を頬張っていた。中々深緑の使者を見る機会もなく、物珍しくも見える。
今の様子ではルドラは『信頼できる隣人』の紹介もあってかローレットに悪い印象を抱いては居ないようだが、直接的に自身が話すは悪影響だろうかとサンディは眺めるだけと決めていた。
「……ああ、なんというか、うちのフォルデルマンとはえれぇ違いだよな。
こう、なんというか、頭良さそうだし、超美人だし。若干こう、指示とかは厳しそうではあるが。でも王って普通そうだよな。どう思う? フィオナ」
「美少女のフィオナたん的にはルドラ様もそーですけど、その上、実際の指導者の『リュミエ様』のがすげーって思いますけどね」
肉を食べながらフィオナはサンディに「超美人っす」と悔し気に告げた。
「美人か」
「美人っす」
深緑の女性。そう見れば夏子の心は踊りだす。あぁ、もう、全てが手遅れな感覚さえするではないか。
「ちょいとそこゆく御婦人 どでしょ 私と一杯 お付き合いいただければ……」
田舎者の女好き。捜査取られぬ様にと夏子はにい、と笑み溢し、頭を下げる。
「此度の宴 すでに僕には 思いがけぬ良すぎる思い出 ですがどうでしょう 忘れられない夜 にしていただけませんか?」
気取った。これは母性本能を擽った――そう思う夏子をさらりと抜けていってしまう幻想種。
「あっ、ちょまって、ごめんなさい仲良くして下さい!」
仲良くしたいだけなんです、と慌てる夏子にルドラは不思議そうに「面白い奴もいるのだな」とファレンへとそう告げた。
「初めまして、スティアと申します」
スカートを持ち上げて貴族らしい挨拶を見せるスティア。ルドラは幻想の貴族階級を思わせる彼女の動きに大きく頷く。
おしとやかにする必要があるのだろうか、と仲間達を見詰めていたスティア。どうやらあまりおしとやかでなくても大丈夫そうだという印象さえ感じさせる。
聞こえる幻想種の暮らしぶり。自身と同じ種族に関しては気になるというスティアと同じく、今後の仕事の内容や挨拶を兼ねて結がルドラに声かける。
『あ――』
ぼこり、と自身の相棒たる魔剣ズィーガーを殴る結。静かにしなさいと何度も告げても相棒は楽し気で。
くすくすと笑ったスティアが「お腹空いちゃった」と結へと笑いかける。
「あ、特別なお料理とかお菓子とかもあったりするのかな?」
「ああ、深緑の特産物もありそう」
結の言葉にスティアの瞳がきらりと輝くが――「あ、……食いしん坊って? え、ソンナコトナイヨ……ネ?」
結は「どうかしらね?」なんて一つ言うだけだった。
「ふむ、ゴッドは未だ深緑……アルティオ=エルムなる地を訪れた事はなかったな!
