シナリオ詳細
<太陽と月の祝福>そして焔は勇者を見るか?
オープニング
●
その嘆きは、生まれてからずっと考えていた。
己は何を為すべきなのかと。
ファルカウの嘆きより生まれ、
大樹の愛を受け継いで生まれ、
けれどその手は燃やす事しかできず、
触れた手は愛する民草を燃やす。
何故ファルカウは己を生んだのか。
怒りで焼き尽くしてほしかったのか。
大樹は応えない。あの時も。今も。
悩んだ末に、その嘆きは、すべてを燃やすことに決めた。
争い合い、傷つけあい、憎しみあう人々を、優しく温めることは、その嘆きにはできない。
だから……せめて、その憎しみを自分に向けてくれれば。
一時でも、手を取り合ってくれるのであれば――。
己が、人を傷つける事しかできない意味もあろう。
己が、神罰を演じる意味もあろう。
焔王フェニックスは、焔と再生を司るが。
そのまねごとをしても罰は当たるまい。
己はすべてを燃やすが――。
その炎に立ち向かう、勇気を抱いてくれるものがいるならば。
どんな困難にも立ち向かう、勇者が生まれてくれるのならば。
己は魔王として討たれて散ろう。
試そう、人の可能性を。
その可能性が見せてくれるものは、きっと素晴らしいものだから。
●上層・炎の庭園
「――来たな、ローレット・イレギュラーズ」
そういうと、その嘆きは――シェームは、愛おしいものを見るように、笑った。
「待っておったぞ。なんと、言うかな。ずっとずっと前から、待っておったのかもしれん。この時を」
ファルカウの上層エリアである。そのエリアは炎に覆われた、シェームの夢で構成された世界であった。
「うん。きたよ、シェーム」
アリア・テリア(p3p007129)は穏やかにそう言った。奇妙な縁ができていた。彼の眷属と戦ったときから、繋がった縁。
「試練には、合格できたかな?」
「そうじゃなぁ。いや、実にいい。あの頭の固い竜も追い返すとはな。
もう、貴様(きさん)らに全てを託してもいい気がするが……」
シェームは、にぃ、と笑った。
「すまんが、もう少し付き合ってもらうか」
「なるほど、これこそが最後の試練と」
アリシス・シーアルジア(p3p000397)が言った。しかし、すぐにゆっくりと頭を振ると、
「……いいえ、違いますね。これは、カロンを倒すための、戦いであるのですね」
そういうのへ、シェームは頷く。
「応。カロンめは、儂らにその権能の一つを分け与えた。つまり、自分自身は極力動きたくないっちゅうことじゃ。
儂もその権能を使える。名をつけるなら、『夢見境(ドリームランド)』。巻き込んだ人間を、強制的に眠りの中にいざない、理想の夢を見せたまま決して離さぬ、夢魔の檻」
「……もし、私たちが、試練を突破できないようだったら」
ユーフォニー(p3p010323)が言った。
「その権能を使って、幻想種たちを眠らせ続けるつもりだったんですね。破滅の時が訪れるまで」
「そうじゃ。カロンめは強大。そして、他の冠位も、それを統べるものもじゃ。どれほどの英雄であろうとも、勝つには万に一つの奇跡が必要じゃろう。
……ザビーネを笑えんな。儂は……万が一、貴様らが勝てぬなら、深緑の民には、せめて苦痛なく、夢の中で終わりを迎えて欲しいと思ってしまった」
「それは、逃げであります……!」
ムサシ・セルブライト(p3p010126)が叫んだ。
「自分は夢に囚われ、こうして戻りました……あなたの期待通りに!
人は、人の可能性は……決して悪しき者に屈することはないであります!」
「そうじゃろうな。故に、儂は試すことにした」
シェームの姿がブレる。そのブレは徐々に拡大し、やがて二人のシェームがその姿を現すこととなった。
「儂は、嘆きとしてのシェーム」
「そして儂が、焔の精霊の集合としてのシェームじゃ」
『儂の逸話は知っておるか? ファルカウが炎の精霊たちを取り込み、嘆きと融合させて生まれたのが儂じゃ。
故に、儂やその眷属は、嘆きと精霊、二つの性質を持つ』
「……それが、土壇場で分身する言い訳?」
ゼファー(p3p007625)がくすりと笑った。
「ま、ここにきて、あなたが一人や二人増えたところで、泣き言は言いませんけれど?」
「それでこそ、じゃ」
シェームがにぃ、と笑った。嘆きのシェームが視線をやると、焔のシェームは跳躍。イレギュラーズ達の頭上を飛び越した。ちょうど反対側に、着地する。
「さて。儂らはこれから、真っすぐにお互い合流を目指す」
「嘆きは南に、焔(わし)は北に進むっちゅうことじゃ」
「……それで、なんデス? 合流したら爆発でもするんデスかね?」
わんこ(p3p008288)がそういうのへ、二人のシェームは呵々大笑した。
「正解じゃ! 儂らが合流し、再度一つになった時――『夢見境(ドリームランド)』を発動し、深緑の民のことごとくを眠らせよう」
「なるほど、止められなければ、予定通り。止められたら、わんこたちに全てを託す……!」
「最終試練、というわけなのですね?」
テルル・ウェイレット(p3p008374)が言った。
「あなたが、試す……最後の」
「そうじゃ。じゃが、カロンを倒すための戦い、とも言ったじゃろう? 儂を倒せば、カロンめが『夢見境(ドリームランド)』を再び使用できるようになるまで、かなりの時間がかかるじゃろう。
つまり、奴の権能を一つ、消せるというわけじゃ」
「……そうなのね。確かに、カロンを倒すための、戦い」
ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)がそう言った。
「同時に、あなた越えるための、たたかいなのね」
「……あなたのやり方、いろいろ言いたいことはあるけど」
シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)が、ゆっくりと剣を握りしめた。
「ここまで来たんだ。皆のためにも、私は絶対に負けないよ!」
シャルレィスの言葉に応じるように、仲間達は一斉に武器を抜き放った。構える。目の前の敵に、立ち向かうために。
思惑は違えど、敵はカロンの権能を殺すための、標的には間違いない。
斃せ、というのならば斃そう。越えろ、というのなら越えよう。
幾度となく起こしてきた、奇跡を起こし、この難局を越えて見せよう。
「やれやれ、あなたも難儀な人なのね。コャー」
胡桃・ツァンフオ(p3p008299)がそういうのへ、シェームは楽しげに笑った。
「なんとも、性分でな。
さぁて、勇者たちよ。
最後の戦いじゃ! 気合入れて、戦ってみせい!」
その言葉に、二人のシェームから強烈な炎が巻き上がった。それは、これまで相対したどの炎の眷属よりも強烈な、嘆きと精霊の炎であった。
さぁ、イレギュラーズ達よ、勇者たちよ。
この試練を乗り越え、深緑を解放するための希望を見せつけろ!
