PandoraPartyProject

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エウロスの進撃

　真冬――朝焼けの水平線は不思議と桃色や橙色をしており、熟れた果実のようにも感じられた。
　幻想的な光景だが、南国のそれと大いに違うのは、周囲の丘陵を雪が青白く染めていることだ。
　帝国中の流通を麻痺させた大寒波――伝説のフローズヴィトニルと噂される――は一時の緩みを見せた。
　この日この朝に限っては、久方ぶりの陽光が眩しく煌めいている。

　朝日はいくら眩しくとも、数日前より不凍港ベデクトには残念な知らせがある。
「――しかし皮肉なものだな。この港に流氷とは」
　まさかの報は『凍らずの港』が『凍った』というものだった。より厳密には、別に海面が凍り付いたのではなく、航行に支障を来す程度の流氷が出現したという話だが、細かなことは置いておこう。
　イレギュラーズがこの港街を奪還し解放したのは、凍らない港から帝国全土へ物資を届けるためだ。
　だというのに、それが不可能となってしまったのだとしたら、元も子もないではないか。
　悪いことというのは、往々にして複雑に重なるものでもある。
　だがベデクトを解放したポラリス・ユニオンと独立島アーカーシュは、対冬政策『アイアン・ドクトリン』の稼働により、この流氷をそれぞれの方法で打ち砕くことを決断している。
「言わんこっちゃねえが、ちいとばかし笑えねえのは確かだ」
　ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ（p3p007867）に頷いたルカ・ガンビーノ（p3p007268）が港を振り返る。彼等が立つのは鉄帝国が誇る鋼鉄艦の群れ、その一隻の甲板である。
　居並ぶ将兵はポラリス・ユニオンが誇る精鋭達の姿であった。
　そんな鋼鉄艦の群れが包囲するのは、氷山にも見えるほどの巨大な流氷の群れだ。
　氷山の一角とはよくよく物の例えに使われる言葉だが、この場合は文言通り。ならば海中はどうなっていることか。船舶の航行に支障を来すのは明白にすぎる。
　各艦の甲板には無数の機銃や迫撃砲が並び、また備わる砲の全てが門を開けていた。
　ブリッジには巨大な古代のゴーレムが掴まっている。こちらは独立島アーカーシュが提供したものだ。
　ベルフラウが無線機を握る。
「聞け、我等が精鋭諸卿等よ」
　声はスピーカーを通じ、ひび割れながらも各艦へ凜と響き渡った。
「我等北辰連合は、新皇帝派を僭称する悪逆非道の徒より、この港の解放、奪還に成功した。
　だが勝利に冷水を浴びせる冬の凛烈は、凍らずの港すらも脅かさんとしているではないか。
　無論、我等は許さず、これを徹底的に打ち砕く！
　上層をなぎ払い、海中に潜む全てを引き摺り上げ、完膚なきまでに破壊せよ！」
　ベルフラウが北辰連合旗を高く掲げた。
「今朝の乳粥（カーシャ）のようにしてやれ。各艦、斉射用意！」
　強い北風を受け、帆のようになびき――

「皿に張り付くひとすくいほども残すなよ――Feuer（撃て）ッ！」

　轟音と共に、海面が一斉に波立ち幾重もの流線型を描いた。
　氷山すら覆い尽くすほどの爆風へ、熱線が幾条も突き刺さり、なぎ払う。
　耳鳴りの中で視界が晴れた時、流氷はミストカクテルのように砕け、散り散りに波間へ漂った。
　そして幾ばくを待つ間もなく、徐々に登る低い陽光の下にみるみる溶け消える。