なるほど、そういった地の事を知るにもこのチャンスはうってつけ! 何よりミートがうまいと聞いた故な!」
ラサの食事を楽しむ豪斗。食いしん坊はこちらにもいた。『フォレストの中の禁じられしフード』はあるのだろうかと豪斗が瞳を輝かす。
「ベジタブルオンリーなライフなのであろうか! ハントや、ファームは!?」
「ハント……? は私達がしますよ」
弓使いですから、とそう云うルドラにゴッドは成程と頷く。
「ゴッドは……家畜を喰らうもまたライフのサークルと考えるがそうと感じぬものもあるし、ゴッドワールドでも実際そういうフレンズもいた! 故にフレンズの考えを否定せぬし、その地のルールには従う!」
「ええ、『戒律』には――そうですね、皆様にも何時かご紹介しなくては」
ファレンの言葉にルドラはゆるゆると頷いた。
その様子を眺めつつアカツキは黙々と肉を食べ続けている。
魔種の気配がしたという新生・砂蠍。この祝勝会では何か情報を得れるのではと、そう考えながら。
「魔種――」
この世界にはどこにでもその芽は存在している。
今は未だ見ぬ幻想種の都『アルティオ=エルム』。そこにもその魔の手は迫っているのだろうか。
アカツキは未だ見知らぬ土地を思う様に目を伏せる。
ローレットの冒険者は様々だ。ルドラは魔種について考える者や、今はこの宴を楽しむ者――そして、何より深緑への興味や関心を強く感じていた。
「シャイネン・ナハトの夜。深緑(わたしたち)の許へ招こうと思う。
ギルド・ローレットの諸君。これは歓迎と、そして友好の証として。どうか、深緑(くに)でも交流に訪れてくれ」
その輝かんばかりの夜に。騒がしくなるであろう祭りの夜を楽しみにするかの様にルドラは期待を込めて一つ、ローレットの冒険者へと言った。
「楽しみにしている。どうぞ、よろしく頼む」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
先ずは新生・砂蠍との戦いお疲れさまでした&勝利おめでとうございました。
ラサより皆様への感謝を込めて――細やかな祝宴でございました。
※当シナリオではパンドラが【2点】回復いたしました。
さて、このシナリオの後は、お楽しみのシャイネン・ナハト。
心往くまでお楽しみくださいね。
GMコメント
夏あかねと申します。まずは勝利おめでとうございます&お疲れさまでした。
砂の都より感謝を込めて。
どうやら幻想種の都、深緑の主導者の名代ルドラも宴の様子を確認しているようです。
皆さんへの信頼は、砂蠍の脅威を払いのけた事で『招くに値する』というものになったようです。
※ご同行者がいらっしゃる場合はお名前とIDではぐれないようにご指定ください。グループの場合は【タグ】でOKです。
※行動は冒頭に【1】【2】でお知らせください。
※当依頼ではパンドラが【2】回復します。
●傭兵(ラサ傭兵商会連合)
平素は何処の勢力にも与せず、依頼を受ける事でスタンスを変える傭兵国家。
力ある商会と傭兵団が結び付く事で共同体を形成した連合体です。
大陸中心部の砂漠地帯に存在し、その首都ネフェルストは砂漠のオアシスとして機能しています。その美しさより『夢の都』と称されることも……。
今回は『砂蠍』の討伐の完了により『特異運命座標』に迷惑が掛かったこと、そして感謝を込めてラサの『赤犬の群れ』首魁のディルクよりご招待を戴きました。
夢の都と名高いネフェルストやサンド・バザールで心行くまでお楽しみください。
【1】首都ネフェルスト、サンド・バザール
アラビアンな雰囲気をお楽しみいただける砂漠のオアシス。夢の都と呼ばれています。
様々な我楽多から一級品までが並ぶサンド・バザール(闇市でおなじみ!)、スパイスのぴりりと辛い料理やアラビアンなお料理が並んでいます。
勿論、何所かのレストランでお楽しみに戴くも、サンド・バザールを回るも皆様次第。
※※※皆さんは今回はディルクのお客様として招かれてます。不要な戦闘行為はお控えください※※※
【2】ファレン・アル・パレストの邸宅
有力商人のファレン・アル・パレストの邸宅での宴です。贅をつくした豪華さで心往くまで楽しむ事が出来ます。ハウザー曰く「肉がうまい」そうです。
ファレン・アル・パレストのVIP客のルドラは深緑の使者としてこちらに。
●NPC
当シナリオにおいてはNPCはお名前を呼んでいただけましたら登場する可能性がございます。
ステータスシートのあるNPCに関しては『クリエイターが所有するNPC or ローレットの情報屋』であれば登場が可能です。
ラサのNPCに関しましては
・『赤犬の群れ』のディルク
・『レナヴィスカ』のイルナス・フィンナ
・『凶』ハウザー・ヤーク
・ファレン・アル・パレスト
は確実にホストです。フィオナたんはいつも通りのにぎやかし。駄存在。
深緑の方々はVIP客です。交流は可能です。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
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