- <太陽と月の祝福>そして焔は勇者を見るか?完了
- GM名洗井落雲
- 種別決戦
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2022年06月30日 23時15分
- 参加人数60/60人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 60 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(60人)
リプレイ
●嘆声焔身
「さぁて、ここにきて言葉は不要じゃろ?」
北方――嘆きの化身たるシェームは笑う。
「はじめようか。元より貴様(きさん)らにも時間なぞあるまい。
往くぞ、勇者よ!」
どん、と一歩、シェームが踏みだす。一歩、ただ歩んだだけで感じる、驚異的なまでのプレッシャーは、今のシェームが全力、全開、真に己の力を出し尽くしているのだという事を、イレギュラーズ達に理解させた。
「来ます……回復支援をはじめます……!」
雪莉が声を上げた。強烈な熱風の前に、雪は散るのみか。――いや。
「私は雪の亜竜種。けれど、ただ焔の前に溶けるだけのものではありません。
我が身、我らが力、焔を打ち消す吹雪となりましょう……!」
「行くぞ、皆!
我は元居た世界の滅びの一端、罪ありき者!
命賭してでも、貴様は進ません!」
フィノアーシェが跳躍する!
「来い! この炎、止められるか!」
拳を振るえば、強烈な焔が物理的な圧力を伴い解き放たれる! その跳ぶ焔の拳を、しかし受け止めたのは、ムサシだ!
「この宇宙保安官がっ! 貴方の試練を必ず乗り越えるッ!」
渾身の一撃が、強烈な焔が、ムサシの身を焼いた! 激痛に身をさいなまれながら、しかしムサシは吠える!
「人間の可能性を見せてやるでありますッ!!
これがっ! 自分のっ! 全ッ力だぁぁぁぁぁっ!!!!!」
爆炎を纏いながら、レーザーブレードを振るうムサシ! その斬撃を、シェームは腕をかざして受け止める! 防御の炎と、レーザーブレードが激しく交差!
「ああ、やはり貴様は面白い! 保安官ちうのはわからんが、その意気は気に入ったぞ!
貴様を夢檻から避けてやれんかったが、じゃが儂は謝らん!
謝れば、アレから脱出した貴様の力を侮辱することになる!」
「上等ッ!」
ムサシが叫ぶ――同時、
「こっちです、シェーム!」
隙をつくように放たれたフィノアーシェの刃が飛ぶ。シェームは回避を優先。武蔵を振り払いつつ、フィノアーシェの刃を身を反らして回避!
「ムサシさん、いったん下がってください!」
雪莉が叫ぶ。強烈な炎が、ムサシの体力を著しく削っていた。覚悟を以って耐えなければならぬほどの、強烈な一撃。
「ボクと速さ比べしようよ!」
入れ替わる様に飛び込んできたのは、ソアだ! 振るわれる、その手。纏うは雷、死の雷霆!
「なんじゃ、びりびりするのはイレギュラーズの得意技か!?」
愉快気に笑い、シェームは焔を己の拳に纏わせた。合わせるように、放つ! 宙苦で二人の拳が衝突し、焔と雷が、辺りにはじけ飛ぶ!
「痺れる、でしょ……ッ!」
「良い拳じゃ! じゃが……まだ倒れてはやれん!」
力強くシェームが拳を振り抜くとソアが圧し返される。ソアはダメージを殺すように敢えて衝撃のまま後方を吹っ飛んでみせる。
「まったく、あのパワーを何とかしないといけないね」
エクレアが声をあげる。掲げる、折れた剣。遺産に込められた力が、そしてエクレアの持つ才覚が、周囲の味方の背に追い風を与える。
「さぁて、シェーム。こういうのも戦い方だよね?
まさか卑怯だなんて言わないだろうね? ふ、ふ、ふ?」
エクレアの言葉に、シェームは笑う。「こい、ありとあらゆる全力を尽くせ」。そういうように。
エクレアのバフを受けて、ラムダは土葬術式をくみ上げる!