　――それがつい数日前のことだ。
　独立島アーカーシュはベデクトを発ち、北辰連合も次なる課題に取りかかっている。
「西進作戦――『エウロスの進撃』ですか」
「そうだ」
　リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)に、『餓狼伯』ヴォルフ・アヒム・ローゼンイスタフが応える。国土全体が雪に覆われつつある中、やらなければならないことは多い。
　ベデクトにはルカの提案通り、海洋王国方面から大規模な物資到着が何度も予定されている。
　だがいくらベデクトに物資が届こうと、国内に行き渡らせなければ意味がない。そこでまずはベデクトとローゼンイスタフ間の通行を完全なものとして、ルベン方面へ向けて戦線を拡大する必要がある。
　暖気を運ぶ東の風（エウロス）になぞらえた作戦名は、なるほど相応しい。
　周辺都市のほとんどは連絡が滞っており、それらの回復も急務だ。つまり流通を取り戻すということ。
「ひっひっ、そうしていただければ、こちらも商売になるというもの」
　ラダ・ジグリ（p3p000271）が創設した商会の鉄帝支部長を務めるダヴィットが笑う。そうすれば後は、彼等のような商人の仕事になるだろう。
　国土全域の状態はひどい有り様だ。しかし除雪汽車を何度も走らせて排除せねば、すぐに取り返しがつかなくなる。河原の石積みのように気の遠くなる作業だが、やるしかない。
「往診が終わりました、あとはベデクトの医師に引き継いでいます」
「見て見て、弟子が活躍しているわ！」
「……っ！？」
　ココロ＝Bliss＝Solitude（p3p000323）が戻るや否や、イーリン・ジョーンズ（p3p000854）が笑う。
　また周辺都市はベデクトのように新皇帝派が牛耳っている可能性もある。ならばその対応も必要だ。
　東部地域を完全に安定させ、やがて来る帝都進撃の支度を備える。
　これが現在の課題となっている訳だ。
　周辺都市については、気になることもある。
「……『亡者』と『亡霊』だ」
　イズマ・トーティス（p3p009471）の言葉に、リースヒース（p3p009207）も頷いた。
「クラスノグラードに行ってみる必要がありそうね」
　レイリー＝シュタイン（p3p007270）が結ぶ。この街もまた、作戦の範疇だ。
「地底というのも気になるのでして」
　ルシア・アイリス・アップルトン（p3p009869）の言うように、この大寒波『そのもの』の元凶について調査する必要もある。銀の森の女王が伝えた言葉は、どこか不吉に聞こえていた。大寒波はフローズヴィトニルの再来ともされ、そのおとぎ話はヨハン＝レーム（p3p001117）のような鉄帝国人であれば、多かれ少なかれ耳にしたことがある。
「いずれにせよ、各都市の状況を見極めなければならないだろう」
　向かうのはクラスノグラードだけではない。
　恋屍・愛無（p3p007296）は資料に記された街の名『ロクスレア』を指でなぞった。
「もちろん他にもあるのよね」
　燦火＝炯＝フェネクス(p3p010488)に、秋月 誠吾(p3p007127)はこれだなと別の依頼書を示した。
「ふむ、戦場（いくさば）ならば、奮い立つ」
　咲花・百合子(p3p001385)は可憐な佇まいのまま、祈るような仕草で楚々と両指の関節を鳴らした。

　エウロスの進撃作戦を可能としたのは――北辰連合が行った大胆な決断にもある。
　北辰連合はノーザンキングスと停戦と共闘の約定を交した。
（……また、いつかね）
　槍を研くゼファー(p3p007625)が思い返すのは、亡き統王シグバルドの武勇。
「トビアス……ベルノ……それから」
　チック・シュテル（p3p000932）は、心配している。
　共闘とは言えど、元々は怨敵同士だ。確執や溝は決して埋まらない。
　特にギルバート・フォーサイス(p3n000195)のようなハイエスタの民は尚更に。
「……」
　余りの出来事に、リズリー・クレイグ(p3p008130)もまた、言葉を迷っている。
　シグバルドはイレギュラーズやヴォルフ等にこてんぱんにされるべきだったのであり、消化不良ではあるがむしろ神経を逆撫でされているような気分もしてくる。さながら怒りの種でも撒かれているかのようだ。
　戦いに泥を塗られ、新皇帝派を敵と定めたノーザンキングスの意向自体とて嘘ではなかろう。だが共闘の問題はそこにはない。どちらかといえば、ノーザンキングスへ所属する面々のいくらかに、強い懸念があるのだ。なにしろ彼等は賊なのである。
　それにノーザンキングス自体が割れる可能性もある。離脱した者が居れば、新体制となったノーザンキングスを狙うことになるかもしれない。魔種を敵とする新しい頭目ベルノの言葉は『戦士達』にはすこぶる効いたようだが、『賊』の気質が強いものはどう感じるだろうか。
　そもそも論は詮無いが、鉄帝国は多くの小国を呑み込んできた国だ。ここしばらくは大人しいが、歴史的には幻想にもたびたび侵略を仕掛けている。とはいえ向こうも小ずるい金儲けが上手く、帝国とは利害の対立する敵国同士でしかない。ノーザンキングスの脅威というのは、ある種そういったことを帝国が逆に仕掛けられる側になっただけだったとも言える。理屈で考えるなら、ノーザンキングスまでをも含む鉄帝国全域には長年食料問題が根深く、武力行使しかなかったという分析も出来る。何を持って正当となすか、正義と見なすかは各国の法や国家方針の他、習慣などの不文律に加え、イレギュラーズのように個々人の心持ちや信念によっても違ってくるのは当然だ。
　第一に北辰連合とて、ノーザンキングスに領内を自由に闊歩させてやるほと甘くは無い。
　いずれにせよ複雑な状況ではあるが、現時点での情勢が読めないのは致し方なかった。一つだけ言えるのは、東部地域全体レベルの話では、ノーザンキングスは当面脅威でなくなったということだけだ。

　なにはともあれ、北辰連合は東部地域全体を視野に、作戦を開始した。
　除雪汽車に続いて、軍用の汽車にはスノーモービルが運び込まれ、兵士達が武装と共に乗り込んでいく。

　――いざ、進撃の時。

　※派閥勢力パラメータを使用できる『アイアン・ドクトリン』が制定されました！
　※ポラリス・ユニオン（北辰連合）の軍事行動と、独立島アーカーシュの古代兵器により、不凍港ベデクトの流氷が排除されました！
　※ポラリス・ユニオン（北辰連合）の軍事力が-50、生産力が+70されました！
　※独立島アーカーシュの技術力が-30、生産力が+70されました！
　※ポラリス・ユニオン（北辰連合）による西進作戦『エウロスの進撃』が開始されました！

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