PandoraPartyProject
安寧の眠り
ファルカウに新たな風が吹き込む。
――全ての戦いは終わった。冠位七罪は打倒され、その配下も撃滅されるか散り散りに。
ファルカウ各地には戦乱による傷跡が幾つか残れども。
それでも復興の道を……これから少しずつ歩んでいく事だろう。
もう。眠りの茨は無いのだから。
「かぁ――っ!! 妾もなー! ホントになー! 森に火を放つのは苦しくて苦しくて仕方なかったのじゃが、これも偉大にして穏やかなる未来を勝ち取る為じゃからなー! かーっ!! これも平和の為の致し方ない犠牲ってヤツなのじゃ――!!」
「僕の力はほとんど削ぎ落ちているが、アイツをぶちのめすのに使ってもいいよな?」
「ま、まぁまぁまぁ、その……アカツキさんも悪気は……きっとないので、ええ……」
「だからアレ程やりすぎないようにお願いします、と何度も言ったのに……どっちが悪役でしたっけ?」
そして――常であれば容易くは踏み込めぬファルカウ上層の一角にて。
生命の秘術(アルス=マグナ)が行使され、ファルカウが再生していく様子を見守るイレギュラーズ達がいた……やけに肌がツヤツヤと満足げなアカツキ・アマギ(p3p008034)がその一人だ。
ファルカウの守護者を自認するクェイスとの戦いにおいて彼女は、炎を用いた挑発を行い彼の注意を多大に引いていた。が、まぁ。ファルカウにおいて火は当然ご法度であり、特にファルカウと縁の深いクェイスにとってみれば彼女の事は見過ごせぬに等しい存在である――
アカツキと共に戦ったリンディス=クァドラータ(p3p007979)やマリナ(p3p003552)が『まぁまぁ』となんとかクェイスを宥めているが……全くアカツキはこれだから……
「しかし新しい深緑の為には、時に恐れすぎるのも良くはありません……正しい炎の使い方というものがある筈です――そして事実として、その炎によって救われた面もあるのですから」
「……まぁそういう面もあるという事を覚えてはおこう。『納得』するとは限らないがな」
「やれやれ。どこまでも強情な奴だ。
――森を思うが故にこその行動もあるのだと知れ。
苦渋の決断、罪を纏いてのみ開かれる世界と、手に出来る結末もあるのだと」
次いで炎と言えばエルシア・クレンオータ(p3p008209)も似た手段をもってして戦った一人だ――咲々宮 幻介(p3p001387)と共にクェイスへと立ち向かった。
炎が無くば冬は祓えなかった。フェニックスの導きが無ければ如何なっていたか。
頑強なりし意志では辿り着けぬ道もあるのだと幻介は述べる――
――さて。その当のクェイスだが、彼からは完全に狂気が晴れていた。
クェイスは魔種ではない。かつて呼び声に当てられかなり激しい狂気を内包する結果となっていたものの、彼を救わんと願う奇跡の声が届いたのか――纏わりついていた悪意の残滓が消し飛んだのである。
「まったく。一時はどうなる事かと思ったけれど……
信じた甲斐があったものだよね。おかえり、クェイス」
「――フンッ。僕を救おうなどと、定命の者の思考はこれだから分からない」
同時。クェイスへと穏やかな笑みを見せるのは斉賀・京司(p3p004491)だ。
彼もまた悪意の残滓を弾くに力を注いだ一人である――彼に宿りし祝福<ギフト>が精神を清めるに一役買ったのは間違いなく、死闘が終わった直後のクェイスが非常に落ち着いた状態なのは京司がいたが故にこそだろう……ま、クェイスの荒っぽい口調はそのままだが。
しかし彼からはもう敵意を感じない。
ファルカウを純粋に守護する者――その立場に戻る事が出来た、と言う事か。
「皆助かって良かったよね。やっぱり平和で、皆笑顔なのが一番だよ」
「おっ。やっぱヘルちゃんのおかげかー!? わーはっはっは! やっぱ傲慢な奴ってのは頭からぶん殴るのが一番の治療なのだー! ふぅぅぅぅ! これだから悪戯は止められないのだ――!」
「お前、次は僕の生命を掛けてでも殴りつけに行くからな」
「ヘルミーネ、ヘルミーネ。今いい所だから、ちょっとだけ口閉じてなさい」
さすれば祝音・猫乃見・来探(p3p009413)もクェイスの魂の安息を願った者として、結末に安堵するものだ。これは誰か一人の尽力によって成された結果ではない……皆の奮闘と、多くの願いがあってこそ故に紡がれた未来だ――
まぁ、だから、その。先のアカツキと同様に、炎を用いて道を切り拓かんとしたヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)の行動にも大きな意味があったと言えるだろう……問題があるとすればクェイスが怒気を含んだ半目の瞳を彼女に向けているって事かな。
気付いているのかいないのか『はーはっはっはっは!』とヘルミーネは調子に乗っていれば、同時に知古のアザミ・フォン・ムスペルヘイム(p3p010208)にメッ! とされて即座に涙目ヘルちゃん。うぅ~、どうしてなのだ?