「経緯はともかくとして……キミみたいな存在に敬意を表して……ボクも出し惜しみはしない!」
四方からシェームに迫る土壁! シェームはそれを両手を突き出して受け止めた。
「ぬ……うっ!!」
「足を止める……! この先へは行かせないよ!」
「い、今のうちに、一斉攻撃、よ……!」
奈々美が声をあげ、連鎖術式を打ち放つ! 断続的には垂れる魔力波が、土壁を受け止めるシェームに直撃し、爆発を巻き起こす!
「こ、この距離でも、とんでもない暑さを感じるわ……!
お、終わったらシャワーに入らないと……!」
敢えてこの後の日常を口にすることで、生存への執着とする。シェームはこちらの命をとるまではしないだろうが、相応にボコボコにはするだろう。想像して、奈々美はひ、と悲鳴を上げる。
「それが貴様の望みか。ならば我々も全力で首を刈るのみ。逃げも隠れもせん!」
イルマが、爆発冷めやらぬその内に、銃弾を叩き込む! 爆風の中にまぎれていても、的確にシェームを狙う狙撃の銃弾が、土壁を抑えるシェームの腕を抉る!
「ほう!」
シェームが笑う。イレギュラーズの猛攻は、着実にダメージを与えている。だが、まだ、その全力を削ぐには至らない!
「とんでもない奴だね! これだけ攻撃してるってのに!」
アクセルが叫ぶ。その両腕を突き出せば、聖なる光がシェームを貫く――シェームはそれを受けつつも、さらに一歩を踏み出した。
「その上、足も止めてくれない、か! とにかく攻撃し続けるしかないよ!」
「支援は続ける! 攻撃に専念してくれ!」
フレイが叫んだ。
「攻撃は俺が受け止める……恐れるな、少しでも、奴の全力を削ぐ!」
フレイの言葉に、仲間達は頷く。怒涛の一斉攻撃を受けてなお、シェームの脚は止まることはない!
「こっちもお返しじゃ。耐えてみせい!」
シェームはその場で激しくこぶしを振るう! その摩擦熱が空気を焼き、強烈な炎を生み出す! 飛び交う無数の焔の弾丸が、イレギュラーズ達を狙い撃つ!
さく裂。爆裂。無数の炎をが飛び交い、イレギュラーズ達を激しく叩き打つ!
「くっそーっ! 二つがくっついたら爆発ってのがもうゲームのギミックみてーなくせに、高難易度ゲーの弾幕かなんかかってんだよ!」
擦過する無数の炎に舌打ちしつつ、アデルが応戦する。薙ぎ払うアデルの火球が、飛び交うシェームの火球とぶつかり合い、激しい爆発を起こした!
「相殺する! いけいけ! こういう時は突撃だ!」
「アクアマナ全開、全力でいっくよー!」
マリリンが叫ぶ!
「勇者っ! 勇者! 最高っじゃん、勇者になりたい!
なっちゃおうよ、だってはあたしはマリリン、水神様なんですからね!」
その言葉に頷くように、イレギュラーズ達は反撃を実行する。
そうだ、なろうじゃないか、求められる勇者とやらに!
「やってやるわ! あたしに火炎はきかないんだから!!」
燦火が叫び、突撃! 解き放たれたシェームの眼前に突っ込む!
「煮え滾れ、竜血。鮮烈なれ、我が魂魄。紅焔巡りし力の環(わ)、轟き吼えて威を示す。
赫灼たれ、我が一撃よ!」
燦火が放つ極光の竜撃! 強烈な光の奔流が、シェームにたたきつけられる! シェームはそれを、正面から受け止めた! 焔と光がぶつかり合い、激しく明滅!
「やるな! 娘っ子!」
爆発! たまらずシェームがたたらを踏むのへ、無黒が迫る!
「暁 無黒……全力で推して参るっす!!」
振るわれる手は、まさに獣の牙のごとし! 封殺の力持つ一撃が、シェームの腕へと食らいつく!
「その焔、止めさせてもらうっすよ!」
「できるモノなら!」
にぃ、と笑うシェーム。その腕から炎をが吹きあがった刹那、飛呂の狙撃の銃弾が、その炎を貫き、シェームの腕を突き刺した。
「お望み通り、全力で止めに行ってやるよ」
再度放たれる銃弾が、シェームの身体を貫く。身体から炎をが吹き出し、しかしその傷口をすぐに再生するように炎が埋めた。
「シェーム! 俺はそう簡単にはヤキトリにならないぜ!」
カイトが叫び、突撃! 二人の攻撃に続くその一撃は、残像を以って放たれる多重の撃。
「もっと俺と遊ぼうじゃねえか! 俺を置いて先に行くなんて、つれないこと言うなよ!?」
カイトの猛攻が、僅かにシェームの足を後ろに向けた。後方に、一歩――押し込まれる!
「なら、此処が攻め時です!」
ウテナが叫ぶ!
「シェームさん! うちは!ㅤあなたのことが好きになっちゃったんですよっ!!!」
ロスカと共に放つ、焔撃! ウテナの、全力全開の、焔!
「イレギュラーズじゃない!ㅤ勇者じゃない!!
