PandoraPartyProject

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太陽と月の――

 太陽は朝に昇る。月は夜になれば追掛けてくる。
 規則正しく変わりなく。忙しなくも動き続ける。太陽と月は表裏一体。
 日々の揺らぎを空を見て感じ取る。其れが膨大な時を過ごす者が瞬きの中で感じ取る一日であった。

 カロン・アンテノーラとて同じであった。ベルゼー・グラトニオスとてそうだろう。
 冠位魔種(オールドセブン)の命は、種に関わることなく永劫の澱を過ごすかのようなものだったからだ。
『カロン、太陽と月は何方が好きですかな? 眠りやすい夜の柔らかな月か、それとも穏やかな陽だまりか』
『いきなりなんにゃ』
『いや、ちょっとした問答ですよ。……仲良くなるためのコミュニケーションとでも?』
 ベルゼーはカロンに言わせれば変わった奴だった。捻れば直ぐに死に絶えるような弱々しい種達に情けを掛けて、慈しんだ。
 其れが上辺だけであろうとも男は雛竜を育て上げて来たのだ。
 カロンにはとてもではないが出来ない『子育て』を行い、子等を愛し過ごしてきた。
 本来ならば『暴食』は全てを破壊し尽くすであろう強大な欲求であるというのに、男は其れを直隠しにして――
(まあ、罪な奴にゃ。雛竜も、亜竜種も、ベルゼーがにこにこ笑ってるだけで信じ込んで。
 可哀想な奴らにゃ。何れは食い尽くされても文句は言えない立場のくせに幸せそうにへらへら……)
 カロンはベルゼーをちらと見上げた。其処まで考えてから、思考を裂く程度には親しみを覚えてしまったことを自覚した。
「おまえは夜にゃ」
「その心は?」
「本当はのおまえは怖い奴だからにゃ」
 ――そんな事を言ってやる程に、カロン・アンテノーラは絆されていた。

 彼が撤退したと聞いてから、イレギュラーズは直ぐにこの地まで攻め入ってくるとカロンは気付いた。
 自身が分けた権能の一つ『夢の牢獄』の鍵が開いていたことに気付いたのは、ファルカウが清浄な気配を宿したときだった。
(めんどくさいにゃあ……)
 夢の牢獄に閉じ込めていたはずのファルカウの巫女は逃げ果せ、ファルカウのコントロール権利は20:80。
 全てを取り戻された訳ではないが、此れまで通りの好き勝手にファルカウを利用は出来なさそうだ。
 だが、中枢にまで食い込んだカロンは其れだけで良かった。僅かでもファルカウの『命』を握っていられれば問題は無いからだ。
(でも、めんどくさいにゃあ……)
 イレギュラーズは彼――ライアム・レッドモンドから聞いただろう。
 カロン・アンテノーラの能力を。
 カロン・アンテノーラは『権能を分ける』事が出来る力を有する。それ故に無数の権能を所有していたのだ。
 冠位魔種(オールドセブン)の中ではかなり器用な能力を有しているとも言えるだろう。複数にわたる能力を配下に分担し、自由に行使させる。そうすることで権能下に無数の存在を置くことが出来ていたのだ。
『夢の牢獄』へのアクセスはライアムだけではない。魔種達にも幾らか分けていた。
 詰まり、カロンにとっては『大して失っても問題は無い程度』の能力ではあったのだが――予想以上に、イレギュラーズは『夢の牢獄』を踏み荒らした。
 アルティオ=エルム全土に渡る権能の効果が狭まって行く感覚がする。
(面倒くさすぎるにゃあ……)
 カロンはごろりと転がった。ブルーベルが置いていったクッションは柔らかくて心地よい。
 ハンナラーラが有した『フェニックスを使役する疎通の能力』も。
 クェイスに適当に押し付けた『肉腫がいっぱいいっぱい出てくる能力』も。
 夜の王に使わせた『眠りの世界を作り出す能力』も。
 シェームに持たせて置いた『強制的な眠りに誘っていく能力』も。
 彼等を斃されなければ彼等が『なんだかとっても良い感じ』に駆使してイレギュラーズを押し止めるだろう。
 だが、彼等は此処まで来るはずだ。
 障害を押し退けて、ファルカウを、アルティオ=エルムを護る為に。

「主さま、あいつ……『修道女』はどうするんですか。主さまだって信用してないでしょう」
 気付けば、ブルーベルが後ろに立っていた。修道女――それはカロンの声に応えたイレギュラーズのことであった。
 カロンはクッションにふかふかと埋まりながらにゃーあと鳴いてやる。ブルーベルが嬉しそうに笑ったのは……屹度、気のせいではない。
「そうにゃあ。面倒くさいから全てを渡してもいいけどにゃあ。
『裏切者』は何時だって現れるにゃあ。ブルーベルに沢山渡した少しを『修道女』に分けるにゃ。
 ブルーベルと『修道女』ふたりでひとつ。命を共有するって言うのは嫌いかにゃ?」
 ブルーベルは僅かに表情を曇らせた。背後にリュシアンの姿が見える。
 カロンは「あーあ」と声にはせず口の中でもごもごと呟いた。
「いいえ。そうしましょう。あたしは主様の味方だから、裏切りませんよ」
 ――屹度、嘘だ。
 ブルーベルは優しすぎる。ベルゼーよりもずっと。
「じゃあ、おまえの力を『修道女』にも渡すにゃあ。……仲良くするんにゃよ」
「はは、主さまが言うと可笑しいっすね。……はい。主さま、『死なないでね』」
 ほら、ブルーベルは優しすぎるのだ。

 友達だと呼んでくれた人に。
 笑いかけてくれたイレギュラーズに。彼女は心を傾けてしまっている。
 いつか殺し合う運命なら、最初から何とは言わず殺しに来てくれても良かったのに、と彼女が呟いていたことを知っていた。
 馴れ合えば馴れ合うほどに苦しくなる。
 カロンはブルーベルを眺めてから問うた。
「ブルーベルは太陽と月、何方が好きかにゃあ?」
「え? んー……月、ですかね」
 太陽は彼らの様で眩すぎる――だから、月明かりの下が丁度良い。
 神様なんて者が居るならば聞いてやりたい。何方に祝福を齎しますか、と。
 御伽噺みたいな『おしまい』は直ぐには訪れないのだから。

 ※冠位怠惰との決戦『<太陽と月の祝福>』が開始されました!
 ※リミテッドクエスト『<太陽と月の祝福>Recurring Nightmare』が公開されています!
 【夢檻】から抜け出す特殊ラリーシナリオと、冠位魔種の権能効果を減少させる特殊ラリーシナリオが公開されています。

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