ともあれ。それぞれの奮闘こそがこの未来へと辿り着いた。
特に、親友たるシフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)の道を繋いだアルテミア・フィルティス(p3p001981)にはその実感が、きっと大きいものだろう。
なにより……親友に頼られたという事。
彼女と共に戦場を歩めた事――そして。
「……ザントマンの残滓もこれで完全に消滅したでしょうし、全て終わったのよね」
「それに関しては間違いありませんね。えぇ……もうこの森に、悪意はないんです」
妹。『巫女姫』を焚き付けた『悪意』……ザントマンの残滓を消滅させる事が出来た事。
全て――成し遂げることが出来たのだから。
そしてアルテミアと共に至り、奇跡を顕現させた一人であるシフォリィもまた。
紡がれた未来に安堵の吐息を零すものであった。
……一度竜が混在した戦場において、シフォリィはその時点でクェイスの心を祓わんと願った。
しかし精神に干渉せんとした段階で悪意の残滓が彼女の願いを弾いたのだ。
――二度も負ける訳にはいかぬ。
その強い意志もあった故もあるかもしれないが、それよりなにより……
(……フィナリィさん。見ていますか?)
己に呼びかけた『彼女』の為にも――成さねばならぬと感じていたからこそ。
奇跡が実を結んだのだろう。
……皆、きっと。マナセも、フィナリィも。ずっとずっと昔から。
ファルカウを護るという思いが――繋がっていたのだから。
「……今度は忘れないでくださいね。自分自身を。そして『約束』を」
「――当然だ。そのような不格好な事は、二度も出来ないからな」
刹那。クェイスが、シフォリィの顔を覗き込むように――見据えてくる。
その瞳に写ったのは何か。かつて出逢ったフィナリィの面影か。
それとも……世代が変わりても繋がっていく、縁の結晶の様な『今』なのか。
――と、その時。
「む、ぐ……まずいな。大分……眠くなってきたものだ」
「――大丈夫? クェイス。あんまり無理をしないようにね?」
クェイスの身が、揺らぐものだ。
額を指で押さえるクェイス――へと駆け寄るのはセチア・リリー・スノードロップ(p3p009573)だ。彼女もクェイスの魂を清める為に奇跡を願い、そしてシフォリィと同様に顕現せしめる事叶った者。
……彼に纏わりついていた悪意は祓われ、浄化はされた。
が。クェイスは万全な形で元に戻った訳では、ない。
元々永い時を狂気に晒され、肥大化し、果てはカロンの権能が一角である『悪意の橋渡し』すら埋め込まれていたのだ――精霊としての大部分が『あちら側』に蝕まれていた。奇跡によってその部分全てが消し飛ばされた際に、しかし自身を構成する力も多く失われてしまったのだ。
死にはしない。しかし……休息と眠りが必要な領域に彼は在る。
「……この地を眠りに堕とさんとしたものが、眠りを必要とするなんてね。
これは報いか、それとも当然の結末か――いや。いずれにせよ、まだだ。
僕は眠りに付く前に……やるべき事がある」
「クェイス……? 何をしようとしているの? もう戦いは終わったのよ?
無理をする事はないじゃない――もう少しだけいられないの?」
「戦いは、そうだろう。だが僕も、ファルカウに根差す者としてあちこちの状況は把握できているつもりだ――『先送り』にしている問題があるだろう。どうせ眠りを避けられないならば……そちらの方を手伝ってやらないと、な」
『先送り』にしている、問題――?
クェイスを支えんとするセチア。彼の身を案じる彼女は、彼の言った事を脳内にて反芻し……
さすれば『まさか』と思い当たる事があるものだ。
クェイスの側の戦場ではないが。
たしか『魔種へと落ちた者を一時的に元に戻していた』という事態が在った筈だ――
「ライアム・レッドモンド。
……彼の様な幻想種もまた、ファルカウより零れ落ちた子であるならば。
僕もまた一助となろう。
お前達が未来を紡いだように、僕もまた未来へ彼を繋ぐ。
――静寂の眠りではなく、安寧の眠りによって」
※アルティオ=エルムの首都、大霊樹ファルカウの火災が鎮火しました。
※ファルカウの再生が始まりました!
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