うちを、うちのことを見てくださいシェームさん!!!」
ウテナの叫びに、シェームは笑って構えた。
「ならその力、見せてみせい! ウテナ・ナナ・ナイン!!」
シェームの放つ炎と、ウテナの炎がぶつかり合い、強烈な爆風が、辺りを飲み込んでいった。
●精焔化身
一方――南側、精霊の化身たるシェームとの闘いも、激闘の様相を呈していた。
北に布陣する嘆きのシェームに比べて、此方のシェームの攻撃はまだ『ぬるい』。
だが、それは此方のシェームが弱いわけでも、手を抜いているというわけでもないことは、イレギュラーズ達にもわかった。
「イミナは!ㅤ負けないです!ㅤ全然痛くないでしゅ!!」
飛び交う神秘の炎、その攻撃から味方を庇いながら、勇敢にも叫ぶ少女=イミナ。
「無理をしないでください、一度下がって回復を!」
ヒーラーたるを体現するはテルル。イミナの傷を癒すが、やはりダメージの蓄積は大きい。
「大丈夫でしゅ! イミナは……!」
「この場にいるのは、イミナさんだけではないのです!」
テルルの声に、頷いたのは、アンジェラだ。
「その通りです。
それに、敵の攻撃はこれからが本番……ならば、私たちの役割を発揮するならそこからが本領」
僅かに、イミナを庇うように立ちながら、アンジェラがいう。
「今は後退を。頑張らなくていい、とは言いませんが、頑張るべき時は今ではないのです……いえ、そもそも生殖階級の方を盾にするのは私の本意ではないのですが……」
「……流石にちっこい、しかも娘御を攻撃するのは気が引けるがな!」
シェームがにやりと笑い、しかし手加減などは一切なく、火炎による砲撃を続ける。
「だったら加減くらいしてくれたまえ……と言いたい所だが!
君の場合は、それこそが敬意だ、と言いそうだね!」
「おう、そうじゃ、沙耶よ! また会(お)うたな!」
「此度の試練も乗り越えてみせよう! 私達の可能性を見せてやる!」
背後強襲、沙耶の一撃が、シェームの背後より迫る。シェームは背中に焔を吹き出し、さながら壁のようにしてその一撃から身を護った。
「荒ぶる焔の化身よ。我らローレット・イレギュラーズ――押し通らせて貰う!
私が相手になろう!」
十七号の放つ斬撃が、後方への対処に当たっていたシェームの隙をついた。空を奔る刃。真空。斬撃は、シェームの正面から迫る! 斬! 体に傷が奔り、血液代わりの炎が噴き出す。
「いいじゃろう! 精焔化身シェーム! 今は貴様らの壁となるものじゃ!」
反撃に放たれた、お返しとばかりの焔の衝撃波が、宙を奔る。十七号は回避しつつ、再度真空の刃を放った。焔と真空が衝突、爆裂する。その爆風の合間を縫って、駆けるはアンバー! 竜を薙ぎ払う、そのようなうたい文句も可能なように見えるほどの巨大な大薙刀で、シェームの懐に接敵!
「シェーム!
あなたの試練を打ち破り、カロンを倒すための戦い……見事成し遂げて見せましょうとも!」
振るわれる大薙刀を、シェームは炎まとう腕で受け止めた。ぼう、と焔が舞い上がり、凶悪な笑みを浮かべるシェーム。
「今のは良いな! じゃが……!」
「もちろん、この一撃で獲れるとは思いませんが……っ!
続く仲間の攻撃の一助となれば、それでいい!」
「さーて、本領を出す前に魔力を散らせるよ。
もう撮れ高は十分だから本領なんて発揮させないよ!」
続くのは、紅璃だ! aPhoneを操作し、アプリを起動――雷撃をうち放つ!
「妙な板じゃな! 魔法の石板(タブレット)か!」
「タブレットじゃないよ、スマホ!」
突っ込みつつ、紅璃が距離をとる。入れ替わる様に飛び込んできたリュコスが、攻撃を開始!
「Uh――!? あっつい!」
リュコスの影が、シェームを地上から狙い撃つ! がう、と吠える影――『Do=《怒》』と『Ⅰ=《哀》』。ふたつの影が、シェームを打ち上げた!
「むぅ……!!」
打ち上げられたシェームが、大地を見据える。リュコスと目があう。
「熱いのに、こんな凍えそうなくらい、かなしい炎だなんて……」
そういうリュコスに、シェームは微笑んだ。
「まったく、優しい奴らじゃな。貴様らはいつもそうなのか?
……貴様らのような奴が、あの時も居たら……」
何か、変わっていたのかもしれない、と、呟く声は、焔の轟音にかき消されて消えた。一方、打ち上げられたシェームは、狙うには充分なチャンスと言える。
「おやおや? 君の炎とやらはそんなものなのかい?
僕の華麗な炎で魅させてあげるよ!
うぉぉぉ!!! アッチィィィ~!!!」
美南が飛び込み、焔を纏い突撃する! 飛ぶ不死鳥の如き、焔翼の一撃!
「炎か! ぶつけ合うのもいいじゃろうな!」
シェームがその身の内に炎を漲らせる。美南の炎と、シェームの焔がぶつかり合い、さく裂! お互いにダメージを受けつつ、二人は着地した。
「さあ、僕達の底力を見せてあげるよ☆ シェームくん!」
ぶすぶすと煙をあげつつ、美南が指さす――シェームは笑う。
「愉快な奴じゃな。じゃが、教えてやろうか。焔はな、追い詰められてこそ、強く燃え盛るものじゃ!」
業! 剛! 轟! シェームの身体から巻き起こるのは、これまでとは比較にならぬほどの苛烈な炎だ!
「来たね、全力のフェーズだ!」
イグナートが不敵に笑いながら、シェームの前に立って見せる。
「まったく、分身するだけでも滅茶苦茶なのに、さらにこっからが本気だってのかよ……!」
タツミが身構える。
「精霊がとんでもなく騒いでやがる。好かれてるんだな。辺りの精霊が、力を貸してるみたいに感じるぜ……!」
ヨシトが、シェームのプレッシャーに汗を覚えながらそういう。巻き起こる炎、精霊の奔流。まるで深緑中の焔の精霊が、ここに集まっているかのような錯覚。
「タツミ、ヨシト、ここからがホンバンだよ」
イグナートが言った。
「とんでもない相手だけど、やるしかないよな!」
タツミが構える。
「おう、傷は癒してやるぜ。死ぬんじゃねぇぞ!」
ヨシトが叫んだ。
「よし……いくよ、皆!」
イグナートの叫びに、仲間達は再び、シェームへと向けて突撃する――。
●勇者と、焔と
一歩進み、一歩圧し返す。
一歩圧し返し、一歩進まれる。
イレギュラーズとシェームの戦いは、ギリギリのラインでの綱引きを続けていた。
シェームを抑えていられたという点では、イレギュラーズ達は相当に健闘したといえるだろう。
だが、相手とて、伊達にファルカウより生まれた嘆きではない。
強烈。苛烈。その炎は、ファルカウの嘆き、怒りなのだろうか?
あるいは、絶望なのだろうか? 全てを燃やし尽くそうという、自死の感情なのだろうか?
答えは出ない。それは、嘆き本人たるシェームにもわからなかった。
……ただ、焔自身は、己を越えるべき壁として扱う事を選んだ。
勇者に、ただ勇者に……越えてもらうべき、壁である事を。
南方、背水の焔を吹きあがらせ、シェームが戦場をかける! 強烈な炎が戦場を舐め回すのを、詩音はその刃を振りかざして受け止めた。
「あはぁ……♪」
狂気的な笑みを浮かべるは、心を守るための防衛本能なのかもしれない。切り結び、流れ出す己の、相手の鮮血は、その笑みを映えさせる彼岸花として咲く。
「貴様も難儀な奴じゃな……!」
シェームが打ち出す炎を、詩音は刃で切り裂いた。が、焔は擦過しただけでも、己が身を焼く。
「……ごめんなさい、一度、下がるね……!」
限界をきたした体が悲鳴を上げる。詩音の言葉に、ライムは頷き、前に飛び出した。
「後は任せてください!
さぁ、私もお手伝いしますよー! それと勝手に勇者にはしないでください、私その言葉大嫌いなんですっ!」
緑の濁流が、シェームの焔を溶かしつくすように飲み込んだ。じゅう、と音を立てて、ライムの津波がシェームを飲み込む!
「はっ、滅茶苦茶な奴じゃな! 面白い!」
振り払うシェームに、ライムはさらなる攻撃を敢行!
「焔さえも飲み尽くして見せる、って奴ですよ!」
スライムボディの一撃が、シェームを叩きつける。ばぢん、と音を立てて、シェームが後退する。
「やれやれ、こっちも本気なんじゃがな!」
「本気というなら、此方もだ」
レーツェルが声をあげ、立ちはだかる。
「勇者などという称号はワタシには似合わなん気もするが。
今この度は、勇者の真似事くらいはしてやろう、嘆きよ」
レーツェルの奪命の刃が、シェームを狙う。ライムの攻撃を受けていたシェームは、連撃のそれをかわすことはできない。切り裂かれた身体に、出血のように焔が奔る。
「背水の焔だっていうのなら、確実に撃破に近づいているわけなんだから!」
綾花が祝福をもたらす。青兎の贈り物。幸運の女神よ、願わくば――いや、今日は強欲に行こう。微笑みをよこせ、女神よ! 今この試練を越える、最大の祝福(キス)を、友に!
「皆さんがベットするチップならいくらでもありますよ!
さぁいくらでも使ってください!」
「相手が背水の陣を敷くなら、そのまま追い込むまでだ!」
一晃が声上げる! その刃を手に、連鎖的な連携を行動を起こす!
「竜とだって戦ったんだ! どんな試練だって越えて見せる!
燃えてるのは、あなただけじゃない! 私の心だって、燃えているんだッ!」
繧花が一晃と共に駆ける!
「我が心は明鏡止水、されどこの刃、烈火の如き刃としれ!」
一晃の刃が、シェームを斬る! 「ぬうっ!」呻くシェームに、繧花の、烈火の如き赤の力が叩き込まれた! 爆発する、力の奔流! だが、ここで手を止めるわけにはいかない!
「焔の嘆き……如何に強烈な炎とて、これほどの飽和攻撃をくわえれば……!」
紫琳の放つは弾丸の驟雨! その弾雨、避ける事能わず。シェームが体勢を崩すのへ、
「朝顔さん、ジルベールさん!」
紫琳が叫ぶ! ジルベールがその手を掲げれば、強烈な魔力の奔流が、宙を割いてうち放たれる!
「燃える、燃えるじゃねえか!
逆境こそ我が地肉!」
にぃ、ジルベールが笑う。
「俺たちが勝つ!
鬨の声を上げよ、イレギュラーズ!」
統率のごとく響く声が、イレギュラーズ達の背中を押す。魔力砲撃がシェームを穿ち、接敵する朝顔が、
「隠岐奈 朝顔……否、星影 向日葵。参ります!」
神刀を振るった。斬撃が、シェームの身体を切り裂く。僅かに、シェームの身体がぐらり、と揺れた。
「娘御よ、悲しそうな眼をするな」
「私は……巨悪を倒す者ではなく、巨悪すら生かし、手を伸ばして救える人を……勇者と呼びたいです……!」
「それは茨の道じゃぞ。儂の試練なんぞより、よっぽど。
じゃが、やれるというのなら、儂などは越えてみせい!」
巻き起こる焔の奔流が、イレギュラーズ達を薙ぎ払う――が、その奔流の前に、堂々と立ちはだかる、スケルトンの姿がある。
「いと猛き焔の化身よ、貴殿の黄泉路を我らが見送らん!
貴殿の望みを叶えるために!」
ヴェルミリオが、仲間を守るべく立ちはだかった。その身に強烈な炎を受けながら、ヴェルミリオはカタカタと笑ってみせる。
「スケさんはそう簡単には焼かれませんぞ! 何せ骨でありますからな!」
「けど、無茶はなしでござるよ!」
パティリアが声をあげる。戦場を駆けまわりながら、自身の行動を基点に仲間達を導く。先導、先を行く者よ。友は我が後に続け!
「一手先をいただきます! 皆様方! 今でござる!」
「幸せな夢を見ながら終わるのは楽かもしれないっきゅ。
でも、何もできずに終わるのはレーさんもう二度と御免だっきゅ!」
「夢は見飽きた。俺はつらくとも、現実を生きていく。
だから……!」
レーゲンの回復術式が、焔の間を聖なる光となって飛び交う。苛烈な炎に焼かれた仲間達を、今一度、立ち上がらさせるための支えとして。そして、今という現実を、仲間と共に歩むために。
そしてトウカは、焔のただ中で、仲間を護るために立ち続ける。
焔では、決して燃え尽きない、桃の花と桜の木を、見せるために。
奮戦する! 苛烈なる焔と相対し、それでも斃れる事は――ない!
「シェーム、あなた、嫌われ役を買って出る不器用な先生みたいねえ。
あなたを越えてゆくこと、カロンの力を削ぐこと。
どちらも叶えるわ、ワタシ達」
ポシェティケトが、回復術式を編み上げる。最後の力を、仲間達へともたらすために。
試練を越える力を、超える力を、仲間達に。
「行け! アリア!」
ミルヴィが叫んだ。
「アタシ達はまだ先を目指すんだよ! もっと未来へ!」
応じるように、アリアは駆けた。
進むために、シャルレィスは走った。
「シェーム、貴方は魔王じゃない!
これだけ深緑を愛し、憂いて、悩んだ貴方が魔王であっていい訳ない!
他の誰が貴方を魔王と罵っても、私は絶対に認めない!
絶対、ぜったいに認めてやらない!」
アリアが叫ぶ。
「深緑の皆の為にも……そして、貴方の為にも。
私達は負けない!
貴方が望む以上のものを、ここで見せつけてあげるよ!
やり方はどうあれ、深緑を思う貴方の心は本物だから……!
今はただ、それに全力で応えるだけだ!!!」
シャルレィスが叫ぶ!
駆ける二人の勇者は、まさに。
その姿はあまりにもまぶしく――。
或いは。彼が見たかった光景とは、すなわちこの光景なのだ。
「いや……見事なものじゃ」
嬉しそうに、シェームは微笑んだ。
アリアと、シャルレィス。
魔力の衝撃が。蒼の剣が。
この時、精焔化身たるシェームを貫いていた。
「どうやら、向こうも本領発揮とはいかない様だな」
コルウィンが声をあげる。北方、嘆きとしてのシェームの戦場。イレギュラーズ達の決死の飽和攻撃により生命力を削られたシェームは、その全力を出すことは叶わない。
「だが……それでも、充分以上な強敵だ!」
コルウィンの放つ銃弾が、シェームの身体に突き刺さる。意に介さぬように、一歩進むそれは、重装歩兵のような圧を感じさせた。
「見せてやるぜ、わんこの全部。勝負だ、シェームッ!」
「きたな、びりびりわんこめ!」
雷刃の手刀を振り下ろすわんこに、シェームは焔の拳で相対する! 雷と焔がスパークする中、わんこはキャヒヒ、と笑った。
「刻み込んでやるデスよ! わんこの、皆の、可能性を!」
ばぢん、と強烈な破裂音と共に、両者が弾き飛ばされる――シェームへと飛び込むのは、サンティールとエーリカだ!
「猛き焔の担い手よ。
改めまして、ごきげんよう! 僕の名前はサンティール!
こちらはエーリカ、深き夜のむすめ!
きみにとっても。僕たちにとっても、これはとびきり痛快な活劇さ」
「シェーム……。
触れたもの全てを焼き尽くすそれは、
あなたなりの慈悲だったのかもしれない。
でも、だからこそ、
あなたにも、慈悲があっていいはず。
だから……わたしたちは、あなたから、逃げない!」
エーリカの手から零れ落ちたしずくから、無数のウンディーネが生まれる。水の精は、中空を泳ぎながら、シェームの手を取ってみせた。踊りましょう、幸せの内に。だが、ウンディーネたちの抱擁が、シェームを水の内に閉じ込める――同時、サンティールの飛翔刺突が、シェームの身体を貫いた!
「まったく、どいつもこいつも、甘い奴らじゃなぁ」
楽し気に、シェームは言う。
「好き好んで人類の敵になる奴なんぞ、殴って終いにしておけ!
儂が言うのもなんじゃが、不器用な阿呆に付き合うと疲れるぞ!」
「おっと、付き合わせておいて、それはないんじゃぁないかな?」
くすり、とサンティールが笑う。
「わたしたちは、全てを救いたい。我がままでも……それが、可能性ってものでしょう?」
エーリカが言う。
そうなのだろう。我がままでも、全てを救いたい。その心は、間違いなく尊いものなのだ。
「深緑の民を救おうとしたあなたの気持ちもわかる。
だが、夢を見るならば、一時の癒しで充分だ」
ウェールが言う。
「故に……俺たちは、可能性を示す。
夢に沈むことが、正解ではないという事を、あなたに見せてみせる!」
ウェールの言葉に、イレギュラーズ達の言葉に、シェームは頷いた。
「なら、見せてみせい。
嘆声焔身シェーム。渾身の力は失えど、容易く超えられる壁ではないぞ」
「やれ。どいつもこいつも、見せつけてくれるじゃない。
先に逝く奴らってのは本当に……ねえ」
ゼファーが、槍を構えた。
「私はゼファー。逃げも隠れもするけれど、約束だけは絶対に違えない。
リナと、貴方。其の覚悟と、献身を私は絶対に忘れないわ。
ここからは、どちらが斃れるまでの戦い。
意志と覚悟の戦い。
小細工は無し。本気の本気。血が舞い、沸き立つ。
そんな闘いをお望みでしょう!」
「来い! 涼風の如き、されど紅蓮の意志を持つ娘よ!」
ゼファーが跳んだ。突き出される槍の一撃を、シェームは受け止めた。同時、槍を伝って焔が奔る。ゼファーはシェームの身体を蹴り上げて、槍を無理矢理引き抜いて、そのまま跳躍。
「アンジュ、パーシャ、行くわよ!
でも暑苦しいのは、アイツだけで充分だわ!
スマートに、勝つ!」
みるくの声に、アンジュ、パーシャが頷いた。
「いいじゃん。見せてあげようよ。この頭かっちかちなおじさんにさ。
人だけじゃない──いわしだって、勇者になれるってところをね!」
「うん……頑張らないとね。私達、立ち止まれない。
勝とう。そして、認めてもらおう。
──召剣。
──ウルサ・マヨル!」
パーシャが召喚杖を掲げる。現れた召剣は、聖なる光を以って二人を包み込んだ。
「まだだよ……!
──召剣。
──グロースベア!」
続いて呼び出された灼星剣を、みるくは手にした。
「アンジュ、回復お願い!」
「任せて! いわしの祝福が、あなたにありますように!」
祈るように手を組めば、輝くいわしの光がみるくを包む! その優しい光に背中を押され、二人分の力を託されたみるくが、シェームへと駆ける!
「見せてあげるわ! クールにスマートに、あたしたちの力を!」
イレギュラーズ達の連携により、崩された態勢は、みるくの刃をよけることはできない!
斬――万刀自在の太刀が、シェームを切り裂く! ぐらり、と身体が揺れる。
「だが……まだ……ッ!」
「いいや、終わりサ」
貴道が力強く踏み込んでいた。
既に肉体はボロボロ。
されどここまで立ち続けたのは、執念か、或いは、戦闘に身を置いた喜び故か。
「試練だ何だか知らねえが、ごちゃごちゃと考えるのは面倒だろ?
シェームって言ったか?
フォルカウなんてなぁ俺には関係ねえ、俺はただ闘うだけだ。
関係ねえから、最後ぐらい頭空っぽにして楽しんじゃあどうだい。
ど突き合いだ、スッキリするぜ?」
にぃ、と笑う貴道に、シェームは笑ってみせた。
「おう――最後じゃ。拳と拳で行くか!」
振るわれる、拳。
シェームと、貴道。二人の、拳が。
交差して。
すれ違って。
お互いの顔面に、叩きつけられた。
衝撃に、二人はふらつく。
が、すぐさま追撃に転じたのは、貴道だった。
「フィニッシュブロウだ!」
鋭いフックが、シェームの頬を殴りつけた。
「は――はは! 見事なもんじゃな……!」
シェームは笑い、倒れ伏した。ぼう、と、辺りの焔が消え去る。
静寂が、戻る。
シェームは、立ち上がらない。
立ち上がれない。
死力を尽くして戦った。
その上で、超えられた。
可能性に。
勇者たちに――!
「ああ、なんと」
すがすがしい気持ちなのか。
「負けじゃ。儂の、負け。
見事なもんじゃ」
シェームが笑った。
「大樹の嘆きとして……云わば怒りの化身として発生した貴方には、然して心があった。
些か処ではない異常でしたが、クェイスの如き反応こそが本来その役目には相応しくあるのでしょうが、貴方は違う。
理性的であり、その心の在り様はむしろ人に近い」
アリシスが、そう言った。
「御身が何故存在するのか……その真なる答えはファルカウしか持たないものでしょうが、推測は出来ます。
貴方は怒りの化身であると同時に、その力を如何様に振るうべきかの判断を委ねられている。
それは即ちファルカウの心であり迷いでしょう」
アリシスの言葉に、シェームはきょとん、とした顔を見せた。
「迷い。
迷い、か。なんじゃ、なら……聞いても応えてはくれんはずじゃ。
迷っておったのか? ファルカウが?」
「深緑の民を思う嘆きの化身よ。
自らの存在意義に悩んでいるようであるが、ファルカウが何も言わないなら――或いはもっと自由に生きても良かったのではないか?」
練倒がいう。
「そなたはわたしより責任感が強かったのね」
コャー、と胡桃が言った。
「わたしは、そなたの答えを聞きたかった。
『幸せを探してもいいのか』。
そなたの答えが、わたしの答えになるわけじゃない。
わたしはずっと、答えを探し続ける。でも、聞きたかった」
「貴様が何を見出すかはわからんが……儂は今、かなり幸せじゃぞ?」
「誰かの手をつなぐための温度……。
教えるって言いました。楽しみだって言いました!」
ユーフォニーが、辛そうにそう言った。
「……夢から守ってくれました。
権能だけを壊せないんですか?
私たちに希望の色を見たのなら、もう一度未来を紡いでくれませんか……!」
「すまんな。無理じゃ」
シェームは笑った。
「そもそも、儂が現世に居ては都合が悪かろう。儂は大樹の嘆き。つまり儂がいるという事は、ファルカウの危機という事じゃ。
元より、生まれてはならんかった……というと、貴様は怒るじゃろうなぁ、ユーフォニー。それから、アリアよ」
「当たり前だよ」
アリアが、言った。
「ほんとに怒るよ?」
「すまん、失言じゃ。じゃが、気にするな。元々いた場所に帰るだけじゃ。死ぬわけじゃあない。こう見えても、ファルカウの一部のはずじゃからな。
儂を生かすために、奇跡なんぞを願うな。それはもっと、大切なもののために使え。
わんこ、貴様もそんなことを考えておる面じゃったぞ」
「うえぇ、ばれてマシタか」
わんこが肩をすくめた。
「シャルレィス、貴様も良い勇者になるぞ。儂が保証してやろう。
それからムサシに、ウテナ……いや、この場にいる全員に、伝えたい所じゃが……そろそろ、別れの時じゃな」
「シェーム……!
一緒に来て、シェーム! 一緒に人の、ううん、私達の織り成す可能性を見て欲しいの!」
アリアが声をあげるのへ、シェームは頭を振った。
「儂は見とるよ……ファルカウがある限り、深緑に精霊がある限り……貴様らの可能性を。
ああ、ユーフォニー。最後にちと、願い事をきいてくれんか」
「お願い、ですか?」
ユーフォニーが小首をかしげた。
「ああ。手を握ってはくれんか。最後に、手をつなぐための、暖かさを」
ユーフォニーが、ゆっくりと跪いて、シェームの手に触れた。
シェームの手は、熱かったが――。
ユーフォニーは、優しく、それを握った。
「そうか……よく覚えておこう。
いつか……ファルカウが、嘆きではなく、喜びを以って……儂らを生み出す時が来たら。
その時は――」
すぅ、と、シェームが、大地にしみて消えていく。
ファルカウの内部。ならば還ったのだろう。あるべきところへ。
「安心して行ってらっしゃいな」
ゼファーが言った。
あれほど巻き起こっていた焔はすでに影も形もなく。
清浄なる空気が、ファルカウの上層部を包み込んでいた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
焔は、皆さんの可能性をに全てを託し――。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
最後の試練が始まります。
皆さんの可能性を見せてください。
●成功条件
『嘆声焔身シェーム』および『精焔化身シェーム』両者の完全撃破
●特殊失敗条件
『嘆声焔身シェーム』と『精焔化身シェーム』の両ユニットがフィールド中央への到達する
●決戦シナリオの注意
当シナリオは『決戦シナリオ』です。
<太陽と月の祝福>の決戦及びRAIDシナリオは他決戦・RAIDシナリオと同時に参加出来ません。(EXシナリオとは同時参加出来ます)
どれか一つの参加となりますのでご注意下さい。
●状況
シェームによる最後の試練が始まります。
シェームは、自身を嘆きとしての力と精霊としての力に分離。フィールドの北と南に布陣し、フィールド中央に向かって徐々に進軍しています。
中央で両者が合流した場合、カロンに与えられた権能『夢見境(ドリームランド)』を使用し、深緑内を再び強烈な眠りに閉ざすつもりです。
しかし、これはチャンスでもあります。シェームを倒すことができれば、カロンがドリームランドの権能を取り戻すためにかなりの時間がかかります。実質的に、カロンの権能を封じ、弱体化させることができるわけです。
皆さんは、北エリアと南エリア、どちらかに布陣し、迫るシェームを撃破してください。
作戦エリアは、ファルカウ上層。炎に包まれた虚無の空間が広がっており、戦闘ペナルティなどは発生しません。
●プレイングの書式について
戦場での迷子などを防ぐため、一行目に戦場の番号を、
二行目に、【グループタグ】か、同行するお仲間のIDを、
三行目以降にプレイングをお書きください。
==例==
【A】
ラーシア・フェリル (p3n000012)
がんばります!
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●戦場
【A】対・『嘆声焔身シェーム』
北に布陣する大樹の嘆きとしてのシェームを撃破します。
シェームは強烈な炎を用い、火炎系列や窒息系列の強烈なBSを付与してくるでしょう。
此方のシェームは、物理攻撃に特化した重量級ファイターです。
中距離~近距離レンジの攻撃を主に得意とし、渾身を持つ強烈な一撃が特徴です。
渾身の一撃は、熟練のイレギュラーズでも直撃すれば致命打になりかねません。
速やかに体力を減らせるような飽和攻撃を用意すると良いかもしれません。
【B】対・『精焔化身シェーム』
南に布陣する、焔の精霊の集合体としてのシェームを撃破します。
嘆きのシェームと同様に、強烈な炎を使い、火炎系列や窒息系列の強烈なBSを付与してくるのは同一。
此方のシェームは神秘攻撃に特化したスピードファイターです。
中距離~遠距離レンジを特に得意とするほか、背水を持つ追い詰められてからこそ本領を発揮する強力な攻撃も持ちます。
追い詰められてからが本番の敵です。どうにかして一気に倒すか、しっかりとタンク役を置いて耐えるなどをするとよいと思います。
以上となります。
それでは、皆様のご武運を、お祈りしております。
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